説明

エレベーターシステム

【解決手段】仮想的な緩衝器を昇降路内の非端部に設定し、それに向かって乗りかごを走行させ、所定位置から非常停止をかけることにより、減速過程のかごの速度,位置,経過時間などの情報を収集しつつ、仮想緩衝器26に仮想衝突をさせることにより、減速開始位置検知から、制動機動作、綱車と主索の粘着など一連の減速データを実測検証するよう構成した。
【効果】エレベーターの制動システムを実際に乗りかごが停止するまでの全行程に渡って、機器に損傷なく、定期的に測定することができる効果がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーターに係り、特に、エレベーターのブレーキ性能を確認するのに好適なエレベーターシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
エレベーターシステムでは、多数の故障が重なったような極まれな場合には移動体が昇降路端部に衝突する可能性が皆無とは言いきれない。そのような万一の事象に対して、移動体を安全に緩停止させる緩衝器が昇降路底部に設置されている。この緩衝器については、定格積載荷重で、定格速度を所定値程度上回る速度状態で衝突しても所要の減速度で移動体を受け止められるような装置をエレベーターの速度・荷重仕様にあわせて、昇降路底部に設置している。また、速度が非常に速い機種では、緩衝器の全長が非常に長くなり、昇降路端部への設置作業自体も容易なものではないほか、昇降路空間の有効活用の点でも改善の余地があった。そこで、緩衝器に衝突する移動体の速度を確実に定格速度よりも低くなるよう管理する装置を設けることを前提に、緩衝器をその減速した速度を受け止め速度とする小型な終端階強制減速装置付きの緩衝器を設置する場合もある。(平成12年建設省告示第1423号「エレベータの制動装置の構造方法を定める件」)
【0003】
【非特許文献1】平成12年建設省告示第1423号「エレベータの制動装置の構造方法を定める件」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の終端階強制減速装置の動作を確認するにあたり、実際に乗りかごを移動させ、終端階強制減速装置を動作させると、緩衝器に乗りかごが衝突することとなる、そのため、診断において、実際の終端階強制減速装置を作動させることは難しい。
【0005】
そこで、また、本発明の目的は、終端階強制減速装置付き緩衝器のシステム制動性能を安全に把握することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の他の目的を達成するため、本発明は、仮想的なリミットスイッチと仮想的な緩衝器を設定する手段と、
仮想的に設定された条件下でブレーキの診断を行う手段を備えたのである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、仮想的なリミットスイッチと仮想的な緩衝器を設定し、この条件下でブレーキの診断を行うことにより、実際の緩衝器を動作させることなく、安全に、終端階強制減速装置の診断を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の一実施例を図1に示し、構成とその概略動作を説明する。まず、乗客が乗るかご室1や乗客数を計数する荷重センサ2や乗りかごの絶対位置到達を検出するためのポジテクタ3,特性測定試験を実施するのに伴い乗客に乗りかごから下車することを促す表示をする表示器4などを搭載した乗りかご5と釣り合いおもり6が主索(ロープ)7で連結され、移動体に駆動力を伝達する綱車8,そらせ車9に釣りかけられる。綱車8には電動機10とブレーキたる制動機11からなる駆動装置が取り付けられて回転駆動力を発生する。
【0009】
この制動機11は乗りかご5が乗り場に停止している時に釣り合いおもり6との間のアンバランス力によって移動してしまうのを防ぐための停止保持力発生と異常事態が発生した際に乗りかご5を緊急に非常停止させるための動的制動力発生の2面から制動力を発生する。電動機10には電気的エネルギの供給元として整流器、又は、順変換器と逆変換器などから構成される電力変換器12が接続され、さらに商用電源13に接続される。
【0010】
この電力変換器12には制御信号線を介して主制御装置14から制御信号が供給され電力変換器12を通して電動機10の速度制御が行われる。この主制御装置14は電力変換器12への制御信号の出力以外に、制動機11へのブレーキON/OFF指令出力、かご室1内の表示器4への表示内容の送り出し、インターネット網15や専用回線を経由して保守センタ16からの制動機特性測定運転モードの受付けや測定結果データの送り出しも行う。
【0011】
また、このほかに主制御装置14には電動機10の回転に応じて電動機の速度や回転角を検出するパルス発生器17からの速度・回転角信号のほか、かご室1内の乗客数を検出する荷重センサ2からの乗客数信号の取り込み、昇降路内で緩衝器18や図示していないリミットスイッチからの距離の関係で所定位置に配置された遮へい板19−1〜19−3と乗りかご側に取り付けられたポジテクタ3が対向した際に発生する乗りかご位置検出信号、そして乗りかご5と直結されてかごの移動と同期してスリップなく移動するロープ
20が巻きかけられるプーリ21,22の回転と同期して回転し、かごの移動と1:1に対応してパルスを発生するパルス発生器23の出力を計数する従制御装置24の出力をも主制御装置14は取り込む。
【0012】
なお、ロープ20が巻きかけられるプーリ21は従属回転輪であり、綱車8と異なりプーリとロープとの間のクリープは皆無と考えて良く、それに取り付けられたパルス発生器23の回転は乗りかごの移動と1:1に対応しており、乗りかごの位置や速度を正確に把握出来ると言える。下プーリ22はおもり25を介して鉛直下方に牽引され、ロープ20が伸びた場合の弛みを吸収し正確なパルス発生を支援する。
【0013】
このような主要部品の構成の元で、制動試験を安全に実施するため仮想緩衝器26,仮想遮へい板27−1〜27−3を昇降路内の非端部に、さらに好ましくは中央階付近に仮想設置する。仮想緩衝器26と仮想遮へい板27−1〜27−3との位置関係は、乗りかごを上昇運転させて試験を行うことを仮定しており、現実の緩衝器18,仮想遮へい板
19−1〜19−3との位置関係を仮想模擬したもので、仮想緩衝器26の設置位置が仮想の昇降路ピット位置となる。
【0014】
下降運転方向で試験を行う場合には、おのおのの仮想パーツの配置は、鉛直上部から下方に向かって27−1,27−2,27−3,26の順となり、実物の19−1,19−2,19−3,18と同じ順となる。そして、重負荷条件となるように乗りかごにおもりを定員分積載して試験を行う。ここで、運転方向を上昇側に取ったのは、試験中にはかご室1に乗客がゼロ人の条件で特におもりを積載するなど人手をかけなくても制動システムにとって重負荷となる過酷な条件を等価的に設定できることによる。この仮想環境において、かご室1内の乗客数がゼロであることを荷重センサ2で確認すると共に、表示していないかご室内運転盤からの行き先階の登録やホール側からの呼びが所定期間ないこと、深夜・早朝の超閑散時間帯であること、さらに安全のため表示器に非常制動試験モードに入るので、乗りかごから退去していただきたい旨の表示などの諸々の安全警告処置を行った後、測定運転を開始する。
【0015】
実施した制動システムの模擬試験結果の概略チャートと、実際に緩衝器に衝突試験を行った際の推定結果との対比を図2に示す。縦軸がエレベーター速度、横軸は昇降路底部からの距離である。図中の右半分が実際に緩衝器に衝突試験を行った際の推定速度波形結果であり、左半分が提案する模擬衝突試験における速度ほかの実験結果の概略図である。右半分について、まず説明する。点線で示すように正規の通常走行を定格速度で下降し、遮へい板19−1とポジテクタ3が対向した位置である正規減速開始点(19−1)に乗りかごが到達すると速度指令に従って点線のように電動機の電気的制御によって減速を始め、所定の正規減速度で真の最下階に着床誤差少なく停止し、その後保持のため制動機が動作する。当然、乗りかご5がこの最下階に正規に停止した時は、乗りかご下部に存在する構造体は真の緩衝器18の位置よりも相当に鉛直方向で高い位置にあるので、両者のクリアランスは十分あり、接触や衝突することはない。
【0016】
これに対して、システムに何らかの異常が発生し、定格速度よりも早い速度(ここでは115%程度を想定)で実線のようにかごが推移したとする。さらに何らかの異常で減速開始点を示す遮へい板19−1,19−2をポジテクタ3が対向しても電動機に電気的制動力が働かず、さらに走行を続け、遮へい板19−3に達したとする。システムはこの点で走行速度が定格の115%は異常と判断し、電気的制動をあきらめ、電力変換器12を停止させて電動機10への駆動力発生を中止し、制動機11に制動指令を発して、緊急減速動作を行わせる。乗りかごは制動機11の機械的制動力で実線のように正規減速時の減速度よりも大きな減速度で減速するが、真の最下階位置を行き過ぎて、真の緩衝器18が設置されている位置をさらに行き過ぎる状態で図示した衝突速度で緩衝器上面に衝突し、緩停止する。
【0017】
緩衝器18は、この衝突速度で当たってもかご内の乗客にダメージを生じさせないよう所定の減速度で受け止めることが出来るようなエネルギ処理能力を持った仕様のものを据え付けるのが一般的である。その際、衝突速度を見積もる上で重要な点は、減速開始点通過から制動力発生までの制御系遅れ、制動機11自体の制動力発揮度、そして、綱車8と主索7との間のすべりなどすべての要素を勘案する必要があると言うことである。システムの製造者は綿密な設計と製造を行い、保守者は適切な保守作業を行うが、経時変化要因は皆無とは言い切れない。そこで、制動システムに対する高頻度な動的実証試験を実施することが最善策ではあるものの、全負荷条件を実現するための試験用おもりのビルへの搬入、実際に緩衝器を動作させることの機器へのダメージなどを考慮すると現実的には、動的試験の代わりに各機器ごとの静的試験を別個に組み合わせることで等価試験を実施している。本願では、仮想衝突試験を提案し、より実際の動的実証試験に近い形でエレベーターの安全システムの点検領域を拡大している。
【0018】
具体的には、図2の左半分にその考え方を示す。ポイントは、昇降路の途中位置に仮想の緩衝器26と仮想端階への接近を検知する遮へい板27−1〜27−3をイメージする。仮想緩衝器26はあくまで仮想の装置であり、遮へい板は仮想物でも良いし、途中階に設置され、その位置が確定している各階の着床制御用遮へい板を代用しても良い。そして、下層階から上昇運転を開始する。正常時には点線で示すように仮想の減速開始点(27−1)から電動機による電気的な減速力によって仮想の最下階に停止する。勿論、仮想の緩衝器26よりも手前で停止し、衝突することはない。これに対して、仮想衝突試験では、速度は規格に準拠するような厳しめの値として、定格速度の115%程度まで増加した速度で上昇を行い、緊急減速開始点を想定した仮想遮へい板27−3の位置を通過した直後に電力変換器12からの駆動電力供給を止め、制動機11への制動指令を与え、乗りかご5の減速過程データを採取する。
【0019】
かごは実線で示すような経過をたどり、仮想の緩衝器26に仮想衝突する。収集データとしては、仮想緩衝器26の位置を乗りかご5が通過する際の速度、通過するまでの減速時間、二つのパルス発生器出力差から綱車8と主索7との滑走量データなどを採取する。ここでの仮想緩衝器位置の通過速度が緩衝器への等価的な衝突速度となる。この値が、緩衝器の許容定格速度以下であれば万一異常事態が発生し、乗りかごが緩衝器に実際に衝突するような不幸な事象が発生しても、安全装置は健全に動作し、問題は生じないであろうという点検ができることになる。
【0020】
本実施例により、このデータを採取する過程を通して、主制御装置14から実際に制動機11への制動指令発生後、制動が効き始めるまでの遅れ時間、主索7と綱車8との間のスリップの有無など、実際に緩衝器18に衝突させたのとほぼ等価の確認試験を何らのハード的な損傷を伴わずに中間階で安全に点検できるという効果を発揮できる。なお、ここで、完全な実機試験と異なる点は、仮想遮へい板27−3を実際の遮へい板19−3の代わりに使っている点であり、遮へい板対向検出に伴うハード割り込み認識に要する時間遅れ項がぬけていることである。この点は、割り込みに伴う認識時間を空走時間として距離換算して仮想緩衝器の位置を微修正すれば補正が可能である。また、緊急減速のための遮へい板でなく、着床精度向上のために各階に設置されている遮へい板をトリガとして用い、仮想緩衝器の位置をこの遮へい板との関係で設定し、実際に割り込みを発生させて試験を行えば、空走時間の現実性乖離の問題も解決し、制動システムについてカバー率の高い試験とすることができる。
【0021】
さらに、実際の緩衝器への乗りかごの衝突は全負荷(満員乗車)条件を使って考えるので、乗りかごに全負荷分のおもりを積載して、下降運転方向で仮想緩衝器を考えて仮想衝突試験を実施してもよいが、ここでは、バランスポイントが50%弱であることに着目し、全負荷相当のおもりを実際に積載して下降運転を実施する代わりに、無負荷として上昇運転を行う実施例を示した。これを行えば、全負荷下降とほぼ同じ不平衡トルクとなるので仮想試験の責務としての等価性は損なわれず、おもりの積載という実作業を回避できる効果ゆえに、現地に作業員が出向かなくても保守センタから遠隔で高頻度に安全上重要な試験を実施できるという安心度向上の効果も生じる。
【0022】
上記試験では、仮想遮へい板の27−3を使って仮想緩衝器26との距離関係で仮想衝突試験を実施したが、27−3よりも手前の27−2を通過したときに非常停止試験を行えば、仮想緩衝器26への衝突速度を図3に概略図を示すように小さな値に抑制できる。等価的には、この思想が緩衝器への衝突速度を抑制する仕掛けを設けることによって十分な減速が実現できれば小型の緩衝器を設置してもよいとする『終端階強制減速装置付きの緩衝器』の仮想衝突試験につながる。この試験を終端階強制減速装置付きの緩衝器を有するシステムに対して行えば、綱車8と主索7との粘着という非線形、経時変動的なある種不確定要素を含んだ構成の上に立脚せざるを得ない『終端階強制減速装置』における小型緩衝器の使用に関して、緩衝器の小型化限界の追求、定期的な診断による安心度の向上、経年変化要素の早期把握など計り知れない効果を発揮できる。
【0023】
図4,図5に本発明の仮想衝突試験に伴う一連の手順書を示す。図4に主制御装置14への割り込み判定処理100を示す。ここでは、制動システムの性能を把握するための処理を中心に、電動機や電力変換器の通常処理に関する処理説明などは省略する。割り込みが発生し、判定処理100に処理が飛んできたとき、処理101で一定時間ごとの処理を行うタイマ割り込み処理であるか?の判定を行う。YESであれば、後に詳細に述べるタイマ割り込み処理200を行い、処理102で割り込み待ちの状態に戻る。処理101でタイマ割り込みでなければ、処理103で通常運転中かどうかの判定を行う。YESであれば、処理104で乗りかごが所定点を通過時する際に、電動機軸に取り付けられたパルス発生器で継続的に算出している乗りかご位置値の補正を実行するなどの通常運転に伴う処理や、過電流発生時などに緊急停止をかけるための割り込みなど制動システムの試験関連以外の機能処理を実行して処理102を経由して割り込み待ちに戻る。処理103で通常運転でなく制動システムの性能試験を実行すると判断した場合には、処理105で制動システム試験を要求した依頼者の判別と安全レベル分けを行う。
【0024】
つまり、試験の依頼元としては、保守員がエレベーターを点検するために訪問して、その際に図1に示すようにホール押しボタン後などにあるインターフェースポート28を介して主制御装置14に送り込んだ割り込み要求は、保守員が乗りかごやホールの様子を垣間見ることが出来るので、エレベーター利用者は試験中の乗りかごに入り込むような危険を確認回避しやすいので後述する測定実施運転に対する制約は緩めで良いなどの判断を下す。また、保守センタ16から遠隔で測定実施運転を実施したり、主制御装置14内で所定期間ごとに自己起動をかけて自主的制動システムの特性を自己測定する運転モードでは、安全性確保のために測定実施運転に対する制約はきつめにするなのどの判断を下す。そして、処理106で昇降路内の非端部で仮想緩衝器を想定して、制動機を乗りかご5の走行中に実動作させ制動機だけでなく、綱車と主索とのあいだのすべりや粘着,仮想緩衝器への仮想衝突による衝突速度の検出などの実行受付けを完了したことを示す状況フラグ
SFを『1』に書き換え102を経由して割り込み待ち状態に戻る。
【0025】
次のタイマ割り込みで図5,図6に詳細を具体的に示すように処理200を実行する。処理201で状況フラグSFが『0』の場合には、仮想緩衝器を想定した制動システムの性能試験を実行するのではなく、定時的に処理を行う電流制御処理や速度制御処など通常運転にともなう処理を処理202で実施した後、図5の(1),図6の(1)を経由して処理203を経由してタイマ割り込み処理を終わる。一方、処理201でSF≠0と判断した後、処理204でSF=1かどうかの判断を行い、YESであれば処理205で測定運転が可能か?どうかの判断をする。
【0026】
判断には、図1の乗りかご下にある荷重センサ2でかご内に利用者がいないことや、かご内の登録呼びがないこと、ホール側に呼びがないこと、所定期間の間そのような状態が続いていることなどの材料を判断する。測定運転が可能でなければ図5(1)を経由して図6(1)を経由して203を経由して、測定運転が可能となるまで実質的には待ち状態なる。処理205で測定運転が可能であると判断した場合には、次のステージである測定準備に入るべく状況フラグSFを『2』に更新して、処理203を経由して処理を終わる。処理204で状況フラグSFが『1』でない場合には、処理207で状況フラグSFが『2』であるかどうかの判断を行う。YESの場合には、処理208で測定実施準備として、かご内の表示器4に試験を行うので退出を呼びかける表示をしたり、図示していないホール側表示器に試験準備中である旨の表示を行い、ドアを閉めきりにして、非端階階で仮想衝突試験を行うべく準備として、下層階に乗りかごを移動させ、試験準備中であることを示すべく状況フラグSFを『3』に倒し、処理209で通常定格速度の115%程度まで高めの速度指令を発生して上昇運転を開始し、仮想緩衝器への仮想衝突試験実施中などの表示を行う。なお、ここで、通常、定格速度以上の速度で走行すると各種の安全装置が動作してしまうので、必要に応じて安全装置を納得づくで動作保留に設定しておくことが必要である。そして、上昇中に処理210で、電気的駆動力を遮断し非常停止をかける位置の認識、その点から上部に離れている存在させるべき仮想緩衝器の位置の認識など、制動システムが動作を開始する際の初期値を獲得する準備を行い、処理203を経由して次のタイマ割り込みを待つ。
【0027】
処理207で状況フラグSFが『2』でなければ、処理211で状況フラグSFが『3』であるかどうかの判定を行う。判定でYESであれば、処理212で乗りかご5の位置が所定の非常停止点(図1の27−3)に到達したかどうかの判定を行う。YESであれば、処理213で電気的駆動力を遮断し、非常制動を制動機11に対してかけて、状況フラグSFを『4』に倒す。さらに、処理214で、その時のかご速度,かご位置,時刻を記憶する。なお、ここで検出するかご位置や速度は綱車8と主索7の挙動も含めた真のかごの位置と速度であることが重要である。そのためには演算の材料となる情報は乗りかご移動と1:1に対応するパルス発生器23の信号や、図示していない乗りかごに搭載された信号発生器を用いる必要がある。
【0028】
一方、綱車8と主索7との間の滑走などを知るためにはもう一方の情報として、電動機10に取り付けられたパルス発生器17からの信号も同時に計測しておく。なお、ここでは非常制動開始到達点検知をタイマ割り込みで求める実施例を示しているが、タイマ割り込み間隔が長い場合には精度が劣化する。これを避けるためには、目印としての非常停止のための所定点を仮想遮へい板設置点ではなく、昇降路内に他の目的で設置してある実際の遮へい板とポイテクタによる割り込み扱いとして、図4の処理105又は106相当の場所に処理を埋め込めば時間遅れの影響は回避できる。処理211で状況フラグSFが
『3』ではないに場合には(2)を経由して、図6の(2)を経由し処理215で状況フラグSFが『4』であるかの判断を行う。YESであれば、処理216で非常停止が終了したかどうかの判断を行う。停止していなければ処理217で、減速途中の速度,位置,時刻などを毎回のタイマ割り込み処理のたびに順次記録して仮想衝突速度などの算出用データを蓄積処理203を経由して処理を終了する。
【0029】
処理216で非常停止が終了したと判断すれば、処理218で状況フラグSFを『5』に倒して、処理219で仮想緩衝器への仮想衝突速度,減速距離,滑走量,制動時間などを算出して処理203経由で処理を終わる。処理215で状況フラグSFが『4』でなければ、状況フラグSFは『5』であり、処理220で異常判定を行い診断結果を図1の主制御装置14内部に蓄積したり、網15経由で保守センタ16に送付したり、立ち会った保守員が目視出来るようにかご内表示器4や図示していないホール側表示器などに送付する。送付するデータとしては、仮想緩衝器への仮想衝突速度,制動距離,制動時間,綱車8と主索7との滑走量とそれらの時間経過に対する推移量などである。そして、処理221で試験結果の正常・異常判断を実施し、滑走などにより緩衝器への仮想衝突速度が当初の想定値よりも大きいような時には異常がありと判断し、処理222で定格速度を仮想衝突速度に見合った値まで引き下げたり,警告表示をするなどの処理を行い、最後に処理223
で試験終了処理として、状況フラグSFを『0』に倒して、処理203経由で実機を用いた制動システムの試験を終了する。
【0030】
以上の説明では測定データの例として、仮想緩衝器への仮想衝突速度の検出について示したが、制動距離,制動時間などのデータを測定しても、仮想緩衝器への仮想衝突速度に換算できることは明らかである。
【0031】
また、所定位置での乗りかごの速度や所定位置からの移動距離を算出するのに、乗りかごの移動と1:1の関係をロープ20,プーリ21,パルス発生器23によってシステムを実現したものを使う例で効果を示したが、ロープを用いず、かご位置や速度を非接触で検出出来るミリ波レーダのようなセンサを用いれば、ロープ20やプーリ21,22のような付帯設備を用いなくても本発明と同様の思想を実現でき、昇降路内の付帯機器にロープ20がひっかかるような地震や強風時の耐震性能を向上できる他の効果を生じさせることもできる。
【0032】
さらに、以上の説明では測定データの検出元として、乗りかご移動と1:1の関係をロープ20,プーリ21,パルス発生器23によって実現したものだけを使う例を示したが、電動機10に接続されたパルス発生器17から算出される推定乗りかご移動距離も同時に求め、パルス発生器23の出力との差を制動距離視点で求めれば総合的な制動性能のほかに、綱車8と主索7との間の滑走状態も知ることが出来、綱車8や主索7の粘着・摩耗状態も分離推定でき、緩衝器への衝突観点以外の保守上有効な知見も得られるという他の効果も生じる。
【0033】
加えるに、非常制動をかける所定位置値として仮想遮へい板の位置を図1の27−3として、緩衝器として定格速度に対応した値の例を示したが、減速開始点を27−2まで手前気味に設定して、仮想衝突試験を行えば、システムとして、『終端階強制減速装置付きの緩衝器』を有するシステムの実機試験も等価的に実施可能である。
【0034】
さらに、仮想衝突する相手が、緩衝器であることを例に説明してきたが、一つの昇降路の中に複数の乗りかごを格納した複数かごシステムにおける、自かごよりも先行走行するかごに対する制動システムの性能維持評価に本提案を利用してもよいし、さらには、通常のエレベーターシステムの制動機の非常制動力や保持力の経時変化確認試験と位置づけても意義のあることには明らかである。
【0035】
本実施例によれば、エレベーター乗りかごの挙動を実物を用いて観測出来るので、制動システムが制動開始を認識した時点から、制動機が制動力を発揮し、綱車と主索の間の粘着力による制動量力伝達が行われ、最終的に乗りかごが停止するところまでの制動現象を動的包括的に確認できる効果がある。
【0036】
また、本実施例によれば、等価的に重負荷を特別な装置を持ち込まなくても実現できるので、保守員が直接立ち会わなくても保守センタから遠隔で、あるいは制御装置が自律的に制動システムの診断試験を高頻度に観測ができる効果がある。
【0037】
さらに、本実施例によれば、当初の発揮性能からの性能トレンドや現状の限界を把握できるので主要部品の劣化把握、現状の発揮性能下における定格速度の低減など積極的な安全増し運転が出来る効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施の形態における全体構成図である。
【図2】本発明の一実施の形態における試験結果概略図である。
【図3】本発明の一実施の形態における試験結果概略図である。
【図4】本発明の一実施の形態における手順書である。
【図5】本発明の一実施の形態における手順書である。
【図6】本発明の一実施の形態における手順書である。
【符号の説明】
【0039】
1 かご室
2 荷重センサ
3 ポジテクタ
4 表示器
5 乗りかご
6 釣り合いおもり
7 主索
8 綱車
9 そらせ車
10 電動機
11 制動機
12 電力変換器
13 電源
14 主制御装置
15 インターネット網
16 保守センタ
17 パルス発生器
18 緩衝器
19−1,19−2,19−3 遮へい板
20 ロープ
21 上プーリ
22 下プーリ
23 パルス発生器
24 従制御装置
25 おもり
26 仮想緩衝器
27−1,27−2,27−3 仮想遮へい板
28 ホール押しボタン後部のインターフェースポート
100 割り込み判定処理
200 タイマ割り込み処理

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シーブに巻き掛けられたロープによって吊り下げられた乗りかご及び釣り合いおもりと、前記シーブを駆動する駆動手段と、前記シーブを制動するブレーキと、昇降路下部の所定位置を所定速度以上で乗りかごが走行した場合に前記ブレーキを動作させる減速手段と、昇降路の床に設置された緩衝器とを備えたエレベーターシステムにおいて、
前記乗りかごの移動中に、前記所定位置と異なる位置で前記ブレーキを動作させる手段と、この際の走行データに基づいて前記ブレーキ及び前記減速手段の診断を行う手段を備えたことを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項2】
シーブに巻き掛けられたロープによって吊り下げられた乗りかご及び釣り合いおもりと、前記シーブを駆動する駆動手段と、前記シーブを制動するブレーキと、昇降路下部の所定位置を所定速度以上で乗りかごが走行した場合に前記ブレーキを動作させる減速手段と、昇降路の床に設置された緩衝器とを備えたエレベーターシステムにおいて、
前記乗りかごの移動中に、前記所定位置と異なる位置で前記ブレーキを動作させる手段と、この際の走行データを基に、前記乗りかごの緩衝器に衝突する速度を推定する手段と、前記速度と許容速度範囲との比較に基づいて前記ブレーキ及び前記減速手段の診断を行う手段を備えたことを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項3】
請求項1,2において、
診断運転モードを設け、前記診断モードにおいて、前記乗りかごの移動中に、前記所定位置と異なる位置で前記ブレーキを動作させる手段を実行することを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項4】
シーブに巻き掛けられたロープによって吊り下げられた乗りかご及び釣り合いおもりと、前記シーブを駆動する駆動手段と、前記シーブを制動するブレーキと、昇降路下部の所定位置に設けられた乗りかごを検知するための検知手段と、前記所定位置を所定速度以上で乗りかごが走行した場合に前記ブレーキを動作させる減速手段と、昇降路の床に設置された緩衝器とを備えたエレベーターシステムにおいて、
診断運転モードを設け、この運転モード中に、前記乗りかごを上方向に移動させる手段と、該手段による移動中に前記検知手段の位置と異なる位置で前記ブレーキを動作させる手段と、この際の走行データ及び前記検知手段と緩衝器との位置関係を基に、前記ブレーキ及び前記減速手段の診断を行う手段を備えたことを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項5】
シーブに巻き掛けられたロープによって吊り下げられた乗りかご及び釣り合いおもりと、前記シーブを駆動する駆動手段と、前記シーブを制動するブレーキと、昇降路下部の所定位置を所定速度以上で乗りかごが走行した場合に前記ブレーキを動作させる減速手段と、昇降路の床に設置された緩衝器とを備えたエレベーターシステムにおいて、
診断運転モードを設け、
この運転モード中に、前記所定位置と異なる位置にブレーキ開始地点を設定する手段と、
前記緩衝器と異なる位置に仮想的な緩衝器を設定する手段と、
前記設定された条件下で前記ブレーキ及び前記減速手段の診断を行う手段を備えたことを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項6】
シーブに巻き掛けられたロープによって吊り下げられた乗りかご及び釣り合いおもりと、前記シーブを駆動する駆動手段と、前記シーブを制動するブレーキと、昇降路下部の所定位置に設けられた乗りかごを検知するための検知手段と、前記所定位置を所定速度以上で乗りかごが走行した場合に前記ブレーキを動作させる減速手段と、昇降路の床に設置された緩衝器とを備えたエレベーターシステムにおいて、
診断運転モードを設け、
この運転モード中に、前記検知手段と異なる位置に仮想的な検知手段を設定する手段と、
前記緩衝器と異なる位置に仮想的な緩衝器を設定する手段と、
前記乗りかごを所定速度で移動させる手段と、
前記仮想的な検知手段の位置で前記ブレーキを動作させる手段と、
仮想的な緩衝器の位置での前記ブレーキ動作時の前記乗りかごの速度を検出する手段と、
この検出された速度に基づいて前記ブレーキ及び前記減速手段の診断を行う手段を備えたことを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項7】
請求項6において、
前記検出速度が許容範囲を超えた場合は、エレベーターの定格速度を下げることを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項8】
請求項3〜6のいずれかの請求項において、
監視センタからの指令によって、前記診断運転モードに移行することを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項9】
シーブに巻き掛けられたロープによって吊り下げられた乗りかご及び釣り合いおもりと、前記シーブを駆動する駆動手段と、前記シーブを制動するブレーキと、昇降路下部の所定位置に設けられた乗りかごを検知するための検知手段と、前記所定位置を所定速度以上で乗りかごが走行した場合に前記ブレーキを動作させる減速手段と、昇降路の床に設置された緩衝器とを備えたエレベーターシステムの診断方法において、
診断運転モードに移行させるステップと、
前記検知手段及び前記緩衝器を実位置と異なる位置に仮想的に設定するステップと、
前記乗りかごを所定速度で移動させるステップと、
前記仮想的に設定された検知手段の位置で前記ブレーキを動作させるステップと、
仮想的に設定された緩衝器の位置での前記乗りかごの速度を検出するステップとを備え、
これらステップによって前記ブレーキ及び前記減速手段の診断を行うエレベーターシステムの診断方法。
【請求項10】
シーブに巻き掛けられたロープによって吊り下げられた乗りかご及び釣り合いおもりと、前記シーブを駆動する駆動手段と、前記シーブを制動するブレーキと、昇降路下部の所定位置に設けられた乗りかごを検知するための検知手段と、前記所定位置を所定速度以上で乗りかごが走行した場合に前記ブレーキを動作させる終端階強制減速装置と、昇降路の床に設置された緩衝器とを備えたエレベーターシステムにおいて、
実際と異なる位置に仮想的な検知手段及び仮想的な緩衝器を設定し、この仮想的に設定された条件下で前記終端階強制減速装置の診断を行うことを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項11】
シーブに巻き掛けられたロープによって吊り下げられた乗りかご及び釣り合いおもりと、前記シーブを駆動する駆動手段と、前記シーブを制動するブレーキと、昇降路下部の所定位置に設けられた乗りかごを検知するための検知手段と、前記所定位置を所定速度以上で乗りかごが走行した場合に前記ブレーキを動作させる終端階強制減速装置と、昇降路の床に設置された緩衝器とを備えたエレベーターシステムにおいて、
前記終端階強制減速装置を仮想的な位置で試験を行うことにより、前記終端階強制減速装置の診断を行うことを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項12】
シーブに巻き掛けられたロープによって吊り下げられた乗りかご及び釣り合いおもりと、前記シーブを駆動する駆動手段と、前記シーブを制動するブレーキを備えたエレベーターシステムにおいて、
前記乗りかごの絶対位置を検出又は前記乗りかごの移動距離を1対1対応で検出する検出手段と、前記乗りかごが移動中に前記ブレーキを動作させた際の制動距離を、前記検出手段によって測定する手段を備えたことを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項13】
シーブに巻き掛けられたロープによって吊り下げられた乗りかご及び釣り合いおもりと、前記シーブを駆動する駆動手段と、前記シーブを制動するブレーキを備えたエレベーターシステムにおいて、
前記乗りかごの絶対位置を検出又は前記乗りかごの移動距離を1対1対応で検出する検出手段と、前記乗りかごを所定速度で移動させ、前記乗りかごが第1の所定位置で前記ブレーキを動作させる手段と、前記乗りかごが移動中に前記ブレーキを動作させた際の制動距離を、前記検出手段によって測定する手段と、前記ブレーキを動作させた際の第2の所定位置における前記乗りかごの速度を検出する手段を備えたことを特徴とするエレベーターシステム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−127180(P2008−127180A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−316442(P2006−316442)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000232955)株式会社日立ビルシステム (895)
【Fターム(参考)】