説明

エコー造影可能な金属針

【課題】汎用の超音波撮影装置を用いた場合でも、確実に造影可能な体内挿入用の金属針を提供すること。
【解決手段】本発明の金属針は、金属の強酸溶液、酢酸、および酢酸ブチルからなる群より選択される液体に浸漬した後、乾燥させることによって得られる。好適には、浸漬処理に用いられる金属の強酸溶液は、遷移元素、ランタノイド、およびアクチノイドからなる群より選択される金属の硝酸溶液、例えば、パラジウム、ガドリニウム、ゲルマニウム、ベリリウム、ストロンチウム、スカンジウム、およびサマリウムからなる群より選択される金属の硝酸溶液であり得る。本発明の金属針は、血管内への挿入、臓器への到達の確認、折れた場合の針位置の確認などに有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エコー造影可能な金属針に関する。より詳細には、ヒトおよび動物の体内挿入用の金属針に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトまたは動物の卵巣から卵子を採取するに当たり、一般的には、超音波プローブに組織採取針をセットして、超音波エコー下に組織採取針を穿刺し、卵巣に組織採取針を到達させる。超音波採卵は、針の挿入方法の違いにより、腹壁プローブを用いた経膀胱的採卵法、腹壁プローブまたは経膣プローブを用いた経膣採卵法、腹壁プローブを用いた経尿道採卵法に分類され、現在では、穿刺距離が短く皮膚を傷つけないこと、局所麻酔が有効であることなどの理由から、経膣的方法が超音波採卵で最もよく採用されている。
【0003】
超音波採卵は、シングルニードルの超音波針を卵胞に穿刺し、シリンジで洗浄液を注入し、その後、別のシリンジで吸引して卵を採取する操作を繰り返すことにより行われていた。しかし、この方法は1つのシリンジを別なシリンジに差し替える操作の間に、刃先が振れたり、あるいは洗浄液の逆流あるいは漏出が起こったりするため、卵子の採取に時間がかかり、卵子の採取率も低いとの欠点を有していた。採卵ルートの内径を卵子が通過できる大きさに確保するとともに、洗浄ルートの流量も十分に確保できるように、その後、先端に刃先が設けられた中空金属外針と、該外針に内装された中空内管とを備えるダブルルーメン組織採取針が開発されている(特許文献1および2)。
【0004】
このような組織採取針に限らず、体内に挿入して位置をエコーで確認するための針には、一般的に、超音波を反射するエコーガイドが針の先端部近傍の外表面に設けられている。エコーガイドは、例えば、研磨スリットやサンドブラストによって形成された微細な凹凸であり得る。穿刺および挿入に影響を与えないように、エコーガイドの形成される表面積は狭い。非常に精度の良い超音波撮影装置を用いれば、このようなエコーガイドがなくても針を造影可能であるが、一般的な汎用の超音波撮影装置では、エコーガイドの部分しか造影されない。そのため、針が固定されている場合、例えば、針の向きと超音波プローブの走査方向との関係によっては、針を造影できないこともある。したがって、非常に小さい針先の位置をエコーにより確実に把握することは、かなり困難なことである。
【特許文献1】特開2001−190560号公報
【特許文献2】特開2003−126106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、汎用の超音波撮影装置を用いた場合でも、確実に造影可能な体内挿入用の金属針を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、金属の強酸溶液、酢酸、および酢酸ブチルからなる群より選択される液体に浸漬した後、乾燥させることによって得られる、金属針を提供する。
【0007】
1つの実施態様では、上記金属の強酸溶液は、遷移元素、ランタノイド、およびアクチノイドからなる群より選択される金属の硝酸溶液である。
【0008】
さらなる実施態様では、上記金属の強酸溶液は、パラジウム、ガドリニウム、ゲルマニウム、ベリリウム、ストロンチウム、スカンジウム、およびサマリウムからなる群より選択される金属の硝酸溶液である。
【0009】
1つの実施態様では、上記金属の強酸溶液中の該金属の濃度は、980〜1020mg/Lであり、そして該強酸の濃度は、0.08〜1.1mol/Lである。
【0010】
ある実施態様では、上記金属針は、組織採取用である。
【0011】
1つの実施態様では、上記液体は、原子吸光分析用標準原液である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、汎用の超音波撮影装置においても確実に造影可能な金属針が提供される。したがって、最新の超音波撮影装置を用いなくても、既設の装置のもとで、より確実に針の造影が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明において、金属針とは、先端に刃先が設けられた金属針をいう。注射針のような中空金属針であっても、縫合針のような中空ではない金属針であってもよい。中空金属針とは、その外形は内部が連通する管状体であり、その先端部には刃先が設けられている。その刃先形状は、通常、先端が鋭利な刃面である。中空金属針は、中空金属針のみからなるシングルニードルであってもよく、あるいは、中空金属針を外針として中空内管を内装するダブルルーメンニードルであってもよい。
【0014】
金属針の材料である金属としては、ステンレス、チタン、ニッケルチタン合金、マグネシウム合金などが挙げられる。
【0015】
金属針の外径および長さ、中空針の場合には内径は、その用途に応じて適宜設定される。例えば、組織採取針の場合、通常、外径は通常0.5〜2.5mm、好ましくは1.4〜1.8mmであり、内径は通常0.3〜2.2mm、好ましくは1.0〜1.6mmであり、そして長さは通常50〜450mm、好ましくは200〜400mmであり得る。例えば、注射針の場合は、外径は通常0.2〜3.0mm、好ましくは0.23〜2.7mmであり、内径は通常0.05〜2.9mm、好ましくは0.08〜2.5mmであり、そして長さは通常3〜200mm、好ましくは4〜180mmであり得る。縫合針は、目的に応じた形状であり得、その外径は通常0.2〜0.7mm、好ましくは0.3〜0.6mmであり、そして長さは通常3〜15mm、好ましくは6〜12mmであり得る。
【0016】
上記金属針を、金属の強酸溶液、酢酸、および酢酸ブチルからなる群より選択される液体に浸漬した後、乾燥させることによって、エコー造影可能な金属針が得られる。
【0017】
強酸としては、硝酸、塩酸、硫酸が挙げられ、本発明においては、硝酸が好ましく用いられる。例えば、濃硝酸や濃硫酸であってもよいが、通常は水溶液の形態で用いられ得る。強酸の濃度は、金属に応じて異なり、通常0.08〜1.1mol/L、好ましくは、0.1〜1.1mol/L、より好ましくは0.9〜1.1mol/L、さらに好ましくは0.92〜1.08mol/L、さらにより好ましくは0.95〜1.05mol/Lである。
【0018】
本発明において、強酸溶液中の金属は、遷移元素(d−ブロック元素)、ランタノイド、およびアクチノイドからなる群より選択される金属が好ましい。本発明で用いられ得るこのような金属としては、パラジウム、ガドリニウム、ゲルマニウム、ベリリウム、ストロンチウム、スカンジウム、サマリウムが挙げられる。好ましくは、パラジウムおよびガドリニウムであり、より好ましくは、パラジウムである。これらの金属は、単独であってもあるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。金属の強酸溶液中の金属の濃度は、好ましくは900〜1100mg/L、より好ましくは980〜1020mg/Lである。
【0019】
酢酸および酢酸ブチルは、いずれも液体である。本発明においては、これらを、水溶液の形態で用いることはあまり好ましくない。
【0020】
本発明において、上記の金属の強酸溶液、酢酸、および酢酸ブチルからなる群より選択される液体は、いずれも純度が高いことが好ましい。このような液体として、例えば、上記の金属、酢酸、酢酸ブチルなどの原子吸光分析用標準原液が挙げられる。
【0021】
上記金属針は、その全体または針先を含む一部分が、上記の液体に浸漬される。浸漬条件は特に限定されない。通常、常温(例えば、室温)にて10〜120分間、好ましくは30〜60分間浸漬される。浸漬中は、液体を振盪または攪拌してもよい。
【0022】
浸漬後、液体から取り出された金属針は、水洗後、乾燥に供される。乾燥温度は、通常は40〜200℃、好ましくは70〜180℃、より好ましくは100〜170℃である。乾燥時間は、特に限定されず、乾燥温度に依存して変動する。金属針が恒量になるまで行われることが好ましい。例えば、乾燥温度が約70℃の場合は30〜60分間であり得、そして約150℃の場合は10〜30分間であり得る。
【0023】
本発明の金属針は、上記のようにして、液体に浸漬した後に乾燥することによって得られる。本発明の金属針は、体内に穿刺された場合にエコー造影可能であり、超音波プローブ(すなわち、超音波を発生させて反射した超音波(エコー)を受信する探触子)の針に対する方向や超音波プローブの走査方向にかかわらず、確実に針を検知することができる。例えば、図1に示すように、超音波プローブを針に対して垂直に当てた場合には、金属針は点として造影され、点に続いて針の影が扇形に明確に映し出される。あるいは、図2に示すように、超音波プローブを針に対して平行に当てた場合には、金属針が線として明確に造影される。
【0024】
また、本発明の金属針は、強酸により処理されているにもかかわらず、溶出試験や毒性試験にも十分に合格し得る。すなわち、浸漬および乾燥処理という簡単な操作のみで、安全に使用できかつエコー造影可能な金属針が得られる。
【0025】
本発明の金属針は、組織採取や標的部位への注入の場合のように、体内における針の挿入位置を正確に把握することが必要な場合に好適に用いられる。例えば、血管内への挿入、臓器への到達の確認、折れた場合の針位置の確認などに有用である。本発明の金属針は、特に、組織採取用、なかでも卵巣からの採卵用の針として有用である。
【実施例】
【0026】
(実施例1:パラジウム30分処理針の製造)
ステンレス(SUS304)からなる中空針(外径1.25mm、内径0.9mm、長さ150mm:株式会社共伸)を、パラジウム標準原液(原子吸光分析用:関東化学株式会社)(製品規格:パラジウム 980〜1020mg/L;硝酸 0.9〜1.1mol/L)100mL中に室温にて30分間浸漬した。次いで、針をパラジウム標準原液から取り出し、水洗後、乾燥機中で150℃にて15分間乾燥させて、パラジウム30分処理針を得た。
【0027】
得られたパラジウム30分処理針について、溶出試験および細胞毒性試験を行ったところ、いずれにおいても特に問題はなかった(データは示さず)。なお、溶出試験は、透析型人工腎臓装置承認基準(昭和58年6月20日薬発第494号)のVII 人工腎臓用留置針の品質及び試験法に従って行い、そして細胞毒性試験は、Biological Reactivity Tests, IN VITRO (USP29)に従って行った。
【0028】
(実施例2:パラジウム30分処理針のエコー造影−1)
上記実施例1で得られたパラジウム30分処理針を、ブタのブロック肉(100cm×100cm×100cm)に穿刺した。超音波診断装置(型番UF−4500:フクダ電子株式会社)のプローブを、穿刺した針に対して垂直になるようにブロック肉上に置き(図1参照)、エコー撮影を行った。結果を図3に示す。なお、パラジウム標準原液の代わりに蒸留水を用いたこと以外は、上記実施例1と同様に操作することによって得られた水処理針を、対照として用いて、同様に撮影した。その結果を図4に示す。
【0029】
図3に示すように、パラジウム30分処理針は、写真の中央上方に点として造影され、その影が写真の下方に扇形として明確に映っていた。このように、パラジウム30分処理針では扇形が明確に検出されるので、扇形の要の位置が針の位置であると容易に特定できた。これに対して、水処理針は、図4に示すように、針は写真の中央上方に点として造影されているようであるが、扇形の影がないため、針の位置の特定が困難であった。
【0030】
(実施例3:パラジウム30分処理針のエコー造影−2)
上記実施例1で得られたパラジウム30分処理針を、ブタのブロック肉(100cm×100cm×100cm)に穿刺した。超音波診断装置(型番UF−4500:フクダ電子株式会社)のプローブを、穿刺した針に対して平行にブロック肉上に置き(図2参照)、エコー撮影を行った。結果を図5に示す。なお、針の先端にエコーガイドが設けられている従来の組織採取針(外径0.9〜1.25mm、内径0.6〜0.95mm、長さ400mm:COOK社)を対照として用いて、同様に撮影した。その結果を図6に示す。
【0031】
図5に示すように、パラジウム30分処理針は、針全体が、明確に映し出された。これに対して、先端にエコーガイドが設けられている従来の針では、図6に白矢印で示すように、針の先端部のみが映し出されているため、静止している針の像を見出すことは容易ではなかった。
【0032】
(実施例4:種々の液体による処理の検討)
パラジウム標準原液の代わりに、以下の表1に示す液体を用いたこと以外は、上記実施例1と同様に操作することによって、種々の液体によって処理された針を製造した。なお、表1に示す金属の標準原液または標準液は、いずれも硝酸溶液であった。次いで、得られた各液体処理針について、上記実施例3と同様にエコー造影を行った。結果を表1にあわせて示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1に示す種々の液体での処理によって、ステンレス針は、いずれも良好に造影されるようになった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、汎用の超音波撮影装置においても容易に造影可能な金属針が提供される。この金属針は、非常に簡単な処理によって得られ得、安全性にも問題がない。したがって、本発明の針は、組織採取や標的部位への注入の場合のように、体内に挿入される針の位置を正確に把握することが必要な場合に有用である。さらに、例えば、体内に留置された針や、外科手術時に体内に放置された針の位置を検知することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】ブロック肉に穿刺した金属針に対して超音波プローブを垂直に当てた場合の金属針とプローブとの位置関係を示す模式図であり、そして左上の挿入図は、その場合のエコー撮影画像の模式図である。
【図2】ブロック肉に穿刺した金属針に対して超音波プローブを平行に当てた場合の金属針とプローブとの位置関係を示す模式図であり、そして右上の挿入図は、その場合のエコー撮影画像の模式図である。
【図3】ブロック肉に穿刺したパラジウム30分処理針に対して超音波プローブを垂直に当てた場合のエコー撮影画像の写真である。
【図4】ブロック肉に穿刺した水処理針に対して超音波プローブを垂直に当てた場合のエコー撮影画像の写真である。
【図5】ブロック肉に穿刺したパラジウム30分処理針に対して超音波プローブを平行に当てた場合のエコー撮影画像の写真である。
【図6】ブロック肉に穿刺したエコーガイドを設けた針に対して超音波プローブを平行に当てた場合のエコー撮影画像の写真である(従来技術)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の強酸溶液、酢酸、および酢酸ブチルからなる群より選択される液体に浸漬した後、乾燥させることによって得られる、金属針。
【請求項2】
前記金属の強酸溶液が、遷移元素、ランタノイド、およびアクチノイドからなる群より選択される金属の硝酸溶液である、請求項1に記載の金属針。
【請求項3】
前記金属の強酸溶液が、パラジウム、ガドリニウム、ゲルマニウム、ベリリウム、ストロンチウム、スカンジウム、およびサマリウムからなる群より選択される金属の硝酸溶液である、請求項2に記載の金属針。
【請求項4】
前記金属の強酸溶液中の該金属の濃度が、980〜1020mg/Lであり、そして該強酸の濃度が、0.08〜1.1mol/Lである、請求項1から3のいずれかに記載の金属針。
【請求項5】
前記金属針が、組織採取用である、請求項1から4のいずれかに記載の金属針。
【請求項6】
前記液体が、原子吸光分析用標準原液である、請求項1から5のいずれかに記載の金属針。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−246068(P2008−246068A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93359(P2007−93359)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【出願人】(304053979)株式会社共伸 (10)
【Fターム(参考)】