説明

エアクリーナの寿命推定装置

【課題】安価な構成で、エアクリーナの寿命を常時、精度良く推定でき、それにより、エアクリーナをその限界付近まで効率良く使用することができるエアクリーナの寿命推定装置を提供する。
【解決手段】 本発明によるエアクリーナの寿命推定装置は、内燃機関3の運転中、エアクリーナ6の寿命を表す寿命パラメータRCLを随時、算出し(ステップ10)、エアクリーナ6の目詰まりの度合と、吸入空気量GAIRと、吸気パラメータ(エアクリーナ6の下流側の吸気圧PBAおよび/またはスロットル弁開度θTH)との関係を記憶し(図3および図4)、検出された吸入空気量GAIRおよび吸気パラメータに応じ、記憶された上記の関係に基づいて、寿命パラメータRCLを算出する際の基準となる基準値RCL0を算出し、更新する(ステップ17)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に吸入される吸入空気を濾過するエアクリーナの目詰まりによる寿命を判定するエアクリーナの寿命推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のエアクリーナの寿命を推定する推定装置として、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。この推定装置は、吸気通路に配置されたエアクリーナのエレメントの出口側の負圧が、吸入空気がエレメントを通る際の圧力の損失によって、その目詰まり度合および吸入空気量に応じて上昇するとともに、エレメントの目詰まり度合が所定値のときには、吸入空気量にかかわらず、エレメントの出口側の負圧と入口側の負圧との比がほぼ一定になることに着目したものである。
【0003】
このような観点から、この推定装置では、エレメントの出口側の負圧を第1圧力変換器によって検出し、エレメントの入口側の負圧を第2圧力変換器によって検出する。また、第2圧力変換器の出力を所定の比率で増幅するとともに、比較器により、第1圧力変換器の出力を増幅された第2圧力変換器の出力と比較する。その結果、第1圧力変換器の出力がより小さいときには、エレメントの目詰まり度合が上記の所定値以下であることで、エアクリーナが寿命に達していないと判定する一方、第1圧力変換器の出力がより大きくなったときには、エレメントの目詰まり度合が所定値を超え、エアクリーナが寿命に達したと判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公昭58−15895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の推定装置は、基本的に、エアクリーナのエレメントを吸入空気が通る際の圧力損失によって生じる上流側と下流側との負圧の差に基づいて、エレメントの詰まり具合を推定し、エアクリーナの寿命を判定するものである。このため、吸入空気量が小さい場合には、エレメントにおける圧力損失が小さく、その上下流間の負圧の差が小さくなるため、エアクリーナの寿命を常時、精度良く判定することができない。また、通常は設けられていないエアクリーナの入口側の第2圧力変換器を、エアクリーナの寿命を推定するための専用の機器として設置しなければならず、部品点数および製造コストが増大してしまう。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、安価な構成で、エアクリーナの寿命を常時、精度良く推定でき、それにより、エアクリーナをその限界付近まで効率良く使用することができるエアクリーナの寿命推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、請求項1に係る発明は、内燃機関3の吸気通路4に配置され、吸気通路4を通って内燃機関3に吸入される吸入空気を濾過するエアクリーナ6の目詰まりによる寿命を推定するエアクリーナの寿命推定装置であって、内燃機関3の運転中、エアクリーナ6の寿命を表す寿命パラメータRCLを随時、算出する寿命パラメータ算出手段(ECU2、図2のステップ10)と、吸入空気量GAIRを検出する吸入空気量検出手段(エアフローセンサ21)と、エアクリーナ6の下流側の吸入空気の圧力(実施形態における(以下、本項において同じ)吸気圧PBA)、および吸入空気量GAIRを調整するためのスロットル弁8の開度(スロットル弁開度)θTHの少なくとも一方である吸気パラメータを検出する吸気パラメータ検出手段(吸気圧センサ23、スロットル弁開度センサ22)と、エアクリーナ6の目詰まりの度合と、吸入空気量GAIRと、吸気パラメータとの関係を記憶する記憶手段(ECU2、図3および図4)と、検出された吸入空気量GAIRが所定値(しきい値GREF)以上のときに、吸入空気量GAIRおよび検出された吸気パラメータに応じ、記憶手段に記憶された関係に基づいて、寿命パラメータ算出手段により寿命パラメータRCLを算出する際の基準となる基準値RCL0を算出し、更新する基準値更新手段(ECU2、図2のステップ17)と、を備えることを特徴とする。
【0008】
このエアクリーナの寿命推定装置によれば、内燃機関の運転中、寿命パラメータ算出手段により、エアクリーナの寿命を表す寿命パラメータを随時、算出する。また、記憶手段には、エアクリーナの目詰まりの度合と、吸入空気量と、吸気パラメータとの関係が、記憶されている。この吸気パラメータは、エアクリーナの下流側の吸入空気の圧力(以下「吸気圧」という)、およびスロットル弁の開度の少なくとも一方である。
【0009】
目詰まりが生じたエアクリーナに吸入空気が通されると、その目詰まり度合および吸入空気量に応じた圧力損失がエアクリーナで発生し、この圧力損失の分、吸気圧が低下する。したがって、吸入空気量および吸気圧が定まれば、エアクリーナの目詰まり度合が概ね定まる。また、吸気通路にスロットル弁が設けられている場合には、スロットル弁の開度およびエアクリーナの目詰まり度合に応じて吸入空気量が変化するため、吸入空気量およびスロットル弁開度が定まれば、エアクリーナの目詰まり度合が概ね定まる。
【0010】
このような観点から、本発明によれば、吸入空気量および上記の吸気パラメータ(吸気圧および/またはスロットル弁開度)を検出するとともに、検出された吸入空気量および吸気パラメータに応じ、記憶手段に記憶された関係に基づいて、寿命パラメータ算出手段により寿命パラメータを算出する際の基準となる基準値を算出し、更新する。また、この基準値の更新は、検出された吸入空気量が所定値以上であることを条件として、すなわち、エアクリーナの目詰まり度合に応じた吸気圧や吸入空気量の変化量が大きな状態で、行われる。したがって、この基準値を、エアクリーナの実際の目詰まり度合を良好に反映させながら、精度良く算出し、更新できる。
【0011】
そして、更新された基準値を基準として、寿命パラメータを随時、算出するので、寿命パラメータ算出手段自体による寿命パラメータの算出精度があまり高くない場合でも、精度のより高い基準値を基準とすることで、寿命パラメータの算出精度を維持できる。その結果、算出された寿命パラメータに基づいて、エアクリーナの寿命を常時、精度良く推定でき、その推定結果に基づいて、エアクリーナをその限界付近まで効率良く使用することができる。
【0012】
また、基準値の更新に用いられる吸入空気量と吸気圧および/またはスロットル弁開度は、内燃機関を制御するためのパラメータとして通常、用いられるものである。したがって、これらのパラメータを検出するための既存の検出手段を利用しながら、安価な構成で、本発明の寿命推定装置を実現することができる。
【0013】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のエアクリーナの寿命推定装置において、吸気パラメータ検出手段は、吸気パラメータとして、スロットル弁の開度を検出し、基準値算出手段は、吸入空気量GAIRが所定値以上で、かつ検出されたスロットル弁の開度が所定開度(しきい値θREF)以上のときに、基準値RCL0を算出すること(図2のステップ5、6)を特徴とする。
【0014】
この構成によれば、吸入空気量が所定値以上であることに加えて、検出されたスロットル弁開度が所定開度以上であることを条件として、寿命パラメータの基準値が算出される。したがって、エアクリーナの目詰まり度合に応じた吸気圧や吸入空気量の変化量がさらに大きな状態で、寿命パラメータの基準値を算出・更新でき、基準値の精度をさらに高めることができる。
【0015】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載のエアクリーナの寿命推定装置において、吸入空気量GAIRの積算値(吸入空気量積算値ΣGAIR)を算出する吸入空気量積算値算出手段(ECU2、図2のステップ7)をさらに備え、寿命パラメータ算出手段は、算出された吸入空気量GAIRの積算値に応じて、寿命パラメータRCLを算出すること(図2のステップ8〜10)を特徴とする。
【0016】
この構成によれば、吸入空気量検出手段で検出された吸入空気量を用い、その積算値を算出するだけで、寿命パラメータを算出できるので、部品点数および製造コストを抑制することができる。
【0017】
請求項4に係る発明は、請求項1または2に記載のエアクリーナの寿命推定装置において、内燃機関3は車両に動力源として搭載されており、車両の走行距離の積算値(走行距離積算値ΣDT)を算出する走行距離積算値算出手段(ECU2、図7のステップ32)をさらに備え、寿命パラメータ算出手段は、算出された走行距離の積算値に応じて、寿命パラメータRCLを算出すること(図7のステップ33、9、10)を特徴とする。
【0018】
この構成によれば、車両の走行距離を求め、その積算値を算出するだけで、寿命パラメータを算出できるので、部品点数および製造コストを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明によるエアクリーナの寿命推定装置を、内燃機関とともに概略的に示す図である。
【図2】エアクリーナの寿命判定処理を示すフローチャートである。
【図3】寿命判定処理において新品時吸気圧の算出に用いられるマップある。
【図4】寿命判定処理において寿命時吸気圧の算出に用いられるマップある。
【図5】スロットル弁開度が一定の場合の、吸入空気量と新品時吸気圧および寿命時吸気圧との関係を示す図である。
【図6】寿命判定処理によって得られる動作例を示す図である。
【図7】寿命判定処理の変形例を示すフローチャートである。
【図8】寿命パラメータの基準値の他の方法による算出処理を示すフローチャートである。
【図9】図8の算出処理において実捕捉ダスト量の算出に用いられるマップである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1には、本発明を適用した内燃機関(以下「エンジン」という)3が示されている。このエンジン3は、車両(図示せず)に搭載されたガソリンエンジンであり、吸気通路4および排気通路5が接続されている。
【0021】
吸気通路4の上流部には、エアクリーナ6が設けられている。エアクリーナ6は、吸気通路4を塞ぐように配置されたエレメント(図示せず)を有しており、エンジン3に吸入される空気が通る際に、吸入空気中のダストなどを捕捉し、吸入空気を濾過する。
【0022】
また、エアクリーナ6の下流側には、スロットル弁機構7が設けられている。スロットル弁機構7は、吸気通路4に配置された回動自在のスロットル弁8と、これを駆動するアクチュエータ9などで構成されている。スロットル弁8の開度(以下「スロットル弁開度」という)θTHは、アクチュエータ9に供給される電流のデューティ比をECU2で制御することによって制御され、それにより、吸入空気量GAIRが調整される。
【0023】
吸入空気量GAIRは、エアクリーナ6のすぐ下流側に設けられたエアフローセンサ21によって検出され、その検出信号はECU2に出力される。また、スロットル弁開度θTHはスロットル弁開度センサ22によって検出され、その検出信号はECU2に出力される。
【0024】
さらに、スロットル弁8の下流側には、吸気圧センサ23が設けられている。吸気圧センサ23は、吸入空気の圧力(以下「吸気圧」という)を絶対圧として検出し、その検出信号をECU2に出力する。
【0025】
ECU2にはさらに、エンジン回転数センサ24から、エンジン3の回転数(エンジン回転数)NEを表す検出信号が、アクセル開度センサ25から、車両のアクセルペダル(図示せず)の踏み込み量(アクセル開度)APを表す検出信号が、車速センサ26から、車両の速度(車速)VPを表す検出信号が、それぞれ出力される。また、ECU2には、エアクリーナ6が寿命に達したことを運転者に警告するための警告灯10が接続されている。
【0026】
ECU2は、CPU、RAM、ROMおよびI/Oインターフェース(いずれも図示せず)などから成るマイクロコンピュータで構成されている。ECU2は、前述した各種のセンサ21〜26の検出信号などに応じて、エンジン3および車両の運転状態を判別するとともに、判別した運転状態に応じて、エンジン3への燃料噴射量などを制御する燃料噴射制御や、スロットル弁8を介した吸入空気量制御などのエンジン3の各種の制御処理を実行する。
【0027】
本実施形態では特に、ECU2は、エアクリーナ6の寿命を判定する寿命判定処理を実行する。本実施形態では、ECU2が、寿命パラメータ算出手段、記憶手段、基準値更新手段、吸入空気量積算値算出手段、および走行距離積算値算出手段に相当する。
【0028】
図2は、この寿命判定処理を示す。本処理は、ダストなどの目詰まりによるエアクリーナ6の寿命を表す寿命パラメータRCLを随時、算出するとともに、算出した寿命パラメータRCLに基づいて、エアクリーナ6の寿命を判定するものであり、所定の周期ΔTで繰り返し実行される。
【0029】
本処理では、まずステップ1(「S1」と図示。以下同じ)において、今回がエンジン3の始動直後であるか否かを判別する。この答がYESで、始動直後のときには、後述する基準値更新完了フラグF_DONEを「0」にリセットし(ステップ2)、本処理を終了する。
【0030】
前記ステップ1の答がNOで、エンジン3の始動直後でないときには、基準値更新完了フラグF_DONEが「1」であるか否かを判別する(ステップ4)。前記ステップ2の実行により、エンジン3の始動後には、このステップ4の答がNOになる。その場合には、検出された吸入空気量GAIRが所定のしきい値GREF以上であるか否かを判別する(ステップ5)とともに、検出されたスロットル弁開度θTHが所定のしきい値θREF以上であるか否かを判別する(ステップ6)。
【0031】
これらの答のいずれかがNOで、GAIR<GREFまたはθTH<θREFのときには、ステップ7以降において、吸入空気量積算値ΣGAIRに基づき、寿命パラメータRCLを算出する。この寿命パラメータRCLは、目詰まりによるエアクリーナ6の寿命を百分率で表すものであり、その値が小さいほど、目詰まりの度合が高く、エアクリーナ6の寿命が短いことを表す。また、エアクリーナ6の交換時には、寿命パラメータRCLとその基準値RCL0は100%にリセットされ、吸入空気量積算値ΣGAIRは値0にリセットされる。
【0032】
まずステップ7では、今回検出された吸入空気量GAIRを前回までに積算された吸入空気量積算値ΣGAIRに加算することによって、今回の吸入空気量積算値ΣGAIRを算出する。次に、算出した吸入空気量積算値ΣGAIRに所定のダスト濃度係数KDを乗算することによって、推定捕捉ダスト量QDを算出する(ステップ8)。このダスト濃度係数KDは、エアクリーナ6に捕捉される分の吸入空気中のダスト濃度に相当するものであり、車両の最も厳しい使用環境、例えば工事現場などを想定して設定される。また、推定捕捉ダスト量QDは、吸入空気量積算値ΣGAIRの算出期間中にエアクリーナ6に捕捉されたと推定されるダスト量を表す。
【0033】
次に、算出した推定捕捉ダスト量QDを所定の限界ダスト量QDOLDで除算することによって、寿命パラメータの減少量ΔRCLを算出する(ステップ9)。この限界ダスト量QDOLDは、エアクリーナ6の目詰まりが限界に達することで、寿命に至るときのエアクリーナ6における捕捉ダスト量に相当する。したがって、上記ステップ9で算出される減少量ΔRCLは、吸入空気量積算値ΣGAIRの算出期間中における寿命パラメータRCLの減少量を表す。次に、算出した減少量ΔRCLを寿命パラメータの基準値RCL0から減算することによって、その時点での寿命パラメータRCLを算出する(ステップ10)。
【0034】
次に、算出した寿命パラメータRCLが所定のしきい値ROLD以下であるか否かを判別する(ステップ11)。この答がNOで、RCL>ROLDのときには、エアクリーナ6がまだ寿命に達していないとして、寿命フラグF_CLNGを「0」にセットし(ステップ12)、本処理を終了する。
【0035】
一方、上記ステップ11の答がYESで、寿命パラメータRCLがしきい値ROLD以下になったときには、エアクリーナ6が寿命に達したとして、そのことを表すために、寿命フラグF_CLNGを「1」にセットする(ステップ13)とともに、警告灯10を点灯させ(ステップ14)、本処理を終了する。
【0036】
一方、前記ステップ5および6の答がいずれもYESであり、吸入空気量GAIRがしきい値GREF以上で、かつスロットル弁開度θTHがしきい値以上θREFのときには、所定の条件が成立しているとして、ステップ15以降において、寿命パラメータRCLの基準値RCL0を算出する。
【0037】
まずステップ15および16では、スロットル弁開度θTHおよび吸入空気量GAIRに応じ、図3および図4に示すマップをそれぞれ検索することによって、新品時吸気圧PNEWおよび寿命時吸気圧POLDを算出する。
【0038】
この新品時吸気圧PNEWは、エアクリーナ6が新品で、目詰まりがまったく生じていないときに得られる吸気圧PBAに相当し、図3のマップは、様々なスロットル弁開度θTHおよび吸入空気量GAIRに対する新品時吸気圧PNEWとの関係を、実験などによってあらかじめ求め、マップ化したものである。また、寿命時吸気圧POLDは、エアクリーナ6が目詰まりによって寿命に達したときに得られる吸気圧PBAに相当し、図4のマップは、様々なスロットル弁開度θTHおよび吸入空気量GAIRに対する寿命時吸気圧PNEWとの関係を、実験などによってあらかじめ求め、マップ化したものである。
【0039】
図5は、上記の関係の一例を示しており、スロットル弁開度θTHが比較的大きな一定値の場合の、吸入空気量GAIRと新品時吸気圧PNEW、寿命時吸気圧POLDとの関係を表す。同図に示すように、スロットル弁開度θTHが一定の場合、吸入空気量GAIRが大きいほど、エアクリーナ6における圧力損失が増大するため、吸気圧PBAはより小さくなる。また、この圧力損失は、エアクリーナ6が新品のときに最も小さく、目詰まりが進行するほど大きくなるため、スロットル弁開度θTHおよび吸入空気量GAIRが同一の条件では、新品時吸気圧PNEWが最大値を示し、寿命時吸気圧POLDが最小値を示す。
【0040】
また、図示しないが、スロットル弁開度θTHが小さいほど、スロットル弁8の絞りによる負圧の影響が大きくなるため、新品時吸気圧PNEWおよび寿命時吸気圧POLDはいずれもより小さくなる。図3および図4のマップは、以上のような特性に従って設定されている。また、検出されたスロットル弁開度θTHおよび/または吸入空気量GAIRが図3および図4のマップの格子値(θTH1〜m、GAIR1〜n)と一致しない場合には、新品時吸気圧PNEWおよび/または寿命時吸気圧POLDは、補間計算によって算出される。
【0041】
図2の前記ステップ16に続くステップ17では、上記のようにして求めた新品時吸気圧PNEWおよび寿命時吸気圧POLDと、検出された吸気圧PBAを用い、次式(1)によって、寿命パラメータRCLの基準値RCL0を算出する。
RCL0=((PBA−POLD)/(PNEW−POLD))×100 ・・(1)
【0042】
この式(1)の右辺の分母は、新品時吸気圧PNEWと寿命時吸気圧POLDとの差であり、エアクリーナ6が新品から寿命に至るまでの吸気圧PBAの変化可能幅に相当する。また、右辺の分子は、現在の吸気圧PBAと寿命時吸気圧POLDとの差であり、エアクリーナ6が現在から寿命に至るまでの吸気圧PBAの変化可能幅に相当する。以上の関係から、図5に示すように、式(1)の右辺全体が、エアクリーナ6の残りの寿命割合に相当するので、これを現時点での寿命パラメータの基準値RCL0として算出し、更新したものである。
【0043】
次に、更新した基準値RCL0を寿命パラメータRCLとして設定する(ステップ18)とともに、基準値RCL0の更新が完了したことを表すために、基準値更新完了フラグF_DONEを「1」にセットする(ステップ19)。また、吸入空気量積算値ΣGAIRを値0にリセットした(ステップ20)後、前記ステップ11以降に進む。したがって、このときのステップ11における寿命判定は、上記ステップ18で設定された寿命パラメータRCLを用いて行われる。
【0044】
また、上記のように基準値RCL0が更新された後には、ステップ19で基準値更新完了フラグF_DONEが「1」にセットされるのに伴い、前記ステップ4の答がYESになり、その場合には、前記ステップ7以降に直接、進み、吸入空気量積算値ΣGAIRの算出(ステップ7)や、それに基づく寿命パラメータRCLの算出(ステップ8〜10)などを実行する。
【0045】
以上から明らかなように、ステップ15〜19における寿命パラメータRCLの基準値RCL0の更新は、エンジン3の1回の運転サイクルにおいて、所定の条件が成立したときに1回のみ行われる。また、この更新時に吸入空気量積算値ΣGAIRが値0にリセットされる(ステップ20)ため、その後のステップ7における吸入空気量積算値ΣGAIRの算出と、ステップ8および9における推定捕捉ダスト量QDおよび寿命パラメータの減少量ΔRCLの算出は、更新時以降の期間のみを対象として行われる。そして、算出した減少量ΔRCLを基準値RCL0から減算することによって、すなわち更新された基準値RCL0を基準として、寿命パラメータRCLが算出される(ステップ10)。
【0046】
図6は、これまでに説明した寿命判定処理によって得られる動作例を示している。同図の横軸は、エアクリーナ6が交換された後の車両の走行距離DTを示す。なお、寿命パラメータRCLの基準値RCL0の更新は、前述した所定の頻度で、所定の条件が成立したときに実行されるが、図示および説明の便宜上、同図には基準値RCL0の更新回数が4回の例を示している。
【0047】
エアクリーナ6が交換されると(DT=0)、寿命パラメータRCLおよび基準値RCL0が100%にリセットされ、吸入空気量積算値ΣGAIRが値0にリセットされる。その後、車両の走行に伴い、吸入空気量積算値ΣGAIRが随時、算出され(ステップ7)、この吸入空気量積算値ΣGAIRに比例するように、推定捕捉ダスト量QDおよび寿命パラメータの減少量ΔRCLが算出される(ステップ8、9)。そして、減少量ΔRCLを基準値RCL0(この場合には100%)から減算することによって、寿命パラメータRCLが、100%から吸入空気量積算値ΣGAIRに比例して徐々に減少するように随時、算出される(ステップ10)。
【0048】
この状態で、前述した吸入空気量GAIRおよびスロットル弁開度θTHの条件が成立すると(ステップ5および6:YES)、基準値RCL0の第1回の更新(更新1)が行われる(ステップ15〜18)。具体的には、検出された吸気量PBAに基づき、式(1)によって基準値RCL0(=RCL01)が算出され、更新されるとともに、寿命パラメータRCLが更新された基準値RCL0に設定される。これにより、寿命パラメータRCLおよび基準値RCL0が、破線で示した真の寿命ラインに近い値に補正される。
【0049】
その後は、ステップ20でリセットされた値0からの吸入空気量積算値ΣGAIRの算出と、この吸入空気量積算値ΣGAIRに応じた寿命パラメータの減少量ΔRCLの算出が随時、行われるとともに、この減少量ΔRCLを基準値RCL0から減算することにより、寿命パラメータRCLが、更新された基準値RCL0から徐々に減少するように算出される。
【0050】
その後、更新の条件が成立するごとに、上記と同様、基準値RCL0の第2回〜第4回の更新(更新2〜更新4)が行われる(RCL0=RCL02〜RCL04)とともに、それぞれの更新後に算出された寿命パラメータの減少量ΔRCLを基準値RCL0から減算することにより、寿命パラメータRCLが、更新された基準値RCL0を基準として、徐々に減少するように算出される。
【0051】
そして、寿命パラメータRCLがしきい値ROLD以下まで減少したときに(ステップ11:YES)、エアクリーナ6が寿命に達したとして、寿命フラグF_CLNGが「1」にセットされる(ステップ13)とともに、警告灯10を点灯させる(ステップ14)ことによって、運転者への警告が行われる。
【0052】
以上のように、本実施形態によれば、検出された吸入空気量GAIR、吸気圧PBAおよびスロットル弁開度θTHに応じ、寿命パラメータRCLの基準値RCL0を算出し、更新する。また、この基準値RCL0の更新は、吸入空気量GAIRがしきい値GREF以上で、かつスロットル弁開度θTHがしきい値θREF以上であることを条件として、行われる。したがって、基準値RCL0を、エアクリーナ6の実際の目詰まり度合を良好に反映させながら、精度良く算出し、更新できる。
【0053】
そして、更新された基準値RCL0を基準として、寿命パラメータRCLを随時、算出するので、吸入空気量積算値ΣGAIRに応じた寿命パラメータRCLの算出精度があまり高くない場合でも、精度のより高い基準値RCL0を基準とすることで、寿命パラメータRCLの算出精度を維持できる。その結果、算出された寿命パラメータRCLに基づいて、エアクリーナ6の寿命を常時、精度良く推定でき、推定された寿命に基づいて、エアクリーナ6をその限界付近まで効率良く使用することができる。
【0054】
また、基準値RCL0の更新に用いられる吸入空気量GAIR、スロットル弁開度θTHおよび吸気圧PBAは、エンジン3を制御するためのパラメータとして通常、用いられるものである。したがって、これらのパラメータを検出するための既存の検出手段であるエアフローセンサ21、スロットル弁開度センサ22および吸気圧センサ23を利用しながら、安価な構成で、本実施形態の寿命推定装置を実現することができる。
【0055】
さらに、吸入空気量積算値ΣGAIRに応じて寿命パラメータRCLを算出するので、エアフローセンサ21で検出された吸入空気量GAIRを用いて、寿命パラメータRCLを算出でき、したがって、部品点数および製造コストを抑制することができる。
【0056】
図7は、エアクリーナ6の寿命判定処理の変形例を示す。この変形例は、図2の寿命判定処理と比較し、寿命パラメータRCLの減少量ΔRCLの算出を、吸入空気量積算値ΣGAIRに代えて、走行距離積算値ΣDTに応じて行う点のみが異なるものである。このため、本処理のうち、図2の処理と同じ実行内容の部分については、図7に同じステップ番号を付するとともに、以下、異なる実行内容を中心として説明を行うものとする。
【0057】
本処理では、前記ステップ4の答がYESで、寿命パラメータRCLの基準値RCL0の更新が完了しているとき、または、前記ステップ5もしくは6の答がNOで、吸入空気量GAIRがしきい値GREF未満、またはスロットル弁開度θTHがしきい値θREF未満のときには、ステップ31において、検出された車速VPに本処理の実行周期ΔTを乗算することによって、今回の処理サイクルにおける車両の走行距離ΔDTを算出する。
【0058】
次に、算出した走行距離ΔDTを前回までに積算された走行距離積算値ΣDTに加算することによって、今回の走行距離積算値ΣDTを算出する(ステップ32)。次に、算出した走行距離積算値ΣDTに所定の走行距離係数KDTを乗算することによって、推定捕捉ダスト量QDを算出する(ステップ33)。この走行距離係数KDTは、車両の単位走行距離当たりにエアクリーナ6に捕捉されるダスト量に相当するものであり、実験結果などに応じてあらかじめ設定される。そして、ステップ33に続く前記ステップ9では、算出された推定捕捉ダスト量QDを用いて、寿命パラメータRCLの減少量ΔRCLが算出される。
【0059】
また、前記ステップ15〜19において寿命パラメータRCLの基準値RCL0が更新されたときには、ステップ34において、走行距離積算値ΣDTが値0にリセットされる。他の構成は、図2の処理と同様である。
【0060】
以上のように、この変形例によれば、走行距離積算値ΣDTに応じて寿命パラメータRCLを算出するので、車速センサ26で検出された車速VPを用いて、寿命パラメータRCLを算出でき、したがって、部品点数および製造コストを抑制することができる。
【0061】
次に、図8および図9を参照しながら、寿命パラメータRCLの基準値RCL0の他の算出方法を説明する。図8の算出処理は、例えば、図2および図7のステップ17に代えて実行される。
【0062】
本処理ではまず、ステップ41において、前記ステップ15および16で算出された新品時吸気圧PNEWと寿命時吸気圧POLDとの差(=PNEW−POLD)を、限界圧損ΔPLMTとして算出する。また、新品時吸気圧PNEWと検出された吸気圧PBAとの差(=PNEW−PBA)を、消費圧損ΔPCSMPとして算出する(ステップ42)。
【0063】
次に、算出された消費圧損ΔPCSMPと限界圧損ΔPLMTとの比(=ΔPCSMP/ΔPLMT)を、消費圧損率RPCSMPとして算出する(ステップ43)。以上から明らかなように、この消費圧損率RPCSMPは、エアクリーナ6が目詰まりによって寿命に達したときの圧力損失に対する、現在までにすでに発生した圧力損失の比率に相当する。
【0064】
次に、算出された消費圧損率RPCSMPに応じ、図9に示すマップを検索することによって、捕捉ダスト量QDを求め、現時点での実捕捉ダスト量QDACTとして算出する(ステップ44)。このマップは、上記のように定義される消費圧損率RPCSMPとエアクリーナ6における捕捉ダスト量QDとの間に、スロットル弁開度θTHや吸入空気量GAIRの条件に応じて変化する限界圧損ΔPLMTなどにかかわらず、図9に示すような二次曲線的な関係がほぼ一律に成立することが見出されたことから、この関係を実験などによって求め、マップ化したものである。
【0065】
次に、算出された実捕捉ダスト量QDACTと前述した所定の限界ダスト量QDOLDを用い、次式(2)によって、寿命パラメータRCLの基準値RCL0を算出し(ステップ45)、本処理を終了する。
RCL0=(1−QDACT/QDOLD)×100 ・・・(2)
【0066】
以上のように、この算出方法によれば、エアクリーナ6での圧力損失から推定された捕捉ダスト量に基づいて、基準値RCL0および寿命パラメータRCLをよりきめ細かく算出でき、したがって、エアクリーナ6の寿命をより精度良く推定することができる。
【0067】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、寿命パラメータRCLの基準値RCL0の算出を、吸入空気量GAIR、吸気圧PBAおよびスロットル弁開度θTAに応じて行っているが、これらのパラメータのうち、吸入空気量GAIRと吸気圧PBA、または吸入空気量GAIRとスロットル弁開度θTAに応じて行ってもよい。前述したように、このような2つのパラメータが定まれば、エアクリーナ6の目詰まり度合が概ね定まるので、これらの2つのパラメータの組合わせを用いても、基準値RCL0を精度良く算出することができる。特に、ディーゼルエンジンのような、スロットル弁が設けられていないエンジンの場合には、吸入空気量GAIRと吸気圧PBAの組合わせが有効である。
【0068】
また、実施形態では、(a)吸入空気量GAIRがしきい値GREF以上で、かつ(b)スロットル弁開度θTHがしきい値θREF以上であることを条件として、寿命パラメータRCLの基準値RCL0を算出しているが、この更新の条件を(a)のみとしてもよい。前述したように、少なくとも吸入空気量GAIRがある程度大きければ、エアクリーナ6の目詰まり度合に応じた吸気圧PBAや吸入空気量GAIRの変化量が大きくなるので、条件(a)のみによっても、基準値RCL0の精度を確保することができる。さらに、実施形態では、基準値RCL0の更新を、エンジン3の1運転サイクル当たり1回に限って行っているが、この頻度を増減してもよいことはもちろんである。
【0069】
また、実施形態では、寿命パラメータRCLの減少量ΔRCLの算出を、吸入空気量積算値ΣGAIRまたは走行距離積算値ΣDTに応じて行っているが、これに限らず。エンジン3や車両の運転に伴って進行するエアクリーナ6の目詰まり度合を反映するような他の適当なパラメータ、例えば燃料噴射量、エンジン3の回転回数や排ガス流量の積算値などに応じて、減少量ΔRCLを算出してもよい。さらに、減少量ΔRCLや基準値RCL0の具体的な算出手法も、実施形態で示したものに限らず、任意である。
【0070】
また、実施形態では、算出した寿命パラメータRCLをしきい値ROLDと比較することによって、エアクリーナ6が寿命に達したか否かを判定しているが、これに代えてまたは加えて、寿命パラメータRCLを車両のコントロールパネルに表示することや、寿命パラメータRCLを所定の記憶手段に記憶し、必要に応じて読み出すようにすることも可能である。
【0071】
さらに、実施形態は、本発明を車両用のガソリンエンジンに適用した例であるが、本発明は、これに限らず、ガソリンエンジン以外のディーゼルエンジンなどの各種のエンジンに適用してもよく、また、車両用以外のエンジン、例えば、クランク軸を鉛直に配置した船外機などのような船舶推進機用エンジンにも適用可能である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0072】
2 ECU(寿命パラメータ算出手段、記憶手段、基準値更新手段、吸入空気量積算 値算出手段、走行距離積算値算出手段)
3 エンジン(内燃機関)
4 吸気通路
6 エアクリーナ
8 スロットル弁
21 エアフローセンサ(吸入空気量検出手段)
22 吸気圧センサ(吸気パラメータ検出手段)
23 スロットル弁開度センサ(吸気パラメータ検出手段)
GAIR 吸入空気量
PBA 吸気圧(エアクリーナの下流側の吸入空気の圧力)
θTH スロットル弁開度(スロットル弁の開度)
RCL 寿命パラメータ
RCL0 寿命パラメータの基準値
GREF 所定のしきい値(所定値)
θREF 所定のしきい値(所定開度)
ΣGAIR 吸入空気量積算値
ΣDT 走行距離積算値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の吸気通路に配置され、当該吸気通路を通って前記内燃機関に吸入される吸入空気を濾過するエアクリーナの目詰まりによる寿命を推定するエアクリーナの寿命推定装置であって、
前記内燃機関の運転中、前記エアクリーナの寿命を表す寿命パラメータを随時、算出する寿命パラメータ算出手段と、
吸入空気量を検出する吸入空気量検出手段と、
前記エアクリーナの下流側の吸入空気の圧力、および吸入空気量を調整するためのスロットル弁の開度の少なくとも一方である吸気パラメータを検出する吸気パラメータ検出手段と、
前記エアクリーナの目詰まりの度合と、前記吸入空気量と、前記吸気パラメータとの関係を記憶する記憶手段と、
前記検出された吸入空気量が所定値以上のときに、当該吸入空気量および前記検出された吸気パラメータに応じ、前記記憶手段に記憶された前記関係に基づいて、前記寿命パラメータ算出手段により前記寿命パラメータを算出する際の基準となる基準値を算出し、更新する基準値更新手段と、
を備えることを特徴とするエアクリーナの寿命推定装置。
【請求項2】
前記吸気パラメータ検出手段は、前記吸気パラメータとして、前記スロットル弁の開度を検出し、
前記基準値更新手段は、前記吸入空気量が前記所定値以上で、かつ前記検出されたスロットル弁の開度が所定開度以上のときに、前記基準値を更新することを特徴とする、請求項1に記載のエアクリーナの寿命推定装置。
【請求項3】
前記吸入空気量の積算値を算出する走行距離積算値算出手段をさらに備え、
前記寿命パラメータ算出手段は、前記算出された吸入空気量の積算値に応じて、前記寿命パラメータを算出することを特徴とする、請求項1または2に記載のエアクリーナの寿命推定装置。
【請求項4】
前記内燃機関は車両に動力源として搭載されており、
当該車両の走行距離の積算値を算出する走行距離積算値算出手段をさらに備え、
前記寿命パラメータ算出手段は、前記算出された走行距離の積算値に応じて、前記寿命パラメータを算出することを特徴とする、請求項1または2に記載のエアクリーナの寿命推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−36382(P2013−36382A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172906(P2011−172906)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】