説明

エネルギー吸収構造

【課題】エネルギー吸収部材の横倒れを抑制し、衝撃エネルギーを十分に吸収することができるエネルギー吸収構造を提供すること。
【解決手段】本発明に係るエネルギー吸収構造7では、小型航空機の斜め下方から衝撃エネルギーが加わった場合であっても、EA部材11の圧壊により、スライド部15によってクロスビーム10をEA部材11に対してスライドさせ、スライドしたクロスビーム10がEA部材11を支持し続けるようにするため、EA部材11の横倒れを抑制し、衝撃エネルギーを十分に吸収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば航空機等の飛翔体に設けられるエネルギー吸収構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、航空機等の飛翔体に設けられるエネルギー吸収構造が知られている。例えば、特許文献1に開示された装置では、グライダーの下部において下方に向けて延びるエネルギー吸収部材が設けられており、グライダーの下方から作用する衝撃力に対してエネルギー吸収部材が圧縮破壊を生じることにより、衝撃エネルギーを吸収する構造とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−224875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された装置では、例えばグライダーの斜め下方から衝撃力が作用した場合、エネルギー吸収部材が横倒れし、エネルギー吸収部材の圧縮破壊が不十分となり、衝撃エネルギーを十分に吸収できないおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、エネルギー吸収部材の横倒れを抑制し、衝撃エネルギーを十分に吸収することができるエネルギー吸収構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のエネルギー吸収構造は、飛翔体の下部に設けられ、飛翔体に加わる衝撃エネルギーを吸収するためのエネルギー吸収部材を備えたエネルギー吸収構造であって、エネルギー吸収部材を支持する支持部と、エネルギー吸収部材と支持部との間に設けられ、エネルギー吸収部材の圧壊により支持部をエネルギー吸収部材に対してスライドさせるスライド部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
このようなエネルギー吸収構造によれば、飛翔体の斜め下方から衝撃エネルギーが加わった場合であっても、エネルギー吸収部材の圧壊により、スライド部によって支持部がエネルギー吸収部材に対してスライドし、支持部はスライドしながらエネルギー吸収部材を支持し続けることができる。よって、エネルギー吸収部材の横倒れを抑制し、衝撃エネルギーを十分に吸収することができる。
【0008】
また、本発明のエネルギー吸収構造において、スライド部は、衝撃エネルギーに応じて支持部をスライドさせる構成とすれば、エネルギー吸収部材の横倒れをより一層抑制することができる。
【0009】
また、支持部は、スライド部に当接するフランジ部を有し、フランジ部の上方側の端部はスライド部から遠ざかるように傾斜又は湾曲していると、エネルギー吸収部材が圧壊する際に、支持部のフランジ部がスライド部に対して上方にスムーズにスライド可能となる。
【0010】
また、上記作用を効果的に奏する構成としては、スライド部は、エネルギー吸収部材と支持部との間に設けられた内板と、支持部と内板とにより挟まれたフィルムとを有する構成が挙げられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エネルギー吸収部材の横倒れを抑制し、衝撃エネルギーを十分に吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係るエネルギー吸収構造を搭載した小型航空機の概略側面図である。
【図2】図1中のエネルギー吸収構造を小型航空機の内側から見た斜視図である。
【図3】図2中のエネルギー吸収構造を示す正面図である。
【図4】図3のIV−IV矢視図である。
【図5】小型航空機がロール方向に傾かずに接地した場合の、接地直後のエネルギー吸収構造の状態を示す図である。
【図6】図5に続くエネルギー吸収構造の状態を示す図である。
【図7】小型航空機がロール方向に傾いて接地する直前の状態を示す図である。
【図8】図7に続く、接地直後のエネルギー吸収構造の状態を示す図である。
【図9】図8に続くエネルギー吸収構造の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。以下の説明において、「EA」は、「エネルギー吸収(EnergyAbsorption)」を意味する。すなわち、「EA構造」及び「EA部材」は、それぞれ「エネルギー吸収構造」及び「エネルギー吸収部材」を意味する。また、特に断らない限り、前後並びに上下左右は、小型航空機を基準としている。
【0014】
図1は、本実施形態に係るEA構造を搭載した小型航空機の概略側面図である。図1に示すように、小型航空機(飛翔体)Aは、機体の胴部を構成する中空の胴体1と、胴体1の前部に設けられた機首部2とを有している。この胴体1及び機首部2の外表面は、機体表皮(スキン)Sにより覆われている。胴体1の内部の機首部2寄り(前部側)には、乗員3が搭乗する空間であるコクピット4が形成されており、また、機首部2にはエンジン5が内蔵されている。コクピット4と機首部2とは、防火壁6により仕切られている。そして、本実施形態に係るEA構造7は、この小型航空機Aの前側の下部に設けられている。
【0015】
図2は、EA構造7を小型航空機Aの内側から見た斜視図である。図2には、EA構造7の一部(正面から見て右側)が示されている。図2に示すように、胴体1の底部の内側には、左右方向に沿って延びるクロスビーム(支持部)10が、前後方向に複数(図2では3本)並んで配置されている。クロスビーム10の左右の端部は、胴体1の下部左右側面の内側において胴体1の底部から立設された内板9に当接している。
【0016】
図3は、図2中のEA構造を示す正面図、図4は、図3のIV−IV矢視図である。図3及び図4に示すように、EA構造7は、胴体1側面の機体表皮Sの内側に配置されたEA部材11と、EA部材11の内側に配置された内板9と、内板9の内側に配置された上記のクロスビーム10と、を備えている。すなわち、内板9は、EA部材11とクロスビーム10との間に設けられている。
【0017】
さらに、EA構造7は、クロスビーム10と内板9との間に挟まれたフィルム12を有している。そして、このような内板9及びフィルム12により、EA構造7におけるスライド部15が構成されている。
【0018】
EA部材11は、小型航空機Aが接地した際に小型航空機Aに加わる衝撃エネルギーを吸収するためのものである。このEA部材11は、前後方向及び上下方向に延在しており、例えば、アルミやFRP等のハニカム材や、硬質ウレタンや発泡アルミ等の発泡構造材や、アルミのような剛性が比較的低い金属構造のものから構成される。機体表皮S内でEA部材11の上方には、前後方向に沿って延びる機体フレーム(図示せず)が配設されており、機体フレームとEA部材11との間には、荷重分散厚板及び波板構造(いずれも図示せず)が配設されている。EA部材11は、小型航空機Aの接地により下方より圧縮荷重を受けると、略上下方向に圧壊を生じることにより小型航空機Aに加わる衝撃エネルギーを吸収しつつ、荷重分散厚板及び波板構造を介して圧縮荷重を機体フレームに伝達する。
【0019】
クロスビーム10は、スライド部15を介してEA部材11を内側から支持するためのものである。このクロスビーム10は、鋼材や複合材によって形成されており、長手方向に垂直な断面がハット形状をなしており、左右の端部にフランジ部10aを有している。このフランジ部10aは、フィルム12を介して、内板9に対して接合されている。より詳しくは、フランジ部10aは、フィルム12が設けられた部分では内板9に対して力学的に離れており、フィルム12周辺の部分では内板9と力学的に繋がっている。さらに、フランジ部10aの上方側の端部であるフランジ端部10bは、スライド部15から内側に遠ざかるように折り曲げられて傾斜する構成とされている。
【0020】
フィルム12は、内板9に対してフランジ部10aを接着分断すると共に、EA部材11が圧壊する際に、フランジ部10aにおけるフィルム12の外部周辺の内板9と接合されている部分の剥離分断を促し、また、クロスビーム10をEA部材11及び内板9に対してスライドし易くするためのものである。このフィルム12としては、例えばシリコーンによるコーティングを施された樹脂製の離型フィルム等が用いられる。フィルム12は、内板9とフランジ部10aとの間において部分的(一部分)に設けられる(図4参照)。フィルム12が設けられる部分の面積の割合は、フランジ部10aの30%〜80%となっている。このフィルム12は、内板9とフランジ部10aとの成型時に、これらの間に挿入される。
【0021】
次に、小型航空機Aが地面に接地した場合のEA構造7の作用を説明する。図5及び図6は、小型航空機Aがロール方向に傾かずに接地した場合のEA構造7の状態を示す図である。この場合、小型航空機Aは、左右軸が地面Gに対して略平行な状態で接地する。
【0022】
図5に示す接地直後の状態では、底部の機体表皮Sが接地して地面Gからの荷重を受けると、EA部材11及び内板9に対して下方より圧縮荷重が伝達される。下方より圧縮荷重を受けたEA部材11及び内板9は、下端部において圧壊を生じる。さらに、この圧壊により、EA部材11及び内板9が内側に膨らみクロスビーム10のフランジ部10aを内側(図示右側)へ押圧し、フランジ部10aと内板9との接合部は、フィルム12の周囲よりクラックを生じて剥離する。この剥離により、内板9とフランジ部10aとが分離し、EA部材11及び内板9に対してクロスビーム10が上方にスライドし始める。
【0023】
このとき、クロスビーム10のフランジ端部10bは内板9から遠ざかるように傾斜しているため、クロスビーム10はスムーズにスライドできる。
【0024】
さらに、図6に示すように、EA部材11及び内板9は、クロスビーム10のフランジ部10aに側方から支持されながら上下方向に圧壊し続ける。このように、クロスビーム10が側方よりEA部材11を支持し続けるため、EA部材11が圧壊しても、EA部材11の横倒れが防止される。このため、EA部材11の圧壊は進展し、EA部材11による衝撃エネルギーの吸収機能が効果的に発揮される。
【0025】
図7〜図9は、小型航空機Aがロール方向に傾いて接地した場合のEA構造7の状態を示す図である。この場合、小型航空機Aは、左右軸が地面Gに対して所定の角度を有する状態となる。よって、図7に示すように、EA部材11は、内板9やクロスビーム10よりも地面Gに先に接地する。
【0026】
図8に示す接地直後の状態では、まず底部の機体表皮Sが左側(又は右側)から地面Gに接地するため、EA部材11は、斜め下方からの圧縮荷重を受ける状態となり、下端部の外側において圧壊を生じる。この時点において、内板9はまだ圧縮荷重を受けておらず圧壊を生じていないため、内板9とフランジ部10aとの接合状態は保持されている。このため、クロスビーム10はスライドしないままEA部材11を側方より支持しており、EA部材11の横倒れが防止されている。
【0027】
さらに、図9に示すように、EA部材11の圧壊が進展すると、内板9が斜め下方からの圧縮荷重を受け、EA部材11及び内板9が内側に膨らみクロスビーム10のフランジ部10aを内側(図示右側)へ押圧する。また、これと同時に、クロスビーム10は、接地部を支点として小型航空機Aの傾きとは逆方向(図示時計回り)に所定角回転する。この押圧及び回転により、フランジ部10aと内板9との接合部は、フィルム12の周囲よりクラックを生じて剥離する。
【0028】
この場合においても、小型航空機Aがロール方向に傾かずに接地した場合と同様の作用・効果が発揮される。すなわち、フィルム12の周囲の剥離により、EA部材11及び内板9に対してクロスビーム10が上方にスライドし、クロスビーム10が側方よりEA部材11を支持し続けるため、EA部材11が圧壊しても、EA部材11の横倒れが防止される。このため、EA部材11の圧壊が進展し、EA部材11による衝撃エネルギーの吸収機能が効果的に発揮される。
【0029】
このように、本実施形態に係るEA構造7によれば、小型航空機Aの斜め下方から衝撃エネルギーが加わった場合であっても、EA部材11の圧壊により、スライド部15によってクロスビーム10がEA部材11に対してスライドし、クロスビーム10はスライドしながらEA部材11を支持し続けることができるため、EA部材11の横倒れを抑制し、衝撃エネルギーを十分に吸収することができる。
【0030】
また、スライド部15は、衝撃エネルギーに応じてクロスビーム10をスライドさせるため、EA部材11の横倒れをより一層抑制することができる。
【0031】
また、クロスビーム10は、スライド部15に当接するフランジ部10aを有し、フランジ部10aのフランジ端部10bはスライド部15から遠ざかるように傾斜しているため、EA部材11が圧壊する際に、クロスビーム10のフランジ部10aがスライド部15に対して上方にスムーズにスライド可能となる。
【0032】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、EA構造7が小型航空機Aに設けられる場合について説明したが、中型以上の航空機やヘリコプター等に設けられてもよい。また、上記実施形態では、クロスビーム10のフランジ端部10bが傾斜している場合について説明したが、スライド部15から遠ざかるように湾曲していてもよい。
【符号の説明】
【0033】
7…EA構造(エネルギー吸収構造)、9…内板、10…クロスビーム(支持部)、10a…フランジ部、10b…フランジ端部(上方側の端部)、11…EA部材(エネルギー吸収部材)、12…フィルム、15…スライド部、A…小型航空機(飛翔体)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛翔体の下部に設けられ、前記飛翔体に加わる衝撃エネルギーを吸収するためのエネルギー吸収部材を備えたエネルギー吸収構造であって、
前記エネルギー吸収部材を支持する支持部と、
前記エネルギー吸収部材と前記支持部との間に設けられ、前記エネルギー吸収部材の圧壊により前記支持部を前記エネルギー吸収部材に対してスライドさせるスライド部と、
を備えることを特徴とするエネルギー吸収構造。
【請求項2】
前記スライド部は、前記衝撃エネルギーに応じて前記支持部をスライドさせる、請求項1記載のエネルギー吸収構造。
【請求項3】
前記支持部は、前記スライド部に当接するフランジ部を有し、前記フランジ部の上方側の端部は前記スライド部から遠ざかるように傾斜又は湾曲している、請求項1又は2記載のエネルギー吸収構造。
【請求項4】
前記スライド部は、前記エネルギー吸収部材と前記支持部との間に設けられた内板と、前記支持部と前記内板とにより挟まれたフィルムとを有する、請求項1〜3のいずれか一項記載のエネルギー吸収構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−98656(P2011−98656A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255080(P2009−255080)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】