説明

エレクトログラフティングによって導電性または半導電性表面にポリマーフィルムを形成するための方法、得られる表面、およびそれらの用途

本発明は、エレクトログラフティングによって導電性または半導電性表面にポリマーフィルムを形成するための方法に関する。該方法は、選択された量のブレンステッド酸を含有する電解質溶液を使用する。本発明はまた、該方法によって得られる導電性または半導電性表面に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレンステッド酸を含む電解質溶液を使用するエレクトログラフティングによって導電性または半導電性表面にポリマーフィルムを形成するための方法、およびこの方法を使用することによって得られる導電性または半導電性表面に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーフィルムで被覆された導電性または半導電性表面の製造は、多くの分野において、特に、電子部品または集積光学装置の製造のため、生物医学分野またはバイオテクノロジーにおいて使用され得るデバイス(DNAチップ、プロテインチップ等)の製造のため、腐食防止のため、および金属または半導体の表面特性の任意の改変のために、非常に興味深いものである。
【0003】
導電性表面への活性化ビニルモノマーのエレクトログラフティングによる、グラフト化ポリマーフィルムの製造は、該表面から出発する重合反応のエレクトロイニシエーション(electro-initiation)、続いてのモノマー毎の鎖の成長によって進行するということが、今日受け入れられているようである。エレクトログラフティングの反応機構は、特に、文献C. Bureau et al., Macromolecules, 1997, 30, 333;C. Bureau and J. Delhalle, Journal of Surface Analysis, 1999, 6(2), 159およびC. Bureau et al., Journal of Adhesion, 1996, 58, 101に記載されている。
【0004】
例として、カソード分極(cathodic polarization)によるアクリロニトリルのエレクトログラフティングの反応機構が、下記スキーム1に従って示され得、ここで、グラフティング反応は、成長が表面から出発して生じる段階番号1に対応し;段階番号2は、グラフトされていないポリマー産生を生じる主要な副反応である:
【0005】
【化1】

【0006】
従って、グラフトされた鎖の成長は、純粋に化学的な重合によって、即ち、グラフティングを生じさせた導電性表面の分極とは無関係に、生じる。従って、この段階は、この成長の化学的阻害剤の存在に敏感である(特に、それによって妨害される)。
【0007】
カソード分極下でのアクリロニトリルのエレクトログラフティングが考慮されている上記スキーム1において、グラフトされた鎖の成長は、アニオン重合によって生じる。この成長は、特にプロトンによって妨害され、そしてプロトン含有量が実際に、溶液中のポリマーの形成およびこの合成の間に得られるデータ(特に、該合成に付随するボルタモグラムの過程)を制御する主要なパラメータを構成することが実証されている(特に、C.Bureauによる文献、Journal of Electroanalytical Chemistry, 1999, 479, 43を参照のこと)。
【0008】
ポリマーのエレクトログラフティングについての研究の開始以来求められる目的の1つは、厚くそして均一なフィルムを得ることであり、従って、プラスチックおよび金属の対象物を完全に結合させることができるというアイディアは魅力的であった。この目的は、エレクトログラフティングによって、従来の高分子化学で得られるものにならう、高分子量のグラフト化ポリマー鎖、および従って保持された該鎖の成長を得ることが可能であると仮定した。
【0009】
この成長はイオン性、そして特に、エレクトログラフティングがカソード分極下で行われる場合はアニオン性であるので、反応媒体中の痕跡量の水(そしてより一般的にはプロトン性溶媒および/またはブレンステッド酸のように挙動する化合物の不安定なプロトン)は、グラフトされた鎖の成長に有害であるプロトンの供給源を構成するということが受け入れられた。用語“溶媒”は、この文脈において、エレクトログラフティングが行われる完全な(complete)電解質媒体を意味し、そして特に、塩の溶解を可能にしかつ液相中で導電性を提供するに十分な誘電率を有する本質的に関与しない(essentially uninvolved)液体、支持電解質または塩、および任意の添加剤(および特に、本ケースでは、水)を含むと理解される。
【0010】
実際に、ビニルモノマーのエレクトログラフティングの反応機構が理解される前でさえ、この妨害技術ポイント(obstructing technical point)は、これらの化合物に基づいて開発された種々のプロセスの詳細によって証明されるように、当業者に明らかに確認されていた:
− 特許出願FR-A-2 480 314において、著者は、多くても10−3モル/lの含水量を有する溶液を調製することを包含するビニルモノマーのエレクトログラフティングのためのプロセスを記載しており、そして、好ましい実施形態において、この含水量は多くとも5×10−4モル/lでなければならないとさえ明記している;
− 特許出願EP-A-0 618 276において、著者は、非プロトン性溶媒を使用するビニルモノマーのエレクトログラフティングのための方法を記載している;
− 特許出願EP-A-0 665 275において、著者はまた、非プロトン性有機溶媒を使用するビニルモノマーのエレクトログラフティングのための方法を記載している。更に、この先行出願の説明部分は、電解浴の含水量は好ましくは10−3M未満であると明記している。従って、そして電気分解の前、電解浴が、多くとも5ppmの水および10ppmの酸素を含む不活性ガスでのバブリングによって脱気される;
− 米国特許第6 180 346号において、著者は、ビニル置換基を含む分子の電解重合のための方法を使用している。例として、彼らは、溶媒としてのアセトニトリルの使用を記載しており、そして後者は使用前に乾燥されなければならないことを明記しており、このことは、当業者にとって、多くとも数十ppmのオーダーの残留含水量を示している;
− 特許US 5 578 188において、著者は、導電性表面上における電解重合による複合フィルムの堆積方法を特許請求しており、これによれば、
(a)ポリマー性非導電性ポリマーの前駆体モノマー
(b)このポリマーに組み込まれるように意図されるドーピング剤を形成する物質
(c)支持電解質および
(d)非プロトン性溶媒
を含む混合物が、該反応に必要な非プロトン性(aproticity)の制約を遵守するモノマー、支持電解質、ドーピング剤および溶媒に頼る必要性について説明部分において議論されている。
【0011】
− そして、最後に、特許US 6 325 911およびUS 6 375 821において、著者は、
(a)該支持体上にポリマーを形成することができる少なくとも1つのモノマー、
(b)非プロトン性溶媒および
(c)該混合物の導電率を増加させるための電解質
を含む導電性混合物を使用する、ビニルモノマーの電解重合によって炭素質の支持体または粒子へポリマーをグラフトするための方法を記載している。
実施例は、使用される液体反応物の組合せが、該媒体を非プロトン性にするために、特に蒸留によってまたは強力な乾燥剤上での静置によって、精製されている、実験状況を報告している。
【0012】
ビニルモノマーのエレクトログラフティングに必要とされる非常に低い含水量が、その含水量が数ppmのオーダーのものである、乾燥不活性ガス(窒素、アルゴンなど)でのスパージングによって[実際には、アルゴンまたは窒素の制御雰囲気下に置かれた、グローブ−ボックスタイプ(glove-box type)の密閉チャンバにおいて電気分解を行うことによってさえ]合成の間または前に、上述の先行技術の文献の教示に従って、一般的に維持される。
【0013】
反応媒体中におけるプロトンの供給源の含有量を制御する類似の理由のために、非プロトン性溶媒とモノマー[これらは、それら自体が非プロトン性である、即ち、研究溶媒(study solvent)中において酸官能基(ブレンステッドの意味で)を有する官能基を含まない]のみが、エレクトログラフト化有機フィルムを製造するために提案されてきた。
【0014】
実際に、これらの溶媒の含水量は、例えば、五酸化リン(P)のような脱水化合物上またはモレキュラーシーブ(例えば、4オングストロームの多孔度を有する)上に配置することによって、不活性希ガス(窒素、アルゴンなど)の減圧下での蒸留によって、あるいはこれらの方法の組合せによって、長時間にわたりかつ単調な調製という犠牲を払って低下される。従って、以下のことが記録されている:
− 特許出願FR-A-2 480 314およびEP-A-0 618 276において、著者は、使用されるモノマーと副反応しない非プロトン性有機溶媒の使用を推奨すること;
− 特許出願EP-A-0 665 275において、非プロトン性溶媒の使用を記載している事実とは異なり、著者は、種々の形態で、使用され得るモノマー構造を提供し、そしてモノマーの可能なプロトン性官能基は予めマスクされなければならないと明記している。
【0015】
実際に、電解合成のために使用されるモノマーは、種々の添加剤、および特に、製品を安定化させそしてそれが保存条件下においてボトル中で重合することを防止するために製造業者によって添加された重合阻害剤を除去するために、使用前に蒸留されている。
【0016】
特許出願EP-A-0 665 275が、成長しているポリマー鎖の末端に新規の官能基を導入することを可能とするために、特定の阻害剤の使用を記載していることだけが注意される。しかし、特に、C. Bureau et al., 1996(上述した)による文献において、表面上のポリマー鎖の成長は必ずアニオン性であることが実証されており、そして、特許出願EP-A-0 665 275において示されるように、それらが鎖の成長を妨害するためではなく、そしてそれらは電極の表面上において吸着および/または還元される(reduced)ために(それらは、一般的にエレクトロアクティブである)、恐らく、著者によって導入されたラジカル阻害剤は、合成の終わりにフィルム中に見られるだろう。
【0017】
実際に、特に均一性の意味で、全体的に有利な結果が、全く非プロトン性の溶液および制御された雰囲気から出発するエレクトログラフティングを行うことによる、金属へのポリマーのエレクトログラフティングにおいて得られている。
【0018】
しかし、文献ソースが何であれ、これらの結果は、典型的に数ナノメートルからせいぜい数十ナノメートルまでの厚みを有する、極薄のエレクトログラフト化フィルムのみを報告している。これは表面へ真にエレクトログラフトされているフィルムの(即ち、上記スキーム1の段階番号1から得られるフィルムの)厚みに関するという事実を強調することが重要である。このスキームの段階番号2に従って、溶液中で形成されるポリマー(そしてこれは電解合成の間に表面上に堆積され得る)は、必要に応じて超音波下で、該ポリマーの溶媒で表面をリンスすることによって一般的に容易に除去され、一方、エレクトログラフトされたポリマーはこの処理に耐える。
【0019】
これらの厚み範囲が、特定の適用のために既に有利であったとしても、同時に、アクセス可能な(accessible)厚みを増加させるためおよび/または薄い厚み(特に、10nm〜1μmの範囲内)のより良好な制御およびより良好な再現性を得るために、合成条件を改善し、ならびに第二に、工業的に適用可能にすることができるために、今日まで使用されているものよりも激しくない合成条件でこれらの厚み範囲にアクセスするという、真の必要性が見られる。
【0020】
特許US 3 759 797は、特にビニルモノマーおよび短鎖チオールまたはアルコールタイプ(そして特にエタノール)またはキノンの添加剤を含む配合物(formulations)に基づく、導電性表面上のポリマーフィルムの製造を報告している。この発明の著者は、これらの添加剤は、溶液中の重合を制限し、そして従って該表面から出発する成長についての反応を強化することを可能にすると述べている。この特許の実施例は、溶液中で形成されるポリマーの量の減少を示している一方で、それらは、表面上に残存する部分の、特に厚みに関する、挙動を評価することを可能にしておらず、何故ならば、該表面のキャラクタライゼーションまたは得られるコーティングの厚みの測定が、行われていないためである。更には、技術的データは、媒体の含水量の実際の条件を評価するには不十分である。
【0021】
しかし、本発明者らは、エレクトログラフティングを行うために使用される反応浴の配合物(formulations)への短鎖アルコール(そして特に、エタノール)の混合が、得られるフィルムの厚みを増加させることも、またはそれらを制御することも可能にしないことを見出した。これに反して、得られるフィルムの厚みは、エタノール濃度が増加するにつれてますます薄くなることが観察され、これは、アニオン重合反応に対するプロトン性添加剤(例えば、エタノール)の効果の“従来の”解釈に従っている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
従って、本発明者が本発明の主題を構成するものを開発したのは、全てのこれらの主要な欠点を克服し、そして工業的観点から実施するに容易である、得られるフィルムの厚みを特に制御することを可能にする、導電性または半導電性表面におけるポリマーフィルムの形成のための方法を提供するためである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者は、通常の条件下で得られるものよりも大きな(そしてそれにアクセス不可能な)厚みを有する、導電性または半導電性表面上にエレクトログラフトされた有機フィルムを得ることができる、エレクトログラフティングのために使用される反応浴の配合物(formulations)を今回開発した。
【0024】
この分野において今日まで有効な予想に反して、本発明の配合物は全て、反応浴の他の成分に対して50〜100000ppmから選択される割合で、電解質溶液(electrolytic solution)中でブレンステッド酸である化合物から選択されるプロトンの供給源(例えば、特に、水)を含む。プロトンの供給源の選択および該反応浴中のそれらの濃度範囲の選択は、更に、得られる厚みを厳密に制御することを可能にする:この制御は、“厚”膜(10nmを超える厚み)について新規であり、そして超薄膜(<10nm)について厳密に無水の媒体中においてアクセス可能な(accessible)ものよりもより良好であることが判る。
【0025】
従って、本発明の第1の主題は、
エレクトログラフティングによって導電性または半導電性表面にポリマーフィルムを形成するための方法であって、
a)1以上の電解重合可能なモノマーと、該電解質溶液中でブレンステッド酸である化合物から選択される少なくとも1つのプロトンの供給源とを含む電解質溶液を調製すること(該プロトンの供給源は、該電解質溶液の成分の総量に対して50〜100000ppmの量で存在する)、ならびに
b)作用電極として被覆される該導電性または半導電性表面および少なくとも1つの対極を使用することによって電解セル中で該溶液を電気分解して、該溶液の電解還元または電解酸化により、該表面にエレクトログラフトされたポリマーフィルムを形成すること
を包含することを特徴とする、方法である。
【0026】
本発明の意味内で、用語“ブレンステッド酸”は、上記で規定される方法に従って使用される電解質溶液中で、少なくとも1つの不安定なプロトン(または、重水素またはトリチウムのような、少なくとも1つの不安定なアイソトープ)を有する少なくとも1つの官能基を含むものであって、そして該溶液中、部分的に(弱酸)または完全に(強酸)イオン化されており、実際には解離さえされて、該化合物の共役塩基と溶媒和プロトン(それぞれ:重水素またはトリチウム)とを提供する、物質を意味すると理解される。水中において、化合物は、その酸性度定数、またはpKaによって、ブレンステッド酸と容易に判明する(marked out):14未満のpKaを有する対(pairs)の酸形態を構成する化合物は、ブレンステッド酸であり(該酸は、それらのpKaが0〜14である場合は弱く(weak)(部分的に解離している)、そしてそれらのpKaが負である場合は強い(strong)(完全に解離している))。プロトン(それぞれ、重水素またはトリチウム)を含む構成分子を有する有機溶媒中、化合物は、この溶媒中のそのpKが該溶媒の自己プロトリシスプロダクト(autoprotolysis product)未満である場合、ブレンステッド酸であると考えられ得る。例えば、G. Deniau et al., 1998, Journal of Electroanalytical Chemistry, 451, 145による文献において、2−ブテンニトリルはアセトニトリル中において弱いブレンステッド酸であることが示されている。いくつかの好ましい場合、理論モデルは、水中のpKaスケールと所定の有機溶媒中のそれらの等価物との間の対応(correspondence)を確立することが可能であり、このことは、水中の多数の化合物のpKa値は今日利用可能であるので、文献データを利用することを可能にする。量子化学に基づく、理論モデルはまた、G. Deniauらによる論文(上述した)に例示されるように、種々の溶媒中の特定の酸/塩基対のpKaを計算することを可能にする。電解質溶液が、例えば、支持電解質(support electrolyte)または電解重合可能なモノマー(electropolymerizable monomers)などのような、他の分子を含む場合、想定されるブレンステッド酸の媒体への導入の結果として発生されるプロトンの含有量の、直接的または間接的な、測定に立ち返ることが好ましい。これは、電気伝導度測定装置(conductimeter)(該溶液の伝導度の変化の測定)またはKarl−Fischer装置を使用する測定によって行われ得る。これはまた、プロトンを含まない分子構造を有する、溶媒中の化合物のブレンステッド酸性質を測定することを可能にする方法である。
【0027】
本発明に従う方法に従って使用され得るブレンステッド酸の中でも、非常に特に、水ならびに水中でブレンステッド酸である化合物、例えば、弱酸[例えば、フッ化水素、フッ化アンモニウム、亜硝酸、カルボン酸基(例えば、酢酸、クエン酸、アミノ酸および蛋白質など)またはアンモニウム、アミン、ピリジニウムもしくはフェノール基などを有する分子]、および強酸(例えば、硫酸、硝酸、塩化水素および過塩素酸)、硫酸、スルホン酸またはチオール基などを有する分子が、言及され得る。
【0028】
本方法によれば、電解重合可能なモノマーは、好ましくは、以下の式(I)および(II):
【0029】
【化2】

【0030】
[式中:
− A、B、RおよびRは、同一であるかまたは異なり、水素原子;C−Cアルキル基;ニトリル基;以下の官能基から選択される有機官能基:ヒドロキシル、アミン:−NH(但し、x=1または2)、チオール、カルボン酸、エステル、アミド:−C(=O)NH(ここで、y=1または2)、イミド、イミドエステル、酸ハライド:−C(=O)X(ここで、Xは、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素から選択されるハロゲン原子を示す)、酸無水物:−C(=O)OC(=O)、ニトリル、スクシンイミド、フタルイミド、イソシアネート、エポキシド、シロキサン:−Si(OH)(ここで、zは、1〜3を含む整数である);ベンゾキノン、カルボニルジイミダゾール、パラ−トルエンスルホニル、パラ−ニトロフェニル クロロホルメート、エチレニック(ethylenic)およびビニル、芳香族(aromatic)および特にトルエン、ベンゼン、ハロベンゼン、ピリジン、ピリミジン、スチレンまたはハロスチレンならびにそれらの置換された等価物;カチオン(および特に、例えば銅、鉄およびニッケルのような還元性金属(reducible metals)のカチオン)を錯化し得る官能基;これらの官能基から出発して置換および/または官能化された分子構造;熱または光子活性化により切断され得る基[例えば、ジアゾニウム塩、過酸化物、ニトロソアニリド、アルコキシアミンおよび特に2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO)、ベンゾフェノンおよびその誘導体、ジチオエステル、ジチオカルバメートまたはトリチオカーボネート];エレクトロアクティブ基および特に導電性ポリマーの前駆体、例えば、アニリン、チオフェン、メチルチオフェン、ビスチオフェン、ピロール、エチレンジオキシチオフェン(EDOT)およびアナログ(analogues);および電解切断可能な基、例えば、ジアゾニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩およびヨードニウム塩;ならびに上記モノマーおよび基の混合物を示し、
− n、mおよびpは、同一であるかまたは異なり、0〜20を含む整数である]
にそれぞれ対応する、活性化ビニルモノマー(activated vinyl monomers)および求核攻撃によって開裂可能な環状分子(cyclic molecules cleavable by nucleophilic attack)から選択される。
【0031】
上記の表記法において、RおよびRは、インデックスi(記載されず)に暗に依存する基であり、iは0〜nである。これは、RおよびR基が、実際には、式(II)の環状分子の構造において1つの(C(R)R)から別のものまで異なり得ること、即ち、使用される表記法(C(R)Rは、同一の(C(R)R)単位の繰り返しをいうのではなく、(C(R)R)タイプの基の連続をいうという事実を表現しており、ここでRおよびR基は上記リストの一部を形成する。
【0032】
カチオンを錯化し得る上記式(I)の活性化ビニルモノマーの官能基の中でも、特に、アミド、エーテル、カルボニル、カルボキシルおよびカルボキシレート、ホスフィン、ホスフィンオキシド、チオエーテル、ジスルフィド、尿素、クラウンエーテル、アザ−クラウン化合物、チア−クラウン化合物、クリプタンド、セプルクレート(sepulcrates)、ポダンド(podands)、ポルフィリン、カリックスアレン、ビピリジン、テルピリジン(terpyridines)、キノリン、オルト−フェナントロリン化合物、ナフトール、イソナフトール、チオウレア、シデロフォア(siderophores)、抗生物質(antibiotics)、エチレングリコールおよびシクロデキストリンが、言及され得る。
【0033】
上記式(I)の活性化ビニルモノマーの中でも、特に、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸グリシジル、アクリルアミドおよび特にアミノエチル、アミノプロピル、アミノブチル、アミノペンチルおよびアミノヘキシルのメタクリルアミド、シアノアクリレート、ジアクリレートまたはジメタクリレート、トリアクリレートまたはトリメタクリレート、テトラアクリレートまたはテトラメタクリレート(例えば、テトラメタクリル酸ペンタエリスリトール)、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンおよびその誘導体、パラ−クロロスチレン、ペンタフルオロスチレン、N−ビニルピロリドン、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化アクリロイル、ハロゲン化メタクリロイル、ジビニルベンゼン(DVB)およびより一般的にはビニル架橋剤、あるいはアクリレート、メタクリレートおよびそれらの誘導体に基づく架橋剤が、言及され得る。
【0034】
上記式(II)の開裂可能な環状分子の中でも、特に、エポキシド、ラクトンおよび特にブチロラクトン、ε−カプロラクトンおよびその誘導体、乳酸、グリコール酸、オキシラン、ならびにそれらの混合物およびそれらの誘導体が、言及され得る。
【0035】
本発明に従う方法に従う電解質溶液中の電解重合可能なモノマーの濃度は、モノマーごとに変化し得る。しかし、この濃度は、好ましくは0.1〜10モル/l、そしてより好ましくは0.1〜5モル/lである。
【0036】
本発明に従う方法の特定の実施形態によれば、該電解質溶液は、水中において不溶性であるかまたはほんの僅かに可溶性である電解重合可能なモノマーを溶解し、それらを移動させて接触させることを可能にするように意図される、少なくとも1つの本質的に関与しない(essentially uninvolved)(即ち、電解重合反応に関与しない)更なる液体(溶媒)を更に含み得る。しかし、にもかかわらず、使用される該モノマーが純粋で使用される状況、あるいはモノマー混合物の該モノマーの一部が溶媒として機能する状況、あるいはモノマー混合物の該モノマー全てが混和可能な割合で存在する状況を想像することが可能であるので、このような液体の存在が常には必要ではないということに注意することが重要である。
【0037】
それらが使用される場合、これらの溶媒は、好ましくは、ジメチルホルムアミド、酢酸エチル、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジクロロエタンおよびより一般的には塩素化溶媒(chlorinated solvents)から選択される。
【0038】
本発明に従う方法は、これらの溶媒の直接使用を可能にするという利点を示し、その中に存在する水を除去するためにそれらを予備蒸留に供すること、または該反応媒体の上の雰囲気の含水量を厳密に制御することを必要としない。この理由のために、本発明に従う方法は、工業規模で容易に実施され得る。
【0039】
同様に、本発明に従う方法の別の実施形態によれば、電解質溶液はまた、該電解質溶液中の電流の通過を提供するおよび/または改善するために、少なくとも1つの支持電解質(support electrolyte)を含み得る。しかし、例えば、使用される電解重合可能なモノマー自体が、イオン性基(例えば、アミノヘキシルメタクリレートのアンモニウムクロリド)を含み、これが電気回路の抵抗低下が許容値で維持されることを確実にする場合は、支持電解質の使用は必須ではない。
【0040】
それらが使用される場合、該支持電解質は、好ましくは、第四級アンモニウム塩(例えば、第四級アンモニウムペルクロレート、トシレート、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェートまたはハライド)、硝酸ナトリウムおよび塩化ナトリウムから選択される。
【0041】
これらの第四級アンモニウム塩の中でも、特に、例えば、過塩素酸テトラエチルアンモニウム(TEAP)、過塩素酸テトラブチルアンモニウム(TBAP)、過塩素酸テトラプロピルアンモニウム(TPAP)および過塩素酸ベンジルトリメチルアンモニウム(BTMAP)が、言及され得る。
【0042】
上記されるように、本発明に従う方法に従って使用される電解質溶液は、該電解質溶液の成分の総量に対して50〜100000ppmのブレンステッド酸の割合を含むという顕著な特徴を有する。ブレンステッド酸の濃度の選択は、好ましくは実験的に決定され、何故ならば、この濃度は、一般的に、使用される電解重合可能なモノマーの化学的性質、エレクトログラフティングが行われる導電性または半導電性表面の性質、可能な支持電解質の性質、可能な関与しない(uninvolved)液体、および反応混合物中のこれらの種々の化合物の相対濃度に依存するからである。
【0043】
良い出発点は、非プロトン性媒体中で行われるエレクトログラフティングについて典型的なタイプの手順を基礎として採用することを包含し得る。これは、本発明者が、全く予想外かつ驚くべき様式で、このような手順から得られるエレクトログラフト化フィルムの厚みが、より高い含水量の存在において顕著により大きくなり得ることを観察し得たためである。一般的に、累積的な効果さえ観察され、非プロトン性条件下で開発された最善の手順が使用され得、そして厚くかつ制御された厚みを有するフィルムを製造するそれらの能力は含水量の最適化によって更に改善され得るという結果を伴う。
【0044】
非常に特に好ましい様式において、ブレンステッド酸のこの含有量は、50〜10000ppmである。
【0045】
本発明によれば、導電性または半導電性表面は、好ましくは、ステンレス鋼、スチール、鉄、銅、ニッケル、コバルト、ニオブ、アルミニウム(特に、新しくブラシされている(brushed)場合)、銀、チタン、シリコン(ドープまたは非ドープ)、窒化チタン、タングステン、窒化タングステン、タンタルまたは窒化タンタルから作製される表面、あるいは金、白金、イリジウムもしくはイリジウム・プラチナ(iridium platinum)表面から選択される貴金属表面であり;本発明によれば、金表面が特に好ましい。
【0046】
本発明に従う方法は、特に、高精度で制御された厚みを有するグラフト化ポリマーフィルムを製造するために使用され得:エレクトログラフトされたフィルムは、DNAチップの製造に非常に有利であり、何故ならば、それらは、本質的に電気絶縁体(intrinsically electrical insulators)であるからである。それらがオリゴヌクレオチドを結合するために使用され、そのハイブリダイゼーションが光学ルート(蛍光)によって検出されることが意図される場合において、それらの厚みは、高精度で制御されなければならず:それは、蛍光強度の回収を最適化しそして基板による光学吸収を最小化するように、およそ百〜数百ナノメートルのオーダーのものでなければならず、そしてプラスまたはマイナス5ナノメートルの精度で調節されなければならない。
【0047】
エレクトログラフトされたフィルムはまた、種々の結合タイプを介してのより厚い層の付着のための分子“ベルクロ”(molecular “velcro”)として使用され得る:制御放出を行うための医薬分子の“リザーバー”層の付着(例えば、脈管インプラントまたはステントに関して):化学的または電気化学的層化による、層、特にミネラル層の付着(特に、骨インプラントのような、インプラントの表面の鉱化、または銅配線のダマシンプロセスのためのシード層の製造における、マイクロエレクトロニクスにおける表面メタライゼーションのため):エレクトログラフトされた層への熱融合によるポリマー層の付着(金属へのポリマーの低温結合のため)など。これらの場合において、化学的反応性、インターディジテーション長さ(interdigitation length)またはガラス転移温度が、それぞれ、エレクトログラフトされたフィルムを介しての良好な付着を得ることを可能にするパラメータを構成する。実際は、これら全ての適用例において、これらのパラメータは、“ベルクロ”として機能するエレクトログラフト化フィルムの厚みと関連し、そして典型的に100nmを超える厚みを有するフィルムについて有利な値を達成する。
【0048】
本発明に従う方法によれば、電解質溶液の電気分解は、定電位または定電流ボルタンメトリック条件(potentiostatic or galvanostatic voltammetric conditions)下での分極によって行われ得る。
【0049】
フィルムのグラフティングおよび成長は、その電圧が、使用される電解重合可能なモノマーの電解還元電位(electroreduction potential)よりも絶対値で大きくなるとすぐに、カソードにおいて生じる。
【0050】
更に、本発明の主題は、その少なくとも1つの面がエレクトログラフトされたポリマーフィルムで被覆されている、上述の方法を使用することによって得られる導電性または半導電性表面である。
【0051】
一般的に、このコーティングは、10nm〜10μmの厚みを有する。非常に驚くべきことに、そして下記の実施例において実証されるように、これらの厚みは、非プロトン性または無水条件下で行われる電解重合法に従って同一の電解重合可能なモノマーを使用することによって得られるエレクトログラフト化フィルムのそれよりも顕著に大きい。
【0052】
本発明の好ましい実施形態によれば、このコーティングは、100nm〜10μmの厚みを示す。
【0053】
前述の提供に加えて、本発明はまた、本発明に従わずそしてエタノールを含む電解質溶液を使用する方法と比較しての、異なる濃度の水の存在下における金電極の表面でのポリメタクリロニトリルフィルムの形成の実施例、水の存在における金電極の表面でのポリメタクリロニトリルフィルムの形成の第二実施例、水の存在下において形成されるフィルムの厚みに対するメタクリロニトリルモノマーの含有量の効果を記載する実施例、水の存在下における金電極の表面でのポリメタクリロニトリルフィルムの形成の間の含水量の影響の研究を記載する実施例、水の存在下における金電極上で得られるポリメタクリロニトリルフィルムの厚みに対する支持電解質の濃度の効果に関する実施例、ならびに添付の図面を参照する、続いての記載から明らかとなる提供も包含する。
【実施例】
【0054】
実施例1:種々の濃度の水の存在下でのポリメタクリロニトリル(PMAN)フィルムの形成 − エタノールを使用する方法との比較
この実施例は、50ppmよりも高い含水量についての、無水条件下よりもより大きな厚みを有するエレクトログラフト化フィルムの製造、および無水条件下ではアクセス不能である(inaccessible)、800〜1000ppmの含水量についての400nmの厚みを有するフィルムの製造さえ例示する。この実施形態は、該製造についての技術的環境を非常に簡略化することを可能にすることがまた示され、何故ならば、本実施例のフィルムはグローブボックス(glove boxes)の外で得られるからである。
【0055】
これらの合成は、アルゴン下で蒸留された、2.5モル/lのメタクリロニトリル(MAN)および10−2モル/lのTEAPを含む、アルゴン下で蒸留された、ジメチルホルムアミド(DMF)中の溶液から出発して行われ、ここで、作用電極(ガラスストリップ上へスプレーすることによって得られる金層(gold layer)を有するストリップ)、白金対極およびAg+/Agカップルに基づく参照電極が、浸漬されている。いくつかの合成は、コーティングされる新しいストリップを導入するためにセルを繰り返し開くことを伴って、同一浴から出発して行われる。各合成後、電解質溶液のサンプルを取り出し、その含水量を、Karl−Fischer装置を使用して測定する。合成溶液の初期含水量は35ppmであり、この水の量は、使用される市販のDMF中に天然に存在するものである。合成を行うために使用されるアレンジメントを、添付の図1に示す。この図において、電解質溶液を含みそして作用電極(Working)、参照電極(Ag+/Ag ref.)および白金対極(Pt counter))を備えるリークタイトな(leaktight)セルを、350℃でオーブン中1週間配置することによって予め活性化された4オングストロームモレキュラーシーブ(無水ゼオライト)を備えるガード(guard)に予め通過させたアルゴンでの連続スパージングに供する。
【0056】
それらの調製の終わりにおいて制御された雰囲気と接触していない6つの金ストリップを、引き続いて導入する。導入を、該セルのフタを開け、該ストリップをクロコダイルクリップで掴み、次いで該フタを再度閉めることによって行う。各操作は約30秒継続し、この間、アルゴンバブリングは中断されない。
【0057】
電解質溶液の含水量は、実験の開始での35ppmから、約2時間の実験後の1600ppmへ変化する。
【0058】
電解質溶液の平衡電位と−2.8V/(Ag/Ag)との間で100mV/sで10ボルタンメトリックスイープ(voltammetric sweeps)を行うことによって、合成を行う。ストリップをセルから取り出し、超音波下で5分間水で、次いでまた超音波下で5分間アセトンでリンスし、次いでアルゴン流下で乾燥させる。
【0059】
引き続いて、フィルムの厚みをプロフィロメトリー(profilometry)によって測定する。
【0060】
得られた結果を添付の図2に与え、これは、異なる含水量(ppm)の関数としての得られるフィルムの厚み(nm)を示している。
【0061】
これらの結果は、金上において400nmの厚みを有するPMANフィルムを得ることが成功しており(得られるフィルムの反射赤外スペクトルは、あらゆる点でPMANに従うスペクトルが実際に得られることを示している)、一方、これは、含水量以外の合成プロトコルのパラメータ(例えば、モノマーの濃度、電極電位、パルスの数またはスイープ速度)を変化させることだけでは得ることができないことを実証している。これら他のパラメータは、確かに、それ自体が、必要に応じて更に厚みを改善するために再調節されてもよいが、含水量の調節は、それのみによって、遥かにより大幅な改善を可能にするということが観察される。
【0062】
比較のために、同一の実験を、5×10−2モル/lのTEAPの存在下で無水DMF中4モル/lのMANを用いて可変量の無水エタノールで電解質溶液の水を置き換えて、行った。使用するDMFおよびエタノールを、1週間350℃でオーブン中において加熱することによって予めコンディショニングした4Åの細孔径を有するモレキュラーシーブ上に長時間配置することによって予め脱水し、続いてグローブボックス中において減少されたアルゴン圧下で蒸留した。該DMFおよび該エタノール中の得られる含水量は、Karl−Fischer装置を使用して測定して、DMFについては33ppmそしてエタノールについては10ppm未満である。取扱い操作(handling operations)は、乾燥アルゴン下グローブボックス中で行い、ここで、雰囲気の含水量は15ppm未満である。電気分解を、平衡電位(−0.7V/(Ag/Ag)の領域)から−2.6V/(Ag/Ag)まで、100mV/sで10スイープ(sweeps)によって、ボルタンメトリックック条件下で行った。引き続いて、該ストリップを、アセトンでリンスし、次いで分析前にアルゴン流下で乾燥した。
【0063】
各エタノール含有量について、約2270cm−1でのニトリル官能基の赤外吸収バンドの透過率を測定する。得られた結果を図3に与え、ここで、透過率(%)は、エタノール含有量(ppm)の関数として表されている。
【0064】
これらの結果は、電解質溶液への水の添加について観察されたものと類似の効果が存在しないことを示している:エタノールの添加は、低濃度であっても、エレクトログラフト化フィルムの消滅という結果をもたらす。
【0065】
該媒体への水の添加の影響下で、従って、驚くべき効果が観察され、本発明者は、このことを、水が反応媒体中においてブレンステッド酸であるという事実に帰する。非プロトン性および無水条件とは程遠い含水量は、非プロトン性または無水条件下で得られるものよりも大きな厚みを有するエレクトログラフト化フィルムの製造を促進することを可能にする。実際に、エレクトログラフト化フィルムは、文献において公知であることに従って、非常に高い含水量については消滅する傾向にあるということが観察される。驚くべき効果は、含水量の関数としてのフィルム厚を与える図2の曲線が、減少する前に、中間含水量について最大値を通過するということである。
【0066】
図3に示される結果はまた、例えば特許US 3 759 797に記載されるような、短鎖アルコールまたはチオールタイプの添加剤の添加の効果が、本発明に従って記載されるものと同一でないことを示しており、何故ならば、図3で得られる効果は、全く、特許US 3 759 797に記載のものの逆であるからである。必要な情報の全てを入手可能にすることなくそしてどの理論にも委ねられることを望むことなく、本発明の発明者は、特許US 3 759 797において使用される反応媒体の特徴は、ラジカル重合によるポリマーの形成を促進する傾向にあり、そして考慮される添加剤は、おそらく良好な活性部位移動剤(active site transfer agents)でありそして形成されるポリマーの架橋および/または停止反応を促進することに寄与し得ると考える。
【0067】
実施例2:水の存在下でのポリメタクリロニトリル(PMAN)フィルムの形成
上記実施例1は、所定のモノマー濃度および所定の手順について、該媒体の含水量を調節することによって厚み範囲を標的化することが可能であるという事実を示している。空気へ再暴露された無水溶液(例えば、グローブボックス中アルゴン下で蒸留されたDMF溶液)は、数分でその飽和値へのその含水量変化をみることが、言及され得る。上記の実施例1において、DMF溶液中の活性化モレキュラーシーブを含むガードに通過させることによって予め脱水されたアルゴンを、電気化学セルへスパージングすることは、含水量の調節の時間を2時間へ延長することを可能にする。
【0068】
本実施例において、モレキュラーシーブを、エレクトログラフティングセルへ直接導入する。得られる含水量の調節は、蒸留または脱水することなく、市販品から直接、合成溶液を作製することによって有効であることが、示されている。
【0069】
操作条件、ならびに特に合成手順および溶液は、反応物のいずれも蒸留していないこと以外は、上記実施例1についてと同一である。市販のDMFおよび該モノマーの含水量は、約150ppmと測定される。約2cmの厚みを有する、200℃で1週間予め活性化された、5オングストロームモレキュラーシーブのカーペットを、電気化学セルへ導入し、続いて合成溶液を導入する。数分後取り出されたサンプルにおいて行われた含水量の測定は、30ppmの含水量を与える。該溶液を、合成の期間中マグネチックバーで撹拌する。
【0070】
4時間後に取り出されたサンプルは、328ppmの含水量を示す。エレクトログラフトされたPMANフィルムが、4時間の電気分解後に作製される:得られるフィルムの厚みは125nmであり、実施例1において得られた結果とよく一致している。実施例1とちょうど同様に、構造欠陥は、このように得られたPMANフィルムのIRRASスペクトルにおいて観察されない。
【0071】
実施例3:水の存在下でのPMANフィルムの形成に対するMANモノマーの含有量の効果の研究
この実施例の目的は、含水量を変化させることによって達成され得る厚み範囲はまたモノマーの含有量に依存するが、モノマーの濃度がどうであろうとも、同一の傾向が観察されるという事実を示すことである。
【0072】
エレクトログラフト化PMANフィルムを、上記実施例2において記載されるものと同一の操作条件下で、しかしDMF中5×10−2モル/lのTEAP含有量および5モル/lのモノマーの初期濃度で、作製する。含水量を、反応媒体への蒸留水の添加によって、300、500および1000ppmへ、今回調節する。次いで、フィルムを、平衡電位(−1V/(Ag/Ag)の領域)から−3.2V/(Ag/Ag)まで、100mV/sで10ボルタンメトリックスイープ(sweeps)によって、作製する。このように処理されたストリップを、上記と同一の条件下でリンスする。
【0073】
プロフィロメーター(profilometer)において測定しそして上記実施例1において得られたフィルムのものと比較した、厚みを、下記表1に与える:
【0074】
【表1】

【0075】
比較のために、同一の操作条件下でしかし無水媒体中で得られたPMANフィルムは、約20〜50nmのオーダーの厚みを有する。
【0076】
実施例4:PMANフィルムの形成の間の含水量の影響の研究
この実施例の目的は、含水量の関数としての厚みを与える曲線が、最大値を通過し該最大値を超えてのその減少が緩やかである曲線であるという事実を示すことである。従って、これは、一方で、水の添加が、所定の手順および所定の濃度について得ることができる最大厚みを増加させることを可能にすること、ならびに、他方で、エレクトログラフトされたフィルムの厚みのより良好な制御が、含水量に関しての制御が該最大値のそれよりも高い濃度で行われる場合に得られるということを意味する。
【0077】
これを行うために、エレクトログラフトされたPMANフィルムを、3ボルタンメトリックスイープを−0.7V/(Ag/Ag)と−2.6V/(Ag/Ag)との間で200mV/sで行うという事実以外は、上記実施例2に記載のものと同一の操作条件下で金ストリップ上に作製する。含水量を、0〜2200ppmの間で変化する含有量に調節し、これは、異なるモノマー濃度(0.1、1、2.5および9.54モル/l)についての場合である。
【0078】
得られた結果を添付の図4に与え、ここで、各モノマー濃度(菱形:0.1モル/l; 四角:1モル/l; 三角:2.5モル/lおよび丸:9.54モル/l)について得られた厚み(オングストローム)は、含水量(ppm)の関数として表される。
【0079】
これらの結果は、全ての場合において、50ppmを超える含水量の存在を示しており、これについて、得られる厚みは、無水条件下でアクセス可能なものより大きい。該曲線の傾きは、それ未満においてよりもこの濃度を超えると、絶対値で、より小さいことがまた観察される:従って、得られるフィルムの厚みに関する良好な制御を達成することが可能となるのは、それ未満ではなくこの濃度を超える含水量の制御によってである。
【0080】
ニッケルストリップにおいて行った同一の実験は、同一の観察に至る。
【0081】
実施例5:PMANフィルムの厚みに対する支持電解質の濃度の効果の研究
この実施例の目的は、厚み/含水量曲線の最大値の位置はまた、支持電解質の存在および電解質溶液中のその含有量に依存し得るという事実を示すことである。特に、この最大値は、支持電解質の含有量が増加すると、より高い含水量の方向へ移動されることが観察される。これは、より高濃度の支持電解質を用いて配合物(formulations)を作製することによる、含水量の、および従ってフィルム厚の、より良好な制御を予想することを可能にする:溶液は、その含水量が減少するにつれ、吸湿性が増加する。支持電解質の所定の含有量を選択すると、媒体の含水量は厚み/含水量曲線の最大値へと調節され得、そして従って、この含水量が増加するにつれて、吸湿性が減少しそして従って安定性が増加する溶液を利用可能である。
【0082】
エレクトログラフトされたPMANフィルムを、DMF(蒸留せず)中のMAN(蒸留せず)の2.5モル/l溶液を使用して、金上において作製する。TEAPを支持電解質として使用する。溶液を、無水TEAPから調製し、そして含水量(Karl−Fischer装置を使用して測定)を蒸留水の添加によって調節した。
【0083】
異なるエレクトログラフト化フィルムを、5×10−3〜5×10−1モル/lのTEAP含有量についておよび16〜2400ppmの含水量について作製する。厚みを、IRRASによって測定されるCNラベルの強度から評価する。結果を添付の図5に与え、これは、各TEAP濃度について、含水量(ppm)の関数としての得られるフィルムの厚み(オングストローム)を示している。この図において、ベタ塗りの(solid)菱形は5×10−3モル/lのTEAP濃度、ベタ塗りの四角は1×10−2モル/lの濃度、ベタ塗りの三角は5×10−2モル/lの濃度、下記中空の四角は1×10−1モル/lの濃度、そして中空の三角は5×10−1モル/lの濃度で得られる曲線に対応している。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】図1は、水の存在下においてポリメタクリロニトリルフィルムで金電極を被覆するために使用されるアレンジメントを示す。このアレンジメントは、通気口(3)が通っているフタ(2)を備えるリークタイトな(leaktight)電解セル(1)を含み、これは、電解質溶液(4)および金作用電極(5)、Ag/Ag参照電極(6)および白金対極(7)を含む。電解質溶液は、電解質溶液(10)およびモレキュラーシーブ(11)を備えるガード(9)中を予め通過するアルゴン(8)での連続的スパージングに供されており、該ガード自体が、アルゴンで(12、13)のスパージングに供されている。
【図2】図2は、種々の含水量(ppm)の関数としての、金ストリップ上でのメタクリロニトリルモノマーの電解重合によって得られたポリメタクリロニトリルフィルムの厚み(nm)を示す。
【図3】図3は、エタノール含有量(ppm)の関数としての、金電極上でのメタクリロニトリルモノマーの電解重合によって得られたポリメタクリロニトリルフィルムのニトリル官能基の赤外線吸収バンドの透過率(%)を示す。
【図4】図4は、含水量(ppm)の関数としての、種々の濃度のメタクリロニトリルモノマー(菱形:0.1モル/l; 四角:1モル/l; 三角:2.5モル/lおよび丸:9.54モル/l)での金ストリップ上での電解重合によって得られたポリメタクリロニトリルフィルムの厚み(オングストローム)を示す。
【図5】図5は、含水量(ppm)の関数としての、電解質溶液中の種々の濃度の支持電解質(TEAP)についての金ストリップ上での電解重合によって得られたポリメタクリロニトリルフィルムの厚み(オングストローム)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトログラフティングによって導電性または半導電性表面にポリマーフィルムを形成するための方法であって、
a)1以上の電解重合可能なモノマーと、該電解質溶液中でブレンステッド酸である化合物から選択される少なくとも1つのプロトンの供給源とを含む電解質溶液を調製すること(該プロトンの供給源は、該電解質溶液の成分の総量に対して50〜100000ppmの量で存在する)、ならびに
b)作用電極として被覆される該導電性または半導電性表面および少なくとも1つの対極を使用することによって電解セル中で該溶液を電気分解して、該溶液の電解還元または電解酸化により、該表面にエレクトログラフトされたポリマーフィルムを形成すること
を包含することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記ブレンステッド酸が、水;フッ化水素;フッ化アンモニウム;亜硝酸;カルボン酸基またはアンモニウム、アミン、ピリジニウムもしくはフェノール基を有する分子;硫酸;硝酸;塩化水素;過塩素酸、および硫酸、スルホン酸またはチオール基を有する分子から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電解重合可能なモノマーが、以下の式(I)および(II):
【化1】

[式中:
− A、B、RおよびRは、同一であるかまたは異なり、水素原子;C−Cアルキル基;ニトリル基;以下の官能基から選択される有機官能基:ヒドロキシル、アミン:−NH(但し、x=1または2)、チオール、カルボン酸、エステル、アミド:−C(=O)NH(ここで、y=1または2)、イミド、イミドエステル、酸ハライド:−C(=O)X(ここで、Xは、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素から選択されるハロゲン原子を示す)、酸無水物:−C(=O)OC(=O)、ニトリル、スクシンイミド、フタルイミド、イソシアネート、エポキシド、シロキサン:−Si(OH)(ここで、zは、1〜3を含む整数である);ベンゾキノン、カルボニルジイミダゾール、パラ−トルエンスルホニル、パラ−ニトロフェニル クロロホルメート、エチレニック(ethylenic)およびビニル、芳香族(aromatic)および特にトルエン、ベンゼン、ハロベンゼン、ピリジン、ピリミジン、スチレンまたはハロスチレンならびにそれらの置換された等価物;カチオンを錯化し得る官能基;これらの官能基から出発して置換および/または官能化された分子構造;熱または光子活性化により切断され得る基;エレクトロアクティブ基;電解切断可能な基(electrocleavable group);ならびに上記モノマーおよび基の混合物を示し、
− n、mおよびpは、同一であるかまたは異なり、0〜20を含む整数である]
にそれぞれ対応する、活性化ビニルモノマーおよび求核攻撃によって開裂可能な環状分子から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記式(I)の活性化ビニルモノマーが、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸グリシジル、アクリルアミド、シアノアクリレート、ジアクリレートまたはジメタクリレート、トリアクリレートまたはトリメタクリレート、テトラアクリレートまたはテトラメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンおよびその誘導体、パラ−クロロスチレン、ペンタフルオロスチレン、N−ビニルピロリドン、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化アクリロイル、ハロゲン化メタクリロイル、ビニル架橋剤、あるいはアクリレート、メタクリレートおよびそれらの誘導体に基づく架橋剤から選択されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記式(II)の開裂可能な環状分子が、エポキシド、ラクトン、乳酸、グリコール酸、オキシラン、ならびにそれらの混合物およびそれらの誘導体から選択されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記電解質溶液中の前記電解重合可能なモノマーの濃度が、0.1〜10モル/lであることを特徴とする、前記請求項のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
前記電解質溶液が、更に、ジメチルホルムアミド、酢酸エチル、アセトニトリル、テトラヒドロフランおよび塩素化溶媒から選択される少なくとも1つの溶媒を含むことを特徴とする、前記請求項のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
前記電解質溶液が少なくとも1つの支持電解質を含むことを特徴とする、前記請求項のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
前記ブレンステッド酸の含有量が50〜10000ppmであることを特徴とする、前記請求項のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
前記導電性または半導電性表面が、ステンレススチール、スチール、鉄、銅、ニッケル、コバルト、ニオブ、アルミニウム、銀、チタン、シリコン、窒化チタン、タングステン、窒化タングステン、タンタル、窒化タンタルから作製される表面、あるいは金、白金、イリジウムまたはイリジウム・プラチナ表面から選択される貴金属表面であることを特徴とする、前記請求項のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
前記電解質溶液の電気分解が、定電位または定電流ボルタンメトリック条件下の分極(polarization)によって行われることを特徴とする、前記請求項のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法を使用することによって得られ得、そしてエレクトログラフトされたポリマーフィルムで被覆された少なくとも1つの面を有することを特徴とする、導電性または半導電性表面。
【請求項13】
前記ポリマーフィルムが10nm〜10μmの厚みを有することを特徴とする、請求項12に記載の表面。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−507609(P2007−507609A)
【公表日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530402(P2006−530402)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【国際出願番号】PCT/FR2004/002449
【国際公開番号】WO2005/033378
【国際公開日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(500511590)
【Fターム(参考)】