説明

エレクトロルミネッセンス装置の製造方法と検査方法とエレクトロルミネッセンス装置

【課題】 保護層の遮蔽効果を判定する工程を含んだ有機EL装置の製造方法および検査方法と、保護層の遮蔽効果を判定する工程を実現し得る構造を有した有機EL装置を提供すること。
【解決手段】 本発明は、基板と、前記基板上に設けられた有機EL素子14と、前記有機EL素子14の上面に設けられた保護層26を有する有機EL装置の製造方法および検査方法である。
本製造方法および検査方法は、前記保護層26を挟んで上面側と下面側から電圧を印加する工程と、前記保護層26に電流が流れたか否かによって該保護層26の欠陥の有無を判定する工程と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロルミネッセンス(以下、「EL」という)装置の製造方法に関する。詳しくは、EL素子の表面に保護層が設けられたEL装置の検査方法に関する。また、このような製造方法及び検査方法を好適に実現し得る構造を有したEL装置に関する。
【背景技術】
【0002】
EL装置は、EL層(発光層)を一対の電極層によって挟んだEL素子を備えている。EL装置は、EL素子の二つの電極層間に電圧を印加して発光層に含まれる発光物質を発光させることで照明装置や画像表示装置として機能する。
EL装置を照明装置や画像表示装置として機能させるためには、EL装置の発光輝度が重要となる。EL装置の発光輝度はEL素子を流れる電流によって決まり、EL素子を流れる電流はEL素子に印加される電圧によって決まる。したがって、EL装置が所定の消費電力の範囲内で所定の発光輝度を有するためには、EL素子に所定の電圧を印加したときにEL素子が所定の輝度で発光しなければならない(すなわち、EL素子が所定の発光特性を有しなければならない)。このため、EL装置の製造段階でEL素子が所定の発光特性を有するか否かを検査し、所定の発光特性を有さないEL素子については製造ラインから外すことが行われている。
【0003】
製造工程においてEL素子の発光特性を検査する方法として、例えば、特許文献1に記載の検査方法が知られている。特許文献1の検査方法では、基板上に形成された検査用EL素子に検査用の電圧を印加して発光させ、その検査用EL素子が所定の輝度で発光するときの電圧を測定する。次に、測定された電圧と予め設定されたしきい電圧を比較し、EL素子が所定の発光特性を有するか否かを判定している。特許文献1に記載の検査方法によれば、良好な発光特性を有するEL素子のみがその後の製造工程に送られ、良好な発光特性を有するEL装置を得ることができる。
【0004】
【特許文献1】特開2004−192925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した技術によると、良好な発光特性を有するEL装置を得ることはできるが、EL装置の発光輝度は時間の経過に伴って低下することがある。時間の経過に伴うEL装置の輝度低下の原因として、EL素子の発光層や電極層が水分やガス等の浸入によって劣化することがあげられる。このため、外部からの水分やガス等の浸入を防ぐ目的でEL素子の表面に絶縁性物質からなる保護層が形成されることがある。EL素子の表面に形成された保護層の遮蔽効果が高ければ、EL装置の輝度低下は長期に亘って抑制される。従って、EL装置が長期に亘って高輝度であることを保証するためには、EL装置の製造工程で保護層の遮蔽効果を検査する必要がある。本発明は、上記した実情に鑑みてなされたものであり、EL素子の表面に保護層を設けたEL装置の製造方法において、EL素子の表面に設けた保護層が水分やガス等の侵入を遮蔽する効果の高い保護層か否かを判定することで、長期に亘ってEL装置の輝度低下が抑制されることを保証することができるEL装置の製造方法と検査方法を提供することを目的とする。また、保護層の遮蔽効果の判定を容易に行うことができるEL装置を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられたEL素子と、前記EL素子の上面に設けられた保護層を有するEL装置の検査方法である。
本検査方法は、前記保護層の上面側と下面側との間に電圧を印加する工程と、前記保護層に電圧を印加したときに該保護層に電流が流れる電流値によって該EL装置の合否を判定する工程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
EL素子の表面を覆う保護層は、絶縁性物質から構成されている。細孔や亀裂などの欠陥部分が多い保護層は、絶縁耐圧が低く、比較的低電圧で絶縁破壊が生じる。一方、欠陥が少ない保護層は、絶縁耐圧が高く、高い電圧をかけられても絶縁破壊が生じにくい。
本発明の検査方法は、上面側と下面側から保護層に電圧を印加して保護層に絶縁破壊が生じて保護層に電流が流れるか否かを調べることで、保護層の状態を判定する。保護層の状態を判定することで、輝度低下が長期に亘って生じにくいことが保証されたEL装置を得ることができる。
なお、保護層の欠陥の有無の判定は、例えば、保護層に所定の電圧を印加して保護層に電流が流れたか否か(電流値が0か否か)によって判定することができ、あるいは、保護層に所定の電圧を印加して保護層を流れる電流を測定し、測定された電流値が設定値以上となるか否かによって判定することができる。
【0008】
本明細書中で「エレクトロルミネッセンス素子(EL素子)」には、発光材料の主要材料に有機化合物を用いた「有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)」や発光材料の主要材料に無機化合物を用いた「無機エレクトロルミネッセンス素子(無機EL素子)」が含まれる。
また、「エレクトロルミネッセンス装置(EL装置)」には、有機EL素子を用いた「有機エレクトロルミネッセンス装置(有機EL装置)」や、無機EL素子を用いた「無機エレクトロルミネッセンス装置(無機EL装置)」が含まれる。
また、「保護層」とは、EL素子を外部の水分や物理的な衝撃から保護する層であり、単層の構造に限定されない。保護層の典型的な例として、酸化珪素、窒化珪素、酸窒化珪素等の無機化合物の薄膜やポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスチレン等の高分子フィルム、およびこれらを組み合わせたものが挙げられる。
【0009】
電圧を印加する工程は、EL素子の陽極層と保護層の上面側との間に電圧を印加することで実施することができる。
EL素子は保護層の下面側にあり、陽極層はEL素子に含まれている。このため、EL素子の陽極層と保護層の上面側との間に電圧を印加することで、保護層の上面側と下面側との間に電圧を印加することができる。また、陽極層と保護層の上面側との間に電圧を印加すると、EL素子を発光させるために用いられる陽極層の端子部を検査用の電圧を印加する端子部として利用することができる。
【0010】
また、電圧を印加する工程は、EL素子の陰極層と保護層の上面側との間に電圧を印加することで実施してもよい。
陰極層はEL素子に含まれており、保護層の下面側に位置している。このため、EL素子の陰極層と保護層の上面側との間に電圧を印加することで、保護層の上面側と下面側との間に電圧を印加することができる。また、陰極層と保護層の上面側との間に電圧を印加すると、EL素子を発光させるために用いられる陰極層の端子部を検査用の電圧を印加する端子部として利用することができる。
【0011】
本発明のEL装置の検査方法は、保護層の上面に導体層を設ける工程をさらに含むことができる。この場合に、電圧を印加する工程は、かかる導体層と保護層の下面側の間で実施することが好ましい。
保護層の上面に導体層を形成すると、電圧を印加する工程において、保護層の上面の略全面から電圧が印加され、保護層の欠陥を漏れなく検査することができる。これによって、保護層の欠陥を判定する工程における判定の信頼性が高くなる。
【0012】
さらに本発明は、上記検査方法を取り入れた新規なEL装置の製造方法を提供する。
本発明のEL装置の製造方法は、基板に、陽極層と陰極層と、陽極層と陰極層に挟まれた発光層を有するEL素子を設ける工程と、前記EL素子の上面に保護層を設ける工程と、前記保護層の上面に導体層を設ける工程と、前記保護層の下面または前記陽極層または前記陰極層のうちのいずれかと、前記導体層との間に電圧を印加する工程と、前記保護層に電圧を印加したときに該保護層に流れる電流の電流値によって該EL装置の合否を判定する工程と、を含むことを特徴とする。
本発明の製造方法によれば、上面側と下面側から保護層に電圧を印加して保護層に絶縁破壊が生じて保護層に電流が流れるか否かを調べることで、保護層の状態を判定することができる。また、保護層の上面側に導体層を設けることで、保護層の欠陥を漏れなく検査することができる。結果、輝度低下が長期に亘って生じにくいことが保証されたEL装置を得ることができる。
【0013】
また、本発明は、上記検査方法と上記製造方法で実施される「電圧を印加する工程」と「EL装置の合否を判定する工程」を容易に実施することができる新規なEL装置を提供する。
本発明のEL装置は、絶縁性基板と、絶縁性基板上に設けられたEL素子と、EL素子の上面に設けられた保護層と、保護層の上面に設けられた導体層とを有するEL装置である。本EL装置において、EL素子は陽極層と陰極層とこれら陽極層と陰極層に挟まれた発光層を有しており、陽極層は陽極端子部を有しており、陰極層は陰極端子部を有しており、導体層も端子部を有している。ここで、陽極端子部と陰極端子部と導体層の端子部は絶縁性基板上に設けられ、これらの端子部は離間して配置されている。
【0014】
上記のEL装置は、保護層の上面側に端子部を有する導体層が設けらており、保護層の下面側に端子部を有する陽極層と陰極層が形成されている。このため、上記のEL装置の検査方法における「電圧を印加する工程」は、導体層の端子部と陽極層或いは陰極層の端子部に電圧を印加することで実施することができる。さらに、保護層の上面側に導体層を設け、導体層と陽極層との間若しくは導体層と陰極層の間に電圧を印加することで、保護層の欠陥を高精度に判定することができる。従って、このような構成のEL装置は、保護層の上面側と下面側の間に電圧を容易に印加することができ、また、保護層の欠陥を判定する工程で良品と不良品を精度よく区分けすることが可能となる。また、かかる構成のEL装置において、保護層の欠陥を判定する工程で良品と判定されたEL装置は、保護層の遮蔽効果が高く長期に亘って輝度低下が生じにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
下記に詳細に説明する実施例の主要な特徴を最初に列記する。
(特徴1)EL装置はEL素子として有機EL素子を備えた有機EL装置である。
(特徴2)保護層は、絶縁性物質から構成されている。
(特徴3)保護層は、真空薄膜形成法によって成膜された無機化合物層である。
(特徴4)保護層の上面には金属からなる導体層が形成されている。
(特徴5)保護層の上面にはアルミニウムからなる導体層が形成されている。
(特徴6)導体層は低温スパッタリング法により形成されている。
(特徴7)導体層は、少なくとも保護層の略全面を覆う形態で形成されている。
【実施例】
【0016】
(実施例)
図面を参照して本発明の一実施例を説明する。図1は有機EL装置10を導体層30側からみた平面図であり、図2は図1のII−II断面図である。
先ず、本実施例に係る有機EL装置の大まかな構成を説明する。有機EL装置10は、透明絶縁性基板12上に陽極層20と有機発光層18と陰極層16を積層した構造を有する有機EL素子14が設けられており、有機EL素子14を覆うように保護層26が設けられており、保護層26の上面に導体層30が設けられている(図1、2参照)。
図1に示されるように、透明絶縁性基板12は、縦方向(図1の上下方向)に長い略長方形の板材であり、略一定の厚さを有している。透明絶縁性基板12は、可視光に対して透明又は半透明で、絶縁性を有する材料から構成されればよく、構成材料は特に限定されない。例えば、ガラス基板や条件を満たす合成樹脂製基板などを用いることができる。
【0017】
陽極層20は、透明絶縁性基板12の上面に形成されている。陽極層20は、その一部が有機発光層18から透明絶縁性基板12の下辺に向かって(図1の下方)延出しており、その延出部が陽極端子部22を構成している。陽極層20は、その厚さが略一定となっている(図2参照)。陽極層20は、公知の透明な導電性材料から構成されればよく、特に限定されない。例えばITOが用いられる。有機発光層18からの光は、この透明電極である陽極層20及び透明絶縁性基板12を通して外部に取り出される。
なお、本実施例において「上面」とは、図1の紙面垂直方向の手前側の面を意味するものとし、「下面」とは図1の紙面垂直方向の奥側の面を意味する。これら以外の方向については、説明に用いた図面を見たときの方向に従うものとする。
【0018】
有機発光層18は、陽極層20の上面に形成されている。有機発光層18の形状は平面視すると縦方向にやや長い長方形である。有機発光層18は、厚さが略均一となるように形成されている。
有機EL素子14の有機発光層18は、Alq(トリス(8−ヒドロキシキノリノライト)アルミニウム)やDCM等の公知の有機発光材料によって構成される。このような公知の有機発光材料を組み合わせ、赤色、緑色、青色、黄色等の単色光や、それらの組み合わせによる発光色、例えば白色光が得られる。白色光が得られる構成としては、発光層を2層や3層に積層させる積層型や、1層の発光層に異なる発光層を塗り分ける塗り分け型等が挙げられる。
また、電荷(正孔、電子)注入層、電荷輸送層、ブロック層等の機能層を適宜組み合わせることもできる。
【0019】
陰極層16は、有機発光層18の上面に形成されている。陰極層16は、有機発光層18の全域に広がるように形成されている。陰極層16は、その一部が有機発光層18から透明絶縁性基板12の下辺に向かって(図1の下方)延出しており、その延出部が陰極端子部24を構成している。陰極層16は、その厚さが略一定となっている(図2参照)。陰極層16の構成材料は、可視光に対して反射性を有していればよく、特に限定されない。また、駆動電圧や電力効率の低減の観点から、体積低効率の低い材料で形成されることが好ましい。体積抵抗率が低く、可視光に対する反射性の高い陰極材料として、例えば、マグネシウム合金(例えば、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金)、アルミニウムやアルミニウム合金(リチウム−アルミニウム合金)、金、銀、クロム等の金属やこれらの合金が挙げられる。
上記の有機EL素子14では、陽極層20と陰極層16の間に電圧が印加されると、陽極層20から有機発光層18へ正孔が注入され、陰極層16から有機発光層18へ電子が注入されて、有機発光層18中の発光体が励起されて発光する。
【0020】
有機EL素子14の上面(より正確には陰極層16の上面)を覆う保護層26は、有機発光層18の略全域を確実に保護できるように有機発光層18よりもやや広く形成されている。保護層26の形状は、有機発光層18よりもやや広い長方形である。
保護層26は、外部の水分やガス等から有機EL素子14を保護する目的で形成されている。なお、保護層26の封止性(遮蔽性)が悪いと、外部の水分やガス等が有機EL素子14に入り込み、有機発光層18や陰極層20の劣化が生じる。このような劣化が生じると、有機EL装置10の輝度が低下する。
保護層26は、絶縁性を有する無機化合物(例えば、酸化珪素、窒化珪素、酸窒化珪素等の無機化合物)から構成されている。
【0021】
保護層26の表面を覆う導体層30は、少なくとも有機発光層18の全域に広がるように形成されている。保護層26は、その一部が発光部28から透明絶縁基板12の下辺に向かって延出しており、その延出部が導体層の端子部32を形成している。導体層30はアルミニウムから構成されている。保護層26上に導体層30が形成されることにより、有機EL素子14に水分やガス等がより入りにくくなるという効果を奏する。
なお、本実施例に係る有機EL装置10においては、陽極層20の端子部22と陰極層14の端子部24と導体層30の端子部32は透明絶縁性基板12上に形成されており、これらは透明絶縁性基板12上で離間して配置されている(図1参照)。したがって、各端子部22,24,32の間に電圧を印加したときに、短絡して端子間に電流が流れないようになっている。
【0022】
次に、上述した有機EL装置10の製造方法について説明する。図3は、本実施例の製造方法の手順を示すフローチャートである。
図3に示すように、本製造方法は、先ず、陽極層20が形成された透明絶縁性基板12を準備し(ステップ1)、透明絶縁性基板12の表面上に真空蒸着法等の公知の真空薄膜形成法により、有機発光層18(ステップS2)及び陰極層16(ステップS3)を順次積層して有機EL素子14を形成する。なお、これらの成膜工程に同期して、陽極端子部22と陰極端子部24も形成する。
その後、プラズマCVD法により陰極層16(有機EL素子14)の表面に無機化合物(例えば、酸化珪素、窒化珪素、酸窒化珪素等の無機化合物)からなる保護層26を形成する(ステップS4)。
保護層26を形成した後、保護層26の上面に低温スパッタ法によりアルミニウムからなる導体層30を形成する(ステップS5)。この時、導体層30の端子部32も形成する。
なお、これらステップS1〜S5の各成膜工程において膜内にゴミが混入すると、そのゴミによって保護層26に隙間(例えば、細孔や亀裂等)が形成され、大気中の水分が浸入する原因となる。大気中の水分が浸入して有機発光層18等が劣化すると、いわゆるダークスポット(非発光領域)が形成され、輝度低下の原因となる。また、保護層26に細孔や亀裂等が形成されると、保護層26の絶縁耐圧の低下も招来する。
【0023】
ステップS1〜S5によって各層が形成されると、次に、陽極層20と導体層30との間に予め設定された電圧値の電圧を印加し(ステップS6)、保護層26に電流が流れるか否か(ステップS7)を検査する。すなわち、保護層26に細孔や亀裂等が形成されると保護層26の絶縁耐圧が低下する。このため、保護層26の上面側と下面側の間に予め設定された電圧を印加して、それによって保護層26に絶縁破壊が生じて保護層26を電流が流れるか否かによって、保護層26の欠陥の有無(遮蔽効果の合否)を判定する。
【0024】
図4は保護層26の絶縁耐圧特性を示すグラフである。図4のグラフは縦軸が電流値(A)を示し、横軸が電圧値(V)を示している。なお、グラフにおいて、欠陥が多く含まれている保護層については実線で示し、欠陥が少ない保護層については破線で示している。
EL素子の表面を覆う保護層26は、前記したように絶縁性物質から構成されている。細孔や亀裂などの欠陥が多い保護層26は、絶縁耐圧が低いため、比較的低電圧(E)で電流値が急上昇し絶縁破壊が生じる(図4の実線を参照)。一方、欠陥が少ない保護層26は、絶縁耐圧が高いため、比較的高電圧(E)がかからないと絶縁破壊が生じない(図4の点線を参照)。従って、保護層26の細孔や亀裂等の数(量)と保護層26の絶縁耐圧との間には相関があり、保護層26の欠陥の有無は保護層26の絶縁耐圧から判定することができる。具体的には、図4に示すように基準電流値(I)を設定して、所定の電圧(E)を印加したとき、流れる電流が基準電流値(I)よりも小さい場合は欠陥が少なく充分な遮蔽効果を奏することができる合格品と判定し、基準電流値(I)よりも大きい場合は欠陥が多く充分な遮蔽効果を奏することができない不合格品と判定する。本実施例に係る保護層26の欠陥の有無の判定は、上述した保護層26の絶縁耐圧特性を利用する。
【0025】
図5は、保護層26に電圧を印加する様子を模式的に示している。図5に示すように、本実施例では、陽極層20の陽極端子部22と導体層30の端子部32に定電圧電源40(検査用電源)を接続し、定電圧電源40によって陽極層20と導体層30との間に所定の検査用電圧(保護層26に上述した基準電流値(I)が印加されるような電圧)を印加し、電流計42を用いて保護層26の電流量を調べる。なお、「基準電流値(I)」は、保護層26を構成する絶縁性材料の種類や保護層26の厚さに応じて適宜設定され、その基準電流値に基づいて検査用電圧が設定される。(例えば、製品としての要求品質に合わせ、無欠陥のときのみ基準電流値Iよりも小さいと設定してもよい。)
上述した電圧印加によって陽極層20と導体層30の間に基準電流値Iを超える電流が流れると(ステップS7でYes)、そのEL装置10を不合格品として製造ラインから外す(ステップS9)。上述した電圧印加によって基準電流値Iを超える電流が流れなかった場合(ステップS7でNo)は、そのEL装置10は合格品としてFPC実装工程(ステップS8)に進む。
ステップS8に進むと、FPC(フレキシブル配線基板)の陽極端子を有機EL素子14の陽極端子部22に接続し、FPCの陰極端子を有機EL素子14の陰極端子部24に接続する。これによって本実施例に係る有機EL装置10が完成する。
【0026】
本実施例の製造方法および検査方法では、保護層26の絶縁耐圧特性を利用して保護層26の合否を判定する。このため、細孔や亀裂等の欠陥が少なく遮蔽効果の高い保護層26が備えられた有機EL装置12のみがFPC工程に進むこととなるため、良好な保護層26を備えた有機EL装置12のみが製造される。本製造方法および検査方法によって得られた有機EL装置10は、保護層26の遮蔽効果が高いため、有機EL素子14は外部の水分やガス等によって劣化しにくい。本製造方法および検査方法によれば、製造後の時間経過に伴う輝度低下が生じにくい有機EL装置を得ることができる。
また、本実施例では、陽極層20と導体層30との間に電圧を印加している。したがって、導電性の異物が、陽極層20と導体層30との層間(例えば、有機発光層18と陰極層16との間)に存在する場合も、陽極層20と導体層30とを電圧印加すると、導電性の異物により短絡するため、不合格品として抽出できる。
【0027】
(変形例)
次に上記実施例の変形例を説明する。
本変形例は、保護層に電圧を印加するために検査用電源40と接続される端子部が異なる他は、上記実施例と同様であるため重複する説明は省略する。
【0028】
本変形例では、有機EL素子14の陰極端子部24と金属層の端子部32に検査用電源40を接続する。次いで、検査用電源40から陰極層16と金属層30との間に所定の検査用電圧を印加し、電流計42を用いて保護層26に流れる電流量を調べる。かかる電圧印加によって電流基準値(I)を超える電流が流れたEL装置10は、不合格品として製造ラインから外し、電流基準値(I)を超える電流が流れなかった(ステップS7でNo)EL装置10は、合格品としてFPC実装工程に移送する。
【0029】
本変形例の製造方法によって製造された有機EL装置10も、上記実施例と同様に、長期に亘って輝度低下が生じにくい。
また、本変形例の製造方法では、保護層検査工程における電圧印加に際し、保護層26の下面側の陰極層16を用いている。陰極層16は有機EL素子14の最上面に位置し保護層26と隣接しているため、保護層26の欠陥の有無を精度よく判定することができる。また、保護層検査工程で保護層が絶縁破壊して不合格品となっても、有機発光層18に電流が流れないため、有機EL素子14の品質は保持される。したがって、保護層検査工程で不合格品となっても、保護層を再成膜して再度製造ラインに組み込むことも可能である。
【0030】
以上、本発明の実施例を詳細に説明したが、これは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術は、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。
例えば、上記実施例では、保護層の上面側に導体層を形成し、その導体層を介して保護層の上面側に電圧を印加したが、保護層の上面側への電圧印加方法はかかる手法に限定されない。例えば、保護層の上面に電圧印加用の端子を直接接触させ、その端子を保護層の表面で走査することで保護層の全面に電圧を印加し、保護層の全面を検査するようにしてもよい。かかる手法によれば、保護層の欠陥箇所を特定することができるという利点を有している。
【0031】
また、上記実施例では、導体層を形成する方法として、真空薄膜形成法の一つである低温スパッタリング法で成膜したが、導体層の形成はかかる手法に限定されない。例えば、プラズマCVD法といった他の真空薄膜形成法を適用してもよい。また、導体ペースト等を塗布することにより、導体層を形成してもよい。さらに、別の例として、脱着可能な導体手段(導電性テープ等)を貼り付けることにより導体層が形成されていてもよい。
導体層を構成する材料は導電性を有する材料を適宜選択すればよく、上記実施例に示したアルミニウムに限定されない。例えば、鉄、銅、クロム、ニッケル等の他の金属や、カーボン等の炭素材料を用いてもよい。
また、上記実施例では、ボトムエミッションタイプの有機EL素子であるが、これに限定されない。例えば、基板に陰極、有機発光層、陽極、透明な保護層、透明な導体層の順に積層されているトップエミッションタイプであってもよい。
【0032】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数の目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施例に係る有機EL装置を上面側から見た平面図である。
【図2】図1のII−II断面図である。
【図3】本発明の実施例に係る有機EL装置の製造方法を示すフローチャートである。
【図4】有機EL装置の保護層の絶縁耐圧を示すグラフである。
【図5】保護層の合否を判定する工程を示す概念図である。
【符号の説明】
【0034】
10:有機EL装置 12:絶縁性透明基板 14:有機EL素子 16:陰極層 18:有機発光層 20:陽極層 26:保護層 30:導体層



【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に設けられたエレクトロルミネッセンス素子と、前記エレクトロルミネッセンス素子の上面に設けられた保護層を有するエレクトロルミネッセンス装置の検査方法において、
前記保護層の上面側と下面側との間に電圧を印加する工程と、
前記保護層に電圧を印加したときに該保護層に流れる電流の電流値によって該エレクトロルミネッセンス装置の合否を判定する工程と、を含むことを特徴とするエレクトロルミネッセンス装置の検査方法。
【請求項2】
前記エレクトロルミネッセンス素子は、陽極層と、陰極層と、陽極層と陰極層に挟まれた発光層を有しており、
前記電圧を印加する工程では、前記保護層の上面側と前記陽極層との間に電圧を印加することを特徴とする請求項1に記載のエレクトロルミネッセンス装置の検査方法。
【請求項3】
前記エレクトロルミネッセンス素子は、陽極層と、陰極層と、陽極層と陰極層に挟まれた発光層を有しており、
前記電圧を印加する工程では、前記保護層の上面側と前記陰極層との間に電圧を印加することを特徴とする請求項1に記載のエレクトロルミネッセンス装置の検査方法。
【請求項4】
前記保護層の上面に導体層を設ける工程をさらに含み、
前記電圧を印加する工程では、前記導体層と前記保護層の下面側の間に電圧を印加することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のエレクトロルミネッセンス装置の検査方法。
【請求項5】
絶縁性基板と、その絶縁性基板上に設けられたエレクトロルミネッセンス素子と、前記エレクトロルミネッセンス素子の上面に設けられた保護層と、前記保護層の上面に設けられた導体層とを有するエレクトロルミネッセンス装置であり、
前記エレクトロルミネッセンス素子は、陽極層と、陰極層と、陽極層と陰極層に挟まれた発光層を有しており、
前記陽極層は陽極端子部を有しており、
前記陰極層は陰極端子部を有しており、
前記導体層も検査用の電圧を印加するための端子部を有しており、
前記陽極端子部と前記陰極端子部と前記導体層の端子部はそれぞれ絶縁性基板上に設けられ、これらの端子部は離間して配置されていることを特徴とするエレクトロルミネッセンス装置。
【請求項6】
エレクトロルミネッセンス装置の製造方法であって、
基板に、陽極層と陰極層と、陽極層と陰極層に挟まれた発光層を有するエレクトロルミネッセンス素子を設ける工程と、
前記エレクトロルミネッセンス素子の上面に保護層を設ける工程と、
前記保護層の上面に導体層を設ける工程と、
前記保護層の下面または前記陽極層または前記陰極層のうちのいずれかと、前記導体層との間に電圧を印加する工程と、
前記保護層に電圧を印加したときに該保護層に流れる電流の電流値によって該エレクトロルミネッセンス装置の合否を判定する工程と、
を含むことを特徴とするエレクトロルミネッセンス装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−80633(P2007−80633A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−265802(P2005−265802)
【出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】