説明

エレベータ装置のリニューアル方法及びエレベータ装置

【課題】1:1ロービングのロープ式エレベータ装置を、2:1ローピングのロープ式エレベータ装置にリニューアルする場合、機械室床に設けられた開口には、ロープが2回通ることになり、開口面積を拡大する工事が必要があった。
【解決手段】昇降路20内に設けられた乗りかご8及び釣合錘10を、機械室14に設けた巻上機3により、機械室床6に形成された開口7を通るロープ5を介して1:1ローピングで吊支したエレベータ装置を、2:1ローピングのエレベータ装置にリニューアルする際、ロープ5の、機械室14から開口7を通って昇降路20内に達する第1の部分に対し、昇降路20内から機械室14内のヒッチ部15に達する第2の部分を、開口7近くに設置したロープガイド13により、開口7内において第1の部分と干渉しない範囲で近付けることで、これらを共通の開口7内に挿通させることを可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、1:1ローピングのエレベータ装置を2:1ローピングのエレベータ装置にリニューアルするエレベータ装置のリニューアル方法及びエレベータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
既設の中低速ロープ式エレベータの多くでは、巻上機に歯車減速機を設け、電動機の回転を減速してメインシーブに伝え、メインシーブに巻きかけたロープを巻き上げてエレベータのかごを駆動している。この方式のエレベータではメインシーブは低速回転であり、メインシーブ部のトルクが大きいので、ロープ端末を乗りかごおよび釣合錘の上部に固定して駆動する、いわゆる1:1ローピングが用いられる。
【0003】
このエレベータをリニューアルする場合、巻上機としては現存主流の減速機を用いずに、電動機で直接メインシーブを駆動するいわゆるギヤレス巻上機を使用することが考慮される。ギヤレス巻上機を使用する場合、乗りかご及び.釣合錘にそれぞれシーブを設けてロープを巻きかける、いわゆる2:1ロービングを採用する場合が多い。すなわち、2:1ロービングにより、巻上機を高速回転・低トルクとすることができ、減速機を使用しないギヤレス巻上機でエレベータを駆動することが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−15827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、既設のエレベータでは、巻上機が設けられた機械室の床(機械室と昇降路との隔壁でもある)にロープ挿通用の開口が設けられている。この開口は、巻上機に巻きかけたロープを昇降路側の乗りかご及び釣合錘へ通すために、それらの上部に相当する位置にそれぞれ設けられている。これらの開口は、最小限の大きさに開け、巻上機の音が昇降路側に伝わり、乗りかごの乗客や建物住民に伝わって騒音を感じることがないようしている。
【0006】
エレベータ装置のリニューアルに当って、ギヤレス巻上機と2:1ローピングを採用した場合、機械室床に設けられた乗りかご及び釣合錘用の開口には、それぞれ2回ロープが通ることになる。すなわち、往路部分及び復路部分の2本のロープが通ることになる。しかし、従来開けられた開口は、1本のロープが1回通るものであるため、そのままでは寸法的に通らず、開口面積を拡大するか、又は新たに大きな開口を設ける必要があった。
【0007】
機械室の床はコンクリート製で200mmから300mmの厚さがあり、開口面積の拡大、又は新たな開口を設ける為には、レッカー又はホールソーといった特殊な工具を使用する必要があり、費用と時間がかかると共に、非常に大きな振動と騒音を発生する。エレベータ装置をリニューアルする場合は、エレベータ装置を新設する場合とは異なり、建物に住人がいる。このため、工事中における大きな振動と騒音の発生は、これらが居室等に伝わって住環境を著しく悪化させるので、確実に防止しなければならない。
【0008】
したがって、1:1ロービングのロープ式エレベータ装置を、2:1ローピングのロープ式エレベータ装置にリニューアルする場合、リニューアル工事が少ない費用で短時間のうちに行われ、しかも振動や騒音を発生させないことが要望される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施の形態に係るエレベータ装置のリニューアル方法は、昇降路内にそれぞれ昇降可能に設けられた乗りかご及び釣合錘を、機械室に設けた巻上機により、前記機械室の床に形成された開口を通るロープを介して1:1ローピングで吊支し、前記巻上機により相互に昇降駆動するエレベータ装置を、2:1ローピングにより吊支するエレベータ装置にリニューアルする方法であって、前記ロープの、前記機械室内の巻上機から前記開口を通って昇降路内に達する第1の部分に対し、前記昇降路内から機械室内のヒッチ部に達する第2の部分を、前記開口近くに設置したロープガイドにより、前記開口内において前記第1の部分と干渉しない範囲で近付けることで、これら第1の部分及び第2の部分を共通の開口内に挿通させることを可能としたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係るリニューアル方法でリニューアルされたエレベータ装置の正面図である。
【図2】図1の側面図である。
【図3】図1の平面図である。
【図4】本発明の実施形態に係るロープに偏角をつけたエレベータ装置の乗りかご側を示す正面図である。
【図5】本発明の実施形態に係るロープに偏角をつけたエレベータ装置の釣合錘側を示す正面図である。
【図6】リニューアル前のエレベータ装置の正面図である。
【図7】図6の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
始めに、図6及び図7を用いてリニューアル前の1:1ローピングによるエレベータ装置を説明する。
【0013】
図6及び図7において、リニューアル前のエレベータ装置は、昇降路20内に乗りかご8及び釣合錘10を、図示しないガイドレールによりそれぞれ昇降可能に設けている。これら乗りかご8及び釣合錘10は、機械室14内に設けられた巻上機16により、ロープ5を介して吊支されている。ロープ5は、機械室14の床6に形成された開口7を通って昇降路20内に設けられた乗りかご8及び釣合錘10の上部に結合されており、1:1ローピングを構成する。
【0014】
巻上機16は、歯車減速機を用いて電動機の回転を減速し、メインシーブ17に伝えており、このメインシーブ17は低速回転でトルクが大きい。したがって、その回転により、上述した1:1ローピングで、メインシーブ17及び反らせシーブ18に巻き掛けられたロープ5を介して、昇降路20内に設けられた乗りかご8及び釣合錘10を相互に昇降駆動する。
【0015】
次に、図1乃至図3を用いて、2:1ローピングにリニューアルされたエレベータ装置を説明する。図1乃至図3において、機械室床6上にはマシンビーム1が2列に設置されており、その上には架台2を設け、架台2の上に減速機構を用いないギヤレス巻上機3が設置されている。巻上機3はメインシーブ4を備えており、このメインシーブ4に巻き掛けられたロープ5は、その一方が機械室床6に開けた開口7を通って昇降路20内の乗りかご8に方向に向かっている。また、他方は架台2の下側に設けたソラセシーブ9,9にガイドされ、機械室床6に設けた別の開口7を通って釣合錘10に向かっている。
【0016】
これらの乗りかご8及び釣合錘10には、2:1ローピングのために、それぞれシーブ11,12が設けられている。機械室14から来たロープ5は、このシーブ11,12に巻きかけて反転させ、再び機械室14に向わせ、機械室14内においてロープヒッチ15により架台2に固定する。このようにロープ5は、機械室14から昇降路20内へ、また昇降路20内から機械室14へと、2回、開口7を通ることとなる。
【0017】
ここで、リニューアル前のエレベータ装置は、図6及び図7で示した1:1ローピングであったため、開口7は、1本のロープ5を1回通すだけでよく、また前述のように機械室14で発生する騒音が昇降路20内にできるだけ伝わらないようにするため、その開口面積は小さなものであった。したがって、乗りかご8及び釣合錘10のシーブ11,12に巻きかけて反転したロープ5の往路部分と復路部分との幅は、開口7の開口面積より大きい場合が殆どであり、そのままでは、開口7にロープを、往復2回通すことができない。
【0018】
そこで、この実施の形態では、開口7近くにロープガイド13を設け、シーブ11,12で反転したロープ5の部分を図1で示すようにロープガイド13にガイドさせ、ロープ5の往路部分(以下、第1の部分と呼ぶ)と復路部分(以下、第2の部分と呼ぶ)とが、共通の開口7内を通るように配置する。すなわち、ロープ5の、機械室14内の巻上機3から開口7を通って昇降路20内に達する第1の部分に対し、昇降路20内から機械室14内のヒッチ部15に達する第2の部分を、開口7近くに設置したロープガイド13により、開口7内において第1の部分と干渉しない範囲で近付けるようにガイドする。このことで、ロープ5の第1の部分及び第2の部分を共通の開口7内に挿通させることが可能となる。
【0019】
この場合、ロープヒッチ15側のロープ5は駆動されないので疲労・磨耗の心配は無く,ロープガイド13は小型のもので十分である。
【0020】
このように、乗りかご8側及び釣合錘10側共、これらを吊り支するロープ5は、リニューアル前から機械室床6に開けられていた開口7を通って使用される。しかし、リニューアル前のエレベータ装置は1:1ロービングのため、ロープ5はそれぞれの開口7を1回通るだけであったが、リニューアル後のエレベータ装置は、2:1ロービングのため、1つの開口7をロープ5が2回通ることになる。そこで、乗りかご8、釣合錘10から来たロープ5はロープガイド13でガイドすることにより、ロープ5の往路と復路部分(第1の部分と第2の部分)どうしが干渉することなく、従来の開口7をそのまま利用してロープ5を通すことができる。
【0021】
すなわち、既設の開口7を拡大したり又は新たに開口を設けなくても2:1ローピングのロープ5を通すことができる。従って時間のかかる機械室床面6に体する開口作業が無くなり、工事費用の低減、工事期間の短縮、振動・騒音の発生を防止できる。このため、建物の住民にとって、工事中における振動・騒音が無く、建物内で快適に過ごすことができる利点がある。
【0022】
図4の実施の形態では、機械室14内に設けられた巻上機3のメインシーブ4から、昇降路20内の乗りかご8に向かうロープ5の第1の部分に対し、垂直方向に対する所定の偏角を持たせ、この第1の部分が共通の開口7内における第2の部分と干渉しない位置に配置されるように構成した。
【0023】
すなわち、メインシーブ4とかごシーブ11を結ぶロープ5の部分は垂直でなく、偏角を付ける、いわゆるロープドローを設ける。このロープドローを設けることにより、メインシーブ4とかごシーブ11を結ぶロープ5は、機械室床6に開けた開口7内の端を通すことができる。これにより機械室床6の開口7がさらに小さい場合でも、かごシーブ11とロープヒッチ15を結ぶロープ5の第2の部分は、ロープ5の第1の部分との干渉を防ぐことができ、開口7を拡大する必要が無い。
【0024】
図5の実施の形態では、機械室14内に設けられた巻上機3のメインシーブ4からソラセシーブ9を経て昇降路20内の釣合錘10に向かうロープ5の第1の部分(少なくとも最終のソラセーブ9から釣合錘10までの部分)に、垂直方向に対する所定の偏角を持たせ、この第1の部分が共通の開口7内における第2の部分と干渉しない位置に配置されるように構成した。
【0025】
すなわち、ソラセシーブ9と釣合錘シーブ12を結ぶロープ5は垂直でなく、偏角を付けるロープドローを設ける。このロープドローを設けることにより、ソラセシーブ9と釣合錘シーブ12を結ぶロープ5は機械室床6に開けた開口7内の端を通すことができる。これにより機械室床6の開口7が小さい場合でも、釣合錘シーブ12とロープヒッチ15を結ぶロープ5の第2の部分は、ロープ5の第1の部分との干渉を防ぐことができ、開口7を拡大する必要が無い。
【0026】
このように、1:1ローピングのエレベータ装置を2:1ローピングのエレベータ装置にリニューアルする際、ロープガイド13を設けることによりロープヒッチ15に向かうロープ部分をガイドしてそらせることが出来.機械室床6の開口7を拡大したり、又は新たに開口を開ける必要が無くなる。
【0027】
これにより費用と工期のかかる工事が無くなると共に摂動・騒音を発生することが無いので、リニューアルエ事中も住民は快適に過ごすことが出来る。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0029】
3…巻上機
4…メインシーブ
5…ロープ
6…機械室床
7…開口
8…乗りかご
9…ソラセシーブ
10…釣合錘
11,12…シーブ
14…機械室
15…ロープヒッチ
20…昇降路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降路内にそれぞれ昇降可能に設けられた乗りかご及び釣合錘を、機械室に設けた巻上機により、前記機械室の床に形成された開口を通るロープを介して1:1ローピングで吊支し、前記巻上機により相互に昇降駆動するエレベータ装置を、2:1ローピングにより吊支するエレベータ装置にリニューアルする方法であって、
前記ロープの、前記機械室内の巻上機から前記開口を通って昇降路内に達する第1の部分に対し、前記昇降路内から機械室内のヒッチ部に達する第2の部分を、前記開口近くに設置したロープガイドにより、前記開口内において前記第1の部分と干渉しない範囲で近付けることで、これら第1の部分及び第2の部分を共通の開口内に挿通させることを可能とした
ことを特徴とするエレベータのリニューアル方法。
【請求項2】
昇降路内にそれぞれ昇降可能に設けられた乗りかご及び釣合錘を、機械室に設けた巻上機により、前記機械室の床に形成された開口を通るロープを介して2:1ローピングで吊支し、前記巻上機により相互に昇降駆動するエレベータ装置であって、
前記2:1ローピングを構成するロープは、前記機械室内の巻上機から前記開口を通って昇降路内に達する第1の部分と、前記昇降路内から機械室内のヒッチ部に達する第2の部分とを有し、
前記開口近くには、前記第2の部分を、前記開口内において前記第1の部分に対してこの第1の部分と干渉しない範囲で近付けるロープガイドを設置して、これら第1の部分及び第2の部分を共通の開口内に挿通させた
ことを特徴とするエレベータ装置。
【請求項3】
前記機械室内に設けられた巻上機のメインシーブから昇降路内の乗りかごに向かう前記ロープの第1の部分に対し、この第1の部分が前記共通の開口内における前記第2の部分と干渉しない位置に配置されるように、垂直方向に対する所定の偏角を持たせたことを特徴とする請求項2に記載のエレベータ装置。
【請求項4】
前記機械室内に設けられた巻上機のメインシーブからソラセシーブを経て昇降路内の釣合錘に向かう前記ロープの第1の部分が前記共通の開口内における前記第2の部分と干渉しない位置に配置されるように、少なくとも前記ソラセーブから前記釣合錘までの部分に、垂直方向に対する所定の偏角を持たせたことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のエレベータ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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