説明

エレクトレット、気体浄化用フィルター及びそれらの製造方法

【課題】特にトナー粒子の様な、一方の極性に荷電した粒子の捕集において優れた性能を発揮するエレクトレット体及び気体浄化用フィルターを提供する。
【解決手段】(A)表面に樹脂が存在するニードルとポリオレフィン系繊維を含む不織布を接触させて製造する事を特徴とするエレクトレット、(B)ポリオレフィン系繊維としてポリプロピレンが含まれ、かつニードル表面に存在する樹脂がアクリル系樹脂を含む事を特徴とする(A)に記載のエレクトレット、(C)ポリオレフィン系繊維としてポリプロピレンが含まれ、ニードル表面に存在する樹脂がハロゲン含有化合物系樹脂を含む事を特徴とする(A)あるいは(B)に記載のエレクトレット、(D)(A)から(C)のいずれかの記載のエレクトレットを含むシートがプリーツ状又は波状に成型されてなることを特徴とする気体浄化フィルター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に気体中のトナー等の単一極性帯電粒子を高い効率で捕集する事が出来るエレクトレット、及びそれを用いた気体浄化フィルターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、比較的長寿命の静電電荷が付与された誘電材料をエレクトレットと称し、一般に気体浄化フィルター等の分離材料、マスク等の衛生材料、マイクロフォン等の電子材料に利用している。
【0003】
気体浄化の分野でエレクトレットは、その静電気力により通常の繊維材料では除去しにくい微細塵や帯電粒子を高効率で除去する事が出来るという特徴を有する。この分野で用いられるエレクトレットを構成する誘電材料はポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂等の合成高分子材料等高い電気抵抗率を有する材料である。
【0004】
エレクトレットの製造方法としては不織布或いはフィルムに対してコロナ放電などにより高電圧を印加する方法や、二種以上の異なる繊維を摩擦させ、その際に生ずる摩擦帯電を利用する方法が従来用いられている。前者については繊維或いはフィルム内で正電荷と負電荷が存在する分極が起こっており、後者については帯電列に従い一方の繊維が正、もう一方の繊維が負に帯電している。いずれの場合もエレクトレット内の正電荷と負電荷の数がほぼ同一、つまりエレクトレット全体で見ると電気的にほぼ中性である。
【0005】
ところでコピー機やプリンター、ファックス等の印字にはトナーが用いられている。トナーは一般にカーボンブラック等で黒色に着色した樹脂微粒子であり、装置から排出されると周囲の美観を損ねたり、電子機器等の誤作動の原因となったり、健康に影響を与えたりする恐れがある。よって排出経路にフィルターを設置してトナーを捕集しその排出を防ぐ手段が有効である。特に最近の高画質化においてトナーは小粒径化の方向にあり、よりトナーを効率的に捕集するフィルターへの要望が高まっている。エレクトレットはその静電気力によりトナーを高効率で捕集するフィルターの材料として期待出来、適用が検討されて来た(例えば特許文献1参照)。
【0006】
ところが一般的な気体浄化フィルターの捕集対象である気体中の微細塵や粉塵等の粒子は正電荷と負電荷の数がほぼ同一、つまり全体で見ると電気的にほぼ中性であるのに対して、多くのトナー粒子は正或いは負どちらか一方に偏った極性で帯電している。その為、トナーの様な単一極性帯電粒子を捕集する際にフィルター材料として前記のエレクトレットを用いる場合、フィルターが粒子と同一の極性に帯電している部分では粒子との反発が起こる為捕集には無効であり、粒子と逆の極性で帯電している部分か、全く帯電していない部分のみが捕集に有効である。前記の様にエレクトレット上に存在する正電荷と負電荷の数は基本的にほぼ同一である事を考えるとエレクトレットのかなりの部分がトナー粒子の捕集には寄与していない事になり、その結果として捕集効率が低くなる点が問題である。
【0007】
上記の様な問題を解決する手段として、シートが保有する正負の電荷量の差が大きいエレクトレットを用いる事がある(例えば特許文献2及び特許文献3参照)。しかし該文献においてはコロナ放電を用いた高電圧印加という方法が用いられており、単一材料内の分極のバランスが若干崩れた結果電荷量の偏りはあるものの、正負両方の電荷がそれぞれ相当数存在すると考えられ、やはりトナー捕集には有効ではない部分を多く含むエレクトレットしか得る事が出来ない。
【0008】
【特許文献1】特開昭63−18385号公報
【特許文献2】特開昭63−287012号公報
【特許文献3】特開平05−226187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は上記公知のエレクトレットの問題を解決し、トナー等の単一極性に帯電した粒子について高い捕集効率を有する低圧力損失のエレクトレット及びそれを利用した気体浄化フィルターならびにそれらの製造法を提供することにある。
即ち、除去対象粒子とは逆の極性で帯電した部分が多く有するエレクトレット及びそれを利用した気体浄化フィルターを作成する事が本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決する為にエレクトレットの作成方法を種々検討した結果、ポリオレフィン系繊維を含む不織布に対し、樹脂、例えばアクリル系樹脂やハロゲン含有化合物系樹脂が表面に存在するニードルを接触させる事により製造したエレクトレットが、コロナ放電等従来の方法で製造したエレクトレットより高いトナー捕集性能を有する事を見出した。このエレクトレットは、そのほとんどの帯電電荷の極性が除去対象のトナーとは逆の極性である為、高いトナー捕集性能を有している。
【0011】
本発明者らは上記の知見を基に更に重ねて検討した結果、本発明に到達したものである。
【0012】
即ち、本発明は表面に樹脂が存在するニードルとポリオレフィン系繊維を含む不織布を接触させて製造する事を特徴とするエレクトレット、及びそれを含む気体浄化フィルターを提供するものである。
【0013】
本発明の好ましい実施形態は、ポリオレフィン系繊維としてポリプロピレンが含まれ、前記エレクトレットを製造する際のニードル表面に存在する樹脂がアクリル系樹脂、或いはハロゲン含有化合物系樹脂である事である。
【0014】
本発明の好ましい実施形態は、前記気体浄化フィルターが前記エレクトレットを含むシートをプリーツ状又は波状に成型されてなることである。
【発明の効果】
【0015】
本発明におけるエレクトレット体及び気体浄化用フィルターは、特にトナー粒子の様な、一方の極性に荷電した粒子の捕集において優れた性能を発現するという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明におけるエレクトレット体はポリオレフィン系繊維を含むが、そのポリオレフィン系繊維としては特に限定されるものではなくポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、エチレン−ポリプロピレン共重合体、ポリスチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン等が用いられ、特にポリエチレン、ポリプロピレンが好ましく用いられる。
【0017】
本発明におけるエレクトレット体は不織布から成るが、その不織布を製造する手段は特に限定せず、帯電させる目的でニードルを接触させる前に製造する方法、或いはニードルを接触させると同時に製造する方法、ニードルを接触させた後に製造する方法のいずれでも構わない。ニードルを接触させる前に不織布を製造する方法としては従来知られているメルトブロー法、スパンボンド法、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、スパンレース法等のいずれも好ましく用いられる。ニードルを接触させると同時にシート化する方法としては原料の繊維からカーディングによりウェブを作成し、それを表面に樹脂が存在するニードルで突きながら交絡させるニードルパンチ法等があり、これも好ましく用いられる。
【0018】
本発明におけるエレクトレットの目付は5〜300g/m2が好ましく、10〜200g/m2が更に好ましい。目付が高すぎるとフィルターとして用いた場合の圧力損失が大きくなり好ましくない。目付が低すぎると粒子捕集性能が低くなり過ぎ実用的ではない。
【0019】
本発明におけるエレクトレットに用いられる繊維の径は、要求される性能によって異なるが1〜100μmとするのが好ましく、1〜80μmであると更に好ましい。繊維の径が1μmより小さいとエレクトレットの圧力損失が高くなり過ぎ、繊維の径が大き過ぎると粒子捕集が大きく低下するので好ましくない。繊維の断面は円形、三角形、矩形、異形など種々の形状の物を使用出来る。
【0020】
一般に繊維は加工性を良好にする為に潤滑剤や帯電防止剤など各種の油剤が塗布されているが、繊維上に油剤が付着したままでは摩擦させても十分に帯電しない。従って本発明において、エレクトレットの材料に用いられる繊維上に油剤が残留している場合は摩擦が発生する前に繊維から油剤を除去しておく事が有効である。洗浄の方法としては水、温水、アルコール等の溶剤を用いる方法、更にノニオン系の洗浄剤等を併用する等の手段がある。油剤除去の程度に関しては、JIS L−1015化学ステープル試験方法に記載されているメタノール抽出分法で測定して0.2%未満であれば油剤が除去されているとみなす事が出来る。
【0021】
本発明において、除去対象のトナー等単一極性帯電粒子やエレクトレット体の帯電極性を把握する事が必要である。その方法は特に限定はしないが、ファラデーカップ(互いを絶縁した二重の金属カップ)を接続し、内側のカップに目的の粒子やエレクトレット体を入れ、静電誘導によって外側にあるカップに発生した電荷の極性をエレクトロメータによって測定する方法が好ましく用いられる。
【0022】
本発明において、樹脂が表面に存在するニードルと不織布を接触させる方法は特に限定しないが、ニードルパンチ機にニードルを取り付け、通常の場合と同様に不織布に対してニードルパンチを施す方法が好ましく用いられる。ニードルの形状については特に限定しないが、効果的に交絡や摩擦が行われる様にバーブや凹凸等が付いている事が好ましい。
【0023】
本発明に用いられるニードル表面に存在させる樹脂は、捕集対象粒子を高効率で捕集する為に、その粒子の電荷極性とは逆の極性にフィルター材料が帯電し、かつその帯電量がなるべく大きくなる様に選定する必要がある。捕集対象粒子が負に帯電している場合はエレクトレットを正に帯電させる事が必要であるので、フィルター材料にポリプロピレンが含まれる場合はニードル表面に存在させる樹脂としてはテフロン(登録商標)、ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデン等のハロゲン含有樹脂等が好ましく用いられる。捕集対象粒子が正に帯電している場合はエレクトレットを負に帯電させる事が必要である。フィルター材料にポリプロピレンが含まれる場合はニードル表面に存在させる樹脂としてはポリアクリロニトリルやポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂が好ましく用いられる。
ニードルの表面に樹脂を存在させる方法としては、(1)樹脂の特性に応じて加熱融解、ないしは溶媒等に溶解または分散させる等して流動し易い状態にし、一般に用いられている金属製のニードルにスプレーやディッピング等の方法を用いてニードル表面に付着させ、その後冷却する、或いは溶媒等を除去する事により固化させ、必要なら表面を平滑にする等の仕上げをして最終的に樹脂を存在させる方法、或いは(2)樹脂を射出や押出し成形により直接ニードル形状に成形する方法が好ましく用いられる。
ニードル上に存在する樹脂については、ニードルパンチ運転時にフィルター材料と接触する部分が全て樹脂で被覆されており、かつその樹脂部分の厚みが1μm以上である事が好ましい。樹脂部分の厚みが1μm未満である場合、摩擦によって容易に剥離が発生して樹脂部分とフィルター材料の摩擦が有効に起こらないおそれがある。
【0024】
本発明におけるエレクトレットを製造する際にニードルを不織布に接触させる際の温度・湿度については特に限定はしないが絶対湿度がより低いほど帯電電荷量が大きくなり好ましい。
【0025】
本発明のエレクトレットの使用方法については特に限定しないが、本発明の気体浄化フィルターは、上記エレクトレットのシートをプリーツ状や波状、ハニカム状に成型してなる事が好ましい。なお、その際にはエレクトレット単独ではなく、不織布や脱臭剤を含むシート等の材料を強度や除塵能力増強、脱臭や抗菌等の機能付与等の目的で積層する事も出来る。積層の方法としては単に重ねる以外に接着剤を用いる方法やニードルパンチ等により交絡させる方法が好ましく用いられる。
【実施例】
【0026】
以下本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に沿って設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0027】
実施例及び比較例中のトナー捕集効率の値は以下の様に測定・算出した。空気中にトナー粒子をフルダイズドベッドエアロゾルジェネレーターにより供給し、トナー粒子を1cc当たり0.5g含む空気を調整した。そのトナー含有空気を平面状のエレクトレットに対し、面に垂直方向に線速5cm/秒で通過させた。エレクトレットの下流部には、エレクトレットを透過したトナー粒子を全て捕集する高性能のアブソリュートフィルターを設置した。上流からトナー粒子を供給し、供給前後のエレクトレット及びアブソリュートフィルターの重量を測定し、エレクトレットの重量増加分をエレクトレットのトナー捕集量、アブソリュートフィルターの重量増加分をエレクトレットのトナー透過量とし、エレクトレットのトナー捕集効率を下記の式を用い算出した。
トナー捕集効率(%)={1−トナー透過量/(トナー捕集量+トナー透過量)}×100
【0028】
トナー捕集効率の測定に用いるトナーの極性の判定、及びエレクトレットの帯電量についてはファラデー・ケージTR8031(アドバンテスト社)を振動容量型エレクトロメータTR8401(アドバンテスト社)に接続し、電荷測定モードにて測定を行った。トナーの場合は5g、エレクトレットの場合は直径72mmの円形の状態でファラデー・ケージ内に投入し、それぞれその計測値の正負によって正極性トナーか負極性トナーかを判断した。トナーは正極性トナー(平均粒径3μm)と負極性トナー(平均粒径3μm)を用いた。
【0029】
圧力損失の値は、平面状のシートに対しシート面と垂直方向に線速5cm/秒で通風した場合での値で、差圧計を用いて測定した。
【0030】
(実施例1)
繊維径18μm・繊維長51mmのポリプロピレン短繊維をカーディング及び通常の金属性のニードルパンチを用いて不織布シート化した。シートをノニオン系界面活性剤を用いて洗浄後、乾燥した。JIS L−1015化学ステープル試験方法に記載されているメタノール抽出分法で測定して残留油剤がシートに対して0.11重量%と0.2重量%未満である事が確認された。このシートを更に塩化ビニルで被覆したニードルでペネトレーション数が針深度7mmの条件でニードルパンチしたところ、目付70g/m2、圧力損失25Pa、帯電量+2.7×10-8クーロン/gの正極性のエレクトレットが得られ、負極性のトナーでトナー捕集効率を測定したところ、51%と高い値であった。
【0031】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で不織布シートを作成・洗浄し、更にポリアクリロニトリルで被覆したニードルでペネトレーション数が針深度7mmの条件でニードルパンチしたところ、目付68g/m2、圧力損失27Pa、帯電量−3.5×10-8クーロン/gの負極性のエレクトレットが得られ、正極性のトナーでトナー捕集効率を測定したところ、48%と高い値であった。
【0032】
(比較例1)
実施例1と同様の方法で不織布シートを作成・洗浄し、得られた不織布を+20KV/cmにて1分間のコロナ放電を実施して静電性の付与を行ったところ、目付72g/m2、圧力損失32Pa、帯電量+0.2×10-10クーロン/gのほぼ中性のエレクトレットが得られ、負極性のトナーでトナー捕集効率を測定したところ、35%と実施例1より低い値であった。
【0033】
(比較例2)
実施例1と同様の方法で不織布シートを作成・洗浄し、得られた不織布を+20KV/cmにて1分間のコロナ放電を実施して静電性の付与を行ったところ、目付71g/m2、圧力損失32Pa、帯電量+0.2×10-10クーロン/gのほぼ中性のエレクトレットが得られ、正極性のトナーでトナー捕集効率を測定したところ、31%と実施例2より低い値であった。
【0034】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明におけるエレクトレット体及び気体浄化用フィルターは、特にトナー粒子の様な、一方の極性に荷電した粒子の捕集において優れた性能を発現することが可能であり、近年急速に普及しているコピー機やプリンター、ファックス等の用途におけるトナーの小粒子化に対応することができるものであり、産業上の利用性は大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に樹脂が存在するニードルとポリオレフィン系繊維を含む不織布を接触させて製造することを特徴とするエレクトレット。
【請求項2】
ポリオレフィン系繊維としてポリプロピレンが含まれ、かつニードル表面に存在する樹脂がアクリル系樹脂を含む事を特徴とする請求項1に記載のエレクトレット。
【請求項3】
ポリオレフィン系繊維としてポリプロピレンが含まれ、ニードル表面に存在する樹脂がハロゲン含有化合物系樹脂を含む事を特徴とする請求項1又は2に記載のエレクトレット。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかの記載のエレクトレットを含むシートがプリーツ状又は波状に成型されてなることを特徴とする気体浄化フィルター。

【公開番号】特開2006−95449(P2006−95449A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−285722(P2004−285722)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】