説明

エレクトロウェッティング素子、レンズシステム、電子装置及び駆動方法

エレクトロウェッティング光学素子は、第1の導電性流体及び第2の電気絶縁性流体を有する。本発明によると、前記第2の流体は、脂肪族環構造を含む化合物を有する。前記光学素子は、レンズ、ズームレンズ又はズームレンズシステムの一部であることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1の電気的に影響を受けやすい(electrically susceptible)流体及び第2の電気的に影響を受けにくい(electrically less susceptible)流体を持つ流体チャンバ(fluid chamber)を有するエレクトロウェッティング光学素子に関し、前記流体は、相互に、少なくとも実質的に不混和であり、メニスカス(meniscus)越しに分離されている。
【0002】
本発明は、レンズとして機能するこのようなエレクトロウェッティング光学素子を有するレンズシステム及び前記エレクトロウェッティング光学素子又は前記レンズシステムを有する電子装置にも関する。
【0003】
本発明は、更に、レンズシステムを駆動する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
このような光学素子は、例えば米国特許出願US−A2002/0176148から既知である。この既知の素子はレンズであり、第1の流体としての塩溶液及び第2の流体としてのシリコーンオイルを持つ閉じた流体チャンバを有する。これらのエレクトロウェッティングレンズは、機械的可動部が必要とされないので、少量の電力により焦点を変化させることができる。エレクトロウェッティング光学素子の他の例は、ダイヤフラム、カラーフィルタ、ディスプレイ、プリズム、ビーム偏向子及びX線機器に対するフィルタ等を含む。
【0005】
エレクトロウェッティング素子の動作は、電極が無極性表面により前記流体チャンバから分離されていることに基づく。前記第1の流体は、前記第2の流体より電場の影響を受けやすいので、前記流体の運動が誘発されることができる。前記第1の流体は、前記電極と前記第1の電気的に影響を受けやすい流体との間の電圧差の印加下のみに、この電極に向かって移動し、前記無極性表面を濡らす。前記第1の流体の運動及び結果として前記第2の流体の運動は、前記メニスカスの形状の変化を引き起こす。
【0006】
前記エレクトロウェッティング素子の適切な動作は、前記流体の性質に依存する。まず、電場に対する電気的な影響の受けやすさに差が存在する必要がある。前記第1の流体は、例えば導電性であるのに対し、前記第2の流体は、電気的に絶縁性である。代替的には、前記第1の流体が極性材料を有するのに対し、前記第2の流体が無極性材料を有する。
【0007】
レンズに関して、例えば、前記第1及び第2の流体の屈折率が異なることが必要とされる。前記レンズの向きが前記メニスカスの形状に影響を与えないようにするために、前記流体の密度が同様又は同じであることが好ましい。したがって、段落84及び図2に開示された従来技術の素子の前記第1の流体、塩溶液は、1.38の屈折率及び1.06kg/lの密度を持つ。前記第2の流体は、1.49の屈折率及び1.06kg/lの密度を持つ。この屈折率の差は、適切な屈折力(optical power)を持つレンズを生じる。
【0008】
しかしながら、多くのエレクトロウェッティングレンズが、色収差の結果として前記レンズの全幅にわたり適切に機能しないことが分かった。この収差は、屈折率が放射線の波長に依存する結果である。したがって、前記屈折力は、波長に依存する。この問題は、光学分野で周知であるが、これらのレンズは、前記メニスカスの半径に依存して正から負へ屈折力を変更するので、前記問題の解決は、エレクトロウェッティングレンズに対して困難である。結果として、色収差に対する寄与は、従来のレンズのように固定ではなく、前記レンズの屈折力を変更する場合に変化する。この色収差の問題は、ズームレンズに対する屈折力の要件が適切な流体の選択を制限するので、ズームレンズにおいて特に強くなる。しかしながら、これは、単一のエレクトロウェッティングレンズにも関連する。色収差は、ダイヤフラムを増大することにより、すなわち光の通過に対する開口を小さくすることにより、制限されることができる。前記ダイヤフラムは、同時に、前記レンズに入る光の量を調整するのに使用される。したがって、制限された色収差に対する前記ダイヤフラムにおける増大は、適切な写真を作成するのに必要とされる光強度に対して、より高い制限を設定する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、十分な屈折力及び限定的な色収差を持つにもかかわらず機械的安定性要件を満たす、冒頭の段落に記載された種類のエレクトロウェッティング素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、前記第2の流体が、脂肪族環状構造を含む化合物を有することにより達成される。この種類の材料は、(より高い屈折力をもたらす)より高い屈折率を持ち、色収差性質は、環状構造無しの対応する材料と同じ又はより小さいことが分かっている。これは、一般に、分散(dispersion)が、屈折率の増加に対して増加する点で意外である。分散効果は、一般に、屈折率の波長依存性の尺度であるアッベ数で表される。これは、
V=(nd−1)/(nF−nC)
と定義され、ここでnd、nF及びnCは、ヘリウムのd線(587.6nm)、水素のF線(486.1nm)及び水素のC線(656.3nm)に対する屈折率である。Vの低い値は、屈折率の波長に対する強い依存性に対応し、高い値は、波長に対する低い依存性を示す。
【0011】
表1にリストされた結果から導き出されることができるように、シクロヘキサン及びシス‐デカリンのような環状構造を持つ化合物は、環状構造を持たない同等物、すなわちn‐ヘキサン及びn‐デカリンと同様のアッベ数を持つが、同時に、屈折力は強化される。加えて、環状構造を持つ化合物の密度が、環状構造を持たないものより実質的に高いことが見つかっている。したがって、単純な非環状脂肪族化合物は、低い密度の結果として実際には使用されることができないが、環状構造を持つ脂肪族化合物は使用されることができる。
【0012】
本出願に関連して、用語'脂肪族環状構造を持つ化合物'は、部分的に又は完全に環状化合物を指し、ここで、環は非芳香族であり、すなわち、非局在化電子を持たない。好ましくは、これは、二重結合又は三重結合がなく、C−O、Si−O及びC−C結合のような飽和結合のみを含む。ここで、飽和結合のみを持つ化合物が好ましいが、前記化合物が不飽和結合を含むことは除外されない。前記化合物は、Si(シロキサン)又はO(エステル、エーテル)のような1以上のヘテロ原子を含む鎖を持ちうる。シロキサンの場合、前記環状構造は、−O−(R2)Si(R1)−ユニットから構築されることさえでき、ここでR1及びR2は、特に、メチル又はエチルのようなアルキル基である。また、この環状構造は、結合が局在化され、一重であり、前記環状構造が固くないが、複数の分子構造を可能にするので、脂肪族構造として適切に記載されると思われる。
【0013】
有利には、前記脂肪族環状構造を持つ化合物は、アルカンである。アルカンの無極性は適切であり、これらの化合物の屈折率は比較的高く、すなわち1.40より高い。多環状の脂肪族化合物は、1.45以上の屈折率を考慮すると、適切な密度及び50以上又は55以上の適切なアッベ数と組み合わせて、更に有利である。
【0014】
従来技術のシリコーンオイルも1.40以上の屈折率を持つことが分かる。1.49の屈折率及び1.06kg/lの密度を持つシリコーンオイルは、例えばDow CorningのDC550である。このシリコーンオイルは、水に対する1mm2/sと比べて125mm2/sの粘度を持つ。このような粘度は、前記レンズの切り換え速度を効果的に実質的に減少する。他方で、シクロヘキサンは、0.894mPasの粘度を持つ(Merckのデータ)。加えて、及び更に重要なことに、屈折率及び密度は、シリコーンオイルネットワーク内のフェニル基の存在を示唆する。このタイプのシリコーンオイルは、しかしながら、非常に低いアッベ数を持ち、前記非常に低いアッベ数は、前記タイプのシリコーンオイルをズームレンズにおける使用に対して不適切にする。
【0015】
好ましくは、前記化合物は飽和化合物である。不飽和化合物は、アッベ数を減少することが分かっており、したがって、色収差の問題を増大する。エレクトロウェッティング素子に対して、無色化(achromatisation)は、
1(nd,2−1)/V2(nd,1−1)=1 (1)
の場合に生じることが分かっている。
【0016】
ここで、Vはアッベ数であり、ndは587.6nmの波長における屈折率であり、下付き文字は前記流体を指す。表1のデータから明らかなように、前記飽和化合物は、不飽和の同等物より1.0に近い値を持つ。これは、屈折率間の大きな差が望まれる又は必要とされる、ズームレンズのような、素子又はシステムに対して特に重要である。前記素子又はシステムにおいて、完全な無色化を達成するのは非常に難しいことが分かっている。
【0017】
更に他の実施例において、前記化合物は、1以上の基で置換される。適切な置換は、ハロゲン、カルボニル基、アセタール、スルホキシル基(SO3)、硫黄(SO2)、硫化物、ニトロ基を含む。有利には、前記第2の流体内の極性分子がエレクトロウェッティングにおける印加電圧に反応するので、前記置換は、実質的な極性を持ち込まない。これは、より悪いエレクトロウェッティング性能を引き起こす。したがって、前記置換は、対称な形で適切に提供される。極性基の対称な置換が最も適切であると見なされる。ハロゲンは、密度を増加する能力の観点から適切な置換と見なされるが、環境的に望ましくないという不利点を持つ。
【0018】
前記脂肪族環構造を持つ化合物は、混合されるが主要な成分として又は他の流体に溶解されてのいずれかで存在してもよい。これは、前記エレクトロウェッティング素子が機能すべき温度の全範囲にわたり液体ではないこのような化合物に対して特に興味深い。この範囲は、携帯電話のレンズに対して、一般に、0℃以下から50℃まで、又は−30℃から70℃まで広がる。適切には、前記脂肪族環構造を持つ化合物は、1ないし80重量%、好ましくは5ないし50重量%、更に好ましくは8ないし25重量%の量で、存在する。屈折率の増加に加えて、この混合は、前記第2の流体の粘度を減少することができる。これは、前記メニスカスの切り換え時間を減少するのに適切である。
【0019】
混合物の最も好ましい例は、混合された化合物の各々が他の性質を持つ、すなわち1つ目は50以上の高いアッベ数を持ち、2つ目は1.40以上の大きな屈折率を持ち、3つ目は大きな密度を持つものである。
【0020】
適切な化合物は、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンのようなシクロアルカン、メチル‐、エチル‐、n‐プロピル‐、イソプロピル‐シクロヘキサン及びシクロヘキシル‐シクロヘキサンのような、アルキル置換シクロアルカン、シス‐デカリン、トランス‐デカリン、ビシクロヘキサン、ビシクロペンタン、ビシクロブタン、ペルヒドロフルオレン、ペルヒドロナフタレンのようなビシクロアルカン、プロペラン(C56)、ハウサン(C58)、キュバン(C88)、メチルキュバン(C910)、ロータン(rotane)、テトラヘドラン(C44)、トリプリズマン(C66)、スピロヘプタン(C712)、ノルボルナン、スクアラン・アダマンタンのような他の多環状脂肪族化合物を含む。クラウン・エーテルも使用されうる。
【0021】
前記多環状脂肪族化合物の使用は、特に、溶液又は混合物において好ましい。最も適切には、溶媒が、これ自体、環状化合物である。溶液/混合物の特定の例は、シクロヘキサン内のシス‐デカリン、ヘキサン又はシクロヘキサン内の10−20%のキュバン、シクロオクタン又はペルヒドロナフタレン内の5−15%のアダマンタンを含む。
【0022】
他の適切な化合物は、ヘキサメチル‐シクロトリシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン及びオクタメチルシクロテトラシロキサンのような環状シロキサンである。ヘキサメチルシクロトリシロキサンは、特に、65℃の融解温度の観点から溶解された化合物として適している。環状基、例えばシクロヘキサンによるこれらのシロキサン内のメチル基の置換は、アッベ数を高く保ちながら更に高い屈折率をもたらす。
【0023】
適切には、前記第2の流体は、界面活性剤を更に有する。これは、必要とされる駆動電圧を減少し、前記第2の流体と前記流体チャンバの壁との間、又は両流体間で作用する。適切な界面活性剤は、例えば、ペンタフルオロトリメチルシラン、トリフルオロメチルトリメチルシラン、オクタノール、トリフルオロメチルトリエチルシランを含む。
【0024】
本発明のエレクトロウェッティング素子の前記第1の流体は、特に、塩化ナトリウム、塩化カリウム又は特に塩化リチウムのような塩化物の塩溶液である。水の中への塩の導入は、一般に、屈折率を増加する傾向にあり、したがって、前記第1の流体と前記第2の流体との間の屈折率の差を減少する。塩化物を使用する場合、この屈折率の増加は、比較的限定的である。これらの塩は、したがって、必要とされる電気的影響の受けやすさだけでなく、低温における前記素子の使用を可能にするために凝固点の降下をも提供するのに十分な量を追加されることができる。代わりに、例えば、限定的濃度の塩溶液を使用してもよく、凝固点降下のために他の化合物を加えてもよい。前記塩溶液の適切な濃度は、特に、1モル/リットル、0.5モル/リットル以下又は0.2モル/リットル以下である。凝固点降下のための適切な化合物は、例えばアルコール、特に低級脂肪族アルコールである。一例は、メタノールである。
【0025】
好ましくは、本発明のエレクトロウェッティング素子は、ズームレンズ又はズームレンズとして機能するレンズシステムの一部である。十分な屈折力を持つ制限された色収差の要件は、特に、ズームレンズに対して重要である。特定のエレクトロウェッティングズームレンズは、2つのメニスカスを含むレンズである。これらのメニスカスは、単一の流体チャンバ内に存在しうるが、安定性及び標準化された製造の理由で、光路内で直列の2つの流体チャンバを使用することが好ましい。通常のエレクトロウェッティングレンズに加えて、国際特許出願WO−A2004/38480に開示されるようなバイナリ・エレクトロウェッティングレンズが使用されることができる。2つのエレクトロウェッティングレンズの使用の代わりに、前記ズームレンズが、単一のエレクトロウェッティングレンズのみを有することは除外されない。この単一のレンズは、ズーム効果を達成するように従来の形で移動されてもよい。第1の代替例は、しかしながら、第2のレンズが、液晶レンズのような代替タイプの可変焦点レンズであるものである。第2の代替例は、更に、追加のレンズが従来のタイプのものであり、単一のエレクトロウェッティングレンズが第2のレンズとして機能するものである。
【0026】
第1のエレクトロウェッティングレンズ及び第2の可変焦点レンズを持つズームレンズの色収差の効果は、適切な駆動機構を用いて更に減少されることができる。当該機構によると、両方の前記レンズのメニスカスは、2つの末端、すなわち望遠レンズ(telelens)の末端と広角レンズ(wide-angle lens)の末端との間の真ん中(halfway)の位置において平らである。前記メニスカスが反対方向に同じ湾曲(curvature)を持つような形で切り換えることにより、両方のレンズの色収差は、少なくとも部分的には相殺されることができる。このような切り換えは、前記真ん中の位置と広角位置又は望遠位置との間の全ての中間の位置に対して実行される必要はない。末端位置のみに対してこれを行うことは十分でありうる。更に、色収差が相殺されている画像の情報は、画像センサの誤差補正に使用されることができる。この駆動機構は、本発明のエレクトロウェッティング素子と共に適切に使用されることができるが、この特定の素子に限定されない。
【0027】
前記ズームレンズ内の前記エレクトロウェッティングレンズ及び前記他の可変焦点レンズが同一である場合、前記平らなメニスカスの位置は、単純に前記2つの末端の真ん中である。前記レンズが異なる場合、前記末端位置は、前記2つのレンズの色収差が実質的に互いに相殺する位置として選択されることができる。前記広角配置における色収差の方が一般に大きいので、前記平らなメニスカスの位置が、前記広角配置のものと真ん中の配置との間であることが好ましいと思われる。
【0028】
本発明のエレクトロウェッティング素子又は前記素子を持つレンズシステムは、画像センサ又は発光ダイオード等と一体化され、光電子工学サブアセンブリを形成することができる。これは、再び、携帯電話、顕微鏡、照明装置のような電子装置に組み込まれることができる。
【0029】
本発明のこれら及び他の態様は、図面を参照して更に説明される。
【0030】
異なる図の等しい参照番号は、等しい又は似ている部分を指す。図は、純粋に概略的であり、正しい縮尺で描かれていない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図1は、本発明の好適な実施例による可変焦点レンズパッケージ2を概略的に示す。
【0032】
可変焦点レンズ2は、金属のような導電性材料を有する層により少なくとも部分的に覆われたプラスチック環状ボディ10を有する。前記導電層は、パリレンのような電気絶縁材料を有する層により覆われ、前記電気絶縁層は、疎水性材料を有する層により覆われる。ボディ10の一部を覆うこの3つの層は、参照番号16により示される線を用いて図1に概略的に描かれている。
【0033】
可変焦点レンズ2のボディ10は、外側部分に配置された‐ベベリング(bevelling)‐面13を有する。更に、底部側において、ボディ10は、環状溝17を備える。
【0034】
ボディ10のスルーホール11は、ボディ10の底部側に配置された底部レンズ部材30及びボディ10の上側に配置された上部レンズ部材70を用いて閉鎖される。両方のレンズ部材30及び70は、いわゆるレプリカレンズとして形成される。このようなレンズは、ガラスベースプレート32、74及びプラスチックレンズボディ31a、31b、75a、75bを有し、前記プラスチックを成形する鋳型と、前記鋳型の中の前記プラスチックを硬化し、架橋結合を達成するUV光とを使用するレプリカ技術で製造される。好ましくは、架橋結合密度は、少なくとも0.05であり、好ましくは、0.08‐0.15のオーダである。外側レンズボディ31b、75bは、位置合わせ手段33、76を有する。これらの位置合わせ手段33及び76は、ここで、環状を持つように設計されているが、これは必要ではない。本例において、前記位置合わせ手段は、レンズ部75b、31bと同じ高さを持つが、これは決して必要なことではなく、この成形技術は、望ましければ高さの変更を可能にする。
【0035】
可変焦点レンズ2は、ボディ10と、上部レンズ部材70の底面と、底部レンズ部材30の上面により区切られる流体チャンバ85を密封するシーリングリング50を有する。シーリングリング50は、ボディ10の突き出た環状部分18及び19と上部レンズ部材70のベースプレート74との間に配置される。前記レンズの設計は、望まれるならば1より多いシーリングリングを含むように修正されることができる。
【0036】
底部レンズ部材30の上面36及び上部レンズ部材70の底面76の両方において、位置決めリング38、77が、レンズ部材30、70上に配置される。位置決めリング38、77は、レンズ部材30、70を互いに対して及びボディ10のスルーホール11に対して位置合わせする際に関与する。一方で、底部位置決めリング38の外径は、底部レンズ部材30がボディ10に対して設置される場合に、底部位置決めリング38の外周が、ゆとりの存在無しでボディ10の外壁45に接触するように選択される。このようにして、底部レンズ部材30のレンズボディ31の中心軸は、ボディ10のスルーホール11の中心軸に対して正確に位置合わせされる。他方で、上部位置決めリング77の外径は、上部レンズ部材70がボディ10に対して設置される場合に、上部位置決めリング77の外周が、ゆとりの存在無しで直立壁46に接触するように選択される。このようにして、上部レンズ70のレンズボディ75の中心軸は、ボディ10のスルーホール11の中心軸と正確に位置合わせされ、結果的に底部レンズ部材30のレンズボディ31の中心軸とも正確に位置合わせされる。
【0037】
様々なレンズパッケージ素子10、30、50、60、70を互いに対して固定する目的で、クランピングユニットが使用されることができるが、しかしながら描かれていない。クランピングユニットは、例えば、ボディ10に対して上部レンズ部材70を固定するように設計され、シーリングリング50は、上部レンズ部材70とボディ10との間に固定される。
【0038】
可変焦点レンズ2は、第1の流体、例えば塩水溶液86及び第2の無極性流体87を有する。第1の流体86及び第2の流体87は、流体チャンバ85内に存在し、第1の流体86は、流体チャンバ85の底部側に位置し、第2の流体87は、流体チャンバ85の上側に位置する。前記第1及び第2の流体の場所が逆である、及び前記第2の流体が液滴として形成される、流体チャンバ85の他の設計が可能である。第1の流体86及び第2の流体87は不混和であり、メニスカス88により分離される。このメニスカス88の形状は、前記塩溶液に対する前記疎水性層の湿潤性が電圧の印加下で可変なので、ボディ10の導電性層と第1の流体86との間の電圧の影響下で可変である。
【0039】
本発明の実験において、第1の流体86として0.1MのKCL塩溶液を使用した。この溶液は、589nmにおいて屈折率nD=1.3342及びアッベ数V=57.6を持つ。表1に示されるように、多数の流体が第2の流体87として試験された。
【表1】

【0040】
表1において、グループAは、6つの炭素原子の鎖を持つアルカンを示す。線形のn‐ヘキサン(A1)は、0.0404だけKCL溶液との屈折率の差を持つ。前記鎖を環状にする(A2)ことは、この差を0.0917まで2倍以上にし、アッベ数は57.6から56.8までしか減少しない。比較のため、1‐ヘキサンが与えられる。1‐ヘキサンは、n‐ヘキサンと比較されることができるが、初めの炭素原子において二重結合を持つ。二重結合は屈折率を増加するが、アッベ数を高く保たず、すなわち屈折率の差0.0538は、n‐ヘキサンより少しだけ高いが、アッベ数は47.9まで著しく減少する。これは、分散に関して、鎖を環状にすることが、二重結合を作成するより屈折率を増加する良い方法であることを明らかに示す。トルエンは、管状鎖及び三重結合を持つ。これは、同じく7つの炭素原子を持つn‐ヘプタンと比較して大幅に高い屈折率差(0.1620)をもたらす。しかしながら、アッベ数を許容不可能なほど低くする(31.0)。
【0041】
グループBにおいて、線形のn‐デカンは、これをシス‐デカリンにすることにより向上される。この流体は、2つの環状リングを持つ分子からなる。屈折率は強力に上昇するが、アッベ数は高いままである。3つの環状リングを持つペルヒドロフルオレンは、依然として高いアッベ数とともに更に高い屈折率を持つ。
【0042】
グループCにおいて、線形のシリコーンオイルが、環状シリコーンオイルと比較される。屈折率は環状オイルに対して上昇し、アッベ数までもが線形のオイルより高い。
【0043】
正の副作用は、環状分子に対する密度の増加である。好ましくは、極性流体及び無極性流体は、密度適合されている。しかしながら、通常は、無極性流体は、極性流体より密度が小さい。線形から環状に鎖を変更することは、密度差を減少する。
【0044】
図2は、可変焦点レンズ2の第2の実施例の分解図を概略的に示す。底部レンズ部材30は、3つの層を持つレプリカレンズを有する。前記レプリカレンズは、中心部が凹レンズボディを構成するプラスチック底部レンズ層31aと、中心部が凸レンズボディを構成するプラスチック上部レンズ層31bとの間に挟まれたガラスベースプレート32を有する。更に、図示された例において、上部レンズ部材70もレプリカレンズを有する。上部レンズ部材70のこのレプリカレンズは、ガラスベースプレート74と、中心部が凸レンズボディを構成するプラスチック上部レンズ層75とを有する。ガラスプレート31の反対側におけるレプリカレンズ31a及び31bは、同じ組成を持つ必要が無いことが分かる。ジアクリレート層は、層31aに適しており、HDDAレプリカは、層31bに適している。前記レンズは、層31bの側面において、スパッタリング処理におけるUV吸収コーティング及び反射防止コーティングのようなコーティングを備える。適切な反射防止コーティングは、酸化チタニウム、酸化ケイ素及び/又は酸化タンタルを有する。より特定的な実施例において、前記レプリカレンズは、液晶レンズである。このような液晶レンズは、固体の重合体ボディ及び切り換え可能な液晶混合物を持つ。線形偏光子は、前記レンズの上部に適切に備えられる。従来の偏光子は、典型的には、約50%の光を吸収するので、2つの液晶セルは、各偏光方向に対して1つ‐重ねられることができる。好ましくは、液晶材料は、互いに直交して向けられる。このような液晶レンズの製造は、参照によりここに含まれる公開前の出願WO−IB2005/50270(PHNL040107)に記載されている。
【0045】
レンズ2の特徴は、ボディ10自体が、レンズ2の電気コネクタとして使用されることができることであり、ボディ10に接触する追加の素子が使用されることは必要ではない。ボディ10と底部レンズ部材30の層37との間の短絡を避けるために、ボディ10の底面26は、少なくともボディ10が底部レンズ部材30上にある領域において、電気絶縁層27により覆われる。図示されたボディ10は、ボディ10の内側部分12の端部において底部レンズ部材30の上面36に接触しないように設計される。
【0046】
ボディ10は、底部レンズ部材30を固定するクランピングアーム(図2に図示されない)を有してもよい。しかしながら、ボディ10の一体部分として形成されたものではない、ボディ10に対して底部レンズ部材30を固定するクランピング手段が設けられることも可能である。上部レンズ部材70は、如何なる適切な方法で、例えばクランピング手段を用いて、ボディ10に対して固定されてもよい。
【0047】
ボディ10により構成される前記コネクタのほかに、可変焦点レンズ2は、好ましくは、底部レンズ部材30の導電層37を介して水と接触するように、この層37と接触する他のコネクタ(図2に図示されない)を含む。このコネクタは、如何なる適切な形で成形及び構成されてもよく、前記コネクタがボディ10と接触しないことが重要である。
【0048】
可変焦点レンズ2は、携帯電話及びデジタル記録機器において使用する光学走査装置のような、ハンドヘルド装置において使用されることができる。複数のレンズ2が一列に配置されてもよく、レンズ2のスルーホール11は、ズームレンズを作成するために、互いに対して位置合わせされる。レンズ2は、ガラスプレート30の両側にレンズ部分を持つように図示されているが、これは必要ではなく、外側のみに設けられることで十分である。本発明によるレンズ2は、特に、画像センサ及び内部接続ボディを更に有するカメラにおける応用を対象とし、前記内部接続ボディは、前記内部接続ボディの第1の面及び第2の面上に配置された導電性トラックを有し、前記導電性トラックは、電子装置を駆動するために前記画像センサ及び可変焦点レンズ2の両方の間に、又は接触パッドに対する接続を確立することができるように成形される。前記カメラは、上述のハンドヘルド装置の一部であってもよく、これは、入力手段、情報処理手段及び表示手段を更に有してもよい。
【0049】
本発明が、図に示されたような特定のパッケージに限定されないことが分かっている。国際出願WO−A2004/99847から既知であるような他のパッケージが、代わりに使用されてもよい。
【0050】
図3は、第1のエレクトロウェッティングレンズ素子2及び第2のエレクトロウェッティングレンズ素子102を有するエレクトロウェッティングズームレンズの一例を示す。この装置は、導電性材料の円柱状ボディ10を有する。ボディ10は、絶縁層128でコーティングされる。円柱状ボディ10の内側には、流体接触層130を備える。導電性円柱10は、レンズ素子2及び102に対して共通の第1の電極を形成する。第1のレンズ素子2の第2の電極は、放射線を透過する中心透明領域を持つ環状導電層132により構成される。下側における導電層134は、第2のレンズ素子102の第2の電極を形成する。透明層136及び138は、導電層132及び134をそれぞれ覆うことができる。前記円柱の中心部分は、透明且つ非導電性液体又は蒸気87、すなわち脂肪族環構造を持つ化合物を有するオイルで満たされる。オイル87の各側において、第1の透明かつ導電性液体86、186が存在し、前記液体は、‐第2の‐非導電性液体87より低い屈折率を持つ。前記導電性液体は、本例において、塩溶液、例えば0.1MのKClである。上側における不混和流体は、前記第1の可変焦点レンズ素子を形成する第1のメニスカス88により分離される。下側における流体186及び87は、前記第2の可変焦点レンズ素子を形成する第2のメニスカス188により分離される。前記メニスカスの曲率、したがってレンズ素子24及び26の焦点距離は、制御可能な電圧源144及び146をそれぞれ用いて互いに独立に変更されることができる。
【0051】
本発明によると、前記メニスカスは、2つの末端ズーム配置(WIDE、TELE)の真ん中の値において平らであるような形にセットされる。この間の位置をハーフズーム(HALF)と称する。このハーフズーム位置において、前記メニスカスは平らであり、流体焦点レンズは、実質的に色収差が無い。結果として、両方の末端ズーム位置における色収差は、反対の符号を持つ。これは、脂肪族環構造を持つ化合物を含む本発明の第2の非導電性流体と組み合わせて、特に適切である。しかしながら、主に、これに限定されない。
【0052】
より好ましい場合には、両方のメニスカスが両方とも平らである状況は、WIDE配置とHALF配置との間にあるべきである。これに対する理由は、前記WIDE配置において、光線は、最大角度でこのシステムを通過し、結果として一般にビームのより小さい角度を持つ前記TELE配置より高い色収差を生じることである。
【0053】
図4は、3つの異なる配置、すなわちWIDE、HALF及びTELEにおけるズームレンズの一例を示す。前記WIDE配置において、視野は56度であり、前記HALF配置において42度であり、前記TELE配置において32度である。本実施例の前記ズームレンズは、2つの別個のエレクトロウェッティングレンズを有する。2つの非球面プラスチックレンズが、前記エレクトロウェッティングレンズの間に存在する。絞り(stop)は、これら2つのプラスチックレンズの間に位置する。更に他の非球面プラスチックレンズは、画像センサが設けられることができる側面に配置される。各エレクトロウェッティングレンズに対して、前記第1の流体は、1.33の屈折率及びV=57.6のアッベ数を持つ導電性液体である。前記第2の流体は、電気絶縁性流体である。この例において、両方のエレクトロウェッティングレンズが、同じ流体を含む。前記ズームレンズに存在する色収差を表す性質は、450nm(青)、550nm(緑)及び650nm(赤)の波長の光を使用する場合に形成されるスポットの横方向位置の差である。色収差のため、これらのスポットは一致せず、互いに対してシフトされている。
【0054】
表2において、緑スポットに対する青及び赤スポットの相対的な横方向シフトが、異なる電気絶縁性流体を使用する場合のTELE及びWIDE配置において与えられる。前記第1の電気絶縁性流体は、n=1.50の屈折率及びV=31.0のアッベ数を持ち、表1のトルエンに対応する。第2の例は、n=1.50及びV=38.2を持ち、従来技術のシリコーンオイルに対応する。第3の例は、n=1.50及びV=55.7を持つ(表1のペルヒドロフルオレンに対応する)。換言すると、前記第1及び第2の例は、本発明によらず、前記第3の例が本発明による。前記シフトは、マイクロメートルで測定される。
【表2】

【0055】
表2は、高いアッベ数を持つ電機絶縁流体が少ない色収差をもたらすことを示す。これは、第2の電気絶縁性流体として脂肪族環状構造を含む化合物を選択することにより達成されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明のレンズの概略的な断面図である。
【図2】レンズの概略的な分解図である。
【図3】エレクトロウェッティングズームレンズの概略図である。
【図4】エレクトロウェッティングズームレンズの幾つかの状態の絵を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電気的に影響を受けやすい流体及び第2の電気的に影響を受けにくい流体を持つ流体チャンバを有し、前記流体が相互に少なくとも実質的に不混和であり、メニスカスで分離される、光学エレクトロウェッティング素子において、前記第2の流体が、脂肪族環状構造を含む化合物を有することを特徴とする、エレクトロウェッティング素子。
【請求項2】
前記化合物が、少なくとも1つの環構造を持つアルカンである、請求項1に記載のエレクトロウェッティング素子。
【請求項3】
前記アルカンが、2以上の環構造を有する、請求項2に記載のエレクトロウェッティング素子。
【請求項4】
前記環状構造がシロキサンである、請求項1に記載のエレクトロウェッティング素子。
【請求項5】
前記第2の流体が、前記脂肪族環状構造を持つ化合物に加えて、他の無極性又は絶縁化合物を有し、前記他の無極性化合物が、少なくとも50重量%の量で存在する、請求項1に記載のエレクトロウェッティング素子。
【請求項6】
前記素子がレンズである、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のエレクトロウェッティング素子。
【請求項7】
前記素子が、第1及び第2のメニスカスを有するズームレンズである、請求項6に記載のエレクトロウェッティング素子。
【請求項8】
少なくとも1つの請求項6に記載の素子を有するレンズシステム。
【請求項9】
第1の電気的に影響を受けやすい流体及び第2の電気的に影響を受けにくい流体を持つ流体チャンバを設けられ、前記流体が相互に少なくとも実質的に不混和であり、メニスカスで分離される、第2のエレクトロウェッティング素子を更に有する、請求項8に記載のレンズシステム。
【請求項10】
前記第1及び第2の素子の前記メニスカスが、光軸に沿って配置され、各々が、前記光軸に垂直な面に対して湾曲を持ち、前記第1及び第2の素子の前記メニスカスの前記湾曲が、前記レンズシステムの少なくとも1つの状態において前記光軸に沿って反対方向に向けられる、請求項9に記載の第1及び第2のエレクトロウェッティング光学素子のレンズシステム。
【請求項11】
前記第1及び第2のメニスカスが、光軸に沿って配置され、各々が、前記光軸に垂直な面に対して湾曲を持ち、前記第1及び第2のメニスカスの湾曲が、前記レンズシステムの少なくとも1つの状態において前記光軸に沿って反対方向に向けられる、請求項7に記載の第1及び第2のメニスカスを持つエレクトロウェッティング素子を有するレンズシステム。
【請求項12】
請求項1ないし7のいずれか一項に記載のエレクトロウェッティング素子又は請求項8ないし11のいずれか一項に記載のレンズシステムを有する電子装置。
【請求項13】
請求項10又は11に記載のレンズシステムを駆動する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−541184(P2008−541184A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−511840(P2008−511840)
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【国際出願番号】PCT/IB2006/051528
【国際公開番号】WO2006/123288
【国際公開日】平成18年11月23日(2006.11.23)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】