説明

エレクトロクロミック表示素子

【課題】メモリー特性を改善し、信頼性に優れる反射型エレクトロクロミック表示素子を提供する。
【解決手段】透明支持基板(21)と、前記透明支持基板上に形成された透明導電層からなる表示電極(22)と、前記透明表示電極と対向して配置された支持基板(26)と、前記支持基板上に形成された導電層からなる対向電極(27)と、前記表示電極の対向電極側面に接して設けられたエレクトロクロミック層(25)と、前記表示電極と対向電極との間に収容された電解質層(28)とを備え、前記対向電極はその表面形状が、平均粒径15nm以上25nm以下の微粒子および該微粒子の凝集体組織構造により形成された凹凸形状を有する表示素子とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミック表示素子技術に関し、詳しくは、電圧印加により電極表面に設けられたエレクトロクロミック層の発色または消色が可能でメモリー特性および耐久性の優れた反射型エレクトロクロミック表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電圧を印加すると電界方向に応じて可逆的に色が変わる現象をエレクトロクロミズム(electrochromism)と言い、このような特性を有し電気化学的酸化還元反応によって光特性が可逆的に変わる物質は、エレクトロクロミック物質(あるいは、エレクトロクロミック化合物)と呼ばれている。このエレクトロクロミズム現象を引き起こすエレクトロクロミック化合物の発色または消色を利用した表示素子が、エレクトロクロミック表示素子である。
エレクトロクロミック化合物の中には、外部からの電圧印加により独自の色調を帯びた後、印加を停止してもその発色状態を比較的安定に維持できる、所謂メモリー性を有した化合物がいくつか報告されており、その性質を利用した表示媒体への応用研究が古くから盛んに行われている。
【0003】
エレクトロクロミック原理を利用したエレクトロクロミック表示素子は、偏光板等が不要であるため視野角依存性が無く、反射型の表示素子であることから、CRTやLCD、EL、LED、プラズマ等の発光型表示素子に比べて視覚的疲労感が改善され、また構造が簡易なために大型化も容易で、しかも低消費電力の特徴を備えていることから、近年においては次世代ディスプレイとして注目され、特に電子ペーパー(E−paper)用途としての応用技術に関心が集まっている。
例えば、図1の概略断面図に示すように、従来の単色表示型のエレクトロクロミック表示素子(10)は、表示電極側の支持基板(11)、その上に設けられた表示電極〔透明電極a〕(12)と多孔質電極(13)とが形成された電極構造体、および前記電極構造体の多孔質電極(13)上に担持されたエレクトロクロミック化合物(14)を含むエレクトロクロミック層(15)と、前記電極構造体に対向するよう配置された対向電極側の支持基板(16)と、その上に設けられた対向電極〔電極b〕(17)と、前記表示電極〔透明電極a〕(12)および対向電極〔電極b〕(17)に挟持されて配置される電解質層(18)とを基本とする構成から成り立っている。符号19aは表示電極側の電極端子、19bは対向電極側の電極端子、50は封止剤を示す。また、図1の構成における表示電極(12)およびエレクトロクロミック層(15)を複数の構成とし、各表示電極とエレクトロクロミック層をそれぞれ互いに隔離して多層に配置すれば多色表示型のエレクトロクロミック表示素子とすることができる。
【0004】
エレクトロクロミック層に用いるエレクトロクロミック化合物としては、これまでに無機材料系や有機材料系のものに関して多くの報告がなされている。無機材料からなるエレクトロクロミック化合物としては、酸化タングステンなどが知られている(例えば、特許文献1〜9参照)。しかし、無機材料からなるエレクトロクロミック化合物は、耐環境性または繰り返し耐久性の面において大変優れた特性を有しているが、一方で表示できる色調が青色や茶色などの単色程度であるため、多色表示の実現には限界があるといわれている。
これに対して有機材料からなるエレクトロクロミック化合物は、耐環境性や繰り返し耐久性の面において課題を残すものの、無機材料に比べて分子設計による構造最適化が比較的可能なため多様な色調を得ることができ、また加工性や量産性に優れることからも盛んに研究が行われている。具体的な例としては、アゾベンゼン系、アントラキノン系、ジアリールエテン系、ジヒドロプレン系、スチリル系、スチリルスピロピラン系、スピロオキサジン系、スピロチオピラン系、チオインジゴ系、テトラチアフルバレン系、テレフタル酸系、トリフェニルメタン系、トリフェニルアミン系、ナフトピラン系、ビオロゲン系、ピラゾリン系、フェナジン系、フェニレンジアミン系、フェノキサジン系、フェノチアジン系、フタロシアニン系、フルオラン系、フルギド系、ベンゾピラン系、メタロセン系等の低分子系有機エレクトロクロミック化合物や、ポリアニリン、ポリチオフェン等の導電性高分子化合物を挙げることができる。上記の中でも、特にビオロゲン系化合物またはテレフタル酸系化合物を含むと、これらの材料は発消色電位が低く、複数の表示電極構成においても良好な色値を示すとされている。
【0005】
有機材料からなるエレクトロクロミック化合物を用いて単色表示または多層表示を可能とするエレクトロクロミック素子に関する手法が提案されている(例えば、特許文献10〜15参照)。これらの文献において適用されているエレクトロクロミック化合物は、酸化または還元反応を起こし、ラジカル状態となることで発色する性質を有している。そして表示素子内部では電荷の授受に物質(イオン)が移動し、カラー画像が実現される。このようにエレクトロクロミック表示素子は反射型表示素子の有望技術として大いに期待されている技術ではあるが、表示素子の繰り返し耐久性が乏しく、また画像の保持特性(メモリー特性)に課題を残していることから、未だ実用化には至っていない。
【0006】
繰り返し耐久性の劣化の原因としては一般に、エレクトロクロミック化合物そのものの劣化や電極の劣化などが知られている。また、画像の保持特性(メモリー特性)の劣化については、対向電極上での逆電子反応が原因の一つとされている。即ち、素子に電流を印加してエレクトロクロミック化合物を酸化または還元させるとそのカウンターイオン(または電解質層に含まれるイオン)は対向電極まで拡散し、電極表面に吸着することで静止電位が保たれる。このとき電極に吸着したイオンと電極との間で電子移動が生じ、一旦吸着したイオンが再び脱離してしまう現象が起こる。
従来、このようなイオン吸着の安定化を保つ手段として、電極表面に表面積の大きな多孔質電極を設けイオン吸着量を増大させる方法が提案されている(例えば、特許文献1〜4参照)。しかしながら多孔質電極の形成は電極自体の密度を減少させてしまうため、電荷の静電容量としては減少する傾向となり、結果として電極近傍のイオンの移動が容易となるため大きな改善効果を期待することは難しい。
【0007】
上記のように反射型エレクトロクロミック表示素子においては未だ、メモリー特性を満足する有望な技術が確立されていないのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、メモリー特性を改善し、信頼性に優れる反射型エレクトロクロミック表示素子を提供することを目的とする。本発明の目標とするエレクトロクロミック表示素子は、各種の平板ディスプレイおよび電子ペーパーとして応用可能なものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下の〔1〕〜〔2〕に記載する発明によって上記課題が解決されることを見出し本発明に至った。以下、本発明について具体的に説明する。
【0010】
〔1〕:上記課題は、透明支持基板と、前記透明支持基板上に形成された透明導電材料からなる表示電極と、前記透明支持基板と対向して配置された支持基板と、前記支持基板上に形成された導電材料からなる対向電極と、前記表示電極の対向電極側面に接して設けられたエレクトロクロミック層と、前記表示電極と対向電極との間に収容された電解質層とを備えたエレクトロクロミック表示素子であって、
前記対向電極の表面が、平均粒径15nm以上25nm以下の微粒子および該微粒子の凝集体組織構造により形成された凹凸形状を有することを特徴とするエレクトロクロミック表示素子により解決される。
【0011】
〔2〕:上記課題は、透明支持基板と、前記透明支持基板上に形成され互いに隔離して多層に配置された複数の透明導電材料からなる表示電極と、前記透明支持基板と対向して配置された支持基板と、前記支持基板上に形成された導電材料からなる対向電極と、前記複数の表示電極の各対向電極側面に接して設けられたエレクトロクロミック層と、前記複数の表示電極と対向電極との間に収容された電解質層とを備えたエレクトロクロミック表示素子であって、
前記対向電極の表面が、平均粒径15nm以上25nm以下の微粒子および該微粒子の凝集体組織構造により形成された凹凸形状を有することを特徴とするエレクトロクロミック表示素子により解決される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の対向電極構成を備えたエレクトロクロミック表示素子によれば、電極密度を減少させずに表面積の拡大が図れるため、対向電極上での逆電子反応を効率的に抑制し、メモリー特性を改善することができる。メモリー特性の良好な本発明のエレクトロクロミック表示素子を用いれば、信頼性に優れた各種のディスプレイ装置(例えば、平板ディスプレイや、電子ペーパー等)を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】従来のエレクトロクロミック表示素子を説明するための構成例を示す概略断面図である。
【図2】本発明に係る単色表示型のエレクトロクロミック表示素子を説明するための構成例を示す概略断面図である。
【図3】本発明に係る多色表示型のエレクトロクロミック表示素子を説明するための構成例を示す概略断面図である。
【図4】実施例1で作製した対向電極表面のAFM観察写真およびAFMより得られた誤差信号から解析により求めた断面プロファイルである。
【図5】実施例2で作製した対向電極表面のAFM観察写真およびAFMより得られた誤差信号から解析により求めた断面プロファイルである。
【図6】実施例3で作製した対向電極表面のAFM観察写真およびAFMより得られた誤差信号から解析により求めた断面プロファイルである。
【図7】実施例4で作製した対向電極表面のAFM観察写真およびAFMより得られた誤差信号から解析により求めた断面プロファイルである。
【図8】比較例1で作製した対向電極表面のAFM観察写真およびAFMより得られた誤差信号から解析により求めた断面プロファイルである。
【図9】比較例2で作製した対向電極表面のAFM観察写真およびAFMより得られた誤差信号から解析により求めた断面プロファイルである。
【図10】実施例1、実施例2、比較例1で作製した表示素子の各吸光度測定により得られた吸光度減衰率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
前述のように本発明におけるエレクトロクロミック表示素子は、透明支持基板と、前記透明支持基板上に形成された透明導電材料からなる表示電極と、前記透明支持基板と対向して配置された支持基板と、前記支持基板上に形成された導電材料からなる対向電極と、前記表示電極の対向電極側面に接して設けられたエレクトロクロミック層と、前記表示電極と対向電極との間に収容された電解質層とを備えたエレクトロクロミック表示素子であって、前記対向電極はその表面が、平均粒径15nm以上25nm以下の微粒子および該微粒子の凝集体組織構造により形成された凹凸形状を有するものである。
【0015】
上記構成により単色表示型のエレクトロクロミック表示素子とし、前記対向電極の表面形状を、平均粒径15nm以上25nm以下の微粒子および該微粒子の凝集体組織により凹凸状の形状とすることにより、前記課題であるメモリー特性を改善させることが可能となる。即ち、表面に微細な凹凸形状を有す電極構造により、電極密度を損なわずに、大きな静電容量を確保したまま、対向電極上での逆電子反応を効率的に抑制することで、メモリー特性を改善することができる。
【0016】
あるいは、透明支持基板と、前記透明支持基板上に形成され互いに隔離して多層に配置された複数の透明導電材料からなる表示電極と、前記透明支持基板と対向して配置された支持基板と、前記支持基板上に形成された導電材料からなる対向電極と、前記複数の表示電極の各対向電極側面に接して設けられたエレクトロクロミック層と、前記複数の表示電極と対向電極との間に収容された電解質層とを備えたエレクトロクロミック表示素子であって、前記対向電極はその表面が、平均粒径15nm以上25nm以下の微粒子および該微粒子の凝集体組織構造により形成された凹凸形状を有することを特徴とするものである。
【0017】
上記対向電極を、その表面形状を平均粒径15nm以上25nm以下の微粒子および該微粒子の凝集体組織により凹凸状の形状を持たせ、多色表示型のエレクトロクロミック表示素子とすれば、各エレクトロクロミック層ごとの単位構成色およびこれらの混合色の表示において、前記単色表示型のエレクトロクロミック表示素子の場合と同様にメモリー特性を改善することが可能となる。
【0018】
次に、単色表示型のエレクトロクロミック表示素子および多色表示型のエレクトロクロミック表示素子を形成する構成要素の詳細について順次説明する。
〈支持基板〉
表示電極が形成される透明支持基板および対向電極が形成される支持基板としては、耐熱性に優れ、且つ平面性の高い材料が好適である。表示電極が形成される透明支持基板としてガラスやプラスチック(透明性樹脂等)などの材料を適用することができ、対向電極が形成される支持基板にも同様の材料を用いることができる。これらの支持基板用材料としては、例えば、透明性樹脂としてポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン等を例示することができるが必ずしもこれらに限定されるものではない。プラスチックフィルムを用いると、軽量でフレキシブルな表示装置を作製することができる。
【0019】
〈表示電極〉
表示電極は、前記透明支持基板上に透明導電材料を用いて形成された透明導電膜(あるいは、透明導電層)である。
透明導電材料からなる表示電極を形成する導電材料は、導電性を有する材料であれば特に限定されるものではないが、本発明の反射型表示素子においては、光の透過性を確保するために透明な材料から選択されることが好ましい。具体的には、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ、酸化マグネシウム、またガリウムをドープした酸化亜鉛(略称、GZO化)、酸化インジウム、またスズをドープした酸化インジウム(略称、ITO)、酸化亜鉛、またフッ素をドープした酸化スズ(略称、FTO)、またアンチモンをドープした酸化スズ(略称、ATO)等を例示することができる。これらの酸化物を用いると、良好な透明性と電気伝導度が得られるとともに、蒸着やイオンプレーティング、スパッタリングリング法等によって容易に成膜することが可能である。
【0020】
なお、前記表示電極には、後述するエレクトロクロミック層を効率よく形成(吸着等)させるために、例えば、表面および内部に微細な孔を有した形状のいわゆる多孔質電極や、ロット形状、ワイヤ形状を有した別の材料からなる電極を別途積極的に設けることが好ましい。このような電極の形成材料としては、金属、真性半導体、酸化物半導体、複合体酸化物半導体、有機半導体、カーボン等が挙げられる。具体的には、Au、Ag、Pt、Cu等の金属、Si、Ge、Te等の真性半導体、TiO、SnO、Fe、SrTiO、WO、ZnO、ZrO、Ta、Nb、V、In、CdO、MnO、CoO、TiSrO、KTiO、CuO、チタン酸ナトリウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウム等の酸化物半導体、SnO−ZnO、Nb−SrTiO、Nb−Ta、Nb−ZrO、Nb−TiO、Ti−SnO、Zr−SnO、Sb−SnO、Bi−SnO、In−SnO等の複合体酸化物半導体、そしてポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリフェニレンビニレン、ポリフェニレンスルフィド等の有機半導体を例示することができる。
【0021】
そして前記エレクトロクロミック層を形成するエレクトロクロミック化合物を、上記多孔質電極等に吸着させる方法としては、エレクトロクロミック化合物を含む溶液中に良く乾燥させた半導体微粒子を浸漬させる方法、またはエレクトロクロミック化合物を含む溶液を半導体微粒子に直接塗布する方法などがあり、前者の場合には、浸漬法、ディップ法、ローラ法、エアーナイフ法等を、後者の場合には、ワイヤーバー法、スライドホッパー法、エクストルージョン法、カーテン法、スピンコート法、スプレー法等を利用することができる。
【0022】
〈エレクトロクロミック層〉
エレクトロクロミック層の形成に用いられるエレクトロクロミック化合物(エレクトロクロミック化合物)としては、表示電極と対向電極との間の電圧印加に基づく、酸化・還元反応により色の変化を起こす材料が用いられ、このような材料として、ポリマー系、色素系、金属錯体、金属酸化物等のエレクトロクロミック化合物を用いることが可能である。
無機エレクトロクロミック化合物の例としては、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化イリジウム、酸化チタンなどが挙げられる。
また、有機エレクトロクロミック化合物(色素系のエレクトロクロミック化合物あるいはポリマー系)の例としては、ビオロゲン系、希土類フタロシアニン系、スチリル系、アゾベンゼン系、アントラキノン系、ジアリールエテン系、ジヒドロプレン系、スチリル系、スピロピラン系、スピロオキサジン系、スピロチオピラン系、チオインジゴ系、テトラチアフルバレン系、テレフタル酸系、トリフェニルメタン系、トリフェニルアミン系、ナフトピラン系、ピラゾリン系、フェナジン系、フェニレンジアミン系、フェノキサジン系、フェノチアジン系、フルオラン系、フルギド系、ベンゾピラン系、メタロセン系、等の低分子系有機エレクトロクロミック化合物や、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン等の導電性高分子化合物などが挙げられる。更にこれらをポリメチルメタアクリレートなどのアクリル樹脂や、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリビニルアルコール等のマトリクス材料と混合させた混合物も適用可能である。つまり、無機エレクトロクロミック化合物や、有機エレクトロクロミック化合物のいずれも用いることが可能である。
【0023】
エレクトロクロミック層を形成するには、エレクトロクロミック化合物を前記表示電極上に直接形成してもよいが、有機エレクトロクロミック化合物の場合には特に、導電性または半導体性微粒子に担持させてから用いることが望ましい。具体的には、表示電極上に粒径5nm〜50nm程度の導電性または半導体性微粒子(以下、「超微粒子」と呼称することがある。)を焼結し、その超微粒子表面にホスホン酸やカルボキシル基、シラノール基などの極性基を有する有機エレクトロクロミック化合物を吸着させる方法などがある。またこの時、複数種類の有機エレクトロクロミック化合物を前記導電性または半導体性微粒子に吸着させてもよい。
半導体性微粒子としてはナノ構造半導体材料などが用いられ、特に限定されるものではないが、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化インジウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化ケイ素(シリカ)、酸化イットリウム、酸化ホウ素、酸化マグネシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、酸化カルシウム、フェライト、酸化ハフニウム、酸化タングステン、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化バナジウム、アルミノケイ酸、リン酸カルシウム、アルミノシリケート等を主成分とする金属酸化物などが挙げられる。また、これらの金属酸化物は、単独で用いられてもよく、2種以上が混合され用いられてもよい。電気伝導性等の電気的特性や光学的性質等の物理的特性を鑑みるに、ナノ構造半導体材料の材料として、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化インジウム、酸化タングステンから選ばれる一種、もしくはそれらの混合物が用いられたとき、発色または消色の応答速度に優れた多色表示が可能である。また、ナノ構造半導体材料の形状は、特に限定されるものではないが、エレクトロクロミック化合物を効率よく担持するために、単位体積当たりの表面積(以下比表面積)が大きい形状が好ましく用いられる。大きな比表面積を有することにより効率的にエレクトロクロミック化合物が担持される。
【0024】
エレクトロクロミック化合物を導電性または半導体性微粒子に担持させた構造とすれば、超微粒子の大きな表面効果を利用してエレクトロクロミック化合物が効率よく担持されて効率よく有機エレクトロクロミック化合物に電子が注入され、発色または消色の表示コントラスト比に優れた表示が可能である。つまり、従来のエレクトロクロミック表示素子と比較して高速応答性において有利となるほか、表示層として透明な膜が形成できるため、結果として白反射率を高くすることができる利点がある。このようなエレクトロミック層の形成にはスピンコート法やキャスト法、ディップ法、インクジェット法、ドクターブレード法、スクリーン印刷法、ディスペンス法、スプレー塗工等の公知の成膜方法を用いることができ、これらの方法によってクラックがなく、強度、靭性、耐久性等に優れた良好な薄膜を作製することができる。
微粒子に担持されてなるエレクトロクロミック層の好ましい膜厚は、限定されるものではないが、0.2〜5.0μmである。0.2μmよりも膜厚が薄い場合、発色濃度を得にくくなる。また、5.0μmよりも膜厚が厚い場合、製造コストが増大すると共に、着色によって視認性が低下しやすい。
【0025】
〈電解質層〉
電解質層を構成する材料としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の無機イオン塩、4級アンモニウム塩や酸類、アルカリ類の支持塩を用いることができる。
具体的には、LiClO、LiBF、LiAsF、LiPF、LiCFSO、LiCFCOO、KCl、NaClO、NaCl、NaBF、NaSCN、KBF、Mg(ClO、Mg(BF)などを用いることができ、また、イオン性液体等も好適に用いることができる。
【0026】
イオン性液体は、一般的に研究・報告されている物質ならばどのようなものでも構わないが、中でも有機のイオン性液体については、室温を含む幅広い温度領域で液体を示すものが知られている。カチオン成分としてN、N−ジメチルイミダゾール塩、N、N−メチルエチルイミダゾール塩、N、N−メチルプロピルイミダゾール塩などのイミダゾール誘導体、N、N−ジメチルピリジニウム塩、N、N−メチルプロピルピリジニウム塩などのピリジニウム誘導体など芳香族系の塩、あるいは、トリメチルプロピルアンモニウム塩、トリメチルヘキシルアンモニウム塩、トリエチルヘキシルアンモニウム塩などのテトラアルキルアンモニウムなど脂肪族4級アンモニウム系等を例示することができる。一方、アニオン成分としては、大気中での安定性を考慮すると、フッ素を含んだ化合物が好ましく、例えば、BF、CFSO、PF、(CFSOなどを例示することができる。従って、これらのカチオン成分とアニオン成分の組み合わせにより処方したイオン性液体も電解質層に用いることが可能である。
【0027】
上記電解質は各種モノマー、オリゴマー、ポリマーまたは液晶材料等に溶解させて用いることもできる。溶解性の悪い電解質である場合には、少量の溶媒、例えば、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、γ―ブチロラクトン、エチレンカーボネート、スルホラン、ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、−ジメトキシエタン、−エトキシメトキシエタン、ポリエチレングリコール、アルコール類などと混合することで処方することができる。
なお、電極界面における静電容量としては、イオン半径が小さいものほど概ね大きくなることが確認されており、また溶媒はメモリー特性を考慮すると粘度の高いものを選択することが好ましい。更に、電解質としては、溶媒中での解離度が高く、解離したイオンが分解などの副反応を受けにくいことも要求されるが、これらは素子の用途によって適宜選択することが望ましい。
【0028】
反射型エレクトロクロミック表示素子の場合、電解質層中に必要に応じて白色の粒子を混合(あるいは混入)するか、あるいは白色反射層を設けてもよい。白色粒子の混合(混入)、もしくは白色反射層の設置により、反射型表示素子に必要とされる「白色」の反射率を向上させることができる。
具体的には、白色顔料粒子を電解質中に分散させたり、あるいは、白色顔料粒子を分散した樹脂を対向電極上に塗布する(白色反射層を設ける)こと等によって実施することが可能である。白色の粒子としては、白色顔料粒子、例えば、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、シリカ、酸化セシウム、酸化イットリウム等を用いることができる。
【0029】
〈対向電極〉
次に、対向電極の構成について説明する。
前述のように、本発明における対向電極は、その表面が平均粒径15nm以上25nm以下の微粒子および該微粒子の凝集体組織構造により形成された凹凸形状を有することを特徴としている。ここで電極そのものは異なる導電材料を二種以上積層した構成であっても構わない。
なお、電極が異なる導電材料を二種以上積層した構成である場合は、その最表面が平均粒径15nm以上25nm以下の微粒子および該微粒子の凝集体組織構造により形成された凹凸形状を有することが好ましい。
【0030】
即ち、先に述べたように、通常は電極表面の静電容量を増大させるために対向電極上に表面積の大きな多孔質電極を設ける場合があるが、このような従来の方法では電極自体の密度が減少してしまうため、結果としてメモリー特性を大きく改善することが困難となる。
一方、本発明のように対向電極表面上に平均粒径15nm以上25nm以下の微粒子および該微粒子の凝集体組織構造により形成された凹凸形状を有すれば、表面積の拡大が図れ、しかも対向電極の密度を減少させることがないため、最も効率的にメモリ特性を改善することができる。
【0031】
対向電極を形成する導電材料としては、表面加工が容易で導電性を有し、かつ耐久性にも優れる金属、真性半導体、酸化物半導体あるいは複合酸化物半導体などの無機系材料から選択されることが好ましい。具体的には、Au、Ag、Pt、Cu等の金属、Si、Ge、Te等の真性半導体、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ、酸化マグネシウム、またガリウムをドープした酸化亜鉛(略称、GZO化)、酸化インジウム、またスズをドープした酸化インジウム(略称、ITO)、酸化亜鉛、またフッ素をドープした酸化スズ(略称、FTO)、またアンチモンをドープした酸化スズ(略称、ATO)等の複合酸化物半導体を例示することができる。
【0032】
対向電極を構成する導電材料の中でも、特にその材料の特性として、エレクトロクロミック層の起こす酸化還元反応とは逆の反応を起こす材料、即ち、エレクトロクロミック層が酸化により発色する場合、自身は還元反応を起こし、エレクトロクロミック層が還元により発色する場合、自身は酸化反応を起こすような材料を用いると、エレクトロクロミック層の電気化学反応を効率良く起こすことができる。
【0033】
次に、本発明を実施するための最良の形態について図面と共に説明する。
図2は、本発明に係る単色表示型のエレクトロクロミック表示素子を説明するための構成例を示す概略断面図である。
図2において、単色表示型のエレクトロクロミック表示素子(20)は、表示電極〔透明電極a〕(22)が形成されている透明支持基板(21)と、表示電極(22)に対して、所定の間隔を隔てて対向して設けられている対向電極〔電極b〕(27)が形成されている支持基板(26)と、表示電極(22)に接して設けられたエレクトロクロミック層(25)と、表示電極(22)と対向電極(27)とに挟まれるように設けられた電解質層(28)とを有し封止剤(60)により密着形成されている。封止剤(60)は、スペーサとしての役割も担う。なお、エレクトロクロミック層(25)は、多孔質電極(23)にエレクトロクロミック化合物(24)を担持させたものである。また、対向電極(27)は、その表面が平均粒径15nm以上25nm以下の微粒子および該微粒子の凝集体組織構造により形成された凹凸形状を成す。符号29aは表示電極側の電極端子、29bは対向電極側の電極端子を示す。
【0034】
また、本発明におけるエレクトロクロミック表示素子の構成は、図2に示すような単一色を表示するエレクトロクロミック素子に限定されるものではなく、図3に示すような多色表示型のエレクトロクロミック素子構成において、最も効果的にその効果が発現されるものである。
図3は、本発明に係る多色表示型のエレクトロクロミック表示素子を説明するための構成例を示す概略断面図である。
即ち、多色表示型のエレクトロクロミック素子(30)は、第1の表示電極(32a)が形成されている表示電極側の支持基板(31)と、所定の間隔を隔てて対向して設けられている対向電極(37)が形成されている対向電極側の支持基板(36)と、第1の表示電極(32a)、第2の表示電極(32b)および第3の表示電極(32c)の各表示電極に接して設けられた、第1のエレクトロクロミック層(35a)、第2のエレクトロクロミック層(35b)および第3のエレクトロクロミック層(35c)と、表示電極間の絶縁性を確保するためにエレクトロクロミック層に接して形成された、絶縁層(41a、41bとからなり、白色微粒子(42)と電解質層(38)を挟んで対向電極とスペーサである封止剤(43)により密着形成されている。なお、各エレクトロクロミック層(35a、35b、35c)は、多孔質電極[第1の多孔質電極(33a)、第2の多孔質電極(33b)、第3の多孔質電極(33c)]にエレクトロクロミック化合物[第1のエレクトロクロミック化合物(34a)、第2のエレクトロクロミック化合物(34b)、第3のエレクトロクロミック化合物(34c)]を担持させたものである。符号39aは第1の表示電極側の電極端子、39bは第2の表示電極側の電極端子、39cは第3の表示電極側の電極端子、39dは対向電極側の電極端子を示す。
【0035】
本発明の多色表示型のエレクトロクロミック素子(30)は選択した第1乃至第3の表示電極(32a、32b、32c)と対向電極(37)の間に電圧を印加し、選択した表示電極に接する第1乃至第3のエレクトロクロミック層(35a、35b、35c)が、表示電極からの電荷の授受により酸化還元反応することにより発色または消色する。また、白色微粒子(42)を含有するので、表示電極側の支持基板(31)側から視認できる反射型の表示素子となる。さらに、一の表示電極と他の表示電極との間の電気抵抗を、一の表示電極の電気抵抗より大きく設定することにより、積層カラー表示が可能である。但し、電気抵抗は、エレクトロクロミック層(35a、35b、35c)の膜厚などにも依存し、絶縁層(41a、41b)無しでも十分な電気抵抗が得られる場合は絶縁層(41a、41b)を省略することもできる。
前記各エレクトロクロミック層に、減法混色の三原色であるシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)を発色するエレクトロクロミック化合物を用い、各表示電極に印加する電圧を制御することで多色表示(カラー表示を行うこと)が可能となる。この場合、全てのエレクトロクロミック層を発色させC、M、Yを混色させると黒色が表示され、白色においては、例えば、上記のように電解質層に白色微粒子(白色顔料粒子等)を分散させるなどして予め背景色を白色に構成しておき、全てのエレクトロクロミック層を消色させることで、背景色である白色が表示される。
【実施例】
【0036】
以下、実施例に基づいて本発明のエレクトロクロミック表示素子の詳細について説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これら実施例によってなんら制限されるものではない。
【0037】
[実施例1]
先ず、下記処方および条件で、透明支持基板上に透明導電材料からなる表示電極と、酸化チタンからなる多孔質層を形成して表示電極構造体を作製した。
〔表示電極構造体の作製〕
透明支持基板として40mm×40mm×1.1mm(板厚)のガラス基板を用意し、このガラス基板上に、インジウムをドープした酸化スズ膜(ITO膜)をスパッタリング法により形成した。次に、形成したITO膜の表面をUVオゾン法により表面処理を施して後、酸化チタン(テイカ製チタニアゾル TKS−203 TiO−19.9wt%)1000nmをスピンコートした。スピンコートの後、120℃ホットプレート上で数秒間予備乾燥させ、次いで電気炉で550℃、1.5時間かけて酸化チタンを焼結することで、最終的に酸化チタンの多孔質電極が形成された表示電極構造体(ITO表示電極)を得た。
【0038】
〔有機エレクトロクロミック化合物の表示電極への吸着〕
下記構造式(1)で示される有機エレクトロクロミック化合物を、濃度が5mMとなるよう水に溶解して有機エレクトロクロミック化合物含有溶液を調整した。得られた有機エレクトロクロミック化合物含有溶液中に前記表示電極構造体(ITO表示電極)を80℃の高温槽内で1時間浸漬させ、下記構造式(1)で示される有機エレクトロクロミック化合物を表示電極上の多孔質電極に吸着させた。有機エレクトロクロミック化合物が多孔質電極に吸着後、水およびイソプロパノールで洗浄処理を行い、乾燥を行った。
【0039】
【化1】

【0040】
〔対向電極の作製〕
支持基板として40mm×40mm×1.1mm(板厚)のガラス基板を用意し、このガラス基板表面を研磨処理することで所定の凹凸形状を形成させた後、インジウムをドープした酸化スズ膜(ITO膜)をスパッタ法により形成することで対向電極とした。
作製した対向電極の表面をAFM観察した結果(対向電極表面のAFM観察写真およびAFMより得られた誤差信号から解析により求めた断面プロファイル)を図4に示す。図4に示すように、対向電極表面は平均粒径18nmの微粒子および該微粒子の凝集体組織構造により形成された凹凸形状を有することが観察された。
AFMによる表面形状の観察には、走査型電子顕微鏡JSM−7400F(日本電子製)および走査型プローブ顕微鏡SPI3800N(セイコーインスツルメンツ製)を用いた。下記表1に実施例1で作製した対向電極表面の平均粒径とAFM観察結果の対応図番号をまとめて示す。
【0041】
〔電解質の調製〕
電解質層に用いる電解質として、過塩素酸テトラブチルアンモニウム(和光製)を支持電解質とし、これをポリエチレングリコール(ポリエチレングリコール200:東京化成製)に溶解させた溶液を用いた。ポリエチレングリコール溶液(電解液)中における過塩素酸テトラブチルアンモニウムの濃度は0.2mMに調整した。
【0042】
〔エレクトロクロミック表示素子の作製〕
上記のようにして作製した表示電極と対向電極とを、均一な電極間隔を保つために12μm径のファイバーシリカを含有したエポキシ系UV硬化型接着剤(長瀬ケムテックス社製)で貼り合わせて図2に示した構成と同様の単色表示型エレクトロクロミック表示素子(表示素子1)を作製した。UV硬化型接着剤の硬化処理は、出力50mW/cm(測定波長360nm)のUV光を3分間照射することで行った。また、電解液の注入は、表示電極と対向電極の両電極を貼り合せる際に行った。
【0043】
<表示素子の特性評価>
作製した表示素子1の特性評価を下記条件にて実施した。
即ち、表示素子1(略、素子)に5mAの電流を4秒間流し、有機エレクトロクロミック化合物を十分に発色させた後、素子を閉回路とし、発色状態が持続する時間を比較することで行った。
〈測定装置〉
電流の制御:ポテンショメータとしてBAS社製ALS電気化学アナライザー(モデル660C)を用いた。
吸光度の測定:Ocean Optics社製ファイバマルチチャネル分光器を用いた。
【0044】
この素子を評価したところ、吸光度減衰率が−50%以上となるまでの時間は30分以上も続くことが確認された。図10に吸光度測定により得られた吸光度減衰率を示す。
上記評価結果から、表面に微細な凹凸形状を有す表示素子1により、良好なメモリー特性が得られた。
【0045】
[実施例2]
対向電極の支持基板表面を研磨処理することで、実施例1よりも粒子形状の大きな凹凸形状を形成させるように変更した以外は、実施例1と同様にしてエレクトロクロミック表示素子(表示素子2)を作製した。
作製した対向電極の表面をAFM観察した結果(対向電極表面のAFM観察写真およびAFMより得られた誤差信号から解析により求めた断面プロファイル)を図5に示す。図5に示すように、対向電極表面は平均粒径19nmの微粒子および該微粒子の凝集体組織構造により形成された凹凸形状を有することが観察された。下記表1に実施例2で作製した対向電極表面の平均粒径とAFM観察結果の対応図番号をまとめて示す。
【0046】
<表示素子の特性評価>
作製した表示素子2のメモリー特性を実施例1と同様にして評価した。
測定の結果、吸光度減衰率が−50%以上となるまでの時間は1時間以上も続くことが確認された。図10に吸光度測定により得られた吸光度減衰率を示す。
上記評価結果から、表面に実施例1よりも微細な凹凸形状を有す表示素子2により、メモリー特性の更なる良好な結果を得ることができた。
【0047】
[実施例3]
対向電極の支持基板表面を研磨処理することで、実施例2よりも更に粒子形状の大きな凹凸形状を形成させるように変更した以外は、実施例2と同様にしてエレクトロクロミック表示素子(表示素子3)を作製した。
作製した対向電極の表面をAFM観察した結果(対向電極表面のAFM観察写真およびAFMより得られた誤差信号から解析により求めた断面プロファイル)を図6に示す。図6に示すように、対向電極表面は平均粒径23nmの微粒子および該微粒子の凝集体組織構造により形成された凹凸形状を有することが観察されたが、実施例1および実施例2と比較すると、粒子形状が大きくなることで表面の凹凸形状が不明瞭となる傾向があることも観察された。下記表1に実施例3で作製した対向電極表面の平均粒径とAFM観察結果の対応図番号をまとめて示す。
【0048】
<表示素子の特性評価>
作製した表示素子3のメモリー特性を実施例1と同様にして評価した。
測定の結果、吸光度減衰率が−50%以上となるまでの時間は10分以上続くことが確認された。
【0049】
[実施例4]
複数の透明導電材料と複数の表示電極の各表面にエレクトロクロミック層を有するエレクトロクロミック表示素子を下記により作製した(図3と同様の構成)。
なお、本発明の対向電極によるメモリー特性の評価に供するエレクトロクロミック表示素子として、異なる有機エレクトロクロミック化合物を用いて多色表示とするまでもなく、原理的な構成モデルとして同じであることから、各エレクトロクロミック層の形成には前記構造式(1)で示される有機エレクトロクロミック化合物を共通して用いた。
実施例1と同様のITO膜(第1の表示電極)上に、前記構造式(1)で示される有機エレクトロクロミック化合物を5wt%含有する2,2,3,3−テトラフロロプロパノール溶液と、酸化チタンナノ粒子分散液(SP210:昭和タイタニウム社製)とを2.4/4の比率(重量比)で混合したエレクトロクロミック層用塗布液をスピンコート法により塗布し、120℃で10分間アニール処理を行うことにより、第1のエレクトロクロミック層を形成した。
次に、形成した第1のエレクトロクロミック層上に、ポリ−N−ビニルアミドの0.1wt%エタノール溶液、ポリビニルアルコールの0.5wt%水溶液をスピンコート法により塗布することで保護層を形成し、更にZnS−SiO(組成比、8:2)をスパッタ法により20nmの膜厚になるよう成膜することで無機絶縁層を形成した。
次いで、無機絶縁層上に、スパッタリング法により、厚さが100nmのITO膜を形成して、第2の表示電極を作製した。
第2の表示電極上に、前記エレクトロクロミック層用塗布液をスピンコート法により塗布し、120℃で10分間アニール処理を行うことにより、第2のエレクトロクロミック層を形成した。
次に、第2のエレクトロクロミック層上に、ポリ−N−ビニルアミドの0.1wt%エタノール溶液、ポリビニルアルコールの0.5wt%水溶液をスピンコート法により塗布して、保護層を形成し、更にZnS−SiO(組成比、8:2)をスパッタ法により20nmの膜厚になるよう成膜して無機絶縁層を形成した。形成された無機絶縁層上に、スパッタリング法により、厚さが100nmのITO膜を形成して、第3の表示電極を作製した。
次に、第3の表示電極上に、前記エレクトロクロミック層用塗布液をスピンコート法により塗布し、120℃で10分間アニール処理を行うことにより、第3のエレクトロクロミック層を形成した。
【0050】
〔エレクトロクロミック表示素子の作製〕
上記のようにして作製した表示電極構造体と実施例3と同じ構成の対向電極(図7に対向電極表面のAFM観察写真およびAFMより得られた誤差信号から解析により求めた断面プロファイルを示す。)とを、均一な電極間隔を保つために12μm径のファイバーシリカを含有したエポキシ系UV硬化型接着剤(長瀬ケムテックス社製)で貼り合わせて図3に示した構成と同様のエレクトロクロミック表示素子(表示素子4)を作製した。なお、電解液には、過塩素酸クロライドを炭酸プロピレン0.1Mに溶解させた溶液に一次粒径300nmの酸化チタン粒子(石原産業株式会社製)を35wt%分散させたものを用い、表示電極と対向電極の両電極を貼り合せる際に注入し、セル内に封入した。UV硬化型接着剤の硬化処理は、出力50mW/cm(測定波長360nm)のUV光を3分間照射することで行った。下記表1に実施例4で作製した対向電極表面の平均粒径とAFM観察結果の対応図番号をまとめて示す。
【0051】
<表示素子の特性評価>
作製した表示素子4のメモリー特性を実施例3と同様にして評価した。
測定の結果、吸光度減衰率が−50%以上となるまでの時間は10分以上続くことが確認された。上記評価結果から、表面に微細な凹凸形状を有す対向電極を有す表示素子4により、良好なメモリー特性を得られることがわかった。
【0052】
[比較例1]
実施例1において、対向電極の構成を下記のように変更した以外は実施例1と同様にして対向電極を作製し、これを用いてエレクトロクロミック表示素子(比較表示素子1)を作製した。
〔対向電極の作製〕
支持基板として40mm×40mm×1.1mm(板厚)のガラス基板を用意し、このガラス基板表面を研磨処理することで所定の凹凸形状を形成させた後、インジウムをドープした酸化スズ膜(ITO膜)をスパッタ法により形成することで対向電極とした。
作製した対向電極の表面をAFM観察した結果(対向電極表面のAFM観察写真およびAFMより得られた誤差信号から解析により求めた断面プロファイル)を図8に示す。図8に示すように、対向電極表面は平均粒径12nmの微粒子および該微粒子の凝集体組織構造により形成された凹凸形状を有することが観察された。下記表1に比較例1で作製した対向電極表面の平均粒径とAFM観察結果の対応図番号をまとめて示す。
【0053】
<表示素子の特性評価>
作製した比較表示素子1のメモリー特性を実施例1と同様にして評価した。
測定の結果、吸光度減衰率が−50%以上となるまでの時間が数分以下となってしまった。図10に吸光度測定により得られた吸光度減衰率を示す。
即ち、上記評価結果から、平均粒径が12nmと非常に小さくなると表面に微細な凹凸形状が形成されなくなり、そのような対向電極を用いた比較表示素子1は、良好なメモリー特性を実現することができない。
【0054】
[比較例2]
実施例1において、対向電極の構成を下記のように変更した以外は実施例1と同様にして対向電極を作製し、これを用いてエレクトロクロミック表示素子(比較表示素子2)を作製した。
〔対向電極の作製〕
支持基板として40mm×40mm×1.1mm(板厚)のガラス基板を用意し、このガラス基板表面を研磨処理することで所定の凹凸形状を形成させた後、インジウムをドープした酸化スズ膜(ITO膜)をスパッタ法により形成することで対向電極とした。
作製した対向電極の表面をAFM観察した結果(対向電極表面のAFM観察写真およびAFMより得られた誤差信号から解析により求めた断面プロファイル)を図9に示す。図9に示すように、対向電極表面は平均粒径31nmの微粒子および該微粒子の凝集体組織構造により形成された凹凸形状を有することが観察された。下記表1に比較例2で作製した対向電極表面の平均粒径とAFM観察結果の対応図番号をまとめて示す。
【0055】
<表示素子の特性評価>
作製した比較表示素子2のメモリー特性を実施例1と同様にして評価した。
測定の結果、吸光度減衰率が−50%以上となるまでの時間が数分以下となってしまった。
即ち、上記評価結果から、平均粒径が31nmと大きくなると表面に微細な凹凸形状が形成されなくなり、そのような対向電極を用いた比較表示素子2は、良好なメモリー特性を実現することができない。
【0056】
【表1】

【0057】
上記評価結果から、平均粒径15nm以上25nm以下の微粒子および該微粒子の凝集体組織構造により形成された凹凸形状を有する対向電極を用いたエレクトロクロミック表示素子構成とすれば、電極密度を減少させずに表面積の拡大が図れるため、対向電極上での逆電子反応を効率的に抑制し、メモリー特性を改善することができる。本発明のエレクトロクロミック表示素子は、各種の平板ディスプレーおよび電子ペーパーなどの各種ディスプレイ装置用として有用である。
【符号の説明】
【0058】
(図1の符号)
10 エレクトロクロミック表示素子
11 表示電極側の支持基板
12 表示電極〔透明電極a〕
13 多孔質電極
14 エレクトロクロミック化合物
15 エレクトロクロミック層
16 対向電極側の支持基板
17 対向電極〔電極b〕
18 電解質層
19a 表示電極側の電極端子
19b 対向電極側の電極端子
50 封止剤
(図2の符号)
20 単色表示型のエレクトロクロミック表示素子
21 透明支持基板
22 表示電極〔透明電極a〕
23 多孔質電極
24 エレクトロクロミック化合物
25 エレクトロクロミック層
26 支持基板
27 対向電極〔電極b〕
28 電解質層
29a 表示電極側の電極端子
29b 対向電極側の電極端子
60 封止剤
(図3の符号)
30 多色表示型のエレクトロクロミック素子
31 表示電極側の支持基板
32a 第1の表示電極
32b 第2の表示電極
32c 第3の表示電極
33a 第1の多孔質電極
33b 第2の多孔質電極
33c 第3の多孔質電極
34a 第1のエレクトロクロミック化合物
34b 第2のエレクトロクロミック化合物
34c 第3のエレクトロクロミック化合物
35a 第1のエレクトロクロミック層
35b 第2のエレクトロクロミック層
35c 第3のエレクトロクロミック層
36 対向電極側の支持基板
37 対向電極
38 電解質層
39a 第1の表示電極側の電極端子
39b 第2の表示電極側の電極端子
39c 第3の表示電極側の電極端子
39d 対向電極側の電極端子
41a、41b 絶縁層
42 白色微粒子
43 封止剤
【先行技術文献】
【特許文献】
【0059】
【特許文献1】特開平5−80357号公報
【特許文献2】特開昭62−115129号公報
【特許文献3】特開平5−100253号公報
【特許文献4】特開平1−225925号公報
【特許文献5】特開昭59−17580号公報
【特許文献6】特開昭63−305327号公報
【特許文献7】特開昭63−149628号公報
【特許文献8】特開昭63−24225号公報
【特許文献9】特開62−119527号公報
【特許文献10】特開2007−41259号公報
【特許文献11】特開2007−132963号公報
【特許文献12】特開2010−33016号公報
【特許文献13】WO2006/129424号公表
【特許文献14】特許第3955641号公報
【特許文献15】特開2007−148230号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明支持基板と、前記透明支持基板上に形成された透明導電材料からなる表示電極と、前記透明支持基板と対向して配置された支持基板と、前記支持基板上に形成された導電材料からなる対向電極と、前記表示電極の対向電極側面に接して設けられたエレクトロクロミック層と、前記表示電極と対向電極との間に収容された電解質層とを備えたエレクトロクロミック表示素子であって、
前記対向電極は、その表面が平均粒径15nm以上25nm以下の微粒子および該微粒子の凝集体組織構造により形成された凹凸形状を有することを特徴とするエレクトロクロミック表示素子。
【請求項2】
透明支持基板と、前記透明支持基板上に形成され互いに隔離して多層に配置された複数の透明導電材料からなる表示電極と、前記透明支持基板と対向して配置された支持基板と、前記支持基板上に形成された導電材料からなる対向電極と、前記複数の表示電極の各対向電極側面に接して設けられたエレクトロクロミック層と、前記複数の表示電極と対向電極との間に収容された電解質層とを備えたエレクトロクロミック表示素子であって、
前記対向電極は、その表面が平均粒径15nm以上25nm以下の微粒子および該微粒子の凝集体組織構造により形成された凹凸形状を有することを特徴とするエレクトロクロミック表示素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−194412(P2012−194412A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58866(P2011−58866)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】