説明

エチレンの1,2−ジクロロエタンへのオキシ塩素化用の触媒

【課題】エチレンの1,2−ジクロロエタンへのオキシ塩素化用の触媒を提供することを課題とする。
【解決手段】規定された幾何学的構造、及びマクロ細孔で形成された、全容積の少なくとも20%の細孔容積分布を有する中空顆粒の形態であって、マクロ細孔分布曲線の最大値での細孔径が800nmより大きく1500nmまでである、エチレンの1,2−ジクロロエタンへのオキシ塩素化用の触媒により課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の細孔容積分布を有する中空状の幾何学的構造を有する顆粒の形態の、エチレンの1,2−ジクロロエタン(DCE)への固定床中でのオキシ塩素化に用いることができる触媒、及び該触媒のために用いられる中空状の担体に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンのDCEへのオキシ塩素化は、公知のように、流動床又は固定床のいずれかにおいて行われる。1つ目の場合では、反応器内の温度分布がより均一となり、もう1つの場合では、反応パラメータの管理がより容易であるが、触媒顆粒間の、及び顆粒と反応ガスとの間の低い交換係数のために、触媒の選択性及び有用な寿命に対して悪影響を与える局部的なホット・スポット温度が生じ得る。
【0003】
球体及び中実のものより高いS/V比(幾何学的な面積の容積に対する比)のおかげで、触媒床を通じた、より効果的な熱交換及び低い圧力損失、並びにその結果としての床に沿ったより良好な温度制御及び工業用反応器の生産性の増大を得ることができる中空円筒状の顆粒が通常用いられる。
【0004】
前記の利点にもかかわらず、いくつかの不利な点が明白となってしまうため、中空円筒状の顆粒は注意深く設計されなければならない。
【0005】
例えば、中空円筒の外径の内径に対する比(De/Di)がある値より大きくなる場合、顆粒は極めて脆くなり、触媒の嵩密度が低下し、その結果、活性触媒相の全体量の存在が少なくなり、触媒床の単位容積当たりの変換が低下する。
【0006】
De、又は一定のDe/Diの比を維持する円筒の長さの余りに大きな増加は、反応器のチューブ内部の触媒の不均一な担持及び顆粒の潜在的な破損を引き起こし得り、その結果圧力損失が増加する。
【0007】
4〜7mmのDe、2.0〜2.8nmのDi、6.1〜6.9mmの高さを有する円筒の形態の触媒が欧州特許出願第1053789号に記載されている。
【0008】
この触媒は、米国特許第4740644号に記載の外径よりも短い長さを有する円筒の形態の触媒及び外径よりも長い長さを有する触媒(米国特許第5166120号)よりも有利であると報告されている。
【0009】
後者の米国特許に記載の触媒は全細孔容積が0.6〜1.0ml/gであって、4nmより小さい細孔は存在せず、細孔容積の少なくとも80%は8〜20nmの径を有する細孔で形成され、残りは20nmより大きく200nmまでの径を有する細孔であることも特徴とする。前記の触媒は、全細孔容積が8nmより小さい径を有する細孔で主に形成されている触媒よりも活性である。
【0010】
欧州特許出願第1053789号でなされた検討によれば、米国特許第5166120号の触媒は、担持工程の間の触媒顆粒の破損による、床内に存在する少量の触媒物質、及びその結果としての、高い圧力損失と組合さったDCEへの低い比生産性(g DCE/g 触媒.h)を意味する、極めて高い床のボイド率という不利を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】欧州特許出願第1053789号
【特許文献2】米国特許第4740644号
【特許文献3】米国特許第5166120号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
課題
本発明の課題は、選択性及び変換という点で満足のいく性能を備え、同じ幾何学的パラメータ(形状及び大きさ)及び組成を有する触媒のものよりも高いDCEへの比生産性(g DCE/g 触媒.h)を提供し得る、ガンマアルミナの中空円筒状の顆粒上に支持された、銅の塩化物とアルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属から選択される金属の塩化物とを含む中空顆粒の形態の、固定床中で行われるエチレンのDCEへのオキシ塩素化用の触媒を提供することである。その他の課題は、以下の本発明の説明から明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
規定された幾何学的構造を有する中空顆粒の形態であり、アルミナの中空円筒状の顆粒上に支持された、銅の塩化物と、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属の群から選択される少なくとも1以上の金属の塩化物とを含む本発明の触媒は、全細孔容積の少なくとも20%で40%までの顆粒のマクロ細孔の容積分率を有し、マクロ細孔容積分布曲線の最大値での細孔径が800nmから1500nmまでであることを特徴とする。嵩密度は、0.80g/mlから0.65g/mlが好ましく、0.7g/mlから0.78g/mlがより好ましい。
【0014】
前記の触媒は、本発明の触媒のものよりも小さい、マクロ細孔分布曲線の最大値で測定されるマクロ細孔の径を有するが、同様の幾何学的構造(形状及び大きさ)及び組成を有する既知の触媒顆粒の生産性よりも高い1時間あたり、触媒1gあたりのDCEの生産性を備えている。このことは、既知の触媒に対する本発明の触媒のより高い活性(変換及び選択性)を意味する。
【0015】
本発明の触媒を製造するのに用いられるベーマイトは、少なくとも100μmで170μmまでのd50を有し、100μmより小さい粒子の分率は50重量%より少ない。
【0016】
使用できるベーマイトの例は、サソール(SASOL) AG−ドイツにより製造される市販のベーマイト プーラル(Pural)SCC 150である。
このベーマイトは、ポンデラル・シーブ・スクリーニング(ponderal sieve screening)により算出された、以下の:
>250μm 0.7%
250−100μm 56.3%
100−63μm 27.3%
<63μm 15.7%
粒子径分布(重量%)を有する。
【0017】
50の値(平均)は130μmであり、d90の値(平均)は209μmである。
100μmより小さい径を有する粒子の容積は30%であり;250μmより小さい径を有する粒子の容積は98%である。
【0018】
ガンマアルミナに変換するのに650℃、700℃及び800℃で焼成され、前記のベーマイトから得られ、圧縮成型した中空円筒状の顆粒は、次の特徴:
−前記の温度で焼成して、それぞれ239、208及び183m2/gの表面積(BET);
−0.41〜0.43ml/gの細孔容積(BET);
−全細孔容積=0.48〜0.52ml/g(粒子密度(PD)の逆数と真密度(RD)の逆数との間の差として算出される=1/PD−1/RD);
−マクロ細孔の容積=0.1ml/g(Hg圧入法);
−マクロ細孔容積分布曲線の最大値での細孔径(MPS)=1068nm
を有する。
【0019】
1600nmまでの径が、150μmより大きいd50を有するベーマイトを用いて得られ得る。このベーマイトから得られる触媒は、満足のいく良好な性能及び十分な機械的特性(軸方向及び放射方向への圧潰耐性)を備える。
【0020】
本発明の触媒を製造するのに用いられ得るベーマイトは、既知の方法に従って、改変チーグラーアルコール法により、ヘキサノール中にアルミニウムを溶解させ;次いで、得られたベーマイトのスラリーを噴霧乾燥により乾燥させることで得られ得る。
【0021】
約5mmの外径(De)、2.5mmの内径(De)、約5mmの高さを有し、ベーマイト プーラルSCC150の中空状の顆粒から製造される、中空円筒状のガンマアルミナ顆粒の特徴は、表1に報告のとおりであり、ベーマイト プーラルSCC150からのガンマアルミナの顆粒と同じ大きさ及び形状を有し、43μmのd50(平均)及びd90(平均)=119μmを有するサソール プーラルSB1のベーマイトから得られ、100μmより小さい粒子径を有する粒子の容積は83.9%であり、250μmより小さい粒子径を有する粒子の容積=100%である、ガンマアルミナの顆粒の特徴も報告する。
【0022】
【表1】

【0023】
粉末状のベーマイトと、例えばステアリン酸アルミニウムのような3〜6重量%の量の潤滑剤との混合物を圧縮成型することにより顆粒を製造する。
【0024】
成型して得られた顆粒を、ベーマイトをガンマアルミナへ変換するのに約600〜800℃の温度で焼成し、次いで金属塩化物−触媒成分の水溶液で含浸させる。含浸は、アルミナ顆粒の全細孔容積と等しいか又は少ない容積の溶液を用いて行うことが好ましい。
【0025】
金属の含量として表現される触媒中に存在する塩化物の量は、Cu3〜12重量%、アルカリ金属1〜4重量%、アルカリ土類金属0.05〜2重量%、希土類金属0.1〜3重量%である。
【0026】
好ましくは、Cuの量は4〜10重量%であり、アルカリ金属は0.5〜3重量%の量で用いられるカリウム及び/又はセシウムであり、アルカリ土類金属は0.05〜2重量%の量のマグネシウムであり、希土類金属は0.5〜3重量%の量のセリウムである。
【0027】
中空顆粒は、顆粒の軸に平行な少なくとも1つの貫通孔を有する。円筒状の顆粒の場合、Deの径は4〜6mmであり、Diの径は1〜3mmであり、高さは4〜7mmである。
【0028】
顆粒の軸に平行な貫通孔を備えた葉(lobe)を有する三葉の横断面(trilobed cross-section)を有するペレットが好適に使用される。
【0029】
本発明の触媒顆粒の代表的な特性を表2に報告し、表3には実施例の触媒を用いて得られた触媒試験の結果を報告する。
【0030】
図1及び2において、本発明の触媒(図1、実施例1の触媒)及び先行技術の触媒(図2、比較実施例1の触媒)のマクロ細孔の容積分布(Hg圧入法)を報告する。縦軸に積算細孔容積を報告し(左側)、他方、右側の縦軸には、細孔径の変動に対する細孔容積の増加(対数)を報告する(log.dPV/dPD(式中、PVは細孔容積であり、PDは細孔径である))。
【0031】
本発明の触媒顆粒を用いるエチレンのDCEへのオキシ塩素化を、空気を用いるとき1:1.99:0.51の、酸素を用いるとき1:0.71:0.18のC24/HCl/O2の全体的な供給モル比を用いて、200℃〜300℃の温度で、酸化剤として空気又は酸素を用いる公知の方法により固定床中で行う。
【0032】
好ましくは、酸素を用いて、プロセスを一連の3つの反応器中で行うとき、HCl/C24、O2/C24及びHCl/O2のモル比は、それぞれ0.15〜0.50、0.04〜0.1及び3.20〜5.8であり、第3の反応器は、本発明の触媒顆粒で形成されているか、又は該触媒顆粒を含む固定床を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例1のマクロ細孔の容積分布を示す図である。
【図2】比較実施例1のマクロ細孔の容積分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
測定
マクロ細孔の容積をHg−圧入法により測定する:BETでの窒素の吸収−脱離によるミクロ細孔及びメソ細孔。
【0035】
嵩密度(見かけのパッキング密度とも称する)を、ASTM法 D 4164−82により測定する。
【0036】
次の実施例は、本発明の範囲を限定せずに説明するために示す。
【実施例】
【0037】
実施例1
208m2/gのS.A.(BET)、0.51ml/gの全細孔容積を有し、6重量%のアルミニウムトリステアレートを混合したベーマイト プーラルSCC150の粉末を圧縮成型して製造した円筒を700℃で焼成して得た、De=5mm、Di=2.5mm及び高さ=5mmのアルミナの中空円筒400gを、次のもの:
CuCl2*2H2O=110.8g
KCl=7.9g
MgCl2*6H2O=2.1g
HCl 37重量%=8.0ml
その他=200mlまでの脱イオン水
を含む水溶液200mlで、5lの回転ジャー中、室温〜50℃までの温度で含浸させる。
【0038】
含浸させた顆粒を次のサイクル=60℃で1時間、80℃で2時間、100℃で3時間及び150℃で16時間で、オーブン中で乾燥した。顆粒の特徴を表2に報告し、比較実施例1及び2の触媒の特徴も報告する。触媒試験の結果を表3に報告する。
【0039】
比較実施例1
4重量%のアルミニウムトリステアレートを混合したベーマイト プーラルSB1を圧縮成型することにより製造した粗円筒状の顆粒を焼成して得た、実施例1の円筒と同じ大きさ及び形状を有するアルミナの中空円筒300gを、次のもの:
CuCl2*2H2O=83.1g
KCl=5.9g
MgCl2*6H2O=1.5g
HCl 37重量%=6.0ml
その他=150mlまでの脱イオン水
を含む水溶液150mlで、5lの回転ジャー中、室温で含浸させる。
【0040】
含浸させた顆粒を実施例1の記載のようにして乾燥した。実施例1と同じ条件下で行った触媒試験の結果を表3に報告する。
【0041】
比較実施例2
実施例1の触媒と同様の大きさ及び形状並びに同様の組成を有する2つの市販の触媒を、実施例1と同じ触媒試験条件下で用いた。
【0042】
試験の結果を表3に報告する。
【0043】
【表2】

*)M.P.S.=マクロ細孔の容積分布の最大値の細孔径。
マクロ細孔=50nmより大きく10,000nmまでの径を有する細孔。
**)床のボイド率=1−見かけの嵩密度/粒子密度。
【0044】
【表3】

*)全供給量:C24=30.4容量%、O2=2.7容量%、HCl=9.5容量%、N2=57.4容量%。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幾何学的構造を有し、銅3〜12重量%、アルカリ金属1〜4重量%、アルカリ土類金属0.05〜2重量%、及び希土類金属0.1〜3重量%の金属の含量として表される、銅の塩化物とアルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属からなる群から選択される少なくとも1以上の金属の塩化物とを含む中空顆粒の形態であり、該塩化物がアルミナの顆粒上に支持され、触媒顆粒のマクロ細孔の容積分率が全細孔容積の20%〜40%であり、マクロ細孔容積分布曲線の最大値での細孔径が少なくとも800nmで1500nmまでであることを特徴とする、エチレンの1,2−ジクロロエタンへのオキシ塩素化用の触媒。
【請求項2】
前記マクロ細孔の容積分率が全細孔容積の20〜30%であり、前記マクロ細孔容積分布曲線の最大値での細孔径が1000nm〜1300nmである、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
0.65〜0.80g/mlの嵩密度を有する、請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項4】
前記銅の含量が4〜10重量%であり、前記アルカリ金属がカリウム及び/又はセシウムであり、前記アルカリ土類金属がマグネシウムであり、前記希土類金属がセリウムである、請求項1〜3のいずれか1つに記載の触媒。
【請求項5】
前記カリウム及び/又はセシウムの量が0.5〜3重量%であり、前記マグネシウムの量が0.1〜2重量%であり、前記セリウムの量が0.5〜2重量%である、請求項1〜4のいずれか1つに記載の触媒。
【請求項6】
外径が4〜6mm、内径が1〜3mm、高さが4〜7mmである円筒中空状の形態を有する、請求項1〜5のいずれか1つに記載の触媒。
【請求項7】
葉を含む三葉で円筒状の横断面を有し、それぞれの葉が顆粒の軸に平行で、その他の葉の軸から等距離にある貫通孔を備える、請求項1〜5のいずれか1つに記載の触媒。
【請求項8】
0.35〜0.58ml/gの細孔容積(BET)を有し、マクロ細孔の容積%が全細孔容積の20〜40%であるガンマアルミナで形成され、マクロ細孔容積分布曲線の最大値での細孔径が800〜1600nmである、中空円筒状の顆粒。
【請求項9】
顆粒の軸に平行な1以上の貫通孔を備えた、請求項8に記載の中空円筒状の顆粒。
【請求項10】
4〜6mmの外径、1〜3mmの内径及び4〜7mmの高さを有する円筒の形態の、請求項8又は9に記載の中空円筒状の顆粒。
【請求項11】
空気を用いるとき1:1.99:0.51の、酸素を用いるとき1:0.70:1.79のHCl/C24/O2のモル比で、200℃〜300℃の温度で酸化剤として空気又は酸素を用いる、請求項1〜7のいずれか1つに記載の触媒顆粒で形成されているか、又は該触媒顆粒を含む固定床中で行われる、エチレンの1,2−ジクロロエタンへのオキシ塩素化の方法。
【請求項12】
酸化剤としての酸素、及び一連の3つの反応器を用い、第3の反応器が請求項1〜7のいずれか1つに記載の触媒顆粒で形成されているか、又は該触媒顆粒を含む固定床を備え、HCl/C24、O2/C24及びHCl/O2のモル比が、それぞれ0.15〜0.50、0.04〜0.10及び3.20〜5.8である、請求項11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−142803(P2010−142803A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285538(P2009−285538)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(505471510)サッド−チェミー カタリスツ イタリア エス.アール.エル. (8)
【氏名又は名称原語表記】SUD−CHEMIE CATALYSTS ITALIA S.R.L.
【住所又は居所原語表記】Via G. Fauser 36/B,28100 NOVARA,ITALY
【Fターム(参考)】