説明

エポキシ化ジエン系ゴムの製造方法及びエポキシ化ジエン系ゴムを含むゴム組成物

【課題】エポキシ化ジエン系ゴムの生産に際し、生産効率がよく、洗浄水等の廃液発生がなく、低コストでかつゴム組成物の原料として好適なエポキシ化ジエン系ゴムの製造方法及びエポキシ化ジエン系ゴムを含むゴム組成物を提供する。
【解決手段】ジエン系ゴムにエポキシ化触媒としての有機酸と過酸化水素水とを添加し、機械的せん断力を用いて混練することによりエポキシ化させるエポキシ化ジエン系ゴムの製造方法において、上記有機酸の添加割合が、ジエン系ゴムの不飽和結合が50〜500に対しカルボキシル基が1つ存在する割合であることを特徴とするエポキシ化ジエン系ゴムの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ化ジエン系ゴムの製造方法及びエポキシ化ジエン系ゴムを含むゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、省エネルギーを目的としたゴム材料の開発の分野において、フィラーであるシリカの分散性を改善させるために、エポキシ化変性されたポリブタジエンなどのジエン系ゴムをシリカと共に用いた変性ゴム組成物などが知られている。そのため、その原料となるエポキシ化ジエン系ゴムを製造する技術が多数開発され、開示されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、エポキシ化共重合体を製造する方法において、エポキシ化剤として有機過酸又はカルボン酸又はその無水物と過酸化水素を用い、芳香族炭化水素又はハロゲン化炭化水素からなる溶媒中、−20〜80℃の温度で反応させる技術が開示され、エポキシ化共重合体が高い反応率で得られることが記載されている。また、例えば、特許文献2には、15〜90%の過酸化水素及び1〜3個の炭素原子を有するカルボン酸と、触媒としてのホスホン酸及び/又はその誘導体の存在下にかつ更なる有機溶剤又は水を添加せずに反応させエポキシ化ポリアルケニレンを得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−214014号公報
【特許文献2】特開2003−221413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1は、エポキシ化しようとする共重合体の数倍の有機溶媒を用い、エポキシ化されたゴムを溶解する工程が必要である。また、モノマーからゴムを重合する工場では、工程途中に溶媒に溶解したゴムが存在するのでゴムを分離することなくエポキシ化を行うことが考えられる。しかし、実際は溶液中に残存したモノマーがあり、モノマーがエポキシ化されてしまうという問題があり、モノマーの分離とエポキシ化という複数の工程を追加することになり、コストの上昇が無視できない。
【0006】
また、特許文献2は、エポキシ化できるポリアルケニレンの分子量が小さいものに限られ、低エネルギーロス性、耐摩耗性を得るためには不利であり、さらに、カルボン酸を除去する工程が必要で、除去の過程でカルボン酸を含む廃水が発生し、排水処理設備でコストが上昇するなどの問題がある。
【0007】
そのため、エポキシ化変性ゴムの製造では、より効率的にエポキシ化を行うことが出来、かつ廃水等の問題が起きず、低コストでさらにゴム組成物の原料として有効なエポキシ化ジエン系ゴムを得られることが要望されている。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、エポキシ化ジエン系ゴムの生産に際し、生産効率がよく、洗浄水等の廃液発生がなく、低コストでかつゴム組成物の原料として好適なエポキシ化ジエン系ゴムの製造方法及びエポキシ化ジエン系ゴムを含むゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記問題を解決するために、鋭意検討した結果、ジエン系ゴムに有機酸と過酸化水素を添加する際に、有機溶媒を用いることなく機械的せん断力を用いて混練する方法を用いることによって生産効率がよく、洗浄水等の廃液発生がなく、低コストでかつゴム組成物の原料として好適なエポキシ化ジエン系ゴムが得られ、更に添加する有機酸の割合を限定、具体的にはジエン系ゴムの不飽和結合が50〜500に対しカルボキシル基が1つ存在する割合とすることによってエポキシ化ジエン系ゴムの粘度上昇を抑制し、エポキシ化効率を高くすることができることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち本発明は、ジエン系ゴムにエポキシ化触媒としての有機酸と過酸化水素とを添加し、機械的せん断力を用いて混練することによりエポキシ化させるエポキシ化ジエン系ゴムの製造方法において、上記有機酸の添加割合が、ジエン系ゴムの不飽和結合が50〜500に対しカルボキシル基が1つ存在する割合であることを特徴とするエポキシ化ジエン系ゴムの製造方法に関する。また、本発明は、上記エポキシ化ジエン系ゴムの製造方法によって製造されたエポキシ化ジエン系ゴムを含むゴム組成物に関する。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、効率的にエポキシ化を行うことが出来、洗浄水等の廃液発生がなく、低コストであり、更にエポキシ化ジエン系ゴムの粘度上昇を抑制し、エポキシ化の効率を改善したエポキシ化ジエン系ゴムの製造方法及びエポキシ化ジエン系ゴムを含むゴム組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るエポキシ化ジエン系ゴムの製造方法は、例えば、あらかじめ加熱した混練機を用いて原料となるジエン系ゴムに有機酸を練り込む第一工程と、上記有機酸が練り込まれたジエン系ゴムに過酸化水素を練り込む第二工程とを備えていることが好ましく、更に、上記有機酸及び過酸化水素が練り込まれたジエン系ゴムを混練して均一化する第三工程を備えていることが好ましい。
【0013】
上記のような工程でエポキシ化ジエン系ゴムを製造することによって、有機溶媒を用いてエポキシ化させる方法とは異なり、効率的にエポキシ化を行うことができ、洗浄水等の廃液発生がなく、低コストであるエポキシ化ジエン系ゴムを製造することができる。
【0014】
第一乃至第三工程において、用いられる混練機としては、機械的せん断力を与えて溶融樹脂を混練できる装置であれば特に制限はなく、ロール混練機、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、一軸押出機、二軸押出機、2軸テーパー押出機等、樹脂加工に用いられる一般的な混練機械を用いることができる。また、上記工程は、例えばロール混練機や加圧ニーダー等によって段階的に3つの工程で行うこともできるし、複数の原料投入口と大きなL/D比を持つ連続式押出機を用いて見かけ上1つの工程で行うこともできる。また、2、3種類の装置を用いて段階的に行ってもよい。生産性の観点及び投入する過酸化水素の揮発が少ないことなどの点から連続式押出機を用いて見かけ上1つの工程で行うことが特に好ましい。
【0015】
あらかじめ加熱した混練機を用いて原料となるジエン系ゴムに有機酸を練り込む第一工程において、ジエン系ゴムのエポキシ化の前の加熱した混練機の温度は、0〜200℃が好ましく、40〜150℃がより好ましい。0℃より温度が低いと、エポキシ化触媒である有機酸が溶融しない問題が生じ、200℃より温度が高いと原料となるジエン系ゴムの分子が熱劣化し切断される問題が生ずる。
【0016】
また、上記第一工程において、原料となるジエン系ゴムとしては特に制限はなく、公知のものを使用することができる。例えば、天然ゴム、ブタジエンゴム(BR)、シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン含有のブタジエンゴム(VCR)、イソプレンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴムなどである。この中でも、ブタジエンゴムが好ましい。これらは単独で、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0017】
上記ジエン系ゴムは、数平均分子量(Mn)が10万〜100万、さらに15万〜30万、特には20万〜25万であることが好ましい。数平均分子量(Mn)が10万未満になると、低エネルギーロス性や耐摩耗性が低くなり、100万を超えると、加工性が低くなるので好ましくない。
【0018】
また、上記ジエン系ゴムは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ法)による重量平均分子量(Mw)が5万〜200万、さらに20万〜100万、特には40万〜90万であることが好ましい。重量平均分子量(Mw)が5万未満になると、機械強度が低くなり、200万を超えると、加工性が低下するので好ましくない。
【0019】
また、上記ジエン系ゴムは、分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))が1.2〜10であることが好ましく、1.5〜6がより好ましく、2.0〜2.5が特に好ましい。分子量分布が1.2より低いと、溶解前の有機酸の分散に不利になる問題が生じ、逆に10より大きいとオリゴマーが増えて機械的性質が低下する問題が生ずるため好ましくない。
【0020】
さらに、上記ジエン系ゴムは、ムーニー粘度(ML1+4、100℃)が5〜200であることが好ましく、40〜60がより好ましい。ムーニー粘度が5より低いと混練時にせん断力がかからず、溶解前の有機酸の分散に問題が生じる。逆にムーニー粘度が200を超えると混練による加工が難しくなる。
【0021】
また、上記第一工程において、エポキシ化触媒として用いられる有機酸としては、分子量が88〜600であることが好ましく、200〜400であることがさらに好ましい。分子量が88未満では、臭気および毒性が強くなり工程中での取扱いが困難になる。さらに、製品中に残存すると悪臭となり高度の精製よる除去が必要となるため好ましくない。また、分子量が600を超えると、添加量あたりのエポキシ化できる不飽和結合が低下するため好ましくない。具体的なものとしては、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミスチリン酸、パルチミン酸、パルミトイル酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、(9,12,15)−リノレン酸、(6,9,12)−リノレン酸、エレオステアリン酸、ツベルクロステアリン酸、アラキジン酸、8,11−イコサジエン酸、5,8,11−イコサトリエン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ネルボン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸などが挙げられる。また、これらの酸無水物を利用しても良い。この中でも臭気および毒性が小さく、かつゴム配合物の組成の一部として使用されることが一般的であるため、必ずしも除去する必要がない点から、特にステアリン酸が好ましい。これら触媒は一般に単独で用いられるが、2種類以上を組み合わせて使用することもできる。
【0022】
エポキシ化触媒として加える有機酸の割合としては、未変性原料ジエン系ゴムの不飽和結合数が50〜500に対しカルボキシル基が1つ存在する割合であり、不飽和結合数が70〜200に対しカルボキシル基が1つ存在する割合であることが特に好ましい。有機酸の割合が未変性原料ジエン系ゴムの不飽和結合数50に対しカルボキシル基が1つ存在する割合より少ないと、エポキシ化ジエン系ゴムの粘度が上昇しエポキシ化効率が低下することで、生産性が低下するため好ましくない。また、有機酸の割合が未変性原料ジエン系ゴムの不飽和結合数500に対しカルボキシル基が1つ存在する割合より多すぎると、ゴム組成物に配合して加硫物とした時に機械的物性の低下の原因となるため好ましくない。
【0023】
また、上記第一工程において、エポキシ化触媒を混練後、十分触媒がジエン系ゴムに馴染むような時間、混練することが望ましい。
【0024】
有機酸が練り込まれたジエン系ゴムに過酸化水素を練り込む第二工程において、過酸化水素の添加は、エポキシ化触媒を混練後に行う必要があり、同時に添加することや、先に添加することは好ましくない。仮に先に添加すると過酸化水素が分解して飛散するなどの問題が生ずる。
【0025】
添加する過酸化水素の量としては、未変性原料ジエン系ゴムの全不飽和結合数に対して、0.001〜0.5当量が好ましく、0.01〜0.1当量が特に好ましい。量が少なすぎるとエポキシ化が充分行われない。多すぎると混入した水分とエポキシ基が反応して一部のエポキシ基が水酸基化し、さらに別のエポキシ基と反応してゴムがゲル化する。
【0026】
上記第二工程後、有機酸及び過酸化水素が練り込まれたジエン系ゴムを混練して均一化する第三工程を設けることが望ましい。混練時間は混練機の種類によるが、短すぎるとエポキシ化が不均一となり、一部が固化する可能性がある。また、逆に長すぎると熱劣化により分子量が低下したり、ゲル化したりする問題が生ずる。
【0027】
本発明に係るエポキシ化ジエン系ゴムの製造方法において、得られたエポキシ化ジエン系ゴムは、混練終了後、一定時間貯蔵されることが望ましい。貯蔵時間は3時間以上、1年以下が好ましく、一週間以上、6ヶ月以下がさらに好ましい。貯蔵時間中に残存した過酸化水素がさらにエポキシ基に変換されて消滅し、ゴム組成物とする場合に障害となる可能性がなくなる。貯蔵時間が長すぎると浸透した水分がエポキシ基と反応して水酸基となり、さらに別のエポキシ基と反応してゴムがゲル化する。
【0028】
次に、本発明に係るエポキシ化ジエン系ゴムの製造方法によって得られたエポキシ化ジエン系ゴムを用いたゴム組成物について説明する。
【0029】
本発明に係るゴム組成物は、上記エポキシ化ジエン系ゴムに、加硫剤、加硫促進剤を添加することができる。
【0030】
加硫剤としては、硫黄、加熱により硫黄を生成させる化合物、有機過酸化物、酸化マグネシウム等の金属酸化物、多官能性モノマー、シラノール化合物等が挙げられる。加熱により硫黄を生成させる化合物としては、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド等が挙げられる。
【0031】
また、本発明に係るエポキシ化ジエン系ゴムの製造方法において、エポキシ化触媒としてステアリン酸を用いた場合、得られたエポキシ化ジエン系ゴム中にあるステアリン酸を活用するため、酸化亜鉛を加硫促進剤として使用することが好ましい。加硫促進剤として酸化亜鉛を用いる場合も、単独で使用するよりも一般的な加硫促進剤と併用することが好ましい。
【0032】
その他、一般的な加硫促進剤としては、例えばアルデヒド類、アンモニア類、アミン類、グアニジン類、チオウレア類、チアゾール類、チウラム類、ジチオカーバメイト類、キサンテート類等が挙げられ、より具体的には、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(OBS)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジル・スルフェンアミド(CBS)、ジベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)、2−メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、ジンクジ−n−ブチルジチオカーバイト(ZnBDC)、ジンクジメチルジチオカーバイト(ZnMDC)等が挙げられる。
【0033】
また、本発明に係るゴム組成物は、上記エポキシ化ジエン系ゴムに、その他、必要に応じて、老化防止剤、充填剤、プロセスオイル等、通常ゴム組成物に用いられる公知の添加剤を添加することができる。
【0034】
老化防止剤としては、アミン・ケトン系、イミダゾール系、アミン系、フェノール系、硫黄系及び燐系等の老化防止剤が挙げられる。より具体的には、老化防止剤としてはフェノール系の2,6一ジーt−ブチル−p−クレゾール(BHT)、リン系のトリノニルフェニルフォスファイト(TNP)、硫黄系の4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート(TPL)等が挙げられる。
【0035】
充填剤としては、炭酸カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、クレー、リサージュ、珪藻土等の無機充填剤、再生ゴム、粉末ゴム等の有磯充填剤が挙げられ、プロセスオイルとしては、アロマティック系、ナフテン系、パラフィン系のプロセスオイルが挙げられる。
【0036】
さらに、本発明に係るゴム組成物は、上記エポキシ化ジエン系ゴムに、シランカップリング剤を添加してもよい。シランカップリング剤としては特にエポキシ基と反応可能な官能基を有するシランカップリング剤が好ましい。
【0037】
エポキシ基と反応可能な官能基を有するシランカップリング剤として、市販で利用できるものは、例えば、以下のものが含まれるが、決してこれらに限定されるものではない。3−アミノプロピルジメチルメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルエチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルブトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジブトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノプロピル)ジメトキシメチルシラン、3−(2−アミノエチルアミノプロピル)ジメトキシエチルシラン、3−(2−アミノエチルアミノプロピル)ジメトキシプロピルシラン、3−(2−アミノエチルアミノプロピル)ジメトキシブチルシラン、3−(2−アミノエチルアミノプロピル)ジエトキシメチルシラン、3−(2−アミノエチルアミノプロピル)トリメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノプロピル)トリエトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノプロピル)トリブトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルジメトキシメチルシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、(3−メルカプトプロピル)トリエトキシシラン、(3−メルカプトプロピル)トリメトキシシラン、(3−メルカプトプロピル)メチルジメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、11−メルカプトウンデシルトリメトキシシラン、11−メルカプトウンデシルトリエトキシシランなどがある。この中でも特に、(3−メルカプトプロピル)トリエトキシシランが好ましい。
【0038】
エポキシ基と反応可能な官能基を有するシランカップリング剤の添加量は、エポキシ化ジエン系ゴムのもつエポキシ基数に対し0.1〜1モル当量が好ましい。当該シランカップリング剤の添加量が0.1モル当量未満では、tanδ及び耐摩耗性の改善効果が少なくなる傾向がある。また、当該シランカップリング剤の添加量が1モル当量を超えると、経済的に好ましくない傾向がある。
【0039】
さらに、本発明に係るゴム組成物においては、上記の他に他のゴムを加えて、ゴム組成物として使用することも出来る。加えられるゴムとしては、特に制限はなく、公知のものを使用することができる。例えば、天然ゴム、ブタジエンゴム(BR)、シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン含有のブタジエンゴム(VCR)、イソプレンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴムなどのジエン系単量体の重合体;アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ニトリルクロロプレンゴム、ニトリルイソプレンゴムなどのアクリロニトリル−ジエン共重合ゴム;スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンクロロプレンゴム、スチレンイソプレンゴムなどのスチレン−ジエン共重合ゴム;エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)などが挙げられる。この中で、ブタジエンゴム、シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン含有のブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、天然ゴム、イソプレンゴムが好ましい。これらは単独で、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0040】
さらにまた、本発明に係るゴム組成物において、ゴム補強剤を添加することが出来る。ゴム補強剤としては、各種のカーボンブラック、ホワイトカーボン、シリカ、活性化炭酸カルシウム、超微粒子珪酸マグネシウム等などが挙げられる。なかでも、カーボンブラック及びシリカのうち少なくとも1以上であることが好ましい。特に好ましくは、粒子径が90nm以下、ジブチルフタレート(DBP)吸油量が70ml/100g以上のカーボンブラックであり、例えば、FEF、FF、GPF、SAF、ISAF、SRF、HAF等が用いられ、特に好ましくは、低発熱性や低燃費性の観点から粒子径の小さいISAFである。
【0041】
ゴム補強剤に用いるカーボンブラックとシリカは、混合するとより加工性と低エネルギーロス性や摩耗性などの両立が可能となる。特に、両者の重量比がカーボンブラック/シリカが90/10〜10/90が良く、より好ましくは80/20〜20/80、特に好ましくは70/30〜30/70である。シリカが10%より少ないとエネルギーロスが大きくなり、90%より多いと加工性や耐摩耗性が悪くなる欠点がある。
【0042】
シランカップリング剤を用いたゴム組成物は、シリカなどのゴム補強剤との混合により、ゴム補強剤のゴムマトリクス中での分散性を向上させる働きがある。その結果、低燃費性などの効果にもつながる。
【0043】
本発明に係るゴム組成物は、上記各成分を通常行われているバンバリー、オープンロール混練機、ニーダー、二軸混練り機などを用いて混練時の最高温度がシランカップリング剤とエポキシ基の反応温度以上となる条件で混練りすることで得られる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、これらは本発明の目的を限定するものではない。まず、以下の実施例及び比較例で用いた各種薬品について以下に説明する。
【0045】
本実施例において、ジエン系ゴムとして、宇部興産(株)製UBEPOL BR150Lを用い、ステアリン酸として、旭電化(株)製アデカ脂肪酸 SA−300を用い、過酸化水素水として、和光純薬工業(株)試薬特級を用い、無水酢酸として、和光純薬工業(株)試薬特級を用い、シランカップリング剤として、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン(東京化成工業(株)製)を用いた。また、混練機としてのロールとして、安田精機製6インチロール混練機を用いた。
【0046】
さらに、以下の実施例及び比較例において、エポキシ化ジエン系ゴムのムーニー粘度とエポキシ化率は以下の方法により測定した。
【0047】
エポキシ化後のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、JIS K6300にしたがい、100℃で1分間予熱したのち、4分間測定した。
【0048】
エポキシ化率は、試料の工程終了後、3時間以上貯蔵した後、JIS K7236に準じて測定した。なお、JIS K7236と異なる点は、エポキシ化ゴムの量を0.6g〜0.9gとしたこと、及びエポキシ化ゴムの溶解時に用いたクロロホルムの量は20mlとしたことである。また、JIS K7236では測定直前に20mlの酢酸を加えることとなっているが、臭化テトラエチルアンモニウム酢酸溶液に含まれる酢酸以外に加えなかったことである。エポキシ化率の低いゴムは規格量の酢酸を加えると塊状に析出し、滴定できなかった。酢酸量を減じた場合、当量点が分かりにくくなるが、析出した試料が油膜状に測定液上に広がり時間をかければ滴定可能となった。その他の試薬調整等はJIS K7236に述べられている通りである。また、ここでエポキシ化率は、下記数1を用いて計算した。エポキシ当量とは、エポキシ基1モルに相当するエポキシ化樹脂の質量(g)であり、JIS K7236に述べられている方法で求められる。100%エポキシ化ポリブタジエンの場合は、ブタジエン分子量+酸素1原子量である。
【0049】
【数1】

【0050】
(実施例1)
先ず、ジエン系ゴム(宇部興産(株)製:BR150L)を99g取り、ロール(温度:60℃、ロール間隔:2mm)を通してシートとした。ステアリン酸1gを不浸透紙の上に広げ、シートの片面に付着させた。(A)の不飽和結合の数/(B)のカルボキシル基の数は454.8であった。このシートを巻き取って再びロールに通しシートとした。この作業を20回繰返し、ステアリン酸1gを全てジエン系ゴムに練り込んだ。
【0051】
次に、過酸化水素水(30%)10.5gを不浸透紙の上に広げ、ゴムのシートの片面で拭き取るようにして付着させた。このシートを巻き取って再びロールに通しシートとした。この作業を30回繰返し、過酸化水素水を全てジエン系ゴムに練り込んだ。さらに、上記のシートを巻き取って再びロールに通しシートとする作業を15分間継続し実施例1となる試料を得た。
【0052】
この試料を17時間、室温で貯蔵し前述の方法でエポキシ基を滴定したところ、エポキシ化率は2.62%であったが、この際、不溶解物は検出されなかった。ムーニー粘度(ML1+4、100℃)は61.2であった。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
(実施例2)
実施例1でジエン系ゴムの量を97.5g、ステアリン酸の量を2.5gとし、(A)の不飽和結合の数/(B)のカルボキシル基の数を179.2とした以外は、実施例1と同様にして行った。エポキシ化率は4.78%であったが、この際、不溶解物は検出されなかった。ムーニー粘度(ML1+4、100℃)は39.3であった。
【0055】
(実施例3)
実施例1でジエン系ゴムの量を95g、ステアリン酸の量を5gとし、(A)の不飽和結合の数/(B)のカルボキシル基の数を87.3とした以外は、実施例1と同様にして行った。エポキシ化率は3.84%であったが、この際、不溶解物は検出されなかった。ムーニー粘度(ML1+4、100℃)は33.8であった。
【0056】
(比較例1)
実施例1でジエン系ゴムの量を100gとし、ステアリン酸を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして行った。エポキシ化率は1.26%であったが、この際、不溶解物は検出されなかった。ムーニー粘度(ML1+4、100℃)は142.6であった。
【0057】
以上より、ジエン系ゴムの不飽和結合50個から500個に対しステアリン酸のカルボキシル基1個が存在すれば高いエポキシ化率でエポキシ化が行われ、かつ粘度上昇が抑制される。この結果、加工性に優れるエポキシ化ジエンゴムが得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴムにエポキシ化触媒としての有機酸と過酸化水素とを添加し、機械的せん断力を用いて混練することによりエポキシ化させるエポキシ化ジエン系ゴムの製造方法であって、上記有機酸の添加割合が、ジエン系ゴムの不飽和結合が50〜500に対しカルボキシル基が1つ存在する割合であることを特徴とするエポキシ化ジエン系ゴムの製造方法。
【請求項2】
上記ジエン系ゴムの数平均分子量が10万〜100万であることを特徴とする請求項1記載のエポキシ化ジエン系ゴムの製造方法。
【請求項3】
上記有機酸の分子量が88〜600であることを特徴とする請求項1又は2記載のエポキシ化ジエン系ゴムの製造方法。
【請求項4】
上記ジエン系ゴムに有機酸を練り込む第一工程と、
上記有機酸が練り込まれたジエン系ゴムに過酸化水素を練り込む第二工程とを備えたことを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載のエポキシ化ジエン系ゴムの製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか記載のエポキシ化ジエン系ゴムの製造方法によって製造されたエポキシ化ジエン系ゴムを含むゴム組成物。

【公開番号】特開2012−116987(P2012−116987A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269539(P2010−269539)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】