エレベータ用ロープおよびエレベータ用ベルト
【課題】樹脂被覆体を有するロープまたはベルトの、摺動に対する摩擦係数を安定させるとともに、耐摩耗性を向上させ、あらゆる環境下で長期的に安定なトラクションを維持できる、信頼性の高いロープまたはベルトを提供する。
【解決手段】長手方向に掛かる張力を受け持つ抗張体と、該抗張体を摩耗損傷から保護する樹脂被覆体とを含み、該樹脂被覆体が、樹脂母材に不溶固体添加物粒子を混合する。
【解決手段】長手方向に掛かる張力を受け持つ抗張体と、該抗張体を摩耗損傷から保護する樹脂被覆体とを含み、該樹脂被覆体が、樹脂母材に不溶固体添加物粒子を混合する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータ用ロープおよびエレベータ用ベルトに関し、特に、昇降部を吊るす主索等を対象とした樹脂被覆ロープおよびベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の樹脂被覆ロープおよびベルトにおいては、例えば、特許文献1または特許文献2に示すように、抗張体を摩耗損傷から保護する被覆体は、耐摩耗性が高く、柔軟性に富んだ樹脂で構成されている。この場合、ロープまたはベルトの外層樹脂と駆動力伝達部であるシーブの溝面との直接接触になるため、摺動面に両者の凝着により大きな摩擦力が生まれる。摩擦力は、駆動力伝達に不可欠であるが、摺動による摩耗、特に樹脂の摩耗を促進してしまう。
【0003】
このため、上記の摩擦と摩耗との相反する関係に対して、摺動面における摩擦係数を適切に設定する必要がある。エレベータの駆動システムの場合、特許文献3に示すように、ロープと接触するシーブ(綱車)の溝面を適度に粗し、フッ素化合物を含んだニッケル−リン金属間化合物を無電解メッキして摩擦および摩耗の適正化を図っている。しかしながら、現状の樹脂では、初期の段階においては比較的安定するものの、その後、エレベータの稼働時間に伴って、摩擦係数の上昇および摩耗量の急激な増加が見られ、長期的に安定なトラクションを得るには至っていない。
【0004】
また、特許文献4には、単位断面積当たりの強度が高く、シーブとの良好な摩擦接触を実現するため、被覆芯シェンケルの周りに複数本の側シェンケルを配置し、被覆芯シェンケルと側シェンケルとで囲まれたスペースに細径の複数本の第1フィラーストランドを配置し、側シェンケル間の外形側の谷間に細径の複数本の第2フィラーストランドを配置し、側シェンケルを囲む高分子化合物の外装被覆を備えたワイヤロープが開示されている。
【0005】
また、特許文献5には、高摩擦材として、シリカ粉末、黒鉛、炭素粉末窒化ホウ素粉末、チタン酸カリウム繊維またはチタン酸カリウムウィスカーを充填したウレタン樹脂を被覆したエレベータ用トラクションシーブが開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2001−262482号公報
【特許文献2】PCT WO99/43885
【特許文献3】特開2007−284237号公報
【特許文献4】特開2003−268685号公報
【特許文献5】特開2004−106984号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
長手方向に掛かる張力を受け持つ抗張体すなわち鋼線と、駆動力伝達部との摺動による摩耗を鋼線から保護する被覆体、すなわち樹脂の役割を完全に分離している樹脂被覆ロープまたはベルトにおいては、駆動力伝達部と接している外層樹脂は、駆動力を鋼線に伝達するために所定の摩擦係数を維持するとともに、高い耐摩耗性も有していなければならない。ロープまたはベルトを被覆する樹脂は、長期間にわたってあらゆる環境下で摩擦係数の安定化の実現と耐摩耗性に優れていることが必要不可欠である。特に、エレベータの駆動システムの場合、ロープとシーブとの接触面に潤滑油が付着する環境が想定されるが、この場合に、摩擦係数は最も低下する。
【0008】
したがって、両者間のトラクション特性で第一に必要なのは、油が付着した状態での摩擦係数を所定の値以上に確保することである。このため、潤滑油が付着しても摩擦係数を大幅に下げないことを目的として、シーブ溝面には所定の表面粗さが施されている。一方で、シーブ溝面の表面粗さすなわち凹凸はロープまたはベルトの外層樹脂の摩耗を速めるため、樹脂にはこの凹凸の摺動に打ち勝つ摩耗特性が必要となる。樹脂被覆ロープまたはベルトの長期間における信頼性を実現するには、油が付着した時の摩擦係数を確保するとともに、所定の表面粗さを有するシーブ溝面に対して摩耗を一定限度に抑えることが求められる。
【0009】
本発明は、樹脂被覆体を有するロープまたはベルトの、摺動に対する摩擦係数を安定させるとともに、耐摩耗性を向上させ、あらゆる環境下で長期的に安定なトラクションを維持できる、信頼性の高いロープまたはベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のロープまたはベルトは、長手方向に掛かる張力を受け持つ抗張体と、該抗張体を摩耗損傷から保護する樹脂被覆体とを含み、該樹脂被覆体が、樹脂母材に不溶固体添加物粒子を混合したものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、樹脂被覆ロープまたはベルトにおける被覆体に、摺動に対する摩擦係数が安定的で、かつ耐摩耗性に優れた樹脂を提供することができるため、あらゆる環境下で長期的に安定なトラクションを維持できる樹脂被覆ロープまたはベルトを実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
人や重量物などの被移動物を高低差のある場所に移動させるためのエレベータなどの昇降装置に用いる、本発明のロープまたはベルトは、被移動物の重量を支えるため、鋼線などで形成された抗張体と、該抗張体を摩耗損傷から保護する樹脂被覆体とを含む。
【0013】
潤滑油が付着しても摩擦係数が大幅に下がらず、摺動による樹脂の摩耗が少ないロープまたはベルトは、下記の手段で得られる。
【0014】
第一に、油が付着した時に摩擦係数の低下を防ぐには、ロープまたはベルトの外層樹脂とシーブ溝面との接触部の微小な隙間(摩擦面)から油を排除することである。元来、ロープまたはベルトの外層樹脂とシーブ溝面との接触では、両者が凝着することにより摩擦係数は大きくなるため、潤滑油が付着しても摩擦面から油を排除して清浄状態に近づければ、トラクションに必要な摩擦力を確保することが可能となる。摩擦面から油を排除するには、樹脂の硬度を上げて両者の微小な接触面に発生する面圧を高めることが有効である。硬度が高い場合、変形は小さく樹脂が凹まないため、接触面積が小さくなる。その結果、面圧が上がる。
【0015】
第二に、摺動による樹脂の摩耗は摩擦面における変形によって生じるため、まず、樹脂の引張強度を上げること、さらに、樹脂母材とシーブ溝面との直接接触を極力避けることで樹脂の変形を抑える。これにより摩耗量を低減することが可能となる。樹脂母材とシーブ溝面との直接接触を避けるには、樹脂母材にそれよりも硬い別の固形材を混合し、複合材料を形成することで実現することができる。
【0016】
上記の手段において、樹脂の硬度を上げること、樹脂の引張強度を上げること、および、その樹脂に固形材を混ぜることは互いに相反する関係にはないため、これらの手段を同時に実施することは可能である。したがって、上記の手段を同時に実施すれば、潤滑油が付着しても摩擦係数が大幅には低下せず、かつ、耐摩耗性の高い樹脂を得ることが可能となる。
【0017】
以下、図を用いて実施例を説明する。
【実施例】
【0018】
図1は、本発明の実施例を示すロープ外層被覆樹脂の構成図である。樹脂被覆ロープまたはベルトの外層樹脂1は、樹脂母材1aと不溶固体添加物1bとを含む。本実施例においては、樹脂母材1aには熱可塑性ポリウレタンを、不溶固体添加物1bにはアルミナフィラーを採用した。外層樹脂1に接するシーブ2は、シーブ母材2aの表面にシーブメッキ層2bを設けたものである。不溶固体添加物1bの形状は、外層樹脂1とシーブ2とが摺動する際にシーブ表面のシーブメッキ層2bを必要以上に損傷しないように、また、樹脂母材1aから脱落しにくいように、球形もしくはそれ相当の形が望ましい。
【0019】
ここで、外層樹脂1は樹脂被覆体と呼んでもよい。
【0020】
シーブ2の表面に、シーブメッキ層2bとしてフッ素化合物を含んだニッケル−リン金属間化合物を無電解メッキした場合、外層樹脂1とシーブメッキ層2bとの間の摩擦係数は、極めて低い摩擦係数を有するフッ素化合物の働きで、シーブメッキ層2bに表面粗さRa=8〜9μm程度の凹凸が存在しても大きくならない。また、これらの接触面に潤滑油が付着しても、清浄時に比べて1/1.2の低下に抑えることが可能であると特許文献3に示されている。
【0021】
しかしながら、外層樹脂1を樹脂母材1aのみで構成した場合は、摺動が進むに従って、両者間の摩擦係数が急上昇し、それに伴って樹脂の摩耗量も劇的に増加する。従来の一般的な樹脂を用いた場合の摩擦係数および摩耗量の変化を図2に示す。本図の場合、摺動距離が60mに達する間に摩擦係数が急激に増加し、摩耗が進行してしまう。
【0022】
図3は、回転式摩耗試験機の概略図を示したものである。本図において外層樹脂1の摩耗特性は、樹脂被覆ロープ3の一端に張力を掛け、架台6上に設置したシーブ2を回転させて行う摺動試験によって測定した。摩擦係数は、おもり4の重量と樹脂被覆ロープ3の他端に設けたロードセル5の荷重値とから算出した。
【0023】
図4は、摺動後のシーブメッキ層表面をオージェ電子分光器により元素分析した結果を示したものである。横軸はスパッタリング時間によってシーブメッキ層の深さを表し、縦軸は、炭素(C)、酸素(O)、リン(P)、ニッケル(Ni)およびフッ素(F)の元素濃度を示している。本図から、シーブメッキ層表面近傍の炭素および酸素の濃度が高くなっていることがわかる。これはロープ3からシーブメッキ層2bの摺動面に樹脂が転写されたことを示している。
【0024】
すなわち、摺動が進むに従って摩擦係数が上昇するのは、樹脂の転写によってフッ素化合物の働きを低下させることによる。また、樹脂の転写に対応するように、外層樹脂1の摺動面には樹脂変形の痕跡が観察された。
【0025】
そこで、第一段階は樹脂の摩耗量が急激に増加する傾向を抑えることを目的として、摺動が進んでも樹脂変形が生じにくくなるように、まず、引張強度σrが従来に比べて高い樹脂母材1aで樹脂被覆ロープ3を作製した。そして、摺動試験により従来と比較検討した。
【0026】
図5は摺動によって生じる樹脂変形を表わす模式図である。本図において、樹脂母材1aとシーブメッキ層2bとが(a)部分的に直接接触して(b)摺動する際、(c)凝着した樹脂母材1aが、(d)変形して破断する。
【0027】
通常、摺動によって樹脂が変形して変形部7が破断するには、樹脂母材1aの持つ破壊抵抗値を超えなければならない。このため、破壊抵抗値、すなわち、破壊エネルギー(引張強度と破断伸びとの積に等しい)の大きい樹脂は、摺動による摩耗量が少ないと考えられる。
【0028】
一般に、破断伸びに関しては、樹脂の材質が同じであれば大きな違いは見られないため、引張強度σrを上げることで破壊エネルギーを大きくすることを考えた。
【0029】
本実施例では、防錆、耐摩耗性などの観点から、シーブ2の表面部材としてシーブメッキ層2bを設けたが、シーブメッキ層2bは必ずしも設ける必要はなく、シーブ母材2aをシーブ2の表面部材として露出させてもよい。すなわち、シーブ2の表面部材は、シーブメッキ層2bがない場合、シーブ母材2aを構成する金属、樹脂、セラミックスなどであり、シーブメッキ層2bがある場合は、シーブメッキ層2bを構成する金属、樹脂、セラミックスなどのメッキ材である。
【0030】
図6に摺動試験で得られた外層樹脂1の摩耗量と樹脂母材1aの引張強度σrとの関係を示す。本図において樹脂母材1aの材質は、熱可塑性ポリウレタンである。本図からわかるように、外層樹脂1の摩耗量は、樹脂母材1aの引張強度σrが大きくなると少なくなる。そして、その傾向は引張強度σrが25MPaを境に大きく変化する。すなわち、樹脂母材1aの引張強度σrが25MPaを下回ると外層樹脂1の摩耗量は急激に増加することから、摩耗を抑制する上で樹脂母材1aに必要な引張強度σrは25MPa以上であることがわかる。
【0031】
ここで、引張強度σrは、JIS K7311(ポリウレタン系熱可塑性エラストマーの試験方法)に準拠して測定した。
【0032】
さらに、第二段階として、樹脂母材1aに不溶固体添加物1bを混ぜることによって、外層樹脂1とシーブメッキ層2bとの直接接触を極力少なくすることを試みた。すなわち、外層樹脂1にフィラー添加樹脂材を用いることで、次に示す二つの作用によって低摩耗特性の実現を図った。
(1)樹脂母材1aとシーブメッキ層2bとの間に隙間を存在させ、外層樹脂1とシーブメッキ層2bとの直接接触を極力少なくする。
(2)シーブメッキ層2bを引っ掻くことにより、シーブメッキ層2bに含まれるフッ素化合物を外層樹脂1に転写させ、転写したフッ素化合物によって摩擦や摩耗を抑制する。
【0033】
作用(1)により摩耗量の低減を実現するには、少なくとも樹脂母材1aより硬質な不溶固体添加物1bを混ぜること、および、不溶固体添加物1bの粒径や含有率を大きくして樹脂母材1aを保護することが重要である。また、形状に関しては、シーブメッキ層2bを損傷しにくく、樹脂母材1aから脱落しにくいことが重要である。
【0034】
一方、作用(2)により摩耗量の低減を実現するには、少なくともシーブメッキ層2bより硬質な不溶固体添加物1bが必要であるが、シーブメッキ層2bを損傷させることから、フッ素化合物の転写量は必要最小限に留めることが重要である。
【0035】
そして、運転初期において外層樹脂1へのフッ素化合物の転写は十分でないため、摺動の初期段階では作用(1)によって、その後の段階では作用(2)によって長期間安定な低摩耗特性を実現可能とする。
【0036】
したがって、不溶固体添加物1bは、(a)材質、(b)大きさ、(c)形状、(d)含有率の各パラメータに関して、作用(1)、(2)が成り立つ適切な材料を選択する必要がある。
【0037】
図7は、フィラー添加樹脂材を用いた場合の外層樹脂の摩擦・摩耗特性を表わす図である。また、図8は、外層樹脂の摩耗量と不溶固体添加物の硬度の関係を表わす図である。これらは不溶固体添加物1bの材質、大きさおよび形状に関するそれぞれの影響度合についての検討結果の一例である。摺動試験は、タルク、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウムおよびアルミナのフィラーをそれぞれ混合した外層樹脂1を用いて行い、各々の樹脂被覆ロープ3とシーブ2との間の摩擦係数および外層樹脂1の摩耗特性を調べた。
【0038】
その結果、図7(a)に示すように、図示した不溶固体添加物1bの範囲においては、摩擦係数が高い順に、炭酸カルシウム、次にタルクおよび水酸化マグネシウムが同等、そしてアルミナである。摺動に伴う摩擦係数の変化の傾向については、フィラーを混合した効果は見られるものの、炭酸カルシウム、タルクおよび水酸化マグネシウムにおいては依然上昇する傾向がある。一方、アルミナの変化の傾向はこれらと異なって、摺動開始後に摩擦係数は低下し、その後ほぼ一定値を保つことがわかった。
【0039】
摩耗特性については、図7(b)に示す通りであり、摩擦係数の変化に対応するように、摩耗量が大きい方から順に、炭酸カルシウム、次にタルクおよび水酸化マグネシウムが同等、アルミナである。低摩擦係数を示したアルミナについては、摩耗量の増加が停止する傾向が見られる。
【0040】
そこで、これらの不溶固体添加物1bによる影響を考える上で、材料特性のうち特に硬度に着目し、摩耗量の関係を不溶固体添加物1bの硬度で整理した。そのグラフが図8である。横軸にモース硬度、縦軸に外層樹脂の摩耗量をとっている。
【0041】
本図によると、シーブメッキ層2bの硬度よりも低く、かつ、その硬度に近い炭酸カルシウムの場合は、摺動による摩耗量が大きいことがわかった。これは、低い側で硬度が近いと、摺動面においてシーブメッキ層2bと不溶固体添加物1bとが凝着しやすくなるため、不溶固体添加物1bが樹脂母材1aから脱落し、その後の摺動によって摩耗量が増加するものと考える。一方、大きさおよび形状については、図7および図8に示す結果からわかるように、摩耗量に及ぼすこれらの影響は、材質、すなわち硬度の影響を上回ることはないと言える。
【0042】
したがって、これらのことから、樹脂被覆ロープ3とシーブ2との間の摩擦係数および外層樹脂1の摩耗特性を制御する場合、不溶固体添加物1bの材質が重要な影響因子となる。不溶固体添加物1bの大きさについては樹脂母材1aの材料強度を低下させない範囲、不溶固体添加物1bの形状については樹脂母材1aから脱落しにくい範囲で考慮すればよいと考える。
【0043】
図9に、ロープの外層樹脂1表面のオージェ電子分光器による元素分析結果を示す。不溶固体添加物1bはアルミナの場合である。炭素、酸素、ニッケルおよびフッ素について元素分析を行った結果である。
【0044】
不溶固体添加物1bがアルミナのようにシーブメッキ層2bよりも硬い材質の場合では、本図に示す分析結果からわかるように、摺動後の外層樹脂1の表面にはシーブメッキ層2bに含まれるフッ素化合物が転写している。この転写が図7に示した低摩擦係数および低摩耗特性を生むものと考える。
【0045】
図7に示した不溶固体添加物1bの範囲では、アルミナ以外の不溶固体添加物1bの場合にはこのような転写が見られないことから、摺動によってシーブメッキ層2bのフッ素化合物を外層樹脂1に転写させるには、シーブメッキ層2bよりも硬い材質の不溶固体添加物1bの存在が必要であると言える。
【0046】
次に、不溶固体添加物1bの含有率についての影響度合を検討した。図10は、不溶固体添加物1bにアルミナフィラーを用いた場合の、樹脂被覆ロープ3とシーブ2との間の摩擦係数および外層樹脂1の摩耗特性に及ぼす含有率の影響について検討した結果を示したものである。不溶固体添加物1bの含有率が0.03、0.09、および0.21vol%の場合を示し、0vol%の場合と比較している。本図からわかるように、0.03vol%(体積パーセント)から顕著な効果が現れる。0.03vol%以上においては、含有率によらず、摺動初期段階の摩擦係数の低下時期について多少相違が見られるものの、摩擦係数はほぼ同程度である。また、外層樹脂1の摩耗量については、摩擦係数を反映していずれの含有率においても同程度である。
【0047】
一方、この試験範囲における不溶固体添加物1bの含有率に対して、シーブ表面のメッキ層2bがどの程度損傷を受けるかについても検討を行った。シーブメッキ層2bの損傷評価は、樹脂被覆ロープ3およびシーブ2を300m摺動後、シーブメッキ層2bの表面粗さの測定および走査型電子顕微鏡による表面観察を行い、摺動前の状態と比較して検討した。300m摺動後とは、20年使用した後の状態に相当する。
【0048】
図11は、摺動によるシーブメッキ層表面粗さの変化を示す図である。横軸にアルミナ含有率、縦軸にシーブ表面粗さRaをとっている。本図に示すように、含有率が0.03vol%ではほとんどシーブメッキ層2bを損傷することなく、フッ素化合物を外層樹脂1に転写させることが可能であることがわかった。また、含有率が0.21vol%まではシーブメッキ層2bの表面粗さの低下が0.5μm程度に収まっていることがわかった。
【0049】
以上の検討結果から、摺動によりフッ素化合物が外層樹脂1に転写し、かつシーブメッキ層2bの表面粗さを変えないことを条件とすると、不溶固体添加物1bの含有率については、0.03vol%以上0.21vol%以下が適切な量であると考える。アルミナ含有量が0.21vol%の場合、シーブ表面粗さRaを8.3μmに抑えることができるため、油付着時の摩擦係数に関して問題が生じないからである。さらに、シーブの信頼性の観点から、表面凹凸の20年後の摩損率を表面粗さRa基準で−5%に抑えたい。すなわち、シーブ表面粗さRaを8.3μm以上に保持したいという要求があるからである。また、含有率の更に望ましい範囲は、0.03vol%以上0.09vol%以下である。
【0050】
さらに、アルミナフィラーの含有率が同じ0.03vol%で樹脂母材1aの引張強度σrが異なる外層樹脂1を用いて、樹脂被覆ロープ3とシーブ2との間の摩擦係数および外層樹脂1の摩耗特性を調べた。図12は、樹脂母材1aの引張強度による摩擦係数および摩耗特性を比較したグラフである。本図では、樹脂母材1aの引張強度σrが19MPaの場合と34MPaの場合とを比較している。
【0051】
これによると、アルミナフィラーを0.03vol%含有しても、樹脂母材1aの引張強度σrが19MPaの場合、外層樹脂1の摩耗量は早期に増加することがわかる。この場合、摩擦係数が摺動の初期段階で低下する傾向を示すとともに、アルミナフィラーを保持する樹脂母材1aの変形も起こることから、外層樹脂1へのフッ素化合物の転写よりもアルミナフィラーの脱落および樹脂の変形によるものと考える。
【0052】
したがって、外層樹脂1の摩耗を低減するには、不溶固体添加物1bを混合するとともに、引張強度σrが高く、不溶固体添加物1bの脱落や樹脂母材1aの変形が生じにくい樹脂母材1aを使用することが必要である。
【0053】
以上のように、引張強度σrが25MPa以上の樹脂を樹脂母材1aにし、かつシーブメッキ層2bよりも硬い不溶固体添加物1b(フィラー)を添加することで、外層樹脂1の低摩耗特性を実現することが可能となる。
【0054】
一方、この手段が樹脂母材1aの硬度を上げて油が付着した時の摩擦係数の低下を抑えるメカニズムに負の影響を及ぼさないかを検証する必要がある。
【0055】
図13に、図6で述べた摺動試験結果のうち、引張強度σrが20MPa程度の外層樹脂1を用いて得られた結果を、油が付着した時の摩擦係数と樹脂母材1aの硬度Hrの関係で整理したグラフを示す。本図から、エレベータのトラクションに必要な摩擦係数は、樹脂硬度94(JIS‐Aスケール)以上の樹脂母材1aを用いることで実現可能であることがわかる。
【0056】
ここで、樹脂硬度は、JIS K7311(ポリウレタン系熱可塑性エラストマーの試験方法)に準拠して測定した。
【0057】
そこで、この値以上の硬度を有する樹脂母材1aに対して、硬度Hrを変えずに引張強度σrを25MPa以上に引き上げ、かつアルミナフィラーを添加した場合、油が付着した時の摩擦係数にどの程度影響を及ぼすかを確認した。摺動試験は、引張強度σrが34MPa、硬度Hrが97(JIS‐Aスケール)の樹脂母材1aにアルミナフィラーの含有率をそれぞれ0.03、0.09、および0.21vol%とした外層樹脂1を製作し、それぞれの樹脂被覆ロープ3について行った。
【0058】
図14にその試験結果を示す。それぞれのアルミナフィラー含有率に対して、油が付着していない清浄時で28℃の場合、油が付着し、温度が28℃および50℃の場合について摩擦係数を示している。本図からわかるように、清浄時の摩擦係数はアルミナフィラーの含有が多くなると若干上昇する傾向を示す。しかし、油が付着した時の摩擦係数については大きな違いが見られないこと、また、その値が図13の樹脂硬度97(JIS‐Aスケール)における値とほぼ同等であることから、アルミナフィラーの添加や引張強度σrの引き上げは、油が付着した時の摩擦係数の低下を抑えるメカニズムに負の影響を及ぼさないと言える。
【0059】
したがって、引張強度σrが25MPa以上、硬度Hrが94(JIS‐Aスケール)以上の樹脂母材1aにシーブメッキ層2bよりも硬いフィラーを添加することで、油が付着した時の摩擦係数の低下を抑制し、かつ耐摩耗性に優れた外層樹脂1を有する樹脂被覆ロープ3を実現することが可能となる。
【0060】
これまでは、樹脂母材1aに熱可塑性ポリウレタンを採用した実施例について説明したが、必ずしも樹脂母材1aは熱可塑性ポリウレタンに限られるものではない。以下に示すように、外層樹脂1の摩耗量は材質によらず引張強度σrによって規定されるので、オレフィン系やスチレン系などの高分子エラストマーでも引張強度σrが25MPa以上、硬度Hrが94(JIS‐Aスケール)以上あれば、油が付着した時の摩擦係数の低下を抑制し、かつ耐摩耗性に優れた外層樹脂1を有する樹脂被覆ロープ3を実現することが可能となる。
【0061】
図15にピンオンディスク摩耗試験で得られた熱可塑性ポリウレタン、オレフィン系エラストマー、およびスチレン系エラストマーのそれぞれの摩耗量とそれらの引張強度σrとの関係を示す。ここで、ピンオンディスク摩耗試験は、JIS K7218(プラスチックの滑り摩耗試験方法)に準拠して行った。この摩耗試験における接触面の状態を、図1を用いて説明すると、ピン側を外層樹脂1とし、ディスク側をシーブメッキ層2bとしている。
【0062】
図15からわかるように、これらの摩耗量は、引張強度σrが大きくなると少なくなる。そして、その傾向は引張強度σrが25MPaを境に大きく変化する。この変化は高分子エラストマーの種類によらず同等である。このことから、樹脂母材1aの引張強度σrが25MPaより低くなった場合に外層樹脂1の摩耗量が急激に増加する傾向は材質によらないことがわかる。
【0063】
本発明のロープおよびベルトは、エレベータなどの昇降装置に用いるものとして記載してあるが、これに用途を限定するものではなく、重量物を支えるロープおよびベルトとして幅広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明による実施例を示すロープの樹脂被覆体とシーブ溝面との接触状態の断面図である。
【図2】従来の一般的な樹脂を用いた場合の摩擦係数および摩耗特性を表わすグラフである。
【図3】回転式摩耗試験機の概略構成図である。
【図4】オージェ電子分光器によるシーブメッキ層表面の元素分析結果である。
【図5】摺動によって生じる樹脂変形を表わす模式図である。
【図6】外層樹脂の摩耗量と樹脂母材の引張強度の関係を示すグラフである。
【図7】不溶固体添加物を用いた場合の摩擦係数および摩耗特性を示すグラフである。
【図8】外層樹脂の摩耗量と不溶固体添加物の硬度との関係を示すグラフである。
【図9】オージェ電子分光器によるロープの外層樹脂表面の元素分析結果である。
【図10】アルミナフィラー含有率による摩擦係数および摩耗特性を比較するグラフである。
【図11】摺動によるシーブメッキ層の表面粗さの変化を示すグラフである。
【図12】樹脂母材の引張強度による摩擦係数および摩耗特性を比較するグラフである。
【図13】油が付着した時の摩擦係数と樹脂母材の硬度の関係を示すグラフである。
【図14】アルミナフィラー含有率による摩擦係数を比較するグラフである。
【図15】高分子エラストマーの摩耗量と引張強度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0065】
1:外層樹脂、1a:樹脂母材、1b:不溶固体添加物、2:シーブ、2a:シーブ母材、2b:メッキ層、3:樹脂被覆ロープ、4:おもり、5:ロードセル、6:架台、7:樹脂変形部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータ用ロープおよびエレベータ用ベルトに関し、特に、昇降部を吊るす主索等を対象とした樹脂被覆ロープおよびベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の樹脂被覆ロープおよびベルトにおいては、例えば、特許文献1または特許文献2に示すように、抗張体を摩耗損傷から保護する被覆体は、耐摩耗性が高く、柔軟性に富んだ樹脂で構成されている。この場合、ロープまたはベルトの外層樹脂と駆動力伝達部であるシーブの溝面との直接接触になるため、摺動面に両者の凝着により大きな摩擦力が生まれる。摩擦力は、駆動力伝達に不可欠であるが、摺動による摩耗、特に樹脂の摩耗を促進してしまう。
【0003】
このため、上記の摩擦と摩耗との相反する関係に対して、摺動面における摩擦係数を適切に設定する必要がある。エレベータの駆動システムの場合、特許文献3に示すように、ロープと接触するシーブ(綱車)の溝面を適度に粗し、フッ素化合物を含んだニッケル−リン金属間化合物を無電解メッキして摩擦および摩耗の適正化を図っている。しかしながら、現状の樹脂では、初期の段階においては比較的安定するものの、その後、エレベータの稼働時間に伴って、摩擦係数の上昇および摩耗量の急激な増加が見られ、長期的に安定なトラクションを得るには至っていない。
【0004】
また、特許文献4には、単位断面積当たりの強度が高く、シーブとの良好な摩擦接触を実現するため、被覆芯シェンケルの周りに複数本の側シェンケルを配置し、被覆芯シェンケルと側シェンケルとで囲まれたスペースに細径の複数本の第1フィラーストランドを配置し、側シェンケル間の外形側の谷間に細径の複数本の第2フィラーストランドを配置し、側シェンケルを囲む高分子化合物の外装被覆を備えたワイヤロープが開示されている。
【0005】
また、特許文献5には、高摩擦材として、シリカ粉末、黒鉛、炭素粉末窒化ホウ素粉末、チタン酸カリウム繊維またはチタン酸カリウムウィスカーを充填したウレタン樹脂を被覆したエレベータ用トラクションシーブが開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2001−262482号公報
【特許文献2】PCT WO99/43885
【特許文献3】特開2007−284237号公報
【特許文献4】特開2003−268685号公報
【特許文献5】特開2004−106984号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
長手方向に掛かる張力を受け持つ抗張体すなわち鋼線と、駆動力伝達部との摺動による摩耗を鋼線から保護する被覆体、すなわち樹脂の役割を完全に分離している樹脂被覆ロープまたはベルトにおいては、駆動力伝達部と接している外層樹脂は、駆動力を鋼線に伝達するために所定の摩擦係数を維持するとともに、高い耐摩耗性も有していなければならない。ロープまたはベルトを被覆する樹脂は、長期間にわたってあらゆる環境下で摩擦係数の安定化の実現と耐摩耗性に優れていることが必要不可欠である。特に、エレベータの駆動システムの場合、ロープとシーブとの接触面に潤滑油が付着する環境が想定されるが、この場合に、摩擦係数は最も低下する。
【0008】
したがって、両者間のトラクション特性で第一に必要なのは、油が付着した状態での摩擦係数を所定の値以上に確保することである。このため、潤滑油が付着しても摩擦係数を大幅に下げないことを目的として、シーブ溝面には所定の表面粗さが施されている。一方で、シーブ溝面の表面粗さすなわち凹凸はロープまたはベルトの外層樹脂の摩耗を速めるため、樹脂にはこの凹凸の摺動に打ち勝つ摩耗特性が必要となる。樹脂被覆ロープまたはベルトの長期間における信頼性を実現するには、油が付着した時の摩擦係数を確保するとともに、所定の表面粗さを有するシーブ溝面に対して摩耗を一定限度に抑えることが求められる。
【0009】
本発明は、樹脂被覆体を有するロープまたはベルトの、摺動に対する摩擦係数を安定させるとともに、耐摩耗性を向上させ、あらゆる環境下で長期的に安定なトラクションを維持できる、信頼性の高いロープまたはベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のロープまたはベルトは、長手方向に掛かる張力を受け持つ抗張体と、該抗張体を摩耗損傷から保護する樹脂被覆体とを含み、該樹脂被覆体が、樹脂母材に不溶固体添加物粒子を混合したものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、樹脂被覆ロープまたはベルトにおける被覆体に、摺動に対する摩擦係数が安定的で、かつ耐摩耗性に優れた樹脂を提供することができるため、あらゆる環境下で長期的に安定なトラクションを維持できる樹脂被覆ロープまたはベルトを実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
人や重量物などの被移動物を高低差のある場所に移動させるためのエレベータなどの昇降装置に用いる、本発明のロープまたはベルトは、被移動物の重量を支えるため、鋼線などで形成された抗張体と、該抗張体を摩耗損傷から保護する樹脂被覆体とを含む。
【0013】
潤滑油が付着しても摩擦係数が大幅に下がらず、摺動による樹脂の摩耗が少ないロープまたはベルトは、下記の手段で得られる。
【0014】
第一に、油が付着した時に摩擦係数の低下を防ぐには、ロープまたはベルトの外層樹脂とシーブ溝面との接触部の微小な隙間(摩擦面)から油を排除することである。元来、ロープまたはベルトの外層樹脂とシーブ溝面との接触では、両者が凝着することにより摩擦係数は大きくなるため、潤滑油が付着しても摩擦面から油を排除して清浄状態に近づければ、トラクションに必要な摩擦力を確保することが可能となる。摩擦面から油を排除するには、樹脂の硬度を上げて両者の微小な接触面に発生する面圧を高めることが有効である。硬度が高い場合、変形は小さく樹脂が凹まないため、接触面積が小さくなる。その結果、面圧が上がる。
【0015】
第二に、摺動による樹脂の摩耗は摩擦面における変形によって生じるため、まず、樹脂の引張強度を上げること、さらに、樹脂母材とシーブ溝面との直接接触を極力避けることで樹脂の変形を抑える。これにより摩耗量を低減することが可能となる。樹脂母材とシーブ溝面との直接接触を避けるには、樹脂母材にそれよりも硬い別の固形材を混合し、複合材料を形成することで実現することができる。
【0016】
上記の手段において、樹脂の硬度を上げること、樹脂の引張強度を上げること、および、その樹脂に固形材を混ぜることは互いに相反する関係にはないため、これらの手段を同時に実施することは可能である。したがって、上記の手段を同時に実施すれば、潤滑油が付着しても摩擦係数が大幅には低下せず、かつ、耐摩耗性の高い樹脂を得ることが可能となる。
【0017】
以下、図を用いて実施例を説明する。
【実施例】
【0018】
図1は、本発明の実施例を示すロープ外層被覆樹脂の構成図である。樹脂被覆ロープまたはベルトの外層樹脂1は、樹脂母材1aと不溶固体添加物1bとを含む。本実施例においては、樹脂母材1aには熱可塑性ポリウレタンを、不溶固体添加物1bにはアルミナフィラーを採用した。外層樹脂1に接するシーブ2は、シーブ母材2aの表面にシーブメッキ層2bを設けたものである。不溶固体添加物1bの形状は、外層樹脂1とシーブ2とが摺動する際にシーブ表面のシーブメッキ層2bを必要以上に損傷しないように、また、樹脂母材1aから脱落しにくいように、球形もしくはそれ相当の形が望ましい。
【0019】
ここで、外層樹脂1は樹脂被覆体と呼んでもよい。
【0020】
シーブ2の表面に、シーブメッキ層2bとしてフッ素化合物を含んだニッケル−リン金属間化合物を無電解メッキした場合、外層樹脂1とシーブメッキ層2bとの間の摩擦係数は、極めて低い摩擦係数を有するフッ素化合物の働きで、シーブメッキ層2bに表面粗さRa=8〜9μm程度の凹凸が存在しても大きくならない。また、これらの接触面に潤滑油が付着しても、清浄時に比べて1/1.2の低下に抑えることが可能であると特許文献3に示されている。
【0021】
しかしながら、外層樹脂1を樹脂母材1aのみで構成した場合は、摺動が進むに従って、両者間の摩擦係数が急上昇し、それに伴って樹脂の摩耗量も劇的に増加する。従来の一般的な樹脂を用いた場合の摩擦係数および摩耗量の変化を図2に示す。本図の場合、摺動距離が60mに達する間に摩擦係数が急激に増加し、摩耗が進行してしまう。
【0022】
図3は、回転式摩耗試験機の概略図を示したものである。本図において外層樹脂1の摩耗特性は、樹脂被覆ロープ3の一端に張力を掛け、架台6上に設置したシーブ2を回転させて行う摺動試験によって測定した。摩擦係数は、おもり4の重量と樹脂被覆ロープ3の他端に設けたロードセル5の荷重値とから算出した。
【0023】
図4は、摺動後のシーブメッキ層表面をオージェ電子分光器により元素分析した結果を示したものである。横軸はスパッタリング時間によってシーブメッキ層の深さを表し、縦軸は、炭素(C)、酸素(O)、リン(P)、ニッケル(Ni)およびフッ素(F)の元素濃度を示している。本図から、シーブメッキ層表面近傍の炭素および酸素の濃度が高くなっていることがわかる。これはロープ3からシーブメッキ層2bの摺動面に樹脂が転写されたことを示している。
【0024】
すなわち、摺動が進むに従って摩擦係数が上昇するのは、樹脂の転写によってフッ素化合物の働きを低下させることによる。また、樹脂の転写に対応するように、外層樹脂1の摺動面には樹脂変形の痕跡が観察された。
【0025】
そこで、第一段階は樹脂の摩耗量が急激に増加する傾向を抑えることを目的として、摺動が進んでも樹脂変形が生じにくくなるように、まず、引張強度σrが従来に比べて高い樹脂母材1aで樹脂被覆ロープ3を作製した。そして、摺動試験により従来と比較検討した。
【0026】
図5は摺動によって生じる樹脂変形を表わす模式図である。本図において、樹脂母材1aとシーブメッキ層2bとが(a)部分的に直接接触して(b)摺動する際、(c)凝着した樹脂母材1aが、(d)変形して破断する。
【0027】
通常、摺動によって樹脂が変形して変形部7が破断するには、樹脂母材1aの持つ破壊抵抗値を超えなければならない。このため、破壊抵抗値、すなわち、破壊エネルギー(引張強度と破断伸びとの積に等しい)の大きい樹脂は、摺動による摩耗量が少ないと考えられる。
【0028】
一般に、破断伸びに関しては、樹脂の材質が同じであれば大きな違いは見られないため、引張強度σrを上げることで破壊エネルギーを大きくすることを考えた。
【0029】
本実施例では、防錆、耐摩耗性などの観点から、シーブ2の表面部材としてシーブメッキ層2bを設けたが、シーブメッキ層2bは必ずしも設ける必要はなく、シーブ母材2aをシーブ2の表面部材として露出させてもよい。すなわち、シーブ2の表面部材は、シーブメッキ層2bがない場合、シーブ母材2aを構成する金属、樹脂、セラミックスなどであり、シーブメッキ層2bがある場合は、シーブメッキ層2bを構成する金属、樹脂、セラミックスなどのメッキ材である。
【0030】
図6に摺動試験で得られた外層樹脂1の摩耗量と樹脂母材1aの引張強度σrとの関係を示す。本図において樹脂母材1aの材質は、熱可塑性ポリウレタンである。本図からわかるように、外層樹脂1の摩耗量は、樹脂母材1aの引張強度σrが大きくなると少なくなる。そして、その傾向は引張強度σrが25MPaを境に大きく変化する。すなわち、樹脂母材1aの引張強度σrが25MPaを下回ると外層樹脂1の摩耗量は急激に増加することから、摩耗を抑制する上で樹脂母材1aに必要な引張強度σrは25MPa以上であることがわかる。
【0031】
ここで、引張強度σrは、JIS K7311(ポリウレタン系熱可塑性エラストマーの試験方法)に準拠して測定した。
【0032】
さらに、第二段階として、樹脂母材1aに不溶固体添加物1bを混ぜることによって、外層樹脂1とシーブメッキ層2bとの直接接触を極力少なくすることを試みた。すなわち、外層樹脂1にフィラー添加樹脂材を用いることで、次に示す二つの作用によって低摩耗特性の実現を図った。
(1)樹脂母材1aとシーブメッキ層2bとの間に隙間を存在させ、外層樹脂1とシーブメッキ層2bとの直接接触を極力少なくする。
(2)シーブメッキ層2bを引っ掻くことにより、シーブメッキ層2bに含まれるフッ素化合物を外層樹脂1に転写させ、転写したフッ素化合物によって摩擦や摩耗を抑制する。
【0033】
作用(1)により摩耗量の低減を実現するには、少なくとも樹脂母材1aより硬質な不溶固体添加物1bを混ぜること、および、不溶固体添加物1bの粒径や含有率を大きくして樹脂母材1aを保護することが重要である。また、形状に関しては、シーブメッキ層2bを損傷しにくく、樹脂母材1aから脱落しにくいことが重要である。
【0034】
一方、作用(2)により摩耗量の低減を実現するには、少なくともシーブメッキ層2bより硬質な不溶固体添加物1bが必要であるが、シーブメッキ層2bを損傷させることから、フッ素化合物の転写量は必要最小限に留めることが重要である。
【0035】
そして、運転初期において外層樹脂1へのフッ素化合物の転写は十分でないため、摺動の初期段階では作用(1)によって、その後の段階では作用(2)によって長期間安定な低摩耗特性を実現可能とする。
【0036】
したがって、不溶固体添加物1bは、(a)材質、(b)大きさ、(c)形状、(d)含有率の各パラメータに関して、作用(1)、(2)が成り立つ適切な材料を選択する必要がある。
【0037】
図7は、フィラー添加樹脂材を用いた場合の外層樹脂の摩擦・摩耗特性を表わす図である。また、図8は、外層樹脂の摩耗量と不溶固体添加物の硬度の関係を表わす図である。これらは不溶固体添加物1bの材質、大きさおよび形状に関するそれぞれの影響度合についての検討結果の一例である。摺動試験は、タルク、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウムおよびアルミナのフィラーをそれぞれ混合した外層樹脂1を用いて行い、各々の樹脂被覆ロープ3とシーブ2との間の摩擦係数および外層樹脂1の摩耗特性を調べた。
【0038】
その結果、図7(a)に示すように、図示した不溶固体添加物1bの範囲においては、摩擦係数が高い順に、炭酸カルシウム、次にタルクおよび水酸化マグネシウムが同等、そしてアルミナである。摺動に伴う摩擦係数の変化の傾向については、フィラーを混合した効果は見られるものの、炭酸カルシウム、タルクおよび水酸化マグネシウムにおいては依然上昇する傾向がある。一方、アルミナの変化の傾向はこれらと異なって、摺動開始後に摩擦係数は低下し、その後ほぼ一定値を保つことがわかった。
【0039】
摩耗特性については、図7(b)に示す通りであり、摩擦係数の変化に対応するように、摩耗量が大きい方から順に、炭酸カルシウム、次にタルクおよび水酸化マグネシウムが同等、アルミナである。低摩擦係数を示したアルミナについては、摩耗量の増加が停止する傾向が見られる。
【0040】
そこで、これらの不溶固体添加物1bによる影響を考える上で、材料特性のうち特に硬度に着目し、摩耗量の関係を不溶固体添加物1bの硬度で整理した。そのグラフが図8である。横軸にモース硬度、縦軸に外層樹脂の摩耗量をとっている。
【0041】
本図によると、シーブメッキ層2bの硬度よりも低く、かつ、その硬度に近い炭酸カルシウムの場合は、摺動による摩耗量が大きいことがわかった。これは、低い側で硬度が近いと、摺動面においてシーブメッキ層2bと不溶固体添加物1bとが凝着しやすくなるため、不溶固体添加物1bが樹脂母材1aから脱落し、その後の摺動によって摩耗量が増加するものと考える。一方、大きさおよび形状については、図7および図8に示す結果からわかるように、摩耗量に及ぼすこれらの影響は、材質、すなわち硬度の影響を上回ることはないと言える。
【0042】
したがって、これらのことから、樹脂被覆ロープ3とシーブ2との間の摩擦係数および外層樹脂1の摩耗特性を制御する場合、不溶固体添加物1bの材質が重要な影響因子となる。不溶固体添加物1bの大きさについては樹脂母材1aの材料強度を低下させない範囲、不溶固体添加物1bの形状については樹脂母材1aから脱落しにくい範囲で考慮すればよいと考える。
【0043】
図9に、ロープの外層樹脂1表面のオージェ電子分光器による元素分析結果を示す。不溶固体添加物1bはアルミナの場合である。炭素、酸素、ニッケルおよびフッ素について元素分析を行った結果である。
【0044】
不溶固体添加物1bがアルミナのようにシーブメッキ層2bよりも硬い材質の場合では、本図に示す分析結果からわかるように、摺動後の外層樹脂1の表面にはシーブメッキ層2bに含まれるフッ素化合物が転写している。この転写が図7に示した低摩擦係数および低摩耗特性を生むものと考える。
【0045】
図7に示した不溶固体添加物1bの範囲では、アルミナ以外の不溶固体添加物1bの場合にはこのような転写が見られないことから、摺動によってシーブメッキ層2bのフッ素化合物を外層樹脂1に転写させるには、シーブメッキ層2bよりも硬い材質の不溶固体添加物1bの存在が必要であると言える。
【0046】
次に、不溶固体添加物1bの含有率についての影響度合を検討した。図10は、不溶固体添加物1bにアルミナフィラーを用いた場合の、樹脂被覆ロープ3とシーブ2との間の摩擦係数および外層樹脂1の摩耗特性に及ぼす含有率の影響について検討した結果を示したものである。不溶固体添加物1bの含有率が0.03、0.09、および0.21vol%の場合を示し、0vol%の場合と比較している。本図からわかるように、0.03vol%(体積パーセント)から顕著な効果が現れる。0.03vol%以上においては、含有率によらず、摺動初期段階の摩擦係数の低下時期について多少相違が見られるものの、摩擦係数はほぼ同程度である。また、外層樹脂1の摩耗量については、摩擦係数を反映していずれの含有率においても同程度である。
【0047】
一方、この試験範囲における不溶固体添加物1bの含有率に対して、シーブ表面のメッキ層2bがどの程度損傷を受けるかについても検討を行った。シーブメッキ層2bの損傷評価は、樹脂被覆ロープ3およびシーブ2を300m摺動後、シーブメッキ層2bの表面粗さの測定および走査型電子顕微鏡による表面観察を行い、摺動前の状態と比較して検討した。300m摺動後とは、20年使用した後の状態に相当する。
【0048】
図11は、摺動によるシーブメッキ層表面粗さの変化を示す図である。横軸にアルミナ含有率、縦軸にシーブ表面粗さRaをとっている。本図に示すように、含有率が0.03vol%ではほとんどシーブメッキ層2bを損傷することなく、フッ素化合物を外層樹脂1に転写させることが可能であることがわかった。また、含有率が0.21vol%まではシーブメッキ層2bの表面粗さの低下が0.5μm程度に収まっていることがわかった。
【0049】
以上の検討結果から、摺動によりフッ素化合物が外層樹脂1に転写し、かつシーブメッキ層2bの表面粗さを変えないことを条件とすると、不溶固体添加物1bの含有率については、0.03vol%以上0.21vol%以下が適切な量であると考える。アルミナ含有量が0.21vol%の場合、シーブ表面粗さRaを8.3μmに抑えることができるため、油付着時の摩擦係数に関して問題が生じないからである。さらに、シーブの信頼性の観点から、表面凹凸の20年後の摩損率を表面粗さRa基準で−5%に抑えたい。すなわち、シーブ表面粗さRaを8.3μm以上に保持したいという要求があるからである。また、含有率の更に望ましい範囲は、0.03vol%以上0.09vol%以下である。
【0050】
さらに、アルミナフィラーの含有率が同じ0.03vol%で樹脂母材1aの引張強度σrが異なる外層樹脂1を用いて、樹脂被覆ロープ3とシーブ2との間の摩擦係数および外層樹脂1の摩耗特性を調べた。図12は、樹脂母材1aの引張強度による摩擦係数および摩耗特性を比較したグラフである。本図では、樹脂母材1aの引張強度σrが19MPaの場合と34MPaの場合とを比較している。
【0051】
これによると、アルミナフィラーを0.03vol%含有しても、樹脂母材1aの引張強度σrが19MPaの場合、外層樹脂1の摩耗量は早期に増加することがわかる。この場合、摩擦係数が摺動の初期段階で低下する傾向を示すとともに、アルミナフィラーを保持する樹脂母材1aの変形も起こることから、外層樹脂1へのフッ素化合物の転写よりもアルミナフィラーの脱落および樹脂の変形によるものと考える。
【0052】
したがって、外層樹脂1の摩耗を低減するには、不溶固体添加物1bを混合するとともに、引張強度σrが高く、不溶固体添加物1bの脱落や樹脂母材1aの変形が生じにくい樹脂母材1aを使用することが必要である。
【0053】
以上のように、引張強度σrが25MPa以上の樹脂を樹脂母材1aにし、かつシーブメッキ層2bよりも硬い不溶固体添加物1b(フィラー)を添加することで、外層樹脂1の低摩耗特性を実現することが可能となる。
【0054】
一方、この手段が樹脂母材1aの硬度を上げて油が付着した時の摩擦係数の低下を抑えるメカニズムに負の影響を及ぼさないかを検証する必要がある。
【0055】
図13に、図6で述べた摺動試験結果のうち、引張強度σrが20MPa程度の外層樹脂1を用いて得られた結果を、油が付着した時の摩擦係数と樹脂母材1aの硬度Hrの関係で整理したグラフを示す。本図から、エレベータのトラクションに必要な摩擦係数は、樹脂硬度94(JIS‐Aスケール)以上の樹脂母材1aを用いることで実現可能であることがわかる。
【0056】
ここで、樹脂硬度は、JIS K7311(ポリウレタン系熱可塑性エラストマーの試験方法)に準拠して測定した。
【0057】
そこで、この値以上の硬度を有する樹脂母材1aに対して、硬度Hrを変えずに引張強度σrを25MPa以上に引き上げ、かつアルミナフィラーを添加した場合、油が付着した時の摩擦係数にどの程度影響を及ぼすかを確認した。摺動試験は、引張強度σrが34MPa、硬度Hrが97(JIS‐Aスケール)の樹脂母材1aにアルミナフィラーの含有率をそれぞれ0.03、0.09、および0.21vol%とした外層樹脂1を製作し、それぞれの樹脂被覆ロープ3について行った。
【0058】
図14にその試験結果を示す。それぞれのアルミナフィラー含有率に対して、油が付着していない清浄時で28℃の場合、油が付着し、温度が28℃および50℃の場合について摩擦係数を示している。本図からわかるように、清浄時の摩擦係数はアルミナフィラーの含有が多くなると若干上昇する傾向を示す。しかし、油が付着した時の摩擦係数については大きな違いが見られないこと、また、その値が図13の樹脂硬度97(JIS‐Aスケール)における値とほぼ同等であることから、アルミナフィラーの添加や引張強度σrの引き上げは、油が付着した時の摩擦係数の低下を抑えるメカニズムに負の影響を及ぼさないと言える。
【0059】
したがって、引張強度σrが25MPa以上、硬度Hrが94(JIS‐Aスケール)以上の樹脂母材1aにシーブメッキ層2bよりも硬いフィラーを添加することで、油が付着した時の摩擦係数の低下を抑制し、かつ耐摩耗性に優れた外層樹脂1を有する樹脂被覆ロープ3を実現することが可能となる。
【0060】
これまでは、樹脂母材1aに熱可塑性ポリウレタンを採用した実施例について説明したが、必ずしも樹脂母材1aは熱可塑性ポリウレタンに限られるものではない。以下に示すように、外層樹脂1の摩耗量は材質によらず引張強度σrによって規定されるので、オレフィン系やスチレン系などの高分子エラストマーでも引張強度σrが25MPa以上、硬度Hrが94(JIS‐Aスケール)以上あれば、油が付着した時の摩擦係数の低下を抑制し、かつ耐摩耗性に優れた外層樹脂1を有する樹脂被覆ロープ3を実現することが可能となる。
【0061】
図15にピンオンディスク摩耗試験で得られた熱可塑性ポリウレタン、オレフィン系エラストマー、およびスチレン系エラストマーのそれぞれの摩耗量とそれらの引張強度σrとの関係を示す。ここで、ピンオンディスク摩耗試験は、JIS K7218(プラスチックの滑り摩耗試験方法)に準拠して行った。この摩耗試験における接触面の状態を、図1を用いて説明すると、ピン側を外層樹脂1とし、ディスク側をシーブメッキ層2bとしている。
【0062】
図15からわかるように、これらの摩耗量は、引張強度σrが大きくなると少なくなる。そして、その傾向は引張強度σrが25MPaを境に大きく変化する。この変化は高分子エラストマーの種類によらず同等である。このことから、樹脂母材1aの引張強度σrが25MPaより低くなった場合に外層樹脂1の摩耗量が急激に増加する傾向は材質によらないことがわかる。
【0063】
本発明のロープおよびベルトは、エレベータなどの昇降装置に用いるものとして記載してあるが、これに用途を限定するものではなく、重量物を支えるロープおよびベルトとして幅広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明による実施例を示すロープの樹脂被覆体とシーブ溝面との接触状態の断面図である。
【図2】従来の一般的な樹脂を用いた場合の摩擦係数および摩耗特性を表わすグラフである。
【図3】回転式摩耗試験機の概略構成図である。
【図4】オージェ電子分光器によるシーブメッキ層表面の元素分析結果である。
【図5】摺動によって生じる樹脂変形を表わす模式図である。
【図6】外層樹脂の摩耗量と樹脂母材の引張強度の関係を示すグラフである。
【図7】不溶固体添加物を用いた場合の摩擦係数および摩耗特性を示すグラフである。
【図8】外層樹脂の摩耗量と不溶固体添加物の硬度との関係を示すグラフである。
【図9】オージェ電子分光器によるロープの外層樹脂表面の元素分析結果である。
【図10】アルミナフィラー含有率による摩擦係数および摩耗特性を比較するグラフである。
【図11】摺動によるシーブメッキ層の表面粗さの変化を示すグラフである。
【図12】樹脂母材の引張強度による摩擦係数および摩耗特性を比較するグラフである。
【図13】油が付着した時の摩擦係数と樹脂母材の硬度の関係を示すグラフである。
【図14】アルミナフィラー含有率による摩擦係数を比較するグラフである。
【図15】高分子エラストマーの摩耗量と引張強度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0065】
1:外層樹脂、1a:樹脂母材、1b:不溶固体添加物、2:シーブ、2a:シーブ母材、2b:メッキ層、3:樹脂被覆ロープ、4:おもり、5:ロードセル、6:架台、7:樹脂変形部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に掛かる張力を受け持つ抗張体と、該抗張体を摩耗損傷から保護するための樹脂被覆体とを含み、該樹脂被覆体が、樹脂母材に不溶固体添加物粒子を混合したものであることを特徴とするエレベータ用ロープ。
【請求項2】
前記不溶固体添加物粒子の硬度の値が、前記樹脂被覆体と接するシーブの表面部材の硬度の値よりも大きいことを特徴とする請求項1記載のエレベータ用ロープ。
【請求項3】
前記不溶固体添加物粒子が、アルミナ粒子、水酸化マグネシウム粒子、タルク粒子および炭酸カルシウム粒子から一種または複数種選択した粒子であることを特徴とする請求項1または2に記載のエレベータ用ロープ。
【請求項4】
前記不溶固体添加物粒子が略球状のアルミナ粒子であることを特徴とする請求項1または2に記載のエレベータ用ロープ。
【請求項5】
前記樹脂母材が高分子エラストマーであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のエレベータ用ロープ。
【請求項6】
前記樹脂母材がポリウレタンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のエレベータ用ロープ。
【請求項7】
前記樹脂被覆体が、前記不溶固体添加物粒子を0.03〜0.21vol%含有した被覆体で外層されたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のエレベータ用ロープ。
【請求項8】
前記樹脂母材の引張強度が25〜40MPaであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のエレベータ用ロープ。
【請求項9】
前記樹脂母材の硬度がJIS‐Aスケールで94〜97であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のエレベータ用ロープ。
【請求項10】
長手方向に掛かる張力を受け持つ抗張体と、該抗張体を摩耗損傷から保護するための樹脂被覆体とを含み、該樹脂被覆体が、樹脂母材に不溶固体添加物粒子を混合したものであることを特徴とするエレベータ用ベルト。
【請求項11】
前記不溶固体添加物粒子の硬度の値が、前記樹脂被覆体と接するシーブの表面部材の硬度の値よりも大きいことを特徴とする請求項10記載のエレベータ用ベルト。
【請求項12】
前記不溶固体添加物粒子が、アルミナ粒子、水酸化マグネシウム粒子、タルク粒子および炭酸カルシウム粒子から一種または複数種選択した粒子であることを特徴とする請求項10または11に記載のエレベータ用ベルト。
【請求項13】
前記不溶固体添加物粒子が略球状のアルミナ粒子であることを特徴とする請求項10または11に記載のエレベータ用ベルト。
【請求項14】
前記樹脂母材が高分子エラストマーであることを特徴とする請求項10〜13のいずれかに記載のエレベータ用ベルト。
【請求項15】
前記樹脂母材がポリウレタンであることを特徴とする請求項10〜13のいずれかに記載のエレベータ用ベルト。
【請求項16】
前記樹脂被覆体が、前記不溶固体添加物粒子を0.03〜0.21vol%含有した被覆体で外層されたことを特徴とする請求項10〜15のいずれかに記載のエレベータ用ベルト。
【請求項17】
前記樹脂母材の引張強度が25〜40MPaであることを特徴とする請求項10〜16のいずれかに記載のエレベータ用ベルト。
【請求項18】
前記樹脂母材の硬度がJIS‐Aスケールで94〜97であることを特徴とする請求項10〜17のいずれかに記載のエレベータ用ベルト。
【請求項1】
長手方向に掛かる張力を受け持つ抗張体と、該抗張体を摩耗損傷から保護するための樹脂被覆体とを含み、該樹脂被覆体が、樹脂母材に不溶固体添加物粒子を混合したものであることを特徴とするエレベータ用ロープ。
【請求項2】
前記不溶固体添加物粒子の硬度の値が、前記樹脂被覆体と接するシーブの表面部材の硬度の値よりも大きいことを特徴とする請求項1記載のエレベータ用ロープ。
【請求項3】
前記不溶固体添加物粒子が、アルミナ粒子、水酸化マグネシウム粒子、タルク粒子および炭酸カルシウム粒子から一種または複数種選択した粒子であることを特徴とする請求項1または2に記載のエレベータ用ロープ。
【請求項4】
前記不溶固体添加物粒子が略球状のアルミナ粒子であることを特徴とする請求項1または2に記載のエレベータ用ロープ。
【請求項5】
前記樹脂母材が高分子エラストマーであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のエレベータ用ロープ。
【請求項6】
前記樹脂母材がポリウレタンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のエレベータ用ロープ。
【請求項7】
前記樹脂被覆体が、前記不溶固体添加物粒子を0.03〜0.21vol%含有した被覆体で外層されたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のエレベータ用ロープ。
【請求項8】
前記樹脂母材の引張強度が25〜40MPaであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のエレベータ用ロープ。
【請求項9】
前記樹脂母材の硬度がJIS‐Aスケールで94〜97であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のエレベータ用ロープ。
【請求項10】
長手方向に掛かる張力を受け持つ抗張体と、該抗張体を摩耗損傷から保護するための樹脂被覆体とを含み、該樹脂被覆体が、樹脂母材に不溶固体添加物粒子を混合したものであることを特徴とするエレベータ用ベルト。
【請求項11】
前記不溶固体添加物粒子の硬度の値が、前記樹脂被覆体と接するシーブの表面部材の硬度の値よりも大きいことを特徴とする請求項10記載のエレベータ用ベルト。
【請求項12】
前記不溶固体添加物粒子が、アルミナ粒子、水酸化マグネシウム粒子、タルク粒子および炭酸カルシウム粒子から一種または複数種選択した粒子であることを特徴とする請求項10または11に記載のエレベータ用ベルト。
【請求項13】
前記不溶固体添加物粒子が略球状のアルミナ粒子であることを特徴とする請求項10または11に記載のエレベータ用ベルト。
【請求項14】
前記樹脂母材が高分子エラストマーであることを特徴とする請求項10〜13のいずれかに記載のエレベータ用ベルト。
【請求項15】
前記樹脂母材がポリウレタンであることを特徴とする請求項10〜13のいずれかに記載のエレベータ用ベルト。
【請求項16】
前記樹脂被覆体が、前記不溶固体添加物粒子を0.03〜0.21vol%含有した被覆体で外層されたことを特徴とする請求項10〜15のいずれかに記載のエレベータ用ベルト。
【請求項17】
前記樹脂母材の引張強度が25〜40MPaであることを特徴とする請求項10〜16のいずれかに記載のエレベータ用ベルト。
【請求項18】
前記樹脂母材の硬度がJIS‐Aスケールで94〜97であることを特徴とする請求項10〜17のいずれかに記載のエレベータ用ベルト。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−234791(P2009−234791A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331964(P2008−331964)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000003528)東京製綱株式会社 (139)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000003528)東京製綱株式会社 (139)
【Fターム(参考)】
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