説明

エンサイ由来肝炎抑制組成物

【課題】赤軸系のエンサイ由来の肝障害抑制組成物を提供する。
【解決手段】 本発明の肝障害抑制剤は、植物由来の新しいマクロファージ活性化抑制作用による肝マクロファージの抗炎症効果を発揮することから、赤軸エンサイ由来の脂溶性の高い分画として医薬組成物としての利用が可能である。さらに、従来の肝障害予防、乃至は肝障害治療薬物との合剤的利用も可能であり、経口投与によりその効果を発揮できるすぐれた肝障害抑制組成物であり肝障害抑制剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤軸系エンサイより抽出したある分画が、炎症反応に係わるマクロファージの活性抑制を示すことを見出したことによる、エンサイ由来の肝炎抑制組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エンサイ(学名Ipomoea aquatic Forsk、英語名water spinach)は別名を空心菜、ヨウサイ、カンコンなどと呼ばれるヒルガオ科サツマイモ属の野菜である。熱帯アジア原産で、中国や東南アジアで広く利用されている。エンサイには茎の色が異なる2系統(青軸、赤軸)が存在する。一般に栽培され流通しているのは、この2系統のうち青軸系(以下、青軸エンサイという)であり、畑で栽培され、茎の色は緑か白色でやわらかく折れやすい。一方、赤軸系のエンサイ(以下、赤軸エンサイという)は野生種であり、茎の色が赤紫色または緑色で、一般に水生で多湿な所で栽培される。
青軸エンサイの生理活性的機能ついて、これまで血糖値上昇抑制作用(非特許文献1)や抗菌作用(非特許文献2)が報告されており、さらにPrasadら(非特許文献3)は、青軸エンサイから抗酸化能を指標にした有効成分の単離に成功している。
【0003】
しかしながら、赤軸エンサイの生理活性的機能に関してはこれまで全く報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【非特許文献1】Malalavidhane S.,et al.,An aqueous extract of the green leafy vegetable Ipomoea aquatica is as effective as the oral hypoglycaemic drug tolbutamide in reducing the blood sugar levels of Wistar rats.Phytother Res.2001 Nov;15(7):635−7.
【非特許文献2】Egami EL,et al.,Sudanese plant used in folkloric medicine:screening for antibacterial activity.Fitoterapia 59:369−373(1998).
【非特許文献3】K Nagendra Prasad,et al.,Isolation of a free radical−scavenging antioxidant from water spinach(Ipomoea aquatica Forsk).Journal of the Science of Food and Agriculture.2005 Mar;85(9):1461−1468
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、赤軸系のエンサイ由来の肝障害抑制組成物を提供することにある。
よって、本発明者らは、青軸エンサイとは異なる、赤軸エンサイの生理活性機能を見出すべく探索を行った。本発明者らは、先ずこれら2系統のエンサイの四塩化炭素誘導性の肝障害に及ぼす影響を比較検討した。その結果、本発明者らは、赤軸エンサイより抽出したある分画が、肝臓脂質過酸化には影響を与えず、肝障害を抑制することを明らかとした。その要因として炎症反応に係わる肝臓マクロファージの活性を調べたところ、驚くべきことに、赤軸エンサイのエタノール抽出分画またはヘキサン抽出分画に、マクロファージの活性化抑制作用を見出し、この作用は抗炎症作用に関わり、肝障害抑制要因であることを明らかとし、本発明を完成させた。
【0005】
すなわち、本発明は、赤軸系のエンサイよりヘキサン抽出を行った分画からなる、肝障害抑制組成物に関する。
また、赤軸系のエンサイよりヘキサン抽出または80%エタノール抽出を行った分画からなる、肝障害抑制組成物に関する。
さらに、赤軸系のエンサイよりヘキサン抽出を行った分画からなる、マクロファージ活性化抑制作用を有することを特徴とする肝障害抑制剤に関する。
また、赤軸系のエンサイより80%エタノール抽出を行った分画からなる、マクロファージ活性化抑制作用を有することを特徴とする肝障害抑制剤に関する。
また、赤軸系のエンサイを凍結乾燥し、粉砕後粉末とし、それをヘキサンで抽出操作を行い、ヘキサン分画を分取した組成物を含有する、マクロファージ活性化抑制作用を有することを特徴とする肝障害抑制剤に関する。
さらに、赤軸系のエンサイを凍結乾燥し、粉砕後粉末とし、それをヘキサンまたは80%エタノールで抽出操作を行い、ヘキサン分画または80%エタノール分画を分取した組成物を含有する、マクロファージ活性化抑制作用を有することを特徴とする肝障害抑制剤に関する。
また、赤軸系のエンサイを凍結乾燥し、粉砕後粉末とし、それをヘキサンで抽出操作を行い、ヘキサン分画を分取した組成物を得ることを特徴とする、マクロファージ活性化抑制作用を有することを特徴とする肝障害抑制剤の製造法に関する。さらに、前記のヘキサン分画から、さらに脂溶性の高い分画を分取した組成物を得ることを特徴とする、前記のマクロファージ活性化抑制作用を有することを特徴とする肝障害抑制剤の製造法に関する。
また、軸系のエンサイを凍結乾燥し、粉砕後粉末とし、それをヘキサンで抽出操作を行い、ヘキサン分画を分取した組成物の、マクロファージ活性化抑制のための使用に関する。さらに、前記のヘキサン分画から、さらに脂溶性の高い分画を分取した組成物の、前記のマクロファージ活性化抑制のための使用に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、赤軸エンサイ由来のマクロファージ活性化抑制効果のある組成物が提供され、該効果により肝臓のマクロファージであるクッパー細胞(Kupffer細胞)の抗炎症効果による肝障害抑制が達成できる。また、肝障害抑制剤として経口投与可能な剤が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】 肝障害モデルである四塩化炭素障害メカニズムを図示したものである。
【図2】 赤軸エンサイ80%エタノール抽出分画の肝障害マーカーである血清トランスアミナーゼ活性および肝臓TBARS濃度への影響を示した図である。
【図3】 濃度をかえた赤軸エンサイ80%エタノール抽出分画の血清トランスアミナーゼ活性への影響を示した図である。
【図4】 マクロファージ活性化に与える赤軸エンサイ80%エタノール抽出分画の効果を示した図である。
【図5】 マクロファージ活性化に与える赤軸エンサイ水抽出分画の影響を示した図である。
【図6】 マクロファージ活性化に与える赤軸エンサイヘキサン抽出分画の効果を示した図である。
【図7】 マクロファージ活性化に与える赤軸エンサイヘキサン抽出分画のさらに細かい画分のマクロファージ活性化にあたえる効果を示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
先に述べたように、エンサイは抗酸化物質をはじめとした有用成分の含有量が高い野菜として血糖値上昇抑制作用などが知られており、様々な病気および/または症状の治療および/または予防効果が期待されてきている。これまでに青軸エンサイにおいては、このような生理活性機能を示す有効成分としてポリフェノールやカロテノイドが見いだされている。
そこで、先ず始めに青軸エンサイと赤軸エンサイの特に抗酸化物質に注目し、その成分分析を行った。エンサイの抗酸化能の評価については、近年公的機関でも採用されつつある新しい抗酸化能の指標であるORAC(Oxygen Radical Absorption Capacity)を用いた。抗酸化能の測定法は複数あるが、ORACは水溶性、脂溶性のどちらの試料でも測定が可能であるので、実際には、親水性−ORCA(以下、H−ORCAという)と疎水性−ORCA(以下、L−ORCAという)に分けて分析を行った。その結果(実験1および表2)、総ポリフェノール含量、総アントシアニン含量、またカロテノイド含量のいずれも赤軸エンサイの方が青軸エンサイよりも高かったにも関わらず、結局総ORAC値は両エンサイの間に有意差がなかった。さらに、赤軸エンサイのL−ORCAが青軸エンサイに比べ有意に高値を示した。
【0009】
さらに、抗酸化の効果を明らかとするため、生物学的障害の1つである肝障害に着目し、赤軸エンサイの脂溶性の成分分画の四塩化炭素誘発性肝障害モデルでの評価を行った。四塩化炭素の肝障害については縷々研究が行われ、近年では、肝細胞内の肝薬物代謝酵素の1つであるチトクローム系に係わるCYP2E1という酵素により生成される反応性フリーラジカル(・CCl)が、肝細胞のタンパク質、脂質、核酸などと共有結合して非可逆的変化を与え、これが壊死に大きく関与している可能性があるという、脂質過酸化説を基に研究が進められている。しかしながら細胞死へのステップは複雑で,いくつかの因子が相互に関連しながら同時にまた段階的に進行するため、この過程に脂質過酸化あるいは共有結合がどのように関与するのか、まだ具体的には分かっていない(Weber L.W.D. et al.,Crit.Rev.Toxicol.,33,105−136(2003)29)。
図1に、四塩化炭素肝障害のメカニズムを図式した。
【0010】
四塩化炭素肝障害モデルにおける障害程度の指標として、血清中トランスアミナーゼ(GOT、GPT)活性を測定した。GOT(glutamate oxaloacetate transaminase、またはasparatate aminotransferase:AST)とGPT(glutamate pyruvate transaminase、またはalanine aminotransferase:ALT)は生体に広く分布し、アミノ基転移反応を触媒する酵素である。肝臓に対する特異性はGPTの方がGOTより高い。GOT、GPT活性はKarmen単位(KU)または国際単位(IU/L)で表される(1IU=1 Karmen単位×0.483)。GOT、GPTは障害された肝細胞から、その変性・壊死の程度に応じて血中へ遊出する。肝・胆道疾患で上昇し、特に急性肝炎で著明であるとされている。
さらに、いくつかのポリフェノール類はその抗酸化力によって脂質過酸化を抑え、四塩化炭素肝障害を抑制すると考えられていので、その脂質過酸化の指標としてはチオバルビツール酸反応物質(Thiobarbituric Acid Reactive Substances、TBARS)量も測定した。
【0011】
げっ歯類マウスの四塩化炭素肝障害モデル実験の結果、赤軸エンサイの水抽出分画には、肝障害で上昇した血清トランスアミナーゼ活性を抑制する効果は無く、赤軸エンサイの80%エタノール抽出分画には肝障害で上昇した血清トランスアミナーゼ活性を抑制効果があった。一方、血清トランスアミナーゼ活性の上昇を起こす四塩化炭素濃度において、肝臓中のTBARS量には、赤軸エンサイの80%エタノール抽出分画は影響を与えなかった(図2および図3)。
よって、赤軸エンサイの80%エタノール抽出分画には、肝臓の脂質過酸化とは別な、つまり抗酸化作用とは異なるメカニズムによって、四塩化炭素肝障害を緩和することが考えられる。そこで炎症反応の点、マクロファージ系細胞であるクパー細胞(Kupffer細胞)由来のサイトカインなどによる炎症反応の関与の点から分析を行った。
【0012】
具体的には、マクロファージ様のセルラインRAW264.7細胞を用いてその活性化に与える赤軸エンサイの80%エタノール抽出分画並びにヘキサン抽出分画の影響を見た。RAW264.7は、リポ多糖(LPS)で処理することにより活性化され、炎症性因子である一酸化窒素(NO)産生が著しく促進される。そこで、上記エンサイ抽出物をLPSで活性化させたRAW264に添加し、NO産生量を測定することで検討した。
RAW264.7細胞において、赤軸エンサイの80%エタノール抽出分画がLPS誘導性NO産生量におよぼす影響について調べた。その結果、LPSのみ投与群は無処理群に対してNO産生量が有意に上昇し、その活性は赤軸エンサイの80%エタノール抽出分画の濃度、100μg/ml以上の添加によって有意に低下した(図4)。
同じように赤軸エンサイのヘキサン抽出画分がNO産生量におよぼす影響については、赤軸エンサイのヘキサン画分の濃度、50μg/ml以上の添加によって有意に低下した(図6)。
これらより、赤軸エンサイの80%エタノール抽出分画並びに赤軸エンサイのヘキサン抽出画分がマクロファージの活性化抑制の効果を有することが明らかとなった。
さらに、赤軸エンサイのヘキサン抽出分画をHPLCにより細画分したところ、マクロファージの活性化抑制効果は、HPLC分画画分のFr.41−54(アセトニトリル濃度:77−93%)の部分で顕著であった(図7)。
【0013】
これらの一連の実験より、赤軸エンサイの80%エタノール抽出分画、並びに赤軸エンサイのヘキサン抽出分画には、従来知られていなかったマクロファージ活性化抑制の効果を呈する物質が含まれている。さらに、本物質は、比較的低極性の性質、つまり脂溶性が高い性質を有した。
【0014】
本発明に係わる赤軸エンサイは、野生種であるので野生のものを採取してもよいが、野生種から選抜を繰り返し、その性質が保存されたものを栽培し、得たものが好ましい。赤軸エンサイは、茎は赤紫色か緑色で、細かいが繊維質で丈夫である。一般に水生で、多湿なところで栽培できる。
本発明の肝障害抑制組成物は、赤軸エンサイの80%エタノール抽出分画、並びに赤軸エンサイのヘキサン抽出分画からなる組成物であればよいが、抽出する溶媒は、エタノールやヘキサンに限らず、有機溶媒であればよく、好ましくはアルコール類またはヘキサン異性体が挙げられ、さらに好ましくは、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサン、イソヘキサンまたは3−メチルペンタンである。これらは、例えば水との混合物であってもよい。ヘキサンが最も好ましく、ついで80%エタノールが好ましい。
【0015】
なお、肝障害抑制剤は、肝障害抑制組成物として、上記の、例えば、赤軸エンサイのヘキサン抽出分画または赤軸エンサイの80%エタノール抽出分画の凍結乾燥物に、さらに他の肝障害抑制化合物や混合物を加えてもよい。また、肝障害の程度にも依存するが、本発明の肝障害抑制組成物の含量として、該分画の乾燥重量で100から500mg/kg体重であればよく、好ましくは頻回の経口投与であればよい。さらに好ましくは、1日1回で3回以上、経口投与することが望ましい。
【0016】
マクロファージ活性化抑制のためには、ヘキサン抽出分画の肝障害抑制組成物を用いるのが好ましく、上記の肝障害抑制剤の用量と同じ分量で、同じ用法で投与すれば、マクロファージ活性化抑制を介した肝障害抑制効果を奏することができる。
本発明の肝障害抑制剤は、マクロファージ活性化抑制を介して、肝臓のクッパー細胞の炎症反応を抑えることにより肝障害を抑制するものであるので、例えば、薬物代謝能低下を防ぐ作用を有する肝障害改善薬や脂肪蓄積を減少させる作用を有する肝障害治療薬など、本発明の肝障害抑制組成物と異なる作用を有する肝障害改善薬や肝障害治療薬と組み合わせることによる肝障害抑制剤であってもよい。具体的には、本発明の肝障害抑制組成物と組み合わせることが可能なで、肝障害の治療に現在用いられている医療用製剤としては、肝水解物やインターフェロンのような生物学的製剤や、マロチラート、グルタチオン、グリチルリチンに代表される化学療法剤を上げることができ、これら薬剤との組合せで、肝障害用製剤としてもよい。
本発明において肝障害用製剤として経口的に投与する場合は、それに適用される錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤などの固形製剤、あるいは液剤、シロップ剤などの液体製剤等とすればよい。特に顆粒剤及び散剤は、カプセル剤として単位量投与形態とすることができ、液体製剤の場合は使用する際に再溶解させる乾燥生成物(例えば凍結乾燥品)にすることができる。
【0017】
これら剤形のうち経口用固形剤は、組成物中に製剤上一般に使用される結合剤、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、湿潤剤などの添加剤を含有することができる。また、経口用液体製剤は、製剤上一般に使用される安定剤、緩衝剤、矯味剤、保存剤、芳香剤、着色剤などの添加剤を含有することができる。
本発明の組成物は、実施例中でその製造法を開示しているが、本明細書に開示された方法を修飾した方法を用いてもよく、その組成物のマクロファージ活性化抑制のための使用においては、その対象が培養細胞である場合、または動物個体である場合、その対象に応じて適宜、その活性化抑制の程度により、本発明の組成物量を調整することができる。
【0018】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0019】
(実験1;エンサイの成分分析)
(試料)
栽培種の青軸エンサイはSerm Sri Seed社から入手した。また、野生種である赤軸エンサイはAVRDC(アジア蔬菜研究開発センター)から入手し、千葉大学園芸学部で選抜したものを用いた。それらのエンサイは日本大学生物資源科学部にてハウス栽培(最高室温:40±5℃、最低室温:20±5℃)された。エンサイは2008年8から10月の期間中、2から4週間毎に収穫され、収穫後凍結乾燥された。比較のためのホウレンソウは千葉県内のスーパーマーケットで購入したものを凍結乾燥した。
用いたエンサイおよびホウレンソウはすべて、凍結乾燥物をミキサーで粉砕し粉末状にしたものを用いた。凍結乾燥粉末はデシケーター中に遮光下で冷蔵保存した。
(1.総ポリフェノール含量)
70%アセトンを用いてエンサイ中よりポリフェノールを抽出し、folin−ciocalteu法を用いてその含量を測定した。
【0020】
(試薬)70%アセトン(特級、和光純薬工業(株))、75g/L炭酸ナトリウム溶液(特級、和光純薬工業(株))、folin−ciocalteu試薬;folin−ciocalteu試薬(SIGMA(株))を蒸留水で2倍に希釈して用いた(測定当日作成)、クロロゲン酸標準液;クロロゲン酸(和光純薬工業(株))0.01gを70%アセトンに溶解し、50mlにメスアップして濃度0.2mg/mlに調製した。この標準液を70%アセトンで以下の表1に示した液量で希釈した。
【表1】

(測定手順)
試料0.02gを試験管に秤取した(n=4)。次いで、70%アセトン10mlを加え、試験管の上にビー玉を乗せて、65℃で20分間加温し、ポリフェノールの抽出操作を行った。この抽出液を遠心管に移し、遠心分離(3500rpm、10min)した。この上清を目盛り付き試験管に移して70%アセトンで10mlに定容し、転倒混和した。
この試料0.2mlまたは、各濃度の標準液0.2mlを試験管に採取し、folin−ciocalteu試薬を0.2ml加え撹拌した。その後75g/L炭酸ナトリウム1mlを加え撹拌し、試験管の上にビー玉を乗せて50℃で15分間加温した。加温後氷冷し、吸光度(760nm)を測定した。
各濃度の標準液の吸光度から検量線を作成し、その近似式から試料100g乾燥重量あたりの総ポリフェノール含量(クロロゲン酸当量)を求めた。
【0021】
(2.総アントシアニン含量)
アントシアニンは酸性で安定であることから、酸性溶媒を用いた抽出を行った。1%塩酸メタノールや5%ギ酸水溶液などをアントシアニン抽出溶媒に用いることが可能であるが、本実験では抽出時に脱アシル化などによるアントシアニン構造の変化が少ないトリフルオロ酢酸を用いた方法で行った。
(試薬)1%トリフルオロ酢酸水溶液(高速液体クロマトグラフ用、和光純薬工業(株))、アントシアニン標準液;塩化シアニジン(一級、和光純薬工業(株))5mgを1%トリフルオロ酢酸水溶液15.5mlに溶解し、濃度1mMに調製した。この標準液を段階希釈し、0、25、50、100μMの濃度の溶液を作成した。
(測定手順)
試料0.1gをプラスチックチューブに秤取した(n=4)。次いで1%トリフルオロ酢酸水溶液を5ml添加し、撹拌した。その後プラスチックチューブをローターに装着し、暗所・室温下で16時間抽出を行い、遠心分離(3000rpm、20min)操作にて上清を得た。残渣には1%トリフルオロ酢酸水溶液を5ml添加し、撹拌後、再度遠心分離を行った。その上清を先に得た上清と合わせ、1%トリフルオロ酢酸水溶液で10mlに定容した。この抽出液が濁っていた場合は、12000rpm程度で遠心し、清澄な抽出液を得た後、吸光度(520nm)を測定した。
各濃度の標準液の吸光度から検量線を作成し、その近似式から試料100g乾燥重量あたりの総アントシアニン含量(塩化シアニジン当量)を求めた。
【0022】
(3.ORAC測定)
(試薬)ヘキサン(特級、和光純薬工業(株))、ジクロロメタン(特級、和光純薬工業(株))、アセトン(特級、和光純薬工業(株))、AWA溶液;アセトン:水:酢酸(特級、和光純薬工業(株))=70:29.5:0.5、FL(フルオレセイン)溶液;フルオレセインナトリウム塩(SIGMA(株))を蒸留水に溶解し、濃度94.4nMに調製した。Assay buffer;75mMリン酸水素二カリウム(特級、和光純薬工業(株)溶液:75mMリン酸二水素カリウム(特級、和光純薬工業(株)溶液=500:15、AAPH溶液;AAPH(2,2’−Azobis(2−methylpropion amidine)Dihydrochloride)(SIGMA(株))を使用直前にあらかじめ37℃に加温したAssay bufferに溶解し、濃度31.7mMに調製した。トロロックス(特級、和光純薬工業(株))
(測定手順)
(H(親水性)−ORACまたはL(疎水性)−ORAC用抽出液の調製)
試料1gにヘキサン:ジクロロメタン=1:1(v:v)を10mL加え、室温で30秒間攪拌し、遠心分離(3000rpm、10min)を行い、上清と沈殿に分けた。この作業を2回行った。上清は、溶媒を窒素気流下で除去した後、アセトン10mLを加え攪拌、遠心分離(3000rpm、10min)し、上清を回収するという作業を2回行い、アセトンで25mLに定容してL−ORAC用抽出液とした。上清を回収した後の沈殿は、窒素気流下で溶媒を除去した後、AWA溶液を10mL添加、30秒間攪拌、超音波洗浄機を用いて氷冷下で5分間の超音波処理、室温で10分間静置、室温で30秒間攪拌、遠心分離(3000rpm、10min)し、上清を回収するという作業を2回行い、AWA溶液で25mLに定容して、H−ORAC用抽出液とした。それぞれの抽出液はAssay bufferで適度に希釈を行った。
(測定方法)
測定には96wellマイクロプレート、96wellマイクロプレート対応蛍光プレートリーダーを用いた。96wellマイクロプレートに、上記より得られた抽出液20μL、FL溶液200μLを分注し、振盪攪拌後、蛍光強度(f0min)を測定した(f0min:測定開始0minの蛍光強度)。マイクロプレートを37℃で10分以上加温した後、AAPH溶液を75μL加え、添加4分後から測定を開始した。測定間隔は2分、測定回数は最低45回(90分間)、検出波長はEx.485nm付近、Em.520nm付近で行った。また、ブランクにはAssay buffer、標準物質にトロロックスを用いて検量線を作成し試料のORAC値をトロロックス当量として換算した。
(計算方法)
得られた各ウェルでの蛍光強度測定結果により、各試料のAUCを算出した。AUCの計算は以下の通りである。
AUC=(0.5×f8min+f1omin+f12min+f14min+・・・+fx−1+0.5×f)/fxmin×2
得られたAUCよりnetAUCを算出した。netAUCの計算方法は以下の通りである。
netAUCtrolox=AUCtrolox−AUCblank
netAUCsample=AUCsanple−AUCblank
各トロロックス溶液のnetAUCをX軸に、各トロロックス溶液の濃度(μM)をY軸にプロットしたグラフより二次回帰式を算出し、この回帰式より以下の数式(数1)からORAC値を算出した。
【数1】

【0023】
(4.カロテノイド含量)
エンサイのβ−カロテンとキサントフィル含量を、高速液体クロマトグラフを用いて測定した。
(試薬)塩基性炭酸マグネシウム(一級、和光純薬工業(株))、テトラヒドロフラン(特級、和光純薬工業(株))、石油エーテル(特級、和光純薬工業(株))、塩化ナトリウム(特級、和光純薬工業(株))、無水硫酸ナトリウム(特級、和光純薬工業(株))、アセトニトリル(高速液体クロマトグラフ用、和光純薬工業(株))、メタノール(高速液体クロマトグラフ用、和光純薬工業(株))、ジクロロメタン(高速液体クロマトグラフ用、和光純薬工業(株))、ヘキサン(高速液体クロマトグラフ用、和光純薬工業(株))。
β−カロテン標準液;β−カロテン標準品(高速液体クロマトグラフ用、和光純薬工業(株))10mgを100mlのHPLC溶離液(濃度組成:後述のグラジエント最終設定値)に溶解し、その標準液を段階希釈し、0.5、1、2、10μg/mlの濃度の溶液を作成した。
キサントフィル標準液;キサントフィル標準品(高速液体クロマトグラフ用、和光純薬工業(株))1mgを10mlのHPLC溶離液(濃度組成:後述のグラジエント最終設定値)に溶解し、その標準液を段階希釈し、1、2、5、10μg/mlの濃度の溶液を作成した。
(測定手順)
(試料の調製)
試料1gを秤量し乳鉢に取り、0.1gの炭酸マグネシウムと30ml程度のテトラヒドロフランを加え摩砕し、ガラスフィルターでろ過した。残渣が無色になるまでこの操作を繰り返し(2回程度)、得られたろ液をテトラヒドロフランで100mlに定容した。そのろ液を分液漏斗に採取し、等量の石油エーテル、少量の塩化ナトリウム水溶液加え、石油エーテル層に転溶させた。下層の水溶液は蒸留水で洗浄し、石油エーテルを加えて着色層を回収した(2回程度)。回収した石油エーテル層に無水硫酸ナトリウムを加え脱水し、ガラスフィルターでろ過した後、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮乾固させた。得られた抽出物に、100mlのHPLC溶離液(濃度組成:後述のグラジエント最終設定値)を加えて溶解させ、メブレンフィルターでろ過した。
(HPLCによる分析)
ろ液または標準液20μlをHPLCシステム(カラム:X Bridge C18カラム・粒子径5μm・4.6mm×250mm、流速:0.7ml/min、カラム温度:室温、モニター波長:470nm)に注入した。注入した試料は4種類の有機溶媒による溶離液組成(アセトニトリル:メタノール:ジクロロメタン:ヘキサン=85:10:2.5:2.5)で10分間溶離させ、その後30分間で最終濃度(アセトニトリル:メタノール:ジクロロメタン:ヘキサン=44:10:23:23)まで変化させる直線グラジエント設定で溶離させた。
(計算方法)
各濃度の標準液のピーク面積から検量線を作成し、その近似式から試料100g乾燥重量あたりのカロテノイド含量(β−カロテン、キサントフィル)を求めた。
(5.統計処理)
棄却検定後、各群の有意差検定をダンカンの多重比較で行い、5%以下の危険率で群間に有意差が認められると判断した。測定値は平均値±標準誤差で表した。
【0024】
(結果)
結果を表2に示す。
青軸・赤軸エンサイおよび対照としてホウレンソウ中の総ポリフェノール含量(クロロゲン酸当量)を測定した結果、2系統の両エンサイの総ポリフェノール含量はホウレンソウよりも有意に高く、また赤軸エンサイは青軸エンサイに比べ有意に高い値を示した。
さらに、総アントシアニン含量(塩化シアニジン当量)を測定した結果、赤軸エンサイの総アントシアニン含量は、青軸エンサイまたホウレンソウよりも有意に高く、それらの3倍程度含まれていた。
エンサイの抗酸化能を調べるため、同試料のORAC値を測定した結果、疎水性抽出物のORAC(L−ORAC)については赤軸エンサイがホウレンソウに比べ有意に高値を示した。青軸エンサイは検出限界以下であったため測定できなかった。また、親水性抽出物のORAC(H−ORAC)および総ORACについては各試料に有意差は認められなかった。
【表2】

【0025】
青軸・赤軸エンサイのカロテノイド含量(β−カロテン、キサントフィル)を測定した結果を表3に示す。β−カロテン含量については、赤軸エンサイは青軸エンサイに比べ2倍程度高かった。またキサントフィル含量については、赤軸エンサイは青軸エンサイに比べ3.5倍程度高かった。
【表3】

【0026】
(実験2;肝障害モデルに対する影響)
(材料および方法)
1)エンサイのエタノール抽出物の調製
野生種の赤軸エンサイまたは栽培種の青軸エンサイは、実験1の試料の記載の通り、これらを収穫し、凍結乾燥後、ミキサーで粉砕しデシケーター中に遮光下で冷蔵保存した。
三角フラスコにエンサイ凍結乾燥サンプル(粉末)とその20倍量の80%エタノール(特級、和光純薬工業(株))を加え、振盪しながら80℃で3時間加温した。次いで遠心分離(8000rpm、10min)を行い、上清をメンブレンフィルターでろ過した。ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮し、その後凍結乾燥を行い粗抽出物を得た。その粗抽出物を0.5%カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)(化学用、和光純薬工業(株))に溶解し、後述の濃度に従って調製した。
2)実験動物
5週齢のICR系雄マウス(日本SLC(株))を用いた。予備飼育期間中は固形飼料(CE−2日本クレア(株))を与え、その後平均体重が等しくなるように群分けした(n=3−6)。固形資料の組成(日本クレアのホームページより)を表4に示す。
【表4】

【0027】
飼育期間中、マウスは識別用染料で印を付け区別し、1つのプラスチック製マウス用ケージにつき3から6匹ずつ入れ飼育した。ケージにはソフトチップ(日本SLC(株))を敷き、2日に一度掃除しチップを交換した。飲料水は水道水を自由摂取させ、2日に一度入れ替えた。12時間の明暗サイクル、室温22度±2℃で飼育した。
3)エンサイの経口投与用、80%エタノールまたはヘキサン抽出物の調製
(試薬)80%エタノール(特級、和光純薬工業(株))、n−ヘキサン(特級、和光純薬工業(株))、0.5%カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)(化学用、和光純薬工業(株));CMC0.5gに蒸留水100mlを加え、ガラス棒でダマ状のCMCを砕いた後マグネットスターラーを用いて溶解した。
(80%エタノール抽出物の調製)
三角フラスコに試料とその20倍量の80%エタノールを加え、振盪しながら80℃で3時間加温した。次いで遠心分離(8000rpm、10min)を行い、上清をメンブレンフィルターでろ過した。ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮し、その後凍結乾燥を行い粗抽出物を得た(試料が少量の場合は、ろ液を50mlプラスチックチューブに移し、濃縮遠心機を用いて粗抽出物を得た)。その粗抽出物を0.5%CMCに溶解し、後述の濃度(χmg/10ml/kg体重)に従って調製した。
(80%エタノール抽出物のヘキサン画分)
前述の方法で得た80%エタノール抽出物を、エンサイ試料の2倍量程度の水と等量のヘキサンに溶解し、分液漏斗にて分画した。下層(水層)をいったんビーカーに注ぎ、上層(ヘキサン層)を回収した。その後再び水層と等量のヘキサンを分液漏斗に採取し、上層の緑色がほぼ無色になるまでこの操作を繰り返した(6回程度)。回収した水層とヘキサン層を凍結乾燥機または濃縮遠心機を用いて濃縮乾固し、得られた抽出物を0.5%CMCに溶解し、後述の濃度(χmg/10ml/kg体重)に従って調製した。
【0028】
4)四塩化炭素の調整
四塩化炭素の調製・投与に用いる器具(ガラス瓶、ガラスピペット)をオートクレーブ(121℃、20分間)にかけた。ドラフト内で、ゴム手袋を着用して、四塩化炭素(精密分析用、和光純薬工業(株))とオリーブ油(和光純薬工業(株))を後述の割合に従って調整した。
5)肝障害モデルに対する赤軸エンサイの各画分経口投与の影響
a)肝障害マーカー、血清トランスアミナーゼおよび肝臓TBARS濃度に対する影響マウスを予備飼育後、以下のように群分けした。
A.無処理群 (n=3)
B.四塩化炭素投与群 (n=6)
C.赤軸エンサイエタノール抽出物:100(mg/kg b.w.)+四塩化炭素投与群 (n=6)
D.赤軸エンサイエタノール抽出物:500(mg/kg b.w.)+四塩化炭素投与群 (n=6)
群分け後、AからD群には2日間固形飼料を摂取させ、3、4、5日目にA、B群には0.5%CMCを、CからD群には上記の80%エタノール抽出物それぞれ経口投与した。最終投与の2時間後にBからD群には四塩化炭素(四塩化炭素:オリーブ油=1:1、0.5ml/kg b.w.)を、またA群には等量のオリーブ油を腹腔内投与し、その24時間後に解剖を行った。四塩化炭素の投与前後4時間絶食させた。
(解剖)
四塩化炭素投与の24時間後にマウスを順に麻酔し、解剖を行った。麻酔は、ペントバルビタールナトリウムを濃度が50mg/mlになるように蒸留水で調製し、0.2μm滅菌シリンジフィルター(Millipore)で処理したものを0.13ml/100g体重の割合で腹腔内投与することによって行った。開腹後、心臓から採血し、肝臓を採取した。肝臓はTBARS測定用のものを切り分けた後アルミホイルで包み、−20℃フリーザーで保存した。ただし肝臓中TBARSに関しては、即日測定する必要があるため、解剖終了後すぐにホモジネートし当日または翌日に測定を行った。採取した血液は遠心分離(8000rpm、20min)後、血清を採取し測定まで−20℃で保存した。
【0029】
(測定項目及び方法)
(1)血清中トランスアミナーゼ(GOT、GPT)活性の測定
解剖時に得られた血清における、GOT、GPTの活性をトランスアミナーゼ CII−テストワコー(和光純薬工業(株))を用いて測定した。血清は、四塩化炭素無処理群は5倍、四塩化炭素投与群は30倍に希釈したものを測定した。
(2)肝臓中TBARSの測定
生体内過酸化脂質の測定法として主に用いられているTBA(チオバルビツール酸)法によりTBARSを測定した。
(試薬)1.15%KCl溶液(和光純薬工業(株))、5%BHT/メタノール溶液;BHT(和光純薬工業(株))1gをメタノール(特級、和光純薬工業(株))20mlに溶解し5%BHT/メタノール溶液とした。20%酢酸溶液(pH3.5);酢酸(一級、和光純薬工業(株))20mlで100ml調製した。30%水酸化ナトリウム(特級、和光純薬工業(株))で、pHメーターを用いてpH3.5に合わせた。8.1%SDS溶液(生化学用、和光純薬工業(株))、0.8%TBA溶液(用事調製);TBA(2−チオバルビツール酸;特級、和光純薬工業(株))0.8gを蒸留水に溶解し、100mlに定容した。溶けにくいため湯浴にて溶解した。n−ブタノール:ピリジン(15:1)溶液;ピリジン(特級、和光純薬工業(株))20mlをn−ブタノール(特級、和光純薬工業(株))300mlに溶解した。調製はドラフト内で行った。TEP標準液;TEP(1,1,3,3,−1テトラエトキシプロパン;生化学用、和光純薬工業(株))110mg(約123μl)を、メタノールで50mlに定容した。十分に撹拌した後1mlを採取し、さらにメタノールで100mlに定容し、100nmol/mlの濃度に調製した。これを希釈原液とし、以下の表5に示したようにメタノールで希釈した。
【表5】

【0030】
(測定手順)
解剖時に切り取った肝臓0.5gに、1.15%KCl溶液4.5mlと5%BHT溶液10μlを加え氷上でホモジナイズした。ホモジナイザーは一回のホモジナイズ毎に蒸留水で洗浄し、キムワイプで軽く拭いてから次のホモジナイズへと移った。ホモジネート液は共栓付き試験管に移した。全ての肝臓を解剖直後にホモジナイズし、氷を入れた発泡スチロール箱に入れて、翌日測定を行う場合は低温室で保存した。
ホモジネート液をよく撹拌し、0.2mlをプラスチックチューブに取り氷上に置いた。同じく各濃度の標準液と、ブランクには蒸留水をそれぞれ0.2mlずつ分注した。次に8.1%SDS溶液を0.2ml、20%酢酸溶液(pH3.5)を1.5ml加えよく撹拌し、さらに蒸留水を0.6ml加えた。続いて0.8%TBA溶液を1.5ml加え撹拌し、ふたを軽く閉め、95℃で60分間加温した。加温後氷水中で急冷し、蒸留水1mlを加えた。n−ブタノール:ピリジン(15:1)溶液を5ml加え、手で上下に激しく振った。遠心分離(3500rpm、10min)後、上層の吸光度(532nm)をガラスセルを用いて測定した。セル誤差補正はn−ブタノールで行った。
各濃度の標準液の吸光度から検量線を作成し、近似式からホモジネート液0.2ml中のTBARS量を算出して、その値から肝臓g組織あたりのTBARS量を求めた。
(統計処理)
棄却検定後、各群の有意差検定をダンカンの多重比較で行い、5%以下の危険率で群間に有意差が認められると判断した。測定値は平均値±標準誤差で表した。
【0031】
(結果)
結果を図2に示す。血清トランスアミナーゼ活性については、四塩化炭素のみ投与群は無処理群に対して有意に上昇し、その活性は赤軸エンサイ80%エタノール抽出物:100(mg/kg b.w.)投与によって低下する傾向を示した。肝臓TBARS値については全ての群間に有意差は見られなかった。
そこで、赤軸エンサイ80%エタノール抽出物の100(mg/kg b.w.)近傍の用量をさらに検討した。
【0032】
b)肝障害マーカー、血清トランスアミナーゼおよび肝臓TBARS濃度に対する影響(低用量投与群)
マウスを予備飼育後、以下のように群分けした。
A.無処理群 (n=4)
B.四塩化炭素投与群 (n=6)
C.赤軸エンサイエタノール抽出物:25(mg/kg b.w.)+四塩化炭素投与群 (n=6)
D.赤軸エンサイエタノール抽出物:50(mg/kg b.w.)+四塩化炭素投与群 (n=6)
E.赤軸エンサイエタノール抽出物:100(mg/kg b.w.)+四塩化炭素投与群 (n=6)
F.赤軸エンサイエタノー粗抽出物:200(mg/kg b.w.)+四塩化炭素投与群 (n=6)
赤軸エンサイの80%エタノール抽出物の用量以外は上記a)の実験と同じ条件で行い、測定等も同様に行った。
(結果)
結果を図3に示す。四塩化炭素のみ投与群は無処理群に対してGOT活性(AST)が有意に上昇したが、その活性は赤軸エンサイの80%エタノール粗抽出物:100および200(mg/kg b.w.)投与によって有意に低下した。
なお、80%エタノール抽出物のヘキサン画分並びに水画分につき、以下のような群で同様に実験を行ったが、いずれの投与群でも血清トランスアミナーゼ活性および肝臓TBARS濃度に有意な差は見られなかった。(データー示さず)
A.無処理群 (n=3)
B.四塩化炭素投与群 (n=6)
C.赤軸エンサイ水画分抽出物:5(mg/kg b.w.)+四塩化炭素投与群 (n=6)
D.赤軸エンサイ水画分抽出物:10(mg/kg b.w.)+四塩化炭素投与群 (n=6)
E.赤軸エンサイ水画分抽出物:20(mg/kg b.w.)+四塩化炭素投与群 (n=6)
F.赤軸エンサイヘキサン画分抽出物:5(mg/kg b.w.)+四塩化炭素投与群 (n=6)
G.赤軸エンサイヘキサン画分抽出物:10(mg/kg b.w.)+四塩化炭素投与群 (n=6)
H.赤軸エンサイヘキサン画分抽出物:20(mg/kg b.w.)+四塩化炭素投与群 (n=6)
【0033】
(実験3;RAW264.7マクロファージ様細胞を用いた、赤軸エンサイ抽出物のマクロファージ活性化に与える影響)
RAW264.7は、リポ多糖(LPS)で処理することにより活性化され、炎症性因子である一酸化窒素(NO)産生が著しく促進される。エンサイ抽出物をLPSで活性化させたRAW264に添加し、NO産生量を測定することで、マクロファージ活性化に与える影響をみた。
(方法)
1)実験材料
RAW264.7細胞(理化学研究所、Cell Bankより入手)
RAW264.7細胞培養用培地は、ダルベッコ変法イーグル培地「ニッスイ」(日水製薬(株))に非動化した10%FBS(Fetal bovine serum)、1%PN/SM(Penicillin−Streptomycin)(Invitrogen)を添加した。LPS(Lipopolysaccharide)(Sigma(株))
赤軸エンサイエタノール抽出物、並びに赤軸エンサイ水画分・ヘキサン画分抽出物は、実験2に記載されたものを用いた。
赤軸エンサイヘキサン画分−HPLC画分抽出については、上記赤軸エンサイヘキサン画分抽出物をヘキサンで溶解し、濃度100mg/mlに調製した。これを、HPLCシステム(カラム:X Bridge C18カラム・粒子径5μm・4.6mm×250mm、ガードカラム:X Bridge C18カラム・粒子径5μm・4.6mm×20mm、流速:1.0ml/min、カラム温度:室温、モニター波長:280nm)に200μl注入した。注入した試料は組成(0.1%ギ酸(和光純薬工業(株))−アセトニトリル溶液:0.1%ギ酸(超純水で溶解)=3:7)の溶離液で溶離させ始め、その後1時間で最終濃度(0.1%ギ酸−アセトニトリル溶液:100%)まで変化させる直線グラジエント設定で溶離させた。分画サンプルは、フラクションコレクターを用いて1分間に1mlの容量で60本のエッペンチューブに採取した。その後濃縮遠心機で濃縮乾固し、分画物を得た。この操作を5回繰り返し、5回分の分画物に20μlのDMSO(dimethyl sulfoxide)(生化学用、和光純薬工業(株))を加えよく撹拌して溶解した。
2)細胞処置
RAW264.7細胞を5×10cells/mlとなるように24wellプレートに播種し(n=4)、5%CO、37℃下で6時間培養した。6時間後無血清培地にLPS(50ng/ml)とエンサイ抽出物を0.1%加え、500μl/wellで添加した。24時間培養した後、培養上清を回収し、NO産生量を測定した。
3)NO産生測定
(試薬)試薬A:0.2%N−1−ナフチルエチレンジアミン二塩酸塩;N−1−ナフチルエチレンジアミン二塩酸塩(特級、和光純薬工業(株))0.1gを蒸留水50mlに溶解した。試薬B:2%スルファニルアミド+10%リン酸スルファニルアミド(Sigma(株))1gとリン酸(特級、和光純薬工業(株))5mlを蒸留水45mlに溶解した。亜硝酸ナトリウム標準液;亜硝酸ナトリウム(特級、和光純薬工業(株))を蒸留水で溶解し、その標準液を段階希釈し、1.5625、3.125、6.25、12.5、25、50、100μMの濃度の溶液を作成した。
(測定手順)
細胞処置で得た培養上清または亜硝酸ナトリウム標準液を96wellマイクロプレートに100μlずつ入れた(n=4)。次いで、試薬Aと試薬Bを1:1で混合し、混合液を100μlずつ加えた後、吸光度(550nm)を測定した。
4)統計処理
一元配置分散分析後、各群の有意差検定をチューキーの多重比較で行い、5%以下の危険率で群間に有意差が認められると判断した。測定値は平均値±標準誤差で表した。
【0034】
(結果)
LPSのみ投与群は無処理群に対してNO産生量が有意に上昇し、その活性は赤軸エンサイエタノール抽出物:100μg/ml以上の添加によって有意に低下した(図4)。
同条件において、赤軸エンサイの水画分については、LPS投与群は無処理群に対してNO産生量が有意に上昇したが、LPS投与群と抽出物投与群の間に有意差は見られなかった(図5)。
同条件において赤軸エンサイのヘキサン画分がNO産生量におよぼす影響について調べた結果、LPSのみ投与群は無処理群に対してNO産生量が有意に上昇し、その活性は赤軸エンサイヘキサン画分:50μg/ml以上の添加によって有意に低下した(図6)。
さらに、赤軸エンサイHPLC分画画分がNO産生量におよぼす影響について調べた。その結果、LPSのみ投与群は無処理群に対してNO産生量が上昇し、その活性は赤軸エンサイHPLC分画画分のFr.41−54(アセトニトリル濃度:77−93%)の部分、比較的低極性を示すような画分で顕著な低下が見られた(図7)。
【0035】
これらの実験から、赤軸エンサイの80%エタノール抽出分画やヘキサン抽出分画が、肝障害抑制の生理作用を示し、その作用は、マクロファージ活性化抑制によるものであった。さらにヘキサン分画の比較的低極性の分画がその活性をしめすことから、赤軸エンサイのヘキサン抽出画分の脂溶性の高い分画が、マクロファージ活性化抑制作用を強力に有することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の肝障害抑制剤は、植物由来の新しいマクロファージ活性化抑制作用による肝マクロファージの抗炎症効果を発揮することから、赤軸エンサイ由来の脂溶性の高い分画として医薬組成物としての利用が可能である。さらに、従来の肝障害予防、乃至は肝障害治療薬物との合剤的利用も可能であり、経口投与によりその効果を発揮できるすぐれた肝障害抑制組成物であり肝障害抑制剤である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤軸系のエンサイよりヘキサン抽出を行った分画からなる、肝障害抑制組成物。
【請求項2】
赤軸系のエンサイよりヘキサン抽出または80%エタノール抽出を行った分画からなる、肝障害抑制組成物。
【請求項3】
赤軸系のエンサイよりヘキサン抽出を行った分画からなる、マクロファージ活性化抑制作用を有することを特徴とする肝障害抑制剤。
【請求項4】
赤軸系のエンサイより80%エタノール抽出を行った分画からなる、マクロファージ活性化抑制作用を有することを特徴とする肝障害抑制剤。
【請求項5】
赤軸系のエンサイを凍結乾燥し、粉砕後粉末とし、それをヘキサンで抽出操作を行い、ヘキサン分画を分取した組成物を含有する、マクロファージ活性化抑制作用を有することを特徴とする肝障害抑制剤。
【請求項6】
赤軸系のエンサイを凍結乾燥し、粉砕後粉末とし、それをヘキサンまたは80%エタノールで抽出操作を行い、ヘキサン分画または80%エタノール分画を分取した組成物を含有する、マクロファージ活性化抑制作用を有することを特徴とする肝障害抑制剤。
【請求項7】
赤軸系のエンサイを凍結乾燥し、粉砕後粉末とし、それをヘキサンで抽出操作を行い、ヘキサン分画を分取した組成物を得ることを特徴とする、マクロファージ活性化抑制作用を有することを特徴とする肝障害抑制剤の製造法。
【請求項8】
前記のヘキサン分画から、さらに脂溶性の高い分画を分取した組成物を得ることを特徴とする、請求項7記載のマクロファージ活性化抑制作用を有することを特徴とする肝障害抑制剤の製造法。
【請求項9】
赤軸系のエンサイを凍結乾燥し、粉砕後粉末とし、それをヘキサンで抽出操作を行い、ヘキサン分画を分取した組成物の、マクロファージ活性化抑制のための使用。
【請求項10】
前記のヘキサン分画から、さらに脂溶性の高い分画を分取した組成物の、請求項9記載のマクロファージ活性化抑制のための使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−111739(P2012−111739A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274062(P2010−274062)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年5月21日に社団法人日本栄養・食糧学会により発行された「第64回日本栄養・食糧学会大会」の講演要旨集の第247頁に記載
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】