説明

エマルジョンインキ

【課題】乳化時の転相を防止できると共に、高温での保存安定性を向上させたエマルジョンインキの提供。
【解決手段】油相と水相からなり、該油相又は水相に着色剤とその分散剤を含有し、前記油相に乳化剤として下記一般式(1)で表される粒子構造をした多糖類を含有するエマルジョンインキ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、孔版印刷用インキやインクジェット用インキとして用いることができるエマルジョンインキに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、乳化剤として両親媒性化合物のショ糖脂肪酸エステルを含有するW/O型エマルジョンに関する発明が開示されている。しかし、着色剤を含むエマルジョンインキに関する記載は無い。
また、特許文献2〜3には、粒子構造をした多糖類を主成分とする乳化分散剤を用いた化粧料に係る発明が開示されており、本発明で用いるのと同じ構造の多糖類も記載されている。しかし、エマルジョンに関する記載はあるものの、着色剤を含むエマルジョンインキに関する記載は無い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、乳化時の転相を防止できると共に、高温での保存安定性を向上させたエマルジョンインキの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題は、次の1)〜5)の発明によって解決される。
1) 油相と水相からなり、該油相又は水相に着色剤とその分散剤を含有し、前記油相に乳化剤として下記一般式(1)で表される粒子構造をした多糖類を含有することを特徴とするエマルジョンインキ。
【化1】

2) 粒子構造をした多糖類の添加量がエマルジョンインキ全体の0.1〜5.0重量%であることを特徴とする1)に記載のエマルジョンインキ。
3) 着色剤が顔料であり、分散剤がアンモニウムフタロシアニンスルホン酸塩とポリエステルアミンを含むことを特徴とする1)又は2)に記載のエマルジョンインキ。
4) 分散剤の添加量が着色剤に対して1〜30重量%であることを特徴とする3)に記載のエマルジョンインキ。
5) 油相中に含有されるオイル成分が植物油又はその誘導体であることを特徴とする1)〜4)のいずれかに記載のエマルジョンインキ。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、乳化時の転相を防止できると共に、高温での保存安定性を向上させたエマルジョンインキを提供できる。本発明のエマルジョンインキは、孔版印刷用インキやインクジェット用インキとして用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0006】
以下、上記本発明について詳しく説明する。
一般的なエマルジョンインキ(以下、インキということもある)は着色剤、分散剤、乳化剤、オイル成分、水などから構成される。その製造方法としては、分散剤によって分散された着色剤を、オイル成分を含有した油相又は水を含有した水相に添加し、その後、乳化剤によって両相を乳化してエマルジョン化する。ここで使用する分散剤のHLB(Hydrophile−Lipophile Balance:親水親油バランス)は通常、後に添加する乳化剤のHLBに近いものを選択する。その理由は、例えばW/O型エマルジョンを作成する目的で選定した乳化剤と、極端にHLBが高い分散剤を併用した場合、過剰の分散剤が乳化界面に配位したり、又は分散した着色剤ごと乳化界面に配位することによって、W/O型エマルジョンではなく、O/W型エマルジョンを形成してしまうことがあるためである。例えばW/O型エマルジョンで且つ着色剤を油相に含有させる場合、上記理由により分散剤のHLBは通常3〜6のものを使用するが、着色剤の分散効率をより向上させるためにはHLBが10以上の分散剤を使用することが好ましい。
【0007】
以上のことから、着色剤の分散効率と乳化安定性は相反する項目であるが、本発明では油相に乳化剤として粒子構造をした多糖類を使用することにより、転相などの不具合を防止することができ、かつ乳化安定性を向上することができる。
また、油相と水相の配合割合は一般的なエマルジョンインキと同じでよく、10:90〜90:10の範囲で適宜選択すればよい。
【0008】
上記粒子構造をした多糖類としては、下記一般式(1)で表されるものを用いる。この多糖類は、グルコース、グルクロン酸、ラムノースからなる繰返し構造の主鎖からなり、主鎖中の1つのグルコースに1つのフコースが分岐した構造からなっている。この多糖類は、アルカシーラン(商品名、INCIname:Alcaligenes Polysacchaides、伯東社製)として市販されている。
【化2】

【0009】
通常の乳化剤(界面活性剤)による乳化は、疎水性部位と親水性部位を有する分子が界面に配位することにより行われる。しかしながら、乳化系に対する乳化剤のHLBや油相及び水相の粘度などによって安定性が損なわれる場合があるため、HLBが異なる数種の乳化剤を併用する必要があった。これに対して、本発明における乳化は、親水性ナノ粒子の物理的な力(ファンデルワールス引力)によって安定化する機構であるため、1種類の乳化剤で安定性を向上させることができる。また、粒子による乳化であるため、油相成分や水相成分の粘度などの物性によらず乳化安定性を維持することができる。
また、本発明における乳化剤の添加量は、エマルジョンインキ全体の0.1〜5.0重量%が好ましく、0.5〜1.0重量%がより好ましい。
【0010】
本発明では、前記粒子構造をした多糖類の他に、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフィトステロール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンひまし油、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンラノリン、ポリオキシエチレンラノリンアルコール、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合物などのノニオン系界面活性剤を併用することができる。その添加量はインキ全体の1〜8重量%が好ましく、2.2〜6.0重量%がより好ましい。
【0011】
着色剤としては公知のものが使用でき、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスカーボンなどのカーボンブラック類、アルミニウム粉、ブロンズ粉などの金属粉、弁柄、黄鉛、群青、酸化クロム、酸化チタンなどの無機顔料、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料などのアゾ顔料、無金属フタロシアニン系顔料や銅フタロシアニン顔料などのフタロシアニン系顔料、アントラキノン系、キナクリドン系、イソインドリノン系、イソインドリン系、ジオキサンジン系、スレン系、ペリレン系、ペリノン系、チオインジゴ系、キノフラノン系、金属錯体などの縮合多環系顔料、酸性又は塩基性染料のレーキなどの有機顔料、ジアゾ染料、アントラキノン系染料などの油溶性染料、蛍光顔料などが挙げられる。また、無機粒子を有機顔料又はカーボンブラックで被覆した着色剤粒子を用いてもよい。染料は耐光性の面で問題があるため、不溶性着色剤を使用することが好ましいが、色を補う目的で添加しても構わないし、色によって染料と顔料を使い分けてもよい。
【0012】
代表的なカーボンブラックとしては、MA−100、MA−7、MA−70、MA−77、MA−11、#40、#44(三菱化学社製)、Raven1100、Raven1080、Ravene1255、Raven760、Raven410(コロンビヤンカーボン社製)などが挙げられる。
蛍光顔料としては、合成樹脂を塊状重合する際又は重合した後に様々な色相を発色する蛍光染料を溶解又は染着し、得られた着色塊状樹脂を粉砕して微細化した所謂、合成樹脂固溶体タイプのもので、染料を担持する合成樹脂としては、メラミン樹脂、尿素樹脂、スルホンアミド樹脂、アルキド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などを染料に担持する蛍光顔料などが挙げられる。
これらの染料や顔料は単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
分散された着色剤の平均粒子径は0.1〜10μmが好ましく、0.1〜1.0μmがより好ましい。
着色剤の添加量はインキ全体の1.0重量%以上であることが好ましく、更に好ましくは4〜10重量%である。
【0013】
着色剤の分散剤としては、アルキルアミン系高分子化合物、アルミニウムキレート化合物、スチレン−無水マレイン酸系共重合高分子化合物、ポリカルボン酸エステル型高分子化合物、脂肪酸系多価カルボン酸、高分子ポリエステルのアミン塩類、エステル型アニオン界面活性剤、高分子量ポリカルボン酸の長鎖アミン塩類、長鎖ポリアミノアミドと高分子酸ポリエステルの塩、ポリアミド系化合物、燐酸エステル系界面活性剤、アルキルスルホカルボン酸塩類、α−オレフィンスルホン酸塩類、ジオクチルスルホコハク酸塩類、ポリエチレンイミン、アルキロールアミン塩及びアルキド樹脂などの不溶性着色剤分散能を有する樹脂などが挙げられるが、中でもアンモニウムフタロシアニンスルホン酸塩(分散剤A)及びポリエステルアミン(分散剤B)が好ましい。
【0014】
分散剤Aは種々の有機顔料表面の極性を上げることができ、分散剤Bを導入した際に、分散剤Aが顔料との結合剤的な働きをすることにより、通常の場合よりも分散剤の結合力が強くなると考えられ、特に長期間保存した際の分散安定性は従来のものと比較して強くなると考えられる。しかしながら、分散剤Aは青色の紛体であり、使用量によっては色調を変化させてしまう可能性もあることから、色調の変化に敏感な場合には極力使用量を抑えるか又は使用しない方がよい。
【0015】
分散剤Bはフリーのカルボン酸基を持つ(それらは少なくとも2つのポリエステル鎖を持っており、それらは互いにポリ低級アルキレンイミン鎖を有している)ポリエステルとポリ低級アルキレンイミンとの反応生成物である。高分子系の分散剤であるため立体障害効果により顔料粒子同士の凝集を防止することができる。また、分散剤Bの末端は櫛型の形状であり、従来のようなシングルの形状よりも結合力の面で強くなっていると考えられる。加えて、分散剤Aを併用することによって分散剤の結合力はより強くなり、特に長期間保存した際の分散安定性は従来品よりも向上していると考えられる。
【0016】
また、分散剤Aや分散剤Bは顔料粒子に対して作用するものであるから、インキ中に有彩色顔料又は無彩色顔料を1.0重量%以上含有することが前提となる。顔料がインキ全体の1重量%未満では分散効果が十分に発揮されない。分散剤Aや分散剤Bは特にモノアゾレーキ系/ジスアゾ系に効果がある。また、分散剤Aや分散剤Bは、単独で使用しても併用してもよいが、分散剤Aは単独ではその効果が十分に発揮されないため、分散剤B又は他の分散剤と併用することが好ましい。
また、分散剤Aや分散剤Bの添加量は、顔料の量に対して1〜30重量%が好ましい。1重量%未満では分散効果が十分に発揮されないし、逆に30重量%を超えると水分離などの問題がある。更に、分散剤Aと分散剤Bを併用する場合、顔料の種類によって使用量が異なるが、その重量比は分散剤A:分散剤B=1:2〜1:9であることが好ましい。具体的には、黒では1:2程度、青や緑系では1:4程度、紅や黄系では1:9程度の重量比にすることが好ましい。
【0017】
この他にもインキの保存安定性を阻害しない範囲であれば、イオン性界面活性剤、両親媒性界面活性剤などを分散剤として使用しても構わない。これらの分散剤は単独で、又は2種以上混合して添加すれば良く、高分子及び樹脂以外の分散剤の添加量は着色剤重量の40重量%以下、好ましくは2〜35重量%とすればよい。アルキド樹脂は高分子量の樹脂を添加する時に不溶性着色剤の分散安定性に特に効果があるが、アルキド樹脂を単独で又は他の分散剤と併用して使用する場合の樹脂の添加量は、重量比で、不溶性着色剤1に対して0.05以上であることが好ましい。
【0018】
分散剤のHLBは着色剤の分散効率又は着色剤を添加する相によって適宜選択してよいが、本発明では粒子構造をした多糖類を乳化剤として用いており、乳化時の転相の不具合が防止できることから、着色剤の分散効率を向上させる目的で、例えば着色剤を油相に添加する場合にはHLBが高い分散剤を、逆に着色剤を水相に添加する場合にはHLBが低い分散剤を使用することが好ましい。具体的には、着色剤を油相に添加する場合には、分散剤のHLBが8以上のものが好ましく、10〜13のものがより好ましい。また着色剤を水相に添加する場合には、分散剤のHLBが3以上のものが好ましい。
【0019】
本発明において油相に用いるオイル成分は植物油又はその誘導体であり、公知のものが使用できる。その例としては、大豆油、ナタネ油、コーン油、ゴマ油、トール油、パーム油、綿実油、ひまわり油、サンフラワー油、ウォルナッツオイル、ポピーオイル、リンシードオイルなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの植物油に関してはメチル、ブチル、イソプロピル、プロピル、オクチルアルコールなどによりエステル化した植物油も使用することができる。
また、その他のオイル成分として、各種工業用溶剤、モーター油、ギヤー油、軽油、灯油、スピンドル油、マシン油、流動パラフィンなどの鉱物油などのほか、合成油なども使用できる。オイル成分はインキ保存安定性の向上などの目的により揮発性の異なる油を複数混合して使用するが、揮発性オイルは地球環境に対して悪影響を及ぼす可能性があるのでなるべく使用しない方が好ましい。
【0020】
上記植物油には、乾性油、半乾性油、不乾性油があり、ヨウ素価によって分類される。ヨウ素価は100gの油に吸着されるヨウ素のグラム数で表される。このヨウ素価が大きいほど不飽和結合が多く存在するため固まりやすくなる。
印刷後のインク定着性及び保存安定性を考慮すると、インキ中の植物油又はその誘導体のヨウ素価は、オイルA〜オイルZを用いたとして、下記式を満足することが好ましい。
【数1】

【0021】
一般に酸化による腐敗は連鎖反応である。一旦油脂の1分子が酸化されると順に他の分子を酸化して反応が続く。油脂の酸化反応は次のような簡単な式で示される各段階から成り立っている。
【化3】

【0022】
上記のように、酸化は触媒の影響で不飽和脂質「RH」が水素結合を失って遊離ラジカル「R・」を形成することによって開始される(式1)。この遊離ラジカル「R・」が、酸素分子と反応して過酸化物ラジカル「ROO・」を生成し(式2)、次いで、「ROO・」と「RH」との反応によりヒドロペルオキシド「ROOH」と遊離ラジカル「R・」が生じる(式3)。そして連鎖反応が続き、過酸化物の量が増加して自動酸化の速度は益々速くなってしまう。式4、式5は停止反応である。
【0023】
ヨウ素価が高い乾性油及び半乾性油においては上述のような酸化反応が顕著に起こり、それによって油の乾燥(固化)が進み、ひいては植物油を含有している油性インクも固化してしまう。インクの固化が発生すると吐出不良などの不具合が生じてしまうため、特にヨウ素価が高い(不飽和結合が多く含まれる)植物油を使用する際は、植物油中の脂肪酸(リノレン酸、リノール酸、オレイン酸など)の酸化を防ぐために酸化防止剤を含有することが好ましい。
【0024】
酸化防止剤「AH」(Hは離れやすい水素)が存在すると、遊離ラジカル「R・」や過酸化物ラジカル「ROO・」に対し水素を与えて酸化防止剤自身がラジカル「A・」となり、連鎖反応が中断される(式6、式7)。酸化防止剤のラジカル「A・」は、ラジカル同士が反応して二量体を形成したり(式8)、遊離ラジカル「R・」や過酸化物ラジカル「ROO・」と反応して安定な化合物を生成する(式9、式10)。
6. R・+AH→RH+A・
7. ROO・+AH→ROOH+A・
8. A・+A・→AA
9. A・+R・→RA
10. A・+ROO・→ROOA
【0025】
酸化防止剤を加えることにより上述のような酸化防止機構が生じ、油の乾燥(固化)が抑制され、ひいては前記植物油を含有している油性インクの固化も抑制される。
酸化防止剤としては公知のものが使用でき、ジフェニルフェニレンジアミン、イソプロピルフェニルフェニレンジアミンなどのアミン系化合物、トコフェロール、ジブチルメチルフェノールなどのフェノール系化合物、メルカプトメチルベンゾイミダゾールなどの硫黄系化合物などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。ただし、植物油含有量に対して極めて少量の酸化防止剤を添加した場合には、適切な酸化防止効果は期待できず、逆に植物油含有量に対して多量の酸化防止剤を一度に添加してしまうと酸化促進剤として作用してしまう場合もある。よって、少量の酸化防止剤でも植物油の酸化を抑えるために相乗剤を加えることが好ましい。
【0026】
相乗剤とは、それ自身は酸化防止作用を殆ど持たないが、酸化防止剤と併用するとその作用を増強するものであり、酸性物質で、幾つかの水酸基又はカルボキシル基を持っている多官能性化合物である。相乗剤はその作用機構から2種類に分けることができる。
第一の種類は真の意味の協力作用を示すもので、酸化防止剤Aと相乗剤Bを併用する時に認められる。相乗剤Bは酸化防止剤Aよりはるかに弱い連鎖停止作用しか持たないが、相乗剤Bが酸化防止剤のラジカルA・に水素供与体として働くために(式11)、見掛け上、相乗剤Bが酸化防止剤Aと同様に酸化防止作用を持つように見える。
7. ROO・+AH→ROOH+A・
11. A・+BH→AH+B・
【0027】
第二の種類は自動酸化の触媒としての金属の活性を抑制することによって主酸化防止剤の作用を増強する金属不活性化剤である。クエン酸やポリリン酸は金属不活性化剤であるが、金属が存在しなくてもフェノール系酸化防止剤に対して協力的に働くことが知られている。
【0028】
相乗剤としては、メチオニン、アスコルビン酸、トレオニン、ロイシン、牛乳タンパク質加水分解物、ノルバリン、パルミチン酸アスコルビル、フェニルアラニン、シスチン、トリプトファン、プロリン、アラニン、グルタミン酸、バリン、膵臓タンパクのペプシン消化液、アスパラギン、アルギニン、バルビツール酸、アスフェナミン、ニンヒドリン、プロパニジン、ヒスチジン、ノルロイシン、グリセロリン酸、カゼインのトリプシン加水分解液、カゼインの塩酸加水分解液など公知のものが使用できる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
相乗剤の添加量については、相乗剤の添加量が酸化防止剤の添加量よりも非常に大きい場合、上式7及び式11の反応がかなりの確率で起こり、時間が経過しても植物油中の不飽和結合が酸化されない状態になり、印字後の画像において摩擦に対して色が落ちにくい等のメリットが薄れてしまう可能性がある。ただし、その反面、ヨウ素価が高い植物油に対しては、インクの固化による吐出不良などの問題が解消されるというメリットもある。従って、相乗剤の添加量を酸化防止剤の添加量に対して50〜150重量%の範囲内にすることによって、ヨウ素価が高い植物油も使用することが可能となり、また酸化の程度を調節することにより、印字後の画像において摩擦に対して色が落ちにくい等のメリットを残すことが可能となる。
【0030】
油相には、ロジン、重合ロジン、水素化ロジン、ロジンエステル、ロジンポリエステル樹脂、水素化ロジンエステルなどのロジン系樹脂、ロジン変性アルキド樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、石油樹脂、環化ゴムなどのゴム誘導体樹脂、テルペン樹脂、アルキド樹脂、重合ひまし油などの樹脂を1種又は2種以上混合して添加してもよい。また、樹脂の添加量は、インキのコスト及び印刷適性から2〜50重量%が好ましく、より好ましくは5〜20重量%である。樹脂の重量平均分子量が小さい場合及び添加量が少ない場合には、定着性への効果が小さいこと、また重量平均分子量が大きすぎたり、樹脂の添加量が多い場合には印刷スクリーン目詰まりなどの不具合が生じてしまう。
【0031】
カルボキシル基を含有するアルキド樹脂は、油脂と多塩基酸と多価アルコールから構成される。油脂としては大豆油などの半乾性油及びこれらの脂肪酸が挙げられ、ヤシ油、パーム油、オリーブ油、ひまし油、米糠油、綿実油などのヨウ素価80以下の不乾性油又は半乾性油からなるアルキド樹脂も支障が無い範囲で使用することができる。
多塩基酸としては無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、テトラヒドロフタル酸、フマル酸、イタコン酸、無水シトラコン酸などの不飽和多塩基酸が挙げられる。
多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール、ジグリセリン、トリグリセリン、ペンタエリスリット、ジペンタエリスリット、マンニット、ソルビットなどが挙げられる。
アルキド樹脂の油長は油脂中の脂肪酸がトリグリセライドで存在した時の樹脂中の重量%で示される。
【0032】
カルボキシル基を含有するアルキド樹脂としては、インキの定着性を考慮すると大豆油変性アルキド樹脂などヨウ素価が80以上のものを使用することが好ましい。また支障の無い範囲で油長60〜90、ヨウ素価80以下のものも使用することができる。アルキド樹脂の油長は60〜90、ヨウ素価80前後であることが好ましいが、アルキド樹脂の重量平均分子量は3万未満が好ましく、1万以下であることがより好ましい。具体的には、アラキード5301X−50、アラキード8012、アラキード5350(荒川化学社製)などが好ましい。また、その添加量は、油性インク全体の1〜10重量%が好ましく、2〜5重量%がより好ましい。
カルボキシル基を含有するアルキド樹脂の添加形態は、着色剤である顔料を樹脂で包含した形態でもよいし、着色剤を分散した形態でもよい。
【0033】
ゲル化剤は、インクに含まれる樹脂をゲル化してインクの保存安定性、定着性、流動性を向上させる役割を持ち、本発明ではインク中の樹脂と配位結合する化合物が好ましい。その例としては、Li、Na、K、Al、Ca、Co、Fe、Mn、Mg、Pb、Zn、Zrなどの金属を含む有機酸塩、有機キレート化合物、金属石鹸オリゴマーなどがあり、具体的には、オクチル酸アルミニウムなどのオクチル酸金属塩、ナフテン酸マンガンなどのナフテン酸金属塩、ステアリン酸亜鉛などのステアリン酸塩、アルミニウムジイソプロポキシドモノエチルアセトアセテートなどの有機キレート化合物などが挙げられる。
これらのゲル化剤は単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
その添加量はインク中の樹脂の15重量%以下が好ましく、5〜10重量%がより好ましい。
【0034】
また、インキには滲み防止あるいは粘度調整のために体質顔料を添加してもよい。体質顔料の例としては、白土、シリカ、タルク、クレー、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナホワイト、ケイソウ土、カオリン、マイカ、水酸化アルミニウム、有機ベントナイトなどの無機微粒子及びポリアクリル酸エステル、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリシロキサン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などの有機微粒子又はこれらの共重合体からなる微粒子が挙げられる。
体質顔料の添加量はインキ全体の0.1〜50重量%が好ましく、1〜5重量%がより好ましい。
【0035】
本発明では、水相に電解質により影響を受ける材料が存在しない場合に、エマルジョンの保存安定性を高めるため水相に電解質を添加することが好ましい。その添加量は水相の0.1〜2重量%が好ましく、0.5〜1.5重量%がより好ましい。
電解質としては、クエン酸イオン、酒石酸イオン、硫酸イオン、酢酸イオンなどの陰イオンあるいはアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンなどを含むものが好ましい。例えば、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、燐酸水素ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどが好ましい。これらの電解質は単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
水相には必要に応じて抗菌剤を添加してもよい。その例としては、サリチル酸、フェノール類、p−オキシ安息香酸メチル、p−オキシ安息香酸エチルなどの芳香族ヒドロキシ化合物及びその塩素化合物のほか、ソルビン酸やデヒドロ酢酸、MIT(メチルイソチアゾリン)、BIT(ブチルイソチアゾリン)、OIT(オクチルイソチアゾリン)などのチアゾリン系のものが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。その添加量はインキ中に含有される水の3重量%以下が好ましく、0.1〜1.2重量%がより好ましい。
また、水相には水の蒸発防止剤と凍結防止剤を添加してもよい。これらは兼用可能であり、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノールなどの低級飽和一価アルコール、グリセリンやソルビトールなどの多価アルコールなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。その添加量はインキ中の水の15重量%以下が好ましく、4〜12重量%がより好ましい。
【0037】
また、水相には保湿や粘性のために水溶性高分子化合物を添加してもよい。その例としては、デンプン、マンナン、アルギン酸ソーダ、ガラクタン、トラガントガム、アラビアガム、ブルラン、デキストラン、キサンタンガム、ニカワ、ゼラチン、コラーゲン、カゼインなどの天然高分子化合物、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ピドロキシプロピルメチルセルロース、ピドロキシメチルデンプン、カルボキシメチルデンプン、ジアルデヒドデンプンなどの半合成高分子化合物、アクリル酸樹脂及びポリアクリル酸ナトリウムなどの中和物、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドンとポリアクリル酸のコポリマー、ポリアクリルアミド、ポリN−アルキル置換アクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリビニルメチルエーテルなどの合成高分子化合物などが挙げられる。
これらは単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。その添加量はインキ全体の25重量%以下が好ましく、0.5〜15重量%がより好ましい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明の技術思想を逸脱しない限り、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0039】
実施例1〜16、比較例1〜5
<エマルジョンインキの調製>
本発明のエマルジョンインキは、従来のエマルジョンインキ製造の時と同様にして油相及び水相を調製し、この両者を公知の乳化機内で乳化させて製造することができる。
即ち、表1〜3の実施例及び比較例の各欄に示す着色剤、分散剤、乳化剤を混練して分散体とし、これにオイルを混ぜ合わせて油相を調製した。
一方、着色剤、分散剤、水溶性高分子、凍結防止剤、電解質、抗菌剤及びイオン交換水を混合して水溶液(水相)を調製した。
次いで、上記油相に対し、上記水溶液を除々に添加して乳化させ、孔版印刷用エマルジョンインキを得た。
【0040】
実施例及び比較例で使用した材料の詳細は以下のとおりである。
・カーボンブラック:コロンビヤンカーボン社製Raven1080
・銅フタロシアニン(大日精化社製、SEIKALIGHT BLUE A612)
・アンモニウムフタロシアニンスルホン酸塩:ルーブリゾール社製、Solspers5000(HLB>12.0)
・ポリエステルアミン:ルーブリゾール社製、Solspers43000(HLB>12.0)
・ペンタイソステアリン酸ポリグリセリル:日光ケミカルズ社製、NIKKOL Decaglyn 5−ISV(HLB=3.5)
・ポリグリセリン脂肪酸エステル:日光ケミカルズ社製、NIKKOL Tetraglyn 1−SV(HLB=6.0)
・粒子構造をした多糖類:一般式(1)で表されるもの〔アルカシーラン(商品名、INCIname:Alcaligenes Polysacchaides、伯東社製)〕
・モノオレイン酸ソルビタン:日光ケミカルズ社製、NIKKOL SO−10V
・パラフィン系オイル:日本サン石油社製、SUNTHEN380
・パーム油:伊藤製油社製、PL−65S(ヨウ素価=65)
・大豆油脂肪酸オクチルエステル:カネダ社製#5090(ヨウ素価=86.3)
・大豆油脂肪酸メチルエステル:Vertec Biosolvents社製、Vertecbio Gold #4(ヨウ素価=119.5)
・アシッドブラック1(B.R.Y Chemicals社製、Brysoap ブラック10B)
・ポリビニルピロリドン:BASF社製、Luvitec K30溶液
・グリセリン:花王社製
・硫酸マグネシウム:馬居化成工業社製、硫酸マグネシウム7水塩
・有機窒素系硫黄化合物:日本エンバイロケミカルズ社製、デルトップ512
【0041】
<エマルジョンインキの評価>
上記各エマルジョンインキについて、次のようにして各種特性を評価した。なお、比較例3、4については、乳化時に転相が起こったため、他の特性の評価は省略した。
結果を纏めて表1〜表3に示す。
【0042】
・ランニング濃度変化
東北リコー社製孔版印刷機:Satelio A400により、10mm×10mmのベタ画像を記録媒体の四隅及び中央部の計5ヵ所に配置した画像を120rpmの速度で印刷した。
次いで、1枚目の平均画像濃度及び4000枚目の平均画像濃度を、反射式光学濃度計(マクベス社製:RD914)により測定し、1枚目と4000枚目の平均画像濃度の差をランニング濃度変化とした。なお、この数値が小さいほど優れていることになる。
【0043】
・インキの定着性
東北リコー社製孔版印刷機:Satelio A400により、10mm×10mmのベタ画像を記録媒体の四隅及び中央部の計5ヵ所に配置した画像を120rpmの速度で印刷した。
次いで、中央部のベタ部について、反射式光学濃度計(マクベス社製:RD914)により画像濃度を測定した。
次いで、該中央部のベタ部を、消しゴムを取り付けた安田精機製作所製クロックメーターで10往復擦り、再度反射式光学濃度計で画像濃度を測定した。
そして、擦化前後の画像濃度差を初期の画像濃度で割った値を定着率として算出した。なお、この数値が大きいほど優れていることになる。
【0044】
・機上放置性
東北リコー社製孔版印刷機:Satelio A400により全面に10ポイントサイズのアルファベットを散りばめた画像を印刷し、該孔版印刷機を、そのままの状態で1ヶ月間室温で放置した。
次いで、放置後の孔版印刷機を用いて、写真モードで全面ベタ画像を印刷した時の画像のカスレのレベルを目視により評価した。評価基準は以下のとおりである。
〔評価基準〕
○:画像カスレはほとんど見られない。
△:やや画像カスレが見られる。
×:顕著な画像カスレが見られる。

【0045】
・高温保存安定性
各エマルジョンインキを、60℃の条件下で45日間放置し、放置後のインキの状態を目視により評価した。評価基準は以下のとおりである。
〔評価基準〕
○:外観は全く問題無し。
△:やや油/水が分離している。
×:油/水が分離している。

【0046】
・乳化時の転相の有無
乳化時の転相の有無を目視により評価した。
【0047】
【表1】

【表2】

【表3】

【0048】
実施例1〜7と比較例3、4を対比すると、モノオレイン酸ソルビタンに代えて、粒子構造の多糖類を用いることにより、乳化時の転相を防止できることが分かる。
実施例1〜7、10〜12、中でも実施例2、3、11、12を対比すると、請求項5に記載の分散剤の添加量が着色剤に対して1重量%未満では、ランニング濃度変化が大きくなったり、定着率が低下したりするし、30重量%を超えると、高温保存安定性が低下することが分かる。
請求項5に記載の分散剤を用いた実施例と、実施例8、9を対比すると、前者の方がランニング濃度変化や定着率の点で優れていることが分かる。
実施例1と実施例13を対比すると、着色剤と分散剤は水相よりも油相に添加した方が好ましいことが分かる。
一方、実施例13と実施例14を対比すると、水相に着色剤を添加する場合には、分散剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルを用いた方が好ましいことが分かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0049】
【特許文献1】特開2010−104946号公報
【特許文献2】国際公開2006−028012号公報
【特許文献3】特開2009−234951号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油相と水相からなり、該油相又は水相に着色剤とその分散剤を含有し、前記油相に乳化剤として下記一般式(1)で表される粒子構造をした多糖類を含有することを特徴とするエマルジョンインキ。
【化4】

【請求項2】
粒子構造をした多糖類の添加量がエマルジョンインキ全体の0.1〜5.0重量%であることを特徴とする請求項1に記載のエマルジョンインキ。
【請求項3】
着色剤が顔料であり、分散剤がアンモニウムフタロシアニンスルホン酸塩とポリエステルアミンを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のエマルジョンインキ。
【請求項4】
分散剤の添加量が着色剤に対して1〜30重量%であることを特徴とする請求項3に記載のエマルジョンインキ。
【請求項5】
油相中に含有されるオイル成分が植物油又はその誘導体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のエマルジョンインキ。

【公開番号】特開2013−28770(P2013−28770A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167520(P2011−167520)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】