説明

エポキシ樹脂の注型成形方法

【課題】樹脂注型用金型の表面温度を測定することにより、エポキシ樹脂組成物の反応発熱量を計測し、このデータから硬化物の最適脱型時間を算出して加熱制御を行うエポキシ樹脂の注型成形方法を提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂の注型成形方法において、注型用金型の表面温度を測定し、注型用金型加熱媒体の設定温度を超えた反応発熱のピークを経て、注型用金型加熱媒体の設定温度より+5℃に降下した時点で加熱を終了することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂の注型成形方法に関し、詳しくはエポキシ樹脂の硬化完了時間を簡易な判定方法で算出して注型成形できるエポキシ樹脂の注型成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂の注型成形において、樹脂組成物の硬化状態の判断は、注型用金型外部からの観察では困難であり、通常は、樹脂メーカーや硬化剤メーカーの示す硬化条件に従わざるを得ない。
【0003】
一般に注型用金型の温度については、恒温槽の温度制御もしくは注型用金型内部の温度測定により温度をコントロールし、加熱温度と時間を制御している。
【0004】
しかし、実際の成形時には、樹脂の硬化は注型用金型の形状等により硬化反応にばらつきが発生するため、注型用金型からの脱型時の硬化不足から生じる変形等を防止するため、余裕を持たせた硬化条件を設定している。そのため樹脂硬化物の成形サイクルが長くなり、生産効率を低下させる原因となっていた。
【0005】
また、エポキシ樹脂の脱型時間の算出については、樹脂の反応発熱曲線とマルテンス熱変形温度の交点付近を脱型時間と判断し決定することも知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、エポキシ樹脂組成物の反応発熱はエポキシ樹脂のエポキシ当量、硬化剤の種類、充填材や添加剤の種類や添加量、注型樹脂量、設定温度等、多くの条件で変わるため、エポキシ樹脂組成物ごとの硬化条件を見出すために反応発熱曲線、硬化物のマルテンス熱変形温度を測定して脱型時間を算出するのは現実的ではない。
【0007】
このような現状に対し、誘電特性を検出して注型時における硬化時間と注型用金型温度を制御する提案がなされている(例えば、特許文献1参照)。これは、エポキシ樹脂組成物の主剤中の充填材から溶出するイオン性不純物の濃度を、誘電特性を検出して計測し、硬化条件等を制御するものである。この方法によれば、最適硬化条件を算出することができる点では有効であるが、エポキシ樹脂組成物成分に充填材の配合が必須条件であり、また、誘電特性の検出、計測のための専用設備が必要であり、簡単な実施は困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−55119号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】垣内弘編著「新エポキシ樹脂」昭晃堂、昭和63年5月30日、p.432
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、注型用金型の表面温度を測定することにより、エポキシ樹脂組成物の反応発熱量を計測し、このデータから硬化物の最適脱型時間を算出して加熱制御を行うエポキシ樹脂の注型成形方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0012】
第1に、エポキシ樹脂の注型成形方法において、注型用金型の表面温度を測定し、注型用金型加熱媒体の設定温度を超えた反応発熱のピークを経て、注型用金型加熱媒体の設定温度より+5℃に降下した時点で加熱を終了する。
【0013】
第2に、上記第1の注型成形方法で成形した成形品を再加熱する工程を有する。
【発明の効果】
【0014】
上記第1の発明によれば、注型用金型の表面温度を測定し、時間軸に対して、金型加熱媒体の設定温度を超えた反応発熱のピークを経て、金型加熱媒体の設定温度より+5℃に降下した時点で硬化が終了したものとする。この方法により、簡単に最適硬化時間を見出すことができ、最短の成形サイクルにより、生産効率を大幅に改善することができる。
【0015】
第2の発明によれば、上記第1の注型成形方法で成形した成形品を再加熱するアフターキュアの工程を有するため、より信頼性の高い成形品(樹脂硬化物)を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】成形例1の成形品の温度変化曲線を示す。
【図2】成形例2の成形品の温度変化曲線を示す。
【図3】成形例3の成形品の温度変化曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0018】
本発明の注型成形方法に用いられる注型用金型は、注型した樹脂の発熱量が測定できる構成になっていれば形式は特に制限なく用いることができる。
【0019】
これらの注型用金型としては、例えば、キャスティング法、トランスファ成形法、プレス成形法等に用いられる注型用金型を挙げることができる。
【0020】
本発明の注型成形方法に用いられる上記注型用金型は、注型用金型加熱媒体によって加熱される。これら注型用金型加熱媒体としては、注型用金型を設定温度で一定時間加熱できるものであれば特に制限はなく、例えば、恒温槽、金型用ヒーター、温水槽、電気炉、オートクレーブ、IH加熱等を用いることができる。
【0021】
本発明で用いられる注型用金型には熱電対が設置され、注型された樹脂の温度を測定、監視できる構成になっている。
【0022】
これら熱電対の設置は、注型用金型の表面への取り付け、注型用金型内部への埋め込み、またはこれらの複合形で設置することができる。また、熱電対の設置位置、設置個数は、注型用金型の形状、大きさ等に応じて適宜設定することができる。
【0023】
これら注型用金型に設置された熱電対は測定器、記録装置に接続され、注型用金型の温度変化を記録する構成となっている。なお、この測定器により記録された樹脂の反応発熱データから、自動的に注型用金型加熱媒体の温度を制御することもできる。
【0024】
本発明のエポキシ樹脂の注型成形方法に用いられるエポキシ樹脂としては、注型用樹脂として用いられるものであれば特に制限なく用いることができる。
【0025】
上記エポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば特に制限なく用いることができる。
【0026】
このようなエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフタレン環含有エポキシ樹脂及びこれらの水素添加型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂等が挙げられ、これらのエポキシ樹脂は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0027】
硬化剤としては、一般的にエポキシ樹脂の硬化剤として用いることができるもの、例えば、フェノール性水酸基を有する硬化剤、アミン類、酸無水物類、イミダゾール類、ポリチオール、シアネート等を用いることができる。
【0028】
また、必要に応じて他の物質を配合してもかまわない。例えば、充填材、硬化促進剤、分散安定剤、希釈剤、カップリング剤等を配合することができる。
【0029】
上記のものを配合したエポキシ樹脂組成物は、注型用金型に注型できるものであればその形態は特に制限はなく、2液性、1液性、粉体、ペレットタイプ、タブレットタイプ等いずれのものであっても用いることができる。
【0030】
次に、上記設備を用いた本発明の成形方法の1例を説明する。
【0031】
注型用金型にエポキシ樹脂組成物を注型して、設定温度に加熱した恒温槽に注型用金型を載置して注型用金型を加熱する。横軸に時間、縦軸に温度を表した記録データから、エポキシ樹脂の反応発熱曲線を観察し、反応発熱ピークを経て温度曲線が下降し、恒温槽の設定温度から+5℃に降下した時点を硬化完了時点として注型用金型を取り出す。
【0032】
恒温槽から取り出した注型用金型はそのまま室温で放置し、注型用金型温度が常温近くまで下がった時点で硬化物を注型用金型から取り出す。この際も本発明の注型成形方法に用いられる設備構成は注型用金型温度を監視することができるため有効に機能する。
【0033】
本発明のエポキシ樹脂の注型成形方法は、上記のような設備構成及び手順であるため、硬化完了の判断が容易であり、設備に大きな改良を加える必要がなく、必要以上の注型用金型の加熱を防止できるため、成形時間及び光熱コストの削減に有効である。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<配合1>
エポキシ樹脂(ビスフェノールA型エポキシ樹脂):DIC(株)製 エピクロン850:100質量%
硬化剤(脂環式酸無水物系硬化剤):新日本理化(株)製 リカシッドMH:88質量%
硬化促進剤:和光純薬工業(株)製 テトラブチルアンモニウムブロミド:2質量%
<配合2>
エポキシ樹脂(ビスフェノールA型エポキシ樹脂):DIC(株)製 エピクロン850:100質量%
硬化剤(イミダゾール系硬化剤):四国化成工業(株)製 2E4MZ:2質量%
<測定方法>
<配合1、2>に従い、エポキシ樹脂、硬化剤等を攪拌混合し、真空脱泡した配合物を成形材料とした。
【0035】
注型用金型表面に熱電対を取り付けたアルミ製注型用金型に成形材料を注入し、一定温度に加熱した恒温槽に注型用金型を入れて加熱をした。
【0036】
成形品温度は、注型用金型表面に取り付けた熱電対を使用し、恒温槽外部に設置した測定器により記録、観察した。加熱終了は、注型用金型を恒温槽から取り出すことによって加熱を終了させた。その後、室温に放置することにより、成形品が50℃以下になるまで冷却した。
<成形例1>
成形材料<配合1>を用いて、恒温槽の設定温度100℃にて加熱し、成形品温度が発熱ピークを超え、105℃になった時点で注型用金型を恒温槽から取り出し、室温にて冷却した。この注型用金型の温度変化を図1に示す。
<成形例2>
成形材料<配合2>を用いて、恒温槽の設定温度100℃にて加熱し、成形品温度が発熱ピークを超え、105℃になった時点で注型用金型を恒温槽から取り出し、室温にて冷却した。この注型用金型の温度変化を図2に示す。
<成形例3>
成形材料<配合2>を用いて、恒温槽の設定温度150℃にて加熱し、成形品温度が発熱ピークを超え、155℃になった時点で注型用金型を恒温槽から取り出し、室温にて冷却した。この注型用金型の温度変化を図3に示す。
<実施例1>
成形材料<配合1>を用いて、恒温槽の設定温度100℃にて加熱し、成形品温度が反応発熱ピークを超え、105℃になった時点(加熱開始から約40分後)で注型用金型を恒温槽から取り出した。
<実施例2>
成形材料<配合2>を用いて、恒温槽の設定温度100℃にて加熱し、成形品温度が反応発熱ピークを超え、105℃になった時点(加熱開始から約45分後)で注型用金型を恒温槽から取り出した。
<実施例3>
成形材料<配合2>を用いて、恒温槽の設定温度150℃にて加熱し、成形品温度が反応発熱ピークを超え、155℃になった時点(加熱開始から約30分後)で注型用金型を恒温槽から取り出した。
<比較例1>
成形材料<配合1>を用いて、恒温槽の設定温度100℃にて加熱し、成形品温度が105℃になった時点(加熱開始から約18分後)で注型用金型を恒温槽から取り出した。
<比較例2>
成形材料<配合1>を用いて、恒温槽の設定温度100℃にて加熱し、成形品温度が反応発熱ピークを超えた時点(加熱開始から約27分後)で注型用金型を恒温槽から取り出した。
<比較例3>
成形材料<配合1>を用いて、恒温槽の設定温度100℃にて加熱し、成形品温度が反応発熱ピークを超え、105℃になってから10分経過した時点(加熱開始から約50分後)で注型用金型を恒温槽から取り出した。
<比較例4>
成形材料<配合2>を用いて、恒温槽の設定温度100℃にて加熱し、成形品温度が105℃になった時点(加熱開始から約18分後)で注型用金型を恒温槽から取り出した。
<比較例5>
成形材料<配合2>を用いて、恒温槽の設定温度100℃にて加熱し、成形品温度が反応発熱ピークを超えた時点(加熱開始から約23分後)で注型用金型を恒温槽から取り出した。
<比較例6>
成形材料<配合2>を用いて、恒温槽の設定温度100℃にて加熱し、成形品温度が反応発熱ピークを超え、105℃になってから10分経過した時点(加熱開始から約55分後)で注型用金型を恒温槽から取り出した。
<比較例7>
成形材料<配合2>を用いて、恒温槽の設定温度150℃にて加熱し、成形品温度が155℃になった時点(加熱開始から約9分後)で注型用金型を恒温槽から取り出した。
<比較例8>
成形材料<配合2>を用いて、恒温槽の設定温度150℃にて加熱し、成形品温度が反応発熱ピークを超えた時点(加熱開始から約11分後)で注型用金型を恒温槽から取り出した。
<比較例9>
成形材料<配合2>を用いて、恒温槽の設定温度150℃にて加熱し、成形品温度が反応発熱ピークを超え、155℃になってから10分経過した時点(加熱開始から約40分後)で注型用金型を恒温槽から取り出した。
<脱型時の成形品の状態>
実施例、比較例それぞれの条件で取り出した注型用金型を開けたときの成形品(樹脂硬化物)の状態を観察した。観察の結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1の結果から、比較例1、4、7及び比較例2、5、8のエポキシ樹脂組成物の反応発熱ピーク経過時点、またはそれ以前で注型用金型の加熱を終了させたものは、エポキシ樹脂組成物の硬化は不完全の状態であることがわかる。
【0039】
これに対し、実施例1、2、3の本発明の条件で注型用金型の加熱を終了させたものは、完全にエポキシ樹脂組成物の硬化が完了しており、本発明が有効であることが確認された。
【0040】
また、比較例3、6、9の本発明の注型用金型の加熱終了条件から10分経過後に注型用金型の加熱を終了させたものは、実施例1、2、3の結果と同様にエポキシ樹脂組成物の硬化は完了していた。このことから10分間の加熱は必要がないことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂の注型成形方法において、注型用金型の表面温度を測定し、注型用金型加熱媒体の設定温度を超えた反応発熱のピークを経て、注型用金型加熱媒体の設定温度より+5℃に降下した時点で加熱を終了することを特徴とするエポキシ樹脂の注型成形方法。
【請求項2】
請求項1の注型成形方法で成形した成形品を再加熱する工程を有することを特徴とするエポキシ樹脂の注型成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−110750(P2011−110750A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267381(P2009−267381)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】