説明

エンジン排ガス用コンバータシステム

【課題】薄壁で、コージェライト製のハニカム構造体をコンバータに用いた場合であって、そのコンバータの配設場所がエンジンに近い場合であっても、ハニカム構造体にエロージョンが起こり難くする手段を提供すること。
【解決手段】セル形状が四角形であり、隔壁に触媒が担持されたハニカム構造体と、そのハニカム構造体を把持するケースと、ハニカム構造体に、排ガスが導入されるように、ケースに接続される排ガス導入管と、を備え、排ガス導入管が1つである場合には、セル形状が表れるようにハニカム構造体の端面を正面にみたときの排ガス導入管とハニカム構造体の隔壁とがなす角度が、45±10°であるとともに、その排ガス導入管と前記ハニカム構造体の端面とがなす角度が、67.5°以上、90°以下であり、エンジンが多気筒であり、排ガス導入管が複数である場合には、セル形状が表れるようにハニカム構造体の端面を正面にみたときの半数以上の排ガス導入管とハニカム構造体の隔壁とがなす角度が、45±10°であるとともに、半数以上の排ガス導入管とハニカム構造体の隔壁とがなす角度が、67.5°以上、90°以下である、エンジン排ガス用コンバータシステムの提供による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体にエロージョンが生じ難い、エンジン排ガス用コンバータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排ガス規制の強化に伴い、触媒を担持したハニカム構造体を備えるコンバータが利用されるようになっている。このコンバータは、エキゾーストマニホールド(エキマニともいう)の後段に配設される、エンジン排ガス処理ユニットである。
【0003】
従来、コンバータは、エキゾーストマニホールド(エキマニともいう)の後段であって、エンジンからは少し離れた(自動車の)床下に配設されていたが、近時では、エキマニの直ぐ後段(エンジンの直下)に配設される場合がある。エンジンの直下に配設されたコンバータにおいては、ハニカム構造体に担持されている触媒が、高温の排ガスに晒されて、直ちに活性化するので、自動車のエンジンの始動直後に排出される有害物質を、低減することが可能である。
【0004】
コンバータを構成するハニカム構造体は、通常、外形が柱体(円柱体又は角柱体)を呈し、その二つの端面の間を連通する、複数のセルが形成されてなるものである。セルの長さ方向(柱体の軸方向)に垂直な断面の形状(セル形状)は、多くは四角形であり、他に三角形、六角形等がある。このハニカム構造体は、例えばコージェライトからなる多孔質体であり、多数の気孔を有する多孔質な隔壁によって、上記セルが区画されている。そして、触媒は、この隔壁に担持される。
【0005】
このようなハニカム構造体においては、より高い浄化性能が求められており、そのためには、隔壁は薄いことが好ましい。触媒が担持される隔壁が薄くなれば、触媒の熱容量は低減し、浄化性能の暖機特性が向上するからである。ハニカム構造体の隔壁に望まれる厚さは、100μm程度、あるいは、それ以下である。
【0006】
一方、ハニカム構造体を備えたコンバータを、エキマニより後段であってエンジンの直ぐ近く(エンジンの直下)に配設すると、排ガス中に混在する異物を主因とする、エロージョンが起こることがある。このエロージョンは、流体(排ガス)によって、高速で、ハニカム構造体に衝突する異物が、ハニカム構造体の端面部分を、磨耗させる現象、あるいは、抉る現象である。異物は、例えば、鋳物製のエキマニ内面の酸化による剥がれやエキマニを作製する際に用いる溶接材等に由来する、種々の粒径を有する粒子状物質である。エロージョンは、例えば、排ガス中の異物が、隔壁に衝突し、あるいは、摺動して通り過ぎることによって、隔壁が損傷し、それが繰り返されることで起こる、と考えられる。又、損傷した隔壁の破片が、自ら隔壁を損傷することによっても生じる、と考えられる。
【0007】
尚、エンジンの直下に配設されるコンバータのハニカム構造体について、そのエロージョン対策に言及した先行文献として、特許文献1を挙げることが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−326035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
既述の通り、ハニカム構造体の隔壁を薄くする(薄壁にする)ことが求められており、薄壁になると、外力に対する破壊強度は低下するので、ハニカム構造体にエロージョンが起こり易い。
【0010】
又、コンバータの配設場所がエンジンに近ければ近いほど、ハニカム構造体にエロージョンが起こり易い。これは、コンバータが床下に配設される場合に比して、ハニカム構造体が、より高温、高圧の排ガスに曝されてより大きな熱衝撃等の熱的負荷を受けるとともに、排気ガスの偏流や脈動の影響も受け易くなるからである。
【0011】
このようにエロージョンが起こると、排ガスが入る側のハニカム構造体の端面近傍において、触媒が欠落し、触媒性能の低下を招く。又、端面近傍のみならず、ハニカム構造体の内部深くまで抉られると、ハニカム構造体の破損に至る。更に、ハニカム構造体の外周部近傍が損傷すると、ハニカム構造体を(コンバータの)ケース内に把持(キャニング)する役割を担うマット部材が、剥き出しになる。そうすると、排ガスの噴き付けによって、マット部材が飛散し、その飛散したマットが更に異物となって、ハニカム構造体を損傷させるおそれがある。このように、エロージョンによって、様々な問題が招来される。
【0012】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、薄壁で、コージェライト製のハニカム構造体をコンバータに用いた場合であって、そのコンバータの配設場所がエンジンに近い場合であっても、ハニカム構造体にエロージョンが起こり難くする手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この課題を解決するべく、鋭意検討した結果、セル形状が四角形のハニカム構造体に対しては、ハニカム構造体の隔壁に対する排ガスの入射角度を特定することによって、ハニカム構造体にエロージョンが起こり難くなることを見出し、以下に示す本発明の完成に至った。
【0014】
即ち、本発明によれば、エンジンの直下に配設され、エンジンの排ガスを浄化するエンジン排ガス用コンバータシステムであって、端面に表れるセル形状が四角形であり、隔壁に触媒が担持されたハニカム構造体と、そのハニカム構造体を把持するケースと、ハニカム構造体に、排ガスが導入されるように、ケースに接続される排ガス導入管と、を備え、 上記排ガス導入管が1つである場合には、上記セル形状が表れるように上記ハニカム構造体の端面を正面にみたときの排ガス導入管と上記ハニカム構造体の隔壁とがなす角度が、45±10°(度)であるとともに、その排ガス導入管と上記ハニカム構造体の端面とがなす角度が、67.5°(度)以上、90°(度)以下であり、上記エンジンが多気筒であり、上記排ガス導入管が複数である場合には、上記セル形状が表れるように上記ハニカム構造体の端面を正面にみたときの半数以上の排ガス導入管と上記ハニカム構造体の隔壁とがなす角度が、45±10°(度)であるとともに、半数以上の排ガス導入管と上記ハニカム構造体の隔壁とがなす角度が、67.5°(度)以上、90°(度)以下である、エンジン排ガス用コンバータシステムが提供される。
【0015】
本発明に係るエンジン排ガス用コンバータシステムにおけるハニカム構造体は、外形が柱体(円柱体又は角柱体)を呈し、その二つの端面の間を連通する、複数のセルが形成されてなるものであり、セルの長さ方向(柱体の軸方向)に垂直な断面の形状(セル形状)は四角形である。多数の気孔を有する多孔質な隔壁によって、上記セルが区画され、触媒が、この隔壁に担持されているものである。
【0016】
本発明に係るエンジン排ガス用コンバータシステムにおいて、排ガス導入管が1つである場合とは、エンジンが単気筒である場合、及び、エンジンが多気筒であるが、エンジンから出た排気管が集合管にまとめられてから、1つの排ガス導入管として、ケースに接続される場合である。即ち、排ガス導入管の数は、ケースに接続される(排ガス導入)管の本数で判断する。(コンバータシステムが)エンジンの直下に配設されるとは、エキマニの入口から、ハニカム構造体の排ガスの入口側の端面までの、排ガス導入管の長さが、80cm以内の場合をいう。エンジンが多気筒であり、上記排ガス導入管が複数である場合には、最も短い長い排ガス導入管の長さが、80cm以内の場合をいう。
【0017】
本発明に係るエンジン排ガス用コンバータシステムにおいて、要件となる角度は、2つ存在する。一の角度は、セル形状が表れるようにハニカム構造体の端面を正面にみたときの排ガス導入管とハニカム構造体の隔壁とがなす角度(角度Aともいう)である。この角度Aを、単に、排ガス導入管とハニカム構造体の隔壁とがなす角度、ともいう。他の角度は、排ガス導入管とハニカム構造体の端面とがなす角度(角度Bともいう)である。この角度Bは、ハニカム構造体の端面の延長線上からハニカム構造体の側面を正面にみたときの角度であり、端面は、入口側の端面(入口端面)である。排ガス導入管の中には、排ガスが流れているので、排ガス導入管がなす角度は、排ガスがなす角度と言い換えることが出来る。即ち、角度Aは、排ガスとハニカム構造体の隔壁とがなす角度であり、角度Bは、排ガスとハニカム構造体の(入口)端面とがなす角度である。
【0018】
そして、本発明に係るエンジン排ガス用コンバータシステムにおいては、それらの角度A,Bの要件は、排ガス導入管が1つである場合と、排ガス導入管が複数である場合に、場合分けすることが出来る。排ガス導入管が1つである場合には、角度A,Bは、それぞれ1つ存在することになる。又、排ガス導入管が複数である場合には、角度A,Bは、それぞれに複数存在することになる。本発明に係るエンジン排ガス用コンバータシステムにおいて、排ガス導入管が1つである場合に、角度Aは45±10°であり、角度Bは67.5°以上、90°以下である。又、排ガス導入管が複数である場合に、半数以上の角度Aが45±10°であり、半数以上の角度Bが67.5°以上、90°以下である。
【0019】
本発明に係るエンジン排ガス用コンバータシステムは、ハニカム構造体を形成する材料が、コージェライト、ムライト、ゼオライトからなる材料群から選ばれる何れか1つである場合に、好適に使用される。
【0020】
本発明に係るエンジン排ガス用コンバータシステムは、ハニカム構造体の隔壁の厚さが、105μm以下である場合に、好適に使用される。隔壁の厚さの下限は、実用される隔壁の厚さの下限であり、30μm程度である。即ち、本発明に係るエンジン排ガス用コンバータシステムは、ハニカム構造体の隔壁の厚さが、30〜105μm以下である場合に、好適に使用される。本発明に係るエンジン排ガス用コンバータシステムは、ハニカム構造体の隔壁の厚さが、30〜100μm以下である場合に、特に好適に使用される。
【0021】
本発明に係るエンジン排ガス用コンバータシステムは、ハニカム構造体の気孔率が、35%以下である場合に、好適に使用される。ハニカム構造体の気孔率の下限は、22%程度である。即ち、本発明に係るエンジン排ガス用コンバータシステムは、ハニカム構造体の気孔率が、22%以上、35%以下である場合に、好適に使用される。ハニカム構造体の気孔率が、25%以上、35%以下である場合に、本発明に係るエンジン排ガス用コンバータシステムは、特に好適に使用される。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るエンジン排ガス用コンバータシステムは、エンジンの直下に配設されるものであるが、排ガス導入管が1つである場合には、セル形状が表れるようにハニカム構造体の端面を正面にみたときの排ガス導入管とハニカム構造体の隔壁とがなす角度が、45±10°であるとともに、その排ガス導入管とハニカム構造体の端面とがなす角度が、67.5°以上、90°以下であり、エンジンが多気筒であり、排ガス導入管が複数である場合には、セル形状が表れるようにハニカム構造体の端面を正面にみたときの半数以上の排ガス導入管とハニカム構造体の隔壁とがなす角度が、45±10°であるとともに、半数以上の排ガス導入管とハニカム構造体の隔壁とがなす角度が、67.5°以上、90°以下であるので、ハニカム構造体にエロージョンが起こり難い。これは、上記のような角度であれば、使用時において、ハニカム構造体の隔壁に対する排ガス、ひいては異物の入射角度が小さくなるので、衝突エネルギーは小さく、エロージョンも起こり難くなる(エロージョンの量が少なくなる)ため、と推考される。
【0023】
本発明に係るエンジン排ガス用コンバータシステムは、その好ましい態様において、ハニカム構造体を形成する材料が一般的なコージェライトである場合(即ち、ハニカム構造体を形成するための原料がコージェライト化原料である場合)に使用されるので、従来のコンバータに、そのまま適用可能である。
【0024】
本発明に係るエンジン排ガス用コンバータシステムは、その好ましい態様において、触媒が担持されるハニカム構造体の隔壁の厚さが105μm以下という薄い場合に使用されるので、触媒の熱容量は低減し、浄化性能の暖機特性に優れる。
【0025】
本発明に係るエンジン排ガス用コンバータシステムは、その好ましい態様において、ハニカム構造体の気孔率が、触媒担持用として好ましい35%以下である場合に使用されるので、従来のコンバータに、そのまま適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】排気系を示す図であり、本発明に係るエンジン排ガス用コンバータシステムの一実施形態(全体の構成)を表す斜視図である。
【図2】本発明に係るエンジン排ガス用コンバータシステムを構成する、ハニカム構造体の一例を表す斜視図である。
【図3A】本発明に係るエンジン排ガス用コンバータシステムの一実施形態を部分的に示す図であり、セル形状が表れるようにハニカム構造体の端面を正面にみたときの、排ガス導入管とハニカム構造体の隔壁とがなす角度を示す平面図である。
【図3B】本発明に係るエンジン排ガス用コンバータシステムの一実施形態を部分的に示す図であり、セル形状が表れるようにハニカム構造体の端面を正面にみたときの、排ガス導入管とハニカム構造体の隔壁とがなす角度を示す平面図である。
【図4】本発明に係るエンジン排ガス用コンバータシステムの一実施形態を部分的に示す図であり、ハニカム構造体の端面の延長線上からハニカム構造体の側面を正面にみたときの、排ガス導入管とハニカム構造体の端面とがなす角度を示す側面図である。
【図5A】実施例における、排ガス導入管とハニカム構造体の端面とがなす角度を示す側面図である。
【図5B】実施例における、排ガス導入管とハニカム構造体の端面とがなす角度を示す側面図である。
【図5C】実施例における、排ガス導入管とハニカム構造体の端面とがなす角度を示す側面図である。
【図5D】実施例における、排ガス導入管とハニカム構造体の端面とがなす角度を示す側面図である。
【図6】実施例の結果を表すグラフであり、排ガス(導入管)とハニカム構造体の隔壁とがなす角度と、エロージョン量と、の関係を示す図である。
【図7】実施例の結果を表すグラフであり、排ガス(導入管)とハニカム構造体の(入口)端面とがなす角度と、エロージョン量と、の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、適宜、図面を参酌しながら説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明の実施の形態を表すものであるが、本発明は図面に表される態様や図面に示される情報により制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は以下に記述される手段である。
【0028】
先ず、図1を参照して、本発明に係るエンジン排ガス用コンバータシステムの全体構成について、説明する。図1に示されるコンバータシステム10は、コンバータ11と、排ガス導入管12(エキマニ)と、を備える。そして、コンバータ11は、ケース15と、その中でマット14によって把持されるハニカム構造体1と、を有する。尚、この図1においては、コンバータ11は、内部を透視するように、描かれている。
【0029】
コンバータシステム10は、(例えば3気筒の)エンジン16の直下に配設され、そのエンジン16の排ガスを浄化するエンジン排ガス用コンバータシステムである。排ガス導入管12は、一方では(例えば)3気筒のエンジン16の各気筒(シリンダ)に接続され、それら3つの管が1つに集合して、エンジン16の各気筒から排出された排ガスがハニカム構造体1に導入されるように、ケース15に接続されている。尚、このコンバータシステム10の例は、(エンジン16は多気筒であるが)ケース15に接続される管の本数は1であるから、排ガス導入管が1つの場合に該当する。3つの管が1つに集合せずに、それぞれがケースに接続される場合もあり、この場合には、ケースに接続される管の本数は3となるから、(エンジンが多気筒であり)排ガス導入管が複数の場合に該当する。
【0030】
そして、エンジン16から排出される排ガスは、排ガス導入管12を介して、コンバータ11(触媒が担持されたハニカム構造体1)を通り、他の排ガス処理装置や、図示しないマフラー13(消音器)を経て、系外へ排出される。
【0031】
次に、図2を参照して、本発明に係るエンジン排ガス用コンバータシステムを構成するハニカム構造体について、説明する。図2に示されるハニカム構造体1は、外形が、二つの端面2a,2bと、それらを結ぶ周面5と、からなる円柱体を呈する。コンバータシステム10では、ハニカム構造体1がケース15に把持されたとき、端面2aが排ガスの入口端面であり、端面2bが排ガスの出口端面である。
【0032】
ハニカム構造体1には、その二つの端面2a,2bの間を連通する、複数のセル3が形成されている。そのセル3の長さ方向(円柱体のハニカム構造体1の軸方向)に垂直な断面の形状(セル形状)は、四角形である。ハニカム構造体1は、多数の気孔を有する多孔質な隔壁4によって、セル3が区画されており、触媒が、この隔壁4に担持されている。
【0033】
次に、図3A、図3B、及び図4を参照して、本発明に係るエンジン排ガス用コンバータシステムの、2つの角度について、説明する。図3A及び図3Bには、セル3の形状(セル形状)が表れるようにハニカム構造体1の端面2aを正面にみたときの態様が表されており、そこに表されている端面2aは入口端面である。図3A及び図3Bでは、ケース15は省略され、描かれていない。図4には、ハニカム構造体1の端面2aの延長線上からハニカム構造体1の側面5を正面にみたときの態様が、表されている。図3A、図3B、及び図4において、排ガス導入管12の方向は、矢印で示されている。
【0034】
図3A及び図3Bに示されている角度Aは、排ガス導入管12とハニカム構造体1の隔壁4とがなす角度である。図3Aにおいて角度Aは45°であり、図3Bにおいては角度Aは90°である。図4に示されている角度Bは、排ガス導入管12とハニカム構造体1の端面2aとがなす角度である。図4において、角度Bは45°である。
【0035】
次に、本発明に係るエンジン排ガス用コンバータシステムを製造する方法について、説明する。本発明に係るエンジン排ガス用コンバータシステムは、排ガス導入管、ケース、及びハニカム構造体の作製に関して、排ガス導入管が1つである場合には、セル形状が表れるようにハニカム構造体の端面を正面にみたときの排ガス導入管とハニカム構造体の隔壁とがなす角度を45±10°とするとともに、その排ガス導入管とハニカム構造体の端面とがなす角度を67.5°以上、90°以下とする。又、同様に、エンジンが多気筒であり、排ガス導入管が複数である場合には、セル形状が表れるようにハニカム構造体の端面を正面にみたときの半数以上の排ガス導入管とハニカム構造体の隔壁とがなす角度を45±10°とするとともに、半数以上の排ガス導入管とハニカム構造体の隔壁とがなす角度を67.5°以上、90°以下とする。そして、使用するハニカム構造体は、セル形状が四角形のものとする。このようにすること以外は、使用する材料、形状、大きさ等は、従来、公知の手段、基準に基づいて、作製することが出来る。
【0036】
次に、本発明に係るエンジン排ガス用コンバータシステムを使用する方法について、説明する。本発明に係るエンジン排ガス用コンバータシステムは、(例えば)自動車の排気系に組み込んで、使用する。従来、公知のコンバータシステムと何ら変わりはない。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)[試料(ハニカム構造体)の作製]原料として、タルク、カオリン、アルミナからなるコージェライト化原料を用い、焼成後にコージェライトとなる配合比で、それらを調製し、そうされた原料に対し、バインダー、界面活性剤、水を加え、混合して、坏土を得た。次いで、得られた坏土を、焼成後に、隔壁の厚さが0.09mm、セル密度が300セル/inch、直径が105.7mmとなるような口金を用いて、押出成形を行い、ハニカム成形体を得た。そして、得られたハニカム成形体を、一定長さに切断し、焼成して、直径が105.7mm、長さが105.7mm、気孔率が35%の、ハニカム構造体51(試料)を得た(図5Aを参照)。
【0039】
[試験装置(コンバータシステムに相当)の構築]上記で得られたハニカム構造体51(試料)にアルミナ製で非膨張のマット64を巻き、これを金属製のケース65(筒)に押込んでキャニングし、バーナー模擬試験装置50に組み込んだ(図5Aを参照)。このバーナー模擬試験装置50は、一定の温度、流量のガスを、試料に対して供給可能な試験装置である。使用するガスは、LNGである。又、バーナー模擬試験装置50では、エロージョン現象を模擬するために、試料の直前の排ガス配管62(排ガス導入管に相当)に、擬似異物を投入するための異物投入管67を接続した。
【0040】
[試験条件]試料をキャニングする際に、排ガスが試料(ハニカム構造体51)の隔壁に対して45°(角度A、図5Aに示さず)の方向で当たるように、試料の向きを設定した。又、試料をバーナー模擬試験装置50に取り付ける治具の形状を工夫して、排ガスが試料(ハニカム構造体51)の入口端面52aに対して67.5°(角度B、図5Aを参照)で当たるようにした。そして、擬似異物としてSiC砥粒を用い、それを、一定時間毎に、一定量ずつ、合計15gを、質量流量が34g/secとなるように、異物投入管67から投入した。SiC砥粒は、実際のエンジンで発生する異物のサイズに近い50μmの粒径のものを選んだ。図示しないバーナーの排ガス温度は、900℃とした。
【0041】
[試験結果(エロージョン量の算出)]試料(ハニカム構造体51)が削られた体積をエロージョン量とし、これを求めた。ハニカム構造体51が削られた体積を、直接、測定することは困難であるので、エロージョン量は、以下のようにして、求めた。即ち、先ず、試験開始前に、試料乾燥重量の測定結果と、試料の直径及び長さの測定結果から、試料体積を求める。そして、(試料乾燥重量)/(試料体積(計算値))によって、サンプルの嵩密度を求める。次いで、試験後に、同様にして、試料乾燥重量を測定する。そして、(試験前の試料乾燥重量−試験後の試料乾燥重量)/(試料嵩密度)によって、削られた体積を求め、これをエロージョン量とする。結果を、表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
(実施例2)試料をキャニングする際に、排ガスが試料(ハニカム構造体51)の隔壁に対して35°(角度A、図示せず)の方向で当たるように、試料の向きを設定した。又、試料をバーナー模擬試験装置50に取り付ける治具の形状を工夫して、排ガスが試料(ハニカム構造体51)の入口端面52aに対して67.5°(角度B、図示せず)で当たるようにした。それ以外は、実施例1と同様の条件で、試験を行い、エロージョン量を求めた。結果を、表1に示す。
【0044】
(実施例3)試料をキャニングする際に、排ガスが試料(ハニカム構造体51)の隔壁に対して45°(角度A、図5Bに示さず)の方向で当たるように、試料の向きを設定した。又、試料をバーナー模擬試験装置50に取り付ける治具の形状を工夫して、排ガスが試料(ハニカム構造体51)の入口端面52aに対して90°(角度B、図5Bを参照)で当たるようにした。それ以外は、実施例1と同様の条件で、試験を行い、エロージョン量を求めた。結果を、表1に示す。
【0045】
(実施例4)試料をキャニングする際に、排ガスが試料(ハニカム構造体51)の隔壁に対して45°(角度A、図示せず)の方向で当たるように、試料の向きを設定した。又、試料をバーナー模擬試験装置50に取り付ける治具の形状を工夫して、排ガスが試料(ハニカム構造体51)の入口端面52aに対して79°(角度B、図示せず)で当たるようにした。それ以外は、実施例1と同様の条件で、試験を行い、エロージョン量を求めた。結果を、表1に示す。
【0046】
(比較例1)試料をキャニングする際に、排ガスが試料(ハニカム構造体51)の隔壁に対して30°(角度A、図示せず)の方向で当たるように、試料の向きを設定した。又、試料をバーナー模擬試験装置50に取り付ける治具の形状を工夫して、排ガスが試料(ハニカム構造体51)の入口端面52aに対して67.5°(角度B、図示せず)で当たるようにした。それ以外は、実施例1と同様の条件で、試験を行い、エロージョン量を求めた。結果を、表1に示す。
【0047】
(比較例2)試料をキャニングする際に、排ガスが試料(ハニカム構造体51)の隔壁に対して25°(角度A、図示せず)の方向で当たるように、試料の向きを設定した。又、試料をバーナー模擬試験装置50に取り付ける治具の形状を工夫して、排ガスが試料(ハニカム構造体51)の入口端面52aに対して67.5°(角度B、図示せず)で当たるようにした。それ以外は、実施例1と同様の条件で、試験を行い、エロージョン量を求めた。結果を、表1に示す。
【0048】
(比較例3)試料をキャニングする際に、排ガスが試料(ハニカム構造体51)の隔壁に対して15°(角度A、図示せず)の方向で当たるように、試料の向きを設定した。又、試料をバーナー模擬試験装置50に取り付ける治具の形状を工夫して、排ガスが試料(ハニカム構造体51)の入口端面52aに対して67.5°(角度B、図示せず)で当たるようにした。それ以外は、実施例1と同様の条件で、試験を行い、エロージョン量を求めた。結果を、表1に示す。
【0049】
(比較例4)試料をキャニングする際に、排ガスが試料(ハニカム構造体51)の隔壁に対して0°(角度A、平行、図示せず)の方向で当たるように、試料の向きを設定した。又、試料をバーナー模擬試験装置50に取り付ける治具の形状を工夫して、排ガスが試料(ハニカム構造体51)の入口端面52aに対して67.5°(角度B、図示せず)で当たるようにした。それ以外は、実施例1と同様の条件で、試験を行い、エロージョン量を求めた。結果を、表1に示す。
【0050】
(比較例5)試料をキャニングする際に、排ガスが試料(ハニカム構造体51)の隔壁に対して45°(角度A、図示せず)の方向で当たるように、試料の向きを設定した。又、試料をバーナー模擬試験装置50に取り付ける治具の形状を工夫して、排ガスが試料(ハニカム構造体51)の入口端面52aに対して56°(角度B、図示せず)で当たるようにした。それ以外は、実施例1と同様の条件で、試験を行い、エロージョン量を求めた。結果を、表1に示す。
【0051】
(比較例6)試料をキャニングする際に、排ガスが試料(ハニカム構造体51)の隔壁に対して45°(角度A、図5Cに示さず)の方向で当たるように、試料の向きを設定した。又、試料をバーナー模擬試験装置50に取り付ける治具の形状を工夫して、排ガスが試料(ハニカム構造体51)の入口端面52aに対して45°(角度B、図5Cを参照)で当たるようにした。それ以外は、実施例1と同様の条件で、試験を行い、エロージョン量を求めた。結果を、表1に示す。
【0052】
(比較例7)試料をキャニングする際に、排ガスが試料(ハニカム構造体51)の隔壁に対して45°(角度A、図5Dに示さず)の方向で当たるように、試料の向きを設定した。又、試料をバーナー模擬試験装置50に取り付ける治具の形状を工夫して、排ガスが試料(ハニカム構造体51)の入口端面52aに対して34°(角度B、図5Dを参照)で当たるようにした。それ以外は、実施例1と同様の条件で、試験を行い、エロージョン量を求めた。結果を、表1に示す。
【0053】
[考察]実際の自動車、車輌では、排ガスの温度、排気量、エキマニの材質、塗布される触媒量等、複雑な要因によって、エロージョン量が変わってくるものと推定される。従って、バーナー模擬試験装置を用いた評価におけるエロージョン量の基準値を決めるのは、困難である。そのため、試験に際しては、排ガスがハニカム構造体の隔壁に対して当たる角度A及び入口端面に対する角度Bを変化させたときに、エロージョン量が急激に変化し始める角度を、実使用時における望ましい角度と考えた。この考えの下、排ガスがハニカム構造体51(試料)の入口端面52aに対して67.5°(角度B)で当たる場合における、排ガスとハニカム構造体51(試料)の隔壁がなす角度(角度A)とエロージョン量と、の関係を、図6にまとめた。又、排ガスがハニカム構造体51(試料)の隔壁に対して45°(角度A)の方向で当たる場合における、排ガスとハニカム構造体51(試料)の入口端面52aがなす角度(角度B)とエロージョン量と、の関係を、図7にまとめた。
【0054】
表1並びに図6及び図7から、以下のことがわかる。即ち、実施例1、2及び比較例1〜4から、排ガスがハニカム構造体の隔壁に対して当たる角度Aが35°よりも小さくなると、急激にエロージョン量が多くなる。これは、排ガスがハニカム構造体の隔壁に対して当たる角度が小さくなると、排ガス流れに乗った異物が隔壁に衝突する際に、隔壁に対して垂直な速度成分が大きくなり、隔壁が受け止める衝撃力が大きくなって、破壊され易くなるため、と推定される。同様に、実施例1、3、4及び比較例5〜7から、排ガスが入口端面に対して当たる角度Bが67.5°より小さくなると、急激にエロージョン量が多くなることがわかる。これも、同様に、排ガスがハニカム構造体の入口端面に対して当たる角度Bが小さくなると、排ガス流れに乗った異物が隔壁に衝突する際に、隔壁に対して垂直な速度成分が大きくなり、隔壁が受け止める衝撃力が大きくなって、破壊され易くなるため、と推定される。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係るエンジン排ガス用コンバータシステムは、自動車のエンジンから排出されるガスの浄化に、好適に用いることが出来る。
【符号の説明】
【0056】
1,51:ハニカム構造体
2a,2b,52a:端面
3:セル
4:隔壁
5:周面
10:コンバータシステム
11:コンバータ
12:排ガス導入管
13:マフラー
14,64:マット
15,65:ケース
16:エンジン
50:バーナー模擬試験装置
62:排ガス配管
67:異物投入管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの直下に配設され、エンジンの排ガスを浄化するエンジン排ガス用コンバータシステムであって、
端面に表れるセル形状が四角形であり、隔壁に触媒が担持されたハニカム構造体と、
そのハニカム構造体を把持するケースと、
前記ハニカム構造体に、前記排ガスが導入されるように、前記ケースに接続される排ガス導入管と、を備え、
前記排ガス導入管が1つである場合には、前記セル形状が表れるように前記ハニカム構造体の端面を正面にみたときの排ガス導入管と前記ハニカム構造体の隔壁とがなす角度が、45±10°であるとともに、その排ガス導入管と前記ハニカム構造体の端面とがなす角度が、67.5°以上、90°以下であり、
前記エンジンが多気筒であり、前記排ガス導入管が複数である場合には、前記セル形状が表れるように前記ハニカム構造体の端面を正面にみたときの半数以上の排ガス導入管と前記ハニカム構造体の隔壁とがなす角度が、45±10°であるとともに、半数以上の排ガス導入管と前記ハニカム構造体の隔壁とがなす角度が、67.5°以上、90°以下である、エンジン排ガス用コンバータシステム。
【請求項2】
前記ハニカム構造体を形成する材料が、コージェライト、ムライト、ゼオライトからなる材料群から選ばれる何れか1つである請求項1に記載のエンジン排ガス用コンバータシステム。
【請求項3】
前記ハニカム構造体の隔壁の厚さが、105μm以下である請求項1又は2に記載のエンジン排ガス用コンバータシステム。
【請求項4】
前記ハニカム構造体の気孔率が、35%以下である請求項1〜3の何れか一項に記載のエンジン排ガス用コンバータシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−207590(P2012−207590A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74075(P2011−74075)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】