説明

エレベータの据付方法及び据付用治具

【課題】本発明は、揚重回数を抑えるとともに、高所作業を減らして、作業性を向上させることを目的とするものである。
【解決手段】第2の嵩上げ台23a,23b上に釣合おもり返し車梁11を仮固定する。この後、第1の嵩上げ台22上にかご返し車梁10を仮固定する。そして、かご返し車梁10と釣合おもり返し車梁11とを連結する。この後、主ロープ16を、釣合おもり返し車13、巻上機対応ロープガイド24、かご返し車12b、かご返し車12aの順で掛け回す。次に、一体化された返し車梁9を昇降路1の頂部へ向けて揚重しながら、主ロープ16を送り出す。そして、返し車梁9を昇降路1内の上部の所定位置に固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、昇降路内の上部にかご返し車及び釣合おもり返し車が設置されるタイプのエレベータの据付方法、及びエレベータの据付時に使用される据付用治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のエレベータの据付方法では、かご返し車梁及び釣合おもり返し車梁を別々に揚重した後、昇降路の上部でかご返し車梁と釣合おもり返し車梁とを連結し、かご返し車及び釣合おもり返し車に対するロープ掛けを行う(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−308248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来のエレベータの据付方法では、かご返し車梁及び釣合おもり返し車梁を別々に揚重するため、揚重回数が多く、作業性が低下する。また、昇降路の上部でロープ掛け作業を行う必要があるため、これによっても作業性が低下する。
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、作業性を向上させることができるエレベータの据付方法及び据付用治具を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るエレベータの据付方法は、かご返し車が取り付けられたかご返し車取付部と、釣合おもり返し車が取り付けられた釣合おもり返し車取付部とを有する返し車梁を昇降路内の下部に配置する工程、かご及び釣合おもりを吊り下げる懸架手段を、かご返し車及び釣合おもり返し車に掛ける工程、及び返し車梁を昇降路内の上部の所定位置に揚重し固定する工程を含む。
【発明の効果】
【0007】
この発明のエレベータの据付方法は、かご返し車取付部と釣合おもり返し車取付部とを有する返し車梁を昇降路内の下部に配置し、かご返し車及び釣合おもり返し車に懸架手段を掛け、この後返し車梁を昇降路内の上部の所定位置に揚重し固定するので、揚重回数を抑えるとともに、高所作業を減らして、作業性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の実施の形態1によるエレベータを示す斜視図である。
【図2】図1のエレベータの据付方法の一部を示す工程図である。
【図3】図1のエレベータの据付途中の状態を示す斜視図である。
【図4】図3の緩衝器台に嵩上げ台を設置した状態を示す斜視図である。
【図5】図4の釣合おもり緩衝器台上にロープガイドを設置した状態を示す斜視図である。
【図6】図5の第2の嵩上げ台に釣合おもり返し車梁を仮固定した状態を示す斜視図である。
【図7】図6の第1の嵩上げ台にかご返し車梁を仮固定し、かご返し車梁と釣合おもり返し車梁とを連結した状態を示す斜視図である。
【図8】図7のかご返し車、釣合おもり返し車及びロープガイドに主ロープを掛けた状態を示す斜視図である。
【図9】図8のかご返し車梁の揚重中の状態を示す斜視図である。
【図10】図9のかご返し車梁を昇降路頂部に固定した状態を示す斜視図である。
【図11】図1の返し車梁を示す平面図である。
【図12】この発明の実施の形態2によるエレベータの要部を示す平面図である。
【図13】図12の返し車梁を示す右側面図である。
【図14】この発明の実施の形態3によるエレベータの据付方法の一部を示す工程図である。
【図15】図14の据付方法による据付途中の状態を示す斜視図である。
【図16】図15の引上部ロープガイドを示す平面図である。
【図17】図16の引上部ロープガイドを示す側面図である。
【図18】図16の引上部ロープガイドを後ろ落ち式のエレベータに設置した状態を示す平面図である。
【図19】図16の引上部ロープガイドを横落ち式のエレベータに設置した状態を示す平面図である。
【図20】図16の引上部ロープガイドをピット深さが浅いエレベータに設置した状態を示す側面図である。
【図21】図16の引上部ロープガイドをピット深さが深いエレベータに設置した状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1によるエレベータを示す斜視図であり、昇降路内を透視して示している。図において、昇降路1の底部には、かご緩衝器台2及び釣合おもり緩衝器台3が固定されている。かご緩衝器台2上には、かご緩衝器(図示せず)が設置される。釣合おもり緩衝器台3上には、釣合おもり緩衝器(図示せず)が設置される。
【0010】
また、かご緩衝器台2上には、一対のかごガイドレール4a,4bが立設されている。さらに、釣合おもり緩衝器台3上には、一対の釣合おもりガイドレール5a,5bが立設されている。
【0011】
かご6は、かごガイドレール4a,4bに案内されて昇降路1内を昇降される。釣合おもり7は、釣合おもりガイドレール5a,5bに案内されて昇降路1内を昇降される。釣合おもり7は、かご6と同じ高さに位置するときにかご6の背面に対向するように、かご6の後方に配置されている(後ろ落ち式)。
【0012】
昇降路1内の下部には、かご6及び釣合おもり7を昇降させる巻上機8が設置されている。巻上機8は、駆動シーブと、駆動シーブを回転させる巻上機モータと、駆動シーブの回転を制動する巻上機ブレーキとを有している。
【0013】
昇降路1頂部には、L字形の返し車梁9が設置されている。返し車梁9は、かご返し車梁(かご返し車取付部)10と、かご返し車梁10の一端部に直角に連結された釣合おもりかご返し車梁(釣合おもり返し車取付部)11とを有している。
【0014】
かご返し車梁10には、一対のかご返し車12a,12bが取り付けられている。釣合おもり返し車梁11には、釣合おもり返し車13が取り付けられている。
【0015】
かご6の下部には、一対のかご吊り車14a,14bが設けられている。釣合おもり7の上部には、釣合おもり吊り車15が設けられている。
【0016】
かご6及び釣合おもり7は、懸架手段である複数本(図では1本のみ示す)の主ロープ16により昇降路1内に吊り下げられている。
【0017】
かごガイドレール4bの上端部近傍と、釣合おもりガイドレール5bの上端部近傍との間には、綱止め梁17が水平に固定されている。綱止め梁17には、かご側綱止め部(図示せず)が設けられている。釣合おもり返し車梁11には、釣合おもり側綱止め部18が設けられている。
【0018】
主ロープ16は、かご側綱止め部に接続された第1の端部と、釣合おもり側綱止め部18に接続された第2の端部とを有している。主ロープ16は、第1の端部側から順に、かご吊り車14a,14b、かご返し車12a,12b、巻上機8の駆動シーブ、釣合おもり返し車13、及び釣合おもり吊り車15に巻き掛けられている(2:1ローピング)。
【0019】
最下階近傍の昇降路壁には、制御盤19が設置されている。制御盤19には、かご6の運行を制御するエレベータ制御装置が設けられている。また、昇降路壁とかご6との間には、制御ケーブル20が吊り下げられている。
【0020】
昇降路1の頂部には、一対の揚重ビーム21a,21bが固定されている。揚重ビーム21a,21bは、かご6の奥行き方向に互いに間隔をおいて、かご6の幅方向に平行かつ水平に配置されている。
【0021】
次に、図2は図1のエレベータの据付方法の一部を示す工程図であり、特に返し車梁9の設置までの手順を示している。実施の形態1のエレベータの据付方法では、まず、図3に示すように、昇降路1の頂部に揚重ビーム21a,21bを設置するとともに(ステップS1)、昇降路1の底部にかご緩衝器台2及び釣合おもり緩衝器台3を設置する(ステップS2)。
【0022】
この後、図4に示すように、かご緩衝器台2の一端部に第1の嵩上げ台22を立設するとともに、釣合おもり緩衝器台3に、一対の第2の嵩上げ台23a,23bを立設する(ステップS3)。第2の嵩上げ台23a,23bの高さ寸法は、互いに同じであり、第1の嵩上げ台22の高さ寸法よりも小さい。各嵩上げ台22,23a,23bは、緩衝器台2,3に固定(ボルト止め)された柱部と、柱部の上端部に設けられた水平な受け部とを有している。
【0023】
続いて、図5に示すように、釣合おもり緩衝器台3上に巻上機対応ガイド体としての巻上機対応ロープガイド24を設置(ボルト止め)する(ステップS4)。巻上機対応ロープガイド24としては、例えばプーリを用いることができる。また、巻上機対応ロープガイド24は、昇降路1内の下部の巻上機8が設置される位置よりも低い位置に配置される。即ち、巻上機対応ロープガイド24は、巻上機8の設置予定位置の真下に配置される。
【0024】
巻上機対応ロープガイド24の設置後、図6に示すように、第2の嵩上げ台23a,23b上に釣合おもり返し車梁11を仮固定する(ステップS5)。釣合おもり返し車梁11には、釣合おもり返し車13や釣合おもり側綱止め部18が予め取り付けられている。
【0025】
この後、図7に示すように、第1の嵩上げ台22上にかご返し車梁10を仮固定する(ステップS6)。かご返し車梁10には、かご返し車12a,12bが予め取り付けられている。そして、かご返し車梁10と釣合おもり返し車梁11とを連結して一体化する(ステップS7)。
【0026】
このとき、第1の嵩上げ台22の高さ寸法と第2の嵩上げ台23a,23bの高さ寸法との差を、釣合おもり返し車梁11の厚さ寸法(上下方向寸法)と同じにしておくことにより、釣合おもり返し車梁11の上面の高さが第1の嵩上げ台22の上面の高さと同じになり、第1の嵩上げ台22と釣合おもり返し車梁11との間にかご返し車梁10が水平に設置される。
【0027】
この後、図8に示すように、主ロープ16を、釣合おもり返し車13、巻上機対応ロープガイド24、かご返し車12b、かご返し車12aの順で掛け回す(ステップS8)。このとき、巻上機8の代わりに巻上機対応ロープガイド24を用いたことにより、よりピット面に近い位置でロープ掛け作業を行うことができ、脚立が不要となる。また、主ロープ16の先端部(第1の端部)は、かご緩衝器台2に接続しておく。
【0028】
次に、揚重ビーム21a,21bにセットされた揚重機(図示せず)により、図9に示すように、一体化された返し車梁9を昇降路1の頂部へ向けて揚重しながら、主ロープ16を送り出す(ステップS9)。そして、図10に示すように、返し車梁9を昇降路1内の上部の所定位置に固定する(ステップS10)。
【0029】
この後、嵩上げ台22,23a,23bや巻上機対応ロープガイド24を撤去し、ガイドレール4a,4b,5a,5b、かご6、釣合おもり7及び巻上機8等を設置し、かご吊り車14a,14bや釣合おもり吊り車15に主ロープ16を掛けて、エレベータの据付を終える。ここで、巻上機対応ロープガイド24を取り外した後、巻上機8を設置して、駆動シーブに主ロープ16を掛けるが、主ロープ16に張力をかけた状態ではないので、作業は難しいものではない。
【0030】
なお、図11は図1の返し車梁9を示す平面図である。返し車梁9は、かごガイドレール4a及び釣合おもりガイドレール5a,5bに対して固定されている。かご返し車梁10は、例えば複数本のボルト30により釣合おもり返し車梁11に連結されている。
【0031】
このようなエレベータの据付方法では、かご返し車12a,12bが取り付けられたかご返し車梁10と、釣合おもり返し車13が取り付けられた釣合おもり返し車梁11とが一体化された返し車梁9を昇降路1内の下部に配置した状態で、かご返し車12a,12b及び釣合おもり返し車13に主ロープ16を掛け、この後返し車梁9を昇降路1内の上部の所定位置に揚重し固定するので、揚重回数を抑えることができる。また、昇降路ピットでロープ掛け作業を行うことにより、ロープ掛け時間を短縮することができ、高所作業を減らして、作業性を向上させることができる。
【0032】
また、かご返し車梁10と釣合おもり返し車梁11とを昇降路1内の下部で連結し一体化するので、かご返し車梁10と釣合おもり返し車梁11とが別体である場合にも、揚重回数を減らすことができる。また、かご返し車梁10と釣合おもり返し車梁11との連結作業を昇降路1の上部で行う必要がなくなり、高所作業を減らして、作業性を向上させることができる。
【0033】
さらに、かご返し車梁10と釣合おもり返し車梁11とは、取付高さが異なっているため、ピット面のような平面上では組立が困難であるが、高さの異なる嵩上げ台22,23a,23bを用いたので、かご返し車梁10と釣合おもり返し車梁11との連結作業を容易に行うことができる。
【0034】
さらにまた、緩衝器台2,3に嵩上げ台22,23a,23bを設置するので、エレベータ機器である緩衝器台2,3を利用して、昇降路レイアウトに依存することなく、適当な位置に嵩上げ台22,23a,23bを設置することができる。
【0035】
また、巻上機8が設置される位置よりも低い位置に巻上機対応ロープガイド24を配置し、かご返し車12a,12b及び釣合おもり返し車13に主ロープ16を掛ける際に、巻上機対応ロープガイド24にも主ロープ16を掛け、巻上機対応ロープガイド24を撤去するとともに、昇降路1内に巻上機8を設置し、主ロープ16を巻上機対応ロープガイド24から巻上機8に掛け替えるので、よりピット面付近で容易にロープ掛けを行うことができ、脚立が不要となる。また、巻上機8の駆動シーブに主ロープ16を掛けるときに、駆動シーブのロープ溝へのロープ掛けミスを防ぐことができる。
【0036】
さらに、釣合おもり緩衝器台3に巻上機対応ロープガイド24を設置するので、昇降路レイアウトに依存することなく、適当な位置に巻上機対応ロープガイド24を設置することができる。
【0037】
実施の形態2.
次に、図12はこの発明の実施の形態2によるエレベータの要部を示す平面図、図13は図12の返し車梁31を示す右側面図である。この例では、釣合おもり7は、かご6と同じ高さに位置するときにかご6の側面に対向するように、かご6の側方に配置されている(横落ち式)。
【0038】
昇降路1頂部には、返し車梁31が設置されている。返し車梁31には、かご返し車取付部31aと、釣合おもり返し車取付部31bとが設けられている。即ち、返し車梁31は、かご返し車梁と釣合おもり返し車梁とを兼ねる一体型の梁である。また、かご返し車取付部31aは、釣合おもり返し車取付部31bの真下に位置している。
【0039】
かご返し車取付部31aには、かご返し車12が取り付けられている。かご返し車12は、返し車梁31の下方に配置されている。釣合おもり返し車取付部31bには、釣合おもり吊り車13が取り付けられている。釣合おもり返し車13は、返し車梁31の上方に突出している。他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0040】
このような一体型の返し車梁31を用いる場合も、かご返し車12及び釣合おもり返し車13が取り付けられた返し車梁31を昇降路1内の下部に配置した状態で、かご返し車12及び釣合おもり返し車13に主ロープ16を掛け、この後返し車梁31を昇降路1内の上部の所定位置に揚重し固定するので、揚重回数を抑えるとともに、高所作業を減らして、作業性を向上させることができる。
【0041】
実施の形態3.
次に、図14はこの発明の実施の形態3によるエレベータの据付方法の一部を示す工程図、図15は図14の据付方法による据付途中の状態を示す斜視図である。実施の形態3の据付方法では、釣合おもり緩衝器台3上に巻上機対応ロープガイド24を設置(ステップS4)した後、第2の嵩上げ台23a,23b間に支持ロッド26を水平に固定する。そして、支持ロッド26の中間部に引上部ガイド体としての引上部ロープガイド25を設置する(ステップS11)。
【0042】
引上部ロープガイド25は、返し車梁9の揚重時に、主ロープ16の束から引き出された主ロープ16を真上に案内するものである。また、引上部ロープガイド25は、昇降路1内の下部で釣合おもり返し車13の真下に配置される。
【0043】
この後、第2の嵩上げ台23a,23b上に釣合おもり返し車梁11を仮固定し(ステップS5)、第1の嵩上げ台22上にかご返し車梁10を仮固定し(ステップS6)、かご返し車梁10と釣合おもり返し車梁11とを連結して一体化する(ステップS7)。
【0044】
そして、主ロープ16を、引上部ロープガイド25、釣合おもり返し車13、巻上機対応ロープガイド24、かご返し車12b、かご返し車12aの順で掛け回し、主ロープ16の先端部(第1の端部)をかご緩衝器台2に接続する(ステップS8)。
【0045】
この後、返し車梁9を昇降路1の頂部に揚重し(ステップS9)、所定位置に固定する(ステップS10)。
【0046】
最後に、嵩上げ台22,23a,23b、引上部ロープガイド25及び巻上機対応ロープガイド24を撤去し、ガイドレール4a,4b,5a,5b、かご6、釣合おもり7及び巻上機8等を設置し、かご吊り車14a,14bや釣合おもり吊り車15に主ロープ16を掛けて、エレベータの据付を終える。即ち、引上部ロープガイド25を用いる点以外は、実施の形態1の据付方法と同様である。
【0047】
図16は図15の引上部ロープガイド25を示す平面図、図17は図16の引上部ロープガイド25を示す側面図である。引上部ロープガイド25は、支持ロッド26に固定される固定部としての一対の単クランプ27と、主ロープ16が掛けられるガイド部としてのガイドローラ28と、単クランプ27とガイドローラ28との間に連結されているアーム部としての支持アーム29とを有している。
【0048】
支持アーム29は、単クランプ27に固定された固定板29aと、鉛直な旋回軸29bを中心として固定板29aに対して左右方向へ旋回可能な旋回板29cと、水平な揺動軸29dを中心として旋回板29cに対して上下方向へ揺動可能なアーム本体29eとを有している。これにより、ガイドローラ28は、支持アーム29により、単クランプ27に対して所定の範囲内で水平方向及び上下方向へ変位可能に支持されている。また、ガイドローラ28は、アーム本体29eの先端部に、水平な回転軸を中心として回転可能に支持されている。
【0049】
ここで、引上部ロープガイド25を用いない場合、返し車梁9の揚重時に、主ロープ16を送り出すためにロープ撚り戻し治具32を手で回す必要があり、そのために作業者を一人確保する必要がある。また、揚重速度に対して、主ロープ16を送り出す速度が遅れると、釣合おもり返し車13に対する主ロープ16の角度が悪くなり、返し車梁9が回転したり、最悪の場合は釣合おもり返し車13のロープ溝から主ロープ16が外れたりする可能性がある。
【0050】
これに対して、実施の形態3のエレベータの据付方法では、釣合おもり返し車13の真下に引上部ロープガイド25が配置されているので、釣合おもり返し車13に対して主ロープ16を垂直に送り出すことができ、釣合おもり返し車13からの主ロープ16の外れを防止するとともに、揚重時の返し車梁9の回転を抑制することができる。
【0051】
また、ロープ撚り戻し治具32を手で回す必要がなくなり、作業者を一人削減することができる。
さらに、据付時に設置される第2の嵩上げ台23a,23bに引上部ロープガイド25を設置したので、建築躯体や昇降路レイアウトに依存することなく、引上部ロープガイド25を容易に設置することができる。
【0052】
さらにまた、アーム本体29e及び旋回板29cが旋回軸29bを中心として旋回可能であるため、ロープ撚り戻し治具32を乗場に置いた状態で、図18に示すような後ろ落ち式のエレベータにも、図19に示すような横落ち式のエレベータにも対応することができる。このため、引上部ロープガイド25を共通化して、据付用治具の種類を削減することができ、治具管理を容易にすることができる。なお、引上部ロープガイド25が設置されている段階では、まだガイドレール4a,4b,5a,5bが設置されていないが、図18、19では、エレベータのタイプを明確にするため、ガイドレール4a,4b,5a,5bを図示している。
【0053】
また、アーム本体29eが揺動軸29dを中心として上下方向へ揺動可能であるため、図20に示すようなピット深さ(ロープ撚り戻し治具32が置かれた最下階乗場の床面から昇降路1の底面までの深さ)が浅いエレベータにも、図21に示すようなピット深さが深いエレベータにも対応することができる。即ち、物件毎に変化するピット深さにも、共通の引上部ロープガイド25で対応可能となり、これによっても据付用治具の種類を削減することができ、治具管理を容易にすることができる。
【0054】
さらに、支持ロッド26に単クランプ27を固定することにより、引上部ロープガイド25が嵩上げ台23a,23bに対して固定されているので、引上部ロープガイド25の着脱が容易であり、作業性が向上する。
【0055】
なお、上記の例では、主ロープ16の第1の端部(かご6側の端部)を据付時の先端部としてかご緩衝器台2に接続したが、第2の端部(釣合おもり7側の端部)を据付時の先端部として釣合おもり緩衝器台3に接続してもよい。この場合、引上部ガイド体は、かご返し車の真下に配置すればよい。
また、上記の例では、懸架手段として主ロープ16を示したが、懸架手段は複数本のベルトでもよい。
さらに、上記の例では、引上部ロープガイド25を第2の嵩上げ台23a,23bに設置したが、これに限定されるものではなく、例えば、かご緩衝器台2又は釣合おもり緩衝器台3に直接又は支持台を介して設置してもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 昇降路、2 かご緩衝器台、3 釣合おもり緩衝器台、6 かご、7 釣合おもり、8 巻上機、9,31 返し車梁、10 かご返し車梁(かご返し車取付部)、11 釣合おもり返し車梁(釣合おもり返し車取付部)、12,12a,12b かご返し車、13 釣合おもり返し車、16 主ロープ(懸架手段)、22 第1の嵩上げ台、23a,23b 第2の嵩上げ台、24 巻上機対応ロープガイド(巻上機対応ガイド体)、25 引上部ロープガイド(引上部ガイド体)、27 単クランプ(固定部)、28 ガイドローラ(ガイド部)、29 支持アーム(アーム部)、31a かご返し車取付部、31b 釣合おもり返し車取付部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
かご返し車が取り付けられたかご返し車取付部と、釣合おもり返し車が取り付けられた釣合おもり返し車取付部とを有する返し車梁を昇降路内の下部に配置する工程、
かご及び釣合おもりを吊り下げる懸架手段を、前記かご返し車及び前記釣合おもり返し車に掛ける工程、及び
前記返し車梁を前記昇降路内の上部の所定位置に揚重し固定する工程
を含むことを特徴とするエレベータの据付方法。
【請求項2】
前記返し車梁を前記昇降路内の下部に配置する工程では、前記かご返し車取付部であるかご返し車梁と、前記釣合おもり返し車取付部である釣合おもり返し車梁とを前記昇降路内の下部で連結し一体化することを特徴とする請求項1記載のエレベータの据付方法。
【請求項3】
第1の嵩上げ台と、前記第1の嵩上げ台とは高さが異なる第2の嵩上げ台とを、前記昇降路内の下部に設置した後、前記第1の嵩上げ台に前記かご返し車梁を載せるとともに、前記第2の嵩上げ台に前記釣合おもり返し車梁を載せ、前記かご返し車梁と前記釣合おもり返し車梁とを連結することを特徴とする請求項2記載のエレベータの据付方法。
【請求項4】
前記第1及び第2の嵩上げ台は、前記昇降路の底部に固定された緩衝器台に固定することを特徴とする請求項3記載のエレベータの据付方法。
【請求項5】
前記昇降路内の下部の巻上機が設置される位置よりも低い位置に、前記懸架手段を案内する巻上機対応ガイド体を配置し、
前記かご返し車及び前記釣合おもり返し車に前記懸架手段を掛ける際に、前記巻上機対応ガイド体にも前記懸架手段を掛け、
前記返し車梁を揚重した後、前記巻上機対応ガイド体を撤去するとともに、前記昇降路内に前記巻上機を設置し、前記懸架手段を前記巻上機対応ガイド体から前記巻上機に掛け替えることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のエレベータの据付方法。
【請求項6】
前記巻上機対応ガイド体は、前記昇降路の底部に固定された緩衝器台に固定することを特徴とする請求項5記載のエレベータの据付方法。
【請求項7】
前記返し車梁の揚重時に前記懸架手段の束から引き出された前記懸架手段を真上に案内する引上部ガイド体を、前記昇降路内の下部の前記かご返し車又は前記釣合おもり返し車の真下に配置し、前記懸架手段を前記据付用治具にも掛けた後に、前記返し車梁を揚重することを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載のエレベータの据付方法。
【請求項8】
かご返し車が取り付けられたかご返し車取付部と、釣合おもり返し車が取り付けられた釣合おもり返し車取付部とを有する返し車梁を昇降路内の下部に配置した後、かごを吊り下げる懸架手段を前記かご返し車及び前記釣合おもり返し車に掛け、前記返し車梁を前記昇降路内の上部の所定位置に揚重し固定するエレベータの据付作業で使用されるエレベータの据付用治具であって、
前記昇降路内の下部に固定される固定部と、前記昇降路内の下部の前記かご返し車又は前記釣合おもり返し車の真下に配置され、前記懸架手段が掛けられ、前記返し車梁の揚重時に前記懸架手段の束から引き出される前記懸架手段を真上に案内するガイド部と、前記固定部と前記ガイド部との間に連結されており、前記固定部に対して前記ガイド部を所定の範囲内で水平方向及び上下方向へ変位可能に支持するアーム部とを有する引上部ガイド体
を備えていることを特徴とするエレベータの据付用治具。
【請求項9】
前記昇降路内の下部に立設され、揚重前の前記返し車梁が上部に仮固定される嵩上げ台
をさらに備え、
前記引上部ガイド体は、前記嵩上げ台に対して固定されることを特徴とする請求項8記載のエレベータの据付用治具。
【請求項10】
前記ガイド部は、水平な回転軸を中心として回転可能なガイドローラであることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載のエレベータの据付用治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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