説明

エレベータ

【課題】外部展望のない密閉状のエレベータであるにもかかわらず、エレベータかごの昇
降時に、エレベータかごの移動方向とは反対方向への光の視覚的な流れにより、昇降のス
ピード感や高度感を搭乗者に直接感じさせることができるようにする。
【解決手段】不透明の壁面で囲まれたエレベータシャフト1の内部に、エレベータかご2
の昇降径路に沿って位置する発光装置3を設け、当該発光装置に面するエレベータかごの
側壁4の全面又は略全面を透明素材で構成して、エレベータかごの昇降時にエレベータか
ごの移動方向とは反対方向への光の視覚的な流れを搭乗者に感じさせる演出装置を構成す
る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不透明の壁面で囲まれたエレベータシャフト内を昇降するエレベータ、換言
すれば、外部展望のない密閉状のエレベータに関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータかご内からビル周辺の屋外風景を見ることができる展望用エレベータは、密
閉されたエレベータかご内の搭乗者に開放感を与え、昇降につれて透明な窓に映り行く周
囲の屋外風景によって昇降のスピード感や高度感を感じることができ、密室状態が持続す
ることの退屈さや気まずさを紛らわすことができることから、現在では、デパート、ショ
ッピングセンター、ホテル等、多くのビルに採用されている。
【0003】
また、展望用エレベータの多くは、エレベータかご自体に装飾用イルミネーション等の
発光装置を取り付けたり、特許文献1に示すように、エレベータシャフトの内部にエレベ
ータかごを照らし出す照明器具を設置して、ビル周辺の街行く人々にも、エレベータかご
の昇降状態を見せて、ビルの装飾・宣伝効果を持たせるようにしている。
【0004】
このように、展望用エレベータは、一般的な外部展望のないエレベータには見られない
多くの利点を有している。その反面、展望用エレベータの場合、ビルの外壁に面する眺望
の良い位置に設置しなければならず、しかも、エレベータかごの透明な側壁を外側(外壁
側)に配置し、乗降口を内側(外壁とは反対側)に配置する必要があり、ビルの平面計画
に与える制約が大きいといった問題点がある。
【0005】
尚、不透明の壁面で囲まれたエレベータシャフト内を昇降する外部展望のない密閉状の
エレベータであっても、ビルの外壁に面する位置に設置された展望用エレベータと同様に
ビル周辺の屋外風景を見られるようにしたエレベータの外部映像表示装置が、特許文献2
によって提案されている。この従来技術は、ビルの外壁に、ビル周辺の屋外風景を撮影す
る昇降自在な外部撮影装置を設け、この外部撮影装置をエレベータかごの昇降に連動して
昇降動作させると同時に、外部撮影装置が撮影したビル周辺の屋外風景をレベータかごの
内部に設けた映像表示装置に表示させるようにしたものである。従って、外部撮影装置や
映像表示装置の他、外部撮影装置の駆動装置、エレベータかごの昇降と外部撮影装置を連
動させる装置など多くの構成部材が必要とされて、コストが高く付き、それらのメンテナ
ンスも面倒であり、高層ビルや超高層ビルへの適用は困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭54−115937号公報
【特許文献2】特開平11−79580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題点を踏まえてなされたものであって、その目的とするところは、
外部展望のない密閉状のエレベータであるにもかかわらず、エレベータかごの昇降時に、
エレベータかごの移動方向とは反対方向への光の視覚的な流れにより、昇降のスピード感
や高度感を搭乗者に直接感じさせることができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明が講じた技術的手段は、次の通りである。即ち、
請求項1に記載の発明によるエレベータは、不透明の壁面で囲まれたエレベータシャフト
の内部に、エレベータかごの昇降径路に沿って位置する発光装置を設け、当該発光装置に
面するエレベータかごの側壁の全面又は略全面を透明素材で構成して、エレベータかごの
昇降時にエレベータかごの移動方向とは反対方向への光の視覚的な流れを搭乗者に感じさ
せる演出装置を構成してあることを特徴としている。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のエレベータであって、エレベータかごの天
井のうち、少なくとも透明素材で構成された側壁に隣接する天井部分を透明素材で構成し
てあることを特徴としている。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のエレベータであって、発光装置が不透明な
パネルに光源を設置して構成されていることを特徴としている。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のエレベータであって、発光装置がエレベー
タかごの昇降径路とカウンターウエイトの昇降径路との間に配置されていることを特徴と
している。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のエレベータであって、発光装置のパネルが
カウンターウエイトの振れ止め用タイバーに取り付けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、不透明の壁面で囲まれたエレベータシャフトの内部に
、エレベータかごの昇降径路に沿って位置する発光装置を設ける一方、発光装置に面する
エレベータかごの側壁の全面又は略全面を透明素材で構成したので、エレベータかごの昇
降時に、発光装置からの光が透明な側壁を経てエレベータかごに入射し、搭乗者は、暗い
エレベータシャフトの内部に、エレベータかごの移動方向とは反対方向への光の視覚的な
流れを感じることができる。この光の視覚的な流れの速度は、エレベータかごの昇降速度
に対応している。従って、外部展望のない密室状のエレベータであるにもかかわらず、エ
レベータかごの昇降時に、エレベータかごの移動方向とは反対方向への光の視覚的な流れ
により、昇降のスピード感や高度感を搭乗者に直接感じさせることができる。
【0014】
殊に、請求項2に記載の発明によれば、エレベータかごの天井のうち、少なくとも透明
素材で構成された側壁に隣接する天井部分まで透明素材で構成したので、発光装置からの
光が上下方向での広い範囲にわたってエレベータかごに入射することになる。それ故、エ
レベータかごの昇降時に、搭乗者は、天井近くを見上げることで、エレベータかごの移動
方向とは反対方向への光の視覚的な流れをある程度の長さにわたって持続して感じること
ができる。従って、外部展望のない密閉状のエレベータであるにもかかわらず、エレベー
タかごの昇降時に、昇降のスピード感や高度感を搭乗者に直接、より一層ダイナミックに
感じさせることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、上記の効果に加えて、発光装置が、不透明なパネルに
光源を設置して構成されているので、光源としてLED等の点光源を選択し、これらを適
当な間隔で配置するといったように、光源の種類や配置を適宜設定するだけで、エレベー
タかごの昇降時、天井近くを見上げた搭乗者に、暗いエレベータシャフトの内部における
エレベータかごの昇降速度に対応した無数の点在する光の視覚的な流れにより、恰も飛行
機が離陸から着陸するまでの夜間飛行の如き感覚を抱かせることが可能である。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、不透明なパネルと光源から成る発光装置がエレベータ
かごの昇降径路とカウンターウエイトの昇降径路との間に配置されているので、カウンタ
ーウエイト、カウンターウエイト用のレール、カウンターウエイトを吊下げるワイヤーロ
ープ等が演出装置による上述した演出効果(請求項1〜3の効果)の邪魔にならない。ま
た、発光装置がカウンターウエイト、カウンターウエイト用のレール、カウンターウエイ
トを吊下げるワイヤーロープ等の目隠しに兼用されることになり、専用の目隠しは不要で
ある。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、発光装置のパネルが、カウンターウエイトの振れ止め
用タイバーに取り付けられているので、請求項1〜4に記載の発明の効果に加えて、カウ
ンターウエイト、カウンターウエイト用のレール、カウンターウエイトを吊下げるワイヤ
ーロープ等がパネルや光源の着脱作業の邪魔にならず、演出装置のメンテナンスや更新の
作業が容易になる等の効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るエレベータの縦断側面図である。
【図2】上記エレベータの横断平面図である。
【図3】要部の横断平面図である。
【図4】要部を拡大した横断平面図である。
【図5】図4のA−A断面図である。
【図6】作用を説明するエレベータの縦断正面図である。
【図7】作用を説明するエレベータかご内の見上げ図である。
【図8】本発明の他の実施形態を示す要部の横断平面図である。
【図9】本発明の他の実施形態を示すエレベータの概略横断平面図である。
【図10】本発明の他の実施形態を示すエレベータの概略横断平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るエレベータAを図1〜図7に基づいて説明する。このエレベータA
は、不透明の壁面で囲まれたエレベータシャフト1の内部に、エレベータかご2の昇降径
路に沿って上下方向に連続して位置するパネル状の発光装置3を設け、当該発光装置3に
面するエレベータかご2の側壁4の全面又は略全面(大部分)を透明ガラス等の透明素材
で構成し、さらに、エレベータかご2の天井5のうち、少なくとも透明素材で構成された
側壁4に隣接する天井部分5aを同様な透明素材で構成することにより、エレベータかご
2の昇降時にエレベータかご2の移動方向とは反対方向への光の視覚的な流れを搭乗者B
に感じさせる演出装置を構成したものである。
【0020】
発光装置3の光源としては、例えば、白熱電球、ハロゲン球、クリプトン球、蛍光灯、
LED、ネオン管、画像を表示する薄型ディスプレイなどを任意に選択又は組み合わせて
採用することも可能であるが、図示の実施形態においては、黒、濃紺などの暗い色に着色
された不透明な金属製のパネル6に光源として多数のLED7を点在する状態に固定して
、パネル状の発光装置3を構成してある。LED7の色は、例えば、白色と青色を適当な
配列で組み合わせる等、適宜設定できる。パネル6は、上下方向において所定長さのパネ
ルユニット毎に分割されており、演出装置の更新時やメンテナンス時に、必要な箇所のパ
ネルユニットを分離して取り外せるように構成されている。
【0021】
そして、このパネル状の発光装置3をエレベータかご2の昇降径路とカウンターウエイ
ト8の昇降径路との間に配置してある。具体的には、図3に示すように、発光装置3のパ
ネル6を、カウンターウエイト8の振れ止め用タイバー9に取り付けてある。振れ止め用
タイバー9に対するパネル6の取付けは、ボルト・ナット等の留め具10で行うことが望
ましい。このようにすれば、図4、図5に示すように、パネル6の所定位置に開閉可能な
メンテナンス用の窓11を設けておき、エレベータかご2の天井5に載った作業員又は透
明な側壁4を外した状態でエレベータかご2の床12に載った作業員が適当な工具13を
前方から差し込んで、パネルユニットの着脱を行えるからである。
【0022】
図中の14はエレベータかご用のレール、15はカウンターウエイト用のレール、16
はエレベータかご2とカウンターウエイト8を吊下げ支持するワイヤーロープ、17はエ
レベータかご2の扉、18はエレベータホール側の乗降口である。
【0023】
尚、図1〜図7の実施形態においては、エレベータシャフト1の内部に2基のエレベー
タAを設置してあり、図2、図6に示すように、2基のエレベータAにおけるエレベータ
かご2の相対向する側面に前記LED7とは異なる色(例えば、赤色)の点滅ランプ(L
ED)19を設けてある。従って、2基のエレベータAのすれ違い等の際、隣のエレベー
タかご2の搭乗者Bが透明な天井部分5aを通してすれ違うエレベータかご2の点滅ラン
プ19を見ることができる。
【0024】
上記の構成によれば、不透明の壁面で囲まれたエレベータシャフト1の内部に、エレベ
ータかご2の昇降径路に沿って上下方向に連続して位置するパネル状の発光装置3を設け
る一方、発光装置3に面するエレベータかご2の側壁4の全面又は略全面を透明素材で構
成し、さらに、エレベータかご2の天井5のうち、少なくとも透明素材で構成された側壁
4に隣接する天井部分5aを同様な透明素材で構成したので、発光装置3からの光が上下
方向での広い範囲にわたってエレベータかご2に入射することになる。
【0025】
それ故、エレベータかご2の昇降時に、搭乗者Bは、天井5近くを見上げることで、不
透明の壁面で囲まれた暗いエレベータシャフト1の内部において、エレベータかご2の移
動方向とは反対方向への光の視覚的な流れをある程度の長さにわたって持続して感じるこ
とができる。従って、外部展望のない密閉状のエレベータAであるにもかかわらず、エレ
ベータかご2の昇降時に、昇降のスピード感や高度感を搭乗者Bに、直接かつダイナミッ
クに感じさせることができる。
【0026】
また、発光装置3が、不透明なパネル6に多数のLED7を点在する状態に固定して構
成されているので、エレベータかご2の昇降時、天井5近くを見上げた搭乗者Bに、暗い
エレベータシャフト1の内部におけるエレベータかご2の昇降速度に対応した無数の点在
する光の視覚的な流れにより、恰も飛行機が離陸から着陸するまでの夜間飛行の如き感覚
を抱かせることが可能である。
【0027】
しかも、不透明なパネル6と多数のLED7から成るパネル状の発光装置3がエレベー
タかご2の昇降径路とカウンターウエイト8の昇降径路との間に配置されているので、カ
ウンターウエイト8、カウンターウエイト用のレール15、カウンターウエイト8を吊下
げるワイヤーロープ16等が演出装置による上述した演出効果の邪魔にならない。また、
発光装置3がカウンターウエイト8、カウンターウエイト用のレール15、カウンターウ
エイト8を吊下げるワイヤーロープ16等の目隠しに兼用されることになり、演出効果の
邪魔にならないようにするための専用の目隠しは不要である。
【0028】
また、発光装置3のパネル6が、カウンターウエイト8の振れ止め用タイバー9に取り
付けられているので、カウンターウエイト8、カウンターウエイト用のレール15、カウ
ンターウエイト8を吊下げるワイヤーロープ16等がパネル6やLED7の着脱作業の邪
魔にならず、演出装置のメンテナンスや更新の作業が容易である。
【0029】
図8は本発明の他の実施形態を示す。この実施形態は、発光装置3に面するエレベータ
かご2の側壁4とそれに隣接する左右の側壁部分4aを透明ガラス等の透明素材で構成し
た点に特徴がある。その他の構成や作用は、図1〜図7の実施形態と同じであるため、説
明を省略する。
【0030】
図9と図10は、各々、本発明の他の実施形態を示す。図9の実施形態は、エレベータ
かご2から見てカウンターウエイト8の昇降径路の後ろ側に位置する壁面に発光装置3を
配置した点に特徴がある。この構成によれば、エレベータかご2が昇降ストロークの中間
点(カウンターウエイト8と一致する高さ)以上に上昇すると、エレベータかご2の透明
な側壁4と発光装置3の間に、カウンターウエイト8やそれを吊下げるワイヤーロープ1
6等が現れるので、これらが演出効果の妨げになる虞がある。従って、エレベータかご2
の高さに対応して、発光装置3のLED7の間隔、点灯するLED7の選択や色彩変化を
行うための制御を行うことが望ましい。この点、図10の実施形態では、カウンターウエ
イト8の昇降径路をエレベータかご2の昇降径路の横側方に並べて配置したエレベータで
あるため、エレベータシャフト1の壁面に発光装置3を配置してもカウンターウエイト8
やそれを吊下げるワイヤーロープ16等が邪魔にならない。
【0031】
図示しないが、発光装置3の光源の選択・組合せ・配置、発光装置3のパネル6に設置
するLED7の配列や色の変化等の制御により、文字や絵を表現するなど多様な演出が可
能であり、更には、ライン状に光る発光装置3やパネル全体が光る発光装置3とすること
も可能であり、本発明は図示の実施形態だけに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0032】
A エレベータ
B 搭乗者
1 エレベータシャフト
2 エレベータかご
3 発光装置
4 側壁
4a 左右の側壁部分
5 天井
5a 天井部分
6 パネル
7 LED(光源の一例)
8 カウンターウエイト
9 カウンターウエイトの振れ止め用タイバー
10 留め具
11 メンテナンス用の窓
12 床
13 工具
14 エレベータかご用のレール
15 カウンターウエイト用のレール
16 ワイヤーロープ
17 扉
18 乗降口
19 点滅ランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不透明の壁面で囲まれたエレベータシャフトの内部に、エレベータかごの昇降径路に沿
って位置する発光装置を設け、当該発光装置に面するエレベータかごの側壁の全面又は略
全面を透明素材で構成して、エレベータかごの昇降時にエレベータかごの移動方向とは反
対方向への光の視覚的な流れを搭乗者に感じさせる演出装置を構成してあることを特徴と
するエレベータ。
【請求項2】
エレベータかごの天井のうち、少なくとも透明素材で構成された側壁に隣接する天井部
分を透明素材で構成してあることを特徴とする請求項1に記載のエレベータ。
【請求項3】
発光装置が不透明なパネルに光源を設置して構成されていることを特徴とする請求項2
に記載のエレベータ。
【請求項4】
発光装置がエレベータかごの昇降径路とカウンターウエイトの昇降径路との間に配置さ
れていることを特徴とする請求項3に記載のエレベータ。
【請求項5】
発光装置のパネルがカウンターウエイトの振れ止め用タイバーに取り付けられているこ
とを特徴とする請求項4に記載のエレベータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−82517(P2013−82517A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222434(P2011−222434)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】