説明

エラストマー組成物の製造方法

【課題】 架橋エラストマー組成物のSS特性及び耐油性の改良を図る。
【解決手段】 架橋されたエラストマー組成物を、(A)常温及び常圧で気体である物質を高圧に保持した流体中で、(B)少なくとも一種のラジカル重合可能なモノマー及び(C)少なくとも一種のラジカル開始剤を共存させることによって、架橋されたエラストマー組成物中に前記成分(B)及び(C)を含浸させながら、前記ラジカル開始剤の10時間半減期温度以上に加熱することによって重合せしめるエラストマー組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエラストマー組成物の製造方法に関し、更に詳しくは架橋されたエラストマー組成物にラジカル重合性モノマー及びラジカル開始剤を高圧の流体(例えば超臨界二酸化炭素)を利用して注入することによってSS特性や耐油性などが改良されたエラストマー組成物を製造する方法及びその組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
超臨界状態の物質、例えば二酸化炭素、水、プロパンなどを用いる技術が種々研究されている。そういった中で特許文献1にはゴム又はプラスチック材料などのポリマー材料に添加剤を配合するに際し、通常の状態で(常温常圧で)、気体状である物質の圧縮された流体中に添加剤を溶解させてポリマー材料と接触させることにより機械的混合手段を用いることなく、添加剤をポリマー物材料中に組み入れることが開示されている。また特許文献2には、加硫フッ素ゴム廃棄物を超臨界状態のガス及び強アルカリ水溶液の混合物で処理再生する方法が開示されている。
【0003】
さらに特許文献3には老化防止剤、粘着防止剤、ワックスなどを溶解させた超臨界状態の二酸化炭素により加硫ゴム成形品にそれらを浸透せしめる改質方法が開示されている。しかしながら、いずれの文献にも架橋されたエラストマー組成物に新たに架橋性又は重合性のモノマー、オリゴマー又はポリマーを注入して重合又は架橋し、既存のポリマーネットワークに新たなポリマーネットワークを後から生成せしめるという概念は開示されていない。更にまた非特許文献1には超臨界含浸によるポリマーの改質が記載されているが、この文献には架橋されたポリマーの改質についての記載は全く認められない。
【0004】
【特許文献1】米国特許第4,820,752号明細書
【特許文献2】特開平8−169979号公報
【特許文献3】特開平11−348037号公報
【非特許文献1】Journal of Supercritical Fluids 17(2000)65-72
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、架橋されたエラストマー組成物を、常温及び常圧で気体である物質を高圧に保持した流体及びラジカル重合可能なモノマー及びラジカル開始剤と共存させることによってエラストマー組成物中に前記ラジカル重合性モノマー及びラジカル開始剤を含浸重合させてエラストマー組成物に前記ラジカル重合性モノマーの重合物由来の種々の特性を付与することを目的とする。本発明の方法によれば例えば前記エラストマー組成物のSS特性を向上させ、耐油性を改良することも可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に従えば、架橋されたエラストマー組成物を、(A)常温及び常圧で気体である物質を高圧に保持した流体中で、(B)少なくとも一種のラジカル重合可能なモノマー及び(C)少なくとも一種のラジカル開始剤を共存させることによって、架橋されたエラストマー組成物中に前記成分(B)及び(C)を含浸させながら、前記ラジカル開始剤の10時間半減期温度以上に加熱することによって重合せしめるエラストマー組成物の製造方法並びにそれによって得られるゴム組成物が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、架橋エラストマー組成物を所定の条件(温度、圧力、時間など)で(A)高圧に保持した“常温及び常圧で気体である物質”(例えばCO2)の流体(以下、成分(A)ということがある)中で(B)1種又はそれ以上のラジカル重合可能なモノマー及び(C)1種又はそれ以上のラジカル開始剤と共存させることによって、前記モノマー(B)及びラジカル開始剤(C)を架橋したエラストマー中に含有させることができ、ラジカル開始剤(C)がラジカルを発生することができる温度、好ましくはラジカル開始剤(C)の10時間半減期温度以上の温度で重合することにより架橋ゴム中に新たなポリマーネットワークを作ることができ、エラストマー組成物の強度を向上させ、新たな機能を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に従ったエラストマー組成物の製造方法に用いられる架橋したエラストマー組成物を構成するポリマーとしては、ガラス転移温度Tgが室温(25℃)以下、好ましくは−120℃〜10℃であり、エントロピー弾性を示す架橋可能なポリマーを使用することができる。すなわち前記エラストマー組成物に配合されるエラストマー成分は、従来からタイヤ用、その他ゴム用に一般的に使用されている架橋性エラストマーの架橋物とすることができ、具体的には例えば各種天然ゴム(NR)、各種ポリイソプレンゴム(IR)、各種スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、各種ポリブタジエンゴム(BR)、各種スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム(SIBR)、各種アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、各種エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム(EPDM)、各種クロロプレンゴム(CR)、各種ブチルゴム(IIR)などのジエン系ゴムをあげることができ、これらは単独又は任意のブレンドとして使用することができる。本発明に従ったゴム組成物に配合できるエラストマー成分としては、更にイソブチレンパラメチルスチレン共重合体ゴム及びその臭素化物、エチレンプロピレンゴム(EPM)、フッ素ゴム(FKM)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、アクリルゴム(ACM)、エピクロルヒドリンゴム(ECO,CO)、ウレタンゴム、シリコーンゴムなどをあげることができ、これらは単独もしくはブレンド又は前記ジエン系ゴムとのブレンドとして使用することができる。
【0009】
本発明においては、架橋したエラストマー組成物は、常温及び常圧では気体である物質(A)、例えば二酸化炭素(CO2)、エタン(C26)、プロパン(C38)、アンモニア(NH3)、酸化二窒素(N2O)などを高圧に保持した流体(液体及び/又は気体)中で、好ましくはその臨界圧力以上〜30MPa、臨界温度以上〜200℃以下の温度で、前記成分(B)及び成分(C)と接触させることによって、ゴム成分中へそれらを含浸させることができる。これらを例えば成分(C)がラジカルを効果的に発生することができる温度で行うことで、架橋後のエラストマー組成物中に含浸された成分(B)を重合させて、新たなネットワークが構成され、機械的強度などを増大させたり、他の機能(例えば耐油性など)を付与させたりすることができる。
【0010】
一般的にゴムをはじめとしたエラストマー組成物を架橋する場合、それを構成するポリマーにより、使用できる架橋システムには制限がある。例えばゴムでは硫黄、加硫促進剤の組合せ又は有機過酸化物などが使われる。これに他の架橋機構によるモノマー、ポリマーやオリゴマーをブレンドし独立したネットワークを形成することは多くの場合不可能であった。これは、お互いの架橋システムが混ざることで、2つ架橋システムがお互いに阻害したりするためである。然るに本発明のように、あらかじめエラストマー組成物を架橋させた後に別の架橋機構を持つモノマー、オリゴマー又はポリマーを含浸させてモノマー、ポリマー又はオリゴマーを架橋させることで新規なエラストマー組成物が創製される。モノマー、ポリマー又はオリゴマーを溶解し、なおかつ架橋されたエラストマー組成物を膨潤させることができる有機溶媒などにより、モノマー、ポリマー又はオリゴマーをエラストマー中に注入することが可能であるが、この場合有機溶剤を取り除くときに注入対象物が凝集し分散が不十分になったり、一緒に出てきてしまうという問題があった。また、有機溶媒を多量に使用することは環境上も問題があった。然るに、二酸化炭素などの常温常圧で気体である流体を使用すれば温度圧力のコントロールで注入対象物の溶解度をコントロールできるため、注入対象物を含浸後、圧力をコントロールすることなどにより直ちに注入対象物の溶解度を低下させることで注入物を架橋したエラストマー中に残存させることが可能となる。また、その流体の圧力を下げ気体とすることで流体の除去が非常に容易である。また、二酸化炭素を使用する場合には、安全面で又は作業環境などに重大な問題を引き起こすことがない。
【0011】
本発明の成分(A)、即ち「常温及び常圧では気体である物質を高圧に保持した流体」は、その沸点が常圧(1気圧)で常温(例えば23℃)以下の物質であって、これを昇温、昇圧又は降温、昇圧することによって得られる。この流体は液体状態、気液混合状態、超臨界状態のいずれであっても良いが、臨界点近傍であるか超臨界状態であることが好ましい。具体的には圧力3〜30MPaで温度0〜200℃の条件に保持する。本発明において使用する常温常圧で気体である流体成分(A)を保持する圧力が低過ぎると、重合性物質の溶解度が不十分となるおそれがあり、逆に高過ぎると高圧状態を作り出すためのエネルギーが高くなるのであまり好ましくない。温度が低過ぎると架橋されたエラストマー組成物の成分であるポリマーの分子を構成するセグメントの熱運動が低下し、重合性物質の含浸効率が低下するおそれがあり、逆に高すぎると架橋されたエラストマーの熱劣化が顕著となる傾向にあるためあまり好ましくない。
【0012】
前記流体により架橋されたエラストマー組成物に前記成分(B)及び(C)を含浸させる方法には特に限定はないが、前記流体が充填された密閉容器中で前記成分(B)及び(C)を共存させる方法、又はあらかじめ前記成分(B)及び(C)を前記流体成分(A)に溶解させた後に、架橋されたエラストマーに接触させる方法などが好適に用いられる。前記成分(B)及び(C)を効率的に前記流体成分(A)中に溶解させるために前記成分(B)及び(C)と前記流体成分(A)の接触面積をなるべく大きくすることが好ましい。なお、前記流体成分(A)には通常エントレーナとよばれる他成分を含ませることができる。エントレーナは通常、前記流体成分(A)の溶解度パラメータを調節するために添加されるもので前記流体成分(A)に溶解する有機溶剤、有機化合物(気体、液体、固体)から一種以上を任意に選択することができる。例えば二酸化炭素に使用されるエントレーナとしてはメタノール、エタノール、オクタン、各種脂肪酸などをあげることができるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0013】
架橋されたエラストマーと常温常圧で気体である物質を高圧に保持した流体(A)とともに共存させるラジカル重合可能なモノマー(B)の濃度は流体(A)中の濃度を1.0〜60重量%とするのが好ましく、3.0〜50重量%にするのが更に好ましい。この量は流体(A)による実質的な処理時間にわたって、実質的な処理に使用されている系内に存在させなければならない重合性物質の量として規定される。例えばバッチ方式の処理では処理容器内の流体(A)に対して1.0〜60重量%の重合可能な物質を共存させるのが好ましい。また、予じめ重合可能な物質を流体成分(A)に溶解させてからこの流体を処理系内に流しながら処理を行う場合にも重合可能な物質が常にこの範囲の濃度となるように調整するのが好ましい。前記重合可能な物質の量が少な過ぎると実質的に十分な含浸量が得られるまでの時間が長くなるためあまり好ましくない。逆に多過ぎると流体成分(A)に溶解されにくくなったり、又は含浸されにくくなるものが増加するため、処理装置の保全、資源の有効活用などの点から好ましくない。
【0014】
本発明に従ったエラストマー組成物の製造方法に用いられるラジカル重合可能なモノマー(B)としては各種ラジカル開始剤の存在によって重合するものが使用できる。そのようなモノマーの具体例としては、酢酸ビニル、スチレン及びスチレン誘導体、ビニルピリジン及びその誘導体、各種ビニルエーテル、イソプレン、アクリロニトリル、各種アクリルアミド、各種アクリル酸、各種アクリル酸エステル、ビニルカルバゾール、無水マレイン酸、各種ビニルイソシアナートなどの各種ビニルモノマーを使用することができる。これらのモノマーは単独でも他のモノマーと併用しても良い。但し、無水マレイン酸は単独重合しないことに注意して使用する必要がある。上記に例示した以外にも例えば”POLYMER HANDBOOK forth edition” II〜310頁(1999) JOHN WILEY & SONS INC. Table 1に記載されたモノマーを使用することができる。
【0015】
前記モノマーは前記成分(C)のラジカル重合開始剤によって重合することができる。ラジカル重合開始剤は前記モノマーの含浸方法と同様の方法で前記の架橋したエラストマー中に含浸させることができる。なお、この操作は該流体により加工されたエラストマー組成物に前記モノマーを含浸させるのと同時でも、その前後で行っても良い。そのようなラジカル重合開始剤としては、各種有機化酸化物及び各種アゾ系開始剤、テトラメチルチウラムジスルフィドなどのジスルフィド化合物などが好適に利用できる。有機過酸化物の具体例としては、ジイソブチルパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカノエート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、ジ-(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルパーオキシネオデカノエート、ジ(2-エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシピバレート、ジ(3,3,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、ジ-n-オクタノイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、ジステアロイルパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジスクシン酸パーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ(4-メチルベンゾイル)パーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ(3-メチルベンゾイル)パーオキサイド、ベンゾイル(3-メチルベンゾイル)パーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソブチレート、1,1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)2-メチルシクロヘキサン、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ジ(4,4-ジ-(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキシル)プロパン、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシマレイン酸、t-ブチルパーオキシ-3,3,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(3-メチルベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシアセテート、2,2-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ブタン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、n-ブチル4,4-ジ-(t-ブチルパーオキシ)バレレート、ジ(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、t-ブチルトリメチルシリルパーオキサイド2,3-ジ-メチル-2,3-ジフェニルブタンなどが挙げられる。
【0016】
アゾ系開始剤の具体例としては、2-2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2-2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2-2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、1-[(1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ]フォルムアミド、2-2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2-2’-アゾビス{2-メチル-N-[2-(1-ヒドロキシブチル)]-プロピオンアミド}、2-2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)-プロピオンアミド]、2-2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2-2’-アゾビス(N-シクロヘキシル-2-メチルプロピオンアミド)、2-2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2-2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2-2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジサルフェートジハイドレート、2-2’-アゾビス[2-(3,4,5,6-テトラヒドロピリミジン-2-イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2-2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル]プロパン}ジハイドロクロライド、2-2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2-2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド、2-2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]、2-2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミドオキシム)、ジメチル2-2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリック酸)、2-2’-アゾビス(2,2,4-トリメチルペンタン)などをあげることができる。
【0017】
前述の如く、前記重合性モノマー(B)とラジカル開始剤(C)を架橋されたエラストマーに含浸させながら、または前もって前記ラジカル開始剤(C)を架橋されたエラストマーに含浸した後に前記重合性モノマー(B)を含浸させながら、重合性モノマーを重合させることができる。この重合は、重合性モノマー(B)を含浸させている系の温度をラジカル開始剤(C)の10時間半減期温度以上にすることで達成される。重合を行う時間は特に制限がないが、系の温度における重合開始剤(C)の半減期時間の5倍以上が好ましい。ラジカル開始剤(C)の分解により重合性モノマー(B)の少なくとも一部が重合し架橋されたエラストマー中にあらたなポリマーネットワークを形成するものと考えられる。また、ラジカル開始剤が水素引抜き能を有する場合には架橋されたエラストマーを形成している分子鎖からの水素引抜きが起り、重合性モノマーの一部が架橋されたエラストマーを形成している分子鎖にグラフトするものと考えられる。常温常圧で気体である流体中で、架橋性エラストマー中に重合性モノマー(B)を含浸させながら、ラジカル開始剤(C)の10時間半減期温度以上とすることで、架橋性エラストマー中の重合性モノマー(B)が重合およびグラフトが進行する。これにより、架橋されたエラストマー中の重合性モノマー(B)の濃度が低下することから、さらなる重合性モノマー(B)が架橋性エラストマー中へ含浸されるために、単に重合性モノマーを含浸させる場合よりもより多くの重合性モノマー(B)によるネットワークが、架橋されたエラストマー中に形成される。このようにして架橋されたエラストマーと重合性モノマー(B)の複合化が達成されるために、強度向上、前記重合性モノマー由来の特性による機能付与が達成される。重合性モノマーとしてカルボキシル基を分子中に有するモノマーを使用し前記エラストマー組成物がカルボキシル基と反応性の金属原子を含む場合には、少なくとも一部のカルボキシル基と金属原子(陽イオン)の間にイオン結合を形成させることができる。
【0018】
前記重合性モノマー(B)およびラジカル開始剤(C)の前記架橋エラストマー中の濃度には特に制限はないが、前記架橋性エラストマー100重量部に対して、成分(B)が1〜100重量部、成分(C)が前記重合性モノマーに対して0.001重量%〜10重量%であることが前記目的の達成のために好ましい。このために成分(B)の流体(A)中の濃度を1.0〜60重量%、成分(C)の流体(A)中の濃度を10-6重量%〜10重量%とすることが好ましい。
【0019】
本発明に係るエラストマー組成物には、前記した必須成分に加えて、カーボンブラックやシリカなどのその他の補強剤(フィラー)、加硫又は架橋促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのゴム用に一般的に配合されている各種添加剤を前記架橋されたエラストマー(該流体で処理する前のエラストマー)が架橋される前の状態の時に配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練、加硫して組成物とすることができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例に限定するものでないことはいうまでもない。
【0021】
実施例1〜3及び比較例1〜5
架橋サンプルの調製
表Iに記載した配合量のEPDMカーボンブラックおよび架橋剤を1.5リットルの密閉型ミキサーで4分間混練し放出しマスターバッチを得た。これを6インチ×6インチ×1mmのモールド中で160℃で20分間架橋してエラストマー組成物を作成した。
【0022】
流体による架橋エラストマー処理
上で得たエラストマー組成物に表Iに示すラジカル重合可能なモノマー(MAA)及びラジカル開始剤を含浸させたろ紙とともに恒温槽内に設置した0.5リットルのオートクレーブに入れ、これに液化二酸化炭素を加え所定の温度圧力になるようにした。この際、圧力の調整は二酸化炭素を加圧ポンプで送り込むことで行った。所定の温度圧力、温度に達した後、所定時間その状態を維持した。次いでリークバルブを開き約2分かけて常圧に戻した。
【0023】
【表1】

【0024】
表I脚注
*1:エスプレン505A(住友化学工業製)
*2:シーストH(東海カーボン製)
*3:パークミルD(ジクミルパーオキサイド:日本油脂製)
*4:メタクリル酸(関東化学製)
*5:アゾビスブチロニトリル(和光純薬工業製)
*6:*3と同じものを使用
【0025】
*7:架橋ゴムの処理と連続して圧力容器中でCO2中で処理
A:圧力=7.8MPa、温度=40.2℃、時間=24時間
B:圧力=7.8MPa、温度=136℃、時間=6時間
*8:モールド中で熱処理
C:温度=135℃(モールド中でプレス)、時間=15分
D:温度=170℃、時間=10分
【0026】
得られた処理試料につき以下の測定を行ない、評価した。結果は表Iに示す。
処理による試料の重量変化(重量%):架橋されたエラストマーの処理前の重量と処理後の重量を精秤することにより算出した。処理後の重量は、処理終了後12時間以上静置した後に測定した。この値が大きいほど架橋されたエラストマー中に含浸複合化された成分(B)の量が多い。
ガラス転移温度(℃):DSCにより、昇温速度5℃/分の条件で熱容量の転移点(中点)として求めた。
トルエン膨潤時のゴム分率:処理試料を1cm3程度の大きさに切り取り、20℃でトルエン中に72時間浸漬した後に体積(Vs)を測定した。その後、該試料片を60℃、24時間以上真空乾燥して再び体積(Vo)を測定した。トルエン膨潤時のゴム分率(Vo/Vs)として算出した。この値が大きいほど膨潤しにくい。
【0027】
表Iの結果から明らかなように、本発明の方法による実施例1は比較例1,2,3に対して処理による重量変化が大きく、これによってトルエンによる膨潤度が小さくなっており耐油性が向上している。また、ガラス転移温度は変化していないので耐寒性は維持されている。同様に、実施例2は比較例4に対して、実施例3は比較例5に対して耐寒性を維持し耐油性を向上している。
【0028】
次に、実施例1及び比較例1の試料に対し、以下の方法で引張特性(SS特性)を測定した。結果は表IIに示す。
引張特性(SS特性):処理を行った実施例1の試料及び未処理の比較例1の試料(約2mm厚さのシート)からJIS 3号ダンベルを打ち抜き雰囲気温度20℃、引張速度500mm/分で引張試験を、JIS K 6251に準拠して実施した。
表IIにおいて、TSは破断強度、ELは破断伸び、ENGは破断エネルギーを示し、いずれも値が高い程良い。
【0029】
【表2】

【0030】
表IIの結果から明らかなように、比較例1に対して、実施例1は、50%伸張時のモジュラス(M50)、100%伸張時のモジュラス(M100)、引張強さ(TS)、破断伸び(EL)、破断エネルギー(ENG)が大幅に増加しており、本発明の処理によりS−S特性が改良されることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に従えば、エラストマー組成物のSS特性の改良及び耐油性の向上が達成されるので、タイヤ、ホースを始めとする各種ゴム製品に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋されたエラストマー組成物を、(A)常温及び常圧で気体である物質を高圧に保持した流体中で、(B)少なくとも一種のラジカル重合可能なモノマー及び(C)少なくとも一種のラジカル開始剤を共存させることによって、架橋されたエラストマー組成物中に前記成分(B)及び(C)を含浸させながら、前記ラジカル開始剤の10時間半減期温度以上に加熱することによって重合せしめることを特徴とするエラストマー組成物の製造方法。
【請求項2】
架橋されたエラストマー組成物を、(A)常温及び常圧で気体である物質を高圧に保持した流体中で、(C)少なくとも一種のラジカル開始剤を共存させることにより、該ラジカル開始剤を架橋されたエラストマー中に含浸させた後に、さらに流体(A)中で(B)少なくとも一種のラジカル重合可能なモノマーを前記ラジカル開始剤の10時間半減期温度以上の温度で共存させることにより含浸させながら重合せしめることを特徴とするエラストマー組成物の製造方法。
【請求項3】
前記架橋されたエラストマーのガラス転移温度が−120℃〜10℃である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記常温及び常圧で気体である物質(A)が二酸化炭素である請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記成分(A)がその臨界圧力以上〜30MPa以下、臨界温度以上〜200℃以下の状態で共存する請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記エラストマー組成物と共存させる前記成分(B)の前記常温及び常圧で気体である物質を高圧に保持した流体(A)中の濃度が1.0〜60重量%である請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記エラストマー組成物と共存させる前記成分(C)の前記流体(A)に対する濃度が10-5重量%〜10重量%である請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法により製造されたエラストマー組成物。

【公開番号】特開2006−160945(P2006−160945A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−356699(P2004−356699)
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】