エンジンの動力伝達装置
【課題】 動力源として振動が少なく、サイドスラストによるピストンの摺動抵抗を軽減した、効率の良いエンジンの動力伝達装置を提供する。
【解決手段】 シリンダ3とピストン4とを備えたエンジン1からの往復運動を、クランクシャフト1の回転運動へと変換する動力伝達装置であって、一端が前記ピストン4に接続され、他端が該ピストン4と共に前記シリンダ3の中心線C上で往復運動するコネクティングロッド5と、前記コネクティングロッド5の他端の往復運動を回転運動に変換してクランクシャフト1に伝達するカム機構10とを備えた。
【解決手段】 シリンダ3とピストン4とを備えたエンジン1からの往復運動を、クランクシャフト1の回転運動へと変換する動力伝達装置であって、一端が前記ピストン4に接続され、他端が該ピストン4と共に前記シリンダ3の中心線C上で往復運動するコネクティングロッド5と、前記コネクティングロッド5の他端の往復運動を回転運動に変換してクランクシャフト1に伝達するカム機構10とを備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンから出力軸へ駆動力を伝達する動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ピストンの往復運動と回転運動との相互変換装置が特許文献1に記載されている。特許文献1の装置は、ピストンと回転軸間にてこ部材を設け、てこ部材の支点及び力点をスライド可能に形成することにより、駆動力以外の不要なサイドスラストの防止を図ろうとしている。
【0003】
しかし、この特許文献1の装置では、てこ部材の支持構造が複雑となり、またシリンダの軸にほぼ直角方向にてこ部材が設けられているため、装置が大型化し、広い設置スペースを要する。このような変換装置を通常のエンジンのピストンとクランクシャフト間に適用しようとすれば、ピストンやコネクティングロッドの構成上不具合が生じ、そのまま適用することはできない。
【0004】
一方、従来からヘリコプタ等の航空機に用いられるエンジンとして、レシプロ型のエンジンをクランク軸の周囲に放射状に配置した図18に示すような星型エンジンが知られている。
【0005】
これは、出力軸であるクランクシャフト101の周囲に、シリンダ103と該シリンダ103内に摺動可能に設けたピストン104からなる4サイクル等のレシプロ型のエンジン102を等間隔かつ放射状に配置したものである。前記ピストン104とクランクシャフト101とは、コネクティングロッド105とクランクロッド106とを介して接続されており、前記ピストン104の往復運動を回転運動に変換してクランク軸101に駆動力を伝達するように構成されたものである。
【0006】
図19はこの従来の4サイクルのレシプロエンジンの一つのシリンダ部を示している。前述したように、このエンジンはシリンダ103内を上下動するピストン104の往復運動をクランクシャフト101の回転運動に変換するために両者の間をコネクティングロッド105とクランクロッド106とで連結した構造となっている。なお、図中の符号107,108は各々コネクティングロッド105とクランクロッド106との連結部(クランクピン)およびピストン104とコネクティングロッド105との連結部(ピストンピン)を示しており、これらは回動自在に連結されている。
【0007】
このような従来の4サイクルのレシプロエンジンで出力効率を上げるのを妨げている大きな要因の一つとして、ピストン104のサイドスラストが知られている。
【0008】
以下、図20にエンジン102の拡大図を示しこのサイドスラストについて説明する。シリンダ103内の爆発の膨張力により、ピストン104が図上方に向けてfの力で移動し、コネクティングロッド105及びクランクロッド106を介してクランクシャフト101を回転させようとする。一方、コネクティングロッド105からは図中Fで示す反力がピストン104に作用する。このときのピストン104の移動方向とコネクティングロッド105との角度がθとすると、ピストン104には、上下方向反力Fcosθと横方向反力Fsinθとが作用する。この横方向反力Fsinθがサイドスラストとなって、ピストン104からシリンダ103の内壁に作用することになる。すなわち、サイドスラスト力はピストン104の往復運動時の横振れによる偏倚力である。なお、上下方向反力Fcosθはfにほぼ等しい。
【0009】
このサイドスラストはピストン104がシリンダ103内をその中心線Cにそって往復運動するときに、コネクティングロッド105がピストンピン108を介してピストン104に対し傾斜しながら往復運動するため、すなわちシリンダの中心線Cに対し角度θをもってその角度θを変化させながら往復運動するためにおこる。従って、サイドスラスト(Fsinθ)をなくすには、ピストンの往復運動中常にθ=0とするか又はFsinθを打ち消す力を作用させれば良いことが判る。すなわち、コネクティングロッド105とピストン104との連結部(この例ではピストンピン108)において、コネクティングロッド105からピストン104に対し作用する反力が常に中心線Cと一致した方向に作用し、横方向に作用しなければサイドスラストは発生しない。
【0010】
そのためには、コネクティングロッド105がピストン104に対しθ=0で固定された状態で中心線C上で往復運動するか、もしくは、コネクティングロッド105に対し、例えば対称に傾斜しながら往復運動する別のコネクティングロッドを設けて−Fsinθの横方向の力を発生させ、これにより双方のサイドスラスト力を相殺させればよい。
【0011】
なお、例えコネクティングロッド105がθ=0で往復運動しても後述するようにコネクティングロッド105の先端に横向きの力が作用すれば、ピストン104にも横向きの力が作用するが、コネクティングロッド105の先端の横向きの力を逃がす又は別部材で受けることにより、ピストン104への影響をなくすことができる。
【0012】
このように、従来のレシプロエンジンでは、シリンダ103とピストン104との間でサイドスラストが発生しエネルギー損失が生じる。このため、燃料消費の面からも対策が望まれていた。
【0013】
このサイドスラストによる影響はエネルギー損失の原因ばかりでなく、シリンダ103とピストン104の横振れの片当たりによるピストンの割れ、欠けなどの原因にもなる。
【0014】
また、シリンダ103とピストン104との間の気密性を高めるためにピストン104に設けられたピストンリング109の機能にも影響を与え、ピストンリング109から生じるガス漏れを完全に封じること出来ず、この点からもエネルギー効率を上げる妨げとなっていた。
【0015】
さらに、各エンジンのピストン104の往復運動が揺動するコネクティングロッド105に伝わるため、例え対向するエンジン102を同期させて駆動しても各エンジン毎について見ると、コネクティングロッド105の揺動による振動を完全にキャンセルすることは困難である。
【0016】
【特許文献1】特表平8−510038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上記従来技術を考慮したものであって、動力源として振動が少なく、サイドスラストによるピストンの摺動抵抗を軽減した、効率の良いエンジンの動力伝達装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記目的を達成するため、請求項1の発明は、シリンダと該シリンダ内を摺動するピストンとを備えたエンジンからの往復運動を、クランクシャフトの回転運動へと変換する動力伝達装置であって、一端が前記ピストンに接続され、他端が該ピストンと共に前記シリンダの中心線上で往復運動するコネクティングロッドと、前記コネクティングロッドの他端の往復運動を回転運動に変換してクランクシャフトに伝達するカム機構とを備えていることを特徴とするエンジンの動力伝達装置を提供する。
【0019】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記カム機構は、前記コネクティングロッドの他端と接して該他端から押圧駆動される楕円状のカムによって形成されていることを特徴としている。
【0020】
請求項3の発明は、請求項1の発明において、前記カム機構は、前記コネクティングロッドの他端が嵌合する楕円状の溝部から成るカムによって形成されていることを特徴としている。
【0021】
請求項4の発明は、請求項1の発明において、前記カム機構は、前記コネクティングロッドの他端と接して該他端から押圧駆動される十字等の星型状のカムによって形成されていることを特徴としている。
【0022】
請求項5の発明は、請求項1の発明において、前記カム機構は、前記コネクティングロッドの他端が嵌合する星型状の溝部から成るカムによって形成されていることを特徴としている。
【0023】
請求項6の発明は、請求項1の発明において、前記カム機構は、前記コネクティングロッドの前記他端に設けた前記中心線と略直交する溝部を有する延設部と、該延設部の溝部と嵌合し前記中心線に対し対称に回転する少なくとも一対の回転部材とから形成されていることを特徴としている。
【0024】
請求項7の発明は、請求項1〜6の発明において、前記コネクティングロッドを前記中心線上で往復運動させるガイドを設けたことを特徴としている。
【0025】
請求項8の発明は、シリンダ内を摺動するピストンの往復運動をクランクシャフトの回転運動へと変換するエンジンの動力伝達装置であって、一端が前記ピストンに接続された複数のコネクティングロッドを有し、該複数のコネクティングロッドの他端は、前記シリンダの中心線に対して対称的に接近離間しながら往復運動するように配置され、該コネクティングロッドの他端と係合し前記中心線に対し対称に回転する複数の回転部材とを備えたことを特徴とするエンジンの動力伝達装置を提供する。
【0026】
請求項9の発明は、請求項1〜8の発明において、前記ピストンの中心線上に一対のエンジンを対向配置し、両エンジン間に前記カム機構又は回転部材を配置したことを特徴としている。
【0027】
請求項10の発明は、請求項1〜9の発明において、前記シリンダを放射状に配置したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0028】
請求項1の発明によれば、一端がピストンに連結されピストンの往復運動と共にシリンダの中心線上で往復運動するコネクティングロッドと、前記コネクティングロッドの他端の往復運動を回転運動に変換してクランクシャフトに伝達するカム機構とを備えているため、以下の効果が得られる。
【0029】
1.コネクティングロッドはピストンに連結された一方の端部及び他方の端部が共にシリンダの中心線上で往復運動し、ピストンに対し傾斜しない。すなわち、コネクティングロッドはその長軸がシリンダの中心線と一致した状態で往復運動する。従って、シリンダ中心線に対する傾斜角θは0である。従って、前述のサイドスラストFsinθ=0となって、サイドスラスト力は発生しない。このように、ピストンにサイドスラスト力が作用するのを抑止できるため、エンジンの振動を抑えることができる。
2.サイドスラスト力を防止することができるため、エネルギー効率が向上し、出力効率を向上することができる。
3.サイドスラストによる摩擦エネルギーを減少することができるため、アイドリング時も含め、エンジンの回転抵抗を低く抑えることができ、燃料消費を抑制することができる。
4.シリンダとピストンの片当たりが抑制されるのでピストンの割れ、欠けなどの恐れが低減する。
5.ピストンの横振れによりピストンリングから生じるガス漏れを最小限に抑えることができ、出力効率をさらに向上することができる。
請求項2の発明によれば、カム機構が、前記シリンダの中心線上で往復運動する前記コネクティングロッドの他端と接する楕円状のカムによって形成されているため、簡単な構造で往復運動を回転運動に変換できる。
【0030】
請求項3の発明によれば、カム機構が、前記コネクティングロッドの他端と嵌合する例えば円盤状部材に設けられた楕円状の溝部によって形成されているため、簡単な構造で確実に連結状態を保って往復運動を回転運動に変換できる。また、これにより、カム機構における振動の少ない駆動を実現できる。
【0031】
請求項4の発明によれば、カム機構が、前記コネクティングロッドの他端と接する十字等の星型状のカムによって形成されているため、簡単な構造で複数のエンジンを協働させて効率よく共通の出力軸を回転させることができる。
【0032】
請求項5の発明によれば、カム機構が、前記コネクティングロッドの他端と嵌合する例えば円盤状部材に設けられた星型状の溝部によって形成されているため、簡単な構造で確実に複数のエンジンを協働させて効率よく共通の出力軸を回転させることができる。
【0033】
請求項6の発明によれば、カム機構が、前記シリンダの中心線上で往復運動するコネクティングロッドの前記他端に前記中心線と略直交する溝部を有する延設部を備え、該延設部の溝部と嵌合し中心線に対し対称に回転する少なくとも一対の回転部材とから形成されているため、簡単な構造でコネクティングロッドを振らせることなく往復運動させることができると共に、一対の回転部材を相互に対称に回転させて回転出力を得ることができる。これにより、カム機構における振動の少ない駆動を実現することができる。
【0034】
請求項7の発明の発明によれば、コネクティングロッドを前記中心線に沿って往復運動をガイドする例えばローラから成るガイドが設けてあるため、コネクティングロッドが確実に前記中心線上で往復運動し、振動を防止することができる。
【0035】
請求項8の発明の発明によれば、複数本のコネクティングロッドがシリンダ中心線に対し相互に対称に開平しながら(すなわち、傾斜角度θを相互に反対方向に変えながら)往復運動をするため、例えば、一対のコネクティングロッドについてみると、前述のサイドスラストFsinθと−Fsinθが生じる。このため両方のコネクティングロッドのサイドスラストが打ち消し合って横振れが防止される。
【0036】
請求項9の発明によれば、一対のエンジンを協働させて例えばシリンダ中心線上でピストンを同期させて往復運動させることにより、両方のピストンでその間に配置したカム機構(請求項1〜7)または回転部材(請求項8)を駆動でき、効率よく高出力を得ることができる。
【0037】
請求項10の発明によれば、複数対のエンジンを放射状に配置できるため、さらに効率よく高出力を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
本発明が適用される動力伝達装置及びこれを用いたエンジンは、例えば、ヘリコプタ等の航空機に用いられる星型エンジンとして、出力軸であるクランクシャフトの周囲に、シリンダと該シリンダ内に摺動可能に設けたピストンからなる4サイクル等のレシプロ型のエンジンを放射状に配置し、前記ピストンとクランクシャフトとを、コネクティングロッドとカム機構とを介して接続して、前記ピストンの往復運動を回転運動に変換してクランクシャフトに駆動力を伝達するようにする。以下、図面と共に各実施例についてより詳細に説明する。
なお、以下各実施例において、同一の部品には同一符号を付し、重複する説明はできるだけ省略する。
【0039】
(第1実施例)
図1は、本発明が適用される動力伝達装置100を示す第1実施例であり、この第1実施例では、シリンダが一つの単気筒の場合を示している。
1は、出力軸であるクランクシャフトを示しており、このクランクシャフト1には、回転中心を同じくして楕円状のカム11が設けられている。
5はコネクティングロッドを示し、その一端には、前記カム11に回転可能に接するように設けられたローラ12が連結ピン13を介して配置され、他端はピストン4に一体に接続されている。この第1実施例では、クランクシャフト1に装着されたカム11及びコネクティングロッド5の端部に設けたローラ12によりカム機構10が構成される。
【0040】
コネクティングロッド5の両脇には、ローラから成るガイド14が設けられ、コネクティングロッド5がピストン4の往復運動する際に揺動しないように、かつ、滑らかに移動できるように支持されている。このガイド14により、コネクティングロッド5はピストン4の往復運動に伴い、シリンダ3の中心線Cに対し傾斜することなく、常に中心線C上で往復運動する。これにより、ピストン4の往復動作に伴う横振れが防止され、サイドスラストがなくなる。
【0041】
なお、図中の符号8はピストンピンを示し、符号9は、シリンダ3とピストン4との間の気密性を高めるためにピストン4に設けられたピストンリングを示している。
【0042】
図2は、図1のカム11とローラ12との接点の拡大図である。
シリンダ3内の爆発によりピストン4に上方向の力fが発生する。そして、コネクティングロッド5の一端に設けられたローラ12を介してカム11に力fが伝わると、前記接点では図2に示すように力fは接線方向に対して垂直と水平方向の分力f1,f2に分割される。この分力f1によってカム11が回転され駆動力に変換される。
【0043】
一方、分力f2によってコネクティングロッド5に対する横方向の力が発生するが、この横方向の力はカム11及びローラ12の回転により逃がされる。更に残っている横方向の力はガイド14で受けられその反力で吸収される。したがってピストン4に対し横振れを起こさせることはない。
【0044】
以上のような構成をとることにより、ピストン4にサイドスラスト力が作用するのを抑止でき、エンジン振動を抑えることができる。
このようにサイドスラスト力を防止することにより、エネルギー効率が向上し、出力効率を向上することができる。
【0045】
また、サイドスラストによる摩擦エネルギーを減少することができるため、エンジン回転抵抗を低く抑えることができ、燃料消費を抑制することができる。
さらに、シリンダ3とピストン4の片当たりが抑制されるのでピストンの割れ、欠けなどの恐れが低減する。
【0046】
また、ピストンの横振れによるピストンリング9から生じるガス漏れを最小限に抑えることができ、出力効率をさらに向上することができる。
特に前述のように、コネクティングロッド5の両側にガイド14が配置されているため、確実にコネクティングロッド5を傾斜させることなく直線的にシリンダの中心線C上で往復運動させ、エンジン振動を防止することができる。
【0047】
(第2実施例)
図3は本発明が適用される動力伝達装置200を示す第2実施例であり、第1実施例に比してシリンダ3を図中上下に対向して2つ配置した2気筒タイプを示している。これら2つのシリンダ3のピストン4を同期して動作させることで、前述の第1実施例と同様の効果を得ると共に、より高出力な駆動力を得ることができる。
【0048】
また、仮想線で示すように、クランクシャフト1(カム機構10)の周囲に放射状に、かつ、等間隔に複数のシリンダ3を配置した星型エンジンとすることでより高出力な駆動力を得ることも可能である。
【0049】
(第3実施例)
図4は、本発明が適用される動力伝達装置300を示す第3実施例であり、この第3実施例でも、第2実施例同様にシリンダ3を図中上下に対向して2つ配置した2気筒タイプを示している。
この第3実施例では、カム機構10として、前述の第1及び第2実施例のカム11の代わりに、コネクティングロッド5の他端に設けたローラ12が嵌合する楕円状の溝部16を円盤状の部材に形成した溝カム15を用いたものである。
【0050】
図5はこの溝カム15の拡大図を示しており、図中符号17はクランクシャフト1が挿嵌されるシャフト孔であり、16a及び16bは各々溝部16の外周壁と内周壁を示している。
この第3実施例の構成によれば、前述の第1及び第2実施例の効果に加えて、コネクティングロッド5の端部のローラ12が溝部16内に嵌入するため、コネクティングロッド5と溝カム15の連結状態が確実に保たれる。また、カム機構10における振動も少なく、さらに振動の少ない駆動を実現することができる。
【0051】
さらに、コネクティングロッド5の他端に設けられたローラ12が溝部16内部に嵌合しているため、前記溝部16の外周壁16aと内周壁16bとを同心状に相似形に形成してあれば、ローラ12と溝カム15との同期が仮に微少な範囲でズレた場合であっても、溝部16の外周壁16aと内周壁16bとでローラ12を狭持できるので、ローラ12がカム部分から離れることを防止することができる。
【0052】
(第4実施例)
図6は本発明が適用される図4の動力伝達装置300をクランクシャフト1(カム機構10)の周囲に放射状に、かつ、等間隔に複数のシリンダ3を配置した星型エンジン400を示す第4実施例であり、シリンダ3を放射状に8つ配置した8気筒タイプを示している。これら8つのシリンダ3のピストン4を同期して動作させることで、前述の第3実施例と同様の効果を得ると共に、より高出力な駆動力を得ることができる。
【0053】
(第5実施例)
図7は、本発明が適用される動力伝達装置であり、クランクシャフト1(カム機構10)の周囲に放射状に、かつ、等間隔に6つのシリンダ3を配置した星型エンジン500を示す第5実施例である。
【0054】
この第5実施例では、カム機構10が、コネクティングロッド5の端部のローラ12と接する十字等の星型状のカム18によって形成されている点が前述の他の実施例と異なる点である。
【0055】
このような構造とすることで、前述の第1及び第2実施形態の動力伝達装置100,200と同様の効果が得られると共に、カム18の形状(凸部の数や凹凸の傾斜または大きさ等)を各種条件に合わせて設計することにより、簡単な構造で複数のエンジンを協働させて効率よく共通のクランクシャフト1を回転駆動することができる。
【0056】
図8は、図7の星型エンジン500の燃焼サイクルを示す図であり、星型状のカム18、特にこの第5実施形態による十字状のカム18では、一回転につきA〜D及びa〜dに示すような4つの工程が2回行われる。
【0057】
ここで図8を例に一般的な4サイクルエンジンの各工程を説明する。
A,a(吸気工程):カム18の凸部から凹部に沿ってローラ12が動き、ピストンが下死点まで移動する。このとき図外のインテークバルブが開き、インテーク側より燃料と空気が混ざり合った混合空気がシリンダ3内に吸い込まれる。
【0058】
B,b(圧縮工程):カム18の凹部から凸部に沿ってローラ12が動き、ピストンが上死点まで移動する。これによりシリンダ3内の混合空気が圧縮され、そして、ピストン4が上死点付近に到達すると、図外の点火プラグによって着火されシリンダ3内の混合空気を爆発させる。
【0059】
C,c(膨張工程):カム18の凸部から凹部に沿ってローラ12が動き、ピストンが下死点まで移動する。シリンダ3内の混合空気の爆発エネルギーによって、ローラ12を介してカム18を回転させる。
【0060】
D,d(排気工程):カム18の凹部から凸部に沿ってローラ12が動き、ピストンが上死点まで移動する。このとき図外のエキゾーストバルブが開き、エキゾースト側より排気が行われる。
【0061】
(第6実施例)
図9は、本発明が適用される動力伝達装置であり、クランクシャフト1(カム機構10)の周囲に放射状に、かつ、等間隔に6つのシリンダ3を配置した星型エンジン600を示す第6実施例である。この第6実施例では、カム機構10として、コネクティングロッド5の端部に設けたローラ12と嵌合する8つの凹凸をもつ星型状の溝部20を円盤状の部材に形成した星型状の溝カム19を用いた点が前述の他の実施例と異なる点である。
【0062】
これにより、前述の第1〜第5実施形態における効果と同様な効果を同時に得ることができ、簡単な構造で複数のエンジンを協働させて効率よく共通のクランクシャフト1を回転駆動することができる。
【0063】
(第7実施例)
図10は、本発明が適用される動力伝達装置700を示す第7実施例であり、第2実施例と同様にシリンダ3を図中上下に対向して2つ配置した2気筒タイプである。
【0064】
この第7実施例では、対抗するエンジン2のコネクティングロッド5の端部同士は、中心線Cに直交する溝部21を有する共通の延設部40を介して一体結合される。この例では溝部21内に摺動可能に嵌合する連結ピン22を有する左右一対の回転部材23が備わる。
【0065】
ピストン3が往復運動すると、コネクティングロッド5の移動に伴い、前記溝部21内に嵌合する連結ピン22によって一対の回転部材23が矢印方向に左右対称に回転する。このとき回転部材23と一体となって回動する回転中心軸24の何れか一方をクランクシャフト1と結合することにより、ピストン3の往復運動を回転運動に変換することができる。
【0066】
これにより、前述の第2実施例と同様の効果を得ることができると共に、さらに振動の少ない駆動を実現することができる。
【0067】
(第8実施例)
図11は、第7実施例の動力伝達装置700に対し、クランクシャフト1の周囲に放射状に、かつ、等間隔に6つのシリンダ3を配置した星型エンジン800を示す第8実施例であり、図12はその断面図である。ただし、この第8実施例では、延設部40の溝部21を有するコネクティングロッド5をT字状に形成して、各シリンダ3に対して各々1つずつ設けたものである。
【0068】
また、回転部材23と一体となって回動する回転中心軸24から直接駆動力を得るのではなく、一方の回転中心軸24にギアを形成し、各シリンダ3の回転中心軸24と噛み合う連結ギア25を設けて、この連結ギア25の中心にクランクシャフト1を一体回動可能に接続することで駆動力を取り出している。図12中の符号26はこれら各部材を接続するケースの一部を示し、符号27は回転部材23と回転中心軸(ギア)24を連結しケース26に接続する連結ピンを示している。また、符号28はクランクシャフト1を回転可能にケース26に保持するガイドを示している。
【0069】
なお、ここではより駆動ロスを抑えるためにギアを用いたが、これに限らず、連結ベルト等の通常考え得る範囲の動力伝達機構に代えて実施できることは言うまでもない。
これにより前述の第7実施例と同様の効果を得ることができる。
【0070】
(第9実施例)
図13は、本発明が適用される動力伝達装置900を示す第9実施例であり、第2,第6実施例と同様にシリンダ3を図中上下に対向して2つ配置した2気筒タイプである。
【0071】
この例は、前述の図20のサイドスラストFsinθを相殺するために、中心線Cに対し対称に傾斜する一対のコネクティングロッドを各ピストンに連結したものである。なお、この例ではシリンダ3を対向させて2つ設けているが、1つのみの単気筒タイプでもよい。
【0072】
この第9実施例では、各エンジン2は、一端がピストンピン29を介してピストン4に連結され、シリンダ3の中心線Cに沿って対照的に配置された一対のコネクティングロッド5を備え、両エンジン2,2間に該コネクティングロッド5の他端と連結ピン22等を介して連結され左右対称に回転する一対の回転部材23が設けられている。
【0073】
この第9実施例ではシリンダ3を図中上下に対向して2つ配置した2気筒タイプであるため、両ピストン4に接続される前記コネクティングロッド5を同じ回転部材23に連結している。
【0074】
このような構成をとることにより、ピストン4が往復運動すると、コネクティングロッド5の移動に伴い、一対の回転部材23が矢印方向に左右対称に回転する。このとき回転部材23と一体となって回動する回転中心軸24の何れか一方をクランクシャフト1と結合することにより、ピストン4の往復運動を回転運動に変換することができる。
【0075】
これにより、前述の実施例と同様の効果を得ることができると共に、さらに振動の少ない駆動を実現することができる
【0076】
(第10実施例)
図14は、第9実施例の動力伝達装置900に対し、クランクシャフト1の周囲に放射状に、かつ、等間隔に4つのシリンダ3を配置した星型エンジン1000を示す第10実施例である。この第10実施例では、シリンダ3が前述のように4つ配置したタイプであるため、各ピストン4に接続される前記コネクティングロッド5を隣り合わせとなるエンジン2と同じ回転部材23にそれぞれ連結している。
【0077】
また、この第10実施例でも前述の第8実施例の星型エンジン800と同様に回転部材23と一体となって回動する回転中心軸24から直接駆動力を得るのではなく、一方の回転中心軸24にギアを形成し、各回転部材23の回転中心軸24と噛み合う連結ギア25を設けて、この連結ギア25の中心にクランクシャフト1を一体回動可能に接続することで駆動力を取り出している。
なお、連結ギアの代わりに連結ベルト等の通常考え得る範囲の動力伝達機構に代えて実施できることは第8実施例と同様である。
これにより前述の第9実施例と同様の効果を得ることができる。
【0078】
(第11実施例)
図15は、本発明が適用される星型エンジン1100を示す第11実施例であり、図16はこの第11実施例の星型エンジン1100の断面を示している。この第11実施例は、第10実施例と同様にクランクシャフト1の周囲に放射状に、かつ、等間隔に4つのシリンダ3を配置した4気筒タイプである。
【0079】
この第11実施例のカム機構10は、第1実施例に記載の楕円状のカム11を2個十字状に重ねて用いるタイプであり、かつ、2個のカム11を相互に逆方向に回転するように構成したものである。そして、これらのカム11間を傘歯歯車30,31を介して係合させている。より詳しくは、カム11の対向する側面に傘歯歯車30が形成され、傘歯歯車31は連結ピン33を介してキャリア32に接続され当該位置にて回転のみ許容して固定されている。
【0080】
図中の符号34はカム11の回転中心軸を示し、この第11実施例ではその一方がクランクシャフト1に結合されている。
【0081】
こうすることにより、ピストン4の往復運動が前述したようにカム11によって回転駆動力に変換される。このときカム11の対向する側面の両傘歯歯車30に傘歯歯車31が噛み合い、この傘歯歯車31が連結ピン33を介してキャリア32に固定されているため、これらカム11は相互に逆方向に回転する。そして、一方のカム11の回転中心軸34と一体に結合されたクランクシャフト1を介して駆動力が伝達される。
【0082】
従って、前述の第1、第2実施例と同様の効果が得られると共に、相互に逆回転するカム11の駆動力を傘歯歯車30,31を介して接続していることにより、往復運動によるエネルギーをロスなく的確に回転駆動力に変換することができる。
【0083】
(第12実施例)
図17は、第11実施例の変形例である星型エンジン1200を示す第12実施例である。この第12実施例では、カム11を楕円状ではなく、第5実施例で説明した十字状のカム18を用いたものであり、第5及び第11実施例の両方の効果を得ることができるものである。
【0084】
なお、前述の各実施例では、クランクシャフト1の周囲に放射状に配置するエンジン2をそれぞれ1,2,4,6,8個配置した例を示したが、これに限るものではない。
【0085】
また、エンジンとして4サイクルのガソリンエンジンを例示して説明したが、2サイクルエンジンやディーゼルエンジン等、往復運動をするエンジンに適用できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明を適用した動力伝達装置及び星型エンジンは、ヘリコプター等の小型航空機に適用できるほか、エンジンの往復運動を回転駆動力として利用するものたとえば、車両や船舶、また、発電機等の様々なものに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明が適用される動力伝達装置の第1実施例の要部構成説明図である。
【図2】図1のカムとローラとの接点の拡大説明図である。
【図3】本発明が適用される動力伝達装置の第2実施例の要部構成説明図である。
【図4】本発明が適用される動力伝達装置の第3実施例の要部構成説明図である。
【図5】第3実施例の溝カムの拡大説明図である。
【図6】本発明が適用される動力伝達装置の第4実施例の要部構成説明図である。
【図7】本発明が適用される動力伝達装置の第5実施例の要部構成説明図である。
【図8】図7の星型エンジンに係る燃焼サイクルの説明図である。
【図9】本発明が適用される動力伝達装置の第6実施例の要部構成説明図である。
【図10】本発明が適用される動力伝達装置の第7実施例の要部構成説明図である。
【図11】本発明が適用される第8実施例の要部構成説明図である。
【図12】図11の星形エンジンの側方断面図である。
【図13】本発明が適用される動力伝達装置の第9実施例の要部構成説明図である。
【図14】本発明が適用される第10実施例の要部構成説明図である。
【図15】本発明が適用される第11実施例の要部構成説明図である。
【図16】図15の側方断面図である。
【図17】第11実施例の変形例である第12実施例の要部構成説明図である。
【図18】従来の星型エンジンを示す構成説明図である。
【図19】図18のシリンダ部を示した構成説明図である。
【図20】図19の一部を拡大したサイドスラストについての説明図である。
【符号の説明】
【0088】
1:クランクシャフト、2:エンジン、3:シリンダ、4:ピストン、5:コネクティングロッド、9:ピストンリング、10:カム機構、11:カム、12:ローラ、13:連結ピン、14:ガイド、15:溝カム、16:溝部、16a:外周壁、16b:内周壁、17:シャフト孔、18:十字カム、19:星型状溝カム、20:溝部、21:溝部、22:連結ピン、23:回転部材、24:回転中心軸、25:連結ギア、26:ケース、27:連結ピン、28:ガイド、29:ピストンピン、30,31:傘歯歯車、32:連結ピン、33:キャリア、34:回転中心軸、40:延設部、100,200,300,700,900:動力伝達装置、400,500,600,800,1000,1100,1200:星型エンジン。
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンから出力軸へ駆動力を伝達する動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ピストンの往復運動と回転運動との相互変換装置が特許文献1に記載されている。特許文献1の装置は、ピストンと回転軸間にてこ部材を設け、てこ部材の支点及び力点をスライド可能に形成することにより、駆動力以外の不要なサイドスラストの防止を図ろうとしている。
【0003】
しかし、この特許文献1の装置では、てこ部材の支持構造が複雑となり、またシリンダの軸にほぼ直角方向にてこ部材が設けられているため、装置が大型化し、広い設置スペースを要する。このような変換装置を通常のエンジンのピストンとクランクシャフト間に適用しようとすれば、ピストンやコネクティングロッドの構成上不具合が生じ、そのまま適用することはできない。
【0004】
一方、従来からヘリコプタ等の航空機に用いられるエンジンとして、レシプロ型のエンジンをクランク軸の周囲に放射状に配置した図18に示すような星型エンジンが知られている。
【0005】
これは、出力軸であるクランクシャフト101の周囲に、シリンダ103と該シリンダ103内に摺動可能に設けたピストン104からなる4サイクル等のレシプロ型のエンジン102を等間隔かつ放射状に配置したものである。前記ピストン104とクランクシャフト101とは、コネクティングロッド105とクランクロッド106とを介して接続されており、前記ピストン104の往復運動を回転運動に変換してクランク軸101に駆動力を伝達するように構成されたものである。
【0006】
図19はこの従来の4サイクルのレシプロエンジンの一つのシリンダ部を示している。前述したように、このエンジンはシリンダ103内を上下動するピストン104の往復運動をクランクシャフト101の回転運動に変換するために両者の間をコネクティングロッド105とクランクロッド106とで連結した構造となっている。なお、図中の符号107,108は各々コネクティングロッド105とクランクロッド106との連結部(クランクピン)およびピストン104とコネクティングロッド105との連結部(ピストンピン)を示しており、これらは回動自在に連結されている。
【0007】
このような従来の4サイクルのレシプロエンジンで出力効率を上げるのを妨げている大きな要因の一つとして、ピストン104のサイドスラストが知られている。
【0008】
以下、図20にエンジン102の拡大図を示しこのサイドスラストについて説明する。シリンダ103内の爆発の膨張力により、ピストン104が図上方に向けてfの力で移動し、コネクティングロッド105及びクランクロッド106を介してクランクシャフト101を回転させようとする。一方、コネクティングロッド105からは図中Fで示す反力がピストン104に作用する。このときのピストン104の移動方向とコネクティングロッド105との角度がθとすると、ピストン104には、上下方向反力Fcosθと横方向反力Fsinθとが作用する。この横方向反力Fsinθがサイドスラストとなって、ピストン104からシリンダ103の内壁に作用することになる。すなわち、サイドスラスト力はピストン104の往復運動時の横振れによる偏倚力である。なお、上下方向反力Fcosθはfにほぼ等しい。
【0009】
このサイドスラストはピストン104がシリンダ103内をその中心線Cにそって往復運動するときに、コネクティングロッド105がピストンピン108を介してピストン104に対し傾斜しながら往復運動するため、すなわちシリンダの中心線Cに対し角度θをもってその角度θを変化させながら往復運動するためにおこる。従って、サイドスラスト(Fsinθ)をなくすには、ピストンの往復運動中常にθ=0とするか又はFsinθを打ち消す力を作用させれば良いことが判る。すなわち、コネクティングロッド105とピストン104との連結部(この例ではピストンピン108)において、コネクティングロッド105からピストン104に対し作用する反力が常に中心線Cと一致した方向に作用し、横方向に作用しなければサイドスラストは発生しない。
【0010】
そのためには、コネクティングロッド105がピストン104に対しθ=0で固定された状態で中心線C上で往復運動するか、もしくは、コネクティングロッド105に対し、例えば対称に傾斜しながら往復運動する別のコネクティングロッドを設けて−Fsinθの横方向の力を発生させ、これにより双方のサイドスラスト力を相殺させればよい。
【0011】
なお、例えコネクティングロッド105がθ=0で往復運動しても後述するようにコネクティングロッド105の先端に横向きの力が作用すれば、ピストン104にも横向きの力が作用するが、コネクティングロッド105の先端の横向きの力を逃がす又は別部材で受けることにより、ピストン104への影響をなくすことができる。
【0012】
このように、従来のレシプロエンジンでは、シリンダ103とピストン104との間でサイドスラストが発生しエネルギー損失が生じる。このため、燃料消費の面からも対策が望まれていた。
【0013】
このサイドスラストによる影響はエネルギー損失の原因ばかりでなく、シリンダ103とピストン104の横振れの片当たりによるピストンの割れ、欠けなどの原因にもなる。
【0014】
また、シリンダ103とピストン104との間の気密性を高めるためにピストン104に設けられたピストンリング109の機能にも影響を与え、ピストンリング109から生じるガス漏れを完全に封じること出来ず、この点からもエネルギー効率を上げる妨げとなっていた。
【0015】
さらに、各エンジンのピストン104の往復運動が揺動するコネクティングロッド105に伝わるため、例え対向するエンジン102を同期させて駆動しても各エンジン毎について見ると、コネクティングロッド105の揺動による振動を完全にキャンセルすることは困難である。
【0016】
【特許文献1】特表平8−510038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上記従来技術を考慮したものであって、動力源として振動が少なく、サイドスラストによるピストンの摺動抵抗を軽減した、効率の良いエンジンの動力伝達装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記目的を達成するため、請求項1の発明は、シリンダと該シリンダ内を摺動するピストンとを備えたエンジンからの往復運動を、クランクシャフトの回転運動へと変換する動力伝達装置であって、一端が前記ピストンに接続され、他端が該ピストンと共に前記シリンダの中心線上で往復運動するコネクティングロッドと、前記コネクティングロッドの他端の往復運動を回転運動に変換してクランクシャフトに伝達するカム機構とを備えていることを特徴とするエンジンの動力伝達装置を提供する。
【0019】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記カム機構は、前記コネクティングロッドの他端と接して該他端から押圧駆動される楕円状のカムによって形成されていることを特徴としている。
【0020】
請求項3の発明は、請求項1の発明において、前記カム機構は、前記コネクティングロッドの他端が嵌合する楕円状の溝部から成るカムによって形成されていることを特徴としている。
【0021】
請求項4の発明は、請求項1の発明において、前記カム機構は、前記コネクティングロッドの他端と接して該他端から押圧駆動される十字等の星型状のカムによって形成されていることを特徴としている。
【0022】
請求項5の発明は、請求項1の発明において、前記カム機構は、前記コネクティングロッドの他端が嵌合する星型状の溝部から成るカムによって形成されていることを特徴としている。
【0023】
請求項6の発明は、請求項1の発明において、前記カム機構は、前記コネクティングロッドの前記他端に設けた前記中心線と略直交する溝部を有する延設部と、該延設部の溝部と嵌合し前記中心線に対し対称に回転する少なくとも一対の回転部材とから形成されていることを特徴としている。
【0024】
請求項7の発明は、請求項1〜6の発明において、前記コネクティングロッドを前記中心線上で往復運動させるガイドを設けたことを特徴としている。
【0025】
請求項8の発明は、シリンダ内を摺動するピストンの往復運動をクランクシャフトの回転運動へと変換するエンジンの動力伝達装置であって、一端が前記ピストンに接続された複数のコネクティングロッドを有し、該複数のコネクティングロッドの他端は、前記シリンダの中心線に対して対称的に接近離間しながら往復運動するように配置され、該コネクティングロッドの他端と係合し前記中心線に対し対称に回転する複数の回転部材とを備えたことを特徴とするエンジンの動力伝達装置を提供する。
【0026】
請求項9の発明は、請求項1〜8の発明において、前記ピストンの中心線上に一対のエンジンを対向配置し、両エンジン間に前記カム機構又は回転部材を配置したことを特徴としている。
【0027】
請求項10の発明は、請求項1〜9の発明において、前記シリンダを放射状に配置したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0028】
請求項1の発明によれば、一端がピストンに連結されピストンの往復運動と共にシリンダの中心線上で往復運動するコネクティングロッドと、前記コネクティングロッドの他端の往復運動を回転運動に変換してクランクシャフトに伝達するカム機構とを備えているため、以下の効果が得られる。
【0029】
1.コネクティングロッドはピストンに連結された一方の端部及び他方の端部が共にシリンダの中心線上で往復運動し、ピストンに対し傾斜しない。すなわち、コネクティングロッドはその長軸がシリンダの中心線と一致した状態で往復運動する。従って、シリンダ中心線に対する傾斜角θは0である。従って、前述のサイドスラストFsinθ=0となって、サイドスラスト力は発生しない。このように、ピストンにサイドスラスト力が作用するのを抑止できるため、エンジンの振動を抑えることができる。
2.サイドスラスト力を防止することができるため、エネルギー効率が向上し、出力効率を向上することができる。
3.サイドスラストによる摩擦エネルギーを減少することができるため、アイドリング時も含め、エンジンの回転抵抗を低く抑えることができ、燃料消費を抑制することができる。
4.シリンダとピストンの片当たりが抑制されるのでピストンの割れ、欠けなどの恐れが低減する。
5.ピストンの横振れによりピストンリングから生じるガス漏れを最小限に抑えることができ、出力効率をさらに向上することができる。
請求項2の発明によれば、カム機構が、前記シリンダの中心線上で往復運動する前記コネクティングロッドの他端と接する楕円状のカムによって形成されているため、簡単な構造で往復運動を回転運動に変換できる。
【0030】
請求項3の発明によれば、カム機構が、前記コネクティングロッドの他端と嵌合する例えば円盤状部材に設けられた楕円状の溝部によって形成されているため、簡単な構造で確実に連結状態を保って往復運動を回転運動に変換できる。また、これにより、カム機構における振動の少ない駆動を実現できる。
【0031】
請求項4の発明によれば、カム機構が、前記コネクティングロッドの他端と接する十字等の星型状のカムによって形成されているため、簡単な構造で複数のエンジンを協働させて効率よく共通の出力軸を回転させることができる。
【0032】
請求項5の発明によれば、カム機構が、前記コネクティングロッドの他端と嵌合する例えば円盤状部材に設けられた星型状の溝部によって形成されているため、簡単な構造で確実に複数のエンジンを協働させて効率よく共通の出力軸を回転させることができる。
【0033】
請求項6の発明によれば、カム機構が、前記シリンダの中心線上で往復運動するコネクティングロッドの前記他端に前記中心線と略直交する溝部を有する延設部を備え、該延設部の溝部と嵌合し中心線に対し対称に回転する少なくとも一対の回転部材とから形成されているため、簡単な構造でコネクティングロッドを振らせることなく往復運動させることができると共に、一対の回転部材を相互に対称に回転させて回転出力を得ることができる。これにより、カム機構における振動の少ない駆動を実現することができる。
【0034】
請求項7の発明の発明によれば、コネクティングロッドを前記中心線に沿って往復運動をガイドする例えばローラから成るガイドが設けてあるため、コネクティングロッドが確実に前記中心線上で往復運動し、振動を防止することができる。
【0035】
請求項8の発明の発明によれば、複数本のコネクティングロッドがシリンダ中心線に対し相互に対称に開平しながら(すなわち、傾斜角度θを相互に反対方向に変えながら)往復運動をするため、例えば、一対のコネクティングロッドについてみると、前述のサイドスラストFsinθと−Fsinθが生じる。このため両方のコネクティングロッドのサイドスラストが打ち消し合って横振れが防止される。
【0036】
請求項9の発明によれば、一対のエンジンを協働させて例えばシリンダ中心線上でピストンを同期させて往復運動させることにより、両方のピストンでその間に配置したカム機構(請求項1〜7)または回転部材(請求項8)を駆動でき、効率よく高出力を得ることができる。
【0037】
請求項10の発明によれば、複数対のエンジンを放射状に配置できるため、さらに効率よく高出力を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
本発明が適用される動力伝達装置及びこれを用いたエンジンは、例えば、ヘリコプタ等の航空機に用いられる星型エンジンとして、出力軸であるクランクシャフトの周囲に、シリンダと該シリンダ内に摺動可能に設けたピストンからなる4サイクル等のレシプロ型のエンジンを放射状に配置し、前記ピストンとクランクシャフトとを、コネクティングロッドとカム機構とを介して接続して、前記ピストンの往復運動を回転運動に変換してクランクシャフトに駆動力を伝達するようにする。以下、図面と共に各実施例についてより詳細に説明する。
なお、以下各実施例において、同一の部品には同一符号を付し、重複する説明はできるだけ省略する。
【0039】
(第1実施例)
図1は、本発明が適用される動力伝達装置100を示す第1実施例であり、この第1実施例では、シリンダが一つの単気筒の場合を示している。
1は、出力軸であるクランクシャフトを示しており、このクランクシャフト1には、回転中心を同じくして楕円状のカム11が設けられている。
5はコネクティングロッドを示し、その一端には、前記カム11に回転可能に接するように設けられたローラ12が連結ピン13を介して配置され、他端はピストン4に一体に接続されている。この第1実施例では、クランクシャフト1に装着されたカム11及びコネクティングロッド5の端部に設けたローラ12によりカム機構10が構成される。
【0040】
コネクティングロッド5の両脇には、ローラから成るガイド14が設けられ、コネクティングロッド5がピストン4の往復運動する際に揺動しないように、かつ、滑らかに移動できるように支持されている。このガイド14により、コネクティングロッド5はピストン4の往復運動に伴い、シリンダ3の中心線Cに対し傾斜することなく、常に中心線C上で往復運動する。これにより、ピストン4の往復動作に伴う横振れが防止され、サイドスラストがなくなる。
【0041】
なお、図中の符号8はピストンピンを示し、符号9は、シリンダ3とピストン4との間の気密性を高めるためにピストン4に設けられたピストンリングを示している。
【0042】
図2は、図1のカム11とローラ12との接点の拡大図である。
シリンダ3内の爆発によりピストン4に上方向の力fが発生する。そして、コネクティングロッド5の一端に設けられたローラ12を介してカム11に力fが伝わると、前記接点では図2に示すように力fは接線方向に対して垂直と水平方向の分力f1,f2に分割される。この分力f1によってカム11が回転され駆動力に変換される。
【0043】
一方、分力f2によってコネクティングロッド5に対する横方向の力が発生するが、この横方向の力はカム11及びローラ12の回転により逃がされる。更に残っている横方向の力はガイド14で受けられその反力で吸収される。したがってピストン4に対し横振れを起こさせることはない。
【0044】
以上のような構成をとることにより、ピストン4にサイドスラスト力が作用するのを抑止でき、エンジン振動を抑えることができる。
このようにサイドスラスト力を防止することにより、エネルギー効率が向上し、出力効率を向上することができる。
【0045】
また、サイドスラストによる摩擦エネルギーを減少することができるため、エンジン回転抵抗を低く抑えることができ、燃料消費を抑制することができる。
さらに、シリンダ3とピストン4の片当たりが抑制されるのでピストンの割れ、欠けなどの恐れが低減する。
【0046】
また、ピストンの横振れによるピストンリング9から生じるガス漏れを最小限に抑えることができ、出力効率をさらに向上することができる。
特に前述のように、コネクティングロッド5の両側にガイド14が配置されているため、確実にコネクティングロッド5を傾斜させることなく直線的にシリンダの中心線C上で往復運動させ、エンジン振動を防止することができる。
【0047】
(第2実施例)
図3は本発明が適用される動力伝達装置200を示す第2実施例であり、第1実施例に比してシリンダ3を図中上下に対向して2つ配置した2気筒タイプを示している。これら2つのシリンダ3のピストン4を同期して動作させることで、前述の第1実施例と同様の効果を得ると共に、より高出力な駆動力を得ることができる。
【0048】
また、仮想線で示すように、クランクシャフト1(カム機構10)の周囲に放射状に、かつ、等間隔に複数のシリンダ3を配置した星型エンジンとすることでより高出力な駆動力を得ることも可能である。
【0049】
(第3実施例)
図4は、本発明が適用される動力伝達装置300を示す第3実施例であり、この第3実施例でも、第2実施例同様にシリンダ3を図中上下に対向して2つ配置した2気筒タイプを示している。
この第3実施例では、カム機構10として、前述の第1及び第2実施例のカム11の代わりに、コネクティングロッド5の他端に設けたローラ12が嵌合する楕円状の溝部16を円盤状の部材に形成した溝カム15を用いたものである。
【0050】
図5はこの溝カム15の拡大図を示しており、図中符号17はクランクシャフト1が挿嵌されるシャフト孔であり、16a及び16bは各々溝部16の外周壁と内周壁を示している。
この第3実施例の構成によれば、前述の第1及び第2実施例の効果に加えて、コネクティングロッド5の端部のローラ12が溝部16内に嵌入するため、コネクティングロッド5と溝カム15の連結状態が確実に保たれる。また、カム機構10における振動も少なく、さらに振動の少ない駆動を実現することができる。
【0051】
さらに、コネクティングロッド5の他端に設けられたローラ12が溝部16内部に嵌合しているため、前記溝部16の外周壁16aと内周壁16bとを同心状に相似形に形成してあれば、ローラ12と溝カム15との同期が仮に微少な範囲でズレた場合であっても、溝部16の外周壁16aと内周壁16bとでローラ12を狭持できるので、ローラ12がカム部分から離れることを防止することができる。
【0052】
(第4実施例)
図6は本発明が適用される図4の動力伝達装置300をクランクシャフト1(カム機構10)の周囲に放射状に、かつ、等間隔に複数のシリンダ3を配置した星型エンジン400を示す第4実施例であり、シリンダ3を放射状に8つ配置した8気筒タイプを示している。これら8つのシリンダ3のピストン4を同期して動作させることで、前述の第3実施例と同様の効果を得ると共に、より高出力な駆動力を得ることができる。
【0053】
(第5実施例)
図7は、本発明が適用される動力伝達装置であり、クランクシャフト1(カム機構10)の周囲に放射状に、かつ、等間隔に6つのシリンダ3を配置した星型エンジン500を示す第5実施例である。
【0054】
この第5実施例では、カム機構10が、コネクティングロッド5の端部のローラ12と接する十字等の星型状のカム18によって形成されている点が前述の他の実施例と異なる点である。
【0055】
このような構造とすることで、前述の第1及び第2実施形態の動力伝達装置100,200と同様の効果が得られると共に、カム18の形状(凸部の数や凹凸の傾斜または大きさ等)を各種条件に合わせて設計することにより、簡単な構造で複数のエンジンを協働させて効率よく共通のクランクシャフト1を回転駆動することができる。
【0056】
図8は、図7の星型エンジン500の燃焼サイクルを示す図であり、星型状のカム18、特にこの第5実施形態による十字状のカム18では、一回転につきA〜D及びa〜dに示すような4つの工程が2回行われる。
【0057】
ここで図8を例に一般的な4サイクルエンジンの各工程を説明する。
A,a(吸気工程):カム18の凸部から凹部に沿ってローラ12が動き、ピストンが下死点まで移動する。このとき図外のインテークバルブが開き、インテーク側より燃料と空気が混ざり合った混合空気がシリンダ3内に吸い込まれる。
【0058】
B,b(圧縮工程):カム18の凹部から凸部に沿ってローラ12が動き、ピストンが上死点まで移動する。これによりシリンダ3内の混合空気が圧縮され、そして、ピストン4が上死点付近に到達すると、図外の点火プラグによって着火されシリンダ3内の混合空気を爆発させる。
【0059】
C,c(膨張工程):カム18の凸部から凹部に沿ってローラ12が動き、ピストンが下死点まで移動する。シリンダ3内の混合空気の爆発エネルギーによって、ローラ12を介してカム18を回転させる。
【0060】
D,d(排気工程):カム18の凹部から凸部に沿ってローラ12が動き、ピストンが上死点まで移動する。このとき図外のエキゾーストバルブが開き、エキゾースト側より排気が行われる。
【0061】
(第6実施例)
図9は、本発明が適用される動力伝達装置であり、クランクシャフト1(カム機構10)の周囲に放射状に、かつ、等間隔に6つのシリンダ3を配置した星型エンジン600を示す第6実施例である。この第6実施例では、カム機構10として、コネクティングロッド5の端部に設けたローラ12と嵌合する8つの凹凸をもつ星型状の溝部20を円盤状の部材に形成した星型状の溝カム19を用いた点が前述の他の実施例と異なる点である。
【0062】
これにより、前述の第1〜第5実施形態における効果と同様な効果を同時に得ることができ、簡単な構造で複数のエンジンを協働させて効率よく共通のクランクシャフト1を回転駆動することができる。
【0063】
(第7実施例)
図10は、本発明が適用される動力伝達装置700を示す第7実施例であり、第2実施例と同様にシリンダ3を図中上下に対向して2つ配置した2気筒タイプである。
【0064】
この第7実施例では、対抗するエンジン2のコネクティングロッド5の端部同士は、中心線Cに直交する溝部21を有する共通の延設部40を介して一体結合される。この例では溝部21内に摺動可能に嵌合する連結ピン22を有する左右一対の回転部材23が備わる。
【0065】
ピストン3が往復運動すると、コネクティングロッド5の移動に伴い、前記溝部21内に嵌合する連結ピン22によって一対の回転部材23が矢印方向に左右対称に回転する。このとき回転部材23と一体となって回動する回転中心軸24の何れか一方をクランクシャフト1と結合することにより、ピストン3の往復運動を回転運動に変換することができる。
【0066】
これにより、前述の第2実施例と同様の効果を得ることができると共に、さらに振動の少ない駆動を実現することができる。
【0067】
(第8実施例)
図11は、第7実施例の動力伝達装置700に対し、クランクシャフト1の周囲に放射状に、かつ、等間隔に6つのシリンダ3を配置した星型エンジン800を示す第8実施例であり、図12はその断面図である。ただし、この第8実施例では、延設部40の溝部21を有するコネクティングロッド5をT字状に形成して、各シリンダ3に対して各々1つずつ設けたものである。
【0068】
また、回転部材23と一体となって回動する回転中心軸24から直接駆動力を得るのではなく、一方の回転中心軸24にギアを形成し、各シリンダ3の回転中心軸24と噛み合う連結ギア25を設けて、この連結ギア25の中心にクランクシャフト1を一体回動可能に接続することで駆動力を取り出している。図12中の符号26はこれら各部材を接続するケースの一部を示し、符号27は回転部材23と回転中心軸(ギア)24を連結しケース26に接続する連結ピンを示している。また、符号28はクランクシャフト1を回転可能にケース26に保持するガイドを示している。
【0069】
なお、ここではより駆動ロスを抑えるためにギアを用いたが、これに限らず、連結ベルト等の通常考え得る範囲の動力伝達機構に代えて実施できることは言うまでもない。
これにより前述の第7実施例と同様の効果を得ることができる。
【0070】
(第9実施例)
図13は、本発明が適用される動力伝達装置900を示す第9実施例であり、第2,第6実施例と同様にシリンダ3を図中上下に対向して2つ配置した2気筒タイプである。
【0071】
この例は、前述の図20のサイドスラストFsinθを相殺するために、中心線Cに対し対称に傾斜する一対のコネクティングロッドを各ピストンに連結したものである。なお、この例ではシリンダ3を対向させて2つ設けているが、1つのみの単気筒タイプでもよい。
【0072】
この第9実施例では、各エンジン2は、一端がピストンピン29を介してピストン4に連結され、シリンダ3の中心線Cに沿って対照的に配置された一対のコネクティングロッド5を備え、両エンジン2,2間に該コネクティングロッド5の他端と連結ピン22等を介して連結され左右対称に回転する一対の回転部材23が設けられている。
【0073】
この第9実施例ではシリンダ3を図中上下に対向して2つ配置した2気筒タイプであるため、両ピストン4に接続される前記コネクティングロッド5を同じ回転部材23に連結している。
【0074】
このような構成をとることにより、ピストン4が往復運動すると、コネクティングロッド5の移動に伴い、一対の回転部材23が矢印方向に左右対称に回転する。このとき回転部材23と一体となって回動する回転中心軸24の何れか一方をクランクシャフト1と結合することにより、ピストン4の往復運動を回転運動に変換することができる。
【0075】
これにより、前述の実施例と同様の効果を得ることができると共に、さらに振動の少ない駆動を実現することができる
【0076】
(第10実施例)
図14は、第9実施例の動力伝達装置900に対し、クランクシャフト1の周囲に放射状に、かつ、等間隔に4つのシリンダ3を配置した星型エンジン1000を示す第10実施例である。この第10実施例では、シリンダ3が前述のように4つ配置したタイプであるため、各ピストン4に接続される前記コネクティングロッド5を隣り合わせとなるエンジン2と同じ回転部材23にそれぞれ連結している。
【0077】
また、この第10実施例でも前述の第8実施例の星型エンジン800と同様に回転部材23と一体となって回動する回転中心軸24から直接駆動力を得るのではなく、一方の回転中心軸24にギアを形成し、各回転部材23の回転中心軸24と噛み合う連結ギア25を設けて、この連結ギア25の中心にクランクシャフト1を一体回動可能に接続することで駆動力を取り出している。
なお、連結ギアの代わりに連結ベルト等の通常考え得る範囲の動力伝達機構に代えて実施できることは第8実施例と同様である。
これにより前述の第9実施例と同様の効果を得ることができる。
【0078】
(第11実施例)
図15は、本発明が適用される星型エンジン1100を示す第11実施例であり、図16はこの第11実施例の星型エンジン1100の断面を示している。この第11実施例は、第10実施例と同様にクランクシャフト1の周囲に放射状に、かつ、等間隔に4つのシリンダ3を配置した4気筒タイプである。
【0079】
この第11実施例のカム機構10は、第1実施例に記載の楕円状のカム11を2個十字状に重ねて用いるタイプであり、かつ、2個のカム11を相互に逆方向に回転するように構成したものである。そして、これらのカム11間を傘歯歯車30,31を介して係合させている。より詳しくは、カム11の対向する側面に傘歯歯車30が形成され、傘歯歯車31は連結ピン33を介してキャリア32に接続され当該位置にて回転のみ許容して固定されている。
【0080】
図中の符号34はカム11の回転中心軸を示し、この第11実施例ではその一方がクランクシャフト1に結合されている。
【0081】
こうすることにより、ピストン4の往復運動が前述したようにカム11によって回転駆動力に変換される。このときカム11の対向する側面の両傘歯歯車30に傘歯歯車31が噛み合い、この傘歯歯車31が連結ピン33を介してキャリア32に固定されているため、これらカム11は相互に逆方向に回転する。そして、一方のカム11の回転中心軸34と一体に結合されたクランクシャフト1を介して駆動力が伝達される。
【0082】
従って、前述の第1、第2実施例と同様の効果が得られると共に、相互に逆回転するカム11の駆動力を傘歯歯車30,31を介して接続していることにより、往復運動によるエネルギーをロスなく的確に回転駆動力に変換することができる。
【0083】
(第12実施例)
図17は、第11実施例の変形例である星型エンジン1200を示す第12実施例である。この第12実施例では、カム11を楕円状ではなく、第5実施例で説明した十字状のカム18を用いたものであり、第5及び第11実施例の両方の効果を得ることができるものである。
【0084】
なお、前述の各実施例では、クランクシャフト1の周囲に放射状に配置するエンジン2をそれぞれ1,2,4,6,8個配置した例を示したが、これに限るものではない。
【0085】
また、エンジンとして4サイクルのガソリンエンジンを例示して説明したが、2サイクルエンジンやディーゼルエンジン等、往復運動をするエンジンに適用できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明を適用した動力伝達装置及び星型エンジンは、ヘリコプター等の小型航空機に適用できるほか、エンジンの往復運動を回転駆動力として利用するものたとえば、車両や船舶、また、発電機等の様々なものに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明が適用される動力伝達装置の第1実施例の要部構成説明図である。
【図2】図1のカムとローラとの接点の拡大説明図である。
【図3】本発明が適用される動力伝達装置の第2実施例の要部構成説明図である。
【図4】本発明が適用される動力伝達装置の第3実施例の要部構成説明図である。
【図5】第3実施例の溝カムの拡大説明図である。
【図6】本発明が適用される動力伝達装置の第4実施例の要部構成説明図である。
【図7】本発明が適用される動力伝達装置の第5実施例の要部構成説明図である。
【図8】図7の星型エンジンに係る燃焼サイクルの説明図である。
【図9】本発明が適用される動力伝達装置の第6実施例の要部構成説明図である。
【図10】本発明が適用される動力伝達装置の第7実施例の要部構成説明図である。
【図11】本発明が適用される第8実施例の要部構成説明図である。
【図12】図11の星形エンジンの側方断面図である。
【図13】本発明が適用される動力伝達装置の第9実施例の要部構成説明図である。
【図14】本発明が適用される第10実施例の要部構成説明図である。
【図15】本発明が適用される第11実施例の要部構成説明図である。
【図16】図15の側方断面図である。
【図17】第11実施例の変形例である第12実施例の要部構成説明図である。
【図18】従来の星型エンジンを示す構成説明図である。
【図19】図18のシリンダ部を示した構成説明図である。
【図20】図19の一部を拡大したサイドスラストについての説明図である。
【符号の説明】
【0088】
1:クランクシャフト、2:エンジン、3:シリンダ、4:ピストン、5:コネクティングロッド、9:ピストンリング、10:カム機構、11:カム、12:ローラ、13:連結ピン、14:ガイド、15:溝カム、16:溝部、16a:外周壁、16b:内周壁、17:シャフト孔、18:十字カム、19:星型状溝カム、20:溝部、21:溝部、22:連結ピン、23:回転部材、24:回転中心軸、25:連結ギア、26:ケース、27:連結ピン、28:ガイド、29:ピストンピン、30,31:傘歯歯車、32:連結ピン、33:キャリア、34:回転中心軸、40:延設部、100,200,300,700,900:動力伝達装置、400,500,600,800,1000,1100,1200:星型エンジン。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと該シリンダ内を摺動するピストンとを備えたエンジンからの往復運動を、クランクシャフトの回転運動へと変換する動力伝達装置であって、
一端が前記ピストンに接続され、他端が該ピストンと共に前記シリンダの中心線上で往復運動するコネクティングロッドと、
前記コネクティングロッドの他端の往復運動を回転運動に変換してクランクシャフトに伝達するカム機構とを備えていることを特徴とするエンジンの動力伝達装置。
【請求項2】
前記カム機構は、前記コネクティングロッドの他端と接して該他端から押圧駆動される楕円状のカムによって形成されていることを特徴とする請求項1に記載のエンジンの動力伝達装置。
【請求項3】
前記カム機構は、前記コネクティングロッドの他端が嵌合する楕円状の溝部から成るカムによって形成されていることを特徴とする請求項1に記載のエンジンの動力伝達装置。
【請求項4】
前記カム機構は、前記コネクティングロッドの他端と接して該他端から押圧駆動される十字等の星型状のカムによって形成されていることを特徴とする請求項1に記載のエンジンの動力伝達装置。
【請求項5】
前記カム機構は、前記コネクティングロッドの他端が嵌合する星型状の溝部から成るカムによって形成されていることを特徴とする請求項1に記載のエンジンの動力伝達装置。
【請求項6】
前記カム機構は、前記コネクティングロッドの前記他端に設けた前記中心線と略直交する溝部を有する延設部と、
該延設部の溝部と嵌合し前記中心線に対し対称に回転する少なくとも一対の回転部材とから形成されていることを特徴とする請求項1に記載のエンジンの動力伝達装置。
【請求項7】
前記コネクティングロッドを前記中心線上で往復運動させるガイドを設けたことを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載のエンジンの動力伝達装置。
【請求項8】
シリンダ内を摺動するピストンの往復運動をクランクシャフトの回転運動へと変換するエンジンの動力伝達装置であって、
一端が前記ピストンに接続された複数のコネクティングロッドを有し、該複数のコネクティングロッドの他端は、前記シリンダの中心線に対して対称的に接近離間しながら往復運動するように配置され、該コネクティングロッドの他端と係合し前記中心線に対し対称に回転する複数の回転部材とを備えたことを特徴とするエンジンの動力伝達装置。
【請求項9】
前記ピストンの中心線上に一対のエンジンを対向配置し、両エンジン間に前記カム機構又は回転部材を配置したことを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載のエンジンの動力伝達装置。
【請求項10】
前記シリンダを放射状に配置したことを特徴とする請求項9に記載のエンジンの動力伝達装置。
【請求項1】
シリンダと該シリンダ内を摺動するピストンとを備えたエンジンからの往復運動を、クランクシャフトの回転運動へと変換する動力伝達装置であって、
一端が前記ピストンに接続され、他端が該ピストンと共に前記シリンダの中心線上で往復運動するコネクティングロッドと、
前記コネクティングロッドの他端の往復運動を回転運動に変換してクランクシャフトに伝達するカム機構とを備えていることを特徴とするエンジンの動力伝達装置。
【請求項2】
前記カム機構は、前記コネクティングロッドの他端と接して該他端から押圧駆動される楕円状のカムによって形成されていることを特徴とする請求項1に記載のエンジンの動力伝達装置。
【請求項3】
前記カム機構は、前記コネクティングロッドの他端が嵌合する楕円状の溝部から成るカムによって形成されていることを特徴とする請求項1に記載のエンジンの動力伝達装置。
【請求項4】
前記カム機構は、前記コネクティングロッドの他端と接して該他端から押圧駆動される十字等の星型状のカムによって形成されていることを特徴とする請求項1に記載のエンジンの動力伝達装置。
【請求項5】
前記カム機構は、前記コネクティングロッドの他端が嵌合する星型状の溝部から成るカムによって形成されていることを特徴とする請求項1に記載のエンジンの動力伝達装置。
【請求項6】
前記カム機構は、前記コネクティングロッドの前記他端に設けた前記中心線と略直交する溝部を有する延設部と、
該延設部の溝部と嵌合し前記中心線に対し対称に回転する少なくとも一対の回転部材とから形成されていることを特徴とする請求項1に記載のエンジンの動力伝達装置。
【請求項7】
前記コネクティングロッドを前記中心線上で往復運動させるガイドを設けたことを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載のエンジンの動力伝達装置。
【請求項8】
シリンダ内を摺動するピストンの往復運動をクランクシャフトの回転運動へと変換するエンジンの動力伝達装置であって、
一端が前記ピストンに接続された複数のコネクティングロッドを有し、該複数のコネクティングロッドの他端は、前記シリンダの中心線に対して対称的に接近離間しながら往復運動するように配置され、該コネクティングロッドの他端と係合し前記中心線に対し対称に回転する複数の回転部材とを備えたことを特徴とするエンジンの動力伝達装置。
【請求項9】
前記ピストンの中心線上に一対のエンジンを対向配置し、両エンジン間に前記カム機構又は回転部材を配置したことを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載のエンジンの動力伝達装置。
【請求項10】
前記シリンダを放射状に配置したことを特徴とする請求項9に記載のエンジンの動力伝達装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2006−104996(P2006−104996A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−291080(P2004−291080)
【出願日】平成16年10月4日(2004.10.4)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月4日(2004.10.4)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
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