説明

エンジン構造

【課題】製造コストを上昇させることなく、エンジンが長時間停止してもオイル切れを生じないエンジンの構造を提供する。
【解決手段】エンジンで駆動されるポンプで圧送されたオイルが、少なくとも、クランクシャフトよりも高い位置からオイルパンまで下降するように流れるオイル循環経路と、オイル循環経路に設けられ、上方に開口してオイル循環経路を流れるオイルを貯留するオイル貯留部(100)と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃エンジンの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンは高速作動するので、摺動部分が摩耗する可能性がある。そこで摺動部分に対して、エンジンで駆動されるポンプによって潤滑オイルを供給する。
【0003】
ところで、エンジン自身は停止してモーターでのみ走行するモードを持つ車両がある。このような車両では、エンジンが稼働する頻度が少ないことがある。特に外部電源から電力を供給可能なプラグインタイプでは、エンジンの可動頻度が極端に低下することがある。このような車両では、モーターでのみ走行しているときにポンプが停止してしまうので、エンジンの摺動部分にオイルを供給できない。そしてエンジンが長時間停止していると、オイルが滴下しきって、オイル切れを生じるおそれがある。
【0004】
特許文献1のエンジンは、エンジン停止中は、補助タンクのオイルをオイルパン内に供給して、油面をクランク軸の軸受に届く高さまで上昇させる。このようにすることで、エンジンクランク軸の軸受の磨耗を防止する。エンジン作動中は、補助タンクにオイルを戻すことで、油面がクランク軸と接しないように、油面の高さを低下させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−90362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した従来の装置では、オイルパン内の油面の高さを変えるために、補助タンク、オイル補給通路、オイル復帰ポンプ等が必要となり、製造コストが上昇する。
【0007】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたものであり、製造コストを上昇させることなく、エンジンが長時間停止してもオイル切れを生じないエンジンの構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下のような解決手段によって前記課題を解決する。
【0009】
本発明のエンジン構造は、エンジンで駆動されるポンプで圧送されたオイルが、少なくとも、クランクシャフトよりも高い位置からオイルパンまで下降するように流れるオイル循環経路に、オイル貯留部が設けられている。このオイル貯留部は、上方に開口してオイル循環経路を流れるオイルを貯留する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エンジン駆動中は、ポンプが作動して、オイルがオイル循環経路を流れる。このとき一部のオイルがオイル貯留部に貯留される。そして外部からの振動などを受ければ、オイル貯留部に貯留されているオイルが、オイル循環経路にこぼれるので、エンジンが長時間停止してもオイル切れを生じない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明によるエンジン構造の概要を示す図である。
【図2】本発明によるエンジン構造の第1実施形態を示す斜視図である。
【図3】本発明によるエンジン構造の第2実施形態を示す斜視図である。
【図4】本発明によるエンジン構造の第3実施形態を示す正面図である。
【図5】本発明によるエンジン構造の第4実施形態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では図面等を参照して本発明を実施するための形態について、さらに詳しく説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明によるエンジン構造の概要を示す図である。
【0013】
エンジン1は、エンジン自身は停止してモーターでのみ走行するモードがある車両に搭載される。このような車両としては、エンジン及び走行モーターで走行するハイブリッド車両がある。エンジン1は、発電などのための始動要求があると、直結された発電モーター2によって始動される。そして完爆後は、エンジン1が発電モーター2を駆動して発電する。そして駆動要求がなくなると、エンジン1は停止する。
【0014】
発電モーター2は、エンジン1に直結され、モーター機能と発電機能とを発揮するモータージェネレーターである。モーター機能は、エンジン停止状態で発電要求があったときに、強電バッテリーの電力を消費して、エンジン1をクランキングして始動する機能である。発電機能は、エンジン1からの回転駆動パワーを受けて三相交流の電力を発生する機能である。なお発電モーター2で発生した三相交流の電力は、コンバーターによって直流電力に変換されて強電バッテリーに充電される。なおこの発電モーター2は、車両を駆動する走行モーター3とは別のモーターである。
【0015】
エンジン1は、エンジン本体内に、クランクシャフト30と、複数のコネクティングロッド31と、複数のピストン32と、を備えるとともに、エンジン本体の下部にオイルパン34を備える。
【0016】
クランクシャフト30には、オイルポンプ35と、プーリー36と、が設けられる。
【0017】
オイルポンプ35は、クランクシャフト30の回転によって駆動される。オイルポンプ35は、潤滑オイルをオイルパン34から汲み上げてエンジン1の潤滑必要部位に供給する。潤滑必要部位を通過した後の潤滑オイルは、オイルパン34に戻る。このように潤滑オイルが流れて、図1の白抜き矢印にて示すように、オイル循環経路が構成される。「潤滑必要部位」とは、カムシャフトベアリングやタペットやピストン32やクランクシャフトベアリング等である。
【0018】
プーリー36は、プーリー37及びベルト38を介してウォーターポンプ39に接続される。ウォーターポンプ39は、クランクシャフト30の回転によって駆動される。ウォーターポンプ39は、クランクシャフト30によって回転駆動されると、ラジエーターの冷却水を汲み上げてシリンダーブロック等を冷却する。
【0019】
図2は、本発明によるエンジン構造の第1実施形態を示す斜視図である。
【0020】
オイル貯留部100は、シリンダーブロック11に形成される。オイル貯留部100は、クランクシャフトの回転中心軸よりも上方に設けられる。オイル貯留部100は、オイル循環経路に設けられる。オイル貯留部100は、2つの側壁101と底102とで構成されて上方に開口する。このような構造なので、オイル貯留部100は、オイル循環経路を流れるオイルを貯留できる。
【0021】
エンジン自身は停止してモーターでのみ走行するモードがある車両では、エンジンが稼働する頻度が少ないことがある。特に外部電源から電力を供給可能なプラグインタイプでは、エンジンの可動頻度が極端に低下することがある。
【0022】
オイルポンプ35はエンジン1で駆動されるので、エンジン1が停止したモーターのみの走行では、エンジン1の潤滑必要部位でオイルが不足する可能性がある。
【0023】
本実施形態によれば、エンジン駆動中は、オイルポンプ35が作動して、潤滑オイルがオイルパン34から汲み上げてエンジン1の潤滑必要部位に供給される。このとき一部のオイルがオイル貯留部100に貯留される。そしてエンジン1が停止したモーターのみの走行中には、車両の加減速による振動や路面からの振動によって、オイル貯留部100に貯留されているオイルが、図2に矢印で示すように、側壁101を乗り越えてオイル循環経路にこぼれる。そしてこのオイルが、クランクシャフトベアリング等の「潤滑必要部位」に供給されることとなるので、エンジン1の潤滑必要部位でオイルが不足することを防止できる。
【0024】
本実施形態は、オイルが落ちる経路にオイル貯留部を設けるという簡素な構造である。そしてこのような構造によって、エンジンが停止したモーターのみの走行時に車両の加減速による振動や路面からの振動を利用することができ、オイル貯留部に残留していたオイルをエンジンの摺動部分に垂らすことができる。したがって、エンジン停止中であっても潤滑でき、潤滑のためのコストアップを抑えることができる。
【0025】
また本実施形態では、オイル貯留部100は、特にクランクシャフトの回転中心軸よりも上方に設けた。このようにしたので、特に潤滑したい部位であるクランクシャフトのメインメタルへオイルを垂らすことができ、潤滑のためのコストアップを抑えることができる。
【0026】
(第2実施形態)
図3は、本発明によるエンジン構造の第2実施形態を示す斜視図である。
【0027】
なお以下では前述と同様の機能を果たす部分には同一の符号を付して重複する説明を適宜省略する。
【0028】
本実施形態では、オイル貯留部100の側壁101にオイル抜き孔103が形成されている。
【0029】
潤滑オイルは、粘性が高いので、オイル抜き孔103が小さければ、流出しにくい。そして、モーターのみの走行中に車両の加減速による振動や路面からの振動があると、オイル貯留部100に貯留されているオイルが、オイル抜き孔103からオイル循環経路に流出する。したがって、エンジン停止中であっても潤滑でき、潤滑のためのコストアップを抑えることができる。
【0030】
またオイル貯留部100に残留するオイルが静止しているときに、油面がオイル抜き孔103よりも低くても、モーターのみの走行中に車両の加減速による振動や路面からの振動があると、油面が側壁101に沿って上下動して大きく振動することとなる。そしてオイル貯留部100の側壁101に形成されたオイル抜き孔103よりも、残留オイルの油面が高くなって、オイル抜き孔103から流出する。したがって、エンジン停止中であっても潤滑でき、潤滑のためのコストアップを抑えることができる。なお車両の加減速による振動や路面からの振動の振動数に、残留オイルの固有振動数が一致すると、非常に大きく振動するので、残留オイルがそのような固有振動数になるように、オイル貯留部のサイズやオイル抜き孔103の位置を決めるとさらによい。
【0031】
(第3実施形態)
図4は、本発明によるエンジン構造の第3実施形態を示す正面図である。
【0032】
本実施形態のオイル抜き孔103は、外側ほど低くなるように斜めに形成されている。
【0033】
このように構成されれば、オイル貯留部100に残留したオイルがオイル抜き孔103からさらに流出しやすくなる。したがって、エンジン停止中であっても潤滑でき、潤滑のためのコストアップを抑えることができる。
【0034】
(第4実施形態)
図5は、本発明によるエンジン構造の第4実施形態を示す正面図である。
【0035】
本実施形態のオイル抜き孔103は、オイル貯留部100の底102に形成されている。
【0036】
潤滑オイルは、粘性が高いので、オイル抜き孔103が小さければ、流出しにくい。そして、モーターのみの走行中に車両の加減速による振動や路面からの振動があると、オイル貯留部100に貯留されているオイルが、オイル抜き孔103からオイル循環経路に流出する。
【0037】
オイル貯留部100は、比較的多量のオイルを貯留するので、オイル貯留部100の深さを深くした場合に、車両によっては車両走行時の加減速・振動による加速度のみではオイル貯留部100からオイルが垂れ切らない場合がある。
【0038】
これに対して、本実施形態では、オイル抜き孔103が、オイル貯留部100の底102に形成されているので、簡素な構造で、オイル貯留部100の深さが深い場合であっても、確実にオイルを垂らすことができ、潤滑のためのコストアップを抑えることができる。
【0039】
以上説明した実施形態に限定されることなく、その技術的思想の範囲内において種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の技術的範囲に含まれることが明白である。
【0040】
エンジン1は、エンジン自身は停止してモーターでのみ走行するモードがある車両に搭載される。このような車両としては、上述の通り、エンジン及び走行モーターで走行するハイブリッド車両がある。ハイブリッド車両としては、エンジン1と発電モーター2が連結されるシリーズ方式であってもよい。またエンジンとモーターを、遊星歯車等の差動装置を介して連結し、モーターによりエンジンを駆動可能なスプリット方式であってもよい。またエンジンとモーターを、クラッチを介して連結し、モーターによりエンジンを駆動可能なパラレル方式であってもよい。また上述したように、プラグイン充電機能を持つハイブリッド車両に特に好適であるが、プラグイン充電機能を持たないハイブリッド車両に適用することもできる。この場合には、主に長期間の放置駐車によってエンジンに対しオイル潤滑要求が発生する。
【0041】
また上記実施形態では、オイル貯留部をシリンダーブロックに設ける場合を例示して説明したが、オイルが落ちる通路であれば他の部分にオイル貯留部を設けてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 エンジン
11 シリンダーブロック
30 クランクシャフト
35 オイルポンプ
100 オイル貯留部
101 側壁
102 底
103 オイル抜き孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンで駆動されるポンプで圧送されたオイルが、少なくとも、クランクシャフトよりも高い位置からオイルパンまで下降するように流れるオイル循環経路と、
前記オイル循環経路に設けられ、上方に開口してオイル循環経路を流れるオイルを貯留するオイル貯留部と、
を有するエンジン構造。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジン構造において、
前記オイル貯留部は、側壁に形成されたオイル抜き孔をさらに有する、
ことを特徴とするエンジン構造。
【請求項3】
請求項2に記載のエンジン構造において、
前記オイル抜き孔は、外側ほど低い、
ことを特徴とするエンジン構造。
【請求項4】
請求項1に記載のエンジン構造において、
前記オイル貯留部は、底に形成されたオイル抜き孔をさらに有する、
ことを特徴とするエンジン構造。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のエンジン構造において、
前記オイル貯留部は、クランクシャフトの回転中心軸よりも上方に設けられる、
ことを特徴とするエンジン構造。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載のエンジン構造において、
エンジン自体は停止して走行モーターでのみ走行するモードがある車両に搭載されるエンジンの構造である、
ことを特徴とするエンジン構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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