説明

エチレン系重合体の製造方法

【課題】大型製品ブロー成形などのブロー成形に適し、高品質のブロー成形品をもたらす、耐クリープ性と耐衝撃性がバランスよく共に優れ、併せて成形性も向上したエチレン系重合体を効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】下記のクロム触媒(A)及びクロム触媒(B)を混合して用いることを特徴とするエチレン系重合体の製造方法を提供した。
クロム触媒(A):粘土、粘土鉱物及びイオン交換性層状化合物からなる群より選ばれた少なくとも一種の粘土鉱物担体に、クロム化合物を接触させ、非還元性雰囲気で賦活したクロム触媒。
クロム触媒(B):上記粘土鉱物担体以外の無機酸化物担体に、クロム化合物を接触させ、非還元性雰囲気で賦活したクロム触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン系重合体の製造方法に関する。さらに詳しくは、異なる2種類のクロム触媒を混合して用いることにより、耐クリープ性、耐衝撃性がともに優れ、かつ成形性に優れたエチレン系重合体、特にブロー用に適し、なかんずく大型ブロー用に適したエチレン系重合体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン系重合体は、産業分野におけるプラスチック材料を代表する基幹資材であり非常に多くの技術分野において汎用されているので、その用途や成形法に応じて要求される、分子量分布や流動性などの特性及び機械的物性や熱的性質などの各種の性能が広範囲にわたっている。
そのようなエチレン系重合体を製造するために、各種の重合触媒が開発され、改良が重ねられている。そのなかで、チーグラー触媒やメタロセン触媒と共に、フィリップス触媒が重用されているが、フィリップス触媒は、クロム化合物をシリカ、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニアのような無機酸化物担体に担持させ、非還元性雰囲気で賦活することにより担持されたクロム原子の少なくとも一部のクロム原子を6価としたクロム触媒であり、フィリップス触媒では、比較的広い分子量分布のエチレン系重合体が得られ、一般にブロー成形などの成形性が良好である。
従って、フィリップス触媒のそのような特徴を活かして、フィリップス触媒によるエチレン系重合体は、ブロー成形分野に、特に大型製品のブロー成形に広く使用されている。最近では、産業資材における大型のプラスチック製品としてガソリンタンクや大型ドラムのような大型ブロー成形製品に対する需要が高く、このような製品において、一層の高品質化が要望されている。
【0003】
大型のブロー成形製品においては、耐クリープ性と耐衝撃性が重要な性能であるが、従来のフィリップス触媒によって得られる広い分子量分布を有するエチレン系重合体を、大型製品などにブロー成形した場合、成形品は、耐クリープ性と耐衝撃性のバランスが必ずしも十分でない。耐クリープ性と耐衝撃性は、相反して相克する物性であり、耐クリープ性が向上すると、耐衝撃性が低下し、逆に耐衝撃性が向上すると、耐クリープ性が低下するのが一般的である。
しかし、大型製品などのブロー成形においては、両物性が共に優れた材料が求められており、従来のエチレン系重合体では、かかる要求に対応できているとはいえない。さらに、成形性も、耐クリープ性と耐衝撃性などの物性とは、相反する場合が多く、成形性が向上すると、物性が低下し、逆に物性が向上すると、成形性が低下するのが一般的である。成形性に関しては、伸長粘度が十分でないため、ブロー成形時にパリソンがドローダウンしやすいなど、必ずしも満足すべきものではなく、前記物性と併せて、成形性も共に優れた材料が求められている。
【0004】
ところで、フィリップス触媒の特徴について、従来技術を概観すると、フィリップス触媒にフッ素化合物を含有させた後、賦活して得られたフッ素化フィリップス触媒を用いてエチレン系重合体を製造すると、分子量分布が狭いエチレン系重合体が得られることは、知られているが、確かに分子量分布が狭くなって極低分子量成分が少なくなり、衝撃破壊の際の欠陥が減少することにより、耐衝撃性は向上するものの、ポリエチレン結晶ラメラ間をつなぐタイ分子となるような超高分子量成分が減少してしまい、耐クリープ性のような長期性能は、大きく低下してしまう。あるいは、フィリップス触媒にチタン化合物を含有させた後、賦活して得られたチタニア含有フィリップス触媒を用いて、エチレン系重合体を製造すると、分子量分布が広いエチレン系重合体が得られることは知られているが、確かに分子量分布が広くなることにより、耐クリープ性は向上するものの、耐衝撃性は大きく低下してしまう。
また、フィリップス触媒により得られるエチレン系重合体の成形性を向上させるには、長時間緩和成分の制御が有効であり、フィリップス触媒により得られるエチレン系重合体には、10,000炭素連鎖あたり約1本の長鎖分岐が存在することが知られている。この長鎖分岐構造が長時間緩和成分として働くために、溶融状態のエチレン系重合体をゆっくり変形させた場合には高い弾性体となり、チーグラー触媒やメタロセン触媒で得られる長鎖分岐の無いエチレン系重合体よりも、ブロー成形における耐ドローダウン性が良好で、パリソンの垂れ下がりが起き難いとされている。この場合、ブロー成形時の偏肉も起こり難く、成形品の厚みムラも抑制することができる。
【0005】
ブロー成形における成形性を評価する手法としては、最近では、伸長粘度が多く使われるようになっている。これは、長鎖分岐構造を持つような長時間緩和成分が存在すると、分子鎖の絡み合いのために大変形領域で伸長粘度が急激に上昇する現象を利用した方法で、長鎖分岐量が多いほど、大変形領域で伸長粘度は大きく上昇することになり、大きな伸長粘度上昇を示すほど、成形性は良いとされる。
さらに、成形性と耐クリープ性及び耐衝撃性の物性とのバランスに関しては、長鎖分岐量が多いほど、同一溶融流れ性(メルトフロ−)での分子量が低くなるために、特に耐クリープ性のような長期性能が低下するのが一般的である。
これらのことからして、フィリップス触媒により得られるエチレン系重合体は、成形性が優れているものの、チーグラー触媒やメタロセン触媒の場合よりも、物性が劣るといわれている。
従って、フィリップス触媒において、耐クリープ性などの物性と成形性が共に優れたエチレン系重合体が得られるのであれば、従来のレベルを超えて物性と成形性のバランスに優れた材料になるが、適当な長さの長鎖分岐を適切な分子量領域に適度な量だけ導入するような精密な触媒制御方法は、現段階の技術では困難なため、物性と成形性をともに向上させる方法については具体的な指針は未だ得られていない。
【0006】
また、フィリップス触媒により得られるエチレン系重合体の耐クリープ性を向上させるには、分子量分布を広くすればよいことが知られている。一方、耐衝撃性を向上させるには、分子量分布を狭くすればよく、互いに相反する要求である。しかし、耐クリープ性向上に有効な成分は、分子量で言えば超高分子量側の成分であり、一方、耐衝撃性を低下させる成分は、分子量で言えば極低分子量側の成分である。
従って、(1)高分子量成分を増加させ、低分子量成分を減少させれば、耐クリープ性及び耐衝撃性を共に向上させることが可能になる。
【0007】
成形性については、フィリップス触媒が他触媒に比して広い分子量分布が得られるので、概して良好なブロー成形性がもたらされるが、(2)エチレン系重合体の分岐構造における長鎖分岐により、ブロー成形における耐ドローダウン性が良好となり、パリソンの垂れ下がりやブロー成形時の偏肉も起こり難くなる。しかし、長鎖分岐量が多いほど、大変形領域で伸長粘度は大きく上昇することになり、成形性は向上するが、同一溶融流れ性の分子量が低くなるために、耐クリープ性が低下する。
従って、(3)適当な長さの長鎖分岐を適切な分子量領域に、適度な量だけ導入することが実現できれば、物性と成形性をともに向上させることが可能となる。
【0008】
そこで、高分子量成分と低分子量成分とを別々の触媒により、重合させることが目的に適うことが考えられる。すなわち、分子量が高くかつ分子量分布が広い高分子量成分を製造し、同時に分子量が低くかつ分子量分布が狭い低分子量成分を製造すれば、高分子量成分を増加させ、低分子量成分を減少させることができ、耐クリープ性及び耐衝撃性を共に向上させることが可能になる。フィリップス触媒において、エチレン系重合体の分子量を高くし、かつ分子量分布を広げるには、賦活温度を下げればよいことが一般的に知られている。また、エチレン系重合体の分子量を低くし、かつ分子量分布を狭くするには、賦活温度を上げればよいことが一般的に知られている。そこで、2種類のクロム系触媒を混合して、重合を行うことは検討に値する。経済的な観点からも、既存の触媒を混合するだけで、また、二段重合のような煩雑な製造手法を用いなくてもよいことから、製造コストを削減できる。
【0009】
実際、2種類のクロム系触媒を混合して重合を行い、分子量分布の広いエチレン系重合体を得る方法としては、例えば、特許文献1〜4に、2種類のクロム系触媒をそれぞれ賦活後に、混合して重合を行う方法が開示されている。
また、特許文献5には、2種類のクロム系触媒を混合してから、賦活し重合を行う方法や、特許文献6には、酸化クロム化合物をシリカに担持した触媒(A)と錯体クロム化合物をシリカに担持した触媒(B)を混合して重合を行う方法などが開示されている。しかしながら、これらの方法により得られるエチレン系重合体は、耐クリープ性と耐衝撃性のバランス、伸長粘度が共に十分なレベルではない。
さらに、特許文献7には、少なくとも2種類の担体を含むポリオレフィン重合触媒や、特許文献8には、無機酸化物成分及びイオン含有層状化合物を含有するオレフィン重合用触媒が開示されている。しかしながら、これらの方法により得られるエチレン系重合体においても、耐クリープ性と耐衝撃性のバランス、伸長粘度が共に必ずしも十分なレベルではない。
【特許文献1】特開平6−199920号公報
【特許文献2】特開2000−290319号公報
【特許文献3】特表2001−506696号公報
【特許文献4】国際公開WO01/040326号公報
【特許文献5】特開平7−188324号公報
【特許文献6】特開平11−286510号公報
【特許文献7】米国特許第5714424号公報
【特許文献8】国際公開WO02/088196号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、前述した従来技術の問題点に鑑みて、大型製品ブロー成形などのブロー成形に適し、高品質のブロー成形品をもたらす、耐クリープ性と耐衝撃性がバランスよく共に優れ、併せて成形性も向上したエチレン系重合体を効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、異なる2種類のクロム系触媒を混合して用いることにより、耐クリープ性、耐衝撃性がともに優れ、かつ成形性に優れたエチレン系重合体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、下記のクロム触媒(A)及びクロム触媒(B)を混合して用いることを特徴とするエチレン系重合体の製造方法が提供される。
クロム触媒(A):粘土、粘土鉱物及びイオン交換性層状化合物からなる群より選ばれた少なくとも一種の担体に、クロム化合物を接触させ、非還元性雰囲気で賦活したクロム触媒。
クロム触媒(B):粘土、粘土鉱物及びイオン交換性層状化合物からなる群より選ばれた少なくとも一種の担体以外の無機酸化物担体に、クロム化合物を接触させ、非還元性雰囲気で賦活したクロム触媒。
【0013】
本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、クロム触媒(A)及びクロム触媒(B)の混合比率は、重量比で1:99〜99:1であることを特徴とするエチレン系重合体の製造方法が提供される。
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、クロム触媒(A)及びクロム触媒(B)の賦活は、400〜900℃で行われることを特徴とするエチレン系重合体の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、クロム触媒(A)及びクロム触媒(B)に含まれるクロム原子の含有量は、それぞれ、0.01〜2.0重量%、0.2〜2.0重量%であることを特徴とするエチレン系重合体の製造方法が提供される。
【0014】
本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、クロム触媒(A)は、粘土、粘土鉱物及びイオン交換性層状化合物からなる群より選ばれた少なくとも一種の担体を、クロム化合物と接触させる前又は接触させると同時に、酸溶液により処理することを特徴とするエチレン系重合体の製造方法が提供される。
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、重合時に、クロム触媒(A)及びクロム触媒(B)に有機金属化合物を接触させることを特徴とするエチレン系重合体の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第7の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明において、前記クロム化合物は、クロム酸、クロム酸塩、重クロム酸、重クロム酸塩、ハロゲン化クロム化合物、オキシハロゲン化クロム化合物、クロム含有硝酸塩、クロム含有硫酸塩、クロム含有リン酸塩、クロム含有カルボン酸塩、クロム−1,3−ジケト化合物及びクロム酸エステルからなる群より選ばれた少なくとも一種の化合物であることを特徴とするエチレン系重合体の製造方法が提供される。
【0015】
本発明は、上記した如く、特定のクロム触媒(A)及びクロム触媒(B)を混合して用いることを特徴とするエチレン系重合体の製造方法に係るものであるが、その好ましい態様としては、次のものが包含される。
(1)クロム触媒(A)に用いられるイオン交換性層状化合物は、イオン交換性層状珪酸塩、特にモンモリロナイトであることを特徴とする上記のエチレン系重合体の製造方法。
(2)クロム触媒(B)に用いられる無機酸化物担体は、シリカ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア又はシリカ−アルミナであることを特徴とする上記のエチレン系重合体の製造方法。
(3)前記有機金属化合物は、有機リチウム化合物、有機マグネシウム化合物、有機アルミニム化合物又は有機ホウ素化合物であることを特徴とする上記のエチレン系重合体の製造方法。
(4)前記有機金属化合物の接触させる量は、金属原子とクロム原子のモル比が0.2〜1000の範囲であることを特徴とする上記のエチレン系重合体の製造方法。
(5)エチレン系重合体は、HLMFR(ハイロードメルトフローレート)(試験条件:190℃、21.6kg荷重)が0.1〜1,000g/10分であり、かつ密度が0.900〜0.980g/cmであることを特徴とする上記のエチレン系重合体の製造方法。
(6)エチレン系重合体は、シャルピー衝撃強度(−40℃)が8.5kJ/m以上であり、かつ耐クリープ性(6MPaにおける破断時間)が20h以上であることを特徴とする上記のエチレン系重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法によれば、一般には相反する物性である耐クリープ性と耐衝撃性が共にバランスよく優れ、併せて成形性も向上したエチレン系重合体を効率よく製造することができる。
そして、かかるエチレン系重合体は、用途としてブロー成形製品に適し、特に大型の高品質のブロー成形容器を成形性良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のエチレン系重合体の製造方法は、図2に示すように、特定のクロム触媒(A)及びクロム触媒(B)を混合して用いることを特徴とするものである。
以下、本発明について、具体的に詳しく項目毎に説明する。
1.クロム触媒(A)
(1)粘土鉱物担体
本発明において、クロム触媒(A)には、粘土、粘土鉱物及びイオン交換性層状化合物からなる群より選ばれた少なくとも一種の粘土鉱物担体が使用される。
ここで、「粘土鉱物担体」の「粘土鉱物」とは、粘土、粘土鉱物及びイオン交換性層状化合物からなる群より選ばれた少なくとも一種の総称である。特定の粘土鉱物担体は、「粘土」、「粘土鉱物」及び「イオン交換性層状化合物」の三者に、それぞれ重複して分類されることがあるが、本発明に使用されるものは、これらのいずれかに少なくとも分類されるものである。
粘土は、通常粘土鉱物を主成分として構成される。また、イオン交換性層状化合物は、イオン結合等によって構成される面が互いに弱い結合力で平行に積み重なった結晶構造をとる化合物であり、含有するイオンが交換可能なものを言う。大部分の粘土は、イオン交換性層状化合物である。また、これら、粘土、粘土鉱物またはイオン交換性層状化合物は、天然産のものに限らず、人工合成物であってもよい。
【0018】
粘土、粘土鉱物の具体例としては、アロフェン等のアロフェン族、ディッカイト、ナクライト、カオリナイト、アノーキサイト等のカオリン族、メタハロイサイト、ハロイサイト等のハロイサイト族、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライト等の蛇紋石族、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト等のスメクタイト、バーミキュライト等のバーミキュライト鉱物、イライト、セリサイト、海緑石等の雲母鉱物、アタパルジャイト、セピオライト、パイゴルスカイト、ベントナイト、木節粘土、ガイロメ粘土、ヒシンゲル石、パイロフィライト、リョクデイ石群等が挙げられる。これらは混合層を形成していてもよい。
これらのうち好ましくは、ディッカイト、ナクライト、カオリナイト、アノーキサイト等のカオリン族、メタハロイサイト、ハロイサイト等のハロイサイト族、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライト等の蛇紋石族、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト等のスメクタイト、バーミキュライト等のバーミキュライト鉱物、イライト、セリサイト、海緑石等の雲母鉱物が挙げられる。特に好ましくは、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト等のスメクタイトが挙げられる。また、人工の合成物として、合成ヘクトライト、合成雲母(マイカ)、合成サポナイト等が挙げられる。
【0019】
イオン交換性層状化合物は、粘土鉱物の大部分を占めるものであり、好ましくはイオン交換性層状珪酸塩である。大部分の珪酸塩は、天然には主に粘土鉱物の主成分として、産出されるため、イオン交換性層状珪酸塩以外の夾雑物(石英、クリストバライトなど)が含まれることが多いが、それらを含んでいてもよい。
イオン交換性層状化合物としては、各種公知のものが使用できる。具体的には、白水春雄著「粘土鉱物学」朝倉書店(1995年)に記載されている次のような層状珪酸塩が挙げられる。
2:1型鉱物類としては、例えば、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイトなどのスメクタイト族、バーミキュライトなどのバーミキュライト族、雲母、イライト、セリサイト、海緑石などの雲母族、パイロフィライト、タルクなどのパイロフィライト−タルク族、Mg緑泥石などの緑泥石族が挙げられる。2:1リボン型鉱物類としては、例えば、セピオライト、パリゴルスカイトなどが挙げられる。また、人工の合成物として、例えば、合成ヘクトライト、合成雲母(マイカ)、合成サポナイト等が挙げられる。
本発明で原料として使用されるイオン交換性層状化合物としては、上記の混合層を形成した層状珪酸塩を用いることができる。本発明においては、主成分の珪酸塩が2:1型構造を有する珪酸塩であることが好ましく、スメクタイト族であることがさらに好ましく、モンモリロナイトが特に好ましい。
【0020】
イオン交換性層状化合物は、六方最密パッキング型、アンチモン型、CdCl型、CdI型等の層状の結晶構造を有するイオン結晶性化合物等を例示することができる。
イオン交換性層状化合物の具体例としては、α−Zr(HAsO・HO、α−Zr(HPO、α−Zr(KPO・3HO、α−Ti(HPO、α−Ti(HAsO・HO、α−Sn(HPO・HO、γ−Zr(HPO、γ−Ti(HPO、γ−Ti(NHPO・HO等の多価金属の結晶性酸性塩があげられる。
【0021】
これら粘土鉱物担体は、特に処理を行うことなく、そのまま用いてもよいし、ボールミル、ジェットミルなどによる粉砕、更に要すれば、ふるい分け、水ひ(水中での沈降速度を利用した分級方法)、造粒等の処理による粒子形状の制御を行った後に、用いてもよい。また、粘土鉱物担体は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0022】
本発明で使用するイオン交換性層状化合物の珪酸塩は、天然品または工業原料として入手したもの、或いは人工の合成物をそのまま用いることができるが、予め、酸処理を行うことが好ましい。酸処理は、表面の不純物を取り除くほか、結晶構造に含まれるAl、Fe、Mg等の陽イオンの一部又は全部を溶出させる効果がある。8面体イオンの溶出の程度は、酸処理前を基準として、1〜90%、好ましくは3〜80%である。結晶構造に含まれる陽イオンが溶出することにより、結晶構造は、部分的に崩壊することになるが、このことは、後述するように、高温での加熱操作が必要となってくる場合においては、かえって、加熱による結晶構造変化に伴う細孔容積や表面積の変化を抑制する効果をもたらすものと期待される。また、固体中での粘土鉱物担体の分散性が向上することから、含有されるクロム当たりの重合活性は、向上する傾向にある。
【0023】
上記酸処理で用いられる酸としては、無機酸または有機酸を使用することができる。例えば、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸等の無機酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、安息香酸等の有機酸が挙げられる。好ましくは硫酸、塩酸、硝酸、酢酸又はシュウ酸が使用される。これらは、2種以上併用することも可能である。酸処理条件は、公知の方法を特に制限なく使用できる。例えば、酸濃度は、水溶液等の溶媒中の濃度で0.1〜50重量%、処理温度は、室温〜使用溶媒の沸点の間の温度、処理時間は、5分〜24時間、それぞれ採用できる。この酸処理は、粘土鉱物担体を構成している物質の少なくとも一部を溶出する条件で行うことが好ましい。
また、本発明において、酸処理以外の予備処理として、アルカリ処理や有機物処理、酸化剤処理、還元剤処理等の他の化学処理を併用してもよい。
【0024】
このようにして得られる予備処理した粘土鉱物担体は、水銀圧入法で測定した半径20Å以上の細孔容積が0.1ml/g以上、特には0.3〜5ml/gのものを使用することが好ましい。また、これら粘土鉱物担体には、通常、吸着水及び層間水が含まれるため、不活性ガス流通下で加熱脱水処理するなどして、水分を除去してから使用するのが好ましい。
ここで、吸着水とは、粘土鉱物担体の粒子の表面あるいは結晶破面に吸着された水であり、層間水は、結晶の層間に存在する水である。吸着水及び層間水の加熱除去方法は、特に制限されないが、加熱脱水、気体流通下の加熱脱水、減圧下の加熱脱水及び有機溶媒との共沸脱水等の方法が用いられる。加熱の際の温度は、層間水が残存しないように、100℃以上、好ましくは150℃以上であるが、構造破壊を生じるような800℃を超える高温条件は、好ましくない。好ましくは350℃以下である。加熱時間は、0.5時間以上、好ましくは1時間以上、12時間程度である。その際、脱水乾燥した後の塩処理固体生成物の水分含有量は、温度200℃、圧力1mmHgの条件下で2時間脱水した場合の水分含有量を0重量%としたとき、3重量%以下、好ましくは1重量%以下、下限は0重量%以上である。
【0025】
(2)クロム化合物
本発明において、クロム化合物として、下記3種のいずれかが用いられる。ただし、下記(iii)に属する化合物の中には、重複して分類されるものも含まれている。
(i)クロム酸もしくはその塩、
(ii)重クロム酸もしくはその塩、又は、
(iii)クロムの陽イオンと、ハロゲンイオン、無機酸及び有機酸の陰イオンからなる郡より選ばれた少なくとも一種の陰イオンとからなるクロム塩。
【0026】
(i)のクロム酸塩としては、クロム酸のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
(ii)の重クロム酸塩としては、重クロム酸のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。クロム酸塩の場合と同様である。
(iii)のクロムの陽イオンとしては、2価、3価、4価、5価又は6価のクロムイオンが用いられるが、2価又は3価のクロムイオンが好ましい。また、ハロゲンイオンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素の陰イオンが用いられる。さらに、無機酸及び有機酸の陰イオンとしては、ハロゲン酸イオン、過ハロゲン酸イオン、亜ハロゲン酸イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、リン酸イオン、亜リン酸イオン、次亜リン酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、シュウ酸イオン、アセチルアセトナートなどが挙げられる。具体的なクロム塩には、クロムのハロゲン化物、オキシハロゲン化物、塩化クロミル、臭化クロミル、硝酸クロム、硫酸クロム、リン酸クロム、酢酸クロム、シュウ酸クロム、クロム−1,3−ジケト化合物、クロム酸エステル、トリス(2−エチルヘキサノエート)クロム、クロムアセチルアセトネート、ビス(t−ブチル)クロメート等が挙げられる。
【0027】
これらの中でも、硝酸クロム、酢酸クロム、クロムアセチルアセトネートが好ましい。さらに好ましくは水溶性又は酸性水溶液に可溶性の化合物である。ここで、酸性水溶液とは、pH6以下、好ましくは、pH3以下の水溶液を意味する。また、これら塩は、2種以上、混合して使用してもよい。
酢酸クロム、クロムアセチルアセトネート、クロム酸エステルのような有機基を有するクロム化合物を用いた場合、後に述べる非還元性雰囲気での焼成活性化によって、有機基部分は燃焼し、最終的には、少なくとも一部のクロム原子は6価となると考えられる。初めから6価のクロム化合物を出発原料とした場合は、焼成活性化の工程は不要であるが、好ましくは、2〜5価のクロム化合物を粘土鉱物担体に接触させた固体生成物を、その後焼成して6価とする方法である。
クロム化合物を溶解させる溶媒は、特に限定されないが、一般的には、水、アルコール、エーテル、ケトン、炭化水素、ハロゲン化炭化水素が用いられる。これらの中で、粘土鉱物担体の層状構造を膨潤させ、層間イオンの交換を起こしやすくするという観点から、好ましくは、水、アルコール、エーテル、ケトンが用いられ、さらに好ましくは、水が用いられる。
【0028】
粘土鉱物担体とクロム化合物とを接触させる方法としては、
(I)はじめ溶媒を使用することなく、粘土鉱物担体及びクロム化合物を固体で接触させ、その後、クロム化合物が均一に溶解するのに十分な量の溶媒を添加し、クロム化合物を均一に溶解させて接触させる方法、
(II)固体状の粘土鉱物担体に、クロム化合物の均一溶液を添加して接触させる方法、
(III)固体状のクロム化合物に、クロム化合物が溶解する溶媒に懸濁させた粘土鉱物担体を添加して接触させる方法、
(IV)任意の溶媒を用いた粘土鉱物担体の懸濁液に、クロム化合物の均一溶液を添加して接触させる方法(ただし、クロム化合物が再析出しないこと)、
などが挙げられる。なお、ここで用いる溶媒は、クロム化合物を溶解させる溶媒として記載したものと、同じものが好ましく、通常、水が用いられる。
【0029】
粘土鉱物担体とクロム化合物を接触させる条件は、特に限定されないが、通常、接触時間は、5分〜24時間、接触温度は、室温〜溶媒の沸点の間、用いる溶媒に対する各成分の濃度は、0.1〜30重量%で行われる。また、これらの条件での接触は、撹拌して行うことが好ましい。用いたクロム化合物が6価のクロム原子を含むものである場合は、粘土鉱物担体との接触混合物(固体生成物)をそのままオレフィンの重合反応に適用することもできるが、有機金属化合物に対して、水、アルコールなど反応性を有する溶媒が使用された場合には、該溶媒は、オレフィンの重合反応において不都合であるから、洗浄により、有機金属化合物に対して反応性の無い溶媒に置換するか、乾燥により除去しておく必要がある。
【0030】
粘土鉱物担体とクロム化合物の均一溶液の接触生成物は、粘土鉱物担体に担持されないクロム化合物を除去するために、クロム化合物が可溶な溶媒を用いて、洗浄することが好ましい。洗浄することにより、粘土鉱物中にクロム化合物は、より均一に存在することになり、その結果、重合活性種の均一性が増し、高分子量のポリマーが得やすくなる。
クロム化合物を粘土鉱物中に均一に分散し担持する最も好ましい方法は、粘土鉱物担体が膨潤可能な溶媒を用い、粘土鉱物担体の層間イオンとイオン交換性のあるクロム化合物の均一溶液とを接触させ、その後、粘土鉱物等が膨潤可能な溶媒で、余分なクロム化合物を、洗浄により除去することが挙げられる。
【0031】
粘土鉱物担体とクロム化合物の均一溶液との接触生成物の洗浄操作としては、遊離したクロム化合物を除去可能であれば、任意の方法が可能であるが、クロム化合物が可溶である溶媒により、一旦、クロム化合物を溶解させた後、ろ過又は上澄み除去により、クロム化合物を除去する方法が用いられる。一回の操作で用いる溶媒の量は、遊離したクロム化合物が全量溶解可能な量、すなわちクロム化合物の溶媒に対する濃度が飽和溶解度以下となる量を用いることが好ましい。このような溶媒としては、水、アルコール、エーテル、ケトン、炭化水素、ハロゲン化炭化水素が用いられ、特に水が好ましい。
【0032】
上記洗浄するときの温度は、室温〜使用溶媒の沸点の間から選択される。溶媒を添加し溶解させるまでの時間は、1分〜24時間であり、クロム化合物を溶解させている間は、撹拌やスラリー循環を実施して、濃度分布が生じることを抑制することが好ましい。溶媒に溶解した、すなわち遊離したクロム化合物を除去する方法としては、ろ過による除去や静置後に上澄みを除去する方法が一般的に用いられるが、溶媒が水である場合には、ろ過が好ましい。洗浄操作は、通常、1〜10回、好ましくは、2〜5回繰り返される。
【0033】
粘土鉱物担体とクロム化合物を接触させるときに、溶媒と共に、更に0.1〜50重量%の酸性化合物を含有する溶液を共存させて行うことができる。この場合も、洗浄は上述の手法により実施することが可能である。洗浄の程度としては、洗液のpHが3〜7になるまで中性の溶媒で洗浄することが好ましい。洗浄が不足すると、重合活性の低下を起こすことがある。
【0034】
上記の方法により得られるクロム化合物を含む粘土鉱物(固体生成物)は、クロム原子の少なくとも一部を6価に変換する操作を実施する前に、余分な溶媒を除去するための乾燥を実施することができる。乾燥とは、使用した溶媒を除去することを示すので、後述するクロム原子の価数の変換を目的とした加熱など、化学変化を目的とした操作とは区別される。乾燥は、300℃以下、好ましくは200℃以下の温度で、通常0.5時間以上、好ましくは1時間以上、12時間以内程度で実施される。
【0035】
上記の方法により得られるクロム化合物を含む粘土鉱物に含有されるクロム化合物の含有量は、固体生成物に対して、クロム原子として0.01〜2.0重量%、好ましくは0.03〜1.7重量%、さらに好ましくは0.05〜1.5重量%である。上記範囲を外れると、重合活性、重合体の分子量等、充分な効果を発揮することが難しい。
【0036】
(3)賦活
クロム化合物を担持した粘土鉱物担体を賦活炉で焼成して賦活を行う。賦活は、水分を実質的に含まない非還元性雰囲気で行う。例えば、酸素又は空気下で行われるが、不活性ガスが共存していてもよい。好ましくは、モレキュラーシーブスなどを流通させ充分に乾燥した空気を用い流動状態下で行う。
賦活は、400〜900℃、好ましくは450〜850℃、さらに好ましくは500〜800℃の温度にて、30分〜48時間、好ましくは1〜24時間、さらに好ましくは2〜12時間行う。これにより、粘土鉱物担体に担持されたクロム化合物のクロム原子が少なくとも一部は、6価に酸化され、担体上に化学的に固定される。クロム原子は、粘土鉱物担体の層間及び層間以外の外表面に、クロム酸エステルとして担持されていると考えられるが、重合活性点となるクロム原子は層間に存在すると考えられる。
【0037】
2.クロム触媒(B)
クロム触媒(B)は、無機酸化物担体に、クロム化合物を接触させ、非還元性雰囲気で賦活したものであり、通常無機酸化物担体に担持され、非還元性雰囲気で賦活することにより少なくとも一部のクロム原子が6価となるクロム触媒、一般にフィリップス触媒として知られているものである。
松浦一雄・三上尚孝編著「ポリエチレン技術読本」81頁 2001年 工業調査会、M.P.McDaniel; Advances in Catalysis Vol.33 p.47(1985)Academic Press Inc.、M.P.McDaniel「Handbook of Heterogeneous Catalysis」p.2400(1997)VCH、M.B.Welch etal.「Handbook of Polyolefins Synthesis and Properties」p.21(1993)Marcel Dekkerなどの文献に、この触媒の概要が記載されている。
【0038】
(1)無機酸化物担体
本発明においては、担体として無機化合物を使用する。
無機酸化物は、周期律表(無機化合物命名法の1990年規則による周期律表)の第2,3,4,13又は14族金属の酸化物が好ましく、具体的には、マグネシア、チタニア、ジルコニア、アルミナ、シリカ、トリア、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、シリカ−アルミナ又はこれらの混合物が挙げられる。なかでも、シリカ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、シリカ−アルミナが好ましい。シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、シリカ−アルミナの場合、シリカ以外の金属成分として、チタン、ジルコニウム又はアルミニウム原子が0.2〜10重量%、好ましくは0.5〜7重量%、さらに好ましくは1〜5重量%含有されたものが用いられる。
【0039】
これらのクロム触媒に適する担体の製法や物理的性質及び特徴は、C.E.Marsden「Preparation of Catalysts」Vol.V p.215(1991)Elsevier Science Publishers、C.E.Marsden;Plastics,Rubber and Commposites Processing and Aplications Vol.21 p.193(1994)などの文献に概要が記載されている。
【0040】
表面積としては、一般的なクロム触媒に用いられる担体の場合と同様に、200〜800m/g、好ましくは300〜700m/g、さらに好ましくは400〜600m/gの範囲のものが用いられる。細孔体積としては、一般的なクロム触媒に用いられる担体の場合と同様に、0.5〜3.0cm/g、好ましくは0.7〜2.7cm/g、さらに好ましくは1.0〜2.5cm/gの範囲のものが用いられる。平均粒径としては、一般的なクロム触媒に用いられる担体の場合と同様に、10〜200μm、好ましくは20〜150μm、さらに好ましくは30〜100μmの範囲のものが用いられる。
【0041】
(2)クロム化合物
上記の無機酸化物担体に、クロム化合物を担持する。クロム化合物としては、担持後に非還元性雰囲気で賦活することにより、少なくとも一部のクロム原子が6価となる化合物であれば何でもよく、酸化クロムをはじめ、クロムのハロゲン化物、オキシハロゲン化物、クロム酸塩、重クロム酸塩、硝酸塩、カルボン酸塩、硫酸塩、クロム−1,3−ジケト化合物、クロム酸エステルなどが挙げられる。
より具体的には、三酸化クロム、三塩化クロム、塩化クロミル、クロム酸カリウム、クロム酸アンモニウム、重クロム酸カリウム、硝酸クロム、硫酸クロム、酢酸クロム、トリス(2−エチルヘキサノエート)クロム、クロムアセチルアセトネート、ビス(t−ブチル)クロメートなどが挙げられ、なかでも、三酸化クロム、酢酸クロム、クロムアセチルアセトネートが好ましい。
酢酸クロム、クロムアセチルアセトネートのような有機基を有するクロム化合物を用いた場合でも、後に述べる非還元性雰囲気での賦活によって有機基部分は、燃焼し、最終的には、三酸化クロムを用いた場合と同様に、無機酸化物担体表面の水酸基と反応し、少なくとも一部のクロム原子は6価となってクロム酸エステルの構造で固定化されることが知られている(V.J.Ruddic etal.;J.Phys.Chem.Vol.100 p.11062(1996)、S.M.Augustin etal.;J.Catal.Vol.161 p.641(1996)参照)。
【0042】
無機酸化物担体に、上記クロム化合物を担持させるには、溶媒中でクロム化合物溶液を含浸させた後、溶媒を留去する方法、あるいは溶媒を用いずにクロム化合物を昇華させる方法など、公知の方法によって行うことができ、使用するクロム化合物の種類によって、適当な方法を用いればよい。
また、無機酸化物担体の製造時に、クロム化合物を添加しておき、はじめからクロム化合物を含有する無機酸化物担体を用いることももちろんできる。
担持するクロム化合物の量は、クロム原子として担体に対して、0.2〜2.0重量%、好ましくは0.3〜1.7重量%、さらに好ましくは0.5〜1.5重量%である。
【0043】
(3)賦活
クロム化合物を担持した無機酸化物担体を、賦活炉で焼成して賦活を行う。賦活は、水分を実質的に含まない非還元性雰囲気で行う。例えば、酸素又は空気下で行われるが、不活性ガスが共存していてもよい。好ましくは、モレキュラーシーブスなどを流通させ充分に乾燥した空気を用い流動状態下で行う。
賦活は、400〜900℃、好ましくは450〜850℃、さらに好ましくは500〜800℃の温度にて、30分〜48時間、好ましくは1〜24時間、さらに好ましくは2〜12時間行う。これにより、無機酸化物担体に担持されたクロム化合物のクロム原子が少なくとも一部は、6価に酸化され、前述したように担体上にクロム酸エステルとして化学的に固定される。
【0044】
クロム化合物担持時もしくは賦活時に、ケイフッ化アンモニウム、一水素二フッ化アンモニウムのようなフッ素化合物、チタンテトライソプロポキシドのようなチタンアルコキシド類、ジルコニウムテトラブトキシドのようなジルコニウムアルコキシド類、アルミニウムトリブトキシドのようなアルミニウムアルコキシド類、トリアルキルアルミニウムのような有機アルミニウム類、ジアルキルマグネシウムのような有機マグネシウム類などに代表される金属アルコキシド類もしくは有機金属化合物を添加して、エチレン重合活性や得られるエチレン系重合体の分子量と分子量分布を調節する公知の方法を、併用してもよい。
これらの金属アルコキシド類もしくは有機金属化合物は、非還元性雰囲気での賦活によって、有機基部分は燃焼し、チタニア、ジルコニア、アルミナ又はマグネシアのような金属酸化物に酸化されて、触媒中に含まれる。またフッ素化合物は、賦活時、熱分解することによって、無機酸化物担体をフッ素化する。
これらの方法は、C.E.Marsden;Plastics,Rubber and Composites Processing and Aplications Vol.21 p.193(1994)、T.Pullukat etal.;J.Polym.Sci.,Polym.Chem.Ed.Vol.82 p.118(1980)、M.P.McDaniel etal.;J.Catal.Vol.82 p.118(1983)などの文献に概要又は詳細が記載されている。
【0045】
クロム触媒(A)及びクロム触媒(B)に含まれるクロム原子は、賦活によって、通常50〜100重量%、好ましくは60〜100重量%が6価に酸化されるよう、賦活の温度及び時間が調節される。
クロム原子の総量は、通常一般の金属分析法、例えば、プラズマ発光分析、蛍光X線法により測定することができる。クロムの価数は、固体生成物の色変化(一般的には、6価は黄色からオレンジ色、3価は緑色、2価は青色)を肉眼観察することにより、概略を知ることができるが、定量を行うには、簡便な手法として、キレート滴定法や吸光光度法が知られている。具体的には、日本化学会編「実験化学講座15 分析」丸善(1991年)P.246〜248に記載がある。例えば、3価のクロムの場合は、酸性溶液中の3価のクロムに対して、過剰の濃度既知のEDTA(エチレンジアミン四酢酸)を加え5〜10分煮沸し、3価の鉄の標準液で滴定することにより、定量できる。また、6価のクロムの場合は、アルカリ性溶液ではCrO2−として存在することを利用し、366nmの波長の吸光度を測定することにより定量が可能である。
【0046】
本発明では、クロム触媒(A)及びクロム触媒(B)を混合して用いることにより、従来技術の不十分な点を改良でき、分子量分布制御の更なる適性化要求を満足させることができる。通常のフィリップス触媒で得られるエチレン系重合体の分子量は、賦活温度を活性発現に必要な限界まで低くしても、あるいは細孔体積、表面積、細孔径分布のような物理構造を制御しようとも、実用的な活性を発現する範囲では限界があるが、フィリップス触媒で得られるよりも、高い分子量のエチレン系重合体が得られる触媒として、クロム触媒(A)(粘土鉱物担体を用いるクロム触媒)を用いることにより、高分子量成分の分子量を十分に高めることができる。
【0047】
また、クロム触媒(A)(粘土鉱物担体を用いるクロム触媒)を用いることにより、フィリップス触媒の賦活温度をさらに高くすることができ、耐クリープ性を向上させることができるばかりでなく、低分子量成分量をより低下させることができ、同時に分子量分布をより狭くすることができ、耐衝撃性の向上を図ることができる。
成形性に重大な影響を及ぼす長鎖分岐構造については、一般的にフィリップス触媒において、賦活温度が高くなるほど長鎖分岐量が多くなるが、低分子量成分製造に用いるフィリップス触媒の賦活温度を上げることにより、長鎖分岐量を多くすることができる。そして、クロム触媒(A)による長鎖分岐が少ない高分子量成分によって希釈することにより、エチレン系重合体全体として見れば、優れた物性レベルを達成することができる。
即ち、粘土鉱物担体を用いるクロム触媒(A)によって高分子量成分を、またフィリップス触媒(すなわち、クロム触媒(B))によって低分子量成分を、それぞれ製造するように2種類の触媒を混合して用いることが好ましい。
【0048】
本発明に係るクロム触媒(A)及びクロム触媒(B)を混合して用いる方法は、重合体物性を変更する場合に、重合条件(反応温度、反応圧力、反応時間等)を変更するだけで対応しきれないケースに際しても、極めて効率的、柔軟に対応し得るという利点がある。即ち、重合条件を変更しただけでは、目的とする重合体物性が得られないときに、使用触媒の種類、混合割合、フィード条件等を容易に変更することができ、無駄のない重合運転が可能となる。
重合運転中に分子量を下げる必要がある場合、重合温度を上げる操作が一般的な取り得る手段であるが、重合温度を上げすぎると、重合体が溶媒に溶解して反応器内壁や配管に付着するなどのトラブルを起こす原因となる。この場合、クロム触媒(B)のフィード割合を増すことにより、重合温度を上げすぎずに、重合体の分子量を低下できる。逆に、分子量を上げる必要がある場合は、クロム触媒(B)のフィード量を減らすことにより、重合体の分子量を向上できる。重合温度、重合圧力、重合時間など以外にも樹脂スペックを制御する因子が増え、製造運転上、非常にメリットがある。
【0049】
3.エチレン系重合体の製造
(1)重合方法
以上において詳述したクロム触媒(A)及びクロム触媒(B)を混合して用いることにより、本発明のエチレン系重合体の製造を実施するには、スラリー重合や溶液重合のような液相重合法あるいは気相重合法などで行うことができる。
液相重合法は、通常には炭化水素溶媒中で実施されるが、炭化水素溶媒としては、プロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの不活性炭化水素の単独又は混合物が用いられる。
また、気相重合法では、不活性ガス共存下にて、流動床や撹拌床などの通常知られている重合法を採用でき、場合により重合熱除去の媒体を共存させる、いわゆるコンデンシングモードを採用することもできる。
重合方法としては、反応器を一つ用いてエチレン系重合体を製造する単段重合だけでなく、少なくとも二つの反応器を連結させて多段重合を行うこともできる。多段重合の場合、二つの反応器を連結させ、第一段の反応器で重合して得られた反応混合物を、続いて第二段の反応器に連続して供給する二段重合が好ましい。第一段の反応器より第二段の反応器への移送は、連結管を通して行い、第二段反応器からの重合反応混合物の連続的排出による差圧により行われる。
【0050】
得られたエチレン系重合体は、次いで、混練するのが好ましい。単軸又は二軸の押出機あるいは連続式混練機を用いて行うことができる。次いで、得られたエチレン系重合体は、常法によりブロー成形することができる。
本発明において、上記クロム触媒(A)及びクロム触媒(B)の異なる2種類のクロム触媒を混合してエチレン系重合体を製造するにあたり、触媒の混合とは、下記(a)〜(c)の方法を指し、いずれの方法も用いることができる。
(a)2種類の触媒を混合してから賦活炉で賦活を行い、抜き出した混合触媒を、予め溶媒の存在下または不存在下、あるいは有機金属化合物の存在下または不存在下で、重合反応器に導入する方法、
(b)2種類の触媒をそれぞれ個別に賦活炉で賦活を行い、抜き出したそれぞれの触媒を、予め溶媒の存在下または不存在下、あるいは有機金属化合物の存在下または不存在下で混合してから、重合反応器に導入する方法、
(c)2種類の触媒をそれぞれ個別に賦活炉で賦活を行い、抜き出したそれぞれの触媒を、予め溶媒の存在下または不存在下、あるいは有機金属化合物の存在下または不存在下で、別々に重合反応器に導入し、さらに一つの重合反応器中で混合する方法。
クロム触媒(A)及びクロム触媒(B)の異なる2種類のクロム触媒の混合比率は、重量比で1:99〜99:1の範囲であれば、任意の比率で混合して用いることができる。混合比率は、目的とする重合体によって適宜選択可能であるが、重量比で好ましくは5:95〜95:5、さらに好ましくは10:90〜90:10である。
【0051】
(2)重合条件
液相又は気相重合法における重合温度は、一般的には0〜300℃であり、実用的には20〜200℃、好ましくは50〜180℃、さらに好ましくは70〜150℃である。
反応器中の触媒濃度及びエチレン濃度は、重合を進行させるのに充分な濃度であれば任意の濃度でよい。例えば、触媒濃度は、液相重合の場合には反応器内容物の重量を基準にして、約0.0001〜約5重量%の範囲とすることができる。同様にエチレン濃度は、気相重合の場合、全圧として0.1〜10MPaの範囲とすることができる。
また、必要に応じて水素を重合反応器に導入して、分子量を調節することもできる。
【0052】
(3)共重合
本発明のエチレン系重合体の製造方法において、エチレン単独重合以外に、必要に応じて、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテンなどのα−オレフィンを単独又は2種類以上重合反応器に導入して、共重合させることもできる。
得られるエチレン系共重合体中のα−オレフィン含量は、15mol%以下、好ましくは10mol%以下が望ましい。
【0053】
(4)有機金属化合物
重合に際しては、助触媒としてエチレン系重合体の分子量または分子量分布を微調整したり、またはスカベンジャーとして重合系内の不純物を除去する目的で、有機金属化合物を導入して、クロム触媒(A)及びクロム触媒(B)と接触させることもできる。
特に、有機金属化合物の作用として、クロム触媒(A)に対しては、分子量を高くする、分子量調節剤としての水素をより効きやすくするという効果を有し、クロム触媒(B)に対しては、分子量分布を広げる、分子量調節剤としての水素をより効きやすくするという効果を有する。
有機金属化合物としては、周期律表第1、2、または13族の有機金属化合物、具体的には有機リチウム化合物、有機マグネシウム化合物、有機アルミニム化合物、有機ホウ素化合物が好ましく用いられる。
【0054】
有機リチウム化合物としては、アルキルリチウム、具体的には、メチルリチウム、n−ブチルリチウム等が挙げられる。
有機マグネシウム化合物としては、ジアルキルマグネシウム、具体的には、ブチルエチルマグネシウム、ジブチルマグネシウムが挙げられる。
有機アルミニウム化合物としては、トリアルキルアルミニウム、ジアルキルアルミニウムアルコキシド、具体的には、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムエトキシドが挙げられる。
有機ホウ素化合物としては、トリアルキルボラン、具体的には、トリエチルボランが挙げられる。
接触させる有機金属化合物の量としては、金属原子とクロム原子のモル比が0.2〜1000、好ましくは0.5〜100となるような量が好ましい。
【0055】
4.エチレン系重合体
(1)HLMFR及び密度
本発明の方法により、HLMFR(ハイロードメルトフローレート)(試験条件:190℃、21.6kg荷重)が0.1〜1,000g/10分、好ましくは0.5〜500g/10分、また、密度が0.900〜0.980g/cm、好ましくは0.920〜0.970g/cmのエチレン系重合体が得られる。
得られるエチレン系重合体は、耐クリープ性と耐衝撃性が共に優れるうえに、成形性にも優れるので、ブロー成形製品、特に大型ブロー成形製品で大きな効果を発揮する。
ブロー成形製品用のエチレン系重合体のHLMFRは、1〜100g/10分、特に大型ブロー成形製品用のエチレン系重合体は1〜15g/10分である。
また、ブロー成形製品用のエチレン系重合体の密度は、0.930〜0.970g/cm、特に大型ブロー成形製品用のエチレン系重合体の密度は、0.940〜0.960g/cmである。
【0056】
(2)耐衝撃強度及び耐クリープ性
HLMFRや密度などによっても変わり得るが、本発明の方法により得られるブロー成形製品用に好適なエチレン系重合体は、後述する測定法により求めるシャルピー衝撃強度と耐クリープ性の値として、シャルピー衝撃強度(−40℃)が8.5kJ/m以上で、かつ耐クリープ性(6MPaにおける破断時間)が20h以上の値を示すことを主な特徴とするものである。
シャルピー衝撃強度は、試験片の中央をハンマーで打撃して、試験片が破損する時の吸収エネルギーで表される。
耐クリープ性は、応力下での粘弾性的変形に関わり、外力付加でのたわみ変形する時間を表す。
両性能共に、ガソリンタンクやドラム容器などの大型ブロー成形製品における重要な品質を表すものである。
【実施例】
【0057】
以下において、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、これらの実施例によって制約を受けるものではない。
【0058】
実施例及び比較例において使用した物性の測定方法などは、以下の通りである。
(a)物性測定のためのポリマー処理:
東洋精機製作所社製プラストグラフ(ラボプラストミルME25;ローラー形状はR608型)を用い、添加剤として、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製イルガノックスB225(リン系安定剤のIRGAFOS 168とフェノール系酸化防止剤のIRGANOX 1010の1/1ブレンド物)を0.2重量%添加し、窒素雰囲気下、回転数毎分40回転にて、180℃で7分間混練した。
【0059】
(b)ハイロードメルトフローレート(HLMFR):
JIS K7210(2004年版)「プラスチック―熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」の附属書A表1、条件Gに準拠し、試験温度190℃、公称荷重21.60kgにおける測定値をHLMFRとして示した。
【0060】
(c)密度
JIS K7112(2004年版)「プラスチック−非発泡プラスチックの密度及び比重の測定方法」に準拠し、測定した。
【0061】
(d)分子量分布Mw/Mn
生成エチレン系重合体について、下記の条件でゲル透過クロマトグラフ(GPC)を行い、数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を求めた。
[ゲル透過クロマトグラフ測定条件]:
装置:WATERS 150Cモデル
カラム:Shodex−HT806M
溶媒:1,2,4−トリクロロベンゼン
温度:135℃
単分散ポリスチレンフラクションを用いてユニバーサル評定
MwのMnに対する比率(Mw/Mn)で示される分子量分布(Mw/Mnが大きいほど分子量分布が広い)については、「サイズ排除クロマトグラフィー(高分子の高速液体クロマトグラフィー)」 森定雄著 共立出版 96ペ−ジに記載された分子量と検出器感度の式に、n−アルカン及びMw/Mn≦1.2の分別直鎖ポリエチレンのデータを当てはめて、次式で示される分子量Mの感度を求め、サンプル実測値の補正を行った。
分子量Mの感度=a+b/M
(a及びbは定数で、a=1.032、b=189.2)
【0062】
(e)耐クリープ性:
JIS K6922−2(2004年版)「プラスチック−ポリエチレン(PE)成形用及び押出用材料−第2部:試験片の作り方及び性質の求め方」に準拠し、厚さ5.9mmのシートを圧縮成形した後、JIS K6774(2004年版)「ガス用ポリエチレン管」の附属書5(規定)図1に示された区分「呼び50」の形状と寸法の試験片を作製し、80℃の純水中で全周ノッチ式引張クリープ試験(FNCT)を行った。
引張荷重は、88N、98N、108Nとし、試験点数は、各荷重で2点とした。得られた両対数スケ−ルにおける破断時間と公称応力の6点のプロットから最小自乗法により公称応力6Maにおける破断時間を耐クリープ性の指標とした。
【0063】
(f)シャルピ−衝撃強度:
JIS K7111(2004年版)「プラスチック−シャルピー衝撃強さの試験方法」に準拠し、タイプ1の試験片を作製し、打撃方向はエッジワイズ、ノッチのタイプはタイプA(0.25mm)として、ドライアイス/アルコール中で−40℃で測定した。
【0064】
(g)伸長粘度のストレインハードニングパラメーターλmax:
インテスコ社製キャピラリーレオメーターを使用し、温度190℃にて、3mmφ×15mmLのキャピラリ−を使用し、ピストン速度20mm/minで試験片を作製した。
東洋精機製作所社製メルテンレオメーターを使用し、予熱時間15minとし、温度170℃、歪み速度0.1/sで伸長粘度を測定した。
時間tと伸長粘度ηの両対数グラフにおいて得られた粘度成長曲線には、ストレインハードニング(歪み硬化)が生じる場合、線形部と非線形部がある。非線形部の最大伸長粘度ηE,maxと、ηE,maxを与える時間での線形部での推測粘度ηL,maxとの比をλmaxとし、伸長粘度における非線形性の大きさを表す指標とした。
λmax=ηE,max/ηL,max
なお、図1において、この指標の測定方法を模式的に示した。
【0065】
(h)触媒中のクロム含量:
プラズマ発光分析法により、定量した。
【0066】
(i)触媒中の6価クロム含量:
NaOH水溶液(0.1M)を触媒成分に添加し、6価クロムを溶解させ、溶液の一部を取り、波長366nmの吸光度を測定することにより、定量した。
【0067】
[実施例1]
[1]クロム触媒(A)の調製
(1)粘土鉱物の酸による処理
30重量%の硫酸水溶液500mlに、モンモリロナイト(水澤化学社製;ベンクレイSL)を100g添加し、撹拌した。オイルバスにより加熱し、5時間還流した。加熱終了後、吸引ろ過により、酸処理モンモリロナイトと水溶液を分離した。回収した酸処理モンモリロナイトに純水を1000ml加え3分間撹拌し、再び吸引ろ過を実施する操作を4回繰り返した。
【0068】
(2)酸処理モンモリロナイトのクロム化合物による処理
純水490mlに、Cr(NO・9HO(和光純薬社製)を48g溶解させた。その溶液を、上記(1)で得られた酸処理モンモリロナイトに添加し撹拌した。オイルバスにより90℃に加熱し、そのまま5時間保持した。加熱終了後、吸引ろ過によりクロム化合物処理モンモリロナイトと水溶液とを分離した。回収したクロム化合物処理モンモリロナイトに純水を1000ml加え3分間撹拌し、再び吸引ろ過を実施する操作を4回繰り返した。4回目の操作で得られた洗液のpHをpH試験紙により測定したところ、pH=6であった。
得られた固体生成物(クロム化合物処理モンモリロナイト)を110℃の乾燥機で一晩乾燥した。クロム含有量は、0.1重量%であった。
【0069】
(3)クロム化合物処理モンモリロナイトの賦活
上記(2)で得られた固体生成物15gを多孔板目皿付き、管径3cmの石英ガラス管に入れ、円筒状賦活用電気炉にセットし、1.0L/分の流量でモレキュラーシーブスを通して、乾燥した空気にて流動化させ、730℃で6時間保持することにより、賦活を行った。その後、空気雰囲気から窒素雰囲気に置換した。
回収してクロム触媒(A)を得、窒素雰囲気下で保管した。賦活により、クロム化合物処理モンモリロナイトは、薄い青色から薄いオレンジ色へ色が変化した。このことからクロム原子が6価に変換したことが判り、6価クロム含有量は、0.09重量%であった。3価クロムは、実質的に90重量%が6価に変換されていた。
【0070】
[2]クロム触媒(B)−1の調製
酢酸クロムをシリカに担持したフィリップス触媒として、イネオスシリカス社製EP30X触媒(Cr含有量1.0重量%)を用い、上記[1](3)と同様の方法で、空気中、820℃、6時間で賦活し、クロム触媒(B)−1を得た。賦活により、青緑色からオレンジ色へ色が変化した。このことからクロム原子が6価に変換したことが判り、6価クロム含有量は、0.9重量%であった。3価クロムは、実質的に90重量%が6価に変換されていた。
【0071】
[3]重合(クロム触媒(A)とクロム触媒(B)−1を混合)
充分に窒素置換した2.0リットルのオートクレーブに、イソブタン0.7リットル、1−ヘキセン5g、上記[1]で得られたクロム触媒(A)70mg及び[2]で得られたクロム触媒(B)−1を30mg仕込み、内温を100℃まで昇温した。
次いでエチレンを圧入し、エチレン分圧を1.4MPaとなるように保ちながら、重合温度100℃で、1時間重合を行った。次いで内容ガスを系外に放出することにより、重合を終結した。
その結果、290gのポリエチレンが得られた。触媒合計1g当たり、重合時間1時間当たりの重合活性は、2900g/g・hrであった。HLMFR=5.5g/10min、密度=0.950g/cmの大型ブロー成形製品に適したHLMFR及び密度を有するエチレン系重合体が得られた。物性測定結果を表1に示す。
【0072】
[実施例2]
実施例1の[3]において、クロム触媒(A)の仕込み量を40mg、クロム触媒(B)−1の仕込み量を60mgとし、重合温度を95℃とした以外は、実施例1と同様に重合を行った。
その結果、330gのポリエチレンが得られた。触媒合計1g当たり、重合時間1時間当たりの重合活性は、3300g/g・hrであった。HLMFR=5.7g/10min、密度=0.950g/cmの大型ブロー成形製品に適したHLMFR及び密度を有するエチレン系重合体が得られた。物性測定結果を表1に示す。
【0073】
[実施例3]
実施例1の[3]において、イソブタン、1−ヘキセン、クロム触媒(A)及びクロム触媒(B)に加えて、トリエチルアルミニウムの0.5mol/Lヘプタン溶液を2mL添加し、重合温度を105℃とした以外は、実施例1と同様に重合を行った。
その結果、200gのポリエチレンが得られた。触媒合計1g当たり、重合時間1時間当たりの重合活性は、2000g/g・hrであった。HLMFR=4.8g/10min、密度=0.949g/cmの大型ブロー成形製品に適したHLMFR及び密度を有するエチレン系重合体が得られた。物性測定結果を表1に示す。
【0074】
[比較例1(クロム触媒(A)単独)]
実施例1の[3]において、クロム触媒(A)の仕込み量を100mgとし、クロム触媒(B)−1を用いなかった以外は、実施例1と同様に重合を行った。
その結果、170gのポリエチレンが得られた。触媒合計1g当たり、重合時間1時間当たりの重合活性は、1700g/g・hrであった。HLMFR=0.16g/10min、密度=0.944g/cmのエチレン系重合体が得られた。クロム触媒(A)によるエチレン系重合体は、分子量が高く、実施例1に比べて、大型ブロー成形製品適性が低かった。
【0075】
[比較例2(クロム触媒(B)−1単独)]
実施例1の[3]において、クロム触媒(B)−1の仕込み量を100mgとし、クロム触媒(A)を用いなかった以外は、実施例1と同様に重合を行った。
その結果、350gのポリエチレンが得られた。触媒合計1g当たり、重合時間1時間当たりの重合活性は、3500g/g・hrであった。HLMFR=63g/10min、密度=0.950g/cmのエチレン系重合体が得られた。クロム触媒(B)−1によるエチレン系重合体は、分子量が低く、実施例1に比べて、大型ブロー成形製品適性が低かった。
【0076】
[比較例3]
[1]クロム触媒(B)−2の調製
酢酸クロムをシリカに担持したフィリップス触媒として、大型ブロー用途のエチレン系重合体製造用に、一般的によく用いられるW.R.グレース社製969ID触媒(Cr含有量1.2重量%)を用い、実施例[1]の(3)と同様の方法で、空気中、600℃、6時間賦活し、クロム触媒(B)−2を得た。
賦活により青緑色からオレンジ色へ色が変化した。このことからクロム原子が6価に変換したことが判り、6価クロム含有量は、0.94重量%であった。3価クロムは、実質的に94重量%が6価に変換されていた。
【0077】
[2]重合
実施例1の[3]において、クロム触媒(B)−1の代わりに、クロム触媒(B)−2の仕込み量を100mgとし、クロム触媒(A)を用いなかった以外は、実施例1と同様に重合を行った。
その結果、220gのポリエチレンが得られた。触媒合計1g当たり、重合時間1時間当たりの重合活性は、2200g/g・hrであった。HLMFR=5.2g/10min、密度=0.949g/cmのエチレン系重合体が得られた。物性測定結果を表1に示す。実施例1〜3に比べ、耐クリープ性及び耐衝撃性が低く、伸長粘度も低かった。
【0078】
[比較例4]
[1]クロム触媒(B)−3の調製
酢酸クロムをシリカに担持したフィリップス触媒として、W.R.グレース社製967BWFL触媒(Cr含有量1.1重量%)を用い、実施例[1]の(3)と同様の方法で空気中、600℃、6時間賦活し、クロム触媒(B)−3を得た。
賦活により青緑色からオレンジ色へ色が変化した。このことからクロム原子が6価に変換したことが判り、6価クロム含有量は、0.96重量%であった。3価クロムは、実質的に96重量%が6価に変換されていた。
【0079】
[2]重合
実施例1の[3]において、クロム触媒(A)の代わりに、上記クロム触媒(B)−3の仕込み量を75mg、クロム触媒(B)−1の仕込み量を25mgとした以外は、実施例1と同様に重合を行った。
その結果、240gのポリエチレンが得られた。触媒合計1g当たり、重合時間1時間当たりの重合活性は、2400g/g・hrであった。HLMFR=6.0g/10min、密度=0.949g/cmの重合体が得られた。物性測定結果を表1に示す。実施例1〜3に比べ、耐クリープ性及び耐衝撃性が低く、伸長粘度も低かった。
【0080】
[比較例5]
実施例1の[3]において、クロム触媒(B)−3の仕込み量を100mgとし、クロム触媒(A)を用いなかった以外は、実施例1と同様に重合を行った。
その結果、150gのポリエチレンが得られた。触媒合計1g当たり、重合時間1時間当たりの重合活性は、1500g/g・hrであった。HLMFR=0.82g/10min、密度=0.946g/cmのエチレン系重合体が得られた。クロム触媒(B)−3によるエチレン系重合体は、分子量が高く、実施例1に比べて、大型ブロー成形製品適性が低かった。
【0081】
【表1】

【0082】
表1に示されるように、本発明の実施例1〜3におけるエチレン系重合体の製造方法では、大型ブロー成形製品に適したHLMFR及び密度を有するエチレン系重合体が得られことが判る。一方、特定のクロム触媒(A)及びクロム触媒(B)を混合したものを用いていない比較例1〜5では、例えば、比較例1のクロム触媒(A)によるエチレン系重合体は、分子量が高く、また、比較例2のクロム触媒(B)−1によるエチレン系重合体は、分子量が低く、実施例1に比べて、大型ブロー成形製品適性が低く、同様に、比較例3〜5のエチレン系重合体も、実施例1に比べて、大型ブロー成形製品適性が低いことが判る。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のエチレン系重合体の製造方法は、特定のクロム触媒(A)及びクロム触媒(B)を混合して用いることを特徴としているため、耐クリープ性と耐衝撃性が共にバランスよく優れ、併せて成形性も向上したエチレン系重合体を効率よく製造することができる。
そして、本発明の製造方法から得られるエチレン系重合体は、用途としてブロー成形製品に適し、特に大型の高品質のブロー成形容器を成形性良く製造することができ、工業的に非常に利用価値の高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明に係る伸長粘度のストレインハードニングパラメーターλmaxの測定方法を説明する図である。
【図2】本発明に係るエチレン系重合体製造用触媒の調製工程を説明するフローチャート図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のクロム触媒(A)及びクロム触媒(B)を混合して用いることを特徴とするエチレン系重合体の製造方法。
クロム触媒(A):粘土、粘土鉱物及びイオン交換性層状化合物からなる群より選ばれた少なくとも一種の担体に、クロム化合物を接触させ、非還元性雰囲気で賦活したクロム触媒。
クロム触媒(B):粘土、粘土鉱物及びイオン交換性層状化合物からなる群より選ばれた少なくとも一種の担体以外の無機酸化物担体に、クロム化合物を接触させ、非還元性雰囲気で賦活したクロム触媒。
【請求項2】
クロム触媒(A)及びクロム触媒(B)の混合比率は、重量比で1:99〜99:1であることを特徴とする請求項1に記載のエチレン系重合体の製造方法。
【請求項3】
クロム触媒(A)及びクロム触媒(B)の賦活は、400〜900℃で行われることを特徴とする請求項1又は2に記載のエチレン系重合体の製造方法。
【請求項4】
クロム触媒(A)及びクロム触媒(B)に含まれるクロム原子の含有量は、それぞれ、0.01〜2.0重量%、0.2〜2.0重量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のエチレン系重合体の製造方法。
【請求項5】
クロム触媒(A)は、粘土、粘土鉱物及びイオン交換性層状化合物からなる群より選ばれた少なくとも一種の担体を、クロム化合物と接触させる前又は接触させると同時に、酸溶液により処理することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のエチレン系重合体の製造方法。
【請求項6】
重合時に、クロム触媒(A)及びクロム触媒(B)に有機金属化合物を接触させることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のエチレン系重合体の製造方法。
【請求項7】
前記クロム化合物は、クロム酸、クロム酸塩、重クロム酸、重クロム酸塩、ハロゲン化クロム化合物、オキシハロゲン化クロム化合物、クロム含有硝酸塩、クロム含有硫酸塩、クロム含有リン酸塩、クロム含有カルボン酸塩、クロム−1,3−ジケト化合物及びクロム酸エステルからなる群より選ばれた少なくとも一種の化合物であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のエチレン系重合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−150566(P2008−150566A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−343001(P2006−343001)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(303060664)日本ポリエチレン株式会社 (233)
【Fターム(参考)】