説明

エネルギー補給用組成物の製造方法

【課題】還元性を示さず、保存安定性良好で、より広範な用途に向けることのできるエネルギー用糖源と、そのエネルギー用糖源を有効成分として含有せしめたエネルギー補給用組成物を提供する。
【解決手段】還元性を示す澱粉部分分解物に非還元性糖質生成酵素を作用させる方法により製造されたトレハロースからなるエネルギー用糖源、及びそのトレハロースを有効成分として含有せしめたエネルギー補給用組成物を提供することによって解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー用糖源とその用途に関し、更に詳細には、還元性を示す澱粉部分分解物に非還元性糖質生成酵素を作用させる方法により製造されたトレハロースからなるエネルギー用糖源、及び、そのトレハロースを有効成分として含有せしめたエネルギー補給用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー用糖源としては、古くから、グルコース、フラクトースなど還元性を示す糖質が利用されてきた。しかしながら、これら還元性を示す糖質は、その還元性のため保存安定性が悪く、通常、アミノ酸、ビタミンなど他の栄養物質などの共存下において一層不安定なものとなる。
【0003】
そこで、還元性を示さない安定な糖質、例えば、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、シュクロース、トレハロースなどから選ばれるエネルギー用糖源の実現が望まれている。しかしながら、キシリトール、ソルビトールなど単糖類アルコールは、その使用量、使用方法を誤ると激しい下痢を起こす欠点がある。また、マルチトール、ラクチトールなど二糖類アルコールは、特許文献1、特許文献2などに記載されているように、生体で代謝、利用され難く、ダイエット甘味料として利用されているのが実情であり、エネルギー用糖源としては不適当である。また、シュクロースは、酸性下で容易に分解され、還元性を示すグルコース、フラクトースに変換され、保存安定性の悪い欠点がある。一方、トレハロースについては、特許文献3で、「人体に消化、吸収され難く、低カロリーである。」、「アミラーゼなどによる酵素作用も受け難い。」と記載されていることからも明らかなように、トレハロースは、生体でエネルギー源にならない糖質として理解されている。
【0004】
【特許文献1】特公昭47−13699号公報
【特許文献2】特公昭47−42506号公報
【特許文献3】特開昭63−240758号公報
【特許文献4】特願平4−362131号明細書
【特許文献5】特願平5−349216号明細書
【特許文献6】特開昭58−23799号公報
【特許文献7】特願平58−72598号明細書
【非特許文献1】岡田等、『日本栄養・食糧学会誌』、第43巻、第1号、第23乃至29頁(1990年)
【非特許文献2】厚治等、『臨床栄養』、第41巻、第2号、第200乃至208頁(1972年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
工業的規模での生産が容易であって、かつ、還元性を示さず安定性良好で、より広範な用途に向けることのできるエネルギー用糖源の実現と、そのエネルギー用糖源を有効成分として含有せしめたエネルギー補給用組成物の提供が強く望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、大量生産の容易なエネルギー用糖源について研究を続けてきた。とりわけ、還元性を示さない安定な二糖類、トレハロースとその関連物質について鋭意研究した。その結果、先に、本発明者等が、特許文献4、及び、特許文献5などに記載した新規生化学的手段により製造されたトレハロース(O−α−D−グルコピラノシル α−D−グルコピラノシド、別名 α,α−トレハロース)が、生体内でエネルギー源として容易に代謝利用されることを見い出した。しかも、この生化学的手段は、還元性を示す澱粉部分分解物(以下、本明細書では還元性澱粉部分分解物と呼ぶ。)に非還元性糖質生成酵素を作用させる方法であって、その工業的規模での実施が容易であることを見い出した。さらに、このような新規生化学的手段により製造されたトレハロースは、還元性を示さない安定な糖質であることから、より広範な用途に向けることのできる全く新しいエネルギー用糖源であることを見い出し、加えて、このトレハロースを有効成分として含有せしめたエネルギー補給用組成物を確立して、本発明を完成した。また、本発明のエネルギー補給用組成物は、トレハロースが還元性を示さず、安定性が高いことから、他の栄養物質、薬効物質などを併用して、より総合的な栄養組成物にすることも、また、より治療効果を高めた医薬組成物にすることも有利に実施できる。
【0007】
還元性澱粉部分分解物に非還元性糖質生成酵素を作用させる方法により製造されたトレハロースからなるエネルギー用糖源と、そのトレハロースを有効成分として含有せしめたエネルギー補給用組成物は、本発明をもって嚆矢とする。
【0008】
本発明のエネルギー用糖源としては、トレハロース含量ができるだけ高いものが適しており、一般的には、固形物当り50w/w%以上(以下、本明細書に於いては特にことわらない限り、「w/w%」を「%」で示す。)のシラップ又は粉末、望ましくは、80%以上のシラップ又は結晶粉末、更に好ましくは、90%以上の結晶性粉末又は結晶が好適である。その製造方法としては、還元性澱粉部分分解物に非還元性糖質生成酵素を作用させる方法により製造する方法であればよく、例えば、本発明者等が、特許文献4、及び、特許文献5などに記載したグルコース重合度3以上の還元性澱粉部分分解物に非還元性糖質生成酵素を作用させることにより製造する方法が、トレハロースを工業的規模で容易に大量生産できるので、きわめて有利であり、好都合である。このような酵素反応方法により還元性澱粉部分分解物から製造された糖液には、通常、固形物当たり約20乃至80%のトレハロースを含有しており、他にグルコース、マルトース、マルトトリオースなどの還元性糖質を含有している。
【0009】
反応液は、常法により、濾過、遠心分離などして不溶物を除去した後、活性炭で脱色、H型、OH型イオン交換樹脂で脱塩して精製し、濃縮し、シラップ状製品とする。更に、乾燥して粉末状製品にすることも随意である。必要ならば、更に、精製、例えば、イオン交換カラムクロマトグラフィー、活性炭カラムクロマトグラフィー、シリカゲルカラムクロマトグラフィーなどのカラムクロマトグラフィーによる分画、アルコール及びアセトンなどの有機溶媒による分別、適度な分離性能を有する膜による分離、更には、酵母での発酵処理、アルカリ処理などによる残存している還元性糖質を分解除去する方法などの1種又は2種以上を組み合わせて精製することにより、最高純度のトレハロース製品を得ることも容易である。
【0010】
とりわけ、高純度品の工業的大量生産方法としては、イオン交換カラムクロマトグラフィーの採用が好適であり、例えば、特許文献6、特許文献7などに開示されている塩型強酸性カチオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーにより夾雑糖類を除去し、トレハロースの含量を有利に向上させることができる。この際、固定床方式、移動床方式、擬似移動床方式のいずれの方式を採用することも随意である。
【0011】
本発明のエネルギー補給用組成物は、還元性澱粉部分分解物に非還元性糖質生成酵素を作用させる方法により製造されたトレハロースを有効成分として含有し、生体へエネルギー補給できるものであればよく、一般的には、その効果をより高めるために、トレハロースを固形物当たり10%以上、望ましくは20%以上含有せしめるのが好適である。
【0012】
本発明のエネルギー補給用組成物は、トレハロース単体であってもよいが、通常、トレハロースとともに、目的に応じて他の可食性又は生体に投与可能な物質、例えば、蛋白質、アミノ酸、脂質、他の糖質、ビタミン、ミネラルなどの薬効物質、又は抗菌物質、酵素、ホルモン、サイトカインなどの薬効物質などから選ばれる1種又は2種以上を含有せしめて製造される。この際、必要ならば他の適宜の物質、例えば、呈味料、着色料、着香料、安定剤、増量剤、賦形剤などの1種又は2種以上を使用することも随意であり、また、得られる組成物を目的に応じて適宜の形状に選択することも随意である。
【0013】
このようにして得られるエネルギー補給用組成物は、経口的また非経口的に使用され、毒性、副作用の懸念もなく、よく代謝利用され、生体へのエネルギー補給に有利に利用することができる。
【0014】
本発明のエネルギー用糖源の使用量は、固形物当たり、トレハロースとして、大人1日当たり約1乃至1,000グラム、好ましくは、約5乃至500グラムの範囲から適宜選択される。
【0015】
本発明のエネルギー用糖源と、これを有効成分として含有せしめた組成物は、ヒトは勿論のこと、必要に応じてウシ、ウマなどの家畜、イヌ、ネコなどのペットなどにも有効に利用することができる。
【0016】
以下、本発明を実験で詳細に説明する。
【実験1】
【0017】
<トレハロースの製造例>
<実験1−1:非還元性糖質生成酵素の製造例>
リゾビウム・スピーシーズ(Rhizobium sp.)M−11(FERM BP−4130)を、特許文献4に示す方法に従って、炭素源、窒素源、ミネラルなどを含む栄養培地で、27℃、36時間、通気攪拌培養した。培養後、SF膜を用いて除菌濾過し、約18lの培養濾液を回収し、さらに、その濾液をUF膜で濃縮し、非還元性糖質生成酵素濃縮液約1l(17.7単位/ml)を回収した。
【0018】
<実験1−2:トレハロース含水結晶の製造例>
還元性澱粉部分分解物(松谷化学工業株式会社製造、商品名パインデックス#4)40重量部を水60重量部に加熱溶解し、この溶液を45℃、pH6.5に調整した後、実験1−1の方法で製造した非還元性糖質生成酵素を還元性澱粉部分分解物グラム当たり1単位の割合になるように加えて96時間反応させ、次いで100℃に10分間加熱して、酵素を失活させた。本反応液を濃度約20%まで希釈し、グルコアミラーゼ(ナガセ生化学工業株式会社製造、商品名グルコチーム)を還元性澱粉部分分解物グラム当たり10単位加えて40時間反応させ、次いで加熱して、酵素を失活させた。本溶液を、常法に従って、活性炭にて脱色し、イオン交換樹脂にて脱塩し、濃度約60%に濃縮した。本糖液中には固形物当たり29.5%のトレハロースを含有していた。この濃縮液を塩型強酸性カチオン交換樹脂(オルガノ株式会社販売、商品名CG6000、Na型)が充填されたジャケット付きステンレス製カラムに、60℃、SV 0.4でチャージし、トレハロース高含有画分を採取した。本高含有液は、固形物当たり約90%のトレハロースを含有していた。本溶液を濃度約75%に濃縮した後、助晶缶にとり、種晶としてトレハロース含水結晶約2%を加えて50℃とし、ゆっくり攪拌しつつ徐冷して、25℃まで下げ、バスケット型遠心分離機で分蜜し、結晶を少量の水でスプレーし、洗浄して、純度99%以上の高純度トレハロース含水結晶を得た。
【0019】
<実験1−3:結晶性トレハロース粉末の製造例>
実験1−2の方法で、晶出率約45%のマスキットを調製し、これを乾燥塔上のノズルより150kg/cmの高圧にて噴霧した。これと同時に85℃の熱風を乾燥塔の上部より送風し、底部に設けた移送金網コンベア上に結晶性粉末を捕集し、コンベアの下より45℃の温風を送りつつ、該粉末を乾燥塔外に徐々に移動させて、取り出した。この結晶性粉末を熟成塔に充填して温風を送りつつ、10時間熟成させ、結晶化と乾燥を完了し、結晶性トレハロース粉末を得た。
【0020】
<実験1−4:無水結晶トレハロース粉末の製造例>
実験1−2の製造過程で得たトレハース含有シラップを濃度約60%とし、これを実験1−2の方法に準じて塩型強酸性カチオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーを行い、トレハロース約95%を含有する高含有画分を採取した。本溶液を、特許文献5に示す方法に従って蒸発釜にとり、減圧下で煮詰め水分約4.0%のシラップとし、助晶機に移し、これに種晶として無水結晶トレハロースをシラップ固形物当たり1%加え、95℃で5分間攪拌助晶し、次いで、アルミ製バットに取り出し、100℃で6時間晶出熟成させてブロックを調製した。次いで、本ブロックを切削機にて粉砕し、流動乾燥して、水分約0.3%の無水結晶トレハロース粉末を得た。
【実験2】
【0021】
<生体外での消化性試験>
実験1−2の方法で製造した高純度トレハロース含水結晶を用いて、岡田等が非特許文献1で報告している方法に準じて、トレハロースを水溶液とし、これの生体外(インビトロ)での消化試験を行った。そのトレハロースの消化の程度は、次式により分解率(%)として求めた。
【0022】
【式1】
【0023】

【0024】
結果は、表1にまとめた。
【0025】
【表1】

【0026】
表1の結果から明らかなように、トレハロースはラット小腸粘膜酵素によりほとんど加水分解されなかった。次に、ラット小腸粘膜酵素を用いて、同様に、各種二糖類の消化性試験を行なった。
【0027】
結果を表2にまとめた。
【0028】
【表2】

【0029】
表2の結果から明らかなように、トレハロースはラット小腸粘膜酵素によりマルトースに比べきわめて加水分解され難いことを認めた。
【実験3】
【0030】
<経口投与による生体内での利用試験>
実験1−2の方法で製造したトレハロース含水結晶を用いて、厚治等が非特許文献2で報告している方法に準じて、トレハロース30グラムを20w/v%水溶液とし、これをボランティア6名(健康な26乃至31才の男性)に経口投与し、経時的に採血して、常法に従い、血糖値(グルコース濃度mg/dl)及びインスリン値(μU/ml)を測定した。対照としてはグルコースを用いた。それぞれの結果は6名の平均値で求め、その血糖値の経時変化を図1に、そのインスリン値の経時変化を図2に示した。図中、実線はトレハロースの場合を、破線はグルコースの場合を示す。
【0031】
図1、図2の結果から明らかなように、トレハロースはやや遅れる傾向があるもののグルコースと同様の挙動を示し、血糖値、インスリン値ともに、投与後、約30乃至45分間で最大値を示した。従って、経口投与によるトレハロースは、実験2の生体外での消化性試験結果とは違って、生体内で容易に消化吸収、代謝利用されて、エネルギー源になることが判明した。
【実験4】
【0032】
<非経口投与による生体内での利用試験>
<実験4−1:急速投与>
実験1−2の方法で製造したトレハロース含水結晶を、純水に溶解して更に精製し精密濾過、濃縮し、再結晶させて、パイロジェンフリーのトレハロース含水結晶を得た。本結晶を注射用蒸留水で等張の10w/v%に溶解し、トレハロース輸液剤を製造した。本輸液剤を、ウサギ6羽(体重約2乃至3kg)を用いて、それらの耳静脈よりトレハロースとして体重kg当たり1グラムに相当する量を1.5分間で急速投与し、経時的にサンプリングして、血糖値(グルコース濃度mg/dl)及びインスリン値(μU/ml)を測定した。対照としては、等張の5w/v%グルコース液を用いて、グルコースとして体重kg当たり0.5グラムを同様に静注した。それぞれの結果は6羽の平均値で求め、その血糖値の経時変化を図3に、そのインスリン値の経時変化を図4に示した。図中、実線はトレハロースの場合を、破線はグルコースの場合を示す。
【0033】
図3及び図4の結果から明らかなように、血糖値、インスリン値ともに、トレハロースはやや遅れる傾向があるもののグルコースと同様の挙動、すなわち、約5乃至30分間で最大値を示した。従って、非経口急速投与によるトレハロースは、生体内で容易にグルコースに加水分解され、代謝利用されて、エネルギー源になると判断される。なお、尿中への糖の排泄量を、投与開始から6時間調べたところ、トレハロースの排泄量はグルコースと同様にきわめて少なく、投与量の数%未満であることが判明した。
【0034】
<実験4−2:緩速投与>
実験4−1の方法で調製したトレハロース輸液剤を、ウサギ6羽(体重約2乃至3kg)の耳静脈より1.5時間かけて緩速投与した以外は、実験4−1の方法と同様に投与し、経時的にサンプリングして、血糖値(グルコース濃度mg/dl)及びインスリン値(μU/ml)を測定した。それぞれの結果は6羽の平均値で求め、その血糖値の変化を図5に、そのインスリン値の変化を図6に示した。
【0035】
図5及び図6の結果から明らかなように、血糖値については、トレハロースはやや遅れるもののグルコースと同様の挙動を示し、インスリン値については、トレハロースはグルコースと同様の挙動を示した。従って、非経口緩速投与によるトレハロースは、生体内で容易にグルコースに加水分解され、代謝利用されて、エネルギー源になると判断される。なお、尿中への糖の排泄量を、投与開始から6時間調べたところ、トレハロースの排泄量はグルコースと同様にきわめて少なく、投与量の数%未満であることが判明した。
【実験5】
【0036】
<急性毒性試験>
マウスを使用して、実験1−2の方法で製造したトレハロース含水結晶を経口投与して急性毒性テストを行なった。その結果、トレハロースは低毒性の物質で、投与可能な最大投与量においても死亡例は認められなかった。従って、正確な値とはいえないが、そのLD50値は、50g/kg以上であった。
【0037】
以下、本発明の有効成分としてトレハロースを含有せしめたエネルギー補給用組成物の例を実施例で述べる。
【実施例1】
【0038】
<チョコレート>
カカオペースト40重量部、カカオバター10重量部、実験1−2の方法で製造したトレハロース含水結晶50重量部を混合してレファイナーに通して粒度を下げた後、コンチェに入れて50℃で2昼夜練り上げる。この間に、レシチン0.5重量部を加え充分に混和分散させた。次いで、温度調節機で31℃に調節し、バターの固まる直前に型に流し込み、振動機でアワ抜きを行ない、10℃の冷却トンネルを20分間くぐらせて固化させた。これを型抜きして包装し製品を得た。
【0039】
本品は、吸湿性がなく、色、光沢共によく、内部組織も良好で、口中でなめらかに溶け、上品な甘味とまろやかな風味を有し、エネルギー補給用組成物として有利に利用できる。
【実施例2】
【0040】
<チューインガム>
ガムベース3重量部を柔らかくなる程度に加熱溶融し、これに蔗糖4重量部及び実験1−3の方法で製造した結晶性トレハロース粉末3重量部とを加え、更に適量の香料と着色料とを混合し、常法に従って、ロールにより練り合わせ、成形、包装して製品を得た。
【0041】
本品は、テクスチャー、風味とも良好なチューインガムであり、エネルギー補給用組成物として有利に利用できる。
【実施例3】
【0042】
<ハードキャンディー>
濃度55%蔗糖溶液100重量部に実験1−4の製造過程で得られたトレハロース高含有液30重量部を加熱混合し、次いで減圧下で水分2%未満になるまで加熱濃縮し、これにクエン酸1重量部及び適量のレモン香料と着色料とを混和し、常法に従って成型し、製品を得た。
【0043】
本品は、歯切れ、呈味良好で、蔗糖の晶出も起こらない高品質のハードキャンディーであるとともにエネルギー補給用組成物として有利に利用できる。
【実施例4】
【0044】
<カスタードクリーム>
コーンスターチ100重量部、実験1−3の方法で製造した結晶性トレハロース粉末を70%含有するトレハロース含有シラップ100重量部、マルトース80重量部、蔗糖20重量部及び食塩1重量部を充分に混合し、鶏卵280重量部を加えて攪拌し、これに沸騰した牛乳1,000重量部を徐々に加え、更に、これを火にかけて攪拌を続け、コーンスターチが完全に糊化して全体が半透明になった時に火を止め、これを冷却して適量のバニラ香料を加え、計量、充填、包装して製品を得た。
【0045】
本品は、なめらかな光沢を有し、温和な甘味で美味であるとともにエネルギー補給用組成物として有利に利用できる。
【実施例5】
【0046】
<ういろうの素>
米粉90重量部に、コーンスターチ20重量部、実験1−3の方法で製造した結晶性トレハロース粉末120重量部、プルラン4重量部を均一に混合してういろうの素を製造した。ういろうの素と適量の抹茶と水とを混練し、これを容器に入れて60分間蒸し上げて抹茶ういろうを製造した。
【0047】
本品は、照り、口当たりも良好で、風味も良い。また、澱粉の老化も抑制され
、日持ちもよい。さらに、本品はエネルギー補給用組成物として有利に利用できる。
【実施例6】
【0048】
<乳酸飲料>
脱脂乳10重量部を80℃で20分間加熱殺菌した後、40℃に冷却し、これにスターター0.3重量部を加えて約37℃で10時間醗酵させた。次いで、これをホモジナイズした後、実験1−3の方法で製造した結晶性トレハロース粉末4重量部、蔗糖1重量部及び異性化糖シラップ2重量部を加えて70℃に保って殺菌した。これを冷却し、適量の香料を加え、ビン詰めして製品を得た。
【0049】
本品は、風味、甘味が酸味とよく調和した高品質の乳酸飲料であるとともにエネルギー補給用組成物として有利に利用できる。
【実施例7】
【0050】
<粉末ジュース>
噴霧乾燥により製造したオレンジ果汁粉末33重量部に対し、実験1−2の方法で製造したトレハロース含水結晶50重量部、蔗糖10重量部、無水クエン酸0.65重量部、リンゴ酸0.1重量部、L−アスコルビン酸0.1重量部、クエン酸ソーダ0.1重量部、プルラン0.5重量部、粉末香料適量をよく混合攪拌し、粉砕し微粉末にしてこれを流動層造粒機に仕込み、排風温度40℃、風量毎分150mとし、これに市販のトレハロースから調製したトレハロース高含有溶液をバインダーとしてスプレーし、30分間造粒し、計量、包装して製品を得た。
【0051】
本品は、果汁含有率約30%の粉末ジュースである。また、本品は異味、異臭がなく、吸湿固結も起こさず長期に安定であり、エネルギー補給用組成物として有利に利用できる。
【実施例8】
【0052】
<粉末卵黄>
生卵から調製した卵黄をプレート式加熱殺菌機で60乃至64℃で殺菌し、得られる液状卵黄1重量部に対して、実験1−4の方法で得た無水結晶トレハロース粉末4重量部の割合で混合した後バットに移し、一夜放置して、トレハロース含水結晶に変換させてブロックを調製した。本ブロックを切削機にかけて粉末化し、粉末卵黄を得た。
【0053】
本品は、プレミックス、冷菓、乳化剤などの製菓材料としてのみならず、経口流動食、経管流動食などのエネルギー補給用組成物として有利に利用できる。
【実施例9】
【0054】
<流動食用固体製剤>
実験1−2の方法で製造したトレハロース含水結晶500重量部、粉末卵黄270重量部、脱脂粉乳209重量部、塩化ナトリウム4.4重量部、塩化カリウム1.8重量部、硫酸マグネシウム4重量部、チアミン0.01重量部、アスコルビン酸ナトリウム0.1重量部、ビタミンEアセテート0.6重量部及びニコチン酸アミド0.04重量部からなる配合物を調製し、この配合物25グラムずつ防湿性ラミネート小袋に充填し、ヒートシールして製品を得た。
【0055】
本品は、1袋分を約150乃至300mlの水に溶解して流動食とし、経口的、又は鼻腔、胃、腸などへ経管的使用方法により利用され、エネルギー補給用組成物として有利に利用できる。
【実施例10】
【0056】
<輸液剤>
実験1−2の方法で製造したトレハロース含水結晶を水に濃度約10w/v%に溶解し、次いで、常法に従って、精密濾過してパイロジェンフリーとし、プラスチック製ボトルに無菌的に充填し施栓して製品を得た。
【0057】
本品は、経日変化もなく安定な輸液剤で、静脈内、腹腔内などに投与するのに好適である。本品は濃度10w/v%で血液と等張で、グルコースの場合の2倍濃度でエネルギー補給できる。
【実施例11】
【0058】
<輸液剤>
実験1−2の方法で製造したトレハロース含水結晶と下記の組成のアミノ酸配合物とがそれぞれ5w/v%、30w/v%になるように水に混合溶解し、次いで実施例10と同様に精製してパイロジェンフリーとし、更に、プラスチック製バックに充填し施栓して製品を得た。
【0059】
アミノ酸配合物の組成(mg/100ml)
L−イソロイシン 180
L−ロイシン 410
L−リジン塩酸塩 620
L−メチオニン 240
L−フェニルアラニン 290
L−スレオニン 180
L−トリプトファン 60
L−バリン 200
L−アルギニン塩酸塩 270
L−ヒスチジン塩酸塩 130
グリシン 340
【0060】
本品は、糖質とアミノ酸との複合輸液剤にもかかわらず、トレハロースが還元性を示さないため、経日変化もなく安定な輸液剤で、静脈内、腹腔内などへ投与するのに好適である。本品は、エネルギー補給用組成物として、エネルギー補給のみならず、アミノ酸補給のためにも有利に利用できる。
【実施例12】
【0061】
<外傷治療用膏薬>
実験1−3の方法で製造した結晶性トレハロース粉末500重量部に、ヨウ素3重量部を溶解したメタノール50重量部を加え混合し、更に10w/v%プルラン水溶液200重量部を加えて混合し、適度の延び、付着性を示す外傷治療用膏薬を得た。
【0062】
本品は、ヨウ素による殺菌作用のみならず、トレハロースによる細胞へのエネルギー補給用組成物としても作用することから、治癒期間が短縮され、創面もきれいに治る。
【実施例13】
【0063】
<糖衣錠>
重量150mgの素錠を芯剤とし、これに実験1−2の方法で製造したトレハロース含水結晶40重量部、プルラン(平均分子量20万)2重量部、水30重量部、タルク25重量部及び酸化チタン3重量部からなる下掛け液を用いて錠剤重量が約230mgになるまで糖衣し、次いで、同じトレハロース65重量部、プルラン1重量部及び水34重量部からなる上掛け液を用いて糖衣し、更に、ロウ液で艶出しして光沢のある外観の優れた糖衣錠を得た。
【0064】
本品は、糖衣掛け時の作業性が優れているだけでなく、耐衝撃性にも優れており、高品質を長時間維持でき、エネルギー補給用組成物として有利に利用できる

【産業上の利用可能性】
【0065】
上記から明らかなように、本発明の還元性澱粉部分分解物に非還元性糖質生成酵素を作用させる方法により製造されたトレハロースからなるエネルギー用糖源は、還元性を示さない安定な糖質であり、かつ生体で容易にエネルギー源として代謝利用される特長を有している。また、本発明の還元性澱粉部分分解物から新規生化学的手段により製造されたトレハロースを有効成分として含有せしめたエネルギー補給用組成物は、トレハロースが還元性を示さず、保存安定性が高いことから、他の栄養物質、薬効物質などを併用して、より総合的な栄養組成物にすることも、また、より治療効果を高めた医薬組成物にすることも容易に実施できる特長を有している。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】ヒトにトレハロース又はグルコースを経口投与した場合の血糖値の経時変化を示す図である。図中、トレハロースの場合を実線で、グルコースの場合を破線で示す。以下の図2乃至図6においても、同様に、実線はトレハロースの場合を、破線はグルコースの場合を示す。
【図2】ヒトにトレハロース又はグルコースを経口投与した場合のインスリン値の経時変化を示す図である。
【図3】ウサギにトレハロース又はグルコースを非経口的に急速投与した場合の血糖値の経時変化を示す図である。
【図4】ウサギにトレハロース又はグルコースを非経口的に急速投与した場合のインスリン値の経時変化を示す図である。
【図5】ウサギにトレハロース又はグルコースを非経口的に緩速投与した場合の血糖値の経時変化を示す図である。
【図6】ウサギにトレハロース又はグルコースを非経口的に緩速投与した場合のインスリン値の経時変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元性を示す澱粉部分分解物に非還元性糖質生成酵素を作用させる酵素反応を経て得られるトレハロースを含有せしめることを特徴とする、生体に経口的に投与したとき、グルコースと比べ血糖値が高く保持される、経口使用のためのエネルギー補給用組成物の製造方法。
【請求項2】
還元性を示す澱粉部分分解物が、グルコース重合度が3以上の還元性を示す澱粉部分分解物である請求項1記載の経口使用のためのエネルギー補給用組成物の製造方法。
【請求項3】
蛋白質、アミノ酸、脂質、他の糖質、ビタミン、ミネラル、抗菌物質、酵素、ホルモン、及びサイトカインから選ばれる1種又は2種以上を更に含有せしめることを特徴とする請求項1又は2記載の経口使用のためのエネルギー補給用組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−115857(P2006−115857A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−2904(P2006−2904)
【出願日】平成18年1月10日(2006.1.10)
【分割の表示】特願2001−391332(P2001−391332)の分割
【原出願日】平成6年3月16日(1994.3.16)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】