説明

エステル基含有テトラカルボン酸化合物、ポリエステルイミド前駆体、ポリエステルイミドおよびこれらの製造方法

【課題】本発明は高いガラス転移温度、低い線熱膨張係数、低い吸水率、十分な膜強度、アルカリエッチング特性を併せ持つ、特にフレキシブルプリント配線回路(FPC)用基材およびハードディスクドライブ回路付サスペンション用絶縁材料として有益なポリエステルイミド、その前駆体およびこれらの原料であるエステル基含有テトラカルボン酸化合物、ならびにそれらの製造方法を提供するものである。
【解決手段】式(1)または(2):




(式中、A、RおよびRは、請求項1記載のとおりである)で表される、エステル基含有テトラカルボン酸化合物、ならびに該テトラカルボン酸化合物を原料として得られるポリエステルイミド前駆体およびポリエステルイミド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高いガラス転移温度、低い線熱膨張係数、低い吸水率、十分な膜強度、アルカリエッチング特性を併せ持つ、フレキシブルプリント配線回路(FPC)用基材、テープオートメーションボンディング(TAB)用基材、各種電子デバイスにおける電気絶縁材料、ならびに液晶ディスプレー用基板、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレー用基板、電子ペーパー用基板および太陽電池用基板用の基材として、特にFPC用基材およびハードディスクドライブ回路付サスペンション用絶縁材料として有益なポリエステルイミド、その前駆体およびこれらの原料であるエステル基含有テトラカルボン酸化合物、ならびにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは優れた耐熱性のみならず、耐薬品性、耐放射線性、電気絶縁性、優れた機械的性質などの特性を併せ持つことから、現在FPC用基板、TAB用基材、半導体素子の保護膜、集積回路の層間絶縁膜等、様々な電子デバイスに現在広く利用されている。ポリイミドはこれらの特性以外にも、製造方法の簡便さ、極めて高い膜純度、入手可能な種々のモノマーを用いた物性改良のしやすさといったことから、近年益々その重要性が高まっている。
【0003】
電子機器の軽薄短小化が進むにつれてポリイミドへの要求特性も年々厳しさを増し、ハンダ耐熱性だけに留まらず、熱サイクルや吸湿に対するポリイミドフィルムの寸法安定性、透明性、金属基板との接着性、成型加工性、ビアホール等の微細加工性、エッチング特性等、複数の特性を同時に満足する多機能性ポリイミド材料が求められるようになってきている。
【0004】
近年、FPC用基板としてのポリイミドの需要が飛躍的に増加している。FPC用の原反(フレキブル銅貼積層板、FCCL)の構成は主に3つの様式に分類される。即ち、1)ポリイミドフィルムと銅箔とをエポキシ系接着剤等を用いて貼り付ける3層タイプ、2)銅箔にポリイミドワニスを塗付後、乾燥するか、または銅箔にポリイミド前駆体(ポリアミド酸)ワニスを塗布後、乾燥・イミド化するか、あるいはポリイミドフィルム上に蒸着・スパッタ等により銅層を形成する無接着剤2層タイプ、3)接着層として熱可塑性ポリイミドを用いる擬似2層タイプが知られている。ポリイミドフィルムに高度な寸法安定性が要求される用途では接着剤を使用しない2層タイプあるいは擬似2層タイプのFCCLが有利である。
【0005】
FPC基板としてのポリイミドは実装工程における様々な熱サイクルに曝されて寸法変化が起こる。これをできるだけ抑えるためには、ポリイミドのガラス転移温度(Tg)が工程温度よりも高いことに加えて、Tg以下での線熱膨張係数ができるだけ低いことが望ましい。後述するようにポリイミド層の線熱膨張係数の制御は2層FCCL製造工程中に発生する残留応力の低減の観点からも極めて重要である。
【0006】
多くのポリイミドは有機溶媒に不溶で、ガラス転移温度以上でも溶融しないため、ポリイミドそのものを成型加工することは通常容易ではない。そのためポリイミドは一般に、無水ピロメリット酸(PMDA)等の芳香族テトラカルボン酸二無水物と4,4’−オキシジアニリン(ODA)等の芳香族ジアミンとをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の非プロトン性極性有機溶媒中で等モル反応させて、先ず高重合度のポリイミド前駆体(ポリアミド酸)を重合し、このワニスを銅箔上に塗付し、250〜400℃で加熱脱水閉環(イミド化)して製膜される。
【0007】
残留応力は、高温でのイミド化反応後にポリイミド/金属基板積層体を室温へ冷却する過程で発生し、FCCLの反り、剥離、膜の割れ等、深刻な問題がしばしば起こる。
【0008】
熱応力低減の方策として、絶縁膜であるポリイミド自身を低熱膨張化することが有効である。殆どのポリイミドでは線熱膨張係数が40〜100ppm/Kの範囲にあり、金属基板例えば銅の線熱膨張係数17ppm/Kよりもはるかに大きいため、銅の値に近い、およそ20ppm/K以下を示す低熱膨張性ポリイミドの研究開発が行われている。
【0009】
現在実用的な低熱膨張性ポリイミド材料としては3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp−フェニレンジアミンから形成されるポリイミドが最もよく知られている。このポリイミドフィルムは、膜厚や作製条件にもよるが、5〜10ppm/Kと非常に低い線熱膨張係数を示すことが知られている(例えば、非特許文献1参照)が、低吸水性は示さない。
【0010】
ポリイミドの寸法安定性は、熱サイクルだけでなく吸湿に対しても要求される。従来のポリイミドでは2〜3重量%も吸湿する。絶縁層の吸湿による寸法変化に伴う回路の位置ずれは高密度配線や多層配線にとって深刻な問題である。ポリイミド/導体界面でのコロージョン、イオンマイグレーション、絶縁破壊等、電気特性の低下によって更に深刻な問題を引き起こす恐れがある。そのため絶縁膜としてのポリイミド層はできるだけ吸水率が低いことが求められている。
【0011】
低吸水率を実現するための分子設計として、例えばトリメリット酸無水物とヒドロキノンから誘導される式(6)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物を使用してポリイミド骨格へのパラ芳香族エステル結合を導入することが有効であると報告されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0012】
【化7】

【0013】
しかしながら更なる低吸水率化を目論み、ポリイミド中のパラ芳香族エステル基の含有率を更に増加すれば、ポリイミド最大の特長である耐熱性、前駆体の溶解性(溶液キャスト製膜性)、重合反応性(重合時に沈殿しないこと)等の悪化が懸念される。
【0014】
また、4−ヒドロキシフタル酸無水物とテレフタル酸ジクロリドより調製したエステル基含有テトラカルボン酸二無水物と、4,4’−オキシジアニリンからのポリエステルイミドが、良好な熱安定性(5%重量減少温度による)を示したことが報告されている(例えば、非特許文献3参照)。しかしながら、ガラス転位温度は他のポリイミドに比べてむしろ低いことが示されている。また、このエステル基含有テトラカルボン酸二無水物を用いて、低線熱膨張係数や低吸水率を示すポリイミドが得られる可能性については全く示唆されていない。
【0015】
また近年のハードディスクドライブ(HDD)の記憶容量の大容量化、データ転送速度の高速化等に対応して、磁気ディスクへの読み書きを行うヘッドを搭載したステンレス製スプリング部材であるサスペンションの構造が、従来のワイヤ配線付サスペンションからワイヤレス(回路付)サスペンションへと大きく変化している。
【0016】
回路付サスペンションの製造プロセス技術が開示されており(例えば、非特許文献4および5参照)、主に次の3種類に大別される。即ち、1)FPCとサスペンションを貼り付けて一体化するもので、まず銅箔/ポリイミドフィルムからなる片面銅貼積層板を準備し、これにフォトレジストを用いて銅回路を作成し、その回路基板とステンレス製サスペンションとを最後に貼り付ける方法、2)各構成層をエッチングで形成するものであり、まずステンレス(SUS)箔/ポリイミドフィルム/銅箔から成る積層板を準備し、フォトレジストを用いて露光・現像・エッチング工程を経て銅層の回路形成を行う方法、3)各構成層をSUS箔上に回路を積み上げて形成するもので、まずSUS箔を準備し、この上に絶縁層として感光性または非感光性ポリイミド層を形成し、その絶縁層上にシード層を形成した後、メッキにより銅回路を形成していく方法、である。
【0017】
低コストの点で有利な、非感光性ポリイミドと金属箔で構成されている市販の銅貼積層板等を使用する場合や、金属箔上に絶縁層としてより低価格な非感光性ポリイミドをキャスト法で形成する場合では、上記のいずれの方式においても、ポリイミドのエッチング工程が必要となる。エッチング工程には酸素プラズマ等を用いた乾式プロセスとエッチング液を用いた湿式プロセスがあるが、設備、処理コスト、生産性の点で湿式法が優れている。しかしながら従来用いられていたヒドラジン系エッチング溶液は有害で扱いが難しいという問題があった。また近年エタノールアミンによるポリイミドのエッチングが検討されているが、コストや後処理の問題が指摘されている。ポリイミド中のイミド基は水酸化ナトリウム水溶液等の無機の強塩基により加水分解を受けるため、これを用いてエッチングすることは可能であるが、しばしばエッチング速度が十分でないという問題があった。
【0018】
HDD用回路付サスペンションにおける絶縁膜としてポリイミドを適用する場合、ポリイミドの線熱膨張係数は金属箔に一致していることが望ましい。即ち低線熱膨張係数が要求される。HDDにおけるヘッドと磁気ディスクとの間隙はわずか数十nmであり、熱膨張係数の差によるステンレス箔の変形はディスクのクラッシュ等の重大な問題を引き起こす恐れがある。またポリイミド層の吸湿による膨張も同様な観点から好ましくない。
【0019】
ポリイミドを湿式法でエッチングした際、パターンの端面に層状痕が生じ、これが原因で洗浄等の工程中に一部が剥離・脱落し、HDDの故障原因になりうる。この層状痕はエッチング温度が高いほど激しくなると報告されている(例えば、非特許文献6参照)。従って、より低い温度でエッチングできれば、端面からの脱落粒子発生を抑制することができるが、エッチング温度を下げすぎると、エッチング速度が急激に低下する恐れがある。
【0020】
イミド基よりもよりアルカリ加水分解しやすいと期待されるエステル基を含有し、低線熱膨張係数、低吸水率、耐熱性を有するポリイミド、即ち剛直な骨格を持つポリエステルイミドを使用すれば上記産業分野に有益な材料を提供しうるが、このような要求特性を満足する実用的な材料は今のところ殆ど知られていないのが現状である。
【非特許文献1】Macromolecules,29,7897(1996)
【非特許文献2】高分子討論会予稿集,53,4115(2004)
【非特許文献3】J.Polym.Mater.,18,449(2001)
【非特許文献4】フジクラ技報、99号、72(2000)
【非特許文献5】富士通技報、53、145(2002)
【非特許文献6】フジクラ技報、105号、33(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は高いガラス転移温度、低い線熱膨張係数、低い吸水率、十分な膜強度、アルカリエッチング特性を併せ持つ、フレキシブルプリント配線回路(FPC)用基材、テープオートメーションボンディング(TAB)用基材、各種電子デバイスにおける電気絶縁材料、ならびに液晶ディスプレー用基板、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレー用基板、電子ペーパー用基板および太陽電池用基板用の基材として、特にFPC用基材およびハードディスクドライブ回路付サスペンション用絶縁材料として有益なポリエステルイミド、その前駆体およびこれらの原料であるエステル基含有テトラカルボン酸化合物、ならびにそれらの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
以上の問題を鑑み、鋭意研究を積み重ねた結果、エステル基含有テトラカルボン酸二無水物と芳香族または脂環式ジアミンより、式(4)で表されるポリエステルイミド前駆体を重合し、このワニスを銅箔等の導体基板上に塗付・乾燥してフィルムとし、これを熱的にまたは脱水試薬等を用いて環化反応(イミド化)することにより、形成された式(5)で表されるポリエステルイミドが、上記産業分野において極めて有益な材料となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0023】
即ち本発明は以下に示すものである。
1.式(1)または(2):
【0024】
【化8】


【化9】

【0025】
〔式(1)および(2)中、Aは、式(3):
【0026】
【化10】

【0027】
(式(3)中、R、R、RおよびRは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルキル基、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルコキシ基またはハロゲン原子を表すが、但し、R、R、RおよびRの少なくとも1つは水素原子ではない)より選択される2価の芳香族基または脂環式基を表し、
式(2)中、RおよびRは、共にヒドロキシ基であるか、あるいはRおよびRの一方がヒドロキシ基またはハロゲン原子であり、他方が炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルキコシ基を表す〕で表される、エステル基含有テトラカルボン酸化合物。
2.式(4):
【0028】
【化11】

【0029】
〔式(4)中、
Xは、下記式(3):
【0030】
【化12】

【0031】
(式(3)中、R、R、RおよびRは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルキル基、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルコキシ基またはハロゲン原子を表す)より選択される2価の芳香族基または脂環式基を表し、
Yは、2価の芳香族基または脂環式基を表し、2価の基の結合位置関係は、パラ位またはそれに相当する関係にあり、
Rは、水素原子、トリアルキルシリル基または炭素原子数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルキル基を表すが、但し、Xが、1,4−フェニレンである場合、Yは、4,4’−オキシジフェニレンではない〕で表される反復単位を有するポリエステルイミド前駆体。
3.固有粘度が0.1〜8.0dL/gの範囲である、式(4)で表されるポリエステルイミド前駆体。
4.式(5):
【0032】
【化13】

【0033】
(式(5)中、XおよびYは、式(4)と同義である)で表される反復単位を有するポリエステルイミド。
5.前記2または3に記載のポリエステルイミド前駆体を、加熱あるいは脱水試薬を用いて環化反応(イミド化)させることを特徴とする、前記4に記載のポリエステルイミドの製造方法。
6.エステル基含有テトラカルボン酸化合物と芳香族または脂環式ジアミンとを、溶媒中、高温下で重縮合反応することを特徴とする、前記4に記載のポリエステルイミドの製造方法。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、高いガラス転移温度、低い線熱膨張係数、低い吸水率、十分な膜強度、アルカリエッチング特性を併せ持つ、フレキシブルプリント配線回路(FPC)用基材、テープオートメーションボンディング(TAB)用基材、各種電子デバイスにおける電気絶縁材料、ならびに液晶ディスプレー用基板、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレー用基板、電子ペーパー用基板および太陽電池用基板用の基材として、特にFPC用基材およびハードディスクドライブ回路付サスペンション用絶縁材料として有益なポリエステルイミド、その前駆体およびこれらの原料であるエステル基含有テトラカルボン酸化合物、ならびにそれらの製造方法を提供することができる。
【0035】
ポリイミドを低熱膨張化するための分子設計として、主鎖骨格をできるだけ直線状で剛直(内部回転により多様なコンホメーションをとりにくく)する必要がある。しかし一方で、これによりポリマー鎖の絡み合いが減少し、フィルムが脆弱化する恐れがある。また、ポリイミド骨格へのエーテル結合等の屈曲性単位の過大な導入は膜靭性の向上には大きく寄与するが、低熱膨張特性の発現を妨げる
【0036】
本発明において着目したパラ芳香族エステル結合はエーテル結合に比べて内部回転障壁が高く、コンホメーション変化が比較的妨げられているため、剛直構造単位として振舞い、且つポリイミド主鎖にある程度の柔軟さも付与し、可撓性のフィルムを与えることが期待される。
【0037】
またエステル結合はアミド結合やイミド結合よりも単位体積当たりの分極率が低いため、ポリイミドへのエステル結合の導入は低吸水率化にも有利である。
【0038】
本発明の上記式(5)で表されるポリエステルイミドおよび式(4)で表されるその前駆体を構成するエステル基含有テトラカルボン酸化合物の特徴の一つは、その分子内に疎水基として振舞う芳香族基あるいは脂環式基Xと2つのエステル基を含有し、これらが全てパラ位またはそれに相当する位置関係にある点である。これにより、低吸水率と低熱膨張係数を同時に実現することが可能になる。
【0039】
この観点から式(4)および(5)中、式(3)で表される構造単位Xのうち、エステル基を含有するものをモノマーとして使用すると、ポリエステルイミドの低吸水率化により有利である。また、ポリエステルイミド分子内のエステル基濃度が増加するため、アルカリエッチング速度の向上も期待される。
【0040】
また、該ポリエステルイミドが結晶化して、膜が脆弱化する場合、式(3)中、置換基を持つ1,4−フェニレン基を含有するものをモノマーとして使用すると、ポリマー鎖間のパッキングを乱し、結晶化を妨げて膜の脆弱化を防ぐ効果が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明するが、これらは本発明の実施形態の一例であり、これらの内容に限定されない。
【0042】
本発明は式(1)または(2)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸化合物を原料とし、各種ジアミンと組み合わせて重合反応させることにより産業上極めて有用なポリエステルイミドを提供することができる。該エステル基含有テトラカルボン酸化合物の反応性、剛直性、疎水性、置換基の立体的嵩高さという構造上の特徴から、樹脂とした際に低線熱膨張係数、低吸水率、高ガラス転移温度、アルカリエッチング特性という従来の材料では得ることのできなかった物性を有する材料とすることができる。
【0043】
<エステル基含有テトラカルボン酸化合物およびその製造方法>
式(1)で表される本発明のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物の製造方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。より具体的には、式(7):
【0044】
【化14】

【0045】
〔式中、Aは、式(3):
【0046】
【化15】

【0047】
(式(3)中、R、R、RおよびRは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルキル基、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルコキシ基またはハロゲン原子を表すが、但し、R、R、RおよびRの少なくとも1つは水素原子ではない)より選択される、2価の芳香族基あるいは脂環式基を表す〕で表されるジカルボン酸化合物と、2当量の4−ヒドロキシフタル酸無水物を原料としてエステル化反応により製造できる。なお、4−ヒドロキシフタル酸無水物は、公知の方法(例えば、ドイツ特許第1,065,425号に記載の方法)に従い、製造可能である。
【0048】
なお、本発明において、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルキル基は、たとえばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシルを意味するが、好ましくは炭素数1〜4の直鎖状もしくは分岐状アルキル基であり、特に好ましくはメチルまたはエチルである。炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルコキシ基は、たとえばメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブチルオキシ、イソブチルオキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシを意味するが、好ましくは炭素数1〜4の直鎖状もしくは分岐状アルコキシ基であり、特に好ましくはメトキシである。ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素を意味する。
【0049】
エステル化反応の際適用できる方法として、例えば、ジカルボン酸のカルボキシル基と4−ヒドロキシフタル酸無水物のヒドロキシ基を直接脱水反応させるか、あるいはジカルボン酸と4−ヒドロキシフタル酸無水物のジアセテート化体とを高温で反応させ脱酢酸してエステル化する方法、ジシクロヘキシルカルボジイミド等の脱水試薬を用いて脱水縮合させる方法、カルボキシル基を酸ハライドに変換し、これと4−ヒドロキシフタル酸無水物を脱酸剤(塩基)の存在下で反応させる方法、トシルクロリド/N,N−ジメチルホルムアミド/ピリジン混合物を用いてジカルボン酸中のカルボキシル基を活性化してエステル化する方法等が挙げられる。上述の方法の中でも、直接脱水する方法とエステル交換法、酸ハライドに変換する方法が、経済性、反応性の点で好ましく適用できる。
【0050】
次に、式(1)で表される本発明のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物の酸ハライド法による合成方法について具体的に説明するが、特に限定されない。まずジカルボン酸ジクロリドを合成する。具体的な例としては、ハロゲン化剤として塩化チオニルを用いる方法、オキザリルクロリドを用いる方法、三塩化リンを用いる方法、安息香酸クロリドなどの他の酸クロリドを使用する方法などが挙げられる。中でも過剰に使用した試剤の留去のしやすさの点から塩化チオニルを用いる方法が好適に用いられる。この際、塩化チオニルの使用量は特に制限はないが、溶剤としての働きも有するため、ジカルボン酸に対して大過剰使用することが望ましい。塩素化の触媒としてN,N−ジメチルホルムアミドやピリジン等を塩化チオニルに添加してもよい。反応は室温でも行えるが、通常50〜90℃に加熱還流して行うことが好ましい。反応後は過剰な塩素化試剤を常圧あるいは減圧下にて留去するが、塩素化試剤と共沸組成物を形成するベンゼンやトルエン等の溶媒を添加することもできる。得られたジカルボン酸ジクロリドはヘキサンやシクロヘキサン等の無極性溶媒を用いて再結晶することでより純度を高めることができるが、そのような精製操作を行わなくても通常十分高純度なものが得られるので、そのまま次の反応工程に使用しても差し支えない。
【0051】
次に、このようにして得られたジカルボン酸ジクロリドと4−ヒドロキシフタル酸無水物を反応させてエステル化し、式(1)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物を合成する。まずジカルボン酸クロリド(A mol)を溶媒に溶解し、セプタムキャップで密栓する。この溶液に、4−ヒドロキシフタル酸無水物(2×A mol)および適当量のピリジン(脱酸剤)を同一溶媒に溶解したものをシリンジまたは滴下ロートにてゆっくりと滴下する。滴下終了後、反応混合物を24時間撹拌する。目的物の溶解度が高い場合は、反応混合物からまず生成したピリジン塩酸塩を濾別し、濾液をエバポレーターで溶媒留去し、100〜200℃で24時間真空乾燥して粉末状の粗生成物を得る。目的物の溶解度が低い場合には、目的物とピリジン塩酸塩の混合物を濾別し、これを大量の水で洗浄して塩酸塩のみ溶解除去する。次に一部洗浄工程で一部加水分解を受けた粗生成物を100〜200℃で真空乾燥して閉環処理する。このようにして得られた粗生成物を適当な溶媒で再結晶、洗浄、加熱真空乾燥工程を経て重合に供することのできる高純度の式(1)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物が得られる。
【0052】
この反応の際、使用可能な溶媒としては、特に限定されないが、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ピコリン、ピリジン、アセトン、クロロホルム、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,2−ジメトキシエタン−ビス(2−メトキシエチル)エーテル等の非プロトン性溶媒、およびフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール等のプロトン性溶媒が挙げられる。またこれらの溶媒を単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。
【0053】
本発明式(1)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物の合成は、−10〜50℃で行われるが、より好ましくは0〜30℃で行われる。反応温度が50℃よりも高いと一部副反応が起こり、収率が低下する恐れがあり、好ましくない。
【0054】
該エステル基含有テトラカルボン酸二無水物を得る反応は、溶質濃度5〜50重量%の範囲で行われる。副反応の制御、沈殿の濾過工程を考慮して、好ましくは10〜40重量%の範囲で行われる。
【0055】
反応に用いる脱酸剤としては、特に限定されないが、ピリジン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン等の有機3級アミン類、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム等の無機塩基が用いられる。
【0056】
反応により生成した沈殿物は、脱酸剤としてピリジンを使用した場合、主にピリジン塩酸塩である。例えば溶媒としてテトラヒドロフランを用いた場合、ピリジン塩酸塩は殆ど溶媒に溶解しないため、反応溶液を濾過するだけで、塩酸塩をほぼ完全に分離することができる。通常、目的物の溶解度が高い場合は目的物は濾液中に溶解しているので、濾液から溶媒を留去し、無水酢酸等で再結晶するだけで高収率で十分高い純度の目的物が得られるが、痕跡量の塩素成分を分離除去するために、目的物をクロロホルムや酢酸エチル等に再溶解し、分液ロートを用いて有機層を水洗する方法や、沈殿物を単に十分水洗する方法を用いることも可能である。塩酸塩の除去は洗浄液を1%硝酸銀水溶液を用いて塩化銀の白色沈殿の精製の有無をもって、容易に判断することができる。水洗操作の際、該エステル基含有テトラカルボン酸二無水物が一部加水分解を受けて、ジカルボン酸に変化するが、80〜250℃、好ましくは120〜200℃で真空乾燥することで、一部加水分解したものを容易にジカルボン酸を酸二無水物に戻すことができる。また有機酸の酸無水物と処理する方法も可能である。使用可能な有機酸の酸無水物としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸などが挙げられるが、除去の容易さの点で無水酢酸が好適に用いられる。
【0057】
次に式(2)で表される本発明のエステル基含有テトラカルボン酸化合物において、RおよびRが、共にヒドロキシ基である場合、即ちエステル基含有テトラカルボン酸の合成方法について説明するがこれに限定されない。該エステル基含有テトラカルボン酸は、式(1)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物を加水分解することで容易に得られる。具体的には該エステル基含有テトラカルボン酸二無水物をテトラヒドロフラン等の水混和性溶媒に溶解し、これを室温〜100℃に保持したpH7〜10の希アルカリ水溶液中へ撹拌しながら滴下する。生成した沈殿を濾別・水洗し、これをテトラヒドロフラン等の水混和性溶媒に再溶解し、室温〜100℃に保持したpH3〜7の希酸性水溶液中へ撹拌しながら滴下する。生成した沈殿を濾別・水洗し、40〜100℃で真空乾燥することで目的のエステル基含有テトラカルボン酸が得られる。
【0058】
次に式(2)で表される本発明のエステル基含有テトラカルボン酸化合物において、Rが、ヒドロキシ基であり、Rが、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルキコシ基である場合、即ちエステル基含有テトラカルボン酸のジアルキルエステルの合成方法について説明するがこれに限定されない。これは式(1)のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物より容易に得られる。具体的には、式(1)のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物に過剰量の脱水アルコール類を加えて1〜12時間加熱還流することで定量的にジカルボン酸ジアルキルエステルが得られる。この際アルコールとして反応後の留去のしやすさの点からメタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコールが好適に用いられる。
【0059】
次に式(2)で表される本発明のエステル基含有テトラカルボン酸化合物において、Rが、ハロゲン原子であり、Rが、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルキコシ基である場合、即ちエステル基含有テトラカルボン酸のジアルキルエステルジクロリドの合成方法について説明するがこれに限定されない。上記のようにして得られた該エステル基含有テトラカルボン酸のジアルキルエステルに過剰量の塩素化剤を加えて加熱し、カルボン酸部位を塩素化することで重合に供することのできる高純度のテトラカルボン酸のジアルキルエステルジクロリドを定量的に合成することができる。塩素化反応後の塩素化剤除去が容易であるという点から、塩素化剤として塩化チオニルが好適に用いられる。塩化チオニルで塩素化を行う場合、反応を早めるためにN,N−ジメチルホルムアミド、ピリジン等の触媒を添加することも可能である。更に純度を高めるために該テトラカルボン酸のジアルキルエステルジクロリドを無極性溶媒を用いて再結晶することも可能である。この際再結晶溶媒としてn−ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、酢酸エチル、エーテル、クロロホルム等の低極性で不活性な溶媒、あるいはこれらの混合物が好適に用いられる。
【0060】
<ポリエステルイミド前駆体およびその製造方法>
本発明に係るポリエステルイミド前駆体(ポリアミド酸即ち、式(4)中、R=水素原子)を製造する方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。より具体的には、以下の方法により得られる。まず芳香族または脂環式ジアミンを重合溶媒に溶解し、これに下記式(8)または(9):
【0061】
【化16】


【化17】

【0062】
〔式(8)および(9)中、Xは、式(3):
【0063】
【化18】

【0064】
(式(3)中、R、R、RおよびRは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルキル基、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルコキシ基またはハロゲン原子を表す)より選択される2価の芳香族基または脂環式基を表し、
式(9)中、RおよびRは、共にヒドロキシ基であるか、あるいはRおよびRの一方がヒドロキシ基またはハロゲン原子であり、他方が炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルキコシ基を表す〕で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物粉末を徐々に添加し、メカニカルスターラーを用い、0〜100℃、好ましくは20〜60℃で0.5〜100時間好ましくは1〜24時間攪拌する。この際、重合溶媒中のジアミンとテトラカルボン酸化合物のモノマー濃度の合計は5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%である。このモノマー濃度範囲で重合を行うことにより均一で高重合度のポリイミド前駆体溶液を得ることができる。
【0065】
重合の際、ピリジン等の脱酸剤の存在下、式(8)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物の代わりに、式(9)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸ジアルキルエステルジクロリドを使用することで、ポリアミド酸のアルキルエステル(式(4)中、R=炭素原子数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルキル基)が得られる。
【0066】
また、重合の際、芳香族または脂環式ジアミンをあらかじめジシリル化体に変換しておき、これに該テトラカルボン酸二無水物を添加することで、ポリアミド酸のシリルエステル(式(4)中、R=トリアルキルシリル基)を得ることができる。なお、本発明においてトリアルキルシリル基とは、−Si(R)(R)(R)基〔ここで、R、RおよびRは、各々独立に、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルキル基を表す〕を意味するものとする。したがってジアミンのトリアルキルシリル化の際に使用可能なシリル化剤として、特に限定されないが、トリメチルシリルクロリド等のハロゲン化アルキルシランの他、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、N,O−ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド等が挙げられる。
【0067】
ポリエステルイミドフィルムの靭性の観点から、ポリエステルイミド前駆体の重合度はできるだけ高いことが望ましい。上記モノマー濃度範囲より低濃度で重合を行うと、ポリエステルイミド前駆体の重合度が十分高くならず、最終的に得られるポリエステルイミドフィルムが脆弱になる恐れがあり、好ましくない。また、上記モノマー濃度範囲より高濃度で重合を行うと、モノマーや生成するポリマーの溶解が不十分となる恐れがある。
【0068】
一方、重合度が高すぎると、ワニスが扱いにくくなる恐れがある。従ってポリエステルイミドフィルムの靭性およびワニスのハンドリングの観点から、本発明の式(4)で表されるポリエステルイミド前駆体の固有粘度(N,N−ジメチルアセトアミド中、30℃、0.5重量%の濃度で測定)は、好ましくは0.1〜8.0dL/gの範囲であり、より好ましくは0.5〜6.0dL/gの範囲、特には1.0〜5.5dL/gの範囲である。
【0069】
本発明に係るポリエステルイミドフィルムの要求特性およびポリエステルイミド前駆体の重合反応性を損なわない範囲で、該ポリエステルイミド前駆体重合の際に式(8)または(9)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸化合物以外のテトラカルボン酸化合物を使用することが出来る。使用可能な芳香族テトラカルボン酸化合物としては、特に限定されないが、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、ハイドロキノン−ビス(トリメリテート アンハイドライド)等が挙げられる。また、これらを2種類以上用いてもよい。
【0070】
同様に、使用可能な脂肪族テトラカルボン酸化合物としては、特に限定されないが、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、5−(ジオキソテトラヒドロフリル−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−テトラリン−1,2−ジカルボン酸無水物、テトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ−3,3’ ,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。またこれらを2種類以上併用することもできる。
【0071】
しかしながら、本発明のポリエステルイミドの要求特性およびポリエステルイミド前駆体の重合反応性を満足するためには、使用するテトラカルボン酸化合物成分中、式(8)または(9)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸化合物が、60mol%以上であることが好ましく、70mol%以上であることがより好ましい。
【0072】
本発明に係るポリエステルイミド前駆体の製造に使用される芳香族または脂環式ジアミンは、重合反応性、ポリエステルイミドの要求特性の観点から、式(10):
N−Y−NH (10)
(式中、Yは、2価の芳香族基または脂環式基を表し、2価の基の結合位置関係は、パラ位またはそれに相当する関係にある)で表されるものである。好ましくは、芳香族基または脂環式基は、単環または二環式の、炭素数6〜12の芳香族または脂環式炭化水素基であるか、あるいは同一または異なる2つの前記芳香族または脂環式炭化水素基が、連結基を介して結合している環式基である。2価の基の結合位置関係が、「パラ配置若しくはそれに相当する関係にある」とは、ジアミン中の2つのアミノ基と、場合により連結基とを含む相互の結合位置関係の少なくとも一つ、好ましくは全てがパラ配置であるか、または一方の結合位置に対して、他方の結合位置が点対称または線対称にあるような配置を意味する。連結基としては、単結合であるか、あるいはエーテル基、アミド基、エステル基またはフェニレン基等が挙げられるが、特に単結合、アミド基、エステル基等の剛直性の連結基を含有する芳香族または脂環式ジアミンが好適に用いられる。そのようなジアミンとしては、特に限定されないが、p−フェニレンジアミン、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、2,5−ジアミノトルエン、ベンジジン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、o−トリジン、m−トリジン、4,4’−オキシジアニリン、3,4’−オキシジアニリン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、4−アミノフェニル 4’−アミノベンゾエート、4−アミノ−2−メチルフェニル 4’−アミノベンゾエート、p−ターフェニレンジアミン等が挙げられる。
【0073】
本発明に係るポリエステルイミド前駆体の重合反応性、ポリエステルイミドの要求特性を著しく損なわない範囲で、上記式(10)で表される芳香族または脂環式ジアミン以外に使用可能なジアミンとしては、特に限定されないが、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノキシレン、2,4−ジアミノデュレン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−メチレンビス(2−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン等の芳香族ジアミン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、シス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロ〔5.2.1.0〕デカン、1,3−ジアミノアダマンタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−プロパンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン等の脂肪族ジアミンが挙げられる。またこれらを2種類以上併用することもできる。
【0074】
ポリエステルイミドの要求特性を満足するために、ジアミン成分中、上記式(10)で表される芳香族または脂環式ジアミンを60mol%以上使用することが好ましく、70mol%以上使用することがより好ましい。
【0075】
重合反応の際使用される溶媒としてはN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性溶媒が好ましいが、原料モノマーと生成するポリイミド前駆体が溶解すれば問題はなく、特にその構造には限定されない。具体的に例示するならば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン等の環状エステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、m−クレゾール、p−クレゾール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノール等のフェノール系溶媒、アセトフェノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシドなどが好ましく採用される.さらに、その他の一般的な有機溶剤、即ちフェノール、o−クレゾール、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、2−メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロへキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒なども添加して使用できる。
【0076】
本発明のポリエステルイミド前駆体はその重合溶液を、大量の水やメタノール等の貧溶媒中に滴下・濾過・乾燥し、粉末として単離することもできる。
【0077】
<ポリエステルイミドおよびその製造方法>
本発明のポリエステルイミドは、上記の方法で得られたポリエステルイミド前駆体を脱水閉環反応(イミド化反応)することで製造することができる。この際ポリエステルイミドの使用可能な形態は、フィルム、金属箔/ポリエステルイミドフィルム積層体、粉末、成型体および溶液である。
【0078】
まず本発明のポリエステルイミドのフィルムを製造する方法について述べる。例えば、前述のようにして得られた本発明のポリエステルイミド前駆体の重合溶液(ワニス)を、ガラス、銅、アルミニウム、シリコン、ステンレス等の基板上に流延し、オーブン中40〜180℃、好ましくは50〜150℃で乾燥する。得られた本発明のポリエステルイミド前駆体のフィルムを、基板上で、真空中、あるいは窒素等の不活性ガスまたは空気中、200〜430℃、好ましくは250〜400℃で加熱することで本発明のポリエステルイミドフィルムを製造することができる。加熱温度がこれ以下だとイミド化の閉環反応が不完全であったりするため好ましくなく、また高すぎると生成したポリエステルイミドフィルムが一部熱分解したりする可能性があるため好ましくない。またイミド化は真空中あるいは不活性ガス中で行うことが望ましいが、イミド化温度が高すぎなければ空気中で行っても差し支えない。
【0079】
またイミド化反応は、熱処理に代えて、該ポリエステルイミド前駆体フィルムをピリジンやトリエチルアミン等の3級アミン存在下、無水酢酸等の脱水試薬を含有する溶液に浸漬することによって行うことも可能である。
【0080】
さらに、本発明のポリエステルイミド前駆体の重合ワニスを、そのままあるいは同一の溶媒で適度に希釈した後、150〜200℃に加熱することで、ポリイミド自体が用いた溶媒に溶解する場合、本発明のポリエステルイミドの溶液(ワニス)を容易に製造することができる。ポリエステルイミド自体が用いた溶媒に不溶な場合でも、同様の処理により、結晶性のポリエステルイミドを沈殿物として得ることができる。この際、イミド化の副生成物である水等を共沸留去するために、トルエンやキシレン等を添加しても差し支えない。また触媒としてγ−ピコリン等の塩基を添加することができる。得られたワニスを大量の水やメタノール等の貧溶媒中に滴下・濾過し、本発明のポリエステルイミドを粉末として単離することもできる。また該ポリエステルイミド粉末を上記重合溶媒に再溶解してポリエステルイミドワニスとすることができる。
【0081】
本発明のポリエステルイミドは、そのポリエステルイミド前駆体を経由することなく、前記式(8)または(9)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸化合物、特には本発明の式(1)または(2)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸化合物と、前記式(10)で表されるジアミンとを溶媒中130〜250℃、好ましくは150〜200℃で反応させることにより一段階で重合することができる。この際、ポリエステルイミドが用いた溶媒に不溶な場合、ポリエステルイミドは沈殿として得られ、可溶な場合はポリエステルイミドのワニスとして得られる。重合溶媒は特に限定されず、ポリエステルイミド前駆体重合の際に使用可能な上記溶媒から選択することができ、m−クレゾール等のフェノール系溶媒やN−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒が好適に用いられる。イミド化反応の副生成物である水を共沸留去するために、これらの溶媒中にトルエンやキシレン等を添加することができる。またイミド化触媒としてγ−ピコリン等の塩基を添加することもできる。得られたワニスを大量の水やメタノール等の貧溶媒中に滴下・濾過し、本発明のポリエステルイミドを粉末として単離することができる。またそのポリエステルイミド粉末が溶媒に可溶である場合は、上記溶媒に再溶解してポリイミドワニスとすることができる。
【0082】
上記ポリエステルイミドワニスを、上記ポリエステルイミドフィルムの製造の際と同様の基板上に塗布し、40〜400℃、好ましくは100〜300℃で乾燥することによってもポリエステルイミドフィルムを形成することができる。
【0083】
上記のように得られたポリエステルイミド粉末を200〜450℃、好ましくは250〜430℃で加熱圧縮することでポリエステルイミドの成型体を作製することができる。
【0084】
ポリエステルイミド前駆体溶液中にN,N−ジシクロヘキシルカルボジイミドやトリフルオロ無水酢酸等の脱水試薬を添加・撹拌して0〜100℃、好ましくは0〜60℃で反応させることにより、ポリエステルイミドの異性体であるポリエステルイソイミドが生成する。イソイミド化反応は上記脱水試薬を含有する溶液中にポリエステルイミド前駆体フィルムを浸漬することでも可能である。ポリエステルイソイミドワニスを上記と同様な手順で製膜した後、250〜450℃、好ましくは270〜400℃で熱処理することにより、ポリエステルイミドへ容易に変換することができる。
【0085】
金属箔例えば銅箔上に該ポリエステルイミド前駆体ワニスを塗付・乾燥後、上記の条件によりイミド化することで、銅張積層板を得ることができる。更に塩化第二鉄水溶液等のエッチング液を用いて銅層を所望する回路状にエッチングすることで、無接着剤型フレキシブルプリント配線回路を製造することができる。
【0086】
本発明のポリエステルイミドおよびその前駆体中に、必要に応じて酸化安定剤、フィラー、接着促進剤、シランカップリング剤、感光剤、光重合開始剤、末端封止剤および増感剤等の添加物を加えることができる。
【実施例】
【0087】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これら実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における物性値は、次の方法により測定した。
<赤外吸収スペクトル>
フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光社製FT−IR5300)を用い、透過法にてエポリエステルイミド前駆体およびポリエステルイミド薄膜(5μm厚)の赤外線吸収スペクトルを測定した。
H−NMRスペクトル>
日本電子社製NMR分光光度計(ECP400)を用いて、重水素化ジメチルスルホキシド中でエステル基含有テトラカルボン酸二無水物のH−NMRスペクトルを測定した。
<示差走査熱量分析(融点および融解曲線)>
エステル基含有テトラカルボン酸二無水物の融点および融解曲線は、ブルカーエイエックス社製示差走査熱量分析装置(DSC3100)を用いて、窒素雰囲気中、昇温速度2℃/分で測定した。融点が高く融解ピークがシャープであるほど、化合物は高純度であることを示す。
<固有粘度:[η]>
0.5重量%のポリエステルイミド前駆体のN,N−ジメチルアセトアミド溶液を、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。
<ガラス転移温度:Tg>
ブルカーエイエックス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて動的粘弾性測定により、周波数0.1Hz、昇温速度5℃/分における損失ピークからポリエステルイミドフィルム(20μm厚)のガラス転移温度を求めた。
<線熱膨張係数:CTE>
ブルカーエイエックス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて、熱機械分析により、荷重0.5g/膜厚1μm、昇温速度5℃/分における試験片の伸びより、100〜200℃の範囲での平均値としてポリエステルイミドフィルム(20μm厚)の線熱膨張係数を求めた。
<5%重量減少温度:T
ブルカーエイエックス社製熱重量分析装置(TG−DTA2000)を用いて、窒素中または空気中、昇温速度10℃/分での昇温過程において、ポリエステルイミドフィルム(20μm厚)の初期重量が5%減少した時の温度を測定した。これらの値が高いほど、熱安定性が高いことを表す。
<複屈折:Δn>
アタゴ社製アッベ屈折計(アッベ4T)を用いて、ポリエステルイミドフィルム(20μm厚)に平行な方向(nin)と垂直な方向(nout)の屈折率を測定し(ナトリウムランプ使用、波長589nm)、これらの屈折率の差から複屈折(Δn=nin−nout)を求めた。この値が高いほど、ポリマー鎖の面内配向度が高いことを意味する。
<誘電率:εcal
アタゴ社製アッベ屈折計(アッベ4T)を用いて、ポリエステルイミドフィルムの平均屈折率〔nav=(2nin+nout)/3〕に基づいて次式:εcal=1.1×navにより1MHzにおけるポリエステルイミドフィルムの誘電率(εcal)を算出した。
<吸水率>
50℃で24時間真空乾燥したポリエステルイミドフィルム(膜厚20〜30μm)を24℃の水に24時間浸漬した後、余分の水分を拭き取り、重量増加分から吸水率(%)を求めた。殆どの用途においてこの値が低いほど好ましい。
<弾性率、破断伸び>
東洋ボールドウィン社製引張試験機(テンシロンUTM−2)を用いて、ポリエステルイミドフィルム(20μm厚)の試験片(3mm×30mm)について引張試験(延伸速度:8mm/分)を実施し、応力―歪曲線の初期の勾配から弾性率を、フィルムが破断した時の伸び率から破断伸び(%)を求めた。破断伸びが高いほどフィルムの靭性が高いことを意味する。
【0088】
(実施例1)
<エステル基含有テトラカルボン酸二無水物の合成>
まず、トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(以下、CHDCAと称する)の塩素化を行った。還流器付ナス型フラスコにCHDCA 50mmolを入れ、これが浸る程度の塩化チオニルと触媒としてN,N−ジメチルホルムアミドを数滴加えた。窒素雰囲気中、反応溶液をその沸点で3時間還流した後、無水ベンゼンを投入して、塩化チオニルを共沸留去した。これを室温で24時間真空乾燥し、粗塩素化物を得た。これをn−ヘキサンで再結晶し、室温で24時間真空乾燥して収率66%で高純度のCHDCAジクロリドを得た。
別のナスフラスコにこの塩素化物20mmolをいれ、無水テトラヒドロフランに溶解させ、セプタムシールして溶液Aを調製した(溶質濃度:10重量%)。更に別のフラスコ中で4−ヒドロキシフタル酸無水物(ドイツ特許第1,065,425号に記載の方法に従い、4−クロロ無水フタル酸の代わりに4−ブロモ無水フタル酸を利用して調製)40mmolを無水テトラヒドロフランに溶解し、これにピリジン120mmolを加えてセプタムシールし溶液Bを調製した(溶質濃度:10重量%)。
氷浴中で冷却、攪拌しながら、溶液Aに溶液Bをシリンジにて1時間かけて滴下し、その後室温で24時間攪拌した。白色沈殿物を濾別し、これを水洗してピリジン塩酸塩を溶解除去した。これを100℃で24時間真空乾燥し、粗生成物を得た。これを無水1,4−ジオキサンから再結晶し、180℃で24時間真空乾燥して収率66%で、本発明の式(1)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物(式中、A=トランス−1,4−シクロヘキサンジイル:以下、CHDCAHPと称する)を得た。図1〜3に赤外吸収スペクトル、H−NMRスペクトル、示差走査熱量曲線をそれぞれ示す。これらの結果より、高純度な目的物が得られたことが確認された。
【0089】
(実施例2)
ジカルボン酸としてトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の代わりに、4−カルボキシフェニル 4’−カルボキシベンゾエートを用いた以外は、実施例1に記載した方法に従って、本発明の式(1)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物(以下、CPCBHPと称する)を合成した。図4〜6に赤外吸収スペクトル、示差走査熱量曲線(融解曲線)をそれぞれ示す。これらの結果より、高純度な目的物が得られたことが確認された。
【0090】
(合成例1)
ジカルボン酸クロリドとしてトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジクロリドの代わりに、テレフタル酸ジクロリドを用いた以外は、実施例1に記載した方法に従って、式(1)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物(式中、A=1,4−フェニレン:以下、TPHPと称する)を合成した。
【0091】
(実施例3)
<ポリエステルイミド前駆体の重合、イミド化およびポリエステルイミドフィルム特性の評価>
よく乾燥した攪拌機付密閉反応容器中に4−アミノフェニル 4’−アミノベンゾエート(以下、APABと称する)5mmolを入れ、モレキュラーシーブス4Aで十分に脱水したN,N−ジメチルアセトアミドに溶解した後、この溶液に合成例1に記載のTPHPの粉末5mmolを徐々に加えた。全モノマー濃度30重量%で重合を開始し、反応と共に溶液粘度が急激に増加したため、徐々に同一溶媒で希釈して最終的にモノマー濃度14重量%まで希釈した。室温でトータル46時間撹拌し、透明、均一で粘稠なポリエステルイミド前駆体溶液を得た。このポリエステルイミド前駆体溶液は、室温および−20℃で一ヶ月間放置しても、沈澱、ゲル化は全く起こらず、高い溶液貯蔵安定を示した。N,N−ジメチルアセトアミド中、30℃、0.5重量%の濃度でオストワルド粘度計にて測定したポリエステルイミド前駆体の固有粘度は1.83dL/gであった。このポリエステルイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、60℃、2時間で乾燥して得たポリエステルイミド前駆体フィルムを基板上、減圧下300℃で30分更に350℃で1時間熱イミド化を行った後、残留応力を除去するために基板から剥がして310℃で2時間、熱処理を行い、膜厚約20μmの淡黄色のわずかに濁ったなポリエステルイミドフィルムを得た。このポリエステルイミドフィルムは180°折曲げ試験によっても破断せず、可撓性を示した。また如何なる有機溶媒に対しても全く溶解性を示さなかった。このポリエステルイミドフィルムについて動的粘弾性測定を行った結果、349℃にガラス転移点が観測されたが、ガラス転移温度以上での貯蔵弾性率の顕著な低下は見られず、広い温度範囲に渡って高い寸法安定性が見られた。また線熱膨張係数は2.6ppm/Kとシリコンに匹敵する極めて低い線熱膨張係数を示した。これは、非常に大きな複屈折値(Δn>0.185)から判断して、ポリエステルイミド鎖の高度な面内配向によるものと考えられる。また5%重量減少温度は窒素中で483℃、空気中で477℃であった。また、吸水率0.1%と極めて低く、引張弾性率(ヤング率)4.27GPa、破断強度0.179GPa、破断伸び7.9%と優れた機械的特性を示した。このようにこのポリエステルイミドは極めて低い線熱膨張係数、低吸水率、高い熱安定性、十分な膜靭性を示した。表1に物性値をまとめる。得られたポリエステルイミド前駆体およびポリエステルイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを図7、図8にそれぞれ示す。
【0092】
(実施例4)
ジアミンとしてAPABの代わりに4−アミノ−2−メチルフェニル 4’−アミノベンゾエート(以下、ATABと称する)を用いた以外は実施例3に記載の方法に従って、ポリエステルイミド前駆体を重合し、製膜、イミド化してポリエステルイミドフィルムを作製し、同様に物性評価した。物性値を表1に示す。実施例3に記載のポリエステルイミドと同様に、銅箔に近い低線熱膨張係数、低吸水率、高い熱安定性、比較的低い誘電率および十分な膜靭性を示した。
【0093】
(実施例5)
ジアミンとしてAPABの代わりに2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(以下、TFMBと称する)を用いた以外は実施例3に記載した方法に従って、ポリエステルイミド前駆体を重合し、製膜、イミド化してポリエステルイミドフィルムを作製し、同様に物性評価した。物性値を表1に示す。実施例3に記載のポリエステルイミドと同様に、銅箔に近い低線熱膨張係数、低吸水率、高い熱安定性、比較的低い誘電率および十分な膜靭性を示した。
【0094】
(実施例6)
ジアミン成分としてとしてAPABの代わりにATABを用い、テトラカルボン酸二無水物成分として実施例1で得られたテトラカルボン酸二無水物(CHDCAHP)を用いた以外は実施例3に記載した方法に従って、ポリエステルイミド前駆体を重合し、製膜、イミド化してポリエステルイミドフィルムを作製し、同様に物性評価した。物性値を表1に示す。
【0095】
(実施例7)
ジアミン成分としてとしてAPABの代わりにp−フェニレンジアミン(以下、PDAと称す)を用いた以外は実施例3に記載の方法に従って、ポリエステルイミド前駆体を重合し、製膜、イミド化してポリエステルイミドフィルムを作製し、同様に物性評価した。物性値を表1に示す。
<アルカリ溶解性試験>
水酸化カリウム50重量%水溶液1mLに上記実施例7で得られたポリエステルイミドフィルム片10mgを投入して溶解性を調べた。室温においても5分経過後、試験片は殆ど溶解し、80℃では試験片投入後速やかに溶解した。
【0096】
(実施例8)
ジアミン成分としてとしてAPABの代わりに3,4’−オキシジアニリン(以下、3,4’−ODAと称す)を用いた以外は実施例3に記載の方法に従って、ポリエステルイミド前駆体を重合し、製膜、イミド化してポリエステルイミドフィルムを作製し、同様に物性評価した。物性値を表1に示す。
【0097】
(実施例9)
テトラカルボン酸二無水物成分としてTPHPの代りに実施例1で得られたテトラカルボン酸二無水物(CHDCAHP)を用い、ジアミン成分としてとしてAPABの代わりにp−フェニレンジアミン(以下、PDAと称す)を用いた以外は実施例3に記載した方法に従って、ポリエステルイミド前駆体を重合し、製膜、イミド化してポリエステルイミドフィルムを作製し、同様に物性評価した。物性値を表1に示す。
【0098】
(実施例10)
テトラカルボン酸二無水物成分としてTPHPの代りに実施例1で得られたテトラカルボン酸二無水物(CHDCAHP)を用い、ジアミン成分としてとしてAPABの代わりに4,4’−オキシジアニリン(以下、4,4’−ODAと称す)を用いた以外は実施例3に記載した方法に従って、ポリエステルイミド前駆体を重合し、製膜、イミド化してポリエステルイミドフィルムを作製し、同様に物性評価した。物性値を表1に示す。
【0099】
(実施例11)
テトラカルボン酸二無水物成分としてTPHPの代りに実施例1で得られたCHDCAHPを用い、ジアミン成分としてとしてAPABの代わりにTFMBを用いた以外は実施例3に記載した方法に従って、ポリエステルイミド前駆体を重合し、製膜、イミド化してポリエステルイミドフィルムを作製し、同様に物性評価した。物性値を表1に示す。
【0100】
(実施例12)
テトラカルボン酸二無水物成分としてTPHPの代りに実施例1で得られたCHDCAHPを用い、ジアミン成分としてとしてAPABの代わりにo−トリジン(以下、o−TOLと称す)を用いた以外は実施例3に記載した方法に従って、ポリエステルイミド前駆体を重合し、製膜、イミド化してポリエステルイミドフィルムを作製し、同様に物性評価した。物性値を表1に示す。
【0101】
(実施例13)
テトラカルボン酸二無水物成分としてTPHPの代りに実施例1で得られたCHDCAHPを用い、ジアミン成分としてとしてAPABの代わりにPDAと、4,4’−ODAとを9:1(モル比)の割合で用いた以外は実施例3に記載した方法に従って、ポリエステルイミド前駆体を重合し、製膜、イミド化してポリエステルイミドフィルムを作製し、同様に物性評価した。物性値を表1に示す。
【0102】
(実施例14)
テトラカルボン酸二無水物成分としてTPHPの代りに実施例1で得られたCHDCAHPを用い、ジアミン成分としてとしてAPABの代わりにPDAと、4,4’−ODAとを8:2(モル比)の割合で用いた以外は実施例3に記載した方法に従って、ポリエステルイミド前駆体を重合し、製膜、イミド化してポリエステルイミドフィルムを作製し、同様に物性評価した。物性値を表1に示す。
【0103】
(実施例15)
テトラカルボン酸二無水物成分としてTPHPの代りに実施例1で得られたCHDCAHPを用い、ジアミン成分としてとしてAPABの代わりにPDAと、4,4’−ODAとを7:3(モル比)の割合で用いた以外は実施例3に記載した方法に従って、ポリエステルイミド前駆体を重合し、製膜、イミド化してポリエステルイミドフィルムを作製し、同様に物性評価した。物性値を表1に示す。
【0104】
(比較例1)
ポリエステルイミド膜の代わりに市販のKAPTON−Hフィルム(東レ・デュポン社製、膜厚50μm)を用いた以外は実施例7に記載した方法に従って溶解性試験を行った。室温では10分後も溶解する気配が全く見られず、80℃で14分後でもフィルムは若干白濁し変形したが明らかな溶解性は見られなかった。
【0105】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明のポリエステルイミドは低線熱膨張係数、低吸水率、高ガラス転移温度、十分な膜靭性およびアルカリエッチング特性を有するため、各種電子デバイスにおける電気絶縁材料およびフレキシブルプリント配線回路用(FPC)基材、ディスプレー用基板、電子ペーパー用基板、太陽電池用基板等に利用でき、特にFPC用基材およびHDD回路付サスペンション用絶縁材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】実施例1に記載の本発明の式(1)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物の赤外線吸収スペクトルである。
【図2】実施例1に記載のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物のH−NMRスペクトルである。
【図3】実施例1に記載の本発明の式(1)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物の示差走査熱量曲線である。
【図4】実施例2に記載の本発明の式(1)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物の赤外線吸収スペクトルである。
【図5】実施例2に記載の本発明の式(1)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物の示差走査熱量曲線である。
【図6】実施例3に記載のポリエステルイミド前駆体薄膜の赤外線吸収スペクトルである。
【図7】実施例3に記載のポリエステルイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルである。
【図8】実施例6に記載のポリエステルイミド前駆体薄膜の赤外線吸収スペクトルである。
【図9】実施例6に記載のポリエステルイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)または(2):
【化1】


【化2】


〔式(1)および(2)中、
Aは、式(3):
【化3】


(式(3)中、R、R、RおよびRは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルキル基、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルコキシ基またはハロゲン原子を表すが、但し、R、R、RおよびRの少なくとも1つは水素原子ではない)より選択される2価の芳香族基または脂環式基を表し、
およびRは、共にヒドロキシ基であるか、あるいはRおよびRの一方がヒドロキシ基またはハロゲン原子であり、他方が炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルキコシ基を表す〕で表される、エステル基含有テトラカルボン酸化合物。
【請求項2】
式(4):
【化4】


〔式(4)中、
Xは、下記式(3):
【化5】


(式(3)中、R、R、RおよびRは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルキル基、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルコキシ基またはハロゲン原子を表す)より選択される2価の芳香族基または脂環式基を表し、
Yは、2価の芳香族基または脂環式基を表し、2価の基の結合位置関係は、パラ位またはそれに相当する関係にあり、
Rは、水素原子、トリアルキルシリル基または炭素原子数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルキル基を表すが、但し、Xが、1,4−フェニレンである場合、Yは、4,4’−オキシジフェニレンではない〕で表される反復単位を有するポリエステルイミド前駆体。
【請求項3】
固有粘度が0.1〜8.0dL/gの範囲である、式(4)で表されるポリエステルイミド前駆体。
【請求項4】
式(5):
【化6】


(式(5)中、XおよびYは、請求項2と同義である)で表される反復単位を有するポリエステルイミド。
【請求項5】
請求項2または3に記載のポリエステルイミド前駆体を、加熱あるいは脱水試薬を用いて環化反応させることを特徴とする、請求項4に記載のポリエステルイミドの製造方法。
【請求項6】
請求項1記載のエステル基含有テトラカルボン酸化合物と芳香族または脂環式ジアミンとを、溶媒中、高温下で重縮合反応することを特徴とする、請求項4に記載のポリエステルイミドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−314443(P2007−314443A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−143810(P2006−143810)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年5月10日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集 55巻1号(2006)」に発表
【出願人】(000113780)マナック株式会社 (40)
【Fターム(参考)】