説明

エアロゾル・デポジション法を用いた成膜方法、およびエアロゾル・デポジション装置

【課題】エアロゾル・デポジション法を用いた成膜方法において、複雑な機構や装置を用いることなく、膜厚の個体差を少なくする。
【解決手段】基板面41の成膜すべき有効領域42にエアロゾル・デポジション法により薄膜を形成するための方法であって、エアロゾル14の噴射ノズル20の噴射面21と基板面41とを対向させて配置するとともに、当該噴射面と基板面との対向領域が有効領域とそれ以外の無効領域43との間を往復するようにノズルと基板40とを相対移動させるステップと、相対移動する対向領域が、有効領域にあるとき、粉体を含んだガスを所定の流量で噴射するステップと、相対移動する対向領域が、無効領域であるとき、所定の流量より大きな流量でガスを噴射するステップとを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エアロゾル・デポジション法によって基板上に薄膜を形成するための方法、およびエアロゾル・デポジション法によって基板上に薄膜を形成するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エアロゾル・デポジション法(AD法)は、粉体をガスと混合してエアロゾル状態とし、そのエアロゾルを減圧された成膜室内でノズルを通して基板に噴射して被膜を形成する技術である。AD法は、例えば、基板上に圧電セラミック膜を形成した圧電セラミックス材料を製造するのに利用されつつある。具体的には、マイクロアクチュエータや光デバイスなどを用途として、数μm から数百μmの厚さをもつ電子セラミックス膜を基板状に形成した圧電セラミックス材料の製造に利用されつつある。
【0003】
上記圧電セラミックス材料では、特性に優れた良質な膜を形成する必要があり、AD法によって、結晶性微粒子をエアロゾル化し,これを高速ジェットに乗せて基板に堆積させることで基板上に良質な電子セラミックス膜を形成することができる。
【0004】
図7に、AD法により基板上に薄膜を形成するための装置(エアロゾル・デポジション装置)1dの構造を示した。エアロゾルの原料となる粉体11が収納される粉体混合容器10は、高圧ガスの導入口12と導出口13とを備え、窒素などの不活性ガスを充填した高圧タンク2からの管路(ガス導入管路)3が、導入口12を経由してこの粉体混合容器10内に案内されている。また、先端に噴射ノズル20が接続されている管路(ガス導出管路)4が導出口13を経由して粉体混合容器10内に案内されている。また、この例では、ガス導出管路4の途上にガスの流量を制御するためのバルブ5が介在しており、流量制御部6dは、このバルブ5を制御して、ノズル20から噴射されるガスの流量を調整する。なお、このバルブ5は、ガス導入管路3の途上に介在していてもよい。
【0005】
成膜室30は、密閉状態で真空ポンプ33により排気されて減圧される真空容器であり、この成膜室30において、粉体11がAD法によって基板面41に堆積される。この成膜室30内には、基板40を保持する基板ホルダ31と前記ノズル20が設置され、基板ホルダ31に基板40が装着された状態では、基板面41とノズル20の噴射面21とが対向するように配置される。また、成膜室30は、基板面41とノズル20の噴射面21とが対向状態を維持したまま相対移動するように基板ホルダ31を移動させるための移動機構32を備えている。移動機構32は、基板面41と噴射面21との距離方向をz方向とすると、基板ホルダ31をxy面内で移動させるとともに、z方向を軸して回転させることもできるようになっている。また、基板面41と噴射面21との距離を調整するためにz方向への移動も可能としている。
【0006】
エアロゾル・デポジション装置1dは、以上の構成において、ガス道入管路3から高圧ガスが粉体混合容器10内に導入されると、当該混合容器10内の粉体11がガスと混合しエアロゾル状態となる。そして、そのエアロゾルがガス導出管路4を経由してノズル20から基板面41に向けて噴射される。このとき、流量制御部6dが、所望の膜厚に応じた流量のエアロゾルがノズル20から噴射されるように導出管路4上のバルブ5を制御し、移動機構32が、基板面41と噴射面21とが所定の距離を維持しつつ、xy面で相対移動させる。それによって、ノズル20から噴射される所定流量のエアロゾルが基板面41の一箇所に集中されず、基板面41にわたって膜厚を均一にすることができるようになっている。
【0007】
なお、以下の特許文献1〜3には、エアロゾル・デポジション装置において膜厚を均一にするための技術について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−190014号公報
【特許文献2】特開2008−081830号公報
【特許文献3】特開2008−050685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
AD法によって基板面に成膜する際、基板間での膜厚が不均一となる原因として、混合容器内などにおける粉体の凝集がある。AD法では、粉体が個々の一次粒子の状態でガス中に浮遊していることを前提として膜厚を制御している。そのため、凝集した粉体(凝集塊)がガス中に混在すると、その凝集塊がノズル内に入ってエアロゾルの流路を塞ぎ、エアロゾルが不規則に基板面に噴射され、均一な膜厚が得られなくなる、という問題がある。確かに、基板面内では、移動機構により、膜厚がある程度平均化されるかもしれないが、異なる基板同士では、膜厚に大きな個体差が生じる。
【0010】
上記各特許文献1〜3には、AD法によって基板上に薄膜を形成する際、その膜厚を均一するための技術について記載されている。そして、そのいずれの文献においても、凝集塊を1次粒子に解砕することで均一な膜厚を得ようとしている。例えば、特許文献1には、凝集塊を解砕するための攪拌機構を備えた粉体混合容器を備えたエアロゾル・デポジション装置について記載されている。また、特許文献2には、粉体を一定濃度に調製した後、その粉体を粉体混合容器内に搬入する機構を備えたエアロゾル・デポジション装置について記載されている。そして、特許文献3には、粉体混合容器を振動させることで、原材料を粉砕して所定の粒度の粉体に分級する技術について記載されている。
【0011】
このように、従来の技術は、一般的なエアロゾル・デポジション装置に複雑な機構や装置を付加して粉体の凝集を防止したり、凝集塊を解砕したりしている。そのため、装置が高価なものとなる、また、装置の大きさも大きくなり広い設置スペースを要する。これらは製造コストを増大させ、AD法によって最終的に生産される製品を高価なものにしてしまう。
【0012】
そこで本発明は、複雑な機構や装置を用いることなく、エアロゾルの原料となる粉体の凝集を防止し、製造コストを増加させることなく、基板面内における膜厚を均一にすることはもちろん、膜厚の個体差を少なくすることができるAD法による成膜方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、AD法を用いて基板面に薄膜を成膜する際、複雑な機構や装置を用いずに、粉体の凝集に起因する膜厚の不均一を防止することを目的としている。本発明者は、この目的を達成するために、AD法による成膜プロセスについて、エアロゾル・デポジション装置の構成や、その装置によって最終的に生産される製品について考察した。そして、エアロゾル・デポジション装置は、基板ホルダの移動機構を備えていること。最終的な製品になった際、基板面の全領域がその製品において必要な領域ではない、ということに着目した。本発明は、このような考察に基づいてなされたものである。
【0014】
本発明は、基板面の所定領域を成膜すべき有効領域として、当該有効領域にエアロゾル・デポジション法により薄膜を形成するための方法であって、
エアロゾルの噴射ノズルの噴射面と基板面とを対向させて配置するとともに、当該噴射面と基板面との対向領域が前記有効領域とそれ以外の無効領域との間を往復するように前記ノズルと前記基板とを相対移動させる噴射面移動ステップと、
前記噴射面移動ステップによって相対移動する前記対向領域が、前記有効領域にあるとき、粉体を含んだガスを所定の流量で噴射する成膜噴射ステップと、
前記噴射面移動ステップによって相対移動する前記対向領域が、前記無効領域であるとき、前記所定の流量より大きな流量でガスを噴射する無効噴射ステップと、
を含むエアロゾル・デポジション法による成膜方法としている。
【0015】
上記方法において、前記無効噴射ステップでは、前記ガスに粉体を含ませないエアロゾル・デポジション法による成膜方法とすることもできる。
【0016】
本発明は、エアロゾル・デポジション法によって基板面に薄膜を形成するためのエアロゾル・デポジション装置にも及んでおり、当該エアロゾル・デポジション装置は、
粉体を収納するともに、当該粉体をガス中に分散させてエアロゾルを発生させるための粉体混合容器と、
前記混合容器内にガスを導入するためのガス導入口と、
前記粉体混合容器外にガスを導出するためのガス導出口と、
一端が前記ガス導出口に接続されるとともに、他端がガスを噴射するためのノズルに接続されているガス導出管路と、
前記ノズルにおけるガス噴射面に対して前記基板の面を対向させた状態で保持する基板保持部と、
前記基板保持部と前記ノズルとが設置されて減圧下で成膜が行われる成膜室と、
前記ガス噴射面と前記基板保持部に保持された基板とを相対移動させるための噴射領域移動機構と、
前記噴射領域移動機構に連動して前記ノズルからの噴射ガスの流量を制御する流量制御部とを備え、
前記噴射領域移動機構は、前記ガス噴射面を、前記基板保持部に装着されている前記基板の面に対向配置させつつ、当該基板面内で所定の厚さの薄膜が形成される有効領域と、それ以外の無効領域とを往復させ、
前記流量制御部は、前記噴射領域移動機構によって前記ガス噴射面が前記有効領域に対向しているときは、前記ガスを所定流量に制御するとともに、前記噴射面が無効領域に対向しているときは、前記ガスを当該所定流量より大きくする、
エアロゾル・デポジション装置としている。
【0017】
また、上記エアロゾル・デポジション装置において、前記ガス導出管路は、前記導出口から前記ノズルに至る経路上に、ガス供給源への直通管路が接続されているとともに、前記導出口と前記ノズルとを連絡する経路と、前記ガス供給源と前記ノズルとを連絡する経路とを切り替えるためのバルブを備え、
前記流量制御部は、当該バルブを制御して、前記噴射面が無効領域に対向しているときは、前記ノズルと前記直通管路とを連絡させる、
こととしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のエアロゾル・デポジション法を用いた成膜方法によれば、複雑な機構や装置を用いることなく、エアロゾルの原料となる粉体の凝集を防止し、製造コストを増加させることなく、基板面内における膜厚、および膜厚の個体差を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】基板面における成膜すべき有効領域とそれ以外の無効領域を説明するための図である。
【図2】本発明における成膜方法についての概略説明図である。
【図3】本発明の第1の実施例の成膜方法に対応するエアロゾル・デポジション装置の構成図である。
【図4】本発明の第2の実施例の成膜方法に対応するエアロゾル・デポジション装置の構成図である。
【図5】上記第2の実施例に対応するその他のエアロゾル・デポジション装置の構成図である。
【図6】上記第1の実施例の方法によって成膜した場合の個体間の膜厚分布(A)と、従来の方法によって成膜した場合の個体間の膜厚分布(B)を示す図である。
【図7】一般的なエアロゾル・デポジション装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
===第1の実施例===
本発明の成膜方法を用いて基板表面にPZTを原料とした圧電セラミック膜を形成する事例を本発明の実施例として挙げる。本実施例では、図7に示したような、一般的なエアロゾル・デポジション装置を使用しているが、その成膜プロセスを変更することで、複雑な機構や装置を用いずに均一な膜厚を形成することに成功している。
【0021】
本実施例では、図1(A)に示すように、基板40は、その基板面41が、成膜された圧電セラミック材料が実際の利用に供されて所定の膜厚に調整されるべき領域(有効領域)42と、基板40の外周など、実際には利用されず、膜厚を問わない領域(無効領域)43とに区分されている。例えば、同図(B)に示したように、圧電セラミック材料50に電界を印可したり、圧電効果による起電力を取り出したりするための電極51が形成されている領域が利用領域42となり、電極51が形成されていない領域が無効領域43となる。以下、上記実施例の具体例として第1の実施例と第2の実施例を挙げて本発明について説明する。
【0022】
===第1の実施例===
図2に本発明の第1の実施例における成膜プロセスの概略を示した。上述したように、有効領域42と無効領域43とに区分された基板40を基板ホルダ31に装着し、基板面41とノズル20の噴射面21とを対向させつつ、所定の距離Lだけ離間するように配置する。そして、この距離Lを維持するとともに、基板面41と噴射面21とが平行関係を維持しつつ相対移動するように基板ホルダ31を移動機構21により移動させる。そして、この移動中にエアロゾル14をノズル20より噴射して圧電セラミック膜を基板面41に形成していく。
【0023】
移動機構32は、基板面41におけるノズル20の噴射面21との対向領域が有効領域42と無効領域43とを往復するように基板ホルダ31を移動させる。そして、基板面41と噴射面21との対向領域が有効領域42にあるときは、所定の膜厚を形成するために調整された流量でエアロゾル14を噴射させる(A)。一方、無効領域43にあるときは、この流量よりも大きな流量でエアロゾル14を噴射する。それによって、無効領域43にあるときに、ノズル20内の凝集塊が大きな流量のガスでノズル20外に吐出される。このようにして、有効領域42では、ノズル20内に凝集塊が存在せず、安定した流量で粉体11がガス中に均一に分散されたエアロゾルによって成膜が行われる
===エアロゾル・デポジション装置===
上記第1の実施例の方法によって基板面に薄膜を形成するたためのエアロゾル・デポジション装置(以下、AD装置)の構成例を図3に示した。例示した構成では、図7に示した一般的なAD装置1dの構成に対し、流量制御部6aの制御対象が異なっている。第1の実施例に対応するこのAD装置1aでは、流量制御部6aは、移動機構32の動作に連動して、ノズル20からのガス流量を制御しており、例えば、移動機構32が、基板ホルダ32の所定の一点における座標を出力し、制御装置6aは、有効領域42と無効領域43とをその座標に対応付けて記憶する記憶部を備え、座標が有効領域42に対応するときと無効領域43に対応するときとでバルブ5を制御し、エアロゾルの噴射量を調整する。もちろん、流量制御部6aに移動機構32の駆動回路を含ませ、この流量制御部6aが、バルブ5と移動機構動32の双方を制御してもよい。
【0024】
===第2の実施例===
上記第1の実施例では、ノズル20の噴射面21が無効領域43に対向しているときもエアロゾルを噴射していたが、これでは、利用されない粉体が無駄になる。そこで、第2の実施例では、ノズル20の噴射面21が無効領域に43対向しているときは、エアロゾルを含まないガスを噴射するようにしている。
【0025】
図4に当該第2の実施例に対応したエアロゾル・デポジション装置1bの構成例を示した。図示した例では、粉体混合容器10へガスを供給する高圧ガスタンク(第1タンク)2とは別の高圧ガスタンク(第2タンク)8を設けるとともに、エアロゾル導出管路4の途上に、流路制御部6bによって制御される3方バルブ(ガス直通バルブ)15bを介在させ、第2タンク8からの管路(直通管路)9bをこのガス直通バルブ15bに接続する。また、この例では、第1タンク2から粉体混合容器10へのガス導入管路3の途上にも流量制御部6bによって制御されるバルブ(ガス停止バルブ)16bが介在している。
【0026】
流量制御部6bは、ノズル20の噴射面21と基板面41との対向領域が有効領域42にあるときは、ガスが第1タンク2→ガス停止バルブ16b→粉体混合容器10→ガス直通バルブ15b→ノズル20の順に成膜室30に供給されるように二つのバルブ(15b,16b)を制御する。また、成膜条件に応じた流量のエアロゾルがノズル20から噴射されるように、ガス直通バルブ15b、ガス停止バルブ16b、あるいはその両方(15b,16b)の開閉度を調整する。
【0027】
一方、無効領域43にあるときは、ガス停止バルブ16bを閉じるとともに、第2タンク8→ガス直通バルブ15b→ノズル20の順でガスが成膜室30内に導入されるようにガス直通バルブ15bのガス流通経路を切り換えるとともに、有効領域42にあるときよりも大きな流量のガスがノズル20から噴射されるようにガス直通バルブ15bの開閉度を調整する。
【0028】
それによって、無効領域43にあるときは、ガスが粉体混合容器10を経由せず、第2タンク8からのガスによって、ガス導出管路4内にある凝集塊がノズル20から吐出される。すなわち、無効領域43では粉体11が噴射されなくなる。したがって、無駄な粉体11の消費を抑え、粉体11に掛かるコストを低減させ、最終的な製品コストの増加を抑止することができる。また、図4に示したAD装置1bでは、二つの高圧ガスタンク(2,8)を備えているため、長時間にわたって成膜プロセスを連続させることができ、タンクの交換に要する作業や時間を少なくすることができ、これも低コスト化に寄与する。
【0029】
なお、第2の実施例に対応するAD装置としては、図5に示した装置1cの構成も考えられる。この構成では、高圧タンク2は粉体混合容器10へのガス導入管路3が接続されている第1タンク2のみであり、この管路3の途上に3方バルブ(経路切替バルブ)16cを設けている。そして、ガス導出管路4の途上に3方バルブ(ガス直通バルブ)15cが介在し、このガス直通バルブ15cと経路切替バルブ16cとが一本の管路(直通管路)9cによって接続されている。
【0030】
このような構成において、流量制御部6cは、有効領域42にあるときは、ガスが、第1タンク2→経路切替バルブ16c→粉体混合容器10→ガス直通バルブ15c→ノズル20の順で成膜室30に供給されるように二つのバルブ(15c,16c)を制御する。
【0031】
無効領域43にあるときは、第1タンク2→経路切替バルブ16c→ガス直通バルブ15c→ノズル20の順でガスが成膜室30内に導入されるように流通経路を切り換える。このときも、有効領域42にあるときよりも大きな流量のガスがノズル20から噴射されるようにガス直通バルブ15cやガス切替バルブ16cの開閉度を調整する。この図5に示したAD装置1cでは、ガスタンク2が一つだけであり、装置自体のコストや設置スペースを節約することができる。
【0032】
===膜厚測定===
上記第1の実施例、および第2の実施例における成膜方法に基づいて、基板面41の有効領域42にPZTの薄膜を形成した。例えば、第1の実施例であれば、図3に示したようなAD装置1aを用い、粉体混合容器10内にPZTの粉体11を充填し、目標の膜厚を3μmとし、基板面41とノズル20の噴射面21との対向領域が有効領域と無効領域とを往復するように、移動機構32により、基板ホルダ31を基板面41に平行に一方向(例えば、x方向)に50回往復させるとともに、有効領域42にある場合には、18L/minの流量でエアロゾルをノズル20から噴射させ、無効領域43にあるときは、24L/minの流量でエアロゾルあるいは粉体11を含まないガスをノズル20から噴射させる成膜条件でバルブ5の開閉度を調整した。そして、多数の基板30に対して同じ成膜条件でPZT膜を形成し、各基板40におけるPZT膜の膜厚を測定した。
【0033】
図6(A)に、第1の実施例の成膜方法によって成膜されたPZTの膜厚の個体差を示した。17枚の基板40に対して上記条件で成膜したところ、目標とする膜厚である3μmに対し、個体差を1μm以下に抑えることができた。なお、実施例2の方法で成膜した場合も同様に個体差を1μm以下に抑えることができた。
【0034】
一方、従来の方法で成膜したときの膜厚の個体差を同図(B)に示した。この従来方法では、図7に示した一般的なAD装置1dを用い、有効領域42と無効領域43を区別せずに、一律に18L/minの流量でエアロゾルをノズル20から噴射させてPZT膜を基板面40に形成した。図示したように、従来の成膜方法では、個体差が2μm以上あった。このように、図6に示した膜厚測定結果から、AD法を用いて基板面41に薄膜を形成する際、本発明の実施例に係る成膜方法で成膜すると個体差が少ない均一な膜厚が得られることが確認できた。
【0035】
===基板面について===
上記実施例では、基板面41は、基板40の表面であり、その表面が有効領域42と無効領域43とが区分されていた。この例に限らず、基板表面と同一面を基板面とし、基板40が存在する領域(基板表面)を有効領域42とし、基板40が存在しない領域を無効領域43としてもよい。
【0036】
===移動機構について===
上記実施例では、移動機構32は、基板ホルダ41を移動させて、ホルダ41に装着された基板40をノズル20に対して相対移動させていた。もちろん、移動機構32は、基板ホルダ31を固定し、ノズル20を移動させるための機構であってもよい。あるいは、基板ホルダ31とノズル20の双方を移動させる機構であってもよい。いずれにしても、ノズル20の噴射面21と基板面41との対向領域を、有効領域と無効領域とで往復させる機構であればよい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の成膜方法は、例えば、ガーネットの単結晶からなる基板上に圧電セラミック膜を形成した電圧駆動型の磁気光学空間光変調器(MOSLM)などの圧電セラミック膜の製造方法として適用することができる。
【符号の説明】
【0038】
1a〜1d エアロゾル・デポジション装置
2,8 高圧ガスタンク
3 ガス導入管路
4 ガス導出管路
5,15b,15c,16b,16c バルブ
6a〜6d 流量制御部
10 粉体混合容器
11 粉体
14 エアロゾル
20 ノズル
21 ノズル面
30 成膜室
31 基板ホルダ
32 移動機構
40 基板
41 基板面
42 有効領域
43 無効領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板面の所定領域を成膜すべき有効領域として、当該有効領域にエアロゾル・デポジション法により薄膜を形成するための方法であって、
エアロゾルの噴射ノズルの噴射面と基板面とを対向させて配置するとともに、当該噴射面と基板面との対向領域が前記有効領域とそれ以外の無効領域との間を往復するように前記ノズルと前記基板とを相対移動させる噴射面移動ステップと、
前記噴射面移動ステップによって相対移動する前記対向領域が、前記有効領域にあるとき、粉体を含んだガスを所定の流量で噴射する成膜噴射ステップと、
前記噴射面移動ステップによって相対移動する前記対向領域が、前記無効領域であるとき、前記所定の流量より大きな流量でガスを噴射する無効噴射ステップと、
を含むことを特徴とするエアロゾル・デポジション法による成膜方法。
【請求項2】
請求項1において、前記無効噴射ステップでは、前記ガスに粉体を含ませないことを特徴とするエアロゾル・デポジション法による成膜方法。
【請求項3】
エアロゾル・デポジション法によって基板面に薄膜を形成するためのエアロゾル・デポジション装置であって、
粉体を収納するともに、当該粉体をガス中に分散させてエアロゾルを発生させるための粉体混合容器と、
前記混合容器内にガスを導入するためのガス導入口と、
前記粉体混合容器外にガスを導出するためのガス導出口と、
一端が前記ガス導出口に接続されるとともに、他端がガスを噴射するためのノズルに接続されているガス導出管路と、
前記ノズルにおけるガス噴射面に対して前記基板の面を対向させた状態で保持する基板保持部と、
前記基板保持部と前記ノズルとが設置されて減圧下で成膜が行われる成膜室と、
前記ガス噴射面と前記基板保持部に保持された基板とを相対移動させるための噴射領域移動機構と、
前記噴射領域移動機構に連動して前記ノズルからの噴射ガスの流量を制御する流量制御部とを備え、
前記噴射領域移動機構は、前記ガス噴射面を、前記基板保持部に装着されている前記基板の面に対向配置させつつ、当該基板面内で所定の厚さの薄膜が形成される有効領域と、それ以外の無効領域とを往復させ、
前記流量制御部は、前記噴射領域移動機構によって前記ガス噴射面が前記有効領域に対向しているときは、前記ガスを所定流量に制御するとともに、前記噴射面が無効領域に対向しているときは、前記ガスを当該所定流量より大きくする、
ことを特徴とするエアロゾル・デポジション装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記ガス導出管路は、前記導出口から前記ノズルに至る経路上に、ガス供給源への直通管路が接続されているとともに、前記導出口と前記ノズルとを連絡する経路と、前記ガス供給源と前記ノズルとを連絡する経路とを切り替えるためのバルブを備え、
前記流量制御部は、当該バルブを制御して、前記噴射面が無効領域に対向しているときは、前記ノズルと前記直通管路とを連絡させる、
ことを特徴とするエアロゾル・デポジション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−229460(P2010−229460A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76657(P2009−76657)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000237721)FDK株式会社 (449)
【Fターム(参考)】