説明

エタノール水溶液の濃縮方法

【課題】リグノセルロースの酵素糖化により生成した糖の水溶液をエタノール醗酵させて得られたエタノール水溶液から、濃縮されたエタノールを得ることができる方法を提供する。
【解決手段】エタノール水溶液の濃縮方法は、リグノセルロースの酵素糖化により生成した糖の水溶液をエタノール醗酵させて得られたエタノール水溶液から、濃縮されたエタノールを得る方法であり、水分離膜23を用い、パーベーパレーション法により、該エタノール水溶液から水を分離するとともに、該エタノール水溶液の液面より上方の空間に存在するエタノール蒸気を凝縮してなる凝縮液Cを回収する。水分離膜23は、芳香族スルホン酸イオン又は脂肪族スルホン酸イオンがドープされているポリピロールからなることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノセルロースを含むバイオマスの酵素糖化により生成した糖の水溶液をエタノール醗酵させて得られたエタノール水溶液から、濃縮されたエタノールを得る方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止の観点から、その原因の一つと考えられている二酸化炭素排出量を削減することが求められている。そこで、ガソリン等の液体炭化水素とエタノールとの混合燃料を自動車燃料に用いることが検討されている。
【0003】
前記エタノールとしては、植物性物質、例えばサトウキビ、トウモロコシ等の農作物の醗酵により得たエタノールを用いることができる。前記植物性物質は、原料となる植物自体が既に光合成により二酸化炭素を吸収しているので、かかる植物性物質から得られたエタノールを燃焼させたとしても、排出される二酸化炭素の量は前記植物自体が吸収した二酸化炭素の量に等しい。即ち、総計としての二酸化炭素の排出量は理論的にはゼロになるという所謂カーボンニュートラル効果を得ることができる。
【0004】
従って、前記ガソリン等の液体炭化水素に代えて前記エタノールを用いた分だけ、二酸化炭素排出量を削減することができる。
【0005】
ところが、前記サトウキビ、トウモロコシ等は、エタノールの原料として大量に消費されると、食料として供給される量が減少するという問題がある。
【0006】
そこで、前記植物性物質として、サトウキビ、トウモロコシ等に代えて、食用ではないバイオマスであってリグノセルロースを含むものを用いてエタノールを製造する技術が検討されている。前記リグノセルロースを含むバイオマスとしては、例えば、木材、稲わら、麦わら、竹、パルプ及びこれらから生じる廃棄物例えば古紙等を挙げることができる。
【0007】
前記エタノール製造方法として、リグノセルロースを含むバイオマスに糖化酵素を加えて該リグノセルロースを酵素糖化させて糖の水溶液を生成し、該糖の水溶液にさらにエタノール醗酵菌を加えてエタノール醗酵させてエタノール水溶液を得る方法が知られている(特許文献1及び特許文献2参照)。
【0008】
しかしながら、前記エタノール製造方法で得られたエタノール水溶液は、エタノール濃度が0.5〜5重量%と希薄であるので、このままでは前記自動車燃料に用いることが難しいという問題がある。
【0009】
そこで、水分離膜を用い、パーベーパレーション法により、前記エタノール水溶液から水を分離し、濃縮されたエタノールを得る方法が考えられる。
【0010】
しかしながら、前記エタノール水溶液の濃縮方法では、前記濃縮されたエタノールは、前記エタノール水溶液から一部の水が分離されているにも関わらず、エタノール濃度が3.0〜5.5重量%と低いままであるという不都合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−136263号公報
【特許文献2】特開2006−88136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかる不都合を解消して、リグノセルロースの酵素糖化により生成した糖の水溶液をエタノール醗酵させて得られたエタノール水溶液から、濃縮されたエタノールを得ることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記目的を達成するために、前記エタノール水溶液の濃縮方法において、リグノセルロースの酵素糖化により生成した糖の水溶液をエタノール醗酵させて得られたエタノール水溶液から、濃縮されたエタノールを得ることができない理由について鋭意検討した。この結果、本発明者らは、前記一部の水が分離されたエタノール水溶液から蒸発したエタノール蒸気が、該エタノール水溶液の液面より上方の空間に滞留していることを見出した。
【0014】
本発明者らは、前記知見に基づいてさらに検討を重ねた結果、前記エタノール水溶液の液面より上方の空間に滞在しているエタノール蒸気を凝縮することにより、濃縮されたエタノールを得ることができることを見出し、本発明に到達した。
【0015】
すなわち、本発明は、リグノセルロースの酵素糖化により生成した糖の水溶液をエタノール醗酵させて得られたエタノール水溶液から、濃縮されたエタノールを得る方法であって、水分離膜を用い、パーベーパレーション法により、該エタノール水溶液から水を分離するとともに、該エタノール水溶液の液面より上方の空間に存在するエタノール蒸気を凝縮してなる凝縮液を回収することを特徴とする。
【0016】
本発明の方法では、リグノセルロースの酵素糖化により生成した糖の水溶液をエタノール醗酵させて得られたエタノール水溶液に対して、水分離膜を用いてパーベーパレーション法を行うことにより、該エタノール水溶液から一部の水を分離する。
【0017】
一方、前記パーベーパレーション法が施されたエタノール水溶液は、一部の水が分離されたことにより、該パーベーパレーション法が施される前のエタノール水溶液と比較して、エタノール濃度が高くなっている。これにより、前記パーベーパレーション法が施されたエタノール水溶液からは、エタノールが蒸発しやすくなる。この結果、エタノール蒸気が、前記パーベーパレーション法が施されたエタノール水溶液の液面より上方の空間に滞留することとなる。
【0018】
そこで、本発明の方法では、前記エタノール蒸気を凝縮し、得られた凝縮液を回収する。前記エタノール蒸気を凝縮してなる凝縮液は、前記パーベーパレーション法が施される前のエタノール水溶液と比較して、エタノール濃度が高くなっている。
【0019】
したがって、本発明の方法によれば、リグノセルロースの酵素糖化により生成した糖の水溶液をエタノール醗酵させて得られたエタノール水溶液から、濃縮されたエタノールを得ることができる。
【0020】
また、本発明の方法では、前記水分離膜として、ゼオライトからなる膜を用いることが可能である。しかし、ゼオライトからなる水分離膜を用いたパーベーパレーション法では、リグノセルロースの酵素糖化により生成した糖の水溶液をエタノール醗酵させて得られたエタノール水溶液に含まれる有機酸により、該水分離膜の水分離能が損なわれるという問題がある。この場合、前記有機酸により水分離能が損なわれることを防ぐために、前記パーベーパレーション法を行う前に、前記エタノール水溶液のpHを調整することが必要になる。
【0021】
そこで、本発明の方法では、前記水分離膜として、ゼオライトからなる膜に代えて、芳香族スルホン酸イオン又は脂肪族スルホン酸イオンがドープされているポリピロールからなる膜を用いることが好ましい。前記ポリピロールからなる水分離膜を用いてパーベーパレーション法を行う本発明の方法によれば、前記有機酸により水分離能が損なわれることがないため、pHを調整することなく、リグノセルロースの酵素糖化により生成した糖の水溶液をエタノール醗酵させて得られたエタノール水溶液から、濃縮されたエタノールを直ちに得ることができる。
【0022】
また、本発明の方法においては、前記凝縮液を前記エタノール水溶液に還流させることが好ましい。このようにすると、前記パーベーパレーション法が施されたエタノール水溶液は、前記凝縮液が混合されることにより、エタノール濃度が高くなる。これにより、前記パーベーパレーション法が施されたエタノール水溶液からのエタノール蒸発量が増加するとともに、該エタノール水溶液の液面より上方の空間に滞留しているエタノール蒸気のエタノール濃度が高くなる。
【0023】
この結果、エタノール濃度が高くなった前記エタノール蒸気を凝縮することにより、エタノール濃度がより高い凝縮液を得ることができる。したがって、前記凝縮液を前記エタノール水溶液に還流させる本発明の方法によれば、リグノセルロースの酵素糖化により生成した糖の水溶液をエタノール醗酵させて得られたエタノール水溶液から、高濃度に濃縮されたエタノールを得ることができる。
【0024】
また、本発明の方法においては、前記エタノール水溶液を撹拌することが好ましい。このようにすることにより、リグノセルロースの酵素糖化により生成した糖の水溶液をエタノール醗酵させて得られたエタノール水溶液に含まれるリグニンや有機酸が、前記水分離膜の表面に堆積することを防止し、前記水分離膜による水分離を促進することができる。これにより、前記パーベーパレーション法が施されたエタノール水溶液のエタノール濃度が高くなり、該エタノール水溶液からのエタノール蒸発量が増加するとともに、該エタノール水溶液の液面より上方の空間に滞留しているエタノール蒸気のエタノール濃度が高くなる。
【0025】
この結果、エタノール濃度が高くなった前記エタノール蒸気を凝縮することにより、エタノール濃度がより高い凝縮液を得ることができる。したがって、前記エタノール水溶液を撹拌する本発明の方法によれば、リグノセルロースの酵素糖化により生成した糖の水溶液をエタノール醗酵させて得られたエタノール水溶液から、より高濃度に濃縮されたエタノールを得ることができる。
【0026】
また、本発明の方法においては、前記凝縮液のエタノール濃度を検出し、検出されたエタノール濃度に応じて該凝縮液を回収することが好ましい。このようにすることにより、所望の濃度に濃縮されたエタノールを確実に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施形態のエタノール水溶液の濃縮方法を実施するパーベーパレーション装置全体を示す説明図。
【図2】図1に示すパーベーパレーション装置の要部を拡大して示す説明的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。本実施形態のエタノール水溶液の濃縮方法は、例えば図1に示すパーベーパレーション装置1により実施することができる。
【0029】
パーベーパレーション装置1は、パーベーパレーション用セル2と、液体窒素が収容されたコールドトラップ3と、真空ポンプ4と、真空計5とを備えている。パーベーパレーション用セル2の下端部には導管6が接続されている。導管6は、コールドトラップ3を介して真空ポンプ4に接続されており、コールドトラップ3と真空ポンプ4との間には、真空計5が配置されている。
【0030】
パーベーパレーション用セル2は、図2に示すように、導管6に接続される減圧部21と、減圧部21の上端側に設けられたエタノール水溶液収容部22と、減圧部21とエタノール水溶液収容部22との間に配設された水分離膜23とを備えている。
【0031】
減圧部21は、全体が漏斗形状であって、上端部に円形の焼結ガラスフィルタ(ADVANTEC株式会社製、商品名:KG−25)24を備えるとともに、該上端部の外周面にフランジ21aを備えている。焼結ガラスフィルタ24は、有効透過面積が34.6mm(直径21mm)である。
【0032】
焼結ガラスフィルタ24の上面側の外周部には、パラフィルム(登録商標、Alcan Packaging社製)からなるシール部材25が配置されている。シール部材25は、外径が28mm、内径が21mmの円環状となっている。
【0033】
シール部材25の上面側には、直径が26mmの円形の水分離膜23が配置されている。水分離膜23としては、芳香族スルホン酸イオン又は脂肪族スルホン酸イオンがドープされているポリピロールからなる膜を好適に用いることができる。
【0034】
前記ポリピロールにドープされる芳香族スルホン酸イオンとしては、例えば、下記の化学式(1)〜(10)の構造を備えるものを挙げることができる。
【0035】
【化1】

【0036】
【化2】



【0037】
【化3】

【0038】
【化4】

【0039】
【化5】

【0040】
【化6】

【0041】
【化7】

【0042】
【化8】

【0043】
【化9】

【0044】
【化10】

【0045】
また、前記ポリピロールにドープされる脂肪族スルホン酸イオンとしては、例えば、下記の化学式(11),(12)の構造を備えるものを挙げることができる。
【0046】
【化11】

【0047】
【化12】

【0048】
本実施形態では、水分離膜23として、例えば、ポリビニルスルホン酸イオンがドープされているポリピロールからなる膜を用いることができる。
【0049】
水分離膜23の上面側に配設されたエタノール水溶液収容部22は、内径が21mm、高さが80mmであり、下方が開口し上方が閉塞された筒状体からなる。エタノール水溶液収容部22は、下端部の外周面にフランジ22aを備えている。エタノール水溶液収容部22の下方の内周側には、水分離膜23が露出している。
【0050】
また、エタノール水溶液収容部22の上部の外周面には、冷却ユニット26が装着されている。冷却ユニット26は、水、液体窒素等の冷却媒体を内部に流通させることにより、エタノール水溶液収容部22の上部の外周面を冷却するようになっている。
【0051】
次に、図1,2を参照して、本実施形態のエタノール水溶液の濃縮方法について説明する。まず、エタノール水溶液収容部22に、リグノセルロースの酵素糖化により生成した糖の水溶液をエタノール醗酵させて得られたエタノール水溶液を供給する。このとき、エタノール水溶液収容部22において、収容されたエタノール水溶液の液面が、冷却ユニット26の下端部よりも下方に位置するようにする。
【0052】
次に、真空ポンプ4を作動させると、導管6を介して減圧部21が減圧される。これにより、エタノール水溶液収容部22に収容されたエタノール水溶液に対して、パーベーパレーション法が施され、該エタノール水溶液から一部の水が分離される。分離された水は、水分離膜23を透過して水蒸気となり、減圧部21及び導管6を介してコールドトラップ3に導入されて凝縮される。
【0053】
水分離膜23は、エタノール水溶液に含まれる水を主として透過させるものの、該エタノール水溶液に含まれるエタノールも僅かながら透過させる。このため、前記エタノール水溶液から分離された一部の水は、実質的には、該エタノール水溶液よりもエタノール濃度が非常に低いエタノール水溶液となっている。
【0054】
一方、前記パーベーパレーション法が施されたエタノール水溶液は、前記実質的にはエタノール濃度が非常に低いエタノール水溶液として、一部の水が分離されたことにより、該パーベーパレーション法が施される前のエタノール水溶液と比較して、エタノール濃度が高くなっている。これにより、前記パーベーパレーション法が施されたエタノール水溶液からは、エタノールが蒸発しやすくなる。この結果、エタノール蒸気が、前記パーベーパレーション法が施されたエタノール水溶液の液面より上方の空間に滞留する。
【0055】
次に、冷却ユニット26の内部に冷却媒体を流通させ、エタノール水溶液収容部22の上部を冷却する。これにより、エタノール水溶液収容部22の上部に滞留しているエタノール蒸気が凝縮され、凝縮液Cとなってエタノール水溶液収容部22の上部の内周面に付着する。
【0056】
前記エタノール蒸気は、前記エタノール水溶液から蒸発した水蒸気を含んでいるものの、その量はエタノール蒸気に比べて小さい。このため、前記エタノール蒸気を凝縮してなる凝縮液Cは、エタノールが水に溶解してなるエタノール水溶液であるものの、前記パーベーパレーション法が施される前のエタノール水溶液と比較して、エタノール濃度が高くなっている。
【0057】
そこで、エタノール水溶液収容部22の上部の内周面に付着した凝縮液Cを、図示しない回収手段で回収することにより、リグノセルロースの酵素糖化により生成した糖の水溶液をエタノール醗酵させて得られたエタノール水溶液から、濃縮されたエタノールを得ることができる。
【0058】
また、本実施形態のエタノール水溶液の濃縮方法では、水分離膜23として、芳香族スルホン酸イオン又は脂肪族スルホン酸イオンがドープされているポリピロールからなる膜を用いて、パーベーパレーション法を行う。このような水分離膜23によれば、パーベーパレーション法の際、リグノセルロースの酵素糖化により生成した糖の水溶液をエタノール醗酵させて得られたエタノール水溶液に含まれる有機酸により、水分離能が損なわれることがない。したがって、本実施形態のエタノール水溶液の濃縮方法は、pHを調整することなく、前記エタノール水溶液から濃縮されたエタノールを直ちに得ることができる。
【0059】
また、本実施形態のエタノール水溶液の濃縮方法において、凝縮液Cをエタノール水溶液に還流させることが好ましい。前記還流は、例えば、冷却ユニット26でエタノール水溶液収容部22の上部を強く冷却して、該上部の内周面に付着した凝縮液Cを互いに結合させて液滴径を大きくし、該凝縮液Cをエタノール水溶液収容部22に収容されたエタノール水溶液中に落下させることにより行うことができる。
【0060】
凝縮液Cをエタノール水溶液に還流させると、前記パーベーパレーション法が施されたエタノール水溶液は、凝縮液Cが混合されることにより、エタノール濃度が高くなる。これにより、前記パーベーパレーション法が施されたエタノール水溶液からのエタノール蒸発量が増加するとともに、該エタノール水溶液の液面より上方の空間に滞留しているエタノール蒸気のエタノール濃度が高くなる。
【0061】
この結果、エタノール濃度が高くなった前記エタノール蒸気を凝縮することにより、エタノール濃度がより高い凝縮液Cを得ることができる。したがって、凝縮液Cをエタノール水溶液に還流させる本実施形態の方法によれば、リグノセルロースの酵素糖化により生成した糖の水溶液をエタノール醗酵させて得られたエタノール水溶液から、高濃度に濃縮されたエタノールを得ることができる。
【0062】
また、本実施形態のエタノール水溶液の濃縮方法において、エタノール水溶液収容部22に収容されているエタノール水溶液を撹拌することが好ましい。前記撹拌は、例えば、マグネチックスターラー、メカニカルスターラー等の図示しない撹拌手段により行うことができる。
【0063】
このようにすることにより、リグノセルロースの酵素糖化により生成した糖の水溶液をエタノール醗酵させて得られたエタノール水溶液に含まれるリグニンや有機酸が、水分離膜23の表面に堆積することを防止し、該水分離膜23による水分離を促進することができる。これにより、前記パーベーパレーション法が施されたエタノール水溶液のエタノール濃度が高くなり、該エタノール水溶液からのエタノール蒸発量が増加するとともに、該エタノール水溶液の液面より上方の空間に滞留しているエタノール蒸気のエタノール濃度が高くなる。
【0064】
この結果、エタノール濃度が高くなった前記エタノール蒸気を凝縮することにより、エタノール濃度がより高い凝縮液Cを得ることができる。したがって、エタノール水溶液を撹拌する本実施形態の方法によれば、リグノセルロースの酵素糖化により生成した糖の水溶液をエタノール醗酵させて得られたエタノール水溶液から、より高濃度に濃縮されたエタノールを得ることができる。
【0065】
また、本実施形態のエタノール水溶液の濃縮方法において、凝縮液Cのエタノール濃度を検出し、検出されたエタノール濃度に応じて該凝縮液Cを回収することが好ましい。前記エタノール濃度の検出は、例えば、回収された凝縮液Cを、図示しないガスクロマトグラフで測定することにより行うことができる。このようにすることにより、所望の濃度に濃縮されたエタノールを確実に得ることができる。
【0066】
次に、本発明の実施例を示す。
【実施例】
【0067】
本実施例では、まず、リグノセルロースの酵素糖化により生成した糖の水溶液をエタノール醗酵させて得られたエタノール水溶液を調製した。前記調製は、次のようにして行った。
【0068】
まず、自然乾燥させた稲わらをカッターミルで粉砕し、稲わらチップを得た。次に、得られた稲わらチップ20kgを、高圧ボイラーで、水蒸気雰囲気下、180℃の温度に30分間維持することにより、水蒸気による加熱処理を行った。
【0069】
次に、前記水蒸気による加熱処理後の稲わらチップの乾燥重量に対して、市販の糖化酵素(ジェネンコア協和株式会社製、商品名:GC220、セルラーゼ及びヘミラーゼ等の混合物)を10重量%となるように添加した。さらに、糖化酵素が添加された稲わらチップに対して、酢酸緩衝液及びイオン交換水を加えてpHを4.5とし、得られる水溶液1リットルに対して前記加熱処理後の稲わらチップの乾燥重量が20%(w/v)となるように調整した。
【0070】
次に、前記調整した水溶液を、糖化反応槽に入れて攪拌しながら、50℃の温度に24時間維持し、該調整した水溶液に含まれるリグノセルロースを糖化酵素により糖化処理して糖を含む酵素処理溶液(糖の水溶液)を得た。次に、得られた酵素処理溶液を、フィルタープレスを用いて固液分離し、さらに限外濾過を行って前記糖化酵素を除去することにより、糖化酵素が除去された糖の水溶液を得た。
【0071】
次に、得られた糖化酵素が除去された糖の水溶液を醗酵槽に導入し、エタノール醗酵菌(Saccharomyces cerevisiae;酵母S288C株(NBRC 1136))を湿重量で2重量%となるように添加した。次に、エタノール発酵菌が添加された糖の水溶液を、攪拌しながら30℃の温度に6〜8時間維持し、該糖をエタノール醗酵させて、エタノール醗酵処理液を得た。
【0072】
次に、得られたエタノール発酵処理液に対して限外濾過を行って前記エタノール発酵菌を除去することにより、エタノール水溶液を得た。以上により、リグノセルロースの酵素糖化により生成した糖の水溶液をエタノール醗酵させて得られたエタノール水溶液を調製した。
【0073】
次に、得られたエタノール水溶液のエタノール濃度を、ガスクロマトグラフにより測定したところ、0.89重量%であった。
【0074】
次に、得られたエタノール水溶液13.3gを、図1に示すパーベーパレーション装置1のエタノール水溶液収容部22に供給した。次に、真空ポンプ4を作動させ、導管6を介して減圧部21を減圧した。このとき、導管6内の圧力を真空計5で測定したところ、500Paであった。これにより、エタノール水溶液収容部22に収容されたエタノール水溶液に対して、パーベーパレーション法が施された。
【0075】
前記パーペーパレーションの間、前記エタノール水溶液をマグネチックスターラーで撹拌し、冷却ユニット26の内部に0℃の水を流通させた。また、水分離膜23としては、ポリビニルスルホン酸イオンがドープされているポリピロールからなる膜を用いた。
【0076】
前記パーベーパレーション法により、エタノール水溶液収容部22に収容されたエタノール水溶液から、水が分離されるとともにエタノール蒸気が蒸発した。分離された水は、水分離膜23を透過して水蒸気となり、減圧部21及び導管6を介してコールドトラップ3に収容された。
【0077】
一方、前記エタノール蒸気は、前記パーベーパレーション法が施されたエタノール水溶液の液面より上方の空間に滞留し、冷却ユニット26で冷却されて凝縮液Cとなってエタノール水溶液収容部22の上部の内周面に付着した。また、エタノール水溶液収容部22の上部の内周面に付着した凝縮液Cは、さらに冷却されて、エタノール水溶液収容部22に収容されたエタノール水溶液に落下した。
【0078】
前記パーベーパレーション法を69時間実施した後に、エタノール水溶液収容部22の上部の内周面に付着した凝縮液Cをスポイトで回収した。次に、得られた凝縮液Cのエタノール濃度を、ガスクロマトグラフにより測定したところ、74重量%であった。
【0079】
したがって、本実施例のエタノール水溶液の濃縮方法によれば、リグノセルロースの酵素糖化により生成した糖の水溶液をエタノール醗酵させて得られた、エタノール濃度が0.89重量%であるエタノール水溶液から、74重量%に濃縮されたエタノールが得られることが明らかである。
【符号の説明】
【0080】
23…水分離膜、 C…凝縮液。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグノセルロースの酵素糖化により生成した糖の水溶液をエタノール醗酵させて得られたエタノール水溶液から、濃縮されたエタノールを得る方法であって、
水分離膜を用い、パーベーパレーション法により、該エタノール水溶液から水を分離するとともに、該エタノール水溶液の液面より上方の空間に存在するエタノール蒸気を凝縮してなる凝縮液を回収することを特徴とするエタノール水溶液の濃縮方法。
【請求項2】
前記水分離膜は、芳香族スルホン酸イオン又は脂肪族スルホン酸イオンがドープされているポリピロールからなることを特徴とする請求項1記載のエタノール水溶液の濃縮方法。
【請求項3】
前記凝縮液を前記エタノール水溶液に還流させることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のエタノール水溶液の濃縮方法。
【請求項4】
前記エタノール水溶液を撹拌することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のエタノール水溶液の濃縮方法。
【請求項5】
前記凝縮液のエタノール濃度を検出し、検出されたエタノール濃度に応じて該凝縮液を回収することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のエタノール水溶液の濃縮方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−240565(P2010−240565A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91493(P2009−91493)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】