説明

エタノール用ガスセンサ

【課題】水の感度を低下させた、エタノール用ガスセンサ。
【解決手段】有機電界効果トランジスタ100の構成は、導電性基板10表面にゲート絶縁膜20が形成されている。このゲート絶縁膜20の表面20sはフッ化オルガノシリル化処理されている。その上に有機半導体(有機材料)から成るチャネル形成層30が形成されている(1.A)。
有機電界効果トランジスタ200の構成は、誘電体基板11表面にゲート電極41gが形成され、それを覆うようにゲート絶縁膜21が形成されている。このゲート絶縁膜21の表面21sが、フッ化オルガノシリル化処理されている。ゲート絶縁膜21の表面21sには、ソース電極41sとドレイン電極41dが形成され、有機半導体から成るチャネル形成層31が形成されている(1.B)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機電界効果トランジスタを用いた、極性を有する有機化合物を検出するためのガスセンサに関する。本発明は特に、人の呼気中のエタノール濃度を測定するための、エタノール用ガスセンサに有効である。
【背景技術】
【0002】
図2は、有機電界効果トランジスタ構造の従来のガスセンサ900の構成を示す断面図である。図2のガスセンサ900は、導電性基板10表面に絶縁膜(ゲート絶縁膜)20が形成され、その上に有機半導体から成るチャネル形成層30が形成されている。導電性基板10裏面にはゲート電極40gが形成され、チャネル形成層30の表面には、チャネル長を空けてソース電極40sとドレイン電極40dが形成されている。
こうして、ドレイン電位、ゲート電位を所定の値として、有機半導体から成るチャネル形成層30の露出面30sを例えばヒドロキシ基、カルボニル基、複素環等の極性基を有する化合物蒸気に暴露する。当該極性基を有する化合物は有機半導体から成るチャネル形成層30に侵入し、ソース電極40sとドレイン電極40dの間に形成されるチャネルに影響を及ぼす。このチャネルの状態の変化をドレイン電流の変化として検出することができる。極性基を有する化合物の濃度に対し、ドレイン電流の変化が大きいものは感度が大きいと言える。
【0003】
以下、若干の文献を列挙する。
特許文献1及び非特許文献1にある通り、ソース電位に対し、ドレインに負電位、ゲートに負電位を印加すると、ドレイン電流は減衰曲線を描く。この時有機電界効果トランジスタにはpチャネルが形成される。また、極性基を有する有機低分子化合物にチャネル形成層が暴露されると、当該有機低分子化合物がチャネル形成層に侵入してドレイン電流が低下する。
尚、特許文献2は、本発明者らによる新規な有機半導体化合物である、アルキル置換ヘキサベンゾコロネンの製造方法についての公開公報である。
【特許文献1】特開2002−310969号公報
【特許文献2】特開2007−096289号公報
【非特許文献1】Appl. Phys. Lett. 78, 2229 (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のガスセンサ900は、主として極性を有する有機化合物を検出するセンサとして有用であるが、例えば人の呼気中のエタノール濃度を測定するセンサとして用いる場合、呼気中の水(水蒸気)の存在により、エタノール濃度を正確に測定できない。これは、エタノール分子に対するガスセンサ900の感度と、水分子に対するガスセンサ900の感度が近いために生ずる現象である。
そこで、対象となる雰囲気が水(水蒸気)を多量に含む場合、例えば人の呼気の場合には、水(水蒸気)の検出感度をエタノールの検出感度よりも抑える必要がある。
本発明はこの課題を解決するために完成されたものであり、その目的は、水分子に対する感度を抑制した、エタノール用ガスセンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、有機電界効果トランジスタを用いたエタノール用ガスセンサにおいて、有機材料から成るチャネル形成層が、表面をフッ化オルガノシリル化処理されたゲート絶縁膜に接していることを特徴とするエタノール用ガスセンサである。
請求項2に係る発明は、ゲート絶縁膜が無機酸化物から成ることを特徴とする。
請求項3に係る発明は、チャネル形成層が、アルキル置換ヘキサベンゾコロネンから成ることを特徴とする。
請求項4に係る発明は、チャネル形成層が、ペンタセン、2,11−ジヘキシルヘキサ−ペリ−ヘキサベンゾコロネン又は2,5,11,14−テトラヘキシルヘキサ−ペリ−ヘキサベンゾコロネンから成ることを特徴とする。
請求項5に係る発明は、フッ化オルガノシリル化処理に用いられたシリル化剤として、ケイ素原子に、1,1,1−トリフルオロプロピル基、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロオクチル基、又は、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8−ヘプタデカフルオロデシル基が結合した化合物を用いたことを特徴とする。
請求項6に係る発明は、フッ化オルガノシリル化処理に用いられたシリル化剤として、ケイ素原子に、メトキシ基、エトキシ基、クロロ基から選ばれる置換基が1個以上3個以下結合した化合物を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
ゲート絶縁膜表面のフッ化オルガノシリル化処理により、ゲート絶縁膜表面にフッ素置換された有機基が導入される。これにより、有機材料から成るチャネル形成層との界面であるゲート絶縁膜表面に、撥水性の微小厚の薄膜を形成した場合と同様の状態を生成することができる。
これにより、水の分子が、有機材料から成るチャネル形成層を浸透してゲート絶縁膜近傍のチャネルに達し、ドレイン電流の変化に影響する感度と、エタノール分子が有機材料から成るチャネル形成層を浸透してゲート絶縁膜近傍のチャネルに達し、ドレイン電流の変化に影響する感度とを、大きく異ならせることが可能となる。
即ち、ゲート絶縁膜表面が撥水性の強い表面となることで、極性のきわめて強い分子である水に対するエタノール用ガスセンサの感度が著しく低下する。一方、有機基であるエチル基と、極性基であるヒドロキシ基とから成るエタノールに対しては、エタノール用ガスセンサの感度が低下したとしても、水に対する感度低下ほどではない。この感度の差異は、ゲート絶縁膜の表面をフッ化オルガノシリル化処理する場合に特に顕著である。
本発明者らが見出したこの特性により、湿度の高い、例えば人の呼気中のエタノール濃度を、正確に測定することが可能となる。
【0007】
ゲート絶縁膜が酸化ケイ素等の無機酸化物から成る場合、当該ゲート絶縁膜の表面は親水性が高い。即ち、ケイ素のような半金属元素と金属元素をまとめてMと示すと、元素Mと酸素Oから成る酸化物の表面において、M−O−Mの結合が露出した場合は、当該結合は元素Mが正電荷を、酸素Oが負電荷を帯びるので、水分子、−OHその他の極性基を有する有機物との親和性が高くなる。或いは、元素Mと酸素Oから成る酸化物の表面において、M−OHの残基が存在する場合もあるが、この場合も元素Mと水素Hが正電荷を、酸素Oが負電荷を帯びるので、水分子、−OHその他の極性基を有する有機物との親和性が高くなる。
これをフッ化オルガノシリル化処理することにより疎水化する。シリル化剤は、−OHを有するアルコール、フェノール、カルボン酸その他の有機化合物や、上述した元素Mの酸化物表面の残基M−OHと容易に反応して、−O−Si−R(Rはシリル化剤に結合した非脱離性の有機基)の結合を生ずるものとして知られている。この際、シリル化剤は、非脱離性の有機基の他、脱離性の基であるハロゲン化物基又は低級アルコキシ基を有する。
【0008】
本発明においては、比較的長鎖又はかさだかい置換基であるフッ化オルガノ基を非脱離性の基として残すものである。シリル化剤のケイ素原子に結合している他の3つの脱離性の基は−OHと容易に反応して加熱等により揮発して容易に除去可能な反応物を生成する基であれば何でも良い。例えばクロロ基、メトキシ基、又はエトキシ基が好ましい。これらは、シリル化反応の際に極めて揮発性の高い、塩化水素、メタノール、又はエタノールとして容易に脱離するので、絶縁膜表面のシリル化が容易である。また、本発明において用いるべきフッ化アルキルシリル化剤は、ケイ素原子に、少なくとも一つの非脱離性のフッ化オルガノ基と、元素Mの酸化物表面の残基M−OH又は有機絶縁膜表面の−OHと容易に反応する少なくとも一つの脱離性の基を有すれば良いことは上記説明から明らかである。この際、例えば1個のフッ化オルガノ基と、1個のクロロ基(又はメトキシ基、或いはエトキシ基)の他の2個の置換基は、例えばフッ化オルガノ基を更に結合させても良く、或いはメチル基その他の短鎖のアルキル基を結合させても良い。要するに、シリル化反応後に絶縁膜表面の特性を決定するものが本発明のフッ化オルガノ基であり、当該特性に悪影響を与えない程度に、ケイ素原子に他の置換基が残存することがあっても構わない。しかし、反応性の面から、例えばケイ素原子に、フッ化オルガノ基を1個、クロロ基、メトキシ基、又はエトキシ基のいずれか1種を3個有するものが特に好ましい。尚、脱離性の基に何を用いるかは、絶縁膜表面の処理作業である例えば加熱温度や加熱時間等に差異を生ずるものの、最終的に本発明の本質に関わるものは、フッ化オルガノ基として何を用いるかである。
【0009】
シリル化剤のアルキル基が、長いパーフルオロアルキル部分を有していると、当該疎水化されたゲート絶縁膜表面に有機材料から成るチャネル形成層を電界効果トランジスタを形成した場合に、エタノールに対する感度と水に対する感度を大きく異ならせることができる。長いパーフルオロアルキル部分とは、例えば直鎖アルキル基の、末端メチル基から連続して任意個のメチレン基の水素原子を悉くフッ素原子に置き換えたものを意味する。
また、チャネル形成層を形成する有機材料により、最適なシリル化剤が存在する。
【0010】
本発明の有機材料から成るチャネル形成層には、特に有機半導体を用いると良く、蒸着可能な化合物を用いると更に好ましい。蒸着可能な化合物は、表面をフッ化アルキルシリル化処理された絶縁膜の上に、極めて規則的に積層される。この化合物としては、ベンゼン環が多数縮合した多環構造自体或いはそれを母核構造として有する化合物が特に好ましい。特許文献2に示したヘキサベンゾコロネン誘導体は、その母核構造が同一であるので、例えばヘキサベンゾコロネンの水素原子が炭素数18以下のアルキル基(分岐や環構造を有するものを含むものとする)で置換されたものは互いに類似の特性を有すると考えられるので、本発明に特に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
まず、請求項に示した化合物を、化学式を用いて説明する。
【0012】
ゲート絶縁膜のフッ化オルガノシリル化処理に用いる、入手が容易なシリル化剤として、化1に示す構造のものを例示することができる。この化学式(化1)において、フッ化オルガノ基Yとしては、直鎖アルキル基であって、少なくとも末端メチル基がモノフルオロ化されたもの、末端メチル基がパーフルオロ化されたもの、末端メチル基から任意個のメチレン基までが連続してパーフルオロ化されたものを示した。ケイ素原子の他の3つの置換基Xとしては、メトキシ基、エトキシ基、クロロ基であるものが入手容易である。
【化1】

【0013】
チャネル形成層に用いうる有機材料のうち、ペンタセンとは次の化学構造式(化2)で示される化合物である。
【化2】

【0014】
チャネル形成層に用いうる有機材料のうち、アルキル置換ヘキサベンゾコロネンとは次の化学構造式(化3)で示される化合物である。化3の一般式で示される化合物のうち、特に化4の2,11−ジヘキシルヘキサ−ペリ−ヘキサベンゾコロネン、化5の2,5,11,14−テトラヘキシルヘキサ−ペリ−ヘキサベンゾコロネンが有用である。
【化3】

【化4】

【化5】

【0015】
ゲート絶縁膜のフッ化オルガノシリル化処理に用いるシリル化剤の具体例としては、次の化6で示される化合物群が挙げられる。これは、ケイ素原子に結合する4つの基のうちの1個が1,1,1−トリフルオロプロピル基であり、他の3個がメトキシ基(a)、エトキシ基(b)及びクロロ基(c)から選択される化合物群である。
【化6】

【0016】
ゲート絶縁膜のフッ化オルガノシリル化処理に用いるシリル化剤の他の具体例としては、次の化7で示される化合物群が挙げられる。これはケイ素原子に結合する4つの基のうちの1個が1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロオクチル基であり、他の3個がメトキシ基(a)、エトキシ基(b)及びクロロ基(c)から選択される化合物群である。
【化7】

【0017】
ゲート絶縁膜のフッ化オルガノシリル化処理に用いるシリル化剤の他の具体例としては、次の化8で示される化合物群が挙げられる。これはケイ素原子に結合する4つの基のうちの1個が1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8−ヘプタデカフルオロデシル基であり、他の3個がメトキシ基(a)、エトキシ基(b)及びクロロ基(c)から選択される化合物群である。
【化8】

【0018】
本発明のエタノール用ガスセンサとして用いることのできる有機電界効果トランジスタの構造を示す。
図1.Aは、以下の実施例で用いたエタノール用ガスセンサ(有機電界効果トランジスタ)100の構成を示す断面図である。
図1.Aの有機電界効果トランジスタ100の構成は次の通りである。導電性基板10表面に絶縁膜(ゲート絶縁膜)20が形成されている。この絶縁膜20の表面20sはフッ化オルガノシリル化処理されている。その上に有機半導体(有機材料)から成るチャネル形成層30が形成されている。導電性基板10裏面にはゲート電極40gが形成され、有機半導体から成るチャネル形成層30の表面には、チャネル長を空けてソース電極40sとドレイン電極40dが形成されている。各層の膜厚等は任意であるが、絶縁膜20は例えば100nm〜1μm、チャネル形成層30は例えば5〜100nmの範囲で形成すると良い。チャネル長は10μm〜1mmの範囲で設計される。チャネル幅は任意であるが、100μm〜10mmぐらいとすると良い。
【0019】
図1.Bは素子基板として、誘電体材料を用いる場合の構成の一例である。
図1.Bの有機電界効果トランジスタ200の構成は次の通りである。誘電体基板11表面にゲート電極41gが形成され、それを覆うように絶縁膜(ゲート絶縁膜)21が形成されている。この絶縁膜21の表面21sが、フッ化オルガノシリル化処理されている。絶縁膜21の表面21sには、チャネル長を空けてソース電極41sとドレイン電極41dが形成されている。ソース電極41sとドレイン電極41dとに挟まれた絶縁膜21表面を少なくとも覆うように、有機半導体から成るチャネル形成層31が形成されている。各層の膜厚等は任意であるが、絶縁膜21の、ゲート電極41gとチャネル形成層30とで挟まれた領域の厚さは例えば100nm〜1μm、チャネル形成層31の、ソース電極41sとドレイン電極41dとに挟まれた絶縁膜21表面上の厚さは例えば5〜100nmの範囲で形成すると良い。尚、ソース電極41sとドレイン電極41dとは当該チャネル形成層31の厚さより薄く形成する。チャネル長は10μm〜1mmの範囲で設計される。チャネル幅は任意であるが、100μm〜10mmぐらいとすると良い。
【0020】
図1.Aの導電性基板10としては、所望の任意の導電性材料から成る基板を用いることができるが、例えば導電性シリコン基板(n型が好ましい)を用いると、絶縁膜20の形成を熱酸化により形成できるので好適である。
図1.Bの誘電体基板11としては、所望の任意の誘電体材料から成る基板を用いることができる。例えば任意のプラスチック基板、ガラス基板、石英基板、セラミック基板を用いることができる。
【0021】
図1.Aの絶縁膜20及び図1.Bの絶縁膜21としては、SiO2、Si34、SiON、Al23、Ta25 アモルファスシリコン、ポリイミド樹脂、ポリビニルフェノール樹脂、ポリパラキシリレン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂等の材料を用い、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、RFスパッタ法、陽極酸化法または印刷法等の周知の膜作製方法により形成することもできる。
図1.Aの絶縁膜20及び図1.Bの絶縁膜21の表面を単に疎水化処理する場合は、シランカップリング剤として、オクタデシルトリクロロシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクチルトリクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン等が用いられている。本発明の実施には、フッ化オルガノシリル化処理が必要であり、フッ化オルガノシリル化剤を用いる。絶縁膜表面の疎水化処理に先立って、親水化処理として、紫外線照射によるオゾン処理、酸素やアルゴン等のプラズマ処理等を実施すると良い。これは、絶縁膜表面の−OH基を増やして、導入されるフッ化オルガノ基を増加させるためである。特に炭素でない元素Mの無機酸化物は表面にM−O−Mの結合が露出している。この結合のままではシリル化処理がされない可能性があるので、親水化処理により、2つのM−OH残基を生成すると良い。
【0022】
図1.Aの有機半導体から成るチャネル形成層30及び図1.Bの有機半導体から成るチャネル形成層31としては、ペンタセン、チオフェン、ポリチオフェン、フタロシアニンなどの既に公知となった有機半導体を用い得ることは勿論、任意の有機半導体を適用し得る。本発明の実施にはペンタセンやアルキル置換ヘキサベンゾコロネンを用いると良い。
また、有機半導体層は、真空蒸着法、CVD法、スパッタリング法、レーザー蒸着法などのドライ成膜法、スピンコート法、ディップ法、インクジェット印刷やスクリーン印刷などの印刷法等の周知の成膜方法により形成できる。ドライ成膜法は成膜性が良く均一な膜が得られやすい。ウェット成膜法は、比較的安価な設備で大面積の薄膜を形成しやすい。これらの中で特に好ましい成膜法は真空蒸着法である。
また有機半導体層と絶縁膜と界面で、絶縁膜表面に形成された、化1の化合物の反応物のフッ化オルガノ基の配向性向上を目的として、有機半導体層を形成後に加熱してアニールしても良い。加熱温度は反応物の分解しない程度の温度であり、プラステチック基板などの場合には基板が変形しない温度であれば良い。好ましい温度は50乃至150度である。
【0023】
図1.Aのゲート電極40g及び図1.Bのゲート電極41gとしては、アルミニウム、金、白金、クロム、タングステン、タンタル、ニッケル、銅、銀、マグネシウム、カルシウム等の金属、あるいはそれらの合金、およびポリシリコン、アモルファスシリコン、グラファイト、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛、導電性ポリマー等の材料を用い得る。これらを、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、RFスパッタ法または印刷法等の周知の成膜方法によりゲート電極40g及び41gを形成することができる。
ドレイン電極40d、41dおよびソース電極40s、41sも、ゲート電極と同様の材料から選択し、同様の形成方法から選択することで、形成可能である。密着性をあげるために、積層構造としても良い。
【実施例】
【0024】
図1.Aに示す積層構造のエタノール用ガスセンサ(有機電界効果トランジスタ)100を作製した。導電性基板10にはアンチモン(Sb)がドープされ、抵抗率が0.02Ωcm以下のシリコン(Si)ウェハを用いた。シリコン(Si)から成る導電性基板10の表面を熱酸化して、厚さ300nmのSiO2から成るゲート絶縁膜20を形成した。ゲート絶縁膜20の絶縁体容量は10nF/cm2であった。
【0025】
次に、ゲート絶縁膜20の表面20sのフッ化オルガノシリル化処理を行った。これは、まず紫外線によるオゾン処理(親水化)を施した上、1,1,1−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(化6でa、以下、TFPSと称す)または1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン(化7でa、以下、TDFOSと称す)により処理した。
以下の実施例では、1,1,1−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(化6でa、TFPS)または1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン(化7でa、TDFOS)を用いたが、既に述べた通り、脱離性の基であるメトキシ基に替えて、エトキシ基(化6でb、化7でb)やクロロ器に置き換えたもの(化6でc、化7でc)も反応物であるエタノールや塩化水素を十分に除去すれば、トリメトキシタイプのTFPSやTDFOSと同様の結果になることは当然であると言える。或いは更に、他のフッ化オルガノ基をゲート絶縁膜20の表面に残すように、所望のフッ化オルガノ基を結合させたフッ化オルガノシリル化剤を用いても良い。
【0026】
次に、有機半導体として、ペンタセン(C2214)、2,11−ジヘキシルヘキサ−ペリ−ヘキサベンゾコロネン(以下、2HHBCと称す)、又は2,5,11,14−テトラヘキシルヘキサ−ペリ−ヘキサベンゾコロネン(以下、4HHBCと称す)を真空蒸着法により30nmの厚さで成膜し、有機半導体(有機材料)から成るチャネル形成層30を形成した。ペンタセンの真空蒸着の際には、導電性基板10の温度を室温としたが、2HHBCと4HHBCの場合は室温と150℃とでそれぞれ真空蒸着を実施した。
以下の実施例では、ペンタセン(化2)、2,11−ジヘキシルヘキサ−ペリ−ヘキサベンゾコロネン(2HHBC、化4)、又は2,5,11,14−テトラヘキシルヘキサ−ペリ−ヘキサベンゾコロネン(4HHBC、化5)を用いたが、既に述べた通り、本発明はフッ化オルガノシリル化処理されたゲート絶縁膜20表面にチャネルが影響されるような有機材料を用いることができ、ベンゼン環が多数縮合した化合物、或いはその構造を母核構造として有する誘導体を用いると良い。特に蒸着可能な有機半導体化合物は、ゲート絶縁膜20上に規則的に積層され易く、好ましい。
【0027】
次に有機半導体から成るチャネル形成層30上に、メカニカルマスクを用いて金(Au)を蒸着し、各々厚さ30nmのソース電極40sならびにドレイン電極40dを形成した。チャネル長は0.1mm、チャネル幅は6mmとした。この後、シリコン(Si)から成る導電性基板10裏面にアルミニウム(Al)を蒸着し、厚さ100nmのゲート電極40gを形成した。
【0028】
図1.Aのエタノール用ガスセンサ(有機電界効果トランジスタ)100の特性を次のように調べた。
まず、エタノール用ガスセンサ(有機電界効果トランジスタ)100を、エタノール(EtOH)蒸気及び水蒸気を各々導入可能な密閉容器に配置した。この際、チャネル形成層30の表面30sは当該密閉容器内の気体に暴露された状態となった。
次に、ソース電極40sを接地電位とし、ドレイン電極40dに−50V印加し、保持した。
ゲート電極40gには、チャネル形成層30にpチャネルが形成されてトランジスタがオンとなる負電位としての−50Vの印加と、チャネル形成層30からpチャネルが消滅する電位としての0Vの印加とを、各々1秒ずつ連続的に印加した。
密閉容器内が乾燥空気であるとき、即ち、エタノール(EtOH)濃度が0ppmで水蒸気濃度も0ppmの時のドレイン電流ID0に対する、エタノール(EtOH)濃度が1000ppmの時、或いは水蒸気濃度が1000ppmの時のドレイン電流の減少分ΔIDを検出し、比ΔID/ID0を求めて、エタノール感度、水感度の値とした。更に、エタノール感度と水感度の比である選択比を求めた。
比較例としては、ゲート絶縁膜20の表面20sを、ゲート絶縁膜20を形成したのちに何らの処理もしないまま、有機半導体から成るチャネル形成層30を形成したものを作成し、同様にしてエタノール感度、水感度の値を求め、エタノール感度と水感度の比である選択比を求めた。
以下に、実施例1乃至8及び比較例1乃至5の結果を表1乃至表5として示す。表1乃至表5においては、エタノール感度、水感度の値はΔID/ID0をパーセント表示したものである。
【0029】
表1は、ペンタセン(化2)から成るチャネル形成層30を室温で形成した場合の結果を3例、示したものである。
【表1】

【0030】
チャネル形成層30の形成に先立って、ゲート絶縁膜20の表面20sをフッ化オルガノシリル化処理しない場合(比較例1)に比較して、ゲート絶縁膜20の表面20sをTFPS(化6、実施例1)又はTDFOS(化7、実施例2)によりフルオロアルキルシリル化処理した場合は、エタノール感度が大きくは減少しなかった。一方、ゲート絶縁膜20の表面20sをフッ化オルガノシリル化処理しない場合(比較例1)に比較して、ゲート絶縁膜20の表面20sをTFPS(実施例1)又はTDFOS(実施例2)によりフルオロアルキルシリル化処理した場合は、水感度が大きく減少した。即ち、実施例1及び実施例2においては、エタノール感度と水感度の比である選択比が6.4及び15となり、比較例1の選択比1.2よりも非常に大きくなった。即ち、チャネル形成層30の形成に先立って、ゲート絶縁膜20の表面20sをフッ化オルガノシリル化処理した場合に、水分子に対する感度が低下した、有用なエタノール用ガスセンサ100が得られた。
ペンタセンから成るチャネル形成層30と接するゲート絶縁膜20の表面20sの処理は、パーフルオロメチル基を有するTFPSによる処理(実施例1)に比較して、より長いパーフルオロヘキシル基を有するTDFOSによる処理(実施例2)の方が、エタノール感度と水感度の比である選択比が大きく、良好であった。
【0031】
表2は、2HHBC(化4)から成るチャネル形成層30を室温で形成した場合の結果を3例、示したものである。
【表2】

【0032】
チャネル形成層30の形成に先立って、ゲート絶縁膜20の表面20sをフッ化オルガノシリル化処理しない場合(比較例2)に比較して、ゲート絶縁膜20の表面20sをTFPS(化6、実施例3)又はTDFOS(化7、実施例4)によりフルオロアルキルシリル化処理した場合は、エタノール感度が大きくは減少しなかった。一方、ゲート絶縁膜20の表面20sをフッ化オルガノシリル化処理しない場合(比較例2)に比較して、ゲート絶縁膜20の表面20sをTFPS(実施例3)又はTDFOS(実施例4)によりフルオロアルキルシリル化処理した場合は、水感度が大きく減少した。即ち、実施例3及び実施例4においては、エタノール感度と水感度の比である選択比が12及び9.2となり、比較例2の選択比3.3よりも非常に大きくなった。即ち、チャネル形成層30の形成に先立って、ゲート絶縁膜20の表面20sをフッ化オルガノシリル化処理した場合に、水分子に対する感度が低下した、有用なエタノール用ガスセンサ100が得られた。
2HHBC(化4)から成るチャネル形成層30と接するゲート絶縁膜20の表面20sの処理は、パーフルオロヘキシル基を有するTDFOSによる処理(実施例4)に比較して、短いパーフルオロメチル基を有するTFPSによる処理(実施例3)の方が、エタノール感度と水感度の比である選択比がやや大きく、良好であった。
【0033】
表3は、2HHBC(化4)から成るチャネル形成層30を150℃で形成した場合の結果を2例、示したものである。
【表3】

【0034】
チャネル形成層30の形成に先立って、ゲート絶縁膜20の表面20sをフッ化オルガノシリル化処理しない場合(比較例3)に比較して、ゲート絶縁膜20の表面20sをTFPS(実施例5)によりフルオロアルキルシリル化処理した場合は、エタノール感度が大きくは減少しなかった。一方、ゲート絶縁膜20の表面20sをフッ化オルガノシリル化処理しない場合(比較例3)に比較して、ゲート絶縁膜20の表面20sをTFPS(実施例5)によりフルオロアルキルシリル化処理した場合は、水感度が大きく減少した。即ち、実施例5においては、エタノール感度と水感度の比である選択比が17と、比較例3の選択比11よりも大きくなった。即ち、チャネル形成層30の形成に先立って、ゲート絶縁膜20の表面20sをフッ化オルガノシリル化処理した場合に、水分子に対する感度が低下した、有用なエタノール用ガスセンサ100が得られた。
【0035】
表4は、4HHBC(化5)から成るチャネル形成層30を室温で形成した場合の結果を3例、示したものである。
【表4】

【0036】
チャネル形成層30の形成に先立って、ゲート絶縁膜20の表面20sをフッ化オルガノシリル化処理しない場合(比較例4)は、ドレイン電流の変化が測定できず、エタノール用ガスセンサとして利用できなかった。ゲート絶縁膜20の表面20sをTFPS(実施例6)又はTDFOS(実施例7)によりフルオロアルキルシリル化処理した場合は、エタノール感度と水感度の比である選択比が13及び21と、非常に大きくなった。即ち、チャネル形成層30の形成に先立って、ゲート絶縁膜20の表面20sをフッ化オルガノシリル化処理した場合に、水分子に対する感度が低下した、有用なエタノール用ガスセンサ100が得られた。
4HHBC(化5)から成るチャネル形成層30と接するゲート絶縁膜20の表面20sの処理は、パーフルオロメチル基を有するTFPSによる処理(実施例6)に比較して、より長いパーフルオロヘキシル基を有するTDFOSによる処理(実施例7)の方が、エタノール感度と水感度の比である選択比が大きく、良好であった。
【0037】
表5は、4HHBC(化5)から成るチャネル形成層30を150℃で形成した場合の結果を3例、示したものである。
【表5】

【0038】
チャネル形成層30の形成に先立って、ゲート絶縁膜20の表面20sをフッ化オルガノシリル化処理しない場合(比較例5)に比較して、ゲート絶縁膜20の表面20sをTDFOS(実施例8)によりフルオロアルキルシリル化処理した場合は、エタノール感度が約1/9に減少した。一方、ゲート絶縁膜20の表面20sをフッ化オルガノシリル化処理しない場合(比較例5)に比較して、ゲート絶縁膜20の表面20sをTDFOS(実施例8)によりフルオロアルキルシリル化処理した場合は、水感度が約1/24に減少した。即ち、実施例8においては、エタノール感度と水感度の比である選択比が23となり、比較例1の選択比8.2よりも大きくなった。即ち、チャネル形成層30の形成に先立って、ゲート絶縁膜20の表面20sをフッ化オルガノシリル化処理した場合に、水分子に対する感度が低下した、有用なエタノール用ガスセンサ100が得られた。
【0039】
別の観点から以上の結果を見ると、5環構造のペンタセン(化2)よりも、13環構造の2HHBC(化4)を用いた方がエタノールと水の選択比(エタノール感度/水感度)が良く、2HHBC(化4)よりも置換基の多い4HHBC(化5)を用いた方が更にエタノールと水の選択比が良いことがわかる。このように、ベンゼン環が多数縮合した化合物でも、より多数のベンゼン環が縮合し、且つ置換基が多い方がエタノールと水の選択比が良い。
特に、SiO2から成るゲート絶縁膜の表面をTDFOS(化7でa)で処理してペンタセン(化2)を室温で蒸着した場合は選択比が15、SiO2から成るゲート絶縁膜の表面をTFPS(化6でa)で処理して2HHBC(化4)を室温又は150℃で蒸着した場合は選択比が各々12又は17、SiO2から成るゲート絶縁膜の表面をTDFOS(化7でa)で処理して4HHBC(化5)を室温又は150℃で蒸着した場合は、選択比が各々21及び23と極めて良好であった。
【0040】
尚、3メトキシ置換化合物であるTFPS(化6でa)を用いる替わりに3エメトキシ置換化合物(化6でb)や3クロロ置換化合物(化6でc)を用いても、上記実施例1、3、5及び6と同様の結果が得られる。この理由は、処理後の絶縁膜表面には、それらシリル化剤起源のメトキシ基、エトキシ基、クロロ基が残らないからである。
全く同様に、3メトキシ置換化合物であるTDFOS(化7でa)を用いる替わりに3エメトキシ置換化合物(化7でb)や3クロロ置換化合物(化7でc)を用いても、上記実施例2、4、7及び8と同様の結果が得られる。この理由も、処理後の絶縁膜表面には、それらシリル化剤起源のメトキシ基、エトキシ基、クロロ基が残らないからである。
【0041】
また、上記実施例では、化1のシリル化剤のフッ化アルキルシリル基Yとして、1,1,1−トリフルオロプロピル基(化1でm=2、n=1)、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロオクチル基(化1でm=2、n=6)を示した。これと同様に、フッ化アルキルシリル基Yとして、1,1,1,2,2,3,3,4,4−ナノフルオロヘキシル基(化1でm=2、n=4)、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8−ヘプタデカフルオロデシル基(化1でm=2、n=8、化8)を有するシリル化剤も入手可能であり、本実施例と同様の結果を得られる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は人の呼気中のエタノール濃度を測定するガスセンサの他、地下下水道管内のような湿潤な状況下で他の化合物、例えば硫化水素を検知する場合においても、水分子の影響が抑制された、ガスセンサとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の具体的な実施例に係るエタノール用ガスセンサ100の2つの構成を示す、2つの断面図。
【図2】従来のガスセンサ900の構成を示す断面図。
【符号の説明】
【0044】
100、200:エタノール用ガスセンサ(有機電界効果トランジスタ)
10:導電性基板
11:誘電体基板
20、21:ゲート絶縁膜
20s、21s:フッ化オルガノシリル化処理された絶縁膜表面
30、31:有機材料からなるチャネル形成層
40g、41g:ゲート電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機電界効果トランジスタを用いたエタノール用ガスセンサにおいて、
有機材料から成るチャネル形成層が、表面をフッ化オルガノシリル化処理されたゲート絶縁膜に接していることを特徴とするエタノール用ガスセンサ。
【請求項2】
前記ゲート絶縁膜が無機酸化物から成ることを特徴とする請求項1に記載のエタノール用ガスセンサ。
【請求項3】
前記チャネル形成層が、アルキル置換ヘキサベンゾコロネンから成ることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエタノール用ガスセンサ。
【請求項4】
前記チャネル形成層が、ペンタセン、2,11−ジヘキシルヘキサ−ペリ−ヘキサベンゾコロネン又は2,5,11,14−テトラヘキシルヘキサ−ペリ−ヘキサベンゾコロネンから成ることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエタノール用ガスセンサ。
【請求項5】
フッ化オルガノシリル化処理に用いられたシリル化剤として、ケイ素原子に、1,1,1−トリフルオロプロピル基、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロオクチル基、又は、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8−ヘプタデカフルオロデシル基が結合した化合物を用いたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のエタノール用ガスセンサ。
【請求項6】
フッ化オルガノシリル化処理に用いられたシリル化剤として、ケイ素原子に、メトキシ基、エトキシ基、クロロ基から選ばれる置換基が1個以上3個以下結合した化合物を用いたことを特徴とする請求項5に記載のエタノール用ガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−151659(P2010−151659A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330940(P2008−330940)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】