説明

エンジン停止始動制御装置

【課題】この発明は、バッテリの充電状態が少ない状態、あるいは、バッテリの温度が低い状態でも、アイドリングストップを実施する機会を増やすことを目的とする。
【解決手段】この発明は、エンジン停止始動制御装置において、バッテリの電圧を検出する電圧検出手段を備え、制御手段は、バッテリ温度検出手段により検出されたバッテリ温度が予め設定された温度以下である自動停止禁止条件成立時にはエンジン自動停止条件が成立してもエンジンを自動停止しないように制御する自動停止禁止制御を実行するとともに、自動停止禁止条件成立下であっても、電圧検出手段によりエンジン始動時に降下するバッテリ電圧の最低電圧を検出し、この最低電圧に基づいてエンジン自動停止を許可するバッテリの充電率しきい値を設定し、バッテリの充電率が充電率しきい値よりも高い時にはエンジンを自動停止するように制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はエンジン停止始動制御装置に係り、特に、エンジンを自動停止するアイドルストップの機会を増やすことができるエンジン停止始動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の燃料消費量の削減やエミッションの低減を目的として、所定の条件成立時にいわゆるアイドリングストップ(エンジン自動停止)を実施するエンジン停止始動制御装置がある。
従来のエンジン停止始動制御装置によるアイドリングストップ後のエンジン再始動の制御としては、特開2004−044522号公報や特開2007−321651号公報のように、始動用バッテリの温度からスタータのトルクを制限することで、バッテリの電圧低下を防ぐものがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−044522号公報
【特許文献2】特開2007−321651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述公報に開示されるような制御では、低温でのエンジンの自動再始動に時間がかかり、走行に遅れを生じるという問題がある。昨今発売されているアイドリングストップ機能を備えた車両では、バッテリ温度もしくは環境温度が0℃程度以下では、アイドリングストップを禁止して、エンジンを自動再始動をさせないようにしているのが現状であり、冬季は殆んどアイドリングストップを実施できない問題がある。
また、長期間車両を使用しないと、バッテリの電圧が低下し、エンジンの運転によるオルターネータからの充電を必要する。このため、長期間使用されなかった車両では、アイドリングストップを制御的に許可するまでに時間(オルターネータからの充電のため)がかかってしまう課題もある。したがって、燃料消費量の削減やエミッションの低減をすることができない。
【0005】
この発明は、バッテリの充電状態が少ない(バッテリの電圧が低下している)状態、あるいは、バッテリの温度が低い状態でも、アイドリングストップを実施する機会を増やすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、エンジンを始動するエンジン始動手段と、前記エンジン始動手段に電力を供給するバッテリと、前記バッテリの温度を検出するバッテリ温度検出手段と、所定のエンジン自動停止条件成立時に前記エンジンを自動停止させ、このエンジンの自動停止中に前記エンジン自動停止条件とは異なる所定のエンジン自動始動条件成立時に前記エンジンを再始動する制御手段とを備えるエンジン停止始動制御装置において、前記バッテリの電圧を検出する電圧検出手段を備え、前記制御手段は、前記バッテリ温度検出手段により検出されたバッテリ温度が予め設定された温度以下である自動停止禁止条件成立時には前記エンジン自動停止条件が成立しても前記エンジンを自動停止しないように制御する自動停止禁止制御を実行するとともに、前記自動停止禁止条件成立下であっても、前記電圧検出手段によりエンジン始動時に降下するバッテリ電圧の最低電圧を検出し、この最低電圧に基づいてエンジン自動停止を許可する前記バッテリの充電率しきい値を設定し、前記バッテリの充電率が前記充電率しきい値よりも高い時には前記エンジンを自動停止するように制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明のエンジン停止始動制御装置は、バッテリ温度が低い時、あるいはバッテリの充電量が少ない時であっても、バッテリの充電率が充電率しきい値よりも高い時にはエンジンを自動停止するので、アイドリングストップを実施する機会を増やすことができる。したがって、この発明のエンジン停止始動制御装置は、燃料消費量を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1はエンジン停止始動制御装置のシステムブロック図である。(実施例)
【図2】図2はエンジン始動前のバッテリ電圧により決定される初期充電量のマップ1を示す図である。(実施例)
【図3】図3はエンジン始動時のバッテリの最低電圧により設定される充電率しきい値とこの充電率しきい値に対応して設定される放電率しきい値のマップ2を示す図である。(実施例)
【図4】図4はアイドリング中の充電量により決定される放電率しきい値を示す図である。(実施例)
【図5】図5はエンジン停止始動制御装置のフローチャートである。(実施例)
【図6】図6はエンジン停止始動制御装置のタイムチャートである。(実施例)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づいてこの発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0010】
図1〜図6は、この発明の実施例を示すものである。図1において、1は車両に搭載されるエンジン、2はエンジン停止始動制御装置である。エンジン停止始動制御装置2は、エンジン1を始動するスタータなどのエンジン始動手段3と、エンジン始動手段3に電力を供給するバッテリ4と、バッテリ4の温度を検出するバッテリ温度検出手段5と、バッテリ4の電圧を検出する電圧検出手段6と、エンジン1により駆動されてバッテリ4を充電するオルタネータなどの電力発生手段7と、エンジン1を停止始動させるように制御する制御手段8とを備えている。
前記制御手段8は、所定のエンジン自動停止条件成立時にエンジン1を自動停止させ、このエンジン1の自動停止中にエンジン自動停止条件とは異なる所定のエンジン自動始動条件成立時にエンジン1を再始動する。
【0011】
エンジン停止始動制御装置2の制御手段8は、バッテリ温度検出手段5により検出されたバッテリ温度が予め設定された温度以下である自動停止禁止条件成立時には、エンジン自動停止条件が成立してもエンジン1を自動停止しないように制御する自動停止禁止制御を実行する。
また、制御手段8は、電圧検出手段6によりエンジン始動時に降下するバッテリ電圧の最低電圧を検出し、この最低電圧に基づいてエンジン自動停止を許可するバッテリ4の充電率しきい値を設定し、自動停止禁止条件成立下であっても、バッテリ4の充電率が設定した充電率しきい値よりも高い時にはエンジン1を自動停止するように制御する。
さらに、制御手段8は、エンジン始動時の最低電圧に基づいてエンジン自動停止中にエンジン1を再始動するために必要なバッテリ4の放電率しきい値を設定し、エンジン自動停止中にバッテリ4の放電率が設定した放電率しきい値よりも高い時には、エンジン1を再始動するように制御する。
【0012】
エンジン1の始動を考えると、根本的に、キー操作によるエンジン始動においては、エンジン1のフリクションが最も高く、またバッテリ温度や電圧が最も低いので、キー操作によりエンジン始動ができたのであれば、エンジン自動停止(アイドリングストップ)後のエンジン自動始動時においてバッテリ4の温度や充電状態が、キー操作による始動時(もしくは前回の自動始動)における状態を上回っていれば、自動始動が可能である。
このエンジン停止始動制御装置2は、初回のキー操作よるエンジン始動時の始動直前から始動中のバッテリ4の状態およびその後のバッテリ4の充電状態(SOCや充電量)の変化によって、アイドリングストップの許可およびエンジン再始動させるタイミングを判定する。エンジン停止始動制御装置2は、冬季のバッテリ温度が低い場合や車両の長期放置などでバッテリ4の充電状態(SOC)が低下している場合であって満充電が完了する前でも、アイドリングストップを一定条件で許可する。
【0013】
次に、エンジン停止始動制御装置2の動作を、図2〜図4のマップ1〜3を参照しながら、図5のフローチャートに沿って説明する。
エンジン停止始動制御装置2は、図5において、アイドリン−1グストップ(エンジン自動停止)許可の判定がスタートし(S01)、エンジン1を始動するためにキー操作されると(S02)、エンジン始動手段3が駆動してエンジン1の始動が開始される。このエンジン始動開始直前のバッテリ4の電圧Vを計測し(S03)、エンジン始動開始と同時にバッテリ4の電流i、温度T、電圧Vを計測する(S04)。
エンジン1の始動が完了すると(S05)、マップ1(図2)を用いてエンジン始動直前の電圧Vから初期の充電状態SOCiを決定し(S06)、初期の充電状態SOCiを基点に電流積算にて現在の充電状態SOCxを算出(SOCx=SOCx−1+i*t/3600/Fc*100、初回はSOCx−1=SOCi)する(S07)。
また、エンジン1の始動が完了すると(S05)、他方では、エンジン始動中の降下するバッテリ電圧の最低電圧Vminを算出し(S08)、マップ2(図3)を用いて、最低電圧Vminからアイドリングストップを許可するバッテリ4の充電率しきい値Xを設定し(S09)、バッテリ4の現在の充電率を算出(充電率=i*t/3600/Fc*100)する(S10)。
【0014】
前記処理(S07)、(S10)に続いて、アイドリングストップを実施する車速(例えば、0km/h)に到達した時点(S11)での充電状態SOCが、所定値(例えば、80%)を越えているかを判断する(S12)。
この判断(S12)がYESの場合は、バッテリ4の温度Tが所定値(例えば、−10℃)を越えているかを判断する(S13)。
この判断(S13)がYESの場合は、マップ3(図4)を用いて現在の充電状態SOCxからアイドリンクストップしてもよい放電可能な放電率しきい値Z(時間t1×電流)を決定し(S14)、アイドリングストップ許可(通常)状態となり(S15)、エンジン1を自動停止してアイドリングストップを実施する。
アイドリングストップの実施中には放電率を算出(放電率=i*t/3600/Fc*100)し(S16)、放電率が放電率しきい値Zを越えているかを判断(S17)し、放電率が放電率しきい値Zとなるまでアイドリンクストップを継続する。
前記判断(S17)がNOの場合は、この判断(S17)を繰り返す。前記判断(S17)がYESの場合は、エンジン1を自動始動し(S18)、エンジン始動時のバッテリ4の電流i、温度T、電圧Vの計測(S04)に戻る。
【0015】
他方、アイドリングストップを実施する車速(例えば、0km/h)に到達した時点(S11)での充電状態SOCが所定値(例えば、80%)以下で、前記判断(S12)がNOの場合は、充電率が充電率しきい値Xを越えているかを判断する(S19)。
この判断(S19)がYESの場合は、アイドリングストップ許可(短期)状態となり(S20)、エンジン1を自動停止してアイドリングストップを実施する。
アイドリングストップの実施中には放電率を算出(放電率=i*t/3600/Fc*100)し(S21)、放電率が充電率しきい値Xに対応する放電率しきい値Y(時間t2×電流)を越えているかを判断し(S22)、放電率が放電率しきい値Yとなるまでアイドリンクストップを継続する。
前記判断(S22)がNOの場合は、この判断(S22)を繰り返す。前記判断(S22)がYESの場合は、エンジン1を自動始動し(S18)、エンジン始動時のバッテリ4の電流i、温度T、電圧Vの計測(S04)に戻る。
前記判断(S19)がNOの場合は、アイドルストップ禁止状態となり(S23)、エンジン始動完了(S05)後の処理に戻る。
また、前記判断(13)がNOの場合は、充電率が充電率しきい値Xを越えているかを判断し(S19)、この判断(S19)がYESの場合は、アイドリングストップ許可(短期)状態となり(S20)、エンジン1を自動停止してアイドリングストップを実施する。すなわち、充電状態SOCが所定値(例えば、80%)を越えていれば、たとえバッテリ4の温度Tが所定値(例えば、−10℃)以下で低くとも、短期的にアイドリングストップを許可する。
【0016】
次に、エンジン停止始動制御装置2の動作を、図6のタイムチャートに沿って説明する。
エンジン停止始動制御装置2は、図6において、キー操作によりエンジン始動手段(スタータ)3が駆動してエンジン1の始動を開始すると(t1)、エンジン始動と同時にバッテリ4の電流・温度・電圧の計測を開始する。
エンジン1の始動が完了(t2)した直後に、充電状態SOCiおよび最低電圧Vminを確定する(t3)。車両としては車速が0km/hであり、エンジン1はアイドリング状態(A)を継続しており、電力発生手段7(オルターネータ)からの電力でバッテリ4が充電され、充電率が上昇する。また、充電状態SOCも上昇する。
車速が上昇を開始して(t4)、走行状態において充電率が充電率しきい値Xを超えると、アイドリングストップ許可(短期)状態となる(t5)。
アイドリングストップ許可(短期)状態において、車速が0km/hに到達すると(t6)、エンジン1を自動停止してアイドリングストップ状態(B)となる。アイドリングストップ状態(B)において、放電率が放電率しきい値Yを越えると(t7)、エンジン始動手段(スタータ)3が駆動してエンジン1を強制的に自動再始動する。ここで、車速は0km/hであり、アイドリング状態(C)となる。
【0017】
車速が上昇を開始(t8)し、走行状態となって再度車速が0km/hに到達しても(t9)、充電率が充電率しきい値Xを超えていないので、エンジン1のアイドリングストップを実施せず、アイドリング状態(D)となる。
再度、車速が上昇を開始し、走行中に充電率が充電率しきい値Xを超えると(t10)、アイドリングストップ許可(短期)状態となる。そのまま走行が継続し、さらに充電率が上がり、充電状態SOCが所定値(例えば、80%)を超えると(t11)、アイドリングストップ許可(通常)状態となる。
次に、車速が0km/hとなると(t12)、エンジン1を自動停止してアイドリングストップ状態(E)となる。アイドリングストップ状態(E)において、運転者がブレーキを離すことでエンジン1が自動始動し(t13)、走行状態となる。
このとき、充電状態SOCは所定値(例えば、80%)以下となっており、アイドリングストップ許可(通常)状態は解除されているが、放電率は放電率しきい値Yを超えていないのでアイドリングストップ許可(短期)状態が維持される。
走行中に充電が進み、充電状態SOCが80%を越えると(t14)、アイドリングストップ許可(通常)状態となる。
【0018】
このように、エンジン停止始動制御装置2は、バッテリ4の温度が低い時、あるいはバッテリ4の充電量が少ない時であっても、バッテリ4の充電率が充電率しきい値Xよりも高い時にはエンジン1を自動停止するので、アイドリングストップを実施する機会を増やすことができる。したがって、このエンジン停止始動制御装置2は、燃料消費量を削減することができる。
また、エンジン停止始動制御装置2は、エンジン始動時の最低電圧Vminに基づいてエンジン自動停止中にエンジン1を再始動するバッテリ4の放電率しきい値Yを設定し、エンジン自動停止中にバッテリ4の放電率が放電率しきい値Yよりも高い時にはエンジン1を再始動するように制御する。
これにより、エンジン停止始動制御装置2は、バッテリ4の充電量が減りすぎてエンジン再始動が不可となることを避けつつ、可能な限りアイドリングストップ状態を継続することができる。したがって、このエンジン停止始動制御装置2は、燃料消費量を削減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
この発明は、バッテリの充電状態が少ない状態、あるいは、バッテリの温度が低い状態でも、アイドリングストップを実施する機会を増やすことができ、エンジンを搭載した車両に限らず、エンジンとモータとを搭載したHEV (hybrid electric vehicle)のエンジン自動始動制御にも応用できる。
【符号の説明】
【0020】
1 エンジン
2 エンジン停止始動制御装置
3 エンジン始動手段
4 バッテリ
5 バッテリ温度検出手段
6 電圧検出手段
7 電力発生手段
8 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを始動するエンジン始動手段と、前記エンジン始動手段に電力を供給するバッテリと、前記バッテリの温度を検出するバッテリ温度検出手段と、所定のエンジン自動停止条件成立時に前記エンジンを自動停止させ、このエンジンの自動停止中に前記エンジン自動停止条件とは異なる所定のエンジン自動始動条件成立時に前記エンジンを再始動する制御手段とを備えるエンジン停止始動制御装置において、前記バッテリの電圧を検出する電圧検出手段を備え、前記制御手段は、前記バッテリ温度検出手段により検出されたバッテリ温度が予め設定された温度以下である自動停止禁止条件成立時には前記エンジン自動停止条件が成立しても前記エンジンを自動停止しないように制御する自動停止禁止制御を実行するとともに、前記自動停止禁止条件成立下であっても、前記電圧検出手段によりエンジン始動時に降下するバッテリ電圧の最低電圧を検出し、この最低電圧に基づいてエンジン自動停止を許可する前記バッテリの充電率しきい値を設定し、前記バッテリの充電率が前記充電率しきい値よりも高い時には前記エンジンを自動停止するように制御することを特徴とするエンジン停止始動制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記最低電圧に基づいてエンジン自動停止中に前記エンジンを再始動する前記バッテリの放電率しきい値を設定し、エンジン自動停止中に前記バッテリの放電率が前記放電率しきい値よりも高い時には前記エンジンを再始動するように制御することを特徴とする請求項1に記載のエンジン停止始動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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