説明

エチレンの三量化および/または四量化による1−ヘキセンおよび/または1−オクテンの製造方法

【課題】1−ヘキセンおよび/または1−オクテンを高い選択性で効率的に合成できる方法を提供する。
【解決手段】下式(1)で表される化合物、クロム化合物および有機アルミニウム化合物の存在下、温度30〜200℃、圧力100kPa〜20MPaの条件下で、エチレンの三量化および/または四量化を行う1−ヘキセンおよび/または1−オクテンの製造方法。


[式中、R、R、RおよびRは各々独立に水素原子等を示し、RおよびRは各々独立に炭素数1〜12の炭化水素基等を示し、nは1〜6の整数を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレンの三量化および/または四量化による1−ヘキセンおよび/または1−オクテンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1−ヘキセンおよび1−オクテンは、直鎖型低密度ポリエチレンのコモノマーとして非常に重要な化合物である。その製造は主としてエチレンの低重合によって行われている。このような低重合法では、得られる生成物は分布を持っており、所望の化合物のみを選択的に得ることは不可能とされている。
【0003】
そのため、エチレンの選択的三量化・四量化による1−ヘキセン・1−オクテンの合成研究が行われるようになった。Sasol社においては精力的に1−ヘキセン合成が検討され、Morganらの論文による報告がなされている(非特許文献1参照)。
【0004】
また、Sasol社のHanton、Overett、McGuinessらによって、PNPあるいはSNS系リガンドを使用した1−ヘキセンの合成も報告されている(非特許文献2、3、4参照)。
【0005】
またCPChem社においては、クロム化合物、ピロール、有機アルミニウム化合物からなる触媒系を使用し、エチレンの三量化による1−ヘキセンプラントを、カタールにて4万7千トン規模で稼動している。
【0006】
さらに、クロム化合物とイミド化合物を用いたエチレンの低重合法(特許文献1参照)や、水素の共存下、クロム錯体と三脚型配位子を使ったエチレンの三量化方法(特許文献2参照)が知られている。特許文献2には、三脚型配位子としてトリスピラゾリルメタンが例示され、またメチルアルミノキサンに代表されるアルミニウムオキシ化合物を使用することが明示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平08−59732号公報
【特許文献2】特開2002−205960号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J.Organomet.Chem.,2004,689,3641
【非特許文献2】Organometallics,2007,26,2782
【非特許文献3】J.Am.Chem.Soc.,2005,127,10723
【非特許文献4】J.Am.Chem.Soc.,2003,125,5272
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述のように、エチレンからの1−ヘキセンおよび1−オクテンの合成に関しては、数多くの報告があるが、1−ヘキセンおよび1−オクテンの選択性の向上ならびにポリエチレンやワックスの生成の抑制という観点から、実用化に供し得るためには未だ改善の余地がある。なお、ポリエチレン等の生成を抑制できないと、目的物である1−ヘキセンや1−オクテンの選択性が不十分となるばかりでなく、その生成箇所によっては装置の閉塞を引き起こし、運転停止に至ることがある。
【0010】
また、触媒にクロムを用いる場合、触媒はバッチごとの使い捨てである場合がほとんどである。そのため、経済性の向上、クロム廃棄物の低減等の観点から、触媒の活性を向上させることもきわめて重要である。
【0011】
さらに、先に紹介したピロール系リガンドを用いた場合、触媒の安定性に問題がある。特にピロールは空気中の酸素により容易に酸化され、触媒効率の低下および1−ヘキセン選択性の低下をもたらす。また、ピロール酸化物は着色が激しく、目的物の色調を悪化させる懸念がある。
【0012】
また、特許文献2に開示されているトリスピラゾリルメタン類は合成が困難で、また特にメチルアルミノキサンは高価である。ここで例示されている実施例では、ポリマーがオリゴマーの2倍以上発生しており、また、1−オレフィン選択性も90%程度と高くはない。
【0013】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、エチレンの三量化および/または四量化により1−ヘキセンおよび/または1−オクテンを製造するに際し、ポリエチレンおよびワックスの生成を十分に抑制しつつ、1−ヘキセンおよび/または1−オクテンを高い選択性で効率的に合成することが可能な方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、活性が高く、生成物への着色のない、安定で、かつ1−ヘキセンおよび/または1−オクテンの選択率の向上ならびにポリマーの生成を抑制することが可能な触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明は、下記一般式(1)で表される化合物、クロム化合物および有機アルミニウム化合物の存在下、温度30〜200℃、圧力100kPa〜20MPaの条件下で、エチレンの三量化および/または四量化を行い、1−ヘキセンおよび/または1−オクテンを得ることを特徴とする、1−ヘキセンおよび/または1−オクテンの製造方法を提供する。
【化1】


[式中、R、R、RおよびRは各々独立に水素原子または炭素数1〜12の炭化水素基を示し、RとR、RとR、RとRとで環を形成していてもよく、RおよびRは各々独立に水素原子または炭素数1〜12の炭化水素基を示し、nは1〜6の整数を示す。]
【0015】
本発明において、一般式(1)で表される化合物およびクロム化合物として、一般式(1)で表される化合物とクロム化合物との錯体を好ましく用いることができる。
【0016】
また、一般式(1)中のRおよびRが芳香族置換基である場合には、一般式(1)で表される化合物とクロム化合物との接触物、または一般式(1)で表される化合物とクロム化合物との錯体を、有機アルミニウム化合物および必要に応じて使用される溶媒と接触させて触媒を調製した後、該触媒と前記エチレンとを接触させることが好ましい。
【0017】
また、一般式(1)中のR、Rがアルキル基である場合には、一般式(1)で表される化合物とクロム化合物との接触物、または一般式(1)で表される化合物とクロム化合物との錯体と、有機アルミニウム化合物、エチレンおよび必要に応じて使用される溶媒の混合物とを混合することが好ましい。
【0018】
また、有機アルミニウム化合物とクロム化合物とのモル比は、Al/Cr比で、0.01〜100,000であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、エチレンの三量化および/または四量化により1−ヘキセンおよび/または1−オクテンを製造するに際し、ポリエチレンおよびワックスの生成を十分に抑制しつつ、1−ヘキセンおよび/または1−オクテンを高い選択性で効率的に合成することが可能な方法の提供が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0021】
本発明の1−ヘキセンおよび/または1−オクテンの製造方法は、下記一般式(1)で表される化合物、クロム化合物および有機アルミニウム化合物の存在下、温度30〜200℃、圧力100kPa〜20MPaの条件下で、エチレンの三量化および/または四量化を行い、1−ヘキセンおよび/または1−オクテンを得るものである。
【化2】


[式中、R、R、RおよびRは各々独立に水素原子または炭素数1〜12の炭化水素基を示し、RとR、RとR、RとRとで環を形成していてもよく、RおよびRは各々独立に水素原子または炭素数1〜12の炭化水素基を示し、nは1〜6の整数を示す。]
【0022】
本発明において、上記一般式(1)で表される化合物、クロム化合物および有機アルミニウム化合物は触媒としての機能を担う。
【0023】
まず、上記一般式(1)で表される化合物について説明する。上記一般式(1)中、R〜Rとしては、具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などが挙げられる。RとR、RとR、RとRとで環を形成していてもよい。R〜Rとしては、水素が特に好ましい。また環を形成している例としては,キノリン,イソキノリンが上げられる。キノリンの場合はRとRとで,イソキノリンの場合はRとRまたはRとRとで環を形成していることになる。
【0024】
一般式(1)中のnは、1〜6の整数であり、好ましくは1〜5の整数、より好ましくは1〜2である。
【0025】
一般式(1)中のRおよびRとしては、具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などが挙げられる。
【0026】
上記一般式(1)で表される化合物の好ましい例としては、2−メトキシロイル(ジフェニルホスフィノ)ピリジン、2−エトキシロイル(ジフェニルホスフィノ)ピリジン、2−メトキシロイル(ジo−トリルホスフィノ)ピリジン、2−エトキシロイル(ジo−トリルホスフィノ)ピリジン、2−メトキシロイル(ジm−トリルホスフィノ)ピリジン、2−エトキシロイル(ジm−トリルホスフィノ)ピリジン、2−メトキシロイル(ジp−トリルホスフィノ)ピリジン、2−エトキシロイル(ジp−トリルホスフィノ)ピリジン、ジ2−メトキシロイル(ジヘキシルホスフィノ)ピリジン、2−エトキシロイル(ジヘキシルホスフィノ)ピリジン、2−メトキシロイル(シクロヘキシルホスフィノ)ピリジン、2−エトキシロイル(ジシクロヘキシルホスフィノ)ピリジン、2−メトキシロイル(ジターシャリーブチルホスフィノ)ピリジン、2−エトキシロイル(ジターシャリーブチルホスフィノ)ピリジン、2−メトキシロイル(ジイソブチルホスフィノ)ピリジン、2−エトキシロイル(ジイソブチルホスフィノ)ピリジン、2−メトキシロイル(ジプロピルホスフィノ)ピリジン、2−エトキシロイル(ジプロピルホスフィノ)ピリジン、2−メトキシロイル(ジイソプロピルホスフィノ)ピリジン、2−エトキシロイル(ジイソプロピルホスフィノ)ピリジン、2−メトキシロイル(ジエチルホスフィノ)ピリジン、2−エトキシロイル(ジエチルホスフィノ)ピリジン、2−メトキシロイル(ジメチルホスフィノ)ピリジン、2−エトキシロイル(ジメチルホスフィノ)ピリジンなどが挙げられる。
【0027】
上記一般式(1)で表される化合物は、ピロール類に比較して安定であり、また後述する金属塩、金属錯体とから形成される錯体も安定であり、1−ヘキセンおよび/または1−オクテン選択性に優れた、高い触媒活性を示す。
【0028】
また、本発明で使用されるクロム化合物としては、3価のカチオンを有する塩類が好ましく使用される。具体的には、塩化クロム(III)、臭化クロム(III)、ヨウ化クロム(III)、酢酸クロム(III)、クロムアセチルアセトナート(III)、ナフテン酸クロム(III)、硝酸クロム(III)、硫酸クロム(III)、酸化クロム(III)、2−エチルヘキサン酸クロム(III)などが挙げられる。
【0029】
また、クロム錯体も好ましく使用され、具体的にはベンゼンクロムトリカルボニル(0)、ビスベンゼンクロム(0)、また塩化クロム(III)thf錯体などが挙げられる。
【0030】
また、本発明で使用される有機アルミニウム化合物としては、下記一般式(2)で表される化合物が好適である。
3−mAlX (2)
[式(2)中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示し、mは0〜2の整数を示す。]
【0031】
Rで示される炭素数1〜6のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、フェニル基などが挙げられる。3−mが2又は3である場合、一分子中に存在する複数のRは、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0032】
Xで示されるハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられる。また、mが2の場合、分子中に存在する2個のハロゲン原子は、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0033】
本発明で使用される有機アルミニウム化合物の好ましい例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリペンチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリフェニルアルミニウム、ジメチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムクロライド、ジプロピルアルミニウムクロライド、ジブチルアルミニウムクロライド、ジペンチルアルミニウムクロライド、ジヘキシルアルミニウムクロライド、メチルアルミニウムジクロライド、エチルアルミニウムジクロライド、プロピルアルミニウムジクロライド、ブチルアルミニウムジクロライド、ペンチルアルミニウムジクロライド、ヘキシルアルミニウムジクロライドなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。
【0034】
またエチルアルミニウムセスキクロライドも使用でき、またメチルアルミノキサンに代表されるアルミニウムオキシ化合物も使用することができる。
【0035】
本発明に係る触媒において、有機アルミニウム化合物とクロム化合物とのモル比(Al/Cr比)を所定の範囲内とすることによって、触媒活性のさらなる向上および作業性の向上を達成することができる。具体的には、Al/Cr=0.01〜100,000が好ましく、より好ましくはAl/Cr=0.1〜50,000、さらに好ましくはAl/Cr=0.1〜30,000である。Al/Cr比が前記下限値未満であると、反応が進行にくくなる傾向にあり、好ましくない。また、Al/Cr比が前記上限値を超えると、反応後処理時、特に水による有機アルミニウム化合物の不活性化時に、水酸化アルミニウムのゲルが発生し、取り扱いが厄介になる傾向にあり、好ましくない。
【0036】
上記一般式(1)で表される化合物、クロム化合物、有機アルミニウム化合物、エチレン、あるいはさらに必要に応じて使用される溶媒を接触させることで、エチレンの選択的三量化および/または四量化の反応活性種が形成される。これらの接触順序については特に限定はない。
【0037】
例えば、上記一般式(1)で表される化合物、クロム化合物および有機アルミニウム化合物をそれぞれ単独で反応に供してもよく、あるいは、予めこれらの成分を有機溶媒に溶解し、混合することによって触媒を調製し、得られた当該触媒を反応に供してもよい。
【0038】
触媒の調製に使用される有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、クロロホルムなどが好適である。
【0039】
このように調製された触媒は、触媒溶液のまま反応に供することができる。またシリカなどの担体に担持して、反応に供することもできる。
【0040】
また、一般式(1)で表される化合物およびクロム化合物は、予め、溶媒中または溶媒不在下で接触させた後、反応に供することができる。その場合には、一般式(1)で表される化合物とクロム化合物との錯体を単離し、当該錯体を反応に供してもよい。
【0041】
一般式(1)で表される化合物とクロム化合物とを予め接触させた後で反応に供する場合、あるいは一般式(1)で表される化合物とクロム化合物との錯体を使用する場合、その他の成分、すなわち有機アルミニウム化合物、エチレンおよび必要に応じて使用される溶媒の接触順序は任意である。
【0042】
なお、一般式(1)で表され、R、Rが芳香族置換基である化合物を予めクロム化合物と接触させた場合あるいは両者の錯体を使用する場合には、当該接触物または錯体をさらに有機アルミニウム化合物および必要に応じて使用される溶媒と接触させて触媒とした後、エチレンを最後に接触させることが好ましい。このような形態とすることによって、ポリエチレンやワックス等の重質分の生成をより確実に抑制し、1−ヘキセン選択性および1−オクテン選択性を一層向上させることができる。
【0043】
また、一般式(1)で表され、R、Rがアルキル基である化合物を予めクロム化合物と接触させた場合あるいは両者の錯体を使用する場合には、有機アルミニウム化合物、エチレンおよび必要に応じて使用される溶媒の混合物に、当該接触物または錯体を混合することが好ましい。このような形態とすることによって、ポリエチレンやワックス等の重質分の生成をより確実に抑制し、1−ヘキセン選択性および1−オクテン選択性を一層向上させることができる。
【0044】
上記一般式(1)で表される化合物、クロム化合物および有機アルミニウム化合物の存在下、エチレンの三量化および/または四量化を行う際の反応条件に関し、温度は30〜200℃、圧力は100kPa〜20MPaであることが重要である。なお、温度が30℃未満では、エチレンから1−ヘキセンおよび/または1−オクテンへの転化率が減少し、一方、200℃を超えると、触媒成分の分解、熱反応によるエチレンの多量化が起こりやすくなる。また、圧力が100kPa未満では反応が進行しにくくなり、一方、20MPaを超える場合には過剰な製造設備が必要となる。同様の理由により、温度は、好ましくは50〜190℃、より好ましくは60〜180℃である。また、圧力は、好ましくは150kPa〜19MPa、より好ましくは200kPa〜18MPaである。
【実施例】
【0045】
以下、実施例および比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら制限されるものではない。
【0046】
(錯体合成例1)
窒素雰囲気下で、2−ピリジノメタノール(14mmol)、トリエチルアミン(42.5mmol)をTHF(30ml)に溶解し、−78℃に冷却した。−78℃に維持したこの溶液に、ジフェニルクロロホスフィン(14mmol)を加え、−78℃にて2時間撹拌した。その後、室温まで昇温し、減圧して反応溶液を濃縮した。ジエチルエーテルを濃縮物に加え、不溶分であるアンモニウム塩をろ過で除いた。エーテル可溶分を濃縮することで、2−メトキシロイル(ジフェノルホスフィノ)ピリジンを83mol%の収率で得た。なお2−メトキシロイル(ジフェノルホスフィノ)ピリジンは,窒素雰囲気下で一週間保存したが,目視で変化は見られなかった。
このようにして得た2−メトキシロイル(ジフェニルホスフィノ)ピリジン(1mmol)を、窒素雰囲気下でジクロロメタン(4ml)に溶解し、塩化クロム(III)THF錯体(1mmol)のジクロロメタン溶液(7ml)を10分かけて加えた。反応終了後はジクロロメタンを減圧留去し、塩化クロム(III)・2−メトキシロイル(ジフェニルホスフィノ)ピリジン錯体を76mol%の収率で得た。このようにして得られた錯体の元素分析値は、C 41.09%(47.87%)、H 4.13%(3.57%)、N 3.16%(3.10%)であった。なおカッコ内は計算値である。
【0047】
(錯体合成例2)
ジフェニルクロロホスフィンの代わりにジターシャリーブチルクロロホスフィンを使用したこと以外は錯体合成例1と同様にして、2−メトキシロイル(ジターシャリーブチルホスフィノ)ピリジンおよび塩化クロム(III)・2−メトキシロイル(ジターシャリーブチルホスフィノ)ピリジン錯体の合成を行った。
2−メトキシロイル(ジターシャリーブチルホスフィノ)ピリジンの収率は87%であり、塩化クロム(III)・2−メトキシロイル(ジターシャリーブチルホスフィノ)ピリジン錯体の収率は76mol%であった。
2−メトキシロイル(ジターシャリーブチルホスフィノ)ピリジンは,窒素雰囲気下で一週間保存したが,目視で変化は見られなかった。
なお、錯体の元素分析値は、C 39.68%(40.85%)、H 4.32%(5.88%)、N 3.54%(3.40%)であった。なおカッコ内は計算値である。
【0048】
(実施例1)
塩化クロム(III)・2−メトキシロイル(ジフェニルホスフィノ)ピリジン錯体(10μmol)、トリエチルアルミニウム(0.1mmol)、ジエチルアルミニウムクロライド(0.1mmol)、エチルアルミニウムクロライド(0.1mmol)をトルエン(30ml)に溶解し、100mlのオートクレーブに導入した。100℃に昇温した後、6MPaのエチレンを導入した。20分後に装置を冷却し、生成物をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、C6化合物およびC8化合物のみが生成したことが確認された。C6選択率は76mol%(1−ヘキセン選択性99%)、C8選択率は24mol%(1−オクテン選択性99%)であり、C6化合物およびC8化合物の触媒効率は300C’2 mol/Cr mol hであった。なお、「C6選択率」とは1−ヘキセンを含む全てのC6化合物の選択率を意味し、「1−ヘキセン選択性」とはC6化合物に占める1−ヘキセンの割合を意味する。また、「C8選択率」とは1−オクテンを含む全てのC8化合物の選択率を意味し、「1−オクテン選択性」とはC8化合物に占める1−オクテンの割合を意味する(以下の実施例および比較例においても同様である。)。
反応生成物に100mlの酸性メタノールを加えた。沈殿物をあらかじめ重量を測定したろ紙によりろ過し、メタノール洗浄を施し、40℃にて減圧下で乾燥し、ろ紙の重量を測定した。ろ紙の重量に変化はなかった。
なお、上記の分析は、ジーエルサイエンス社GC 353Bを用いたGC分析により行った。諸条件は以下のとおりである(以下の実施例および比較例においても同様である。)。
検出器と温度:FID、220℃
メークアップガスと流量:窒素、6.6cm/分
インジェクション温度:220℃
スプリット比:0.006
サンプル量:1μL
カラムと温度条件:TC−1、径0.25mm、60m、40℃→200℃(5℃/分)
キャリアーガスと流量:ヘリウム、0.68cm/分
線速度:16cm/秒
内部標準物質:トルエン
【0049】
(実施例2)
トリエチルアルミニウム(0.1mmol)、ジエチルアルミニウムクロライド(0.1mmol)、エチルアルミニウムクロライド(0.1mmol)の代わりに、トリエチルアルミニウムを0.6ミリモル使用すること以外は実施例1と同様にして、反応を行った。C6とC8化合物のみが生成し、重質分、すなわちろ紙の重量変化はみられなかった。C6選択率は79mol%(1−ヘキセン選択性99%)、C8選択率は21mol%(1−オクテン選択性99%)であり、C6化合物およびC8化合物の触媒効率は300C’2 mol/Cr mol hであった。
【0050】
(実施例3)
トリエチルアルミニウム(0.1mmol)、ジエチルアルミニウムクロライド(0.1mmol)、エチルアルミニウムクロライド(0.1mmol)をトルエン(30ml)に溶解し、100mlのオートクレーブに導入した。オートクレーブを液体窒素にて冷却し、エチレンを導入した。この冷却された、エチレンを封入したオートクレーブに、塩化クロム(III)・2−メトキシロイル(ジターシャリーブチルホスフィノ)ピリジン錯体(10μmol)を窒素気流で送り込んだ。100℃に昇温した後、全体の圧力は6MPaを示した。20分後に装置を冷却し、生成物をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、C4選択性は4mol%(1−ブテン選択性99%)、C6選択率は91mol%(1−ヘキセン選択性99%)、C8選択率は5mol%(1−オクテン選択性99%)であり、C6化合物およびC8化合物の触媒効率は850C’2 mol/Cr mol hであった。実施例1と同様に重質物の定量を行ったところ、ろ紙の重量に変化はみられなかった。「C4選択率」とは1−ブテンを含む全てのC4化合物の選択率を意味し、「1−ブテン選択性」とはC4化合物に占める1−ブテンの割合を意味する。
【0051】
(実施例4)
トリイソブチルアルミニウム(110μmol)をトルエン(30ml)に溶解し、100mlのオートクレーブに導入した。オートクレーブを液体窒素にて冷却し、エチレンを導入した。この冷却された、エチレンを封入したオートクレーブに、塩化クロム(III)・2−メトキシロイル(ジターシャリーブチルホスフィノ)ピリジン錯体(10μmol)を窒素気流で送り込んだ。100℃に昇温した後、全体の圧力は6MPaを示した。20分後に装置を冷却し、生成物をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、C6選択率は94mol%(1−ヘキセン選択性99%)、C8選択率は6mol%(1−オクテン選択性99%)であり、C6化合物およびC8化合物の触媒効率は460C’2 mol/Cr mol hであった。実施例1と同様に重質物の定量を行ったところ、ろ紙の重量に変化はみられなかった。
【0052】
(比較例1)
トリエチルアルミニウムを使用しなかったこと以外は実施例2と同様にして反応を行ったが、生成物は認められなかった。
【0053】
(比較例2)
トリエチルアルミニウム(110μmol)、ジエチルアルミニウムクロライド(80μmol)、2,5−ジメチルピロール(33μmol)をトルエン(30ml)に溶解し、100mlのオートクレーブに導入した。オートクレーブを液体窒素にて冷却し、エチレンを導入した。この冷却された、エチレンを封入したオートクレーブに、2−エチルヘキサン酸クロム(III)(10μmol)を窒素気流で送り込んだ。100℃に昇温した後、全体の圧力は6MPaを示した。20分後に装置を冷却し、生成物をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、C6選択率は93%(1−ヘキセン選択性99%)、C8選択率は7%(1−オクテン選択性99%)であり、C6化合物およびC8化合物の触媒効率は280C’2 mol/Cr mol hであった。実施例1と同様に重質物の定量を行ったところ、ろ紙の重量はわずかに増えていた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、エチレンの三量化および/または四量化により1−ヘキセンおよび/または1−オクテンを製造するに際し、ポリエチレンおよびワックスの生成を十分に抑制しつつ、1−ヘキセンおよび/または1−オクテンを高い選択性で効率的に合成する方法の提供が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物、クロム化合物および有機アルミニウム化合物の存在下、温度30〜200℃、圧力100kPa〜20MPaの条件下で、エチレンの三量化および/または四量化を行い、1−ヘキセンおよび/または1−オクテンを得ることを特徴とする、1−ヘキセンおよび/または1−オクテンの製造方法。
【化1】


[式中、R、R、RおよびRは各々独立に水素原子または炭素数1〜12の炭化水素基を示し、RとR、RとR、RとRとで環を形成していてもよく、RおよびRは各々独立に水素原子または炭素数1〜12の炭化水素基を示し、nは1〜6の整数を示す。]
【請求項2】
前記一般式(1)で表される化合物および前記クロム化合物として、前記一般式(1)で表される化合物と前記クロム化合物との錯体を用いることを特徴とする、請求項1に記載の1−ヘキセンおよび/または1−オクテンの製造方法。
【請求項3】
前記一般式(1)中のRおよびRが芳香族置換基であり、
前記一般式(1)で表される化合物と前記クロム化合物との接触物または前記一般式(1)で表される化合物と前記クロム化合物との錯体を、前記有機アルミニウム化合物および必要に応じて使用される溶媒と接触させて触媒を調製した後、該触媒と前記エチレンとを接触させることを特徴とする、請求項1または2に記載の1−ヘキセンおよび/または1−オクテンの製造方法。
【請求項4】
前記一般式(1)中のRおよびRがアルキル基であり、
前記一般式(1)で表される化合物と前記クロム化合物との接触物または前記一般式(1)で表される化合物と前記クロム化合物との錯体と、有機アルミニウム化合物、エチレンおよび必要に応じて使用される溶媒の混合物とを混合することを特徴とする、請求項1または2に記載の1−ヘキセンおよび/または1−オクテンの製造方法。
【請求項5】
前記有機アルミニウム化合物と前記クロム化合物とのモル比が、Al/Cr比で、0.01〜100,000であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の1−ヘキセンおよび/または1−オクテンの製造方法。


【公開番号】特開2010−189297(P2010−189297A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34065(P2009−34065)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】