説明

エマルジョン型粘着剤および粘着シート

【課題】 再剥離性を低下させることなく、ポリオレフィン系被着体、曲率半径の小さい曲面、エンボス加工面等の難接着面に対する耐剥がれ性を付与したエマルジョン型粘着剤及び粘着シートを提供する。
【解決手段】 アクリル系共重合体と、粘着付与樹脂とを含有し、前記粘着付与樹脂として、軟化点155〜175℃のロジン系粘着付与樹脂、および軟化点95〜130℃のロジン系粘着付与樹脂を含有することを特徴とするエマルジョン型粘着剤、および前記粘着剤から構成される粘着シートにより、良好な再剥離性と優れた耐剥がれ性を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は再剥離性と、優れた耐剥がれ性を有する粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
商品やサービスの広告宣伝を行うことを目的として、化粧品、トイレタリー用品、飲料及び食品等の包装容器、自動販売機及び自動改札機等の公共の場に設置されている設備、又は電車及びバス等の公共の場で利用される車両などには、文字や画像が印刷された粘着シートが貼着されている。これらの粘着シートには、一定期間貼着した後、被着体に粘着剤が残留したり、基材シートが切断されることなく綺麗に剥がせる再剥離性が求められる。しかし、再剥離性を発現させるためには一般に粘着力を弱く設計する必要があり、凹凸のある被着体又は湾曲面などに貼着した場合には、経時で剥がれが生じるという問題があった。
【0003】
一方、商品の品名表示、又はユーザーやサービスマンなどのための取扱説明文や部品交換手順を示すことを目的として、複写機、プリンタ、ファクシミリ、パソコン、テレビ、エアコン、冷蔵庫及び洗濯機などの各種電気製品、又は自動車、バイク及び建築材料などを構成する各種内外装部品などには、粘着シートが貼着されている。これらの粘着シートは、長期間貼着されて使用されるため、被着体に貼着されている間、粘着シートと被着体との間に浮きの発生や剥がれの発生(以下、浮き剥がれという場合がある。)がないことが特に要求されており、粘着力を強くするなど、粘着シートを剥がれ難くする対策が一般に施されている。
【0004】
ところが、近年、自然環境に対する配慮から、使用済みの製品、又はそれを構成する部品の一部もしくは全部を、リサイクルすることが強く望まれている。例えば、各種電気製品などの部品を熱可塑性樹脂により構成し、リサイクルすることなどが行われている。具体的には、使用し終えた部品をシュレッダによってペレット状に破砕し、これを加熱溶融して再び何らかの部品として成形し、かかる再生成形品を再度使用するのである。部品を粉砕するにあたり、部品に粘着シートが貼着され、それが貼着されている部品と相溶性が無い場合、加熱溶融で溶け合わない不純物により再生された部品の強度が低下しないようにするためには、粘着シートを取り除かなくてはならない必要がある。そこで、従来は粘着シートをドライヤーで熱して剥がしたり、グラインダによって削り取ったりし、しかる後、その部品をペレット状に破砕し、これを溶融して再生成形品を得ていた。ところが、部品から粘着シートを剥がす作業は、手間と時間のかかる大変面倒な作業であり、これにより、部品の再生コストが上昇する欠点を免れなかった。そのため、粘着シートを剥がす際には、被着体に粘着剤が残留したり、基材シートが切断されることなく容易に再剥離できることが要求されている。
【0005】
しかし、再剥離性のみを重視すると、各種電気製品などでみられるエンボス加工が施された凹凸のある表面に貼着した場合や、湾曲した被着体に貼着した場合に、粘着シートに浮き剥がれが発生するという問題があった。また、各種電気製品を構成する熱可塑性樹脂から発生するアウトガスにより、一旦貼着された粘着シートと熱可塑性樹脂との間に気泡溜まりが生じるという問題があった。
【0006】
そのような問題を解決するための技術として、特許文献1には(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー成分74.999〜99.9質量%、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー成分と共重合可能なカルボキシル基含有モノマー0〜0.001質量%、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー成分と共重合可能な水酸基含有モノマー0.1〜5質量%及び他の共重合可能なモノマー0〜20質量%を含有するモノマー成分をラジカル共重合して得られるアクリル系共重合体100重量部に対し、イソシアネート系架橋剤0.1〜5重量部が含有されて成るアクリル系粘着剤組成物であって、該粘着剤組成物の乾燥皮膜の動的粘弾性スペクトル測定における120℃での貯蔵弾性率が2×105 〜7×105 dyn/cm2 及び損失正接(tanδ)が0.05〜0.4であり、且つ、0℃での貯蔵弾性率が1×105 〜4×106 dyn/cm2 であることを特徴とするアクリル系粘着剤組成物が記載されている。
【0007】
しかし、上記特許文献1で開示されている粘着加工製品では再剥離性には優れてはいるが、複写機、プリンタ、ファクシミリ又はこれら複合機などの画像形成装置や、各種電気製品などの電子機器のエンボス加工が施された凹凸のある表面に対しては粘着力が不十分であり、貼着後長期間経過すると剥がれるという問題点がある。
【0008】
また、ポリメチルメタクリレート板に対する180度引き剥がし粘着力が、0.2N/25mm〜5.0N/25mmであり、定荷重剥離測定法における30分後の剥離長さが50mm以下であり、且つ、粘着フィルムをポリメチルメタクリレート板に貼り、常温で1時間放置後、引き剥がし速度1m/分、引き剥がし角度180度にて引き剥がした時の粘着力をP1とし、60℃で24時間放置後、引き剥がし速度1m/分、引き剥がし角度180度にて引き剥がした時の粘着力をP2とした時のP1とP2の比(P1/P2)が1.4〜0.7であることを特徴とする再剥離用粘着フィルムが知られている(特許文献2参照)。当該技術は、優れた接着性を有し、浮き剥がれ等が発生することがなく、また、剥がす際に被着体を粘着剤で汚染することがない再剥離性に優れた再剥離用粘着フィルムに関するものである。
【0009】
更に、ポリスチレン系フィルム基材と粘着剤層と剥離シートとを積層させた粘着フィルムにおいて、ポリスチレン系被着体に対する経時接着力が剥離速度5mm/分で2.0〜4.0N/25mm、かつ剥離速度300mm/分で8.0〜12.0N/25mmであることを特徴とする再剥離性粘着フィルム(特許文献3参照)、及びカルボニル基とカルボキシル基とを含有する、酸価が3〜30の重合体からなる平均粒子径が300nm以下の重合体粒子[X]と、分子中に少なくとも2個のヒドラジノ基を有するヒドラジン誘導体[Y]とを含有してなる水性粘着剤組成物であって、該再剥離型水性粘着剤組成物から形成される皮膜が、ガラス転移温度が−25℃以下、ゲル分率が80質量%以上、且つ水抽出物量が2質量%以下であることを特徴とする再剥離型水性粘着剤組成物(特許文献4参照)が知られている。これらの技術は、粘着性に優れ、且つ被着体への貼り付け後長時間放置された後でも被着体表面から容易に剥離できる技術に関するものであり、特に、後者はエマルジョン型粘着剤を用いた技術に関するものである。
【0010】
しかしながら、上記特許文献2〜4にはエンボス加工等の表面に凹凸が施された粗面に貼着した場合の問題については何ら記載されておらず、実際にエンボス加工面等の粗面に貼着して長期間経過すると粘着フィルムが剥がれ易かった。
【0011】
また、特許文献5には複写機、プリンタなどの画像形成装置や、各種電子機器の部品から粘着シートを容易に取り除く方法として、粘着シートを貼着する領域に溝と溝に交差したくぼみを形成し、リサイクル時には分解に用いる工具などで溝に沿って粘着シートを切り裂き、くぼみをきっかけとして粘着シートを剥離する方法が知られている。
【0012】
しかし、上記特許文献5に開示されている方法では、貼着する部品にくぼみを形成する加工を施さなければならず、また、粘着シートを切り裂き剥離するため、粘着力が強い粘着シートを使用すると剥離の途中で基材が破断したり、粘着剤が被着体に残留する恐れがあり、剥離作業の効率が悪くなる場合がある。
また、特許文献6には、平滑面又は粗面のいずれであっても良好な粘着力を有し、且つ被着体から円滑に再剥離できる再剥離用粘着シートが知られている。しかし、ポリオレフィン系被着体等の難接着面や、曲率半径の小さい曲面に対する耐剥がれ離性に関しては、改善の余地が残されていた。
【0013】
【特許文献1】特開平11−158453
【特許文献2】特開2004−315775
【特許文献3】特開2003−183604
【特許文献4】特開2004−277711
【特許文献5】特開2003−308020
【特許文献6】特開2006−265537
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、再剥離性を低下させることなく、ポリオレフィン系被着体、曲率半径の小さい曲面、エンボス加工面等の難接着面に対する耐剥がれ性を付与したエマルジョン型粘着剤及び粘着シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、アクリル系共重合体に対し、特定のロジン系粘着付与樹脂を組み合わることにより、再剥離性を低下させることなく、優れた耐剥がれ性を付与できることを見出した。
【0016】
即ち、本発明は、アクリル系共重合体と、粘着付与樹脂とを含有し、前記粘着付与樹脂として、軟化点155〜175℃のロジン系粘着付与樹脂、および軟化点95〜130℃のロジン系粘着付与樹脂を含有することを特徴とするエマルジョン型粘着剤、および前記粘着剤から構成される粘着シートを提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の粘着剤からなる粘着シートは、被着体の平滑面のみではなく、凹凸を有する粗面に対しても、或いは湾曲面に対しても優れた接着性を有すると共に、一旦粘着シートの貼りつけを完了すると、粘着シートの浮き剥がれ等が長期間発生することがなく、また、粘着シートを剥がす際には被着体を粘着剤で汚染したり、基材シートが破れたりすることがない。したがって、商品やサービスの広告宣伝を行うことを目的として、化粧品、トイレタリー用品、飲料及び食品等の包装容器、自動販売機及び自動改札等の公共の場に設置されている設備、又は電車及びバス等の公共の場で利用される車両など、或いはユーザーやサービスマンなどのための取扱説明文や部品交換手順を示す文字及び図面などの各種の画像情報を表示するために、複写機、プリンタ、ファクシミリ、パソコン、テレビ、エアコン、冷蔵庫及び洗濯機などの各種電気製品、又は自動車、バイク及び建築材料などを構成する各種内外装部品などに貼着し、一定の期間貼着した後に剥がすことを前提とした用途に適している。
【0018】
特に、本発明の粘着シートは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、変性ポリフェニレンエーテル、ABS、ポリカーボネート及びそれらの複合材料を主成分とした熱可塑性樹脂により構成されている平滑な表面及び粗面、又は湾曲面に対しても優れた接着性を有すると共に、優れた剥離性を有するので、本発明の粘着シートを貼った電気製品等をリサイクルする場合において、粘着シートを剥がす際に被着体を粘着剤で汚染したり、基材シートが切断されることがなく、また、剥離作業も容易であるので、リサイクルを目的とした電気製品等の部材に貼着する粘着シートとして優れている。
【0019】
更には、本発明の粘着シートは、熱可塑性樹脂からアウトガスが発生しても、粘着シートと熱可塑性樹脂との間に気泡溜まりを発生させることを防ぐことができる。
【0020】
更には、本発明の粘着シートは、ポリオレフィン系被着体や、アクリル系樹脂を主成分とする表面層を有する平滑な表面及び粗面又は湾曲面に対して優れた接着性及び再剥離性を示すので、化粧品やトイレタリー用品等の包装容器として使用されるチューブや、自動販売機の湾曲面に貼着する再剥離用粘着シートとしても優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(エマルジョン型粘着剤の基本構成)
本発明のエマルジョン型粘着剤は、アクリル系共重合体と、粘着付与樹脂とを含有し、前記粘着付与樹脂として、軟化点が155〜175℃のロジン系粘着付与樹脂(a)、および軟化点が95〜135℃のロジン系粘着付与樹脂を含有する粘着剤組成物であり、これらアクリル系共重合体及び粘着付与樹脂は、水または水を主体とする水系媒体中でエマルジョン化された状態で分散している。
【0022】
(アクリル系共重合体)
本発明に使用するアクリル系共重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とするアクリル単量体を乳化重合することにより得られるエマルジョン型アクリル共重合体を使用でき、再剥離型粘着剤と称されるアクリル系共重合体であれば特に限定されないが、後述する特定の動的粘弾性特性を有することが好ましい。
【0023】
(アクリル系共重合体の動的粘弾性特性の規定方法)
本発明に使用するアクリル系共重合体の動的粘弾性特性は、特定周波数、及び特定温度における、動的粘弾性スペクトルの損失正接、又は損失正接及び貯蔵弾性率により規定し、さらに、特定周波数における動的粘弾性スペクトルの損失正接のピークを示す温度、または損失正接のピーク値により規定する。動的粘弾性の測定においては、粘弾性試験機(レオメトリックス社製、商品名:アレス2KSTD)を用いて、同試験機の測定部である平行円盤の間に試験片を挟み込み、周波数1Hzで−50℃から150℃までの貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G”)を測定する。試験片は厚み0.5〜2.5mmの粘着剤を単独で平行円盤の間に挟んでも良いが、基材と粘着剤の積層体を幾重にも重ねて平行円盤の間に挟んでも良い。なお、後者の場合は粘着剤のみの厚さが前記の範囲となるように調整する。粘着剤としての厚さを上記の範囲に調整すると、中間に基材が挟まっていても粘着剤の動的粘弾性スペクトルに影響はないことを本発明者等は確認している。
【0024】
(アクリル系共重合体の損失正接)
本発明に使用するアクリル系共重合体は、周波数1Hzでの−50℃〜150℃の範囲における損失正接が、−20℃以下の低温域で上に凸状のピークを有し、低温域から中温域にかけて減少し、10〜40℃の中温域で下に凸のピークを有し中温域から高温域にかけて上昇し、70℃で特定の範囲内の値をとる。
【0025】
損失正接を上記各範囲とすることで、粘着剤に適度な流動性が付与される。具体的には、被着体表面の微小な凹凸にも浸透できる流動性を発現しながら、過度に流動することがないため接着力の過度な上昇を抑制することができる。さらに、粘着剤が適度に流動する性質により、粘着剤にかかる応力を和らげることができる。その結果、被着体に貼着された粘着シートを、経時あるいは高温環境下に曝された後に再剥離する作業において、剥がそうとする基材が破れ易くなったり、被着体に粘着剤が残リ易くなることはない。また、被着体に貼付された粘着シートを、経時あるいは高温環境下に曝した際であっても、粘着シートの浮き剥がれが発生し難い。さらに、粘着シートを熱可塑性樹脂に貼着した場合において、熱可塑性樹脂からアウトガスが発生しても、粘着シートと熱可塑性樹脂との間に気泡溜まりが発生し難くなる。
【0026】
(アクリル系共重合体の高温域における損失正接)
本発明に使用するアクリル系共重合体の50〜120℃の高温域中の損失正接は、周波数1Hzにおいて、70℃で0.38〜0.57である。70℃での損失正接は0.43〜0.55であることが好ましく、0.46〜0.54であることがより好ましい。また、50℃での損失正接は、0.38〜0.53であることが好ましく、0.40〜0.51であることがより好ましい。また、100℃での損失正接は、0.40〜0.65であることが好ましく、0.44〜0.65であることがより好ましく、0.50〜0.60であることが特に好ましい。更に、120℃での損失正接は、0.40〜0.66であることが好ましく、0.45〜0.66であることがより好ましい。中でも、0.51〜0.62であることが特に好ましい。
【0027】
(アクリル系共重合体の中温域における損失正接)
本発明に使用するアクリル系共重合体の損失正接は、周波数1Hzにおいて、10℃〜60℃の間に下に凸のピークを有する。さらに、そのピーク値は0.35〜0.51であることが好ましく、0.4〜0.51であることがより好ましい。
【0028】
(アクリル系共重合体の損失正接曲線の凸ピークを示す温度)
本発明に使用するアクリル系共重合体は、その損失正接曲線の凸ピークを示す温度が、周波数1Hzにおいて、−20℃以下であることが好ましく、−25℃以下であることがより好ましく、−30℃以下であることが特に好ましい。この範囲内であれば、貼着時に粘着剤層がエンボス面などの凹凸面に十分に流動し易く、その結果、被着体との接着力が十分となり、経時により浮き剥がれが発生し難い。また、再剥離する際に、断続的な抵抗感が出たり、ビリビリといった剥離音が発生し難く、スムーズな剥離作業を行うことができる。
【0029】
(アクリル系共重合体の低温域における損失正接の凸ピーク値)
本発明に使用するアクリル系共重合体は、その損失正接のピーク値が1.3〜1.0以下であることが好ましい。
【0030】
(アクリル系共重合体の貯蔵弾性率)
本発明に使用するアクリル系共重合体は、その貯蔵弾性率が、周波数1Hzにおいて、70℃で6.0×10〜2.1×10(Pa)であることが好ましい。また、50℃での貯蔵弾性率は、7.0×10〜2.4×10(Pa)であることが好ましい。また、100℃での貯蔵弾性率は、3.0×10〜1.6×10(Pa)であることが好ましい。また、120℃での貯蔵弾性率は、2.0×10〜1.4×10(Pa)であることが好ましい。更に、−40℃での貯蔵弾性率は、5.0×10〜5.0×10(Pa)であることが好ましい。
【0031】
(アクリル系共重合体の初期粘着力)
本発明に使用するアクリル系共重合体は、ユポSGS80(ユポ・コーポレーション社製)を基材シートとし、前記基材シートにアクリル共重合体を20μm積層させた粘着シートの初期粘着力Faは、3.0〜9.0(N/25mm)であることが好ましい。また、初期粘着力Faは、3.0〜8.0(N/25mm)であることがより好ましく、中でも3.0〜7.0(N/25mm)であることがさらに好ましい。なお、初期粘着力Faは、JIS B 06012001で定義される輪郭曲線の算術平均高さRa(3)が0〜0.1μmのポリスチレン板に対する90度引きはがし粘着力で定義される値であり、該90度引きはがし粘着力は、JIS Z 0237に準拠して、圧着速さ5mm/s、圧着回数1往復で試験片を貼った試験板を温度23±2℃、相対湿度50±5%の雰囲気中に24時間放置した後、引張り速さ50mm/minの条件下で測定される値である。
【0032】
初期粘着力Faが上記範囲であると、粘着シートを貼着している期間において剥がれが発生し難く、また、剥離する際に被着体に粘着剤が残ったり、基材シートが破壊してしまい被着体からの剥離が困難となり難い。
【0033】
また、本発明に使用する粘着剤は、上記粘着シートを形成した際に、前記Ra(3)が6.8〜7.2μmのポリスチレン板に対する粘着シートの初期粘着力をFb(N/25mm)としたとき、
前記Faと前記Fbの関係が、式(1)
0.30≦Fb/Fa≦1.00 (1)
を満足することが好ましい。初期粘着力Fbは、前記Ra(3)が6.8〜7.2μmのポリスチレン板に対する90度引きはがし粘着力で定義される値であり、90度引きはがし粘着力は、JIS Z 0237に準拠して、圧着速さ5mm/s、圧着回数1往復で試験片を貼った試験板を温度23±2℃、相対湿度50±5%の雰囲気中に24時間放置した後、引張り速さ50mm/minの条件下で測定される値である。なお、Fb/Faの値は下記式(2)を満足するのがより好ましく、下記式(3)を満足するのがさらに好ましい。前記Faと前記Fbの関係がこの範囲にあることは、粘着シートが被着体の平滑面のみではなく、凹凸を有する粗面に対しても優れた接着性を有することを意味している。Fb/Faの値がこの範囲であると凹凸面を有する粗面に対する良好な粘着力が得られ、浮き剥れが発生し難い。
0.40≦Fb/Fa≦1.0 (2)
0.50≦Fb/Fa≦1.0 (3)
【0034】
本発明に使用するアクリル系共重合体としては、単量体成分として炭素数1〜14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルを含有するアクリル系共重合体が好ましい。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート等であり、単独或いは2種以上を併用して用いることができる。中でも、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、又はそれらを併用した単量体を主成分とすることが好ましく、その使用量は粘着剤組成中の50〜99質量%であることが好ましく、95〜99%質量%であることがより好ましい。更に、n−ブチルアクリレートと2−エチルヘキシルアクリレートとを併用する場合には、(n−ブチルアクリレート/2−エチルヘキシルアクリレート)で表される質量比が、70/30〜0/100であることが好ましく、45/55〜5/95であることがより好ましく、35/65〜15/85であることが一層好ましい。主モノマーとして、上記の種類、使用量とすることにより、上記動的粘弾性スペクトルにおける低温領域の損失正接の上に凸のピーク値を目的の範囲に制御し易いことを発明者らは見出している。
【0035】
さらに、側鎖に水酸基、カルボキシル基、アミノ基などの官能基を有するビニル系単量体を、0.01〜15質量%の範囲で添加するのが好ましい。例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、無水マレイン酸カルボキシプロピルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、アクリロニトリル、N−ビニルカプロラクタム、アクリルアミド、スチレン、酢酸ビニル、N―メチロールアクリルアマイド、グリシジルメタクリレート等であり、これらを単独或いは2種以上を併用して使用することができる。中でも、カルボキシル基を含有したビニル系単量体を使用することが好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、又はそれを併用した単量体を使用することがより好ましく、更に、その使用量は0.5〜4.0質量%であることが好ましい。特に、再剥離性と湾曲面に対する接着性を向上させるために、アクリル酸とメタクリル酸を併用して使用することが好ましい。特に、アクリル酸とメタクリル酸の総量を粘着剤組成中の1.5〜2.5質量%となる量を使用し、アクリル酸に対するメタクリル酸の割合を質量比で0.5〜2.0とすることが好ましく、1.0〜1.5とすることがより好ましい。カルボキシル基含有モノマーとして、上記の種類、使用量とすることにより、上記動的粘弾性スペクトルにおける損失正接値を目的の範囲に制御し易くなり、さらに再剥離性が向上することを発明者らは見出している。
【0036】
さらに粘着剤の凝集力を上げ、粘着力又は再剥離性を向上させるために、架橋剤を添加することが好ましい。架橋剤としては、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、キレート系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤等が挙げられる。中でも、オキサゾリン系架橋剤が好ましい。さらに、オキサゾリン基と反応する単量体として、アクリル酸およびメタクリル酸を使用し、カルボキシル基に対するオキサゾリン基の官能基数比が0.05〜0.25となることが好ましい。
【0037】
また、粘着剤には、例えば、光安定化剤、紫外線吸収剤、可塑剤、軟化剤、充填剤、顔料、難燃剤等の公知慣用の添加剤を添加することができる。光安定化剤としては、連鎖禁止剤、ハイドロパーオキサイド分解剤、金属不活性剤および紫外線吸収剤等が挙げられる。このような添加剤を使用することにより、上記の耐黄変性を向上させることができる。
【0038】
エマルジョン型の粘着剤を得るための乳化重合に際し、重合安定性を確保するため、アニオン系やノニオン系の乳化剤が適量用いられる。特に乳化剤は限定されず、公知の乳化剤を用いることができる。アニオン系乳化剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等が挙げられ、ノニオン系乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等が挙げられる。以上の乳化剤を単独或いは複数併用して使用することができる。また、アニオン系及びノニオン系のいずれかにおいても、例えばプロペニル基等を導入したラジカル重合性の乳化剤を用いてもよい。
【0039】
エマルジョン型の粘着剤を得るための乳化重合に際し、重合開始剤が用いられる。特に重合開始剤は限定されず、公知の重合開始剤を用いることができる。具体的に2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、4,4‘−アゾビス(4−シアノ)吉草酸、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド等のアゾ系、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素等の過酸化物、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとの組み合わせや過酸化物とアスコルビン酸ナトリウムとの組み合わせ等からなるレドックス開始剤が用いられる。これらの開始剤は、通常は乳化重合の各段階に所定量を添加して、重合反応を行わせようにすればよい。
中でも、炭素ラジカルを生成する開始剤を使用することが望ましく、アゾ系の開始剤を使用することが好ましい。炭素ラジカルは脱水素力が乏しく、ポリマーのグラフト化が進行し難くなり、直鎖状のポリマーが得られ易くなる。その結果、上記動的粘弾性スペクトルにおける高温領域の損失正接、中温領域における損失正接の下に凸のピーク値を目的の範囲に制御し易いことを発明者らは見出している。
【0040】
エマルジョン型の粘着剤を得るための乳化重合に際し、還元剤が用いられる。還元剤として、アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖、ホルムアルデヒドスルホキシラート金属塩等の還元性有機化合物、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等の還元性無機化合物が挙げられる。
【0041】
エマルジョン型の粘着剤を得るための乳化重合に際し、重合度を調整するために連鎖移動剤を使用することができる。このような連鎖移動剤として、ラウリルメルカプタン、ブチルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、トリクロロブロモメタン等を上げることができ、これらの群れより選ばれた少なくとも1種以上使用することができる。中でも、単量体成分としてアクリル系の単量体を使用する場合には、アクリル系の単量体100質量部に対し、ラウリルメルカプタンを0.01〜0.2質量部、より好ましくは0.01〜0.04質量部、さらに好ましくは0.015〜0.025質量部配合することが好ましい。
【0042】
エマルジョン型の粘着剤を得るための乳化重合に際し、乳化重合後、通常、アンモニア等の中和剤を用いて中和処理し、所定のpHに調整することにより、安定なエマルジョン型の粘着剤が得られる。中でも、pH8.5〜9.5の範囲であることが好ましい。
【0043】
(ロジン系粘着付与樹脂)
本発明においては粘着付与樹脂として、軟化点が155〜175℃のロジン系粘着付与樹脂(a)と、軟化点が95〜130℃のロジン系粘着付与樹脂(b)とを併用することで、再剥離性と耐剥がれ性とを好適に調整できる。これらロジン系粘着付与樹脂としてはエマルジョン型のロジン系粘着付与樹脂を好適に使用でき、ロジン類として、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等の天然ロジン、また、前記ロジンを用いて不均化もしくは水素添加処理した安定化ロジンや重合ロジン、また、マレイン酸、フマル酸、(メタ)アクリル酸等で変性した不飽和変性ロジン等が挙げられ、これらを1種単独、または2種以上を組み合わせて使用することができる。あるいは、ロジン誘導体として、前記ロジン類のエステル化物、フェノール変性物およびそのエステル化物等が挙げられる。ロジン類のエステル化物とは、前記ロジン類と多価アルコールとをエステル化反応させて得られたものをいい、多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の3価アルコール、ペンタエリスリトール、ジグリセリン等の4価アルコール、ジペンタエリスリトール等の6価アルコール等が挙げられ、これらを1種単独、または2種以上を組み合わせて使用することができる。また、ロジン類のフェノール変性物およびそのエステル化物とは、前記ロジン類にフェノール類を付加させたもの、前記ロジン類にフェノールを付加させ次いでエステル化したもの、および、レゾール型フェノール樹脂とロジン類を反応させて得られるロジン変性フェノール樹脂やそのエステル化物等をいう。
【0044】
本発明においては、これらのロジン類、またはロジン誘導体から、軟化点が155〜175℃のロジン系粘着付与樹脂(a)、および軟化点が95〜130℃のロジン系粘着付与樹脂(b)を組み合わせて使用するが、これらロジン系粘着付与樹脂として重合ロジンエステルを使用することが好ましい。
【0045】
(粘着付与樹脂の乳化)
本発明の粘着剤に使用する粘着付与樹脂は、公知の方法により乳化し使用する。中でも、高圧乳化法により乳化し使用することが好ましい。
【0046】
軟化点が155〜175℃のロジン系粘着付与樹脂としては、例えば、スーパーエステルE−650(荒川化学工業社製)、スーパーエステルE−786−60(荒川化学工業社製)、スーパーエステルE−865(荒川化学工業社製)、スーパーエステルE−865−NT(荒川化学工業社製)、SK−822E(ハリマ化成社製)等が挙げられる。
【0047】
また、軟化点が95〜130℃のロジン系粘着付与樹脂としては、スーパーエステルE−720(荒川化学工業社製)、スーパーエステルNS−100A(荒川化学工業社製)、スーパーエステルNS−100H(荒川化学工業社製)、SK−370N(ハリマ化成社製)、SK−218NS(ハリマ化成社製)、SK−218MT(ハリマ化成社製)、スーパーエステルNS−120B(荒川化学工業社製)、スーパーエステルE−730−55(荒川化学工業社製)、スーパーエステルE−625−NT(荒川化学工業社製)、スーパーエステルNS−125A(荒川化学工業社製)、SK−508(ハリマ化成社製)、SK−508H(ハリマ化成社製)等が挙げられる。
【0048】
(ロジン系粘着付与樹脂の配合量)
前記軟化点が155〜175℃のロジン系粘着付与樹脂(a)および軟化点が95〜130℃のロジン系粘着付与樹脂(b)の含有量としては、ロジン系粘着付与樹脂(a)およびロジン系粘着付与樹脂(b)の和がは、前記アクリル共重合体100質量部に対して10〜40質量部であることが好ましく、10〜30質量部であることがより好ましく、15〜30質量部であることがさらに好ましく、20〜30質量部であることが一層好ましい。さらに、(a)と(b)との質量比(a)/(b)が2/1〜1/2であることが好ましい。
【0049】
(石油樹脂系粘着付与樹脂の配合)
本発明のエマルジョン型粘着剤に、石油樹脂系粘着付与樹脂を配合することにより、再剥離性を一層向上させることができる。石油樹脂系粘着付与樹脂としては、ペンテン、ペンタジエン、イソプレン等から得られるC5系石油樹脂、インデン、メチルインデン、ビニルトルエン、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン等から得られるC9系石油樹脂、前記各種モノマーから得られるC5−C9共重合系石油樹脂、ピュアモノマー樹脂、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンから得られるDCPD系石油樹脂、これら石油樹脂の水素化物等が挙げられる。中でも、軟化点が95〜130℃の石油樹脂系粘着付与樹脂を使用することが好ましい。さらに、配合量としては、アクリル共重合体100質量部に対して3〜20質量部であることが好ましく、5〜15質量部であることがより好ましい。
【0050】
軟化点が95〜130℃の石油樹脂系粘着付与樹脂としては、クイントンTW−301E(日本ゼオン社製)、クイントンLW−302E(日本ゼオン社製)等が挙げられる。
【0051】
(粘着シートの構成)
本発明の粘着シートは、上記エマルジョン型粘着剤からなる粘着剤層を有する。当該粘着剤層は、上記エマルジョン型粘着剤から溶媒を除去して得られ、前記アクリル系共重合体中に前記粘着付与樹脂を含有する粘着剤層である。
【0052】
本発明の粘着シートは、基材の一面又は両面に粘着剤層を設けた片面粘着シートまたは両面粘着シートの形で形成され、必要に応じて粘着剤層上に剥離シートを設ける。いずれの場合においても、基材に積層する粘着剤は、基材シートの少なくとも一方の面の全面に積層しても良いし、一部でも良い。
【0053】
基材としては樹脂フィルム等からなる基材シート単独からなる機材であっても、基材シートに他の層が積層された基材であってもよい。また、片面粘着シートの場合は、粘着剤層と反対側の基材シートの表面に印刷を行っても良い。さらに、その印刷面を保護したり、意匠性や美観性を高めることを目的に、粘着剤層や接着剤層を介して、透明フィルムやマット調の半透明フィルムを印刷面に積層しても良い。
【0054】
(基材シート)
本発明の粘着シートに使用する基材シートとしては、特に限定されるべきものではないが、例えば、プラスチック系フィルム、セルロース系フィルム、不織布、紙、布、又は金属箔等が挙げられる。
【0055】
プラスチック系フィルムとしては、ポリオレフィン(例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート)、ポリスチレン、ABS、ポリカーボネート、ポリイミドフィルム、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリビニルアルコール等が挙げられ、セルロース系フィルムとしては、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート等が挙げられる。また、不織布としては、パルプ、レーヨン、マニラ麻、アクリロニトリル、ナイロン、ポリエステル等が挙げられ、紙としては、上質紙、樹脂コート紙等が挙げられる。特に、片面粘着シートの場合は、再剥離時に基材シートの切断を防止するために、基材シートとしてプラスチック系フィルムを使用することが好ましい。また、上記材料に関し、単独成分を主成分としても良いし、それらの複合材料を使用しても良い。さらに、基材シートを改質する目的で、他の成分を少量添加しても良い。例えば、ポリスチレンを基材シートに使用する場合、主成分のポリスチレンにポリブタジエンを少量配合し、柔軟性を向上させたハイインパクトポリスチレン(HIPS)を用いることが好ましい。
【0056】
また、粘着シートをリサイクル部材のラベルなどに使用する場合においては、粘着シートに使用する基材の主成分を被着対象であるリサイクル部材の主成分と同一のリサイクル処理が可能な素材、特に被着対象のリサイクル部材と同一の素材とすることも好ましい。例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、ABS、ポリカーボネート及びそれらの複合材料を主成分とする熱可塑性樹脂より形成された部材を備えた電気製品の該部材に貼着する用途に適用する場合、該部材の主成分と同質のポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、ABS、ポリカーボネートを基材シートの主成分とすることで、該部材との相溶性が向上するため、必要に応じて、再剥離せずに粘着シートを貼着したまま該部材ごとマテリアルリサイクルすることも可能となり、リサイクル適性をさらに向上することができる。
【0057】
例えば、該部材の主成分がポリプロピレンの場合は基材シートの主成分としてポリプロピレンを、該部材の主成分がポリエチレンの場合は基材シートの主成分としてポリエチレンを、該部材の主成分がポリスチレンの場合は基材シートの主成分としてポリスチレンを、該部材の主成分がポリフェニレンエーテルの場合は基材シートの主成分としてポリフェニレンエーテルを、該部材の主成分がABSの場合は基材シートの主成分としてABSを、該部材の主成分がポリカーボネートの場合は基材シートの主成分としてポリカーボネートを、該部材の主成分がポリカーボネートとABSの複合材料の場合は基材シートの主成分としてポリカーボネート、ABS、またはポリカーボネートとABSの複合材料を主成分とする熱可塑性樹脂からなる基材シートを使用することが望ましい。
また、熱可塑性樹脂からのアウトガスによる粘着シートと熱可塑性樹脂との間の気泡溜まりを抑制するために、ガス透過性に優れる基材を使用することが望ましい。例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン等が挙げられる。
【0058】
これらの基材シートの厚さは、使用目的や状況に応じて適宜定めればよいが、片面粘着シートの場合は、貼付作業性や耐反発性の観点から、15〜250μmであることが好ましく、25〜115μmであることがより好ましく、50〜95μmであることが一層好ましい。一方、両面粘着シートの場合は、30〜200μmであることが好ましく、50〜150μmであることがより好ましく、さらに、坪量は10〜100g/mであることが好ましく、15〜50g/mであることがより好ましい。
【0059】
(基材シートの表面処理)
また、基材シートの上に積層する層(粘着剤層や印刷層など)との密着性を向上させることを目的に、基材シートの片面または両面に、コロナ処理、プラズマ処理、粗面化処理、火炎処理、クロム酸処理、熱風処理、オゾン照射処理、紫外線照射処理を施したり、アンカーコート剤を塗布しても良い。特に、粘着剤を積層する側の基材表面に、コロナ処理やアンカーコート処理を施すことにより、粘着剤層が基材の表面から剥離し難くなり、本発明の粘着シートを被着体に貼着した後の再剥離性が向上し、被着体に粘着剤層が残留することを一層防止することができる。
【0060】
(ポリエステルフィルムの適用)
基材シートとしてポリエステルフィルムを使用する場合、本発明の粘着剤層を積層する側のポリエステルフィルム表面は、ポリエステルフィルム製膜後に、ポリエステル自体よりも表面自由エネルギーが高くなるようなコロナ処理等の表面処理が施されていない状態が好ましい。表面自由エネルギーを高くしないことで、粘着剤積層表面への親水性物質の局在化を生じにくくでき、基材シートと粘着剤層の密着性を低下させず好適な再剥離性を得やすくなる。
【0061】
また、アルミ蒸着したフィルムを基材シートに適用する場合は、粘着剤層と積層させる側ではない面にアルミ蒸着処理を行い、前記アルミ蒸着面に印刷層との密着性を向上させるアンカーコート等の処理を施すことが好ましい。
【0062】
(剥離シート)
本発明の粘着シートには、必要に応じて粘着剤層上に剥離シートを設けることができる。この剥離シートとしては、クラフト紙、グラシン紙及び上質紙等の紙、それらの紙にポリビニルアルコール等の合成樹脂もしくはクレー等を片面もしくは両面にコーティングした紙、又はそれらの紙にポリエチレン樹脂などを片面もしくは両面にラミネートした紙、あるいはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、及びポリプロピレン等のプラスチックフィルムに、フッソ樹脂やシリコーン樹脂等の剥離剤を片面もしくは両面にコーティングしたものなどが挙げられる。この剥離シートの厚さについては特に限定されるものではないが、一般に20〜300μmの範囲である。
【0063】
(粘着シートの製造方法)
本発明の粘着シートの製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の製造方法に準じて製造することができる。例えば、片面粘着シートの場合は、粘着剤溶液を剥離シートに塗工し、乾燥、熱硬化、もしくは電磁放射線効果等による処理を行った後、基材シートを貼り合わせる方法で得られる。また、両面粘着シートの場合は、粘着剤溶液を剥離シートに塗工し、前記処理した剥離シートを基材シートの両面に貼り合わせる方法で得られる。あるいは、粘着剤溶液を直接基材シートに塗工した後前記処理を行い、剥離シートを貼り合わせる方法でも製造することができる。更に、基材シートと粘着剤層の密着性を向上させるために、40℃〜100℃等の高温下で貼り合わせを行っても良い。本発明の粘着シートは製造工程を選択することによりロール状、テープ状、あるいはシート状として製造できる。
【0064】
(粘着剤層の厚み)
本発明の粘着シートに用いる粘着剤層の厚みは、片面粘着シートの場合は、乾燥後の厚みで3〜200μmが好ましく、5〜50μmがさらに好ましく、10〜25μmが特に好ましい。また、両面粘着シートの場合は、30〜300μmが好ましく、50〜200μmがさらに好ましい。上記下限値を下回る場合は、得られる粘着シートの接着性が不十分となり、上限値を超える場合は、印刷やダイカット加工時に粘着剤のはみ出しが発生し易くなる。
【0065】
(粘着剤層の損失正接)
本発明の粘着テープにおける粘着剤層は、周波数1Hzでの−50℃〜150℃の範囲における損失正接が、0℃以下の低温域で上に凸状のピークを有し、低温域から中温域にかけて減少し、20〜60℃の中温域で下に凸のピークを有し中温域から高温域にかけて上昇し、70℃〜100℃にかけて特定の範囲内の値をとることが好ましい。
(粘着剤層の高温域における損失正接)
本発明の粘着テープにおける粘着剤層の70〜100℃の高温域中の損失正接は、周波数1Hzにおいて、70℃で0.40〜0.60であることが好ましく、0.45〜0.55であることがより好ましい。また、100℃での損失正接は、0.50〜0.70であることが好ましく、0.55〜0.65であることがより好ましい。
【0066】
(粘着剤層の中温域における損失正接)
本発明の粘着テープにおける粘着剤層の損失正接は、周波数1Hzにおいて、20℃〜60℃の間に下に凸のピークを有することが好ましい。さらに、そのピーク値は0.35〜0.55であることが好ましい。
【0067】
(損失正接曲線の凸ピークを示す温度)
本発明の粘着テープにおける粘着剤層は、その損失正接曲線の凸ピークを示す温度が、周波数1Hzにおいて、−25℃〜0℃であることが好ましく、−20℃〜−5℃であることがより好ましい。
【0068】
(粘着剤層の貯蔵弾性率)
本発明の粘着テープにおける粘着剤層は、その貯蔵弾性率が、周波数1Hzにおいて、70℃で4.0×10〜2.1×10(Pa)であることが好ましい。また、100℃での貯蔵弾性率は、3.0×10〜2.0×10(Pa)であることが好ましい。また、120℃での貯蔵弾性率は、2.0×10〜1.4×10(Pa)であることが好ましい。
【0069】
(粘着剤層の初期粘着力)
本発明の粘着剤層は、50μmのポリエステルフィルムA4100(東洋紡社製)を基材シートとし、前記基材シートにアクリル共重合体を20μm積層させた粘着シートの初期粘着力Fcは、10.0〜18.0(N/25mm)であることが好ましい。尚、初期粘着力Fcはステンレス板に対する180度引き剥がし粘着力で定義される値であり、該180度引き剥がし粘着力は、JIS Z 02372000に準拠して、圧着速さ5mm/s、圧着回数1往復で試験片を貼った試験板を温度23±2℃、相対湿度50±5%の雰囲気中に1時間放置した後、引張り速さ300mm/minの条件下で測定される値である。
【0070】
また、前記粘着シートの初期粘着力Fdは、3.0〜10.0(N/25mm)であることが好ましい。尚、なお、初期粘着力Fdは、前記初期粘着力Fcの測定法において、引張り速さ5mm/minの条件下で測定される値である。
【実施例】
【0071】
次に、本発明の実施例および比較例を持って詳細に説明する。以下の実施例および比較例中、「部」は質量部を表す。
【0072】
<エマルジョン型アクリル系共重合体Aの調整>
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下漏斗を備えた反応容器に脱イオン水40部を入れ、窒素を吹き込みながら75℃まで昇温した。撹拌下、t−ブチルハイドロパーオキサイド0.03部、L−アスコルビン酸0.015部を添加し、続いてアクリル単量体としてアクリル酸2−エチルヘキシル75部、アクリル酸ブチル19部、メタクリル酸メチル2部、酢酸ビニル1部、アクリル酸1.5部、メタクリル酸1.5部、連鎖移動剤としてラウリルメルカプタン0.02部からなる単量体混合物に、ラテムルE−118B(花王社製:有効成分25%)1.6部と脱イオン水15部を加えて乳化させたモノマープレエマルジョンの一部(4部)を添加し、反応容器内温度を75℃に保ちながら60分間で重合させた。引き続き、反応容器内温度を75℃に保ちながら、残りのモノマープレエマルジョンと、t−ブチルハイドロパーオキサイドの水溶液(有効成分1%)15部、L−アスコルビン酸の水溶液(有効成分0.5%)15部を各々別の滴下漏斗を使用して、反応容器内温度を75℃に保ちながら240分間かけて滴下して重合せしめた。滴下終了後、同温度にて180分間撹拌し、内容物を冷却した後、pHが8.5になるようにアンモニア水(有効成分10%)で調整した。ここで得られた水性分散液100部に対して、レベリング剤としてサーフィノール420(エアー・プロダクツ・ジャパン社製)0.8部を添加した。さらに架橋剤として、オキサゾリン系架橋剤エポクロスK−2020E(日本触媒社製)をカルボキシル基含有モノマー(アクリル酸及びメタクリル酸)のカルボキシル基に対するオキサゾリン基がモル比で0.2倍となるように添加した後、100メッシュ金網で濾過してエマルジョン型粘着剤を調製した。
【0073】
<エマルジョン型アクリル系共重合体Bの調整>
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下漏斗を備えた反応容器に、ラテムルS−180(花王社製:有効成分50%)3部、脱イオン水40部を入れ、窒素を吹き込みながら60℃まで昇温した。撹拌下、2,2‘−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ニ塩酸塩0.05部を脱イオン水4.95部に溶解させた水溶液を添加し、続いてアクリル単量体としてアクリル酸2−エチルヘキシル72.3部、アクリル酸ブチル25部、メタクリル酸メチル0.5部、アクリル酸1.0部、メタクリル酸1.2部、連鎖移動剤としてラウリルメルカプタン0.02部からなる単量体混合物に、ラテムルS−180(2部)と脱イオン水20部を加えて乳化させたモノマープレエマルジョンの一部(4部)を添加し、反応容器内温度を60℃に保ちながら60分間で重合させた。引き続き、反応容器内温度を60℃に保ちながら、残りのモノマープレエマルジョンと、2,2‘−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ニ塩酸塩0.2部を脱イオン水19.8部に溶解させた水溶液を各々別の滴下漏斗を使用して、反応容器内温度を60℃に保ちながら240分間かけて滴下して重合せしめた。滴下終了後、同温度にて180分間撹拌し、内容物を冷却した後、pHが8.5になるようにアンモニア水(有効成分10%)で調整した。ここで得られた水性分散液100部に対して、レベリング剤としてサーフィノール420(エアー・プロダクツ・ジャパン社製)0.8部を添加した。さらに架橋剤として、オキサゾリン系架橋剤エポクロスK−2020E(日本触媒社製)をカルボキシル基含有モノマー(アクリル酸及びメタクリル酸)のカルボキシル基に対するオキサゾリン基がモル比で0.15倍となるように添加した後、100メッシュ金網で濾過することによりエマルジョン型アクリル系共重合体Bを得た。
【0074】
(エマルジョン型粘着剤の調整)
前記エマルジョン型アクリル系共重合体AまたはB100部に対し、軟化点160℃のエマルジョン型重合ロジンエステル系粘着付与樹脂E−865−NT(荒川化学社製)、軟化点125℃のエマルジョン型重合ロジンエステル系粘着付与樹脂E−625−NT(荒川化学社製)、または軟化点110℃のエマルジョン型石油樹脂系粘着付与樹脂LW−302E(日本ゼオン社製)を、固形分が表1に示す質量部となるように配合した後、100メッシュ金網で濾過を行うことによりエマルジョン型粘着剤を得た。
【0075】
(粘着シートの作成)
前記エマルジョン型粘着剤を剥離シートOKB−105NC(王子製紙社製)に塗工し、80℃で90秒間乾燥させることにより、乾燥後の厚み20μmの粘着剤層を得た。次いで、50μmのポリエステルフィルムA4100(東洋紡社製)の未処理表面側に前記粘着剤層面を貼り合わせ、40℃の雰囲気中で3日間放置することにより粘着シートを作成した。
【0076】
《粘着シートの評価》
(再剥離性)
幅25mm、長さ100mmに切断した粘着シートを、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気中にて、アクリル塗装鋼板に2kgのローラーで1往復圧着し、1時間放置した。次いで、温度60℃、相対湿度90%の環境下に3日放置し、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気に1時間放置した後、引き剥がし角度135度方向に1m/分、および20m/分の速度で引き剥がし、粘着剤が被着体に残っている状態(糊残り)を目視により判定した。
◎:糊残りすることなく剥離することができた。
○:剥がし終わりの末端部に数mm程度の糊残りが認められたが、実用上問題なく剥離することができた。
△:部分的に糊残りが認められた。
×:全体的に糊残りが認められた。
【0077】
(耐剥がれ性)
幅20mm、長さ20mmに切断した粘着シートを、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気中にて、直径10mmのポリプロピレン製樹脂円柱に2kgのローラーで1往復圧着した。次いで、1日および7日間放置した、粘着シートの両端部の浮き剥がれ状態を目視し、耐剥がれ性を判定した。

◎:ほぼ浮き剥がれが視認できず、粘着シートが良好にポリプロピレン製樹脂円柱に追従して貼り付いていた。
○:端部にわずかに浮きが見られるが、粘着シートがポリプロピレン製樹脂円柱に追従して貼り付いていた。
△:粘着シートに明らかな浮き剥がれが認められ、粘着シートがポリプロピレン製樹脂円柱に貼り付いているが、円柱の形状に追従できなかった。
×:粘着シートの大部分に浮き剥がれが生じ、粘着シートの一部のみがポリプロピレン製円柱に貼り付いていた。
【0078】
【表1】

【0079】
表1から明らかなように、実施例1〜4に示した本発明の粘着剤を使用した粘着テープは、良好な再剥離性を有し、かつ難接着面に対しても好適な耐剥がれ性を有するものであった。一方、比較例1〜5の粘着テープは、いずれも円柱に追従できず、難接着面に対して剥がれが生じた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系共重合体と、粘着付与樹脂とを含有し、前記粘着付与樹脂として、軟化点が155〜175℃のロジン系粘着付与樹脂(a)および軟化点が95〜130℃のロジン系粘着付与樹脂(b)を含有することを特徴とするエマルジョン型粘着剤。
【請求項2】
前記軟化点が155〜175℃のロジン系粘着付与樹脂(a)および軟化点が95〜130℃のロジン系粘着付与樹脂(b)の含有量の和が、前記アクリル系共重合体100質量部に対して10〜40質量部であり、
前記軟化点が155〜175℃のロジン系粘着付与樹脂(a)と、軟化点が95〜130℃のロジン系粘着付与樹脂(b)との質量比(a)/(b)が、2/1〜1/2である請求項1に記載のエマルジョン型粘着剤。
【請求項3】
前記粘着付与樹脂として、石油樹脂系粘着付与樹脂(c)を含有する請求項1または2のいずれかに記載のエマルジョン型粘着剤。
【請求項4】
前記石油樹脂系粘着付与樹脂(c)の含有量が、前記アクリル系共重合体100質量部に対して3〜20質量部である請求項3に記載のエマルジョン型粘着剤。
【請求項5】
前記軟化点が155〜175℃のロジン系粘着付与樹脂(a)および軟化点が95〜130℃のロジン系粘着付与樹脂(b)が、エマルジョン型のロジン系粘着付与樹脂である請求項1〜4のいずれかに記載のエマルジョン型粘着剤。
【請求項6】
前記アクリル系共重合体の単量体成分として、n−ブチルアクリレート及び2−エチルヘキシルアクリレートを含有する請求項1〜6のいずれかに記載のエマルジョン型粘着剤。
【請求項7】
前記アクリル共重合体の単量体成分として、アクリル酸及びメタクリル酸を含有する請求項1〜7のいずれかに記載のエマルジョン型粘着剤。
【請求項8】
基材上に、請求項1〜9のいずれかに記載のエマルジョン型粘着剤からなる粘着剤層を有する粘着シート。

【公開番号】特開2008−239871(P2008−239871A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−84453(P2007−84453)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】