説明

エアタービンハンドピース

【課題】ハンドピースの使用が終了し吸気を停止した際に、タービン羽根が惰性回転することによりタービン室内に負圧が発生することを防止することである。
【解決手段】回転自在なタービン羽根を内蔵するヘッド部と、該ヘッド部に連接され術者に把持されるネック部と、該ネック部の後方に連設されたグリップ部とを備え、かつ前記タービン羽根を駆動するための給気をするエア供給管路および前記タービン羽根を回転した後に排気する排気管路を備えたハンドピースにおいて、前記排気管路12に一端を連通孔19を介して連通する排気の還流管路16を形成し、かつ該還流管路16の他端に形成する還流口17を前記排気管路12の排気口18と前記エア供給管路11のエア供給口14との間におけるタービン室15に向けて開口する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッド部内に形成するタービン室が負圧になることを防止するエアタービンハンドピースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のエアタービンハンドピースは、使用を終了する際に、駆動媒体である加圧エアの供給を遮断する。しかし加圧エアの供給を遮断してもタービン羽根は自身の慣性力にて惰性回転が続行されるために、この回転にてタービン室内の空気が排出され、タービン室内に負圧が生じる。またタービン室内の空間は、回転軸近傍の隙間を介して外気に連通しているので、内部が負圧になることにより外気が吸入される。これにより患者の唾液や血液等の汚染物質が外気と共にタービン室内に吸引され、ヘッド部内および/またはハンドピースに接続されたジョイント金具や給排気ホース内が汚染される。このようにハンドピースが汚染されると、ハンドピースを介して患者や術者あるいは患者相互間にて交叉感染が生じる恐れがあることから、この問題を改善するために今までに各種技術が開発され、例えば次に述べる特許文献1から4の発明が公知となっている。
【0003】
特許文献1の発明は、圧縮空気源からの圧縮空気をエアタービンに供給する給気管路と、その排気を行う排気管路とを有するとともに、この給気管路に給気弁を、排気管路に排気弁を設けて成り、ハンドピースの使用停止時に給気弁および排気弁を同時に閉止し、もしくは排気弁を閉止した後に給気弁を閉止するなどにより、ハンドピース内に負圧が生じることを阻止し、ハンドピース内に汚染物質が吸入されることを防止するものである。
【0004】
また、特許文献2の発明は、ハンドピースの、ヘッド部内の翼車を回転させるための加圧空気給気口、および給気された空気にて翼車を回転した後の空気を排出する排気口が形成され、翼車の回転によって遠心力が付与された空気が送り込まれ、加圧状態となって蓄積される1または複数の緩衝空間と、この緩衝空間に蓄積された加圧空気を、翼車と共に回転する工具の周辺から大気中に放出する空気通路と、排気口と翼車間に位置し、翼車から排気口に流れ込む空気に抵抗を付与するために周方向に位置する側壁部と、更に、緩衝空間を翼車の回転方向に対向させた構成である。
【0005】
この構成により、ハンドピースの使用が終了して給気口からの給気を停止した際に、翼車の惰性回転でタービン室内の空気が排気されるが、翼車と排気口との間に介在する側壁部によって翼車から排気口に向かって移動する空気の流れを阻害する。これにより翼車と共に回転する空気を、空気に付与された遠心力に基づいて、翼車の外側に形成された緩衝空間内に加圧状態で蓄積することができ、蓄積された空気をヘッド部に形成された空気通路を介して工具周辺から大気中に放出することでサックバックの防止を可能にすることができるというものである。
【0006】
特許文献3の発明は、ハンドピースのタービン室内において、流動圧力媒体の供給管路がタービン室の入り口開口部のところで開口しており、排出管路が出口開口部のところでタービン室から延びている。この構成においてハンドピースの使用が終了し、圧力媒体の供給が停止された際に、タービン羽車は惰性で回転を続けるために、タービン羽車により圧力媒体が流動し、排出管路を通って大気中に放出されるが、これを防ぐ手段として、圧力媒体の流れの中へ突出し、機能的作動において回転している圧力媒体の流れ段部を形成する流れウエッブを有していることを特徴とし、ポンプ機能や吸入あるいは吸い戻しを防止するとしている。
【0007】
特許文献4の発明は、タービンに駆動空気を供給する空気通路と、タービン室の円筒表面内に直結し、タービン室からの排出空気の通路とを有する手動歯科用装置において、排出空気通路が、接続通路を介してタービン室の軸近傍、およびロータと工具側軸受との間の領域に開口し、または、排出空気通路が、工具側に設けられた軸受における工具側で、ヘッドの収容孔の円筒状壁に接続通路を介して開口し、または、排出空気通路が、タービン室の軸近傍の領域、および/またはロータの工具側とは反対側における工具操作機構近傍の中空室に接続通路を介して開口した構成であり、排出空気通路に接続された接続通路が軸周辺の領域に開口することによりロータの惰性回転による負圧の発生を防止するものである。
【0008】
しかしながら、前記特許文献1の場合は、給気弁および排気弁を設ける必要があり、更に排気弁を作動させるための電気信号(電磁弁を作動させる電気信号)、あるいは空気信号(エアバルブを作動させる空気信号)が必要となる。また当該回路をより有効に作用させるためには、排気弁を閉じた後に、給気弁を閉じるように作動させる必要があり、この順序で作動させるコントロール回路が不可欠となる。その他に、部品や回路の追加が必要でありコストアップになる。更にこの回路は、新たに工場から出荷される製品に適用されるものであって、市場の既存品には対応しにくいという問題がある。
【0009】
特許文献2の場合は、ハンドピースのヘッド部における翼車に向けて空気を供給するための給気口、および供給された空気の排出口に加え、ヘッド部内で、翼車の回転にて遠心力が付与された空気が送り込まれ、加圧状態になって蓄積される緩衝空間、および排気口と翼車との間に位置し、翼車から排気口に流れる空気に抵抗を付与する周方向の側壁部を設ける必要がある。そして、その効果を有効に発揮するには緩衝空間が翼車の回転方向に対向して開口することによってサックバックを防止することができるものであるので、構造が複雑かつ煩雑であり、コストアップになってしまうという問題がある。
【0010】
特許文献3の場合は、出口開口部や、出口開口部につながる流れ溝およびウエッブの加工が煩雑であり、コストアップになるため、簡単な構造で経済的な構成の製品を提供することができないという問題がある。
【0011】
特許文献4の場合は、排出空気通路に連通すると共に、軸周辺の領域に開口する接続通路の加工が容易ではなく、前記と同様にコストアップになるという問題がある。なお、特許文献4の発明は本願発明に類似した構成ではあるが、本願発明は排気管路に連通した還流管路を、タービン歯根の惰性回転よりタービン室内に発生する負圧部に対し直接に開口して排気を供給することにより負圧の発生を防止することが目的であり、かつ構成が簡単でコストダウンが可能であることに対して、特許文献4の場合は、排出空気通路に連通する接続通路を、タービン室の負圧発生部分から離れた軸周辺の領域等に開口し、負圧の発生を直接阻止するものではなく、発生した負圧の影響を緩和するものであり、しかも構造上から加工コストが嵩む、全く異なる構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平06−047060号公報
【特許文献2】WO 2006/101133号公報
【特許文献3】特開2000−60870号公報
【特許文献4】特許第3907284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
解決しようとする問題点は、ハンドピースの使用が終了して給気を停止しても、タービン羽根が惰性回転することによりタービン室内に負圧が生じることを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、排気管路に一端を連通する排気の還流管路を形成し、かつ該還流管路の他端に形成する還流口をエア供給管路のエア供給口近傍に開口することを特徴とする。なお前記還流口は、排気管路の排気口とエア供給管路のエア供給口との間に位置し、なおかつエア供給口近傍におけるタービン室に向けて開口してもよく、更に前記エア供給管路にノズルを連設すると共に、該ノズルのエア供給口近傍に還流口を開口してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のハンドピースは、排気管路に連通した還流管路をエア供給管路のエア供給口近傍に開口させることにより、タービン室内の最も負圧が生じやすいタービン室の部分に対して排気を直接に還流させることで、還流した排気にて負圧の発生を防止することが可能になる。更にハンドピースの使用時には、還流管路から供給された還流空気が供給エアと共にタービン羽根に向かって噴射されることによりタービン羽根の回転駆動を助力することができるという副次的効果が得られる。また、還流管路の構成は簡単であり、加工も容易であるのでハンドピースを廉価にて提供することができる。これにより従来ハンドピースを介して生じる患者・術者または患者相互間の交叉感染を防止することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)(b)は還流管路をエア供給口近傍のタービン室に向かって開口させた構成を示す縦および横断面図である。(実施例1)
【図2】は還流の作用説明図である。(実施例1)
【図3】(a)(b)は還流管路をエア供給管路の開口部近傍に開口させた構成を示す縦および横断面図である。(実施例2)
【図4】は還流の作用説明図である。(実施例2)
【図5】はハンドピース全体の外観を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
ハンドピースの使用が終了して吸気が停止されても、タービン羽根が惰性回転することによりタービン室内に負圧が生じることを防止するという目的を、排気管路に一端を連通する排気の還流管路を形成し、かつ該還流管路の他端に形成する還流口をエア供給管路のエア供給口近傍に開口することにより、簡単な構成で廉価なハンドピースの提供を実現した。
【実施例1】
【0018】
図5に示すよう本発明を適用する本実施例のハンドピース1は、術者により把持されるネック部2と、ネック部2の尖端側に連設されたヘッド部3と、ネック部2の後方に連設されたグリップ部4とからなり、グリップ部4の後端には図示しない給気管および排気管を内蔵するホース5が連結されている。
【0019】
図1に示すようにハンドピース1のヘッド部3内部には、タービン羽根6が工具7を支持するチャック8に固定され、チャック8を介し、上下一対のボールベアリング9にて回転自在に軸支されている。なおチャック8の上端にはプッシュボタン10が設けられ、プッシュボタン10をバネ10aの付勢に抗して押圧することにより工具7の着脱が可能に構成されている。更にヘッド部3のネック部2側には、タービン羽根6を回転させるためのエア供給管路11およびタービン羽根6を回転した後のエアを排出する排気管路12が設けられ、更にエア供給管路11の出口側にはノズル13が連設され、エアはノズル13の尖端に形成されたエア供給口14からタービン室15に向かって噴射される構成になっている。
【0020】
本実施例では、前記構成において排気管路12に連通孔19を介して連通する還流管路16を設けると共に、還流管路16の還流口17を、ノズル13のエア供給口14と排気管路12の排気口18との間におけるエア供給口14近傍の位置に開口させている。
【0021】
上記構成のハンドピース1は、エア供給管路11からのエア供給を停止した際に、図2中の矢印で示すように、排気管路12に流れ込んだ排気が還流管路16を通って還流口17からタービン羽根6のエア供給口14近傍、即ちタービン羽根6のA領域に流れ込む。このA領域は排気後の最も負圧が発生しやすい部分であるので、このA領域に対して排気を直接還流することで負圧の発生を効率よく防止することが可能になる。更にハンドピース1の使用時には、エア供給口から噴射される加圧給気の回転駆動力に加えて、還流管路16からエア供給口近傍のタービン室に流れ込む還流排気がタービン羽根の回転駆動力を助力するという副次的効果を奏することができる。
【実施例2】
【0022】
図3に示すように本実施例のハンドピース1は、前記実施例1にて還流管路16の還流口17をエア供給管路11のエア供給口14の近傍に開口したことに替えて、排気管路12に連通した還流管路16の還流口17を、エア供給管路11のノズル13におけるエア供給口14近傍に開口したものである。
【0023】
この場合は、エア供給管路11からのエアの供給を停止した際に、タービン羽根6の惰性回転により排出される排気が図4中の矢印にて示すように還流管路16を通って還流口17からノズル13に入り、タービン羽根6のA領域に向かって流れ込む。これにより本実施例の場合も、前記実施例1と同様な作用効果を奏することができる。更にハンドピース1の使用時には、この還流排気がノズル13に流れ込み、加圧された給気と共にタービン室15に噴射されることにより還流排気がタービン羽根6を回転駆動する助力になるという副次的効果を奏することができる。
【0024】
以上により本発明のハンドピース1は、エア供給管路11からの加圧空気の供給が停止された後、タービン羽根6が惰性回転し、タービン室15内の空気が排気口18に送り込まれてエア供給口14近傍に負圧が発生しようとしても、排気管路12側からの排気が還流管路16を経て負圧発生部であるA領域に流れ込むことにより負圧が解消される。しかもハンドピース1の使用中においても還流管路16から還流空気がエア供給管路11に流れ込み、加圧空気と共にタービン羽根6に向かって噴射される。これによりタービン羽根6の回転を助力することができるという副次的効果を奏することができる。
【0025】
この回転の助力について詳述すれば、還流管路16はエア供給管路11に連接されたノズル13より細く形成されており、しかもノズル13に対して空気流の方向に沿って斜め方向に開口していることにより、ノズル内を高速で通過する加圧空気にて還流口17に負圧が生じ、還流管路16内の空気がノズル13内に引き込まれる。これにより還流空気は供給された加圧空気と共にエア供給口14から噴射されるものである。なお上記において、エアの供給を停止した際に、排気がエア供給口14近傍に還流されればよく、還流管路16の径やノズルに対する取り付け角度は上記に限定されるものではない。以上により、本発明のハンドピース1は構造が簡単で廉価に提供することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 ハンドピース
2 ネック部
3 ヘッド部
4 グリップ部
5 ホース
6 タービン羽根
7 工具
8 チャック
9 ボールベアリング
10 プッシュボタン
11 エア供給管路
12 排気管路
13 ノズル
14 エア供給口
15 タービン室
16 還流管路
17 還流口
18 排気口
19 連通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にタービン室を形成するとともに該タービン室内に回転自在なタービン羽根が設けられたヘッド部と、該ヘッド部に連接され術者に把持されるネック部と、該ネック部の後方に連設されたグリップ部とを備え、かつ前記タービン羽根を駆動するための給気をするエア供給管路および前記タービン羽根を回転した後に排気する排気管路を備えたハンドピースにおいて、
前記排気管路に一端を連通する排気の還流管路を形成し、かつ該還流管路の他端に形成する還流口を前記エア供給管路のエア供給口近傍に開口することを特徴とするエアタービンハンドピース。
【請求項2】
前記還流口を、前記排気管路の排気口と前記エア供給管路のエア供給口との間におけるエア供給口近傍のタービン室に開口したことを特徴とする請求項1記載のエアタービンハンドピース。
【請求項3】
前記エア供給管路にノズルを連設すると共に、前記排気管路に連通した還流管路の前記還流口を、該ノズルのエア供給口近傍に開口したことを特徴とする請求項1記載のエアタービンハンドピース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−65741(P2012−65741A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211589(P2010−211589)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000141598)株式会社吉田製作所 (117)
【Fターム(参考)】