説明

エレクトロクロミック表示装置

【課題】簡便な手法により高精細かつ高い素子耐久性と表示メモリ性を兼ね備えるエレクトロクロミック表示装置を提供すること。
【解決手段】対向して設けられた表示基板1及び対向基板9と、前記表示基板上1に設けられた表示電極2と、前記対向基板9上に設けられた複数の画素電極8と、前記表示基板1と前記対向基板9とに挟持され、前記表示電極2に接して設けられたエレクトロクロミック層3と、前記複数の画素電極9上に、当該複数の画素電極9形成領域の全面に亘って形成された電荷保持層8と、前記電荷保持層8上に、当該電荷保持層8を被覆するように設けられた保護層7と、を備え、前記表示電極2と前記画素電極8との間に充填されてなる電解質を含む電解液4を有し、前記電荷保持層7は、酸化ニッケルを含み、前記電荷保持層7と前記保護層6とからなる積層構造体の表面抵抗は、1E+6Ω/□以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミック表示装置に係り、特に多色表示が可能なエレクトロクロミック表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、紙に替わる電子媒体として電子ペーパーへのニーズが高まり、その開発が盛んに行なわれている。この表示システムを実現する手段として、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの自発光表示技術の開発が進み、一部製品化されている。
【0003】
一方で、低消費電力かつ視覚的疲労感が少ない反射型表示技術が、次世代電子ペーパーの表示技術として有望視されている。
【0004】
反射型表示技術として、コレステリック液晶を用いた反射型液晶表示技術が考案されている。しかしながらこの表示技術は選択反射やカラーフィルタを用いていることもあり、視認性が非常に悪く、彩度や色再現範囲の点で”紙”には遠く及ばない。
【0005】
また反射型表示技術のうち、高い色再現性と表示メモリ性を兼ね備えた有機エレクトロクロミック材料からなるエレクトロクロミック表示技術が注目を集めている。
電圧を印加することで、可逆的に酸化還元反応が起こり、可逆的に色が変化する現象をエレクトロクロミズムという。このエレクトロクロミズム現象を引き起こすエレクトロクロミック化合物の発色/消色(以下、発消色)を利用した表示装置がエレクトロクロミック表示装置である。このエレクトロクロミック表示装置については、反射型の表示装置であること、表示メモリ性があること、低電圧で駆動できることから、電子ペーパー用途の表示装置技術の有力な候補として、材料開発からデバイス設計に至るまで、幅広く研究開発が行われている。
【0006】
しかしながら、画素電極での逆電子反応によるエレクトロクロミック材料の消色や、画素電極表面で起こる酸化・還元反応による電極自身の失活などにより、表示メモリ性や繰り返し耐久性に課題が残されている。
【0007】
非特許文献1では画素電極に電荷保持層を設けキャパシタを形成することで表示メモリ性を向上させる技術が報告されている。しかしながら本発明者らの検討によると、高精細表示と高い表示メモリ性との両立が困難であるという結果が得られている。つまり、両立のためには画素電極上に、電荷保持層を局所的に分離形成する必要があり、煩雑な工程が増えるというデメリットが残されている。
【0008】
また、特許文献2では画素電極上にp型、n型半導体との積層構造からなる半導体整流層を設け、整流作用を利用して画素電極上の逆電子反応を防ごうとする技術が開示されている。しかしながら本発明者らの検討によると、電解質内への電荷の拡散が顕著であり、表示メモリ性には多くの改善の余地があるという結果であった。
【0009】
また、特許文献3、4では画素電極自身またはその表面に、ニッケル含有物で修飾する技術が提示されている。特に特許文献4では酸化ニッケルを画素電極とすることが提案されているが、本発明者らの検討によると数回の発消色で酸化ニッケル自身の脱酸素反応が起こり、電解液中に気泡が発生するという素子耐久性への課題が残されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は前記従来の問題点等に鑑みてなされたものであり、簡便な手法により高精細かつ高い素子耐久性と表示メモリ性を兼ね備えるエレクトロクロミック表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明に係るエレクトロクロミック表示装置は、具体的には下記(1)〜(5)に記載の技術的特徴を有する。
(1):対向して設けられた表示基板及び対向基板と、前記表示基板上に設けられた表示電極と、前記対向基板上に設けられた複数の画素電極と、前記表示基板と前記対向基板とに挟持され、前記表示電極に接して設けられたエレクトロクロミック層と、前記複数の画素電極上に、当該複数の画素電極形成領域の全面に亘って形成された電荷保持層と、前記電荷保持層上に、当該電荷保持層を被覆するように設けられた保護層と、を備え、前記表示電極と前記画素電極との間に充填されてなる電解質を含む電解液を有し、前記電荷保持層は、酸化ニッケルを含み、前記電荷保持層と前記保護層とからなる積層構造体の表面抵抗は、1E+6Ω/□以上であることを特徴とするエレクトロクロミック表示装置である。
(2):対向して設けられた表示基板及び対向基板と、互いが離間してなる複数の表示電極と、前記対向基板上に設けられてなり前記複数の表示電極に対向してなる複数の画素電極と、前記複数の表示基板の夫々が有する複数のエレクトロクロミック層と、前記複数の画素電極上に、当該複数の画素電極形成領域の全面に亘って形成された電荷保持層と、前記電荷保持層上に、当該電荷保持層を被覆するように設けられた保護層と、を備え、前記表示基板に最も近接してなる表示電極と前記画素電極との間に充填されてなる電解質を含む電解液を有し、前記電荷保持層は、酸化ニッケルを含み、前記電荷保持層と前記保護層とからなる積層構造体の表面抵抗は、1E+6Ω/□以上であることを特徴とするエレクトロクロミック表示装置である。
(3):対向して設けられた表示基板及び対向基板と、互いが離間してなる複数の表示電極と、前記対向基板上に分離して設けられてなる複数の駆動素子と、前記複数の駆動素子より各々電気的に接続され、前記複数の表示電極に対向してなる複数の画素電極と、前記複数の表示基板の夫々が有する複数のエレクトロクロミック層と、前記複数の画素電極上に、当該複数の画素電極形成領域の全面に亘って形成された電荷保持層と、前記電荷保持層上に、当該電荷保持層を被覆するように設けられた保護層と、を備え、前記表示基板に最も近接してなる表示電極と前記画素電極との間に充填されてなる電解質を含む電解液を有し、前記電荷保持層は、酸化ニッケルを含み、前記電荷保持層と前記保護層とからなる積層構造体の表面抵抗は、1E+6Ω/□以上であることを特徴とするエレクトロクロミック表示装置である。
(4):前記電荷保持層は、酸素過剰状態の異なる複数の酸化ニッケル層と酸化チタン層とを含むことを特徴とする上記(1)乃至(3)のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック表示装置である。
(5):前記電荷保持層は、前記画素電極側より、酸素過剰状態の高い酸化ニッケル層、酸化チタン層、酸素過剰状態の低い酸化ニッケル層がこの順に積層されてなることを特徴とする上記(1)乃至(4)のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック表示装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡便な手法により高精細かつ高い素子耐久性と表示メモリ性を兼ね備えるエレクトロクロミック表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るエレクトロクロミック表示装置の一実施の形態における構成を示す概略断面図である。
【図2】本発明に係るエレクトロクロミック表示装置のその他の実施の形態における構成を示す概略断面図である。
【図3】本発明に係るエレクトロクロミック表示装置のさらにその他の実施の形態における構成を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るエレクトロクロミック表示装置は、対向して設けられた表示基板1及び対向基板9と、前記表示基板上1に設けられた表示電極2と、前記対向基板9上に設けられた複数の画素電極8と、前記表示基板1と前記対向基板9とに挟持され、前記表示電極2に接して設けられたエレクトロクロミック層3と、前記複数の画素電極9上に、当該複数の画素電極9形成領域の全面に亘って形成された電荷保持層8と、前記電荷保持層8上に、当該電荷保持層8を被覆するように設けられた保護層7と、を備え、前記表示電極2と前記画素電極8との間に充填されてなる電解質を含む電解液4を有し、前記電荷保持層7は、酸化ニッケルを含み、前記電荷保持層7と前記保護層6とからなる積層構造体の表面抵抗は、1E+6Ω/□以上であることを特徴とする。
次に、本発明のエレクトロクロミック表示装置の各構成要素について具体的に説明する。ただし以下に記す実施の形態は、本発明における好適な実施の形態であり、本発明の範囲は以下の説明において本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限定されるものではない。
【0015】
図1に本発明のエレクトロクロミック表示装置の構成について説明するための模式図を示す。
エレクトロクロミック表示装置において、外側には支持基板となる表示基板1・対向基板9を有し、これらの内側表面にはそれぞれ表示電極2と、複数の画素電極8が形成される。表示電極2に隣接してエレクトロクロミック層3が形成され、エレクトロクロミック層3は導電性または半導体性を有する微粒子からなる多孔質電極層と、この微粒子に担持された酸化・還元反応より呈色変化を起こすエレクトロクロミック分子からなる。また複数の画素電極8上には、電荷保持層7が、前記画素電極8形成領域の全面に亘って形成される。図1において、表示電極2と画素電極8との間には電解質を溶解させた電解液4が含浸され、さらには白色反射層5が形成される。また、エレクトロクロミック表示装置は、互いに対向する表示基板1及び対向基板9と、互いに対向する複数の隔壁12と、により区画され、1つのセルを形成してなる。なお、隔壁12には周知慣用の材料を用いることができる。
【0016】
〈表示基板1〉
表示基板としては、透明な材料であれば特に限定されるものではないが、ガラス基板、プラスチックフィルム等の基板が用いられる。また、気密性・封止性・視認性を高めるために表示基板1の表裏に透明絶縁層・反射防止層等がコーティングされていてもよい。
【0017】
〈対向基板9〉
対向基板9としては、特に透明である必要もないため、ガラス基板、プラスチックフィルム、シリコン基板、ステンレス等の金属基板、またこれらを積層したものなどが用いられる。
【0018】
〈表示電極2〉
表示電極2としては、透明性と導電性を有する材料であれば特に限定されるものではない。該表示電極2の材料としては、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、インジウムスズ酸化物、インジウム亜鉛酸化物等の金属酸化物が望ましい。また作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、または該表示電極2の材料が塗布形成できるものであれば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の各種印刷法も用いることができる。
【0019】
〈画素電極8〉
画素電極8としては、導電性を有する材料であれば特に限定されるものではない。該画素電極8の材料としては、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、インジウムスズ酸化物、インジウム亜鉛酸化物等の金属酸化物、あるいは亜鉛、白金等の金属、カーボン、またはそれらの複合膜などを用いることができる。該画素電極8の作成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンレーティング法、または該画素電極8の材料が塗布形成できるものであれば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の各種印刷法も用いることができる。
【0020】
〈保護層6〉
電荷保持層7に含まれる酸化ニッケルは、エレクトロクロミック層3の発消色の還元反応過程で還元され、その保持している酸素を放出しやすい。このことは、電解液中に気泡の発生ならびに表示画像の欠陥として観測される。この気泡発生を防ぐためには、電荷保持層7に含まれる酸化ニッケル層が直接電解液に触れないようにすることが望ましい。
【0021】
保護層6としては、電荷保持層7に含まれる酸化ニッケルからの脱酸素による電解液中への気泡発生を防止する役割を担う材料であれば特に限定されるものではなく、AlやSiOまたはそれらを含む絶縁体材料や、酸化亜鉛、酸化チタンまたはそれらを含む半導体材料、またはポリイミドなどの有機絶縁体材料など、様々なものを用いることができる。特に、金属過剰により不定比化合物をとることができ、n型半導体特性を示す酸化チタンは、工程の面からも望ましい材料のひとつである。
【0022】
保護層6としての酸化チタン層の膜厚は1〜50nmが好ましく、さらに好ましくは1〜10nmである。該保護層6の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンレーティング法、または該保護層6の材料が塗布形成できるものであれば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の各種印刷法も用いることができる。なお、この保護層6は、電荷保持層7に含まれる酸化ニッケル層が直接電解液に触れていない場合には省略が可能である。
【0023】
〈電荷保持層7〉
画素電極8上に形成される電荷保持層7は酸化ニッケルを含んで形成されることが望ましい。
酸化ニッケルはNiが+2価の他に一部で+3価の酸素過剰状態をとることができる不定比化合物の一種である。この過剰な酸素がp型半導体としての酸化ニッケルの電気伝導に寄与していることが知られている。酸化ニッケルは高温環境の下で酸素を取り込み、その導電率は酸素分圧の1/4に比例することが知られている。つまり、酸素分圧が高い状態で真空成膜された酸化ニッケル層では電気伝導に寄与するキャリア密度が高く、反対に酸素分圧が低い状態で真空成膜された酸化ニッケル層では電気伝導に寄与するキャリア密度が低くなる。
【0024】
また、酸化ニッケルは酸化発色が可能なエレクトロクロミック材料としても知られ、酸化・還元反応の反応速度が高い材料のひとつでもある。酸化ニッケルは+2価から+3価へと酸化することで呈色することが知られている。
【0025】
また、該電荷保持層7は、酸素過剰状態の異なる複数の酸化ニッケル層、および酸化チタン層より形成されることが望ましい。
【0026】
p型半導体である酸化ニッケルとn型半導体である酸化チタンより構成される、PNまたはNP接合は、画素電極8上での逆電子反応防止のために有用である。逆電子反応を防止するためには電荷の整流性を付与する構成が望ましく、半導体特性を利用したPN、NP接合や、これら半導体と金属の接合により生じるショットキー接合を用いることができる。
【0027】
次に、本発明のエレクトロクロミック表示装置の表示原理について詳細に説明する。
表示電極2と、選択された任意の画素電極8間を電気的に接続させ、任意の電流を一定時間流すことで、表示電極2に接して設けられたエレクトロクロミック層3のうち、選択された任意の画素電極8直上の領域で発消色を起こすことができる。しかしながら画素電極8に蓄積された電荷は、電解液中のイオンを介して電解液中に拡散し、選択されなかった画素電極直8上のエレクトロクロミック層3の領域でも発色が起こる。このことが表示画像の滲みとして観察される。また、一旦電解液中に拡散した電荷が画素電極8に戻ることで、画素電極8での逆電子反応が引き起こされ、結果として表示メモリ性が乏しいこと、または画素電極8自身が還元されることによる電極の損傷など、素子耐久性が乏しいことなどの原因となる。
【0028】
本発明において、画素電極8上に形成される電荷保持層7は、酸素過剰状態の異なる複数の酸化ニッケル層、および酸化チタン層より形成されることが望ましい。つまり、電解液中に拡散する電荷を防ぐためには導電性を抑えて厚膜形成が可能な、酸素過剰状態の低い酸化ニッケル層が望ましく、画素電極への逆電子反応を防ぐためにはp型半導体特性に優れた酸素過剰状態の高い酸化ニッケル層と酸化チタン層より形成されるPN接合が有利となる。
【0029】
電荷保持の役割を担う、酸素過剰状態の低い酸化ニッケル層の膜厚は、電荷を蓄積する酸化・還元反応サイトを確保するために厚膜が望ましいが、厚すぎると導電性が低くなり、該酸化ニッケル層内での電荷の拡散が起こる。このことによって表示画像の滲みや表示メモリ性の低下が起こることになる。つまり、該酸化ニッケル層の厚さは、該電荷保持層7と保護層6からなる積層構造体の表面抵抗が1E+6Ω/□以上になるように設計する必要があるが、その膜厚は10〜500nmが好ましく、さらに好ましくは30〜200nmである。
【0030】
画素電極への逆電子反応を防ぐためのPN接合を形成する酸化ニッケル層、酸化チタン層は画素電極8と電荷保持の役割を担う酸化過剰状態の低い酸化ニッケル層とに挟持されて形成されることが望ましい。それぞれの膜厚は、厚膜になると上述のように導電性が低くなり表示画像の滲みが起こることより、それぞれ1〜50nmが好ましく、さらに好ましくは1〜10nmである。
【0031】
以上の理由により形成される電荷保持層7は、画素電極8より隣接して、酸素過剰状態の高い酸化ニッケル層と酸化チタン層より形成されるPN層、酸素過剰状態の低い酸化ニッケル層の順に積層されることが望ましい。
【0032】
また、本発明の特徴のひとつには該電荷保持層7と保護層6からなる積層構造体の表面抵抗を1E+6Ω/□以上とすることである。対向基板9上で、複数の画素電極8が形成されている領域の全体に亘って該電荷保持層7ならびに該保護層6を形成しても、表示画像の滲みなく高精細な表示が得られるという利点がある。これは、該電荷保持層7ならびに該保護層6をパターニングするという工程を省略できることに加えて、現状の液晶や有機ELディスプレイなどの薄膜トランジスタ(TFT)基板の生産設備をそのまま流用することが可能となるという大きな長所を持つ。
【0033】
〈エレクトロクロミック層3〉
エレクトロクロミック層3は、エレクトロクロミック材料を含んだものを示し、エレクトロクロミック材料としては、無機エレクトロクロミック化合物、有機エレクトロクロミック化合物のどれを用いても構わない。また、エレクトロクロミズムを示すことで知られる導電性高分子も用いることが出来る。無機エレクトロクロミック化合物としては、例えば酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化イリジウム、酸化チタンなどが挙げられる。また有機エレクトロクロミック化合物としてはビオロゲン、希土類フタロシアニン、スチリルなどが挙げられる。また導電性高分子としては、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンなどが挙げられる。
【0034】
また、本発明の表示素子におけるエレクトロクロミック層3としては、導電性または半導体性微粒子に有機エレクトロクロミック化合物を担持した構造を用いることが特に望ましい。具体的には、電極表面に粒径5nm〜50nm程度の微粒子を焼結し、その微粒子の表面にホスホン酸やカルボキシル基、シラノール基などの極性基を有する有機エレクトロクロミック化合物を吸着した構造である。本構造は、微粒子の大きな表面効果を利用して、効率よく有機エレクトロクロミック化合物に電子が注入されるため、従来のエレクトロクロミック表示素子と比較して高速応答する。さらに、微粒子を用いることで表示層として透明な膜を形成することができるため、エレクトロクロミック色素の高い発色濃度を得ることが出来る。また、複数種類の有機エレクトロクロミック化合物を導電性または半導体性微粒子に担持することもできる。
【0035】
具体的には、ポリマー系、色素系のエレクトロクロミック化合物として、アゾベンゼン系、アントラキノン系、ジアリールエテン系、ジヒドロプレン系、ジピリジン系、スチリル系、スチリルスピロピラン系、スピロオキサジン系、スピロチオピラン系、チオインジゴ系、テトラチアフルバレン系、テレフタル酸系、トリフェニルメタン系、トリフェニルアミン系、ナフトピラン系、ビオロゲン系、ピラゾリン系、フェナジン系、フェニレンジアミン系、フェノキサジン系、フェノチアジン系、フタロシアニン系、フルオラン系、フルギド系、ベンゾピラン系、メタロセン系、等の低分子系有機エレクトロクロミック化合物、ポリアニリン、ポリチオフェン等の導電性高分子化合物が用いられる。
【0036】
特に、好ましくはビオロゲン系化合物またはジピリジン系化合物を含むことが良い。これらの材料は発消色電位が低く、複数の表示電極構成においても良好な色値を示す。ビオロゲン系については、特許3955641号公報、特開2007−171781号公報、ジピリジン系については、特開2007−171781号公報、特開2008−116718号公報などに例示がある。
【0037】
一方、金属錯体系、金属酸化物系、のエレクトロクロミック化合物としては、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化インジウム、酸化イリジウム、酸化ニッケル、プルシアンブルー等の無機系エレクトロクロミック化合物が用いられる。
【0038】
導電性または半導体性微粒子としては特に限定されるものではないが、金属酸化物が望ましい。材料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸素ホウ素、酸化マグネシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、酸化カルシウム、フェライト、酸化ハフニウム、酸化タングステン、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化バナジウム、アルミノケイ酸、リン酸カルシウム、アルミノシリケート等を主成分とする金属酸化物が用いられる。また、これらの金属酸化物は、単独で用いられてもよく、2種以上が混合されて用いられてもよい。電気伝導性等の電気的特性や光学的性質等の物理的特性を鑑みるに、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化インジウム、酸化タングステン、から選ばれる一種、もしくはそれらの混合物が用いられたとき、発消色の応答速度に優れた多色表示が可能である。とりわけ、酸化チタンが用いられたとき、より発消色の応答速度に優れた多色表示が可能である。
【0039】
また、導電性または半導体性微粒子の形状は、特に限定されるものではないが、エレクトロクロミック化合物を効率よく担持するために、単位体積当たりの表面積(以下比表面積)が大きい形状が用いられる。例えば、微粒子が、ナノ粒子の集合体であるときは、大きな比表面積を有するため、より効率的にエレクトロクロミック化合物が担持され、発消色の表示コントラスト比に優れた多色表示が可能である。
【0040】
〈電解液4〉
電解液4は電解質と、電解質を溶解させるための溶媒より構成される。なお、電解液4はエレクトロクロミック表示素子中において層状の態様をとることから、電解液層、電解質層と称することもある。
電解質の材料としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の無機イオン塩、4級アンモニウム塩や酸類、アルカリ類の支持塩を用いることができる。具体的に、LiClO、LiBF、LiAsF、LiPF、LiCFSO、LiCFCOO、KCl、NaClO、NaCl、NaBF、NaSCN、KBF、Mg(ClO、Mg(BF等を用いることができる。また、イオン性液体も用いることができる。イオン性液体としては、一般的に研究・報告されている物質ならばどのようなものでも構わない。特に有機のイオン性液体は、室温を含む幅広い温度領域で液体を示す分子構造がある。分子構造の例としては、カチオン成分としてN,N−ジメチルイミダゾール塩、N,N−メチルエチルイミダゾール塩、N,N−メチルプロピルイミダゾール塩などのイミダゾール誘導体、N,N−ジメチルピリジニウム塩、N,N−メチルプロピルピリジニウム塩などのピリジニウム誘導体など芳香族系の塩、または、トリメチルプロピルアンモニウム塩、トリメチルヘキシルアンモニウム塩、トリエチルヘキシルアンモニウム塩などのテトラアルキルアンモニウムなど脂肪族4級アンモニウム系が挙げられる。アニオン成分としては大気中の安定性の面でフッ素を含んだ化合物がよく、BF−、CFSO−、PF−、(CFSON−などが挙げられる。これらのカチオン成分とアニオン成分の組み合わせにより処方したイオン性液体を用いることができる。
【0041】
また、溶媒の例としてはプロピレンカーボネート、アセトニトリル、γ−ブチロラクトン、エチレンカーボネート、スルホラン、ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,2−ジメトキシエタン、1,2−エトキシメトキシエタン、ポリエチレングリコール、アルコール類やそれらの混合溶媒などを用いることができる。
【0042】
また、電解液4は低粘性の液体である必要はなく、ゲル状や高分子架橋型、液晶分散型など様々な形態をとることが可能である。
【0043】
〈白色反射層5〉
白色反射層5は、エレクトロクロミック表示素子を反射型の表示装置として用いる場合に、白色の反射率を向上させるためのものである。白色反射層5は、電解液内に白色顔料粒子を分散させる、あるいは、白色顔料粒子を分散した樹脂を塗布形成する、等によって作製することができる。白色反射層5に含まれる白色顔料粒子の材料としては、例えば、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、シリカ、酸化セシウム、酸化イットリウム等が用いられる。
【0044】
〈駆動素子・駆動装置11〉
本発明において、複数の駆動素子ならびに、それぞれの駆動素子と画素電極8とを電気的に接続する回路は、駆動装置11として機能する。駆動装置11としてはセグメント駆動装置、ドットマトリクス駆動装置等が挙げられる。ドットマトリクス駆動装置は、アクティブマトリクス駆動装置およびパッシブマトリクス駆動装置に大別することができる。本発明に好適に用いられる駆動装置11は、表示基板に微細なパターニングなく複数の表示電極を積層して設けることのできるアクティブマトリクス駆動装置である。
【0045】
〈その他の実施の形態〉
本発明のエレクトロクロミック表示装置のもう1つの特徴は、表示電極2およびエレクトロクロミック層3が複数存在することである。この構成によりカラー表示をおこなうことができる。図2を参照し、詳細を説明する。ただし、図2は、本発明のエレクトロクロミック表示素子の一例を示すものであり、本発明の係るエレクトロクロミック表示素子は、図2の構成に限定されるものではない。
【0046】
図2に示されるように、本発明のエレクトロクロミック表示装置において、外側には支持基板となる表示基板1・対向基板9を有する。表示基板1には、表示基板1に接して形成された第1の表示電極2aと、第1の表示電極2aに接して設けられた第1のエレクトロクロミック層3aと、第1のエレクトロクロミック層3aに接して設けられた絶縁層10と、絶縁層10に接して設けられた第2の表示電極2bと、第2の表示電極2bに接して設けられた第2のエレクトロクロミック層3cと、を有する。表示基板1は、上記の積層構造を支持するための基板である。
【0047】
第1、第2のエレクトロクロミック層3a、3bは上述のように導電性、または半導体性微粒子からなる多孔質電極と、その微粒子に担持された、酸化還元反応により呈色変化を示すエレクトロクロミック分子からなることが望ましい。また対向基板9上に形成された複数の画素電極8上には、電荷保持層7が、前記画素電極8の形成領域の全面に亘って形成される。図2において、表示電極2と画素電極8との間には電解質を溶解させた電解液4が含浸され、さらには白色反射層5が形成される。
【0048】
第1、第2のエレクトロクロミック層3a、3bには、酸化還元反応により異なる色を呈するエレクトロクロミック分子からなることが望ましい。これによって2色表示が可能となる。また、複数の表示電極2に設けられるエレクトロクロミック化合物は、全てがビオロゲン系であるか、全てがジピリジン系であることが好ましい。類似材料構造を採用することで、各表示電極2の発消色電位をそろえることができ、同一の電解質で容易に発消色の制御できる。また、同様に絶縁層10を介して第3、第4と、表示電極2とエレクトロクロミック層3を増やして設けることにより多色表示が可能となる。
【0049】
絶縁層10は、第1のエレクトロクロミック層3aの設けられた第1の表示電極2aと、第2のエレクトロクロミック層3bの設けられた第2の表示電極2bとが電気的に絶縁されるように隔離するためのものである。第1の表示電極2a及び第2の表示電極2bは、画素電極8に対する電位を独立して制御するために、各表示電極2a,2b間の電気抵抗が、各表示電極面2a,2b内での電気抵抗よりも大きく形成されなくてはならない。少なくとも各表示電極2a,2b間の抵抗が、各表示電極面2a,2b内での電気抵抗の500倍以上であることが好ましい。各表示電極2a,2b間の絶縁性はエレクトロクロミック層3の層厚で制御することができるが、絶縁層10を形成して制御することが好ましい。また、同様に第3、第4と、表示電極2とエレクトロクロミック層3を増やして設ける場合にも、それぞれの隣接する表示電極2間での絶縁性を補償するための絶縁層10を挿入することが望ましい。
【0050】
〈絶縁層10〉
絶縁層10の材料としては、多孔質であればよく特に限定されるものではないが、絶縁性が高く、耐久性が高く、成膜性に優れた有機材料、無機材料、およびそれらの複合体が好ましい。
【0051】
多孔質膜の形成方法としては、焼結法(高分子微粒子や無機粒子を、バインダ等を添加して部分的に融着させ粒子間に生じた孔を利用する)、抽出法(溶剤に可溶な有機物または無機物類と溶剤に溶解しないバインダ等で構成層を形成した後に、溶剤で有機物または無機物類を溶解させ細孔を得る)、高分子重合体等を加熱や脱気する等して発泡させる発泡法、良溶媒と貧溶媒を操作して高分子類の混合物を相分離させる相転換法、各種放射線を輻射して細孔を形成させる放射線照射法等の公知の形成方法を用いることができる。
【0052】
具体例としては、無機ナノ構造粒子(SiO粒子、Al粒子など)とポリマー結着剤からなるポリマー混合粒子膜、多孔性有機膜(ポリウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂)、多孔質膜上に形成した無機絶縁材料膜などが挙げられる。
この無機膜としては、少なくともZnSを含む材料が好ましい。ZnSは、スパッタ法によって、エレクトロクロミック層などにダメージを与えることなく高速に成膜できるという特徴を有する。更に、ZnSを主な成分として含む材料として、ZnS−SiO、ZnS−SiC、ZnS−Si、ZnS−Ge等を用いることができる。ここで、ZnSの含有率は、絶縁層を形成した際の結晶性を良好に保つために、約50〜90mol%とすることが好ましい。従って、特に好ましい材料は、ZnS−SiO(8/2)、ZnS−SiO(7/3)、ZnS、ZnS−ZnO−InO3−Ga(60/23/10/7)である。
このような絶縁層10の材料を用いることにより、薄膜で良好な絶縁効果が得られ、多層化による膜強度低下(すなわち膜のはがれ)を防止することができる。
【0053】
ZnS等をスパッタで形成する場合、予め下引き層として多孔性粒子膜を形成することによって、無機絶縁膜にイオンの透過性を付与することができる。この場合、前述のナノ構造半導体材料を粒子状膜として使用することもできるが、別途シリカ、アルミナ等を含む多孔質粒子膜を形成し、2層構成の絶縁層10とすることが絶縁性の点から好ましい。このような手法を用いて絶縁層10を多孔質膜にすることにより、電解液4中の電解質が絶縁層10さらには表示電極2に浸透することが可能となるため、酸化還元反応に伴う電解液4中のイオン電荷の移動が容易となり、発消色の応答速度に優れた多色表示が可能である。なお、絶縁層10の膜厚は20〜1000nmの範囲にある。この範囲よりも膜厚が薄い場合、絶縁性を得にくくなる。またこの範囲よりも膜厚が厚い場合、製造コストが増大すると共に、着色によって視認性が低下しやすい。
【0054】
次に、本発明のエレクトロクロミック表示の多色表示の動作について説明する。
エレクトロクロミック表示は、上記説明した構造を有することにより、容易に多色表示が可能である。すなわち、第1の表示電極2aと、第2の表示電極2bとが、絶縁層10を介して隔離して設けられているため、任意の表示電極2と、複数の画素電極のうちの任意の画素電極8と、を選択し、それらを電気的に接続し、ある時間に電流を流すことで、選択された任意の画素電極8の直上にある、選択された任意の表示電極2に接するエレクトロクロミック層3の領域のみで発消色反応が起こる。つまり、第1、第2の表示電極2a,2bのうちのひとつの表示電極2と、複数あるうちの任意の画素電極8を選択した場合には、単色での高精細表示が可能となり、第1、第2の表示電極2a,2bの両者と、複数ある任意の画素電極8を選択した場合には、2色の混色での高精細表示が可能となる。
【0055】
また、本発明のエレクトロクロミック表示装置は表示メモリ性を有するため、第1、第2の表示電極2a,2bの選択と、複数あるうちの任意の画素電極8の選択を時間的に分けることによって高精細かつ多色表示が可能になる。言い換えれば、任意の画素電極8を選択することで2次元的にエレクトロクロミック層3の発色領域を選択し、第1、第2の表示電極2a,2bのうち任意の表示電極2を選択することでさらに3次元的に各エレクトロクロミック層3の任意の領域を発消色できることになる。
【実施例】
【0056】
〈実施例1〜4および比較例1〜5〉
(表示電極及びエレクトロクロミック層の作製)
40mm×40mmのガラス基板(表示基板)上にスパッタリング法により約100nmのITO膜を20mm×20mmの領域および引き出し部分に形成し、表示電極を作製した。この表示電極面内の電気抵抗は約200Ωであった。この上に酸化チタン微粒子分散液(SP210 昭和タイタニウム)をスピンコートし、120℃で15分間のアニール処理により、酸化チタン粒子膜を形成し、さらにこの上にマゼンタ色発色するエレクトロクロミック化合物であるビオロゲン化合物の1wt% 2,2,3,3−テトラフロロプロパノール溶液をスピンコートし、120℃で10分間のアニール処理により、酸化チタン粒子とエレクトロクロミック化合物からなるエレクトロクロミック層を形成した。
【0057】
(画素電極、電荷保持層、保護層の作製)
40mm×40mmのガラス基板(対向基板)上にスパッタリング法により約100nmのITO膜を形成した後、フォトリソグラフィ法を用いて150μm/150μmのライン/スペースを持つ画素電極と引き出し部分を形成した。続いて、画素電極が形成された対向基板のうち、引き出し部分を除く全面に亘って、スパッタリング法により以下の電荷保持層、保護層の作製を行なった。酸化ニッケル成膜時の酸素流量比は高酸素過剰条件で10%、低酸素過剰状態で4%とした。括弧内はそれぞれの膜厚を示す。
なお、実施例1〜4および比較例1,4の電荷保持層の表面抵抗は1E+6Ω/□以上であった。
【0058】
【表1】

【0059】
(エレクトロクロミック表示装置の作製)
電解質として過塩素酸テトラブチルアンモニウム、溶媒としてジメチルスルホキシドおよびポリエチレングリコール(分子量:200)、さらにUV硬化接着剤(商品名:PTC10 十条ケミカル社製)を重量比1.2対5.4対6対16で混合した溶液に白色酸化チタン粒子(商品名:CR50 石原産業株式会社製、平均粒子径:約250nm)を20wt%添加した電解液を用意し、対向基板側に滴下塗布した後、表示基板と重ね合わせ、対向基板側よりUV光照射硬化させて貼りあわせ、エレクトロクロミック表示装置を作製した。なお、電解質層の厚さはビーズスペーサを電解質層に0.2wt%混合することにより10μmに設定した。
【0060】
(発色試験)
上記で作製したエレクトロクロミック表示装置の発色評価を実施した。
各画素電極を短絡し、各画素電極を正極に、表示電極を負極につなぎ、定電圧電源を用いて+6Vの電圧を500m秒間印加した。画像の滲みは電圧印加直後に、エレクトロクロミック層に画素電極を反映した150μmのライン/スペースが分離して表示されているかどうかを目視により判定した。○は分離して表示されていることを示し、×は滲みにより分離されて表示されないことを示す。
また、表示メモリ性は電圧印加直後から10分経過した後に、エレクトロクロミック層に画素電極を反映した150μmのライン/スペースが分離形成されているかどうかを目視により判定した。○は分離して表示されていることを示し、△は表示画像の滲みを伴って分離して表示されていることを示し、×は分離されて表示されないことを示す。
また、素子耐久性として各画素電極を短絡し、各画素電極を正極に、表示電極を負極につなぎ、定電流電源を用いて±1mAを500m秒間流す繰り返し試験を500回行なった後の発色状態を目視により判定した。なお、気泡発生は繰り返し試験中に気泡が発生したことを示す。
【0061】
各実施例1〜4および比較例1〜5の画像の滲み、表示メモリ性、素子耐久性を表2にまとめる。
【0062】
【表2】

【0063】
以上の結果より、実施例3が最も良好な特性を示した。実施例1〜4ならびに比較例1,4,5では画像を表示した直後では、画像の滲みなく表示することが可能であった。しかしながら比較例1,4,5では数十回から数百回程度の繰り返し試験で気泡発生または画素電極の変質により画像を表示することができなくなった。また、実施例1,2,4では画像表示後5〜9分で表示画像に滲みが発生し、表示メモリ性にやや乏しいものの、比較例1〜5と比較して高精細かつ高い素子耐久性を有するという結果であった。
【0064】
(発消色の閾値電圧)
上記で作製したエレクトロクロミック表示装置の発消色の電圧閾値評価を実施した。
実施例1〜5及び比較例1〜5のエレクトロクロミック表示装置にハロゲン光を照射し、反射した光を分光光度測定装置(大塚電子 LCD5000)により測光した。光入射は30度方向からおこない、90度方向の反射光の強度を測光した。標準白色板(横河電機Model990 02)での反射率をリファレンスとして、上記で作製したそれぞれのエレクトロクロミック表示装置の発色前の反射率は約40%であった。
続いて各画素電極を短絡し、各画素電極を正極に、表示電極を負極につなぎ、定電圧電源を用いて+6Vより−1V/秒で電圧掃引を行い、反射率が低下する電圧を発色閾値電圧とした。また、一旦エレクトロクロミック装置を発色させた後、−6Vより+1V/秒で電圧掃引を行い、反射率が上昇する電圧を消色閾値電圧とした。
実施例1〜4及び比較例1〜5のエレクトロクロミック表示装置の発消色閾値電圧を表3にまとめる。
【0065】
【表3】

【0066】
以上の結果より、高酸素過剰状態の酸化ニッケル層、酸化チタン層、低酸素過剰状態の酸化ニッケル層を積層した実施例3について、消色閾値電圧が3〜3.5V上昇した。この結果、表示メモリ性の向上につながったと考えられる。
【0067】
<実施例5および比較例6>
(表示電極及びエレクトロクロミック層の作製)
40mm×40mmのガラス基板(表示基板)上にスパッタリング法により約100nmのITO膜を20mm×20mmの領域および引き出し部分に形成し、第1の表示電極を作製した。この第1の表示電極面内の電気抵抗は約200Ωであった。この上に酸化チタン微粒子分散液(SP210 昭和タイタニウム)をスピンコートし、120℃で15分間のアニール処理により、酸化チタン粒子膜を形成し、さらにこの上にマゼンタ色発色するエレクトロクロミック化合物であるビオロゲン化合物の1wt% 2,2,3,3−テトラフロロプロパノール溶液をスピンコートし、120℃で10分間のアニール処理により、酸化チタン粒子とエレクトロクロミック化合物からなる第1のエレクトロクロミック層を形成した。
【0068】
続いて、この上にZnS−SiO(8/2)の無機絶縁層をスパッタリング法により100nmの膜厚で形成した。さらにこの上にスパッタ法により約100nmのITO膜を、第1の表示電極で形成したITO膜と重なる部分に20mm×20mmの領域に形成し、また第1の表示電極とは異なる部分引き出し部分を形成し、第2の表示電極を作製した。この第2の電極面内の抵抗は約200Ωであった。また、第1の表示電極と第2の表示電極の間の抵抗は40MΩ以上であり絶縁状態であった。
【0069】
この上に酸化チタン微粒子分散液(SP210 昭和タイタニウム)をスピンコートし、120℃で15分間のアニール処理により、酸化チタン粒子膜を形成し、さらにこの上にイエロー発色するエレクトロクロミック化合物であるビオロゲン化合物の1wt% 2,2,3,3−テトラフロロプロパノール溶液をスピンコートし、120℃で10分間のアニール処理により、酸化チタン粒子とエレクトロクロミック化合物からなる第2のエレクトロクロミック層を形成した。
【0070】
(画素電極、電荷保持層の作製)
40mm×40mmのガラス基板(対向基板)上にスパッタリング法により約100nmのITO膜を形成した後、フォトリソグラフィ法を用いて150μm/150μmのライン/スペースを持つ画素電極と引き出し部分を形成した。続いて、画素電極が形成された対向基板のうち、引き出し部分を除く全体に亘って、スパッタリング法により、対向基板より高酸素過剰条件での酸化ニッケル層(10nm)、酸化チタン層(10nm)、低酸素過剰条件での酸化ニッケル層(100nm)、酸化チタン層(5nm)と順次形成し、実施例5の電荷保持層ならびに保護層を作製した。酸化ニッケル成膜時の酸素流量比は高酸素過剰条件で10%、低酸素過剰状態で4%とした。括弧内はそれぞれの膜厚を示す。また、実施例5で作製した電荷保持層ならびに保護層の表面抵抗は1E+6Ω/□以上であった。また、比較例6として、ITO膜による画素電極のみを形成し、電荷保持層及び保護層を形成しなかった対向基板も作製した。
【0071】
(エレクトロクロミック表示装置の作製)
電解質として過塩素酸テトラブチルアンモニウム、溶媒としてジメチルスルホキシドおよびポリエチレングリコール(分子量:200)、さらにUV硬化接着剤(商品名:PTC10 十条ケミカル社製)を重量比1.2対5.4対6対16で混合した溶液に白色酸化チタン粒子(商品名:CR50 石原産業株式会社製、平均粒子径:約250nm)を20wt%添加した電解液を用意し、対向基板側に滴下塗布した後、表示基板と重ね合わせ、対向基板側よりUV光照射硬化させて貼りあわせ、エレクトロクロミック表示装置を作製した。なお、電解質層の厚さはビーズスペーサを電解質層に0.2wt%混合することにより10μmに設定した。
【0072】
(発色試験)
上記で作製した実施例5のエレクトロクロミック表示装置の発色評価を実施した。
画素電極のうち2箇所を選択し、その選択された画素電極を正極に、第1の表示電極を負極につなぎ、定電圧電源を用いて+6Vの電圧を100m秒間印加した。第1のエレクトロクロミック層に、選択された2箇所の画素電極の形状を反映した、マゼンタ色の細線が観測された。続いて、先ほど選択した画素電極の一方と、未発色であったさらにもう1箇所の2箇所を選択し、その選択された画素電極を正極に、第2の表示電極を負極につなぎ、定電圧電源を用いて+6Vの電圧を100m秒間印加した。第2のエレクトロクロミック層に、選択された2箇所の電極形状を反映したイエロー色の細線が観測された。このうち、連続して選択された画素電極の直上には、マゼンタとイエローの減色混合であるレッドの細線が観測された。
上記で作製した比較例6のエレクトロクロミック表示装置の発色評価を、実施例5の場合と同様に行なった。電圧印加直後は実施例5と同様にマゼンタ、レッド、イエローの細線が観測された。
【0073】
続いて、電圧印加より10分後の実施例5と比較例6の表示メモリ性を目視により評価した。
実施例5のエレクトロクロミック装置では10分経過後でもマゼンタ、レッド、イエローの細線が確認されたのに対し、比較例6では10分経過後にはそれぞれの細線は確認できなかった。
【0074】
続いて、実施例5と比較例2で作製したエレクトロクロミック表示装置の繰り返し耐久性評価を実施した。発色試験と同様に、2箇所の画素電極を選択し、その選択された画素電極を正極に、第1の表示電極を負極に接続し、定電流電源を用いて+1mAを100m秒流し、第1のエレクトロクロミック層にマゼンタ色の細線を表示させた。続いて先ほど選択した画素電極の一方と、未発色であったさらにもう1箇所の2箇所を選択し、その選択された画素電極を正極に、第2の表示電極を負極に接続し、定電流電源を用いて+1mAを100m秒流し、第2のエレクトロクロミック層にイエロー色の細線を表示させた。その後、表示させた細線に対応した3箇所の画素電極を選択し、その選択された画素電極を正極に、第1と第2の表示電極を短絡し負極に接続した。定電流電源を用いて−1mAを200m秒間流し、マゼンタ、レッド、イエローの表示を消去した。以上の動作を500回行ない、動作後のマゼンタ、レッド、イエローの細線の表示の様子を目視により観察した。
【0075】
実施例5のエレクトロクロミック装置では1回目と遜色ないマゼンタ、レッド、イエローの細線が表示されたのに対し、比較例6のエレクトロクロミック装置では極めて薄くマゼンタ、レッド、イエローの細線が表示されたのみであった。また、比較例6のエレクトロクロミック装置の画素電極は、黒く変色していた。
【0076】
〈実施例6〉
(表示電極及びエレクトロクロミック層の作製)
90mm×90mmのガラス基板(表示基板)上にスパッタリング法により約100nmのITO膜を80mm×65mmの領域および引き出し部分に形成し、第1の表示電極を作製した。この第1の表示電極面内の電気抵抗は約200Ωであった。この上に酸化チタン微粒子分散液(SP210 昭和タイタニウム)をスピンコートし、120℃で15分間のアニール処理により、酸化チタン粒子膜を形成し、さらにこの上にマゼンタ色発色するエレクトロクロミック化合物であるビオロゲン化合物の1wt% 2,2,3,3−テトラフロロプロパノール溶液をスピンコートし、120℃で10分間のアニール処理により、酸化チタン粒子とエレクトロクロミック化合物からなる第1のエレクトロクロミック層を形成した。
【0077】
続いて、この上にZnS−SiO(8/2)の無機絶縁層をスパッタリング法により100nmの膜厚で形成した。さらにこの上にスパッタ法により約100nmのITO膜を、第1の表示電極で形成したITO膜と重なる部分に80mm×65mmの領域に形成し、また第1の表示電極とは異なる部分引き出し部分を形成し、第2の表示電極を作製した。この第2の電極面内の抵抗は約200Ωであった。また、第1の表示電極と第2の表示電極の間の抵抗は40M以上であり絶縁状態であった。
【0078】
この上に酸化チタン微粒子分散液(SP210 昭和タイタニウム)をスピンコートし、120℃で15分間のアニール処理により、酸化チタン粒子膜を形成し、さらにこの上にイエロー発色するエレクトロクロミック化合物であるビオロゲン化合物の1wt% 2,2,3,3−テトラフロロプロパノール溶液をスピンコートし、120℃で10分間のアニール処理により、酸化チタン粒子とエレクトロクロミック化合物からなる第2のエレクトロクロミック層を形成した。
【0079】
(電荷保持層の作製)
対角4インチのアクティブマトリクスを有する低温ポリシリコンTFT基板(画素電極材料:ITO,画素電極形成領域80×65mm,100ppi,2Tr1C構成,電流駆動型)の画素電極形成エリアに、スパッタリング法を用いて高酸素過剰条件での酸化ニッケル層(10nm)、酸化チタン層(10nm)、低酸素過剰条件での酸化ニッケル層(100nm)、酸化チタン層(5nm)と順次形成し、電荷保持層ならびに保護層を作製した。酸化ニッケル成膜時の酸素流量比は高酸素過剰条件で10%、低酸素過剰状態で4%とした。括弧内はそれぞれの膜厚を示す。また、実施例6で作製した電荷保持層ならびに保護層の表面抵抗は1E+6Ω/□以上であった。
【0080】
(エレクトロクロミック表示装置の作製)
電解質として過塩素酸テトラブチルアンモニウム、溶媒としてジメチルスルホキシドおよびポリエチレングリコール(分子量:200)、さらにUV硬化接着剤(商品名:PTC10 十条ケミカル社製)を重量比1.2対5.4対6対16で混合した溶液に白色酸化チタン粒子(商品名:CR50 石原産業株式会社製、平均粒子径:約250nm)を20wt%添加した電解液を用意し、TFT基板(対向基板)側に滴下塗布した後、表示基板と重ね合わせ、TFT基板側よりUV光照射硬化させて貼りあわせ、エレクトロクロミック表示装置を作製した。なお、電解質層の厚さはビーズスペーサを電解質層に0.2wt%混合することにより10μmに設定した。
【0081】
(表示)
第1の表示電極を駆動電源に接続し、静止画像表示を行なった。約1秒間の駆動でコントラスト比10:1のマゼンタ単色の静止画が得られた。続いて、第2の表示電極を駆動電源に接続し、先ほどとは異なる静止画像表示を行なった。約1秒の駆動でコントラスト比10:1のマゼンタ色とイエロー色の減色混合からなる静止画像が得られた。この表示画像は表示直後から5分経過した後でも、表示直後と遜色なかった。
【符号の説明】
【0082】
1 表示基板
2 表示電極
3 エレクトロクロミック層
4 電解液
5 白色反射層
6 保護層
7 電荷保持層
8 画素電極
9 対向基板
10 絶縁層
11 駆動装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0083】
【特許文献1】特開2007−212493号公報
【特許文献2】特公平02−036931号公報
【特許文献3】特許2730139号公報
【非特許文献】
【0084】
【非特許文献1】Displays Vol.25, p223−230、 2004

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向して設けられた表示基板及び対向基板と、
前記表示基板上に設けられた表示電極と、
前記対向基板上に設けられた複数の画素電極と、
前記表示基板と前記対向基板とに挟持され、前記表示電極に接して設けられたエレクトロクロミック層と、
前記複数の画素電極上に、当該複数の画素電極形成領域の全面に亘って形成された電荷保持層と、
前記電荷保持層上に、当該電荷保持層を被覆するように設けられた保護層と、を備え、
前記表示電極と前記画素電極との間に充填されてなる電解質を含む電解液を有し、
前記電荷保持層は、酸化ニッケルを含み、
前記電荷保持層と前記保護層とからなる積層構造体の表面抵抗は、1E+6Ω/□以上であることを特徴とするエレクトロクロミック表示装置。
【請求項2】
対向して設けられた表示基板及び対向基板と、
互いが離間してなる複数の表示電極と、
前記対向基板上に設けられてなり前記複数の表示電極に対向してなる複数の画素電極と、
前記複数の表示基板の夫々が有する複数のエレクトロクロミック層と、
前記複数の画素電極上に、当該複数の画素電極形成領域の全面に亘って形成された電荷保持層と、
前記電荷保持層上に、当該電荷保持層を被覆するように設けられた保護層と、を備え、
前記表示基板に最も近接してなる表示電極と前記画素電極との間に充填されてなる電解質を含む電解液を有し、
前記電荷保持層は、酸化ニッケルを含み、
前記電荷保持層と前記保護層とからなる積層構造体の表面抵抗は、1E+6Ω/□以上であることを特徴とするエレクトロクロミック表示装置。
【請求項3】
対向して設けられた表示基板及び対向基板と、
互いが離間してなる複数の表示電極と、
前記対向基板上に分離して設けられてなる複数の駆動素子と、
前記複数の駆動素子より各々電気的に接続され、前記複数の表示電極に対向してなる複数の画素電極と、
前記複数の表示基板の夫々が有する複数のエレクトロクロミック層と、
前記複数の画素電極上に、当該複数の画素電極形成領域の全面に亘って形成された電荷保持層と、
前記電荷保持層上に、当該電荷保持層を被覆するように設けられた保護層と、を備え、
前記表示基板に最も近接してなる表示電極と前記画素電極との間に充填されてなる電解質を含む電解液を有し、
前記電荷保持層は、酸化ニッケルを含み、
前記電荷保持層と前記保護層とからなる積層構造体の表面抵抗は、1E+6Ω/□以上であることを特徴とするエレクトロクロミック表示装置。
【請求項4】
前記電荷保持層は、酸素過剰状態の異なる複数の酸化ニッケル層と酸化チタン層とを含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック表示装置。
【請求項5】
前記電荷保持層は、前記画素電極側より、酸素過剰状態の高い酸化ニッケル層、酸化チタン層、酸素過剰状態の低い酸化ニッケル層がこの順に積層されてなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−128218(P2012−128218A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280114(P2010−280114)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】