説明

エンジンの自動停止始動制御装置

【課題】ピニオン14をリングギア46に接触させる前に回転駆動させてクランキングを行うための処理(モータ先駆動処理)が開始されてから完了する前までの期間に、ピニオン14をリングギア46に接触させた後に回転駆動させてクランキングを行うための処理(モータ後駆動処理)が選択されることがある。この場合、モータ後駆動処理によるピニオン14の当初の押し出しタイミングでピニオン14を押し出すと、ピニオン14とリングギア46との噛み合いタイミングが遅延すること等に起因して、ピニオン14をリングギア46に適切に噛み合わせることができなくなるおそれがある。
【解決手段】モータ先駆動処理によってピニオン14が回転駆動されてからリングギア46に接触する前までの期間にモータ後駆動処理が選択された場合、モータ先駆動処理が選択されたタイミングでピニオン14を押し出すとともに、ピニオン14の回転駆動を継続させる処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピニオンを回転駆動させるモータと、エンジンの出力軸に連結されたリングギアに前記ピニオンを接触させて噛み合わせるべく該ピニオンを該リングギアに向かって押し出すアクチュエータとを有して構成されるスタータを備える車両に適用され、所定の停止条件が成立した場合に前記エンジンを自動停止させ、その後所定の再始動条件が成立した場合に前記スタータによるクランキングを行って前記エンジンを再始動させるエンジンの自動停止始動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の制御装置としては、下記特許文献1に見られるように、エンジンの自動停止後のエンジン回転速度(リングギア回転速度)が低下する期間(回転速度低下期間)においてエンジンの再始動条件が成立した場合、出力軸の回転の停止を待たずに、ピニオンを回転駆動させた状態で押し出してリングギアに接触させる処理(以下、モータ先駆動処理)によってエンジンの出力軸に初期回転を付与する(クランキングを行う)ものが知られている。詳しくは、再始動条件の成立時にピニオンを回転駆動させ、リングギア回転速度とピニオン回転速度との差が所定以内となるタイミングを算出し、算出されたタイミングに基づきピニオンの押し出し及び回転駆動を実施する。これにより、ピニオンをリングギアに極力早期に且つスムーズに噛み合わせることができ、噛み合い時における騒音の発生を抑制しつつエンジンを速やかに再始動させることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−330813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記回転速度低下期間において、車載補機のトルクが変化したり、ドライバのブレーキ操作によって制動力が付与されたりすること等に起因して実際のエンジン回転速度が当初想定されたものよりも低下することがある。この場合、当初算出されたピニオンの押し出しタイミングでピニオンを押し出すと、噛み合い時におけるリングギア回転速度とピニオン回転速度との差が適切なものとならず、ピニオンをリングギアに適切に噛み合わせることができなくなるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、ピニオンをリングギアに適切に噛み合わせることのできるエンジンの自動停止始動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0007】
請求項1記載の発明は、ピニオンを回転駆動させるモータと、エンジンの出力軸に連結されたリングギアに前記ピニオンを接触させて噛み合わせるべく該ピニオンを該リングギアに向かって押し出すアクチュエータとを有して構成されるスタータを備える車両に適用され、所定の停止条件が成立した場合に前記エンジンを自動停止させ、その後所定の再始動条件が成立した場合に前記スタータによるクランキングを行って前記エンジンを再始動させるエンジンの自動停止始動制御装置において、前記エンジンの自動停止後におけるエンジン回転速度の低下軌道を都度予測しつつ該予測された低下軌道を所定周期で更新する予測手段と、エンジン回転速度が所定の高回転領域となる状況下において、前記クランキングを行うべく前記ピニオンを前記リングギアに接触させる前に回転駆動させるように前記モータ及び前記アクチュエータの操作処理を行うモータ先駆動手段と、エンジン回転速度が所定の低回転領域となる状況下において、前記クランキングを行うべく前記ピニオンを前記リングギアに接触させた後に回転駆動させるように前記モータ及び前記アクチュエータの操作処理を行うモータ後駆動手段と、前記再始動条件が成立した場合、前記予測手段によって都度予測された低下軌道に基づき、前記モータ先駆動手段及び前記モータ後駆動手段のうちいずれによる前記操作処理を採用するかを選択する選択手段と、前記モータ先駆動手段によって前記ピニオンが回転駆動されてから押し出される前までの期間に前記選択手段によって前記モータ後駆動手段による前記操作処理が選択された場合、該選択されたタイミングで前記ピニオンを押し出す制御手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
上記発明では、予測手段によって都度予測されたエンジン回転速度の低下軌道に基づき、モータ先駆動手段によるモータ及びアクチュエータの操作処理(以下、モータ先駆動処理)及びモータ後駆動手段による上記操作処理(以下、モータ後駆動処理)のうちいずれを採用するかを選択している。ここでモータ先駆動処理が選択されてピニオンが回転駆動された後、車載補機のトルクが変化したり、ドライバのブレーキ操作によって制動力が付与されたりすること等に起因して、更新されたエンジン回転速度の低下軌道の予測値が当初の低下軌道の予測値よりも低くなることがある。このような状況下、当初予測された低下軌道に基づきピニオンが回転駆動された後、押し出される前までにモータ後駆動処理が選択されることがある。この場合、モータ先駆動処理による当初のピニオン押し出しタイミングでピニオンを押し出すと、ピニオンをリングギアに噛み合わせるタイミングが遅延するおそれがある。そしてこの場合、更に、噛み合い時におけるピニオンとリングギアとの回転速度差が適切なものとならず、ピニオンをリングギアに適切に噛み合わせることができなくなるおそれがある。
【0009】
この点、上記発明では、モータ先駆動処理によってピニオンが回転駆動されてから押し出される前までの期間にモータ後駆動処理が選択された場合、モータ後駆動処理が選択されたタイミングでピニオンを押し出す。これにより、ピニオンをリングギアに噛み合わせるタイミングの遅延を回避することができ、ひいてはピニオンをリングギアにより適切に噛み合わせることができる。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記車両には、前記モータへの通電又は通電の停止を切り替えるべく前記モータ先駆動手段及び前記モータ後駆動手段によって操作される開閉器が備えられ、前記開閉器の開閉間隔が規定時間以上となるように該開閉器の操作を制限する制限手段を更に備え、前記規定時間は、前記ピニオンが押し出されてから前記リングギアに接触するまでに要する時間よりも長いものであり、前記制御手段は、前記モータ先駆動手段によって前記ピニオンが回転駆動されてから押し出される前までの期間に前記選択手段によって前記モータ後駆動手段による前記操作処理が選択された場合、前記モータ先駆動手段による前記ピニオンの回転駆動を継続させることを特徴とする。
【0011】
上記発明では、開閉器(リレー)の開閉間隔が短時間となることに起因して開閉器の接点が溶着する事態の発生を回避すべく、上記開閉間隔が規定時間(例えば100msec)以上となるように開閉器の操作を制限している。ここでモータ先駆動処理によってピニオンが回転駆動されてから押し出される前までの期間にモータ後駆動処理が選択される場合、例えばモータ後駆動処理に従ったピニオンの回転駆動開始タイミングでピニオンの回転駆動を開始すべく、モータへの通電を一旦停止し、その後再度通電するように開閉器を操作することで、ピニオンとリングギアとの噛み合い時における回転速度差を適切なものとすることも考えられる。しかしながら、ピニオンが押し出されてからリングギアに接触するまでに要する時間(例えば40msec)が上記規定時間よりも短いため、モータ後駆動処理に従ったピニオンの回転駆動開始タイミングとすべく、例えばピニオンの押し出しタイミングでモータへの通電を停止すると、その後モータへの通電を再開するタイミングが、ピニオンがリングギアに接触するタイミングよりも後になることがある。この場合、クランキングの開始が遅延し、エンジンの再始動の完了が遅延するおそれがある。
【0012】
この点、上記発明では、モータ先駆動処理によってピニオンが回転駆動されてから押し出される前までの期間にモータ後駆動処理が選択された場合、モータ先駆動処理によるピニオンの回転駆動を継続させる。これにより、ピニオンの回転駆動開始タイミングの遅延を回避することができ、ひいてはエンジンの再始動の完了の遅延を回避することができる。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記モータ後駆動手段は、前記ピニオンの押し出しタイミングを、前記再始動条件の成立タイミングとして設定し、前記ピニオンの回転駆動開始タイミングを、前記押し出しタイミングから所定時間遅延させたタイミングとして設定する処理を行うものであり、前記モータ先駆動手段は、前記ピニオンの押し出しタイミングを、前記再始動条件の成立タイミングとして設定し、前記ピニオンの回転駆動開始タイミングを、該押し出しタイミングよりも後であって且つ該押し出しタイミングから前記所定時間遅延させたタイミングよりも前のタイミングとして設定する設定手段を備えるものであり、前記制御手段は、前記設定手段によって前記ピニオンが押し出されてから回転駆動される前までの期間に前記選択手段によって前記モータ後駆動手段による前記操作処理が選択された場合、前記モータ先駆動手段による前記ピニオンの押し出しを継続させることを特徴とする。
【0014】
上記発明では、モータ後駆動処理及びモータ先駆動処理によるピニオンの押し出しタイミング及び回転駆動開始タイミングを上記態様にて設定している。ここでピニオンの押し出しタイミングについては、モータ先駆動処理の備える設定手段による処理及びモータ後駆動処理の双方において再始動条件の成立タイミングで同一である。このため、エンジン回転速度の低下軌道の予測値の更新に起因して、モータ先駆動処理によってピニオンが押し出されてから所定時間経過する前(ピニオンが回転駆動される前)までの期間にモータ後駆動処理が選択される場合、ピニオンの押し出しタイミングについては、モータ後駆動処理によって設定されるタイミングと同一のタイミングである上記設定手段によって設定されるタイミングを採用することが妥当と考えられる。すなわち、モータ後駆動処理が選択された場合であっても、ピニオンの押し出しを継続させることが妥当と考えられる。
【0015】
この点に鑑み、上記発明では、モータ先駆動処理によってピニオンが押し出されてから回転駆動される前までの期間にモータ後駆動処理が選択された場合、モータ先駆動処理によるピニオンの押し出しを継続させる。これにより、ピニオンをリングギアに適切に噛み合わせることができる。
【0016】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記制御手段は、前記設定手段によって前記ピニオンが押し出されてから回転駆動される前までの期間に前記選択手段によって前記モータ後駆動手段による前記操作処理が選択された場合、前記予測手段によって更新された低下軌道に基づき、前記ピニオンの回転駆動開始タイミングを再設定することを特徴とする。
【0017】
上記発明では、設定手段によってピニオンが押し出されてから回転駆動される前までの期間にモータ後駆動処理が選択された場合、上記態様にてピニオンの回転駆動開始タイミングを再設定する。これにより、ピニオンとリングギアとの噛み合い時におけるピニオン回転速度とリングギア回転速度との差を適切なものとすることができる。
【0018】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の発明において、前記選択手段は、前記予測手段によって都度予測された低下軌道に基づき、前記ピニオンが前記リングギアに接触するタイミングにおける該ピニオンの回転速度と該リングギアの回転速度との差が規定値以下となるように、前記いずれによる前記操作処理を採用するかを選択することを特徴とする。
【0019】
上記発明では、ピニオンとリングギアとの噛み合い時における騒音の発生等を適切に抑制すべく、上記態様にてモータ先駆動処理及びモータ後駆動処理のうちいずれを採用するかを選択している。このため、更新によってエンジン回転速度の低下軌道の予測値が当初予測されたものよりも低くなると、ピニオンがリングギアに接触するタイミングにおけるピニオン回転速度が、上記規定値以下とするための適切なものからずれやすく、モータ先駆動処理が完了する前にモータ後駆動処理が選択される状況となりやすい。このため、上記発明は、上記制御手段を備えるメリットが大きい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】一実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】一実施形態にかかるエンジン回転速度低下軌道の予測手法の概要を示す図。
【図3】一実施形態にかかるモータ先駆動処理、モータ後駆動処理の概要を示す図。
【図4】一実施形態にかかるスタータの特例駆動処理の手順を示すフローチャート。
【図5】一実施形態にかかるスタータの特例駆動処理の一例を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明にかかる制御装置を4ストローク4気筒エンジンを備えて構成される車載エンジンシステムに適用した一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0022】
図1に本実施形態にかかるシステム構成図を示す。
【0023】
図示されるように、スタータ10は、モータ12、モータ12によって回転駆動されるピニオン14及びピニオン14を押し出すための電磁駆動式のアクチュエータ16(以下、アクチュエータSL1)等を備えて構成され、ピニオン14の回転駆動操作及びピニオン14の押し出し操作のそれぞれを個別に実行可能なものである。詳しくは、モータ12は、バッテリ18を電力供給源として回転駆動されるものであり、モータ12とバッテリ18との間には、モータ12への通電又は通電の停止を切り替えるスイッチ20(以下、モータスイッチSL2)が設けられている。そして、モータスイッチSL2には、このスイッチのオン・オフを切り替えるSL2駆動リレー22が接続されている。
【0024】
上記モータ12には、モータ12への通電により回転駆動されるピニオン軸24が接続されており、ピニオン軸24の一端には、ワンウエイクラッチ26を介してピニオン14が支持されている。詳しくは、SL2駆動リレー22のオンによってモータスイッチSL2がオンされ、バッテリ18からモータ12に通電されると、ピニオン軸24の回転駆動に伴いピニオン14が回転駆動される。なお、ワンウエイクラッチ26は、ピニオン14の回転速度がピニオン軸24の回転速度を上回らない限り、ピニオン軸24からピニオン14に動力の伝達を行うものである。
【0025】
上記ピニオン軸24の他端は、軸30を中心に回動するレバー32の一端に支持されている。レバー32の他端には、上記アクチュエータSL1からの力が作用するようになっている。詳しくは、アクチュエータSL1は、コイル34、コイル34内に配置されて且つレバー32によって支持されたプランジャ36及びリターンスプリング38等を備えて構成され、バッテリ18を電力供給源として駆動されるものである。コイル34とバッテリ18との間には、コイル34への通電又は通電の停止を切り替えるSL1駆動リレー40が設けられている。
【0026】
こうした構成において、ピニオン14は、SL1駆動リレー40がオフされてコイル34に通電されない場合、エンジン42の出力軸(クランク軸44)に機械的に連結されたリングギア46に対して非接触の状態で配置されることとなる。このような状況下において、SL1駆動リレー40がオンされてバッテリ18からコイル34に通電されると、プランジャ36にコイル34の吸引力が作用する。そして、プランジャ36に作用する上記吸引力が、プランジャ36に作用するリターンスプリング38の付勢力に打ち勝つと、プランジャ36がその軸線方向に変位する。これにより、レバー32が軸30を中心に回動することで、ピニオン軸24がリングギア46に向かって押し出され、ピニオン14がリングギア46に接触して噛み合わされる。そしてその後、SL1駆動リレー40がオフされてバッテリ18からコイル34への通電が遮断されると、コイル34の吸引力が無くなることで、プランジャ36に作用するリターンスプリング38の付勢力によってプランジャ36がその軸線方向に変位する。これにより、ピニオン軸24がリングギア46に向かう方向とは反対方向に変位し、ピニオン14とリングギア46との噛み合いが解除される。
【0027】
上記エンジン42には、エンジン42の燃焼室に燃料を供給する電磁駆動式の燃料噴射弁48が設けられている。またエンジン42のクランク軸44付近には、クランク軸44の回転角度を検出するクランク角度センサ50が設けられている。クランク角度センサ50は、クランク軸44と一体で回転する図示しないロータの外周部に等間隔(例えば30°CA毎)で複数設けられた突起がこのセンサを横切るときに、矩形状のクランク信号を出力する。
【0028】
エンジンシステムを操作対象とする電子制御装置(以下、ECU52)は、周知のCPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータを主体として構成されている。ECU52には、クランク角度センサ50等の出力信号が入力される。ECU52は、上記入力に応じて、ROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することで、燃料噴射弁48による燃料噴射制御や、アイドルストップ制御、更にはスタータ10の駆動制御等を行う。
【0029】
上記アイドルストップ制御は、所定の停止条件が成立する場合に燃料噴射弁48からの燃料噴射の停止等によってエンジン42を自動停止させ、その後、所定の再始動条件が成立する場合にスタータ10の駆動制御及び燃料噴射弁48からの燃料噴射の開始等によってエンジン42を再始動させるものである。なお、上記停止条件は例えば、ブレーキ操作がなされているとの条件及び車両の走行速度が所定速度(0又は0よりも高い所定速度)以下になるとの条件等の論理積が真であるとの条件とすればよい。また、上記再始動条件は例えば、ブレーキ操作が解除されたとの条件及び図示しない機関駆動式の車載補機の駆動要求があるとの条件(例えばバッテリ18の蓄電量が所定以下になって車載発電機の駆動要求があるとの条件)等の論理和が真であるとの条件とすればよい。
【0030】
スタータ10の駆動制御処理は、SL1駆動リレー40及びSL2駆動リレー22の通電操作によってピニオン14とリングギア46とを噛み合わせた状態でピニオン14を回転駆動させることでクランク軸44に初期回転を付与する(クランキングを行う)処理となる。本実施形態では、SL1駆動リレー40、SL2駆動リレー22のオン・オフ間隔が短時間となることに起因してこれら駆動リレーの接点が溶着する事態を回避すべく、リレーのオン・オフ間隔が制限時間(例えば100msec)以上となるようにこれらリレーの操作に制限を設けるオンオフ制限処理を行う。
【0031】
上記エンジン42の再始動は、再始動条件の成立に伴い極力速やかに開始されることが望ましいものの、リングギア回転速度(エンジン回転速度)が高い状態でピニオン14をリングギア46に接触させると、ピニオン14とリングギア46との噛み合い時に発生する音が大きくなり、ドライバに不快感を与えるおそれがある。このため本実施形態では、エンジン42が自動停止された後のエンジン回転速度が低下する期間(回転速度低下期間)にエンジン42の再始動条件が成立した場合、上記駆動制御として、上記期間におけるエンジン回転速度の低下軌道の予測値に基づきモータ先駆動処理及びモータ後駆動処理のうちいずれを採用するかを選択することで、エンジン42の再始動を速やかに行うとともに、ピニオン14とリングギア46との噛み合い時の発生音の低減を図っている。以下、エンジン回転速度の低下軌道の予測処理について説明した後、モータ先駆動処理及びモータ後駆動処理について説明する。
<1.エンジン回転速度の低下軌道の予測処理>
まず、図2を用いてエンジン回転速度の低下軌道予測処理について説明する。
【0032】
本実施形態では、規定期間(クランク信号の入力周期、30℃A)あたりのクランク軸44の回転エネルギの変化量であるロストルク、クランク軸44の回転角速度(以下、角速度)及びエンジン42のイナーシャに基づき、所定の演算周期(クランク信号の出力周期)で次の演算タイミングにおける角速度を予測し、その予測結果に基づき更に次の演算タイミングでの角速度を予測するといった処理を複数回繰り返すことにより、回転速度低下期間におけるエンジン回転速度の低下軌道を都度予測する。詳しくは、シリンダ容積の増減変化に伴う都度のエンジン回転速度(瞬時回転速度)の増減1周期(例えば180℃A)を回転脈動期間として、現在よりも前の回転脈動期間における瞬時回転速度に基づき、現在よりも後の回転脈動期間におけるエンジン回転速度を予測する。この予測手法は、回転速度低下期間における実際のエンジン回転速度の低下軌道が、シリンダ容積の増減変化によるポンピングロス等に起因して、図中実線にて示すように脈動を伴ったものとなることに鑑みたものである。
【0033】
上記低下軌道の予測処理について、図2を用いて具体的に説明する。なお、本実施形態では、回転脈動期間を各気筒の上死点(TDC)から次のTDCまでの180℃A区間とし、図2において現在の回転脈動期間をS[i]で示すこととする。また、現在のクランク角度は、TDC後の30℃Aであるとする。
【0034】
まず、回転速度低下期間において、クランク角度センサ50からのクランク信号の入力周期毎(30℃A毎)に、瞬時回転速度としての角速度ω[rad/sec]を下式(1)により算出し、算出された角速度ωを都度記憶する。
【0035】
ω=30×2π/(360×tp) …(1)
なお、tp[sec]は、前回のクランク信号のパルスの立ち上がりタイミングから今回のクランク信号のパルスの立ち上がりタイミングまでの時間(パルス幅)を示す。
【0036】
上式(1)により、前回の180℃A区間S[i-1]におけるTDCを基準とするクランク角度毎の角速度ωを算出して記憶する。本実施形態では、前回の180℃A区間S[i-1]におけるTDC後のクランク角度0℃Aの角速度ω[0,i-1]、クランク角度30℃Aの角速度ω[30,i-1]、クランク角度60℃Aの角速度ω[60,i-1]、クランク角度90℃Aの角速度ω[90,i-1]、クランク角度120℃Aの角速度ω[120,i-1]、クランク角度150℃Aの角速度ω[150,i-1]、更には今回の180℃A区間S[i]におけるTDC後のクランク角度0℃Aの角速度ω[0,i]を算出して記憶する。
【0037】
そして、算出されたこれら角速度ωに基づき、前回の180℃A区間S[i-1]における所定クランク角度間隔毎のロストルクT[N・m]を算出する。本実施形態では、前回の180℃A区間S[i-1]におけるTDC後のクランク角度0℃Aから30℃AまでのロストルクT[0-30,i-1]、クランク角度30℃Aから60℃AまでのロストルクT[30-60,i-1] 、クランク角度60℃Aから90℃AまでのロストルクT[60-90,i-1]、クランク角度90℃Aから120℃AまでのロストルクT[90-120,i-1]、クランク角度120℃Aから150℃AまでのロストルクT[120-150,i-1]、更にはクランク角度150℃Aから今回の180℃A区間S[i]におけるTDC後の0℃AまでのロストルクT[150-0,i-1]を下式(2)〜(7)により算出する。
【0038】
T[0-30,i-1]=−J×(ω[30,i-1]^2 −ω[0,i-1]^2)/2 …(2)
T[30-60,i-1]=−J×(ω[60,i-1]^2−ω[30,i-1]^2)/2 …(3)
T[60-90,i-1]=−J×(ω[90,i-1]^2−ω[60,i-1]^2)/2 …(4)
T[90-120,i-1]=−J×(ω[120,i-1]^2−ω[90,i-1]^2)/2 …(5)
T[120-150,i-1]=−J×(ω[150,i-1]^2−ω[120,i-1]^2)/2 …(6)
T[150-0,i-1]=−J×(ω[0,i]^2−ω[150,i-1]^2)/2 …(7)
なお、J[kg・m^2]は、エンジン42のイナーシャであってエンジン42の設計データ等に基づき予め定まる値であり、ECU52のROM等に予め記憶される。また、算出されたロストルクT[0-30,i-1]〜T[150-0,i-1]のそれぞれは、ECU52のレジスタに更新記憶される。
【0039】
続いて、現時点(今回の180℃A区間S[i]におけるTDC後の30℃A)における角速度ω[30,i]を上式(1)により算出するとともに、算出された角速度ωを用いてロストルクT[0-30,i]を算出する。そして、算出されたロストルクT[0-30,i]をレジスタに更新記憶する。
【0040】
その後、前回の180℃A区間S[i-1]おけるクランク角度30℃Aからクランク角度60℃AまでのロストルクT[30-60,i-1]と、現在の角速度ω[30,i]とに基づき、次のパルスの立ち上がりタイミング(今回の180℃A区間S[i]のTDC後のクランク角60℃A)における角速度の予測値ω'[60,i]を算出する。そして、算出された角速度の予測値ω'[60,i]に基づき、クランク角30℃Aから60℃Aに到達するまでの予測到達時間t[30-60,i]を算出する。更に、前回の180℃A区間S[i-1]におけるクランク角60℃Aから90℃AまでのロストルクT[60-90,i-1]と、角速度の予測値ω'[60,i]とに基づき、今回の180℃A区間S[i]のTDC後のクランク角90℃Aの角速度の予測値ω'[90,i]を算出するとともに、クランク角60℃Aから90℃Aに到達するまでの予測到達時間t[60-90,i] を算出する。こうしてクランク角度毎の角速度の予測値及び予測到達時間の算出を何回も繰り返すことで、図中破線にて示すように、回転速度低下期間におけるエンジン回転速度の低下軌道を予測することが可能となる。
【0041】
なお、上記低下軌道予測処理による予測演算は、クランク信号の入力周期毎(30℃A毎)に次のクランク信号が入力されるまでの時間を利用して実行され、次のクランク信号が入力される場合には、予測演算を途中で打ち切って次のクランク角度信号に基づき算出される実際の角速度を用いた新たな予測演算に移行する。すなわち、エンジン回転速度の低下軌道は、クランク信号の入力周期毎(tp毎)に更新されることとなる。
<2.モータ先駆動処理>
次に、図3(a)を用いてモータ先駆動処理について説明する。なお、図中、予測されたエンジン回転速度の低下軌道(破線)について、実際は脈動を伴うがこれを省略している。また、エンジン回転速度NE、ピニオン回転速度Npについてはそれぞれ、リングギア46の外周縁に設けられた歯部の周速度であるリングギア周速度、ピニオン14の外周縁に設けられた歯部の周速度であるピニオン周速度を示している。
【0042】
この処理は、クランキングを行うべく、ピニオン14をリングギア46に接触させる前に回転駆動させてピニオン14をリングギア46に噛み合わせるようにモータ12及びアクチュエータSL1を操作する処理である。この処理によれば、再始動条件の成立後、極力速やかにピニオン14をリングギア46に噛み合わせてクランキングを開始しつつ、噛み合い時の発生音を低減することが可能となる。
【0043】
詳しくは、まず、同図に示すように、回転速度低下期間において、現時点以降のエンジン回転速度の低下軌道の予測値に基づき、エンジン回転速度が接触許可回転速度Ne1に到達するタイミングtaを都度算出する。ここで接触許可回転速度Ne1は、ピニオン14の回転が停止された状態でピニオン14がリングギア46に接触するタイミングにおけるピニオン回転速度とリングギア回転速度との差が噛み合い時の発生音を許容レベル以下とすることが可能な回転速度(例えば100rpm)、より具体的にはリングギア周速度とピニオン周速度との差(相対回転速度差)が規定値ΔN以下となるような回転速度に設定される。そして、上記到達するタイミングtaよりも、ピニオン14の押し出しが開始されてからピニオン14がリングギア46に接触するまでに要する時間である接触所要時間Tα(例えば40msec)だけ前のタイミングを基準タイミングtbとして都度算出する。そして、算出された基準タイミングtbよりも前に再始動条件が成立したと判断された場合、モータ先駆動処理を行う。
【0044】
上記モータ先駆動処理によるピニオン14の押し出しタイミング及び回転駆動開始タイミングは、エンジン回転速度の低下軌道の予測値、ピニオン14の回転駆動が開始された後のピニオン回転速度の上昇軌道の予測値及び接触所要時間Tαに基づき算出される。ここで本実施形態では、ピニオン回転速度の上昇軌道を、下式(8)に示す1次遅れモデルを用いて予測する。
【0045】
Np=Npmax×{1−exp(―t/τ)} …(8)
なお、上式(8)において、Np[rpm]は、ピニオン回転速度を示し、Npmax[rpm]は、ピニオン回転速度の最大値を示し、τは、所定の時定数を示し、t[sec]は、ピニオン14の回転が開始されてからの経過時間を示す。
【0046】
上記接触所要時間Tαは、ピニオン14の回転駆動開始からピニオン14の回転速度がその最大値となるまでに要する時間よりも短い。このため、ピニオン14を回転駆動させた後に押し出すことでクランキングを行う処理(モータ先駆動処理A)と、ピニオン14が押し出されてからリングギア46に接触する前までの期間にピニオン14の回転駆動を開始させる処理(モータ先駆動処理B)とのいずれかの処理が状況に応じて選択的になされることとなる。
【0047】
つまり、モータ先駆動処理Aは、ピニオン14の回転駆動開始タイミングから接触所要時間Tαが経過するタイミングにおけるピニオン回転速度が、リングギア46にピニオン14が接触するタイミングにおけるピニオン14の最適な回転速度(上記相対回転速度差が規定値ΔN以下となるようなピニオン回転速度)には到達しないと予測される場合において行われる処理となる。本実施形態では、ピニオン14の回転駆動開始タイミングを再始動条件の成立タイミング(時刻t1)として設定し、ピニオン14の押し出しタイミングを、上記回転駆動開始タイミングよりも後のタイミング(時刻t2)として設定する(同図の実線参照)。
【0048】
一方、モータ先駆動処理Bは、ピニオン14の回転駆動開始から接触所要時間Tαが経過するタイミングにおけるピニオン回転速度が、リングギア46にピニオン14が接触するタイミングにおけるピニオン14の上記最適な回転速度以上となると予測される場合において行われる処理となる。本実施形態では、ピニオン14の押し出しタイミングを再始動条件成立タイミング(時刻t3)として設定し、ピニオン14の回転駆動開始タイミングを、ピニオン14の押し出しタイミングよりも後であって且つこの押し出しタイミングから接触所要時間Tα遅延させたタイミングよりも前のタイミング(時刻t4)として設定する(同図の二点鎖線参照)。
<3.モータ後駆動処理>
続いて、図3(b)を用いてモータ後駆動処理について説明する。なお、図中、先の図3(a)と同様に、エンジン回転速度の低下軌道についての脈動を省略しており、エンジン回転速度NE、ピニオン回転速度Npについてはそれぞれ、リングギア周速度、ピニオン周速度を示している。
【0049】
この処理は、クランキングを行うべく、ピニオン14をリングギア46に接触させた後に回転駆動させるようにモータ12及びアクチュエータSL1を操作する処理である。詳しくは、図3(b)に示すように、回転速度低下期間において上記基準タイミングtb以降に再始動条件が成立したと判断された場合、モータ後駆動処理を行う。ここで本実施形態では、ピニオン14の押し出しタイミングを、再始動条件の成立タイミング(時刻t1)として設定し、ピニオン14の回転駆動開始タイミングを、ピニオン14の押し出しタイミングから接触所要時間Tα遅延させたタイミング(時刻t2)として設定する。
【0050】
ところで、モータ先駆動処理が選択されて開始された後、ドライバのブレーキ操作によって制動力が付与されたり、車載補機の駆動トルクが変化したりする等、エンジン回転速度の低下軌道の予測に反映されていない要因が発生することに起因して、更新されたエンジン回転速度の低下軌道の予測値が当初の低下軌道の予測値よりも低くなることがある。この場合、更新された低下軌道の予測値に基づき算出された上記基準タイミングtbが、更新前の低下軌道の予測値に基づき算出された基準タイミングtbよりも早くなり、再始動条件の成立タイミングが基準タイミングtb以前であると判断されていたものが基準タイミングtb以降になると判断されることで、モータ先駆動処理が完了する前にモータ後駆動処理が選択される状況となることがある。このような状況下、上記予測値の低下に応じたモータ12やアクチュエータSL1の操作処理が行われないと、ピニオン14をリングギア46に適切に噛み合わせることができなくなるおそれがある。
【0051】
つまり例えば、モータ先駆動処理Aによってピニオン14が回転駆動されてから押し出される前までの期間において、更新された低下軌道の予測値に基づきモータ後駆動処理が選択される状況下、モータ先駆動処理Aによって算出された当初のピニオン押し出しタイミングに従ってピニオン14を押し出すと、ピニオン押し出しタイミングが遅延することで、ピニオン14をリングギア46に噛み合わせるタイミングが遅延するおそれがある。この場合、更に、ピニオン14の押し出しタイミングの遅延によってピニオン14とリングギア46との接触時におけるピニオン回転速度が高くなることと、接触時における実際のエンジン回転速度がエンジン回転速度の予測値よりも低くなることとに起因して、上記相対回転速度差が大きくなり、ピニオン14をリングギア46に適切に噛み合わせることができなくなるおそれもある。
【0052】
こうした問題を解決すべく、本実施形態では、モータ先駆動処理が開始されてから完了する前までの期間にモータ後駆動処理が選択された場合、スタータ10の特例駆動処理を行う。詳しくは、モータ先駆動処理Aによってピニオン14が回転駆動されてから押し出される前までの期間にモータ後駆動処理が選択された場合、上記特例駆動処理として、モータ先駆動処理Aに従った当初のピニオン14の押し出しタイミングまで待機することなく上記選択されたタイミングでピニオン14を押し出す処理を行う。これにより、ピニオン14をリングギア46に噛み合わせるタイミングの遅延等を回避しつつ、ピニオン14とリングギア46との接触時におけるピニオン14の回転速度を低くして上記相対回転速度を小さくすることで、ピニオン14をリングギア46に適切に噛み合わせることが可能となる。
【0053】
ここで本実施形態では、モータ先駆動処理Aによってピニオン14が回転駆動されてから押し出される前までの期間にモータ後駆動処理が選択された場合、スタータ10の特例駆動処理として更に、モータ先駆動処理Aに従ってピニオン14の回転駆動を継続させる処理を行う。これは、エンジン42の再始動の完了が遅延する事態を回避するためである。つまり、ピニオン14が回転駆動されてから押し出される前までの期間にモータ後駆動処理が選択される場合、例えばモータ後駆動処理に従ったピニオン14の回転駆動開始タイミングでピニオン14の回転駆動を開始すべく、モータ12への通電を一旦停止し、その後再度通電するようにSL2駆動リレー22を操作することで、ピニオン14とリングギア46との噛み合い時における上記相対回転速度差を小さくすることも考えられる。しかしながら、接触所要時間Tαが上記制限時間よりも短いことに起因して、モータ後駆動処理に従ったピニオン14の回転駆動開始タイミングとすべく、例えばピニオン14の押し出しタイミングでモータ12への通電を停止すると、その後モータ12への通電を再開するタイミングが、ピニオン14がリングギア46に接触するタイミングよりも後になることがある。この場合、クランキングの開始が遅延し、エンジンの再始動の完了が遅延するおそれがある。このため、ピニオン14の回転駆動を継続させる処理を行うことで、ピニオン14の回転駆動開始タイミングの遅延を回避し、エンジン42の再始動の完了の遅延を回避する。
【0054】
一方、モータ先駆動処理Bによってピニオン14が押し出されてから回転駆動される前までの期間にモータ後駆動処理が選択された場合、スタータ10の特例駆動処理として、モータ先駆動処理Bによるピニオン14の押し出しを継続させる処理を行う。これは、ピニオン14の押し出しタイミングについては、モータ先駆動処理B及びモータ後駆動処理の双方において再始動条件の成立タイミングで同一であるためである。
【0055】
なお、モータ先駆動処理Bによってピニオン14が押し出されてから回転駆動される前までの期間にモータ後駆動処理が選択された場合、ピニオン14の回転駆動開始タイミングについては、更新されたエンジン回転速度の低下軌道の予測値に基づき再設定される。具体的には例えば、更新されたエンジン回転速度の低下軌道の予測値が当初の予測値よりも低くなることで、エンジン回転速度が接触許可回転速度Ne1に到達するタイミングが早まるため、更新後の低下軌道に基づき設定されるピニオン14の回転駆動開始タイミングは、更新前の低下軌道に基づき設定されたタイミングよりも早いタイミングとして再設定される。これにより、ピニオン14とリングギア46との噛み合い時における上記相対回転速度差を小さくすることができ、ピニオン14をリングギア46に適切に噛み合わせることが可能となる。
【0056】
図4に、本実施形態にかかる上記特例駆動処理を含むスタータ10の駆動制御処理の手順を示す。なお、この処理は、ECU52によって、例えば所定周期(4msec)で繰り返し実行される。
【0057】
まず、モータ先駆動処理Aによってピニオン14の回転駆動が開始されてから押し出される前までの期間にモータ後駆動処理が選択される場合について説明する。
【0058】
この一連の処理では、まずステップS10において、エンジン42の停止条件が成立したか否かを判断する。なお、本ステップにおいて停止条件が成立したと一旦判断された場合、エンジン42の再始動が完了するまでは、本ステップにおいて肯定判断される。
【0059】
ステップS10において停止条件が成立したと判断された場合には、ステップS12に進み、上記低下軌道予測処理によって予測されたエンジン回転速度の低下軌道の予測値を取得するとともに、取得された低下軌道の予測値等に基づき上記基準タイミングtbを算出する。
【0060】
続くステップS14では、エンジン42の再始動条件が成立したか否かを判断する。なお、本ステップにおいて再始動条件が成立したと一旦判断された場合、次回以降、本ステップにおいて肯定判断される。
【0061】
ステップS14において再始動条件が成立すると判断された場合には、ステップS16に進み、モータ先駆動処理及びモータ後駆動処理のうちいずれを採用するかを選択する。ここでいずれの処理を採用するかは、上述したように、再始動条件の成立タイミング(ステップS14において最初に肯定判断されたタイミング)が上記基準タイミングtbよりも前であると判断された場合、モータ先駆動処理を選択し、再始動条件の成立タイミングが上記基準タイミング以降であると判断された場合、モータ後駆動処理を選択する。なお、本ステップの処理が行われる毎に、上記基準タイミングtb及び上記低下軌道の予測値等に基づき、ピニオン14の押し出しタイミング及び回転駆動開始タイミングが算出される。
【0062】
ステップS16においてモータ先駆動処理が選択された場合には、ステップS17に進み、ピニオン14が既に押し出されているか否かを判断する。ここで、モータ先駆動処理Aが行われる状況であるなら、ステップS18においてピニオン14の押し出しタイミング(SL1駆動リレー40オンタイミング)でないと判断されるため、ピニオン14を先に回転駆動させるべくSL2駆動リレー22をオンする。(ステップS20、S22:YES、ステップS24)。
【0063】
その後、モータ先駆動処理Aによってピニオン14が回転駆動されてから押し出される前までの期間において、更新されたエンジン回転速度の低下軌道の予測値が当初の予測値よりも低くなる事態が発生せず、モータ先駆動処理Aによるピニオン14の押し出し前にモータ後駆動処理が選択されない場合には(ステップS16:YES)、モータ先駆動処理Aによるピニオン14の当初の押し出しタイミングで(ステップS17:NO、ステップS18:YES)ピニオン14を押し出す(ステップS26)。これにより、クランキングが開始される。なお、エンジン42の再始動が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する(ステップS28:NO)。
【0064】
これに対し、ピニオン14が押し出される前までに、更新された上記低下軌道の予測値が低くなる事態が発生し、モータ後駆動処理が選択された場合には(ステップS16:NO)、ステップS30に進み、ピニオン14を押し出すべくSL1駆動リレー40をオンする。すなわち、モータ後駆動処理が選択されたタイミングでピニオン14を押し出すことで、クランキングが開始される。この際、エンジン42の再始動の完了が遅延することを回避すべくピニオン14の回転駆動が継続されるようにSL1駆動リレー40のオン状態が保持される。そして、ステップS30の処理が完了すると、この一連の処理を一旦終了する(ステップS32:NO)。
【0065】
次に、モータ先駆動処理Bによってピニオン14が押し出されてから回転駆動される前までの期間にモータ後駆動処理が選択される場合について説明する。
【0066】
モータ先駆動処理が選択される状況下(ステップS16:YES)、ピニオン14の押し出しタイミングであると判断された場合には(ステップS17:NO、ステップS18:YES)、モータ先駆動処理Bによってピニオン14を回転駆動させるための処理を行う。詳しくは、まずステップS26においてピニオン14を押し出すべくSL1駆動リレー40をオンする。そして、ピニオン14の回転駆動開始タイミングとなるまで待機する(ステップS28:YES、ステップS34:NO)。
【0067】
ここで上記待機中にモータ後駆動処理が選択されない場合には(ステップS16:YES)、その後モータ先駆動処理Bによるピニオン14の回転駆動開始タイミング(SL2駆動リレーオンタイミング)で(ステップS17:YES、ステップS28、S34:YES)ピニオン14を回転駆動させる(ステップS36)。これにより、クランキングが開始される。
【0068】
これに対し、ピニオン14の回転駆動開始タイミングとなるまでの待機中にモータ後駆動処理が選択された場合には(ステップS16:NO)、モータ先駆動処理Bによる当初のピニオン14の押し出しタイミングに従ってピニオン14の押し出しを継続させ、その後ピニオン14を回転駆動させることで、クランキングが開始される(ステップS32、S38:YES、ステップS40)。この際、ピニオン14の回転駆動開始タイミングは、更新されたエンジン回転速度の低下軌道の予測値に基づき算出されたものが採用される。
【0069】
図5に、本実施形態にかかるスタータ10の特例駆動処理の一例を示す。
【0070】
まず、図5(A)に、モータ先駆動処理Aによってピニオン14が回転駆動されてから押し出される前までの期間にモータ後駆動処理が選択された場合の一例を示す。詳しくは、図5(a−1)に、モータ先駆動処理が選択される状況であるか否かの推移を示し、図5(a−2)に、モータ後駆動処理が選択される状況であるか否かの推移を示し、図5(a―3)に、SL1駆動リレー40の操作状態の推移を示し、図5(a−4)に、SL2駆動リレー22の操作状態の推移を示す。
【0071】
図示される例では、回転速度低下期間内の時刻t1において、前回の回転脈動期間における角速度の記憶が完了し、エンジン回転速度の低下軌道予測処理が実行可能であると判断される。その後時刻t2において、モータ先駆動処理Aが選択される状況でエンジン42の再始動条件が成立することで、モータ先駆動処理Aによるピニオン14の回転駆動開始タイミング(時刻t2)及び押し出しタイミング(時刻t4)が算出されるとともに、ピニオン14の回転駆動が開始される。その後、ブレーキ操作等に起因して、ピニオン14の押し出しタイミング(時刻t4)よりも前の時刻t3において、更新されたエンジン回転速度の低下軌道の予測値が当初の予測値よりも低くなることでモータ後駆動処理が選択される状況となり、この選択タイミングでピニオン14を直ぐに押し出すべくSL1駆動リレー40をオンに切り替える。この際、ピニオン14が押し出されてから接触所要時間Tαが経過するタイミングよりもピニオン14が押し出されてから上記制限時間Tβが経過するタイミングが後になることに起因する再始動の完了の遅延を回避すべく、ピニオン14の回転駆動が継続される。これにより、ピニオン14をリングギア46に適切に噛み合わせることができる。なお、その後、クランキングによってエンジン42の再始動が完了したと判断される時刻t5においてSL1駆動リレー40及びSL2駆動リレー22がオフされる。
【0072】
次に、図5(B)に、モータ先駆動処理Bによってピニオン14が押し出されてから回転駆動される前までの期間にモータ後駆動処理が選択された場合の一例を示す。詳しくは、図5(b−1)〜図5(b−4)は、先の図5(a−1)〜図5(a−4)に対応している。
【0073】
図示される例では、時刻t2においてモータ先駆動処理Bが選択される状況でエンジン42の再始動条件が成立することで、モータ先駆動処理Bによるピニオン14の押し出しタイミング(時刻t2)及び回転駆動開始タイミング(時刻t5)が算出されるとともに、ピニオン14が押し出される。その後、ブレーキ操作等に起因して、時刻t3において、上記低下軌道の予測値の更新に起因してモータ後駆動処理が選択される状況となる。このような状況下、モータ先駆動処理Bによるピニオン14の押し出しが継続されるとともに、更新された上記低下軌道の予測値等に基づきピニオン14の回転駆動開始タイミング(時刻t4)が再設定される。そしてその後、再設定されたピニオン14の回転駆動開始タイミングでピニオン14を回転駆動させる。これにより、ピニオン14をリングギア46に適切に噛み合わせることができる。
【0074】
このように、本実施形態では、モータ先駆動処理によるピニオン14の押し出し及び回転駆動のうちいずれかが開始されてから他方が開始される前までの期間にモータ後駆動処理が選択された場合、スタータ10の特例駆動処理を行うことで、ピニオン14をリングギア46に適切に噛み合わせることができる。
【0075】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0076】
(1)モータ先駆動処理Aによってピニオン14が回転駆動されてから押し出される前までの期間にモータ後駆動処理が選択された場合、モータ後駆動処理が選択されたタイミングでピニオン14を押し出す処理を行った。これにより、ピニオン14をリングギア46に噛み合わせるタイミングの遅延を回避することができ、ひいてはピニオン14をリングギア46に適切に噛み合わせることができる。
【0077】
(2)モータ先駆動処理Aによってピニオン14が回転駆動されてから押し出される前までの期間にモータ後駆動処理が選択された場合、ピニオン14の回転駆動を継続させる処理を行った。これにより、オンオフ制限処理に起因するピニオン14とリングギア46との噛み合わせタイミングの遅延を回避することができ、ひいてはピニオン14をリングギア46に適切に噛み合わせることができる。
【0078】
(3)モータ先駆動処理Bによってピニオン14が押し出されてから回転駆動される前までの期間にモータ後駆動処理が選択された場合、モータ先駆動処理Bによってピニオン14の押し出しを継続させる処理を行った。これにより、ピニオン14をリングギア46に適切に噛み合わせることができる。
【0079】
(4)モータ先駆動処理Bによってピニオン14が押し出されてから回転駆動される前までの期間にモータ後駆動処理が選択された場合、更新されたエンジン回転速度の低下軌道の予測値に基づき、ピニオン14の回転駆動開始タイミングを再設定した。これにより、ピニオン14をリングギア46に適切に噛み合わせることができる。
【0080】
(5)エンジン回転速度の低下軌道の予測値に基づき、ピニオン14がリングギア46に接触するタイミングにおける上記相対回転速度差が規定値ΔN以下となるように、モータ先駆動処理及びモータ後駆動処理のうちいずれを採用するかを選択するようにした。この場合、エンジン回転速度の低下軌道の予測値の更新に起因して、ピニオン14がリングギア46に接触するタイミングにおけるピニオン14の回転速度が、相対回転速度差を規定値以下とするための適切なものからずれやすく、モータ先駆動処理が完了する前にモータ後駆動処理が選択される状況となりやすい。このため、モータ先駆動処理及びモータ後駆動処理のうちいずれを採用するかを上記態様にて選択する本実施形態は、スタータ10の特例駆動処理の利用価値が高い。
【0081】
(その他の実施形態)
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0082】
・エンジン回転速度の低下軌道の予測手法としては、上記実施形態に例示したものに限らない。例えば、前回の回転脈動期間におけるロストルクに代えて、前回の回転脈動期間の各区間におけるエンジン回転速度の低下量を用いて予測してもよい。具体的には例えば、前回の回転脈動期間の各区間におけるエンジン回転速度の低下量を記憶し、現在のエンジン回転速度から記憶された低下量を減算することでエンジン回転速度の低下軌道を予測すればよい。
【0083】
・モータ後駆動処理によるピニオン14の回転駆動開始タイミングの設定手法としては、上記実施形態に例示したものに限らない。例えば、上記回転駆動開始タイミングを、ピニオン14がリングギア46に接触した後のタイミングとして設定してもよい。具体的には、上記回転駆動開始タイミングを、ピニオン14の押し出しタイミングから接触所要時間Tαよりもやや長い時間遅延させたタイミングとして設定すればよい。
【符号の説明】
【0084】
10…スタータ、12…モータ、14…ピニオン、16…アクチュエータ、42…エンジン、44…クランク軸、46…リングギア、50…クランク角度センサ、52…ECU(エンジンの自動停止始動制御装置の一実施形態)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピニオンを回転駆動させるモータと、エンジンの出力軸に連結されたリングギアに前記ピニオンを接触させて噛み合わせるべく該ピニオンを該リングギアに向かって押し出すアクチュエータとを有して構成されるスタータを備える車両に適用され、所定の停止条件が成立した場合に前記エンジンを自動停止させ、その後所定の再始動条件が成立した場合に前記スタータによるクランキングを行って前記エンジンを再始動させるエンジンの自動停止始動制御装置において、
前記エンジンの自動停止後におけるエンジン回転速度の低下軌道を都度予測しつつ該予測された低下軌道を所定周期で更新する予測手段と、
エンジン回転速度が所定の高回転領域となる状況下において、前記クランキングを行うべく前記ピニオンを前記リングギアに接触させる前に回転駆動させるように前記モータ及び前記アクチュエータの操作処理を行うモータ先駆動手段と、
エンジン回転速度が所定の低回転領域となる状況下において、前記クランキングを行うべく前記ピニオンを前記リングギアに接触させた後に回転駆動させるように前記モータ及び前記アクチュエータの操作処理を行うモータ後駆動手段と、
前記再始動条件が成立した場合、前記予測手段によって都度予測された低下軌道に基づき、前記モータ先駆動手段及び前記モータ後駆動手段のうちいずれによる前記操作処理を採用するかを選択する選択手段と、
前記モータ先駆動手段によって前記ピニオンが回転駆動されてから押し出される前までの期間に前記選択手段によって前記モータ後駆動手段による前記操作処理が選択された場合、該選択されたタイミングで前記ピニオンを押し出す制御手段とを備えることを特徴とするエンジンの自動停止始動制御装置。
【請求項2】
前記車両には、前記モータへの通電又は通電の停止を切り替えるべく前記モータ先駆動手段及び前記モータ後駆動手段によって操作される開閉器が備えられ、
前記開閉器の開閉間隔が規定時間以上となるように該開閉器の操作を制限する制限手段を更に備え、
前記規定時間は、前記ピニオンが押し出されてから前記リングギアに接触するまでに要する時間よりも長いものであり、
前記制御手段は、前記モータ先駆動手段によって前記ピニオンが回転駆動されてから押し出される前までの期間に前記選択手段によって前記モータ後駆動手段による前記操作処理が選択された場合、前記モータ先駆動手段による前記ピニオンの回転駆動を継続させることを特徴とする請求項1記載のエンジンの自動停止始動制御装置。
【請求項3】
前記モータ後駆動手段は、前記ピニオンの押し出しタイミングを、前記再始動条件の成立タイミングとして設定し、前記ピニオンの回転駆動開始タイミングを、前記押し出しタイミングから所定時間遅延させたタイミングとして設定する処理を行うものであり、
前記モータ先駆動手段は、前記ピニオンの押し出しタイミングを、前記再始動条件の成立タイミングとして設定し、前記ピニオンの回転駆動開始タイミングを、該押し出しタイミングよりも後であって且つ該押し出しタイミングから前記所定時間遅延させたタイミングよりも前のタイミングとして設定する設定手段を備えるものであり、
前記制御手段は、前記設定手段によって前記ピニオンが押し出されてから回転駆動される前までの期間に前記選択手段によって前記モータ後駆動手段による前記操作処理が選択された場合、前記モータ先駆動手段による前記ピニオンの押し出しを継続させることを特徴とする請求項1又は2記載のエンジンの自動停止始動制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記設定手段によって前記ピニオンが押し出されてから回転駆動される前までの期間に前記選択手段によって前記モータ後駆動手段による前記操作処理が選択された場合、前記予測手段によって更新された低下軌道に基づき、前記ピニオンの回転駆動開始タイミングを再設定することを特徴とする請求項3記載のエンジンの自動停止始動制御装置。
【請求項5】
前記選択手段は、前記予測手段によって都度予測された低下軌道に基づき、前記ピニオンが前記リングギアに接触するタイミングにおける該ピニオンの回転速度と該リングギアの回転速度との差が規定値以下となるように、前記いずれによる前記操作処理を採用するかを選択することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のエンジンの自動停止始動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−62760(P2012−62760A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205074(P2010−205074)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】