説明

エレベーターのドア制御装置

【課題】ドアの開閉動作が異常であることを速やかに判断すると共に、異常検出時点でのドアのトルク指令値が抑制されるエレベーターのドア制御装置を提供する。
【解決手段】エレベータードアの制御装置において、戸の開閉動作している時のモータ23の速度を速度検出値として検出する速度検出部35と、正常状態における戸の開閉における複数の基準時間に対応した速度検出値を、基準時間に対応して速度検出値を記憶する速度パターン記憶手段43と、基準時間に対応する時間の回転速度が基準回転速度よりも低いか否かを判定する速度判定部45と、判定部45により低いと判定された場合、低いと判定した以後の時間における速度検出値に基づいて減速度値を逐次求める減速度算出部47と、減速度値が予め定められた減速度閾値よりも低いと異常と判定する異常判定部49とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーターのドア制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のエレベーターのドア制御装置は下記特許文献1に記載のように、ドアの開閉を行う駆動手段に対する速度指令と駆動手段の速度フィードバックとの偏差に対応したトルク指令を前記駆動手段に出力し、リンク機構を介して前記駆動手段のトルクをドア開閉力に変換することによりドアを開閉するエレベーターのドアの制御装置であって、リンク機構の姿勢毎に決まる、ドアの開閉速度と駆動手段の回転速度との比である速度比の複数のデータと予め求めておいた機械系のクローズ力に関する複数のデータを用いて算出したドアの開閉に要するトルクパターンをトルク異常検出パターンとして記憶するトルク異常検出パターン記憶部と、トルク指令の値がトルク異常検出パターンを上回った場合にドアの開閉動作が異常であると判断するトルク異常検出部とを備えたものである。
【0003】
かかるドア制御装置によれば、ドアによる手指・持ち物等の引き込まれや挟まれ等の異常に対し、速やかに検知して、当該異常状態を回避、または、手指・持ち物の引き込まれや挟まれ等の状態を迅速に解除できるため、エレベーター利用者に安心感を与える安全なエレベーターのドアを提供できる。
【特許文献1】特開2005−212963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記エレベーターのドア制御装置は、ドアのトルク指令値がトルク異常検出パターンを上回った場合にドアの開閉動作が異常であると判断したので、異常と判断する時点では、ドアのトルク指令値が大きくなっているという課題があった。
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、ドアの開閉動作が異常であることを速やかに判断すると共に、異常検出時点でのドアのトルク指令値が抑制されるエレベーターのドア制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明に係るエレベーターのドア制御装置は、速度指令値、トルク指令値に基づいてモータを回転することによりエレベーターの出入口に設置された戸を開閉駆動するエレベータードアの制御装置において、前記戸の開閉動作している時の前記モータの速度を速度検出値として検出する速度検出手段と、正常状態における前記戸の開閉における複数の基準時間に対応した前記速度検出値を、前記基準時間に対応して前記速度検出値を記憶する速度パターン記憶手段と、前記基準時間に対応する時間の前記回転速度が前記基準回転速度よりも低いか否かを判定する速度判定手段と、該判定手段により低いと判定された場合、前記低いと判定した以後の時間における前記速度検出値に基づいて減速度値を逐次求める減速度算出手段と、前記減速度値が予め定められた減速度閾値よりも低いと異常と判定する異常判定手段と、を備えたことを特徴とするものである。
【0007】
第2の発明に係るエレベーターのドア制御装置は、異常判定手段により異常との判定に基づいてトルク指令値に制限を与えるトルク制限値を低下するトルク制限手段を備えたことを特徴とするものである。
【0008】
第3の発明に係るエレベーターのドア制御装置におけるトルク制限手段は、減速度算出手段が算出した減速度値に基づいて制限値を低下させる、ことを特徴とするものである。
【0009】
第4の発明に係るエレベーターのドア制御装置におけるトルク制限手段は、速度判定手段が低いと判定してから速度検出値と速度指令値との差に基づく距離を演算すると共に、該距離に基づいて前記制限値を変化させる、ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明によれば、速度判定手段が基準時間に対応する時間の回転速度が基準回転速度よりも低いか否かを判定し、減速度算出手段が判定手段により低いと判定された以後の時間における速度検出値に基づいて減速度値を逐次求め、異常判定手段は減速度値が予め定められた減速度閾値よりも低いと異常と判定する。
これにより、速度検出値が基準速度よりも低いと、直ち速度検出値に基づいて減速度値を逐次求め、該減速度値と減速度閾値とを比較するので、速やかに戸に物が挟まったことを検出できると共に、モータからのトルクの発生を抑制できるという効果がある。
【0011】
第2の発明によれば、異常判定手段により低いと判定された場合、該判定結果に基づいてトルク指令値に制限を与えるトルク制限値を低下するトルク制限手段とを備えたので、速やかに戸に物が挟まったことを検出できると共に、物が戸に挟まっても、モータからのトルクの発生をより一層抑制できるという効果がある。
【0012】
第3の発明によれば、モータの減速度値に基づいてトルク制限値を低下させるので、戸に物が挟まり具合、物の引きずれの程度に応じて、モータのトルク制限値を低下させた。これにより、物が戸に挟まった程度に応じてモータからのトルク指令値を低下できるという効果がある。
【0013】
第4の発明によれば、トルク制限手段は、速度判定手段が低いと判定してから速度検出値と速度指令値との差に基づく距離を演算すると共に、該距離に基づいて制限値を変化させたので、戸に物が挟まれてから、物が引き抜かれて正常に復帰しても、戸の開閉を継続できるという効果かある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
実施の形態1.
本発明の一実施の形態を図1及び図2によって説明する。図1は一実施の形態によるエレベータードア機構の正面図、図2は図1に示す戸駆動機構の機能ブロック図である。
図1において、エレベータードア機構1は、エレベーターの乗客カゴの出入口を開閉する戸(ドア)3、戸3を開閉する戸開閉機構5、戸開閉機構5を駆動する戸駆動部30を有している。
【0015】
戸開閉機構5は、戸3の上部に固定されている懸架部材11、該懸架部材11の上部に配設されているハンガローラ12、戸3の上方に配設されているレール14、該レール14の上方に所定の間隔だけ水平方向に離設されている二つのプーリ16、プーリ16間を周回するように配設されているベルト18、一端がベルト18の所定位置に固定され、他端が懸架部材11に固定されている連結部材19を備える。
そして、戸開閉機構5は、戸駆動部30によりベルト18が左右に往復運動されると、レール14上を走行するハンガローラ12により案内されて、戸3がそれぞれ反対方向に往復運動し、出入口を開閉する。
【0016】
図2に示すように、エレベーターのドア装置は、プーリ16に回転軸を介して連動するモータ23の回転を制御するパワー回路21、モータ23の回転をパルスに変換するエンコーダ25を有しており、該パルスを入力すると共に、パワー回路21を駆動制御する戸駆動部30を備えている。
戸駆動部30には、エレベーター制御部(図示せず)からの指令信号等を送受信すると共に、エンコーダ25からのパルスを入力する入出力ポート31と、予め定められた速度指令値Vr、減速度閾値βp、トルク制限値τLを記憶している記憶手段としてのROM33と、エンコーダ25から発生したパルスから戸3の検出位置値Lsと速度検出値Vsを求める位置・速度検出手段として位置・速度検出部35と、速度指令値Vrと速度検出値Vsとの偏差からトルク指令値τrを求めるトルク指令部37と、戸3の制御の全体を司る駆動制御部38と、演算において一時的にデータを記憶するRAM39とを備えている。
【0017】
さらに、戸駆動部30には、トルク指令値τrに基づいてPWM信号を生成してパワー回路21に出力する信号発生部41と、正常な状態における戸3の開閉時の基準時間に対応する速度検出値Vsを基準速度値Vpとして記憶する速度パターン記憶部43と、基準時間に対応する時間の速度検出値Vsが基準速度検出値よりも低いか否かを判定する速度判定部45と、速度判定部45により低いと判定された場合、低いと判定した以後の時間における速度検出値Vsに基づいて減速度値を逐次求める減速度算出部47と、該減速度値が減速度閾値を越えたか否かを判定する異常判定部49とを備える。
【0018】
次に、上記のように構成されたエレベーターのドア制御装置の動作を図1乃至図4を参照して説明する。図3は図1に示すエレベーターのドア制御装置によりモータを駆動した場合の速度対時間曲線図(a)、トルク対時間曲線図(b)、図4はドア制御装置の動作を示すフローチャートである。
<基準速度パターンの取得>
正常な状態において、戸3の開閉の時間、たとえば戸3の開放又は閉成の開始から100(msec)毎の基準時間に対応する速度検出値Vsを基準速度値Vpとして位置・速度検出部35を介して速度パターン記憶部43に記憶する。つまり、100(msec)毎の基準速度値Vpが速度パターン記憶部43に記憶される。
<戸の開閉>
駆動制御部38は、エレベーターの制御部からの戸3の動作指令が入力された否かにより戸3の開閉中か否かを判断し(ステップS101)、戸3を開放する指令であれば、ROM33から速度指令値Vrを読出し、該速度指令値Vrにより信号発生部41、パワー回路21を介してモータ23を駆動する。モータ23の回転によりエンコーダ25がパルスを発生し、位置・速度検出部35は、モータ23の回転速度を速度検出値Vsとして検出し、トルク指令部37は、速度検出値Vsと速度指令値Vrとの差に基づいてトルク指令値τrを生成して、該トルク指令値τrによりモータ23を駆動する。
【0019】
速度判定部45は、基準時間に対応する時間の速度検出値Vsが基準速度値Vpよりも低いか否かを判定する(ステップS103)。時間t1において三方枠と戸3との間に物が引き込まれたとすると、速度検出値Vsが基準速度値Vpよりも低くなり、速度判定部45は低いと判定し、減速度算出部47は、低いと判定した以後の時間における速度検出値Vsと経過時間とに基づいて減速度値を逐次求める(ステップS105)。
異常判定部49は、求めた減速度値が減速度閾値を越えたか否かを判定し、時間t2で減速度値が減速度閾値を越え(ステップS107)、越えたら異常と判定し(ステップS109)、終了する。
【0020】
このようにエレベータードア制御装置は、戸3開閉中の基準時間に対応した基準速度を速度パターン記憶部43に記憶し、戸3の速度検出値が基準速度値を下回った後、減速度算出部47が逐次減速度値を求め、異常判定部49は、求めた減速度値が減速度閾値を越えたか否かを判定し、越えると、異常と判断する。これにより、戸3ごとの機械系負荷の差異に検出精度が左右されることなく、戸3の引き込まれや挟まれによる異常を検出することができる。
【0021】
実施の形態2.
本発明の他の実施の形態を図5によって説明する。図5は他の実施形態によるエレベーターのドア制御装置のブロック図である。図5中、図2と同一符号は同一又は相当部分を示し、説明を省略する。
図5において、戸駆動部130には、トルク制限値がマイナスになると、戸3の開閉を所定時間停止する戸停止制御部132と、速度判定部45により低いと判定された場合、該判定結果に基づいてトルク指令の制限値を低下するトルク制限部134とを備えている。
【0022】
上記のように構成されたエレベーターのドア制御装置の動作を、図1、図5乃至図7を参照して説明する。図6は図5に示すエレベーターのドア制御装置によりモータを駆動した場合の速度対時間曲線図(a)、トルク対時間曲線図(b)、図7は図5に示すエレベーターのドア制御装置の動作を示すフローチャートである。
本実施の形態は、実施の形態1における基準速度パターンの取得と、図7に示すステップS101〜S107の動作は実施の形態1と同一であるので、説明を省略する。
【0023】
ステップS107において、異常判定部49は、求めた減速度値が減速度閾値を越えたか否かを判定し、越えていると、トルク制限部134はトルク制限値τcのように低下し(ステップS211)、トルク指令部37から発生するトルク指令値が増加しても、トルク制限値τcに抑制して戸開力を抑える。そして、駆動制御部39は、トルク制限値τcがマイナスか否かを判定し(ステップS213)、マイナスであれば、戸3の開閉を所定時間停止し(ステップS215)、終了する。
【0024】
実施の形態3.
本発明の他の実施の形態を図5によって説明する。図5は他の実施形態によるエレベーターのドア制御装置のブロック図である。本実施形態による図5に示すトルク制限部134は、速度指令値と速度検出値との差に基づいて距離を演算し、該距離に基づいてトルク制限値を低下するものである。
【0025】
上記のように構成されたエレベーターのドア制御装置の動作を、図1、図5、図7、図8を参照して説明する。図8は図5に示すエレベーターのドア制御装置によりモータを駆動した場合の速度対時間曲線図(a)、トルク対時間曲線図(b)である。
時間t1で三方枠と戸3との間に物が引き込まれると、ステップS107において、異常判定部49は、求めた減速度値が減速度閾値を越えていると判定し、トルク制限部134は速度指令値と速度検出値との差に基づいて距離を演算し、該距離に基づいてトルク制限値τcのように低下する(ステップS211)。トルク指令部37から発生するトルク指令値が増加しても、トルク制限値τcに抑制して戸開力を抑える。時間t5で、三方枠と戸3との間に物が外れると、トルク制限部134は速度指令値と速度検出値との差が減少するので、該差に基づき距離も減少するので、図8に示すように該距離に基づいてトルク制限値τcも高くなる(ステップS211)。
駆動制御部39は、トルク制限値τcがマイナスか否かを判定し(ステップS213)、マイナスであれば、戸3の開閉を所定時間停止し(ステップS215)、終了する。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、エレベーターのドアの制御に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施の形態を示すエレベーターのドア制御装置の全体構成図である。
【図2】図1に示すエレベーターのドア制御装置のブロック図である。
【図3】図2に示すエレベーターのドア制御装置によりモータを駆動した場合の速度対時間曲線図(a)、トルク対時間曲線図(b)である。
【図4】図1に示すエレベーターのドア制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図5】本発明の他の実施形態によるエレベーターのドア制御装置のブロック図である。
【図6】図5に示すエレベーターのドア制御装置によりモータを駆動した場合の速度対時間曲線図(a)、トルク対時間曲線図(b)である。
【図7】図5に示すエレベーターのドア制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図8】図5に示すエレベーターのドア制御装置によりモータを駆動した場合の速度対時間曲線図(a)、トルク対時間曲線図(b)である。
【符号の説明】
【0028】
3 戸、23 モータ、25 エンコーダ、35 位置・速度検出部、43 速度パターン記憶部、45 速度判定部、47 減速度算出部、49 異常判定部、134 トルク制限部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
速度指令値、トルク指令値に基づいてモータを回転することによりエレベーターの出入口に設置された戸を開閉駆動するエレベータードアの制御装置において、
前記戸の開閉動作している時の前記モータの速度を速度検出値として検出する速度検出手段と、
正常状態における前記戸の開閉における複数の基準時間に対応した前記速度検出値を基準速度値として記憶する速度パターン記憶手段と、
前記基準時間に対応する時間の前記速度検出値が前記基準速度値よりも低いか否かを判定する速度判定手段と、
該判定手段により低いと判定された場合、前記低いと判定した以後の時間における前記速度検出値に基づいて減速度値を逐次求める減速度算出手段と、
前記減速度値が予め定められた減速度閾値よりも低いと異常と判定する異常判定手段と、
を備えたことを特徴とするエレベーターのドア制御装置。
【請求項2】
前記異常判定手段により異常との判定に基づいて前記トルク指令値に制限を与えるトルク制限値を低下するトルク制限手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載のエレベーターのドア制御装置。
【請求項3】
前記トルク制限手段は、前記減速度算出手段が算出した前記減速度値に基づいて前記制限値を低下させる、
ことを特徴とする請求項2に記載のエレベーターのドア制御装置。
【請求項4】
前記トルク制限手段は、前記速度判定手段が低いと判定してから前記速度検出値と前記速度指令値との差に基づく距離を演算すると共に、該距離に基づいて前記制限値を変化させる、
ことを特徴とする請求項2に記載のエレベーターのドア制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−290834(P2007−290834A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−122165(P2006−122165)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】