説明

エアフィルター用濾材およびエアフィルター用濾材の製造方法

【課題】アレルゲン不活化率が高く、昇華汚染の少ない抗アレルゲン着色エアフィルター用濾材を提供する。
【解決手段】ポリフェノール化合物とアントラキノン系分散染料とを含有する布帛を含んでなるエアフィルター用濾材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアフィルター用濾材およびエアフィルター用濾材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、空気清浄機のようにエアフィルターを用いて環境中に存在するダニ、花粉、ハウスダスト等のアレルゲンをろ過して捕集する方法が検討されてきた。しかし、エアフィルターに捕集された物質は常に再飛散の可能性に晒されており、捕集されたアレルゲンがアレルギー活性を保持したままだと再飛散した際にアレルギーを引き起こす懸念がある。そこで、これを避けるためにはエアフィルターに捕集されたアレルゲンを不活化する必要がある。
【0003】
エアフィルターに捕集されたアレルゲンを不活化するために、エアフィルターに抗アレルゲン剤を添着する方法が検討されており、抗アレルゲン剤の中でも特にポリフェノール化合物が用いられる方法が開示されている(特許文献1、2、3)。
【0004】
これら特許文献1、2及び3はポリフェノール化合物と顔料や染料を併用する技術に関するものであるが、これは、ポリフェノール化合物は光によって黄変するためである。すなわち、ポリフェノール化合物のみを使用するとエアフィルターが黄変してしまうため製品としては使いづらく、着色する必要があったからである。しかし、いずれの技術も問題点を抱えていた。
【0005】
例えば、特許文献1では、ポリフェノール化合物を含む濾材にアゾ系染料で着色する技術方法が開示されている。しかしながら、濾材に着色すべく、アゾ系染料を含む水溶液に布帛を含浸して加熱炉で乾燥すると、染料が昇華してしまい加熱炉内を汚染する(昇華汚染)という問題が発生した。昇華汚染された加熱炉を使用すると染料が再昇華して布帛を汚染してしまうため、洗浄が必要になる等のデメリットが生じる。
【0006】
特許文献2、3には、顔料や染料で着色する技術が開示されている。しかし、顔料で着色した場合はアレルゲンの不活化率が低下してしまい、高い不活化率を達成することができなかった。また、染料の開示もなされているが、アルコール可溶性染料や油溶性染料、蛍光性染料、集光性染料などでありエアフィルターに実用的なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−255579号公報
【特許文献2】特開2005−7345号公報
【特許文献3】特開2005−7346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、アレルゲン不活化率が高く、昇華汚染の少ない抗アレルゲン着色エアフィルター用濾材およびそのエアフィルター用濾材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、ポリフェノール化合物とアントラキノン系分散染料とを含有する布帛を含んでなるエアフィルター用濾材、および、ポリフェノール化合物とアントラキノン系分散染料とを含む水系加工液に布帛を含浸して乾燥することを特徴とするエアフィルター用濾材の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、アレルゲン不活化率が高く、昇華汚染の少ない抗アレルゲン着色エアフィルター用濾材およびそのエアフィルター用濾材の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、抗アレルゲンとはアレルゲンを除去するだけではく不活性化する性能を有することをいう。
本発明のエアフィルター用濾材は、ポリフェノール化合物とアントラキノン系分散染料とを含有する布帛を含んでなることを特徴とするものである。
【0012】
エアフィルター用濾材とは、空気清浄機や空調、キャビン、プリンター等へ使用される空気清浄用の集塵または集塵・脱臭用途のエアフィルターに使用する濾材をいう。
【0013】
ポリフェノール化合物としては、タンニン酸、ガロタンニン、エピカテキンガレート、エピカテキン、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、ポリ−4−ビニルフェノールのようなポリフェノール化合物を用いることができ、なかでもタンニン酸を使用することがより好ましい。
【0014】
本発明において、ポリフェノール化合物の含有量は、ポリフェノール化合物とアントラキノン系分散染料とを含有する布帛重量に対して、0.05〜15重量%であることが好ましい。ポリフェノールの含有量が0.05重量%未満であると抗アレルゲン性を十分に得ることができない、また、15重量%以上含有すると不織布が目詰まりを起こして圧力損失が大きくなる傾向にあるからである。さらに好ましくは0.1〜10重量%が好ましい。
【0015】
また、ポリフェノール化合物によっては光により酸化されて濾材が変色する場合がある。この変色はあくまでもポリフェノール化合物の酸化反応(化学反応)等であって、濾材の濾過性能には影響はないが、濾材が変色すると一般ユーザーが性能に疑念を抱く場合などがあるため、対策として布帛を着色することが好ましいのである。本発明においては、着色する手段として、アントラキノン系分分散染料を用いることが重要である。
【0016】
着色する手段としては、前述のように顔料やアゾ系分散染料などが知られている。しかし、顔料とポリフェノール化合物を混ぜて布帛に付与すると、ポリフェノール化合物による抗アレルゲン性能が低下し、高い抗アレルゲン性能が得られない。また、アゾ系分散染料を用いて布帛に着色加工すると乾燥の際の昇華汚染が激しく、工程安定性の低下や対応設備の設置等によるコスト高につながり、現実的ではない。そこで本発明者らはそのようなデメリットのない着色手段を検討した結果、アントラキノン系分散染料を用いることで、抗アレルゲン性が高く、昇華汚染の少ない抗アレルゲン着色エアフィルター用濾材が得られることを見出したものである。すなわち、他の顔料や染料とは異なり、アントラキノン系分散染料はポリフェノール化合物の抗アレルゲン性能を向上させる一方、乾燥時に昇華しにくいものであり、通常の乾燥温度でも昇華汚染をほとんど生じないという格別の効果を奏することを見出し、本発明に到達した。
【0017】
ここで、アントラキノン系分散染料とは、水に不(難)溶であり,分散剤(界面活性剤)によって水に微粒子状分散させた状態で染色するもので、分子にアントラキノン核を含む染料、例えばDIANIX S−BG(DyStar社製)、Kayalon Polyester TNS(日本化薬社製)など、をいう。
【0018】
本発明において、アントラキノン系分散染料の含有量は、ポリフェノール化合物とアントラキノン系分散染料とを含有する布帛重量に対して、0.01〜5重量%であることが好ましい。0.01重量%未満ではエアフィルターの濾材の黄変を目立たなくするには十分でない。また、5重量%より大きい場合、不必要に濃い色に着色しておりコストが高くなりすぎる。
【0019】
アントラキノン系分散染料はアントラキノン系分散染料とポリフェノール化合物の混合物の1重量%〜50重量%であることが好ましい。1重量%未満ではエアフィルターの濾材の黄変を目立たなくするには十分でない。また、50重量%より大きい場合、不必要に濃い色に着色しておりコストが高くなりすぎる。
【0020】
エアフィルターを構成する布帛は、繊維材料から構成されるシート状物であればよこく、例えば、織物、編み物、不織布、それらの複合物等をあげることができるが、コストが低く、低圧力損失で、かつ微細塵の捕集効率が高い不織布を用いることが好ましい。不織布としては特に限定するものではなく、用途や必要特性に応じて選定すればよいが、例えば、繊維をカードなどに通して配向させたものを、ニードルパンチや高圧水流で絡合させたもの、接着剤などで接着させたケミカルボンド不織布、不織布を構成する繊維に低融点樹脂を含む繊維を混ぜて加熱することで熱融着させるサーマルボンド不織布などの乾式不織布や、繊維を水分散させたものから抄紙網などで抄きあげる湿式不織布などをもちいることができる。また、熱可塑性樹脂を溶融紡糸し、繊維が冷却して固化するまでにシート状に細くし、繊維同士を融着させてえるスパンボンド法やメルトブロー法で得た不織布を用いてもよい。
【0021】
上記エアフィルターを構成する布帛の目付けは5〜200g/mが好ましく、より好ましくは15〜150g/mである。5g/m未満であると、大気中のアレルゲンなどの捕集効率の性能を十分に得られない。また、200g/mよりも大きいと圧力損失が高くなりすぎてしまう。
【0022】
布帛を構成する繊維としては、特に限定するものではなく、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、レーヨン、パルプ、綿等の有機系繊維、ガラス、シリカなどの無機系繊維、などいずれを用いることもできる。
【0023】
本発明のエアフィルター用濾材は、難燃剤を含んでなることが好ましい。難燃剤であれば、ペンタブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、ヘキサブロモシクロドデカンなど臭素化合物、塩素化合物、リン酸アンモニウム、リン酸グアニジン、リン酸メラミンなどのリン酸系化合物などの有機系難燃剤、またはアンチモン化合物や水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物などの無機系難燃剤などいずれであってもよいが、中でも、水に溶けにくいので抗アレルゲン着色加工するときに難燃剤が溶出しないリン酸メラミンが好ましい。
【0024】
難燃剤の付与する手段は特に限定しない。エアフィルターの濾材に用いる布帛に、散布、コーティング、ディップして付与してもよいし、布帛が不織布の場合、湿式不織布や乾式不織布のバインダーと一緒に付与してもよい。
【0025】
難燃剤の含有量は、不織布中1〜30重量%が好ましく、さらに好ましくは10〜20重量%である。1重量%未満であると難燃性が十分に得られない。30重量%よりも多くなると不必要に難燃剤を含有しておりコスト高になる。
【0026】
本発明の抗アレルゲン着色エアフィルター用濾材の製造方法は、特に制限はないが、好ましくは、ポリフェノール化合物とアントラキノン系分散染料を混合した水溶液を、含浸法、スプレー法、プリント法、湿式ロール法等で布帛に付与し、乾燥して得ることができる。ポリフェノール化合物とアントラキノン系分散染料を混合した水溶液にアルファオレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、エーテルカルボン酸塩等のアニオン系の界面活性剤を添加してもよい。
【0027】
中でも、ポリフェノール化合物とアントラキノン系染料を布帛全体にいきわたらせやすい含浸法が好ましい。例えば、ポリフェノール化合物とアントラキノン系分散染料を混合した水溶液をいれた浴に布帛を浸漬し、ニップロールなどでニップした後、80〜150℃、好ましくは100〜130℃で乾燥して得ることができる。乾燥温度が80℃未満では乾燥しにくくなり、150℃より高いと布帛が熱収縮するなどして熱劣化するからである。乾燥する手段は、熱風式乾燥機や赤外線ヒーター、遠赤外線ヒーター等による輻射式乾燥方式や、ヤンキードラム等による乾燥のいずれでもよい。
【0028】
含浸法における加工速度は5〜100m/min、さらに好ましくは10〜50m/minがよい。5m/minよりも遅いと生産効率が低く、100m/minよりも早いと生産のコントロールが困難になるからである。
【0029】
本発明で得られたエアフィルター用濾材を不織布等シート状のまま、枠材に組み込んでフィルターユニットとして使用することができる。また、本発明で得られたエアフィルター用濾材を山折、谷折を繰り返してプリーツ加工を施して、枠材をセットしたプリーツ状のフィルターユニットとして使用することもできる。
【実施例】
【0030】
[測定・評価方法]
(1)アレルゲン不活化性能(アレルゲン不活化率)
試料となる不織布の状態のエアフィルター用濾材25cmを、アレルゲンとしてDer f1(コナヒョウダニ由来)の200ng/mlの溶液につけた後、12時間経過後に、濾材に付着するアレルゲン(Der f1)における不活性化の程度を酵素免疫測定法(ELISA法)により測定した。
【0031】
(2)昇華汚染
試料となる5cm角のエアフィルター用濾材と、5cm角ののり抜き精練したポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)タフタ(40g/m)を積層して、PETタフタの面から、140℃の乾式のアイロンを3分あてて、試料と接していた面のPETタフタとアイロン未処理PETタフタとの色の変化を目視確認した。
【0032】
(3)難燃性
UL94−HF水平試験の手順に則って評価した。
【0033】
150mm×50mmの不織布の状態の試料を水平に保持し、38mmの炎を60秒間接炎し、標線間100mmの燃焼速度及び燃焼挙動により以下の判定基準に則り判定した。
【0034】
【表1】

【0035】
(4)黄変
試料となる不織布の状態のエアフィルター用濾材65mm×40mmをJIS L 0842の第5露光法に準拠して、放射露光量:36MJ/m2(300mm〜700mm)で照射して変色状態を確認した。
【0036】
実施例1
ポリエステル(芯)と低融点ポリエステル(鞘)を芯鞘構造に溶融紡糸して得た繊維を、捲縮を付与して短繊維にした後、これをウェブにし、サーマルボンド方で鞘の低融点ポリエステル同士を熱融着して、目付50g/mの不織布を製布した。この不織布を、固形分でタンニン酸およびアントラキノン系染料(DIANIX Blue S-BG(Dystar社製))を4:1で混合した水溶液に含浸し絞って110℃で乾燥し、タンニン酸とアントラキノン系染料(DIANIX Blue S-BG(Dystar社製))の混合物(重量比4:1の混合物)を1g/m含浸させて、本発明のエアフィルター用濾材を得た。
【0037】
比較例1
実施例1においてアントラキノン系染料を顔料(銅フタロシアニン)に変更した以外は同じようにしてエアフィルター用濾材を得た。
【0038】
比較例2
実施例1においてアントラキノン系染料をアゾ系染料(Kayarus Supra Rubine BL(日本化薬社製))に変更した以外は同じようにしてエアフィルター用濾材を得た。
【0039】
比較例3
実施例1においてアントラキノン系染料を除いた以外は同じようにしてエアフィルター用濾材を得た。
【0040】
実施例2
ポリエステル繊維35重量%とポリビニルアルコール繊維35重量%との短繊維にアクリルバインダー10重量%とリン酸メラミン難燃剤を対比20重量%とを混合してシート状に広げ、このシートからケミカルボンド法で目付け50g/mの不織布を製布した。この不織布を、固形分でタンニン酸およびアントラキノン系染料(DIANIX Blue S-BG (Dystar社製))を4:1で混合した水溶液に含浸し絞って110℃で乾燥し、タンニン酸とアントラキノン系染料(DIANIX Blue S-BG (Dystar社製))の混合物(重量比4:1の混合物)を5g/m含浸させて、本発明のエアフィルター用濾材を得た。
【0041】
実施例3
実施例2においてリン酸メラミン難燃剤をリン酸アンモニア難燃剤に変更した以外は同じようにしてエアフィルター用濾材を得た。
【0042】
これらの試料について、評価を行った結果、アントラキノン系染料(DIANIX Blue S-BG (Dystar社製))とタンニン酸とを混合したものが、アレルゲン不活化率が高く、昇華汚染を少なくすることができた。
【0043】
また、実施例2において、着色、抗アレルゲン加工を行った後も優れた難燃性を達成することができた。
【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のエアフィルター用濾材は、空気清浄機や空調、キャビン、プリンターなどに用いられるエアフィルター用の濾材として利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェノール化合物とアントラキノン系分散染料とを含有する布帛を含んでなるエアフィルター用濾材。
【請求項2】
前記布帛がさらに難燃剤を含んでいる請求項1に記載のエアフィルター用濾材。
【請求項3】
前記難燃剤がリン酸メラミンであることを特徴とする請求項2に記載のエアフィルター用濾材。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のエアフィルター用濾材を製造する方法であって、ポリフェノール化合物とアントラキノン系分散染料とを含む水系加工液に布帛を含浸した後に乾燥することを特徴とするエアフィルター用濾材の製造方法。

【公開番号】特開2011−206683(P2011−206683A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77066(P2010−77066)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】