説明

エチルベンゼン脱水素反応装置を出た流れを冷却する方法

【課題】エチルベンゼンからスチレンを製造する方法。
【解決手段】(a) 水蒸気の存在下でエチルベンゼン触媒を用いて脱水素して、基本的に未反応エチルベンゼン、スチレン、水素、水蒸気およびジビニールベンゼンを含む脱水素排ガスを生じさせ、(b) 少なくとも一つの冷却塔で上記排ガスを水相の還流液で冷却して、塔頂で気体を、また、塔底で上記水相の還流液より暖かい液体流を得、(c) 塔頂の気体を凝縮させて、液体有機相と、水相と、気相とを生じさせ、(d) 階段(c)の上記水相の一部または全体を階段(b)の冷却段階での還流液として使用し、(e) 階段(b)で得られる液体流をデカンタに送って、水相と有機相とを回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチルベンゼン脱水素反応装置を出た流れを冷却する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エチルベンゼンから接触脱水素反応でスチレンを製造する方法は一般に約540℃〜660℃の温度でほぼ大気圧または大気圧以下の圧力条件下で実行される。一般に、エチルベンゼンに対する水蒸気のモル比が6、7、8またはそれ以上であるエチルベンゼンスチームの供給流を断熱脱水素反応装置中の脱水素触媒、例えば酸化鉄上に送る。脱水素反応(吸熱反応)への顕熱の一部を供給するために、多量の蒸気を供給して、エチルベンゼンの分圧を下げ、触媒上へのコークスおよび炭素の沈着を無くすのがこの脱水素反応では好ましい。エチルベンゼン脱水素反応装置を出る流れ(排ガスともよばれる)には主としてスチレン、水素、未反応エチルベンゼン、ジビニールベンゼンと少量のベンゼン、トルエン、メタン、エタン、一酸化炭素、二酸化炭素、各種重合物およびタールと、水溶性成分が含まれる。
【0003】
特許文献1にはエチルベンゼンを脱水素してスチレンを作る方法が記載されている。この方法ではエチルベンゼン脱水素反応装置から出た流れに関しては、スチームの凝集潜熱を利用して蒸留塔のリボイラを加熱している。上記流れを先ず最初に熱水で洗浄してタールを除去し、圧縮してリボイラへ送る。
【0004】
特許文献2に記載のエチルベンゼン脱水素法では、エチルベンゼン脱水素反応装置を出た流れを1段以上の圧縮段を有する冷却冷却帯域へ導入し、残ったガス体(基本的に水素)をエチルベンゼンで洗浄し、次にポリエチルベンゼンで洗浄して芳香族化合物を除去する。
【0005】
特許文献3に記載のエチルベンゼン脱水素法では、エチルベンゼン脱水素反応装置を出た流れを通常の冷却帯へ導入して、(i) 気相(基本的に水素)、(ii) 有機相(エチルベンゼンおよびスチレン)および (iii)水相とを回収する。水相にはフレッシュなエチルベンゼンを混合し、蒸発させ、エチルベンゼン/スチレン蒸留塔の還流物を凝縮し、脱水素触媒へ送る。
【0006】
特許文献4には下記(a)〜(d)の工程から成るエチルベンゼンからスチレンを生産する方法が記載されている:
(a)エチルベンゼンをスチームの存在下で触媒を用いて脱水素して、未反応エチルベンゼン、軽質成分、スチレンおよび重質成分を含む脱水素排ガスを生じさせ、
(b) この排ガスを還流物でスクラブ洗浄して排ガスからスチレンモノマーの少なくとも一部と重質成分の一部とを除去し、
(c) 清浄した排ガスを凝縮して、液体有機脱水素混合液と、水相と、気相とを作り、
(d) 上記液体有機脱水素混合液の一部を階段(b)のガス洗浄の上記還流物として使用する。
階段(b)のガス洗浄装置の塔底物中の水相および有機相を回収し、水相は階段(c)で回収した水相と混合し、有機相は蒸留塔へ供給してエチルベンゼンとスチレンモノマーとを分離する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第US 3256355号明細書
【特許文献2】米国特許第US 4288234号明細書
【特許文献3】米国特許第US 4628136号明細書
【特許文献4】米国特許第US 6388155号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は新しい方法を発見した。本発明では階段(a)の脱水素の排出流を水相で冷却(クエンチ)して、エチルベンゼン脱水素からの排出流中に存在する基本的に全ての流れを冷却塔(クエンチングカラム)の底部で回収する。
【0009】
発明の一つの利点は、エチルベンゼン脱水素からの排出流中に含まれるジビニールベンゼンと重合物質の大部分を簡単に除去できることにある。この除去方法を実施することでスチレン回収工程での凝縮器、その他の装置の汚染と閉塞の問題を無くすことができる。
【0010】
下記特許文献5〜10にはエチルベンゼン脱水素の排出流からスチレンを回収する方法が記載されているが、これら従来法ではオーバーヘッドからの流出流のみをクエンチングしているだけである。
【特許文献5】米国特許第US 3 515 764号明細書
【特許文献6】英国特許第GB 2092018号公報
【特許文献7】米国特許第US 3 515 764号明細書
【特許文献8】米国特許第US 3 515 765号明細書
【特許文献9】米国特許第US 3 515 766号明細書
【特許文献10】米国特許第US 3 515 767号明細書
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、下記(a)〜(e)の工程から成るエチルベンゼンからスチレンを製造する方法を提供する:
(a) 水蒸気の存在下でエチルベンゼン触媒を用いて脱水素して、基本的に未反応エチルベンゼン、スチレン、水素、水蒸気およびジビニールベンゼンを含む脱水素排ガスを生じさせ、
(b) 少なくとも一つの冷却塔で上記排ガスを水相の還流液で冷却して、塔頂で気体を、また、塔底で上記水相の還流液より暖かい液体流を得、
(c) 塔頂の気体を凝縮させて、液体有機相と、水相と、気相とを生じさせ、
(d) 階段(c)の上記水相の一部または全体を階段(b)の冷却段階での還流液として使用し、
(e) 階段(b)で得られる液体流をデカンタに送って、水相と有機相とを回収する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明方法の一つの実施例を示す図。
【図2】図1の方法に混合タンクを加えた実施例の図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
階段(c)の有機相からスチレンの回収は公知手段で行なわれる。
本発明の一つの効果は、脱水素の排出流中に含まれるジビニールベンゼンとポリマー物質の大部分が除去されることにある。この除去を行なうことで階段(c)の凝縮器の汚染および閉塞の問題を無くすことができる。
【0014】
本発明の一つの実施例では冷却塔と階段(e)のデカンタとの間の液体流の流路に混合タンクが挿入される。この混合タンクには有効量の芳香族成分(好ましくは重合しない芳香族成分)、好ましくはエチルベンゼンまたはベンゼンまたはトルエンまたはこれらの混合物が導入される。この混合タンクを挿入する目的は、デカンタ中で有機相に重質有機物を移行(マイグレート)させて、デカンタから出る水相を「きれいな水相」にすることにある。「きれいな水相」とはデカンタを出た水相が導管、パイプ、機器の全ての部分を汚染せず、また、その中でランダム重合が起きないということを意味する。
【0015】
本発明の他の実施例では、階段(e)のデカンタから出る水相がストリッパーに送られて、残留する有機成分、主としてエチルベンゼンおよびベンゼンまたはトルエンの実質的な部分が除去される。残留有機成分のできるだけ多くを除去するのが有利である。得られた水相からスチームを作るのが有利である。
【0016】
本発明のさらに他の実施例では、階段(c)からの水相を階段(b)の冷却塔の頂部へ送り、階段(a)からの脱水素の排出流を冷却塔の下側端へ送る。本発明のさらに他の実施例では、階段(c)からの水相を冷却塔でスプレーノズルから散布する。
【0017】
本発明のさらに他の実施例では、冷却塔の塔底は液体レベルを有しない。そうすることによって滞流時間を減らし、汚染とランダム重合を防ぐことができる。
【0018】
[図1]は本発明方法の例を示す。10は階段(b)の冷却塔であり゛20は階段(c)の凝縮器であり、30はデカンタ(分離器)であり、40は階段(e)のデカンタである。エチルベンゼン脱水素反応装置を出た流れは約120〜150℃の温度に冷却されでライン1を介して冷却塔10へ送られる。冷却塔にはライン5を介して約40℃の水相が供給される。冷却塔を出た液体流6は約65℃である。冷却塔の塔頂気体は約70℃で、ライン2を介して凝縮器20へ送られる。凝縮器20を出る凝縮成分および未凝縮成分は約40℃度でライン3を介してデカンタ30へ送られ、ガス流れ9と、液体有機相4と、水相5とが作られる。冷却塔10を出た流れ6はデカンタ40へ送られて、液体有機相8と水相7が作られる。必要に応じて混合タンク([図1]にはない)を流れ6に挿入する。この混合タンクには有効量の芳香族成分、好ましくはエチルベンゼンまたはベンゼンまたはトルエンまたはこれらの混合物が導入される。
【0019】
[図2]は(図1]の流れ6に混合タンクを挿入した図である。冷却塔を出た流れ6は混合タンク61へ送られる。混合タンク61には芳香族成分がライン62を介して導入され、その排出流はライン63を介して階段(c)のデカンタ40へ送られる。
エチルベンゼン脱水素反応装置を出た流れ(排ガスとも呼ばれる)は主としてスチレン、水素、未反応エチルベンゼン、ベンゼン、トルエンと、少量のジビニールベンゼン、メタン、エタン、一酸化炭素、二酸化炭素、重合物質およびタールと、水溶性成分とを含む。エチルベンゼン脱水素反応装置を出た流れは減圧されており,冷却塔が減圧下で運転さるのが有利である。例えば、この減圧圧力は0.2〜0.7絶対バール、有利には0.3〜0.5絶対バールの範囲である。
【0020】
階段(b)の冷却塔は任意の液体/気体接触装置にすることができ、例えば充填塔、トレイ式カラム、またはこれらを組合せた任意タイプのもにすることができる。冷却塔の上部へ送られる水相はスプレーノズルで散布し、パッキングがないのが有利である。必要に応じて、冷却塔上部のスプレーノズルより上側に一つまたは複数(有利には2段)の洗浄トレイを配置することができるが、これらスプレーノズルには水相の一部を供給しなければならない。
【0021】
階段(c)と階段(e)で回収した液体有機相は回収セクションへ送り、全ての不純物からスチレンおよびエチルベンゼンを分離し、エチルベンゼンは脱水素へ再循環させる。
【0022】
本発明の一つの実施例では、冷却塔と階段e)のデカンタとの間の液体流の流路に混合タンクが挿入される。この混合タンクには有効量の芳香族成分、好ましくはエチルベンゼンまたはベンゼンまたはトルエンまたはこれらの混合物が導入される。この導入の目的はデカンタで有機相中への重質有機物を移行させて、「きれいな水相」がデカンタから出るようにすることにある。「きれいな水相」とはデカンタを出る水相が導管、パイプ、機器の全ての部分を汚染せず、その内部でランダム重合を誘発しないということを意味する。混合タンクに導入する上記芳香族成分は重合しない任意の芳香族化合物、好ましくはエチルベンゼンまたはベンゼンまたはトルエンまたはこれらの混合物にするのが有利である。導入する芳香族成分の量は水相の0.05〜5重量%である。混合タンクの容積は滞流時間が5〜45分となるように設計するのが有利である。
【0023】
本発明の他の実施例では、階段(e)のデカンタを出る水相をストリッパーに送って、残留する有機成分、主としてエチルベンゼン、ベンゼンまたはトルエンをできるだけ多く除去する。この水相はスチームを作るのに用いるのが有利である。上記ストリッパーは公知で、任意のストリッパー(蒸留塔の出口セクション)にすることができる。ストリッパーの最上部の温度は約95℃〜110℃にする(ストリッパーの運転圧に依存する)のが有利である。
【0024】
ストリッパーの塔頂成分(オーバーヘッド)は水、ベンゼン、トルエン、その他の芳香族化合物から成り、それを凝縮し、デカンタへ送り、有機相は回収セクションへ送り、そこでスチレン、エチルベンゼンおよびその他の不純物を分離する。本発明の冷却塔の利点はストリップ゜される水相を加熱エネルギーを節約できる点にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(e)の工程から成るエチルベンゼンからスチレンを製造する方法:
(a) 水蒸気の存在下でエチルベンゼン触媒を用いて脱水素して、基本的に未反応エチルベンゼン、スチレン、水素、水蒸気およびジビニールベンゼンを含む脱水素排ガスを生じさせ、
(b) 少なくとも一つの冷却塔で上記排ガスを水相の還流液で冷却して、塔頂で気体を、また、塔底で上記水相の還流液より暖かい液体流を得、
(c) 塔頂の気体を凝縮させて、液体有機相と、水相と、気相とを生じさせ、
(d) 階段(c)の上記水相の一部または全体を階段(b)の冷却段階での還流液として使用し、
(e) 階段(b)で得られる液体流をデカンタに送って、水相と有機相とを回収する。
【請求項2】
冷却塔と階段(e)のデカンタとの間の液体流の流路に混合タンクを挿入し、この混合タンクに有効量の芳香族成分を導入して、階段(e)のデカンタ中で有機重質物を有機相中へ移行させる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
階段(e)のデカンタを出た水相をストリッパーを通して、残留している有機成分の実質的な部分を除去する請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
階段(c)からの水相を冷却塔の頂部へ送り、階段(a)からの脱水素の排出液を冷却塔の下端部へ送る請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
階段(c)からの水相をスプレーノズルによって冷却塔中で散布する請求項4に記載の方法。
【請求項6】
階段(b)の冷却塔の塔底中に液体レベルがない請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
冷却塔の上記スプレーノズルより上側に一つまたは複数の洗浄トレイが配置し、上記水相の一部をスプレーノズルへ送る請求項5に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−504901(P2011−504901A)
【公表日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−535343(P2010−535343)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【国際出願番号】PCT/EP2008/066023
【国際公開番号】WO2009/068486
【国際公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(305041979)トタル ペトロケミカルス フランス (6)
【氏名又は名称原語表記】TOTAL PETROCHEMICALS FRANCE
【Fターム(参考)】