説明

エステル混合物

【課題】エステル混合物を提供する。
【解決手段】ポリエーテルポリオールと1種以上の芳香族モノカルボン酸または芳香族モノカルボン酸誘導体と1種以上の脂肪族モノカルボン酸または脂肪族モノカルボン酸誘導体とから生成されるエステル化生成物の混合物を含むエステル混合物、その調製方法、およびポリマー用可塑剤としてのその使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエーテルポリオールと1種以上の芳香族モノカルボン酸または芳香族モノカルボン酸誘導体と、1種以上の脂肪族モノカルボン酸または脂肪族モノカルボン酸誘導体と、から生成されるエステル化生成物の混合物を含むエステル混合物、その調製方法、およびポリマー用可塑剤としてのその使用、に関する。
【背景技術】
【0002】
可塑剤は、加工や使用に供するのに望ましい特性(たとえば可撓性や伸張性)を付与すべく脆性ポリマーや硬質ポリマー(たとえばポリビニルクロリド(PVC))に添加される物質である。
【0003】
そうした用途に供される可塑剤の重要な物質特性については、たとえば、(非特許文献1)および(非特許文献2)に記載されている。一般的には、液状可塑剤が使用される。それは、好ましくは、100,000mPa・s未満の粘度、170℃未満のポリビニルクロリド中溶解温度、および1mgKOH/g未満の酸価を有する。
【0004】
可塑剤として物質を使用する場合、それにより可塑化されたポリマー内にそれが実質的に永久に残存することもまた重要である。多くの可塑剤は、可塑化されたポリマーに接触する物質(たとえば他のポリマー)中に移行する傾向がある。滑剤または発泡剤さらには石鹸溶液により、可塑剤が浸出されることもある。可塑化されるポリマーとの相容性が不十分である可塑剤は、加工後に表面上に付着して望ましくないべたついたフィルムを生成する可能性がある。最後に、可塑剤は、その揮発性に起因して、可塑化ポリマー配合物から蒸発する可能性がある。これは、第1に、ポリマー配合物の望ましくない脆化を招き、第2に、低温表面上への可塑剤の同様に望ましくない付着を招く。これらの現象はすべて、可塑化プラスチックから製造された物品が長期間にわたり高温に暴露されたときに特定の度合で生じる。これらのいわゆる高温用途の一例は、自動車のエンジンコンパートメントで使用されるケーブルシースとしての用途である。
【0005】
したがって、低い揮発性、良好な相容性、および低い移行傾向を有する可塑剤を使用することが好ましい。
【0006】
リン酸エステルおよびスルホン酸エステルに加えて、特に、カルボン酸のアルキルエステルは、可塑剤として使用するのに有利な物質特性を有する。技術的に適切な可塑剤およびその使用については公知であり、たとえば、(非特許文献1)および(非特許文献3)に記載されている。物質の揮発性は、一般的には、分子量の増加に伴って減少する。したがって、使用されるエステルは、通常、単純エステルではなく、むしろ、分子量がより大きいことを理由として、好ましくは、多塩基性カルボン酸と一価アルコールとのエステル、一塩基性カルボン酸と多価アルコールとのエステル、または多塩基性カルボン酸と多価アルコールとのエステルである。後者のグループのエステルは、オリゴマーエステルまたはポリマーエステルを包含し、粘度が高いことが理由となって、前者の2つのグループの低分子量エステルよりも加工が困難である。
【0007】
二塩基性および三塩基性のカルボン酸と一価アルコールとのエステルは、可塑剤として最も頻繁に使用される。その例は、フタル酸エステル(たとえばジオクチルフタレート(DOP))またはトリメリト酸エステル(たとえばトリオクチルトリメリテート(TOTM))である。揮発性が比較的高いことが理由となり、高温用途に供する場合、ジオクチルフタレートのようなジエステルは一般的には不適当である。三塩基性トリメリト酸の対応するトリエステルであるトリオクチルトリメリテートは、高温用途に供される低揮発性可塑剤として定評がある。しかしながら、トリオクチルトリメリテートは、ジオクチルフタレートよりも、加工が困難であり、入手が容易でなく、かつきわめて高価であるので、多くの用途に使用することはできない。
【0008】
いくつかのフタル酸エステル(たとえばジオクチルフタレート)は、最近、健康を害する疑いがもたれている。したがって、(非特許文献4)に準拠して、ジオクチルフタレートは、EUでは、生殖能力を損なう可能性および発生毒性を有する可能性があるものとして分類されなければならない。
【0009】
一塩基酸と二価アルコールとのエステルを同様に可塑剤として有利に使用することが可能である。たとえば、(特許文献1)には、種々のグリコールのジベンゾエートが可塑剤として記載されている。(特許文献2)に教示されているように、これらのジベンゾエートのうちのいくつか(たとえば、エチレングリコールジベンゾエート、ジエチレングリコールジベンゾエート、またはトリエチレングリコールジベンゾエート)は、25℃において固体であるという欠点を有する。
【0010】
(特許文献3)、(特許文献4)、および(特許文献5)には、ジオールを脂肪族カルボン酸と芳香族カルボン酸との混合物と反応させることにより調製される混合エステルが記載されている。しかしながら、ジオールエステルは、揮発性が比較的高いので、多くの用途で許容されない。
【0011】
(特許文献6)には、ホットメルト接着剤調製用の可塑剤として、トリメチロールプロパントリベンゾエートという物質が提案されている。この物質は固体であるので、一般的には可塑剤として不適当である。
【0012】
(特許文献7)には、少なくとも1種の芳香族カルボン酸のカルボキシル基と少なくとも6個の炭素原子の脂肪族カルボン酸のカルボキシル基との両方を同一分子中に含有する、ポリメチロールアルカン(たとえばトリメチロールプロパン)のエステルが記載されている。このいわゆる混合エステルは、ビニルクロリドポリマー用の可塑剤として記載されている。しかしながら、その調製には、複雑な二段階調製法が必要とされる((特許文献7)の第5欄、第15〜17行)。
【0013】
(特許文献8)には、トリメチロールプロパンと安息香酸および2−エチルヘキサン酸とのエステルの混合物が記載されている。これは、可塑剤(好ましくはポリビニルクロリド用)として使用される。しかしながら、エチルヘキサン酸の使用は、(非特許文献5)の情報によれば毒性学的に論議の的になっているので回避すべきである。
【0014】
(特許文献9)には、8〜24個の炭素原子を含有する脂肪族カルボン酸で3〜6個のヒドロキシル基を有する多価アルコールのアルキレンオキシド付加物をエステル化することにより調製される可塑剤が記載されている。(特許文献9)に記載されている可塑剤は、好ましくは、ゴム製品用の可塑剤として使用される。しかしながら、この可塑剤は、高い溶解温度を有しているので、いくつかの用途(ポリビニルクロリド)には適さない。
【0015】
(特許文献10)には、多価アルコールのアルキレンオキシド付加生成物と芳香族カルボン酸とのエステル化反応により得られる可塑剤が記載されている。(特許文献10)に記載されている可塑剤は、アクリレート樹脂用の可塑剤として限定的に使用される。しかしながら、この可塑剤は、高粘度であるという特性を有する。
【特許文献1】米国特許第2,956,978B1号明細書
【特許文献2】米国特許第6,184,278B1号明細書
【特許文献3】米国特許第2,585,448B1号明細書
【特許文献4】米国特許第3,370,032B1号明細書
【特許文献5】米国特許公開第2003/0023112A1号明細書
【特許文献6】独国特許出願公開第2 318 411A1号明細書
【特許文献7】米国特許第3,072,591B1号明細書
【特許文献8】国際公開第02/053635号パンフレット
【特許文献9】特開平06−25474A号公報
【特許文献10】特開2003−171523A号公報
【非特許文献1】デイヴィッド・F・カドガン(David F.Cadogan)、クリストファー・J・ホーウィック(Christopher J.Howick)著:「可塑剤(Plasticizers)」、ウルマン工業化学百科事典(Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry)、電子版、第6版、第1〜6章、ワイリー・VCH(Wiley−VCH)刊、ヴァインハイム(Weinheim)(2003年)
【非特許文献2】L・マイヤー(L.Meier)著:「可塑剤(Plasticizers)」、R・ゲヒター(R.Gaechter)、H・ミュラー(H.Mueller)編:プラスチック添加剤ハンドブック(Taschenbuch der Kunststoffadditive[Handbook of plastics additives])、第3版、p.357〜p.382、ハンザー・フェアラーク(Hanser Verlag)刊、ミュンヘン(Munich)(1990年)
【非特許文献3】L・マイヤー(L.Meier)著:「可塑剤(Plasticizers)」、R・ゲヒター(R.Gaechter)、H・ミュラー(H.Mueller)編:プラスチック添加剤ハンドブック(Taschenbuch der Kunststoffadditive)、第3版、p.341以降、ハンザー(Hanser)刊、ミュンヘン(Munich)(1990年)
【非特許文献4】危険物質に関する指令(Dangerous Substances Directive)67/548/EEC
【非特許文献5】W・J・スコット(W.J.Scott)、M・D・コリンズ(M.D.Collins)、H・ナウ(H.Nau)著;環境衛生特集(Environmental Health Supplements)、第102巻、第S11号、1994年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、本発明の目的は、容易に調製可能であるとともに、有利な加工特性を有し、室温で液体でありかつ長期保存中に液体状態を保持し、低い揮発性および高い熱安定性を特徴とし、しかも毒性学的に論議の的になっている物質を最小限度でしか含まない、ポリマー用可塑剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的は、一般式(I)で表される化合物を少なくとも2種以上含むエステル混合物により達成される。
【0018】
【化1】

【0019】
〔式中、
は、直鎖状もしくは分枝状のC〜C21−アルキル基であり、
、R、R、およびRは、それぞれ独立して、HまたはC〜C−アルキル基であり、
は、1〜3個のC〜C−アルキル基により場合によっては置換されていてもよいC〜C14−アリール基であり、
Zは、3〜6価の脂肪族炭化水素基であり、
xおよびyは、それぞれ独立して0〜6であり、ただし、x+yは、>0でなければならず、
aは、0〜6であり、ただし、aは、>0でなければならず、
bは、0〜6であり、しかも
aは、<bであるかまたはbに等しく、かつ
a+bの合計は、Z基の価数に等しい〕
【0020】
は、好ましくは、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、アラキン酸、またはベヘン酸のような脂肪族モノカルボン酸から、特にラウリン酸から、誘導される。
【0021】
式(I)で特定されている指数a、b、x、およびyは、本発明に係るエステル混合物中に存在するエステルの組成に基づいている。これは、全ての分子が同一の指数により表されるエステルを可塑剤が含むことができるか、または、すべての分子のさまざまな組成を指数が再現しているエステル混合物を可塑剤が含むか、のいずれかを意味する。
【0022】
基は、芳香族モノカルボン酸、例えば、安息香酸、o−トルイル酸、m−トルイル酸、p−トルイル酸、4−tert−ブチル安息香酸、1−ナフトエ酸、または2−ナフトエ酸、特に安息香酸から、誘導されることが好ましい。
【0023】
Z基は、好ましくは、一般式(II)〜(VI)のうちの1つに相当する。
【0024】
【化2】

【0025】
〔式中、
Rは、HまたはC〜C−アルキル鎖であり、
mは1〜4であり、そして
nは0〜3である。〕
【0026】
Z基は、低分子量脂肪族ポリアルコール、例えば、グリセロール、ジグリセロール、1,2,4−ブタントリオール、トレイトール、エリトリトール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、1,2,6−ヘキサントリオール、キシリトール、マンニトール、ソルビトール、またはズルシトール、特に、グリセロール、トリメチロールプロパン、またはペンタエリトリトールから、誘導されることが好ましい。Z基は、特にトリメチロールプロパンから誘導される。
【0027】
本発明に係るエステルは、典型的には1mgKOH/g以下の酸価を有する。それらは、0.5mgKOH/g以下の酸価を有することが好ましい。
【0028】
本発明はまた、
a)いずれの場合にも1分子あたり3〜6個のヒドロキシル基を有する1種以上のポリエーテルポリオールが、
b)1)少なくとも50mol%の1種以上の芳香族C〜C15−モノカルボン酸または芳香族C〜C15−モノカルボン酸誘導体と、
2)多くとも50mol%の1種以上の脂肪族C〜C22−モノカルボン酸または脂肪族C〜C22−モノカルボン酸誘導体と、
の混合物(ただし、混合物は、1)と2)の合計が100%にならなければならない。)で、
c)場合により高温において、
d)場合により触媒の存在下において、かつ
e)場合により反応水を除去しながら、
エステル化され、
ポリエーテルポリオールが、いずれの場合にも、使用される全カルボン酸の一部分だけを用いるいくつかの工程でエステル化することも可能である、
ことを特徴とする、エステル混合物の調製方法を含む。
【0029】
上記ポリエーテルポリオールの分子量は、典型的には約100g/mol〜約2000g/molである。
【0030】
ポリエーテルポリオールは、好ましくは、1種以上の
・環状脂肪族エーテル、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、エチルオキシラン、オキセタン、またはテトラヒドロフラン、特に、エチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシド、ならびに、
分子中に3〜6個のヒドロキシル基を有する低分子量脂肪族ポリアルコール、例えば、グリセロール、ジグリセロール、1,2,4−ブタントリオール、トレイトール、エリトリトール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、1,2,6−ヘキサントリオール、キシリトール、マンニトール、ソルビトール、および/またはズルシトール、特に、グリセロール、トリメチロールプロパン、および/またはペンタエリトリトール
を開環重合または共重合することにより得られる。
【0031】
上記エステル化反応は、慣用的な触媒(たとえば、チタン(IV)イソプロポキシド、チタン(IV)ブトキシド、スズ(II)2−エチルヘキサノエート)および/または連行剤(たとえば、トルエンもしくはキシレン)の助けを借りて加速することが可能である。しかしながら、本発明に係るエステル混合物は、上述のポリエーテルポリオールと、用いられるカルボン酸の誘導体(たとえば、カルボン酸エステル、カルボン酸無水物、またはハロゲン化カルボニル)との反応により調製することも可能である。これらの方法およびさらなる方法については、当業者に公知であり、たとえば、W・リーメンシュナイダー(W.Riemenschneider):「有機エステル(Esters,Organic)」、ウルマン工業化学百科事典(Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry)、電子版、第6版、第5章、ワイリー・VCH(Wiley−VCH)刊、ヴァインハイム(Weinheim)(2003年)に記載されている。エステルの実際の合成に加えて、その調製には、1つ以上の後処理工程、たとえば、水または水溶液による洗浄、漂白、蒸留、乾燥、濾過なども含まれうる。
【0032】
使用される全カルボン酸のモル量は、用いるポリエーテルポリオール中に存在するヒドロキシル基のモル量よりも少なくてもよいし、それに等しくてもよいし、多くてもよい。用いる全カルボン酸のモル量は、好ましくは、用いるポリエーテルポリオール中に存在するヒドロキシル基のモル量を基準にして80〜150mol%である。用いる全カルボン酸のモル量は、より好ましくは、用いるポリエーテルポリオール中に存在するヒドロキシル基のモル量を基準にして90〜120mol%である。
【0033】
反応の終了後、未転化カルボン酸の残分が反応混合物中に残存する可能性がある。これは、特に、用いるポリエーテルポリオール中に存在するヒドロキシル基の全量の100モル%に相当するよりも多くのカルボン酸を用いた場合に予想される。本発明に係る製造方法では、未転化カルボン酸の残分は、以上に列挙した後処理工程のうちの1つ以上によって反応混合物から除去される。
【0034】
芳香族C〜C15−モノカルボン酸または芳香族C〜C15−モノカルボン酸誘導体は、好ましくは、無置換型またはC〜C−アルキル置換型でありうる。
【0035】
脂肪族C〜C15−モノカルボン酸または脂肪族C〜C22−モノカルボン酸誘導体は、好ましくは、直鎖状または分枝状で飽和またはオレフィン性不飽和でありうる。
【0036】
用いられる環状脂肪族エーテルは、好ましくは、エチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシドである。
【0037】
用いられるポリエーテルポリオールは、好ましくは、グリセロール、トリメチロールプロパン、またはペンタエリトリトールから製造しうるものである。100〜1700mgKOH/gのヒドロキシル価を有し、トリメチロールプロパンから生成されるポリエーテルポリオールを用いることが、なかでも特に好ましい。
【0038】
本質的に、ポリエーテルポリオールは、さまざまな鎖長のポリエーテルに加えて、製造反応に使用される低分子量脂肪族ポリアルコールもまた一部分に存在しうる混合物である。ポリエーテルポリオールの分子量は平均値である。用いられるポリエーテルポリオールおよびその製造については公知であり、たとえば、G・エルテル(G.Oertel)著:「ポリウレタン(Polyurethane)」、G・W・ベッカー(G.W.Becker)、D・ブラウン(D.Braun)編:プラスチック・ハンドブック(Kunststoff−Handbuch[Plastics Handbook])、第3版、第7巻、カール・ハンザー・フェアラーク(Carl Hanser−Verlag)刊、ミュンヘン(Munich)、1992年に記載されている。
【0039】
使用される芳香族C〜C15−モノカルボン酸または芳香族C〜C15−モノカルボン酸誘導体は、好ましくは、安息香酸、o−トルイル酸、m−トルイル酸、p−トルイル酸、4−tert−ブチル安息香酸、1−ナフトエ酸、および/もしくは2−ナフトエ酸、またはこれらの酸の誘導体、あるいはそれらの混合物である。安息香酸を使用することが好ましい。
【0040】
用いる脂肪族C〜C22−モノカルボン酸または脂肪族C〜C22−モノカルボン酸誘導体は、好ましくは、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカエン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、アラキン酸、および/またはベヘン酸、またはこれらの酸の誘導体、あるいはそれらの混合物である。ラウリン酸および/またはパルミチン酸を用いることが好ましい。
【0041】
以下のものを用いることが、なかでも特に好ましい。
・トリメチロールプロパンとプロピレンオキシドとから製造しうるポリエーテルポリオール、
・芳香族C〜C15−モノカルボン酸として安息香酸、および
・脂肪族C〜C22−モノカルボン酸としてラウリン酸。
【0042】
本発明に係るエステルの製造方法の如何を問わず、これは、個別のエステルであってもよいし複数のエステルの混合物であってもよい。特に、その調製に用いられるポリエーテルポリオール自体が記載のごとく複数の成分の混合物である場合および/または2種以上のカルボン酸もしくは2種以上のカルボン酸誘導体を用いることによりそれが製造された場合、本発明に係るエステルは混合物である。エステル混合物の場合、1種もしくは複数種のカルボキシル成分のアシル基は、アルコール成分の利用可能なヒドロキシル官能基の間で分配される。この分配は、たとえば、ランダムでありうる。アシル基が分配される結果として、エステル混合物は、用いられるカルボン酸のうちの1種のアシル基だけが存在する個別のエステル分子さらには2〜6種の異なるアシル基が存在するエステル分子を含有しうる。
【0043】
本発明はまた、ポリビニルクロリド、ビニルクロリド系コポリマー、ポリビニリデンクロリド、ポリビニルアセタール、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリラクチド、セルロースおよびその誘導体、ゴムポリマー(たとえば、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、塩素化ポリエチレン、クロロスルホニルポリエチレン、エチレン−プロピレンゴム、アクリレートゴム、および/またはエピクロロヒドリンゴム)などのポリマー用の可塑剤としての上記エステル混合物の使用を包含する。ポリビニルクロリドが好ましい。
【0044】
この場合、ポリビニルクロリドは、好ましくは、懸濁重合、乳化重合、またはバルク重合などの当業者に公知の方法でビニルクロリドから単独重合により製造される。本発明に係るエステル混合物は、20〜99%のポリビニルクロリド、好ましくは45〜95%のポリビニルクロリド、より好ましくは50〜90%のポリビニルクロリドとの混合物の状態で使用される。この混合物は、軟質ポリビニルクロリドとして公知であり、本発明に係るエステル混合物およびポリビニルクロリドに加えて、さらに他の好適な添加剤をも含みうる。たとえば、安定剤、滑剤、充填剤、顔料、難燃剤、光安定剤、発泡剤、高分子加工助剤、耐衝撃性改良剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、および/または生物安定剤を存在させうる。含有率データはすべて、重量パーセントである。
【0045】
本発明はまた、本発明に係る混合物を含むポリマーに関する。
【0046】
ポリマーは、好ましくは、安定剤、滑剤、充填剤、顔料、難燃剤、光安定剤、発泡剤、高分子加工助剤、耐衝撃性改良剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、および/または生物安定剤、さらにはそれらの混合物などの添加剤をも含む。
【0047】
いくつかの好適な添加剤について、以下で詳細に説明する。しかしながら、提示された例は、本発明に係る混合物に何ら限定を加えるものではなく、むしろあくまでも例示を目的とした役割を果たすにすぎない。含有率データはすべて、重量%である。
【0048】
安定剤は、ポリビニルクロリドの加工中および/または加工後に放出された塩酸を中和する。有用な安定剤は、固体や液体の形態の慣用的なポリビニルクロリド安定剤すべて、たとえば、慣用的なCa/Zn、Ba/Zn、Pb、またはSn安定剤、さらには酸結合性層状シリケート、たとえばハイドロタルサイトである。本発明に係るエステル混合物は、0.05〜7%、好ましくは0.1〜5%、より好ましくは0.2〜4%、特に0.5〜3%の含有率の安定剤との混合物の状態で使用可能である。
【0049】
滑剤は、ポリビニルクロリド粒子間で効果を生じて、混合、可塑化、および再造形の過程で摩擦力を抑制するはずである。本発明に係る混合物中に存在する滑剤は、ポリマーの加工用として慣用される滑剤すべてでありうる。たとえば、有用な滑剤は、炭化水素(たとえば、油、パラフィン、およびPEワックス)、6〜20個の炭素原子を有する脂肪アルコール、ケトン、カルボン酸(たとえば、脂肪酸およびモンタン酸)、酸化PEワックス、カルボン酸金属塩、カルボキサミド、およびカルボン酸エステル(たとえば、アルコールとしてエタノール、脂肪アルコール、グリセロール、エタンジオール、ペンタエリトリトール、および酸成分として長鎖カルボン酸を有するもの)である。本発明に係るエステル混合物は、0.01〜10%、好ましくは0.05〜5%、より好ましくは0.1〜3%、特に0.2〜2%の含有率の滑剤を有する混合物の状態で使用可能である。
【0050】
充填剤は、特に、可塑化ポリビニルクロリドまたはPVBの圧縮強度、引張強度、および曲げ強度、さらには硬度および耐熱変形性に対して良い方向に影響を及ぼす。本発明に関連して、上記混合物は、充填剤、たとえば、カーボンブラックおよび他の無機充填剤、たとえば、天然炭酸カルシウム(たとえば、チョーク、石灰石、および大理石)、合成炭酸カルシウム、ドロマイト、シリケート、シリカ、サンド、珪藻土、ケイ酸アルミニウム(たとえば、カオリン、雲母、および長石)をも含みうる。使用される充填剤は、好ましくは、炭酸カルシウム、チョーク、ドロマイト、カオリン、シリケート、タルク、またはカーボンブラックである。本発明に係るエステル混合物は、0.01〜80%、好ましくは0.1〜60%、より好ましくは0.5〜50%、特に1〜40%の含有率の充填剤を有する混合物の状態で使用可能である。
【0051】
本発明に係るエステル混合物を用いて配合される混合物は、得られる生成物を可能性のあるさまざまな用途に合わせて調整すべく顔料をも含みうる。本発明に関連して、無機顔料および有機顔料のいずれも使用可能である。使用される無機顔料は、たとえば、CdSなどのカドミウム顔料、CoO/Alなどのコバルト顔料、およびCrなどのクロム顔料でありうる。使用される有機顔料は、たとえば、モノアゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾメチン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン、フタロシアニン顔料、ジオキサジン顔料、およびアニリン顔料でありうる。本発明に係るエステル混合物は、0.01〜10%、好ましくは0.05〜5%、より好ましくは0.1〜3%、特に0.5〜2%の含有率の顔料を有する混合物の状態で使用可能である。
【0052】
燃焼の過程での易燃性および煙の発生を低減するために、本発明に係る混合物は、難燃剤をも含みうる。使用される難燃剤は、たとえば、三酸化アンチモン、ホスフェートエステル、クロロパラフィン、水酸化アルミニウム、ホウ素化合物、三酸化モリブデン、フェロセン、炭酸カルシウム、または炭酸マグネシウムでありうる。本発明に係るエステル混合物は、0.01〜10%、好ましくは0.1〜8%、より好ましくは0.2〜5%、特に0.5〜3%の含有率の難燃剤を有する混合物の状態で使用可能である。
【0053】
光の作用により表面領域が損傷を受けないように、本発明に係るエステル混合物を含む混合物から製造された物品を保護すべく、混合物は、光安定剤をも含みうる。本発明に関連して、たとえば、ヒドロキシベンゾフェノン類またはヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール類を使用することが可能である。本発明に係るエステル混合物は、0.01〜7%、好ましくは0.1〜5%、より好ましくは0.2〜4%、特に0.5〜3%の含有率の光安定剤を有する混合物の状態で使用可能である。
【0054】
ポリマーは、場合により、安息香酸のモノアルキルエステル、モノ、ジ、トリ、もしくはポリアルキレングリコールの安息香酸ジエステル、脂肪族二酸のジアルキルエステル、芳香族二酸のジアルキルエステル、芳香族三酸のトリアルキルエステル、アルカンスルホン酸のフェニルエステル、リン酸のアルキルエステルまたはアリールエステル、ジカルボン酸のポリエステル、さらにはそれらの混合物からなる群から選ばれる追加の可塑剤を含みうる。
【0055】
さらなる可塑剤の例は、以下のとおりである。
・安息香酸のモノアルキルエステル、たとえばイソノニルベンゾエート、
・モノ、ジ、トリ、もしくはポリアルキレングリコールの安息香酸ジエステル、たとえば、プロピレングリコールジベンゾエート、ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジベンゾエート、またはポリエチレングリコールジベンゾエート、
・脂肪族二酸のジアルキルエステル、たとえば、ジ(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソノニルアジペート、ジ(2−エチルヘキシル)セバケート、ジ(2−エチルヘキシル)アゼレート、ジイソノニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート、
・芳香族二酸のジアルキルエステル、たとえば、ジ(2−エチルヘキシル)フタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ベンジルブチルフタレート、ベンジルイソオクチルフタレート、ベンジルイソノニルフタレート、
・芳香族三酸のトリアルキルエステル、たとえば、トリ−(2−エチルヘキシル)トリメリテート、
・アルカンスルホン酸のフェニルエステル、たとえば、ランクセス・ドイチュラント・GmbH(Lanxess Deutschland GmbH)製の製品メザモール(Mesamoll)(登録商標)、
・リン酸のアルキルエステルまたはアリールエステル、たとえば、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジフェニル2−エチルヘキシルホスフェート、ジフェニルクレシルホスフェート、またはトリクレシルホスフェート、
・アジピン酸またはフタル酸などのジカルボン酸と、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、または1,6−ヘキサンジオールなどのジオールと、から得られるポリエステル。
【0056】
本発明に関連して、本発明に係るエステル混合物は、エチレン、プロピレン、ブタジエン、ビニルアセテート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、分枝状もしくは非分枝状C〜C10−アルコールのアルコール成分を有するアクリレートおよびメタクリレート、スチレン、またはアクリロニトリルに基づくホモポリマーおよびコポリマーよりなる群から選択されるさらなるポリマーを含む混合物の状態で使用することも可能である。例としては、C〜C−アルコール(特に、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、および2−エチルヘキサノール)よりなる群から選ばれる同一のもしくは異なるアルコール基を有するポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート−ブチルアクリレートコポリマー、メチルメタクリレート−ブチルメタクリレートコポリマー、エチレン−ビニルアセテートコポリマー、塩素化ポリエチレン、ニトリルゴム、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンコポリマー、エチレン−プロピレンコポリマー、エチレン−プロピレン−ジエンコポリマー、スチレン−アクリロニトリルコポリマー、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンエラストマー、およびメチルメタクリレート−スチレン−ブタジエンコポリマーが挙げられる。
【0057】
本発明に係るエステル混合物を用いて調製される混合物は、たとえば、電気機器(たとえば台所用品)用ケーシングおよびコンピューターケーシング、パイプライン、器具、ケーブル、ワイヤーシース、窓枠の製造に、室内設計に、乗物や家具の組立てに、床仕上げ材、医療用品、食品包装材、ガスケット、フィルム、複合フィルム、複合安全ガラス用フィルム(特に、乗物分野や建築分野向け)、レコードディスク、合成皮革、玩具、包装容器、接着テープフィルム、衣服、被覆材に、布用繊維として、有用である。
【0058】
本発明に係るエステル混合物は、良好な加工性および低い揮発性を有する。本発明に係るエステル混合物を用いて製造される軟質ポリビニルクロリド物品は、特に、非常に良好な熱安定性を有することを特徴とし、強制エアオーブン内における熱エージングの過程で低い重量損失しか呈さず、かつコンゴーレッド試験で高いHCl安定性を呈することにより特性付けられる。
【0059】
以下の実施例を参照しながら本発明について詳細に説明するが、これにより本発明に何ら限定を加えようとするものではない。
【0060】
[実施例]
指定した部数は、重量基準である。
【0061】
〔実験方法〕
攪拌機、接触温度計、水分離器、還流冷却器、および調節装置付きホットプレートを備えた四口フラスコ中において、緩やかな窒素ストリーム下で、トリメチロールプロパンとプロピレンオキシドとから生成されたヒドロキシル価886mgKOH/gの487.5部のポリエーテルポリオール、芳香族モノカルボン酸として631.4部の安息香酸、脂肪族モノカルボン酸として500.8部のラウリン酸、および連行剤として188部のキシレンを溶融した。2.3部のチタンテトラ(イソプロポキシド)を触媒として添加し、攪拌しながら混合物を200℃で20時間、次に220℃で2時間煮沸した。この後、132部の水が分離した。220℃および3mbarにおいて2時間以内で揮発性成分を除去した。120℃まで冷却した後、反応生成物を約30部のガラス粉末と混合し、30分間攪拌した後、焼結ガラス吸引濾過器を通して吸引濾過した。液体が単離され、酸価を決定した。
【0062】
〔実施例1〜4および本発明に係らない比較例C1〜C5〕
表1に列挙された出発原料を用いて上記の方法により、本発明に係る化合物1〜4および本発明に係らない化合物C1〜C5を調製した。
【0063】
〔エステル混合物の物理的特性〕
エステル混合物に重要な物理的データ(表1参照)を以下の方法により決定した。
粘度:ヘプラー(Hoeppler)落球粘度計を使用してDIN 53015(2001年)に準拠
流動点:DIN ISO 3016(1982年)に準拠
酸価:DIN EN ISO 2114(2002年6月)に準拠
【0064】
【表1】

【0065】
可塑剤としてエステル混合物の取扱いおよび加工を行う場合、その粘度および流動点は、重要な特性パラメーターである。
【0066】
市販の可塑剤は、約10mPas〜10,000mPas超の粘度を有する液体である(たとえば、L・マイヤー(L.Meier)著:「可塑剤(Weichmacher)」、R・ゲヒター(R.Gaechter)、H・ミュラー(H.Mueller)編:プラスチック添加剤ハンドブック(Taschenbuch der Kunststoffadditive)、第3版、p.383−p.425,ハンザー・フェアラーク(Hanser Verlag)刊、ミュンヘン(Munich)(1990年)を参照されたい)。列挙された実施例は、この好ましい粘度範囲内にある。
【0067】
流動点は、液体が自由流動性を残している最低温度を意味する。列挙された実施例の流動点は非常に低いので、物質は、15℃超の慣用的な室温で非拘束自由流動を保持する。
【0068】
〔結晶化傾向〕
軟質ポリビニルクロリドの加工機は、液状可塑剤を使用できるように装備されている。最初は液状の可塑剤がたとえば保存中に完全結晶化または部分結晶化を起こすことは、望ましくない。なぜなら、再溶解または溶融および均一化が追加の作業工程を構成することになるからである。
【0069】
物質C2は、ホットメルト接着剤調製用の可塑剤として独国特許出願公開第2 318 411A1号明細書で提案されている。C2は固体であるので、軟質ポリビニルクロリドを得るための通常の加工には適さない。
【0070】
米国特許第3,072,591B1号明細書には、少なくとも1種の芳香族カルボン酸のカルボキシル基と少なくとも6個の炭素原子の脂肪族カルボン酸のカルボキシル基の両方を同一分子中に含有するポリメチロールアルカン(たとえばトリメチロールプロパン)のエステルを基剤とするポリビニルクロリド用の可塑剤が記載されている。しかしながら、これらのいわゆる混合エステルを調製するために、複雑な二段階調製法が必要とされる(米国特許第3,072,591B1号明細書、第5欄、第15〜17行)。この望ましくない複雑さを回避するために、他の実施例で利用される一段階法を実施例C3で用いてそのようなエステルを調製した。しかしながら、判明したとおり、C3では、室温で3週間保存した後、大量の結晶性沈殿が生成する。4℃で保存した場合、4日後程度の早い時期に結晶化が始まる。したがって、C3は不十分な保存安定性しか有しないので可塑剤として不適当である。
【0071】
驚くべきことにかつ先行技術からは予想外なことに、本発明に係るエステル混合物は、室温で液体であるとともに結晶化を生じる傾向を何ら示さないという特筆すべき点を有する。実施例2と比較例3との比較からわかるように、ポリエーテルポリオールに基づく本発明に係るエステルまたはエステル混合物は、ポリオールに基づく本発明に係らないエステルまたはエステル混合物とは対照的に、同等な組成の酸成分を用いたときの際立って低減された結晶化傾向により特性付けられる。21日間超にわたり4℃で保存した後でさえも、エステル混合物2は、透明性および流動性を保持する。
【0072】
〔溶解温度〕
ポリビニルクロリド中溶解温度は、可塑剤のゲル化能を記述するための重要な特性パラメーターである。170℃超の溶解温度を有する可塑剤は、その工程にあまりにも多くのエネルギーが必要とされるので採算が合わない。それに加えて、170℃超の溶解温度は、可塑剤とポリビニルクロリドとの間の相容性(コンパティビリティ)が不十分であることを示している。
【0073】
本発明に係るエステル混合物1〜4は、良好なゲル化能を有する。酸成分がラウリン酸だけよりなるかまたは主にそれよりなる比較例C1、C4、およびC5は、170℃超の溶解温度を有するので可塑剤として不適当である。
【0074】
〔揮発性および熱重量測定〕
ブラベンダー(Brabender)H−A−G,E’湿分試験機の助けを借りて表2に指定されている条件下で可塑剤の加熱過程における重量損失を測定することにより、本発明に係るエステル混合物1〜4ならびに市販の可塑剤ジオクチルフタレート(オクセノ・オレフィンへミー・GmbH(Oxeno Olefinchemie GmbH)製の「フェスチノール(Vestinol)AH」、略号:DOP)およびトリオクチルトリメリテート(イーストマン・ケミカル・カンパニー(Eastman Chemical Company)製の「イーストマン(Eastman)TOTM」、略号:TOTM)の揮発性を決定した。
【0075】
このほか、上述した物質を熱重量測定により分析してその揮発性を特性付けた。この目的のために、以下の2つの異なる温度プログラムを用いた。
1)サンプルを150℃の等温に65分間保持し、エステル混合物/可塑剤の残量を秤量した。開始値に対するパーセントとして残分量を表2に報告する。
2)10℃/分の加熱速度で25℃から400℃までサンプルを加熱した。245.7℃において依然として存在していた特定の残分量(出発物質に対する%で)さらにはエステル混合物/可塑剤の50%が消失したときの温度を測定し、表2に報告した。
【0076】
上述した方法のいずれにおいても、サンプル上に50ml/分の窒素ストリームを通過させた。メトラー・トレド(Mettler Toledo)TGA/SDTA851e計測器を使用した。
【0077】
【表2】

【0078】
エステル混合物1〜4は、標準的可塑剤ジオクチルフタレートよりも揮発性が低いことを特徴とする。熱重量測定データから明らかなように、本発明に係るエステル混合物の揮発性は、低揮発性を理由として高温用途に供することが推奨される特殊可塑剤トリオクチルトリメリテートよりも低い。
【0079】
〔ポリビニルクロリド配合物〕
さらに試験するために、エステル混合物1〜4および表3に列挙した添加剤を用いて、Ca/Zn型(カルシウム−亜鉛安定剤を有する)およびPb型(鉛安定剤を有する)の軟質ポリビニルクロリド配合物を製造した。
【0080】
【表3】

【0081】
最初に、記載の成分を室温で混合し、続いて、以下の条件下でローラーにかけた(圧延した)。
ローラー:サーヴィテック・ポリミックス(Servitec Polimix)110L
温度:160℃
時間:10分間
フロントロールのローラー速度:20(rpm)
バックロールのローラー速度:24(rpm)
圧延シートの厚さ:0.7mm
【0082】
次に、冷却された圧延シートを以下の条件下でプレスしてフィルムを得た。
プレスタイプ:シュヴァーベンタン・ポリスタート(Schwabenthan Polystat)200T
温度:170℃
時間:10分間
圧力:400bar
フィルム厚さ:0.3〜1mm
【0083】
〔ポリビニルクロリド配合物の耐熱性〕
フィルムの耐熱性を以下の試験方法により決定した。
強制エアオーブン中保存:
1mmの厚さを有するサイズ30×30mmのフィルムを表4に指定された温度および時間で強制エアオーブン中に吊るして保存した。保存後、重量変化を測定し、使用したフィルムの重量を基準にして%で報告した。
コンゴーレッド試験:
厚さ0.7mmの圧延シートから得た顆粒を用いて、1971年のDIN53381−1に準拠してコンゴーレッド試験を行った。200℃においてHCl放出の結果として起こる指示薬の色変化が目視可能になる時間を表4に列挙する。
【0084】
【表4】

【0085】
強制エアオーブン中における重量損失が最小であること、およびコンゴーレッド指示薬の変化前の時間が最長であることにより、耐熱性が高いことが示される。表4のデータから実証されるように、トリオクチルトリメリテート(TOTM)と比較して、平均して、本発明に係るエステル混合物の熱安定性は良好である。
【0086】
〔移行〕
軟質ポリビニルクロリドから他のポリマー中への本発明に係るエステル混合物の移行を評価するために、上述のCa/Zn型ポリビニルクロリド配合物から円形試験試料(Φ50mm)を作製し、両側にポリエチレンフィルム(アトフィナ・ラクテン(Atofina Laqtene)(登録商標)LDO0304)を接触させ、接触された試験試料を70℃の乾燥キャビネット中に保存し、5kgの錘で荷重を加え、試験試料の重量変化を12日間にわたり監視した。表5は、三重測定から得られた重量変化の平均値をもとの試料重量を基準にして重量%として再現したものである。
【0087】
【表5】

【0088】
測定された重量損失が大きいほど、移行によりポリエチレンに移動したエステル混合物/可塑剤の量は多い。表6のデータから実証されるように、トリオクチルトリメリテートと比較して本発明に係るエステル混合物1および2の耐移行性は際立って良好である。
【0089】
〔抽出〕
液体媒体による軟質ポリビニルクロリドからの本発明に係るエステル混合物の抽出を評価するために、上述のCa/Zn型ポリビニルクロリド配合物から円形試験試料(Φ60mm)を作製し、表6に指定された50mlの媒体で満たされたペトリ皿中に浸漬し、表6に指定された温度の乾燥キャビネット中に皿を10日間保存した。その後、洗浄した試験試料の重量変化を測定した。もとのサンプル重量を基準にして重量%として表6に再現する。
【0090】
【表6】

【0091】
測定された重量損失が大きいほど、抽出により媒体中に移動した可塑剤の量は多い。表6のデータから実証されるように、トリオクチルトリメリテートと比較して本発明に係る可塑剤1および2の耐抽出性は際立って良好である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

〔式中、
は、直鎖状もしくは分枝状のC〜C21−アルキル基であり、
、R、R、およびRは、それぞれ独立して、HまたはC〜C−アルキル基であり、
は、1〜3個のC〜C−アルキル基により場合によっては置換されていてもよいC〜C14−アリール基であり、
Zは、3〜6価の脂肪族炭化水素基であり、
xおよびyは、それぞれ独立して0〜6であり、ただし、x+yは、>0でなければならず、
aは、0〜6であり、ただし、aは、>0でなければならず、
bは、0〜6であり、しかも
aは、<bであるかまたはbに等しく、かつ
a+bの合計は、Z基の価数に等しい〕
で表される化合物を少なくとも2種以上含むエステル混合物。
【請求項2】
前記R基が脂肪族モノカルボン酸から誘導されることを特徴とする、請求項1に記載のエステル混合物。
【請求項3】
前記R基が芳香族モノカルボン酸から誘導されることを特徴とする、請求項1に記載のエステル混合物。
【請求項4】
前記Z基が一般式(II)〜(VI)
【化2】

〔式中、
Rは、HまたはC〜C−アルキル鎖であり、
mは、1〜4であり、そして
nは、0〜3である〕
のうちの1つに相当することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のエステル混合物。
【請求項5】
前記Z基が低分子量脂肪族ポリアルコールから誘導されることを特徴とする、請求項1または4に記載のエステル混合物。
【請求項6】
a)いずれの場合にも1分子あたり3〜6個のヒドロキシル基を有する1種以上のポリエーテルポリオールが、
b)1)少なくとも50mol%の1種以上の芳香族C〜C15−モノカルボン酸もしくは芳香族C〜C15−モノカルボン酸誘導体と、
2)多くとも50mol%の1種以上の脂肪族C〜C22−モノカルボン酸もしくは脂肪族C〜C22−モノカルボン酸誘導体と、
の混合物(ただし、前記混合物は、1)と2)の合計が100%にならなければならない。)で、
c)場合により高温において、
d)場合により触媒の存在下において、かつ
e)場合により反応水を除去しながら、
エステル化され、
前記ポリエーテルポリオールが、いずれの場合にも、用いられる全カルボン酸の一部分だけを用いるいくつかの工程でエステル化することも可能である、
ことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のエステル混合物の製造方法。
【請求項7】
前記ポリエーテルポリオールが、1種以上の
・環状脂肪族エーテル、および
・分子中に3〜6個のヒドロキシル基を有する低分子量脂肪族ポリアルコール
を開環重合または共重合することにより得られることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
・前記芳香族C〜C15−モノカルボン酸もしくは芳香族C〜C15−モノカルボン酸誘導体が無置換型もしくはC〜C−アルキル置換型であってもよく、かつ/または
・前記脂肪族C〜C22−モノカルボン酸もしくは脂肪族C〜C22−モノカルボン酸誘導体が直鎖状もしくは分枝状で飽和もしくはオレフィン性不飽和であってもよい、
ことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記芳香族C〜C15−モノカルボン酸もしくは芳香族C〜C15−モノカルボン酸誘導体が、安息香酸、o−トルイル酸、m−トルイル酸、p−トルイル酸、4−tert−ブチル安息香酸、1−ナフトエ酸、および/もしくは2−ナフトエ酸、またはこれらの酸の誘導体、あるいはそれらの混合物であることを特徴とする、請求項6または8に記載の方法。
【請求項10】
前記脂肪族C〜C22−モノカルボン酸もしくは脂肪族C〜C22−モノカルボン酸誘導体が、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、アラキン酸、および/もしくはベヘン酸、またはこれらの酸の誘導体、あるいはそれらの混合物であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
・トリメチロールプロパンとプロピレンオキシドとから調製されたポリエーテルポリオールが使用され、
・安息香酸が前記芳香族C〜C15−モノカルボン酸として使用され、かつ
・ラウリン酸が前記脂肪族C〜C22−モノカルボン酸として使用される、
ことを特徴とする、請求項6〜10のいずれか一項に記載のエステル混合物の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のエステル混合物および請求項6〜12のいずれか一項に従って製造されたエステル混合物の、ポリマー用可塑剤としての使用。
【請求項13】
前記ポリマーが、添加剤として、安定剤、滑剤、充填剤、顔料、難燃剤、光安定剤、発泡剤、高分子加工助剤、耐衝撃性改良剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、および/または生物安定剤、さらにはそれらの混合物を含むことを特徴とする、請求項12に記載のポリマー用可塑剤としてのエステル混合物の使用。
【請求項14】
前記ポリマーが、安息香酸のモノアルキルエステル、モノ、ジ、トリ、もしくはポリアルキレングリコールの安息香酸ジエステル、脂肪族二酸のジアルキルエステル、芳香族二酸のジアルキルエステル、芳香族三酸のトリアルキルエステル、アルカンスルホン酸のフェニルエステル、リン酸のアルキルエステルまたはアリールエステル、ジカルボン酸のポリエステル、さらにはそれらの混合物よりなる系列から選ばれる追加の可塑剤を含むことを特徴とする、請求項12に記載のポリマー用可塑剤としてのエステル混合物の使用。

【公開番号】特開2006−169245(P2006−169245A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−359404(P2005−359404)
【出願日】平成17年12月13日(2005.12.13)
【出願人】(505422707)ランクセス・ドイチュランド・ゲーエムベーハー (220)
【Fターム(参考)】