説明

エチルベンゼンの転化方法およびパラキシレンの製造方法

【課題】C8芳香族炭化水素を含む原料中のエチルベンゼンを高い転化率でベンゼンに変換するエチルベンゼンの転化方法を提供すること。
【解決手段】エチルベンゼンの転化方法は、エチルベンゼンを含むC8芳香族炭化水素混合原料を、H2存在下でVII族及びVIII族の金属から選ばれる少なくとも1種の金属を含有してなる酸型触媒と接触させて、エチルベンゼンをベンゼンに転化する方法であり、原料がエチルトルエンを含んだC9〜C10芳香族炭化水素を含有し、前記エチルベンゼンの転化と共に該エチルトルエンをトルエンに転化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチルベンゼンの転化方法、パラキシレンの製造方法に関するものである。さらに詳しくは、C8芳香族炭化水素に含まれるエチルベンゼンを水素化脱エチルして転化する方法、C8芳香族炭化水素に含まれるエチルベンゼンを水素化脱エチルして転化し、キシレンを異性化してパラキシレンを分離するパラキシレンの製造方法およびその製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
キシレン異性体のうち、最も重要なものはパラキシレンである。パラキシレンは、現在ナイロンと並んで主要ポリマーであるポリエステルのモノマー、テレフタル酸の原料に使われており、近年その需要はアジアを中心として旺盛である。
【0003】
パラキシレンは、通常ナフサを改質処理し、その後芳香族抽出或いは分留により得られるC8芳香族炭化水素混合物、又は、ナフサの熱分解により副生する分解ガソリンを芳香族抽出或いは分留により得られるC8芳香族炭化水素混合物などから製造される。このC8芳香族炭化水素混合物原料の組成は広範囲に変わるが、通常エチルベンゼンを10〜40重量%、パラキシレンを12〜25重量%、メタキシレンを30〜50重量%、オルソキシレンを12〜25重量%含む。通常C8芳香族炭化水素混合物原料は炭素数9以上の高沸点成分を含んでいるため、これを蒸留により除去し、得られたC8芳香族炭化水素をパラキシレン分離工程に供給されパラキシレンは分離回収される。しかしながらパラキシレンとメタキシレンの沸点はそれぞれ、138.4℃、139℃とその差が僅か約1℃しかなく蒸留分離による回収は工業的に極めて非効率である。従って一般的に融点差を利用して分離する深冷分離法か、ゼオライト吸着剤により吸着性の差を利用して分離する吸着分離法がある。分離工程を出たパラキシレンに乏しいC8芳香族炭化水素は次に異性化工程に送られ、主にゼオライト触媒により熱力学的平衡組成に近いパラキシレン濃度までに異性化され、蒸留分離により低沸点である副生物を除去した後、上記の新たなC8芳香族炭化水素原料と混合されて高沸点成分を除去する蒸留塔にリサイクルされ、炭素数9以上の高沸点成分を蒸留除去後、パラキシレン分離工程で再度パラキシレンを分離回収する。この一連の循環系を以後「分離−異性化サイクル」と呼ぶ。
【0004】
図2に、この「分離−異性化サイクル」のフローを示す。この「分離−異性化サイクル」は、基本的にリフォーマー等から得られたC8芳香族炭化水素混合原料(以後、フレッシュ原料と呼ぶ)と異性化工程からのリサイクル原料に含まれるC8芳香族炭化水素を回収し高沸点成分を分離除去する高沸点成分蒸留分離工程1、製品パラキシレンを分離するパラキシレン分離工程2、パラキシレン濃度の乏しいC8芳香族炭化水素原料(以後、ラフィネートキシレンと呼ぶ)のキシレン異性化とエチルベンゼン転化を行うキシレン異性化工程3、異性化工程で副生したベンゼン及びトルエンのような低沸点成分を分離回収する低沸点成分蒸留分離工程4を有する。まずC8芳香族炭化水素混合原料は、ストリーム5で示される供給ラインから高沸点成分蒸留分離工程1に送られ、高沸点成分をストリーム7で示されるラインを通じて除去する。高沸点成分が除去されたC8芳香族炭化水素原料はストリーム6で示されるラインを通じてパラキシレン分離工程2に送られ、ストリーム8で示されるラインから製品パラキシレンを分離回収する。そしてパラキシレン濃度の乏しいC8芳香族炭化水素原料は、ストリーム9で示されるラインを通じてキシレン異性化工程3に送られ、エチルベンゼンは後で述べるように、ベンゼン、或いはC8ナフテンパラフィンを経由してキシレンに転化するとともに、パラキシレン濃度の乏しいラフィネートキシレンは、熱力学的平衡組成に近いパラキシレン濃度まで異性化される。尚、異性化工程にはストリーム10で示されるラインを通じて水素又は水素を含むガスも送られる。異性化工程から出てきた副生物を含むC8芳香族炭化水素は、ストリーム11で示されるラインを通じて、低沸点成分蒸留分離工程4に送られ、異性化工程で副生したベンゼン及びトルエンのような低沸点成分をストリーム12で示されるラインを通じて分離除去し、高沸点成分を含んだパラキシレンリッチなリサイクル原料がストリーム13で示されるラインを通じて高沸点成分蒸留分離工程1に送られる。この高沸点成分蒸留分離工程1で高沸点成分を除去し、再度パラキシレン分離工程2にリサイクルされる。尚、この「分離−異性化サイクル」に蒸留塔を1塔組み入れてオルソキシレンも併産するオプションもある。
【0005】
この「分離−異性化サイクル」に供給されるC8芳香族炭化水素は上記の通り、かなりの量のエチルベンゼンを含んでいるが、上記「分離−異性化サイクル」においては、このエチルベンゼンは除去されずに、サイクル中に残り、エチルベンゼンが蓄積してしまう。このエチルベンゼンの蓄積を防ぐために、何らかの方法でエチルベンゼンを除去すれば、その除去率に応じた量のエチルベンゼンが「分離−異性化サイクル」を循環する。このエチルベンゼンの循環量が少なくなれば全体の循環量も少なくなるので、パラキシレン分離工程以降の工程の用役使用量が少なくなり経済的なメリットが大きい。つまり、同じ循環量ベースでみれば、サイクル中のエチルベンゼン濃度が低下した分に応じて、パラキシレンの増産が可能となる。
【0006】
エチルベンゼン除去として一般的な方法は2つあり、1つは異性化工程でキシレンの異性化を行うと同時にエチルベンゼンをキシレンに異性化する改質法、もう1つは同じくキシレンの異性化工程でエチルベンゼンを水素化脱アルキルしてベンゼンに転換し、その後の蒸留分離工程でベンゼンを蒸留分離する脱アルキル化法である。しかし異性化法はエチルベンゼンとキシレンとの間にある平衡により、エチルベンゼン転化率は20〜30%程度しかならないのに対し、上記脱アルキル化反応は実質的に非平衡反応であるので、エチルベンゼン転化率を高くすることが可能である。故に現在は脱アルキル化法でエチルベンゼンを除去する方法が一般的である。然しながら、異性化工程において、非常に高いエチルベンゼン転化率で運転し、どんなにエチルベンゼンを除去しても、「分離−異性化サイクル」に供給されるC8芳香族炭化水素混合原料にはもともとエチルベンゼンが含まれているため、パラキシレン分離工程への供給量も、このエチルベンゼンの含有量分だけは下げることができない。
【0007】
この「分離−異性化サイクル」へのエチルベンゼン供給量さえもほとんど低減して、パラキシレン分離工程へのエチルベンゼン供給量を更に下げるために、事前に「分離−異性化サイクル」に供給するフレッシュ原料中のエチルベンゼンをワンパスでほとんど脱アルキル化してベンゼンに転化、蒸留分離することにより、パラキシレン分離工程への供給量を下げる方法が、特許文献1、2に開示されている。しかしその具体的に記載された方法は、実質的には触媒活性劣化防止の観点から、いずれももともとフレッシュ原料に含まれる炭素数9以上の高沸点成分の濃度を下げるため、脱アルキル化反応の前に蒸留分離により当該高沸点成分を除去しておく必要がある。
【0008】
図3はその実施態様を示すフロー図であるが、事前にエチルベンゼンをワンパスで脱エチル化する脱エチル化・キシレン異性化工程15と、エチルベンゼンが脱エチル化して転化したベンゼンを蒸留分離回収する低沸点成分蒸留分離工程16、及びもともとC8芳香族炭化水素混合原料に含まれる高沸点成分を蒸留分離除去する高沸点成分蒸留分離工程14が新たに加えられる。即ち、脱エチル化工程で使用される触媒の保護のため、ストリーム5で示されるラインを通じてC8芳香族炭化水素混合原料を高沸点成分蒸留分離工程14で触媒被毒物となる高沸点成分をストリーム18で示されるラインを通じて蒸留分離し、留分をストリーム17で示されるラインを通じて脱エチル化・キシレン異性化工程15に送られる。脱エチル化工程にはストリーム19で示されるラインを通じて水素又は水素を含むガスも一緒に送られる。高度にエチルベンゼンが脱エチル化され、かつ副生物を含むC8芳香族炭化水素は、ストリーム20で示されるラインを通じて、低沸点成分蒸留分離工程16に送られ、脱エチル化工程で副生したベンゼン及びトルエンのような低沸点成分をストリーム21で示されるラインを通じて分離除去し、高沸点成分がストリーム22で示されるラインを通じて先述の「分離−異性化」サイクルに送られる。しかしこの場合、高沸点成分蒸留分離工程14及び低沸点成分蒸留分離工程16を新たに組み込むことにより、一方で用役使用量が増加し、導入メリットを下げてしまう問題がある。
【0009】
また、上述の実施態様の場合は、当然のことながら脱エチル化工程の設備を新設する建設コストが余分にかかるが、専用の脱エチル化工程を独立して設置せずに、もともとの「分離−異性化」サイクルにあるキシレン異性化工程に、通常のキシレン異性化能だけでなくエチルベンゼンを高度に脱エチル化する機能を有した触媒を導入し、図4に示すとおり、ストリーム17で示されるフレッシュ原料を、ストリーム9で示されるパラキシレン分離工程から来るラフィネートキシレンと混合して、直接異性化工程3に供給し、高い転化率でエチルベンゼンを脱エチル化し、これを低沸点成分蒸留分離工程4でベンゼンを含む低沸点成分を除去した後、ストリーム13で示される、エチルベンゼン濃度が非常に低く、且つパラキシレン濃度に富んだリサイクル原料を、高沸点成分蒸留分離工程1及びパラキシレン分離工程2に送ることを特徴とする、パラキシレンを製造する方法が特許文献4に開示されている。この方法はダイレクト・フィード法と呼ばれ、脱エチル化工程の設備を単独に設置しなくても、キシレン異性化工程の触媒の積み増し或いは高活性な触媒への入れ替え等の簡単な設備改造で済むため、比較的少ない設備投資でパラキシレンの増産が可能となる。然しながら、特許文献4によれば、このダイレクト・フィード法においても、実質的には触媒活性劣化防止の観点から、フレッシュ原料中に炭素数9以上の高沸点成分を含む場合は、これを蒸留分離により事前除去する必要がある旨の記載があり、この場合においても高沸点成分蒸留分離工程14の設置が必要で、これを組み込むことによる設備投資、及び用役使用量の増加は避けられない。
【0010】
一般に高度にエチルベンゼンを転化するためには、反応温度を上げたり高活性な触媒と接触させる。エチルベンゼンの転化率が高くなると、キシレンの収率低下が顕在化するが、そのロスの内訳としては、(1)エチルベンゼンが脱エチル化したベンゼンとキシレンとのトランスアルキル化反応によりトルエンに転化するロス、が最も多く、その他には、(2)キシレン同士の不均化反応によりトルエンとトリメチルベンゼンを転化するロス、(3)キシレンが核水添反応してシクロパラフィン或いはノルマルパラフィン、イソパラフィンといったノンアロマチックスに転化するロスがある。更には上記核水添反応により生成したノンアロマチックスは蒸留分離により得られたベンゼン中に混入するため、スルフォラン工程などいわゆる抽出処理をさらに行う必要があり、その抽出工程処理量増加による用役使用量の増加といった経済デメリットも出てくる。
【0011】
特許文献3には、キシレンの異性化工程において、高沸点成分であるC9及びC10芳香族炭化水素を含んだ原料を用い、エチルベンゼンを転化することが記載されているが、C9+芳香族炭化水素として、エチルトルエンを用いること、及びそれを転化することは開示されていない。すなわち同文献3の実施例には0.01重量%未満のC9+芳香族炭化水素を含む供給原料を用いてエチルベンゼンの転化を行ったこと、この反応の結果、0.1重量%あるいは0.2重量%のC9+芳香族炭化水素を含む反応生成物が得られたことが記載されている。同文献におけるC9+芳香族炭化水素が関与する副反応についての説明によれば、上記反応におけるC9+芳香族炭化水素の増加はキシレンやエチルベンゼンの不均化反応によるトリメチルベンゼン、ジエチルベンゼンの生成や、エチルベンゼンとキシレンのトランスアルキル化反応によるメチルエチルベンゼン、ジメチルエチルベンゼンの生成等の副反応が生起しているものと思料される。また、特許文献3には更に、オプショナルケースとして、トルエンを意図的に混入させて、キシレン同士の不均化反応によるキシレンロスを抑える方法が開示されている。然しながら、この意図的に混入させるトルエンは、ハイオクタン価のガソリン基材や溶剤、不均化工程の原料など、多くの用途で使用される価値の高い重要な基礎原料でもあることから、他にキシレンロス抑制の方法があるのであれば、できるだけ原料への混合投入を避けたい成分である。
【0012】
【特許文献1】特開平01−056626号公報
【特許文献2】米国特許第6342649号明細書
【特許文献3】米国特許第5977429号明細書
【特許文献4】特開平08−143483号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、C8芳香族炭化水素を含む原料中のエチルベンゼンを高い転化率でベンゼンに変換するエチルベンゼンの転化方法を提供することを課題とする。
【0014】
また、本発明は、C8芳香族炭化水素を含む原料中のエチルベンゼンをベンゼンに変換すると共に、キシレンの異性化を行うに際し、エチルベンゼンの転化率が高く、かつキシレンのロスがより少ない、経済的に優位な方法を提供することを課題とする。
【0015】
さらに本発明は、C8芳香族炭化水素を含む原料中のエチルベンゼンを転化すると共にキシレンを異性化する異性化工程を経た反応物中から、純度の高いベンゼンを回収する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、原料中にエチルトルエンを含ませ、H2存在下で触媒被毒物に強い酸型触媒と接触させて、エチルベンゼンの脱エチル化反応を行うことにより、上記課題を達成し得ることを見出し、本発明に到達した。
【0017】
すなわち、本発明は下記の構成からなる。
【0018】
(1) エチルベンゼンを含むC8芳香族炭化水素混合原料を、H2存在下でVII族及びVIII族の金属から選ばれる少なくとも1種の金属を含有してなる酸型触媒と接触させて、エチルベンゼンをベンゼンに転化する方法であって、前記原料がエチルトルエンを含んだC9〜C10芳香族炭化水素を含有し、前記エチルベンゼンの転化と共に該エチルトルエンをトルエンに転化することを含むエチルベンゼンの転化方法。
【0019】
(2) 反応により生成したベンゼンを蒸留分離して純度99.8重量%以上のベンゼンを回収することをさらに含む前記(1)記載のエチルベンゼンの転化方法。
【0020】
(3) エチルベンゼン及びキシレンを含むC8芳香族炭化水素混合原料を前記(1)又は(2)記載の方法に付し、エチルベンゼンをベンゼンに転化すると共にキシレンを異性化する工程と、得られた反応生成物から、パラキシレンを分離する工程を含むパラキシレンの製造方法。
【0021】
(4) エチルベンゼン及びキシレンを含むC8芳香族炭化水素混合原料を前記(3)記載の方法に付し、エチルベンゼンをベンゼンに転化すると共にキシレンを異性化する、第1の脱エチル化・キシレン異性化工程と、該第1の脱エチル化・キシレン異性化工程で得られた反応生成物から、パラキシレンを分離する工程と、該分離工程の分離残中に含まれるキシレンを第2のキシレン異性化工程に付して異性化を行う工程と、該第2のキシレン異性化工程の反応生成物から再度パラキシレンを分離する工程を含む、パラキシレンの製造方法。
【0022】
(5) エチルベンゼン及びキシレンを含むC8芳香族炭化水素混合原料を前記(3)記載の方法に付し、エチルベンゼンをベンゼンに転化すると共にキシレンを異性化する、脱エチル化・キシレン異性化工程と、該脱エチル化・キシレン異性化工程で得られた反応生成物から、パラキシレンを分離する工程と、該分離工程の分離残を前記脱エチル化・キシレン異性化工程に再度供給する工程を含む、パラキシレンの製造方法。
【0023】
(6) 前記(4)記載の第1の脱エチル化・キシレン異性化工程、パラキシレン分離工程、第2のキシレン異性化工程を行うためのパラキシレン製造装置を用いるパラキシレンの製造方法であって、前記装置は、第1の脱エチル化・キシレン異性化工程を通らないバイパスラインを具備し、エチルトルエンを含んだC9〜C10芳香族炭化水素を混合した前記C8芳香族炭化水素混合原料を、必要に応じ、前記パラキシレン分離工程に供給することを含むパラキシレンの製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、エチルベンゼンを含むC8芳香族炭化水素混合原料にエチルトルエンを含むC9、C10芳香族炭化水素を混合して、これを水素存在下でVII族及びVIII族の金属から選ばれる少なくとも1つの金属を含有してなる酸型触媒と接触させて、エチルベンゼンをベンゼンに転化すると共にキシレンを異性化する異性化工程を行なうことにより、キシレンロスを抑え、高度にエチルベンゼンを水素化脱エチル化してベンゼンに転化することが出来る。また原料中のエチルトルエンは脱エチル化により有用なトルエンに転化され、副製品として回収できる。
【0025】
また、本発明によれば、C8芳香族炭化水素を含む原料中のエチルベンゼンを転化して生成した反応物中から、純度の高いベンゼンを回収する方法を提供することができる。これにより、回収後に、抽出工程を通さずに製品化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明はエチルベンゼンの脱エチル化反応の際、供給するエチルベンゼンを含むC8芳香族炭化水素混合原料がエチルトルエンを含むことを特徴とするものであるが、通常エチルトルエンは「分離−異性化サイクル」に供給されるC8芳香族炭化水素を含む原料の高沸点成分に5〜15重量%含まれている。そのため、通常、脱エチル化工程で処理する際に高沸点成分を蒸留分離していた蒸留塔を実質的には省略することが可能となる。図1は本発明を実施するのに好ましいフローの一実施態様を示すが、従来技術フローの図3あるいは図4にあった高沸点成分蒸留分離工程14が省略できるものである。
【0027】
即ち本発明は、脱エチル化工程にて供給される原料中のエチルベンゼンの脱エチル化反応を行う際に、同じく、このC9及びC10芳香族炭化水素を含んだ供給原料に含まれるエチルトルエンの脱エチル化反応を同時に行い、これをトルエンに転化することで、エチルトルエンを有効利用してトルエンを得ることができ、例えば特許文献3に代表されるような従来技術のように、他用途の多い有用なトルエンをわざわざ混入する必要がない。さらに、上記説明したキシレンロスの原因となっている、キシレンの不均化反応、或いは、エチルベンゼンが脱エチル化したベンゼンとキシレンとのトランスアルキル化反応は、平衡反応であるため、エチルトルエンの脱エチル化により得られたトルエンの存在により、これら副反応の促進を抑えられ、キシレンのロスを低減するものである。
【0028】
本発明の方法で使用される触媒は、固体酸に後述する所定の金属をドープした酸型触媒であり、固体酸としては、酸型ゼオライトを挙げることが出来る。酸型ゼオライトとして本発明に利用できるゼオライトとしては、ペンタシル型ゼオライトを挙げることができ、例えば10員酸素環の細孔を有するペンタシル型(MFI型)ゼオライト(例えば、特公昭60−35284号公報第4−5頁の実施例1、特公昭46−10064号公報第7頁の例1参照)を使用することができる。ゼオライトとしては、天然品、合成品何れでも使用できるが、好ましくは、合成ゼオライトである。このようなペンタシル型ゼオライト自体及びその製造方法は周知であり、下記実施例にもその合成方法の1例が具体的に記載されている。又、同じゼオライト構造であっても、その組成、特に、シリカ/アルミナモル比(SiO2/Al2O3モル比)やゼオライト結晶子の大きさ等によってもその触媒性能は変化する。
【0029】
ゼオライトを構成するシリカ/アルミナモル比の好ましい範囲は、ゼオライト構造にも依存している。例えば、合成ペンタシル型ゼオライトでは、好ましいシリカ/アルミナモル比は10〜70、より好ましくは20〜55である。ゼオライト合成時の各成分の組成比を制御することによって、達成できる。更には、ゼオライト構造を構成するアルミニウムを塩酸等の酸水溶液、或いは、アルミニウムキレート剤、例えば、エチレンジアミン4酢酸(EDTA)等で除去することにより、ゼオライトのシリカ/アルミナモル比を増加させることが出来る。又、逆に、アルミニウムイオンを含む水溶液、例えば、硝酸アルミニウム水溶液、アルミン酸ソーダ水溶液等で処理することによりゼオライト構造の中にアルミニウムを導入しゼオライトのシリカ/アルミナモル比を増加させ好ましいシリカ/アルミナモル比にすることも可能である。シリカ/アルミナモル比の測定は、原子吸光法、蛍光X線回折法、ICP(誘導結合プラズマ)発光分光法等で容易に知ることが出来る。
【0030】
合成ゼオライトは、一般に粉末であるので、使用に当たっては、成型することが好ましい。成型法には、圧縮成型法、転動法、押出法等が例として挙げられるが、より好ましくは、押出法である。押出法では、合成ゼオライト粉末にアルミナゾル、アルミナゲル、ベントナイト、カオリン等のバインダー及び必要に応じて、ドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、スパン、ツインなどの界面活性剤が成型助剤として添加され、混練りされる。
【0031】
必要によっては、ニーダーなどの機械が使用される。更には、触媒に添加する金属によっては、ゼオライト成型時にアルミナ、チタニア等の金属酸化物を加え、触媒に添加する金属の担持量を増加させたり、分散性を向上させたりする。混練りされた混練り物は、スクリーンから押し出される。工業的には、例えば、エクストリューダーと呼ばれる押出機が使用される。スクリーンから押し出された混練り物はヌードル状物となる。使用するスクリーン径により成形体の大きさが決定される。スクリーン径としては、好ましくは0.2〜1.5mmφが用いられる。スクリーンから押し出されたヌードル状成形体は、角を丸めるために、マルメライザーにより処理されるのが好ましい。このようにして成型された成型体は、50〜250℃で乾燥される。乾燥後、成形強度を向上させる為、250〜600℃、好ましくは350〜600℃で焼成される。
【0032】
このようにして調製された成形体は、固体酸性を付与するためのイオン交換処理が行われる。固体酸性を付与する方法としては、アンモニウムイオンを含む化合物(例えば、NH4Cl、NH4NO3、(NH4)2SO4等)でイオン交換処理し、ゼオライトのイオン交換サイトにNH4イオンを導入し、しかる後、乾燥、焼成により、水素イオンに変換する方法、或いは、直接、酸を含む化合物(例えば、HCl、HNO3、H3PO4等)で、ゼオライトのイオン交換サイトに水素イオンを導入する方法もあるが、後者は、ゼオライト構造を破壊する恐れがあるので、好ましくは前者、即ち、アンモニウムイオンを含む化合物でイオン交換処理される。或いは、2価、3価金属イオンをゼオライトイオン交換サイトに導入することによってもゼオライトに固体酸性を付与することが出来る。2価金属イオンとしては、アルカリ土類金属イオンであるMg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+を例として挙げることが出来る。3価金属イオンとしては、希土類金属イオンであるCe3+、La3+等を例として挙げることが出来る。2価及び/又は3価金属イオンを導入する方法とアンモニウムイオン或いは直接水素イオンを導入する方法と組み合わせて用いることもできるし、より好ましい時もある。イオン交換処理は、上記イオンを含む溶液、通常水溶液で前記ゼオライト等の担体を処理する、バッチ法或いは流通法で行われる。処理温度は、室温から100℃で行われるのが通常である。
【0033】
このようにしてイオン交換処理された後、水素化活性金属としてVII族、VIII族の金属の中から選択される少なくとも一つの金属が担持される。触媒反応系にH2を存在させ、水素化活性金属を担持することにより、触媒の経時劣化を防止することが出来る。水素化活性金属としては、白金、パラジウム、レニウム、等が好ましく用いられる。担持する金属により好ましい担持量は異なる。例えば、白金の場合は、触媒全体に対して0.005〜0.5重量%であり、より好ましくは0.01〜0.3重量%である。パラジウムの場合は、0.05〜1重量%が好ましく用いられる。レニウムの場合には好ましい担持量は0.01〜5.0重量%であり、より好ましくは0.1〜2重量%である。水添金属担持量が多くなると芳香族炭化水素が核水添され好ましくない。また水添金属担持量が少なくすぎると、脱エチル化反応の際の水素供給が十分でなくなるため触媒活性低下を招く。従って選ばれる金属種類、及び組み合わせと、その担持量は目標性能にあわせ適宜調整する必要がある。これら金属の担持法は、白金、パラジウム、レニウムのうちいずれか少なくとも一つを含む溶液、一般には、水溶液に触媒を浸漬し、担持される。白金成分としては、塩化白金酸、塩化白金酸アンモニウム等が、パラジウム成分としては、酢酸パラジウム、アセチルアセトンパラジウム、塩化パラジウム、硝酸パラジウム等が、レニウム成分としては、過レニウム酸、過レニウムアンモニウム等が利用される。
【0034】
このようにして調製された触媒は、50〜250℃で30分以上乾燥され、使用に先立って、350〜600℃で30分以上焼成される。
【0035】
なお、触媒としては、1種類の触媒を用いることもできるし、2種以上の触媒を組み合わせて用いることもできる。
【0036】
以上、述べたようにして調製された触媒は、従来知られている種々の反応操作に準じて行うことが出来る。反応方式は、固定床、移動床、流動床何れの方法も用いられるが、操作の容易さから固定床反応方式が、特に、好ましい。これら反応方式で、触媒は、次のような反応条件のもとで使用される。即ち、反応操作温度は200〜500℃、好ましくは、250〜450℃である。反応操作圧力は大気圧から10MPa、好ましくは、0.3〜2MPaである。反応の接触時間を表す重量時間空間速度(WHSV)は0.1〜50hr-1、好ましくは0.5〜20.0hr-1である。反応は、H2存在下で行なわれ、H2対供給原料油のモル比率は0.5〜10mol/molで、好ましくは1.5〜5.0mol/molである。H2は、反応系に水素ガスを導入することにより存在させることができる。供給原料油は、液相或いは気相状態どちらでもよい。
【0037】
供給原料油に含有させるエチルトルエンは、パラエチルトルエン、メタエチルトルエン、オルソエチルトルエン、いずれでもよく、異性体混合物であってもよい。これらエチルトルエン全体が供給原料中に1重量%以上、より好ましくは3重量%以上、より好ましくは5重量%以上存在していることが好ましい。上限としては通常20重量%以下であることが好ましく、15重量%以下であることがより好ましい。また、ナフサから、改質処理、分留により得られるC8芳香族炭化水素混合物には前記のとおりエチルトルエンが含まれるので、これをこのまま用いてもよい。そのため、従来必要としていた高沸点成分を除去する蒸留塔の設置を省略することも可能である。
【0038】
また、エチルトルエンは原料に添加する形で原料に含有させてもよい。原料に添加する場合にはエチルトルエン単独で混合してもよいし、これとその他のC9〜C10芳香族炭化水素を含む混合物の形で混合して供給原料に含ませても良い。
【0039】
上記酸型触媒を使用する本発明の方法では、50重量%以上、さらに好ましい態様においては70重量%以上、特に好ましい態様においては80重量%以上の高い転化率で原料に含まれるエチルトルエンを脱エチル化することができるため、エチルトルエン濃度が低い原料においても、キシレンロス抑制に役立つトルエンを多く得ることができる。
【0040】
更にはエチルベンゼンの脱アルキル化反応により副生したベンゼンは通常蒸留分離、及び、スルフォラン工程などの抽出分離により精製されるが、上記酸型触媒を使用する場合、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン、ノルマルヘキサンなどといった、ベンゼンに比較的沸点が近く蒸留分離が困難なノンアロマチックス成分の生成が少ないため、抽出処理を省略し蒸留分離のみで高純度のベンゼンを得ることができる。
【0041】
反応生成液組成から、蒸留分離した製品ベンゼンの純度推定式として、例えば、特表2002-504946号公報に記載されているような下式が紹介されている。本発明におけるベンゼン純度はこの製品ベンゼンの純度推定式により求められるベンゼン純度をいう。
【0042】
製品ベンゼン推定純度=([ベンゼン濃度]/ (a+b+c+d+[ベンゼン濃度])×100(%))
ここで、a〜dは以下に定義される。
a=0.1×[n−C6パラフィン濃度]
b=0.7×[メチルシクロペンタン濃度]
c=1.0×[シクロヘキサン濃度]
d=1.0×[C7ナフテンパラフィン濃度]
【0043】
酸型触媒に含有させる金属としてレニウムを用いる場合には、比較的水素化能力がマイルドであるため、核水素化分解による芳香族ロスが少ないため、ベンゼンに比較的沸点の近い上記不純物の生成が少なく、上式で定義される製品ベンゼン推定純度が99.8重量%以上となり、蒸留分離したベンゼンを、抽出工程のような更なる精製を経ずとも高純度のベンゼンをケミカルグレードの製品として得ることができる。一方、エチルトルエンの脱アルキル化反応から得られたトルエンは、蒸留分離により回収され、ガソリン基材や溶剤、或いは、キシレン、ベンゼンを製造する不均化工程の原料といった有効用途に使うことができる。
【0044】
また本発明においては、エチルベンゼン及びキシレンを含むC8芳香族炭化水素混合原料を用いて前記したエチルベンゼンの転化方法を行うことにより、エチルベンゼンをベンゼンに転化するだけでなく、キシレンも異性化できる(このエチルベンゼンをベンゼンに転化し、キシレンを異性化する工程を、「脱エチル化・キシレン異性化工程」もしくは「第1の脱エチル化・キシレン異性化工程」と称する)。これによりエチルベンゼン転化率が高いだけでなく、キシレンロスの少ない反応生成物が得られる。この反応生成物からパラキシレンを分離することにより、パラキシレンを得ることができる。反応生成物からのパラキシレンの分離自体は周知の方法により行なうことができ、例えば、融点差を利用して分離する深冷分離法や、ゼオライト吸着剤により吸着性の差を利用して分離する吸着分離法により行なうことができる。
【0045】
さらに、本発明では上記パラキシレンを分離した後のパラキシレンの乏しい分離残であるラフィネートキシレンを、第2のキシレン異性化工程を設けてキシレンの異性化を行うこともできる。この第2のキシレン異性化工程で行われる異性化方法には特に制限はなく、通常行われる方法で行うことができるし、上記「脱エチル化・キシレン異性化工程」と同様の工程を第2のキシレン異性化工程として行うこともできる。そして、この第2のキシレン異性化工程で得られた反応生成物から再びパラキシレンを分離することができる。このパラキシレン分離後の第二の分離残は、再び第1の脱エチル化・キシレン異性化工程に供給するC8芳香族炭化水素混合原料に混合してリサイクルしてもよいし、第二のキシレン異性化工程に第1の分離残とともにリサイクルし、「分離−異性化サイクル」を形成してもよい。
【0046】
また、本発明においては、エチルベンゼン及びキシレンを含むC8芳香族炭化水素混合原料を用い、上記第1の脱エチル化・キシレン異性化工程と同様の工程である、エチルベンゼンをベンゼンに転化し、キシレンを異性化する脱エチル化・キシレン異性化工程で得られた反応生成物から、パラキシレンを分離した後、その分離残を前記脱エチル化・キシレン異性化工程に再度供給する方法によりパラキシレンを製造することができる。この方法は、先述のダイレクトフィード法においても利用することが可能で、高沸点成分の蒸留分離処理を省略したエチルトルエン含有C8芳香族炭化水素混合原料を、パラキシレンを分離した後のラフィネートキシレンと混合し、上記酸型触媒を導入したキシレン異性化工程に送り、高い転化率でエチルベンゼンを脱エチル化し、キシレンを異性化した反応生成物から、再びパラキシレンを分離することができる。つまり、上記酸型触媒をキシレン異性化工程に導入した場合、一般的なダイレクト・フィード法の概念を示す図4において、高沸点成分蒸留分離工程14が省略できるものである。
【0047】
さらに上記第1の脱エチル化・キシレン異性化工程、パラキシレン分離工程、第2のキシレン異性化工程を行う場合、あるいは、それにさらに「分離−異性化サイクル」を行う場合、それを行うためのパラキシレン製造装置において、第1の脱エチル化・キシレン異性化工程を通らないバイパスライン、すなわち図1の脱エチル化・キシレン異性化工程バイパスライン23に示すような、バイパスラインを設けることが好ましい。
【0048】
何故ならば、当該脱エチル化反応工程の定修ストップ、あるいはトラブル等による緊急ストップがあった場合、「分離−異性化サイクル」へのC8芳香族炭化水素混合原料の供給を当該バイパスライン経由に切り替えることにより、後工程の「分離−異性化サイクル」全体を停止する必要がなく、パラキシレンの減産分を最小限に抑えることができるためである。さらに、キシレン異性化工程として、前記した脱エチル化・キシレン異性化工程を用いる場合には、C8芳香族炭化水素含有原料に含まれるエチルベンゼンの転化も同時に行うため、第1の脱エチル化・キシレン異性化工程をスキップするにもかかわらず、エチルベンゼンを高い転化率で転化することができ、かつ、キシレンロスも少なく、キシレンの異性化を行うことができるため、第1の脱エチル化・キシレン異性化工程を通さないことによる影響を最小限に押さえることができる。
【実施例】
【0049】
1.ペンタシル型ゼオライトの合成
苛性ソーダ水溶液(NaOH含量48.0重量%、H2O含量52.0重量%、東亞合成株式会社)54.2グラム、酒石酸粉末(酒石酸含量99.7重量%、H2O含量0.3重量%、株式会社カーク)16.6グラム、を水698.6グラムに溶解した。この溶液にアルミン酸ソーダ溶液(Al2O3含量13.4重量%、Na2O含量13.8重量%、H2O含量43.9重量%、住友化学工業株式会社)9.9グラムを加え、均一な溶液とした。この混合液に含水ケイ酸(SiO2含量89.4重量%、Al2O3含量2.4重量%、Na2O含量1.6重量%、ニップシールVN−3、日本シリカ工業株式会社)111.5グラムを撹拌しながら徐々に加え、均一なスラリー状水性反応混合物を調製した。この反応混合物の組成比(モル比)は次のとおりであった。
【0050】
SiO2/Al2O3:77
OH-/SiO2: 0.3002
A/Al2O3: 5.14 (A:酒石酸塩)
H2O/SiO2: 25
【0051】
反応混合物は、1000ml容のオートクレーブに入れ密閉し、その後250rpmで撹拌しながら160℃で72時間反応させた。反応終了後、蒸留水で5回水洗、濾過を繰り返し、約120℃で一晩乾燥した。
【0052】
得られた生成物を、Cu管球、Kα線を用いるX線回折装置で測定した結果、得られたゼオライトはペンタシル型ゼオライトであることがわかった。
【0053】
このペンタシル型ゼオライトのシリカ/アルミナモル比は蛍光X線回折分析の結果、49.0であった。
【0054】
2.触媒の製造
(1) 触媒Aの製造(触媒Aの使用は本発明の範囲外)
上記のようにして合成されたペンタシル型ゼオライトを絶対乾燥基準(500℃、20分間焼成した時の灼熱減量から計算)で10グラム、擬ベーマイト構造を有する含水アルミナ(住友化学工業株式会社製)を絶対乾燥基準で30グラム、アルミナゾル(Al2O3含量10重量%、日産化学工業株式会社製)を60グラム加え、充分混合した。その後、120℃の乾燥器に入れ、粘土状の水分になるまで、乾燥した。その混練り物を1.2mmφの穴を有するスクリーンを通して押出した。押出し成形物を、120℃で一晩乾燥し、次いで、350℃から徐々に540℃に昇温し、540℃で2時間焼成した。このペンタシル型ゼオライト成型体20グラムを対成型体絶対乾燥基準100重量部あたり、11重量部のNH4Clと5重量CaCl2を溶かした水溶液に入れ、純水にて固液比2.0Kg/Lに調製し、温度80℃、1時間接触させた。その後、純水で洗浄し、純水でバッチ的に6回水洗した。このイオン交換したペンタシル型ゼオライト成型体を120℃で一晩乾燥した。触媒反応の使用に先立って、硫化水素気流中250℃で2時間硫化処理を行い、大気中にて540℃で2時間焼成し、触媒Aとした。
【0055】
(2) 触媒Bの製造
触媒Aの製造と同様にペンタシル(MFI)型ゼオライトを含む成型体を作り、アンモニウムイオン、及びカルシウムイオン交換を行った。このイオン交換したペンタシル型ゼオライト成型体の乾燥品20グラムを、Reとして80ミリグラム含む過レニウム酸水溶液40ml中に室温で浸漬し、2時間放置した。30分毎に撹拌した。その後、液を切り、120℃で一晩乾燥した。触媒反応の使用に先立って、硫化水素気流中250℃で2時間硫化処理を行い、大気中にて540℃、2時間焼成し、触媒Bとした。触媒Bに担持されたReをICP発光分析で分析した結果、触媒Bに担持されているレニウムはReとして2010重量ppmであった。
【0056】
実施例1,比較例1
上記触媒AとBについてそれぞれ反応管に充填して反応テストを行った。使用した供給原料4種類の組成を下記表1に示す。尚、供給原料及び反応生成物の組成分析は水素炎検出器付きガスクロマトグラフィー3台を用いた。分離カラムは次の通りである。
【0057】
(1)ガス成分(ガス中のメタンからn−ブタンまでの成分):
充填剤:"ユニパックS"("Unipak S" )100〜150メッシュ、
カラム:ステンレス製 長さ4m、内径3mmφ
N2:1.65kg/cm2-G
温度:80℃
【0058】
(2)液成分中のベンゼン周りの沸点を有する成分(液中に溶解しているメタンからn
−ブタンと液成分の2−メチル−ブタンからベンゼン成分まで):
充填剤 25%ポリエチレングリコール20M/担体"シマライト" 60〜80メッシュ、
カラム:ステンレス製 長さ12m、内径3mmφ
N2:2.25kg/cm2-G
温度:68℃から2℃/分の昇温速度で180℃まで実施した。
【0059】
(3)液成分ベンゼンより沸点の重い成分(ベンゼンからヘビーエンド成分まで):
スペルコ ワックス フューズド シリカキャピラリィー; 長さ60m、内径0.32mmφ、膜厚0.5μm
He線速;23cm/秒
温度;67℃から1℃/分の昇温速度、80℃から2℃/分の昇温速度で200℃まで実施した。
【0060】
【表1】

【0061】
尚、EBはエチルベンゼン、PXはパラキシレン、MXはメタキシレン、OXはオルソキシレン、ETはエチルトルエンを表す。またC9+はC9以上の炭素数を有する化合物を表す。原料A〜Dは「分離−異性化」サイクルの前につける脱エチル化工程に入れる原料を想定したもので、原料Eは、ダイレクト・フィード法においてエチルトルエン及びC9以上の炭素数を有する化合物を含むC8芳香族炭化水素混合原料を想定したものである。
【0062】
上記原料油について、触媒A又はBを反応管に7.5グラム充填して次の条件で反応させた。
【0063】
反応条件
WHSV(hr-1): 4.2
反応温度(℃): 405
反応圧力(MPa): 0.9
H2/Feed(mol/mol):3.5
【0064】
表2にそのテスト結果を示す。
【0065】
【表2】

【0066】
実施例1の結果より、水素化活性金属であるレニウムを担持した酸型ゼオライト触媒を用いて、エチルトルエンを含む原料を処理することにより、キシレンの収率が改善されているのが解る。これはエチルトルエンの脱アルキル化によりトルエンを生成し、キシレンロスの副反応であるキシレンとベンゼン(エチルベンゼンの脱エチル化により生成)のトランスアルキル化反応の進行を抑制するためと考えられる。さらにETを1%、原料に添加すると収率が0.2%改善されているが(比較例1-Bと実施例1-Cの比較)、一般的に1時間当たり数十トン以上の大量の原料を処理する工業的生産において、この収率改善は極めて大きな経済効果をもたらすことになる。また、実施例1において得られる反応生成物は、エチルベンゼン濃度が低くてパラキシレン濃度に富んでおり、「分離−異性化」サイクルでのパラキシレン製造、特にパラキシレン分離工程がゼオライト系吸着剤を使用した吸着分離を実施する場合において、非常に有利であることが解る。
【0067】
尚、比較例1-Aの結果より、水素化活性金属を担持していない触媒(触媒A)ではエチルベンゼン及びエチルトルエンの脱エチル化活性が低いことがわかる。
【0068】
実施例2
触媒Bの製造と同様にしてアンモニウム及びカルシウム交換したペンタシル型ゼオライト成型体の乾燥品20グラムを、Ptとして4ミリグラム含む塩化白金酸水溶液40ml中に室温で浸漬し、2時間放置した。30分毎に撹拌した。その後、液を切り、120℃で一晩乾燥した。触媒反応の使用に先立って、硫化水素気流中250℃で2時間硫化処理を行い、大気中にて540℃、2時間焼成し、触媒Cとした。触媒Cに担持されたPtをICP発光分光分析で分析した結果、触媒Cに担持されている白金はPtとして169重量ppmであった。
【0069】
上記原料油Dについて、触媒Cを反応管に7.5グラム充填して実施例1と同じ条件で反応させた。結果を下記表3に示す。
【0070】
実施例3
触媒Bと同様にして調製したアンモニウム及びカルシウム交換したペンタシル型ゼオライト成型体の乾燥品20グラムを、Pdとして40ミリグラム含む塩化パラジウム水溶液40ml中に室温で浸漬し、2時間放置した。30分毎に撹拌した。その後、液を切り、120℃で一晩乾燥した。触媒反応の使用に先立って、硫化水素気流中250℃で2時間硫化処理を行い、大気中にて540℃、2時間焼成し、触媒Dとした。触媒Dに担持されたPdをICP発光分光分析で分析した結果、触媒Dに担持されているパラジウムはPdとして1480重量ppmであった。
【0071】
上記原料油Dについて、触媒Dを反応管に7.5グラム充填して実施例1と同じ条件で反応させた。結果を下記表3に示す。
【0072】
実施例4
触媒Bと同様にして調製したアンモニウム及びカルシウム交換したペンタシル型ゼオライト成形体の乾燥品20グラムを、Niとして40ミリグラム含む硝酸ニッケル水溶液40ml中に室温で浸漬し、2時間放置した。30分毎に撹拌した。その後、液を切り、120℃で一晩乾燥した。触媒反応の使用に先立って、硫化水素気流中250℃で2時間硫化処理を行い、大気中にて540℃、2時間焼成し、触媒Eとした。触媒Eに担持されたPdをICP発光分光分析で分析した結果、触媒Eに担持されているNiとして1680重量ppmであった。
【0073】
上記原料油Dについて、触媒Eを反応管に7.5グラム充填して実施例1と同じ条件で反応させた。結果を下記表3に示す。
【0074】
【表3】

【0075】
実施例5
触媒Bの製造と同様にしてアンモニウム及びカルシウム交換したペンタシル型ゼオライト成型体の乾燥品20グラムを、Reとして200ミリグラム含む酸化レニウム水溶液40ml中に室温で浸漬し、2時間放置した。30分毎に撹拌した。その後、液を切り、120℃で一晩乾燥した。触媒反応の使用に先立って、硫化水素気流中250℃で2時間硫化処理を行い、大気中にて540℃、2時間焼成し、触媒Fとした。触媒Fに担持されたReをICP発光分光分析で分析した結果、触媒Fに担持されているレニウムはReとして4800重量ppmであった。
【0076】
上記原料油Eについて、触媒B、及びFを反応管に7.5グラム充填して、次の条件で反応させた。結果を下記表4に示す。
【0077】
反応条件
WHSV(hr-1): 5.3
反応温度(℃): 390
反応圧力(MPa): 0.9
H2/Feed(mol /mol ):2.5
【0078】
【表4】

【0079】
表4から、レニウムの担持量が多くなるとキシレンの回収率が良くなることが解る。また原料Eはダイレクト・フィード法においてC9+除去省略したケースを想定した原料であるが、ダイレクト・フィード法においても有効であることが解る。
【0080】
実施例6
触媒B、及び実施例3の触媒Dについて、その反応液中のノンアロマチックス濃度が詳細分析ができる方法(実施例1の文中にある(2)に記載の分析条件)にて、その濃度を測定した。その結果、下記表5の通り、ベンゼンと沸点の近いコンタミ不純物である、シクロヘキサン、メチルシクロペンタンの濃度は実施例1の触媒Bを使用した場合のほうが低く、下記ベンゼン純度推定式を用いて計算した製品ベンゼン推定純度(ベンゼン純度)は、実施例で99.8重量%以上と高純度である。
【0081】
【表5】

【0082】
製品ベンゼン推定純度=([ベンゼン濃度]/(a+b+c+d+[ベンゼン濃度])×100(%))
ここで、a〜dは以下に定義される。
a=0.1×[n−C6パラフィン濃度]
b=0.7×[メチルシクロペンタン濃度]
c=1.0×[シクロヘキサン濃度]
d=1.0×[C7ナフテンパラフィン濃度]
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】第1の脱エチル化・キシレン異性化工程、パラキシレン分離工程、第2のキシレン異性化工程を行うためのパラキシレン製造装置において、第1の脱エチル化・キシレン異性化工程を通らないバイパスラインを設けた場合のフローを示す概念図である。
【図2】脱エチル化工程を導入しない、一般的なパラキシレン製造のための「分離−異性化サイクル」のフローを示す概念図である。
【図3】脱エチル化工程を導入した一般的なパラキシレン製造のための「分離−異性化サイクル」のフローを示す概念図である。
【図4】脱エチル化工程を導入せず、フレッシュ原料をラフィネートキシレンと混合して、高度にエチルベンゼンを脱エチル化する機能を持つキシレン異性化工程に送ることを特徴とする一般的なダイレクト・フィード法のフローを示す概念図である。
【符号の説明】
【0084】
1 高沸点成分蒸留分離工程
2 パラキシレン分離工程
3 キシレン異性化工程
4 低沸点成分蒸留分離工程
5 ストリーム
6 ストリーム
7 ストリーム
8 ストリーム
9 ストリーム
10 ストリーム
11 ストリーム
12 ストリーム
13 ストリーム
14 高沸点成分蒸留分離工程
15 脱エチル化・キシレン異性化工程
16 低沸点成分蒸留分離工程
17 ストリーム
18 ストリーム
19 ストリーム
20 ストリーム
21 ストリーム
22 ストリーム
23 脱エチル化・キシレン異性化工程バイパスライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチルベンゼンを含むC8芳香族炭化水素混合原料を、H2存在下でVII族及びVIII族の金属から選ばれる少なくとも1種の金属を含有してなる酸型触媒と接触させて、エチルベンゼンをベンゼンに転化する方法であって、前記原料がエチルトルエンを含んだC9〜C10芳香族炭化水素を含有し、前記エチルベンゼンの転化と共に該エチルトルエンをトルエンに転化することを含むエチルベンゼンの転化方法。
【請求項2】
前記原料中のエチルトルエン濃度が1重量%以上である請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記原料中のエチルトルエン濃度が3重量%以上である請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記原料中のエチルトルエン濃度が5重量%以上である請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記原料中のエチルトルエンが転化率50重量%以上で転化する請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記酸型触媒が、白金、パラジウム及びレニウムから成る群より選ばれる少なくとも1つの金属を含有してなる請求項1から5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記酸型触媒が、レニウムを含有する請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記酸型触媒中のレニウム含有量が0.01重量%〜5重量%である請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記酸型触媒中のレニウム含有量が0.1重量%〜2重量%である請求項8記載の方法。
【請求項10】
反応により生成したベンゼンを蒸留分離して純度99.8重量%以上のベンゼンを回収することをさらに含む請求項1から9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記酸型触媒が、シリカ/アルミナモル比が10〜70のペンタシル型ゼオライトである請求項1〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
エチルベンゼン及びキシレンを含むC8芳香族炭化水素混合原料を請求項1〜11のいずれか1項の記載の方法に付し、エチルベンゼンをベンゼンに転化すると共にキシレンを異性化する工程と、得られた反応生成物から、パラキシレンを分離する工程を含むパラキシレンの製造方法。
【請求項13】
エチルベンゼン及びキシレンを含むC8芳香族炭化水素混合原料を請求項12記載の方法に付し、エチルベンゼンをベンゼンに転化すると共にキシレンを異性化する、第1の脱エチル化・キシレン異性化工程と、該第1の脱エチル化・キシレン異性化工程で得られた反応生成物から、パラキシレンを分離する工程と、該分離工程の分離残中に含まれるキシレンを第2のキシレン異性化工程に付して異性化を行う工程と、該第2のキシレン異性化工程の反応生成物から再度パラキシレンを分離する工程を含む、パラキシレンの製造方法。
【請求項14】
前記第2のキシレン異性化工程が、前記分離残をH2存在下で、VII族及びVIII族の金属から選ばれる少なくとも1種の金属を含有してなる酸型触媒と接触させることを含む請求項13記載の方法。
【請求項15】
エチルベンゼン及びキシレンを含むC8芳香族炭化水素混合原料を請求項12記載の方法に付し、エチルベンゼンをベンゼンに転化すると共にキシレンを異性化する、脱エチル化・キシレン異性化工程と、該脱エチル化・キシレン異性化工程で得られた反応生成物から、パラキシレンを分離する工程と、該分離工程の分離残を前記脱エチル化・キシレン異性化工程に再度供給する工程を含む、パラキシレンの製造方法。
【請求項16】
前記分離残を、前記C8芳香族炭化水素混合原料と混合して、前記脱エチル化・キシレン異性化工程に再度供給する工程をさらに含む請求項15記載の方法。
【請求項17】
請求項13または14に記載の第1の脱エチル化・キシレン異性化工程、パラキシレン分離工程、第2のキシレン異性化工程を行うためのパラキシレン製造装置を用いるパラキシレンの製造方法であって、前記装置は、第1の脱エチル化・キシレン異性化工程を通らないバイパスラインを具備し、エチルトルエンを含んだC9〜C10芳香族炭化水素を混合した前記C8芳香族炭化水素混合原料を、必要に応じ、前記パラキシレン分離工程に供給することを含むパラキシレンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−106031(P2008−106031A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−18818(P2007−18818)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】