説明

エレベーターのドア制御装置

【課題】 エンコーダが故障しても、ドアを開閉可能にすること。
【解決手段】 ドアを開閉させる磁気式の同期モータ24の回転位置を検出して位置検出信号を発生するエンコーダ46と、位置検出信号に基づき得られた速度検出信号と同期モータ24の速度指令信号との偏差に基づいてトルク指令信号を生成する速度制御部53と、同期モータ24に流れる電流を検出して電流検出信号を発生する電流センサ56と、電流検出信号と位置検出信号に基づいてトルク検出信号を求めるトルク演算部58と、トルク指令信号とトルク検出信号との偏差に基づいて同期モータ24に流れる電流を制御する電流制御部55と、エンコーダ46が故障したことを検知して故障信号を発生する故障検出部62と、故障信号に基づいて電流制御部55の動作を不能にし、同期モータ24に一定位相の三相正弦波電圧を入力する電圧発生部60とを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーターのドア制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のエレベーターのドア制御装置には、下記特許文献1に記載のように、ドアを開閉させるドア用モータと、ドアの全開・全閉を検出するドア全開・全閉検出手段と、ドアの位置・速度を検出するドア位置・速度検出手段と、このドア位置・速度検出手段からの信号に基づいて前記ドア用モータに指令を出してドアの開閉を閉ループ制御するドア制御盤とを備え、ドア開閉作動中にドア位置・速度検出手段に異常ありとドア制御盤が判断すると、このドア制御盤は閉ループ制御を遮断し、次にドア用モータにドアを一旦停止させる指令を出し、その後ドア用モータに低トルク指令を出してドアを全開位置または全閉位置まで走行させる開ループ制御を行うようにしたものがある。
【0003】
かかるドア制御装置によれば、ドア開閉作動中にドア位置・速度検出手段に異常ありとドア制御盤が判断すると、このドア制御盤は閉ループ制御を遮断し、次にドア用モータにドアを一旦停止させる指令を出し、その後ドア用モータに低トルク指令を出してドアを全開位置または全閉位置まで走行させる開ループ制御を行うようにしたので、かごの中にいる乗客は閉じ込められずに出ることができる。また、ドアを全開・全閉位置まで走行させるので、エレベーターの運行を制御する主制御盤はドア制御盤に次の指令を出すことができ、エレベーターを利用する乗客に対してサービスが向上する。
【特許文献1】特開平11−209043号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記ドア制御装置では、ドア用モータに磁気式同期モータを用いると、トルク制御するのに位置検出器の位相情報が必要であるため、位置検出器が故障すると同期モータを駆動できないという課題があった。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、磁気式同期モータを用い、同期モータの磁極位置検出ができなくなったことを検出して、磁気式同期モータに一定位相の三相電圧を印加することにより、同期モータを駆動してドアを開閉するエレベーターのドア制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明に係るエレベーターのドア制御装置は、ドアを開閉させる磁気式の同期モータと、前記同期モータの回転位置を検出して位置検出信号を発生する位置検出手段と、前記位置検出信号に基づき得られた速度検出信号と前記同期モータの速度指令信号との偏差となる速度偏差信号に基づいてトルク指令信号を生成するトルク指令生成手段と、前記同期モータに流れる電流を検出して電流検出信号を発生する電流検出手段と、前記電流検出信号と前記位置検出信号に基づいてトルク検出信号を求めるトルク演算手段と、前記トルク指令信号と前記トルク検出信号との偏差となるトルク偏差信号に基づいて前記同期モータに流れる電流を制御する電流制御手段と、前記位置検出手段が故障したことを検知して故障信号を発生する故障検出手段と、前記故障信号に基づいて前記電流制御手段の動作を不能にすると共に、前記同期モータに一定位相の三相正弦波電圧を入力する電圧発生手段と、を備えたことを特徴とするものである。
【0007】
第2の発明に係るエレベーターのドア制御装置における電圧発生手段は、エレベーターの各階における乗場ドアの重量値、乗場ドアの負荷に基づいて三相正弦波電圧の値を変える、ことが好ましい。
これにより、乗場ドアに応じて電圧発生手段からの三相正弦波電圧の値を変えるので、同期モータの発熱などを抑制しながら、同期モータの発生するトルクを負荷に応じて適正な値にすることができる。
【0008】
第3の発明に係るエレベーターのドア制御装置は、ドアの全開領域又は全閉領域の少なくともいずれかを検出すると共に、ドア信号を発生する戸開閉検出手段と、電圧印加手段は、ドア信号に基づいて三相正弦波電圧の位相を停止する、ことが好ましい。
ドアの全開領域又は全閉領域で、同期モータに三相正弦波電圧の位相を停止した電圧を印加することにより同期モータから発生するトルクを一定にしてドアの振動を抑制できる。
【0009】
第4の発明に係るエレベーターのドア制御装置における戸開閉検出手段は、戸開閉検出手段は、前記ドアの全開位置及び全閉位置を検出して、前記全開位置の検出により第1ドア信号を発生すると共に、前記全閉位置の検出により第2ドア信号を発生しており、前記電圧発生手段は、前記第1ドア信号が発生して第2ドア信号が発生するまでの第1の間に、前記第2ドア信号が発生して第1ドア信号が発生するまでの第2の間、のいずれかに前記故障信号が発生しなかった場合には、前記電流制御手段の動作を可能にすると共に、前記電圧発生手段からの電圧発生を停止する、ことが好ましい。
これにより、全開領域から全閉領域まで、ドアが動作する間に、位置検出手段の故障が復帰すると、電圧発生手段からの電圧発生を停止すると共に、ドアの速度指令信号を入力し、位置検出をしながら同期モータを駆動できる。
【0010】
第5の発明に係るエレベーターのドア制御装置は、故障信号の発生に基づいてエレベーターを最寄階に停止すると共に、該停止後にエレベーターを休止する、ことが好ましい。
これにより、位置検出手段が故障したままの状態で、エレベーターが運転することを防止できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、磁気式の三相の同期モータを用い、モータの磁極位置検出ができなくなったことを検出して、三相の同期モータに一定位相の三相正弦波電圧を印加することにより、同期モータの磁極位置検出ができなくても、ドアを開放又は閉成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
実施の形態1.
本発明の一実施の形態を図1から図4によって説明する。図1は本発明の一実施の形態を示すエレベーターのドア制御装置の正面図、図2は図1に示すドア用モータの制御を示す全体構成図、図3は図2に示すドア制御装置の電圧発生器から発生する電圧の標準波形図(a)、同様に電圧振幅値が低い、高い波形図(b)、図4は図3の電圧発生器から発生するの電圧値を決める要因を示す電圧要因図である。
図1において、エレベーターのドア装置は、ドアパネル20を有している。ドアパネル20上部に設けられた桁21と、桁21の下端よりに水平に設けられたレール22と、ドアパネル20はレール22に支持され、吊り手29に案内されることにより水平方向に移動する。
【0013】
ドアパネル20を駆動する駆動装置23の磁気式で三相の同期モータ24と、同期モータ24の出力軸に固定された第1駆動車25とが桁21に取り付けられており、無端状の歯車付ベルト27が第1駆動車25と、桁21に固定された第2駆動車28に掛けられている。そして、ベルト27の動作をドアパネル20に伝播する連結具29を有している。
これらの機構により同期モータ24が出力するトルクをベルト27、連結具29を介してドアパネル20に伝達してドアの戸開閉動作をするように構成されている。
【0014】
ドアパネル上部に設けられた遮蔽版30が全閉状態で、全閉位置スイッチ31cを横切るように設定されていて、ドアの全閉位置を検出するように形成しており、遮蔽版30が全開状態で、全開位置スイッチ31pを横切るように設定されていて、ドアの全開位置を検出するように形成されている。ドアは全開状態になるとストッパ26に当接して停止する。
【0015】
図2において、ドアの制御装置は、検出部と、同期モータ24を制御する制御部と、検出部が故障したことを検出する故障検出部60と、故障検出部60からの故障信号により同期モータ24に印加電圧を定める電圧発生手段としての電圧発生部62とを有している。
検出部は、同期モータ24の回転位置を検出して位置検出信号を発生する位置検出手段としてのエンコーダ46と、同期モータ24に流れる電流を検出して電流検出信号を発生する電流検出手段としての電流センサ56と、ドアの全開領域を検出することにより第1ドア信号を発生すると共に、ドアの全閉領域を検出することにより第2ドア信号を発生する戸開閉検出部32と、を有している。
【0016】
図2において、制御部は、位置検出信号を入力して速度検出信号を発生する速度検出手段としての速度演算部59と、速度検出信号Vsと同期モータ24の速度指令信号Vrとの偏差となる速度偏差信号Veを求める減算器51と、速度偏差信号Veに基づいてトルク指令信号を生成するトルク指令生成手段としての速度制御部53と、電流検出信号と位置検出信号に基づいてトルク検出信号τsを求めるトルク演算手段としてのトルク演算部58と、トルク指令信号τrとトルク検出信号τsとの偏差となるトルク偏差信号τeに基づいて同期モータ24に流れる電流を制御する電流制御手段としての電流制御部55とを備えている。
【0017】
故障検出部60は、エンコーダ46が故障したことを検知して故障信号を発生する故障検出手段として形成されている。
電圧発生部62は、故障信号に基づいて常開接点60sを閉成して電流制御部55の動作を不能にすると共に、図3(a)に示すように同期モータ24に一定位相の三相正弦波を入力するように形成されている。
【0018】
電圧発生部62は、戸開閉検出部32の出力に接続され、第1ドア信号が発生して第2ドア信号が発生するまでの第1の間に、第2ドア信号が発生して第1ドア信号が発生するまでの第2の間、のいずれかに故障検出部62からの故障信号が発生しなかった場合には、常開接点62sを閉成から開放して電流制御部55を動作可能にすると共に、電圧発生を停止するように形成されている。
【0019】
電圧発生部62には、各階の乗場ドアの重量、同期モータ24の負荷との組合せで、発生電圧の振幅値を図4に示すように、標準値に対して高い値、低い値の三種類が用意されており、これらの値のいずれかが各階に対応してROM62aに記憶されており、かごが何階に停止したかを示す階床信号に基づいてROM62aに記憶された発生電圧の振幅値が読み出されるように形成されている。
【0020】
上記のように構成されたエレベーターのドア制御装置の動作を図1から図5を参照して説明する。図5はドア制御装置の動作を示すフローチャートである。
いま、戸開閉検出部32は、ドアの開放又は閉成指令信号が発生しているか否かを判断し(S101)、開放(閉成)指令信号発生している判断すると、故障検出部60は、エンコーダ46が故障しているか否かを判断し(S103)、故障と判断すると、故障信号を電圧発生部62に入力する。電圧発生部62は、常開接点60sを開放から閉成して電流制御部55の動作を不能とすると共に、階床信号によりかごが停止した階を特定し、ROM62aから電圧振幅値を選択し、一定位相の三相正弦波電圧を同期モータ24に印加し、同期モータ24を回転してドアを開放(閉成)する(S105)。
【0021】
戸開閉検出部32は、ドアが全閉から全開までの間に、故障検出部60がエンコーダ46が故障したか否かを判断し(S107)、故障が継続していると判断すると、戸開閉検出部32は、ドアが全開領域に達して全開位置スイッチ31pが閉成すると、全開信号を電圧発生部62に入力する。電圧発生部62は、同期モータ24の三相正弦波電圧の位相を停止して終了する。
【0022】
上記実施形態によれば、ドアを開閉させる磁気式の三相同期モータ24の回転位置を検出して位置検出信号Psを発生するエンコーダ46と、位置検出信号に基づき得られた速度検出信号と同期モータ24の速度指令信号との偏差となる速度偏差信号に基づいてトルク指令信号を生成する速度制御部53と、同期モータ24に流れる電流を検出して電流検出信号Isを発生する電流センサ56と、電流検出信号Isと位置検出信号Psに基づいてトルク検出信号τsを求めるトルク演算部58と、トルク指令信号τrとトルク検出信号τsとの偏差となるトルク偏差信号τeに基づいて同期モータ24に流れる電流を制御する電流制御部55と、エンコーダ46が故障したことを検知して故障信号を発生する故障検出部62と、故障信号に基づいて常開接点62sを開放から閉成にして電流制御部55の動作を不能にすると共に、同期モータ24に一定位相の三相正弦波電圧を入力する電圧発生部60とを備えたものである。
これにより、三相の同期モータ24の磁極位置検出ができなくなったことを検出して三相の同期モータ24に一定位相の三相正弦波電圧を印加することにより、同期モータ24の磁極位置検出ができなくても、ドアを開放又は閉成できる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、エレベーターのドア制御装置に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施の形態を示すエレベーターのドア制御装置の正面図である。
【図2】図1に示すドア用モータの制御を示す全体構成図である。
【図3】図2に示すドア制御装置の電圧発生器から発生する電圧振幅の標準波形図(a)、同様に振幅が低い、高い波形図(b)である。
【図4】図3の電圧発生器から発生するの電圧値を決める要因を示す電圧要因図である。
【図5】ドア制御装置の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0025】
20 ドアパネル、24 同期モータ、46 エンコーダ、53 速度制御部、55 電流制御部、56 電流センサ、58 トルク演算部、60 電圧発生部、62 故障検出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドアを開閉させる磁気式で三相の同期モータと、
前記同期モータの回転位置を検出して位置検出信号を発生する位置検出手段と、
前記位置検出信号に基づき得られた速度検出信号と前記同期モータの速度指令信号との偏差となる速度偏差信号に基づいてトルク指令信号を生成するトルク指令生成手段と、
前記同期モータに流れる電流を検出して電流検出信号を発生する電流検出手段と、
前記電流検出信号と前記位置検出信号に基づいてトルク検出信号を求めるトルク演算手段と、
前記トルク指令信号と前記トルク検出信号との偏差となるトルク偏差信号に基づいて前記同期モータに流れる電流を制御する電流制御手段と、
前記位置検出手段が故障したことを検知して故障信号を発生する故障検出手段と、
前記故障信号に基づいて前記電流制御手段の動作を不能にすると共に、前記同期モータに一定位相の三相正弦波電圧を入力する電圧発生手段と、
ことを特徴とするエレベーターのドア制御装置。
【請求項2】
前記電圧発生手段は、前記エレベーターの各階における乗場ドアの重量値、乗場ドアの負荷に基づいて前記三相正弦波電圧の値を変える、
ことを特徴とする請求項1に記載のエレベーターのドア制御装置。
【請求項3】
前記ドアの全開領域又は全閉領域の少なくともいずれかを検出すると共に、ドア信号を発生する戸開閉検出手段と、
前記電圧印加手段は、前記ドア信号に基づいて前記三相正弦波電圧の位相を停止する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のエレベーターのドア制御装置。
【請求項4】
戸開閉検出手段は、前記ドアの全開位置及び全閉位置を検出して、前記全開位置の検出により第1ドア信号を発生すると共に、前記全閉位置の検出により第2ドア信号を発生しており、
前記電圧発生手段は、前記第1ドア信号が発生して第2ドア信号が発生するまでの第1の間に、前記第2ドア信号が発生して第1ドア信号が発生するまでの第2の間、のいずれかに前記故障信号が発生しなかった場合には、前記電流制御手段の動作を可能にすると共に、前記電圧発生手段からの電圧発生を停止する、
備えたことを特徴とする請求項3に記載のエレベーターのドア制御装置。
【請求項5】
前記故障信号の発生に基づいて前記エレベーターを最寄階に停止すると共に、該停止後に前記エレベーターを休止する、
ことを特徴とする請求項1から4の何れかに記載のエレベーターのドア制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−133119(P2008−133119A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−321816(P2006−321816)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】