エステル解毒のための新規方法
本発明は、OP神経剤、コカイン及びそれぞれの類似体を含む無機又は有機のエステルの解毒のための方法に関する。より具体的には、本発明は、治療上の適用により有効な加水分解酵素を合成することによる、潜在的に神経毒性のエステル又は他のエステル群の処理に属する。合成されたOP類似体の構造が提供される。本発明は、生物学的試料及び環境試料中のOP剤を検出するための診断方法及びアレイバイオセンサーも提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、2006年6月7日出願の米国特許仮出願第60/811,370号の利益を主張するものである。
【0002】
(発明の分野)
本明細書では、サルブチリルコリンエステラーゼ(monkey butyrylcholinesterase)(RhBchE)の単離されたDNA分子;ヒトブチリルコリンエステラーゼ(human butyrylcholinesterase)(HuBchE)突然変異体の単離されたDNA分子;HuBchE及びRhBchEを特徴とする突然変異ライブラリー;RhBchE及び修飾HuBchEのDNA分子を含有する発現ベクター;ブチリルコリンエステラーゼ(Butyrylcholinesterase)(BchE)の高レベルアデノウイルス(adenovirus)(AD)ベースの発現系;有機リン酸(organophosphate)(OP)神経剤の構造を模倣するOPモデル化合物;及びアレイバイオセンサー用の抗体を得るためのOPモデル化合物の使用が提供される。本発明は、有機リン酸神経剤を含む無機又は有機エステルの解毒のための一般方法、並びに生体試料及び環境試料中のOP剤を検出する診断方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
薬物乱用は、公衆の主要な健康問題の1つである。3,000,000人を超えるアメリカ人がコカインの常習者(heavy users)であり、同数のアメリカ人が軽い濫用者である。毎年、約100,000件の救急外来受診がコカイン関係である。心血管の窮迫及び全身性発作を起こす、心血管及び中枢神経系へのコカインの過量服用の一般的な合併症に対して利用できる有効な治療法はない。コカインは、分子進化の手法を利用して導き出されるエステラーゼによって治療的な方法で無毒化することができる、有機エステルの例である。
【0004】
治療的な方法で無毒化することができる無機エステルの例は、有機リン酸(organophosphate)(OP)の神経剤又は殺虫剤である。それらの化合物は多数の不可欠な酵素をブロックすることができるので、神経剤曝露からの生物学的脅威は大きな懸念にもなっている。詳細には、セリンエステラーゼ及びプロテアーゼが、OP神経剤によって速やかに且つ不可逆的に阻害される。
【0005】
BchEは、セリンエステラーゼファミリーの溶解性の血清糖タンパク質酵素である。酵素の生理機能は明白でない。しかし、BchEが少量のOP及びカルバメート農薬を取り除き、人々をこれらの毒物の毒作用から保護することが、何十年もの間知られている。OPへの曝露は血清酵素の活性を低下させるので、BchEは、OP中毒の早期発見のためのマーカーの役目も果たす。BchEは、ヒトにおいてコカイン及び他のエステルの代謝及び解毒のための主要な酵素でもある。BchEは、コカインをエクゴニンメチルエステル及び安息香酸などの薬理的に不活性の化合物に代謝する。本酵素は、コカイン解毒及びOP中毒の治療で使用するために、大きな可能性をもたらす。
【0006】
理論的には、BchEは酵素補充療法にとって理想的な酵素を代表するものである。それはコファクターを必要とせず、血漿のpHで溶解性及び高機能的であり;加水分解生成物は無毒性である。精製されたBchEは長い間安定で、外来性投与の後の比較的長い半減期を有する。HuBchEのPEG化は、その安定性及び半減期を著しく改善する。最も重要なことに、精製されたHuBchEは、スクシニルコリン誘発無呼吸及びOP中毒のヒトの治療のために、ヨーロッパでは何十年も安全に用いられてきた。その理論上の可能性に関係なく、HuBchEはOP及びコカインの加水分解に対してあまり効果的な酵素ではない。OPへの本酵素の不可逆的結合により、触媒としてではなくスカベンジャーとしてだけ作用するように、その酵素の能力が制限される。本酵素は、(+)コカインよりも2000倍遅く、天然の(-)コカインを加水分解する。タンパク質工学によって生成された、合理的に設計された突然変異体は、本酵素が、OPヒドロラーゼ(Millardら、1995;Millardら、1998、によって記載されるG117H及びG117H/E197Q突然変異体)、並びにコカインヒドロラーゼ(Pancookら、2003、Gaoら、2005、によって記載されるA328W/Y332M/S287G/F227A突然変異体)に変換することができることを示した。突然変異研究は、酵素の加水分解活性を改善することが可能なことを示唆するが、現在まで報告されている突然変異体の結合親和性は低く、ターンオーバーは遅く、それらを著しく改善することができる。HuBchEの触媒柔軟性は、そのOP及びコカインの触媒効率の改善に大きな余地をもたらす。しかし、OP及び/又はコカインの加水分解活性を著しく改善するためには、活性部位の近くの及び/又はそこから遠くの複数の残基におけるHuBchE突然変異の組合せがおそらく必要である。OPと酵素との相互作用及び(-)コカイン加水分解に対する重大な立体障害に付随する複雑な多段階触媒事象のために、分子構造解析によってそのような突然変異の組合せを予測することは簡単ではない。BchEへの分子進化技術の応用により、OP神経剤及びコカインに対する触媒活性の改善に有望な結果がもたらされる。
【0007】
急性OP神経剤中毒の現在の治療法には、一般に、コリンエステラーゼ再活性化剤(オキシム)、ムスカリン受容体アンタゴニスト(アトロピン)及び抗痙攣剤(ジアゼパム)の併用投与が含まれる。これらの治療薬は競合的な方法だけで作用し、ニューロン脳損傷及び無能力化を予防しないので十分でない。化学的予防処置は、臭化ピリドスチグミン単剤使用、抗コリン作働性薬と併用するピリドスチグミン及び経皮投与のためのHI-6を含めて、軍隊による使用のために導入されている(Bajgar、2004)。
【0008】
コカイン毒性及びOP中毒のための治療は問題の原因(即ち、神経剤及びコカイン)よりも症状を治療することが目的であるので、魅力的な代わりの治療手法は、傷害の起こる前に神経剤又はコカインを直接除去する触媒又はスカベンジャーを適用することである。治療処置の基本は、存在する神経剤又はOPの量及び種類を診断する必要性である。OP神経剤曝露のバイオマーカーを検出する非常に高感度で安価な方法が、化学戦及び他のOP脅威に対して医学的な防御と合わせて必須である。傷害が起こる前に動物において神経剤のバイオマーカーを検出するために利用可能な方法は高価であり、面倒であるので、課題は、野外使用可能であり、頑健なシステムを開発することである。本発明は、携帯型自動複数分析物アレイバイオセンサーを用いて容易且つ安価に配備することができる、OP神経剤のバイオマーカーを検出する選択的な方法を提供することによって、この問題を解決するものである。
【0009】
アレイフォーマットは、同時に多くの標的について試料を分析する能力などの、いくつかの利点を提供する。さらに、各感知表面に陽性及び陰性の対照を含めることは、並行しているが別々の感知表面に置かれたそのような対照よりも信頼できる。DNAアレイ技術は実験装置に関してこの取組みを導くものであり、光導波路を使用する2つの注目すべきシステムとしては、Zeptosens社(Pawlakら、2002)及びIllumina社(Epstein及びWalt、2003)によって販売されるシステムがある。これらのシステムは数千の捕捉分子を収容し、非常に高感度である。しかし、それらは高度に訓練された研究員による使用のために設計され、自動化されておらず、現場適用に適応していない。本発明で記載されるアレイバイオセンサーは、光導波路技術及び、複数の試料を複数の標的について同時に試験する能力を、携行性及び自動化と一緒に組み合わせる。
【0010】
バイオセンサーは、多くの小さな(mm2)感知領域を収容するのに十分な表面積を有する、プレーナー型導波路をベースにする。改変した顕微鏡スライドの導波路は、635nmダイオードレーザー及びライン発生器を用いて照射され、光は近位端に放射される。光が遠位末端近くの2.4cm2感知領域で比較的均一であるように、スライドの最初の2/3はモード混合領域を提供する(Feldsteinら、1999)。正常な条件下では、内部全反射が達成され、エバネセント場が感知領域で生成される。エバネセント光は感知領域で結合される蛍光団を励起し、放射された蛍光はPeltier冷却CCDカメラ(Wadkinsら、1997;Goldenら、2003)を用いて90°で測定される。導波路表面のアレイ中の蛍光の位置は、検出される標的のアイデンティティを明らかにする。このシステムは市販されている。
【0011】
試料から標的を捕捉するために、標的と結合することができる抗体又は他の分子が、スポットの列として導波路表面に固定化される(Roweら、1999;Delehantyら、2002)。偽陽性又は偽陰性の応答を防止するために、陽性及び陰性の対照を列に含めることができる(Liglerら、2003)。さらに、センサースポットの列と組み合わせた複数のチャネルの利用は、複数の試料の同時分析を可能にする。アッセイは、大きな分子及び微生物(サンドイッチアッセイ)又は小分子(競合アッセイ、置換アッセイ)を検出するようにフォーマット化することができる(Sapsfordら、2002)。近赤外蛍光の使用は、短波長で蛍光を自己発光することができる試料成分による干渉を防止し、分析前の複合試料からの標的の分離を不要にする(Sapsfordら、2001;Taittら、2004)。表面プラズモン共鳴(surface plasmon resonance)(SPR)、共鳴ミラー又は干渉システム(Homolaら、2002;Kinning及びEdwards、2002;Campbell及びMcCloskey、2002、Barzenら、2002)などの質量感応性センサーと対照的に、蛍光ベースのアレイバイオセンサーは、シグナル生成のために蛍光団標識分子を必要とする。このことは、試料成分による非特異的吸着による干渉に対して、アッセイを比較的免疫性にする(Liglerら、2003;Roweら、1999;Sapsfordら、2001;Taittら、2004)。
【0012】
試料の調製をほとんど又はまったくせずに複合試料中のバイオマーカーを検出するアレイバイオセンサーの能力は、非自動化プロトタイプを用いて、すでに示されている。本発明は、本明細書で、そのシステムが研究室及び野外の状況で神経剤関連の又は他のバイオマーカーをいかに効果的に検出することができるかを判定するために、自動化システムを適用する。
【発明の概要】
【0013】
(発明の要旨)
一態様では、本発明は、アカゲザルブチリルコリンエステラーゼ(rhesus butyrylcholinesterase)(RhBchE)(アカゲザル(Macaca mulatta))の単離されたDNA分子を提供する。
【0014】
他の態様では、本発明は、ヒトブチリルコリンエステラーゼ(human butyrylcholinesterase)(HuBchE)及びその突然変異体の単離されたDNA分子を提供する。
【0015】
他の態様では、本発明は、HuBchE及びRhBchEを特徴とする突然変異ライブラリー、並びにベクターにおいてBchEの突然変異ライブラリーを作製する方法を提供する。
【0016】
他の態様では、本発明は、ベクター粒子にBchEの突然変異ライブラリーを詰め込むことによって、細胞をベクターに感染させる方法を提供する。
【0017】
他の態様では、本発明は、RhBchE及び修飾HuBchEのDNA分子を含有する発現ベクター;並びに、アデノウイルス(AD)ベースのBchEの高レベル発現系を提供する。
【0018】
他の態様では、本発明は、VX、タブン、GF、ソマン及びサリンなどのOP神経ガスの構造を模倣する、ラセミの並びに鏡像異性的に純粋であるOPモデル化合物を提供する。
【0019】
他の態様では、本発明は、BchE突然変異ライブラリーから発現したOP抵抗性及び/又は触媒性のBchE変異体を同定するための、細胞ベースの機能スクリーニングアッセイにおけるOPモデル化合物の使用方法を提供する。
【0020】
他の態様では、本発明はアレイバイオセンサー用の抗体を得るための、OPモデル化合物の使用方法を提供する。
【0021】
他の態様では、本発明は生体試料中のOP剤を検出する診断方法を提供する。
【0022】
さらなる態様では、本発明は、BchEを化合物と一緒にインキュベートし、化合物の活性の指標としてBchEの阻害をさらに検出することによって、BchE活性についてOPモデル化合物をスクリーニングする方法を提供する。
【0023】
他の態様では、本発明は、感染細胞の培地中でのBchE発現を検出する方法を提供する。
【0024】
他の態様では、本発明は、OP化合物又は神経剤の存在下でBchEを発現する原核細胞又は真核細胞によりBchEを検出する方法を提供する。
【0025】
他の態様では、本発明は、神経剤及び他のOPを選択的に検出するための、アレイベースの方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1Aは、RhBchEトランスフェクションを示す図である。CHO細胞を、6-ウェルプレートに一晩播種した。製造業者によって記載されているように、バックグラウンドベクター(N.C.)、pRC-CMV-HuBchE(hBchE)、pGS-RhBchE(GS1及びGS2)並びにpRC-CMV-RhBchE(RC1及びRC2)を含有するプラスミドを、リポフェクタミンで細胞にトランスフェクトした。培地をトランスフェクション後24時間及び48時間に収集し、基質として1mM BchIを用いるEllmanアッセイを用いて、BchE活性アッセイのために用いた。図1Bは、RhBchEのウェスタンブロット分析の結果を示す図である。BchE単位は、1分につき1μmolの基質を加水分解する酵素の量と定義される。トランスフェクション後48時間の試料を、HuBchE(B)に対して生じるポリクローナル抗体を用いてウェスタンブロット分析で分析した。
【0027】
【図2】図2A。RhBchEの精製を示す図である。精製されたRhBchEのSDS-PAGEは、コマシー(commassie)ブルーで検出した。図2B。精製されたRhBchEのSDS-PAGEを、抗HuBchE抗体で検出したことを示す図である。
【0028】
【図3】図3A。エコチオフェート(echothiophate)(ETP)の表示濃度によるRhBchEの阻害を示す図である。図3B。エコチオフェートの表示濃度によるHuBchEの阻害を示す図である。データは、プリズムを用いる一次処理へあてはめた。傾きは、所与のETP濃度のkapp(分-1)を与える。ETPの最初の阻害インキュベーションで用いたETP濃度におけるkapp(分-1)の再プロットにより、表5で報告するデータが得られた。
【0029】
【図4】図4A。化合物1の特定の濃度によるHuBchEの阻害を示す図である。図4B。化合物2の特定の濃度によるHuBchEの阻害を示す図である。図4C。化合物3の特定の濃度によるHuBchEの阻害を示す図である。図4D。ETPの特定の濃度によるHuBchEの阻害を示す図である。データは、プリズムを用いる一次処理へあてはめた。傾きから、所与のOP濃度のkapp(分-1)が得られる。図4E。化合物1の最初の阻害インキュベーションで用いたOP濃度におけるkapp(分-1)のプロットを示す図である。再プロットにより、線型適合度が得られた。傾きから、kinact/Ki=4.1×103M-1分-1が得られる。データの二重逆数プロットから、表7で報告するデータが得られた。
【0030】
【図5】遺伝子シャッフル組換えBchEの8個のランダム選択された代表的なクローンの図である。
【0031】
【図6】図6Aは、ヨウ化ブチリルチオコリン(Butyrylthiocholine iodide)(BchI)加水分解活性を示す図である。COS細胞を、6-ウェルプレートに一晩予め播種した。次に、細胞を、特に0時に、モック感染(対照)又はウェルあたり1×108pfu及び4×108pfuのHuBchE-ADで感染させた。感染後の表示時刻に、BchI加水分解活性を培地について調べた。BchE単位は、1μM/分のBchI基質を加水分解するのに必要な酵素と定義した。図6Bは、アデノウイルス(adenovirus)(AD)発現ベクター媒介BchE発現のウェスタンブロット分析の結果を示す図である。感染後の表示時間に収集した培地試料を、SDS-PAGEで分析した。0、1及び2は、それぞれモック感染(対照)又は1×108pfu及び4×108pfuのHuBchE-ADで感染させた細胞を表す。培地中でのHuBchEは、ウェスタンブロット分析で検出した。
【0032】
【図7】PacI線形化表示組換えADでトランスフェクトした293A細胞のBchE活性を示す図である。トランスフェクション後の表示時間に収集した培地におけるBchE活性を、エルマン法で分析した。
【0033】
【図8】図8Aは、0〜3時間の間の、異なる固体マトリックスを用いる固相アッセイにおける、細胞ベースのHuBchE発現媒介BchI加水分解を示す図である。図8Bは、3.5〜7.3時間のインキュベーション後の、8Aにおけるのと同じ固相アッセイにおけるBchI加水分解を示す図である。WT HuBchEを安定して発現するCHO-K1細胞を、24ウェルプレートに一晩播種した。細胞を、本文に記載するように処理した。各ウェルの405nmの吸光度を、プレートリーダーによって経時的に記録した。凡例は、細胞コーティング(第1層)及び基質適用(第2層)のために用いた固相材料を示す。
【0034】
【図9】図9Aは、HuBchE発現細胞の局在を示す図である。WT HuBchEを安定して発現したCHO-K1細胞を播種したプレートを、本文で記載のように、BchI基質を含むエルマン混合液で発色させた。図9Bは、プレートAの反転像を示す図である。
【0035】
【図10】特定された黄色スポットからのウイルスの単離の間に単離された、特異プラグの図である。記載のように、6-ウェルプレートの293A細胞を連続希釈のHuBchEで感染させ、BchE活性があるかどうか染色した。表示した陽性プラグ、陰性プラグ、試料プラグ及びバックグラウンドプラグをプレートから抜き取り、ウイルス抽出のために培地へ移した。
【発明を実施するための形態】
【0036】
(発明の詳細な説明)
本発明は、アカゲザルブチリルコリンエステラーゼ(rhesus butyrylcholinesterase)(RhBchE)(アカゲザル(Macaca mulatta))の単離されたDNA分子を提供する。RhBchEは、RACEキット及びRT-PCRを用いてRNAからクローニングした。完全長RhBchEを、pRC-CMVのHindIII/ApaI部位にクローニングした。得られたプラスミドをCHO細胞にトランスフェクトし、活性BchE酵素の発現をBchI加水分解のアッセイ培地からモニターした。HuBchEの単離されたDNA分子及びその突然変異体も提供する。
【0037】
本発明は、HuBchE及びRhBchEを特徴とする突然変異ライブラリー、ベクターにおいてBchEの突然変異ライブラリーを作製する方法、並びにベクター粒子にBchEの突然変異ライブラリーを詰め込むことにより細胞をベクターに感染させる方法を提供する。RhBchE及び修飾HuBchEのDNA分子を含有する発現ベクター、並びにアデノウイルス(AD)ベースのブチリルコリンエステラーゼの高レベル発現系がさらに提供される。本発明の方法では、ベクターは、この目的に適する任意のベクターであってよい。好ましい実施態様では、ベクターはpENTRAベクター又はアデノウイルスベクターである。細胞は任意の細胞、好ましくは哺乳動物の細胞でよい。
【0038】
BchEライブラリーを作製するために、部位飽和突然変異誘発技術を用いた。突然変異誘発は、選択された任意の特定の位置(例えばHuBchEライブラリーの位置G117及びE197)で実施することができる。部位飽和突然変異誘発は、二段階PCRを用いて、NNKのランダム突然変異誘発コドン(N=A、T、C又はG;K=G又はT)を組み込み、HuBchEの特定の位置を置換するために実施される。PCR生成物は、次にKpnI/XhoI部位を通してpENTRA 1ベクターにクローニングすることができる。プールされたpENTRA-HuBchEクローンからのプラスミドDNAは、pAD/CMV/V5/DESTベクターによる組換えのために用いることができる。pAD-HuBchE突然変異ライブラリープールのプラスミドは、PacI酵素で消化し、次に、ADパッキングのためにリポフェクタミン2000を用いて293A細胞にトランスフェクトすることができる。組換えAD-HuBchEウイルスライブラリーは、細胞上清から収集することができる。次に、ライブラリーを、一次ハイスループット固相機能スクリーニング、及び二次液相活性スクリーニングでスクリーニングする(実施例4)。
【0039】
RhBchE又は部位特異的突然変異誘発又は他の手段による表1で記載のRhBchEアミノ酸の変化の1つ又はすべてを有するHuBchEの突然変異体の使用は、より高い加水分解活性を有する酵素を提供するはずである。これらの残基は、単独で又は組合せで、精製された天然酵素で見られるより高い基質結合親和性及び速度をもたらし得る。異なる残基は、タンパク質の折畳み及び/又はタンパク質の翻訳後修飾(即ち、N-グリコシル化、リン酸化)を変化させることができ、したがって、コカイン又は他のエステルの認識及び酵素結合部位への進入、コカインの実際の加水分解又は加水分解生成物の放出を変えることができる。タンパク質のC末端部分に存在する異なる残基の多くは、おそらくタンパク質の二量体化又は四量体化を変化させることができ、したがって、酵素の安定性を変化させることができる。RhBchEから得られる情報に基づくHuBchEの突然変異は、したがって、高い加水分解活性を有する酵素を生成することができる。RhBchEによる一次配列の変異は、サルに対して多少の選択有利性を提供できることが考えられる。RhBchEに存在するアミノ酸変異、並びにランダムに若しくは選択的に導入された突然変異を利用するHuBchEの分子進化は、血流から潜在的に毒性のエステル(又はそれらの化学同族体)を除去するための、非常に選択的で強力な触媒を提供することができる。本明細書で提供される、機能スクリーニング系は完全に検証されており、そのような生成物の分子進化の成功を確実にする。
【0040】
感染細胞の培地中でのBchE発現を検出する方法もさらに提供される。細胞培養物は、本発明の方法に適する任意の細胞培養物であってよい。好ましい実施態様では、細胞培養物は哺乳動物の細胞培養物である。BchEの発現系は、そのような目的に適する任意の発現系であってよい。好ましい実施態様では、発現系は、突然変異ライブラリー発現を組み込み、ハイスループットフォーマット機能スクリーニングに適合させることができる、アデノウイルス(AD)ベースの高レベル発現系である。ADは広範囲の哺乳動物細胞を感染させることができ、異なる分裂及び非分裂細胞株における様々なタンパク質の発現を可能にする(実施例10)。
【0041】
本発明は、VX、GF、タブン、ソマン及びサリンなどのOP神経剤の構造を模倣する、OPモデル化合物を提供する。本発明の方法では、化合物は0.01〜20mMの濃度、好ましくは0.1〜10mMの濃度で用いられる。具体的な実施態様において、化合物の濃度は0.5mMである。化合物の合成は、実施例12及び13で詳細に記載する。
【0042】
本発明は、BchEを化合物とインキュベートし、化合物の活性の指標としてBchEの阻害をさらに検出することによって、BchE活性についてOPモデル化合物をスクリーニングする方法を提供する。OP化合物又は神経剤の存在下でBchEを発現する細胞は、原核細胞又は真核細胞であってよい。
【0043】
本発明は、生体試料中のOP剤を検出する診断方法を提供する。OP化合物の急性毒作用は、必須のセリンヒドロキシルとの反応によってAChEを阻害して比較的安定したホスホセリンエステル結合を形成するそれらの能力とよく相関するので、OPとChEとのコンジュゲート体は、OP曝露のきわめて感度の高い選択マーカーの役目を果たすことができる。同様に、リン酸化されたアルブミン(即ち、Tyr 411)は、OP又は農薬への曝露の高感度のマーカーの役目を果たすことができる。特定のOP化合物によって与えられる正確な変更に基づく個々のOP-ChE又はOP-アルブミンコンジュゲート体を特異的に認識するために選択的な抗体を用いることにより、曝露の間又は後の、OPの相対的な毒性の可能性の確認において、巨大な診断価値のあるツールが得られる。
【0044】
本発明は、神経剤又は他のOPを選択的に検出するアレイベースの方法を用いることにより、アレイバイオセンサー用の抗体を得るための、OPモデル化合物の使用方法をさらに提供する。これは、3つに分かれた手法である。第1に、抗体を手に入れるために合成化学試薬を用い;第2に、抗体を得てバイオセンサーに組み込み、高感度検出のための最適な構成を判定するために異なるアッセイフォーマットで試験し、感度及び迅速検出の両方について最適化し;第3に、緩衝液、混入生理液及び最後に血液でのそのような選択性の実証の後、生理的に重要な濃度で処理した動物の血液成分又は脳組織を感度及び選択性について再び試験する。最終生成物は、環境試料又は低用量の神経剤若しくは他のOPに曝露した動物から採取された生体試料中のOPを検出することに役立つ、野外使用可能なアレイバイオセンサーである(実施例14)。
【0045】
(本発明の使用方法)
【0046】
本発明は、傷害が起こる前にインビボで神経剤、コカイン、農薬、他の乱用薬物を除去するのに有用である効率的な生物学的スカベンジャー(及び/又は酵素触媒)としての、臨床的に試験された組換えHuBchE(及び/又はこの酵素のより活性の強い触媒性変異形態)を提供する。本発明は、軍人、最初の対応者及び一般人をOP曝露の脅威から保護するための有望な手法となり、コカイン又は他の剤の過剰摂取のための緊急治療法を提供する。この生成物は、農薬に潜在的に曝露する人々を保護するために用いることもできる。ヒトの臨床使用に加えて、本生成物は、神経剤解毒スポンジなどの、皮膚又は他の表面上の神経剤を吸収、解毒する解毒デバイス;神経剤の迅速で高感度の検出を可能にする検査ストリップなどの検出デバイス;並びに、神経剤の破壊及び処理のための汚染除去試薬として使用することもできる。
【0047】
最終生成物の他に、本明細書で提供されるOP類似体及びOP加水分解アッセイは、パラオキソナーゼ、カルボキシラーゼ及び触媒抗体などの他の酵素に容易に応用することができ、多様化ライブラリーは、他の商業的に存続可能なバイオ治療法(例えば、コカイン加水分解)及び工業用酵素についてのスクリーニングで用いることができる。
【0048】
以下の非限定的な実施例によって、本発明をさらに説明する。
【0049】
(実施例1:RhBchEのクローニング、発現及び精製)
RhBchE完全長発現ベクターの構築。RhBchEの5'配列は、製造業者の手順に従ってRACEキットを用いてアカゲザル(Macaca mulatta)のRNAから直接クローニングした。具体的には、全RNAは、3匹のアカゲザルの肝臓を含有する試料から調製した。短いmRNAの脱リン酸で完全長mRNAのキャップ構造を除去した後、RNAのRACEオリゴを完全長mRNAへ連結した。次に、RT-PCR及びクローニングを通して、RhBchEの5'配列を得た。3'RhBchE配列は最近のインプット配列(NCBI BV21 1040)を通して確認し、参照によりその全体が組み込まれる2006年6月7日に出願の仮出願第60/811,370号に開示した。プライマーは、得られた配列に基づいて設計した。RhBchEシグナルペプチド領域及び成熟BchEを含む完全長RhBchEは、PCRを通して増幅し、pRC-CMV並びにpGSベクターのHindIII/ApaI部位にクローニングした。pGSベクターはpRC-CMVベクターと基本的に同じであったが、pRC-CMVのG418の選択マーカーはラットグルタミンシンテターゼで置換した。クローニングしたプラスミドの配列を確認した。
【0050】
機能的組換えRhBchEの発現。プラスミドをCHO細胞にトランスフェクトし、活性BchE酵素の発現を、エルマン反応を用いてBchI加水分解のアッセイ培地からモニターした。BchEタンパク質の発現は、ウサギ抗HuBchEポリクローナル抗体によるウェスタンブロット分析によっても確認した。
【0051】
安定細胞株選択。組換えRhBchEの高レベル発現を提供する安定細胞系を調製するために、CHO細胞をpGS-RhBchEベクターでトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後、細胞をトリプシン処理し、10倍及び20倍に希釈した後に15cm培養皿に平板培養した。用いた選択培地は、25μMメチオニンスルホキシイミン(methionine sulfoximine)(MSX)を含み、L-グルタミンを含まない無血清Ultraculture培地である。MSXは、内部発現グルタミンシンテターゼの特異阻害剤である。したがって、pGSRhBchEベクターを有する細胞だけが、この選択条件下で複製することができる。トランスフェクトされた細胞を2週間の間選択培地で維持して、コロニーを形成させた。他から分離された24個の単一のコロニーを、ランダムに選択した。培地を、培養プレートから除去した。トリプシンに浸漬した小さなろ紙を選択したコロニーに加え、室温で2分間インキュベートした。次に、上で示した選択培地を提供した24-ウェルプレート内の個々のウェルに、ろ紙を移した。細胞は、集密に至るまで増殖させた。高レベル発現を提供した安定細胞系を特定するために、各ウェルの培地をBchE活性について分析した。
【0052】
親和性樹脂の調製。RhBchEの精製のために、プロカインアミドでコンジュゲートしたセファロース4Bカラムを、わずかな修正を加えた記載の手順(Grunwaldら、1997)に従って作製した。CNBr活性化セファロース4B fast flow)を1mM HCl(1容量で15回の洗浄)で完全に洗浄して、キャリーオーバーの糖を除去した。次に、pH9に調節するために、0.4M NaClを含有する結合緩衝液0.2M NaCO3 pH9.0に樹脂を再懸濁させた。結合緩衝液を除去した後に、0.1Mのγ-アミノカプロン酸を含有する0.5容量の結合緩衝液を加え、反応物を4℃で一晩(約20時間)回転させた。培地をH2Oで5回洗浄し、樹脂を、0.1Mの1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩に再懸濁させ、HClでpH4.5に調節し、液体を除去した。次に、pH4.5を2.5時間維持するために1MのHClを加えた100mol/ml樹脂の濃度のプロカインアミドを含有する、0.5容量の0.1M 1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジミド(ethylcarbodimide)塩酸塩に、樹脂を再懸濁させた。反応では、pHを5分おきに調節し、pHの範囲はおよそpH4.45〜4.65であった。反応は、室温で一晩(〜20時間)で完了させた。次に、樹脂をカラムに詰め、未反応のプロカインアミドの完全な除去のためにUV280でモニタリングしながら、H2Oで完全に洗浄した。未結合のプロカインアミドを測定するために、すべての流出物を収集した。
【0053】
培地からの組換えRhBchEの精製。精製組換えタンパク質を調製するために、RhBchEを発現する安定した細胞を、3層の細胞増殖を可能にするT180フラスコで増殖させた。分泌されるRhBchEを2週間蓄積させた後、フラスコから培地を収集した。培地は、絶えず回転させながら、4℃で一晩プロカインアミド-樹脂と一緒にインキュベートした。樹脂を、2000×gで5分間の遠心分離によって沈降させた。未結合の物質を含有する上清を注意深く除去し、樹脂を50mMリン酸カリウムpH7.2、1mM EDTA(緩衝液A)に再懸濁して、カラムに詰めた。緩衝液A中の0.2M NaClによる大がかりな洗浄の後、カラムに結合したRhBchEを、緩衝液A中の0.05〜0.5Mのプロカインアミド勾配溶液で溶出させた。溶出液からの活性分画は、BchI基質を用いてエルマンアッセイによって同定した。活性分画を一緒にプールし、30kDの分子量カットオフ値により、セントリコン(ミリポア社製)で濃縮した。
【0054】
アカゲザル血清由来の天然のBchEの精製。アカゲザル由来の血清を、プロカインアミドとコンジュゲートしたセファロースカラムに通した。カラムを、20mMリン酸カリウムpH7.0、1mM EDTA中の0.2M NaClで徹底的に洗浄した。カラムに結合したRhBchEを、0.1Mプロカインアミドで溶出させた。酵素分画の活性を、BchI加水分解によって決定した。活性分画を一緒にプールし、20mMトリスpH8.0、1mM EDTA中でのセファロース4Bゲルろ過クロマトグラフィーでさらに精製した。BchI加水分解活性に基づき、活性分画を一緒にプールし、DEAEセファロースカラムに加えた。カラムを20mMトリスpH8.0、1mM EDTAで徹底的に洗浄し、カラムに結合したタンパク質を、20mMトリスpH8.0、1mM EDTA中の0.1M、0.15M、0.2M、0.25M及び0.3MのNaClの段階勾配によって溶出させた。活性酵素は、0.2M NaCl溶離液に存在していた。タンパク質濃度は、BCA方法を用いて判定した。各分画中のタンパク質は、SDS-PAGEと、その後のコマシーブルー染色及びウェスタンブロット分析によって分析した。
【0055】
(実施例2.RhBchE及びHuBchEの基質特異性及び阻害動態の評価)
BchIの加水分解。酵素分画は、エルマン法を用いてBchI加水分解について分析した。簡潔には、5mM BchIを、10mMの5,5'-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)(5,5'-dithiobis(2-nitrobenzoic acid)(DTNB)の存在下で、50mMリン酸カリウムpH7.4中の血清と一緒に25℃でインキュベートした。UV-Vis分光光度計を用いて、BchIの加水分解を412nmで連続的にモニターした。活性は、13,600M-1 cm-1のモル吸光係数から計算した。Km判定については、アッセイは、それぞれ25、33.3、50、100及び200μMのBchI、酵素ストック、並びに200μM DTNBを含む50mMリン酸カリウムpH7.2緩衝液を含有した。アッセイは、25℃で実施した。Km値はラインウィーバー-バーク分析によって判定し、kcat値は、エコチオフェート(echothiophate)(ETP)滴定から判定した機能的酵素濃度を用いて判定した。(+)コカイン、(-)コカイン及び一部のその代謝産物の競合的阻害定数Kiは、ある範囲の濃度の(+)コカイン、(-)コカイン、(-)ノルコカインの存在下でBchIの加水分解を測定することによって判定した。
【0056】
コカイン加水分解アッセイ。コカイン加水分解は、質量分光分析(mass spectrometry)(MS)によって特定のエクゴニンメチルエステル(ecgonine methylester)(EME)の生成を定量化することによって特徴づけた。高度に精製したRhBchE又はHuBchEを、コカイン(10mMリン酸カリウム緩衝液pH7.4中の最終濃度が1、2、4、10及び40μM)と一緒に37℃でインキュベートした。20、40及び60分の間隔で、反応を停止して反応生成物を安定させるために、一定量に6N HClを混合した。添加酵素を用いずに、バックグラウンド反応を同時に実施した。各時点で生成されたEMEの量を、反応一定量のAgilent MSDモデルMSへの直接流動注入を用いて判定し、m/z 199.9〜200.9(EME)のイオンは、選択的イオンモニタリングによって定量化した。反応混合液中のEMEの量を、既知の濃度(125〜1000nM)のEME溶液から作成された標準曲線と比較した。各コカイン濃度における特定の酵素によって触媒される速度を、対応するバックグラウンド速度を引くことによって判定した。Km値及びVmax値はラインウィーバー-バーク分析によって判定し、kcatは、エコチオフェート(echothiophate)(ETP)滴定から判定した機能的酵素濃度を用いて判定した。
【0057】
RhBchE及びHuBchEのOP化合物による阻害動態。精製されたRhBchE及びHuBchEのモデルOP化合物及びETPによる時間依存的阻害の動態を、25℃の50mMリン酸カリウム緩衝液pH7.2で試験した。RhBchE及びHuBchEの阻害は、高度に精製されたHuBchE及びRhBchEをETPの様々な量と混合することによって開始した。既定の時間に、1mM BchI及び0.2mM DTNBを含有する反応混合物を酵素-化合物混合物に加え、BchIの加水分解を測定して残りのBchE活性を判定した。アッセイのために7つの阻害剤濃度を用い、各阻害剤濃度について5時点を用いた。
【0058】
(実施例3.HuBchEと新規OP化合物との相互作用の特性評価)
OP類似体によるWT及びG117H/E197Q HuBchEの阻害。WT又はG117H/E197Q HuBchEを、0.5mMの化合物1、2、3(又は4〜13、実施例12を参照)又はETPと一緒に、4℃で48時間個々にインキュベートした。次に、元の酵素と化合物とのインキュベーション混合液の100倍希釈後、標準基質BchI(1mM)を用いて、エルマン法を使用して酵素活性の残存割合を測定した。
【0059】
モデルOP化合物によるHuBchEの阻害の阻害速度定数の判定。精製されたHuBchEのモデルOP化合物による時間依存的阻害の動態を、25℃の50mMリン酸カリウム緩衝液pH7.2で試験した。HuBchEの阻害は、15nMの高度精製HuBchEを様々な量の化合物1、2、3(又は4〜13、実施例12を参照)又はETPと混合することによって開始された。既定の時間に、1mM BchI及び0.2mM DTNBを含有する反応混合物を酵素-化合物混合物に加え、BchIの加水分解を測定して残りのHuBchE活性を判定した。アッセイのために7つの阻害剤濃度を用い、各阻害剤濃度について5時点の酵素活性を測定した。
【0060】
(実施例4.ヒトBchE突然変異体発現ライブラリーの構築)
【0061】
HuBchEの突然変異ライブラリーの構築。位置G117及びE197でHuBchEライブラリーを作製するために、部位飽和突然変異誘発技術を用いた。部位飽和突然変異誘発は、二段階PCRを用いてNNKのランダム突然変異誘発コドン(N=A、T、C又はG;K=G又はT)を組み込み、huBuChEのG117及びE197の位置を置換するために実施した。PCR生成物は、KpnI/XhoI部位を通してpENTRA 1ベクターにクローニングした。プールされたpENTRA-huBchEクローンからのプラスミドDNAを、pAD/CMV/V5/DESTベクターによる組換えのために用いた。pAD-huBchE突然変異ライブラリープールのプラスミドをPacI酵素で消化して左右のウイルスITRを露出させ、次に、ADパッキングのためにリポフェクタミン2000を用いて293A細胞にトランスフェクトした。組換えAD-huBuChEウイルスライブラリーを、トランスフェクションの5日後に細胞上清から収集した。次に、ライブラリーを、一次ハイスループット固相機能スクリーニング、及び二次液相活性スクリーニングでスクリーニングした。
【0062】
例えば、機能スクリーニングプラットホームを、上の2位置(G117及びE197)部位飽和突然変異誘発生成ライブラリーを用いて検証した。ライブラリー組換えウイルスを用いて293A細胞を感染させ、感染から24時間後にMEM中の1%アガロースで細胞をコーティングし、次に、0.4mMの化合物4〜13(即ち、化合物5、サリン類似体、実施例13を参照)をコーティングした細胞に加えて、発現した組換えHuBchE変異体と相互作用させた。感染から4日目に、DTNBの存在下で基質としてBchIを用いて、コーティングした細胞を染色した。OP加水分解酵素の存在を示す黄色スポットの出現について、プレートを3時間モニターした。黄色のアガローススポットをプレートから抜き取り、個々の試験管内の無血清培地でインキュベートした。培地に放出された組換えウイルスからの一定量を、293A細胞を予め播種した96-ウェルプレートに加えた。96-ウェル培養プレートを、感染後3日間インキュベートした。この時間は、ウイルスの増殖及びコードされたhuBuChE変異体の発現を可能にした。3日目に、96-ウェルプレートからの培地を、OP阻害抵抗性/加水分解活性について分析した。上記のすべてのアッセイの結果に基づいて、OP加水分解活性の増大を示す試料を遺伝子識別のために選択した。組換えウイルスでコードされるhuBchE遺伝子を、培地由来のウイルスベクター特異プライマーでPCR増幅した。PCR生成物を配列決定し、huBchE遺伝子内の突然変異を特定した。
【0063】
HuBchEのAD媒介発現。2.45×1010pfu/mlの滴定量を有するHuBchEの変異体(A328Y/Y332A)を含む組換えADのストック。この二重突然変異体は、コカイン加水分解の向上のために設計された。2つの異なるウイルス濃度(1×108pfu及び4×108pfu、(即ち、それぞれ200の感染多重度(multiplicity of infection)(moi)及び800のmoi)を用いて、6-ウェルプレート上に一晩予め播種したCHO細胞及びCOS細胞を感染させた。培地中でのBchE活性は、標準のエルマン反応を用い、基質として1mM BchIを用いて感染後の異なる時点でモニターした。
【0064】
WT及びG117H/E197Q HuBchEのためのAD発現ベクターの調製。HuBchE酵素をクローニングするために、インビトロゲンからのViralPower AD発現系を用いた。このシステムでは、標的遺伝子を侵入ベクターへクローニングした。製造業者によって記載されるように、ゲートウェイ技術を用い、インビトロ組換えを通して、標的遺伝子をpAD/CMV/V5/DESTへ導入した。アデノウイルスベクターの構築のために必要とされる組換えシグナルを提供するpENTRA1侵入ベクターにHuBchE遺伝子をクローニングするために、制限クローニング部位KpnI及びXhoIを組み込むためにTurbo Pfuを用いて、PCR増幅したWT及び元のプラスミド由来のG117H/E197Q HuBchEを作製した。PCR生成物を、pENTRA 1のKpnI及びXhoI部位にクローニングした。PCR工程を通して突然変異が導入されていないことを検証するために、選択されたクローンの挿入断片の配列を決定した。次に、スーパーコイルプラスミドを、pAD/CMV/V5/DEST、標的タンパク質の高レベル発現のためのCMVプロモーター及び陰性選択ccdB遺伝子を含有するAD発現ベクターと共にインキュベートした。形質転換の後、組み換えられたプラスミドだけが、選択プレート上で増殖することができた。pADベクターへのHuBchE遺伝子の正しい挿入を検証するために、プラスミドを制限消化及び配列決定分析によって分析した。
【0065】
HuBchE-ADの生成、及びAD発現系による組換えWT及びG117H/E197Q HuBchEの発現の検証。組換えWT-及びG117H/El97Q-hBchE-ADを生成するために、プラスミドpAD-WT-hBchE及びpAD-G117H/E197Q-hBchEをPacI酵素消化で線状にし、次にリポフェクタミンを用いて293A細胞にトランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞を3日間無血清培地で維持してHuBchE活性を試験し、次に、細胞生存能力を維持させるために血清添加培地へ移した。対照ベクターpAD-lacZも、平行して用いた。パッケージ化された組換えウイルスを含有する培地をトランスフェクションから12日目に収集し、遠心分離にかけて細胞片を除去し、-80℃で保存した。感染後の組換えBchEの発現をモニターするために、組換えウイルスを、培養したCOS細胞の培地に加えた。初期感染後の異なる時点で、BchI加水分解活性を培地について測定した。
【0066】
RhBchE及びHuBchEキメラの突然変異ライブラリーの構築。BchEキメラライブラリーを作製するために、DNAシャッフリング技術を用いた。HuBchE及びRhBchEの完全長断片を、対応するクローンからPCR増幅した。HuBchE及びRhBchEのPCR断片をゲル精製して、1:1の比で組み合わせた。合わせたPCR断片を、制限DNアーゼI消化にかけた。100〜200bpの断片を精製し、プライマーなしでPCR増幅して、より長い断片に組み立てた。完全長組換え生成物を得るために、最後に、このより長い断片を末端プライマーで増幅した。これらのシャッフルDNA断片を、プラスミドpCR2.1-TOPOに連結した。
【0067】
(実施例5.機能スクリーニングアッセイの開発及び検証)
固相コリンエステラーゼ活性アッセイの確立。HuBchE WT又はG117/E197Q HuBchEを安定して発現するCHO-K1細胞を、培養プレートに播種した。播種の24時間後、培地を除去し、細胞をUltraculture無血清培地で2回洗浄した。次に、細胞を、無色MEM中の1%寒天又は1%アガロースで重層した。培地が固まった後、細胞を一晩インキュベータに戻した。基質(1mM BchI若しくは1mM ETP)及び/又は0.1mM DTNBを含有するエルマン反応混合液を、無色MEM中の1%寒天(又は1%アガロース)で調製した。反応混合液を上で調製した細胞培養プレートに重層し、室温でインキュベートした。プレートは黄色の出現を視覚的にモニターし、OD405吸収についてもプレートリーダーで測定した。
【0068】
HuBchE活性の限局性検出。WT HuBchEを安定して発現するCHO-K1細胞を連続希釈し、異なる密度(即ち、4、20及び100細胞数/プレート)で10cm培養皿に播種した。細胞を1週間増殖させ、〜20細胞数/コロニーを含有する小コロニーを形成させた。細胞を無血清培地で2回洗浄し、次に、MEM中の1%アガロースでコーティングした。一晩のインキュベーションの後、無色のMEM中の1%アガロースで調製した基質(1mM BchI及び0.1mM DTNB)を含有するエルマン試薬混合液でプレートを発色させた。
【0069】
AD-BchE組換えウイルスの検出への固相BchE活性アッセイの適用。連続希釈したHuBchE-ADウイルスを用いて、6-ウェルプレートに予め播種した293A細胞を感染させた。感染の1時間後に、アガロース-MEM混合液を細胞に重層した。培養プレートをインキュベータに戻した。複数の複製プレートを調製したので、感染後の各日に1プレートを取り出して、1mM BchI及び200μM DTNBを含有するアガロース-MEM混合液で重層した。プレート上の黄色の出現を、視覚的にモニターした。特定した黄色スポットからウイルスを単離するために、アガロース培養プレートからプラグを抜き取った。単離したプラグを、0.5mlの培養された培地を含有する試験管へ移し、4℃で一晩インキュベートした。次に、プラグと一緒にインキュベートした培地を用いて、24-ウェルプレートに予め播種した293A細胞を感染させた。培地中でのBchE活性は、感染の24及び48時間後に分析した。単離した組換えウイルスからBchE遺伝子を回収するために、プラグと一緒にインキュベートした1μlの培地を鋳型として用いて、ADベクター特異プライマーT7及びpAD-V5Rで増幅した。PCR生成物の配列を決定した。
【0070】
(実施例6.マカク属ChEの活性分析)
より大きなコカイン加水分解性又はOP活性を有する新規BchEを特定するために、3つのサル種、即ち、アカゲザル(Macaca mulatta)、ブタオザル(Macaca nemestrina)及びカニクイザル(Macaca fascicularis)由来の血漿を、BchI及びコカイン加水分解性活性についてスクリーニングした。この試験は、BchI加水分解はすべての血漿で非常に類似しているが、(-)コカインの加水分解は著しく異なり、アカゲザル血清が最大加水分解活性を有することを示した。したがって、さらに酵素の特性を解明するために、アカゲザル由来のBchE遺伝子をクローニングした。
【0071】
RhBchEのcDNA配列の分析。アカゲザル肝臓組織由来のRhBchEのcDNAをクローニングするために、RT-PCRを用いた。RhBchEの完全なcDNA配列(配列番号1)及び対応するアミノ酸配列(配列番号2)を、以下に示す。
【化1】
【0072】
RhBchEの最長のオープンリーディングフレームは574アミノ酸ポリペプチドをコードし、それは、HuBchE(gi:4557351)(配列番号3)と95%の配列同一性(96%の配列類似性)、ウサギBchE(gi:116354)(配列番号4)と91%の同一性(94%の類似性)、ウマBchE(gi:7381418)(配列番号6)と91%の同一性(95%の類似性)、ネコBchE(gi:2981243)(配列番号5)と88%の同一性(92%の類似性)及びマウスBchE(gi:6857761)(配列番号7)と81%の同一性(89%の類似性)を有した。配列番号3〜7のポリペプチド配列を、以下に示す。
【0073】
HuBchEのポリペプチド配列(配列番号3):
【化2】
【0074】
ウサギBchEのポリペプチド配列(配列番号4):
【化3】
【0075】
ネコBchEのポリペプチド配列(配列番号5):
【化4】
【0076】
ウマBchEのポリペプチド配列(配列番号6):
【化5】
【0077】
マウスBchEのポリペプチド配列(配列番号7):
【化6】
【0078】
本発明のRhBchE配列(配列番号8)とM62777(部分RhBchE)(配列番号9)及びHuBchE(NCBI NM 000055)(配列番号10)とのアラインメントも提供される。
【0079】
RhBchEをコードするポリヌクレオチド配列(配列番号8)を、以下に示す。
【化7】
【0080】
部分RhBchE(BV211040)の配列をコードするポリヌクレオチド配列(配列番号9):
【化8】
【0081】
HuBchEをコードするポリヌクレオチド配列(配列番号10):
【化9】
【0082】
異なる種の間での比較の対象となるRhBchE残基を、下の表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
HuBchEの配列と比較して、RhBchEは異なるアミノ酸を有する25残基を含有する。これらの25個の異なる残基の中で、17個のアミノ酸は類似したアミノ酸として保存される。ヒト、ウサギ、ネコ、ウマ及びマウスを含む異なる動物種由来のBchE酵素アミノ酸配列と比較した場合、RhBchEはHuBchEに対して最も高い類似性を有する。HuBchEとRhBchEとの間で保存されているが他の種では保存されていない6つの残基がある。しかし、HuBchEと比較してRhBchE中の8つの非保存アミノ酸中の7つ(P215、S227、D342、D390、V454、G482及びK489)は、実際には他の動物酵素で保存されている。RhBchEに特異的な唯一のアミノ酸残基はN348であるが、記載した他のすべての種由来の酵素はこの位置にLysを有する(表1)。
【0085】
(実施例7.機能的組換えRhBchEの発現)
組換えRhBchEの発現は、一時的にトランスフェクトしたCHO細胞及び安定的にトランスフェクトしたCHO細胞の両方で調査をした。発現した組換えBchE酵素の活性を、エルマン反応を用いてBchI加水分解のアッセイ培地からモニターした。BchEタンパク質の発現はウェスタンブロット分析によっても確認され、組換えRhBchEが抗HuBchEポリクローナル抗体によって認識され、組換えHuBchEと一緒に移動することが示された(図1)。
【0086】
アカゲザル血清からのRhBchEの精製。3段階のクロマトグラフィーの後、SDS-PAGE及びコマシーブルー染色に基づいてRhBchEを約70%の純度まで精製した(図2A)。抗HuBchEポリクローナル抗体によるウェスタンブロット分析は、その抗体がRhBchEを非常に効率的に認識すること、及び、免疫活性バンドが精製HuBchEと一緒に移動することを示した(図2B)。本明細書で記載の本発明で特定される任意のタンパク質の安定性を改善するために、BchEのペグ化又は他の誘導体化を実行することができる。
【0087】
RhBchEの基質特異性。実施例1に記載されているように、精製した酵素分画を、エルマン法を用いてBchI加水分解アッセイのために分析した(表2)。表2は、ブチリルチオコリン及び(-)コカインについて50mMリン酸カリウム、pH7.4において30℃で判定した、精製したRhBchE及びHuBchEの速度定数を示す。
【0088】
【表2】
【0089】
表2〜4で示すように、RhBchEは基質特異性においてHuBchEとかなりの差を示した。RhBchEはBchIに対して2.7倍低い結合親和性(Km 71.1μM)を有していたが、(-)コカインへの親和性はHuBchE(Ki=13.6μM)より約2.9倍高かった(Ki=4.7μM)。
【0090】
RhBchEの基質特異性を試験し、コカイン加水分解生成物を酵素活性の阻害剤として試験し、表3(25℃における50mMリン酸カリウム、pH7.4でのBchI加水分解阻害)に示すように、コカインに化学的に関係する異なる化合物のKi値を判定した。
【0091】
【表3】
【0092】
表3からわかるように、(+)コカイン及び(-)ノルコカインの両方は、HuBchEよりもRhBchEに対して〜2倍高いKiを有するが、(-)コカインはHuBchEよりもRhBchEに対して約3倍低いKiを有し、RhBchEが他の基質より(-)コカインに対してより構造的に選択的であることが示唆される。(-)エクゴニンメチルエステルは、試験した濃度(0〜100μM)においてBchI加水分解を阻害しなかった。
【0093】
表4は、(-)コカインに対するRhBchE及びHuBchEの速度定数を示し(Xieら、1999;Metsら、1998)、RhBchEが、それ以前に報告されたコカイン加水分解触媒及びHuBchE突然変異体と比較して改善されたkcat/Kmを有することを示す。
【0094】
【表4】
【0095】
RhBchEについてのコカイン加水分解の触媒効率(kcat/Km)は、ヒト対応物より10倍以上高い。RhBchEをOPとの相互作用についてHuBchEと比較した場合、ETPによるRhBchE及びHuBchEの阻害は一次的であった(図3)。kapp一次速度定数(阻害のための)対ETP濃度の再プロットにより、RhBchE及びHuBchEとETPとの反応の阻害定数を決定した。RhBchEとHuBchEとの間の感受性の差を、表5に示す(ETPの阻害速度定数は、図3に示すETP濃度を用いるkapp(分-1)の二重逆数プロットから得られた)。
【0096】
【表5】
【0097】
(実施例8.OP類似体の合成及びHuBchEの阻害)
実施例12及び13に記載のように、それぞれサリン、ソマン及びVXの構造を模倣するOP類似体の合成に成功した。OP類似体は、それらのHuBchE及びG117H/E197Q HuBchEとの相互作用について試験した。結果を表6に示す(HuBchE及びG117H/El97Q HuBchEを0.5mMの表示化合物又は対照緩衝液と一緒に4℃で48時間インキュベートした)。
【0098】
【表6】
【0099】
表6で示すように、WT HuBchEは3化合物すべてによって阻害され、残存活性は2%未満であった。残存酵素活性は、1mM BchIを用いてエルマン反応によって試験した。しかし、G117H//E197Q HuBchE変異体は、全3化合物に対して50%以上の活性をなお保持していた。この知見は、G117H/E197Q酵素変異体がOP阻害に抵抗性であったとの初期の報告とよく一致し、合成された3つのOP類似体が、それ以前に試験された他のOP化合物と同様にHuBchE酵素と相互作用していることを示す。さらに、BchI加水分解をより長い期間試験した場合、化合物1及び2とのインキュベーション後のWT残存活性はかなりのものであったが、化合物3又はエコチオフェートがインキュベーション中に存在した場合、検出可能な活性はWT酵素について観察されなかった。ここで示すOP化合物阻害に対するG117H/E197Q HuBchEの抵抗性は、機能スクリーニングデザインで実行することができる重要な特徴を示した。原則として、この手法(硫黄で酸素エステルを置換すること)は、HT機能スクリーニングを開発するために任意のエステルに応用することができる。さらなる実施例は、実施例13で見ることができる。
【0100】
モデルOP化合物によるHuBchEの阻害の阻害速度定数の決定。モデルOP化合物による精製HuBchEの時間依存的阻害の動態は、7つの阻害剤濃度及び各阻害剤濃度について5時点で試験した。全OPモデル化合物によるHuBchEの阻害は、一次的であった(図4Aは、化合物1、2、3及びエコチオフェートの選択された阻害剤濃度を示す)。kapp(阻害の一次速度定数)対OP化合物濃度の再プロットにより、HuBchEと試験OP化合物との反応の阻害定数を決定した(表7)。HuBchEについてのOP化合物の阻害定数は、図4に示すkapp(分-1)対OP濃度の二重逆数プロットから得られた。図4Bは、化合物1からの代表的なプロットを示す。
【0101】
【表7】
【0102】
培地中での化合物安定性及び自発的な加水分解。OPモデル化合物が細胞ベースのアッセイで用いられるので、予想される遅いターンオーバー速度及び予想される長いインキュベーション期間のために、これらの化合物が、培地の存在下でアッセイ条件下で安定であることが重要である。化合物の酵素非依存的な自発的加水分解(即ち、緩衝液媒介性、H2O媒介性及び培地媒介性の加水分解)は、酵素なしのDTNBの存在下でのアッセイ緩衝液中での化合物のインキュベーションと、続く412nmでのUV-visによってモニターした。全3化合物は検出不可能な加水分解を示し、これらの化合物の自発的な加水分解(又は非常に限定的なバックグラウンド加水分解)は、機能スクリーニングで用いたアッセイ条件下で検出されなかったことを示す。化合物安定性も、室温におけるH2O中での長期保存の前後のHuBchEを阻害する能力によって調査し、次に、HuBchEを阻害するそれらの能力について試験した。結果は、化合物1及び2が、この保存条件でかなり安定していたことを示した。HuBchE活性を阻害する能力がわずかに低下した。しかし、化合物3は、この条件下でいつまでも安定していなかった。
【0103】
(実施例9.RhBchE/HuBchEキメラを作製するための遺伝子シャッフル)
RhBchEは、HuBchEより10倍以上高いコカイン加水分解活性を有することを示した。RhBchEとHuBchEとの間で、23個のアミノ酸に違いがある。HuBchEとRhBchEとの間で異なる、8個のランダム選択したクローン由来のアミノ酸残基を、下の表8に示す。
【0104】
【表8】
【0105】
すべてではないにしてもこれらの変異体のいくつかは、RhBchEのコカイン又は他のエステルの加水分解活性の向上に寄与すると考えられる。選択された有益な変形形態の最高の組合せを特定するために、HuBchE及びRhBchEからキメラのライブラリーを作製した。上記のDNAシャッフリング技術を用いた。8つのランダム選択されたクローンから、プラスミドDNAを調製した。8クローンからのBchEコード領域を配列決定し、分析した。図5は、HuBchE及びRhBchE由来の8つの組換えキメラを表す。すべてのクローンの5'領域は、HuBchEシグナルペプチドをコードする。複数の組換え事象(各クローンにつき平均で約12のクロスオーバー)が、8つのランダム選択されたクローンの異なる部位で起こった。このことは、これら8クローンが、HuBchE及びRhBchEの組換え体の非常に多様化されたキメラのライブラリーを表すことを示した。この多様化されたライブラリーは、機能選択の基礎となった。組換え過程では、低レベルの点突然変異も導入した。配列決定をした8クローンから、12個の新規アミノ酸突然変異が特定された。フレームシフト又は早発の終結突然変異は、これらの配列では発見されなかった。そのような低い突然変異率は、それがライブラリーの多様性を増加させ、同時に、非機能性酵素をもたらす過多の有害突然変異を導入しないので、理想的である。
【0106】
(実施例10.HuBchEのAD媒介性発現)
AD系は、ヒトタンパク質を発現するために広く用いられてきた、他のウイルス発現系である。ADは広範囲の哺乳動物細胞を感染させることができ、多くの分裂及び非分裂哺乳動物細胞系における組換えタンパク質の発現を可能にする。様々な力価の組換えウイルスを感染させた細胞からの培地をBchE活性について分析し、培地中でのBchE活性が、COS細胞の感染後にHuBchEの用量依存的及び時間依存的発現を示したことを示す。類似した結果が、CHO細胞で得られた(データは示さず)。図6に示すように、培地中に蓄積されたBchE活性は、経時的に指数的に増加した。AD構築物は、複製不能であった。COS細胞を感染させた場合は、さらなるウイルス粒子を生成することができない。したがって、培地中での酵素活性の連続的増加は、感染細胞がBchE酵素を日々連続的に生成したことを示した。顕微鏡で検査した場合、AD感染に起因するCPE(細胞ラウンドアップ)は、感染後の4及び5日目まで明らかでなかった。図6Bは、培地のウェスタンブロット分析が、時間依存的及び用量依存的なHuBchEの存在を反映し、図6Aで示す結果とよく一致することを示した。
【0107】
WT及びG117H/E197Q HuBchEのアデノウイルス発現ベクターの構築。HuBchE酵素をクローニングするために、Viralpower AD発現系を用いた。ライブラリー構築のために用いた構築手順の、クローニング及び組換えの効率を判定した。組換え反応で300ngのpAD/CMV/V5/DESTプラスミドを用い、1×106cfu/μgの形質転換効率を有する化学コンピテント細胞を用いて、各組換え反応について約50個の組換えコロニーが得られた。12個のランダム選択コロニーの制限消化により、75%が正しいHuBchE挿入断片を有することがわかった。このことは、突然変異ライブラリーのクローニングのために、組換え工程のために10μgのDNA及びより効率的なエレクトロコンピテントな細胞(1×1010cfu/μg)を用いることにより、1×106個の組換えクローンを生成することができることを示す。これは、機能スクリーニングの成功に有効な大きな突然変異ライブラリーを生成するためにAD構築物を用いることの、実行可能性を証明する。
【0108】
HuBchE-ADの生成並びにAD発現系による組換えのWT及びG117H/E197Q HuBchEの検証発現。組換えのWT-及びG117H/E197Q-hBchE-ADを、実施例4に記載されているように生成し、収集した。図7は、pAD-WT-hBchE及びpAD-G117H/E197Q-hBchEのトランスフェクションはHuBchE活性の増大をもたらしたが、対照ベクターpAD-lacZのトランスフェクションは一貫してバックグラウンド活性を示すだけであったことを示す。これは、pAD-WT-hBchE及びpAD-G117H/E197Q-hBchEの構築が成功したことを示した。
【0109】
非常に効果的なOP解毒剤のための機能スクリーニング技術の検証。固相細胞ベース酵素アッセイを開発することは、より少ない労力及び費用で比較的大きな突然変異体ライブラリーを扱う能力のため、培地で他の酵素アッセイを用いるアッセイよりもかなり有利である。HuBchE WT又はG117/E197Q HuBchEを安定発現するCHO-K1細胞を最初に用いて、アッセイ条件を確立した。予め播種した細胞を洗浄し、次に、無色MEM中の1%寒天で重層した。寒天が固まった後、細胞をインキュベータに(一晩)戻し、BchE酵素を分泌させ、寒天へ酵素を拡散させた。鏡検観察に基づくと、そのようなインキュベーション条件下で細胞は少なくとも10日間健康状態を維持した。1mM BchI及び0.1mM DTNBを含有するエルマン試薬混合液を、無色のMEM中の1%寒天で調製した。反応混合液を上で調製した細胞培養プレートに重層し、室温でインキュベートした。エルマン反応からの視覚的に検出可能な黄色が生成し、10分間のインキュベーションの後プレートを調べた。プレートは、40分間のインキュベーションの後、プレートリーダー(Victor 2、Perkin Elmer)でOD405吸収についても測定した(データは示さず)。この実験は、細胞によって発現するHuBchEが寒天中に拡散し、エルマン反応試薬が提供されると、視覚的に検出可能な黄色生成物を蓄積させることができることを示した。
【0110】
固相媒体としての寒天及びアガロースの比較。上記のアッセイの間、黄色形成を通してBchEの加水分解を容易に検出したものの、黄色生成物が無期限に安定というわけではなく、長時間(数時間から一晩)のインキュベーション後に消失することが見い出された。OP化合物などの一部のエステル基質についてはより長いインキュベーション時間が予想されたので、安定性の問題に対処する必要があった。図8で示すように、最初の30〜60分間の生成物の形成は、2層のコーティングでは寒天及びアガロースの使用による影響を受けず、HuBchEが同様に生成され、固相に拡散したことが示唆される。しかし、より長いインキュベーション期間では、固相中の寒天の存在は、変色及び吸光度の低下を引き起こした。両方の層で細胞がアガロースでコーティングされた場合だけ、生成物は長期インキュベーションの間も安定していた(図8B)。
【0111】
HuBchE活性の限局的検出。固相活性スクリーニングを開発することの1つの利点は、小さな限局領域で機能的活性を特定する能力である。これは、費用効果がよい方法での大きなライブラリーの便利なスクリーニングを可能にする。WT HuBchEを安定発現する連続希釈されたCHO-K1細胞を用いて、現在開発されているアッセイがそのような利点を提供するかどうかについて試験した。図9に示すように、HuBchE発現細胞の局在に対応する視覚的に検出可能な黄色スポットが、基質の添加後数分で明らかになった。より多くの細胞コロニー(プレートにつき〜100個)を含むプレートについては、スポットは融合し合ってもはや識別不可能であった(データは示さず)。プレートあたり約20個のコロニーを含有するプレートについては、黄色スポットは容易に識別可能であった(図9)。10cm培養皿の上で〜20個の反応スポットを明瞭に特定する能力は、20個未満の陽性クローンが機能スクリーニングの間に検出される限り、培養プレートに大きなライブラリーを置くことができることを示唆する。次に、陽性クローンを連続希釈の後に容易に精製することができる。
【0112】
(実施例11.AD-BchE組換えウイルスの検出のための固相BchE活性アッセイの応用)
固相BchE活性アッセイを用いて、AD組換えウイルスの検出を試みた。AD系を用いることは、通常、遅いプラーク形成のために、遅い滴定過程を含む。BchE活性アッセイは、より短い時間枠でウイルス力価を推定するための代替法の開発を可能にした。連続希釈したHuBchE-ADウイルスを用いて、6-ウェルプレートに予め播種した293A細胞を感染させた。感染の1時間後に、アガロース-MEM混合液を細胞に重層した。最初の感染の翌日以降、BchE活性があるかどうかプレートを染色した。より高い力価で感染させたウェルは、感染の2日後以降黄色に染色したが、低い力価で感染させたウェルでは、図9に類似した特徴的な黄色スポットが感染の4日後に出現した。感染の4日後、BchI及びDTNBの適用から30分以内に黄色スポットが生じた。生じたスポットには印を付けた。より多くのスポットが生じたウェルでは、黄色はまもなく融合し合った。4個以下のスポットを含有するウェルでは、スポットの識別は容易であった。ウイルス力価判定のための従来のプラークアッセイに代わるものとして本明細書で開発されたアッセイを用いることは、各滴定過程で約7日間の節約となる。
【0113】
特定した黄色スポットからウイルスを単離し、アガロース培養プレートからプラグを抜き取った。図9は、この実験中に単離された特異プラグを図示するものである。陽性プラグは高ウイルス力価で感染させたウェルから単離され、BchE活性染色の後全体的に黄色を呈した。陰性プラグは最も高希釈のウイルスで感染させたウェルから単離され、BchE活性染色の後に黄色の出現はなかった。染色後特徴的な黄色スポットが出現したウェルから試料プラグを単離し、スポットを試料プラグとして抜き取った。染色後特徴的な黄色スポットが出現したウェルからバックグラウンドプラグを単離し、スポットの近くの非染色領域をバックグラウンドプラグとして抜き取った。単離したプラグを、0.5mlの培養された培地を含有する試験管へ移し、4℃で一晩インキュベートした。陽性プラグ及び試料プラグからの培地を、10倍に希釈した。次に、プラグと一緒にインキュベートした培地(N1〜3、P1〜3、S1〜3及びB1〜3)並びに希釈した培地(P'1〜3及びS'1〜3)を用いて、24-ウェルプレートに予め播種した293A細胞を感染させた。培地中でのBchE活性は、感染の24及び48時間後に分析し、平均活性は表9に示した。
【0114】
【表9】
【0115】
陰性プラグは、BchE発現に至らなかった(N1〜3)。陽性プラグ及び試料プラグは、BchE活性の増加に至った(S1〜3及びP1〜3)。興味深いことに、試料プラグの近くで単離されたバックグラウンドプラグは、低レベルの活性をもたらした(B1〜3、48時間)。活性レベルは、試料プラグ又は陽性プラグの10倍希釈溶液から得たものよりも低かった(B1〜3、S'1〜3及びP'1〜3)。この結果は、1)黄色に染色したアガロースプラグを単離することによってHuBchE-ADを単離することができること;2)プラグからのウイルスは近くの領域に拡散し、おそらく直近(<0.5cm)のプラグに10%未満の汚染を引き起こすことができることを示した。さらに離れたところから分離されるプラークは、各プラグのウイルスの純度を著しく改善しよう。これらの結果は、第II相機能スクリーニングデザインのための、重要な参照点の役目を果たした。
【0116】
機能スクリーニングアッセイの検証。固相機能スクリーニングを検証して、突然変異体ライブラリーからOP触媒を特定するために固相アッセイを用いることの実行可能性を試験するために、AD-G117/E197Q組換えウイルス(10pfu)を、異なる量の野生型HuBchE組換えウイルス(0、10、100及び500pfu)と混合した。混合した組換えウイルスを用いて、293A細胞を感染させた。感染から24時間後、細胞をMEM中の1%アガロースでコーティングした。感染から48時間後、0.4mMの化合物1をコーティングした細胞に加えて、発現した組換えHuBchE及び変異体と相互作用させた。感染から4日目に、DTNBの存在下で基質としてBchIを用いて、上記のように、コーティングした細胞を染色した。類似した数の黄色スポットが、次第に増加させたAD-WT HuBchEウイルスと混合した同数のAD-G117H/E197Q HuBchEウイルスに感染させたプレートで特定された。黄色のアガローススポットをプレートから抜き取り、個々の試験管内の無血清培地でインキュベートした。培地中に放出された組換えウイルスは、遺伝子挿入断片全域にわたっていたAD特異プライマーを用いて、PCRで分析した。PCR生成物の配列を決定した。配列分析は、最初の3枚のプレート(10pfuのG117H/E197Qと0、10及び100pfuのWT HuBchEを含有する)から単離したプラグについては、単離したプラグが清潔なG117H/E197Q配列を有することを証明した。500pfuのWT HuBchEと混合した10pfuのG117H/E197Qを含有するプレートについては、G117H/E197QとWTとの混合した配列が観察された。この実験は、AD発現系により、固相アッセイで、OP感受性組換えウイルスのバックグラウンドから化合物1抵抗性のHuBchE変異体を分離することができることを証明した。バックグラウンドレベルの組換えウイルスレベルが高い場合、プラグ精製工程は防振効率を改善しよう。
【0117】
部位飽和突然変異ライブラリーによる機能スクリーニング系の最適化及び検証。機能スクリーニング系の実行可能性が、分子進化手法について示された。ハイスループット機能スクリーニング研究では、系は、その感度、処理能力及び再現性のために洗練され、完全に検証される。これを達成するために、2つのアミノ酸位置G117及びE197で、部位飽和突然変異誘発が実行される。上で簡潔に記載した部位飽和突然変異誘発技術を用いた。最終的な完全長PCR生成物を配列決定し、組み込まれた突然変異コドンについて検証する。7つのランダム選択されたpAD-huBuChEクローンから、プラスミドDNAを調製する。7クローンからのBchEコード領域を配列決定し、分析した。配列結果は、これらの7クローンがアミノ酸位置117及び197の高多様性ライブラリーを表すことを示した。この多様化ライブラリーは、機能選択の基礎の役割を果たす。
【0118】
機能スクリーニング。上記結果に基づいて、上で開発した系を用いてOP触媒酵素の機能スクリーニングの作業フローチャート(スキーム12)を設計した。機能スクリーニングは、固相スクリーニング、液相スクリーニング、プラーク精製、活性確認、遺伝子増幅及び配列決定の工程を含む。この設計された作業の流れは、所望の有機若しくは無機のエステル加水分解触媒活性を有するBchE変異体の識別を可能にする。類似した手法を、コカイン触媒酵素の単離に応用することができる。
【0119】
要約すると、アカゲザルから新規BchE酵素をクローニングし、その基質特異性及び阻害動態を特徴づけた。OP触媒酵素の機能スクリーニングに有用である、3つのOP類似化合物を合成した。突然変異ライブラリーを構築し、さらに、BchE機能スクリーニングのために高レベル発現AD系を検証した。固相活性ベースの機能スクリーニングも開発、検証した。本発明から確立された技術及び研究ツールは、HuBchEを、神経剤、コカイン又は他の潜在的に有害な有機若しくは無機のエステルのための触媒性解毒酵素に改善し続けるための、分子進化の十分な能力を提供した
【0120】
(実施例12.新規OP類似体の化学合成)
OP類似体は、それぞれ、神経剤VX、ソマン及びサリンを模倣するように設計した。
【化10】
【0121】
スキーム1で図示するように、一般的な手順は、(±)エフェドリンと二塩化メチルホスホノチオ酸との反応による2,3,4-トリメチル-5-フェニル-1,3,2-オキサザホスホリジン-2-チオンの形成を含む。次に、配列は、2,3,4-トリメチル-5-フェニル-1,3,2-オキサザホスホリジン-2-チオンとアルコールとの反応、及び以降の水素化分解を伴う。生じるアルキル水素メチルホスホノチオエートは、所望のO-アルキルS-メチルメチルホスホノチオエート化合物を提供するために、ヨードメタンでアルキル化される。全中間体の特性評価を含む標的化合物の化学合成法を、以下に示す。
【0122】
2,3,4-トリメチル-5-フェニル-1,3,2-オキサザホスホリジン-2-チオンの合成。2,3,4-トリメチル-5-フェニル-1,3,2-オキサザホスホリジン-2-チオンのラセミ混合物は、Cooperらの論文(J.Chem.Soc.Perkin Trans.1977,17,1969-80)の手順に従って調製した(スキーム2)。
【化11】
【0123】
トルエン(25mL)中の二塩化ホスホノチオ酸メチル(8.0g、53.7mmol)の溶液を、トリエチルアミン(27.2g、268mmol)及びトルエン(210mL)中の(±-エフェドリン(13.0g、64.4mmol)の攪拌溶液に徐々に加えた。添加の終了後、反応液を室温の暗所においてアルゴン下で24時間攪拌し、ろ過し、水で洗浄し、乾燥させ(MgSO4)、減圧で濃縮して淡黄色油を得た。シリカカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル、3:1、v/v)は、ジアステレオマーの混合物を油(5.39g、22.4mmol、42%)として与えた。TLC(ヘキサン/酢酸エチル、3:1、v/v)RF=0.26;1H NMR (CDCl3) 7.24-7.37 (m, 5H), 5.64 (dd, JHP = 3.0Hz, JHH = 6.0Hz, 0.5H), 5.47 (dd, JHP = 2.1Hz, JHH = 5.7Hz, 0.5H), 3.61 (m, 1H), 2 .75 (d, JHP = 12.3Hz, 1.5H), 2.66 (d, JHP = 12.0Hz, 1.5H) 2.04 (d, JHP = 14.4Hz, 1.5H), 1.93 (d, JHP = 14.0Hz, 1.5H), 0.80 (d, JHP = 6.6Hz, 1.5H), 0.73 (d, JHP = 6.6Hz, 1.5H); MS (ESI) [M+H]+ m/z C11H18NOPSの計算値 242, 実測値 242.
【化12】
【0124】
スキーム3で示すように、イソブチルアルコール(3mL)及び乾燥メチルエチルケトン(methyl ethyl ketone)(MEK、3mL)中の乾燥HClの飽和溶液を、イソブチルアルコール(7mL)及びMEK(7mL)中の、2,3,4-トリメチル-5-フェニル-1,3,2-オキサザホスホリジン-2-チオン(1.05g、4.36mmol)の冷却した、攪拌溶液に徐々に加えた。反応液を室温の暗所で1.5時間攪拌し、次に、氷冷10% Na2CO3水(25mL)へ注いだ。この混合水を、下記のように、精製をせずに水素化反応で直接用いた。
【0125】
イソブチル水素メチルホスホノチオエートの合成
【化13】
【0126】
化合物5を含有する前の反応液からの未精製混合液を、水(50mL)及びエタノール(75mL)で希釈した。この溶液に、Pd/C(160mg)を加え、次に、H2(g)を詰めたバルーンを丸底フラスコに取り付けた。攪拌及びクロロホルム/イソプロピルアルコール(4:1、v/v)による抽出の後、有機層を合わせ、乾燥させ(MgSO4)、ろ過し、濃縮して未精製油(390mg、53%)を得た。1H NMR (CDCl3) 3.79 (m, 2H), 1.91 (m, 1H), 1.82 (d, JHP = 15.6Hz, 3H) 0.90 (d, J = 6.9Hz, 6H).
【0127】
O-イソブチルS-メチルメチルホスホノチオエートの合成
【化14】
【0128】
スキーム5で示すように、エタノール(25mL)で希釈した10% Na2CO3(水溶液)(2.5mL)中の6(302mg、1.79mmol)の溶液に、ヨードメタン(2.54g、17.9mmol)を加えた。24時間の後、反応液を攪拌し、有機物質を水で洗浄し、乾燥させ(MgSO4)、減圧で濃縮して薄い褐色の油を得た。Kugelrohr装置によるbulb-to-bulb蒸留によって純粋な生成物が得られ、透明な油(100mg、0.55mmol、31%)を与えた。1H NMR (CDCl3) 3.75 (m, 2H), 2.21 (d, JHP = 12.9Hz, 3H), 1.88 (m, 1H), 1.71 (d, JHP = 15.6Hz, 3H).
【0129】
中間化合物9の合成。
【化15】
【0130】
スキーム6で示すように、ネオペンチルアルコール(3.0g、34.0mmol)及び乾燥メチルエチルケトン(MEK、3mL)中の乾燥HClの飽和溶液を、ネオペンチルアルコール(7.0g、79.4mmol)及びMEK(7mL)中の、2,3,4-トリメチル-5-フェニル-1,3,2-オキサザホスホリジン-2-チオン(1.05g、4.36mmol)の冷却した、攪拌溶液に徐々に加えた。反応液を室温の暗所で1.5時間攪拌し、次に、氷冷10% Na2CO3水(25mL)へ注いだ。この混合水を、下記のように、精製をせずに水素化反応で直接用いた。
【0131】
ネオペンチル水素メチルホスホノチオエートの合成
【化16】
【0132】
化合物9の未精製混合液を、水(50mL)及びエタノール(75mL)で希釈した。この溶液に、Pd/C(181mg)を加え、次に、H2(g)を詰めたバルーンを丸底フラスコに取り付けた。攪拌の後、有機物質を合わせ、乾燥させ(MgSO4)、ろ過し、濃縮して、未精製油(700mg、3.84mmol、91%)を得た。1H NMR (CDCl3) 3.6 (m, 2H), 1.74 (d, JHP = 15.6Hz, 3H), 0.89 (s, 9H).
【0133】
O-ネオペンチルS-メチルメチルホスホノチオエートの合成。
【化17】
【0134】
エタノール(55mL)で希釈した10% Na2CO3(水溶液)(5.5mL)中の化合物10(700mg、3.84mmol)の溶液に、ヨードメタン(5.45g、38.4mmol)を加えた。24時間後、Kugelrohr装置によるbulb-to-bulb蒸留によって純粋な生成物が得られ、透明な油(55mg、0.28mmol、7%)を与えた。1H NMR (CDCl3) 3.71 (m, 2H), 2.29 (d, JHP = 14.4Hz, 3H), 1.79 (d, JHP = 15.6Hz, 3H), 0.95 (s, 9H).
【0135】
中間化合物13の合成。
【化18】
【0136】
2-ジイソプロピルアミノエタノール塩酸塩(3.74g、20.6mmol)を、2-ジイソプロピルアミノエタノール(7.0mL)及びMEK(10mL)中の、2,3,4-トリメチル-5-フェニル-1,3,2-オキサザホスホリジン-2-チオン(1.05g、4.36mmol)の冷却した、攪拌溶液に加えた。反応液を室温の暗所で1.5時間攪拌し、次に、氷冷10% Na2CO3水(25mL)へ注いだ。この混合水を、下記のように、精製なしで水素化反応で直接用いた。
【0137】
2-ジイソプロピルアミノエチル水素メチルホスホノチオエートの合成
【化19】
【0138】
化合物13の未精製混合液を、水(50mL)及びエタノール(75mL)で希釈した。この溶液に、Pd/C(172mg)を加え、次に、H2(g)を詰めたバルーンを丸底フラスコに取り付けた(スキーム10)。フラスコを空にし、次に水素でパージし、18時間攪拌した。攪拌の後、有機物質を合わせ、乾燥させ(MgSO4)、ろ過し、濃縮して、未精製油(505mg、2.11mmol、91%)を得た。
【0139】
O-2-ジイソプロピルアミノ-エチルS-メチルメチルホスホノチオエートの合成
【化20】
【0140】
エタノール(30mL)で希釈した10% Na2CO3(水溶液)(3.0mL)中の未精製物14(505mg、2.11mmol)の溶液に、ヨードメタン(5g、21.1mmol)を加え、室温の暗所で24時間攪拌した。攪拌の後、有機層は薄い褐色の油を与えた。Kugelrohr装置によるbulb-to-bulb蒸留によって純粋な生成物が得られ、透明な油(13mg、0.05mmol、2%)を与えた。1H NMR (CDCl3) 4.79 (m, 2H), 3.99-4.21 (m, 4H), 2.30 (d, JHP = 13.2Hz, 3H), 1.75 (d, JHP = 15.6Hz, 3H), 1.36 (d, J = 6.0Hz 6H), 1.31 (d, J = 6.3Hz, 6H).
【0141】
(実施例13)
バイオアレイで役に立つ神経剤類似体の化学合成。バイオマーカーの入手に役立つ神経剤類似体及び分子進化スクリーニングで役に立つ抗体として用いるOPの、エナンチオマー選択的合成を下で記載する。化合物は、実際の神経剤OPとして類似したリン酸化ChEを提供するように、しかし、それらがかなりより低毒性の類似体であるように設計した。したがって、類似体の投与により、同じ酵素付加物が得られる。
【化21】
【0142】
標的OP化学戦化合物の激しい毒性のために、構造類似性を保持するが毒性を低下させ、大規模な合成、取扱い及び生物学的試験の実際的な態様を可能にするために、神経剤類似体の修飾を設計した。所望の標的化合物(即ち、4〜13及びラセミ同等物1〜3)を化学合成して、高度精製ヒトブチリルコリンエステラーゼ(hBuChE)の阻害剤としてそれらを試験した。結果は本発明者らの手法の有効性を認め、標的化合物の毒性の可能性が、神経剤とより直接的に関係のある剤よりも著しく低いことを示す。これらのより低毒性の物質がインビトロ又はインビボで同じリン酸化酵素を提供するので、これは実用上の見地から実験室で並びに生体試料の最終的な入手において有用である。
【0143】
OP類似体を、ハプテン合成で用いた。本発明は、それらが模倣する5つの神経剤の異性体として純粋なOP類似体の合成に焦点を当てた。
【化22】
【0144】
化合物4〜13の両鏡像異性体を合成し、精製(>97%)することができた。異性体として純粋な化合物4〜11の合成を、スキーム14及び15で示す。
【化23】
【化24】
【0145】
二塩化ホスホノチオ酸メチルとエフェドリンとの反応でオキサザホスホリジンチオンのジアステレオマーの1つだけが他よりも形成されるので、Rp及びSpオキサザホスホリジンチオンの各々の高収率を得るために、(+)及び(-)の両方のエフェドリンを用いることが必要である。化合物12及び13の合成では、スキーム14及び15に示す合成にわずかな修飾を加えるが、それらをスキーム16及び17に示す。
【化25】
【化26】
【0146】
(2Rp,4S,5R)及び(2Sp,4S,5R)-トリメチル-5-フェニル-1,3,2-オキサザホスホリジン-2-チオン(15a及び15b)の合成。60mLトルエン中の7.04mLの二塩化ホスホノチオ酸メチル(67.1mmol)の溶液を、室温で、46mLのトリエチルアミン及び200mLのトルエン中の13.3gの(-)-エフェドリン(80.5mmol)の溶液に徐々に加えた。反応混合液を覆い、アルゴン下の室温で一晩攪拌し、次に、セライトを通してろ過し、ろ液を水及び塩水で洗浄した。有機層をNa2SO4で乾燥し、ろ過し、減圧下で濃縮した。未精製の生成物をフラッシュクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン 1:5、1:4)によって精製して、6.52g(40%)の支配的なジアステレオマー15aを得た。少ない方のジアステレオマー15bはずっと低い収率で単離され、通常、15aとの混合体として単離された。5a:白色固体;1H NMR (500MHz, CDCl3) δ 0.75 (d, J = 6.6Hz, 3H), δ 2.06 (d, J = 14.5Hz, 3H), δ 2.77 (d, J = 12.3Hz, 3H), δ 3.64 (m, 1H), δ 5.66 (dd, J = 6.1, 2.1Hz, 1H), δ 7.27 (m, 2H), 7.31 (m, 1H), δ 7.35 (m, 2H).15b:白色固体;1H NMR (500MHz, CDCl3) δ 0.83 (d, J = 6.5Hz, 3H), δ 1.96 (d, J = 14.2Hz, 3H), δ 2.69 (d, J = 12.7Hz, 3H), δ 3.63 (m, 1H), δ 5.48 (dd, J = 5.8, 3.3Hz, 1H), δ 7.32 (m, 1H), 7.37 (m, 4H).
【0147】
(2Sp,4R,5S)及び(2Rp,4R,5S)-トリメチル-5-フェニル-1,3,2-オキサザホスホリジン-2-チオン(20a及び20b)の合成。調製は、(+)-エフェドリンを用いること以外、先に述べたものと同じである。20a:白色固体;1H NMR (500MHz, CDCl3) δ 0.75 (d, J = 6.7Hz, 3H), δ 2.06 (d, J = 14.6Hz, 3H), δ 2.77 (d, J = 12.3Hz, 3H), δ 3.64 (m, 1H), δ 5.67 (dd, J = 6.0, 1.9Hz, 1H), δ 7.28 (m, 2H), δ 7.32 (m, 1H), δ 7.37 (m, 2H). 20b:白色固体; 1H NMR (500MHz, CDCl3) δ 0.84 (d, J = 6.5Hz, 3H), δ 1.96 (d, J = 14.2Hz, 3H), δ 2.69 (d, J = 12.7Hz, 3H), δ 3.63 (m, 1H), δ 5.48 (dd, J = 5.8, 3.3Hz, 1H), δ 7.32 (m, 1H), 7.37 (m, 4H).
【0148】
Rp及びSp-O-アルキルS-メチルメチルホスホノチオエートの合成のための一般調製。200mg(0.83mmol)の適当なオキサザホスホリジン-2-チオン、2mLのメチルエチルケトン及び1.5mLの適当なアルコールの溶液に、0.7mLのメチルエチルケトン中の0.7mLの塩化水素飽和アルコールの溶液を0℃で徐々に加え、室温まで暖めた。室温で2時間攪拌した後に、反応液を10mLの氷冷炭酸ナトリウム水(10%)でクエンチした。混合液を7.5mLの水及び12mLのエタノールで希釈し、次に、10% Pd/C(15mg)及びH2のバルーンを用いて水素化のために準備した。系を覆い、混合液を室温で一晩攪拌した。触媒をセライトによるろ過によって除去し、ろ液を減圧で濃縮してエタノールを除去した。残りの水層をエチルエーテルで十分に抽出し、クエン酸でpH4に酸性化し、イソプロピルアルコール及びクロロホルムの混合液(1:4)で再び抽出した。第2セットの抽出物をNa2SO4で乾燥し、ろ過し、濃縮して黄色の油を得た。未精製の物質は、分取TLCを通して精製した。各異性体のスペクトルデータは、同一である。
【0149】
(Sp)-O-イソプロピルS-メチルメチルホスホノチオエート(4)。一般的な調製を参照のこと。精製条件は、100%エーテルである。18mg単離 1HNMR (500MHz, CDCl3) δ l.32 (d, J = 6.1Hz, 3H), δ l.37 (d, J = 6.1Hz, 3H), δ l.75 (d, J = 15.4Hz, 3H), δ 2.29 (d, J = 12.9Hz, 3H), δ 4.8 (m 1H).
【0150】
(Rp)-O-イソプロピルS-メチルメチルホスホノチオエート(5)。一般的な調製を参照のこと。精製条件は、100%エーテルである。25mg単離 1HNMR (500MHz, CDCl3) δ l.32 (d, J = 6.1Hz, 3H), δ l.37 (d, J = 6.1Hz, 3H), δ l.75 (d, J = 15.4Hz, 3H), δ 2.29 (d, J = 12.9Hz, 3H), δ 4.8 (m 1H).
【0151】
(Sp)-O-シクロヘキシルS-メチルメチルホスホノチオエート(6)。一般的な調製を参照のこと。精製条件は、エーテル/ヘキサン4:1である。54mg単離 1H NMR (500MHz, CDCl3) δ l.23 (m, 1H), δ 1.36 (m, 2H), δ l.51-1.56 (m, 3H), δ l.72 (m, 2H), δ l.77 (d, J = 15.6Hz, 3H), δ l.92 (m, 1H), δ l.99 (m, 1H), δ 2.30 (d, J = 12.9Hz, 3H), δ 4.51 (m, 1H).
【0152】
(Rp)-O-シクロヘキシルS-メチルメチルホスホノチオエート(7)。一般的な調製を参照のこと。精製条件は、エーテル/ヘキサン4:1である。26mg単離 1H NMR (500MHz, CDCl3) δ l.23 (m, 1H), δ 1.36 (m, 2H), δ 1.51-1.56 (m, 3H), δ 1.72 (m, 2H), δ 1.77 (d, J = 15.6Hz, 3H), δ 1.92 (m, 1H), δ 1.99 (m, 1H), δ 2.30 (d, J = 12.9Hz, 3H), δ 4.51 (m, 1H).
【0153】
(Sp)-O-3,3-ジメチル-2-ブチルS-メチルメチルホスホノチオエート(8)。一般的な調製を参照のこと。精製条件は、エーテル/ジクロロメタン1:1である。27mg単離 1H NMR (500MHz, CDCl3) δ 0.91 (s, 12H), δ 1.36 (d, J = 6.37Hz, 3H), δ 1.78 (d, J = 15.6Hz, 3H), δ 2.33 (d, J = 12.9Hz, 3H), δ 4.3 (m, 1H).
【0154】
(Rp)-O-3,3-ジメチル-2-ブチルS-メチルメチルホスホノチオエート(9)。一般的な調製を参照のこと。精製条件は、エーテル/ジクロロメタン1:1である。12mg単離 1H NMR (500MHz, CDCl3) δ 0.91 (s, 12H), δ 1.36 (d, J = 6.37Hz, 3H), δ 1.78 (d, J = 15.6Hz, 3H), δ 2.33 (d, J = 12.9Hz, 3H), δ 4.3 (m, 1H).
【0155】
(Sp)-O-N,N-ジイソプロピルアミノエチルS-メチルメチルホスホノチオエート(10)。一般的な調製を参照のこと。精製条件は、100%エーテルである。9.6mg単離 1H NMR (500MHz, CDCl3) δ l.32 (d, J = 6.2Hz, 6H), δ 1.38 (d, J = 6.2Hz, 6H), δ 1.75 (d, J = 15.4Hz, 3H), δ 2.30 (d, J = 12.8Hz, 3H), δ 4.1-4.2 (m, 4H), δ 4.8 (m, 2H).
【0156】
(Rp)-O-N,N-ジイソプロピルアミノエチルS-メチルメチルホスホノチオエート(11)。一般的な調製を参照のこと。精製条件は、100%エーテルである。9.6mg単離 1H NMR (500MHz, CDCl3) δ 1.32 (d, J = 6.2Hz, 6H), δ 1.38 (d, J = 6.2Hz, 6H), δ 1.75 (d, J = 15.4Hz, 3H), δ 2.30 (d, J = 12.8Hz, 3H), δ 4.1-4.2 (m, 4H), δ 4.8 (m, 2H).
【0157】
(2S,4R,5S)-及び(2R,4R,5S)-2-クロロ-3,4-ジメチル-5-フェニル-1,3,2オキサザホスホリジン-2-チオン(24a及び24b)。25mLトルエン中の6.9g(41mmol)の塩化チオホスホリルの溶液に、150mLのトルエン中の8.6g(43mmol)(+)-エフェドリン、35mLのトリエチルアミンのスラリーを徐々に加え、室温で攪拌した。一晩室温で攪拌した後に、反応液を水に注ぎ、150mLの水で3回洗浄した。有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧で濃縮して黄色の油を得たが、それは、静置後固化した。未精製の物質をカラムクロマトグラフィー(シリカ9:1ヘキサン/酢酸エチル)により精製して、1.5gのSp異性体、並びに2.5gのSp及びRp異性体の95:5の混合物を得た。1HNMR (500MHz, CDCl3) Sp 異性体 δ 0.88 (d 3H), δ 2.92 (d 3H), δ 3.85 (見掛上、二重五重線 1H), δ 5.83 (d 1H), δ 7.3-7.5 (m 5H). Rp 異性体 δ 0.81 (d 3H), δ 2.73 (d 3H), δ 3.75 (見掛上、五重線 1H), δ 5.6 (見掛上、三重線 1H), δ 7.15-7.25 (m 5H).
【0158】
(2S,4R,5S)-2-(N,N-ジメチルアミノ)-3,4-ジメチル-5-フェニル-1,3,2オキサザホスホリジン-2-チオン(25a)。圧力管内の5mLの乾燥トルエン中の500mgの化合物24aの溶液に、無水のジメチルアミンを吹き込んだ。1分後、試験管を密封し、室温で攪拌した。4時間後、反応混合液をろ過し、5mLの水で2回洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧で乾燥させて、定量的な15を得た。未精製物質を、さらなる精製なしで用いた。1HNMR (500MHz, CDCl3) δ 0.76 (d 3H), δ 2.60 (d 3H), δ 2.93 (d 6H), δ 3.54 (見掛上、五重線 1H), δ 5.67 (d 1H), δ 7.27-7.37 (m 5H).
【0159】
(Sp)-O-エチルS-メチルN,N-ジメチルホスホラミドチオエート(12)。2mLの無水エタノール中の500mg(1.9mmol)の化合物25aの溶液に、2mLの塩化水素飽和無水エタノールの溶液を加えた。室温で2時間攪拌した後に、反応液を水酸化水でpH12に塩基性化し、室温で攪拌した。一晩攪拌した後に、反応混合液を20mLのエーテルで3回抽出し、次に過剰なヨウ化メチル(3mL)を加え、室温でさらに1時間攪拌した。反応液を水で希釈し、20mLのクロロホルムで4回抽出した。有機層を合わせ、15mLの水で3回洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、軽い減圧下で注意深く濃縮した。未精製物質を分取TLC、100%エーテルにより精製し、無色油を得た。1HNMR (500MHz, CDCl3) δ 1.34 (見掛上 t 3H), δ 2.24 (d, J = 14.2Hz, 3H), δ 2.74 (d, J = 10.91Hz, 6H), δ 4.12 (m 2H).
【0160】
(2R,4S,5R)-及び(2S,4S,5R)-2-クロロ-3,4-ジメチル-5-フェニル-1,3,2オキサザホスホリジン-2-チオン(28a及び28b)。25mLトルエン中の6.9g(41mmol)の塩化チオホスホリルの溶液に、150mLのトルエン中の8.6g(43mmol)(-)-エフェドリン、35mLのトリエチルアミンのスラリーを徐々に加え、室温で攪拌した。一晩室温で攪拌した後に、反応液を水に注ぎ、150mLの水で3回洗浄した。有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧で濃縮して黄色の油を得たが、それは、静置後固化した。未精製の物質をカラムクロマトグラフィー(シリカ9:1ヘキサン/酢酸エチル)により精製して、200mgのRp異性体、並びに1.5gのRp及びSp異性体の95:5の混合物を得た。1HNMR (500MHz, CDCl3) Rp 異性体 δ 0.88 (d 3H), δ 2.92 (d 3H), δ 3.85 (見掛上、二重五重線 1H), δ 5.83 (d 1H), δ 7.3-7.5 (m 5H). Sp 異性体 δ 0.81 (d 3H), δ 2.73 (d 3H), δ 3.75 (見掛上、五重線 1H), δ 5.6 (見掛上、三重線 1H), δ 7.15-7.25 (m 5H).
【0161】
(2R,4S,5R)-2-(N,N-ジメチルアミノ)-3,4-ジメチル-5-フェニル-1,3,2オキサザホスホリジン-2-チオン(29a)。圧力管内の2mLの乾燥トルエン中の200mgの化合物28aの溶液に、無水のジメチルアミンを吹き込んだ。1分後、試験管を密封し、室温で攪拌した。4時間後、反応混合液をろ過し、5mLの水で2回洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧で乾燥させて、定量的な20aを得た。未精製物質を、さらなる精製なしで用いた。1HNMR (500MHz, CDCl3) δ 0.76 (d 3H), δ 2.60 (d 3H), δ 2.93 (d 6H), δ 3.54 (見掛上、五重線 1H), δ 5.67 (d 1H), δ 7.27-7.37 (m 5H).
【0162】
(Rp)-O-エチルS-メチルN,N-ジメチルホスホラミドチオエート13。2mLの無水エタノール中の200mg(1.9mmol)の化合物29aの溶液に、2mLの塩化水素飽和無水エタノールの溶液を加えた。室温で2時間攪拌した後に、反応液を水酸化水でpH12に塩基性化し、室温で攪拌した。一晩攪拌した後に、反応混合液を20mLのエーテルで3回抽出し、次に過剰なヨウ化メチル(3mL)を加え、室温でさらに1時間攪拌した。反応液を水で希釈し、20mLのクロロホルムで4回抽出した。有機層を合わせ、15mLの水で3回洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、軽い減圧下で注意深く濃縮した。未精製物質を分取TLC、100%エーテルにより精製し、無色油を得た。1HNMR (500MHz, CDCl3) δ 1.34 (見掛上 t 3H), δ 2.24 (d, J = 14.2Hz, 3H), δ 2.74 (d, J = 10.91Hz, 6H), δ 4.12 (m 2H).
【0163】
合成神経剤類似体及びヒトブチリルコリンエステラーゼの阻害動態。ヒトBuChEの阻害の時間依存的動態を、実施例8に記載のように高度精製ヒトBuChEと共に試験した。速度定数を、下の表10に記載する。
【0164】
【表10】
【0165】
予想通りに、これらの剤はエコチオフェートよりも著しく弱い阻害剤である。サリン類似体及びGF類似体のSp鏡像異性体がRp鏡像異性体よりも強力なヒトBuChE阻害剤であることは、注目に値する。このことは、文献で報告される、他の有機リン化合物によるヒトBuChEの阻害の立体選択性と一致する。これは、インビトロ及びインビボ研究のために様々な特性を有することができる剤を得る本発明者らの全体戦略の、有益な特徴となり得る。インビトロ又はインビボでのChe又はアルブミンによる化合物1〜13(表10)の処理は、アレイバイオセンサーで用いる抗体を入手するために用いる、リン酸化されたタンパク質又はペプチドを生成させる。
【0166】
(実施例14.神経剤のChE-有機リンホスホン酸エステルに対する抗体の調製及び試験)
OP化合物の急性毒作用は、必須のセリンヒドロキシルとの反応によってAChEを阻害して比較的安定したホスホセリンエステル結合を形成するそれらの能力とよく相関する。OPとChEとのコンジュゲート体は、機構、付加物構造に関する情報及び潜在的に毒性の予後のきわめて感度の高い選択指標の役目を果たすことができる。同様に、リン酸化アルブミン(即ち、Tyr411)は、OP又は農薬への曝露の高感度のマーカーの役目を果たすことができる。酵素を変性させて活性部位を抗体に曝露させることによってリン酸化されたChE又はアルブミンを識別するために、抗体が開発され、使用されてきた。以前は、抗体は、ChE構造及び触媒活性に対するアロステリーの探索のために用いられてきた。特定のOP化合物によって与えられる正確な修飾に基づく個々のOP-ChE又はOP-アルブミンコンジュゲート体を特異的に認識するために、選択的な抗体が作製される。このことは、曝露の間又は後にOPの相対的な毒性の可能性を確認することにおいて、多大な診断価値を有するであろう。本発明者らは、神経剤のOP-Che又はOP-アルブミンコンジュゲート体に対応する有機リン酸化されたセリン又はチロシンのオクタペプチドを化学的に合成した。ハプテンを入手すると、ポリクローナル又はモノクローナル抗体が手に入る。異なる種からのOP-ChE不活化酵素又はOP-アルブミンの選択的な認識を調査する。抗血清認識は、酵素阻害、加齢及びオキシム誘発再活性化の速度と相関する。抗体は、生体試料での化学曝露の選択的分類のために、リン酸化アルブミン及び他のリン酸化タンパク質を含む一群のChEバイオマーカーで用いられる。抗体は、野外使用可能で効率的な神経剤OP及び他のOP様物質のバイオセンサーを作製するために、アレイバイオセンサー内に置かれる。
【0167】
ハプテンの合成。必要な有機リン酸化セリン又はチロシンのオクタペプチドの化学合成は、Fmocセリン又はチロシンの選択的エステル化から始まる。化合物1〜13(実施例13)を調製し、必要な保護された有機リン酸化セリン(スキーム18)を提供するために、分取規模(100mg)でFmocセリンにより処理するために用いる。
【化27】
R=-CH(CH3)2;-CHCH3C(CH3)3;-シクロヘキシル;-CH2CH2N[CH(CH3)2]2;及び対応するタブン類似体。
【0168】
S-アルキルメチルホスホノチオエートの求核置換は、必要なナトリウムアルコキシド、又はアルコール中の臭素及びアルコール中の硝酸銀を用いてなされる。アルコキシド及びAgNO3/ROH反応はリンで配置の約80%の転位を与えたが、Br2/ROHを用いる置換反応は配置の100%の転位を提供した。臭素で促進した置換は、通常、速く、収率が高い。しかし、特定の立体配置的に混雑した状況では、臭素で促進したアルコーリシスが、優勢な立体配置保持で起こることができるとも報告されている。高収率を達成するのに、カルボキシレートの保護が必要なことがある。或いは、Br2/Fmoc-セリン又は-チロシン反応を用いる。この反応が良好な収率を与えない場合は、改変を加える。化合物1〜13(実施例13)のメタクロロ過安息香酸(MCPBA)による酸化的活性化が、求核試薬によって速やかに攻撃されるS-オキシドを形成することがNMR実験によって観察された。したがって、化合物1〜13(実施例13)のS-オキシドの処理及び極微量の水の添加は、対応するアルコール(LCMSによって判断される)を速やかに定量的に形成し、S-(O)-CH3基はOH基によって置換される。1.2当量のMCPBA/CHCl2の存在下での4℃で5分間の化合物1〜13(実施例13)の処理と、その後の1当量のFmocSerの添加も、OPとコンジュゲートした所望のFmocセリン又はチロシンを効率的に生成する。通常のオクタペプチド合成へのOPとコンジュゲートしたFmocセリン又はチロシンの組込みは、免疫感作研究で用いる、必要とされるOPとコンジュゲートしたデカペプチドを提供する。
【0169】
Che又はアルブミンの活性部位有機リン酸化セリンに対する抗血清。ヒト、霊長類及びラットのAChE、並びにヒト、霊長類及びラットのBuChEについては、セリン活性部位のいずれかの側の5個のアミノ酸は同じである(即ち、TLFGESAGAAS)(配列番号11)である。情報に基づき、OP-コンジュゲート-選択的抗血清を開発するために、デカペプチドLFGESAGAAC(配列番号12)を用いる。抗血清入手のために、ヒトアルブミン(YKFQNALLVRYTKKVPQV)(配列番号13)、ラットアルブミン(YGFQNAILVRYTQKAPQV)(配列番号14)及びマウスアルブミン(YGFQNAILVRYTQKAPQV)(配列番号15)ペプチドの部分配列を同様に用いる。付加されたタンパク質も、直接用いることができる。末端セリンの、システイン又は含硫黄リンカーによる置換が重要である。これは、バイオセンサーに対する必要な結合化学を可能にする(下で述べる)。このデカペプチドの全面的な使用は、資源を保存し(AChE及びBuChEの両方に有用であるので)、抗血清のより大きな有用性を可能にする。以下、ChEは両方の酵素(及び、類似性からアルブミン)を表す。10S及び10SPの記号は、非リン酸化及びリン酸化のデカペプチドを指す。抗ChE10S及び抗ChE10SP抗血清は、前述のように、ウサギをキーホールリンペットヘモシニアンとコンジュゲートしたChE10S及びChE10SPペプチドで免疫感作することによって生成される。OPとコンジュゲートしたペプチド(ChE10SP)及び天然若しくはコンジュゲートしていないペプチド(ChE10S)の両方からの抗血清に対照の役目を果たさせることが、重要である。コンジュゲーションは、標準手順によってなされる。ウサギは、民間の研究室によって標準手順を用いて免疫感作される。必要なペプチドは、ChE10SPデカペプチドが神経剤1〜13(実施例13)から生じる同じOPコンジュゲート体を含有することを除いて、上記の標準手順によって合成される。抗血清は、DEAE Affi-ゲルブルーカラム上で、クロマトグラフィーによって精製される。OPとコンジュゲートしたデカペプチドは、Cysを通してAffi-ゲル15ビーズに結合され、抗血清はこれらのビーズによって精製される。特異性の低い抗血清は1MのNaSCNで溶離し、デカペプチド特異分画(1Mグリシン-HClで溶出し、直ちにpH8に緩衝処理する)は、特異抗体を確認するためにELISAによって分析する。ウェスタンブロットは、上記のように実行する。
【0170】
抗血清の特異性を特徴づけるために、ラット、霊長類及びヒトのAChE及びBuChE又はアルブミンを、0.5mMの神経剤類似体1〜13(実施例13)又は溶媒THFで、4℃で2時間、又は、エルマン比色法に基づき酵素活性が1〜2%に低下するまで処理する。酵素は、動物血清又は組換え源から親和精製する。組換えHuChE及び霊長類BuChEは本発明者らの研究室で利用でき、ラットBuChEはラット血清から精製される。AChEは、動物血液細胞膜から精製される。阻害される酵素は、変性ゲルによるイムノブロットによって分析する。同等の認識が存在し、酵素の統合性が存在することを示すために、陽性対照として、イムノブロットをポリクローナル抗ChE抗血清で探索する。特異性を示すために、様々なOPコンジュゲート型酵素及び非コンジュゲート型酵素の間の競合実験をOP選択的抗血清で試験する。これにより、抗ChE10SPがOPコンジュゲート型セリンに特異的であり、さらに、コンジュゲートしたOPの型にも特異的であるとの本発明者らの仮説を検定する。処理の影響を比較し、等量のタンパク質を含有する各処理条件からの試料を、単一のゲル及びイムノブロットの中で試験する。抗ChE1OSP抗血清及び対照抗血清で標識したタンパク質バンドの強度の変化を、各抗血清について線形範囲内で定量化するために、濃度測定分析を用いる。体液又は環境試料中のOP曝露の選択的プローブとしてOP誘導体化Chefを検出するために、アレイバイオセンサーで抗血清を用いる。
【0171】
本明細書で引用されているすべての刊行物及び特許出願は、各個々の刊行物又は特許出願が参照により組み込まれていることが具体的に、個々に示されているかのように、参照により本明細書に組み込まれる。前述の発明を、理解の明快さの目的のために例証として及び例として多少詳細に記載してきたが、添付の請求項の精神及び範囲を逸脱しない範囲で特定の変更及び修正をそれに加えることができることは、本発明の教示に照らし、当業者にとって容易に明らかであろう。
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、2006年6月7日出願の米国特許仮出願第60/811,370号の利益を主張するものである。
【0002】
(発明の分野)
本明細書では、サルブチリルコリンエステラーゼ(monkey butyrylcholinesterase)(RhBchE)の単離されたDNA分子;ヒトブチリルコリンエステラーゼ(human butyrylcholinesterase)(HuBchE)突然変異体の単離されたDNA分子;HuBchE及びRhBchEを特徴とする突然変異ライブラリー;RhBchE及び修飾HuBchEのDNA分子を含有する発現ベクター;ブチリルコリンエステラーゼ(Butyrylcholinesterase)(BchE)の高レベルアデノウイルス(adenovirus)(AD)ベースの発現系;有機リン酸(organophosphate)(OP)神経剤の構造を模倣するOPモデル化合物;及びアレイバイオセンサー用の抗体を得るためのOPモデル化合物の使用が提供される。本発明は、有機リン酸神経剤を含む無機又は有機エステルの解毒のための一般方法、並びに生体試料及び環境試料中のOP剤を検出する診断方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
薬物乱用は、公衆の主要な健康問題の1つである。3,000,000人を超えるアメリカ人がコカインの常習者(heavy users)であり、同数のアメリカ人が軽い濫用者である。毎年、約100,000件の救急外来受診がコカイン関係である。心血管の窮迫及び全身性発作を起こす、心血管及び中枢神経系へのコカインの過量服用の一般的な合併症に対して利用できる有効な治療法はない。コカインは、分子進化の手法を利用して導き出されるエステラーゼによって治療的な方法で無毒化することができる、有機エステルの例である。
【0004】
治療的な方法で無毒化することができる無機エステルの例は、有機リン酸(organophosphate)(OP)の神経剤又は殺虫剤である。それらの化合物は多数の不可欠な酵素をブロックすることができるので、神経剤曝露からの生物学的脅威は大きな懸念にもなっている。詳細には、セリンエステラーゼ及びプロテアーゼが、OP神経剤によって速やかに且つ不可逆的に阻害される。
【0005】
BchEは、セリンエステラーゼファミリーの溶解性の血清糖タンパク質酵素である。酵素の生理機能は明白でない。しかし、BchEが少量のOP及びカルバメート農薬を取り除き、人々をこれらの毒物の毒作用から保護することが、何十年もの間知られている。OPへの曝露は血清酵素の活性を低下させるので、BchEは、OP中毒の早期発見のためのマーカーの役目も果たす。BchEは、ヒトにおいてコカイン及び他のエステルの代謝及び解毒のための主要な酵素でもある。BchEは、コカインをエクゴニンメチルエステル及び安息香酸などの薬理的に不活性の化合物に代謝する。本酵素は、コカイン解毒及びOP中毒の治療で使用するために、大きな可能性をもたらす。
【0006】
理論的には、BchEは酵素補充療法にとって理想的な酵素を代表するものである。それはコファクターを必要とせず、血漿のpHで溶解性及び高機能的であり;加水分解生成物は無毒性である。精製されたBchEは長い間安定で、外来性投与の後の比較的長い半減期を有する。HuBchEのPEG化は、その安定性及び半減期を著しく改善する。最も重要なことに、精製されたHuBchEは、スクシニルコリン誘発無呼吸及びOP中毒のヒトの治療のために、ヨーロッパでは何十年も安全に用いられてきた。その理論上の可能性に関係なく、HuBchEはOP及びコカインの加水分解に対してあまり効果的な酵素ではない。OPへの本酵素の不可逆的結合により、触媒としてではなくスカベンジャーとしてだけ作用するように、その酵素の能力が制限される。本酵素は、(+)コカインよりも2000倍遅く、天然の(-)コカインを加水分解する。タンパク質工学によって生成された、合理的に設計された突然変異体は、本酵素が、OPヒドロラーゼ(Millardら、1995;Millardら、1998、によって記載されるG117H及びG117H/E197Q突然変異体)、並びにコカインヒドロラーゼ(Pancookら、2003、Gaoら、2005、によって記載されるA328W/Y332M/S287G/F227A突然変異体)に変換することができることを示した。突然変異研究は、酵素の加水分解活性を改善することが可能なことを示唆するが、現在まで報告されている突然変異体の結合親和性は低く、ターンオーバーは遅く、それらを著しく改善することができる。HuBchEの触媒柔軟性は、そのOP及びコカインの触媒効率の改善に大きな余地をもたらす。しかし、OP及び/又はコカインの加水分解活性を著しく改善するためには、活性部位の近くの及び/又はそこから遠くの複数の残基におけるHuBchE突然変異の組合せがおそらく必要である。OPと酵素との相互作用及び(-)コカイン加水分解に対する重大な立体障害に付随する複雑な多段階触媒事象のために、分子構造解析によってそのような突然変異の組合せを予測することは簡単ではない。BchEへの分子進化技術の応用により、OP神経剤及びコカインに対する触媒活性の改善に有望な結果がもたらされる。
【0007】
急性OP神経剤中毒の現在の治療法には、一般に、コリンエステラーゼ再活性化剤(オキシム)、ムスカリン受容体アンタゴニスト(アトロピン)及び抗痙攣剤(ジアゼパム)の併用投与が含まれる。これらの治療薬は競合的な方法だけで作用し、ニューロン脳損傷及び無能力化を予防しないので十分でない。化学的予防処置は、臭化ピリドスチグミン単剤使用、抗コリン作働性薬と併用するピリドスチグミン及び経皮投与のためのHI-6を含めて、軍隊による使用のために導入されている(Bajgar、2004)。
【0008】
コカイン毒性及びOP中毒のための治療は問題の原因(即ち、神経剤及びコカイン)よりも症状を治療することが目的であるので、魅力的な代わりの治療手法は、傷害の起こる前に神経剤又はコカインを直接除去する触媒又はスカベンジャーを適用することである。治療処置の基本は、存在する神経剤又はOPの量及び種類を診断する必要性である。OP神経剤曝露のバイオマーカーを検出する非常に高感度で安価な方法が、化学戦及び他のOP脅威に対して医学的な防御と合わせて必須である。傷害が起こる前に動物において神経剤のバイオマーカーを検出するために利用可能な方法は高価であり、面倒であるので、課題は、野外使用可能であり、頑健なシステムを開発することである。本発明は、携帯型自動複数分析物アレイバイオセンサーを用いて容易且つ安価に配備することができる、OP神経剤のバイオマーカーを検出する選択的な方法を提供することによって、この問題を解決するものである。
【0009】
アレイフォーマットは、同時に多くの標的について試料を分析する能力などの、いくつかの利点を提供する。さらに、各感知表面に陽性及び陰性の対照を含めることは、並行しているが別々の感知表面に置かれたそのような対照よりも信頼できる。DNAアレイ技術は実験装置に関してこの取組みを導くものであり、光導波路を使用する2つの注目すべきシステムとしては、Zeptosens社(Pawlakら、2002)及びIllumina社(Epstein及びWalt、2003)によって販売されるシステムがある。これらのシステムは数千の捕捉分子を収容し、非常に高感度である。しかし、それらは高度に訓練された研究員による使用のために設計され、自動化されておらず、現場適用に適応していない。本発明で記載されるアレイバイオセンサーは、光導波路技術及び、複数の試料を複数の標的について同時に試験する能力を、携行性及び自動化と一緒に組み合わせる。
【0010】
バイオセンサーは、多くの小さな(mm2)感知領域を収容するのに十分な表面積を有する、プレーナー型導波路をベースにする。改変した顕微鏡スライドの導波路は、635nmダイオードレーザー及びライン発生器を用いて照射され、光は近位端に放射される。光が遠位末端近くの2.4cm2感知領域で比較的均一であるように、スライドの最初の2/3はモード混合領域を提供する(Feldsteinら、1999)。正常な条件下では、内部全反射が達成され、エバネセント場が感知領域で生成される。エバネセント光は感知領域で結合される蛍光団を励起し、放射された蛍光はPeltier冷却CCDカメラ(Wadkinsら、1997;Goldenら、2003)を用いて90°で測定される。導波路表面のアレイ中の蛍光の位置は、検出される標的のアイデンティティを明らかにする。このシステムは市販されている。
【0011】
試料から標的を捕捉するために、標的と結合することができる抗体又は他の分子が、スポットの列として導波路表面に固定化される(Roweら、1999;Delehantyら、2002)。偽陽性又は偽陰性の応答を防止するために、陽性及び陰性の対照を列に含めることができる(Liglerら、2003)。さらに、センサースポットの列と組み合わせた複数のチャネルの利用は、複数の試料の同時分析を可能にする。アッセイは、大きな分子及び微生物(サンドイッチアッセイ)又は小分子(競合アッセイ、置換アッセイ)を検出するようにフォーマット化することができる(Sapsfordら、2002)。近赤外蛍光の使用は、短波長で蛍光を自己発光することができる試料成分による干渉を防止し、分析前の複合試料からの標的の分離を不要にする(Sapsfordら、2001;Taittら、2004)。表面プラズモン共鳴(surface plasmon resonance)(SPR)、共鳴ミラー又は干渉システム(Homolaら、2002;Kinning及びEdwards、2002;Campbell及びMcCloskey、2002、Barzenら、2002)などの質量感応性センサーと対照的に、蛍光ベースのアレイバイオセンサーは、シグナル生成のために蛍光団標識分子を必要とする。このことは、試料成分による非特異的吸着による干渉に対して、アッセイを比較的免疫性にする(Liglerら、2003;Roweら、1999;Sapsfordら、2001;Taittら、2004)。
【0012】
試料の調製をほとんど又はまったくせずに複合試料中のバイオマーカーを検出するアレイバイオセンサーの能力は、非自動化プロトタイプを用いて、すでに示されている。本発明は、本明細書で、そのシステムが研究室及び野外の状況で神経剤関連の又は他のバイオマーカーをいかに効果的に検出することができるかを判定するために、自動化システムを適用する。
【発明の概要】
【0013】
(発明の要旨)
一態様では、本発明は、アカゲザルブチリルコリンエステラーゼ(rhesus butyrylcholinesterase)(RhBchE)(アカゲザル(Macaca mulatta))の単離されたDNA分子を提供する。
【0014】
他の態様では、本発明は、ヒトブチリルコリンエステラーゼ(human butyrylcholinesterase)(HuBchE)及びその突然変異体の単離されたDNA分子を提供する。
【0015】
他の態様では、本発明は、HuBchE及びRhBchEを特徴とする突然変異ライブラリー、並びにベクターにおいてBchEの突然変異ライブラリーを作製する方法を提供する。
【0016】
他の態様では、本発明は、ベクター粒子にBchEの突然変異ライブラリーを詰め込むことによって、細胞をベクターに感染させる方法を提供する。
【0017】
他の態様では、本発明は、RhBchE及び修飾HuBchEのDNA分子を含有する発現ベクター;並びに、アデノウイルス(AD)ベースのBchEの高レベル発現系を提供する。
【0018】
他の態様では、本発明は、VX、タブン、GF、ソマン及びサリンなどのOP神経ガスの構造を模倣する、ラセミの並びに鏡像異性的に純粋であるOPモデル化合物を提供する。
【0019】
他の態様では、本発明は、BchE突然変異ライブラリーから発現したOP抵抗性及び/又は触媒性のBchE変異体を同定するための、細胞ベースの機能スクリーニングアッセイにおけるOPモデル化合物の使用方法を提供する。
【0020】
他の態様では、本発明はアレイバイオセンサー用の抗体を得るための、OPモデル化合物の使用方法を提供する。
【0021】
他の態様では、本発明は生体試料中のOP剤を検出する診断方法を提供する。
【0022】
さらなる態様では、本発明は、BchEを化合物と一緒にインキュベートし、化合物の活性の指標としてBchEの阻害をさらに検出することによって、BchE活性についてOPモデル化合物をスクリーニングする方法を提供する。
【0023】
他の態様では、本発明は、感染細胞の培地中でのBchE発現を検出する方法を提供する。
【0024】
他の態様では、本発明は、OP化合物又は神経剤の存在下でBchEを発現する原核細胞又は真核細胞によりBchEを検出する方法を提供する。
【0025】
他の態様では、本発明は、神経剤及び他のOPを選択的に検出するための、アレイベースの方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1Aは、RhBchEトランスフェクションを示す図である。CHO細胞を、6-ウェルプレートに一晩播種した。製造業者によって記載されているように、バックグラウンドベクター(N.C.)、pRC-CMV-HuBchE(hBchE)、pGS-RhBchE(GS1及びGS2)並びにpRC-CMV-RhBchE(RC1及びRC2)を含有するプラスミドを、リポフェクタミンで細胞にトランスフェクトした。培地をトランスフェクション後24時間及び48時間に収集し、基質として1mM BchIを用いるEllmanアッセイを用いて、BchE活性アッセイのために用いた。図1Bは、RhBchEのウェスタンブロット分析の結果を示す図である。BchE単位は、1分につき1μmolの基質を加水分解する酵素の量と定義される。トランスフェクション後48時間の試料を、HuBchE(B)に対して生じるポリクローナル抗体を用いてウェスタンブロット分析で分析した。
【0027】
【図2】図2A。RhBchEの精製を示す図である。精製されたRhBchEのSDS-PAGEは、コマシー(commassie)ブルーで検出した。図2B。精製されたRhBchEのSDS-PAGEを、抗HuBchE抗体で検出したことを示す図である。
【0028】
【図3】図3A。エコチオフェート(echothiophate)(ETP)の表示濃度によるRhBchEの阻害を示す図である。図3B。エコチオフェートの表示濃度によるHuBchEの阻害を示す図である。データは、プリズムを用いる一次処理へあてはめた。傾きは、所与のETP濃度のkapp(分-1)を与える。ETPの最初の阻害インキュベーションで用いたETP濃度におけるkapp(分-1)の再プロットにより、表5で報告するデータが得られた。
【0029】
【図4】図4A。化合物1の特定の濃度によるHuBchEの阻害を示す図である。図4B。化合物2の特定の濃度によるHuBchEの阻害を示す図である。図4C。化合物3の特定の濃度によるHuBchEの阻害を示す図である。図4D。ETPの特定の濃度によるHuBchEの阻害を示す図である。データは、プリズムを用いる一次処理へあてはめた。傾きから、所与のOP濃度のkapp(分-1)が得られる。図4E。化合物1の最初の阻害インキュベーションで用いたOP濃度におけるkapp(分-1)のプロットを示す図である。再プロットにより、線型適合度が得られた。傾きから、kinact/Ki=4.1×103M-1分-1が得られる。データの二重逆数プロットから、表7で報告するデータが得られた。
【0030】
【図5】遺伝子シャッフル組換えBchEの8個のランダム選択された代表的なクローンの図である。
【0031】
【図6】図6Aは、ヨウ化ブチリルチオコリン(Butyrylthiocholine iodide)(BchI)加水分解活性を示す図である。COS細胞を、6-ウェルプレートに一晩予め播種した。次に、細胞を、特に0時に、モック感染(対照)又はウェルあたり1×108pfu及び4×108pfuのHuBchE-ADで感染させた。感染後の表示時刻に、BchI加水分解活性を培地について調べた。BchE単位は、1μM/分のBchI基質を加水分解するのに必要な酵素と定義した。図6Bは、アデノウイルス(adenovirus)(AD)発現ベクター媒介BchE発現のウェスタンブロット分析の結果を示す図である。感染後の表示時間に収集した培地試料を、SDS-PAGEで分析した。0、1及び2は、それぞれモック感染(対照)又は1×108pfu及び4×108pfuのHuBchE-ADで感染させた細胞を表す。培地中でのHuBchEは、ウェスタンブロット分析で検出した。
【0032】
【図7】PacI線形化表示組換えADでトランスフェクトした293A細胞のBchE活性を示す図である。トランスフェクション後の表示時間に収集した培地におけるBchE活性を、エルマン法で分析した。
【0033】
【図8】図8Aは、0〜3時間の間の、異なる固体マトリックスを用いる固相アッセイにおける、細胞ベースのHuBchE発現媒介BchI加水分解を示す図である。図8Bは、3.5〜7.3時間のインキュベーション後の、8Aにおけるのと同じ固相アッセイにおけるBchI加水分解を示す図である。WT HuBchEを安定して発現するCHO-K1細胞を、24ウェルプレートに一晩播種した。細胞を、本文に記載するように処理した。各ウェルの405nmの吸光度を、プレートリーダーによって経時的に記録した。凡例は、細胞コーティング(第1層)及び基質適用(第2層)のために用いた固相材料を示す。
【0034】
【図9】図9Aは、HuBchE発現細胞の局在を示す図である。WT HuBchEを安定して発現したCHO-K1細胞を播種したプレートを、本文で記載のように、BchI基質を含むエルマン混合液で発色させた。図9Bは、プレートAの反転像を示す図である。
【0035】
【図10】特定された黄色スポットからのウイルスの単離の間に単離された、特異プラグの図である。記載のように、6-ウェルプレートの293A細胞を連続希釈のHuBchEで感染させ、BchE活性があるかどうか染色した。表示した陽性プラグ、陰性プラグ、試料プラグ及びバックグラウンドプラグをプレートから抜き取り、ウイルス抽出のために培地へ移した。
【発明を実施するための形態】
【0036】
(発明の詳細な説明)
本発明は、アカゲザルブチリルコリンエステラーゼ(rhesus butyrylcholinesterase)(RhBchE)(アカゲザル(Macaca mulatta))の単離されたDNA分子を提供する。RhBchEは、RACEキット及びRT-PCRを用いてRNAからクローニングした。完全長RhBchEを、pRC-CMVのHindIII/ApaI部位にクローニングした。得られたプラスミドをCHO細胞にトランスフェクトし、活性BchE酵素の発現をBchI加水分解のアッセイ培地からモニターした。HuBchEの単離されたDNA分子及びその突然変異体も提供する。
【0037】
本発明は、HuBchE及びRhBchEを特徴とする突然変異ライブラリー、ベクターにおいてBchEの突然変異ライブラリーを作製する方法、並びにベクター粒子にBchEの突然変異ライブラリーを詰め込むことにより細胞をベクターに感染させる方法を提供する。RhBchE及び修飾HuBchEのDNA分子を含有する発現ベクター、並びにアデノウイルス(AD)ベースのブチリルコリンエステラーゼの高レベル発現系がさらに提供される。本発明の方法では、ベクターは、この目的に適する任意のベクターであってよい。好ましい実施態様では、ベクターはpENTRAベクター又はアデノウイルスベクターである。細胞は任意の細胞、好ましくは哺乳動物の細胞でよい。
【0038】
BchEライブラリーを作製するために、部位飽和突然変異誘発技術を用いた。突然変異誘発は、選択された任意の特定の位置(例えばHuBchEライブラリーの位置G117及びE197)で実施することができる。部位飽和突然変異誘発は、二段階PCRを用いて、NNKのランダム突然変異誘発コドン(N=A、T、C又はG;K=G又はT)を組み込み、HuBchEの特定の位置を置換するために実施される。PCR生成物は、次にKpnI/XhoI部位を通してpENTRA 1ベクターにクローニングすることができる。プールされたpENTRA-HuBchEクローンからのプラスミドDNAは、pAD/CMV/V5/DESTベクターによる組換えのために用いることができる。pAD-HuBchE突然変異ライブラリープールのプラスミドは、PacI酵素で消化し、次に、ADパッキングのためにリポフェクタミン2000を用いて293A細胞にトランスフェクトすることができる。組換えAD-HuBchEウイルスライブラリーは、細胞上清から収集することができる。次に、ライブラリーを、一次ハイスループット固相機能スクリーニング、及び二次液相活性スクリーニングでスクリーニングする(実施例4)。
【0039】
RhBchE又は部位特異的突然変異誘発又は他の手段による表1で記載のRhBchEアミノ酸の変化の1つ又はすべてを有するHuBchEの突然変異体の使用は、より高い加水分解活性を有する酵素を提供するはずである。これらの残基は、単独で又は組合せで、精製された天然酵素で見られるより高い基質結合親和性及び速度をもたらし得る。異なる残基は、タンパク質の折畳み及び/又はタンパク質の翻訳後修飾(即ち、N-グリコシル化、リン酸化)を変化させることができ、したがって、コカイン又は他のエステルの認識及び酵素結合部位への進入、コカインの実際の加水分解又は加水分解生成物の放出を変えることができる。タンパク質のC末端部分に存在する異なる残基の多くは、おそらくタンパク質の二量体化又は四量体化を変化させることができ、したがって、酵素の安定性を変化させることができる。RhBchEから得られる情報に基づくHuBchEの突然変異は、したがって、高い加水分解活性を有する酵素を生成することができる。RhBchEによる一次配列の変異は、サルに対して多少の選択有利性を提供できることが考えられる。RhBchEに存在するアミノ酸変異、並びにランダムに若しくは選択的に導入された突然変異を利用するHuBchEの分子進化は、血流から潜在的に毒性のエステル(又はそれらの化学同族体)を除去するための、非常に選択的で強力な触媒を提供することができる。本明細書で提供される、機能スクリーニング系は完全に検証されており、そのような生成物の分子進化の成功を確実にする。
【0040】
感染細胞の培地中でのBchE発現を検出する方法もさらに提供される。細胞培養物は、本発明の方法に適する任意の細胞培養物であってよい。好ましい実施態様では、細胞培養物は哺乳動物の細胞培養物である。BchEの発現系は、そのような目的に適する任意の発現系であってよい。好ましい実施態様では、発現系は、突然変異ライブラリー発現を組み込み、ハイスループットフォーマット機能スクリーニングに適合させることができる、アデノウイルス(AD)ベースの高レベル発現系である。ADは広範囲の哺乳動物細胞を感染させることができ、異なる分裂及び非分裂細胞株における様々なタンパク質の発現を可能にする(実施例10)。
【0041】
本発明は、VX、GF、タブン、ソマン及びサリンなどのOP神経剤の構造を模倣する、OPモデル化合物を提供する。本発明の方法では、化合物は0.01〜20mMの濃度、好ましくは0.1〜10mMの濃度で用いられる。具体的な実施態様において、化合物の濃度は0.5mMである。化合物の合成は、実施例12及び13で詳細に記載する。
【0042】
本発明は、BchEを化合物とインキュベートし、化合物の活性の指標としてBchEの阻害をさらに検出することによって、BchE活性についてOPモデル化合物をスクリーニングする方法を提供する。OP化合物又は神経剤の存在下でBchEを発現する細胞は、原核細胞又は真核細胞であってよい。
【0043】
本発明は、生体試料中のOP剤を検出する診断方法を提供する。OP化合物の急性毒作用は、必須のセリンヒドロキシルとの反応によってAChEを阻害して比較的安定したホスホセリンエステル結合を形成するそれらの能力とよく相関するので、OPとChEとのコンジュゲート体は、OP曝露のきわめて感度の高い選択マーカーの役目を果たすことができる。同様に、リン酸化されたアルブミン(即ち、Tyr 411)は、OP又は農薬への曝露の高感度のマーカーの役目を果たすことができる。特定のOP化合物によって与えられる正確な変更に基づく個々のOP-ChE又はOP-アルブミンコンジュゲート体を特異的に認識するために選択的な抗体を用いることにより、曝露の間又は後の、OPの相対的な毒性の可能性の確認において、巨大な診断価値のあるツールが得られる。
【0044】
本発明は、神経剤又は他のOPを選択的に検出するアレイベースの方法を用いることにより、アレイバイオセンサー用の抗体を得るための、OPモデル化合物の使用方法をさらに提供する。これは、3つに分かれた手法である。第1に、抗体を手に入れるために合成化学試薬を用い;第2に、抗体を得てバイオセンサーに組み込み、高感度検出のための最適な構成を判定するために異なるアッセイフォーマットで試験し、感度及び迅速検出の両方について最適化し;第3に、緩衝液、混入生理液及び最後に血液でのそのような選択性の実証の後、生理的に重要な濃度で処理した動物の血液成分又は脳組織を感度及び選択性について再び試験する。最終生成物は、環境試料又は低用量の神経剤若しくは他のOPに曝露した動物から採取された生体試料中のOPを検出することに役立つ、野外使用可能なアレイバイオセンサーである(実施例14)。
【0045】
(本発明の使用方法)
【0046】
本発明は、傷害が起こる前にインビボで神経剤、コカイン、農薬、他の乱用薬物を除去するのに有用である効率的な生物学的スカベンジャー(及び/又は酵素触媒)としての、臨床的に試験された組換えHuBchE(及び/又はこの酵素のより活性の強い触媒性変異形態)を提供する。本発明は、軍人、最初の対応者及び一般人をOP曝露の脅威から保護するための有望な手法となり、コカイン又は他の剤の過剰摂取のための緊急治療法を提供する。この生成物は、農薬に潜在的に曝露する人々を保護するために用いることもできる。ヒトの臨床使用に加えて、本生成物は、神経剤解毒スポンジなどの、皮膚又は他の表面上の神経剤を吸収、解毒する解毒デバイス;神経剤の迅速で高感度の検出を可能にする検査ストリップなどの検出デバイス;並びに、神経剤の破壊及び処理のための汚染除去試薬として使用することもできる。
【0047】
最終生成物の他に、本明細書で提供されるOP類似体及びOP加水分解アッセイは、パラオキソナーゼ、カルボキシラーゼ及び触媒抗体などの他の酵素に容易に応用することができ、多様化ライブラリーは、他の商業的に存続可能なバイオ治療法(例えば、コカイン加水分解)及び工業用酵素についてのスクリーニングで用いることができる。
【0048】
以下の非限定的な実施例によって、本発明をさらに説明する。
【0049】
(実施例1:RhBchEのクローニング、発現及び精製)
RhBchE完全長発現ベクターの構築。RhBchEの5'配列は、製造業者の手順に従ってRACEキットを用いてアカゲザル(Macaca mulatta)のRNAから直接クローニングした。具体的には、全RNAは、3匹のアカゲザルの肝臓を含有する試料から調製した。短いmRNAの脱リン酸で完全長mRNAのキャップ構造を除去した後、RNAのRACEオリゴを完全長mRNAへ連結した。次に、RT-PCR及びクローニングを通して、RhBchEの5'配列を得た。3'RhBchE配列は最近のインプット配列(NCBI BV21 1040)を通して確認し、参照によりその全体が組み込まれる2006年6月7日に出願の仮出願第60/811,370号に開示した。プライマーは、得られた配列に基づいて設計した。RhBchEシグナルペプチド領域及び成熟BchEを含む完全長RhBchEは、PCRを通して増幅し、pRC-CMV並びにpGSベクターのHindIII/ApaI部位にクローニングした。pGSベクターはpRC-CMVベクターと基本的に同じであったが、pRC-CMVのG418の選択マーカーはラットグルタミンシンテターゼで置換した。クローニングしたプラスミドの配列を確認した。
【0050】
機能的組換えRhBchEの発現。プラスミドをCHO細胞にトランスフェクトし、活性BchE酵素の発現を、エルマン反応を用いてBchI加水分解のアッセイ培地からモニターした。BchEタンパク質の発現は、ウサギ抗HuBchEポリクローナル抗体によるウェスタンブロット分析によっても確認した。
【0051】
安定細胞株選択。組換えRhBchEの高レベル発現を提供する安定細胞系を調製するために、CHO細胞をpGS-RhBchEベクターでトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後、細胞をトリプシン処理し、10倍及び20倍に希釈した後に15cm培養皿に平板培養した。用いた選択培地は、25μMメチオニンスルホキシイミン(methionine sulfoximine)(MSX)を含み、L-グルタミンを含まない無血清Ultraculture培地である。MSXは、内部発現グルタミンシンテターゼの特異阻害剤である。したがって、pGSRhBchEベクターを有する細胞だけが、この選択条件下で複製することができる。トランスフェクトされた細胞を2週間の間選択培地で維持して、コロニーを形成させた。他から分離された24個の単一のコロニーを、ランダムに選択した。培地を、培養プレートから除去した。トリプシンに浸漬した小さなろ紙を選択したコロニーに加え、室温で2分間インキュベートした。次に、上で示した選択培地を提供した24-ウェルプレート内の個々のウェルに、ろ紙を移した。細胞は、集密に至るまで増殖させた。高レベル発現を提供した安定細胞系を特定するために、各ウェルの培地をBchE活性について分析した。
【0052】
親和性樹脂の調製。RhBchEの精製のために、プロカインアミドでコンジュゲートしたセファロース4Bカラムを、わずかな修正を加えた記載の手順(Grunwaldら、1997)に従って作製した。CNBr活性化セファロース4B fast flow)を1mM HCl(1容量で15回の洗浄)で完全に洗浄して、キャリーオーバーの糖を除去した。次に、pH9に調節するために、0.4M NaClを含有する結合緩衝液0.2M NaCO3 pH9.0に樹脂を再懸濁させた。結合緩衝液を除去した後に、0.1Mのγ-アミノカプロン酸を含有する0.5容量の結合緩衝液を加え、反応物を4℃で一晩(約20時間)回転させた。培地をH2Oで5回洗浄し、樹脂を、0.1Mの1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩に再懸濁させ、HClでpH4.5に調節し、液体を除去した。次に、pH4.5を2.5時間維持するために1MのHClを加えた100mol/ml樹脂の濃度のプロカインアミドを含有する、0.5容量の0.1M 1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジミド(ethylcarbodimide)塩酸塩に、樹脂を再懸濁させた。反応では、pHを5分おきに調節し、pHの範囲はおよそpH4.45〜4.65であった。反応は、室温で一晩(〜20時間)で完了させた。次に、樹脂をカラムに詰め、未反応のプロカインアミドの完全な除去のためにUV280でモニタリングしながら、H2Oで完全に洗浄した。未結合のプロカインアミドを測定するために、すべての流出物を収集した。
【0053】
培地からの組換えRhBchEの精製。精製組換えタンパク質を調製するために、RhBchEを発現する安定した細胞を、3層の細胞増殖を可能にするT180フラスコで増殖させた。分泌されるRhBchEを2週間蓄積させた後、フラスコから培地を収集した。培地は、絶えず回転させながら、4℃で一晩プロカインアミド-樹脂と一緒にインキュベートした。樹脂を、2000×gで5分間の遠心分離によって沈降させた。未結合の物質を含有する上清を注意深く除去し、樹脂を50mMリン酸カリウムpH7.2、1mM EDTA(緩衝液A)に再懸濁して、カラムに詰めた。緩衝液A中の0.2M NaClによる大がかりな洗浄の後、カラムに結合したRhBchEを、緩衝液A中の0.05〜0.5Mのプロカインアミド勾配溶液で溶出させた。溶出液からの活性分画は、BchI基質を用いてエルマンアッセイによって同定した。活性分画を一緒にプールし、30kDの分子量カットオフ値により、セントリコン(ミリポア社製)で濃縮した。
【0054】
アカゲザル血清由来の天然のBchEの精製。アカゲザル由来の血清を、プロカインアミドとコンジュゲートしたセファロースカラムに通した。カラムを、20mMリン酸カリウムpH7.0、1mM EDTA中の0.2M NaClで徹底的に洗浄した。カラムに結合したRhBchEを、0.1Mプロカインアミドで溶出させた。酵素分画の活性を、BchI加水分解によって決定した。活性分画を一緒にプールし、20mMトリスpH8.0、1mM EDTA中でのセファロース4Bゲルろ過クロマトグラフィーでさらに精製した。BchI加水分解活性に基づき、活性分画を一緒にプールし、DEAEセファロースカラムに加えた。カラムを20mMトリスpH8.0、1mM EDTAで徹底的に洗浄し、カラムに結合したタンパク質を、20mMトリスpH8.0、1mM EDTA中の0.1M、0.15M、0.2M、0.25M及び0.3MのNaClの段階勾配によって溶出させた。活性酵素は、0.2M NaCl溶離液に存在していた。タンパク質濃度は、BCA方法を用いて判定した。各分画中のタンパク質は、SDS-PAGEと、その後のコマシーブルー染色及びウェスタンブロット分析によって分析した。
【0055】
(実施例2.RhBchE及びHuBchEの基質特異性及び阻害動態の評価)
BchIの加水分解。酵素分画は、エルマン法を用いてBchI加水分解について分析した。簡潔には、5mM BchIを、10mMの5,5'-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)(5,5'-dithiobis(2-nitrobenzoic acid)(DTNB)の存在下で、50mMリン酸カリウムpH7.4中の血清と一緒に25℃でインキュベートした。UV-Vis分光光度計を用いて、BchIの加水分解を412nmで連続的にモニターした。活性は、13,600M-1 cm-1のモル吸光係数から計算した。Km判定については、アッセイは、それぞれ25、33.3、50、100及び200μMのBchI、酵素ストック、並びに200μM DTNBを含む50mMリン酸カリウムpH7.2緩衝液を含有した。アッセイは、25℃で実施した。Km値はラインウィーバー-バーク分析によって判定し、kcat値は、エコチオフェート(echothiophate)(ETP)滴定から判定した機能的酵素濃度を用いて判定した。(+)コカイン、(-)コカイン及び一部のその代謝産物の競合的阻害定数Kiは、ある範囲の濃度の(+)コカイン、(-)コカイン、(-)ノルコカインの存在下でBchIの加水分解を測定することによって判定した。
【0056】
コカイン加水分解アッセイ。コカイン加水分解は、質量分光分析(mass spectrometry)(MS)によって特定のエクゴニンメチルエステル(ecgonine methylester)(EME)の生成を定量化することによって特徴づけた。高度に精製したRhBchE又はHuBchEを、コカイン(10mMリン酸カリウム緩衝液pH7.4中の最終濃度が1、2、4、10及び40μM)と一緒に37℃でインキュベートした。20、40及び60分の間隔で、反応を停止して反応生成物を安定させるために、一定量に6N HClを混合した。添加酵素を用いずに、バックグラウンド反応を同時に実施した。各時点で生成されたEMEの量を、反応一定量のAgilent MSDモデルMSへの直接流動注入を用いて判定し、m/z 199.9〜200.9(EME)のイオンは、選択的イオンモニタリングによって定量化した。反応混合液中のEMEの量を、既知の濃度(125〜1000nM)のEME溶液から作成された標準曲線と比較した。各コカイン濃度における特定の酵素によって触媒される速度を、対応するバックグラウンド速度を引くことによって判定した。Km値及びVmax値はラインウィーバー-バーク分析によって判定し、kcatは、エコチオフェート(echothiophate)(ETP)滴定から判定した機能的酵素濃度を用いて判定した。
【0057】
RhBchE及びHuBchEのOP化合物による阻害動態。精製されたRhBchE及びHuBchEのモデルOP化合物及びETPによる時間依存的阻害の動態を、25℃の50mMリン酸カリウム緩衝液pH7.2で試験した。RhBchE及びHuBchEの阻害は、高度に精製されたHuBchE及びRhBchEをETPの様々な量と混合することによって開始した。既定の時間に、1mM BchI及び0.2mM DTNBを含有する反応混合物を酵素-化合物混合物に加え、BchIの加水分解を測定して残りのBchE活性を判定した。アッセイのために7つの阻害剤濃度を用い、各阻害剤濃度について5時点を用いた。
【0058】
(実施例3.HuBchEと新規OP化合物との相互作用の特性評価)
OP類似体によるWT及びG117H/E197Q HuBchEの阻害。WT又はG117H/E197Q HuBchEを、0.5mMの化合物1、2、3(又は4〜13、実施例12を参照)又はETPと一緒に、4℃で48時間個々にインキュベートした。次に、元の酵素と化合物とのインキュベーション混合液の100倍希釈後、標準基質BchI(1mM)を用いて、エルマン法を使用して酵素活性の残存割合を測定した。
【0059】
モデルOP化合物によるHuBchEの阻害の阻害速度定数の判定。精製されたHuBchEのモデルOP化合物による時間依存的阻害の動態を、25℃の50mMリン酸カリウム緩衝液pH7.2で試験した。HuBchEの阻害は、15nMの高度精製HuBchEを様々な量の化合物1、2、3(又は4〜13、実施例12を参照)又はETPと混合することによって開始された。既定の時間に、1mM BchI及び0.2mM DTNBを含有する反応混合物を酵素-化合物混合物に加え、BchIの加水分解を測定して残りのHuBchE活性を判定した。アッセイのために7つの阻害剤濃度を用い、各阻害剤濃度について5時点の酵素活性を測定した。
【0060】
(実施例4.ヒトBchE突然変異体発現ライブラリーの構築)
【0061】
HuBchEの突然変異ライブラリーの構築。位置G117及びE197でHuBchEライブラリーを作製するために、部位飽和突然変異誘発技術を用いた。部位飽和突然変異誘発は、二段階PCRを用いてNNKのランダム突然変異誘発コドン(N=A、T、C又はG;K=G又はT)を組み込み、huBuChEのG117及びE197の位置を置換するために実施した。PCR生成物は、KpnI/XhoI部位を通してpENTRA 1ベクターにクローニングした。プールされたpENTRA-huBchEクローンからのプラスミドDNAを、pAD/CMV/V5/DESTベクターによる組換えのために用いた。pAD-huBchE突然変異ライブラリープールのプラスミドをPacI酵素で消化して左右のウイルスITRを露出させ、次に、ADパッキングのためにリポフェクタミン2000を用いて293A細胞にトランスフェクトした。組換えAD-huBuChEウイルスライブラリーを、トランスフェクションの5日後に細胞上清から収集した。次に、ライブラリーを、一次ハイスループット固相機能スクリーニング、及び二次液相活性スクリーニングでスクリーニングした。
【0062】
例えば、機能スクリーニングプラットホームを、上の2位置(G117及びE197)部位飽和突然変異誘発生成ライブラリーを用いて検証した。ライブラリー組換えウイルスを用いて293A細胞を感染させ、感染から24時間後にMEM中の1%アガロースで細胞をコーティングし、次に、0.4mMの化合物4〜13(即ち、化合物5、サリン類似体、実施例13を参照)をコーティングした細胞に加えて、発現した組換えHuBchE変異体と相互作用させた。感染から4日目に、DTNBの存在下で基質としてBchIを用いて、コーティングした細胞を染色した。OP加水分解酵素の存在を示す黄色スポットの出現について、プレートを3時間モニターした。黄色のアガローススポットをプレートから抜き取り、個々の試験管内の無血清培地でインキュベートした。培地に放出された組換えウイルスからの一定量を、293A細胞を予め播種した96-ウェルプレートに加えた。96-ウェル培養プレートを、感染後3日間インキュベートした。この時間は、ウイルスの増殖及びコードされたhuBuChE変異体の発現を可能にした。3日目に、96-ウェルプレートからの培地を、OP阻害抵抗性/加水分解活性について分析した。上記のすべてのアッセイの結果に基づいて、OP加水分解活性の増大を示す試料を遺伝子識別のために選択した。組換えウイルスでコードされるhuBchE遺伝子を、培地由来のウイルスベクター特異プライマーでPCR増幅した。PCR生成物を配列決定し、huBchE遺伝子内の突然変異を特定した。
【0063】
HuBchEのAD媒介発現。2.45×1010pfu/mlの滴定量を有するHuBchEの変異体(A328Y/Y332A)を含む組換えADのストック。この二重突然変異体は、コカイン加水分解の向上のために設計された。2つの異なるウイルス濃度(1×108pfu及び4×108pfu、(即ち、それぞれ200の感染多重度(multiplicity of infection)(moi)及び800のmoi)を用いて、6-ウェルプレート上に一晩予め播種したCHO細胞及びCOS細胞を感染させた。培地中でのBchE活性は、標準のエルマン反応を用い、基質として1mM BchIを用いて感染後の異なる時点でモニターした。
【0064】
WT及びG117H/E197Q HuBchEのためのAD発現ベクターの調製。HuBchE酵素をクローニングするために、インビトロゲンからのViralPower AD発現系を用いた。このシステムでは、標的遺伝子を侵入ベクターへクローニングした。製造業者によって記載されるように、ゲートウェイ技術を用い、インビトロ組換えを通して、標的遺伝子をpAD/CMV/V5/DESTへ導入した。アデノウイルスベクターの構築のために必要とされる組換えシグナルを提供するpENTRA1侵入ベクターにHuBchE遺伝子をクローニングするために、制限クローニング部位KpnI及びXhoIを組み込むためにTurbo Pfuを用いて、PCR増幅したWT及び元のプラスミド由来のG117H/E197Q HuBchEを作製した。PCR生成物を、pENTRA 1のKpnI及びXhoI部位にクローニングした。PCR工程を通して突然変異が導入されていないことを検証するために、選択されたクローンの挿入断片の配列を決定した。次に、スーパーコイルプラスミドを、pAD/CMV/V5/DEST、標的タンパク質の高レベル発現のためのCMVプロモーター及び陰性選択ccdB遺伝子を含有するAD発現ベクターと共にインキュベートした。形質転換の後、組み換えられたプラスミドだけが、選択プレート上で増殖することができた。pADベクターへのHuBchE遺伝子の正しい挿入を検証するために、プラスミドを制限消化及び配列決定分析によって分析した。
【0065】
HuBchE-ADの生成、及びAD発現系による組換えWT及びG117H/E197Q HuBchEの発現の検証。組換えWT-及びG117H/El97Q-hBchE-ADを生成するために、プラスミドpAD-WT-hBchE及びpAD-G117H/E197Q-hBchEをPacI酵素消化で線状にし、次にリポフェクタミンを用いて293A細胞にトランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞を3日間無血清培地で維持してHuBchE活性を試験し、次に、細胞生存能力を維持させるために血清添加培地へ移した。対照ベクターpAD-lacZも、平行して用いた。パッケージ化された組換えウイルスを含有する培地をトランスフェクションから12日目に収集し、遠心分離にかけて細胞片を除去し、-80℃で保存した。感染後の組換えBchEの発現をモニターするために、組換えウイルスを、培養したCOS細胞の培地に加えた。初期感染後の異なる時点で、BchI加水分解活性を培地について測定した。
【0066】
RhBchE及びHuBchEキメラの突然変異ライブラリーの構築。BchEキメラライブラリーを作製するために、DNAシャッフリング技術を用いた。HuBchE及びRhBchEの完全長断片を、対応するクローンからPCR増幅した。HuBchE及びRhBchEのPCR断片をゲル精製して、1:1の比で組み合わせた。合わせたPCR断片を、制限DNアーゼI消化にかけた。100〜200bpの断片を精製し、プライマーなしでPCR増幅して、より長い断片に組み立てた。完全長組換え生成物を得るために、最後に、このより長い断片を末端プライマーで増幅した。これらのシャッフルDNA断片を、プラスミドpCR2.1-TOPOに連結した。
【0067】
(実施例5.機能スクリーニングアッセイの開発及び検証)
固相コリンエステラーゼ活性アッセイの確立。HuBchE WT又はG117/E197Q HuBchEを安定して発現するCHO-K1細胞を、培養プレートに播種した。播種の24時間後、培地を除去し、細胞をUltraculture無血清培地で2回洗浄した。次に、細胞を、無色MEM中の1%寒天又は1%アガロースで重層した。培地が固まった後、細胞を一晩インキュベータに戻した。基質(1mM BchI若しくは1mM ETP)及び/又は0.1mM DTNBを含有するエルマン反応混合液を、無色MEM中の1%寒天(又は1%アガロース)で調製した。反応混合液を上で調製した細胞培養プレートに重層し、室温でインキュベートした。プレートは黄色の出現を視覚的にモニターし、OD405吸収についてもプレートリーダーで測定した。
【0068】
HuBchE活性の限局性検出。WT HuBchEを安定して発現するCHO-K1細胞を連続希釈し、異なる密度(即ち、4、20及び100細胞数/プレート)で10cm培養皿に播種した。細胞を1週間増殖させ、〜20細胞数/コロニーを含有する小コロニーを形成させた。細胞を無血清培地で2回洗浄し、次に、MEM中の1%アガロースでコーティングした。一晩のインキュベーションの後、無色のMEM中の1%アガロースで調製した基質(1mM BchI及び0.1mM DTNB)を含有するエルマン試薬混合液でプレートを発色させた。
【0069】
AD-BchE組換えウイルスの検出への固相BchE活性アッセイの適用。連続希釈したHuBchE-ADウイルスを用いて、6-ウェルプレートに予め播種した293A細胞を感染させた。感染の1時間後に、アガロース-MEM混合液を細胞に重層した。培養プレートをインキュベータに戻した。複数の複製プレートを調製したので、感染後の各日に1プレートを取り出して、1mM BchI及び200μM DTNBを含有するアガロース-MEM混合液で重層した。プレート上の黄色の出現を、視覚的にモニターした。特定した黄色スポットからウイルスを単離するために、アガロース培養プレートからプラグを抜き取った。単離したプラグを、0.5mlの培養された培地を含有する試験管へ移し、4℃で一晩インキュベートした。次に、プラグと一緒にインキュベートした培地を用いて、24-ウェルプレートに予め播種した293A細胞を感染させた。培地中でのBchE活性は、感染の24及び48時間後に分析した。単離した組換えウイルスからBchE遺伝子を回収するために、プラグと一緒にインキュベートした1μlの培地を鋳型として用いて、ADベクター特異プライマーT7及びpAD-V5Rで増幅した。PCR生成物の配列を決定した。
【0070】
(実施例6.マカク属ChEの活性分析)
より大きなコカイン加水分解性又はOP活性を有する新規BchEを特定するために、3つのサル種、即ち、アカゲザル(Macaca mulatta)、ブタオザル(Macaca nemestrina)及びカニクイザル(Macaca fascicularis)由来の血漿を、BchI及びコカイン加水分解性活性についてスクリーニングした。この試験は、BchI加水分解はすべての血漿で非常に類似しているが、(-)コカインの加水分解は著しく異なり、アカゲザル血清が最大加水分解活性を有することを示した。したがって、さらに酵素の特性を解明するために、アカゲザル由来のBchE遺伝子をクローニングした。
【0071】
RhBchEのcDNA配列の分析。アカゲザル肝臓組織由来のRhBchEのcDNAをクローニングするために、RT-PCRを用いた。RhBchEの完全なcDNA配列(配列番号1)及び対応するアミノ酸配列(配列番号2)を、以下に示す。
【化1】
【0072】
RhBchEの最長のオープンリーディングフレームは574アミノ酸ポリペプチドをコードし、それは、HuBchE(gi:4557351)(配列番号3)と95%の配列同一性(96%の配列類似性)、ウサギBchE(gi:116354)(配列番号4)と91%の同一性(94%の類似性)、ウマBchE(gi:7381418)(配列番号6)と91%の同一性(95%の類似性)、ネコBchE(gi:2981243)(配列番号5)と88%の同一性(92%の類似性)及びマウスBchE(gi:6857761)(配列番号7)と81%の同一性(89%の類似性)を有した。配列番号3〜7のポリペプチド配列を、以下に示す。
【0073】
HuBchEのポリペプチド配列(配列番号3):
【化2】
【0074】
ウサギBchEのポリペプチド配列(配列番号4):
【化3】
【0075】
ネコBchEのポリペプチド配列(配列番号5):
【化4】
【0076】
ウマBchEのポリペプチド配列(配列番号6):
【化5】
【0077】
マウスBchEのポリペプチド配列(配列番号7):
【化6】
【0078】
本発明のRhBchE配列(配列番号8)とM62777(部分RhBchE)(配列番号9)及びHuBchE(NCBI NM 000055)(配列番号10)とのアラインメントも提供される。
【0079】
RhBchEをコードするポリヌクレオチド配列(配列番号8)を、以下に示す。
【化7】
【0080】
部分RhBchE(BV211040)の配列をコードするポリヌクレオチド配列(配列番号9):
【化8】
【0081】
HuBchEをコードするポリヌクレオチド配列(配列番号10):
【化9】
【0082】
異なる種の間での比較の対象となるRhBchE残基を、下の表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
HuBchEの配列と比較して、RhBchEは異なるアミノ酸を有する25残基を含有する。これらの25個の異なる残基の中で、17個のアミノ酸は類似したアミノ酸として保存される。ヒト、ウサギ、ネコ、ウマ及びマウスを含む異なる動物種由来のBchE酵素アミノ酸配列と比較した場合、RhBchEはHuBchEに対して最も高い類似性を有する。HuBchEとRhBchEとの間で保存されているが他の種では保存されていない6つの残基がある。しかし、HuBchEと比較してRhBchE中の8つの非保存アミノ酸中の7つ(P215、S227、D342、D390、V454、G482及びK489)は、実際には他の動物酵素で保存されている。RhBchEに特異的な唯一のアミノ酸残基はN348であるが、記載した他のすべての種由来の酵素はこの位置にLysを有する(表1)。
【0085】
(実施例7.機能的組換えRhBchEの発現)
組換えRhBchEの発現は、一時的にトランスフェクトしたCHO細胞及び安定的にトランスフェクトしたCHO細胞の両方で調査をした。発現した組換えBchE酵素の活性を、エルマン反応を用いてBchI加水分解のアッセイ培地からモニターした。BchEタンパク質の発現はウェスタンブロット分析によっても確認され、組換えRhBchEが抗HuBchEポリクローナル抗体によって認識され、組換えHuBchEと一緒に移動することが示された(図1)。
【0086】
アカゲザル血清からのRhBchEの精製。3段階のクロマトグラフィーの後、SDS-PAGE及びコマシーブルー染色に基づいてRhBchEを約70%の純度まで精製した(図2A)。抗HuBchEポリクローナル抗体によるウェスタンブロット分析は、その抗体がRhBchEを非常に効率的に認識すること、及び、免疫活性バンドが精製HuBchEと一緒に移動することを示した(図2B)。本明細書で記載の本発明で特定される任意のタンパク質の安定性を改善するために、BchEのペグ化又は他の誘導体化を実行することができる。
【0087】
RhBchEの基質特異性。実施例1に記載されているように、精製した酵素分画を、エルマン法を用いてBchI加水分解アッセイのために分析した(表2)。表2は、ブチリルチオコリン及び(-)コカインについて50mMリン酸カリウム、pH7.4において30℃で判定した、精製したRhBchE及びHuBchEの速度定数を示す。
【0088】
【表2】
【0089】
表2〜4で示すように、RhBchEは基質特異性においてHuBchEとかなりの差を示した。RhBchEはBchIに対して2.7倍低い結合親和性(Km 71.1μM)を有していたが、(-)コカインへの親和性はHuBchE(Ki=13.6μM)より約2.9倍高かった(Ki=4.7μM)。
【0090】
RhBchEの基質特異性を試験し、コカイン加水分解生成物を酵素活性の阻害剤として試験し、表3(25℃における50mMリン酸カリウム、pH7.4でのBchI加水分解阻害)に示すように、コカインに化学的に関係する異なる化合物のKi値を判定した。
【0091】
【表3】
【0092】
表3からわかるように、(+)コカイン及び(-)ノルコカインの両方は、HuBchEよりもRhBchEに対して〜2倍高いKiを有するが、(-)コカインはHuBchEよりもRhBchEに対して約3倍低いKiを有し、RhBchEが他の基質より(-)コカインに対してより構造的に選択的であることが示唆される。(-)エクゴニンメチルエステルは、試験した濃度(0〜100μM)においてBchI加水分解を阻害しなかった。
【0093】
表4は、(-)コカインに対するRhBchE及びHuBchEの速度定数を示し(Xieら、1999;Metsら、1998)、RhBchEが、それ以前に報告されたコカイン加水分解触媒及びHuBchE突然変異体と比較して改善されたkcat/Kmを有することを示す。
【0094】
【表4】
【0095】
RhBchEについてのコカイン加水分解の触媒効率(kcat/Km)は、ヒト対応物より10倍以上高い。RhBchEをOPとの相互作用についてHuBchEと比較した場合、ETPによるRhBchE及びHuBchEの阻害は一次的であった(図3)。kapp一次速度定数(阻害のための)対ETP濃度の再プロットにより、RhBchE及びHuBchEとETPとの反応の阻害定数を決定した。RhBchEとHuBchEとの間の感受性の差を、表5に示す(ETPの阻害速度定数は、図3に示すETP濃度を用いるkapp(分-1)の二重逆数プロットから得られた)。
【0096】
【表5】
【0097】
(実施例8.OP類似体の合成及びHuBchEの阻害)
実施例12及び13に記載のように、それぞれサリン、ソマン及びVXの構造を模倣するOP類似体の合成に成功した。OP類似体は、それらのHuBchE及びG117H/E197Q HuBchEとの相互作用について試験した。結果を表6に示す(HuBchE及びG117H/El97Q HuBchEを0.5mMの表示化合物又は対照緩衝液と一緒に4℃で48時間インキュベートした)。
【0098】
【表6】
【0099】
表6で示すように、WT HuBchEは3化合物すべてによって阻害され、残存活性は2%未満であった。残存酵素活性は、1mM BchIを用いてエルマン反応によって試験した。しかし、G117H//E197Q HuBchE変異体は、全3化合物に対して50%以上の活性をなお保持していた。この知見は、G117H/E197Q酵素変異体がOP阻害に抵抗性であったとの初期の報告とよく一致し、合成された3つのOP類似体が、それ以前に試験された他のOP化合物と同様にHuBchE酵素と相互作用していることを示す。さらに、BchI加水分解をより長い期間試験した場合、化合物1及び2とのインキュベーション後のWT残存活性はかなりのものであったが、化合物3又はエコチオフェートがインキュベーション中に存在した場合、検出可能な活性はWT酵素について観察されなかった。ここで示すOP化合物阻害に対するG117H/E197Q HuBchEの抵抗性は、機能スクリーニングデザインで実行することができる重要な特徴を示した。原則として、この手法(硫黄で酸素エステルを置換すること)は、HT機能スクリーニングを開発するために任意のエステルに応用することができる。さらなる実施例は、実施例13で見ることができる。
【0100】
モデルOP化合物によるHuBchEの阻害の阻害速度定数の決定。モデルOP化合物による精製HuBchEの時間依存的阻害の動態は、7つの阻害剤濃度及び各阻害剤濃度について5時点で試験した。全OPモデル化合物によるHuBchEの阻害は、一次的であった(図4Aは、化合物1、2、3及びエコチオフェートの選択された阻害剤濃度を示す)。kapp(阻害の一次速度定数)対OP化合物濃度の再プロットにより、HuBchEと試験OP化合物との反応の阻害定数を決定した(表7)。HuBchEについてのOP化合物の阻害定数は、図4に示すkapp(分-1)対OP濃度の二重逆数プロットから得られた。図4Bは、化合物1からの代表的なプロットを示す。
【0101】
【表7】
【0102】
培地中での化合物安定性及び自発的な加水分解。OPモデル化合物が細胞ベースのアッセイで用いられるので、予想される遅いターンオーバー速度及び予想される長いインキュベーション期間のために、これらの化合物が、培地の存在下でアッセイ条件下で安定であることが重要である。化合物の酵素非依存的な自発的加水分解(即ち、緩衝液媒介性、H2O媒介性及び培地媒介性の加水分解)は、酵素なしのDTNBの存在下でのアッセイ緩衝液中での化合物のインキュベーションと、続く412nmでのUV-visによってモニターした。全3化合物は検出不可能な加水分解を示し、これらの化合物の自発的な加水分解(又は非常に限定的なバックグラウンド加水分解)は、機能スクリーニングで用いたアッセイ条件下で検出されなかったことを示す。化合物安定性も、室温におけるH2O中での長期保存の前後のHuBchEを阻害する能力によって調査し、次に、HuBchEを阻害するそれらの能力について試験した。結果は、化合物1及び2が、この保存条件でかなり安定していたことを示した。HuBchE活性を阻害する能力がわずかに低下した。しかし、化合物3は、この条件下でいつまでも安定していなかった。
【0103】
(実施例9.RhBchE/HuBchEキメラを作製するための遺伝子シャッフル)
RhBchEは、HuBchEより10倍以上高いコカイン加水分解活性を有することを示した。RhBchEとHuBchEとの間で、23個のアミノ酸に違いがある。HuBchEとRhBchEとの間で異なる、8個のランダム選択したクローン由来のアミノ酸残基を、下の表8に示す。
【0104】
【表8】
【0105】
すべてではないにしてもこれらの変異体のいくつかは、RhBchEのコカイン又は他のエステルの加水分解活性の向上に寄与すると考えられる。選択された有益な変形形態の最高の組合せを特定するために、HuBchE及びRhBchEからキメラのライブラリーを作製した。上記のDNAシャッフリング技術を用いた。8つのランダム選択されたクローンから、プラスミドDNAを調製した。8クローンからのBchEコード領域を配列決定し、分析した。図5は、HuBchE及びRhBchE由来の8つの組換えキメラを表す。すべてのクローンの5'領域は、HuBchEシグナルペプチドをコードする。複数の組換え事象(各クローンにつき平均で約12のクロスオーバー)が、8つのランダム選択されたクローンの異なる部位で起こった。このことは、これら8クローンが、HuBchE及びRhBchEの組換え体の非常に多様化されたキメラのライブラリーを表すことを示した。この多様化されたライブラリーは、機能選択の基礎となった。組換え過程では、低レベルの点突然変異も導入した。配列決定をした8クローンから、12個の新規アミノ酸突然変異が特定された。フレームシフト又は早発の終結突然変異は、これらの配列では発見されなかった。そのような低い突然変異率は、それがライブラリーの多様性を増加させ、同時に、非機能性酵素をもたらす過多の有害突然変異を導入しないので、理想的である。
【0106】
(実施例10.HuBchEのAD媒介性発現)
AD系は、ヒトタンパク質を発現するために広く用いられてきた、他のウイルス発現系である。ADは広範囲の哺乳動物細胞を感染させることができ、多くの分裂及び非分裂哺乳動物細胞系における組換えタンパク質の発現を可能にする。様々な力価の組換えウイルスを感染させた細胞からの培地をBchE活性について分析し、培地中でのBchE活性が、COS細胞の感染後にHuBchEの用量依存的及び時間依存的発現を示したことを示す。類似した結果が、CHO細胞で得られた(データは示さず)。図6に示すように、培地中に蓄積されたBchE活性は、経時的に指数的に増加した。AD構築物は、複製不能であった。COS細胞を感染させた場合は、さらなるウイルス粒子を生成することができない。したがって、培地中での酵素活性の連続的増加は、感染細胞がBchE酵素を日々連続的に生成したことを示した。顕微鏡で検査した場合、AD感染に起因するCPE(細胞ラウンドアップ)は、感染後の4及び5日目まで明らかでなかった。図6Bは、培地のウェスタンブロット分析が、時間依存的及び用量依存的なHuBchEの存在を反映し、図6Aで示す結果とよく一致することを示した。
【0107】
WT及びG117H/E197Q HuBchEのアデノウイルス発現ベクターの構築。HuBchE酵素をクローニングするために、Viralpower AD発現系を用いた。ライブラリー構築のために用いた構築手順の、クローニング及び組換えの効率を判定した。組換え反応で300ngのpAD/CMV/V5/DESTプラスミドを用い、1×106cfu/μgの形質転換効率を有する化学コンピテント細胞を用いて、各組換え反応について約50個の組換えコロニーが得られた。12個のランダム選択コロニーの制限消化により、75%が正しいHuBchE挿入断片を有することがわかった。このことは、突然変異ライブラリーのクローニングのために、組換え工程のために10μgのDNA及びより効率的なエレクトロコンピテントな細胞(1×1010cfu/μg)を用いることにより、1×106個の組換えクローンを生成することができることを示す。これは、機能スクリーニングの成功に有効な大きな突然変異ライブラリーを生成するためにAD構築物を用いることの、実行可能性を証明する。
【0108】
HuBchE-ADの生成並びにAD発現系による組換えのWT及びG117H/E197Q HuBchEの検証発現。組換えのWT-及びG117H/E197Q-hBchE-ADを、実施例4に記載されているように生成し、収集した。図7は、pAD-WT-hBchE及びpAD-G117H/E197Q-hBchEのトランスフェクションはHuBchE活性の増大をもたらしたが、対照ベクターpAD-lacZのトランスフェクションは一貫してバックグラウンド活性を示すだけであったことを示す。これは、pAD-WT-hBchE及びpAD-G117H/E197Q-hBchEの構築が成功したことを示した。
【0109】
非常に効果的なOP解毒剤のための機能スクリーニング技術の検証。固相細胞ベース酵素アッセイを開発することは、より少ない労力及び費用で比較的大きな突然変異体ライブラリーを扱う能力のため、培地で他の酵素アッセイを用いるアッセイよりもかなり有利である。HuBchE WT又はG117/E197Q HuBchEを安定発現するCHO-K1細胞を最初に用いて、アッセイ条件を確立した。予め播種した細胞を洗浄し、次に、無色MEM中の1%寒天で重層した。寒天が固まった後、細胞をインキュベータに(一晩)戻し、BchE酵素を分泌させ、寒天へ酵素を拡散させた。鏡検観察に基づくと、そのようなインキュベーション条件下で細胞は少なくとも10日間健康状態を維持した。1mM BchI及び0.1mM DTNBを含有するエルマン試薬混合液を、無色のMEM中の1%寒天で調製した。反応混合液を上で調製した細胞培養プレートに重層し、室温でインキュベートした。エルマン反応からの視覚的に検出可能な黄色が生成し、10分間のインキュベーションの後プレートを調べた。プレートは、40分間のインキュベーションの後、プレートリーダー(Victor 2、Perkin Elmer)でOD405吸収についても測定した(データは示さず)。この実験は、細胞によって発現するHuBchEが寒天中に拡散し、エルマン反応試薬が提供されると、視覚的に検出可能な黄色生成物を蓄積させることができることを示した。
【0110】
固相媒体としての寒天及びアガロースの比較。上記のアッセイの間、黄色形成を通してBchEの加水分解を容易に検出したものの、黄色生成物が無期限に安定というわけではなく、長時間(数時間から一晩)のインキュベーション後に消失することが見い出された。OP化合物などの一部のエステル基質についてはより長いインキュベーション時間が予想されたので、安定性の問題に対処する必要があった。図8で示すように、最初の30〜60分間の生成物の形成は、2層のコーティングでは寒天及びアガロースの使用による影響を受けず、HuBchEが同様に生成され、固相に拡散したことが示唆される。しかし、より長いインキュベーション期間では、固相中の寒天の存在は、変色及び吸光度の低下を引き起こした。両方の層で細胞がアガロースでコーティングされた場合だけ、生成物は長期インキュベーションの間も安定していた(図8B)。
【0111】
HuBchE活性の限局的検出。固相活性スクリーニングを開発することの1つの利点は、小さな限局領域で機能的活性を特定する能力である。これは、費用効果がよい方法での大きなライブラリーの便利なスクリーニングを可能にする。WT HuBchEを安定発現する連続希釈されたCHO-K1細胞を用いて、現在開発されているアッセイがそのような利点を提供するかどうかについて試験した。図9に示すように、HuBchE発現細胞の局在に対応する視覚的に検出可能な黄色スポットが、基質の添加後数分で明らかになった。より多くの細胞コロニー(プレートにつき〜100個)を含むプレートについては、スポットは融合し合ってもはや識別不可能であった(データは示さず)。プレートあたり約20個のコロニーを含有するプレートについては、黄色スポットは容易に識別可能であった(図9)。10cm培養皿の上で〜20個の反応スポットを明瞭に特定する能力は、20個未満の陽性クローンが機能スクリーニングの間に検出される限り、培養プレートに大きなライブラリーを置くことができることを示唆する。次に、陽性クローンを連続希釈の後に容易に精製することができる。
【0112】
(実施例11.AD-BchE組換えウイルスの検出のための固相BchE活性アッセイの応用)
固相BchE活性アッセイを用いて、AD組換えウイルスの検出を試みた。AD系を用いることは、通常、遅いプラーク形成のために、遅い滴定過程を含む。BchE活性アッセイは、より短い時間枠でウイルス力価を推定するための代替法の開発を可能にした。連続希釈したHuBchE-ADウイルスを用いて、6-ウェルプレートに予め播種した293A細胞を感染させた。感染の1時間後に、アガロース-MEM混合液を細胞に重層した。最初の感染の翌日以降、BchE活性があるかどうかプレートを染色した。より高い力価で感染させたウェルは、感染の2日後以降黄色に染色したが、低い力価で感染させたウェルでは、図9に類似した特徴的な黄色スポットが感染の4日後に出現した。感染の4日後、BchI及びDTNBの適用から30分以内に黄色スポットが生じた。生じたスポットには印を付けた。より多くのスポットが生じたウェルでは、黄色はまもなく融合し合った。4個以下のスポットを含有するウェルでは、スポットの識別は容易であった。ウイルス力価判定のための従来のプラークアッセイに代わるものとして本明細書で開発されたアッセイを用いることは、各滴定過程で約7日間の節約となる。
【0113】
特定した黄色スポットからウイルスを単離し、アガロース培養プレートからプラグを抜き取った。図9は、この実験中に単離された特異プラグを図示するものである。陽性プラグは高ウイルス力価で感染させたウェルから単離され、BchE活性染色の後全体的に黄色を呈した。陰性プラグは最も高希釈のウイルスで感染させたウェルから単離され、BchE活性染色の後に黄色の出現はなかった。染色後特徴的な黄色スポットが出現したウェルから試料プラグを単離し、スポットを試料プラグとして抜き取った。染色後特徴的な黄色スポットが出現したウェルからバックグラウンドプラグを単離し、スポットの近くの非染色領域をバックグラウンドプラグとして抜き取った。単離したプラグを、0.5mlの培養された培地を含有する試験管へ移し、4℃で一晩インキュベートした。陽性プラグ及び試料プラグからの培地を、10倍に希釈した。次に、プラグと一緒にインキュベートした培地(N1〜3、P1〜3、S1〜3及びB1〜3)並びに希釈した培地(P'1〜3及びS'1〜3)を用いて、24-ウェルプレートに予め播種した293A細胞を感染させた。培地中でのBchE活性は、感染の24及び48時間後に分析し、平均活性は表9に示した。
【0114】
【表9】
【0115】
陰性プラグは、BchE発現に至らなかった(N1〜3)。陽性プラグ及び試料プラグは、BchE活性の増加に至った(S1〜3及びP1〜3)。興味深いことに、試料プラグの近くで単離されたバックグラウンドプラグは、低レベルの活性をもたらした(B1〜3、48時間)。活性レベルは、試料プラグ又は陽性プラグの10倍希釈溶液から得たものよりも低かった(B1〜3、S'1〜3及びP'1〜3)。この結果は、1)黄色に染色したアガロースプラグを単離することによってHuBchE-ADを単離することができること;2)プラグからのウイルスは近くの領域に拡散し、おそらく直近(<0.5cm)のプラグに10%未満の汚染を引き起こすことができることを示した。さらに離れたところから分離されるプラークは、各プラグのウイルスの純度を著しく改善しよう。これらの結果は、第II相機能スクリーニングデザインのための、重要な参照点の役目を果たした。
【0116】
機能スクリーニングアッセイの検証。固相機能スクリーニングを検証して、突然変異体ライブラリーからOP触媒を特定するために固相アッセイを用いることの実行可能性を試験するために、AD-G117/E197Q組換えウイルス(10pfu)を、異なる量の野生型HuBchE組換えウイルス(0、10、100及び500pfu)と混合した。混合した組換えウイルスを用いて、293A細胞を感染させた。感染から24時間後、細胞をMEM中の1%アガロースでコーティングした。感染から48時間後、0.4mMの化合物1をコーティングした細胞に加えて、発現した組換えHuBchE及び変異体と相互作用させた。感染から4日目に、DTNBの存在下で基質としてBchIを用いて、上記のように、コーティングした細胞を染色した。類似した数の黄色スポットが、次第に増加させたAD-WT HuBchEウイルスと混合した同数のAD-G117H/E197Q HuBchEウイルスに感染させたプレートで特定された。黄色のアガローススポットをプレートから抜き取り、個々の試験管内の無血清培地でインキュベートした。培地中に放出された組換えウイルスは、遺伝子挿入断片全域にわたっていたAD特異プライマーを用いて、PCRで分析した。PCR生成物の配列を決定した。配列分析は、最初の3枚のプレート(10pfuのG117H/E197Qと0、10及び100pfuのWT HuBchEを含有する)から単離したプラグについては、単離したプラグが清潔なG117H/E197Q配列を有することを証明した。500pfuのWT HuBchEと混合した10pfuのG117H/E197Qを含有するプレートについては、G117H/E197QとWTとの混合した配列が観察された。この実験は、AD発現系により、固相アッセイで、OP感受性組換えウイルスのバックグラウンドから化合物1抵抗性のHuBchE変異体を分離することができることを証明した。バックグラウンドレベルの組換えウイルスレベルが高い場合、プラグ精製工程は防振効率を改善しよう。
【0117】
部位飽和突然変異ライブラリーによる機能スクリーニング系の最適化及び検証。機能スクリーニング系の実行可能性が、分子進化手法について示された。ハイスループット機能スクリーニング研究では、系は、その感度、処理能力及び再現性のために洗練され、完全に検証される。これを達成するために、2つのアミノ酸位置G117及びE197で、部位飽和突然変異誘発が実行される。上で簡潔に記載した部位飽和突然変異誘発技術を用いた。最終的な完全長PCR生成物を配列決定し、組み込まれた突然変異コドンについて検証する。7つのランダム選択されたpAD-huBuChEクローンから、プラスミドDNAを調製する。7クローンからのBchEコード領域を配列決定し、分析した。配列結果は、これらの7クローンがアミノ酸位置117及び197の高多様性ライブラリーを表すことを示した。この多様化ライブラリーは、機能選択の基礎の役割を果たす。
【0118】
機能スクリーニング。上記結果に基づいて、上で開発した系を用いてOP触媒酵素の機能スクリーニングの作業フローチャート(スキーム12)を設計した。機能スクリーニングは、固相スクリーニング、液相スクリーニング、プラーク精製、活性確認、遺伝子増幅及び配列決定の工程を含む。この設計された作業の流れは、所望の有機若しくは無機のエステル加水分解触媒活性を有するBchE変異体の識別を可能にする。類似した手法を、コカイン触媒酵素の単離に応用することができる。
【0119】
要約すると、アカゲザルから新規BchE酵素をクローニングし、その基質特異性及び阻害動態を特徴づけた。OP触媒酵素の機能スクリーニングに有用である、3つのOP類似化合物を合成した。突然変異ライブラリーを構築し、さらに、BchE機能スクリーニングのために高レベル発現AD系を検証した。固相活性ベースの機能スクリーニングも開発、検証した。本発明から確立された技術及び研究ツールは、HuBchEを、神経剤、コカイン又は他の潜在的に有害な有機若しくは無機のエステルのための触媒性解毒酵素に改善し続けるための、分子進化の十分な能力を提供した
【0120】
(実施例12.新規OP類似体の化学合成)
OP類似体は、それぞれ、神経剤VX、ソマン及びサリンを模倣するように設計した。
【化10】
【0121】
スキーム1で図示するように、一般的な手順は、(±)エフェドリンと二塩化メチルホスホノチオ酸との反応による2,3,4-トリメチル-5-フェニル-1,3,2-オキサザホスホリジン-2-チオンの形成を含む。次に、配列は、2,3,4-トリメチル-5-フェニル-1,3,2-オキサザホスホリジン-2-チオンとアルコールとの反応、及び以降の水素化分解を伴う。生じるアルキル水素メチルホスホノチオエートは、所望のO-アルキルS-メチルメチルホスホノチオエート化合物を提供するために、ヨードメタンでアルキル化される。全中間体の特性評価を含む標的化合物の化学合成法を、以下に示す。
【0122】
2,3,4-トリメチル-5-フェニル-1,3,2-オキサザホスホリジン-2-チオンの合成。2,3,4-トリメチル-5-フェニル-1,3,2-オキサザホスホリジン-2-チオンのラセミ混合物は、Cooperらの論文(J.Chem.Soc.Perkin Trans.1977,17,1969-80)の手順に従って調製した(スキーム2)。
【化11】
【0123】
トルエン(25mL)中の二塩化ホスホノチオ酸メチル(8.0g、53.7mmol)の溶液を、トリエチルアミン(27.2g、268mmol)及びトルエン(210mL)中の(±-エフェドリン(13.0g、64.4mmol)の攪拌溶液に徐々に加えた。添加の終了後、反応液を室温の暗所においてアルゴン下で24時間攪拌し、ろ過し、水で洗浄し、乾燥させ(MgSO4)、減圧で濃縮して淡黄色油を得た。シリカカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル、3:1、v/v)は、ジアステレオマーの混合物を油(5.39g、22.4mmol、42%)として与えた。TLC(ヘキサン/酢酸エチル、3:1、v/v)RF=0.26;1H NMR (CDCl3) 7.24-7.37 (m, 5H), 5.64 (dd, JHP = 3.0Hz, JHH = 6.0Hz, 0.5H), 5.47 (dd, JHP = 2.1Hz, JHH = 5.7Hz, 0.5H), 3.61 (m, 1H), 2 .75 (d, JHP = 12.3Hz, 1.5H), 2.66 (d, JHP = 12.0Hz, 1.5H) 2.04 (d, JHP = 14.4Hz, 1.5H), 1.93 (d, JHP = 14.0Hz, 1.5H), 0.80 (d, JHP = 6.6Hz, 1.5H), 0.73 (d, JHP = 6.6Hz, 1.5H); MS (ESI) [M+H]+ m/z C11H18NOPSの計算値 242, 実測値 242.
【化12】
【0124】
スキーム3で示すように、イソブチルアルコール(3mL)及び乾燥メチルエチルケトン(methyl ethyl ketone)(MEK、3mL)中の乾燥HClの飽和溶液を、イソブチルアルコール(7mL)及びMEK(7mL)中の、2,3,4-トリメチル-5-フェニル-1,3,2-オキサザホスホリジン-2-チオン(1.05g、4.36mmol)の冷却した、攪拌溶液に徐々に加えた。反応液を室温の暗所で1.5時間攪拌し、次に、氷冷10% Na2CO3水(25mL)へ注いだ。この混合水を、下記のように、精製をせずに水素化反応で直接用いた。
【0125】
イソブチル水素メチルホスホノチオエートの合成
【化13】
【0126】
化合物5を含有する前の反応液からの未精製混合液を、水(50mL)及びエタノール(75mL)で希釈した。この溶液に、Pd/C(160mg)を加え、次に、H2(g)を詰めたバルーンを丸底フラスコに取り付けた。攪拌及びクロロホルム/イソプロピルアルコール(4:1、v/v)による抽出の後、有機層を合わせ、乾燥させ(MgSO4)、ろ過し、濃縮して未精製油(390mg、53%)を得た。1H NMR (CDCl3) 3.79 (m, 2H), 1.91 (m, 1H), 1.82 (d, JHP = 15.6Hz, 3H) 0.90 (d, J = 6.9Hz, 6H).
【0127】
O-イソブチルS-メチルメチルホスホノチオエートの合成
【化14】
【0128】
スキーム5で示すように、エタノール(25mL)で希釈した10% Na2CO3(水溶液)(2.5mL)中の6(302mg、1.79mmol)の溶液に、ヨードメタン(2.54g、17.9mmol)を加えた。24時間の後、反応液を攪拌し、有機物質を水で洗浄し、乾燥させ(MgSO4)、減圧で濃縮して薄い褐色の油を得た。Kugelrohr装置によるbulb-to-bulb蒸留によって純粋な生成物が得られ、透明な油(100mg、0.55mmol、31%)を与えた。1H NMR (CDCl3) 3.75 (m, 2H), 2.21 (d, JHP = 12.9Hz, 3H), 1.88 (m, 1H), 1.71 (d, JHP = 15.6Hz, 3H).
【0129】
中間化合物9の合成。
【化15】
【0130】
スキーム6で示すように、ネオペンチルアルコール(3.0g、34.0mmol)及び乾燥メチルエチルケトン(MEK、3mL)中の乾燥HClの飽和溶液を、ネオペンチルアルコール(7.0g、79.4mmol)及びMEK(7mL)中の、2,3,4-トリメチル-5-フェニル-1,3,2-オキサザホスホリジン-2-チオン(1.05g、4.36mmol)の冷却した、攪拌溶液に徐々に加えた。反応液を室温の暗所で1.5時間攪拌し、次に、氷冷10% Na2CO3水(25mL)へ注いだ。この混合水を、下記のように、精製をせずに水素化反応で直接用いた。
【0131】
ネオペンチル水素メチルホスホノチオエートの合成
【化16】
【0132】
化合物9の未精製混合液を、水(50mL)及びエタノール(75mL)で希釈した。この溶液に、Pd/C(181mg)を加え、次に、H2(g)を詰めたバルーンを丸底フラスコに取り付けた。攪拌の後、有機物質を合わせ、乾燥させ(MgSO4)、ろ過し、濃縮して、未精製油(700mg、3.84mmol、91%)を得た。1H NMR (CDCl3) 3.6 (m, 2H), 1.74 (d, JHP = 15.6Hz, 3H), 0.89 (s, 9H).
【0133】
O-ネオペンチルS-メチルメチルホスホノチオエートの合成。
【化17】
【0134】
エタノール(55mL)で希釈した10% Na2CO3(水溶液)(5.5mL)中の化合物10(700mg、3.84mmol)の溶液に、ヨードメタン(5.45g、38.4mmol)を加えた。24時間後、Kugelrohr装置によるbulb-to-bulb蒸留によって純粋な生成物が得られ、透明な油(55mg、0.28mmol、7%)を与えた。1H NMR (CDCl3) 3.71 (m, 2H), 2.29 (d, JHP = 14.4Hz, 3H), 1.79 (d, JHP = 15.6Hz, 3H), 0.95 (s, 9H).
【0135】
中間化合物13の合成。
【化18】
【0136】
2-ジイソプロピルアミノエタノール塩酸塩(3.74g、20.6mmol)を、2-ジイソプロピルアミノエタノール(7.0mL)及びMEK(10mL)中の、2,3,4-トリメチル-5-フェニル-1,3,2-オキサザホスホリジン-2-チオン(1.05g、4.36mmol)の冷却した、攪拌溶液に加えた。反応液を室温の暗所で1.5時間攪拌し、次に、氷冷10% Na2CO3水(25mL)へ注いだ。この混合水を、下記のように、精製なしで水素化反応で直接用いた。
【0137】
2-ジイソプロピルアミノエチル水素メチルホスホノチオエートの合成
【化19】
【0138】
化合物13の未精製混合液を、水(50mL)及びエタノール(75mL)で希釈した。この溶液に、Pd/C(172mg)を加え、次に、H2(g)を詰めたバルーンを丸底フラスコに取り付けた(スキーム10)。フラスコを空にし、次に水素でパージし、18時間攪拌した。攪拌の後、有機物質を合わせ、乾燥させ(MgSO4)、ろ過し、濃縮して、未精製油(505mg、2.11mmol、91%)を得た。
【0139】
O-2-ジイソプロピルアミノ-エチルS-メチルメチルホスホノチオエートの合成
【化20】
【0140】
エタノール(30mL)で希釈した10% Na2CO3(水溶液)(3.0mL)中の未精製物14(505mg、2.11mmol)の溶液に、ヨードメタン(5g、21.1mmol)を加え、室温の暗所で24時間攪拌した。攪拌の後、有機層は薄い褐色の油を与えた。Kugelrohr装置によるbulb-to-bulb蒸留によって純粋な生成物が得られ、透明な油(13mg、0.05mmol、2%)を与えた。1H NMR (CDCl3) 4.79 (m, 2H), 3.99-4.21 (m, 4H), 2.30 (d, JHP = 13.2Hz, 3H), 1.75 (d, JHP = 15.6Hz, 3H), 1.36 (d, J = 6.0Hz 6H), 1.31 (d, J = 6.3Hz, 6H).
【0141】
(実施例13)
バイオアレイで役に立つ神経剤類似体の化学合成。バイオマーカーの入手に役立つ神経剤類似体及び分子進化スクリーニングで役に立つ抗体として用いるOPの、エナンチオマー選択的合成を下で記載する。化合物は、実際の神経剤OPとして類似したリン酸化ChEを提供するように、しかし、それらがかなりより低毒性の類似体であるように設計した。したがって、類似体の投与により、同じ酵素付加物が得られる。
【化21】
【0142】
標的OP化学戦化合物の激しい毒性のために、構造類似性を保持するが毒性を低下させ、大規模な合成、取扱い及び生物学的試験の実際的な態様を可能にするために、神経剤類似体の修飾を設計した。所望の標的化合物(即ち、4〜13及びラセミ同等物1〜3)を化学合成して、高度精製ヒトブチリルコリンエステラーゼ(hBuChE)の阻害剤としてそれらを試験した。結果は本発明者らの手法の有効性を認め、標的化合物の毒性の可能性が、神経剤とより直接的に関係のある剤よりも著しく低いことを示す。これらのより低毒性の物質がインビトロ又はインビボで同じリン酸化酵素を提供するので、これは実用上の見地から実験室で並びに生体試料の最終的な入手において有用である。
【0143】
OP類似体を、ハプテン合成で用いた。本発明は、それらが模倣する5つの神経剤の異性体として純粋なOP類似体の合成に焦点を当てた。
【化22】
【0144】
化合物4〜13の両鏡像異性体を合成し、精製(>97%)することができた。異性体として純粋な化合物4〜11の合成を、スキーム14及び15で示す。
【化23】
【化24】
【0145】
二塩化ホスホノチオ酸メチルとエフェドリンとの反応でオキサザホスホリジンチオンのジアステレオマーの1つだけが他よりも形成されるので、Rp及びSpオキサザホスホリジンチオンの各々の高収率を得るために、(+)及び(-)の両方のエフェドリンを用いることが必要である。化合物12及び13の合成では、スキーム14及び15に示す合成にわずかな修飾を加えるが、それらをスキーム16及び17に示す。
【化25】
【化26】
【0146】
(2Rp,4S,5R)及び(2Sp,4S,5R)-トリメチル-5-フェニル-1,3,2-オキサザホスホリジン-2-チオン(15a及び15b)の合成。60mLトルエン中の7.04mLの二塩化ホスホノチオ酸メチル(67.1mmol)の溶液を、室温で、46mLのトリエチルアミン及び200mLのトルエン中の13.3gの(-)-エフェドリン(80.5mmol)の溶液に徐々に加えた。反応混合液を覆い、アルゴン下の室温で一晩攪拌し、次に、セライトを通してろ過し、ろ液を水及び塩水で洗浄した。有機層をNa2SO4で乾燥し、ろ過し、減圧下で濃縮した。未精製の生成物をフラッシュクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン 1:5、1:4)によって精製して、6.52g(40%)の支配的なジアステレオマー15aを得た。少ない方のジアステレオマー15bはずっと低い収率で単離され、通常、15aとの混合体として単離された。5a:白色固体;1H NMR (500MHz, CDCl3) δ 0.75 (d, J = 6.6Hz, 3H), δ 2.06 (d, J = 14.5Hz, 3H), δ 2.77 (d, J = 12.3Hz, 3H), δ 3.64 (m, 1H), δ 5.66 (dd, J = 6.1, 2.1Hz, 1H), δ 7.27 (m, 2H), 7.31 (m, 1H), δ 7.35 (m, 2H).15b:白色固体;1H NMR (500MHz, CDCl3) δ 0.83 (d, J = 6.5Hz, 3H), δ 1.96 (d, J = 14.2Hz, 3H), δ 2.69 (d, J = 12.7Hz, 3H), δ 3.63 (m, 1H), δ 5.48 (dd, J = 5.8, 3.3Hz, 1H), δ 7.32 (m, 1H), 7.37 (m, 4H).
【0147】
(2Sp,4R,5S)及び(2Rp,4R,5S)-トリメチル-5-フェニル-1,3,2-オキサザホスホリジン-2-チオン(20a及び20b)の合成。調製は、(+)-エフェドリンを用いること以外、先に述べたものと同じである。20a:白色固体;1H NMR (500MHz, CDCl3) δ 0.75 (d, J = 6.7Hz, 3H), δ 2.06 (d, J = 14.6Hz, 3H), δ 2.77 (d, J = 12.3Hz, 3H), δ 3.64 (m, 1H), δ 5.67 (dd, J = 6.0, 1.9Hz, 1H), δ 7.28 (m, 2H), δ 7.32 (m, 1H), δ 7.37 (m, 2H). 20b:白色固体; 1H NMR (500MHz, CDCl3) δ 0.84 (d, J = 6.5Hz, 3H), δ 1.96 (d, J = 14.2Hz, 3H), δ 2.69 (d, J = 12.7Hz, 3H), δ 3.63 (m, 1H), δ 5.48 (dd, J = 5.8, 3.3Hz, 1H), δ 7.32 (m, 1H), 7.37 (m, 4H).
【0148】
Rp及びSp-O-アルキルS-メチルメチルホスホノチオエートの合成のための一般調製。200mg(0.83mmol)の適当なオキサザホスホリジン-2-チオン、2mLのメチルエチルケトン及び1.5mLの適当なアルコールの溶液に、0.7mLのメチルエチルケトン中の0.7mLの塩化水素飽和アルコールの溶液を0℃で徐々に加え、室温まで暖めた。室温で2時間攪拌した後に、反応液を10mLの氷冷炭酸ナトリウム水(10%)でクエンチした。混合液を7.5mLの水及び12mLのエタノールで希釈し、次に、10% Pd/C(15mg)及びH2のバルーンを用いて水素化のために準備した。系を覆い、混合液を室温で一晩攪拌した。触媒をセライトによるろ過によって除去し、ろ液を減圧で濃縮してエタノールを除去した。残りの水層をエチルエーテルで十分に抽出し、クエン酸でpH4に酸性化し、イソプロピルアルコール及びクロロホルムの混合液(1:4)で再び抽出した。第2セットの抽出物をNa2SO4で乾燥し、ろ過し、濃縮して黄色の油を得た。未精製の物質は、分取TLCを通して精製した。各異性体のスペクトルデータは、同一である。
【0149】
(Sp)-O-イソプロピルS-メチルメチルホスホノチオエート(4)。一般的な調製を参照のこと。精製条件は、100%エーテルである。18mg単離 1HNMR (500MHz, CDCl3) δ l.32 (d, J = 6.1Hz, 3H), δ l.37 (d, J = 6.1Hz, 3H), δ l.75 (d, J = 15.4Hz, 3H), δ 2.29 (d, J = 12.9Hz, 3H), δ 4.8 (m 1H).
【0150】
(Rp)-O-イソプロピルS-メチルメチルホスホノチオエート(5)。一般的な調製を参照のこと。精製条件は、100%エーテルである。25mg単離 1HNMR (500MHz, CDCl3) δ l.32 (d, J = 6.1Hz, 3H), δ l.37 (d, J = 6.1Hz, 3H), δ l.75 (d, J = 15.4Hz, 3H), δ 2.29 (d, J = 12.9Hz, 3H), δ 4.8 (m 1H).
【0151】
(Sp)-O-シクロヘキシルS-メチルメチルホスホノチオエート(6)。一般的な調製を参照のこと。精製条件は、エーテル/ヘキサン4:1である。54mg単離 1H NMR (500MHz, CDCl3) δ l.23 (m, 1H), δ 1.36 (m, 2H), δ l.51-1.56 (m, 3H), δ l.72 (m, 2H), δ l.77 (d, J = 15.6Hz, 3H), δ l.92 (m, 1H), δ l.99 (m, 1H), δ 2.30 (d, J = 12.9Hz, 3H), δ 4.51 (m, 1H).
【0152】
(Rp)-O-シクロヘキシルS-メチルメチルホスホノチオエート(7)。一般的な調製を参照のこと。精製条件は、エーテル/ヘキサン4:1である。26mg単離 1H NMR (500MHz, CDCl3) δ l.23 (m, 1H), δ 1.36 (m, 2H), δ 1.51-1.56 (m, 3H), δ 1.72 (m, 2H), δ 1.77 (d, J = 15.6Hz, 3H), δ 1.92 (m, 1H), δ 1.99 (m, 1H), δ 2.30 (d, J = 12.9Hz, 3H), δ 4.51 (m, 1H).
【0153】
(Sp)-O-3,3-ジメチル-2-ブチルS-メチルメチルホスホノチオエート(8)。一般的な調製を参照のこと。精製条件は、エーテル/ジクロロメタン1:1である。27mg単離 1H NMR (500MHz, CDCl3) δ 0.91 (s, 12H), δ 1.36 (d, J = 6.37Hz, 3H), δ 1.78 (d, J = 15.6Hz, 3H), δ 2.33 (d, J = 12.9Hz, 3H), δ 4.3 (m, 1H).
【0154】
(Rp)-O-3,3-ジメチル-2-ブチルS-メチルメチルホスホノチオエート(9)。一般的な調製を参照のこと。精製条件は、エーテル/ジクロロメタン1:1である。12mg単離 1H NMR (500MHz, CDCl3) δ 0.91 (s, 12H), δ 1.36 (d, J = 6.37Hz, 3H), δ 1.78 (d, J = 15.6Hz, 3H), δ 2.33 (d, J = 12.9Hz, 3H), δ 4.3 (m, 1H).
【0155】
(Sp)-O-N,N-ジイソプロピルアミノエチルS-メチルメチルホスホノチオエート(10)。一般的な調製を参照のこと。精製条件は、100%エーテルである。9.6mg単離 1H NMR (500MHz, CDCl3) δ l.32 (d, J = 6.2Hz, 6H), δ 1.38 (d, J = 6.2Hz, 6H), δ 1.75 (d, J = 15.4Hz, 3H), δ 2.30 (d, J = 12.8Hz, 3H), δ 4.1-4.2 (m, 4H), δ 4.8 (m, 2H).
【0156】
(Rp)-O-N,N-ジイソプロピルアミノエチルS-メチルメチルホスホノチオエート(11)。一般的な調製を参照のこと。精製条件は、100%エーテルである。9.6mg単離 1H NMR (500MHz, CDCl3) δ 1.32 (d, J = 6.2Hz, 6H), δ 1.38 (d, J = 6.2Hz, 6H), δ 1.75 (d, J = 15.4Hz, 3H), δ 2.30 (d, J = 12.8Hz, 3H), δ 4.1-4.2 (m, 4H), δ 4.8 (m, 2H).
【0157】
(2S,4R,5S)-及び(2R,4R,5S)-2-クロロ-3,4-ジメチル-5-フェニル-1,3,2オキサザホスホリジン-2-チオン(24a及び24b)。25mLトルエン中の6.9g(41mmol)の塩化チオホスホリルの溶液に、150mLのトルエン中の8.6g(43mmol)(+)-エフェドリン、35mLのトリエチルアミンのスラリーを徐々に加え、室温で攪拌した。一晩室温で攪拌した後に、反応液を水に注ぎ、150mLの水で3回洗浄した。有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧で濃縮して黄色の油を得たが、それは、静置後固化した。未精製の物質をカラムクロマトグラフィー(シリカ9:1ヘキサン/酢酸エチル)により精製して、1.5gのSp異性体、並びに2.5gのSp及びRp異性体の95:5の混合物を得た。1HNMR (500MHz, CDCl3) Sp 異性体 δ 0.88 (d 3H), δ 2.92 (d 3H), δ 3.85 (見掛上、二重五重線 1H), δ 5.83 (d 1H), δ 7.3-7.5 (m 5H). Rp 異性体 δ 0.81 (d 3H), δ 2.73 (d 3H), δ 3.75 (見掛上、五重線 1H), δ 5.6 (見掛上、三重線 1H), δ 7.15-7.25 (m 5H).
【0158】
(2S,4R,5S)-2-(N,N-ジメチルアミノ)-3,4-ジメチル-5-フェニル-1,3,2オキサザホスホリジン-2-チオン(25a)。圧力管内の5mLの乾燥トルエン中の500mgの化合物24aの溶液に、無水のジメチルアミンを吹き込んだ。1分後、試験管を密封し、室温で攪拌した。4時間後、反応混合液をろ過し、5mLの水で2回洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧で乾燥させて、定量的な15を得た。未精製物質を、さらなる精製なしで用いた。1HNMR (500MHz, CDCl3) δ 0.76 (d 3H), δ 2.60 (d 3H), δ 2.93 (d 6H), δ 3.54 (見掛上、五重線 1H), δ 5.67 (d 1H), δ 7.27-7.37 (m 5H).
【0159】
(Sp)-O-エチルS-メチルN,N-ジメチルホスホラミドチオエート(12)。2mLの無水エタノール中の500mg(1.9mmol)の化合物25aの溶液に、2mLの塩化水素飽和無水エタノールの溶液を加えた。室温で2時間攪拌した後に、反応液を水酸化水でpH12に塩基性化し、室温で攪拌した。一晩攪拌した後に、反応混合液を20mLのエーテルで3回抽出し、次に過剰なヨウ化メチル(3mL)を加え、室温でさらに1時間攪拌した。反応液を水で希釈し、20mLのクロロホルムで4回抽出した。有機層を合わせ、15mLの水で3回洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、軽い減圧下で注意深く濃縮した。未精製物質を分取TLC、100%エーテルにより精製し、無色油を得た。1HNMR (500MHz, CDCl3) δ 1.34 (見掛上 t 3H), δ 2.24 (d, J = 14.2Hz, 3H), δ 2.74 (d, J = 10.91Hz, 6H), δ 4.12 (m 2H).
【0160】
(2R,4S,5R)-及び(2S,4S,5R)-2-クロロ-3,4-ジメチル-5-フェニル-1,3,2オキサザホスホリジン-2-チオン(28a及び28b)。25mLトルエン中の6.9g(41mmol)の塩化チオホスホリルの溶液に、150mLのトルエン中の8.6g(43mmol)(-)-エフェドリン、35mLのトリエチルアミンのスラリーを徐々に加え、室温で攪拌した。一晩室温で攪拌した後に、反応液を水に注ぎ、150mLの水で3回洗浄した。有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧で濃縮して黄色の油を得たが、それは、静置後固化した。未精製の物質をカラムクロマトグラフィー(シリカ9:1ヘキサン/酢酸エチル)により精製して、200mgのRp異性体、並びに1.5gのRp及びSp異性体の95:5の混合物を得た。1HNMR (500MHz, CDCl3) Rp 異性体 δ 0.88 (d 3H), δ 2.92 (d 3H), δ 3.85 (見掛上、二重五重線 1H), δ 5.83 (d 1H), δ 7.3-7.5 (m 5H). Sp 異性体 δ 0.81 (d 3H), δ 2.73 (d 3H), δ 3.75 (見掛上、五重線 1H), δ 5.6 (見掛上、三重線 1H), δ 7.15-7.25 (m 5H).
【0161】
(2R,4S,5R)-2-(N,N-ジメチルアミノ)-3,4-ジメチル-5-フェニル-1,3,2オキサザホスホリジン-2-チオン(29a)。圧力管内の2mLの乾燥トルエン中の200mgの化合物28aの溶液に、無水のジメチルアミンを吹き込んだ。1分後、試験管を密封し、室温で攪拌した。4時間後、反応混合液をろ過し、5mLの水で2回洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧で乾燥させて、定量的な20aを得た。未精製物質を、さらなる精製なしで用いた。1HNMR (500MHz, CDCl3) δ 0.76 (d 3H), δ 2.60 (d 3H), δ 2.93 (d 6H), δ 3.54 (見掛上、五重線 1H), δ 5.67 (d 1H), δ 7.27-7.37 (m 5H).
【0162】
(Rp)-O-エチルS-メチルN,N-ジメチルホスホラミドチオエート13。2mLの無水エタノール中の200mg(1.9mmol)の化合物29aの溶液に、2mLの塩化水素飽和無水エタノールの溶液を加えた。室温で2時間攪拌した後に、反応液を水酸化水でpH12に塩基性化し、室温で攪拌した。一晩攪拌した後に、反応混合液を20mLのエーテルで3回抽出し、次に過剰なヨウ化メチル(3mL)を加え、室温でさらに1時間攪拌した。反応液を水で希釈し、20mLのクロロホルムで4回抽出した。有機層を合わせ、15mLの水で3回洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、軽い減圧下で注意深く濃縮した。未精製物質を分取TLC、100%エーテルにより精製し、無色油を得た。1HNMR (500MHz, CDCl3) δ 1.34 (見掛上 t 3H), δ 2.24 (d, J = 14.2Hz, 3H), δ 2.74 (d, J = 10.91Hz, 6H), δ 4.12 (m 2H).
【0163】
合成神経剤類似体及びヒトブチリルコリンエステラーゼの阻害動態。ヒトBuChEの阻害の時間依存的動態を、実施例8に記載のように高度精製ヒトBuChEと共に試験した。速度定数を、下の表10に記載する。
【0164】
【表10】
【0165】
予想通りに、これらの剤はエコチオフェートよりも著しく弱い阻害剤である。サリン類似体及びGF類似体のSp鏡像異性体がRp鏡像異性体よりも強力なヒトBuChE阻害剤であることは、注目に値する。このことは、文献で報告される、他の有機リン化合物によるヒトBuChEの阻害の立体選択性と一致する。これは、インビトロ及びインビボ研究のために様々な特性を有することができる剤を得る本発明者らの全体戦略の、有益な特徴となり得る。インビトロ又はインビボでのChe又はアルブミンによる化合物1〜13(表10)の処理は、アレイバイオセンサーで用いる抗体を入手するために用いる、リン酸化されたタンパク質又はペプチドを生成させる。
【0166】
(実施例14.神経剤のChE-有機リンホスホン酸エステルに対する抗体の調製及び試験)
OP化合物の急性毒作用は、必須のセリンヒドロキシルとの反応によってAChEを阻害して比較的安定したホスホセリンエステル結合を形成するそれらの能力とよく相関する。OPとChEとのコンジュゲート体は、機構、付加物構造に関する情報及び潜在的に毒性の予後のきわめて感度の高い選択指標の役目を果たすことができる。同様に、リン酸化アルブミン(即ち、Tyr411)は、OP又は農薬への曝露の高感度のマーカーの役目を果たすことができる。酵素を変性させて活性部位を抗体に曝露させることによってリン酸化されたChE又はアルブミンを識別するために、抗体が開発され、使用されてきた。以前は、抗体は、ChE構造及び触媒活性に対するアロステリーの探索のために用いられてきた。特定のOP化合物によって与えられる正確な修飾に基づく個々のOP-ChE又はOP-アルブミンコンジュゲート体を特異的に認識するために、選択的な抗体が作製される。このことは、曝露の間又は後にOPの相対的な毒性の可能性を確認することにおいて、多大な診断価値を有するであろう。本発明者らは、神経剤のOP-Che又はOP-アルブミンコンジュゲート体に対応する有機リン酸化されたセリン又はチロシンのオクタペプチドを化学的に合成した。ハプテンを入手すると、ポリクローナル又はモノクローナル抗体が手に入る。異なる種からのOP-ChE不活化酵素又はOP-アルブミンの選択的な認識を調査する。抗血清認識は、酵素阻害、加齢及びオキシム誘発再活性化の速度と相関する。抗体は、生体試料での化学曝露の選択的分類のために、リン酸化アルブミン及び他のリン酸化タンパク質を含む一群のChEバイオマーカーで用いられる。抗体は、野外使用可能で効率的な神経剤OP及び他のOP様物質のバイオセンサーを作製するために、アレイバイオセンサー内に置かれる。
【0167】
ハプテンの合成。必要な有機リン酸化セリン又はチロシンのオクタペプチドの化学合成は、Fmocセリン又はチロシンの選択的エステル化から始まる。化合物1〜13(実施例13)を調製し、必要な保護された有機リン酸化セリン(スキーム18)を提供するために、分取規模(100mg)でFmocセリンにより処理するために用いる。
【化27】
R=-CH(CH3)2;-CHCH3C(CH3)3;-シクロヘキシル;-CH2CH2N[CH(CH3)2]2;及び対応するタブン類似体。
【0168】
S-アルキルメチルホスホノチオエートの求核置換は、必要なナトリウムアルコキシド、又はアルコール中の臭素及びアルコール中の硝酸銀を用いてなされる。アルコキシド及びAgNO3/ROH反応はリンで配置の約80%の転位を与えたが、Br2/ROHを用いる置換反応は配置の100%の転位を提供した。臭素で促進した置換は、通常、速く、収率が高い。しかし、特定の立体配置的に混雑した状況では、臭素で促進したアルコーリシスが、優勢な立体配置保持で起こることができるとも報告されている。高収率を達成するのに、カルボキシレートの保護が必要なことがある。或いは、Br2/Fmoc-セリン又は-チロシン反応を用いる。この反応が良好な収率を与えない場合は、改変を加える。化合物1〜13(実施例13)のメタクロロ過安息香酸(MCPBA)による酸化的活性化が、求核試薬によって速やかに攻撃されるS-オキシドを形成することがNMR実験によって観察された。したがって、化合物1〜13(実施例13)のS-オキシドの処理及び極微量の水の添加は、対応するアルコール(LCMSによって判断される)を速やかに定量的に形成し、S-(O)-CH3基はOH基によって置換される。1.2当量のMCPBA/CHCl2の存在下での4℃で5分間の化合物1〜13(実施例13)の処理と、その後の1当量のFmocSerの添加も、OPとコンジュゲートした所望のFmocセリン又はチロシンを効率的に生成する。通常のオクタペプチド合成へのOPとコンジュゲートしたFmocセリン又はチロシンの組込みは、免疫感作研究で用いる、必要とされるOPとコンジュゲートしたデカペプチドを提供する。
【0169】
Che又はアルブミンの活性部位有機リン酸化セリンに対する抗血清。ヒト、霊長類及びラットのAChE、並びにヒト、霊長類及びラットのBuChEについては、セリン活性部位のいずれかの側の5個のアミノ酸は同じである(即ち、TLFGESAGAAS)(配列番号11)である。情報に基づき、OP-コンジュゲート-選択的抗血清を開発するために、デカペプチドLFGESAGAAC(配列番号12)を用いる。抗血清入手のために、ヒトアルブミン(YKFQNALLVRYTKKVPQV)(配列番号13)、ラットアルブミン(YGFQNAILVRYTQKAPQV)(配列番号14)及びマウスアルブミン(YGFQNAILVRYTQKAPQV)(配列番号15)ペプチドの部分配列を同様に用いる。付加されたタンパク質も、直接用いることができる。末端セリンの、システイン又は含硫黄リンカーによる置換が重要である。これは、バイオセンサーに対する必要な結合化学を可能にする(下で述べる)。このデカペプチドの全面的な使用は、資源を保存し(AChE及びBuChEの両方に有用であるので)、抗血清のより大きな有用性を可能にする。以下、ChEは両方の酵素(及び、類似性からアルブミン)を表す。10S及び10SPの記号は、非リン酸化及びリン酸化のデカペプチドを指す。抗ChE10S及び抗ChE10SP抗血清は、前述のように、ウサギをキーホールリンペットヘモシニアンとコンジュゲートしたChE10S及びChE10SPペプチドで免疫感作することによって生成される。OPとコンジュゲートしたペプチド(ChE10SP)及び天然若しくはコンジュゲートしていないペプチド(ChE10S)の両方からの抗血清に対照の役目を果たさせることが、重要である。コンジュゲーションは、標準手順によってなされる。ウサギは、民間の研究室によって標準手順を用いて免疫感作される。必要なペプチドは、ChE10SPデカペプチドが神経剤1〜13(実施例13)から生じる同じOPコンジュゲート体を含有することを除いて、上記の標準手順によって合成される。抗血清は、DEAE Affi-ゲルブルーカラム上で、クロマトグラフィーによって精製される。OPとコンジュゲートしたデカペプチドは、Cysを通してAffi-ゲル15ビーズに結合され、抗血清はこれらのビーズによって精製される。特異性の低い抗血清は1MのNaSCNで溶離し、デカペプチド特異分画(1Mグリシン-HClで溶出し、直ちにpH8に緩衝処理する)は、特異抗体を確認するためにELISAによって分析する。ウェスタンブロットは、上記のように実行する。
【0170】
抗血清の特異性を特徴づけるために、ラット、霊長類及びヒトのAChE及びBuChE又はアルブミンを、0.5mMの神経剤類似体1〜13(実施例13)又は溶媒THFで、4℃で2時間、又は、エルマン比色法に基づき酵素活性が1〜2%に低下するまで処理する。酵素は、動物血清又は組換え源から親和精製する。組換えHuChE及び霊長類BuChEは本発明者らの研究室で利用でき、ラットBuChEはラット血清から精製される。AChEは、動物血液細胞膜から精製される。阻害される酵素は、変性ゲルによるイムノブロットによって分析する。同等の認識が存在し、酵素の統合性が存在することを示すために、陽性対照として、イムノブロットをポリクローナル抗ChE抗血清で探索する。特異性を示すために、様々なOPコンジュゲート型酵素及び非コンジュゲート型酵素の間の競合実験をOP選択的抗血清で試験する。これにより、抗ChE10SPがOPコンジュゲート型セリンに特異的であり、さらに、コンジュゲートしたOPの型にも特異的であるとの本発明者らの仮説を検定する。処理の影響を比較し、等量のタンパク質を含有する各処理条件からの試料を、単一のゲル及びイムノブロットの中で試験する。抗ChE1OSP抗血清及び対照抗血清で標識したタンパク質バンドの強度の変化を、各抗血清について線形範囲内で定量化するために、濃度測定分析を用いる。体液又は環境試料中のOP曝露の選択的プローブとしてOP誘導体化Chefを検出するために、アレイバイオセンサーで抗血清を用いる。
【0171】
本明細書で引用されているすべての刊行物及び特許出願は、各個々の刊行物又は特許出願が参照により組み込まれていることが具体的に、個々に示されているかのように、参照により本明細書に組み込まれる。前述の発明を、理解の明快さの目的のために例証として及び例として多少詳細に記載してきたが、添付の請求項の精神及び範囲を逸脱しない範囲で特定の変更及び修正をそれに加えることができることは、本発明の教示に照らし、当業者にとって容易に明らかであろう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブチリルコリンエステラーゼ(BchE)を有機リン酸剤、乱用薬物、ゲルビシド又は農薬と接触させることを含む、解毒のための方法。
【請求項2】
前記接触がインビボで起こる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記接触がインビトロで起こる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記有機リン酸剤がサリン、ソマン、GF、タブン及びVXからなる群から選択される神経剤である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記有機リン酸剤が化合物1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12及び13からなる群から選択される化合物である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記乱用薬物がコカインである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
ブチリルコリンエステラーゼ(BchE)活性について化合物をスクリーニングする方法であって、
a)BchEを化合物と一緒にインキュベートする工程;及び
b)前記化合物の生物学的又は薬理学的活性の指標としてBchEの阻害を検出する工程
を含む、前記方法。
【請求項8】
前記BchEがアカゲザルBchE又はその変異体である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記化合物が化合物1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12及び13からなる群から選択される、請求項7記載の方法。
【請求項10】
ベクターにおいてBchEの突然変異ライブラリーを作製する方法。
【請求項11】
前記ベクターがpENTRA又はアデノウイルスベクターである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記BchEがアカゲザルBchE又はその変異体である、請求項10記載の方法。
【請求項13】
前記BchEがヒトBchE又はその変異体である、請求項10記載の方法。
【請求項14】
前記BchEがアカゲザルBchEとヒトBchE又はそれらの変異体との混合物である、請求項10記載の方法。
【請求項15】
アデノウイルス粒子にBchEの突然変異ライブラリーを詰め込むことによって哺乳動物細胞を組換えアデノウイルスに感染させる方法。
【請求項16】
前記BchEがアカゲザルBchE又はその変異体である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記BchEがヒトBchE又はその変異体である、請求項15記載の方法。
【請求項18】
前記BchEがアカゲザルBchEとヒトBchE又はそれらの変異体との混合物である、請求項15記載の方法。
【請求項19】
請求項9記載の感染哺乳動物細胞の培地中でのBchE発現を検出する方法であって、
a)感染後の培地を収集する工程;及び
b)該培地中でのBchE活性を分析する工程
を含む、前記方法。
【請求項20】
前記BchE活性がエルマン法又はウェスタンブロット分析を用いて分析される、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記BchEがアカゲザルBchE又はその変異体である、請求項19記載の方法。
【請求項22】
前記BchEがヒトBchE又はその変異体である、請求項19記載の方法。
【請求項23】
前記BchEがアカゲザルBchEとヒトBchE又はそれらの変異体との混合物である、請求項19記載の方法。
【請求項24】
BchEを発現する原核細胞又は真核細胞でBchEを検出する方法であって、
a)化合物1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12及び13からなる群から選択される有機リン化合物の存在下でアガロース含有培地を細胞に重層する工程;
b)工程(a)の混合物を様々な時間でインキュベートする工程;及び
c)ヨウ化ブチリルチオコリン及びDTNBの存在下で重層アガロース含有緩衝液中のBchE活性を検出する工程
を含む、前記方法。
【請求項25】
前記BchEがアカゲザルBchE又はその変異体である、請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記BchEがヒトBchE又はその変異体である、請求項24記載の方法。
【請求項27】
前記BchEがアカゲザルBchEとヒトBchE又はそれらの変異体との混合物である、請求項24記載の方法。
【請求項28】
BchEを発現する原核細胞又は真核細胞によりBchEを検出する方法であって、
a)神経剤又は農薬の存在下でアガロース含有培地を細胞に重層する工程;
b)工程(a)の混合物を様々な時間でインキュベートする工程;及び
c)ヨウ化ブチリルチオコリン及びDTNBを含有する重層アガロース含有緩衝液中のBchE活性を検出する工程
を含む、前記方法。
【請求項29】
前記BchEがアカゲザルBchE又はその変異体である、請求項28記載の方法。
【請求項30】
前記BchEがヒトBchE又はその変異体である、請求項28記載の方法。
【請求項31】
前記BchEがアカゲザルBchEとヒトBchE又はそれらの変異体との混合物である、請求項28記載の方法。
【請求項32】
BchEの前記細胞発現が請求項15記載の組換えウイルス感染に由来する、請求項24又は28記載の方法。
【請求項33】
BchEを発現する組換えウイルスを単離する方法であって、請求項24記載の工程、選択的に染色された黄色スポットからアガロースプラグを抜き取る工程、及び該プラグを滅菌培地に移す工程を含む、前記方法。
【請求項34】
請求項33記載の単離プラグを特徴づける方法であって、プラグと一緒にインキュベートした培地で細胞を感染させる工程、及び請求項19、24又は28のいずれか一項記載の方法を用いてBchE発現をモニターする工程をさらに含む、前記方法。
【請求項35】
請求項33記載の単離プラグから個々の組換えウイルスを精製する方法であって、培地を連続希釈する工程、請求項15記載の希釈培地で細胞を感染させる工程、請求項32記載のBchEを検出する工程、及び請求項33記載の個々の染色プラグを単離する工程を含む、前記方法。
【請求項36】
アデノウイルスベクター及び/又はBchE遺伝子特異プライマーを用いる、前記プラグと一緒にインキュベートした培地由来の組換えウイルスによってコードされるBchE遺伝子のPCR増幅によって、請求項33又は35記載の単離プラグを特徴づける方法。
【請求項37】
アカゲザルブチリルコリンエステラーゼ(RhBchE)突然変異体及びその断片をコードする、単離及び精製されたDNA。
【請求項38】
OP剤、乱用薬物、ゲルビシド又は農薬の検出で用いる、アレイバイオセンサー。
【請求項1】
ブチリルコリンエステラーゼ(BchE)を有機リン酸剤、乱用薬物、ゲルビシド又は農薬と接触させることを含む、解毒のための方法。
【請求項2】
前記接触がインビボで起こる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記接触がインビトロで起こる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記有機リン酸剤がサリン、ソマン、GF、タブン及びVXからなる群から選択される神経剤である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記有機リン酸剤が化合物1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12及び13からなる群から選択される化合物である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記乱用薬物がコカインである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
ブチリルコリンエステラーゼ(BchE)活性について化合物をスクリーニングする方法であって、
a)BchEを化合物と一緒にインキュベートする工程;及び
b)前記化合物の生物学的又は薬理学的活性の指標としてBchEの阻害を検出する工程
を含む、前記方法。
【請求項8】
前記BchEがアカゲザルBchE又はその変異体である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記化合物が化合物1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12及び13からなる群から選択される、請求項7記載の方法。
【請求項10】
ベクターにおいてBchEの突然変異ライブラリーを作製する方法。
【請求項11】
前記ベクターがpENTRA又はアデノウイルスベクターである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記BchEがアカゲザルBchE又はその変異体である、請求項10記載の方法。
【請求項13】
前記BchEがヒトBchE又はその変異体である、請求項10記載の方法。
【請求項14】
前記BchEがアカゲザルBchEとヒトBchE又はそれらの変異体との混合物である、請求項10記載の方法。
【請求項15】
アデノウイルス粒子にBchEの突然変異ライブラリーを詰め込むことによって哺乳動物細胞を組換えアデノウイルスに感染させる方法。
【請求項16】
前記BchEがアカゲザルBchE又はその変異体である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記BchEがヒトBchE又はその変異体である、請求項15記載の方法。
【請求項18】
前記BchEがアカゲザルBchEとヒトBchE又はそれらの変異体との混合物である、請求項15記載の方法。
【請求項19】
請求項9記載の感染哺乳動物細胞の培地中でのBchE発現を検出する方法であって、
a)感染後の培地を収集する工程;及び
b)該培地中でのBchE活性を分析する工程
を含む、前記方法。
【請求項20】
前記BchE活性がエルマン法又はウェスタンブロット分析を用いて分析される、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記BchEがアカゲザルBchE又はその変異体である、請求項19記載の方法。
【請求項22】
前記BchEがヒトBchE又はその変異体である、請求項19記載の方法。
【請求項23】
前記BchEがアカゲザルBchEとヒトBchE又はそれらの変異体との混合物である、請求項19記載の方法。
【請求項24】
BchEを発現する原核細胞又は真核細胞でBchEを検出する方法であって、
a)化合物1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12及び13からなる群から選択される有機リン化合物の存在下でアガロース含有培地を細胞に重層する工程;
b)工程(a)の混合物を様々な時間でインキュベートする工程;及び
c)ヨウ化ブチリルチオコリン及びDTNBの存在下で重層アガロース含有緩衝液中のBchE活性を検出する工程
を含む、前記方法。
【請求項25】
前記BchEがアカゲザルBchE又はその変異体である、請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記BchEがヒトBchE又はその変異体である、請求項24記載の方法。
【請求項27】
前記BchEがアカゲザルBchEとヒトBchE又はそれらの変異体との混合物である、請求項24記載の方法。
【請求項28】
BchEを発現する原核細胞又は真核細胞によりBchEを検出する方法であって、
a)神経剤又は農薬の存在下でアガロース含有培地を細胞に重層する工程;
b)工程(a)の混合物を様々な時間でインキュベートする工程;及び
c)ヨウ化ブチリルチオコリン及びDTNBを含有する重層アガロース含有緩衝液中のBchE活性を検出する工程
を含む、前記方法。
【請求項29】
前記BchEがアカゲザルBchE又はその変異体である、請求項28記載の方法。
【請求項30】
前記BchEがヒトBchE又はその変異体である、請求項28記載の方法。
【請求項31】
前記BchEがアカゲザルBchEとヒトBchE又はそれらの変異体との混合物である、請求項28記載の方法。
【請求項32】
BchEの前記細胞発現が請求項15記載の組換えウイルス感染に由来する、請求項24又は28記載の方法。
【請求項33】
BchEを発現する組換えウイルスを単離する方法であって、請求項24記載の工程、選択的に染色された黄色スポットからアガロースプラグを抜き取る工程、及び該プラグを滅菌培地に移す工程を含む、前記方法。
【請求項34】
請求項33記載の単離プラグを特徴づける方法であって、プラグと一緒にインキュベートした培地で細胞を感染させる工程、及び請求項19、24又は28のいずれか一項記載の方法を用いてBchE発現をモニターする工程をさらに含む、前記方法。
【請求項35】
請求項33記載の単離プラグから個々の組換えウイルスを精製する方法であって、培地を連続希釈する工程、請求項15記載の希釈培地で細胞を感染させる工程、請求項32記載のBchEを検出する工程、及び請求項33記載の個々の染色プラグを単離する工程を含む、前記方法。
【請求項36】
アデノウイルスベクター及び/又はBchE遺伝子特異プライマーを用いる、前記プラグと一緒にインキュベートした培地由来の組換えウイルスによってコードされるBchE遺伝子のPCR増幅によって、請求項33又は35記載の単離プラグを特徴づける方法。
【請求項37】
アカゲザルブチリルコリンエステラーゼ(RhBchE)突然変異体及びその断片をコードする、単離及び精製されたDNA。
【請求項38】
OP剤、乱用薬物、ゲルビシド又は農薬の検出で用いる、アレイバイオセンサー。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【公表番号】特表2009−539376(P2009−539376A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−514357(P2009−514357)
【出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【国際出願番号】PCT/US2007/013333
【国際公開番号】WO2007/146003
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(506392861)ヒューマン バイオモレキュラル リサーチ インスティテュート (5)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【国際出願番号】PCT/US2007/013333
【国際公開番号】WO2007/146003
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(506392861)ヒューマン バイオモレキュラル リサーチ インスティテュート (5)
【Fターム(参考)】
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