説明

エレクトロブロー法における吹込みガス

本発明は、少なくとも1種類の可燃性溶剤に溶解した少なくとも1種類のポリマーを有するポリマー溶液を紡糸ノズルへ供給する工程と、ポリマー溶液を紡糸ノズルから、燃焼を支持しない吹込みガスまたはガス混合物へ放出する工程であって、吹込みガスが紡糸ノズルの下端のジェットを出て、ポリマーナノ繊維を形成する工程と、紡糸ノズル下のコレクタでポリマーナノ繊維を集める工程であって、印加された高電圧差が紡糸口金とコレクタとの間に維持される工程とによるナノ繊維ウェブの製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロブローン紡糸またはエレクトロブロー(electroblowing)によりポリマーナノ繊維ウェブを形成する方法に関する。本発明のナノ繊維ウェブはアパレル、布拭き、衛生製品、フィルタおよび手術用ガウンおよびドレープに用いるのに適した複合体布地に組み込むことができる。
【背景技術】
【0002】
溶融紡糸、フラッシュ紡糸、溶液ブロー、メルトブロー、静電紡糸およびエレクトロブローをはじめとする様々なプロセスを用いて、合成ポリマーから非常に直径の小さな繊維が作られている。これらの非常に直径の小さな繊維から作製されたウェブは、液体バリア材料およびフィルタとして有用である。それらは、製品最終用途のニーズを満たすために、他のさらに強いウェブと組み合わせて、さらに強度のある複合体にされることが多い。
【0003】
空気と接触することになる可燃性溶剤をポリマー溶液に利用するこうした紡糸プロセスにおいては、火事になって火事を広げる機会を最小にする措置を講じなければならない。エレクトロブローの場合には、ポリマー溶液からの可燃性溶剤が高圧電荷の存在により空気と接触することになる場合には、火事の可能性を最小にする必要がある。小さな実験室プロセスから大規模商業生産へ拡大するとき、これは特に重要である。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の実施形態は、少なくとも1種類の可燃性溶剤に溶解した少なくとも1種類のポリマーを含んでなるポリマー溶液を紡糸ノズルへ供給する工程と、ポリマー溶液を紡糸ノズルから、燃焼を支持しない吹込みガスまたはガス混合物へ放出する工程であって、吹込みガスが紡糸ノズルの下端のジェットを出て、ポリマーナノ繊維を形成する工程と、紡糸ノズル下のコレクタでポリマーナノ繊維を集める工程であって、印加された高電圧差が紡糸口金とコレクタとの間に維持される工程とを含んでなるナノ繊維ウェブの製造方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
本発明は、参照により本明細書に援用される国際公開第2003/080905号パンフレット(米国特許出願第10/822,325号明細書)に記載されたエレクトロブローン紡糸(または「エレクトロブロー」)を用いてナノ繊維ウェブを製造する方法の改良に関する。この従来技術のエレクトロブロー方法は、高圧が印加される紡糸ノズルに溶剤中のポリマー溶液を供給し、さらに、ノズルから出る際に、圧縮空気を吹込みガス流中でポリマー溶液に向けてナノ繊維を形成し、真空下で接地されたコレクタにナノ繊維をウェブへ集めることを含んでなる。
【0006】
本発明によれば、圧縮空気の代わりに、燃焼を支持しないガスまたはガス混合物が用いられる。空気中に分子酸素ガスが存在すると、可燃性溶剤を用いているときは燃焼を支持する。この状況は、紡糸ノズルとコレクタとの間に高電圧電位差があると悪化する。様々なプロセスパラメータのうち1つでも適切に制御されないと、電気アークが生じて、発火源となる可能性がある。吹込みガスを、燃焼を支持しないガスと取り替えることによって、火事の可能性が減じる。
【0007】
「ナノ繊維」とは、数十ナノメートルから数百ナノメートルまで変化するが、通常は1マイクロメートル未満の直径を有する繊維のことを意味する。
【0008】
図1に、ナノ繊維ウェブ製造プロセスを示す本発明のナノ繊維ウェブ製造装置の図を示す。
【0009】
保管タンク100は、1種類もしくはそれ以上のポリマーを1種類もしくはそれ以上の溶液に溶解することによりポリマー溶液を調製する。本発明に利用可能なポリマーは熱可塑性樹脂に限定されず、熱硬化性樹脂などの大抵の合成樹脂を利用してよい。利用可能なポリマーとしては、ポリイミド、ナイロン、ポリアラミド、ポリベンズイミダゾール、ポリエーテルイミド、ポリアクリロニトリル、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリプロピレン、ポリアニリン、ポリ(酸化エチレン)、ポリ(エチレンナフタレート)、ポリ(ブチレンテレフタレート)、スチレンブタジエンゴム、ポリスチレン、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリ(ビニルブチレン)およびこれらのコポリマーまたは誘導化合物が例示される。
【0010】
ポリマー溶液は、ポリマーを溶解する溶剤を選択することにより調製する。好適な溶剤としては、テトラヒドロフラン、N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトンおよびメチルエチルケトンなどの可燃性溶剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。大抵のポリマーの溶解に特定の温度範囲は必要ないが、溶解反応を補助するために加熱は必要なことがある。ポリマー溶液は、関連のポリマー、可塑剤、紫外線安定化剤、架橋剤、硬化剤、反応開始剤等と相容性のある樹脂を含む添加剤と混合することができる。図1に示す装置は、保管タンク100からポリマー溶液を排出するために、圧縮ガスを保管タンク100へ強制的に吹き込む圧縮構成を採用しているが、保管タンク100からポリマー溶液を排出する任意の公知の手段を利用することができる。
【0011】
ポリマー溶液は、保管タンク100から、電気的に絶縁され、高電圧を印加された紡糸口金102の紡糸ノズル104を介して放出される。ガスヒーター108で任意に加熱した後、燃焼を支持しないガスまたはガス混合物を含んでなる圧縮ガス(「吹込みガス」)を、紡糸ノズル104の側部に配置されたガスノズル106を介して注入する。ポリマー溶液が紡糸口を出た後、ガスがポリマー溶液と接触する。紡糸口金102の紡糸ノズル104から放出されたポリマー溶液は、紡糸ノズル104下のコレクタ110でウェブの形態で集められるナノ繊維を形成する。コレクタ110は接地されていて、ガス収集容器114を通してガスを引くように設計されており、ガスは紡糸ノズル104とコレクタ110との間の高電圧領域を通して、ブロワ112の吸引により引かれる。あるいは、紡糸口金102を接地して、コレクタ110に高電圧を印加することができる。また、吸引を利用するコレクタ110の代わりに、静電荷をウェブに適用して、コレクタ下での吸引を必要とすることなく、コレクタに留めることができる。ブロワ112に引かれるガスは、溶剤を含有しており、溶剤回収システム(SRS、図示せず)を好ましくは含めて、ガスを装置からリサイクルしつつ溶剤を回収する。SRSは周知の構造を採用してよい。
【0012】
従来技術の方法の1つの欠点は、約21体積%分子酸素を含んでなる空気を吹込みガスとして用いるときに、火事や爆発の危険性があることである。電気アークが紡糸ノズルとコレクタとの間に生じる場合に存在し得る、発火する可能性のある源の存在のために、これは特に問題である。空気が加熱されると、溶剤を揮発し、可燃性および/または爆発性蒸気を形成する作用を果たして、この問題は悪化する。紡糸ノズルの穴当たり0.1〜5mL/分の範囲のエレクトロブロー法の高ポリマー溶液処理速度のために、かなりの量の蒸発した溶剤が作製され、その結果、蒸発した溶剤濃度が空気中の爆発下限界(LEL)に達する、または超えた場合に、極めて危険な環境となり得る。
【0013】
本発明の一実施形態において、吹込みガスは、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素、炭化水素、ハロカーボン、ハロ炭化水素またはこれらの混合物などの、燃焼を支持しないガスまたはガス混合物となるように選択する。実際、紡糸ノズル/コレクタシステム周囲の空気中の分子酸素含量を約21体積%の周囲レベルより低く減じるのに十分なだけのかかるガスを吹き込みガスとして用いて、使用中の特定の可燃性溶剤のLELを、紡糸ノズル/コレクタシステム周囲の酸素含量を減じた雰囲気中でのかかる溶剤蒸気の可能性のある濃度を超える点まで上げるようにすることが可能である。すなわち、紡糸操作を吹込みガスで完全に覆う必要はないが、分子酸素含量を安全なレベルまで減じるのに十分な容積でかかるガスを用い、これより低いと燃焼を支持できない。これは、使用中の溶剤およびガスの温度に応じて異なる。そのために、紡糸ノズルとコレクタとの間の紡糸領域内にガスプローブを配置して、ガスの試料をその領域内から、酸素分析器へ引いて、領域内の酸素濃度をモニターするのが有利であろう。
【0014】
他の実施形態において、吹込みガス自身は、混合物が燃焼を支持できない限りは、低濃度の分子酸素を含むことができる。
【0015】
他の実施形態において、エレクトロブロー操作を封止したシステムにおいて実施して、吹込みガスが封止された紡糸容器内に完全に含まれるようにするのが有利である。紡糸容器は、少なくとも燃焼を支持するには不十分となるレベルまで効率的に分子酸素をパージすることができる。かかる場合、炭化水素やさらにリサイクルされた溶剤蒸気などの可燃性危険を呈すであろうガスを吹き込みガスとして用いることができる。
【0016】
紡糸環境における分子酸素含量の安全濃度の計算は、当業者であれば分かる。
【0017】
様々な基材をコレクタに配置して、基材上で紡糸されたナノ繊維ウェブを集めて組み合わせ、組み合わせた繊維ウェブを高性能フィルタ、ワイプ等として用いることができる。基材としては、メルトブローン不織布、ニードルパンチングおよびスパンレース不織布、織布、ニット布、紙等の様々な不織布が例示され、ナノ繊維層を基材に添加できる限りは限定されることなく用いることができる。
【0018】
本発明は、以下のプロセス条件で実施することができる。
【0019】
紡糸口金102に印加された圧力は、好ましくは約1〜300kVの範囲、より好ましくは約10〜100kVの範囲である。ポリマー溶液は、約0.01〜200kg/cm、好ましくは約0.1〜20kg/cmの範囲の圧力下で放出することができる。これによって、大量生産に適したやり方で、ポリマー溶液を大量に放出することができる。本発明のプロセスは、静電紡糸法に比べて、約0.1〜5cc/分−穴の高放出速度でポリマー溶液を放出することができる。
【0020】
ガスノズル106を介して注入された圧縮ガスの流速は約10〜10,000m/分、好ましくは約100〜3,000m/分である。ガス温度は、好ましくは周囲温度から約300℃の範囲、より好ましくは約100℃までの範囲である。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例においてさらに詳細に説明する。国際公開第2003/080905号パンフレットに記載され、図1に示すエレクトロブロー装置を用いる。
【0022】
実施例1
N−ジメチルホルムアミド溶剤中20重量%のポリアクリロニトリルの濃度を有するポリマー溶液を調製し、図1に示す紡糸口金で紡糸する。6kg/cmの紡糸圧力を印加する。窒素吹き込みガスを、約1,000m/分で紡糸ノズルの下端で注入し、紡糸領域で酸素濃度をモニターする。窒素吹込みガスの流速を調整して、紡糸領域内の酸素濃度を燃焼を支持するレベルより低く減じるようにする。紡糸口金を帯電し、コレクタを接地することにより50kV DCで電圧を印加する。ポリアクリロニトリル繊維のウェブを平均繊維直径<1,000nmで集める。
【0023】
実施例2
アセトン溶剤中15重量%のポリ(フッ化ビニリデン)の濃度を有するポリマー溶液を調製し、図1に示す紡糸口金で紡糸する。6kg/cmの紡糸圧力を印加する。アルゴン吹き込みガスを、約1,000m/分で紡糸ノズルの下端で注入し、紡糸領域で酸素濃度をモニターする。アルゴン吹込みガスの流速を調整して、紡糸領域内の酸素濃度を燃焼を支持するレベルより低く減じるようにする。紡糸口金を帯電し、コレクタを接地することにより50kV DCで電圧を印加する。ポリ(フッ化ビニリデン)繊維のウェブを平均繊維直径<1,000nmで集める。
【0024】
実施例3
吹込みガスが5体積%酸素/95体積%窒素の混合物である以外は、実施例2に規定した条件を再現する。混合吹き込みガスを、1,000m/分で紡糸ノズルの下端で注入し、紡糸領域で酸素濃度をモニターする。混合吹込みガスの流速を調整して、紡糸領域内の酸素濃度を燃焼を支持するレベルより低く減じるようにする。紡糸口金を帯電し、コレクタを接地することにより50kV DCで電圧を印加する。ポリ(フッ化ビニリデン)繊維のウェブを平均繊維直径<1,000nmで集める。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の方法を実施する従来技術のエレクトロブロー装置の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類の可燃性溶剤に溶解した少なくとも1種類のポリマーを含んでなるポリマー溶液を紡糸ノズルへ供給する工程と、
ポリマー溶液を紡糸ノズルから、燃焼を支持しない吹込みガスまたはガス混合物へ放出する工程であって、吹込みガスが紡糸ノズルの下端のジェットを出て、ポリマーナノ繊維を形成する工程と、
紡糸ノズル下のコレクタでポリマーナノ繊維を集める工程であって、印加された高電圧差が紡糸口金とコレクタとの間に維持される工程と
を含んでなるナノ繊維ウェブの製造方法。
【請求項2】
吹込みガスが、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素、炭化水素、ハロカーボン、ハロ炭化水素およびこれらの混合物よりなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
吹込みガスの流速を調整して、紡糸ノズル/コレクタシステムを囲む領域において前記溶剤の燃焼を支持するには低すぎるレベルまで酸素濃度を減じる請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ポリマーが、ポリイミド、ナイロン、ポリアラミド、ポリベンズイミダゾール、ポリエーテルイミド、ポリアクリロニトリル、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリプロピレン、ポリアニリン、ポリ(酸化エチレン)、ポリ(エチレンナフタレート)、ポリ(ブチレンテレフタレート)、スチレンブタジエンゴム、ポリスチレン、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリ(ビニルブチレン)およびこれらのコポリマーまたは誘導化合物の群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項5】
可燃性溶剤が、テトラヒドロフラン、N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトンおよびメチルエチルケトンの群から選択される請求項4に記載の方法。
【請求項6】
高電圧が紡糸ノズルに印加され、約1〜約300kVである請求項1に記載の方法。
【請求項7】
高電圧がコレクタに印加され、約1〜約300kVである請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ポリマー溶液が、約0.01〜約200kg/cmの範囲の吐出圧下で紡糸ノズルから圧縮されて放出される請求項1に記載の方法。
【請求項9】
吹込みガスが、約10〜約10,000m/分の流速で、約周囲温度〜約300℃の温度で注入される請求項1に記載の方法。
【請求項10】
吹込みガスが約周囲温度〜約300℃の温度で注入される請求項5に記載の方法。
【請求項11】
コレクタが、基材上にウェブの形態で付着したナノ繊維を集めるためにその上に配置された基材を有する請求項1に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−519169(P2008−519169A)
【公表日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−539368(P2007−539368)
【出願日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【国際出願番号】PCT/US2005/040143
【国際公開番号】WO2006/052808
【国際公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】