説明

エレクトレット濾材およびその製造方法

【課題】電荷安定剤を含み、荷電紡糸法により紡糸された極細の高分子繊維を用いることにより、長時間にわたり電荷を安定に保持でき、フィルタ性能に優れたエレクトレット濾材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】電荷安定剤を含み、荷電紡糸法により紡糸された平均繊維径が0.001〜1μmの高分子繊維を用いるエレクトレット濾材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電荷安定剤を含み、荷電紡糸法により紡糸された高分子繊維を用いるエレクトレット濾材及びその製造方法、に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高分子体に、ヒンダードアミン系、含窒素ヒンダードフェノール系、金属塩ヒンダードフェノール系あるいは、フェノール系の安定剤から選ばれた少なくとも1種を配合して耐熱性を向上させる技術が、公知である(特許文献1)。
【0003】
また、特許文献2では、エレクトレット加工品に関して、ヒンダードアミン系添加剤等の添加量が、0.7〜3重量%の範囲において、エレクトレット性能が向上できることが開示されている。
【0004】
しかし、特許文献1では、耐熱性の向上は見られるが、使用される不織布の繊維径は、3μmと大きく、また、特許文献2記載のエレクトレット加工品を構成する不織布の繊維径も、2μmと大きく、十分なフィルタ性能を得ることができないという問題を有する。
【0005】
【特許文献1】特公平4−42812号公報
【特許文献2】特開2002−115178号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の問題点を鑑みて、電荷安定剤を含み、荷電紡糸法により紡糸された極細の高分子繊維を用いることにより、長時間にわたり電荷を安定に保持でき、フィルタ性能に優れたエレクトレット濾材及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のエレクトレット濾材は、電荷安定剤を含み、荷電紡糸法により紡糸された平均繊維径が0.001〜1μmの高分子繊維を用いる。
【0008】
本発明のエレクトレット濾材は、電荷安定剤が、ヒンダードアミン系、含窒素ヒンダードフェノール系、金属塩ヒンダードフェノール系、フェノール系、ヒンダードフェノール系、フェノール系硫黄系耐候性付与剤、脂肪酸金属塩からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0009】
本発明のエレクトレット濾材は、高分子繊維が、ポリアミドイミド、ポリ乳酸、ポリカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種の高分子体を含むものであることが好ましい。
【0010】
本発明のエレクトレット濾材は、電荷安定剤の含有量が、高分子繊維中、0.1〜30重量%であることが好ましい。
【0011】
本発明のエレクトレット濾材の製造方法は、電荷安定剤を含む高分子繊維及び有機溶媒を含有する有機溶液を調製する工程と、前記有機溶液を荷電紡糸法を用いて紡糸する工程と、を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のエレクトレット濾材は、荷電紡糸法により紡糸された平均繊維径が0.001〜1μmの高分子繊維を用いることにより、フィルタ性能に優れている。また、電荷安定剤を含有することにより、長時間にわたり電荷を安定に保持することができる。更に、電荷安定剤を多く含有すると、通常、高分子繊維は細くならないが、本願発明では、理由は明らかではないが、高分子繊維中、電荷安定剤が0.1〜30重量%と多く含有するにも関わらず、荷電紡糸法との相乗効果により、高分子繊維の平均繊維径を細くすることができ、フィルタ性能を向上させることができ、極めて有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のエレクトレット濾材の製造方法としては、例えば、高分子繊維を構成する高分子体を有機溶剤に溶解させた後、ここに電荷安定剤を溶解した有機溶液を調製し、次いで、前記有機溶液を荷電紡糸法を用いて、紡糸し、エレクトレット濾材を製造する方法が挙げられる。以下に、具体的な、使用原料、製造方法について説明する。
【0014】
また、本発明のエレクトレット濾材は、高いフィルタ性能を得るために、高分子繊維を用いるエレクトレット不織布を用いることが、好ましい態様である。
【0015】
本発明に使用する高分子体は、高い静電気永久帯電性を保持するものであれば、特に限定されるものではない。たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ−4メチル−1ペンテン、ポリ−3メチル−1ブテン、ポリフェニルサルファイド、ポリエーテルI−テルケトン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリサルホン、ポリアリレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、全芳香族ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリビニルフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体や、ポリフェニレンオキサイド等の絶縁性有機繊維、生分解性を有するポリ乳酸等の生分解性有機繊維の単独物や、それらの混合物を挙げることができる。特に、ポリアミドイミド、ポリカーボネート及びポリ乳酸は帯電特性が優れており、好ましい。とりわけ、ポリアミドイミドは耐熱性にも優れ工業的にエレクトレット化し易く、かつコスト的にも安価であり、好ましい。以下、ポリアミドイミドに関して詳細に説明する。
【0016】
ポリアミドイミドは、トリメリット酸クロリドとジアミンを用いる酸クロリド法や、トリメリット酸無水物とジイソシアネートを用いるジイソシアネート法等の通常の方法で合成されるが、製造コストの点からジイソシアネート法が好ましい。
【0017】
ポリアミドイミドの合成に用いられる酸成分は、トリメリット酸無水物またはトリメリット酸クロリドであるが、その一部を他の多塩基酸またはその無水物または酸クロリドに置き換えることができる。例えば、ピロメリット酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ビフェニルスルホンテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルエーテルテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、プロピレングリコールビストリメリテート等のテトラカルボン酸及びこれらの無水物または酸クロリド、シュウ酸、アジピン酸、マロン酸、セバチン酸、アゼライン酸、ドデカンジカルボン酸、ジカルボキシポリブタジエン、ジカルボキシポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)、ジカルボキシポリ(スチレン−ブタジエン)等の脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
【0018】
また、トリメリット酸化合物の一部を、グリコールに置き換えることもできる。グリコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、等のアルキレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコールや上記ジカルボン酸の1種又は2種以上と上記グリコールの1種又は2種以上とから合成される、末端水酸基のポリエステル等が挙げられる。
【0019】
ポリアミドイミドの合成に用いられるジアミン成分としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、4,4’ −ジシクロヘキシルメタンジアミン等の脂環族ジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4’ −ジアミノジフェニルメタン、4,4’ −ジアミノジフェニルエーテル、4,4’ −ジアミノジフェニルスルホン、ベンジジン、o−トリジン、2,4−トリレンジアミン、2,6−トリレンジアミン、キシリレンジアミン等の芳香族ジアミン及びこれらのジイソシアネート等が挙げられる。これらの中では反応性、コストの点から4,4’ −ジアミノジフェニルメタン、o−トリジンが好ましい。
【0020】
ポリアミドイミドの合成に用いられるジイソシアネート成分としては、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’ −ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネートや、4,4’ −ジアミノジフェニルメタン、4,4’ −ジアミノジフェニルエーテル、4,4’ −ジアミノジフェニルスルホン、ベンジジン、o−トリジンのジイソシアネート化合物、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等が挙げられる。これらの中では反応性、コストの点から4,4’ −ジフェニルメタン及びo−トリジンのジイソシアネート化合物が好ましい。
【0021】
ポリアミドイミドの重合に用いられる溶媒としては、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、γ―ブチロラクトン、N−メチルカプロラクタム等の有機極性アミド系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の水溶性エーテル化合物、アセトン、メチルエチルケトン等の水溶性ケトン系化合物、アセトニトリル、プロピオニトリル等の水溶性ニトリル化合物等が挙げられる。これらの溶媒は2種以上の混合溶媒として使用することも可能であり、特に制限されることはない。
【0022】
ポリアミドイミドを得るためには前記溶媒中、ジアミン成分の使用量が、酸成分のモル数に対する比として、好ましくは0.90〜1.20であり、より好ましくは0.95〜1.05である。本範囲を外れると高分子の重合化が進みにくくなる。
【0023】
ポリアミドイミドを得るためには前記溶媒中、ジイシシアネート成分の使用量が、酸成分のモル数に対する比として、好ましくは0.90〜1.20であり、より好ましくは0.95〜1.05である。本範囲を外れると高分子の重合化が進みにくくなる。
【0024】
ポリアミドイミドの重合条件として、上記溶剤中、不活性ガス雰囲気下で60〜200℃に加熱しながら攪拌することで容易に製造することができる。必要に応じてトリエチルアミン、ジエチレントリアミン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(DBU)等のアミン類、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム、ナトリウムメトキシド等のアルカリ金属塩等を触媒として用いることもできる。これらは2種以上の混合して使用することも可能であり、特に制限されることはない。
【0025】
ポリアミドイミドを溶解した有機溶液中のポリマー濃度としては、固形分濃度として0.1〜30重量%、特に好ましくは1〜20重量%である。ポリアミドイミドの濃度が0.1重量%より小さいと、濃度が低すぎるため不織布を形成することが困難となり好ましくない。また、30重量%より大きいと、得られる不織布の繊維径が大きくなり、好ましくない。
【0026】
ポリアミドイミド溶液を形成する有機溶媒としては、ポリアミドイミドを上記濃度内に溶解すれば特に限定されない。また、紡糸を行う際、ポリアミドイミドを製造した重合溶液のまま使用することも可能であり、また、ポリマーの貧溶媒を用い、ポリアミドイミドを析出、洗浄を行い、精製したものをポリマーの良溶媒に再溶解させ溶液として使用することも可能である。得られたポリアミドイミド繊維に支障がない場合は、重合溶媒をそのまま、紡糸の際に使用することが好ましい。
【0027】
前記ポリマーの析出等に用いる貧溶媒には、例えば、アセトン、クロロホルム、エタノール、イソプロパノール、メタノール、トルエン、テトラヒドロフラン、水、ベンゼン、ベンジルアルコール、1,4−ジオキサン、プロパノール、四塩化炭素、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、塩化メチレン、フェノール、ピリジン、トリクロロエタン、酢酸などの揮発性の高い溶媒や、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、1−メチル−2−ピロリドン(NMP)、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、アセトニトリル、N−メチルモルホリン−N−オキシド、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、ジエチルカーボネート、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジオキソラン、エチルメチルカーボネート、メチルホルマート、3−メチルオキサゾリジン−2−オン、メチルプロピオネート、2−メチルテトラヒドロフラン、スルホランなどの揮発性が相対的に低い溶媒が挙げられる。または、上記溶剤を2種以上混合させて用いることも可能である。
【0028】
本発明のエレクトレット不織布を構成する高分子繊維は、平均繊維径が0.001〜1μmである繊維より形成される。平均繊維径が0.001μmより小さいと、自己支持性が乏しく、強度の低下や、ハンドリング性の低下などの問題が生じ、好ましくない。また、平均繊維径が1μmより大きいと、表面積が小さくなり好ましくない。より好ましい平均繊維径は0.005〜0.8μmであり、特に好ましい平均繊維径は0.01〜0.5μmである。
【0029】
本発明のエレクトレット濾材に用いられる電荷安定剤は、ヒンダードアミン系、含窒素ヒンダードフェノール系、金属塩ヒンダードフェノール系、フェノール系、ヒンダードフェノール系、フェノール系硫黄系耐候性付与剤、脂肪酸金属塩からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの電荷安定剤を用いることにより、荷電紡糸時にエレクトレット化の安定化を図ることができ、かつ繊維径を細くできるので有効である。具体的には、以下に詳細を説明する。
【0030】
電荷安定剤として、ヒンダードアミンの場合、ポリ[{(6−(1,1,3,3,−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル){(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}}(チバガイギー社商品名でキマソーブ944LD)、コハク酸ジメチル−1−ヒドロキシエチル]−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物(チバガイギー社商品名でチヌビン622LD)、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)(チバガイギー社商品名でチヌビン144)等が挙げられる。
【0031】
含窒素ヒンダードフェノールでは、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌル酸(日本サイアナミド社商品名サイアノックス1790)あるいは、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌル酸(チバガイギー社商品名でIR3114)等が挙げられる。
【0032】
金属塩ヒンダードフェノールでは、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジツル−モノ−エチル−ホスホネートのカルシウム(IR1425WL)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジル−モノ−エチル−ホスホネートのニッケル(チバガイギー社商品名でイルガスターブ2002)、あるいは、同上化合物のマグネシウム塩等が挙げられる。
【0033】
ヒンダードフェノール系では、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](Irganox1010、チバガイギー社製)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(Irganox1076、チバガイギー社製)、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト(Irganox3114、チバガイギー社製)、3,9−ビス−{2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ−[5,5]ウンデカン(スミライザーGA−80、住友化学社製)等が挙げられる。
【0034】
フェノール系では、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシル)ベンゼン(チバガイギー社商品名でIR1330)、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(チバガイギー社商品名でIR1010)等が挙げられる。
【0035】
ヒンダードフェノール系では、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(スミライザーBHT)、n−オクタデシル−3−(3‘,5’−ジ−t−ブチル−4‘−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2−t−ブチル−6−(3‘−t−ブチル−5’−メチル−2‘−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、テトラキス−[メチレン−3−(3’,5‘−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]−メタン(スミライザーBP−101)、3,9−ビス−[2−3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等が挙げられる。
【0036】
また、電荷安定剤として、フェノール系硫黄系耐候性付与剤については、ジラウリルチオジプロピオネート(DLTDP)、ジミリスチリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート(DSTDP)、ペンタエリスリトール−テトラキス−(β−ラウリルチオプロピオネート)、2−メルカプトベンゾイミダゾール等が挙げられる。
【0037】
電荷安定剤として、脂肪酸金属塩については、特に限定するわけではないが、直鎖状脂肪酸基を有するものが好ましい。また、脂肪酸基は炭素数10〜20のものが好ましい。具体的には、ラウリル酸アルミニウム、ミリスチン酸アルミニウム、パルミチン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、ラウリル酸マグムシウム、ミリスチン酸マグムシウム、パルミチン酸マグムシウム、ステアリン酸マグムシウム等が挙げられ、特に好ましくは、ステアリン酸アルミニウムである。
【0038】
本発明では、高分子繊維中、前記電荷安定剤から選ばれた少なくとも1種を、0.1〜30重量%を含有することが好ましく、より好ましくは0.3〜10重量%、さらに好ましくは0.5〜2重量%である。0.1重量%未満であると、エレクトレット化効果が十分でなく、30重量%を越えると、含有量が多く、ブリードアウトスル恐れがある。
【0039】
本発明においては、紡糸によって得られるエレクトレット不織布の種々の特性を改善する目的で、無機もしくは有機フィラー等の添加剤を配合することもできる。ポリアミドイミドと親和性の低い添加剤の場合、その大きさは、得られるポリアミドイミド繊維の直径より小さいものが好ましい。大きいものであると、荷電紡糸中に添加剤が析出し、糸切れを起こす原因となる。添加剤を配合する方法としては、例えば、必要量の添加剤をポリアミドイミド重合の反応系中にあらかじめ添加しておく方法と、ポリアミドイミド重合の反応終了後に必要量の添加剤を添加する方法が挙げられる。重合阻害をしない添加剤の場合は、前者の方が、均一に添加剤が分散した不織布を得られるため、好ましい。
【0040】
ポリアミドイミドの重合反応終了後に、必要量の添加剤を添加する方法の場合、超音波による撹拌、ホモジナイザーなどによる機械的な強制撹拌が用いられる。
【0041】
本発明の高分子繊維を用いるエレクトレット不織布を製造する方法としては、0.001〜1μmの平均繊維径の繊維等が得られる荷電紡糸法を用いる。以下、荷電紡糸法により、エレクトレット不織布を製造する方法について、詳細に説明する。
【0042】
本発明で用いる荷電紡糸法とは、溶液紡糸の一種であり、一般的には、ポリマー溶液にプラスの高電圧を与え、それがアースやマイナスに帯電した表面にスプレーされる過程で繊維化を起こさせる手法である。荷電紡糸装置の一例を図1に示す。図1において、荷電紡糸装置1には、繊維の原料となるポリマーを吐出する紡糸ノズル2と、紡糸ノズル2に対向して、対向電極5が配置されている。この対向電極5はアースされている。高電圧をかけ荷電したポリマー溶液は、紡糸ノズル2から対極電極5に向けて飛び出し、その際、繊維化される。ポリアミドイミドを有機溶媒に溶解した溶液を電極間で形成された静電場中に吐出し、溶液を対向電極に向けて曳糸し、形成される繊維状物質を捕集基板に累積することによって不織布を得ることができる。ここでいう不織布とは既に溶液の溶媒が留去され、不織布となっている状態のみならず、溶液の溶媒を含んでいる状態も示している。
【0043】
溶媒を含んだ不織布の場合、荷電紡糸後に、溶剤除去を行う。溶剤を除去する方法としては、例えば、貧溶媒中に浸漬させ、溶剤を抽出する方法や、熱処理により残存溶剤を蒸発させる方法などが挙げられる。
【0044】
溶液槽3としては、材質は使用する有機溶剤に対し耐性のあるものあれば特に限定されない。また、溶液槽3中の溶液は、機械的に押し出される方式やポンプなどにより吸い出される方式などによって、電場内に吐出することができる。
【0045】
紡糸ノズル2としては、内径0.1〜3mm程度のものが望ましい。ノズル材質としては、金属製であっても、非金属製であっても良い。ノズルが金属製であればノズルを一方の電極として使用することができ、ノズル2が非金属製である場合には、ノズルの内部に電極を設置することにより、押し出した溶解液に電界を作用させることができる。生産効率を考慮し、ノズルを複数本使用することも可能である。また、通常、ノズル形状としては、円形断面のものを使用するが、ポリマー種や使用用途に応じて、異型断面のノズル形状を用いることも可能である。
【0046】
対向電極5としては、図1に示すロール状の電極や、平板状、ベルト状の金属製電極など用途に応じて、種々の形状の電極を使用することができる。
【0047】
また、これまでの説明は、電極が繊維を捕集する基板を兼ねる場合であるが、電極間に捕集する基板となる物を設置することで、そこにポリアミドイミド繊維を捕集してもよい。この場合、例えば、ベルト状の基板を電極間に設置することで、連続的な生産も可能となる。
【0048】
また、一対の電極で形成されているのが一般的ではあるが、さらに異なる電極を導入することも可能である。一対の電極で紡糸を行い、さらに導入した電位の異なる電極によって、電場状態を制御し、紡糸状態を制御することも可能である。
【0049】
電圧印加装置4は特に限定されるものではないが、直流高電圧発生装置を使用できるほか、ヴァン・デ・グラフ起電機を用いることもできる。また、印加電圧は特に限定するものではないが、一般に3〜100kV、好ましくは5〜50kV、さらに好ましくは5〜30kVである。なお、印加電圧の極性はプラスとマイナスのいずれであっても良い。
【0050】
電極間の距離は、荷電量、ノズル寸法、紡糸液流量、紡糸液濃度等に依存するが、5〜120kVのときには5〜20cmの距離が適切である。
【0051】
紡糸をする雰囲気として、一般的には空気中で行うが、二酸化炭素などの空気よりも放電開始電圧の高い気体中で荷電紡糸を行うことで、低電圧での紡糸が可能となり、コロナ放電などの異常放電を防ぐこともできる。また、水がポリマーの貧溶媒である場合、紡糸ノズル近傍でのポリマー析出が起こる場合がある。そのため、空気中の水分を低下させるために、乾燥ユニットを通過させた空気中で行うことが好ましい。
【0052】
次に、捕集基板に累積される高分子繊維からなるエレクトレット不織布を得る段階について、説明する。本発明においては、該溶液を捕集基板に向けて曳糸する間に、条件に応じて溶媒が蒸発して繊維状物質が形成される。通常の室温であれば捕集基板上に捕集されるまでの間に溶媒は完全に蒸発するが、もし溶媒蒸発が不十分な場合は減圧条件下で曳糸しても良い。この捕集基板上に捕集された時点で遅くとも本発明の繊維が形成されている。また、曳糸する温度は溶媒の蒸発挙動や紡糸液の粘度に依存するが、通常は、0〜50℃である。そして多孔質繊維がさらに捕集基板に累積されて不織布が製造される。
【0053】
本発明のエレクトレット不織布は、必要であれば、各種用途に適合するように、後処理を実施することができる。例えば、緻密化または厚み精度を整えるためのカレンダー処理、親水処理、撥水処理、界面活性剤付着処理、純水洗浄処理などを実施することができる。
【0054】
本発明に用いられるエレクトレット不織布は、さらなる荷電処理を施すことにより、捕集性能をさらに向上させることもできる。荷電処理の方法は、特に限定されないが、コロナ放電による荷電、電子線照射による荷電、高電界下における荷電、十分な圧力による水流衝突による荷電などが挙げられる。
【0055】
本発明に使用するエレクトレット不織布の目付量は、使用用途に応じて決められるものであり、特に限定されるものではないが、例えば、0.05〜10g/mであるのが好ましい。ここでいう目付量は、JIS−L1085に準じたものである。0.05g/m未満であると、フィルタ捕集効率が低く、好ましくない。一方、10g/mを超えると、フィルタ通気抵抗が高くなりすぎるため、好ましくない。
【0056】
本発明に使用するエレクトレット不織布の厚みは、使用用途に応じて決められるものであり、特に限定されるものではないが、1〜100μmであるのが好ましく、より好ましくは、10〜50μmである。厚さが1μm未満であると、通気抵抗が高くなり好ましくなく、100μmを越えると、機械的強度に劣るので好ましくない。ここでいう厚みは、マイクロメータで測定したものである。
【0057】
本発明に使用するエレクトレット不織布は、補強用基材と組み合わせてエレクトレット濾材を構成することもできる。補強用基材として、例えば、布帛(不織布、織物、編物)やフィルム、ドラム、ネット、平板、ベルト形状を有する、金属やカーボンなどからなる導電性材料、有機高分子などからなる非導電性材料を使用することができる。その上に高分子繊維からなる不織布を形成することで、補強用基材と不織布を組み合わせたエレクトレット濾材を製造することが出来る。
【0058】
補強用基材の不織布は、特に限定されるものではないが、例えば、サーマルボンド法、エアレイド法、湿式抄紙法、スパンボンド法、メルトブローン法不織布などが挙げられる。特に、サーマルボンド法不織布、スパンボンド法不織布を使用することが好ましい態様である。
【0059】
補強用不織布の繊維としては、特に限定されないが、ポリオレフィン、ポリエステル等の高分子からなる短繊維、長繊維を広く使用することができ、芯鞘型複合繊維、異種の繊維混合体としても使用することができる。特に、ポリエステル繊維を主体とする繊維であれば、プリーツ加工性の強度が優れるので、好ましい態様である。
【0060】
本発明によって得られるエレクトレット濾材の用途は、空気清浄機用フィルタ、精密機器用フィルタ、自動車、列車等のキャビンフィルタ、エンジンフィルタ、およびビル空調用フィルタなど、各種エアフィルタ用途に用いることが出来る。特に耐熱性、機械的強度、熱寸法安定性が求められる空気浄化用途に好適である。
【実施例】
【0061】
以下本発明を実施例により説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。また、以下の各実施例における評価項目は、以下のとおりの手法にて実施した。
【0062】
[平均繊維径]
得られた不織布の表面の走査型電子顕微鏡写真(倍率10000倍)を撮影し、その写真からn=30にて繊維径を測定した平均値を算出した。
【0063】
[フィルタ性能の評価]
(通気抵抗)
不織布試料をダクト内に設置し、フィルタ通過線速度が10cm/秒になるようコントロールし、フィルタ上流、下流の静圧差を圧力計で読み取り求めた。
【0064】
(粒子捕集効率)
大気塵を10cm/秒にてフィルタに通気した際の粒子径0.3〜0.5μmの粒子濃度を、パーティクルカウンター(リオン社製 KC01−C)にてフィルタの上下流を測定し、上流側と下流側の粒子濃度の比率から捕集効率を求めた。
【0065】
[実施例1]
温度計、冷却管、窒素ガス導入管のついた4ツ口フラスコにトリメリット酸無水物(TMA)1モル、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)0.995モル、フッ化カリウム0.01モルを固形分濃度が25%となるようにN、N−ジメチルアセトアミドと共に仕込み、90℃に昇温して約3時間攪拌を行い、ポリアミドイミドを合成した。
【0066】
得られたポリアミドイミド溶液に、ヒンダードフェノール系添加剤としてIrganox1010(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)をポリアミドイミドに対して0.5重量%を加え、さらにN、N−ジメチルアセトアミドを加え固形分濃度を8重量%にした。このポリアミドイミド溶液を図1に示す装置を用いて、該溶液を繊維状物質捕集電極5に目付量80g/m、繊維径45μm、厚み0.2mmのポリエステル不織布を貼り付け、30分間吐出した。紡糸ノズル2に18G(内径:0.8mm)の針を使用し、電圧は15kV、紡糸ノズル2から繊維を捕集する対向電極5までの距離は10cmであった。
【0067】
得られたエレクトレット不織布の平均繊維径は73nmであった。フィルタ性能を測定した結果、通気抵抗は4.7mmAq、捕集効率は91.3%であった。
【0068】
[実施例2]
実施例1と同様の方法でポリアミドイミドを合成し、得られたポリアミドイミド溶液に、ヒンダードアミン系添加剤としてIrganox1010(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)をポリアミドイミドに対して1.5重量%を加え、吐出時の固形分濃度が10重量%となるようにN、N−ジメチルアセトアミド加えた。この溶液を実施例1と同様に吐出し、得られたエレクトレット不織布の平均繊維径は118nmであった。フィルタ性能を測定した結果、通気抵抗は3.8mmAq、捕集効率は90.2%であった。
【0069】
[実施例3]
実施例1と同様の方法でポリアミドイミドを合成し、得られたポリアミドイミド溶液に、ヒンダードアミン系添加剤としてキマソーブ944LD(チバガイギー社製)をポリアミドイミドに対して0.5重量%を加え、吐出時の固形分濃度が8重量%となるようにN、N−ジメチルアセトアミド加えた。この溶液を実施例1と同様に吐出したところ、得られたエレクトレット不織布の平均繊維径は124nmであった。フィルタ性能を測定した結果、通気抵抗は3.6mmAq、捕集効率は89.8%であった。
【0070】
[実施例4]
ポリ乳酸樹脂Lacty9800(島津製作所製)に対し、ステアリン酸アルミニウムを0.5重量%混合し、アセトンに溶解させ固形分濃度が8重量%となるように調整した。この溶液を実施例1と同様に吐出したところ、得られたエレクトレット不織布の平均繊維径は105nmであった。フィルタ性能を測定した結果、通気抵抗は5.8mmAq、捕集効率は90.0%であった。
【0071】
[比較例1]
実施例1と同様の方法でポリアミドイミドを合成し、得られたポリアミドイミド溶液に添加剤を加えずに、吐出時の固形分濃度が8重量%となるようN、N−ジメチルアセトアミド加えた。この溶液を実施例1と同様に吐出したところ、得られた不織布の平均繊維径は264nmであった。フィルタ性能を測定した結果、通気抵抗は7.6mmAq、捕集効率は72.3%であった。
【0072】
[比較例2]
ポリアクリロニトリル粉末をN,N−ジメチルホルムアミドに対して10重量%になるよう溶解した。この溶液を実施例1と同様に吐出したところ、得られたエレクトレット不織布の平均繊維径は242nmであった。フィルタ性能を測定した結果、通気抵抗は8.7mmAq、捕集効率は67.5%であった。
【0073】
【表1】

【0074】
表1より明らかなように、実施例では、電荷安定剤及び極細の高分子繊維を用いたエレクトレット濾材を用いるため、通気抵抗及び捕集効率に優れることが確認できた。一方、比較例1及び2では、電荷安定剤を含まないため、繊維径が太く、高い通気抵抗を有し、捕集効率が低くなることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】荷電紡糸装置の模式的な断面図
【符号の説明】
【0076】
1 荷電紡糸装置
2 紡糸ノズル
3 溶液槽
4 高電圧電源
5 対向電極(捕集基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電荷安定剤を含み、荷電紡糸法により紡糸された平均繊維径が0.001〜1μmの高分子繊維を用いるエレクトレット濾材。
【請求項2】
前記電荷安定剤が、ヒンダードアミン系、含窒素ヒンダードフェノール系、金属塩ヒンダードフェノール系、フェノール系、ヒンダードフェノール系、フェノール系硫黄系耐候性付与剤、脂肪酸金属塩からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1記載のエレクトレット濾材。
【請求項3】
前記高分子繊維が、ポリアミドイミド、ポリ乳酸、ポリカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種の高分子体を含む請求項1又は2に記載のエレクトレット濾材。
【請求項4】
前記電荷安定剤の含有量が、高分子繊維中、0.1〜30重量%である請求項1〜3いずれかに記載のエレクトレット濾材。
【請求項5】
電荷安定剤を含む高分子繊維及び有機溶媒を含有する有機溶液を調製する工程と、
前記有機溶液を荷電紡糸法を用いて紡糸する工程と、を含む請求項1〜4いずれかに記載のエレクトレット濾材の製造方法。


【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−221074(P2008−221074A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−60404(P2007−60404)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】