説明

エポチロンまたはエポチロン誘導体誘発下痢を処置するためのコルチコステロイド

増殖性疾患の処置において、エポチロン誘導体は、止瀉薬、例えばコルチコステロイドまたはグルココルチコイド ステロイドと共投与される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポチロンまたはエポチロン誘導体によって誘発される下痢を処置するための、止瀉薬としてのコルチコステロイドに関する。本発明はまた、特に増殖性疾患、特に固形腫瘍疾患を処置するための、同時に、個別に、または連続して使用するための、(a) コルチコステロイド、例えばグルココルチコイド ステロイド;および(b) 式(I)のエポチロン誘導体、および所望により少なくとも1種の薬学的に許容される担体を含む薬学的組み合わせ剤;当該組み合わせ剤を含む医薬組成物;増殖性疾患を処置する医薬を製造するための、当該組み合わせ剤の使用;同時に、個別に、または連続して使用するための、組み合わせ製剤(combined preparation)として当該組み合わせ剤を含む商業用パッケージまたは製品;温血動物、特にヒトを処置する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポチロン類の微小管安定化効果は、Bollag et al., Cancer Res, Vol. 55, pp. 2325-33 (1995)によって初めて記載された。様々なタイプの腫瘍、特に、他の化学療法剤、特にTAXOL(商標)による処置に対して難治性である腫瘍の適当な処置スケジュールが、WO 99/43320に記載されている。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、同時に、個別に、または連続して使用するための、(a) コルチコステロイド、および、(b) 式(I):
【化1】

[式中、
Aは、OまたはNR (ここで、Rは水素または低級アルキルである。)を表し;
Rは、水素または低級アルキルであり;
Zは、Oまたは結合である。]
のエポチロン誘導体
(ここで、有効成分(a)および(b)が、それぞれの場合で、遊離形または薬学的に許容される塩形で存在する。)、および、
所望により少なくとも1種の薬学的に許容される担体を含む、組み合わせ剤、例えば組み合わせ製剤または医薬組成物に関する。
【0004】
AがOを表し、Rが水素であり、ZがOである式(I)の化合物は、エポチロン Aとして知られており;AがOを表し、Rがメチルであり、ZがOである式(I)の化合物は、エポチロン Bとして知られており;AがOを表し、Rが水素であり、Zが結合である式(I)の化合物は、エポチロン Cとして知られており;AがOを表し、Rがメチルであり、Zが結合である式(I)の化合物は、エポチロン Dとして知られている。
【化2】

【発明を実施するための形態】
【0005】
用語“組み合わされた製剤”は、本明細書で用いられるとき、特に、上で定義された組み合わせパートナー(a)および(b)が独立して投与され得るか、あるいは区別された量の組み合わせパートナー(a)および(b)を有する異なる固定化された組み合わせ剤の使用によって、すなわち同時にまたは異なる時点で、投与され得るという意味で、“複数パーツのキット”を定義する。複数パーツのキットは、例えば、同時にまたは時間をずらして、すなわち異なる時点で、複数パーツのキットのいずれかのパーツと同じまたは異なる時間間隔で投与されてもよい。組み合わせ製剤において投与される組み合わせパートナー(b)に対する組み合わせパートナー(a)の総量の割合は、例えば、処置されるべき患者の副集団の必要性に対処するために、あるいは、患者が経験している下痢の重症度に基づいて一人の患者の必要性に対処するために変えてよい。
【0006】
本発明は、特に、(a) コルチコステロイド止瀉薬の1個以上の単位投与形;および(b) 式(I)のエポチロン誘導体、特にエポチロン Bの1個以上の単位投与形を含む、組み合わせ製剤に関する。本発明は、さらに、(a) グルココルチコステロイド止瀉薬の1個以上の単位投与形;および(b) 式(I)のエポチロン誘導体、特にエポチロン Bの1個以上の単位投与形を含む、組み合わせ製剤に関する。本発明は、特に、(a) プレドニゾン、プレドニゾロンおよびデキサメタゾン(dexamethosone)からなる群から選択される、コルチコステロイド止瀉薬の1個以上の単位投与形;および(b) 式(I)のエポチロン誘導体、特にエポチロン Bの1個以上の単位投与形を含む、組み合わせ製剤に関する。
【0007】
止瀉薬は、コルチコステロイド、例えばグルココルチコイド ステロイドであり、これらは、プレドニゾン、プレドニゾロンおよびデキサメタゾンを含み(これらに限定されない)、そして、これらは、時々エポチロン類、特にエポチロン Bの投与に付随する下痢を予防する、制御するまたは阻止するために投与される。従って、本発明はまた、式(I)のエポチロン誘導体の投与に付随する下痢を予防するまたは制御する方法であって、有効量のコルチコステロイド止瀉薬を、エポチロン誘導体による処置を受けている患者に投与することを含む方法に関する。本発明はまた、式(I)のエポチロン誘導体の投与に付随する下痢を予防するまたは制御する方法であって、有効量の選択されたグルココルチコステロイド止瀉薬を、エポチロン誘導体による処置を受けている患者に投与することを含む方法に関する。本発明は、特に、式(I)のエポチロン誘導体の投与に付随する下痢を予防するまたは制御する方法であって、有効量のプレドニゾン、プレドニゾロンおよびデキサメタゾンから選択されるコルチコステロイド止瀉薬を、エポチロン誘導体による処置を受けている患者に投与することを含む方法に関する。
【0008】
コルチコステロイドは、副腎皮質で生産されるステロイドホルモンのクラスである。コルチコステロイドは、例えばストレス応答、免疫応答、および炎症の制御、炭水化物代謝、蛋白質異化、血中電解質濃度および挙動などの広範囲の生理学的系に関する。
【0009】
グルココルチコイドは、コルチゾール受容体と結合する能力によって特徴付けられるステロイドホルモンのクラスである。
【0010】
グルココルチコイド、例えばコルチゾールは、炭水化物、脂肪および蛋白質代謝を制御し、かつ、リン脂質放出を予防し、好酸球作用および幾つかの他の代謝を減少させることによる、抗炎症性である。合成物は、デキサメタゾンおよびプレドニゾンである。
【0011】
コルチコステロイドおよびグルココルチコイド ステロイドは、the Handbook of Cancer Chemotherapy 6th Ed. RT Skeel; 2003 Lippincott Williams & Wilkins and the Review of Medical Physiology 8th Ed, WF Ganong; 1977 Lange Medical Publications に記載されている。
【0012】
用語“固形腫瘍”は、特に、乳癌、卵巣癌、大腸および一般的に消化器の癌、子宮頸癌、肺癌、特に小細胞肺癌および非小細胞肺癌、頭頚部癌、膀胱癌、前立腺癌またはカポジ肉腫、特に結腸直腸癌、卵巣癌および前立腺癌を意味する。本組み合わせ剤は、固形腫瘍の増殖を阻害するが、液体腫瘍もまた阻害する。さらに、腫瘍のタイプおよび用いられる特定の組み合わせ剤に依存して、腫瘍体積の減少が達成され得る。
【0013】
従って、本発明はまた、固形腫瘍疾患に罹患している患者への式(I)のエポチロン誘導体の投与に付随する下痢を予防するまたは制御する方法であって、有効量のコルチコステロイド止瀉薬を、エポチロン誘導体による処置を受けている患者に投与することを含む方法に関する。本発明は、さらに、乳癌、卵巣癌、大腸および一般的に消化器の癌、子宮頸癌、肺癌、特に小細胞肺癌および非小細胞肺癌、頭頚部癌、膀胱癌、前立腺癌またはカポジ肉腫から選択される固形腫瘍疾患に罹患している患者への式(I)のエポチロン誘導体の投与に付随する下痢を予防するまたは制御する方法であって、有効量のコルチコステロイド止瀉薬を、エポチロン誘導体による処置を受けている患者に投与することを含む方法に関する。本発明は、特に、結腸直腸癌、卵巣癌および前立腺癌から選択される固形腫瘍疾患に罹患している患者への式(I)のエポチロン誘導体の投与に付随する下痢を予防するまたは制御する方法であって、有効量のコルチコステロイド止瀉薬を、エポチロン誘導体による処置を受けている患者に投与することを含む方法に関する。本発明は、特に、結腸直腸癌から選択される固形腫瘍疾患に罹患している患者への式(I)のエポチロン誘導体の投与に付随する下痢を予防するまたは制御する方法であって、有効量のコルチコステロイド止瀉薬を、エポチロン誘導体による処置を受けている患者に投与することを含む方法に関する。
【0014】
従って、本発明はまた、固形腫瘍疾患に罹患している患者への式(I)のエポチロン誘導体の投与に付随する下痢を予防するまたは制御する方法であって、有効量のグルココルチコステロイド止瀉薬を、エポチロン誘導体による処置を受けている患者に投与することを含む方法に関する。本発明は、さらに、乳癌、卵巣癌、大腸および一般的に消化器の癌、子宮頸癌、肺癌、特に小細胞肺癌および非小細胞肺癌、頭頚部癌、膀胱癌、前立腺癌またはカポジ肉腫から選択される固形腫瘍疾患に罹患している患者への式(I)のエポチロン誘導体の投与に付随する下痢を予防するまたは制御する方法であって、有効量のグルココルチコステロイド止瀉薬を、エポチロン誘導体による処置を受けている患者に投与することを含む方法に関する。本発明は、特に、結腸直腸癌、卵巣癌、および前立腺癌から選択される固形腫瘍疾患に罹患している患者への式(I)のエポチロン誘導体の投与に付随する下痢を予防するまたは制御する方法であって、有効量のグルココルチコステロイド止瀉薬をエポチロン誘導体による処置を受けている患者に投与することを含む方法に関する。本発明は、特に、結腸直腸癌から選択される固形腫瘍疾患に罹患している患者への式(I)のエポチロン誘導体の投与に付随する下痢を予防するまたは制御する方法であって、有効量のグルココルチコステロイド止瀉薬を、エポチロン誘導体による処置を受けている患者に投与することを含む方法に関する。
【0015】
従って、本発明はまた、固形腫瘍疾患に罹患している患者への式(I)のエポチロン誘導体の投与に付随する下痢を予防するまたは制御する方法であって、有効量のプレドニゾン、プレドニゾロンおよびデキサメタゾンから選択されるコルチコステロイド止瀉薬を、エポチロン誘導体による処置を受けている患者に投与することを含む方法に関する。本発明は、さらに、乳癌、卵巣癌、大腸および一般的に消化器の癌、子宮頸癌、肺癌、特に小細胞肺癌および非小細胞肺癌、頭頚部癌、膀胱癌、前立腺癌またはカポジ肉腫から選択される固形腫瘍疾患に罹患している患者への式(I)のエポチロン誘導体の投与に付随する下痢を予防するまたは制御する方法であって、有効量のプレドニゾン、プレドニゾロンおよびデキサメタゾンから選択されるコルチコステロイド止瀉薬を、エポチロン誘導体による処置を受けている患者に投与することを含む方法に関する。本発明は、特に、結腸直腸癌、卵巣癌および前立腺癌から選択される固形腫瘍疾患に罹患している患者への式(I)のエポチロン誘導体の投与に付随する下痢を予防するまたは制御する方法であって、有効量のプレドニゾン、プレドニゾロンおよびデキサメタゾンから選択されるコルチコステロイド止瀉薬を、エポチロン誘導体による処置を受けている患者に投与することを含む方法に関する。本発明は、特に、結腸直腸癌から選択される固形腫瘍疾患に罹患している患者への式(I)のエポチロン誘導体の投与に付随する下痢を予防するまたは制御する方法であって、有効量のプレドニゾン、プレドニゾロンおよびデキサメタゾンから選択されるコルチコステロイド止瀉薬を、エポチロン誘導体による処置を受けている患者に投与することを含む方法に関する。
【0016】
コード番号、一般名または商品名によって特定した活性剤の構造は、標準的な抄録“The Merck Index”の現行版、またはデータベース、例えばPatents International (例えばIMS World Publications)から取得され得る。対応するその内容は、言及することによって本明細書に組み込まれる。
【0017】
組み合わせパートナー(a)および(b)についての記載はまた、薬学的に許容される塩を含むことを意味すると理解される。これらの組み合わせパートナー(a)および(b)が、例えば、少なくとも1個の塩基性中心を有するならば、それらは、酸付加塩を形成し得る。対応する酸付加塩が、望ましいならば、さらに塩基性中心を有して、形成され得る。酸性の基(例えばCOOH)を有する組み合わせパートナー(a)および(b)はまた、塩基と塩を形成し得る。組み合わせパートナー(a)または(b)、またはそれらの薬学的に許容される塩はまた、水和物の形態で用いられ得るか、あるいは、結晶化に用いた他の溶媒を含み得る。
【0018】
AがOまたはNR(ここで、Rは水素または低級アルキルである。)を表し、Rが水素または低級アルキルであり、ZがOまたは結合である式(I)のエポチロン誘導体、および、当該エポチロン誘導体の製造方法は、WO 93/10121、US 6,194,181、WO 98/25929、WO 98/08849、WO 99/43653、WO 98/22461およびWO 00/31247の特許および特許明細書に、それぞれの場合で、特に、請求項に記載された化合物および実施例の最終生成物、最終生成物の材料、医薬製剤、および請求項に、特に一般的に且つ具体的に開示されている(この文献について言及することによって本願明細書に組み込まれる)。本発明の他の局面は、本発明の止瀉薬と共に用いられる、WO 93/10121、US 6,194,181、WO 98/25929、WO 98/08849、WO 99/43653、WO 98/22461およびWO 00/31247の特許および特許明細書に開示されているエポチロン誘導体を含む。同様に、対応する立体異性体ならびに対応する結晶修飾、例えばそれに開示された溶媒和物および多形も含まれる。
【0019】
エポチロン Bの対応するラクタムへの変換は、WO 99/02514のスキーム21(31頁、32頁)および実施例3(48〜50頁)に開示されている。エポチロン Bと異なる式(I)の化合物の対応するラクタムへの変換は、同様に達成され得る。Rが低級アルキルである対応する式(I)のエポチロン誘導体は、当技術分野で既知の方法によって、例えばRが水素であるエポチロン誘導体から出発する還元的アルキル化反応によって製造され得る。
【0020】
式(I)のエポチロン誘導体、特にエポチロン B(パツピロン(patupilone))は、WO 99/39694に開示されている医薬組成物の一部として投与され得る。
【0021】
具体的な態様において、エポチロン誘導体は、AがOまたはNR(ここで、Rが水素または低級アルキルである。)を表し、Rが水素または低級アルキルであり、ZがOまたは結合である、式(I)の化合物である。
【0022】
式(I)のエポチロン誘導体において、好ましくは、AはOを表し、Rは低級アルキル、例えばエチルであり、最も好ましくはメチルであり、Zは好ましくはOである。
【0023】
本明細書で特記しない限り、“低級”と示された有機基は、7個以下の、好ましくは4個以下の炭素原子を含む。以下の表記は、下記に示した意味を有する。
【0024】
本発明は、特に、1個以上の単位投与形の式(I)のエポチロン誘導体、特にエポチロン Bによって誘発される下痢を処置するための止瀉薬としてのグルココルチコイド、例えばプレドニゾロンに関する。
【0025】
当業者に理解されるように、下痢の処置は、下痢を予防する、および/または制御する、および/または阻止することを含み、これらに限定されない。
【0026】
(a) 止瀉薬としてのグルココルチコイド、例えばプレドニゾロン;および(b) AがOまたはNR(ここで、Rは水素または低級アルキルである。)を表し、Rが水素または低級アルキルであり、ZがOまたは結合である式(I)のエポチロン誘導体 (ここで、有効成分は、それぞれの場合で、遊離形または薬学的に許容される塩形で存在する。)、および、所望により少なくとも1種の薬学的に許容される担体を含む組み合わせ剤は、以下で、「本発明の組み合わせ剤」と記載される。
【0027】
本発明の組み合わせ剤で用いられる組み合わせパートナーが、単剤として販売されている形態で適用されるとき、その用量および投与方法は、本明細書で特記しない限り、本明細書で記載される有益な効果をもたらすために各々の市販薬の添附文書に提供された情報に従って行われ得る。
【0028】
止瀉薬は、投与サイクルの間中予防策として、または下痢を起こした際に、必要に応じて投与される。
本発明の他の態様において、止瀉薬は、プレドニゾロンである。
【0029】
本発明の他の態様において、対象に、式(I)のエポチロン誘導体を、週1回数週間、例えば3週間投与し、続いて1週間または数週間休薬し、かつ、止瀉薬を当該エポチロン誘導体の投与を開始する前に対象を前処置し、さらに投与サイクルの間中止瀉薬の投与を続けることによる、または前処置することなく投与サイクルの間中止瀉薬を投与することによる予防策として投与するか、あるいは、前処置するかまたはしないで、投与サイクル中に下痢を起こした際に必要に応じて止瀉薬を投与する。例として、エポチロン誘導体を週1回3週間投与し、1週間休薬する際には、4週間の期間がそれぞれ1サイクルと考えられる。
【0030】
有効量の止瀉薬は、エポチロン誘導体の投与に付随する下痢を処置する、例えば下痢を予防する、制御するまたは阻止するのに十分な量であり、特に、下痢が、エポチロン誘導体、特にエポチロン Bの用量規制毒性であるときに、投与できるエポチロン誘導体の量を増加させる量である。
【0031】
本発明の組み合わせ剤は、組み合わせ製剤または医薬組成物であり得る。
本発明の医薬組成物は、それ自身既知の方法で製造され得る。また、本発明の医薬組成物は、ヒトを含む哺乳動物(温血動物)への、経腸、例えば経口または直腸、および非経腸投与に適当なものである。
【0032】
新規の医薬組成物は、例えば、約10%から約100%、好ましくは約20%から約60%の有効成分を含む。経腸または非経腸投与による組み合わせ治療のための医薬製剤は、例えば、単位投与形、例えば糖衣錠、錠剤、カプセル剤または坐剤であり、さらに、アンプル剤である。特記しない限り、これらは、それ自身既知の方法で、例えば慣用の混合、造粒、糖衣、溶解または凍結乾燥工程によって製造される。複数の単位投与形の投与によって必要な有効量に達成してもよいため、各投与形の個別の投与に含まれる組み合わせパートナーの単位含有量は、必ずしもそれ自身で有効量を構成しないことが認められるであろう。
【0033】
経口投与のための組成物を製造する際、通常、薬学的な媒体、例えば、水、グリコール、油脂、アルコール、風味剤、保存料、着色料の何れかを用いてもよく;経口固体製剤、例えば粉剤、カプセル剤および錠剤の場合には、担体、例えば澱粉、糖類、微晶性セルロース、希釈剤、造粒剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤などを用いてもよい。液体製剤よりも固体の経口製剤が好ましい。投与し易いため、錠剤およびカプセル剤が最も有益な経口単位投与形を提供し、その場合、固体の薬学的な担体が用いられることが明らかである。
【0034】
特に、治療有効量の本発明の組み合わせ剤の組み合わせパートナーはそれぞれ別個に投与されてもよく、すなわち、該成分が、同時に、または何れかの順序で連続して投与されてもよい。例えば、本発明による増殖性疾患を処置する方法は、同時または何れかの順序で連続的に、共に治療有効量の、好ましくは相乗的に作用する量の、例えば本明細書に記載された量に対応する1日投与量の、(i)遊離形または薬学的に許容される塩形の第1の組み合わせパートナーの投与;および(ii)遊離形または薬学的に許容される塩形の第2の組み合わせパートナーの投与を含んでもよい。本発明の組み合わせ剤の個々の組み合わせパートナーは、治療の過程で、異なる時間で別個に投与されてもよく、また、分割されたもしくは単一の組み合わせ剤の形態で同時に投与されてもよい。例えば、一方の薬物が経腸製剤であって、他方が非経腸で投与されてもよい。さらに、用語“投与する”はまた、in vivoで組み合わせパートナー自身に変換される組み合わせパートナーのプロドラッグの使用を包含する。従って、本発明は、全ての同時または交互の処置のかかるレジメを包含すると理解され、用語“投与する”は、それに従って解釈されるべきである。
【0035】
本発明の組み合わせ剤で用いられる各組み合わせパートナーの有効投与量は、用いられる特定の化合物または医薬組成物、投与方法、処置される状態、処置される状態の重症度に依存して変化し得る。従って、本発明の組み合わせ剤の投与レジメは、投与経路および患者の腎臓および肝臓の機能を含む種々の因子に従って選択される。通常の技術を有する医師、臨床医または獣医は、該状態の進行を防ぐ、妨げる、または阻止するのに必要な単一の有効成分の有効量を、容易に決定し、かつ処方し得る。エポチロン誘導体の濃度を、毒性なしで効力が得られる範囲内に達成させるのに最適な精度は、標的部位への有効成分の利用可能性の動力学に基づいたレジメを必要とする。これは、複数の有効成分の分布、平衡および排出の考察を含む。
【0036】
温血動物が、有効量の式(I)の化合物および止瀉薬が必要なヒト患者であるならば、式(I)の化合物の投与は、好ましくは、成人の患者の場合で、約0.25から75、好ましくは0.5から50、例えば2.5mg/m2の範囲で、週1回、2週間から4週間であり、例えば3週間投与し、続いて6から8日間休薬する。
【0037】
止瀉薬は、好ましくは、止瀉薬について確立されたプロトコルに従って、1日1回または2回投与される。止瀉薬の投与量は、1日当たり約1から約100mg/m2であり得る。この止瀉薬の投与は、約3日から約7日まで投与され得る。処置日数は、連続的に数日であってもよく、これに限定されない。
【0038】
さらに、本発明は、増殖性疾患を有する温血動物を処置する方法であって、該動物に、増殖性疾患に対して治療的に有効な量で、本発明の組み合わせ剤を投与することを含む方法であって、かつエポチロン誘導体の投与に付随する何れの下痢も軽減する方法に関する。
さらに、本発明は、増殖性疾患の処置における、および、増殖性疾患を処置する医薬の製造における、本発明の組み合わせ剤の使用に関する。
【0039】
さらに、本発明は、増殖性疾患の処置において、同時の、別個の、または連続した使用についての指示書と共に、本発明の組み合わせ剤を有効成分として含む商業的パッケージを提供する。
【0040】
実施例
下記の実施例は、上記の本発明を説明している。しかしながら、これらは、本発明の範囲を限定することを一切意図しない。本発明の組み合わせ剤の有益な効果はまた、それ自身当業者に既知の他の試験モデルによって決定され得る。
【0041】
BDixラット腫瘍モデル
ラット:少なくとも150gの体重を有するメスのBDixラットを実験に用いる。それらは、耳のマーキングによって識別され、また、4群は、食事および水を自由に摂取できる通常条件下に保つ。
腫瘍:ラットの神経膠腫細胞A15 (aks 1a2r)を、ECACCから得る。2mM グルタミンおよび15% FBSを添加したDMEM培地中で、それらを培養する。50μl中5×10細胞に濃縮し、ラットの脇腹に皮下注射することによって、腫瘍を誘発する。接種後1週目で腫瘍が視認でき、カリパスを用いて、式:l*w*h*π/6を適用することによって測定する。通常、腫瘍が>150mm3であるとき、実験を開始する。
パツピロン:パツピロンを量り取り、30% PEG-300および70%の生理食塩水のビークルに最終濃度1mg/mlで溶解する。尾静脈に、2〜3秒のボラスとして、1.5mg/kgの投与量で1回、パツピロンを静脈内注射する。
プレドニゾロン:プレドニゾロン錠剤(20mg)を、0.025% Tween-20界面活性剤を添加した0.5% メチルセルロース溶液中ですり潰す。懸濁液を30分間超音波処理し、経口投与(5ml/kg)のための乳濁性懸濁液とする。
プレドニゾロンは経口で毎日投与されるが、投与量および処置日数は、それぞれの実験で異なっている。投与量は、1、3、7または10mg/kgであり、それぞれは、6、17、40および60mg/m2とほぼ等価である。プレドニゾロンおよびパツピロンの処置を同日に行うとき、パツピロンによる処置の2〜4時間後にプレドニゾロンを投与する。
【0042】
プレドニゾロンは、コルチコステロイドであり、プレドニゾンの正常な肝臓代謝(ヒドロキシル化)生成物である。
下痢:下痢は、0日目のパツピロン注射後3日目からモニターする。下痢は以下の通りに点数をつける。
グレード0:正常な便
グレード0.5
グレード1:軟便であるが形のある便
グレード1.5
グレード2:軟らかく形のない便
グレード2.5
グレード3:液状の便
【0043】
従って、各ラットを、それぞれの日の下痢(3日目ないし5日目以降5日間)についてグレード0〜3を付け、それにより異なる処置の効果の半定量的分析を可能とした。a) Graphpad Prsim (v. 4.0 for Windows)を適用した台形公式を用いて計算した曲線下面積(AUC3〜7日目)、および、b) 下痢がグレード>1である日数を用いて、2つの異なる分析学的方法を適用する。グレード1は真の下痢ではなく、そして、臨床において、主要な問題は、重度の下痢、すなわち臨床学的グレード2を避けることであるため、第2の方法が臨床的により現実的な比較であると考えられる。
【0044】
効果および耐容性:腫瘍体積の変化(エンドポイント vs. 開始時 (mm3))によって、腫瘍体積(Tvol)を定量する。T/CTVol、すなわち[ΔTVol薬物/ΔTVolビークル]として、ラットの体重を週3回測定する。
【実施例】
【0045】
実施例1
BDixラット(180g)を、パツピロン(PAT)で、1.5mg/kgで、静脈内で、ボラスによって1回処置し、同日に、かつさらに6日間、プレドニゾロン(Predn)で、0、1、3または10mg/kgで、経口で処置する。結果は、下痢、生存、および体重(BW)についての平均値±SEMを示し、ここで、コントロール、すなわちプレドニゾロンのビークルと共にパツピロンのみを投与したラットに対して、*はP<0.05であり、**はP<0.01であり、***はP<0.001である(一元配置ANOVAとTukey適用事後比較)。
【0046】
【表1】

【0047】
実施例2
パツピロン(PAT)で、1.5mg/kgで静脈内ボラスで1回処置した10日後のBDixラット(190g)に、ラットのA15神経膠腫細胞を皮下注射し、同日およびさらに6日間プレドニゾロン(Predn)で、0、3または10mg/kgで経口で処置する。結果は、下痢、生存、体重(BW)についての平均値±SEMを示し、ここで、コントロール、すなわちプレドニゾロンのビークルと共にパツピロンのみを投与したラットに対して、*は、P<0.05である(一元配置ANOVAとTukey適用事後比較)。
【0048】
【表2】

【0049】
実施例3
ラットのA15神経膠腫細胞を、BDixラット(185〜195g)に皮下注射する。10日後、ラットを、パツピロン(PAT)で1.5mg/kgで静脈内ボラスで(G2、G4〜G7)、または、PATのビークル(G1およびG3)で1回0日目に処置する。全てのラットをプレドニゾロン(Predn)で処置し、薬物は、経口で、7mg/kgで、連続5日間(G7のみ3日間)、パツピロン投与の1日前より(G4)、同日より(G7)、1日後より(G6)または3日後より(G5)投与する。結果は、腫瘍体積、下痢、生存および体重(BW)について、平均値±SEMを示し、ここで、関連のコントロール、すなわちTVolおよびBWについてはビークル(G1)に対して(一元配置ANOVAとTukey適用事後比較)、または、下痢についてはパツピロンのみ&Prednビークルを投与したラット(G2)に対して(二元配置ANOVAとTukey適用事後比較)、*はP<0.05であり、**はP<0.01であり、***はP<0.001である。
# 3匹のラットは、体重減少>20%および罹患率により、7日目の結果から除いた。
【0050】
【表3】

【0051】
実施例4
ラットのA15神経膠腫細胞を、BDixラット(185〜195g)に皮下注射し、10日後、両方のグループを、0日目に、パツピロン(PAT)で、1.5mg/kgで、静脈内ボラス(G2、G4)で1回処置する。G4には、プレドニゾロン(Predn)を、経口で、7mg/kgで、連続5日間投与し、一方、G2には、Prednビークルを5日間のみ投与する。結果は、全PAT曝露(AUC)についての各マトリックスにおける平均値±SD(各時間点で各グループについて3匹のラット)を示し;平均差をT/C(すなわちG4の値/G2の値)として決定し、関連するP値を両側t検定から得る。
【0052】
【表4】

【0053】
実施例5
全てのBDixラット(185g)を、パツピロン(PAT)で、1.5mg/kgで静脈内ボラスで、0日目に処置する。ラットに、7mg/kgのプレドニゾロン(Predn)またはPrednビークルを、経口で、連続5日間(G3においては3日間)、0日目(G1〜G3)またはPATの24時間後(D+1)または24時間前(D-1)の何れかから、投与する。結果は、方法において完全に記載された分析を用いて、下痢、生存および体重(BW)について、平均値±SEMを示し、ここで、コントロール、すなわちプレドニゾロンのビークルと共にパツピロンのみを投与したラットに対して、*はP<0.05であり、**はP<0.01であり、***はP<0.001である(一元配置ANOVAとTukey適用事後比較)。
【0054】
【表5】

【0055】
実施例6
4つの異なる実験の結果は、パツピロンの投与が、常に、1.5mg/kgの静脈内ボラスで、0日目(D0)である場合を示している。下痢は、パツピロン処置後3日目から7日目まで、グレード0、1、2または3として毎日評価され、3〜7日目の平均AUCまたは下痢のグレードが>G1である平均日数を評価する。プレドニゾロン(Predn)の効果は、コントロール群(パツピロンのみ)における下痢の値で、処置群における値を割って、T/Cとして示すことで要約される。
【0056】
【表6】

【0057】
これらの実施例は、コルチコステロイドであるプレドニゾロンが、BDixラットにおいて、有効量のパツピロンの投与によって引き起こされる下痢を再現可能的に軽減し得ることを実証している。4種の実験のうち3種において、この効果は、劇的であり、かつ非常に著しく、通常下痢が観察される4〜5日間に亘って、ほとんど完全に下痢を阻止している。該効果は用量依存性であり、癌の化学療法の幾つかの副作用を処置するために患者に一般的に用いられる用量、すなわち40〜60mg/m2 (ラットにおいて7〜10 mg.kg)で効果を示す。プレドニゾロン投与スケジュールは効果にあまり影響がないと見られ、3日間の処置は、5〜7日間の処置と同様に有効である。プレドニゾロンがパツピロン曝露を著しく妨害する証拠は見られなかった。プレドニゾンおよびデキサメタゾンで同様の結果が見られた。
【0058】
実施例7
ヒトの臨床試験において、脳転移(非小細胞肺癌より)を有する患者を、脳腫脹を制御するために、4〜8mg(経口)のデキサメタゾンで1日1回処置する。これは、28〜128mg/日の範囲のプレドニゾン(またはプレドニゾロン)と等価であり、すなわち1日当たり14〜64mg/m2のプレドニゾンと等価である。グルココルチコイドをパツピロンに加えることが、エポチロン B(パツピロン)誘発下痢を軽減するようである。
【0059】
実施例8
臨床試験において、HRPC(ホルモン不応性前立腺癌)患者に、1日当たり10mg(約5.5mg/m2)のプレドニゾンを投与する。これは、エポチロン B(パツピロン)誘発下痢に効果を有しないようである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処置を必要とする患者に対して、遊離形または薬学的に許容される塩形の式(I):
【化1】

[式中、
Aは、OまたはNR (ここで、Rは水素または低級アルキルである。)を表し;
Rは、水素または低級アルキルであり;
Zは、Oまたは結合である。]
のエポチロン誘導体の投与に付随する下痢を処置する方法であって、有効量のコルチコステロイド止瀉薬を、エポチロン誘導体による処置を受けている患者に投与することを含む方法。
【請求項2】
該止瀉薬がグルココルチコステロイドである、請求項1に記載された方法。
【請求項3】
該止瀉薬が、プレドニゾン、プレドニゾロンおよびデキサメタゾンからなる群から選択されるグルココルチコステロイドである、請求項1に記載された方法。
【請求項4】
該エポチロン誘導体がエポチロン Bである、請求項1に記載された方法。
【請求項5】
増殖性疾患に対して治療的に有効な量で組み合わせた請求項1〜4の何れか1項に記載された組み合わせ剤、および少なくとも1種の薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項6】
該グルココルチコイド ステロイドが、プレドニゾロンである、請求項3に記載された方法。
【請求項7】
該止瀉薬を、処置が必要な患者に、式(I)のエポチロン誘導体と別個に、連続してまたは同時に投与する、請求項1に記載された方法。
【請求項8】
該止瀉薬を、処置が必要な患者に、1日1回または2回投与する、請求項1に記載された方法。
【請求項9】
該止瀉薬を、処置が必要な患者に、約10mg/m2/日から約100mg/m2/日で投与する、請求項1に記載された方法。
【請求項10】
該止瀉薬を、処置が必要な患者に、約3日間から約7日間投与する、請求項9に記載された方法。
【請求項11】
該止瀉薬がプレドニゾロンである、請求項9に記載された方法。
【請求項12】
増殖性疾患を処置する医薬を製造するための、エポチロンまたは式(I):
【化2】

[式中、
Aは、OまたはNR (ここで、Rは水素または低級アルキルである。)を表し;
Rは、水素または低級アルキルであり;
Zは、Oまたは結合である。]
のエポチロン誘導体または薬学的に許容される塩の使用であって、該エポチロン誘導体は、コルチコステロイド止瀉薬と組み合わせて、同時の、別個の、または連続した使用に使用される、使用。
【請求項13】
該エポチロン誘導体がエポチロン Bである、請求項12に記載された使用。
【請求項14】
該止瀉薬がコルチコステロイドである、請求項12または13に記載された使用。
【請求項15】
該止瀉薬が、プレドニゾン、プレドニゾロン、デキサメタゾンからなる群から選択される、グルココルチコイド ステロイドである、請求項12または13に記載された使用。
【請求項16】
該止瀉薬がプレドニゾロンである、請求項15に記載された使用。
【請求項17】
増殖性疾患の処置のための、請求項12〜13の何れか1項に記載された組み合わせ剤の使用。
【請求項18】
増殖性疾患を処置する医薬の製造における、請求項12〜13の何れか1項に記載された組み合わせ剤の使用。

【公表番号】特表2011−503075(P2011−503075A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−533139(P2010−533139)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【国際出願番号】PCT/US2008/079936
【国際公開番号】WO2009/061587
【国際公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】