説明

エタノール及びブタノール生成能が増加した遺伝子組換え微生物及びこれを利用したエタノール及びブタノール製造方法

本発明はエタノール及びブタノール生成能が増加した遺伝子組換え微生物及びこれを利用したエタノール及びブタノール製造方法に関し、より具体的には、CoAトランスフェラーゼをコードする遺伝子及びアルコール/アルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子が導入されている、エタノール及びブタノール生成能が増加した遺伝子組換え微生物及び前記遺伝子組換え微生物を利用して、エタノール及びブタノールを製造する方法に関する。微生物の代謝経路の操作によって取得された本発明に係わる遺伝子組換え微生物は他の副産物なしにブタノールとエタノールだけを高効率で生成できて、産業溶剤及び輸送燃料生成微生物として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエタノール及びブタノール生成能が増加した遺伝子組換え微生物及びこれを利用したエタノール及びブタノール製造方法に関し、より具体的には、CoAトランスフェラーゼをコードする遺伝子及びアルコール/アルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子が導入されている、エタノール及びブタノール生成能が増加した遺伝子組換え微生物及び前記遺伝子組換え微生物を利用して、エタノール及びブタノールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エタノールとブタノールは現在、産業用溶媒として巨大な市場を形成しており、将来自動車などの輸送燃料として使用できる可能性が現実化してきており、持続的な需要増加が予想されている。
【0003】
エタノール(COH)は従来から澱粉や糖類を発酵させる方法で製造され、現在、酒類の多くはこの方法で製造している。しかし、現在、酒類製造を除いては石油から得たエチレン(エテン)を原料とする合成法でエチレンを硫酸に吸収させて、エタノールの硫酸エステルを作った後、これをさらに加水分解してジエチルエーテルと共に得る方法(硫酸加水法)と、気相でエチレンを、固体燐酸触媒を用いて接触的に水蒸気と反応させることによって、直接エタノールを合成する方法(直接水和法)で製造している。このような方法は、根本的に石油を原料でしているという点と、硫酸加水法の場合、大量の硫酸を濃縮して循環させるため、大掛かりな設備を必要とする点が問題になっている。
【0004】
一方、ブタノール(COH)の全世界生の産量は約百十万トン/年と推定される。現在市販されるブタノールは全て化学的合成により生産されたものである。ブタノールの化学合成法もエタノール同様に石油を原料としており、これから得られたプロピレンから合成されるオキソ法(oxo process)が使われる。このような石油を原料として、高温高圧を使う方法は、エタノールのように、コストとエネルギー面で非効率的である(Tsuchida et al., Ind. Eng.Chem. Res., 45:8634, 2006)。即ち、石油化学を利用したエタノールとブタノールの生産は製造時に多量の有害性廃棄物、廃溶液及び廃ガス(一酸化炭素含む)を排出する問題を有し、特に化石原料を基礎物質として使うという限界がある。
【0005】
上述したように、今まで生産されていたブタノールの場合、化学合成法によって殆ど生産されており、オイル価格上昇と環境問題などで世界各国ではバイオエタノール及びブタノールの研究に対する関心が急激に高まっているものの、未だにバイオエタノール及びバイオブタノールだけを効率的に生産した例はなかった。
【0006】
ブタノール及びエタノールの場合、今まで発酵によって生産した例は殆どクロストリジウムを利用して生産されたもので、ベクターにadc(アセト酢酸脱炭酸酵素)、ctfA(CoA伝達酵素A)及びctfB(CoA伝達酵素B)の三つの遺伝子を入れてadcのプロモーターを使って人為的オペロンを作製して、プラスミドを調整する。このプラスミド(pFNK6)をクロストリジウム・アセトブチリカムATCC824菌株に導入させて、野生型に比べて、アセトン、ブタノール及びエタノールの生産性を各々95%、37%及び90%増加させた例がある(Mermelstein et al., Biotechnol. Bioeng., 42:1053, 1993)。また、aad(アルコール/アルデヒド脱水素酵素)をクローニングした後、過発現させて野生型と比較した結果、アセトンの生成量に比べて、ブタノール及びエタノールの生成量が高く示された例(Nair et al., J. Bacteriol., 176:871, 1994)がある。この他に遺伝子の機能を不活性化させる方法でbuk(酪酸燐酸化酵素)とpta(燐酸化酢酸伝達酵素)を不活性化させた例があるが、buk遺伝子を不活性化した菌株(PJC4BK)をpH5.0以上で発酵した結果、ブタノール生産量が16.7g/Lまでかなり増加すると報告された(Harris et al., Biotechnol. Bioeng., 67:1, 2000)。しかし、pta不活性化の場合は野生型と比較した時、溶媒生産において有意な差を見せることができないと報告された(Harris et al., Biotechnol. Bioeng., 67:1, 2000)。また、無作為突然変異で誘発された突然変異株Clostridium beijerinckii BA101菌株を利用して、炭素原としてマルトデキストリン(maltodextrins)を使った発酵の結果、18.6g/Lのブタノールが生産されることを報告した例もある(Ezeji et al., Appl. Microbiol. Biotechnol., 63:653, 2004)。しかし、前記のこのような結果は全てブタノール及びエタノールが副産物であるアセトンと共に生成される例で、アセトンの特性のためにアセトンを除去しないまま燃料として使用できないという大きい短所がある。
【0007】
アセトン生成なしに、エタノールとブタノールを生成した例として、adc(アセト酢酸脱炭酸酵素の遺伝子)、ctfA(CoA伝達酵素Aの遺伝子)、ctfB(CoA伝達酵素Bの遺伝子)及びaad(アルコール/アルデヒド脱水素酵素の遺伝子)活性に共に欠陥があるクロストリジウム・アセトブチリカム突然変異株にaad(アルコール/アルデヒド脱水素酵素)を導入した遺伝子組換え変移微生物を利用した例があるが、ブタノールとエタノールの最終濃度が各々84mMと8mM(Nair et al., J. Bacteriol., 176:5843, 1994)で生産性が低い短所がある。また、クロストリジウム・アセトブチリカムの遺伝子を含有する遺伝子組換えベクターを大腸菌に導入して、ブタノールを生成した例(Shota et al., Metab. Eng., In Press, 2007)があるが最大ブタノール生成濃度が552mg/Lで非常に低く、産業的利用が不可能である。
【0008】
従って、当業界ではアセトンのような副産物の生成なしに燃料として利用可能なブタノールまたはエタノール/ブタノール混合物を高効率で生産できる微生物開発が切に求められている。
【0009】
そこで、本発明者らはエタノール及びブタノール合成経路(図1)を基に高い収率でエタノールとブタノールを他の副産物なしに製造できる微生物を開発するために努力した結果、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)ATCC824由来の酢酸及びブチル酸を、それぞれアセチルCoA(acetyl CoA)及びブチリルCoA(butyryl CoA)に転換するCoAトランスフェラーゼをコードする遺伝子(ctfAB)と、アセチルCoA及びブチリルCoAを、それぞれエタノール及びブタノールに転換するアルコール/アルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(adhE1)をクローニングし、有機溶剤を生産できない宿主微生物に導入させて、遺伝子組換え微生物を作製し、前記遺伝子組換え微生物がエタノールとブタノールは高濃度で生産する一方、副産物であるアセトンは殆ど生産しないを確認して本発明の完成に至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、他の副産物の生産なしにブタノールまたはエタノール/ブタノールを高効率で生産する遺伝子組換え微生物及びその製造方法を提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、前記遺伝子組換え微生物を利用したエタノール及びブタノールの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を解決するために、本発明はアセチルCoA(acetyl CoA)からブチリルCoA(butyryl CoA)への生合成経路に関与する酵素をコードする遺伝子を持っている宿主微生物に酢酸及びブチル酸を、それぞれアセチルCoA(acetyl CoA)及びブチリルCoA(butyryl CoA)に転換する酵素をコードする遺伝子及び/またはアセチルCoA(acetyl CoA)及びブチリルCoA(butyryl CoA)を、それぞれエタノール及びブタノールに転換する酵素をコードする遺伝子を導入することを含むエタノール及びブタノール生成能が増加した遺伝子組換え微生物の製造方法を提供する。
【0013】
本発明はまた、アセチルCoA(acetyl CoA)からブチリルCoA(butyryl CoA)への生合成経路に関与する酵素をコードする遺伝子を持っている宿主微生物に酢酸及びブチル酸を、それぞれアセチルCoA(acetyl CoA)及びブチリルCoA(butyryl CoA)に転換する酵素をコードする遺伝子及び/またはアセチルCoA(acetyl CoA)及びブチリルCoA(butyryl CoA)を、それぞれエタノール及びブタノールに転換する酵素をコードする遺伝子が導入または増幅されていることを特徴とするエタノール及びブタノール生成能が増加した遺伝子組換え微生物を提供する。
【0014】
本発明はまた、前記遺伝子組換え微生物を培養する段階及び前記培養液からエタノール及び/またはブタノールを回収する段階を含むエタノール及び/またはブタノールの製造方法を提供する。
【0015】
本発明の他の特徴及び具現例は次の詳細な説明及び添付された特許請求範囲からより一層明白になるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】エタノール及びブタノール生産能力がない退化(degeneration)されたクロストリジウム・アセトブチリカム菌株の代謝回路(A)と前記退化した菌株にctfABとadhE1を導入して、製造された遺伝子組換え菌株のエタノールとブタノール合成代謝経路(B)を示す模式図である。
【図2】ctfABとadhE1を含む遺伝子組換えベクターpIMP1::adhE1.ctfABの遺伝子地図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明ではエタノール及びブタノール合成経路(図1)を基にアセトンなど他の副産物の生成なしに高い収率でエタノール/ブタノールを製造できる微生物を開発するため、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)ATCC824由来の酢酸及びブチル酸を、それぞれアセチルCoA(acetyl CoA)及びブチリルCoA(butyryl CoA)に転換するCoAトランスフェラーゼをコードする遺伝子(ctfAB)と、アセチルCoA及びブチリルCoAを、それぞれエタノール及びブタノールに転換するアルコール/アルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(adhE1)をクローニングし、前記遺伝子をアセチルCoA(acetyl CoA)からブチリルCoA(butyryl CoA)への生合成経路に関与する酵素をコードする遺伝子を持っており、アセトンのような有機溶剤を生成できない宿主微生物に導入させて、遺伝子組換え微生物を作製した。
【0018】
従って、本発明はアセチルCoA(acetyl CoA)からブチリルCoA(butyryl CoA)への生合成経路に関与する酵素をコードする遺伝子を持っている宿主微生物に酢酸及びブチル酸を、それぞれアセチルCoA(acetyl CoA)及びブチリルCoA(butyryl CoA)に転換する酵素をコードする遺伝子及び/またはアセチルCoA(acetyl CoA)及びブチリルCoA(butyryl CoA)を、それぞれエタノール及びブタノールに転換する酵素をコードする遺伝子を導入することを特徴とするエタノール及びブタノール生成能が増加した遺伝子組換え微生物の製造方法及び前記方法によって製造された、アセチルCoA(acetyl CoA)からブチリルCoA(butyryl CoA)への生合成経路に関与する酵素をコードする遺伝子を持っている宿主微生物に酢酸及びブチル酸を、それぞれアセチルCoA(acetyl CoA)及びブチリルCoA(butyryl CoA)に転換する酵素をコードする遺伝子及び/アセチルCoA(acetyl CoA)及びブチリルCoA(butyryl CoA)を、それぞれエタノール及びブタノールに転換する酵素をコードする遺伝子が導入または増幅されていることを特徴とするエタノール及びブタノール生成能が増加した遺伝子組換え微生物に関する。
【0019】
本発明で「増幅」とは、該当遺伝子の一部塩基を変異、置換または欠失させたり、一部塩基を挿入させたり、または同じ酵素をコードする他の微生物由来の遺伝子を導入させて、対応する酵素の活性を増加させることを含む概念である。
本発明において、前記アセチルCoA(acetyl CoA)からブチリルCoA(butyryl CoA)への生合成経路は、[アセチルCoA-->アセトアセチルCoA-->3−ヒドロキシブチリルCoA-->クロトニルCoA-->ブチリルCoA(acetyl CoA --> acetoacetyl CoA --> 3-hydroxybutyryl CoA --> crotonyl CoA --> butyryl CoA)]であることを特徴とする。
【0020】
本発明において、前記宿主微生物は、好ましくはアセトン生合成経路が遮断されて、アセトン生成量が全体有機溶剤生産量の10%未満であることを特徴とする。前記アセトン生合成経路はadc(アセト酢酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子)を欠失してもよいが、これに限定されるのではない。また、前記宿主微生物は、好ましくはクロストリジウム属由来であることを特徴とするが、アセチルCoA(acetyl CoA)からブチリルCoA(butyryl CoA)への生合成経路を持っている限りこれに限定されるのではない。
【0021】
本発明において、酢酸及びブチル酸を、それぞれアセチルCoA(acetyl CoA)及びブチリルCoA(butyryl CoA)に転換する酵素は、好ましくはCoAトランスフェラーゼであり、前記CoAトランスフェラーゼをコードする遺伝子は、好ましくはctfABであることを特徴とする。また、アセチルCoA(acetyl CoA)及びブチリルCoA(butyryl CoA)を、それぞれエタノール及びブタノールに転換する酵素は、好ましくはアルコール/アルデヒドデヒドロゲナーゼであることを特徴とし、前記アルコール/アルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子はadhE1であることを特徴とする。本発明では前記ctfAB及びadhE1として、クロストリジウム・アセトブチリカムATCC824由来であるものだけを例示したが、他の微生物由来の遺伝子であっても、導入された宿主細胞から発現して、同じ活性を示す限り制限なしに使用できる。
【0022】
本発明の実施例ではmegaplasmid(アセト酢酸脱炭酸酵素、CoAトランスフェラーゼ、アルコール/アルデヒドデヒドロゲナーゼを含んだ127遺伝子が存在する)が欠失しているクロストリジウム・アセトブチリカム変移株M5を宿主微生物として利用した。前記クロストリジウム・アセトブチリカム変移株M5はアセトン生合成経路が遮断されている微生物である(図1)。本発明ではアセトン生合成経路が遮断されているクロストリジウム属宿主微生物としてクロストリジウム・アセトブチリカムM5のみを例示したが、それ以外にもクロストリジウム・アセトブチリカム1NYG、4NYG、5NYG及びDG1(Stim-Herndon, K.P. et al., Biotechnol./Food Microbiol., 2:11, 1996)とC. acetobutylicum ATCC824 Type IV、M3、M5、2−BB R、2−BB D、Rif B12、Rif D10、Rif F7、及びC. butyricum ATCC860(Clark、S.W. et al., Appl. Environ. Microbiol., 55:970, 1989)を使用してもよい。前記宿主微生物に前記ctfAB及びadhE1を含有する遺伝子組換えベクター(pIMP1::adhE1.ctfAB)を導入して、遺伝子組換え微生物M5(pIMP1::adhE1.ctfAB)を製造した後、これを培養した結果、アセトンは殆ど生成されないままブタノール/エタノールが高濃度で生成されることを確認した。
【0023】
従って、本発明は他の観点において、本発明に係わる遺伝子組換え微生物を培養する段階、及び前記培養液からエタノール及び/またはブタノールを回収する段階を含むエタノール及び/またはブタノールの製造方法に関する。
【0024】
本発明において、遺伝子組換え微生物の培養とエタノール及びブタノールの回収過程は、従来、発酵工業で通常知らされた培養方法及びエタノール/ブタノールの分離精製方法を使って実施できる。それと共に、前記ブタノール及びエタノールの回収は培養完了後に実施することが一般的であるが、生産性アップのためガスストリッピング(gas-stripping)方法(Thaddeus et al., Bioprocess Biosyst. Eng., 27:207, 2005)等を利用して、培養途中エタノール及びブタノールを回収してもよい。即ち、培養中に生成されたエタノール及びブタノールを回収すると共に、続けて培養することも本発明の範囲に属する。
【0025】
一方、本発明ではブタノール生合成経路が遮断された場合だけを例示したが、クロストリジウム・アセトブチリカムATCC824菌株で酪酸(butyrate)生合成経路を遮断して、ブタノール生成量を増加させたと報告され(Harris et al., Biotechnol. Bioeng., 67:1, 2000)、図1の代謝経路でアセチルCoA(acetyl CoA)からアセテート(actate)への生合成経路及び/またはブチリルCoA(butyryl CoA)からブチレート(butyrate)への生合成経路を遮断する場合、エタノールとブタノールの生成を増加させられることが推定できる。他の方法としてアセテート(actate)を利用できる遺伝子(acs、atoDA)等を導入する場合にもエタノールとブタノールの生成を増加できるはずである。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を介して、本発明をより一層詳細に説明する。この実施例は単に本発明を例示するものであって、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されると解釈されないということは当業界において通常の知識を有するものには自明であろう。特に、下記実施例では本発明に係わる遺伝子を発現させるために有機溶剤を生産できない宿主菌株として、特定クロストリジウム・アセトブチリカム変移株M5のみを例示したが、他のクロストリジウム属や他の属の微生物を使っても、アセチルCoA(acetyl CoA)からブチリルCoA(butyryl CoA)への生合成経路を持っていて、アセトンなどの有機溶剤生合成経路が遮断されている宿主菌株に同一遺伝子を導入し、これを利用して、エタノール及びブタノールを製造できることも当業界で通常の知識を有するものには自明であろう。
【0027】
[実施例1]アルコール/アルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(adhE1)及びCoAトランスフェラーゼ遺伝子(ctfAB)含有遺伝子組換えベクターの製造
配列番号3、配列番号4及び配列番号5の塩基配列を持つクロストリジウム・アセトブチリカムATCC824のadhE1、ctfA及びctfB遺伝子をプロモーターと転写終了配列を含んで、クローニングした。先ず、クロストリジウム・アセトブチリカムATCC824の染色体DNAを鋳型にして、配列番号1と配列番号2のプライマーを使ったPCR(表1)を行った後、取得されたadhE1、ctfA及びctfB遺伝子を制限酵素SalIで切断して、同一制限酵素で切断されたクロストリジウム/大腸菌シャトルベクターpIMP1(Mermelstein, L.D. et al., Bio/Technol., 10:190, 1992)に挿入して、遺伝子組換えベクターpIMP1::adhE1.ctfABを作製した(図2)。これによって、クロストリジウム・アセトブチリカムATCC824由来のアルコール/アルデヒドデヒドロゲナーゼとCoAトランスフェラーゼ遺伝子をコードする遺伝子(adhE1、ctfAB)がクローニングされた。
【0028】
【表1】

【0029】
前記クローニングされたクロストリジウム・アセトブチリカムATCC824由来のadhE1及びctfAB遺伝子の塩基配列を分析して、アルコール/アルデヒドデヒドロゲナーゼとCoAトランスフェラーゼのアミノ酸配列を推定した。その結果、クロストリジウム・アセトブチリカムATCC824のadhE1及びctfAB遺伝子配列(配列番号3、配列番号4、配列番号5)及びアミノ酸配列(配列番号6、配列番号7、配列番号8)を確認した。
【0030】
[実施例2]遺伝子組換え微生物の製造
実施例1で作製された遺伝子組換えベクターpIMP1::adhE1.ctfABを、エレクトロポレーション法を利用してクロストリジウム・アセトブチリカムM5菌株に導入して、M5(pIMP1::adhE1.ctfAB)菌株を作製した。
【0031】
先ず、バシラスサブチリスファージ(Bacillus subtilis Phage)Φ3T Iメチルトランスフェラーゼ(methyltransferase)発現ベクター、pAN1(Mermelstein et al., Appl. Environ. Microbiol., 59:1077, 1993)を含有する大腸菌TOP10に実施例1で作製された遺伝子組換えベクターを導入して、前記ベクターをクロストリジウムへの形質転換に適合するようにメチレーションを誘導した。このようにメチレーションされたベクターを大腸菌から分離及び精製して、このベクターをmegaplasmid(アセト酢酸脱炭酸酵素の遺伝子、CoAトランスフェラーゼの遺伝子、アルコール/アルデハイドデヒドロゲナーゼの遺伝子を含む176遺伝子が存在)が欠失しているクロストリジウム・アセトブチリカム変移株M5(Cornillot et al., J. Bacteriol., 179:5442, 1997)に導入して、遺伝子組換え微生物を製造した。また、クローニング用ベクターとして使ったpIMP1をクロストリジウム・アセトブチリカムM5菌株に導入してM5(pIMP1)菌株を製造した。
【0032】
形質転換のためのM5コンピテント細胞(competent cell)は次のように準備した。先ず、10mLCGM(表2)にM5菌株を接種した後、OD 0.6になるまで培養した。これを利用して、2X YTG培地(バクトトリプトンン16g、イーストイクストラクト10g、NaCl 4g、グルコース5g、1L当り)60mLに10%接種して、4〜5時間培養した。形質転換バッファー(EPB、270mMスクロース15mL、686mM NaHPO110μL、pH7.4)で2回洗浄した後、2.4mLの同一バッファーで微生物細胞を懸濁させた。このように作られたM5コンピテント細胞(competent cell)600μLと遺伝子組換えプラスミドDNA25μLを混ぜて、4mm電極を有するキュベットに充填後、2.5kV、25uFの条件で電気衝撃を与えた。直ちに、1mLの2xYTG培地で懸濁し、3時間37℃で培養した後、40μg/μLのエリスロマイシンが含まれた2xYTG固体培地に塗抹して、形質転換体を選抜した。
【0033】
【表2】

【0034】
[実施例3]遺伝子組換え微生物M5(pIMP1::adhE1.ctfAB)を利用したエタノール/ブタノール生産
実施例2で製造された遺伝子組換え微生物M5(pIMP1::adhE1.ctfAB)を培養して、その性能を評価した。CGM培地10mLを含有した30mL試験管を滅菌後80℃以上で取り出して、窒素ガスを満たした後、嫌氣チャンバーで室温まで冷やした後、エリスロマイシン(erythromycin)40μg/μLを添加して、前記遺伝子組換え微生物を接種して、37℃で吸光度(600nm)が1.0になるまで嫌氣条件で前培養を行った。前記成分で構成された培地100mLを含有した250mLフラスコを滅菌後、前記前培養液6mLを接種して、吸光度(600nm)が1.0になるまで37℃、嫌氣条件で2次培養した。その後、前記成分で構成された培地2.0Lを含有した5.0L発酵機(LiFlus GX, Biotron Inc., Kyunggi-Do, Korea)を滅菌後、80℃以上から窒素を0.5vvmで10時間供給しながら、室温まで温度を下げてからエリスロマイシン(erythromycin)40μg/mLを添加して前記2次培養液100mLを接種して、37℃、200rpmで60時間培養した。pHは5NのNaOHのautomatic feedingによって、5.5に維持され、培養中には窒素を0.2vvm(air volume/working volume/minute)で供給した。
【0035】
前記培地中のグルコース(glucose)をglucose analyzer(model2700 STAT, Yellow Springs Instrument, Yellow Springs, Ohio, USA)で測定し、時間毎に前記培地を採取して、これから生成されるアセトン、エタノール、及びブタノール濃度を、packed column(Supelco CarbopackTM B AW/6.6% PEG 20M, 2m×2mm ID, Bellefonte, PA, USA)が装着されたガスクロマトグラフィー(gas chromatography: Agillent 6890N GC System, Agilent Technologies Inc., CA, USA)で測定した。
【0036】
その結果、表3に示したように、対照菌M5(pIMP1)ではエタノール及びブタノールが生成されなかったが、遺伝子組換え菌株M5(pIMP1::adhE1.ctfAB)の場合、高濃度のエタノール及びブタノールが生成され、アセトンは殆ど生成されない(0.5g/L以下)ことを確認することができた。さらに、エタノールとブタノールの最終生産濃度だけでなく生産性も向上したのを確認することができた。
【0037】
一方、クロストリジウム・アセトブチリカムATCC824菌株の場合、アセトン生成量が全体有機溶剤の約28%と知られているが(Harris et al., J. Ind. Microbiol. Biotechnol., 27:322, 2001)、本発明に係わる遺伝子組換え菌株の場合、約5%未満とその生成量が僅かであることを確認することができた。
【0038】
【表3】

【産業上利用の可能性】
【0039】
以上、詳細に説明したが、本発明は特定遺伝子の導入または増幅を介して、エタノール及びブタノールの高生産能力を持つ遺伝子組換え変移微生物を提供する効果がある。本発明に係わる遺伝子組換え変異微生物は、代謝経路の操作によって、アセトンなどの副産物の生産が殆どないだけでなく、エタノールとブタノールの時間当り生産性を向上させられてエタノール/ブタノールの産業的生産に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセチルCoAからブチリルCoAへの生合成経路に関与する酵素をコードする遺伝子を持っている宿主微生物に、酢酸及びブチル酸を、それぞれアセチルCoA及びブチリルCoAに転換する酵素をコードする遺伝子及び/またはアセチルCoA及びブチリルCoAを、それぞれエタノール及びブタノールに転換する酵素をコードする遺伝子を導入することを含む、エタノール及びブタノール生成能が増加した遺伝子組換え微生物の製造方法。
【請求項2】
前記アセチルCoAからブチリルCoAへの生合成経路は、[アセチルCoA-->アセトアセチルCoA-->3−ヒドロキシブチリルCoA-->クロトニルCoA-->ブチリルCoA]である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記宿主微生物は、アセトン生合成経路が遮断されている、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記アセトン生合成経路が遮断されている宿主微生物は、アセト酢酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子(adc)が欠失している、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記宿主微生物はクロストリジウム属由来である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
酢酸及びブチル酸を、それぞれアセチルCoA及びブチリルCoAに転換する酵素は、CoAトランスフェラーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記CoAトランスフェラーゼをコードする遺伝子は、ctfABである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
アセチルCoA及びブチリルCoAを、それぞれエタノール及びブタノールに転換する酵素は、アルコール/アルデヒドデヒドロゲナーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記アルコール/アルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子は、adhE1である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
アセチルCoAからブチリルCoAへの生合成経路に関与する酵素をコードする遺伝子を持っている宿主微生物に、酢酸及びブチル酸を、それぞれアセチルCoA及びブチリルCoAに転換する酵素をコードする遺伝子及び/またはアセチルCoA及びブチリルCoAを、それぞれエタノール及びブタノールに転換する酵素をコードする遺伝子が導入または増幅されているエタノール及びブタノール生成能が増加した組換え微生物。
【請求項11】
前記アセチルCoAからブチリルCoAへの生合成経路は、[アセチルCoA-->アセトアセチルCoA-->3−ヒドロキシブチリルCoA-->クロトニルCoA-->ブチリルCoA]である、請求項10に記載の組換え微生物。
【請求項12】
前記宿主微生物は、アセトン生合成経路が遮断されている、請求項10に記載の組換え微生物。
【請求項13】
前記アセトン生合成経路が遮断されている宿主微生物は、アセト酢酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子(adc)が欠失している、請求項12に記載の組換え微生物。
【請求項14】
前記宿主微生物は、クロストリジウム属由来である、請求項10に記載の組換え微生物。
【請求項15】
酢酸及びブチル酸を、それぞれアセチルCoA及びブチリルCoAに転換する酵素は、CoAトランスフェラーゼである、請求項10に記載の組換え微生物。
【請求項16】
前記CoAトランスフェラーゼをコードする遺伝子は、ctfABである、請求項15に記載の組換え微生物。
【請求項17】
アセチルCoA及びブチリルCoAを、それぞれエタノール及びブタノールに転換する酵素は、アルコール/アルデヒドデヒドロゲナーゼである、請求項10に記載の組換え微生物。
【請求項18】
前記アルコール/アルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子は、adhE1である、請求項17に記載の組換え微生物。
【請求項19】
アセトン生成量が全体有機溶剤生産量の10%未満である、請求項10に記載の組換え微生物。
【請求項20】
増加したエタノール及びブタノール生成能を有するクロストリジウム・アセトブチリカム変移株M5(pIMP1::adhE1.ctfAB)。
【請求項21】
請求項10〜19のいずれか一項に記載の組換え微生物を培養する段階及び前記培養液からエタノール及び/またはブタノールを回収する段階を含むエタノール及び/またはブタノールの製造方法。
【請求項22】
請求項20に記載の組換え微生物を培養する段階及び前記培養液からエタノール及び/またはブタノールを回収する段階を含むエタノール及び/またはブタノールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−507504(P2011−507504A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−539309(P2010−539309)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【国際出願番号】PCT/KR2008/007577
【国際公開番号】WO2009/082148
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(502318478)コリア アドバンスド インスティチュート オブ サイエンス アンド テクノロジィ (27)
【出願人】(510171508)バイオフューエルケム カンパニー (1)
【出願人】(510171519)ジーエス カルテクス コーポレーション (1)
【Fターム(参考)】