説明

エルゴチオネインなどの合成方法

本発明は、エルゴチオネイン若しくは下記式(I):


のその誘導体の1つ、又はその生理学的に許容される塩、その互変異性体、その立体異性体、又は全ての割合でのその立体異性体混合物の合成方法であって、下記式(II):


のベタイン型の化合物、又はその生理学的に許容される塩、その互変異性体、その立体異性体、又は全ての割合でのその立体異性体混合物について、チオールの存在下で、60℃以上の温度で開裂反応を行うことによる、合成方法に関する。本発明はまた、式(II)の化合物及びその合成方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、エルゴチオネイン及び関連する誘導体の新規合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エルゴチオネインは、Tanretによって1909年に麦角で発見された天然起源のアミノ酸であって、抗酸化特性を有しており、下記式:
【0003】
【化1】

【0004】
に相当する。
【0005】
その存在は、多数の真菌類及びマイコバクテリアだけでなく、植物、動物及びヒトでも実証されている。植物は、植物に付着した真菌類により生合成されたエルゴチオネインを根のレベルで吸収する。高等生物、特にヒトは、食事を介してのみ、この化合物を摂取する。
【0006】
従って、この分子の複数の合成が文献で提案されているが、最終的にL−エルゴチオネイン(天然のエナンチオマー)を得ることができるのは、これらのうち2つしかない。
【0007】
国際出願WO95/00494では、Nα,Nα−ジメチル−ヒスチジンのメチルエステル(これ自体はL−ヒスチジンから2つの工程により得られる)をクロロチオギ酸フェニルと反応させ、次いで、クロロギ酸エチルと反応させ、第4級アンモニウムを形成し、最終的に硫黄及びメチルエステルを脱保護するという、5つの工程によるL−エルゴチオネインの合成が提案されている。従って、このような合成戦略では、ベタイン官能基(fonction betaine)を導くためのジメチルアミン基のメチル化を可能にするために、遊離型では存在できない硫黄の保護が必要となる。加えて、クロロチオギ酸フェニルは、チオホスゲン(CSCl)から調製されなければならないが、この試薬は、毒性であって、産業規模で使用する大量な量を入手するのは困難である。
【0008】
特許出願US2009/093642にも、イミダゾール環を開環し、チオシアン酸カリウムなどのチオシアネートと反応させて、2−チオヒスチジンを得(Heath,H.et al.,1951,J.Chem.Soc.,2215に記載の方法による)、次いでtert−ブチル(tertiobutyle)基により硫黄を保護し、第4級アンモニウムを形成し、硫黄を脱保護するという、9つの工程によるヒスチジンからのL−エルゴチオネインの合成が記載されている。大量の塩酸を使用することは別にしても、酸性媒体で使用されるKSCNは、非常に毒性の高い試薬である。
【0009】
これら2つの方法は、複数の共通点を有する。工程の多さは別としても、これらは、非常に毒性の高い試薬を使用するだけでなく、多量の有機溶媒及び濃塩酸を使用するという、いくつもの欠点を有しており、これは環境の点でリスクをもたらす。
【0010】
合成戦略に関して、ヒスチジン又はそのN−ジメチル化誘導体の1つからのこれら2つの方法は、ベタイン基を生成する前に硫黄を導入するという点で共通しており、これによって、保護及び脱保護工程が追加されることから、合成が扱い難いものになるという欠点を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、産業レベルで適用可能なエルゴチオネイン及びその誘導体の新規合成方法、すなわち、精製が困難ではなく、ヒト及び環境に対して危険性及び毒性のある生成物又は溶媒を使用せず、かつ産業規模において良好な収率及び低コストで生成物を得ることができる、新規合成方法の開発が現実に必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
低毒性の試薬の使用、工程数の最少化、及び水性媒体中での反応の実施を同時に行う、環境に優しい方法を開発する目的で、本出願人は、ベタイン基を既に有する中間体に硫黄を導入することによる、「逆」の合成戦略を選ぶことを決意した。このアプローチは完全にオリジナルなものであるが、真菌類においては、L−エルゴチオネインの酵素経路による生合成が同様に進行することから、この点に限って言えば、生体模倣と考えられるかもしれない(Askari,A.and Melville,D.B.,1962,J.Biol.Chem.,237,1615−1618)。
【0013】
従って、本特許出願の目的は、下記式(I):
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、
− R及びRは、互いに独立して、水素原子、又はメチルなどの(C−C)アルキル基を表し、R及びR基の少なくとも1つは水素原子を表し、有利にはそれぞれが水素原子を表し、かつ
− R、R及びRは、互いに独立して、メチルなどの(C−C)アルキル基を表す)
の誘導体、又はその生理学的に許容される塩、その互変異性体、その立体異性体、又は全ての割合でのその立体異性体混合物、特にそのエナンチオマー混合物、とりわけそのラセミ混合物の合成方法であって、以下の連続する工程:
(i)下記式(II):
【0016】
【化3】

【0017】
(式中、
【0018】
【化4】

【0019】
は、
【0020】
【化5】

【0021】
を表し、
− R、R、R、R及びRは、上記で定義されたとおりであり、
− Rは、水素原子、又は(C−C)アルキル基若しくは−CO−((C−C)アルキル)基を表し、特に水素原子又は−COCH基を表し、とりわけ水素原子を表し、かつ
− Rは、水素原子又は(C−C)アルキル基を表し、特に水素原子を表す)
の化合物、又はその生理学的に許容される塩、その互変異性体、その立体異性体、又は全ての割合でのその立体異性体混合物、特にそのエナンチオマー混合物、とりわけそのラセミ混合物について、好ましくは反応溶媒(とりわけ水であってよい)に溶解性のチオールの存在下で、60℃以上の温度で開裂反応を行って、式(I)の化合物を得る工程、及び
(ii)前記工程(i)で得られた式(I)の化合物を反応媒体から分離する工程、
を含む方法である。
【0022】
本発明によれば、「互変異性体」とは、プロトトロピーにより得られた、すなわち水素原子の移動と二重結合の位置の変化により得られた、化合物の構造異性体を意味する。化合物の異なる互変異性体は、通常、相互に変換可能であって、溶液中に平衡して存在し、その比率は、使用される溶媒、温度又はさらにはpHに応じて変動し得る。
【0023】
本発明の化合物の枠組内で、2−チオイミダゾール環は、以下の異なる互変異性型で存在し得る:
【0024】
【化6】

【0025】
本発明において、「生理学的に許容される」とは、通常、安全であり、非毒性であり、かつ生物学的にも他の意味でも所望しないものではなく、医薬品用、化粧品用又は食品用(ヒト又は動物用)として、特に食品用として、許容されるものを意味する。
【0026】
化合物の「生理学的に許容される塩」とは、上記で定義されたような生理学的に許容される塩であって、親化合物の所望の活性(薬理学的、美容的又は食品的)を有するものを意味する。このような塩には以下が含まれる:
(1)水和物及び溶媒和物、
(2)塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸と形成される酸付加塩;又は酢酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、クエン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、ヒドロキシナフトエ酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ムコン酸、2−ナフタレンスルホン酸、プロピオン酸、サリチル酸、コハク酸、ジベンゾイル−L−酒石酸、酒石酸、p−トルエンスルホン酸、トリメチル酢酸、トリフルオロ酢酸などの有機酸と形成される酸付加塩、又は
(3)親化合物に存在する酸性プロトン(proton acide)が、金属イオン、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン又はアルミニウムイオンにより置き換えられているか;又は有機塩基若しくは無機塩基と配位する場合に形成される塩。許容される有機塩基には、ジエタノールアミン、エタノールアミン、N−メチルグルカミン、トリエタノールアミン、トロメタミンなどが含まれる。許容される無機塩基には、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムが含まれる。
【0027】
本発明によれば、「立体異性体」とは、ジアステレオ異性体及びエナンチオマーを意味する。従って、これらは光学異性体である。互いに鏡像でない立体異性体は、「ジアステレオ異性体」と表され、互いに鏡像であるが重ね合わせることのできない立体異性体は、「エナンチオマー」と表される。
【0028】
反対のキラリティーの2つの別個のエナンチオマー型を等量含む混合物は、「ラセミ混合物」と表される。
【0029】
本発明によれば、「(C−C)アルキル」基とは、1〜4個の炭素原子を含む、直鎖状又は分枝状の飽和炭化水素鎖を意味する。これは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基又はtert−ブチル基であり得る。特にメチル基であり得る。
【0030】
本発明によれば、「チオール」とは、その分子構造にSH基を含む試薬のいずれをも意味する。とりわけ、式R−SH(式中、Rは、C−C、とりわけC−Cの直鎖状又は分枝状の飽和炭化水素鎖であって、1つ以上の極性置換基で置換されているものを表す)の化合物である。
【0031】
本発明によれば、「飽和炭化水素鎖」とは、有利には1〜8個の炭素原子を含む、直鎖状又は分枝状の飽和炭化水素鎖を意味する。とりわけ、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基又はヘキシル基などの直鎖状飽和鎖であり得る。
【0032】
本発明によれば、極性置換基とは、OH基、SH基、NH基及びCOOH基などの親水基を意味する。
【0033】
本発明によれば、「開裂反応」とは、この反応に関与する化合物が、この反応の間に2つの部分に分かれて、本願の場合には、式(I)の化合物のチオカルボニル官能基を形成できることを意味する。
【0034】
式(I)の化合物は、特に、下記式(Ia):
【0035】
【化7】

【0036】
(式中、
− R、R、R、R及びRは、上記で定義されたとおりである)
の化合物、又はその生理学的に許容される塩、その互変異性体、その立体異性体、又は全ての割合でのその立体異性体混合物、特にそのエナンチオマー混合物、とりわけそのラセミ混合物であり得る。
【0037】
式(I)の化合物は、とりわけエルゴチオネイン、特にL−エルゴチオネインを表す。
【0038】
工程(i):
チオールの存在下で実施されるこの開裂反応により、式(I)の化合物と、ピルビン酸(CHC(O)−COH)又はその誘導体の1つ、とりわけエステル(CHC(O)−CO)、若しくはチオールとの反応により得られる誘導体[チオケタール(thiocetalique)誘導体(2つのチオール分子がピルビン酸のケトン官能基と反応できる)など]とを得ることができる。
【0039】
さらに、チオールは、好ましくは、反応溶媒(とりわけ水であってよい)に溶解性であるべきであり、これによって、より環境保護的であるという更なる利点が得られる。
【0040】
この工程(i)で使用されるチオールは、とりわけ、式R−SH(式中、Rは、1〜8個、とりわけ2〜6個、特に2〜4個の炭素原子を含む、直鎖状又は分枝状、好ましくは直鎖状のアルキル鎖であって、OH、SH、NH及びCOOHから選択される1つ以上の基で置換されているものを表す)に相当するチオールであり得る。
【0041】
水が溶媒として使用される場合には、親水基(OH、SH、NH及びCOOH)の存在によって、とりわけ、チオールを、より水に溶解性にすることができる。
【0042】
チオールは、とりわけ、システイン、ジチオトレイトール、2−メルカプトエタノール、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸及びチオグリコール酸から選択され得、好ましくは、3−メルカプトプロピオン酸である。
【0043】
チオールは、メルカプト酢酸及びメルカプトヘキサン酸でもあり得る。
【0044】
有利には、化合物(II)に対して、少なくとも2モル当量のチオールが使用される、すなわち、使用される化合物(II)1モルに対して、少なくとも2モルのチオールが使用される。特に、化合物(II)に対して、少なくとも5モル当量のチオール、とりわけ5〜10モル当量のチオールが使用され得る。
【0045】
60℃未満の温度では反応速度が遅くなりすぎるので、60℃より高い温度で反応混合物を加熱する。反応は、60℃〜120℃、有利には80℃〜100℃の範囲の温度で、とりわけチオールの添加後に、実施できる。
【0046】
反応は、とりわけ、酸性媒体中で実施し得る。
【0047】
工程(ii):
得られた最終生成物(式(I)の化合物)は、当業者に周知かつ産業規模で適用可能な技術により反応媒体から分離でき、とりわけ、溶媒留去により、適切な場合には部分的な溶媒留去により分離でき、好ましくは、その後再結晶化して生成物を精製できる。
【0048】
式(I)の化合物は水溶性であるので、例えば酢酸エチル又はtert−ブチル−メチルエーテルなどの有機溶媒で予め1回以上抽出することにより、反応の間に形成されるピルビン酸又はその誘導体などの有機副産物、及び過剰なチオールを排除することが可能となり得る。
【0049】
得られた生成物は、当業者に周知の技術により、例えば再結晶化により、必要な場合に精製され得、適切な場合には、その前に、それを含む水相を当業者に周知の技術により脱塩処理し得る(例えば、電気透析法、適切な樹脂の添加、又は逆浸透法による)。
【0050】
形成された化合物の塩を所望する場合には、この工程(ii)の前又は後に、それを調製し得、とりわけ、上記で定義するような生理学的に許容される酸又は塩基の付加によりそれを調製し得る。
【0051】
式(II)の化合物は、下記式(III):
【0052】
【化8】

【0053】
(式中、
【0054】
【化9】

【0055】
、R、R及びRは、上記で定義されたとおりである)
のベタイン型の化合物、又はその互変異性体、その立体異性体、又は全ての割合でのその立体異性体混合物、特にそのエナンチオマー混合物、とりわけそのラセミ混合物の酸付加塩(ヨウ化水素酸(HI)塩は除く)を臭素(dibrome)と反応させ、
次いで下記式(IV):
【0056】
【化10】

【0057】
(式中、
− R及びRは、上記で定義したとおりである)
のシステイン誘導体、又はその立体異性体、又は全ての割合でのその立体異性体混合物、特にそのエナンチオマー混合物、とりわけそのラセミ混合物と連続して反応させることにより調製され得る。
【0058】
本発明によれば、「式(III)のベタイン型の化合物の酸付加塩」とは、ヨウ化水素酸(HI)以外の酸を付加することにより得られた、式(III)のベタイン型の化合物の塩を意味する。酸は、特に、塩酸又は硫酸であり得る。
【0059】
この反応において、臭素は、式(III)のベタイン型の化合物に対して、1〜1.5モル当量の割合で使用し得る。
【0060】
好ましくは、臭素は、10℃よりも低い温度で、好ましくは5℃よりも低い温度で、冷却して添加する(非常に急速な添加が好ましい)。従って、臭素の添加は、−10℃〜10℃の範囲の温度で、有利には−5℃〜5℃の範囲の温度で実施され得る。
【0061】
システイン誘導体は、特にN−アセチルシステイン又はシステイン(とりわけ、D型、L型、又はラセミ体)であり得、特にシステイン、とりわけL−システインであり得る。
【0062】
システイン誘導体は、式(III)のベタイン型の化合物に対して、有利には、過剰に使用され、特に2〜10モル当量、有利には3〜7モル当量の割合のシステイン誘導体が使用される、すなわち、使用される化合物(III)1モルに対して、2〜10モル、有利には3〜7モルのシステイン誘導体が使用される。
【0063】
この反応は、水などの溶媒中で実施され得る。
【0064】
この工程の収率は、45%以上であり得、さらには60%以上であり得る。
【0065】
好ましくは、式(II)の化合物は、反応媒体から単離されることなく、その後の工程(i)に直接携わり得る。従って、化合物(III)からの化合物(I)の調製は、中間体化合物(II)の単離を行うことなく、単一の反応器中で実施されてよい(「ワンポット」反応)。
【0066】
従って、本発明による式(I)の化合物の調製方法は、以下の連続した工程を含み得る:
(a1)上記で定義されたような式(III)のベタイン型の化合物、又はその互変異性体、その立体異性体、又は全ての割合でのその立体異性体混合物、特にそのエナンチオマー混合物、とりわけそのラセミ混合物の酸付加塩(ヨウ化水素酸塩を除く)を臭素と反応させ、
次いで、上記で定義されたような式(IV)のシステイン誘導体、又はその立体異性体、又は全ての割合でのその立体異性体混合物、特にそのエナンチオマー混合物、とりわけそのラセミ混合物、特にシステイン、とりわけL−システインと反応させて、
上記で定義されたような式(II)の化合物を得る工程、
(b1)前記工程(a1)で得られた式(II)の化合物について、好ましくは反応溶媒(とりわけ水であってよい)に溶解性の上記で定義されたようなチオールの存在下で、60℃以上の温度で開裂反応を行って、式(I)の化合物を得る工程、及び
(c1)前記工程(b1)で得られた式(I)の化合物を反応媒体から分離する工程。
【0067】
工程(b1)及び(c1)は、それぞれ、前記工程(i)及び(ii)に対応する。一方、工程(a1)は、式(II)のベタイン型の化合物の上記調製工程に対応する。
【0068】
有利には、工程(a1)及び(b1)は、水などの同一溶媒中で、好ましくは同一反応器中で、すなわち、中間体生成物(特に式(II)の化合物)の単離を伴わずに、実施される。
【0069】
これらの条件下で、反応媒体中には、工程(a1)で好ましくは過剰に使用されるシステイン誘導体が含まれ得る。従って、式(I)の化合物の単離及び精製を容易にするために、式(I)の化合物を反応媒体から分離する工程(工程(c1))の前に、過剰なシステイン誘導体を排除する必要があり得る。とりわけ、R=H又は(C−C)アルキルであるシステイン誘導体の場合、特にシステインの場合には、例えば、ベンズアルデヒドを添加してよく、これによって、過剰なシステイン誘導体により、2−フェニルチアゾリジン−4−カルボン酸誘導体が形成され、この化合物は水などの溶媒中に沈殿する。この方法により、過剰なシステイン誘導体をリサイクルし得る。
【0070】
式(III)のベタイン型の化合物から調製される式(I)の化合物の総収率は、40%以上であり得る。
【0071】
本発明の特定の実施態様によれば、式(I)の化合物は、式(Ia)の化合物であり、その調製方法は、以下の連続する工程を含む:
(a2)下記式(IIIa):
【0072】
【化11】

【0073】
(式中、
【0074】
【化12】

【0075】
、R、R及びRは、上記で定義されたとおりである)
のベタイン型の化合物、又はその互変異性体、その立体異性体、又は全ての割合でのその立体異性体混合物、特にそのエナンチオマー混合物、とりわけそのラセミ混合物の酸付加塩(ヨウ化水素酸塩を除く)を臭素と反応させ、
次いで、上記で定義されたような式(IV)のシステイン誘導体、又はその立体異性体、又は全ての割合でのその立体異性体混合物、特にそのエナンチオマー混合物、とりわけそのラセミ混合物、特にシステイン、とりわけL−システインと反応させて、
下記式(IIa):
【0076】
【化13】

【0077】
(式中、
【0078】
【化14】

【0079】
、R、R、R、R及びRは、上記で定義されたとおりである)
のベタイン型の化合物、又はその薬理学的に許容される塩、その互変異性体、その立体異性体、又は全ての割合でのその立体異性体混合物、特にそのエナンチオマー混合物、とりわけそのラセミ混合物を得る工程、
(b2)前記工程(a2)で得られた式(IIa)のベタイン型の化合物について、好ましくは反応溶媒(とりわけ水であってよい)に溶解性の上記で定義されたようなチオールの存在下で、特にシステイン、ジチオトレイトール、2−メルカプトエタノール、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸又はチオグリコール酸、好ましくは3−メルカプトプロピオン酸とともに、60℃以上の温度で開裂反応を行って、式(Ia)の化合物を得る工程、及び
(c2)前記工程(b2)で得られた式(Ia)の化合物を反応媒体から分離する工程。
【0080】
工程(a2)、(b2)及び(c2)は、それぞれ、前記工程(a1)、(b1)及び(c1)に対応する。
【0081】
式(IIa)の化合物は、式(II)の化合物の特定の形態を表す。同様に、式(IIIa)のベタイン型の化合物は、式(III)のベタイン型の化合物の特定の形態を表す。
【0082】
本発明の別の目的は、下記式(II):
【0083】
【化15】

【0084】
(式中、
【0085】
【化16】

【0086】
は、
【0087】
【化17】

【0088】
を表し、かつ
− R、R、R、R、R、R及びRは、上記で定義されたとおりであるが、
【化18】

【0089】
が、
【0090】
【化19】

【0091】
を表し、
− R、R及びRが、それぞれメチル基を表し、
− R及びRが、それぞれ水素原子を表す、
化合物は除く)
の化合物、又はその生理学的に許容される塩、その互変異性体、その立体異性体、又は全ての割合でのその立体異性体混合物、特にそのエナンチオマー混合物、とりわけそのラセミ混合物である。
【0092】
除外される化合物は、以下に記載されている:Ishikawa et al.J.Biol.Chem.1974,249(14),4420。
【0093】
特に、この化合物は、式(II)(式中、
【0094】
【化20】

【0095】
が、
【0096】
【化21】

【0097】
を表し、
− R、R及びRが、それぞれメチル基を表す)
の化合物ではないだろう。
【0098】
この化合物は、とりわけ、上記で定義されたような式(IIa)の化合物であり得る。特に、この化合物は、2−{2−[(2−アンモニオ−2−カルボキシエチル)チオ]−1H−イミダゾール−4−イル}−1−カルボキシ−N,N,N−トリメチルエタンアミニウム二塩酸塩(Herc−Cys,2HCl)であり得る。
【0099】
本発明の別の目的は、下記式(II):
【0100】
【化22】

【0101】
(式中、
【0102】
【化23】

【0103】
は、
【0104】
【化24】

【0105】
を表し、かつ
− R、R、R、R、R、R及びRは、上記で定義されたとおりである)
の化合物、又はその生理学的に許容される塩、その互変異性体、その立体異性体、又は全ての割合でのその立体異性体混合物、特にそのエナンチオマー混合物、とりわけそのラセミ混合物の調製方法であって、
上記で定義されたような式(III)(式中、
【0106】
【化25】

【0107】
、R、R及びRは、上記で定義されたとおりである)
のベタイン型の化合物、又はその互変異性体、その立体異性体、又は全ての割合でのその立体異性体混合物、特にそのエナンチオマー混合物、とりわけそのラセミ混合物の酸付加塩(ヨウ化水素酸塩を除く)を臭素と反応させ、
次いで、上記で定義されたような式(IV)のシステイン誘導体と連続して反応させることによる、調製方法である。
【0108】
この反応において、臭素は、式(III)のベタイン型の化合物に対して、1〜1.5モル当量の割合で使用し得る。
【0109】
好ましくは、臭素は、10℃よりも低い温度で、好ましくは5℃よりも低い温度で、冷却して添加する(非常に急速な添加が好ましい)。従って、臭素の添加は、−10℃〜10℃の範囲の温度で、有利には−5℃〜5℃の範囲の温度で実施され得る。
【0110】
システイン誘導体は、特にN−アセチルシステイン又はシステイン(とりわけ、D型、L型、又はラセミ体)であり得、特にシステイン、とりわけL−システインであり得る。
【0111】
システイン誘導体は、式(III)のベタイン型の化合物に対して、有利には過剰に使用され、特に2〜10モル当量、有利には3〜7モル当量の割合のシステイン誘導体が使用される、すなわち、使用される化合物(III)1モルに対して、2〜10モル、有利には3〜7モルのシステイン誘導体が使用される。
【0112】
この反応は、水などの溶媒中で実施され得る。
【0113】
本発明は、以下の実施例を考慮することによりさらに理解されよう。以下の実施例は、本発明を説明するためにのみ提供されるものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0114】
特記のない限り、全ての反応は外気中で実施する。
【0115】
1− 本発明の式(II)の化合物の調製
実施例1:2−{2−[(2−アンモニオ−2−カルボキシエチル)チオ]−1H−イミダゾール−4−イル}−1−カルボキシ−N,N,N−トリメチルエタンアミニウム二塩酸塩(Herc−Cys,2HCl)の調製
【0116】
【化26】

【0117】
986mg(5mmol)のヘルシニン(V.N.Reinhold et al.,J.Med.Chem.11,258(1968))を10mLの水に溶解する。417μL(5mmol)の濃塩酸を添加し、次いで溶液を0℃に冷却する。非常に激しい撹拌下で、308μL(959mg、6mmol、1.2当量)の臭素を滴下する(添加時間:1分20)。反応混合物は黄色になり、赤みがかった固体が形成される。臭素の添加が完了してから5分後に、1.87g(15mmol、3当量)のL−システインを添加する。混合物はすぐにその色を失い、赤みがかった沈殿は数分間で溶解する。
【0118】
0℃で1時間撹拌後、混合物を濾過し、沈殿を2×0.5mLの水で洗浄する。
【0119】
75gのDOWEX(登録商標)50WX2−400を充填し、1N 塩酸(HCl)で予め調整したカラムに濾液を置く(depose)。400mLの1N 塩酸(HCl)、次いで500mLの2N 塩酸(HCl)で溶出した後、所望の生成物を含む分画を再度合わせる。溶媒留去し、2×20mLのトルエンで2回同時蒸発した後、乾燥し、894mg(46%)の所望の生成物を黄色結晶の形態で得る(この生成物は、Ishikawa et al.,J.Biol.Chem.249(14),4420(1974)により、エルゴチオネイン及びクロロアラニンから低収率で合成されているが、遊離アミノ酸の形態である)。
【0120】
H−NMR(DO/DCl,400 MHz):δ(ppm)=3.14(s,9H);3.37(m,2H);3.56(m,2H);4.20(m,1H);4.28(m,1H);7.31(s,1H)。
UPLC−MS (ES+): 317.4 (MH+)
【0121】
実施例2:2−{2−[(2−アンモニオ−2−カルボキシエチル)チオ]−1H−イミダゾール−4−イル}−1−カルボキシ−N,N,N−トリメチルエタンアミニウムジクロリド二塩酸塩(Herc−Cys,2HCl)の調製(L−システイン量の変動)
【0122】
【化27】

【0123】
臭素の添加が完了してから7分後に3.12g(25mmol、5当量)のL−システインを添加した以外は、実施例1に記載の方法と同じ方法を使用する。
【0124】
DOWEX(登録商標)カラムで処理及び精製した後、乾燥し、1.13g(58%)の所望の生成物を黄色結晶の形態で得る。
【0125】
H−NMR(DO/DCl)分析は、実施例1に記載のものと同一である。
【0126】
2− 式(II)の中間体からの本発明の式(I)の化合物の調製
実施例3:Herc−Cys,2HClの開裂によるL−エルゴチオネインの調製
【0127】
【化28】

【0128】
1.67g(4.4mmol)のHerc−Cys,2HClを16.7mLの水に可溶化し、1.895mL(2.29g、21.39mmol、5当量)の3−メルカプトプロピオン酸を添加する。透明で淡黄色の混合物を、撹拌下で24時間、85℃で加熱する。次いで、1.895mL(2.29g、21.39mmol、5当量)の3−メルカプトプロピオン酸を再度添加し、48時間加熱を継続する。
【0129】
反応混合物を0℃まで冷却し、白色沈殿が形成される。沈殿を濾過し、2×2mLの冷水ですすいだ後、濾液を5×20mLのジクロロメタン及び5×20mLの酢酸エチルで洗浄する。
【0130】
水相を減圧下で蒸発させ、残留物を33mLの水に溶解する。20%アンモニア溶液を添加することにより、溶液のpHを6に調整する。凍結乾燥後、得られた粉末をエタノール/水(7/1)混合物中に加熱可溶化(solubilisee a chaud)する。活性炭(100mg)を添加し、Clarcelで熱時濾過(filtration a chaud)した後、得られた溶液を14時間冷却して保持する。濾過及び乾燥後、676mg(69%)のL−エルゴチオネインが白色粉末の形態で得られる。
【0131】
得られた分析データは、文献(J.Xu,J.C.Yadan,J.Org.Chem.60,6296−6301(1995))で得られたものと同一である。
【0132】
H−NMR(DO,400MHz):δ(ppm)=3.20(m,2H);3.29(s,9H);3.90(dd,J=11Hz,J=5Hz,1H);6.81(s,1H)。
UPLC−MS(ES+):230.6(MH+)
【0133】
3− 式(II)の中間体の単離を伴わない、本発明の式(I)の化合物の調製
実施例4:ヘルシニンからのL−エルゴチオネインのワンポット調製(樹脂で水相を脱塩後に精製)
a)Herc−Cys付加物(式(II)の化合物)の形成
19.72g(0.1mol)のヘルシニン(V.N.Reinhold et al.,J.Med.Chem.11,258(1968))を200mLの水に溶解する。8.35mL(0.1mol)の濃塩酸を添加し、次いで溶液を2℃まで冷却する。非常に激しい撹拌下で、3℃を超えることなく、6.68mL(20.77g、130mmol、1.3当量)の臭素を滴下する(添加時間:10分間)。反応混合物は黄色になり、赤みがかった固体が形成される。臭素の添加が完了してから7分後に、62.4g(0.5mol、5当量)のL−システインを添加し、内部温度は3℃まで上昇する。混合物はすぐにその色を失い、赤みがかった沈殿は数分間で溶解する。
【0134】
0℃で1時間撹拌した後、H−NMR(DO)によるサンプルの分析によって、Herc−Cys付加物が反応収率55%で形成されることが示される。
【0135】
氷浴を取り除き、反応混合物を1時間撹拌させておく。内部温度は10℃まで上昇する。得られた生成物は反応媒体から単離することなく、次の工程に直接使用する。
【0136】
b)L−エルゴチオネインの形成
次いで、87.7mL(106g、10当量)の3−メルカプトプロピオン酸を混合物に添加し、激しい撹拌下で、80℃で22時間加熱する。
【0137】
H−NMR(DO)によるサンプルの分析によって、Herc−Cys付加物が、エルゴチオネインへと完全に切断されることが示される。
【0138】
c)L−エルゴチオネインの単離
室温まで冷却後、橙褐色混合物を4×400mLの酢酸エチルで抽出する。
【0139】
水相を保持し、20%アンモニア水溶液(およそ21mL)でpHを4.5〜5に調整する。媒体中に存在する過剰なL−システインを捕えるために、50.8mL(53.0g、5当量)のベンズアルデヒドを添加する(M.P.Schubert,J.Biol.Chem.114,341−350(1936)又はM.Seki et al.,J.Org.Chem.67(16),5532(2002)による)。
【0140】
混合物を室温で15時間撹拌し、2−フェニルチアゾリジン−4−カルボン酸が浅黄色固体の形態で沈殿する。固体を濾過し、4×50mLの水ですすいだ後、濾液を2×200mLの酢酸エチルで抽出する。
【0141】
d)樹脂での水相の脱塩後の精製
最終生成物の結晶化を容易にするために、保持した水相を脱塩する。これを行うために、例えば、炭酸水素塩型のアンバーライト(Amberlite)IRA410樹脂で処理する(K.A.Piez et al.,J.Biol.Chem.194,669−672(1952)による)。120gの樹脂を反応混合物に添加し、室温で2時間撹拌する。激しいガスの放出が観察され、媒体の変色も進む。さらに、反応混合物のpHはpH=8まで下がる。2時間接触させた後、樹脂を濾過する。5×20mLの水ですすいだ後、操作をもう2回繰り返す。
【0142】
次いで、濾液を蒸発乾固し、得られた固体を水性エタノールで再結晶化する。8.21g(34.9%)のL−エルゴチオネインを白色粉末の形態で得る。
【0143】
H−NMR(DO,400MHz):δ(ppm)=3.20(m,2H);3.29(s,9H);3.90(dd,J=11Hz,J=5Hz,1H);6.81(s,1H)。
UPLC−MS(ES+):230.6(MH+)
[α]=+124.6°(c=1,HO)
【0144】
実施例5:ヘルシニンからのL−エルゴチオネインの「ワンポット」調製(電気透析による水相の脱塩後に精製)
a)Herc−Cys付加物(式(II)の化合物)の形成
98.6g(0.5mol)のヘルシニンを1.5Lの水に溶解する。機械的撹拌を備えたガラス二重ジャケット反応器(reacteur en verre double)に溶液を移す。41.75mL(0.5mol)の濃塩酸を添加し、次いで溶液を0℃まで冷却する。非常に激しい撹拌下で、2℃を超えることなく、34mL(106g、0.66mol、1.3当量)の臭素を滴下する(添加時間:6.5分間)。反応混合物は黄色になり、赤みがかった薄片(flocons)が形成される。臭素の添加が完了してから7分後に、432g(3.5mol、7当量)のL−システインを添加し、内部温度は4℃まで上昇する。混合物はすぐにその色を失い、赤みがかった沈殿は数分間で溶解する。白っぽい懸濁液が得られる。
【0145】
0℃で1時間撹拌後、H−NMR(DO)によるサンプルの分析によって、Herc−Cys付加物が反応収率56%で形成されることが示される。
【0146】
冷却システムを止め、反応混合物を1時間撹拌させたままにする。内部温度は10℃まで上昇する。
【0147】
b)L−エルゴチオネインの形成
次いで、441mL(533g、5mol、10当量)の3−メルカプトプロピオン酸を混合物に添加し、激しい撹拌下で、80℃で24時間加熱する。
【0148】
H−NMR(DO)によるサンプルの分析によって、Herc−Cys付加物がエルゴチオネインへと完全に切断されることが示される。
【0149】
c)L−エルゴチオネインの単離
室温まで冷却後、橙褐色混合物を4×2Lの酢酸エチルで抽出する。
【0150】
水相を保持し、20%アンモニア水溶液(およそ110mL)でpHを4.5〜5に調整する。媒体中に存在する過剰なシステインを捕えるために、359mL(375g、3.5mol、7当量)のベンズアルデヒドを添加する(M.P.Schubert,J.Biol.Chem.114,341−350(1936)又はM.Seki et al.,J.Org.Chem.67(16),5532(2002)による)。
【0151】
混合物を室温で15時間撹拌し、2−フェニルチアゾリジン−4−カルボン酸が浅黄色固体の形態で沈殿する。固体を濾過し、4×500mLの水ですすいだ後、濾液を4×1.5Lの酢酸エチルで抽出する。
【0152】
d)電気透析による水相の脱塩後の精製
最終生成物の結晶化を容易にするために、保持した水相を脱塩する。これを行うために、例えば、電気透析により脱塩する(PCCell(Germany)のBench Scale Electrodialysis Pump System BED 1−3、セル(cellule)ED200−020、20対の膜(カチオン交換PC−SK、アニオン交換PC−SA)、10V)。
【0153】
次いで、脱塩した溶液を蒸発乾固し、得られた固体を水性エタノールで再結晶化する。47.68g(41%)のL−エルゴチオネインが白色粉末の形態で得られる。
【0154】
H−NMR(DO,400MHz):δ(ppm)=3.20(m,2H);3.29(s,9H);3.90(dd,J=11Hz,J=5Hz,1H);6.81(s,1H)。
UPLC−MS(ES+:230.6(MH+)
[α]=+125.2°(c=1,HO)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】

(式中、
− R及びRは、互いに独立して、水素原子、又はメチルなどの(C−C)アルキル基を表し、R及びR基の少なくとも1つは水素原子を表し、有利にはそれぞれ水素原子を表し、かつ
− R、R及びRは、互いに独立して、メチルなどの(C−C)アルキル基を表す)
の誘導体、又はその生理学的に許容される塩、その互変異性体、その立体異性体、又は全ての割合でのその立体異性体混合物、特にそのエナンチオマー混合物、とりわけそのラセミ混合物の合成方法であって、以下の連続する工程:
(i)下記式(II):
【化2】

(式中、
【化3】

は、
【化4】

を表し、
− R、R、R、R及びRは、上記で定義されたとおりであり、
− Rは、水素原子、又は(C−C)アルキル基若しくは−CO−((C−C)アルキル)基を表し、特に水素原子又は−COCH基を表し、とりわけ水素原子を表し、かつ
− Rは、水素原子又は(C−C)アルキル基を表し、特に水素原子を表す)
のベタイン型の化合物、又はその生理学上許容される塩、その互変異性体、その立体異性体、又は全ての割合でのその立体異性体混合物、特にそのエナンチオマー混合物、とりわけそのラセミ混合物について、好ましくは反応溶媒(水であってよい)に溶解性のチオールの存在下で、60℃以上の温度で開裂反応を行って、式(I)の化合物を得る工程、及び
(ii)前記工程(i)で得られた式(I)の化合物を反応媒体から分離する工程、
を含む、合成方法。
【請求項2】
前記チオールが、式R−SH(式中、Rは、1〜8個の炭素原子、とりわけ2〜6個の炭素原子を含む、直鎖状又は分枝状、好ましくは直鎖状のアルキル鎖であって、OH、SH、NH及びCOOHから選択される1つ以上の基で置換されているものを表す)に対応することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記チオールが、システイン、ジチオトレイトール、2−メルカプトエタノール、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、メルカプト酢酸、メルカプトへキサン酸及びチオグリコール酸から選択され、好ましくは3−メルカプトプロピオン酸であることを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記工程(i)が、60℃〜120℃の範囲の温度で、とりわけ80℃〜100℃の範囲の温度で実施されることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項5】
式(I)の化合物が、下記式(Ia):
【化5】

(式中、
− R、R、R、R及びRは、請求項1で定義されたとおりである)
に対応するか、又はその生理学的に許容される塩、その互変異性体、その立体異性体、又は全ての割合でのその立体異性体混合物、特にそのエナンチオマー混合物、とりわけそのラセミ混合物に対応することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
式(I)の化合物が、エルゴチオネイン、とりわけL−エルゴチオネインを表すことを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
式(II)のベタイン型の化合物が、下記式(III):
【化6】

(式中、
【化7】

、R、R及びRは、請求項1で定義されたとおりである)
のベタイン型の化合物、又はその互変異性体、その立体異性体、又は全ての割合でのその立体異性体混合物、特にそのエナンチオマー混合物、とりわけそのラセミ混合物の酸付加塩(ヨウ化水素酸塩を除く)を臭素と反応させ、
次いで、下記式(IV):
【化8】

(式中、
− R及びRは、請求項1で定義されたとおりである)
のシステイン誘導体、又はその立体異性体、又は全ての割合でのその立体異性体混合物、特にそのエナンチオマー混合物、とりわけそのラセミ混合物と連続して反応させることにより調製されることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
式(I)の化合物が、請求項5で定義されたとおりの式(Ia)に対応し、以下の連続する工程:
(a2)下記式(IIIa):
【化9】

(式中、
【化10】

、R3、及びRは、請求項1で定義されたとおりである)
のベタイン型の化合物、又はその互変異性体、その立体異性体、又は全ての割合でのその立体異性体混合物、特にそのエナンチオマー混合物、とりわけそのラセミ混合物の酸付加塩(ヨウ化水素酸塩を除く)を臭素と反応させ、
次いで、請求項7で定義されたとおりの式(IV)のシステイン誘導体、又はその立体異性体、又は全ての割合でのその立体異性体混合物、特にそのエナンチオマー混合物、とりわけそのラセミ混合物、特にシステイン、とりわけL−システインと連続して反応させて、下記式(IIa):
【化11】

(式中、
【化12】

、R、R、R、R及びRは、請求項1で定義されたとおりである)
のベタイン型の化合物、又はその生理学的に許容される塩、その互変異性体、その立体異性体、又は全ての割合でのその立体異性体混合物、特にそのエナンチオマー混合物、とりわけそのラセミ混合物を得る工程、
(b2)前記工程(a2)で得られた式(IIa)のベタイン型の化合物について、チオールの存在下で、60℃以上の温度で開裂反応を行って、式(Ia)の化合物を得る工程、及び
(c2)前記工程(b2)で得られた式(Ia)の化合物を反応媒体から分離する工程、
を含むことを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記システイン誘導体が、式(III)のベタイン型の化合物に対して、過剰に使用され、2〜10モル当量、有利には3〜7モル当量の割合のシステイン誘導体が使用されることを特徴とする、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
臭素を、式(III)のベタイン型の化合物に対して、1〜1.5モル当量の割合で使用することを特徴とする、請求項7乃至9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
化合物(III)からの化合物(I)の調製が、中間体化合物(II)を単離することなく、単一の反応器中で実施されることを特徴とする、請求項7乃至10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
下記式(II):
【化13】

(式中、
【化14】

は、
【化15】

を表し、かつ
− R、R、R、R、R、R及びRは、請求項1で定義されたとおりであるが、
【化16】

が、
【化17】

を表し、
− R、R及びRが、それぞれメチル基を表し、かつ
− R及びRがそれぞれ水素原子を表す、
化合物を除く)
のベタイン型の化合物、又はその生理学的に許容される塩、その互変異性体、その立体異性体、又は全ての割合でのその立体異性体混合物、特にそのエナンチオマー混合物、とりわけそのラセミ混合物。
【請求項13】
下記式(II):
【化18】

(式中、
【化19】

は、
【化20】

を表し、かつ
− R、R、R、R、R、R及びRは、請求項1で定義されたとおりである)
のベタイン型の化合物、又はその生理学的に許容される塩、その互変異性体、その立体異性体、又は全ての割合でのその立体異性体混合物、特にそのエナンチオマー混合物、とりわけそのラセミ混合物の調製方法であって、
請求項7で定義されたとおりの式(III)のベタイン型の化合物の酸付加塩(ヨウ化水素酸塩を除く)を臭素と反応させ、
次いで、請求項7で定義されたとおりの式(IV)のシステイン誘導体、特にシステイン、とりわけL−システインと反応させることを特徴とする、調製方法。
【請求項14】
臭素を、式(III)のベタイン型の化合物に対して、1〜1.5モル当量の割合で使用することを特徴とする、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記システイン誘導体が、式(III)のベタイン型の化合物に対して、過剰に使用され、2〜10モル当量、有利には3〜7モル当量の割合のシステイン誘導体が使用されることを特徴とする、請求項13又は14に記載の方法。

【公表番号】特表2013−506706(P2013−506706A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532585(P2012−532585)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【国際出願番号】PCT/EP2010/064950
【国際公開番号】WO2011/042480
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(507022330)
【氏名又は名称原語表記】TETRAHEDRON
【Fターム(参考)】