エアバッグ用インフレータのケース
【課題】固定強度にバラツキが生じにくく、製造の時間とコストを低減でき、しかも爆発の危険を大幅に減少できるエアバッグ用インフレータおよびそのケースならびにエアバッグ用インフレータの製造法を提供する。
【解決手段】底付きの金属製の円筒部材1と、取り付け用の金属製のフランジ20とを備えるケ−スにおいて、円筒部材1は、その外周面にリング状の溝5を有し、フランジ20は、その中央部分に円筒部材1が挿入される円形孔を有し、フランジ20の幅Wの中央Tよりも円形孔寄りのフランジ20部分をフランジ20の厚み方向に圧縮することで、円形孔を囲む部分が溝5の内部へ伸張し、円筒部材1とフランジ20とが固定されている。
【解決手段】底付きの金属製の円筒部材1と、取り付け用の金属製のフランジ20とを備えるケ−スにおいて、円筒部材1は、その外周面にリング状の溝5を有し、フランジ20は、その中央部分に円筒部材1が挿入される円形孔を有し、フランジ20の幅Wの中央Tよりも円形孔寄りのフランジ20部分をフランジ20の厚み方向に圧縮することで、円形孔を囲む部分が溝5の内部へ伸張し、円筒部材1とフランジ20とが固定されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ用インフレータおよびそのケースならびにエアバッグ用インフレータの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
エアバッグ用のガス発生器(インフレータ)としては、種々のものが存在する。たとえば、偏平型のディスクタイプインフレータ、棒状のシリンダタイプインフレータ等である。インターネットのホームページには、ディスクタイプインフレータとして図21に示すようなものが掲載されている。すなわち、ディスクタイプインフレータ81は、ケース82として、開口部83を有すると共に取り付け用のフランジ部84を有する器状のクロージャシェル85と、開口部86を有するディフューザシェル87を有する。クロージャシェル85の内周面とディフューザシェル87の外周面が接触する接触部88は、その周方向全域に渡って溶接され両者が一体化される。このケース82の全体形状は、この接触部88からケース82の横方向外側に延びるフランジ部84を有する形状となる。ディフューザシェル87は、周面において複数のガス排出口89を有しており、ガス排出口89は、防湿用のアルミニウムテープ90で内側から閉塞されている。
【0003】
ケース82の内部の点火手段室91には、着火剤92が配置された電気式の点火器93が収容されている。着火剤92は、ガス発生剤94のガス発生機能を動作させ得るものである。自動車が衝突して衝撃を受けたとき、コントロールユニットからの作動信号を受け、点火手段室91内の点火器93が作動点火して着火剤92を着火燃焼させる。そして生じた火炎等が、点火手段室91から孔95を介して燃焼室96に到達し、燃焼室96に充填されたガス発生剤94を燃焼等させる。なお、燃焼室96は、開口部86がクロージャシェル85によって塞がれて形成されている。発生したガスは、アルミニウムテープ90を破壊して、ガス排出口89から排出され、エアバッグを膨張させる。この種のディスクタイプインフレータとしては、米国特許第6,126,197(特許文献1)のような構造のものも知られている。この特許文献1のインフレータは、フランジを有するケース部品が図21に示すクロージャシェル85側に配置されているものである。
【0004】
図21や特許文献1に示すエアバッグ用インフレータは、着火剤92等をケース82に入れた後、クロージャシェル85とディフーザシェル87とを、レーザー溶接等で溶接している。この溶接に当たっては、溶接強度のバラツキを抑えるため、内側に配置されるケース82、たとえばディヒューザシェル87の開口部86の周面は、切削によって真円となるように成形される。これらの真円成形の後に、着火剤92等が入れられ、クロージャシェル85とディフーザシェル87は接触部88の部分で溶接される。
【0005】
溶接の環境管理を一定にするため、次の作業を行う。すなわち、まず試作品を作り、その試作品を実際に着火させ爆発させる。そして、その爆発力を通常より大きくしケース82がどの部分から破断するかを調べる。そして、破断部分が溶接部分である接触部88以外となれば、その溶接の設定状況を含めた環境を合格としてその環境の下で商品の製造に入る。そして、その製造に当たっては、溶接を行う環境、たとえば室内温度、室内湿度、クリーン度、レーザー溶接機のパワー、パワーのかけ具合、溶接箇所管理、など種々の環境を一定範囲内となるように管理して商品を製造する。また、溶接が当初の目論見どおりなされているか否かの検査は次のようにして行う。すなわち、完成品に対する抜き取り検査を行うのだが、その抜き取り検査は、抜き取った製品を実際に着火させて爆発させる検査の他に溶接部を切断し、溶接状態を電子顕微鏡等で検査する方法が採用されている。
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,126,197
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図21や特許文献1に記載されているディスクタイプインフレータは、ケースの形成に溶接を採用している。ところが、溶接は、その溶接強度にバラツキが生じやすく上述のように環境管理の厳格性が要求される。また完成品に対する抜き取り検査における電子顕微鏡等での確認は、時間とコストをかけて行う必要がある。この溶接強度のバラツキは、たとえばクロージャシェル85とディフーザシェル87の接触部88における互いの接触の程度を全体で均一にし難いことが原因の一つとして考えられる。そのため、ケースが円筒形状をしている場合は、ケースの構成部材の真円精度が高く要求される。また、溶接は、次のような大きな問題を抱えている。すなわち、火薬等の燃焼物を入れた後で溶接を行うため、爆発が起こる危険性が生じ非常な危険を伴う。
【0008】
そこで、本発明の目的は、固定強度にバラツキが生じにくく、製造の時間とコストを低減でき、しかも爆発の危険を大幅に減少できるエアバッグ用インフレータおよびそのケースならびにエアバッグ用インフレータの製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明のエアバッグ用インフレータは、底付きの金属製の円筒部材と、取り付け用の金属製のフランジとを有するケースを備えるエアバッグ用インフレータにおいて、円筒部材は、その外周面にリング状の溝を有し、フランジは、その中央部分に円筒部材が挿入される円形孔を有し、フランジの幅の中央よりも円形孔寄りのフランジ部分をフランジの厚み方向に圧縮することで、円形孔を囲む部分が溝の内部へ伸張し、円筒部材とフランジとが固定され、円筒部材の開口部の先端が内側に曲がり開口部を塞ぐ蓋部材を押さえつけている。
【0010】
ここで、圧縮する部分は、圧縮の前にはフランジの厚み方向に膨らんでいる部分または曲げられている部分であることが好ましい。
【0011】
また、フランジは、円筒部材の底面よりも開口部に近い側に配置されていることが好ましい。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明のエアバッグ用インフレータのケ−スは、底付きの金属製の円筒部材と、取り付け用の金属製のフランジとを備えるエアバッグ用インフレータのケ−スにおいて、円筒部材は、その外周面にリング状の溝を有し、フランジは、その中央部分に円筒部材が挿入される円形孔を有し、フランジの幅の中央よりも円形孔寄りのフランジ部分をフランジの厚み方向に圧縮することで、円形孔を囲む部分が溝の内部へ伸張し、円筒部材とフランジとが固定している。
【0013】
ここで、圧縮する部分は、圧縮の前にはフランジの厚み方向に膨らんでいる部分または曲げられている部分であることが好ましい。
【0014】
上記目的を達成するため、本発明のエアバッグ用インフレータのケ−スは、底付きの金属製の円筒部材と、取り付け用の金属製のフランジとを備えるエアバッグ用インフレータのケースにおいて、円筒部材は、その上面の開口部分が底面より小さくされ、円筒部材はその外周面であって底面よりも上面に近い側にリング状の溝を有し、フランジはその中央部分に円筒部材を囲む円形孔を有し、フランジの円形孔を囲む部分が溝へ進入されている。
【0015】
ここで、フランジの溝に進入した部分が溝の底面または側面に突き当たり、その底面または側面を窪ませていることが好ましい。
【0016】
上記目的を達成するため、本発明のエアバッグ用インフレータの製造法は、金属製の底付きの円筒部材と、取り付け用の金属製のフランジとを備えるケースを有するエアバッグ用インフレータの製造法において、円筒部材の外周面にリング状の溝を形成する溝形成工程と、その中央部分に円形孔を有する平板状のフランジを、その円形孔が円筒部材の溝を囲む位置に配置するフランジ配置工程と、フランジの幅の中央よりも円形孔寄りのフランジ部分をフランジの厚み方向に圧縮し、円形孔を囲む部分を溝の内部へ伸張させ、円筒部材とフランジとを固定するフランジ固定工程と、エアバッグを膨らませるための部材および円筒部材の開口側を塞ぐ蓋部材を円筒部材に入れる組み込み工程と、円筒部材の開口先端部分を内側にカシメて開口面積を小さくすると共に蓋部材に係合させるカシメ係合工程と、を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、固定強度にバラツキが生じにくく、製造の時間とコストを低減でき、しかも爆発の危険を大幅に減少できるエアバッグ用インフレータおよびそのケースならびにエアバッグ用インフレータの製造法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態に係るエアバッグ用インフレータ(以下、「インフレータ」と略記する。)およびそのケースの構成および製造法、ならびにインフレータの製造法およびインフレータ について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
(インフレータのケースの構成)
図1は、本発明の実施の形態に係るインフレータのケース(以下、「ケース」と略記する。)を構成する円筒部材1の構成を示す正面図、図2は、図1の平面図、図3は、図1の底面図、図4は、図2のA−A断面図である。
【0020】
図1、図2、図3および図4に示すように、円筒部材1は下面側が、底面2によって塞がれ上面3が開口された(底付きの)円筒状の形状をしている。円筒部材1の外周面4には、底面2よりも上面3に近い位置に深さY1が0.7mmで、幅Y2が1.9mmのリング状の溝5が切削加工により形成される工程(後述する溝形成工程P1)を経ている。なお、この溝5の深さT1、幅T2は、上述の値でなく他の値としても良い。また、外周面4には、孔6が外周面の周方向に沿って等間隔に形成されている。この孔6は、円筒部材1の内部の中空部分と外気とが通じるのを可能としている。円筒部材1の内周面7には、これらの孔6を塞ぐためのアルミニウムからなる金属箔(図示省略)が配置されている。
【0021】
なお、この円筒部材1は、上述の金属箔を除き、1部材で構成されている。この円筒部材1は、鉄等の金属製であって剛性の高い、いわゆるハイテンション材からなる平板部材を深絞り加工することによって形成されたものである。ここで、ハイテンション材(高張力鋼板)とは、引張強度が270N/mm2以上のものを言うが、ここでは300N/mm2以上のものを言うこととする。この実施の形態では、自動車構造用熱間圧延鋼板で高張力帯鋼であるSAPH590(引張強度が590N/mm2)を使用しているが、他のハイテンション材を使用しても良い。
【0022】
図5は、本発明の実施の形態に係るケース30(図7参照)を構成するフランジ20の構成を示す平面図、図6は、図5のB−B断面図である。
【0023】
図5に示すように、円筒部材1への取り付け用のフランジ20は、その厚さH1が1.9mmの平板状とされている。フランジ20には、その中央部分に径が63.10mmの円形孔21が形成されている。この円形孔21の内径R1は、円筒部材1の外周面4の外径R2と同一となっている。この円形孔21は、後述するように円筒部材1を囲むこととなる。そして、フランジ20の外周部分には、4つのタブ部22が外周に沿って等間隔に設けられている。それぞれのタブ部22には、このケース30(図7参照)を他の部材に取り付けるための貫通孔23が形成されている。
【0024】
そして、フランジ20の外端24と内端25との距離である幅Wの中央Tよりも円形孔21寄りのフランジ20部分には、図6に示すように逆Uの字状に成形された曲げ部26が円形孔21の内端25に沿ってリング状に形成されている。この曲げ部26がフランジ20の平板面から突出している突出高さH2は1.35mmである。なお、フランジ20は板状の1部材で構成され、その材質は円筒部材1と同様のいわゆるハイテンション材であるが通常の鋼としてもよい。また、フランジ20の板厚H1(1.9mm)は、円筒部材1の溝5の幅Y2(1.9mm)と同寸法である。なお、板厚H1、突出高さH2、内径R1、外径R2の各値は、上述の各値でなく他の値としても良い。
【0025】
図7は、ケース30の断面図であり、図4に示す円筒部材1にフランジ20が装着された状態の図である。フランジ20の円形孔21を囲む内端25の部分が、円筒部材1の溝5へ進入している。その進入によって、円筒部材1とフランジ20とが固定され、ケース30となっている。また、溝5部分に相当する内周面7の部分は凸部を有しない曲面形状とされている。このため、円筒部材1の中に詰め物をする場合、その詰め作業がスムーズとなり、また大容量の詰め物(後述するガス発生部材62)を入れることができる。さらに、フランジ20の曲げ部26は無くなっており、フランジ20は、溝5から外周面4に対して垂直に延びるように配置されている。また、フランジ20には、曲げ部26の痕が目視できる程度に付いている。
【0026】
また、溝5に進入した部分である内端25が溝5の底面または/および側面に突き当たり、その底面または/および側面を窪ませている。すなわち、内端25が溝5の奥部に食い込み、フランジ20に周方向の力が加わってもフランジ20が容易には回転しないようになっている。
【0027】
(ケースの製造法)
図8は、フランジ20の円形孔21に円筒部材1が挿入する前の状態、図9は、その後の状態を示している。図8の矢印方向にフランジ20を円筒部材1の方向へと移動させ円形孔21に円筒部材1を挿入する。なお、円筒部材1をフランジ20の方向へ移動させてもよく、両者を互いに近づく方向に移動させても良い。そして、図9に示すように円筒部材1の溝5とフランジ20の内端25とが対向する位置(円形孔21が円筒部材1の溝5を囲む位置)に配置する(後述するフランジ配置工程P2)。
【0028】
その後、図10に示すようにプレス装置40によってフランジ20の曲げ部26をフランジの厚み方向(図10のブロック矢印の方向)に圧縮する。すると、曲げ部26は無くなり、その代わりフランジ20の内端25部分が、溝5の内部へ伸張し溝5の底面である最も内側となる面を押圧し、フランジ20は円筒部材1に固定される。これは、フランジ20の幅Wの中央Tよりも円形孔21寄りのフランジ部分である曲げ部26をフランジ20の厚み方向に圧縮し、円形孔21を囲む部分を溝5の内部へ伸張させ、円筒部材21とフランジ20とを固定する工程であり、後述するフランジ固定工程P3に相当する。
【0029】
なお、円筒部材1が無い状態では、この伸長によって、フランジ20の円形孔21の径が61.63mmとなり、伸長前よりも1.47mm小さくなる。溝5の深さY1が0.7mmであるので、溝5が0.07mm分(=1.47mm−1,7mm×2)を吸収することとなる。換言すれば、0.07mmの半分である0.035mm分が溝5の底面に食い込むか溝5の側面に食い込むか両者に食い込むこととなる。このようにして円筒部材1とフランジ20とが固定される。以上で、図7に示すケース30が製造される。なお、プレス装置40は、プレス面41が曲げ部26に沿って円環状に設けられているものである。
【0030】
(インフレータの製造法)
図11は、インフレータ50が製造される様子を示すインフレータ50およびその製造過程の状態の縦断面図ならびに工程フロー図である。
【0031】
まず、前述の溝形成工程P1と、フランジ配置工程P2と、フランジ固定工程P3を経たケース30を用意する。そして、円筒部材1を備えたケース30の内部にエアバッグを膨らませるための部材として、火薬等を円筒状の容器に収容した爆発部材60および爆発部材60を着火する着火装置である着火部材61を、上述の爆発部材60の円筒状の内側空間部分に配置したものを用意する。なお、以下では、爆発部材60と着火部材61を総称するとき、ガス発生部材62という。そして、図11における上からガス発生部材62の上側を覆う金属製の蓋部材63を用意する。この蓋部材63は、有底の円筒形状をなしており、その底の中央には、孔64が形成されている。以上のようにしてガス発生部材62と蓋部材63をケース30の内部に配置する組み込み工程P4を行う。なお、蓋部材63に着火部材61を取り付けたものをケース30に組み込むようにしても良い。
【0032】
組み込み工程P4が終了した段階では、ガス発生部材62がケース30の底の内側に接触し、蓋部材63の外周面とケース30の内周面7とが密接している。ここで、蓋部材63の下端面65の部分は、ケース30の孔6を塞ぐ金属箔には接触していない。また、蓋部材63は、図11における爆発部材60の全部の上側面と着火部材61の上側面の端部を押さえ付けている。着火部材61の上側面の中央部は、蓋部材63の孔64があるため、蓋部材63によって押さえ付けられていない。孔64からは、着火部材61に着火信号を送るための電気ケーブルが飛び出ている(図示省略)。
【0033】
そして、円筒部材1の上面3付近の開口先端部分を内側にカシメて開口面積を小さくすると共に蓋部材63の上端面66にケース30を係合させるカシメ係合工程P5を行う。カシメ係合工程P5によってケース30の上面3部分がカシメ部70となる。これによってケース30は、カシメ部70を有するケース31となる。以上でインフレータ50が製造される。このカシメによってケース30の開口先端は、蓋部材63の上端面に食い込む。また、このカシメによって、ケース30の開口先端となるカシメ部70は、内側にまるまるような形状とされるので、爆発部材60が爆発してもカシメ係合が容易には外れないようになる。
【0034】
(インフレータ50の構成)
図12は、インフレータ50の正面図、図13は、インフレータ50の平面図である。インフレータ50のうち、ガス発生部材62を除く部分は、本発明の実施の形態に係るケース31となる。また、ケース30によって形成される円筒部材1は、ケース31によって形成される円筒部材1Aとなる。このケース31は、ケース30の上面3部分がカシメ部70となった以外は構成が同一であるため、図11、図12および図13では、変形等のない構成要素にはケース30と同一の符号を付している。また、円筒部材1Aの底面2は、平面状とされており、カシメ部70によって形成された開口部71の開口面積は、底面2の面積より小さくされている。また、底面2よりも開口部71に近い位置にフランジ20が配置されている。また、開口部71は、カシメ係合工程P5の結果蓋部材63によって塞がれている。
【0035】
(インフレータ50の動作)
インフレータ50が、自動車の衝突等によって衝撃を受けると、自動車等が有するコントロールユニットからの作動信号を受ける。その作動信号は、蓋部材63の孔64およびケース31の開口部71を通る電気ケーブル(図示省略)を通じて着火部材61を作動点火させる。その作動点火によって生じた火炎等により、爆発部材61が着火燃焼される。そして、爆発部材61が燃焼して発生したガスは、孔6を塞ぐ金属箔を破壊して、孔6から排出される。孔6から排出されたガスは、自動車用のエアバッグ等を膨らませる。また、発生したガスは、蓋部材63を開口部71側へ強く押しつける。しかし、カシメ部70は、ハイテンション材をカシメて形成されているため、さらには、内側にまるまるように形成されているため、殆ど変形しない。そのため、ガス発生部材62および蓋部材63は、ガスが発生したときの衝撃によってケース31から飛び出ることはない。
【0036】
(本発明の実施の形態によって得られる主な効果)
本発明の実施の形態に係るケース30、31、インフレータ50およびその製造法は、溶接技術を用いた技術を採用せず、円筒部材1とフランジ20とを用い、フランジ20の内端25部分が、溝5の内部へ伸張し溝5の底面を押圧固定する技術によって円筒部材1とフランジ20を固定している。この技術は、溶接のような厳格な環境管理は必要とされない。加えて、溶接に比べ、固定強度にバラツキが生じにくい。また、本発明の実施の形態に係る固定技術を採用したケース30のフランジ20の固定強度は、溶接技術を採用したケースの溶接部の固定強度よりも約1.5倍大きな固定強度が得られている。よって、この押圧固定技術は、2つの部材を一体化させる際に大きな固定強度が要求されるエアバッグに用いることができる。
【0037】
また、本発明の実施の形態に係る円筒部材1とフランジ20の押圧固定技術は、予め決まっている形状の円筒部材1とフランジ20を作製し、両者を所定の位置関係にした状態で曲げ部26に対しプレス加工するものである。よって、本形態の押圧固定技術は、溶接技術を用いた技術よりも飛躍的に製造工程の煩雑さ、製造コストを抑制できる。また、溶接技術では熱、火花、振動等の発生が避けられないため、ガス発生部材62を円筒部材1の内部へ挿入した状態での溶接は大きな危険を伴うが、本形態の押圧固定技術はきわめて安全である。
【0038】
また、本発明の実施の形態に係るケース30、31、インフレータ50およびその製造法では、フランジ20の幅Wの中央Tよりも円形孔21寄りの曲げ部26をフランジ20の厚み方向に圧縮して製造している。そのため、曲げ部26が平滑になる分だけ、フランジ20の内端25が溝5の内側へと伸張する。仮に、フランジ20の幅Wの中央Tよりも外端24寄りに曲げ部26を形成し曲げ部26をフランジ20の厚み方向に圧縮すると、フランジ20の径を大きくする方向にフランジ20の外端25が伸張しがちとなり、フランジ20の内端25が溝5の内側へは伸張しない危険性が高くなる。
【0039】
また、本発明の実施の形態に係るケース30、31およびインフレータ50は、フランジ20が 溝5から外周面4に対して垂直に延びるように配置されている。このため、円筒部材1内の圧力が高まり、円筒部材1が膨らんだとしてもフランジ20が取れやすくなることはない。また、フランジ20に曲がっている部分、すなわち曲げの起点となる部分が殆ど無い。よって、フランジ20自身の曲げ強度が高まるとともに、ケース30、31全体の曲げに対する強度が高まる。
【0040】
また、本発明の実施の形態に係るケース30、31およびインフレータ50は、円筒部材1とフランジ20が共に1部材で構成されている。そのため、円筒部材1とフランジ20のそれぞれに部材同士の結合部が無い。そのため、円筒部材1とフランジ20のそれぞれが衝撃等に対し高強度であるとともに、ケース30、31全体の衝撃等に対する強度が高まる。
【0041】
また、本発明の実施の形態に係るケース30、31、インフレータ50およびその製造法では、フランジ20の厚みを溝5の幅と同一寸法としている。そのため、フランジ20の内端25と溝5が密に嵌合し、溝5の幅方向にフランジ20が動くのを抑制でき、ケース30、31およびインフレータ50について、その方向へのフランジ20への荷重または衝撃に対する強度が高まる。
【0042】
また、本発明の実施の形態に係るインフレータ50およびその製造法では、 底面2よりもカシメ部70に近い位置にフランジ20が配置されている。そのため、爆発部材61が燃焼してガスが発生し、円筒部材1Aが膨らむ等の変形するような衝撃があった場合にフランジ20は、底面2側が膨らみやすくしカシメ部70側が変形しようとするのを抑え込む。そのため、カシメ部70は、蓋部材63との係合を維持し蓋部材63が飛び出るのを防止する。
【0043】
また、本発明の実施の形態に係るケース30、31、インフレータ50およびその製造法では、溝5に進入した部分である内端25が溝5の底面および/または側面に突き当たり、その底面および/または側面を窪ませている。そのため、円筒部材1とフランジ20とが互いに係合しながら押圧されていることとなり、より両者の固定強度が高くなる。
【0044】
(他の形態)
以上、本発明の実施の形態におけるケース30、31およびインフレータ50の製造法について説明したが、本発明の要旨を逸脱しない限り種々変更実施可能である。
【0045】
本発明の実施の形態に係るインフレータ50は、底付きの金属製の円筒部材1と、取り付け用の金属製のフランジ20とを有するケース31を備えるインフレータ50において、円筒部材1は、その外周面にリング状の溝5を有し、フランジ20は、その中央部分に円筒部材1が挿入される円形孔21を有し、フランジ20の幅Wの中央Tよりも円形孔21寄りのフランジ20部分をフランジ20の厚み方向に圧縮することで、円形孔21を囲む部分が溝5の内部へ伸張し、円筒部材1とフランジ20とが固定され、円筒部材1の開口部となる上面3の先端が内側に曲がり開口部71を塞ぐ蓋部材62を押さえつけている。
【0046】
本発明の実施の形態に係るケ−ス30は、底付きの金属製の円筒部材1と、取り付け用の金属製のフランジ20とを備えるケ−ス30において、円筒部材1は、その外周面にリング状の溝5を有し、フランジ20は、その中央部分に円筒部材1が挿入される円形孔21を有し、フランジ20の幅Wの中央Tよりも円形孔21寄りのフランジ20部分をフランジ20の厚み方向に圧縮することで、円形孔21を囲む部分が溝5の内部へ伸張し、円筒部材1とフランジ20とが固定されている。
【0047】
ここで、溝5は、円筒部材1とフランジ20の固定強度を高めるように作用している。よって、要求される固定強度がそれ程大きくない場合は、溝5を設ける必要がない場合もある。また、金属製の円筒部材1と金属製のフランジ20は、ともにハイテンション材をその材質として用いているが、いずれか一方または両者をその他の金属、たとえば銅等を用いることとしても良い。さらに、カシメ部70は、蓋部材63に係合させているが、他の部材、たとえば着火部材61に係合させても良い。さらに円形孔21は、フランジ20の中央部分に形成されている必要は無く、フランジ20の端の部分等に形成されていても良い。
【0048】
ここで、圧縮する部分は、圧縮の前にはフランジ20の厚み方向に膨らんでいる部分または曲げられている部分である曲げ部26とするのが好ましい。しかし、膨らんでる部分や曲げ部26は、必須の構成要素ではないので省略することができる。すなわち、フランジ20は、単なる平板状であってもよい。このような場合、平板状のフランジの圧縮されるべき部分を圧縮することによって、内端25は溝5の内部へと伸張し、溝5の底面を強固に押圧できるためである。
【0049】
また、フランジ20は、円筒部材1の底面2よりも開口部に近い側に配置されている。しかし、このような構成は、必須の構成要素ではないので省略することができる。たとえば、フランジ20は、円筒部材1の開口部(上面3、開口部71)よりも底面2に近い側に配置されていたり、開口部と底面2の中間位置に配置されていても良い。
【0050】
本発明の実施の形態に係るケ−ス30は、底付きの金属製の円筒部材1と、取り付け用の金属製のフランジ20とを備えるケース30において、円筒部材1は、その上面の開口部71が底面2より小さくされ、円筒部材1はその外周面であって底面2よりも上面に近い側にリング状の溝5を有し、フランジ20はその中央部分に円筒部材1を囲む円形孔21を有し、フランジ20の円形孔21を囲む部分が溝5へ進入している。
【0051】
ここで、溝5は、円筒部材1とフランジ20の固定強度を高めるように作用している。よって、要求される固定強度がそれ程大きくない場合は、溝5を設ける必要がない場合もある。溝5を設けない場合、フランジ20の円形孔21を囲む部分が円筒部材1の外周面に食い込む構成とするのが好ましい。
【0052】
ここで、フランジ20の溝5に進入した部分(内端25)が溝5の底面および/または側面に突き当たり、その底面および/または側面を窪ませている。しかし、このような構成は、必須の構成要素ではないので省略することができる。たとえば、内端25は、溝5の底面にただ単に接触するだけで底面にも側面にも食い込まないようにしても良い。
【0053】
本発明の実施の形態に係るインフレータ50の製造法は、金属製の底付きの円筒部材1と、取り付け用の金属製のフランジ20とを備えるケース30を有するインフレータ50の製造法において、円筒部材1の外周面にリング状の溝5を形成する溝形成工程P1と、その中央部分に円形孔21を有する平板状のフランジ20を、その円形孔21が円筒部材1の溝5を囲む位置に配置するフランジ配置工程P2と、フランジ20の幅Wの中央Tよりも円形孔21寄りのフランジ20部分をフランジ20の厚み方向に圧縮し、円形孔21を囲む部分を溝5の内部へ伸張させ、円筒部材1とフランジ20とを固定するフランジ固定工程P3と、エアバッグを膨らませるためのガス発生部材62および円筒部材1の開口側を塞ぐ蓋部材63を円筒部材1に入れる組み込み工程P4と、円筒部材1の開口先端部分を内側にカシメて開口面積を小さくすると共に蓋部材63に係合させるカシメ係合工程P5と、を有する。
【0054】
この製造方法において、組み込み工程P4を溝形成工程P1の前に行ったりフランジ配置工程P2の前に行ったりフランジ固定工程P3の前に行っても良い。また、溝形成工程P1を省略しても良い。さらに、カシメ係合工程P5において、カシメ部70は、蓋部材63に係合させているが、着火部材61に係合させても良いし、蓋部材63と着火部材61の双方に係合させても良い。さらに円形孔21は、フランジ20の中央部分に形成されている必要は無く、フランジ20の端の部分等に形成されていても良い。さらに、フランジ20は、平板状ではなく曲がった形状等の形状とされていても良い。
【0055】
また、溝5は切削加工によって形成され、溝5部分に相当する内周面7は凸部を有しない曲面形状とされている。しかし、溝5は切削加工によらず、ロールを用いたカシメ加工等の押圧加工によることとしても良い。押圧加工にて溝5を形成すれば、溝5部分に相当する内周面7は凸部を有することが多い。図14には、押圧加工にて溝5に相当する溝5Aを円筒部材1Bの外周面4Aに形成した場合の溝5Aおよび溝5A部分に相当する円筒部材1Bの内周面7を示す。溝5A部分に相当する内周面7に凸部8が形成されていることがわかる。
【0056】
また、フランジ20の厚みは溝5の幅と同一寸法でなくても良い。たとえば、フランジ20の厚みを溝5の幅寸法よりも小さくすることで、曲げ部26の圧縮時の円筒部材1とフランジ20の位置関係の精度に許容差を設けることができる。また、フランジ20の厚みを溝5の幅寸法よりも大きくしても良い。その場合、溝5の開口部が底面よりも幅広のテーパーを設けることが好ましい。
【0057】
また、円筒部材1の孔6および孔6を塞ぐ金属箔、フランジ20のタブ部22および貫通孔23は、必須の構成要素ではないため、省略することができる。また、孔6を設ける場合であっても、それを塞ぐ部材は、アルミニウム以外の素材のものを用いても良く、また金属箔に限られず樹脂材料等を用いることができる。また、フランジ20のタブ部は4つとしているが、3つ、5つ、6つ、7つ、8つ等他の個数としても良い。さらに、フランジ20の厚み、曲げ部26の平板面からの突出高さ、円形孔21の径等の各寸法は、適宜変更できる。
【0058】
また、円筒部材1は、金属箔を除き1部材で構成され、フランジ20も1部材で構成されているが、両者とも2部材以上で構成されるようにしても良い。ただし、両者の固定強度を高く維持するためには、両者それぞれが1部材で構成されるようにすることが好ましい。
【0059】
また、ガス発生部材62および蓋部材63の形状等は、図11に示すもの以外のものとすることができる。たとえば、蓋部材63は底付き円筒状ではなく、単なる平板状とし、その中央に孔64を設けたものとしても良い。また、蓋部材が無く着火部材61が蓋部材を兼ねるものとしても良い。
【0060】
また、曲げ部26は、逆U字状に曲げられているが、U字状としたり、V字状としたり等、別の形状に曲げられていても良いし、膨らみを持たせた形状としても良い。図15および図16は、本発明の実施の形態に係るフランジ20の変形例を示す図であって、ケース30の製造過程を示す図10に相当する図である。なお、図10の右側の溝5とその付近に相当する部分のみを示している。
【0061】
図15は、曲げ部26の代わりに膨らみ部26Aを曲げ部26と同じ位置でかつフランジ20Aの両面側に形成した第1変形例を示している。そして、この例ではフランジ20Aに対して、フランジ20Aの厚み方向(ブロック矢印の方向)からプレス装置40Aによって両膨らみ部26Aを押圧する。フランジ20Aは、膨らみ部26Aを有すること以外は、フランジ20と同一の構成である。膨らみ部26Aを圧縮することによって、フランジ20における内端25に相当する内端25Aが溝5の内部へと進入し、溝5の底面などを押圧して円筒部材1とフランジ20Aが固定され、図7に示すのと同様なケース30が製造される。ケース30のフランジ20には、曲げ部26の痕が目視できる程度に残っているが、フランジ20Aを有するケース30は、膨らみ部26Aの痕は目視できない程度である。よって、フランジ20Aを有するケース30は、フランジ20を有するケース30よりも見た目が良好である。
【0062】
図17は、フランジ20における曲げ部26を無くした平板状のフランジ20Bを利用する第2変形例を示している。そして、この例では、フランジ20Bの厚み方向(ブロック矢印の方向)からプレス装置40Bの尖り部40B1によってフランジ20における曲げ部26に相当する位置を押圧する。フランジ20Bは、フランジ20における曲げ部26を無くしたこと以外は、フランジ20と同一の構成である。フランジ20Bの円形孔21寄りの位置を押圧することによって、フランジ20における内端25に相当する内端25Bが溝5の内部へと進入し、溝5の底面などを押圧して円筒部材1とフランジ20Bが固定され、図7に示すのと同様なケース30が製造される。なお、尖り部40B1は、フランジ20における曲げ部26の存在位置に沿って円環状に配置されている。溝5に進入した状態でのフランジ20Bは、尖り部40B1によって圧縮された円環状の部分に凹部が形成されている。フランジ20における曲げ部26を無くすことによって、フランジ20Bの製造が容易となる利点がある。なお、尖り部40B1は、尖っている形状でなくても良く、たとえば、丸みを帯びた形状であっても良い。
【0063】
次に、本出願人が上述の各構成のケース30を発明するに先立って行った検討例を示す。この検討例も従来の溶接技術が有している問題点を解決している点は本発明の各実施の形態と同一であり、好ましいものである。しかし、後述するように、フランジ固定強度等の点で上述の実施の形態には劣るものである。しかしながら、大きな効果を有しており、用途や仕様によっては採用することができる。
【0064】
図17には、ケース30とは異なる検討例1のケース80の製造過程の要部を示している。ケース80に用いられる円筒部材1Cには断面四角状の溝5ではなく断面半球状の溝5Cが形成されている。そのこと以外は円筒部材1と円筒部材1Cとは同一の構成である。円筒部材1Cの溝5Bの位置には、断面が円形のピアノ線からなる金属線81が配置されている。そして、フランジ20Cは、フランジ20の内端25に相当する部分が、図17において下側に約120°曲げられている。そのように曲げられた状態での円形孔21の径は、円筒部材1の外径と同一の大きさである。また、フランジ20Cには、フランジ20の曲げ部26に相当する部分が無い。それら以外のフランジ20Cの構成は、フランジ20と同一である。
【0065】
ケース80の製造法を説明する。まず、フランジ20Cの円形孔21に円筒部材1Cを挿入する。そして、金属線81のうち溝5Cからはみ出る部分とフランジ20Cの内端82から曲げられたリング部83のリング面84が金属線81と対向させるように係止させる。その後、プレス装置40Cにて、リング面84の裏側面85の全域を円筒部材1Cの外周面4Cに対して垂直方向(ブロック矢印の方向)に押圧する。すると、リング部83が金属線81に沿って曲げられ、かつ裏側面85が円筒部材1Cの外周面4Cと平行な形状となる。そして、金属線81を介してリング面84と円筒部材1Cの外周面4Cとが押圧し合う状態となる。その後、円筒部材1Cの開口部上端を内側にかしめる。このカシメ工程は、フランジ20Cの円筒部材1Cへの取り付け前に行っても良い。以上の過程を経ると、円筒部材1Cとフランジ20Cが固定され、図18に示すケース80が製造される。なお、金属線81は、製造時にフランジ20Cを金属線81の部分で位置決めする役割も果たす。また、金属線80は、円形孔21へ円筒部材1Cを挿入した方向へのフランジ20Cの係止強度を高める役割をする。
【0066】
このケース80の円筒部材1Cとフランジ20Cとの固定強度は、従来の溶接技術を採用したものに比べて強いが、ケース30における固定強度に比べると弱いことがわかった。ケース30の円筒部材1とフランジ20との固定強度が、ケース80の円筒部材1Cとフランジ20Cとの固定強度に比べて強い原因は、フランジ20の変形後の状態から変形前の状態へと戻すことが非常に困難であること等が考えられる。一方、フランジ20Cの変形後の状態から変形前の状態へと戻すことは、比較的容易である。たとえば、図18における下側から上側に向かって強くフランジ20Cに対して衝撃を与えると、フランジ20Cがその変形前の状態に近くなって円筒部材1Cからフランジ20Cが外れ易い。
【0067】
なお、ケース80に用いられる金属線81は、断面形状が円形でなくても良く、四角形等としても良い。また、金属線81は、ピアノ線である必要は無く、銅線等の他の材質からなるものでも良い。また、円筒部材1Cは、開口部分が無いものを用いても良い。
【0068】
図19には、ケース30,80とは異なる検討例2のケース90の製造過程の要部を示している。ケース90には円筒部材1Bを用いるが、円筒部材1,1Cを用いても良い。そして、フランジ20Dは、フランジ20の内端25に相当する部分が断面S字状に曲げられているS字部91を有している。また、フランジ20Dには、フランジ20の曲げ部26に相当する部分が無い。それら以外のフランジ20Dの構成は、フランジ20と同一である。なお、S字部91を有している状態での円形孔21の径は、円筒部材1Bの外径と同一である。
【0069】
ケース90の製造法を説明する。まず、フランジ20Dの円形孔21に円筒部材1Bを挿入する。すると、S字部91の曲がり始めの部分である端部92および先端面93の双方が円筒部材1Bの外周面4Aを摺動する。そして、先端面93を溝5Aに対向させる。そして、プレス装置40Dにて、先端面93の裏側面94の全域を円筒部材1Bの外周面4Aと垂直方向(ブロック矢印の方向)に押圧する。すると、S字部91が変形し、先端面93が溝5Aの内部へと進入し、先端面93が溝5Aの底面などを押圧するとともに、S字部91の端部92から溝5Aに至る面95と外周面4Aとが押圧し合う状態となる。すると、円筒部材1Bとフランジ20Dが固定される。その後、円筒部材1Bの開口部先端が内側にかしめられる。このカシメ工程は、フランジ20Dの円筒部材1Bへの取り付け前に行っても良い。以上のようにして図20に示すケース33が製造される。
【0070】
このケース90の円筒部材1Bとフランジ20Dとの固定強度は、従来の溶接技術を採用したものに比べて強いが、ケース30における固定強度に比べると弱いことがわかった。ケース30の円筒部材1とフランジ20との固定強度が、ケース90の円筒部材1Bとフランジ20Dとの固定強度に比べて強い原因は、フランジ20の変形後の状態から変形前の状態へと戻すことが非常に困難であること等が考えられる。一方、フランジ20Dの変形後の状態から変形前の状態へと戻すことは、比較的容易である。たとえば、図20における下側から上側に向かって強くフランジ20Dに対して衝撃を与えると、フランジ20Dがその変形前の状態に近くなって円筒部材1Bからフランジ20Dが外れ易い。
【0071】
なお、ケース90は、それを構成する円筒部材1Bに代えて、図4に示す円筒部材1を用いても良い。また、ケース90を構成する円筒部材1Bは、開口部分が無いものとしても良い。さらに、フランジ20Dの円形孔21に円筒部材1Bを挿入する際には、先端面93は円筒部材1Bの外周面4Aと摺動する位置ではなく、外周面4Aから離れた位置にあっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の実施の形態に係るケース中の円筒部材の構成を示す正面図である。
【図2】図1に示す円筒部材の平面図である。
【図3】図1に示す円筒部材の底面図である。
【図4】図2に示す平面図のA−A断面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るケースに使用されるフランジの構成を示す平面図である。
【図6】図5に示すフランジの平面図のB−B断面図である。
【図7】本発明の実施の形態に係るケースの断面図である。
【図8】本発明の実施の形態に係るケースの製造方法を示す図で、フランジの円形孔に円筒部材が挿入される前の状態を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態に係るケースの製造方法を示す図で、フランジの円形孔に円筒部材が挿入された後の状態を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態に係るケースの製造方法を示す図で、フランジの曲げ部をプレス装置によってフランジの厚み方向(図10のブロック矢印の方向)に押圧する状態を示す図である。
【図11】本発明の実施の形態に係るインフレータが製造される様子を示す図で、インフレータの製造過程の状態の縦断面図および工程フロー図である。
【図12】本発明の実施の形態に係るインフレータの正面図である。
【図13】本発明の実施の形態に係るインフレータの平面図である。
【図14】本発明の実施の形態に係るケースに用いられる円筒部材の溝を押圧加工にて形成した場合の溝および溝部分に相当する部分を図4の右側の溝付近と同様に示す図である。
【図15】本発明の実施の形態に係るケースに使用されるフランジの第1変形例を示す図である。
【図16】本発明の実施の形態に係るケースに使用されるフランジの第2変形例を示す図である。
【図17】本出願に先立ち、出願人が検討した検討例1のケースの製造過程を示す図である。
【図18】図17に示す検討例1のケースを示す図である。
【図19】本出願に先立ち、出願人が検討した検討例2のケースの製造過程を示す図である。
【図20】図19に示す検討例2のケースを示す図である。
【図21】従来のインフレータの構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0073】
1,1A,1B,1C 円筒部材
2 底面
3 上面(開口部)
5, 5A, 5C 溝
20,20A,20B,20C,20D フランジ
21 円形孔
25,25A,25B 内端(円形孔を囲む部分)
26 曲げ部(フランジの幅の中央よりも円形孔寄りのフランジ部分)
30,31 ケース
50 インフレータ
63 蓋部材
71 開口部
W フランジの幅
T フランジの幅の中央
P1 溝形成工程
P2 フランジ配置工程
P3 フランジ固定工程
P4 組み込み工程
P5 カシメ係合工程
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ用インフレータおよびそのケースならびにエアバッグ用インフレータの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
エアバッグ用のガス発生器(インフレータ)としては、種々のものが存在する。たとえば、偏平型のディスクタイプインフレータ、棒状のシリンダタイプインフレータ等である。インターネットのホームページには、ディスクタイプインフレータとして図21に示すようなものが掲載されている。すなわち、ディスクタイプインフレータ81は、ケース82として、開口部83を有すると共に取り付け用のフランジ部84を有する器状のクロージャシェル85と、開口部86を有するディフューザシェル87を有する。クロージャシェル85の内周面とディフューザシェル87の外周面が接触する接触部88は、その周方向全域に渡って溶接され両者が一体化される。このケース82の全体形状は、この接触部88からケース82の横方向外側に延びるフランジ部84を有する形状となる。ディフューザシェル87は、周面において複数のガス排出口89を有しており、ガス排出口89は、防湿用のアルミニウムテープ90で内側から閉塞されている。
【0003】
ケース82の内部の点火手段室91には、着火剤92が配置された電気式の点火器93が収容されている。着火剤92は、ガス発生剤94のガス発生機能を動作させ得るものである。自動車が衝突して衝撃を受けたとき、コントロールユニットからの作動信号を受け、点火手段室91内の点火器93が作動点火して着火剤92を着火燃焼させる。そして生じた火炎等が、点火手段室91から孔95を介して燃焼室96に到達し、燃焼室96に充填されたガス発生剤94を燃焼等させる。なお、燃焼室96は、開口部86がクロージャシェル85によって塞がれて形成されている。発生したガスは、アルミニウムテープ90を破壊して、ガス排出口89から排出され、エアバッグを膨張させる。この種のディスクタイプインフレータとしては、米国特許第6,126,197(特許文献1)のような構造のものも知られている。この特許文献1のインフレータは、フランジを有するケース部品が図21に示すクロージャシェル85側に配置されているものである。
【0004】
図21や特許文献1に示すエアバッグ用インフレータは、着火剤92等をケース82に入れた後、クロージャシェル85とディフーザシェル87とを、レーザー溶接等で溶接している。この溶接に当たっては、溶接強度のバラツキを抑えるため、内側に配置されるケース82、たとえばディヒューザシェル87の開口部86の周面は、切削によって真円となるように成形される。これらの真円成形の後に、着火剤92等が入れられ、クロージャシェル85とディフーザシェル87は接触部88の部分で溶接される。
【0005】
溶接の環境管理を一定にするため、次の作業を行う。すなわち、まず試作品を作り、その試作品を実際に着火させ爆発させる。そして、その爆発力を通常より大きくしケース82がどの部分から破断するかを調べる。そして、破断部分が溶接部分である接触部88以外となれば、その溶接の設定状況を含めた環境を合格としてその環境の下で商品の製造に入る。そして、その製造に当たっては、溶接を行う環境、たとえば室内温度、室内湿度、クリーン度、レーザー溶接機のパワー、パワーのかけ具合、溶接箇所管理、など種々の環境を一定範囲内となるように管理して商品を製造する。また、溶接が当初の目論見どおりなされているか否かの検査は次のようにして行う。すなわち、完成品に対する抜き取り検査を行うのだが、その抜き取り検査は、抜き取った製品を実際に着火させて爆発させる検査の他に溶接部を切断し、溶接状態を電子顕微鏡等で検査する方法が採用されている。
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,126,197
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図21や特許文献1に記載されているディスクタイプインフレータは、ケースの形成に溶接を採用している。ところが、溶接は、その溶接強度にバラツキが生じやすく上述のように環境管理の厳格性が要求される。また完成品に対する抜き取り検査における電子顕微鏡等での確認は、時間とコストをかけて行う必要がある。この溶接強度のバラツキは、たとえばクロージャシェル85とディフーザシェル87の接触部88における互いの接触の程度を全体で均一にし難いことが原因の一つとして考えられる。そのため、ケースが円筒形状をしている場合は、ケースの構成部材の真円精度が高く要求される。また、溶接は、次のような大きな問題を抱えている。すなわち、火薬等の燃焼物を入れた後で溶接を行うため、爆発が起こる危険性が生じ非常な危険を伴う。
【0008】
そこで、本発明の目的は、固定強度にバラツキが生じにくく、製造の時間とコストを低減でき、しかも爆発の危険を大幅に減少できるエアバッグ用インフレータおよびそのケースならびにエアバッグ用インフレータの製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明のエアバッグ用インフレータは、底付きの金属製の円筒部材と、取り付け用の金属製のフランジとを有するケースを備えるエアバッグ用インフレータにおいて、円筒部材は、その外周面にリング状の溝を有し、フランジは、その中央部分に円筒部材が挿入される円形孔を有し、フランジの幅の中央よりも円形孔寄りのフランジ部分をフランジの厚み方向に圧縮することで、円形孔を囲む部分が溝の内部へ伸張し、円筒部材とフランジとが固定され、円筒部材の開口部の先端が内側に曲がり開口部を塞ぐ蓋部材を押さえつけている。
【0010】
ここで、圧縮する部分は、圧縮の前にはフランジの厚み方向に膨らんでいる部分または曲げられている部分であることが好ましい。
【0011】
また、フランジは、円筒部材の底面よりも開口部に近い側に配置されていることが好ましい。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明のエアバッグ用インフレータのケ−スは、底付きの金属製の円筒部材と、取り付け用の金属製のフランジとを備えるエアバッグ用インフレータのケ−スにおいて、円筒部材は、その外周面にリング状の溝を有し、フランジは、その中央部分に円筒部材が挿入される円形孔を有し、フランジの幅の中央よりも円形孔寄りのフランジ部分をフランジの厚み方向に圧縮することで、円形孔を囲む部分が溝の内部へ伸張し、円筒部材とフランジとが固定している。
【0013】
ここで、圧縮する部分は、圧縮の前にはフランジの厚み方向に膨らんでいる部分または曲げられている部分であることが好ましい。
【0014】
上記目的を達成するため、本発明のエアバッグ用インフレータのケ−スは、底付きの金属製の円筒部材と、取り付け用の金属製のフランジとを備えるエアバッグ用インフレータのケースにおいて、円筒部材は、その上面の開口部分が底面より小さくされ、円筒部材はその外周面であって底面よりも上面に近い側にリング状の溝を有し、フランジはその中央部分に円筒部材を囲む円形孔を有し、フランジの円形孔を囲む部分が溝へ進入されている。
【0015】
ここで、フランジの溝に進入した部分が溝の底面または側面に突き当たり、その底面または側面を窪ませていることが好ましい。
【0016】
上記目的を達成するため、本発明のエアバッグ用インフレータの製造法は、金属製の底付きの円筒部材と、取り付け用の金属製のフランジとを備えるケースを有するエアバッグ用インフレータの製造法において、円筒部材の外周面にリング状の溝を形成する溝形成工程と、その中央部分に円形孔を有する平板状のフランジを、その円形孔が円筒部材の溝を囲む位置に配置するフランジ配置工程と、フランジの幅の中央よりも円形孔寄りのフランジ部分をフランジの厚み方向に圧縮し、円形孔を囲む部分を溝の内部へ伸張させ、円筒部材とフランジとを固定するフランジ固定工程と、エアバッグを膨らませるための部材および円筒部材の開口側を塞ぐ蓋部材を円筒部材に入れる組み込み工程と、円筒部材の開口先端部分を内側にカシメて開口面積を小さくすると共に蓋部材に係合させるカシメ係合工程と、を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、固定強度にバラツキが生じにくく、製造の時間とコストを低減でき、しかも爆発の危険を大幅に減少できるエアバッグ用インフレータおよびそのケースならびにエアバッグ用インフレータの製造法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態に係るエアバッグ用インフレータ(以下、「インフレータ」と略記する。)およびそのケースの構成および製造法、ならびにインフレータの製造法およびインフレータ について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
(インフレータのケースの構成)
図1は、本発明の実施の形態に係るインフレータのケース(以下、「ケース」と略記する。)を構成する円筒部材1の構成を示す正面図、図2は、図1の平面図、図3は、図1の底面図、図4は、図2のA−A断面図である。
【0020】
図1、図2、図3および図4に示すように、円筒部材1は下面側が、底面2によって塞がれ上面3が開口された(底付きの)円筒状の形状をしている。円筒部材1の外周面4には、底面2よりも上面3に近い位置に深さY1が0.7mmで、幅Y2が1.9mmのリング状の溝5が切削加工により形成される工程(後述する溝形成工程P1)を経ている。なお、この溝5の深さT1、幅T2は、上述の値でなく他の値としても良い。また、外周面4には、孔6が外周面の周方向に沿って等間隔に形成されている。この孔6は、円筒部材1の内部の中空部分と外気とが通じるのを可能としている。円筒部材1の内周面7には、これらの孔6を塞ぐためのアルミニウムからなる金属箔(図示省略)が配置されている。
【0021】
なお、この円筒部材1は、上述の金属箔を除き、1部材で構成されている。この円筒部材1は、鉄等の金属製であって剛性の高い、いわゆるハイテンション材からなる平板部材を深絞り加工することによって形成されたものである。ここで、ハイテンション材(高張力鋼板)とは、引張強度が270N/mm2以上のものを言うが、ここでは300N/mm2以上のものを言うこととする。この実施の形態では、自動車構造用熱間圧延鋼板で高張力帯鋼であるSAPH590(引張強度が590N/mm2)を使用しているが、他のハイテンション材を使用しても良い。
【0022】
図5は、本発明の実施の形態に係るケース30(図7参照)を構成するフランジ20の構成を示す平面図、図6は、図5のB−B断面図である。
【0023】
図5に示すように、円筒部材1への取り付け用のフランジ20は、その厚さH1が1.9mmの平板状とされている。フランジ20には、その中央部分に径が63.10mmの円形孔21が形成されている。この円形孔21の内径R1は、円筒部材1の外周面4の外径R2と同一となっている。この円形孔21は、後述するように円筒部材1を囲むこととなる。そして、フランジ20の外周部分には、4つのタブ部22が外周に沿って等間隔に設けられている。それぞれのタブ部22には、このケース30(図7参照)を他の部材に取り付けるための貫通孔23が形成されている。
【0024】
そして、フランジ20の外端24と内端25との距離である幅Wの中央Tよりも円形孔21寄りのフランジ20部分には、図6に示すように逆Uの字状に成形された曲げ部26が円形孔21の内端25に沿ってリング状に形成されている。この曲げ部26がフランジ20の平板面から突出している突出高さH2は1.35mmである。なお、フランジ20は板状の1部材で構成され、その材質は円筒部材1と同様のいわゆるハイテンション材であるが通常の鋼としてもよい。また、フランジ20の板厚H1(1.9mm)は、円筒部材1の溝5の幅Y2(1.9mm)と同寸法である。なお、板厚H1、突出高さH2、内径R1、外径R2の各値は、上述の各値でなく他の値としても良い。
【0025】
図7は、ケース30の断面図であり、図4に示す円筒部材1にフランジ20が装着された状態の図である。フランジ20の円形孔21を囲む内端25の部分が、円筒部材1の溝5へ進入している。その進入によって、円筒部材1とフランジ20とが固定され、ケース30となっている。また、溝5部分に相当する内周面7の部分は凸部を有しない曲面形状とされている。このため、円筒部材1の中に詰め物をする場合、その詰め作業がスムーズとなり、また大容量の詰め物(後述するガス発生部材62)を入れることができる。さらに、フランジ20の曲げ部26は無くなっており、フランジ20は、溝5から外周面4に対して垂直に延びるように配置されている。また、フランジ20には、曲げ部26の痕が目視できる程度に付いている。
【0026】
また、溝5に進入した部分である内端25が溝5の底面または/および側面に突き当たり、その底面または/および側面を窪ませている。すなわち、内端25が溝5の奥部に食い込み、フランジ20に周方向の力が加わってもフランジ20が容易には回転しないようになっている。
【0027】
(ケースの製造法)
図8は、フランジ20の円形孔21に円筒部材1が挿入する前の状態、図9は、その後の状態を示している。図8の矢印方向にフランジ20を円筒部材1の方向へと移動させ円形孔21に円筒部材1を挿入する。なお、円筒部材1をフランジ20の方向へ移動させてもよく、両者を互いに近づく方向に移動させても良い。そして、図9に示すように円筒部材1の溝5とフランジ20の内端25とが対向する位置(円形孔21が円筒部材1の溝5を囲む位置)に配置する(後述するフランジ配置工程P2)。
【0028】
その後、図10に示すようにプレス装置40によってフランジ20の曲げ部26をフランジの厚み方向(図10のブロック矢印の方向)に圧縮する。すると、曲げ部26は無くなり、その代わりフランジ20の内端25部分が、溝5の内部へ伸張し溝5の底面である最も内側となる面を押圧し、フランジ20は円筒部材1に固定される。これは、フランジ20の幅Wの中央Tよりも円形孔21寄りのフランジ部分である曲げ部26をフランジ20の厚み方向に圧縮し、円形孔21を囲む部分を溝5の内部へ伸張させ、円筒部材21とフランジ20とを固定する工程であり、後述するフランジ固定工程P3に相当する。
【0029】
なお、円筒部材1が無い状態では、この伸長によって、フランジ20の円形孔21の径が61.63mmとなり、伸長前よりも1.47mm小さくなる。溝5の深さY1が0.7mmであるので、溝5が0.07mm分(=1.47mm−1,7mm×2)を吸収することとなる。換言すれば、0.07mmの半分である0.035mm分が溝5の底面に食い込むか溝5の側面に食い込むか両者に食い込むこととなる。このようにして円筒部材1とフランジ20とが固定される。以上で、図7に示すケース30が製造される。なお、プレス装置40は、プレス面41が曲げ部26に沿って円環状に設けられているものである。
【0030】
(インフレータの製造法)
図11は、インフレータ50が製造される様子を示すインフレータ50およびその製造過程の状態の縦断面図ならびに工程フロー図である。
【0031】
まず、前述の溝形成工程P1と、フランジ配置工程P2と、フランジ固定工程P3を経たケース30を用意する。そして、円筒部材1を備えたケース30の内部にエアバッグを膨らませるための部材として、火薬等を円筒状の容器に収容した爆発部材60および爆発部材60を着火する着火装置である着火部材61を、上述の爆発部材60の円筒状の内側空間部分に配置したものを用意する。なお、以下では、爆発部材60と着火部材61を総称するとき、ガス発生部材62という。そして、図11における上からガス発生部材62の上側を覆う金属製の蓋部材63を用意する。この蓋部材63は、有底の円筒形状をなしており、その底の中央には、孔64が形成されている。以上のようにしてガス発生部材62と蓋部材63をケース30の内部に配置する組み込み工程P4を行う。なお、蓋部材63に着火部材61を取り付けたものをケース30に組み込むようにしても良い。
【0032】
組み込み工程P4が終了した段階では、ガス発生部材62がケース30の底の内側に接触し、蓋部材63の外周面とケース30の内周面7とが密接している。ここで、蓋部材63の下端面65の部分は、ケース30の孔6を塞ぐ金属箔には接触していない。また、蓋部材63は、図11における爆発部材60の全部の上側面と着火部材61の上側面の端部を押さえ付けている。着火部材61の上側面の中央部は、蓋部材63の孔64があるため、蓋部材63によって押さえ付けられていない。孔64からは、着火部材61に着火信号を送るための電気ケーブルが飛び出ている(図示省略)。
【0033】
そして、円筒部材1の上面3付近の開口先端部分を内側にカシメて開口面積を小さくすると共に蓋部材63の上端面66にケース30を係合させるカシメ係合工程P5を行う。カシメ係合工程P5によってケース30の上面3部分がカシメ部70となる。これによってケース30は、カシメ部70を有するケース31となる。以上でインフレータ50が製造される。このカシメによってケース30の開口先端は、蓋部材63の上端面に食い込む。また、このカシメによって、ケース30の開口先端となるカシメ部70は、内側にまるまるような形状とされるので、爆発部材60が爆発してもカシメ係合が容易には外れないようになる。
【0034】
(インフレータ50の構成)
図12は、インフレータ50の正面図、図13は、インフレータ50の平面図である。インフレータ50のうち、ガス発生部材62を除く部分は、本発明の実施の形態に係るケース31となる。また、ケース30によって形成される円筒部材1は、ケース31によって形成される円筒部材1Aとなる。このケース31は、ケース30の上面3部分がカシメ部70となった以外は構成が同一であるため、図11、図12および図13では、変形等のない構成要素にはケース30と同一の符号を付している。また、円筒部材1Aの底面2は、平面状とされており、カシメ部70によって形成された開口部71の開口面積は、底面2の面積より小さくされている。また、底面2よりも開口部71に近い位置にフランジ20が配置されている。また、開口部71は、カシメ係合工程P5の結果蓋部材63によって塞がれている。
【0035】
(インフレータ50の動作)
インフレータ50が、自動車の衝突等によって衝撃を受けると、自動車等が有するコントロールユニットからの作動信号を受ける。その作動信号は、蓋部材63の孔64およびケース31の開口部71を通る電気ケーブル(図示省略)を通じて着火部材61を作動点火させる。その作動点火によって生じた火炎等により、爆発部材61が着火燃焼される。そして、爆発部材61が燃焼して発生したガスは、孔6を塞ぐ金属箔を破壊して、孔6から排出される。孔6から排出されたガスは、自動車用のエアバッグ等を膨らませる。また、発生したガスは、蓋部材63を開口部71側へ強く押しつける。しかし、カシメ部70は、ハイテンション材をカシメて形成されているため、さらには、内側にまるまるように形成されているため、殆ど変形しない。そのため、ガス発生部材62および蓋部材63は、ガスが発生したときの衝撃によってケース31から飛び出ることはない。
【0036】
(本発明の実施の形態によって得られる主な効果)
本発明の実施の形態に係るケース30、31、インフレータ50およびその製造法は、溶接技術を用いた技術を採用せず、円筒部材1とフランジ20とを用い、フランジ20の内端25部分が、溝5の内部へ伸張し溝5の底面を押圧固定する技術によって円筒部材1とフランジ20を固定している。この技術は、溶接のような厳格な環境管理は必要とされない。加えて、溶接に比べ、固定強度にバラツキが生じにくい。また、本発明の実施の形態に係る固定技術を採用したケース30のフランジ20の固定強度は、溶接技術を採用したケースの溶接部の固定強度よりも約1.5倍大きな固定強度が得られている。よって、この押圧固定技術は、2つの部材を一体化させる際に大きな固定強度が要求されるエアバッグに用いることができる。
【0037】
また、本発明の実施の形態に係る円筒部材1とフランジ20の押圧固定技術は、予め決まっている形状の円筒部材1とフランジ20を作製し、両者を所定の位置関係にした状態で曲げ部26に対しプレス加工するものである。よって、本形態の押圧固定技術は、溶接技術を用いた技術よりも飛躍的に製造工程の煩雑さ、製造コストを抑制できる。また、溶接技術では熱、火花、振動等の発生が避けられないため、ガス発生部材62を円筒部材1の内部へ挿入した状態での溶接は大きな危険を伴うが、本形態の押圧固定技術はきわめて安全である。
【0038】
また、本発明の実施の形態に係るケース30、31、インフレータ50およびその製造法では、フランジ20の幅Wの中央Tよりも円形孔21寄りの曲げ部26をフランジ20の厚み方向に圧縮して製造している。そのため、曲げ部26が平滑になる分だけ、フランジ20の内端25が溝5の内側へと伸張する。仮に、フランジ20の幅Wの中央Tよりも外端24寄りに曲げ部26を形成し曲げ部26をフランジ20の厚み方向に圧縮すると、フランジ20の径を大きくする方向にフランジ20の外端25が伸張しがちとなり、フランジ20の内端25が溝5の内側へは伸張しない危険性が高くなる。
【0039】
また、本発明の実施の形態に係るケース30、31およびインフレータ50は、フランジ20が 溝5から外周面4に対して垂直に延びるように配置されている。このため、円筒部材1内の圧力が高まり、円筒部材1が膨らんだとしてもフランジ20が取れやすくなることはない。また、フランジ20に曲がっている部分、すなわち曲げの起点となる部分が殆ど無い。よって、フランジ20自身の曲げ強度が高まるとともに、ケース30、31全体の曲げに対する強度が高まる。
【0040】
また、本発明の実施の形態に係るケース30、31およびインフレータ50は、円筒部材1とフランジ20が共に1部材で構成されている。そのため、円筒部材1とフランジ20のそれぞれに部材同士の結合部が無い。そのため、円筒部材1とフランジ20のそれぞれが衝撃等に対し高強度であるとともに、ケース30、31全体の衝撃等に対する強度が高まる。
【0041】
また、本発明の実施の形態に係るケース30、31、インフレータ50およびその製造法では、フランジ20の厚みを溝5の幅と同一寸法としている。そのため、フランジ20の内端25と溝5が密に嵌合し、溝5の幅方向にフランジ20が動くのを抑制でき、ケース30、31およびインフレータ50について、その方向へのフランジ20への荷重または衝撃に対する強度が高まる。
【0042】
また、本発明の実施の形態に係るインフレータ50およびその製造法では、 底面2よりもカシメ部70に近い位置にフランジ20が配置されている。そのため、爆発部材61が燃焼してガスが発生し、円筒部材1Aが膨らむ等の変形するような衝撃があった場合にフランジ20は、底面2側が膨らみやすくしカシメ部70側が変形しようとするのを抑え込む。そのため、カシメ部70は、蓋部材63との係合を維持し蓋部材63が飛び出るのを防止する。
【0043】
また、本発明の実施の形態に係るケース30、31、インフレータ50およびその製造法では、溝5に進入した部分である内端25が溝5の底面および/または側面に突き当たり、その底面および/または側面を窪ませている。そのため、円筒部材1とフランジ20とが互いに係合しながら押圧されていることとなり、より両者の固定強度が高くなる。
【0044】
(他の形態)
以上、本発明の実施の形態におけるケース30、31およびインフレータ50の製造法について説明したが、本発明の要旨を逸脱しない限り種々変更実施可能である。
【0045】
本発明の実施の形態に係るインフレータ50は、底付きの金属製の円筒部材1と、取り付け用の金属製のフランジ20とを有するケース31を備えるインフレータ50において、円筒部材1は、その外周面にリング状の溝5を有し、フランジ20は、その中央部分に円筒部材1が挿入される円形孔21を有し、フランジ20の幅Wの中央Tよりも円形孔21寄りのフランジ20部分をフランジ20の厚み方向に圧縮することで、円形孔21を囲む部分が溝5の内部へ伸張し、円筒部材1とフランジ20とが固定され、円筒部材1の開口部となる上面3の先端が内側に曲がり開口部71を塞ぐ蓋部材62を押さえつけている。
【0046】
本発明の実施の形態に係るケ−ス30は、底付きの金属製の円筒部材1と、取り付け用の金属製のフランジ20とを備えるケ−ス30において、円筒部材1は、その外周面にリング状の溝5を有し、フランジ20は、その中央部分に円筒部材1が挿入される円形孔21を有し、フランジ20の幅Wの中央Tよりも円形孔21寄りのフランジ20部分をフランジ20の厚み方向に圧縮することで、円形孔21を囲む部分が溝5の内部へ伸張し、円筒部材1とフランジ20とが固定されている。
【0047】
ここで、溝5は、円筒部材1とフランジ20の固定強度を高めるように作用している。よって、要求される固定強度がそれ程大きくない場合は、溝5を設ける必要がない場合もある。また、金属製の円筒部材1と金属製のフランジ20は、ともにハイテンション材をその材質として用いているが、いずれか一方または両者をその他の金属、たとえば銅等を用いることとしても良い。さらに、カシメ部70は、蓋部材63に係合させているが、他の部材、たとえば着火部材61に係合させても良い。さらに円形孔21は、フランジ20の中央部分に形成されている必要は無く、フランジ20の端の部分等に形成されていても良い。
【0048】
ここで、圧縮する部分は、圧縮の前にはフランジ20の厚み方向に膨らんでいる部分または曲げられている部分である曲げ部26とするのが好ましい。しかし、膨らんでる部分や曲げ部26は、必須の構成要素ではないので省略することができる。すなわち、フランジ20は、単なる平板状であってもよい。このような場合、平板状のフランジの圧縮されるべき部分を圧縮することによって、内端25は溝5の内部へと伸張し、溝5の底面を強固に押圧できるためである。
【0049】
また、フランジ20は、円筒部材1の底面2よりも開口部に近い側に配置されている。しかし、このような構成は、必須の構成要素ではないので省略することができる。たとえば、フランジ20は、円筒部材1の開口部(上面3、開口部71)よりも底面2に近い側に配置されていたり、開口部と底面2の中間位置に配置されていても良い。
【0050】
本発明の実施の形態に係るケ−ス30は、底付きの金属製の円筒部材1と、取り付け用の金属製のフランジ20とを備えるケース30において、円筒部材1は、その上面の開口部71が底面2より小さくされ、円筒部材1はその外周面であって底面2よりも上面に近い側にリング状の溝5を有し、フランジ20はその中央部分に円筒部材1を囲む円形孔21を有し、フランジ20の円形孔21を囲む部分が溝5へ進入している。
【0051】
ここで、溝5は、円筒部材1とフランジ20の固定強度を高めるように作用している。よって、要求される固定強度がそれ程大きくない場合は、溝5を設ける必要がない場合もある。溝5を設けない場合、フランジ20の円形孔21を囲む部分が円筒部材1の外周面に食い込む構成とするのが好ましい。
【0052】
ここで、フランジ20の溝5に進入した部分(内端25)が溝5の底面および/または側面に突き当たり、その底面および/または側面を窪ませている。しかし、このような構成は、必須の構成要素ではないので省略することができる。たとえば、内端25は、溝5の底面にただ単に接触するだけで底面にも側面にも食い込まないようにしても良い。
【0053】
本発明の実施の形態に係るインフレータ50の製造法は、金属製の底付きの円筒部材1と、取り付け用の金属製のフランジ20とを備えるケース30を有するインフレータ50の製造法において、円筒部材1の外周面にリング状の溝5を形成する溝形成工程P1と、その中央部分に円形孔21を有する平板状のフランジ20を、その円形孔21が円筒部材1の溝5を囲む位置に配置するフランジ配置工程P2と、フランジ20の幅Wの中央Tよりも円形孔21寄りのフランジ20部分をフランジ20の厚み方向に圧縮し、円形孔21を囲む部分を溝5の内部へ伸張させ、円筒部材1とフランジ20とを固定するフランジ固定工程P3と、エアバッグを膨らませるためのガス発生部材62および円筒部材1の開口側を塞ぐ蓋部材63を円筒部材1に入れる組み込み工程P4と、円筒部材1の開口先端部分を内側にカシメて開口面積を小さくすると共に蓋部材63に係合させるカシメ係合工程P5と、を有する。
【0054】
この製造方法において、組み込み工程P4を溝形成工程P1の前に行ったりフランジ配置工程P2の前に行ったりフランジ固定工程P3の前に行っても良い。また、溝形成工程P1を省略しても良い。さらに、カシメ係合工程P5において、カシメ部70は、蓋部材63に係合させているが、着火部材61に係合させても良いし、蓋部材63と着火部材61の双方に係合させても良い。さらに円形孔21は、フランジ20の中央部分に形成されている必要は無く、フランジ20の端の部分等に形成されていても良い。さらに、フランジ20は、平板状ではなく曲がった形状等の形状とされていても良い。
【0055】
また、溝5は切削加工によって形成され、溝5部分に相当する内周面7は凸部を有しない曲面形状とされている。しかし、溝5は切削加工によらず、ロールを用いたカシメ加工等の押圧加工によることとしても良い。押圧加工にて溝5を形成すれば、溝5部分に相当する内周面7は凸部を有することが多い。図14には、押圧加工にて溝5に相当する溝5Aを円筒部材1Bの外周面4Aに形成した場合の溝5Aおよび溝5A部分に相当する円筒部材1Bの内周面7を示す。溝5A部分に相当する内周面7に凸部8が形成されていることがわかる。
【0056】
また、フランジ20の厚みは溝5の幅と同一寸法でなくても良い。たとえば、フランジ20の厚みを溝5の幅寸法よりも小さくすることで、曲げ部26の圧縮時の円筒部材1とフランジ20の位置関係の精度に許容差を設けることができる。また、フランジ20の厚みを溝5の幅寸法よりも大きくしても良い。その場合、溝5の開口部が底面よりも幅広のテーパーを設けることが好ましい。
【0057】
また、円筒部材1の孔6および孔6を塞ぐ金属箔、フランジ20のタブ部22および貫通孔23は、必須の構成要素ではないため、省略することができる。また、孔6を設ける場合であっても、それを塞ぐ部材は、アルミニウム以外の素材のものを用いても良く、また金属箔に限られず樹脂材料等を用いることができる。また、フランジ20のタブ部は4つとしているが、3つ、5つ、6つ、7つ、8つ等他の個数としても良い。さらに、フランジ20の厚み、曲げ部26の平板面からの突出高さ、円形孔21の径等の各寸法は、適宜変更できる。
【0058】
また、円筒部材1は、金属箔を除き1部材で構成され、フランジ20も1部材で構成されているが、両者とも2部材以上で構成されるようにしても良い。ただし、両者の固定強度を高く維持するためには、両者それぞれが1部材で構成されるようにすることが好ましい。
【0059】
また、ガス発生部材62および蓋部材63の形状等は、図11に示すもの以外のものとすることができる。たとえば、蓋部材63は底付き円筒状ではなく、単なる平板状とし、その中央に孔64を設けたものとしても良い。また、蓋部材が無く着火部材61が蓋部材を兼ねるものとしても良い。
【0060】
また、曲げ部26は、逆U字状に曲げられているが、U字状としたり、V字状としたり等、別の形状に曲げられていても良いし、膨らみを持たせた形状としても良い。図15および図16は、本発明の実施の形態に係るフランジ20の変形例を示す図であって、ケース30の製造過程を示す図10に相当する図である。なお、図10の右側の溝5とその付近に相当する部分のみを示している。
【0061】
図15は、曲げ部26の代わりに膨らみ部26Aを曲げ部26と同じ位置でかつフランジ20Aの両面側に形成した第1変形例を示している。そして、この例ではフランジ20Aに対して、フランジ20Aの厚み方向(ブロック矢印の方向)からプレス装置40Aによって両膨らみ部26Aを押圧する。フランジ20Aは、膨らみ部26Aを有すること以外は、フランジ20と同一の構成である。膨らみ部26Aを圧縮することによって、フランジ20における内端25に相当する内端25Aが溝5の内部へと進入し、溝5の底面などを押圧して円筒部材1とフランジ20Aが固定され、図7に示すのと同様なケース30が製造される。ケース30のフランジ20には、曲げ部26の痕が目視できる程度に残っているが、フランジ20Aを有するケース30は、膨らみ部26Aの痕は目視できない程度である。よって、フランジ20Aを有するケース30は、フランジ20を有するケース30よりも見た目が良好である。
【0062】
図17は、フランジ20における曲げ部26を無くした平板状のフランジ20Bを利用する第2変形例を示している。そして、この例では、フランジ20Bの厚み方向(ブロック矢印の方向)からプレス装置40Bの尖り部40B1によってフランジ20における曲げ部26に相当する位置を押圧する。フランジ20Bは、フランジ20における曲げ部26を無くしたこと以外は、フランジ20と同一の構成である。フランジ20Bの円形孔21寄りの位置を押圧することによって、フランジ20における内端25に相当する内端25Bが溝5の内部へと進入し、溝5の底面などを押圧して円筒部材1とフランジ20Bが固定され、図7に示すのと同様なケース30が製造される。なお、尖り部40B1は、フランジ20における曲げ部26の存在位置に沿って円環状に配置されている。溝5に進入した状態でのフランジ20Bは、尖り部40B1によって圧縮された円環状の部分に凹部が形成されている。フランジ20における曲げ部26を無くすことによって、フランジ20Bの製造が容易となる利点がある。なお、尖り部40B1は、尖っている形状でなくても良く、たとえば、丸みを帯びた形状であっても良い。
【0063】
次に、本出願人が上述の各構成のケース30を発明するに先立って行った検討例を示す。この検討例も従来の溶接技術が有している問題点を解決している点は本発明の各実施の形態と同一であり、好ましいものである。しかし、後述するように、フランジ固定強度等の点で上述の実施の形態には劣るものである。しかしながら、大きな効果を有しており、用途や仕様によっては採用することができる。
【0064】
図17には、ケース30とは異なる検討例1のケース80の製造過程の要部を示している。ケース80に用いられる円筒部材1Cには断面四角状の溝5ではなく断面半球状の溝5Cが形成されている。そのこと以外は円筒部材1と円筒部材1Cとは同一の構成である。円筒部材1Cの溝5Bの位置には、断面が円形のピアノ線からなる金属線81が配置されている。そして、フランジ20Cは、フランジ20の内端25に相当する部分が、図17において下側に約120°曲げられている。そのように曲げられた状態での円形孔21の径は、円筒部材1の外径と同一の大きさである。また、フランジ20Cには、フランジ20の曲げ部26に相当する部分が無い。それら以外のフランジ20Cの構成は、フランジ20と同一である。
【0065】
ケース80の製造法を説明する。まず、フランジ20Cの円形孔21に円筒部材1Cを挿入する。そして、金属線81のうち溝5Cからはみ出る部分とフランジ20Cの内端82から曲げられたリング部83のリング面84が金属線81と対向させるように係止させる。その後、プレス装置40Cにて、リング面84の裏側面85の全域を円筒部材1Cの外周面4Cに対して垂直方向(ブロック矢印の方向)に押圧する。すると、リング部83が金属線81に沿って曲げられ、かつ裏側面85が円筒部材1Cの外周面4Cと平行な形状となる。そして、金属線81を介してリング面84と円筒部材1Cの外周面4Cとが押圧し合う状態となる。その後、円筒部材1Cの開口部上端を内側にかしめる。このカシメ工程は、フランジ20Cの円筒部材1Cへの取り付け前に行っても良い。以上の過程を経ると、円筒部材1Cとフランジ20Cが固定され、図18に示すケース80が製造される。なお、金属線81は、製造時にフランジ20Cを金属線81の部分で位置決めする役割も果たす。また、金属線80は、円形孔21へ円筒部材1Cを挿入した方向へのフランジ20Cの係止強度を高める役割をする。
【0066】
このケース80の円筒部材1Cとフランジ20Cとの固定強度は、従来の溶接技術を採用したものに比べて強いが、ケース30における固定強度に比べると弱いことがわかった。ケース30の円筒部材1とフランジ20との固定強度が、ケース80の円筒部材1Cとフランジ20Cとの固定強度に比べて強い原因は、フランジ20の変形後の状態から変形前の状態へと戻すことが非常に困難であること等が考えられる。一方、フランジ20Cの変形後の状態から変形前の状態へと戻すことは、比較的容易である。たとえば、図18における下側から上側に向かって強くフランジ20Cに対して衝撃を与えると、フランジ20Cがその変形前の状態に近くなって円筒部材1Cからフランジ20Cが外れ易い。
【0067】
なお、ケース80に用いられる金属線81は、断面形状が円形でなくても良く、四角形等としても良い。また、金属線81は、ピアノ線である必要は無く、銅線等の他の材質からなるものでも良い。また、円筒部材1Cは、開口部分が無いものを用いても良い。
【0068】
図19には、ケース30,80とは異なる検討例2のケース90の製造過程の要部を示している。ケース90には円筒部材1Bを用いるが、円筒部材1,1Cを用いても良い。そして、フランジ20Dは、フランジ20の内端25に相当する部分が断面S字状に曲げられているS字部91を有している。また、フランジ20Dには、フランジ20の曲げ部26に相当する部分が無い。それら以外のフランジ20Dの構成は、フランジ20と同一である。なお、S字部91を有している状態での円形孔21の径は、円筒部材1Bの外径と同一である。
【0069】
ケース90の製造法を説明する。まず、フランジ20Dの円形孔21に円筒部材1Bを挿入する。すると、S字部91の曲がり始めの部分である端部92および先端面93の双方が円筒部材1Bの外周面4Aを摺動する。そして、先端面93を溝5Aに対向させる。そして、プレス装置40Dにて、先端面93の裏側面94の全域を円筒部材1Bの外周面4Aと垂直方向(ブロック矢印の方向)に押圧する。すると、S字部91が変形し、先端面93が溝5Aの内部へと進入し、先端面93が溝5Aの底面などを押圧するとともに、S字部91の端部92から溝5Aに至る面95と外周面4Aとが押圧し合う状態となる。すると、円筒部材1Bとフランジ20Dが固定される。その後、円筒部材1Bの開口部先端が内側にかしめられる。このカシメ工程は、フランジ20Dの円筒部材1Bへの取り付け前に行っても良い。以上のようにして図20に示すケース33が製造される。
【0070】
このケース90の円筒部材1Bとフランジ20Dとの固定強度は、従来の溶接技術を採用したものに比べて強いが、ケース30における固定強度に比べると弱いことがわかった。ケース30の円筒部材1とフランジ20との固定強度が、ケース90の円筒部材1Bとフランジ20Dとの固定強度に比べて強い原因は、フランジ20の変形後の状態から変形前の状態へと戻すことが非常に困難であること等が考えられる。一方、フランジ20Dの変形後の状態から変形前の状態へと戻すことは、比較的容易である。たとえば、図20における下側から上側に向かって強くフランジ20Dに対して衝撃を与えると、フランジ20Dがその変形前の状態に近くなって円筒部材1Bからフランジ20Dが外れ易い。
【0071】
なお、ケース90は、それを構成する円筒部材1Bに代えて、図4に示す円筒部材1を用いても良い。また、ケース90を構成する円筒部材1Bは、開口部分が無いものとしても良い。さらに、フランジ20Dの円形孔21に円筒部材1Bを挿入する際には、先端面93は円筒部材1Bの外周面4Aと摺動する位置ではなく、外周面4Aから離れた位置にあっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の実施の形態に係るケース中の円筒部材の構成を示す正面図である。
【図2】図1に示す円筒部材の平面図である。
【図3】図1に示す円筒部材の底面図である。
【図4】図2に示す平面図のA−A断面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るケースに使用されるフランジの構成を示す平面図である。
【図6】図5に示すフランジの平面図のB−B断面図である。
【図7】本発明の実施の形態に係るケースの断面図である。
【図8】本発明の実施の形態に係るケースの製造方法を示す図で、フランジの円形孔に円筒部材が挿入される前の状態を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態に係るケースの製造方法を示す図で、フランジの円形孔に円筒部材が挿入された後の状態を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態に係るケースの製造方法を示す図で、フランジの曲げ部をプレス装置によってフランジの厚み方向(図10のブロック矢印の方向)に押圧する状態を示す図である。
【図11】本発明の実施の形態に係るインフレータが製造される様子を示す図で、インフレータの製造過程の状態の縦断面図および工程フロー図である。
【図12】本発明の実施の形態に係るインフレータの正面図である。
【図13】本発明の実施の形態に係るインフレータの平面図である。
【図14】本発明の実施の形態に係るケースに用いられる円筒部材の溝を押圧加工にて形成した場合の溝および溝部分に相当する部分を図4の右側の溝付近と同様に示す図である。
【図15】本発明の実施の形態に係るケースに使用されるフランジの第1変形例を示す図である。
【図16】本発明の実施の形態に係るケースに使用されるフランジの第2変形例を示す図である。
【図17】本出願に先立ち、出願人が検討した検討例1のケースの製造過程を示す図である。
【図18】図17に示す検討例1のケースを示す図である。
【図19】本出願に先立ち、出願人が検討した検討例2のケースの製造過程を示す図である。
【図20】図19に示す検討例2のケースを示す図である。
【図21】従来のインフレータの構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0073】
1,1A,1B,1C 円筒部材
2 底面
3 上面(開口部)
5, 5A, 5C 溝
20,20A,20B,20C,20D フランジ
21 円形孔
25,25A,25B 内端(円形孔を囲む部分)
26 曲げ部(フランジの幅の中央よりも円形孔寄りのフランジ部分)
30,31 ケース
50 インフレータ
63 蓋部材
71 開口部
W フランジの幅
T フランジの幅の中央
P1 溝形成工程
P2 フランジ配置工程
P3 フランジ固定工程
P4 組み込み工程
P5 カシメ係合工程
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底付きの金属製の円筒部材と、取り付け用の金属製のフランジとを有するケースを備えるエアバッグ用インフレータにおいて、
上記円筒部材は、その外周面にリング状の溝を有し、上記フランジは、その中央部分に上記円筒部材が挿入される円形孔を有し、上記フランジの幅の中央よりも上記円形孔寄りの上記フランジ部分を上記フランジの厚み方向に圧縮することで、上記円形孔を囲む部分が上記溝の内部へ伸張し、上記円筒部材と上記フランジとが固定され、上記円筒部材の開口部の先端が内側に曲がり上記開口部を塞ぐ蓋部材を押さえつけていることを特徴とするエアバッグ用インフレータ。
【請求項2】
請求項1記載のエアバッグ用インフレータにおいて、前記圧縮する部分は、前記圧縮の前には前記フランジの厚み方向に膨らんでいる部分または曲げられている部分であることを特徴とするエアバッグ用インフレータ。
【請求項3】
請求項1または2記載のエアバッグ用インフレータにおいて、前記フランジは、前記円筒部材の底面よりも前記開口部に近い側に配置されていることを特徴とするエアバッグ用インフレータ。
【請求項4】
底付きの金属製の円筒部材と、取り付け用の金属製のフランジとを備えるエアバッグ用インフレータのケ−スにおいて、
上記円筒部材は、その外周面にリング状の溝を有し、上記フランジは、その中央部分に上記円筒部材が挿入される円形孔を有し、上記フランジの幅の中央よりも上記円形孔寄りの上記フランジ部分を上記フランジの厚み方向に圧縮することで、上記円形孔を囲む部分が上記溝の内部へ伸張し、上記円筒部材と上記フランジとが固定されていることを特徴とするエアバッグ用インフレータのケース。
【請求項5】
請求項4記載のエアバッグ用インフレータのケースにおいて、前記圧縮する部分は、前記圧縮の前には前記フランジの厚み方向に膨らんでいる部分または曲げられている部分であることを特徴とするエアバッグ用インフレータのケース。
【請求項6】
底付きの金属製の円筒部材と、取り付け用の金属製のフランジとを備えるエアバッグ用インフレータのケースにおいて、
上記円筒部材は、その上面の開口部分が底面より小さくされ、
上記円筒部材はその外周面であって上記底面よりも上記上面に近い側にリング状の溝を有し、上記フランジはその中央部分に上記円筒部材を囲む円形孔を有し、上記フランジの上記円形孔を囲む部分が上記溝へ進入していることを特徴とするエアバッグ用インフレータのケース。
【請求項7】
請求項4から6のいずれか1項に記載のエアバッグ用インフレータのケースにおいて、前記フランジの前記溝に進入した部分が前記溝の底面または側面に突き当たり、その底面または側面を窪ませていることを特徴とするエアバッグ用インフレータのケース。
【請求項8】
金属製の底付きの円筒部材と、取り付け用の金属製のフランジとを備えるケースを有するエアバッグ用インフレータの製造法において、
上記円筒部材の外周面にリング状の溝を形成する溝形成工程と、
その中央部分に円形孔を有する平板状のフランジを、その円形孔が上記円筒部材の上記溝を囲む位置に配置するフランジ配置工程と、
上記フランジの幅の中央よりも上記円形孔寄りの上記フランジ部分を上記フランジの厚み方向に圧縮し、上記円形孔を囲む部分を上記溝の内部へ伸張させ、上記円筒部材と上記フランジとを固定するフランジ固定工程と、
上記エアバッグを膨らませるための部材および上記円筒部材の開口側を塞ぐ蓋部材を上記円筒部材に入れる組み込み工程と、
上記円筒部材の開口先端部分を内側にカシメて開口面積を小さくすると共に上記蓋部材に係合させるカシメ係合工程と、を有することを特徴とするエアバッグ用インフレータの製造法。
【請求項1】
底付きの金属製の円筒部材と、取り付け用の金属製のフランジとを有するケースを備えるエアバッグ用インフレータにおいて、
上記円筒部材は、その外周面にリング状の溝を有し、上記フランジは、その中央部分に上記円筒部材が挿入される円形孔を有し、上記フランジの幅の中央よりも上記円形孔寄りの上記フランジ部分を上記フランジの厚み方向に圧縮することで、上記円形孔を囲む部分が上記溝の内部へ伸張し、上記円筒部材と上記フランジとが固定され、上記円筒部材の開口部の先端が内側に曲がり上記開口部を塞ぐ蓋部材を押さえつけていることを特徴とするエアバッグ用インフレータ。
【請求項2】
請求項1記載のエアバッグ用インフレータにおいて、前記圧縮する部分は、前記圧縮の前には前記フランジの厚み方向に膨らんでいる部分または曲げられている部分であることを特徴とするエアバッグ用インフレータ。
【請求項3】
請求項1または2記載のエアバッグ用インフレータにおいて、前記フランジは、前記円筒部材の底面よりも前記開口部に近い側に配置されていることを特徴とするエアバッグ用インフレータ。
【請求項4】
底付きの金属製の円筒部材と、取り付け用の金属製のフランジとを備えるエアバッグ用インフレータのケ−スにおいて、
上記円筒部材は、その外周面にリング状の溝を有し、上記フランジは、その中央部分に上記円筒部材が挿入される円形孔を有し、上記フランジの幅の中央よりも上記円形孔寄りの上記フランジ部分を上記フランジの厚み方向に圧縮することで、上記円形孔を囲む部分が上記溝の内部へ伸張し、上記円筒部材と上記フランジとが固定されていることを特徴とするエアバッグ用インフレータのケース。
【請求項5】
請求項4記載のエアバッグ用インフレータのケースにおいて、前記圧縮する部分は、前記圧縮の前には前記フランジの厚み方向に膨らんでいる部分または曲げられている部分であることを特徴とするエアバッグ用インフレータのケース。
【請求項6】
底付きの金属製の円筒部材と、取り付け用の金属製のフランジとを備えるエアバッグ用インフレータのケースにおいて、
上記円筒部材は、その上面の開口部分が底面より小さくされ、
上記円筒部材はその外周面であって上記底面よりも上記上面に近い側にリング状の溝を有し、上記フランジはその中央部分に上記円筒部材を囲む円形孔を有し、上記フランジの上記円形孔を囲む部分が上記溝へ進入していることを特徴とするエアバッグ用インフレータのケース。
【請求項7】
請求項4から6のいずれか1項に記載のエアバッグ用インフレータのケースにおいて、前記フランジの前記溝に進入した部分が前記溝の底面または側面に突き当たり、その底面または側面を窪ませていることを特徴とするエアバッグ用インフレータのケース。
【請求項8】
金属製の底付きの円筒部材と、取り付け用の金属製のフランジとを備えるケースを有するエアバッグ用インフレータの製造法において、
上記円筒部材の外周面にリング状の溝を形成する溝形成工程と、
その中央部分に円形孔を有する平板状のフランジを、その円形孔が上記円筒部材の上記溝を囲む位置に配置するフランジ配置工程と、
上記フランジの幅の中央よりも上記円形孔寄りの上記フランジ部分を上記フランジの厚み方向に圧縮し、上記円形孔を囲む部分を上記溝の内部へ伸張させ、上記円筒部材と上記フランジとを固定するフランジ固定工程と、
上記エアバッグを膨らませるための部材および上記円筒部材の開口側を塞ぐ蓋部材を上記円筒部材に入れる組み込み工程と、
上記円筒部材の開口先端部分を内側にカシメて開口面積を小さくすると共に上記蓋部材に係合させるカシメ係合工程と、を有することを特徴とするエアバッグ用インフレータの製造法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2010−143314(P2010−143314A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−320692(P2008−320692)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【特許番号】特許第4315465号(P4315465)
【特許公報発行日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(593029721)株式会社ミヤタ (9)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【特許番号】特許第4315465号(P4315465)
【特許公報発行日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(593029721)株式会社ミヤタ (9)
【Fターム(参考)】
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