説明

エピスルフィド化合物材料の製造方法、硬化性組成物及び接続構造体

【課題】エポキシ化合物のエポキシ基をチイラン基に変換してエピスルフィド化合物を得る際に、エポキシ基をチイラン基に効率的に変換でき、更にエピスルフィド化合物材料を含む硬化性組成物の硬化物の耐湿熱性を高めることができるエピスルフィド化合物材料の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るエピスルフィド化合物材料の製造方法では、エポキシ化合物のエポキシ基をチイラン基に変換し、エピスルフィド化合物を得る。本発明では、芳香族環を有するエポキシ化合物と硫化剤とを用いて、上記エポキシ化合物の全部又は一部のエポキシ基をチイラン基に変換する。上記硫化剤として、テトラアルキルチオ尿素又はトリアルキルチオ尿素が用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化剤を用いて、エポキシ化合物のエポキシ基をチイラン基に変換し、エピスルフィド化合物を得るエピスルフィド化合物材料の製造方法、並びに該エピスルフィド化合物材料の製造方法により得られたエピスルフィド化合物材料を含む硬化性組成物及び接続構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂組成物は、硬化後の硬化物の接着力が高く、硬化物の耐水性及び耐熱性にも優れている。このため、エポキシ樹脂組成物は、電気、電子、建築及び車両等の各種用途に広く用いられている。また、様々な接続対象部材を電気的に接続するために、上記エポキシ樹脂組成物に、導電性粒子が配合されることがある。導電性粒子を含むエポキシ樹脂組成物は、異方性導電材料と呼ばれている。
【0003】
上記異方性導電材料は、具体的には、ICチップとフレキシブルプリント回路基板との接続、及びICチップとITO電極を有する回路基板との接続等に使用されている。例えば、ICチップの電極と回路基板の電極との間に異方性導電材料を配置した後、加熱及び加圧することにより、これらの電極同士を接続できる。
【0004】
上記異方性導電材料の一例として、下記の特許文献1には、熱硬化性絶縁接着剤と、導電性粒子と、イミダゾール系潜在性硬化剤と、アミン系潜在性硬化剤とを含む異方性導電接着フィルムが開示されている。上記熱硬化性絶縁接着剤は、好ましくは可撓性エポキシ樹脂を含む。特許文献1には、この異方性導電接着フィルムを比較的低温で硬化させた場合であっても、接続信頼性が優れていることが記載されている。
【0005】
また、エピスルフィド化合物を含む樹脂組成物も知られている。例えば、下記の特許文献2には、ビスフェノール型エピスルフィド変性樹脂と硬化剤とを含む樹脂組成物が開示されている。ここでは、上記ビスフェノール型エピスルフィド変性樹脂の製造方法として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と硫化剤とを溶媒中で反応させ、反応終了後、純水にて洗浄し、溶媒を除去することにより、ビスフェノールA型エピスルフィド変性樹脂を得る製造方法が開示されている。上記硫化剤としては、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸ナトリウム、チオ尿素、N−メチルチオ尿素、1,3−ジエチルチオ尿素、ホスフィンサルファイド、ジメチルチオホルムアミド及びN−メチルベンゾチアゾール−2−チオン等が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平09−115335号公報
【特許文献2】特開2005−343910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、電子部品の電極間を効率的に接続するために、接続に要する加熱温度を低くし、かつ加圧時間を短くすることが求められている。また、電子部品は加熱により劣化しやすいため、加熱温度を低くすることが強く求められている。
【0008】
特許文献1に記載の異方性導電接着フィルムでは、硬化を開始させるのに必要な加熱温度が比較的低い。しかしながら、この異方性導電接着フィルムは、可撓性エポキシ樹脂を
含む熱硬化性絶縁接着剤を含むので、低温では硬化反応が充分に進行しないことがある。このため、異方性導電接着フィルムを用いて、回路基板及び電子部品の電極間を接続するために、加熱温度を高くしたり、長時間加熱したりしなければならないことがある。従って、電極間を効率的に接続できないことがある。
【0009】
一方で、特許文献2に記載のビスフェノールA型エピスルフィド変性樹脂の使用により、加熱温度を低くし、かつ加熱時間を短くすることができる。しかし、特許文献2には、樹脂組成物に導電性粒子を添加し、異方性導電材料として用いることについては記載がない。
【0010】
また、特許文献2に記載のように、エポキシ化合物のエポキシ基をチイラン基に変換して、エピスフィド化合物を得る場合に、単に硫化剤を用いただけでは、エポキシ基を十分にチイラン基に変換できないことがある。さらに、特許文献2に記載の製造方法により得られたビスフェノールA型エピスルフィド変性樹脂を含む樹脂組成物を用いて、接続対象部材を接続したときに、樹脂組成物の硬化物の耐湿熱性が低すぎて、硬化物が接続対象部材から剥離することがある。
【0011】
本発明の目的は、エポキシ化合物のエポキシ基をチイラン基に変換してエピスルフィド化合物を得る際に、エポキシ基をチイラン基に効率的に変換できるエピスルフィド化合物材料の製造方法を提供することである。
【0012】
本発明は、硬化性組成物の硬化成分として用いられるエピスルフィド化合物材料であって、該硬化性組成物の硬化物の耐湿熱性を高めることができるエピスルフィド化合物材料を得ることが可能なエピスルフィド化合物材料の製造方法、並びに該エピスルフィド化合物材料の製造方法により得られたエピスルフィド化合物材料を含む硬化性組成物及び接続構造体を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の広い局面によれば、エポキシ化合物のエポキシ基をチイラン基に変換し、エピスルフィド化合物を得るエピスルフィド化合物材料の製造方法であって、芳香族環を有するエポキシ化合物と硫化剤とを用いて、上記エポキシ化合物の全部又は一部のエポキシ基をチイラン基に変換し、エピスルフィド化合物を含むエピスルフィド化合物材料を得る工程を備え、上記硫化剤として、テトラアルキルチオ尿素又はトリアルキルチオ尿素を用いる、エピスルフィド化合物材料の製造方法が提供される。
【0014】
本発明に係るエピスルフィド化合物材料の製造方法のある特定の局面では、上記硫化剤として、テトラエチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、トリエチルチオ尿素又はトリメチルチオ尿素が用いられる。
【0015】
本発明に係るエピスルフィド化合物材料の製造方法のさらに他の特定の局面では、上記エポキシ化合物として、少なくとも2つのエポキシ基を有するエポキシ化合物が用いられる。
【0016】
本発明に係るエピスルフィド化合物材料の製造方法の別の特定の局面では、上記硫化剤を含む第1の溶液に、上記エポキシ化合物又は上記エポキシ化合物を含む溶液を連続的又は断続的に添加した後、上記硫化剤を含む第2の溶液を連続的又は断続的にさらに添加することにより、上記エポキシ化合物の全部又は一部のエポキシ基をチイラン基に変換する。
【0017】
本発明に係る硬化性組成物は、上記エピスルフィド化合物材料の製造方法により得られ
たエピスルフィド化合物材料と、熱硬化剤とを含む。
【0018】
本発明に係る硬化性組成物のある特定の局面では、光硬化性化合物と、光重合開始剤とがさらに含まれる。
【0019】
本発明に係る硬化性組成物の他の特定の局面では、導電性粒子がさらに含まれている。
【0020】
本発明に係る接続構造体は、第1の接続対象部材と、第2の接続対象部材と、該第1,第2の接続対象部材を接続している接続部とを備えており、該接続部が、本発明に従って構成された硬化性組成物を硬化させることにより形成されている。
【0021】
本発明に係る接続構造体のある特定の局面では、上記硬化性組成物が導電性粒子を含み、上記第1,第2の接続対象部材は、上記導電性粒子により電気的に接続されている。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るエピスルフィド化合物材料の製造方法では、芳香族環を有するエポキシ化合物と、硫化剤であるテトラアルキルチオ尿素又はトリアルキルチオ尿素とを用いるので、エポキシ基をチイラン基に効率的に変換できる。さらに、本発明では、芳香族環を有するエポキシ化合物と特定の上記硫化剤とを用いて、該エポキシ化合物の全部又は一部のエポキシ基をチイラン基に変換するので、得られるエピスルフィド化合物を含む硬化性組成物の硬化物の耐湿熱性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る硬化性組成物を用いた接続構造体の一例を模式的に示す部分切欠断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0025】
(エピスルフィド化合物材料の製造方法、並びに該エピスルフィド化合物材料の製造方法により得られたエピスルフィド化合物及びエピスルフィド化合物材料)
本発明は、エポキシ化合物のエポキシ基をチイラン基に変換し、エピスルフィド化合物を得るエピスルフィド化合物材料の製造方法である。本発明に係るエピスルフィド化合物材料の製造方法では、芳香族環を有するエポキシ化合物と硫化剤とを用いて、該エポキシ化合物の全部又は一部のエポキシ基をチイラン基に変換する。本発明に係るエピスルフィド化合物材料の製造方法では、上記硫化剤として、テトラアルキルチオ尿素又はトリアルキルチオ尿素が用いられる。上記エピスルフィド化合物は、チイラン基を有する熱硬化性化合物である。上記エポキシ化合物は、エポキシ基を有する熱硬化性化合物である。上記エピスルフィド化合物材料は、エピスルフィド化合物含有材料である。
【0026】
芳香族環を有するエポキシ化合物と特定の上記硫化剤とを用いることにより、エポキシ基をチイラン基に効率的に変換でき、不純物の含有量が少ないエピスルフィド化合物材料を得ることができる。さらに、上記製造方法により得られたエピスルフィド化合物材料と熱硬化剤とを混合し、硬化性組成物を得ることにより、該硬化性組成物の硬化物の耐湿熱性を高くすることができる。これは、エピスルフィド化合物を得る際に、耐湿熱性が低下する不純物の生成量が少なくなるためであると考えられる。該不純物としては、多量化したオリゴマー等が挙げられる。また、上記エピスルフィド化合物材料の製造方法により、得られるエピスルフィド化合物材料及び該エピスルフィド化合物材料を含む硬化性組成物の保存安定性を高くすることもできる。
【0027】
本発明に係るエピスルフィド化合物材料の製造方法では、芳香族環を有するエポキシ化合物が用いられる。テトラアルキルチオ尿素及びトリアルキルチオ尿素以外の硫化剤を用いて芳香族環を有するエポキシ化合物のエポキシ基をチイラン基に変換した場合には、チイラン基への変換効率が比較的低く、かつ不純物が容易に生成しやすい。これに対し、硫化剤としてテトラアルキルチオ尿素又はトリアルキルチオ尿素を用いることにより、芳香族環を有するエポキシ化合物のエポキシ基をチイラン基に変換する場合であっても、チイラン基への変換効率を高めることができ、不純物の発生を十分に抑制できる。
【0028】
上記芳香族環を有するエポキシ化合物は特に限定されない。上記芳香族環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、テトラセン環、クリセン環、トリフェニレン環、テトラフェン環、ピレン環、ペンタセン環、ピセン環及びペリレン環等が挙げられる。なかでも、上記芳香族環は、ベンゼン環、ナフタレン環又はアントラセン環であることが好ましく、ナフタレン環であることがより好ましい。これらの好ましい芳香族環を有するエポキシ化合物のエポキシ基をチイラン基に変換することにより、チイラン基への変換効率を十分に高めることができ、不純物の発生をより一層抑制できる。特に、ナフタレン環を有するエポキシ化合物と特定の上記硫化剤との併用により、硬化性組成物の硬化物の耐湿熱性、並びにエピスルフィド化合物材料及び硬化性組成物の保存安定性がかなり高くなる。
【0029】
硬化性組成物の硬化物の耐湿熱性、並びにエピスルフィド化合物材料及び硬化性組成物の保存安定性をより一層高める観点からは、上記芳香族環を有するエポキシ化合物は、少なくとも2つのエポキシ基を有することが好ましい。すなわち、上記芳香族環を有するエポキシ化合物は、多官能のエポキシ化合物であることが好ましい。
【0030】
また、本発明に係るエピスルフィド化合物材料の製造方法により得られるエピスルフィド化合物は、エポキシ基ではなくチイラン基を有するので、エピスルフィド化合物材料を含む硬化組成物を加熱することにより、該硬化性組成物を低温で速やかに硬化させることができる。すなわち、チイラン基を有するエピスルフィド化合物は、エポキシ基を有するエポキシ化合物と比較して、チイラン基に由来してより一層低い温度で硬化可能である。
【0031】
また、近年、回路基板等に設けられる電極の微細化が進行している。すなわち、電極が形成されているラインの幅方向の寸法(L)と、電極が形成されていないスペースの幅方向の寸法(S)とを示すL/Sが、より一層小さくなっている。このような微細な電極が設けられた回路基板の接続に上記エピスルフィド化合物材料は好適に用いられる。すなわち、上記エピスルフィド化合物材料を含む硬化性組成物の硬化速度が速いため、微細な電極が設けられていても、電極間のスペースにボイドが生じるのを抑制できる。
【0032】
低温でより一層速やかに硬化させ、更に硬化性組成物の硬化物の耐湿熱性、並びにエピスルフィド化合物材料及び硬化性組成物の保存安定性をより一層高める観点からは、上記エポキシ化合物のエポキシ基をチイラン基に変換することにより得られるエピスルフィド化合物は、下記式(1−1)、(2−1)、(3)又は(7)で表される構造を有するエピスルフィド化合物であることが好ましく、下記式(1−1)、(2−1)又は(3)で表される構造を有するエピスルフィド化合物であることがより好ましい。従って、上記芳香族環を有するエポキシ化合物は、下記式(1−1)、(2−1)、(3)又は(7)で表される構造におけるチイラン基をエポキシ基に置き換えた構造を有するエポキシ化合物であることが好ましく、下記式(1−1)、(2−1)又は(3)で表される構造におけるチイラン基をエポキシ基に置き換えた構造を有するエポキシ化合物であることがより好ましい。下記式(1−1)、(2−1)、(3)又は(7)で表される構造を有するエピスルフィド化合物を得るために、上記エポキシ化合物として、下記式(1−1)、(2−1)、(3)又は(7)で表される構造におけるチイラン基をエポキシ基に置き換えた構
造を有するエポキシ化合物が用いられる。
【0033】
下記式(1−1)において、ベンゼン環に結合している6つの基の結合部位は特に限定されない。下記式(2−1)において、ナフタレン環に結合している8つの基の結合部位は特に限定されない。
【0034】
【化1】

【0035】
上記式(1−1)中、R1及びR2はそれぞれ炭素数1〜5のアルキレン基を表す。R3、R4、R5及びR6の4個の基の内の2〜4個の基は水素を表す。R3、R4、R5及びR6の内の水素ではない基は下記式(4)で表される基を表す。R3、R4、R5及びR6の4個の基の全てが水素であってもよい。R3、R4、R5及びR6の4個の基の内の1個又は2個が下記式(4)で表される基であり、かつR3、R4、R5及びR6の4個の基の内の下記式(4)で表される基ではない基は水素であってもよい。
【0036】
【化2】

【0037】
上記式(4)中、R7は炭素数1〜5のアルキレン基を表す。
【0038】
【化3】

【0039】
上記式(2−1)中、R51及びR52はそれぞれ炭素数1〜5のアルキレン基を表す。R53、R54、R55、R56、R57及びR58の6個の基の内の4〜6個の基は水素を表す。R53、R54、R55、R56、R57及びR58の内の水素ではない基は、下記式(5)で表される基を表す。R53、R54、R55、R56、R57及びR58の6個の基の全てが水素であってもよい。R53、R54、R55、R56、R57及びR58の6個の基の内の1個又は2個が下記式(5)で表される基であり、かつR53、R54、R55、R56、R57及びR58の内の下記式(5)で表される基ではない基は水素であってもよい。
【0040】
【化4】

【0041】
上記式(5)中、R59は炭素数1〜5のアルキレン基を表す。
【0042】
【化5】

【0043】
上記式(3)中、R101及びR102はそれぞれ炭素数1〜5のアルキレン基を表す。R103、R104、R105、R106、R107、R108、R109及びR110の8個の基の内の6〜8個の基は水素を表す。R103、R104、R105、R106、R107、R108、R109及びR110の内の水素ではない基は、下記式(6)で表される基を表す。R103、R104、R105、R106、R107、R108、R109及びR110の8個の基の全てが水素であってもよい。R103、R104、R105、R106、R107、R108、R109及びR110の8個の基の内の1個又は2個が下記式(6)で表される基であり、かつR103、R104、R105、R106、R107、R108、R109及びR110の内の下記式(6)で表される基ではない基は水素であってもよい。
【0044】
【化6】

【0045】
上記式(6)中、R111は炭素数1〜5のアルキレン基を表す。
【0046】
【化7】

【0047】
上記式(7)中、R7及びR8はそれぞれ炭素数1〜5のアルキレン基を表す。
【0048】
低温でより一層速やかに硬化させ、硬化性組成物の硬化物の耐湿熱性、並びにエピスルフィド化合物材料及び硬化性組成物の保存安定性をより一層高める観点からは、上記エピスルフィド化合物は、下記式(1)、下記式(2)又は上記式(3)で表される構造を有することが好ましい。低温でさらに一層速やかに硬化させる観点からは、上記エピスルフィド化合物は、下記式(1)又は下記式(2)で表される構造を有することが好ましい。硬化性組成物の硬化物の耐湿熱性、並びにエピスルフィド化合物材料及び硬化性組成物の保存安定性をより一層高める観点からは、上記エピスルフィド化合物は、下記式(2)で表される構造を有することが特に好ましい。
【0049】
【化8】

【0050】
上記式(1)中、R1及びR2はそれぞれ炭素数1〜5のアルキレン基を表す。R3、R4、R5及びR6の4個の基の内の2〜4個の基は水素を表す。R3、R4、R5及びR6の内の水素ではない基は上記式(4)で表される基を表す。
【0051】
【化9】

【0052】
上記式(2)中、R51及びR52はそれぞれ炭素数1〜5のアルキレン基を表す。R53、R54、R55、R56、R57及びR58の6個の基の内の4〜6個の基は水素を表す。R53、R54、R55、R56、R57及びR58の内の水素ではない基は、上記式(5)で表される基を表す。
【0053】
上記式(1−1)、(2−1)、(3)又は(7)、並びに上記式(1)又は(2)で表される構造を有するエピスルフィド化合物はいずれも、チイラン基を少なくとも2つ有する。また、チイラン基を有する基が、ベンゼン環、ナフタレン環又はアントラセン環に結合されている。このような構造を有するので、エピスルフィド化合物と熱硬化剤とを含む硬化組成物を加熱することにより、該硬化性組成物を低温で速やかに硬化させることができる。
【0054】
上記式(1−1)、(2−1)、(3)又は(7)で表される構造を有するエピスルフィド化合物は、上記式(1−1)、(2−1)、(3)又は(7)で表される構造におけるチイラン基をエポキシ基に置き換えた構造を有するエポキシ化合物に比べて、反応性が高く、低温で速やかに硬化させることができる。
【0055】
上記式(1−1)及び(1)中のR1及びR2、上記式(2−1)及び(2)中のR51及びR52、上記式(3)中のR101及びR102、上記式(4)中のR7、上記式(5)中のR59、上記式(6)中のR111、並びに上記式(7)中のR7及びR8はいずれも、炭素数1〜5のアルキレン基である。該アルキレン基の炭素数が5を超えると、上記エピスルフィド化合物の硬化速度が低下しやすくなる。
【0056】
上記式(1−1)及び(1)中のR1及びR2、上記式(2−1)及び(2)中のR51及びR52、上記式(3)中のR101及びR102、上記式(4)中のR7、上記式(5)中のR59、上記式(6)中のR111、並びに上記式(7)中のR7及びR8はそれぞれ、炭素数1〜3のアルキレン基であることが好ましく、メチレン基であることがより好ましい。上記アルキレン基は直鎖構造を有するアルキレン基であってもよく、分岐構造を有するアルキレン基であってもよい。
【0057】
上記式(1)で表される構造は、下記式(1A)で表される構造であることが好ましい。下記式(1A)で表される構造を有するエピスルフィド化合物は、硬化性に優れている。
【0058】
【化10】

【0059】
上記式(1A)中、R1及びR2はそれぞれ炭素数1〜5のアルキレン基を表す。
【0060】
上記式(2)で表される構造は、下記式(2A)で表される構造であることが好ましい。下記式(2A)で表される構造を有するエピスルフィド化合物は、硬化性に優れている。
【0061】
【化11】

【0062】
上記式(2A)中、R51及びR52はそれぞれ炭素数1〜5のアルキレン基を表す。
【0063】
上記式(3)で表される構造は、下記式(3A)で表される構造であることが好ましい。下記式(3A)で表される構造を有するエピスルフィド化合物は、硬化性に優れている。
【0064】
【化12】

【0065】
上記式(3A)中、R101及びR102はそれぞれ炭素数1〜5のアルキレン基を表す。
【0066】
本発明に係るエピスルフィド化合物材料の製造方法では、上記硫化剤として、テトラアルキルチオ尿素又はトリアルキルチオ尿素が用いられる。硬化性組成物の硬化物の耐湿熱性、並びにエピスルフィド化合物材料及び硬化性組成物の保存安定性をより一層高める観点からは、上記硫化剤は、下記式(X)で表される構造を有する硫化剤であることが好ましい。下記式(X)で表される構造を有する硫化剤は、テトラアルキルチオ尿素又はトリアルキルチオ尿素である。
【0067】
【化13】

【0068】
上記式(X)中、R1及びR4は、炭素数1〜4のアルキル基を表し、R2及びR3が、水素又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。
【0069】
上記式(X)において、R1及びR4とアルキル基である場合のR2及びR3との具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基及びt−ブチル基が挙げられる。
【0070】
硬化性組成物の硬化物の耐湿熱性、並びにエピスルフィド化合物材料及び硬化性組成物の保存安定性をさらに一層高める観点からは、硫化剤に含まれるアルキル基の炭素数、並びに上記式(X)で表される構造を有する硫化剤に含まれるアルキル基の炭素数は、好ましくは1〜3、より好ましくは1又は2である。すなわち、上記式(X)で表される構造を有する硫化剤は、テトラエチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、トリエチルチオ尿素又はトリメチルチオ尿素であることが好ましい。
【0071】
上記硫化剤は、テトラメチルチオ尿素又はトリメチルチオ尿素であることが最も好ましい。トリメチルチオ尿素又はテトラメチルチオ尿素の使用により、硬化性組成物の硬化物の耐湿熱性、並びにエピスルフィド化合物材料及び硬化性組成物の保存安定性がかなり高くなる。
【0072】
また、上記硫化剤は、テトラエチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、トリエチルチオ尿素又はトリメチルチオ尿素であってもよい。これらの硫化剤を用いても、硬化性組成物の硬化物の耐湿熱性、並びにエピスルフィド化合物材料及び硬化性組成物の保存安定性が十分に高くなる。
【0073】
上記芳香族環を有するエポキシ化合物と上記硫化剤との組み合わせとしては、ナフタレン環を有するエポキシ化合物とトリメチルチオ尿素又はテトラメチルチオ尿素との組み合わせが好ましく、ナフタレン環を有するエポキシ化合物とトリメチルチオ尿素との組み合わせがより好ましく、上記式(2−1)で表される構造を有するエポキシ化合物とトリメチルチオ尿素又はテトラメチルチオ尿素との組み合わせがより好ましく、上記式(2−1)で表される構造を有するエポキシ化合物とトリメチルチオ尿素との組み合わせが最も好ましい。これらの好ましい組み合わせの採用により、硬化性組成物の硬化物の耐湿熱性、並びにエピスルフィド化合物材料及び硬化性組成物の保存安定性が顕著に高くなる。特に、上記式(2−1)で表される構造を有するエポキシ化合物とトリメチルチオ尿素との併用により、高い耐湿熱性と高い保存安定性とをより一層高いレベルで両立できる。
【0074】
上記芳香族環を有するエポキシ化合物と硫化剤とを用いて、エピスルフィド化合物は、具体的には、以下のようにして製造できる。
【0075】
攪拌機、冷却機及び温度計を備えた容器内に、溶剤と、上記硫化剤とを加え、上記硫化剤を溶解させ、容器内に第1の溶液を調製する。溶剤としては、メタノール又はエタノール等が挙げられる。
【0076】
さらに、上記第1の溶液とは別に、上記エポキシ化合物又は上記エポキシ化合物を含む溶液を用意する。
【0077】
次に、第1の溶液中に、上記エポキシ化合物又は上記エポキシ化合物を含む溶液を連続的又は断続的に添加する。このときの第1の溶液の温度は、15〜30℃の範囲内であることが好ましい。上記エポキシ化合物の添加の後、0.5〜12時間攪拌することが好ましい。上記エポキシ化合物又は該エポキシ化合物を含む溶液を複数の段階で添加してもよい。例えば、一部の上記エポキシ化合物又は該エポキシ化合物を含む溶液を添加した後、少なくとも0.5時間攪拌し、その後、残りの上記エポキシ化合物又は該エポキシ化合物を含む溶液をさらに添加し、0.5〜12時間攪拌してもよい。上記エポキシ化合物を含む溶液を用いる場合、該溶液のエポキシ化合物の濃度は特に限定されない。
【0078】
第1の溶液中への上記エポキシ化合物又は該エポキシ化合物を含む溶液の添加速度は、1〜10mL/分の範囲内であることが好ましく、2〜8mL/分の範囲内であることがより好ましい。上記エポキシ化合物又は該エポキシ化合物を含む溶液の添加速度が速すぎ
ると、エポキシ化合物が重合することがある。上記エポキシ化合物又は該エポキシ化合物を含む溶液の添加速度が遅すぎると、エピスルフィド化合物の生成効率が低下することがある。
【0079】
上記エポキシ化合物又は上記エポキシ化合物を含む溶液が上記第1の溶液に添加された混合液において、上記エポキシ化合物の濃度は、0.05〜0.8g/mLの範囲内であることが好ましく、0.1〜0.5g/mLの範囲内であることがより好ましい。エポキシ化合物の濃度が高すぎると、エポキシ化合物が重合することがある。
【0080】
次に、上記エポキシ化合物又は上記エポキシ化合物を含む溶液が上記第1の溶液に添加された混合液に、溶剤と、上記硫化剤とを含む第2の溶液を連続的又は断続的にさらに添加する。上記第2の溶液の添加の後、0.5〜12時間攪拌することが好ましい。また、上記第2の溶液の添加の後、15〜60℃の範囲内で攪拌することが好ましい。上記第2の溶液を複数の段階で添加してもよい。例えば、一部の上記第2の溶液を添加した後、少なくとも0.5時間攪拌し、その後、残りの上記第2の溶液をさらに添加し、0.5〜12時間攪拌してもよい。
【0081】
上記第2の溶液における上記硫化剤の濃度は、0.001〜0.7g/mLの範囲内であることが好ましく、0.005〜0.5g/mLの範囲内であることがより好ましい。硫化剤の濃度が上記下限以上であると、エポキシ化合物の重合を抑制できる。硫化剤の濃度が上記下限以上であると、エポキシ基をチイラン基により一層効率的に変換できる。
【0082】
上記混合液中への上記第2の溶液の添加速度は、1〜10mL/分の範囲内であることが好ましく、2〜8mL/分の範囲内であることがより好ましい。上記第2の溶液の添加速度が上記上限以下であると、エポキシ化合物の重合を抑制できる。上記第2の溶液の添加速度が上記下限以上であると、エピスルフィド化合物の生成効率がより一層高くなる。
【0083】
第1の溶液中に上記エポキシ化合物が添加された混合液に、上記第2の溶液を添加した後、溶剤又は未反応の上記硫化剤を除去することが好ましい。上記硫化剤の除去により、エピスルフィド化合物及び硬化性組成物の保存安定性がより一層高くなる。溶剤又は未反応の上記硫化剤を除去する方法として、従来公知の方法が用いられる。
【0084】
第1の溶液、又は、第2の溶液は、パラジウム金属粒子、酸化チタン等の触媒を含有してもよい。上記触媒を含有する溶液の使用により、チイラン基への変換率を調整できる。また、低温環境においてエポキシ基をチイラン基に変換できるため、エポキシ化合物の重合反応を抑制できる。上記第1の溶液の触媒の濃度、又は、上記第2の溶液の触媒の濃度は、0.05〜1.0g/mLの範囲内であることが好ましい。
【0085】
上記のようにして、上記エポキシ化合物の全部又は一部のエポキシ基をチイラン基に変換できる。この結果、エピスルフィド化合物を含むエピスルフィド化合物材料を得ることができる。また、上記エポキシ化合物の全部又は一部のエポキシ基をチイラン基に変換することにより、エピスルフィド化合物とエポキシ化合物との混合物(エピスル化合物含有混合物)を得ることができる。上記エピスルフィド化合物材料は、未反応のエポキシ化合物を含んでいてもよく、場合により不純物が含まれることがある。上記エピスルフィド化合物材料は、上記エピスルフィド化合物10〜100重量%と上記エポキシ化合物90〜0重量%とを含むことが好ましい。上記エピスルフィド化合物材料は、上記エピスルフィド化合物のみを含んでいてもよい。上記エピスルフィド化合物材料は、上記エピスルフィド化合物10〜99.9重量%と上記エポキシ化合物を90〜0.1重量%とを含んでいてもよく、上記エピスルフィド化合物10〜50重量%と上記エポキシ化合物90〜50重量%とを含んでいてもよい。
【0086】
(硬化性組成物)
本発明に係る硬化性組成物は、本発明に係るエピスルフィド化合物材料の製造方法により得られたエピスルフィド化合物材料と、熱硬化剤とを含む。本発明に係る硬化性組成物は、上記エピスルフィド化合物を少なくとも1種含む。また、本発明に係る硬化性組成物は、上記エピスルフィド化合物材料を少なくとも1種含む。
【0087】
〔熱硬化剤〕
本発明に係る硬化性組成物に含まれている熱硬化剤は特に限定されない。該熱硬化剤は、上記エピスルフィド化合物を硬化させる。また、本発明に係る硬化性組成物がエポキシ化合物を含む場合には、上記熱硬化剤はエポキシ化合物も硬化させる。該熱硬化剤として、従来公知の熱硬化剤を用いることができる。該熱硬化剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0088】
上記熱硬化剤としては、イミダゾール硬化剤、アミン硬化剤、フェノール硬化剤、ポリチオール硬化剤及び酸無水物等が挙げられる。なかでも、硬化性組成物を低温でより一層速やかに硬化させることができるので、イミダゾール硬化剤、ポリチオール硬化剤又はアミン硬化剤が好ましい。また、硬化性組成物の保存安定性を高めることができるので、潜在性の硬化剤が好ましい。潜在性の硬化剤は、潜在性イミダゾール硬化剤、潜在性ポリチオール硬化剤又は潜在性アミン硬化剤であることが好ましい。これらの熱硬化剤は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なお、上記熱硬化剤は、ポリウレタン樹脂又はポリエステル樹脂等の高分子物質で被覆されていてもよい。
【0089】
上記イミダゾール硬化剤としては、特に限定されないが、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテート、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン及び2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物等が挙げられる。
【0090】
上記ポリチオール硬化剤としては、特に限定されないが、トリメチロールプロパン トリス−3−メルカプトプロピオネート、ペンタエリスリトール テトラキス−3−メルカプトプロピオネート及びジペンタエリスリトール ヘキサ−3−メルカプトプロピオネート等が挙げられる。
【0091】
上記アミン硬化剤としては、特に限定されないが、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラスピロ[5.5]ウンデカン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、メタフェニレンジアミン及びジアミノジフェニルスルホン等が挙げられる。
【0092】
上記熱硬化剤の中でもポリチオール化合物又は酸無水物等が好ましく用いられる。硬化性組成物の硬化速度をより一層速くできるので、ポリチオール化合物がより好ましく用いられる。
【0093】
上記ポリチオール化合物の中でもペンタエリスリトール テトラキス−3−メルカプトプロピオネートがより好ましい。このポリチオール化合物の使用により、硬化性組成物の硬化速度をより一層速くできる。
【0094】
上記熱硬化剤の含有量は特に限定されない。本発明に係る硬化性組成物では、エピスルフィド化合物材料(熱硬化性化合物)100重量部に対して、熱硬化剤の含有量は、好ま
しくは0.01重量部以上、より好ましくは1重量部以上、好ましくは200重量部以下、より好ましくは100重量部以下、更に好ましくは75重量部以下である。熱硬化剤の含有量が上記下限以上であると、硬化性組成物を充分に硬化させることが容易である。熱硬化剤の含有量が上記上限以下であると、硬化後に硬化に関与しなかった余剰の熱硬化剤が残存し難くなり、かつ硬化物の耐熱性がより一層高くなる。
【0095】
なお、上記熱硬化剤がイミダゾール硬化剤又はフェノール硬化剤である場合、上記エピスルフィド化合物材料100重量部に対して、イミダゾール硬化剤又はフェノール硬化剤の含有量は、好ましくは1重量部以上、好ましくは15重量部以下である。また、上記熱硬化剤がアミン硬化剤、ポリチオール硬化剤又は酸無水物である場合、上記エピスルフィド化合物材料100重量部に対して、アミン硬化剤、ポリチオール硬化剤又は酸無水物の含有量は、好ましくは15重量部以上、好ましくは40重量部以下である。
【0096】
〔他の硬化成分〕
本発明に係る硬化性組成物は、上記エピスルフィド化合物材料以外に、上記エピスルフィド化合物を得るためのエポキシ化合物以外のエポキシ化合物を含んでいてもよい。本発明に係る硬化性組成物は、上記エピスルフィド化合物材料以外に、上記エピスルフィド化合物以外のエピスルフィド化合物を含んでいてもよい。
【0097】
上記エポキシ化合物は特に限定されない。エポキシ化合物として、従来公知のエポキシ化合物を使用できる。上記エポキシ化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0098】
上記エポキシ化合物としては、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、アダマンタン環を有するエポキシ樹脂、トリシクロデカン環を有するエポキシ樹脂、及びトリアジン核を環に有するエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0099】
さらに、本発明に係る硬化性組成物は、エポキシ化合物として、下記式(21)で表される構造を有するエポキシ化合物の単量体、該エポキシ化合物が少なくとも2個結合された多量体、又は該単量体と該多量体との混合物を含んでいてもよい。
【0100】
【化14】

【0101】
上記式(21)中、R1は炭素数1〜5のアルキレン基を表し、R2は炭素数1〜5のアルキレン基を表し、R3は水素原子、炭素数1〜5のアルキル基又は下記式(22)で表される構造を表し、R4は水素原子、炭素数1〜5のアルキル基又は下記式(23)で表される構造を表す。
【0102】
【化15】

【0103】
上記式(22)中、R5は炭素数1〜5のアルキレン基を表す。
【0104】
【化16】

【0105】
上記式(23)中、R6は炭素数1〜5のアルキレン基を表す。
【0106】
上記式(21)で表される構造を有するエポキシ化合物は、不飽和二重結合と、少なくとも2個のエポキシ基とを有することを特徴とする。上記式(21)で表される構造を有するエポキシ化合物の使用により、硬化性組成物を低温で速やかに硬化させることができる。
【0107】
本発明に係る硬化性組成物は、エポキシ化合物又はエピスルフィド化合物として、下記式(31)で表される構造を有する化合物の単量体、該化合物が少なくとも2個結合された多量体、又は該単量体と該多量体との混合物を含んでいてもよい。
【0108】
【化17】

【0109】
上記式(31)中、R1は水素原子もしくは炭素数1〜5のアルキル基又は下記式(32)で表される構造を表し、R2は炭素数1〜5のアルキレン基を表し、R3は炭素数1〜5のアルキレン基を表し、X1は酸素原子又は硫黄原子を表し、X2は酸素原子又は硫黄原子を表す。
【0110】
【化18】

【0111】
上記式(32)中、R4は炭素数1〜5のアルキレン基を表し、X3は酸素原子又は硫黄原子を表す。
【0112】
本発明に係る硬化性組成物は、エポキシ化合物として、窒素原子を含む複素環を有するエポキシ化合物を含んでいてもよい。上記窒素原子を含む複素環を有するエポキシ化合物は、下記式(41)で表されるエポキシ化合物、又は下記式(42)で表されるエポキシ化合物であることが好ましい。このような化合物の使用により、硬化性組成物の硬化速度をより一層速くし、硬化物の耐熱性をより一層高めることができる。
【0113】
【化19】

【0114】
上記式(41)中、R1〜R3はそれぞれ炭素数1〜5のアルキレン基を表し、Zはエポキシ基又はヒドロキシメチル基を表す。R1〜R3は同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0115】
【化20】

【0116】
上記式(42)中、R1〜R3はそれぞれ炭素数1〜5のアルキレン基を示し、p、q及びrはそれぞれ1〜5の整数を表し、R4〜R6はそれぞれ炭素数1〜5のアルキレン基を表す。R1〜R3は同一であってもよく、異なっていてもよい。p、q及びrは同一であってもよく、異なっていてもよい。R4〜6は同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0117】
上記窒素原子を含む複素環を有するエポキシ化合物は、トリグリシジルイソシアヌレート、又はトリスヒドロキシエチルイソシアヌレートトリグリシジルエーテルであることが好ましい。これらの化合物の使用により、硬化性組成物の硬化速度をさらに一層速くすることができる。
【0118】
本発明に係る硬化性組成物は、エポキシ化合物として、芳香族環を有するエポキシ化合物を含むことが好ましい。芳香族環を有するエポキシ化合物の使用により、硬化性組成物の硬化速度をより一層速くし、硬化性組成物を塗布しやすくすることができる。硬化性組成物の塗布性をより一層高める観点からは、上記芳香族環は、ベンゼン環、ナフタレン環又はアントラセン環であることが好ましい。上記芳香族環を有するエポキシ化合物としては、レゾルシノールジグリシジルエーテル又は1,6−ナフタレンジグリシジルエーテルが挙げられる。なかでも、レゾルシノールジグリシジルエーテルが特に好ましい。レゾルシノールジグリシジルエーテルの使用により、硬化性組成物の硬化速度を速くし、硬化性組成物を塗布しやすくすることができる。
【0119】
〔他の成分〕
本発明に係る硬化性組成物は、硬化促進剤をさらに含むことが好ましい。硬化促進剤の使用により、硬化性組成物の硬化速度をより一層速くすることができる。硬化促進剤は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0120】
上記硬化促進剤の具体例としては、イミダゾール硬化促進剤及びアミン硬化促進剤等が挙げられる。なかでも、イミダゾール硬化促進剤が好ましい。なお、イミダゾール硬化促進剤又はアミン硬化促進剤は、イミダゾール硬化剤又はアミン硬化剤としても用いることができる。
【0121】
上記イミダゾール硬化促進剤としては、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテート、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン及び2,4−ジアミノ−6−[2’−
メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物等が挙げられる。
【0122】
上記エピスルフィド化合物材料(熱硬化性化合物)100重量部に対して、上記硬化促進剤の含有量は、好ましくは0.5重量部以上、より好ましくは1重量部以上、好ましくは6重量部以下、より好ましくは4重量部以下である。硬化促進剤の含有量が上記下限以上であると、硬化性組成物を充分に硬化させることが容易である。硬化促進剤の含有量が上記上限以下であると、硬化後に硬化に関与しなかった余剰の硬化促進剤が残存し難くなる。
【0123】
本発明に係る硬化性組成物は、光照射によっても硬化するように、光硬化性化合物と、光重合開始剤とをさらに含んでいてもよい。上記光硬化性化合物と上記光重合開始剤との使用により、光の照射により硬化性組成物を硬化させることができる。さらに、硬化性組成物を半硬化させ、硬化性組成物の流動性を低下させることができる。
【0124】
上記光硬化性化合物は特に限定されない。該光硬化性化合物として、(メタ)アクリル樹脂又は環状エーテル基含有樹脂等が好適に用いられ、(メタ)アクリル樹脂がより好適に用いられる。上記(メタ)アクリル樹脂は、メタクリル樹脂とアクリル樹脂とを示す。上記(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリロイル基を有する。上記(メタ)アクリロイル基は、メタクリロイル基とアクリロイル基とを示す。
【0125】
上記エピスルフィド化合物と(メタ)アクリル樹脂とを含む組成物では、上記エピスルフィド化合物のチイラン基が開環してラジカルが発生したときに、該ラジカルの作用によって(メタ)アクリル樹脂の重合が進行しやすい。上記エピスルフィド化合物に対して、後述のフェノール性化合物と貯蔵安定剤を組み合わせて配合することにより、硬化性組成物の保管時にチイラン基が開環し難くなる。この結果、硬化性組成物の保管時に、(メタ)アクリル樹脂の重合が進行し難くなる。
【0126】
上記(メタ)アクリル樹脂として、(メタ)アクリル酸と水酸基を有する化合物とを反応させて得られるエステル化合物、(メタ)アクリル酸とエポキシ化合物とを反応させて得られるエポキシ(メタ)アクリレート、又はイソシアネートに水酸基を有する(メタ)アクリル酸誘導体を反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレート等が好適に用いられる。
【0127】
上記(メタ)アクリル酸と水酸基を有する化合物とを反応させて得られるエステル化合物は特に限定されない。該エステル化合物として、単官能のエステル化合物、2官能のエステル化合物及び3官能以上のエステル化合物のいずれも用いることができる。
【0128】
上記光硬化性化合物は、エポキシ基の少なくとも一種の基と、(メタ)アクリル基とを有する光及び熱硬化性化合物(以下、部分(メタ)アクリレート化エポキシ樹脂ともいう)を含むことが好ましい。
【0129】
上記部分(メタ)アクリレート化エポキシ樹脂は、例えば、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸とを、常法に従って塩基性触媒の存在下で反応することにより得られる。エポキシ基の20%以上が(メタ)アクリロイル基に変換され(転化率)、部分(メタ)アクリル化されていることが好ましい。エポキシ基の50%が(メタ)アクリロイル基に変換されていることがより好ましい。
【0130】
上記エポキシ(メタ)アクリレートとしては、ビスフェノール型エポキシ(メタ)アクリレート、クレゾールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレート、カルボン酸無水物変
性エポキシ(メタ)アクリレート、及びフェノールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0131】
上述した光硬化性化合物以外の光硬化性化合物が含まれる場合には、該光硬化性化合物は、架橋性化合物であってもよく、非架橋性化合物であってもよい。
【0132】
上記架橋性化合物の具体例としては、例えば、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、グリセリンメタクリレートアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸ビニル、ジビニルベンゼン、ポリエステル(メタ)アクリレート、及びウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0133】
上記非架橋性化合物の具体例としては、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、及びテトラデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0134】
上記硬化性組成物を効率的に光硬化させる観点からは、上記エピスルフィド化合物材料(熱硬化性化合物)100重量部に対して、上記光硬化性化合物の含有量は、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは1重量部以上、更に好ましくは10重量部以上、特に好ましくは50重量部以上、好ましくは10000重量部以下、より好ましくは1000重量部以下、更に好ましくは500重量部以下である。
【0135】
上記光重合開始剤は特に限定されない。上記光重合開始剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0136】
上記光重合開始剤の具体例としては、アセトフェノン光重合開始剤、ベンゾフェノン光重合開始剤、チオキサントン、ケタール光重合開始剤、ハロゲン化ケトン、アシルホスフィノキシド及びアシルホスフォナート等が挙げられる。
【0137】
上記アセトフェノン光重合開始剤の具体例としては、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、メトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、及び2−ヒドロキシ−2−シクロヘキシルアセトフェノン等が挙げられる。上記ケタール光重合開始剤の具体例としては、ベンジルジメチルケタール等が挙げられる。
【0138】
上記光重合開始剤の含有量は特に限定されない。上記光硬化性組成物100重量部に対して、上記光重合開始剤の含有量は、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.2重量部以上、更に好ましくは2重量部以上、好ましくは10重量部以下、より好ましくは5重量部以下である。光重合開始剤の含有量が上記下限以上であると、光重合開始剤を添加した効果を充分に得ることが容易である。光重合開始剤の含有量が上記上限以下であ
ると、硬化性組成物の硬化物の接着力が充分に高くなる。
【0139】
本発明に係る硬化性組成物は、フェノール性化合物をさらに含むことが好ましい。上記エピスルフィド化合物と熱硬化剤とフェノール性化合物との併用により、硬化性組成物の保管時にチイラン基がより一層開環し難くなる。また、電極間に導電性粒子を含む硬化性組成物を配置して導電性粒子を適度に圧縮したときに、電極に適度な圧痕を形成できる。従って、電極間の接続抵抗を低くすることができる。
【0140】
上記フェノール性化合物は、ベンゼン環に水酸基が結合したフェノール性水酸基を有する。上記フェノール性化合物としては、ポリフェノール、トリオール、ハイドロキノン、及びトコフェロール(ビタミンE)等が挙げられる。上記フェノール性化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0141】
本発明に係る硬化性組成物は、フィラーをさらに含むことが好ましい。フィラーの使用により、硬化性組成物の硬化物の潜熱膨張を抑制できる。上記フィラーの具体例としては、シリカ、窒化アルミニウム又はアルミナ等が挙げられる。フィラーは1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0142】
本発明に係る硬化性組成物は、溶剤を含んでいてもよい。該溶剤の使用により、硬化性組成物の粘度を容易に調整できる。さらに、例えば、上記熱硬化性化合物が固形である場合に、固形の上記熱硬化性化合物に溶剤を添加し、溶解させることにより、上記熱硬化性化合物の分散性を高めることができる。
【0143】
上記溶剤としては、例えば、酢酸エチル、メチルセロソルブ、トルエン、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、n−ヘキサン、テトラヒドロフラン及びジエチルエーテル等が挙げられる。
【0144】
本発明に係る硬化性組成物は、貯蔵安定剤をさらに含むことが好ましい。本発明に係る硬化性組成物は、上記貯蔵安定剤として、リン酸エステル、亜リン酸エステル及びホウ酸エステルからなる群から選択された少なくとも一種を含むことが好ましく、リン酸エステル及び亜リン酸エステルの内の少なくとも一種を含むことがより好ましく、亜リン酸エステルを含むことが更に好ましい。これらの貯蔵安定剤の使用により、特に亜リン酸エステルの使用により、エピスルフィド化合物の保存安定性をより一層高めることができる。上記貯蔵安定剤は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0145】
上記リン酸エステルとしては、ジエチルベンジルホスフェート等が挙げられる。上記亜リン酸エステルとしては、ジフェニルモノ(2−エチルヘキシル)ホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト又はジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイトが好ましく、ジフェニルモノデシルホスファイト及びジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト等が挙げられる。
【0146】
本発明に係る硬化性組成物は、アスコルビン酸、アスコルビン酸の誘導体、アスコルビン酸の塩、イソアスコルビン酸、イソアスコルビン酸の誘導体及びイソアスコルビン酸の塩からなる群から選択された少なくとも1種の成分を含んでいてもよい。これらの成分の配合により、硬化性組成物の保存安定性が高くなる。
【0147】
本発明に係る硬化性組成物は、必要に応じて、イオン捕捉剤又はシランカップリング剤をさらに含んでいてもよい。
【0148】
〔導電性粒子を含む硬化性組成物〕
本発明に係る硬化性組成物が導電性粒子をさらに含む場合、硬化性組成物を異方性導電材料として用いることができる。
【0149】
上記導電性粒子は、例えば回路基板と半導体チップとの電極間を電気的に接続する。上記導電性粒子は、導電性を有する粒子であれば特に限定されない。上記導電性粒子としては、例えば、有機粒子、無機粒子、有機無機ハイブリッド粒子もしくは金属粒子等の表面を金属層で被覆した導電性粒子、又は実質的に金属のみで構成される金属粒子等が挙げられる。上記金属層は特に限定されない。上記金属層としては、金層、銀層、銅層、ニッケル層、パラジウム層又は錫を含有する金属層等が挙げられる。
【0150】
電極と導電性粒子との接触面積を大きくし、電極間の導通信頼性をより一層高める観点からは、上記導電性粒子は、樹脂粒子と、該樹脂粒子の表面上に配置された導電層とを有することが好ましい。電極間の導通信頼性をより一層高める観点からは、上記導電性粒子は、少なくとも外側の表面が低融点金属層である導電性粒子であることが好ましい。上記導電性粒子は、樹脂粒子と、該樹脂粒子の表面上に配置された導電層とを有し、該導電層の少なくとも外側の表面が、低融点金属層であることがより好ましい。
【0151】
上記低融点金属層は、低融点金属を含む層である。該低融点金属とは、融点が450℃以下の金属を示す。低融点金属の融点は好ましくは300℃以下、より好ましくは160℃以下である。また、上記低融点金属層は錫を含むことが好ましい。低融点金属層に含まれる金属100重量%中、錫の含有量は好ましくは30重量%以上、より好ましくは40%以上、更に好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。上記低融点金属層の含有量が上記下限以上であると、低融点金属層と電極との接続信頼性がより一層高くなる。なお、上記錫の含有量は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置(堀場製作所社製「ICP−AES」)、又は蛍光X線分析装置(島津製作所社製「EDX−800HS」)等を用いて測定可能である。
【0152】
導電層の外側の表面が低融点金属層である場合には、低融点金属層が溶融して電極に接合し、低融点金属層が電極間を導通させる。例えば、低融点金属層と電極とが点接触ではなく面接触しやすいため、接続抵抗が低くなる。また、少なくとも外側の表面が低融点金属層である導電性粒子の使用により、低融点金属層と電極との接合強度とが高くなる結果、低融点金属層と電極との剥離がより一層生じ難くなり、耐湿熱性がより一層高くなる。
【0153】
上記低融点金属層を構成する低融点金属は特に限定されない。該低融点金属は、錫、又は錫を含む合金であることが好ましい。該合金は、錫−銀合金、錫−銅合金、錫−銀−銅合金、錫−ビスマス合金、錫−亜鉛合金、錫−インジウム合金が挙げられる。なかでも、電極に対する濡れ性に優れることから、上記低融点金属は、錫、錫−銀合金、錫−銀−銅合金、錫−ビスマス合金、錫−インジウム合金であることが好ましく、錫−ビスマス合金、錫−インジウム合金であることがより好ましい。
【0154】
また、上記低融点金属層は、はんだ層であることが好ましい。上記はんだ層を構成する材料は特に限定されないが、JIS Z3001:溶剤用語に基づき、液相線が450℃以下である溶可材であることが好ましい。上記はんだ層の組成としては、例えば亜鉛、金、鉛、銅、錫、ビスマス、インジウムなどを含む金属組成が挙げられる。なかでも低融点で鉛フリーである錫−インジウム系(117℃共晶)、又は錫−ビスマス系(139℃共晶)が好ましい。すなわち、はんだ層は、鉛を含まないことが好ましく、錫とインジウムとを含むはんだ層、又は錫とビスマスとを含むはんだ層であることが好ましい。
【0155】
上記低融点金属層と電極との接合強度をより一層高めるために、上記低融点金属層は、ニッケル、銅、アンチモン、アルミニウム、亜鉛、鉄、金、チタン、リン、ゲルマニウム
、テルル、コバルト、ビスマス、マンガン、クロム、モリブデン、パラジウム等の金属を含んでいてもよい。低融点金属と電極との接合強度をさらに一層高める観点からは、上記低融点金属は、ニッケル、銅、アンチモン、アルミニウム又は亜鉛を含むことが好ましい。低融点金属層と電極との接合強度をより一層高める観点からは、接合強度を高めるためのこれらの金属の含有量は、低融点金属層100重量%中、好ましくは0.0001重量%以上、好ましくは1重量%以下である。
【0156】
上記導電性粒子は、樹脂粒子と、該樹脂粒子の表面上に配置された導電層とを有し、該導電層の外側の表面が低融点金属層であり、上記樹脂粒子と上記低融点金属層(はんだ層など)との間に、上記低融点金属層とは別に第2の導電層を有することが好ましい。この場合に、上記低融点金属層は上記導電層全体の一部であり、上記第2の導電層は上記導電層全体の一部である。
【0157】
上記低融点金属層とは別の上記第2の導電層は、金属を含むことが好ましい。該第2の導電層を構成する金属は、特に限定されない。該金属としては、例えば、金、銀、銅、白金、パラジウム、亜鉛、鉛、アルミニウム、コバルト、インジウム、ニッケル、クロム、チタン、アンチモン、ビスマス、ゲルマニウム及びカドミウム、並びにこれらの合金等が挙げられる。また、上記金属として、錫ドープ酸化インジウム(ITO)を用いてもよい。上記金属は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0158】
上記第2の導電層は、ニッケル層、パラジウム層、銅層又は金層であることが好ましく、ニッケル層又は金層であることがより好ましく、銅層であることが更に好ましい。導電性粒子は、ニッケル層、パラジウム層、銅層又は金層を有することが好ましく、ニッケル層又は金層を有することがより好ましく、銅層を有することが更に好ましい。これらの好ましい導電層を有する導電性粒子を電極間の接続に用いることにより、電極間の接続抵抗がより一層低くなる。また、これらの好ましい導電層の表面には、低融点金属層をより一層容易に形成できる。なお、上記第2の導電層は、はんだ層などの低融点金属層であってもよい。導電性粒子は、複数層の低融点金属層を有していてもよい。
【0159】
上記低融点金属層の厚みは、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5μm以上、更に好ましくは1μm以上、好ましくは50μm以下、より好ましくは10μm以下、更に好ましくは5μm以下、特に好ましくは3μm以下である。上記低融点金属層の厚みが上記下限以上であると、導電性が十分に高くなる。上記低融点金属層の厚みが上記上限以下であると、樹脂粒子と低融点金属層との熱膨張率の差が小さくなり、低融点金属層の剥離が生じ難くなる。
【0160】
導電層が低融点金属層以外の導電層である場合、又は導電層が多層構造を有する場合には、導電層の全体厚みは、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5μm以上、更に好ましくは1μm以上、好ましくは50μm以下、より好ましくは10μm以下、更に好ましくは5μm以下、特に好ましくは3μm以下である。 導電性粒子の粒子径は、好ましくは100μm以下、より好ましくは20μm未満、更に好ましくは15μm以下、特に好ましくは10μm以下である。導電性粒子の粒子径は、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上である。
【0161】
異方性導電材料における導電性粒子に適した大きさであり、かつ電極間の間隔をより一層小さくすることができるので、導電性粒子の平均粒子径は、1μm〜100μmの範囲内であることが特に好ましい。
【0162】
上記樹脂粒子は、実装する基板の電極サイズ又はランド径によって使い分けることができる。
【0163】
上下の電極間をより一層確実に接続し、かつ横方向に隣接する電極間の短絡をより一層抑制する観点からは、導電性粒子の平均粒子径Cの樹脂粒子の平均粒子径Aに対する比(C/A)は、1.0を超え、好ましくは3.0以下である。また、上記樹脂粒子と上記はんだ層との間に上記第1の導電層がある場合に、はんだ層を除く導電性粒子部分の平均粒子径Bに対する樹脂粒子の平均粒子径Aに対する比(B/A)は、1.0を超え、好ましくは2.0以下である。さらに、上記樹脂粒子と上記はんだ層との間に上記第1の導電層がある場合に、はんだ層を含む導電性粒子の平均粒子径Cのはんだ層を除く導電性粒子部分の平均粒子径Bに対する比(C/B)は、1.0を超え、好ましくは2.0以下である。上記比(B/A)が上記範囲内であったり、上記比(C/B)が上記範囲内であったりすると、上下の電極間をより一層確実に接続し、かつ横方向に隣接する電極間の短絡をより一層抑制できる。
【0164】
FOB及びFOF用途向け異方性導電材料:
上記異方性導電材料は、フレキシブルプリント基板とガラスエポキシ基板との接続(FOB(Film on Board))との接続、又はフレキシブルプリント基板とフレキシブルプリント基板との接続(FOF(Film on Film))に好適に用いられる。
【0165】
FOB及びFOF用途では、電極がある部分(ライン)と電極がない部分(スペース)との寸法であるL&Sは、一般に100〜500μmである。FOB及びFOF用途で用いる樹脂粒子の平均粒子径は10〜100μmであることが好ましい。樹脂粒子の平均粒子径が10μm以上であると、電極間に配置される異方性導電材料及び接続部の厚みが十分に厚くなり、接着力がより一層高くなる。樹脂粒子の平均粒子径が100μm以下であると、隣接する電極間で短絡がより一層生じ難くなる。
【0166】
フリップチップ用途向け異方性導電材料:
上記異方性導電材料は、フリップチップ用途に好適に用いられる。
【0167】
フリップチップ用途では、一般にランド径が15〜80μmである。フリップチップ用途で用いる樹脂粒子の平均粒子径は1〜15μmであることが好ましい。樹脂粒子の平均粒子径が1μm以上であると、該樹脂粒子の表面上に配置されるはんだ層の厚みを十分に厚くすることができ、電極間をより一層確実に電気的に接続することができる。樹脂粒子の平均粒子径が10μm以下であると、隣接する電極間で短絡がより一層生じ難くなる。
【0168】
COF向け異方性導電材料:
上記異方性導電材料は、半導体チップとフレキシブルプリント基板との接続(COF(Chip on Film))に好適に用いられる。
【0169】
COF用途では、電極がある部分(ライン)と電極がない部分(スペース)との寸法であるL&Sは、一般に10〜50μmである。COF用途で用いる樹脂粒子の平均粒子径は1〜10μmであることが好ましい。樹脂粒子の平均粒子径が1μm以上であると、該樹脂粒子の表面上に配置されるはんだ層の厚みを十分に厚くすることができ、電極間をより一層確実に電気的に接続することができる。樹脂粒子の平均粒子径が10μm以下であると、隣接する電極間で短絡がより一層生じ難くなる。
【0170】
上記導電性粒子の「平均粒子径」は、数平均粒子径を示す。導電性粒子の平均粒子径は、任意の導電性粒子50個を電子顕微鏡又は光学顕微鏡にて観察し、平均値を算出することにより求められる。
【0171】
導電性粒子の表面は、絶縁性材料、絶縁性粒子、フラックス等により絶縁処理されていてもよい。絶縁性材料、絶縁性粒子、フラックス等は、接続時の熱により軟化、流動することで接続部から排除されることが好ましい。これにより、電極間での短絡を抑制することができる。
【0172】
上記導電性粒子の含有量は特に限定されない。硬化性組成物100重量%中、上記導電性粒子の含有量は好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上、好ましくは40重量%以下、より好ましくは20重量%以下、更に好ましくは10重量%以下、特に好ましくは5重量%以下である。上記導電性粒子の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、接続されるべき上下の電極間に導電性粒子を容易に配置できる。さらに、接続されてはならない隣接する電極間が複数の導電性粒子を介して電気的に接続され難くなる。すなわち、隣り合う電極間の短絡を防止できる。
【0173】
硬化性組成物がペースト状である場合、硬化性組成物の粘度(25℃)は、20000〜300000mPa・sの範囲内であることが好ましい。上記粘度が低すぎると、導電性粒子が沈降することがある。上記粘度が高すぎると、導電性粒子が充分に分散しないことがある。なお、ペースト状には液状も含まれる。
【0174】
(硬化性組成物の用途)
本発明に係る硬化性組成物は、様々な接続対象部材を接着するために使用できる。
【0175】
本発明に係る硬化性組成物が、導電性粒子を含む異方性導電材料である場合、該異方性導電材料は、異方性導電ペースト及び異方性導電フィルムとして使用され得る。異方性導電材料が、異方性導電フィルムである場合、導電性粒子を含有する異方性導電フィルムに、導電性粒子を含有しないフィルムが積層されていてもよい。
【0176】
上記異方性導電材料は、第1,第2の接続対象部材が電気的に接続されている接続構造体を得るために好適に用いられる。
【0177】
図1に、本発明の一実施形態に係る硬化性組成物を用いた接続構造体の一例を模式的に断面図で示す。
【0178】
図1に示す接続構造体1は、第1の接続対象部材2と、第2の接続対象部材4と、第1,第2の接続対象部材2,4を接続している接続部3とを備える。接続部3は、導電性粒子5を含む硬化性組成物、すなわち異方性導電材料を硬化させることにより形成されている。
【0179】
第1の接続対象部材2の上面2aには、複数の電極2bが設けられている。第2の接続対象部材4の下面4aには、複数の電極4bが設けられている。電極2bと電極4bとが、1つ又は複数の導電性粒子5により電気的に接続されている。従って、第1,第2の接続対象部材2,4が導電性粒子5により電気的に接続されている。
【0180】
上記接続構造体としては、具体的には、回路基板上に、半導体チップ、コンデンサチップ又はダイオードチップ等の電子部品チップが搭載されており、該電子部品チップの電極が、回路基板上の電極と電気的に接続されている接続構造体等が挙げられる。回路基板としては、フレキシブルプリント基板等の様々なプリント基板、ガラス基板、又は金属箔が積層された基板等の様々な回路基板が挙げられる。第1,第2の接続対象部材は、電子部品又は回路基板であることが好ましい。上記異方性導電材料は、電子部品又は回路基板の接続に用いられる異方性導電材料であることが好ましい。上記異方性導電材料は、異方性導電ペーストであって、かつペーストの状態で接続対象部材の上面に塗工される異方性導
電材料であることが好ましい。
【0181】
上記接続構造体の製造方法は特に限定されない。接続構造体の製造方法の一例として、電子部品又は回路基板等の第1の接続対象部材と、電子部品又は回路基板等の第2の接続対象部材との間に上記異方性導電材料を配置し、積層体を得た後、該積層体を加熱及び加圧する方法等が挙げられる。
【0182】
なお、上記硬化性組成物は、導電性粒子を含んでいなくてもよい。この場合には、第1,第2の接続対象部材を電気的に接続することなく、第1,第2の接続対象部材を接着して接続するために、上記硬化性組成物が用いられる。
【0183】
以下、本発明について、実施例および比較例を挙げて具体的に説明する。本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0184】
(実施例1)
(1)エピスルフィド化合物材料の調製
攪拌機、冷却機及び温度計を備えた2Lの容器内に、エタノール250mLと、硫化剤であるトリメチルチオ尿素(大内新興化学社製)20gとを加え、トリメチルチオ尿素(大内新興化学社製)を溶解させ、第1の溶液を調製した。その後、容器内の温度を20〜25℃の範囲内に保持した。次に、20〜25℃に保持された容器内の第1の溶液を攪拌しながら、該第1の溶液中に、下記式(12B)で表される構造を有するエポキシ化合物(下記式(2B)で表される構造におけるチイラン基をエポキシ基に置き換えた構造を有するエポキシ化合物)160gをトルエン200mLに分散した溶液を、5mL/分の速度で滴下した。滴下後、30分間さらに攪拌し、エポキシ化合物含有溶液を得た。
【0185】
【化21】

【0186】
次に、エタノール100mLを含む溶液に、トリメチルチオ尿素(大内新興化学社製)20gを溶解させた第2の溶液を用意した。得られたエポキシ化合物含有溶液に、得られた第2の溶液を5mL/分の速度で添加した後、30分攪拌した。攪拌後、エタノール100mLを含む溶液に、トリメチルチオ尿素(大内新興化学社製)20gを溶解させた第2の溶液をさらに用意し、該第2の溶液を5mL/分の速度で容器内にさらに添加し、30分間攪拌した。その後、容器内の温度を10℃に冷却し、2時間攪拌し、反応させた。
【0187】
次に、容器内に飽和食塩水100mLを加え、10分間攪拌した。攪拌後、容器内にトルエン300mLをさらに加え、10分間攪拌した。その後、容器内の溶液を分液ロートに移し、2時間静置し、溶液を分離させた。分液ロート内の下方の溶液を排出し、上澄み液を取り出した。取り出された上澄み液にトルエン100mLを加え、攪拌し、2時間静置した。更に、トルエン100mLをさらに加え、攪拌し、2時間静置した。
【0188】
次に、トルエンが加えられた上澄み液に、硫酸マグネシウム50gを加え、5分間攪拌
した。攪拌後、ろ紙により硫酸マグネシウムを取り除いて、溶液を分離した。真空乾燥機を用いて、分離された溶液を80℃で減圧乾燥することにより、残存している溶剤を除去した。このようにして、エポキシ化合物の全部のエポキシ基をチイラン基に変換し、下記式(2B)で表される構造を有するエピスルフィド化合物をエピスルフィド化合物材料として得た。
【0189】
【化22】

【0190】
クロロホルムを溶媒として、得られた混合物AのH−NMRの測定を行った。この結果、エポキシ基の存在を示す6.5〜7.5ppmの領域のシグナルが消え、チイラン基の存在を示す2.0〜3.0ppmの領域にシグナルが現れた。これにより、上記式(12B)で表される構造を有するエポキシ化合物の全部のエポキシ基がチイラン基に変換されていることを確認した。
【0191】
(2)硬化性組成物の調製
得られた上記式(2B)で表される構造を有するエピスルフィド化合物33重量部に、光硬化性化合物であるエポキシアクリレート((メタ)アクリル樹脂、ダイセル・サイテック社製「EBECRYL3702」)5重量部と、光重合開始剤であるアシルホスフィンオキサイド系化合物(チバ・ジャパン社製「DAROCUR TPO」)0.1重量部と、フェノール性化合物であるα−メチルベンジルフェノール0.58重量部と、熱硬化剤であるペンタエリスリトール テトラキス−3−メルカプトプロピオネート20重量部と、硬化促進剤である2−エチル−4−メチルイミダゾール1重量部と、フィラーである平均粒子径0.25μmのシリカ20重量部及び平均粒子径0.5μmのアルミナ20重量部と、平均粒子径3μmの導電性粒子A2重量部とを添加し、遊星式攪拌機を用いて2000rpmで5分間攪拌することにより、異方性導電ペーストである硬化性組成物を得た。なお、用いた導電性粒子Aは、ジビニルベンゼン樹脂粒子の表面にニッケルめっき層が形成されており、かつ該ニッケルめっき層の表面に金めっき層が形成されている金属層を有する導電性粒子である。
【0192】
(実施例2)
トリメチルチオ尿素(大内新興化学社製)を、テトラメチルチオ尿素(大内新興化学社製)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、上記式(2B)で表される構造を有するエピスルフィド化合物及び硬化性化合物を得た。
【0193】
(実施例3)
光硬化性化合物であるエポキシアクリレート((メタ)アクリル樹脂、ダイセル・サイテック社製「EBECRYL3702」)と、光重合開始剤であるアシルホスフィンオキサイド系化合物(チバ・ジャパン社製「DAROCUR TPO」)とを配合しなかったこと以外は実施例1と同様にして、硬化性化合物を得た。
【0194】
(実施例4)
上記式(12B)で表される構造を有するエポキシ化合物を、レゾルシノールジグリシ
ジルエーテルに変更したこと以外は実施例1と同様にして、下記式(1B)で表される構造を有するエピスルフィド化合物(エピスルフィド化合物材料)及び硬化性化合物を得た。
【0195】
【化23】

【0196】
(実施例5)
上記式(12B)で表される構造を有するエポキシ化合物を、下記式(13B)で表される構造を有するエポキシ化合物に変更したこと以外は実施例1と同様にして、下記式(3B)で表される構造を有するエピスルフィド化合物(エピスルフィド化合物材料)及び硬化性化合物を得た。
【0197】
【化24】

【0198】
(比較例1)
トリメチルチオ尿素(大内新興化学社製)を、チオ尿素(和光純薬社製)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、上記式(2B)で表される構造を有するエピスルフィド化合物及び硬化性化合物を得た。
【0199】
(比較例2)
トリメチルチオ尿素(大内新興化学社製)を、N−メチルチオ尿素(川口化学工業社製)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、上記式(2B)で表される構造を有するエピスルフィド化合物及び硬化性化合物を得た。
【0200】
(比較例3)
トリメチルチオ尿素(大内新興化学社製)を、1,3−ジメチルチオ尿素(東京化成工業社製)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、上記式(2B)で表される構造を有するエピスルフィド化合物及び硬化性化合物を得た。
【0201】
(比較例4)
トリメチルチオ尿素(大内新興化学社製)を、1,3−ジエチルチオ尿素(大内新興化学社製)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、上記式(2B)で表される構造を有するエピスルフィド化合物及び硬化性化合物を得た。
【0202】
(比較例5)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂100重量部と、硬化剤である1,2−ジメチルイミダゾール5重量部とを添加し、遊星式攪拌機を用いて2000rpmで5分間攪拌することにより、混合物を得た。
【0203】
得られた混合物に、平均粒子径0.02μmのシリカ粒子7重量部と、平均粒子径3μmの導電性粒子A2重量部とを添加し、遊星式攪拌機を用いて2000rpmで8分間攪拌することにより、配合物を得た。なお、用いた導電性粒子Aは、ジビニルベンゼン樹脂粒子の表面にニッケルめっき層が形成されており、かつ該ニッケルめっき層の表面に金めっき層が形成されている金属層を有する導電性粒子である。
【0204】
(実施例1〜5及び比較例1〜5の評価)
(1)不純物の生成(オリゴマーの量)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により、得られたエピスルフィド化合物(エピスルフィド化合物材料)における不純物であるオリゴマーの量を測定した。不純物の生成を下記の判定基準で判定した。
【0205】
[不純物の生成の判定基準]
○:不純物であるオリゴマーの含有量が0.5重量%未満
△:不純物であるオリゴマーの含有量が0.5重量%以上、2重量%未満
×:不純物であるオリゴマーの含有量が2重量%以上
【0206】
(2)保存安定性
得られた硬化性組成物を室温(23℃)で4日間放置した。放置後に、多量化(ポリマー化)による粘度上昇があるか否かを4日後粘度/初期粘度の比率により確認した。保存安定性を下記の判定基準で判定した。
【0207】
[保存安定性の判定基準]
○:粘度比1.2倍未満
△:粘度比1.2倍以上、1.3倍未満
×:粘度比1.3倍以上
【0208】
(3)硬化時間
L/Sが10μm/10μmのITO電極パターンが上面に形成された透明ガラス基板を用意した。また、L/Sが10μm/10μmの銅電極パターンが下面に形成された半導体チップを用意した。
【0209】
上記透明ガラス基板上に、得られた硬化性組成物を厚さ30μmとなるように塗工し、更にUV光を照射することで(メタ)アクリル樹脂を硬化させて、硬化性組成物層を形成した。次に、硬化性組成物層上に上記半導体チップを、電極同士が互いに対向し、接続するように積層した。その後、硬化性組成物層の温度が185℃となるように加熱ヘッドの温度を調整しながら、半導体チップの上面に加熱ヘッドを載せ、硬化性組成物層を185℃で硬化させ、接続構造体を得た。この接続構造体を得る際に、加熱により硬化性組成物層が硬化するまでの時間を測定した。
【0210】
(4)ボイドの有無
上記(3)硬化時間の評価で得られた接続構造体において、硬化性組成物層により形成された硬化物層にボイドが生じているか否かを、透明ガラス基板の下面側から目視により観察した。
【0211】
(5)耐湿熱性1
プレッシャークッカーテスト(PCT)により、耐湿熱性1を評価した。具体的には、上記(3)硬化時間の評価で得られた接続構造体を120℃及び相対湿度100%の条件で、2時間放置した。放置後の硬化物において、硬化物が透明ガラス基板又は半導体チップから剥離しているか否かを観察した。耐湿熱性1を下記の判定基準で判定した。
【0212】
[耐湿熱性1の判定基準]
○○:剥離なし
○:剥離1箇所
×:剥離2箇所以上
【0213】
(6)耐湿熱性2
上記(3)硬化時間の評価で得られた接続構造体を85℃及び相対湿度85%の条件で、500時間放置した。放置後の硬化物において、硬化物が透明ガラス基板又は半導体チップから剥離しているか否かを観察した。耐湿熱性2を下記の判定基準で判定した。
【0214】
[耐湿熱性2の判定基準]
○○:剥離なし
○:剥離1箇所
×:剥離2箇所以上
【0215】
結果を下記の表1に示す。なお、評価結果欄における「−」は、評価していないことを示す。
【0216】
【表1】

【0217】
(実施例6〜8)
(1)エピスルフィド化合物材料の調製
実施例6〜8では、硫化剤としてトリメチルチオ尿素を用いた。実施例6〜8では、実施例1と同様の手順により、上記式(2)で表される構造を有するエピスルフィド化合物をエピスルフィド化合物材料として得た。
【0218】
実施例6〜8で得られたエピスルフィド化合物材料における上記式(2)で表される構造を有するエピスルフィド化合物の詳細は、下記の表2に示すとおりである。
【0219】
(2)硬化性組成物の調製
硬化性組成物の調製の際に、実施例1で用いた上記式(2B)で表される構造を有するエピスルフィド化合物を、下記の表2に示すエピスルフィド化合物材料に変更したこと以外は実施例1と同様にして、硬化性組成物を得た。
【0220】
(実施例6〜8の評価)
実施例1〜5及び比較例1〜5の評価項目について評価を実施した。
【0221】
結果を下記の表2に示す。
【0222】
【表2】

【0223】
(実施例9〜16)
平均粒子径20μmのジビニルベンゼン樹脂粒子(積水化学工業社製、ミクロパールSP−220)を無電解ニッケルめっきし、樹脂粒子の表面上に厚さ0.1μmの下地ニッケルめっき層を形成した。次いで、下地ニッケルめっき層が形成された樹脂粒子を電解銅めっきし、厚さ1μmの銅層を形成した。更に、錫及びビスマスを含有する電解めっき液を用いて、電解めっきし、厚さ3μmのはんだ層を形成した。このようにして、樹脂粒子の表面上に厚み1μmの銅層が形成されており、該銅層の表面に厚み3μmのはんだ層(錫:ビスマス=43重量%:57重量%)が形成されている導電性粒子Bを作製した。
【0224】
実施例9では、導電性粒子Aを導電性粒子Bに変更したこと以外は実施例1と同様にして、硬化性組成物を得た。
【0225】
実施例10では、導電性粒子Aを導電性粒子Bに変更したこと以外は実施例2と同様にして、硬化性組成物を得た。
【0226】
実施例11では、導電性粒子Aを導電性粒子Bに変更したこと以外は実施例3と同様にして、硬化性組成物を得た。
【0227】
実施例12では、導電性粒子Aを導電性粒子Bに変更したこと以外は実施例4と同様にして、硬化性組成物を得た。
【0228】
実施例13では、導電性粒子Aを導電性粒子Bに変更したこと以外は実施例5と同様にして、硬化性組成物を得た。
【0229】
実施例14では、導電性粒子Aを導電性粒子Bに変更したこと以外は実施例6と同様にして、硬化性組成物を得た。
【0230】
実施例15では、導電性粒子Aを導電性粒子Bに変更したこと以外は実施例7と同様にして、硬化性組成物を得た。
【0231】
実施例16では、導電性粒子Aを導電性粒子Bに変更したこと以外は実施例8と同様にして、硬化性組成物を得た。
【0232】
(実施例9〜16の評価)
実施例1〜5及び比較例1〜5の評価項目について評価を実施した。
【0233】
結果を下記の表3に示す。
【0234】
【表3】

【符号の説明】
【0235】
1…接続構造体
2…第1の接続対象部材
2a…上面
2b…電極
3…接続部
4…第2の接続対象部材
4a…下面
4b…電極
5…導電性粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ化合物のエポキシ基をチイラン基に変換し、エピスルフィド化合物を得るエピスルフィド化合物材料の製造方法であって、
芳香族環を有するエポキシ化合物と硫化剤とを用いて、前記エポキシ化合物の全部又は一部のエポキシ基をチイラン基に変換し、エピスルフィド化合物を含むエピスルフィド化合物材料を得る工程を備え、
前記硫化剤として、テトラアルキルチオ尿素又はトリアルキルチオ尿素を用いる、エピスルフィド化合物材料の製造方法。
【請求項2】
前記硫化剤として、テトラエチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、トリエチルチオ尿素又はトリメチルチオ尿素を用いる、請求項1に記載のエピスルフィド化合物材料の製造方法。
【請求項3】
前記エポキシ化合物として、少なくとも2つのエポキシ基を有するエポキシ化合物を用いる、請求項1又は2に記載のエピスルフィド化合物材料の製造方法。
【請求項4】
前記硫化剤を含む第1の溶液に、前記エポキシ化合物又は前記エポキシ化合物を含む溶液を連続的又は断続的に添加した後、前記硫化剤を含む第2の溶液を連続的又は断続的にさらに添加することにより、前記エポキシ化合物の全部又は一部のエポキシ基をチイラン基に変換する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のエピスルフィド化合物材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のエピスルフィド化合物材料の製造方法により得られたエピスルフィド化合物材料と、熱硬化剤とを含む、硬化性組成物。
【請求項6】
光硬化性化合物と、光重合開始剤とをさらに含む、請求項5に記載の硬化性組成物。
【請求項7】
導電性粒子をさらに含む、請求項5又は6に記載の硬化性組成物。
【請求項8】
第1の接続対象部材と、第2の接続対象部材と、該第1,第2の接続対象部材を接続している接続部とを備え、
前記接続部が、請求項5〜7のいずれか1項に記載の硬化性組成物を硬化させることにより形成されている、接続構造体。
【請求項9】
前記硬化性組成物が導電性粒子を含み、
前記第1,第2の接続対象部材が、前記導電性粒子により電気的に接続されている、請求項8に記載の接続構造体。

【図1】
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【公開番号】特開2012−82191(P2012−82191A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197515(P2011−197515)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】