説明

エンジン回転数表示装置

【課題】エンジン回転数表示装置において、急変動時におけるエンジン回転数の変化に追従して違和感のないエンジン回転数の表示を可能とする。
【解決手段】エンジンのクランク軸に設けたクランクパルスロータ1の回転によりクランク軸回転数パルスを検出する回転数センサ2と、前記クランク軸回転数パルスの検出値の移動平均によるエンジン回転数の算出を行うエンジン回転数算出手段7と、前記エンジン回転数を電気的な処理によりメータに表示させる表示手段5を備えたエンジン回転数表示装置において、前記エンジン回転数算出手段7は、前記クランク軸回転数パルスが所定値以上の検出時間で検出されなかった場合に、前記移動平均によるエンジン回転数の算出を行うことなくエンジン回転数を「0」と判断し、前記メータにエンジン回転数が「0」であることを表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車に搭載されるタコメータにエンジン回転数を表示する装置に関し、特に、エンジン回転数の表示を電気的に行う場合に、エンジン回転数の急変動に対しても違和感のない表示を可能とするエンジン回転数表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン回転数表示装置においてエンジンの回転数を電気的に表示する場合は、エンジンのクランク軸に設けたクランクパルスロータの回転により発生するクランク軸回転数パルスを回転数センサで検出し、クランク軸回転数パルスの検出値の移動平均によりエンジン回転数の算出が行われている。
【0003】
このようなエンジン回転数表示装置において、エンジン回転数が低回転域における回転数センサの精度ばらつきが回転数表示に影響を与え、回転数表示の視認性を悪化させる現象が生じていた。そこで、このような現象の発生を防止するため、エンジン回転数の高低で移動平均を算出するための判定時間の長さを切り換え、低い時には判定時間を長くしてバラツキを標準化してエンジン回転数を表示し、高い時には判定時間を短くしてエンジン回転数を表示する場合のレンスポンスの向上を図ることが行われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平01−154195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したエンジン回転数表示装置によれば、定常的なエンジン回転数の判定では効果があるものの、回転数の急変動、例えばエンジン停止直後の表示や、MT車の発進操作が適切でない等によりエンジン停止が発生した場合に、エンジン回転数表示に遅れが生じ、エンジン停止であるにも関わらず表示上では直ちにエンジン回転数が「0」にならず、運転者に違和感を与える等、エンジン回転数の急変動時についての対応が十分ではなかった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みて提案されたもので、急変動時におけるエンジン回転数の変化に追従して違和感のないエンジン回転数の表示を可能とするエンジン回転数表示装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため請求項1は、エンジンのクランク軸に設けたクランクパルスロータ(1)の回転によりクランク軸回転数パルスを検出する回転数センサ(2)と、前記クランク軸回転数パルスの検出値の移動平均によるエンジン回転数の算出を行うエンジン回転数算出手段(7)と、前記エンジン回転数を電気的な処理によりメータに表示させる表示手段(5)を備えたエンジン回転数表示装置において、次の構成を含むことを特徴としている。
前記エンジン回転数算出手段(7)は、前記クランク軸回転数パルスが所定値以上の検出時間で検出されなかった場合に、前記移動平均によるエンジン回転数の算出を行うことなくエンジン回転数を「0」と判断し、前記メータにエンジン回転数が「0」であることを表示する。
【0008】
請求項2は、請求項1のエンジン回転数表示装置において、前記エンジン回転数算出手段(7)は、前記クランクパルスロータ(1)に歯欠領域(12)が存在する場合に、前記所定値を変更する所定値変更手段(43)を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の構成によれば、クランク軸回転数パルスが所定値以上の検出時間で検出されなかった場合にエンジン停止と判断し、移動平均によるエンジン回転数の算出を行うことなくエンジン回転数表示を直ちに「0」にすることができるため、メータ(回転計)上において表示レスポンス遅れによる違和感の発生を防止することができる。
【0010】
請求項2の構成によれば、クランクパルスロータ(1)に歯欠領域(12)が存在する場合においても、エンジン停止と判断する所定値を長く設定することで、歯欠領域(12)におけるエンジン停止時を検出してエンジン回転数表示を「0」にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のエンジン回転数表示装置が搭載される自動二輪車の前半分を示す側面説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るエンジン回転数表示装置の全体構成を示すブロック図である。
【図3】自動二輪車に搭載されるメータ部の平面説明図である。
【図4】クランクパルスロータの歯形成領域におけるクランクパルスに対するメータ表示用エンジン回転数を示すタイミング図である。
【図5】クランクパルスロータの歯欠領域におけるクランクパルスに対するメータ表示用エンジン回転数を示すタイミング図である。
【図6】エンジン回転数表示装置における回転数算出の手順を示すフローチャートである。
【図7】エンジン回転数表示装置により表示されるエンジン回転数と時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のエンジン回転数表示装置の実施形態の一例について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るエンジン回転数表示装置を備えた自動二輪車の前部を示す側面図である。
自動二輪車60は車体フレーム61を備え、車体フレーム61の前端部には、ステアリングステム62を回動自在に軸支するヘッドパイプ63が結合されている。ステアリングステム62の上部には左右一対の操向ハンドル64が取り付けられている。操向ハンドル64の中央位置には、スピードメータ(速度計)、タコメータ(エンジン回転計)、燃料計、距離計及び各種インジケータ等が配置されたメータ部50が配設されている。ステアリングステム62の下部には、前輪WFを回転自在に軸支する左右一対のフロントフォーク65(図示は片側のみ)が取り付けられている。フロントフォーク65には、前輪WFを覆うフロントフェンダ66が取り付けられている。
【0013】
車体フレーム61には、前輪WFの後方位置にエンジン(不図示)が支持され、エンジン後方にはスイングアームを介して駆動輪である後輪が支持されている。また、操向ハンドル64の後方位置には、車体フレーム61に支持される乗員用シートが設けられ、この乗員用シートに着座する運転者がメータ部5から各種情報を視認するとともにハンドル操舵等の運転操作を行う。
【0014】
ヘッドパイプ63の前方には、エンジンの点火装置や燃料噴射装置等を制御するFI−ECU6が配設されている。FI−ECU6を含む車体前方を覆うように形成されるフロントカウル67には、ヘッドライト68およびウインドスクリーン69が取り付けられている。
【0015】
図2は、本発明の一実施形態に係るエンジン回転数表示装置の全体構成を示すブロック図である。
エンジン回転数表示装置は、エンジンのクランク軸に設けたクランクパルスロータ1の近傍に配置させたクランクパルスセンサ(回転数センサ)2と、クランクパルス入力I/F回路3と、エンジンに対して各種制御を行うエンジン制御部(CPU)4と、エンジン制御部4で算出されたエンジン回転数を電気的な処理により表示するメータ部(表示手段)5を備えている。クランクパルス入力I/F回路3及びエンジン制御部4は、エンジンの点火時期や燃料噴射等の制御を行うFI−ECU6内に形成されている。
【0016】
クランクパルスロータ1は、円板周囲に22.5度毎(16等分)に複数個(13個)の突起部1aが形成され、3つの突起部分に相当する円板周囲においては突起部1aが形成されないことで、歯形成領域11と歯欠領域12を設けている。
回転数センサ2は、クランクパルスロータ1が回転することで、周囲の突起部1aの通過を検知し、歯形成領域11において通過時間に応じたクランク軸回転数パルスを出力する。
クランクパルス入力I/F回路3は、クランクパルスセンサ2からの信号(クランク軸回転数パルス)をエンジン制御部4に出力するためのインタフェースである。
【0017】
エンジン制御部(CPU)4は、クランクパルスセンサ2で得られたクランク軸回転数パルスからエンジン回転数を算出し表示手段5に通信パルス信号を出力するもので、クランクパルス読込処理部41と、クランクステージ判別部42と、エンジン停止判定クランクパルス間時間算出部43と、メータ送信回転数選択部44と、回転数算出部45と、切換スイッチ46と、通信ドライバ47とを備えて構成されている。
クランクパルス読込処理部41は、クランクパルスセンサ2で得られたクランク軸回転数パルスの読込処理を行い、突起部1aの通過中にのみ「1」となる2値信号であるクランクパルスをクランクステージ判別部42、メータ送信回転数選択部44、回転数算出部45にそれぞれ出力する。
【0018】
クランクステージ判別部42は、クランクパルスロータ1の回転が、歯形成領域11と歯欠領域12のどちらのクランクステージであるかを判断する。エンジン制御を行うCPUにおいては、エンジンがある程度回転した状態でクランク基準位置を確定し、エンジンの各行程(吸入行程、圧縮行程、爆発行程、排気行程)におけるクランク軸の位置(720°におけるクランクアングル(CA)の角度)を常時把握しているので、その情報に基づいて、クランクステージ判別部42は、クランクパルスがクランクパルスロータ1の何番目の突起部1aに対応するものであるかを認識し、現在位置が歯形成領域11か歯欠領域12かの判断を行うことができる。
【0019】
エンジン停止判定クランクパルス間時間算出部43は、クランクパルスからエンジン停止判定を行うためのクランクパルス間時間を算出するものであり、エンジン停止判断の対象箇所がクランクパルスロータ1の歯形成領域11である場合の第1の所定値(時間)と、歯欠領域12である場合の第2の所定値(時間)との切換処理が行われる。エンジン停止と判断するクランクパルス間時間の閾値は、第1の所定値(時間)の場合、例えば回転復帰が困難な100回転/分に相当するクランクパルス間時間である37.5msに設定し、第2の所定値(時間)の場合、歯欠領域12の存在を考慮し第1の所定値(37.5ms)の4倍である150msに設定している。
そして、エンジン停止判定クランクパルス間時間算出部43と、メータ送信回転数選択部44と、回転数算出部45と、切換スイッチ46とにより、表示手段5へのメータ送信用エンジン回転数算出手段7が形成される。
【0020】
メータ送信回転数選択部44は、入力されたクランクパルスのクランクパルス間時間が、エンジン停止判定するためのクランクパルス間時間(第1の所定値又は第2の所定値)より長いか否かでSW制御信号を出力して切換スイッチ46の切換処理(オン・オフ制御)を行う。
すなわち、通常運転時には、回転数算出部45で算出したエンジン回転数について通信ドライバ47を介して表示手段5へ出力し、エンジン停止判断時には、エンジン回転数「0」について通信ドライバ47を介して表示手段5へ出力する。
【0021】
回転数算出部45は、入力されたクランクパルスの360°CA(クランクアングル)移動平均処理によりエンジン回転数の算出を行う。360°CA移動平均処理は、例えば、クランクパルスの立ち下がりから次の立ち下がりまでの経過時間(クランクパルス間時間)をクランクパルスロータ1回転相当分(360°)加算し、規定個数(13個)で除算することで、パルス間隔の移動平均値(時間)を求め、直前360°CAによる平均のエンジン回転数(ME36ASL)を算出する。算出されたエンジン回転数は、切換スイッチ46(回転数算出部45選択時)を介して通信ドライバ47に出力され、通信ドライバ47からメータ部5に表示するための通信パルス信号が出力される。
また、360°CA移動平均処理を行うに際して、クランクパルス1個分のクランクパルス間時間から算出したエンジン回転数を瞬時回転数(MECA00)として記憶しておく。
【0022】
クランクパルスに対応してエンジン回転数を算出する場合の具体例について、図3及び図4を参照しながら説明する。
エンジン停止判断を行うに際し、歯形成領域11である場合は、図3に示すように、最後のクランクパルスの立ち下がりから第1の所定値(37.5ms)経過した時点で「エンジン回転数=クランクパルスの360°CA移動平均処理」から「エンジン回転数=0」へ計算方法の切換が行われ、エンジン回転数「0」を選択する。図3のクランクパルスの立ち下がりに表示した数字「7」「8」「9」はクランクパルスロータ1の第7〜9番目の突起部1aに対応するクランクパルスであることを示し、エンジン停止していなければ第8番目の後に第10番目のクランクパルスが出力される。
【0023】
また、歯欠領域12である場合は、図4に示すように、最後のクランクパルスの立ち下がりから第2の所定値(150ms)経過した時点で「エンジン回転数=クランクパルスの360°CA移動平均処理」から「エンジン回転数=0」へ計算方法の切換が行われ、エンジン回転数「0」を選択する。図4のクランクパルスの立ち下がりに表示した数字「11」「12」「0」はクランクパルスロータの第11〜13番目の突起部1aに対応するクランクパルスであり、第13番目のクランクパルス後に歯欠領域に入ったことを示している。
【0024】
図3及び図4において、メータ表示用のエンジン回転用数は、「122」「120」「110」と表示されるが、最後のクランクパルスの立ち下がりから計算方法切換時までに表示されるエンジン回転数「110」は、最後のクランクパルス直前の360°の移動平均値(直前13個のクランクパルスの立ち下がりから次の立ち下がりまでの経過時間の平均)によるものであり、エンジン回転数「122」「120」についても直前の360°の移動平均値によるものである。
【0025】
メータ部(表示手段)5は、図5に示されるような各種のLED表示デバイス(メータ)が表面に形成され、内部には、エンジン制御部4の通信ドライバ47からの通信パルス信号を受信する通信ドライバ51と、前記各表示デバイス(メータ)の表示を制御するメータCPU52と、前記各表示デバイス(メータ)に信号を出力するための表示ドライバ53を備えている。
LED表示デバイス(メータ)は、車速をデジタル表示するスピードメータ(速度計)54と、点灯する領域の面積を水平方向で変化させてエンジン回転数のバー表示を行うタコメータ(エンジン回転計)55と、ギヤポジションをデジタル表示するギヤポジション計56と、水温、油温等、各種の警告灯等のインジケータ57を備えて構成されている。
【0026】
また、エンジン制御部4には、メータ送信用エンジン回転数算出手段7とは別に、エンジン制御を行うためのFI/IGN用エンジン回転数算出手段8が設けられている。FI/IGN用エンジン回転数算出手段8は、FI/IGN用エンジン停止判定部81と、回転数算出部82と、切換スイッチ83とにより構成され、FI/IGN用エンジン停止判定部81及び回転数算出部82へは、クランクパルス読込処理部41からクランクパルスが入力されている。
【0027】
FI/IGN用エンジン停止判定部81は、入力されたクランクパルスのクランクパルス間時間が、600ms以上であればエンジン停止と判断するとともに、エンジン停止判断中においては、150ms以下でクランクパルスが存在した場合にエンジン停止判断の解除を行うようにSW制御信号を出力して切換スイッチ83の切換処理を行う。したがって、通常運転時には、回転数算出部82で算出したエンジン回転数が出力され、エンジン停止判断時には、エンジン回転数「0」が出力され、この回転数の値に基づいてエンジン制御が行われる。
すなわち、回転数算出部82では、回転数算出部45と同様に、入力されたクランクパルスの360°CA(クランクアングル)移動平均処理によりエンジン回転数の算出を行う。算出されたエンジン回転数は、切換スイッチ83(回転数算出部82選択時)を介してFI/IGN処理用のエンジン回転数として点火時期や燃料噴射等のエンジン制御に使用される。
FI/IGN用のエンジン回転数について、メータ送信用エンジン回転数算出手段7と別系統のFI/IGN用エンジン回転数算出手段8で求めることにより、点火時期や燃料噴射等のエンジン制御に適したエンジン回転数の値を得ることができる。
【0028】
次に、上述のエンジン回転数表示装置のメータ送信用エンジン回転数算出手段7によるエンジン回転数の算出手順について、図6のフローチャートを参照しながら説明する。
初期状態においては、出力される回転数は「0」に、計算方法切換フラグは「1」にそれぞれ設定されている。また、エンジンがある程度回転した状態でクランク基準位置が確定されている場合は、クランク位置確定フラグが「1」に、確定されていない場合はクランク位置確定フラグが「0」になっている。
【0029】
先ず、クランク位置が確定されているかどうかについてクランク位置確定フラグで判断する(ステップ101)。クランク位置確定フラグが「0」でクランク位置が確定されていない場合は、出力されるエンジン回転数は「0」を維持し(ステップ102)、計算方法切換フラグは「1」を維持する。(ステップ103)。
【0030】
クランク位置確定フラグが「1」でクランク位置が確定されている場合は、計算方法切換フラグの「0」「1」を判断する(ステップ104)。
ステップ104において計算方法切換フラグが「0」であれば、移動平均処理による回転数算出が選択される。そして、移動平均処理による回転数算出においては、最後のクランクパルスの立ち下がりからの経過時間(クランクパルス間時間)を検出し、所定値以上の時間が経過したかどうかを判断する(ステップ105)。この判断は、所定値に相当する時間が設定されたエンジン停止判定タイマが満了した場合に、所定値が経過したと判断する。所定値は、クランク位置により、歯形成領域11の場合の第1の所定値(37.5ms)と歯欠領域12の場合の第2の所定値(150ms)との間で切り換えられる。
経過時間が所定値以上である場合は、エンジン停止と判断し、出力されるエンジン回転数を「0」とし(ステップ106)、計算方法切換フラグを「1」とする(ステップ107)。
経過時間が所定値に満たない場合は、移動平均処理による回転数算出を行う(ステップ108)。
【0031】
ステップ104において計算方法切換フラグが「1」であれば、出力されるエンジン回転数「0」が選択される。そして、直前360°CAによる平均のエンジン回転数(ME36ASL)が瞬時回転数(MECA00)より回転数が高いかどうかを判断する(ステップ109)。瞬時回転数(MECA00)<平均エンジン回転数(ME36ASL)が成立しない場合は、出力されるエンジン回転数「0」を維持する(ステップ110)。
瞬時回転数(MECA00)<平均エンジン回転数(ME36ASL)が成立する場合は、移動平均処理による回転数算出を行い(ステップ111)、計算方法切換フラグを「0」とする(ステップ112)。
【0032】
以上の処理が繰り返して行われることにより、メータ送信用のエンジン回転数の算出が行われ、それに応じてメータCPU52がメータ部5のタコメータ(エンジン回転計)55のバー表示において点灯する領域の面積を変化させる。
また、メータ部5のタコメータ(エンジン回転計)55でエンジン回転数表示「0」を表示するには、バー表示において点灯する領域を無くすことで表現する。
【0033】
上述の例では、回転数算出部45及び回転数算出部82での移動平均処理による回転数算出を行うに際して、クランクパルスの360°CA移動平均処理によりエンジン回転数を算出したが、クランク軸の2回転分である720°(エンジンの吸入行程、圧縮行程、爆発行程、排気行程)CA移動平均処理によりエンジン回転数を算出してもよい。この場合、メータ表示において応答性を図りたい場合はクランクパルスの360°CA移動平均処理により算出されたエンジン回転数を使用し、メータ表示において安定性を確保したい場合はクランクパルスの720°CA移動平均処理により算出されたエンジン回転数を使用する。
【0034】
次に、上述したエンジン回転数表示装置(移動平均処理は360°CAで算出)を使用してエンジン回転数の表示を行った場合の数値の変動例を図7に示す。図7中の実線は、アイドル回転数(1250回転)からエンジンストップスイッチ等によりエンジンを停止させた場合、上記した構成のエンジン回転数表示装置によるメータ上でのエンジン回転数の変化を示している。
実線でのエンジン回転数の変化によれば、点火・噴射停止された段階でアイドル回転数から回転数が下降しクランク回転停止(エンジン停止)に至るに際して、実際のクランク回転停止の直前でメータ上ではエンジン回転数「0」を表示する。
【0035】
これに対して、従前の移動平均処理(360°CAで算出)のみを使用してエンジン回転数を算出する場合は、途中まで実線と同じ軌跡となるが、クランク回転停止の直前では点線のように実回転に対する表示遅れが顕著となったエンジン回転数を表示する。
従って、移動平均処理のみを使用した場合は、実際のクランク回転軸停止の後においてもメータ上では数100回転が表示されるため違和感があるのに対し、上述したエンジン回転数表示装置によればクランク回転軸停止に際してエンジン回転数「0」を確実に表示することが可能となる。
【0036】
上述したエンジン回転数表示装置の構成によれば、エンジン停止時にエンジン回転数表示を直ちに「0」にすることができるため、メータ部5のタコメータ(エンジン回転計)55上において表示レスポンス遅れによる違和感の発生を防止する表示を行うことができる。
また、クランクパルスロータ1に歯欠領域12が存在する場合においても、エンジン停止を判断するクランクパルス間時間の閾値となる所定値を長く設定することで、歯欠領域12でのエンジン停止時を検出してエンジン回転数表示を「0」にすることができる。
【0037】
以上、エンジン回転数表示装置によりメータ送信用のエンジン回転数を算出し、メータ部5のタコメータ(エンジン回転計)55でエンジン回転数を表示する例を説明したが、メータ部5においては、速度・ギヤポジション・水温・油温等の他の情報についてもエンジン制御部4からシリアル通信され、メータCPU52によりスピードメータ(速度計)54、ギヤポジション計56、各種インジケータ57に情報をそれぞれ表示することが行われている。
そして、これら複数種類の情報を送受信する場合、一定のインターバル、および順序にてデータを順番に送ることが行われ、また、ノイズ対策として、同一データを複数回ずつ送信し、受信側でデータ一致を確認してデータの採否を判断することが行われていた。
例えば、3種類の情報「1」「2」「3」をデータ送信する場合、1→1→2→2→3→3→1→1→2→2→3→3…のような順番で行っていた。
【0038】
しかしながら、このようなデータの通信方式では、情報の種類が多くなるにつれて、各々のデータの更新頻度が低くなってしまうという現象が生じ、情報のレスポンス遅れにより運転者が違和感を受ける可能性が懸念される。
このような場合の対策として、データ更新頻度の優先順位が高いデータ(例えば、エンジン回転数情報)ほど短い時間間隔で送信し、各種インジケータの情報やギヤポジション情報はそれより長い時間間隔で送信する。
例えば、3種類の情報「1」「2」「3」をデータ送信する場合、例えば1→1→2→2→1→1→3→3→1→1→2→2→1→1→3→3…のように、更新頻度の高い情報「1」について短い時間間隔で送信を行う。この例の場合、情報「2」と情報「3」は同じ時間間隔で更新される。
【0039】
この通信方式によれば、データの種類に応じて適切な更新頻度でデータ送受信を行うことができるので、更新頻度の高いエンジン回転数、更新頻度が低いギヤポジションや各種インジケータの両方について違和感のないメータ表示が可能となる。
また、更新のあったデータについて、優先順位の高い順に、一定間隔または不定期な間隔で順次送信することで、更にリアルタイム性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0040】
1…クランクパルスロータ、 2…クランクパルスセンサ(回転数センサ)、 3…クランクパルス入力I/F回路、 4…エンジン制御部、 5…メータ部(表示手段)、 6…FI−ECU、 7…メータ送信用エンジン回転数算出手段、 8…FI/IGN用エンジン回転数算出手段、 11…歯形成領域、 12…歯欠領域、 42…クランクステージ判別部、 43…エンジン停止判定クランクパルス間時間算出部(所定値変更手段)、 44…メータ送信回転数選択部、 45…回転数算出部、 46…切換スイッチ、 60…自動二輪車。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのクランク軸に設けたクランクパルスロータ(1)の回転によりクランク軸回転数パルスを検出する回転数センサ(2)と、前記クランク軸回転数パルスの検出値の移動平均によるエンジン回転数の算出を行うエンジン回転数算出手段(7)と、前記エンジン回転数を電気的な処理によりメータに表示させる表示手段(5)を備えたエンジン回転数表示装置において、
前記エンジン回転数算出手段(7)は、
前記クランク軸回転数パルスが所定値以上の検出時間で検出されなかった場合に、
前記移動平均によるエンジン回転数の算出を行うことなくエンジン回転数を「0」と判断し、
前記メータにエンジン回転数が「0」であることを表示する
ことを特徴とするエンジン回転数表示装置。
【請求項2】
前記エンジン回転数算出手段(7)は、前記クランクパルスロータ(1)に歯欠領域(12)が存在する場合に前記所定値を変更する所定値変更手段(43)を備えた請求項1に記載のエンジン回転数表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−11467(P2013−11467A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143148(P2011−143148)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】