説明

エステル組成物及びその製造方法

【課題】従来のクロレンド酸系ポリオールの欠点を改善し、簡便に製造することができ、ハロゲン濃度が高く、難燃剤として、ポリウレタンやポリエステル等、特にポリウレタンフォームに好適に用いられるエステル組成物を提供する。
【解決手段】アルコールによるハロゲン化カルボン酸無水物の開環反応生成物のカルボキシル基にアルキレンオキサイドを付加させて得られるエステル組成物。本発明の好ましい態様においては、アルコールが分子量100〜1000のオキシアルキレングリコール及び/又は数平均分子量100〜1000のポリオキシアルキレングリコールであり、ハロゲン化カルボン酸無水物が2価のハロゲン化カルボン酸の分子内無水物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル組成物及びその製造方法に関し、詳しくは、難燃剤として各種の樹脂に配合するのに好適なエステル組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ポリウレタン、ポリエステル等のプラスチックには難燃性を付与するために難燃剤が用いられる。難燃剤としては、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウムのような無機化合物、トリスモノクロロプロピルフォスフェート、トリスジクロロプロピルフォスフェートのようなリン系化合物、ハロゲン系化合物等が挙げられる。
【0003】
特にポリウレタンフォームにおいては上述のトリスモノクロロプロピルフォスフェートが多用される他、ハロゲン系の難燃剤として塩素化カルボン酸の1種であるクロレンド酸系のポリオールが用いられることがある(特許文献1)。
【0004】
クロレンド酸系のポリオールとしては、クロレンド酸とジエチレングリコールのような多価アルコールをエステル化反応させて得られるポリエステルポリオールが挙げられる(特許文献2)。また、クロレンド酸をプロピレングリコールのような多価アルコールに溶解させた後、アルキレンオキサイドを付加させることによって得られるポリオールが挙げられる(特許文献3)。
【0005】
しかしながら、エステル化反応では反応に長時間を要し、反応条件によっては脱塩素、脱塩化水素の副反応が起こって装置の腐食や製品中の塩素濃度の低下を招くという問題がある。また、アルキレンオキサイドを付加する場合は、通常、触媒として用いられる水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の中和や除去の工程が必要であるといった問題がある。また、後者のアルキレンオキサイド付加物は、溶媒として用いたポリオールをそのまま含有する組成物として提供するものであるため、組成物中の塩素濃度を高めるには溶媒の留去等の操作が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−172480号公報
【特許文献2】特開平3−162412号公報
【特許文献3】特開平11−228803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、従来のクロレンド酸系ポリオールの欠点を改善し、簡便に製造することができ、ハロゲン濃度が高く、難燃剤として、ポリウレタンやポリエステル等、特にポリウレタンフォームに好適に用いられるエステル組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明の第1の要旨は、アルコールによるハロゲン化カルボン酸無水物の開環反応生成物のカルボキシル基に、アルキレンオキサイドを付加させて得られることを特徴とするエステル組成物に存する。そして、本発明の第2の要旨は、ハロゲン化カルボン酸無水物をアルコールで開環反応させた後、開環反応生成物のカルボキシル基にアルキレンオキサイドを付加させるエステル組成物の製造方法であって、開環反応におけるハロゲン化カルボン酸無水物に対するアルコールのモル比が0.5〜15.0であることを特徴とするエステル組成物の製造方法に存する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、前記の課題を解決することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明のエステル組成物は、アルコールによるハロゲン化カルボン酸無水物の開環反応生成物のカルボキシル基にアルキレンオキサイドを付加させて得られるエステル組成物である。このエステル組成物は、ハロゲン化カルボン酸無水物をアルコールで開環反応させる第1工程と、開環反応生成物のカルボキシル基にアルキレンオキサイドを付加させる第2工程とによって得られる。
【0012】
ハロゲン化カルボン酸無水物としては、ハロゲン化された2価のカルボン酸の分子内無水物が好ましく、無水クロレンド酸の他、モノ、ジ、トリ、テトラのクロロ無水フタル酸やブロモ無水フタル酸などの各ハロゲン化無水フタル酸等が挙げられる。中でも、無水クロレンド酸、テトラクロロ無水フタル酸が好ましく、無水クロレンド酸が最も好ましい。これらのハロゲン化カルボン酸無水物は2種類以上を併用しても構わない。尚、無水クロレンド酸とは、ヘキサクロロエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸を指す。
【0013】
開環反応に用いるアルコールとしては、1価又は多価のアルコールが挙げられる。1価アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、オクタノール、ラウリルアルコールのような脂肪族1価アルコール、ベンジルアルコール、フェノールのような芳香族1価アルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、フェノキシエタノールのようにエーテル結合を含んだ1価アルコールが挙げられる。
【0014】
多価アルコールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールのような脂肪族2価アルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールのようなオキシアルキレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールのようなポリオキシアルキレングリコールが挙げられる。その他、グリセリン、トリメチロールプロパンのような3価以上のアルコールを用いてもよい。中でも、オキシアルキレングリコール又はポリオキシアルキレングリコールが好ましく、分子量100〜1000のオキシアルキレングリコール又は数平均分子量100〜1000のポリオキシアルキレングリコールが最も好ましい。これらの1価アルコールと多価アルコールはそれぞれ2種類以上を併用しても構わない。
【0015】
開環反応における、ハロゲン化カルボン酸無水物に対するアルコールのモル比は、0.5〜15.0である。0.5未満の場合は、未反応のハロゲン化カルボン酸無水物が残存し、15.0を超える場合は、エステル組成物のハロゲン濃度が下がってしまい難燃性が低下してしまったり、未反応アルコールが多く残存する。ハロゲン化カルボン酸無水物に対するアルコールのモル比は、好ましくは0.55〜14.0、更に好ましくは0.6〜13.0である。
【0016】
本発明のエステル組成物を製造する第1工程は、ハロゲン化カルボン酸無水物をアルコールで開環反応させるものであるが、この際、無触媒で反応を行うことが好ましい。通常のエステル化反応で用いられるエステル化触媒を用いた場合は、ハロゲン化カルボン酸無水物の開環反応だけで反応を止めることが難しくなるからである。開環反応に続いて更にエステル化反応を進めても本発明のエステル組成物の難燃性を著しく損なうことはないが、粘度が上昇して取り扱いに不具合が生じる場合がある。
【0017】
第1工程の反応生成物は、ハロゲン化カルボン酸無水物のアルコールによる開環反応生成物である。ここでいう開環反応生成物は、仮に2価のハロゲン化カルボン酸無水物をA、2価アルコールをBとした場合に、A−B型またはA−B−A型で表されるものをいう。例えば、テトラクロロ無水フタル酸とジエチレングリコールを原料として用いた場合は、以下の構造式で表されるものを指し、A−B型はヒドロキシカルボン酸であり、A−B−A型はジカルボン酸となる。1価アルコールのみを用いた場合は、1価アルコールをBとすればA−B型のみが開環反応生成物となる。
【0018】
【化1】

【0019】
【化2】

【0020】
第1工程の反応生成物は、上記の開環反応生成物の他に、未反応のハロゲン化カルボン酸無水物、アルコール、ハロゲン化カルボン酸無水物の2つのカルボキシル基とアルコールが反応したジエステル化合物、更に反応の進んだオリゴマー状エステル化合物等の混合物となる。これらのおおよその組成比(分子量分布)はゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)等で分析することも可能である。混合物中の開環反応生成物の含有量は、A−B型及び/又はA−B−A型の合計量として、通常20重量%以上、好ましくは25重量%以上、更に好ましくは30重量%以上である。20重量%より小さくても構わないが、未反応のアルコールが多くなる等でハロゲン濃度が低くなる場合は、難燃性が低下する可能性がある。また、更に反応の進んだオリゴマー状エステル化合物が多い場合には、粘度が高くなって取り扱いが困難になる場合もある。
【0021】
第1工程の反応温度は、通常80〜200℃、好ましくは100〜170℃の範囲である。ハロゲン化カルボン酸無水物の開環反応のみで反応を止めるため、あまり温度を上げ過ぎないことが重要である。例えば、テトラクロロ無水フタル酸を原料として用いた場合、120〜140℃程度でテトラクロロ無水フタル酸の開環エステル化による発熱により160℃程度まで温度が上昇することがあるため、場合によっては除熱も必要となる。
【0022】
一方、反応圧力は、通常、−10kPa程度の微減圧、好ましくは常圧、場合によっては+10kPa程度の微加圧でも可能である。原料のアルコールを留去してしまわないよう、あまり減圧度を上げ過ぎないことが重要である。例えばブタノールのような低沸点のアルコールを用いた場合は、開環反応のみで反応を止めるためには、温度、圧力に更に注意する必要がある。勿論、用いる原料の種類、目標とする酸価、分子量分布によっては、温度、圧力が上記の範囲を超えても構わない。
【0023】
反応時間は、通常10〜60分程度である。あまり長時間反応させるとエステル化反応やオリゴマー化反応が更に進行してしまうことがある。反応終点は、反応液が均一となり、サンプリングによって酸価が原料の仕込比から求まる所定の値になった時点である。尚、エステル化反応に伴う副生水の留出は、開環反応以外のエステル化、オリゴマー化反応の進行の目安になるが、あまりエステル化やオリゴマー化反応を進めると、得られる製品中の水分が高くなってしまうことあり、第2工程に悪影響を与える場合もある。そのためにも反応の最後には減圧して系内の水分を除去しておくとよい。また、未反応のアルコールを減圧下で一部留去することも可能である。
【0024】
反応開始時には、製品の着色を防ぐために反応容器の空間部を窒素置換し、更に反応液中の溶存酸素も除去することが好ましい。また、反応形式は、通常のバッチ設備あるいは連続設備が適用できるが、得られる製品の粘度が原料に用いられたアルコール成分に比べてかなり高くなる場合があること等から、バッチ反応の方が好ましい。
【0025】
第2工程では、第1工程においてハロゲン化カルボン酸無水物をアルコールで開環反応させることで新たに生成したカルボキシル基に対して、アルキレンオキサイドを付加させる。付加させるアルキレンオキサイドは、カルボキシル基1モル当り、通常1モルであるが、2モル以上のアルキレンオキサイドが付加しても構わない。この際、無触媒で反応を行うことが好ましく、通常のアルキレンオキサイドの付加反応で用いられる触媒を用いた場合、カルボキシル基1モル当り2モル以上のアルキレンオキサイドが付加したり、未反応のアルコール、第1工程で生成した水酸基、第2工程でアルキレンオキサイドの付加後に生成する水酸基等にもアルキレンオキサイドが付加する場合が多くなる。このことによって本発明のエステル組成物の難燃性を著しく損なうことはないが、ハロゲン濃度が低くなってしまうことは難燃性の低下に繋がるので好ましくない。また、添加した触媒がエステル組成物中に残存する場合は、例えばウレタン化反応に用いた際に悪影響を与える可能性があるため、中和や濾過、吸着といった後処理が必要となる。
【0026】
上記のアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等が挙げられ、中でも、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドを用いることが好ましい。これらは2種類以上を併用しても構わない。
【0027】
第2工程の反応生成物は、第1工程においてハロゲン化カルボン酸無水物をアルコールで開環反応させることで新たに生成したカルボキシル基に対して、カルボキシル基1モル当り、通常1モルのアルキレンオキサイドを付加させたエステル組成物である。前述のA−B型またはA−B−A型で表される開環反応生成物に対し、アルキレンオキサイドをCとした場合にC−A−B型、C−A−B−A−C型で表されるものをいう。例えば、テトラクロロ無水フタル酸とジエチレングリコール、エチレンオキサイドを原料として用いた場合、以下の構造式で表されるものを指し、C−A−B型、C−A−B−A−C型ともにジオール型となる。1価アルコールのみを用いた場合は、1価アルコールをBとすればC−A−B型のみがエステル組成物となる。
【0028】
【化3】

【0029】
【化4】

【0030】
第2工程の反応生成物は、上記のエステル組成物の他に、アルキレンオキサイドが更に付加した生成物、第1工程からの未反応のハロゲン化カルボン酸無水物、アルコール、ハロゲン化カルボン酸無水物の2つのカルボキシル基とアルコールが反応したジエステル化合物、更に反応の進んだオリゴマー状エステル化合物、それらにアルキレンオキサイドが付加した生成物、アルキレンオキサイドが水と反応して生成するアルキレングリコール等の混合物となる。これらのおおよその組成比(分子量分布)はゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)等で分析することも可能である。本発明のエステル組成物における、C−A−B型及び/又はC−A−B−A−C型の含有量は、通常20重量%以上、好ましくは25重量%以上、更に好ましくは30重量%以上である。20重量%より小さくても構わないが、未反応のアルコールが多くなる等でハロゲン濃度が低くなる場合は、難燃性が低下する可能性がある。また、更に反応の進んだオリゴマー状エステル化合物が多い場合には、粘度が高くなって取り扱いが困難になる場合もある。
【0031】
アルコールとしてポリエチレングリコールのような分子量分布を持ったものを用いた場合、また、アルキレンオキサイドがカルボキシル基に2モル以上付加した場合、未反応のアルコールや第1工程で生成した水酸基、第2工程でアルキレンオキサイドの付加後に生成する水酸基等に更にアルキレンオキサイドが付加した場合、これらの反応生成物のおおよその組成比(分子量分布)をゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)等で分析することが難しくなる。その場合、仕込原料から算出される製品の水酸基価と、実際に製品を分析した水酸基価を比較することにより、反応が想定どおり進行したかどうかの目安とすることができる。例えば、仕込原料から算出される製品の水酸基価に対し、製品の水酸基価の実測値が低い場合、何らかの形でアルキレンオキサイドが多く付加しているものと考えられる。
【0032】
第2工程におけるアルキレンオキサイドの必要量は、カルボキシル基1モル当り1モルであるが、付加反応を効率良く進めるためには、過剰に用いるのが好ましい。アルキレンオキサイドの過剰量は、カルボキシル基1モル当り、通常0.3〜10モル、好ましくは0.5〜7モル、更に好ましくは1〜5モルである。アルキレンオキサイドを過剰に用いた場合は残存するアルキレンオキサイドを反応後に減圧下で留去する。
【0033】
第2工程における反応温度は、通常50〜170℃、好ましくは70〜150℃の範囲である。反応温度が50℃未満の場合は反応時間が長くなり、170℃を超える場合は反応生成物が著しく着色したり、変質が起こりやすくなる。50℃程度で反応開始し、アルキレンオキサイドの還流や反応の進行状況を確認しつつ徐々に150℃程度まで昇温するような条件であれば反応を制御しやすい。
【0034】
一方、反応圧力は、特に限定されず、常圧もしくは任意の加圧条件を採用し得る。アルキレンオキサイドは沸点の低いものが多いので、反応温度や仕込量(仕込モル比)に応じた圧力にて反応を行うこととなる。また、反応後には減圧し、過剰のアルキレンオキサイドや水分を留去する。
【0035】
反応開始時には、製品の着色を防ぐために反応容器の空間部を窒素置換し、更に反応液中の溶存酸素も除去することが好ましい。また、反応形式は、通常のバッチ設備あるいは連続設備で適用できるが、アルキレンオキサイドを用いることから加圧反応に適用しやすいバッチ反応の方が好ましい。
【0036】
第2工程における反応時間は、通常1〜5時間程度である。反応終点は、反応液をサンプリングして酸価を測定することによって判断する。未反応のカルボキシル基は、通常5mgKOH/g以下、好ましくは4mgKOH/g以下、更に好ましくは3mgKOH/g以下とされる。
【0037】
第2工程のアルキレンオキサイドの付加反応によって新たな水酸基が生成するが、第1工程で原料として用いたアルコール由来の水酸基と合わせ、その含有量を水酸基価として定量することができる。水酸基価は、原料の組み合わせによって高い範囲から低い範囲まで調節することができるが、通常30〜500mgKOH/g、好ましくは40〜450mgKOH/g、更に好ましくは50〜400mgKOH/gである。30mgKOH/g未満の場合は粘度が高くなって取り扱いが困難になる可能性があり、500mgKOH/gを超える場合は未反応のアルコールが多くなることでハロゲン濃度が下がり、難燃性が低下する。
【0038】
本発明のエステル組成物のハロゲン濃度は原料の仕込比より計算することができる。また、燃焼法と組み合せた滴定法、重量法やイオンクロマトグラフ法といった元素分析によりハロゲンを定量することが出来る。一般にハロゲン濃度が高い方が難燃性も高くなるので、難燃剤として用いる際に好適である。ハロゲン濃度は、塩素の場合、通常5〜50重量%、好ましくは6〜45重量%、更に好ましくは7〜40重量%である。また、臭素の場合は、通常5〜80重量%、好ましくは6〜75重量%、更に好ましくは7〜70重量%である。ハロゲン濃度が5重量未満の場合は、難燃剤として用いる場合に添加量を多くする必要があり、塩素濃度で50重量%を超える場合や臭素濃度で80重量%を超える場合は粘度が著しく高くなって取り扱いが困難になる場合がある。
【0039】
本発明の難燃剤は、前述の第1及び第2の工程を経て得られるエステル組成物を有効成分として含有するものであり、エステル組成物をそのまま難燃剤として用いるほか、溶媒等で粘度を調整したり、他の添加剤と組み合わせてもよい。本発明の難燃剤は、ポリウレタンやポリエステル等の樹脂の難燃性向上のために有用である。特に、多価アルコール由来の水酸基及びアルキレンオキサイドの付加反応で新たに生成する水酸基を有するため、高い難燃性を求められるポリウレタンフォームに好適に用いることができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明の具体的態様を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0041】
<難燃剤組成物の合成>
実施例1〜5、参考例1、2:
以下の方法に従って、エステル組成物の合成と分析を行った。
【0042】
攪拌機、冷却管、温度計、圧力計、加熱装置などを装備した容積が300ミリリットルのガラス製反応器に表1に示す原料比で第1工程の原料を仕込み、反応器の空間部を窒素ガス置換した後、常圧にて反応器の加熱を開始した。反応器内温が100℃に達した時点から30分間保持した後、−100kPaまで減圧して更に15分間保持することで系内の水分等を留去した。その後、30℃程度まで冷却して窒素にて常圧に戻した。続いて、表1に示す原料比で第2工程の原料(プロピレンオキサイド)をシリンジにて添加して、常圧にて再度反応器の加熱を開始した。50〜60℃程度でプロピレンオキサイドの還流が始まり、プロピレンオキサイドの還流を維持しつつ1〜2時間程度をかけて120℃まで昇温、そのまま2時間保持した後、−100kPaまで減圧して更に15分間保持することで未反応のプロピレンオキサイド等を留去した。その後、30℃程度まで冷却して窒素にて常圧に戻し、反応生成物を抜き出して酸価、水酸基価、粘度、水分の分析を行った。それぞれの分析結果を表1に示し、塩素濃度についても原料比から求めて表1に示した。尚、表1に記載の原料比はモル比であり、第2工程終了後の製品取得量が100g程度なるように、それぞれのモル比から仕込量を決めた。
【0043】
<分析方法>
(1)酸価:
JIS K15571970に準拠して測定した。
(2)水酸基価:
JIS K15571970に準拠して測定した。
(3)粘度:
JIS K15571970に準拠して回転粘度計(B型粘度計)を用い、25℃で測定した。
(4)水分:
JIS K15571970に準拠して測定した。
【0044】
【表1】

【0045】
<難燃剤組成物の評価>
実施例6〜8、参考例3〜5:
本発明のエステル組成物の難燃剤としての効果を確認するため、以下の方法に従って、硬質ポリウレタンフォームを作成し、その難燃性を評価した。
【0046】
<プレミックス液の調製>
表2に示す原料と配合でプレミックス液を調製した。尚、本発明のエステル組成物はポリオール成分の一部として扱い、表中の配合比率は全ポリオール成分を100重量%とした場合の重量%で示した。
【0047】
<硬質ポリウレタンフォームの作成>
表2に記載のプレミックス液と、ポリイソシアネート液を所定量ポリカップに採り、電動ミキサーで高速混合した後に上面と下面に鋼板面材を準備した金型に流し込んで型締めし、硬質ポリウレタンフォームの鋼板面材サンドイッチパネルを作成した。その際の条件を表4に示す。尚、ポリイソシアネート液はポリメリックMDI(日本ポリウレタン工業株式会社製「ミリオネートMR−200」)を用い、イソシアネートインデックスは300とした。
【0048】
【表2】

【0049】
表2の配合において、原料は以下の表3に記載のものを用いた。
【0050】
【表3】

【0051】
【表4】

【0052】
得られた硬質ポリウレタンフォームの鋼板面材サンドイッチパネルは、中央部を99×99mmに切断して試験片を作成し、コーンカロリー試験にて難燃性を評価した。コーンカロリー試験はISO5660−1(2002)に準拠し、試験時間は20分(不燃)で行った。判定の基準は以下のとおりであり、結果は表2に示した。
【0053】
<コーンカロリー試験(不燃)判定基準>
(1)加熱開始後20分間の総発熱量が、8MJ/m以下であること。
(2)加熱開始後20分間、防火上有害な裏面まで貫通する亀裂及び穴がないこと。
(3)加熱開始後20分間、最大発熱速度が10秒以上継続して200kW/mを超えないこと。
【0054】
以上の結果より、主に次のことが明らかである。
【0055】
(1)実施例1、2、5のエステル組成物を用いた実施例6、7、8と参考例1のエステル組成物を用いた参考例3との比較結果:
2価の塩素化カルボン酸無水物に対する1価及び/又は多価アルコールのモル比が0.5〜15.0である実施例1、2、5のエステル組成物を用いた実施例6、7、8の場合、コーンカロリー試験に合格する高い難燃性が得られるが、適切なモル比から外れた参考例1のエステル組成物を用いた参考例3の場合、難燃性が低下してコーンカロリー試験に不合格となる。
【0056】
(2)実施例1、2、5のエステル組成物を用いた実施例6、7、8と参考例2のエステル組成物を用いた参考例4との比較結果:
2価の塩素化カルボン酸無水物を用いた実施例1、2、5のエステル組成物を用いた実施例6、7、8の場合、コーンカロリー試験に合格する高い難燃性が得られるが、塩素を持たない2価のカルボン酸無水物を用いた参考例2のエステル組成物を用いた参考例4の場合、コーンカロリー試験に不合格となる。
【0057】
(3)実施例1、2、5のエステル組成物を用いた実施例6、7、8と参考例5との比較結果:
本発明のエステル組成物を用いた実施例6、7、8の場合、コーンカロリー試験に合格する高い難燃性が得られるが、本発明のエステル組成物を用いなかった参考例5の場合、コーンカロリー試験に不合格となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコールによるハロゲン化カルボン酸無水物の開環反応生成物のカルボキシル基にアルキレンオキサイドを付加させて得られるエステル組成物。
【請求項2】
アルコールが分子量100〜1000のオキシアルキレングリコール及び/又は数平均分子量100〜1000のポリオキシアルキレングリコールである請求項1に記載のエステル組成物。
【請求項3】
アルキレンオキサイドが、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド又はブチレンオキサイドである請求項1に記載のエステル組成物。
【請求項4】
開環反応生成物のカルボキシル基1モルに対してアルキレンオキサイドが1モル付加された成分を含有している請求項1に記載のエステル組成物。
【請求項5】
ハロゲン化カルボン酸無水物が、無水クロレンド酸及び/又はクロロ無水フタル酸である請求項1乃至4の何れかに記載のエステル組成物。
【請求項6】
塩素濃度が5〜50重量%である請求項5に記載のエステル組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載のエステル組成物を有効成分とする難燃剤。
【請求項8】
ハロゲン化カルボン酸無水物をアルコールで開環反応させた後、開環反応生成物のカルボキシル基に、アルキレンオキサイドを付加させるエステル組成物の製造方法であって、開環反応におけるハロゲン化カルボン酸無水物に対するアルコールのモル比が0.5〜15.0であることを特徴とするエステル組成物の製造方法。
【請求項9】
開環反応及びアルキレンオキサイドの付加反応を無触媒下で行う請求項8に記載のエステル組成物の製造方法。

【公開番号】特開2012−131764(P2012−131764A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15524(P2011−15524)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000199795)川崎化成工業株式会社 (133)
【Fターム(参考)】